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MUTYH関連ポリポーシス
(MUTYH-Associated Polyposis)
[Synonyms: Colorectal Adenomatous Polyposis, Autosomal Recessive(常染色体劣性遺伝性大腸腺腫性ポリポーシス); Multiple Colorectal Adenomas, Autosomal Recessive(常染色体劣性遺伝性多発性大腸腺腫症); MYH-Associated Polyposis(MYH関連ポリポーシス)]

Gene Reviews著者: Maartje Nielsen, MD, Henry Lynch, MD, Elena Infante, MS, CGC, and Randall Brand, MD.
日本語訳者: 菅原宏美,田村和朗(近畿大学大学院総合理工学研究科 理学専攻 遺伝カウンセラー養成課程)         

Gene Reviews 最終更新日:2015.9.24.日本語訳最終更新日: 2017.8.10

原文 MUTYH-Associated Polyposis


要約

疾患の特徴 

MUTYH関連ポリポーシス(MAP)は、MUTYHの病原バリアントを両アレル性に持つことが原因で起こり、大腸がん(CRC)の生涯リスクが著しく高い(適切に検診を行わなければ43%からほぼ100%)。通常、平均約50歳までに、10個から数百個の大腸腺腫性ポリープがあらわれるが、MUTYHの病原性バリアントを両アレル性に持つ患者の一部は、ポリープなしにがんを発症する。十二指腸腺腫がMAP患者の17-25%で認められる。鋸歯性腺腫、過形成性/無柄性鋸歯性ポリープ、混合性(過形成性と腺腫性の混合)ポリープがみられる。十二指腸がんの生涯リスクは約4%である。また、遅発性の卵巣がん、膀胱がん、皮膚がん発症リスクの穏やかな上昇がみられ、乳がんと子宮内膜がんのリスク上昇を示すエビデンスがある。患者の一部で皮脂腺腫瘍がみられ、また、最近、甲状腺疾患(多結節性甲状腺腫、単発性小結節、甲状腺乳頭がん)が報告されている。

診断・検査 

特徴的な臨床所見とMUTYHの病原性バリアントが生殖細胞系列で両アレル性にあれば診断が確定する。

臨床的マネジメント 

症状の治療:
大腸内視鏡で疑わしいポリープがみられた場合は切除する。ポリープのサイズや密度によりポリペクトミーのみでは管理できなくなった場合には、大腸亜全摘術または結腸直腸切除術を実施する。異形成または絨毛性変化を示す十二指腸ポリープは、内視鏡により切除する。甲状腺超音波検査の異常所見は、甲状腺の専門医が評価し、経過観察、手術、穿刺吸引(FNA)の適切な組み合わせを決定する。

サーベイランス:
MUTYH
の病原性バリアントを生殖細胞系列で両アレル性に有する者

  • 米国:全大腸内視鏡検査を25-30歳で開始し、1-2年に1回行う。大腸摘除術後は、残存結腸または直腸の内視鏡検査を1-2年に1回行う。上部消化管内視鏡検査と側視型内視鏡検査を30-35歳で開始し、FAPと同様Spigelmanの病期分類を用いて、最初の検査所見に基づいてフォローアップを行う。甲状腺異常のスクリーニングについては一致した見解はない。消化器以外の悪性腫瘍のサーベイランスは、一般集団向けのプロトコールに従って行う。
  • 欧州:全大腸内視鏡検査を18-20歳で開始する。側視型十二指腸内視鏡を含む上部消化管内視鏡検査を25-30歳で開始する。フォローアップは、Spigelmanの病期分類を用い、疾患の重症度に応じて行う。
  • MUTYH病原性バリアントをヘテロ接合性に持つ患者:家族歴に基づき、平均的に中程度のリスクを想定した大腸スクリーニングを提案する。

リスクのある血縁者の評価
早期診断・治療により罹患率と死亡率を低減するため、遺伝学的にMAPと診断された患者のすべての同胞に対して、家系内の病原性バリアントの有無を確認する分子遺伝学的検査を提案する。

遺伝カウンセリング 

MAPは常染色体劣性形式で受け継がれる。基本的に、患者の同胞が罹患する確率は25%、キャリアとなりCRCリスクが少し上昇する確率は50%、罹患もせずキャリアでもない確率は25%である。リスクのある家系内でのキャリア診断およびリスクのある妊娠に対する出生前診断は、家系内の病原性変異が同定されている場合に可能である。


診断

MAPを示唆する所見

以下の臨床所見および腫瘍組織の分子遺伝学的所見がある場合、MUTYH関連ポリポーシス(MAP)を疑う。

臨床所見

  • 大腸の腺腫性ポリープまたは過形成/鋸歯性無柄性ポリープのどちらかまたは両方が、以下の数みられる場合
    • 1〜10個(40歳未満)
    • 10個を超える(40-60歳)
    • 20個を超える(60歳から上)
  • 大腸の腺腫性ポリープまたは過形成性/鋸歯性無柄性ポリープのどちらかまたは両方が、20-数百個みられる場合
  • 大腸ポリポーシス(100個を超える大腸ポリープ)がみられ、APC遺伝子の生殖細胞系列のヘテロ接合性病原性バリアントが認められない場合
  • 40歳未満で大腸がんと診断された患者
  • 常染色体劣性遺伝形式に一致する大腸がん(ポリープの有無を問わず)の家族歴がある場合

腫瘍組織の組織学的、分子遺伝学的所見

  • 体細胞性KRAS病原性バリアントの同定MUTYH欠失により起こるがん腫の分子遺伝学的証明として、特定のKRAS病原性バリアント(コドン12のc.34G>T)の存在がある。この病原性バリアントはMAP大腸がんの64%に認められる[Lipton et al 2003, Nielsen et al 2006, Nielsen et al 2011]。非典型的な臨床所見(腺腫がないか非常に少ない大腸がん)の発端者などから、生殖細胞系列のMUTYH遺伝学的検査の対象となる大腸がん患者を選ぶためのプレスクリーニング検査として、体細胞系列(腫瘍組織)のKRAS遺伝子解析の実施が提案されている[van Puijenbroek et al 2008, Guarinos et al 2014]。
  • マイクロサテライト不安定性(MSI)がLowである場合(腫瘍組織のMSI検査についてはLynch症候群を参照されたい)。検査を行ったMAP患者の大腸がんの大部分(61/64)は、マイクロサテライト不安定性が認められなかった一方、少数のMAP患者の大腸がんではMSI-Highの形質が報告されている(0-18%、平均4%、3/77)[Nielsen et al 2011, Castillejo et al 2014]。MSI経路はMAP腫瘍の一般的な発がん経路ではないが、MSI腫瘍(Lynch症候群または散発性MSI-High腫瘍)と同様の組織学的特徴が見出されている。すなわち近位大腸がんが発生しやすい、同時(異時)性多発腫瘍が多い、組織像は粘液性割合が高い、腫瘍組織浸潤リンパ球(TILs)が高頻度に認められるなどである[Lipton et al 2003, Cleary et al 2009, Nielsen et al 2009a]。

確定診断

MAPの診断は、MUTYHの病原性バリアントが両アレル性に同定された場合に確定する[Al-Tassan et al 2002, Sieber et al 2003](1)。

分子遺伝学的検査は、単一遺伝子検査または複数遺伝子パネル検査が利用できる。

  • 単一遺伝子検査:まずMUTYH遺伝子の配列解析を行い、病原性バリアントがない場合または1個だけ発見された場合には、続いて欠失/重複解析を行う。
  • MUTYHを含む複数遺伝子のパネル検査(「鑑別診断」の項を参照)も考慮される。
    注意:複数遺伝子パネル検査に含まれる遺伝子と検出感度は、検査会社によって、また実施時期によって異なる。

表1 MUTYH関連ポリポーシスの分子遺伝学的検査

遺伝子1 検査方法2 発端者での病原性バリアントの検出率3
MUTYH                配列解析4 〜99%5
欠失/重複解析6 不明7
  1. 遺伝子とデータベース、染色体座位、タンパク質に関しては表A参照。
  2. 検査の感度、特異度、その他の特徴についてはオンライン情報が利用可能[Aretz et al 2013]。
  3. この遺伝子で検出されるアレル・バリアントの情報は「分子遺伝学」の項を参照されたい。
  4. 配列解析では、良性のバリアント、良性と考えられるバリアント、意義不明のバリアント、病原性と考えられるバリアント、病原性のバリアントが検出される。病原性バリアントには、遺伝子内の小さな欠失/挿入、ミスセンスバリアント、スプライス部位バリアントが含まれるが、エクソンや遺伝子全体の欠失/重複は検出できない。配列解析の結果の解釈については、こちらを参照。
  5. Out et al [2010]
  6. 対象遺伝子の欠失/重複解析では、遺伝子内の欠失または重複が検出される。定量的PCR法、long-range PCR法、MLPA法、および単一エクソンの欠失/重複の検出用にデザインされた遺伝子特異的マイクロアレイ法などの方法がある。
  7. エクソンまたは遺伝子全体の欠失または重複による病原性バリアントの検出率は低く、1種類の欠失が報告されているのみである。3つのグループが、スペイン、フランス、ブラジルで各1人の別の患者から、エクソン4-16にわたる広範囲(4.2kbを超える)の同じ欠失を報告しており、南欧州に起源を持つバリアントの可能性が指摘されている[Rouleau et al 2011, Torrezan et al 2011, Castillejo et al 2014]。

ポリープ数とMUTYH病原性バリアントが両アレル性に検出される率の関係表2

表2
ポリープ数とMUTYH病原性バリアントが生殖細胞系列で両アレル性に検出される頻度(APC変異陰性のポリポーシス患者)

ポリープ数 両アレル性に病原性バリアントが検出される頻度
1-19 0%(0/1240)
10-19 4%(37/970)
10-49 5%(3/62)
10-99 26%(113/435)
20-99 7%(233/3253)
100-999 7-14%(94/13381、52/3702
>1000 2%(2/119)

Nielsen et al [2011]、Grover et al [2012]による文献レビューから

  1. Grover et al [2012]
  2. Nielsen et al [2011]

表3
生殖細胞系列にMUTYH病原性バリアントを両アレル性に保有するCRC患者の診断年齢別パーセンテージ

両アレル性MUTYH病原性バリアント保有者
%(n) 範囲 CRC診断年齢
1.4%(48/3526) 0.8-6.2% 50歳未満
0.3%(28/11150) 0.0-0.6% 50歳を超える

Nielsen et al [2011]、Landon et al [2015]による文献レビューから
CRC: 大腸がん


臨床的特徴

臨床像

大腸ポリープ

MUTYH関連ポリポーシス(MAP)患者の大部分は、10個から数百個のポリープを持ち、症状が現れる平均年齢は約50歳である。

CRCを発症したMAP患者で、ポリープ数が0個または数個であった患者は少なからずいる[Croitoru et al 2004, Farrington et al 2005, Balaguer et al 2007, Cleary et al 2009]。少数の患者(0-3.7%)では、臨床的にLynch症候群またはLynch症候群類似家系の発端者で、MUTYHの病原性バリアントが両アレル性に検出されている[Nielsen et al 2011, Castillejo et al 2014]。

MAP患者では、鋸歯性腺腫、過形成性/無柄性鋸歯性ポリープ、混合性(過形成性と腺腫性の混合)ポリープと同様に通常の腺腫もみられる[Sieber et al 2003, Chow et al 2006, Boparai et al 2008, O'Shea et al 2008]。注目すべきことに、17人中8人のMAP患者で、1個以上の過形成性ポリープと無柄性鋸歯性ポリープのどちらかまたは両方がみられた。これら8人中3人は、鋸歯性ポリポーシス症候群の診断基準(「鑑別診断」の項を参照)を満たしていた[Boparai et al 2008]。

大腸がん

適切な時期に検診を行わない場合、MAP患者の大腸がん発症の生涯リスクは43%からほぼ100%の間である[Sampson et al 2003, Sieber et al 2003, Gismondi et al 2004, Farrington et al 2005, Lubbe et al 2009]。

MAP患者の大腸がんは、29-69%が右側にみられる[Lipton et al 2003, O'Shea et al 2008, Nielsen et al 2009a]。
異時性または同時性の多発性大腸がんが、患者の23-27%にみられる[Lipton et al 2003, Nielsen et al 2009a]。
MAP患者は対照患者よりも生存率が良好であったとする報告が1報ある。MAP大腸がん患者の5年生存率は78%(95%信頼区間<CI>は70-84%)、対照群は63%(95%CIは56-69%)であった(ログランク検定、P=0.002)。年齢、病期、性別、大腸がんの部位(結腸または直腸)、国、診断年齢で調整後にも、MAP関連大腸がんの生存率は、対照と比べ良好であった(死亡ハザード: 0.48 、95%CI: 0.32-0.72)[Nielsen et al 2010]。

MUTYH関連ポリポーシスで時にみられる特徴

十二指腸ポリープおよび十二指腸がん

十二指腸ポリープは、MAP患者の17-25%でみられる。十二指腸がんの生涯リスクは4%(標準化罹患比(SIR):129、95%CI:16-466)である[Sieber et al 2003, Aretz et al 2006, Nielsen et al 2006, Vogt et al 2009]。

胃底腺ポリープおよび胃がん

内視鏡検診を実施している150人のMAP患者で、17人(11%)に胃のポリープがみられた。一般集団に比べて高い胃がんリスクがみられたものの、その傾向は有意ではなかった(150人中3人、SIR4.2、95%CI: 0.9-1.2)[Vogt et al 2009]。

消化管外所見

血縁関係のない181家系276人のMAP患者を調べたVogt et al [2009]の研究によると、MAP患者の消化管外所見の発生率は、一般集団のほぼ2倍であった(SIR: 1.9、95%CI: 1.4-2.5)が、特に多いがんの種類や発症年齢の低年齢化は認められなかった。およそ28%の患者は、以下の消化管外所見を少なくとも1つ持っていた:

  • 卵巣がん:罹患率が有意に上昇していた(SIR: 5.7、95%CI: 1.2-17)。平均診断年齢は51歳であった。
  • 膀胱がん:罹患率が有意に上昇していた(SIR: 7.2、95%CI: 2.0-18)。平均診断年齢は61歳であった。
  • 乳がん:女性で、乳がんのリスクが増加する傾向があった。平均診断年齢は53歳であった。MUTYHの病原性バリアントを生殖細胞系列で両アレル性に持つ男性患者1人が乳がんと診断された。
  • 子宮内膜がん:118人中2人で子宮内膜がんが認められた。平均診断年齢は51歳であった。
  • 皮膚所見:良性の皮脂腺腫瘍/上皮腫が276人中5人で認められ、5人全員に腺腫数20個以上の大腸ポリポーシスがみられた。276人中13人で皮膚がん(黒色腫、扁平上皮がん、基底細胞がん)が認められた(SIR: 2.8、95%CI: 1.5-4.8)。このほか22人に皮膚の良性腫瘍(線維性組織球腫、毛細血管腫、毛髪嚢腫、皮膚線維腫、濾胞性嚢胞)がみられた。
  • 甲状腺所見
    • 276人のMAPコホートで1人の甲状腺がん患者が認められた。もう1人の甲状腺がん患者が別に報告されている[Ponti et al 2005, Vogt et al 2009]。しかしながら、さらなる研究が必要とされている。
    • クリーブランド・クリニックで最近行われた研究では、MUTYH病原性バリアントを生殖細胞系列で両アレル性に持つ24人の患者の16人で、甲状腺超音波検査の異常所見が認められた。16人のうち7人は多結節性甲状腺腫、6人は単一の甲状腺結節であった[LaGuardia et al 2011]。注意:このような甲状腺がんの高い罹患率は、ほかのどの研究でも認められておらず、選択バイアスの可能性が指摘されている。

    歯の異常:MAP患者276人中11人で顎骨嚢胞が報告されている[Vogt et al 2009]。

  • 先天性網膜色素上皮肥大(CHRPE):MAP患者でのCHRPEの頻度は約5.5%と推定される。しかしながら網膜の色素異常は一般集団でも極めて高頻度であり、また誤診例が含まれる可能性がある[Vogt et al 2009]。

MUTYHヘテロ接合体

MUTYH病原性バリアントを生殖細胞系列でヘテロ接合性に持つ人の大腸がんリスクは明確でない。大規模な集団研究で、大腸がんリスクの上昇はわずかである(メタ解析のOR: 1.1-1.2)とされる一方、家系ベースの研究では、MUTYHの病原性バリアントをヘテロ接合性に持つ家系員のリスクは、一般集団に比べて高い(OR: 2-3)とされる[Jenkins et al 2006, Jones et al 2009]。最近報告された9504人の血縁者からなる大規模な家系研究では、家族歴に関わりなく、MUTYH病原性バリアントをヘテロ接合性に持つ男性が70歳までに大腸がんになるリスクは7.2%、女性の場合は5.6%であった。MUTYH病原性バリアントをヘテロ接合性に持ち、第一度近親者が50歳までに大腸がん(MAPと確認されていなくてよい:検査未実施、MUTYHの病原性バリアントを持たない、MUTYH病原性バリアントをヘテロ接合性に持つ場合のすべて)と診断されている人では、大腸がんリスクは男性12.5%、女性10%であった[Win et al 2014]。この結果は、MUTYH病原性バリアントを生殖細胞系列でヘテロ接合性に持つ患者のフォローアップは、家族歴に基づいてより積極的に行う(5年ごと)という推奨事項を支持するものである。

遺伝子型と臨床型の関連

いくつかの研究で、c.536A>Gの病原性バリアントをホモ接合性に持つ場合には、c.1187G>Aをホモ接合性に持つ場合よりも重症で、年齢が若いことが指摘されている。c.536A>Gの病原性バリアントをホモ接合性に持つ場合の大腸がん罹患年齢は、約8年若かった[Lubbe et al 2009, Nielsen et al 2009b, Terdiman 2009, Morak et al 2010]。

疾患名

MYH関連ポリポーシスという用語が以前使用されていたがMYHMUTYHに変更された(「分子遺伝学」「遺伝子の構造」を参照)。したがって、MYH関連ポリポーシスとい用語は使用すべきでない。
もう一つ、適切でない用語として、常染色体劣性腺腫性ポリポーシスがある。

浸透率

これまでに研究された20,000人近い非大腸がんの対照者の中で、MUTYH病原性バリアントを両アレル性に保有する者が1人だけ報告されている[Lubbe et al 2009, Nielsen et al 2011]。

MUTYH病原性バリアントを生殖細胞系列で両アレル性に保有する人での大腸がん浸透率は高いが、60歳の時点では不完全浸透である[Farrington et al 2005, Lubbe et al 2009]。

大腸ポリポーシスの浸透率は明らかでない。大腸がん患者の分子遺伝学的検査により、MUTYH病原性バリアントを生殖細胞系列で両アレル性に持つ人で、ポリポーシスがなくて大腸がんを発症する人が最大3人に1人認められることから、不完全浸透と考えられる[Croitoru et al 2004, Farrington et al 2005, Balaguer et al 2007, Cleary et al 2009]。

有病率

北欧では、人口の1-2%がMUTYH病原性バリアントを生殖細胞系列でヘテロ接合性に保有すると推計される[Al-Tassan et al 2002, Jones et al 2002, Sampson et al 2003, Sieber et al 2003, Cleary et al 2009]。この結果から、病原性バリアントを生殖細胞系列で両アレル性に保有する頻度は、2万人から4万人に1人と導き出せる。

病原性バリアントの創始者効果により、有病率は民族により異なるようにみえる。たとえば極東アジアでは、MUTYHの病原性バリアントがより低頻度であると報告されている[Kim et al 2007, Yanaru-Fujisawa et al 2008]。

MAPは全大腸がんの0.7%、腺腫数の少ない(15-20個未満)家族性大腸がんまたは若年性大腸がんの2%を占めると推計されている[Sieber et al 2003, Cleary et al 2009, Lubbe et al 2009]。


遺伝学的関連(アレル)ある疾患

GeneReviewのこの項目以外にMUTYHの病原性バリアントに関連するほかの疾患は知られていない。


鑑別診断

MUTYH関連ポリポーシス(MAP)は、臨床所見、病理所見、遺伝形式、分子遺伝学的検査により、ほかの遺伝性ポリポーシスや遺伝性大腸がんと鑑別することができる。

鑑別診断を考慮する疾患には、以下のものがある。

APC関連ポリポーシスは、APC病原性バリアントを生殖細胞系列でヘテロ接合性に持つことが原因で起こり、常染色体優性遺伝形式をとる。MAPと同様の表現形を示すAPC関連ポリポーシスとしては:
Attenuated FAPAFAPは、MAPと最も表現型が近い遺伝性疾患で、APC遺伝子の5'末端または3'末端の病原性バリアントが原因となる。AFAP患者の腺腫数は0から100個(平均30個)で、大腸の近位部にできることが多く、古典的FAPに比べて発症年齢が高いこともある。上部消化管の腺腫もみられる。大腸がんのリスクは上昇しており、通常40代または50代で大腸がんと診断される。

  • 家族性大腸腺腫症(FAPは、平均16歳で発症し、大腸に100個を超える腺腫がみられる。小腸および胃底腺のポリープもよくみられる。外科的介入を行わない場合、大腸がんは避けられない(平均年齢39歳)。FAP患者では、小腸、胃、膵臓、甲状腺、中枢神経系、肝臓、胆管がんの罹患リスクも高い。その他の所見として、腹部デスモイド腫瘍、過剰歯または埋没歯、骨腫、類上皮腫、先天性網膜色素上皮肥大(CHRPE)がある。

NTLH1関連ポリポーシス(OMIM)は、NTLH1病原性バリアントを生殖細胞系列でホモ接合性に持つことが原因で起こり、常染色体劣性遺伝形式をとる。NTLH1関連ポリポーシスは、常染色体劣性遺伝の大腸がんの中で、MAPに続いて2番目に多い。血縁関係のない3つの家系から、腺腫性ポリポーシス(ポリープ数は8-50個)を持つ7人の患者が報告されている。これらのうち4人は大腸がんと診断され(年齢範囲は40-67歳)、それぞれ複数の大腸がんが認められた。NTHL1関連ポリポーシスの患者では、子宮内膜がん、子宮内膜の前がん病変、十二指腸腺腫、十二指腸がんのリスクも上昇している[Weren et al 2015]。この新しい疾患の特徴については、さらなる研究が必要とされる。

Lynch症候群(遺伝性非ポリポーシス性大腸がん、HNPCCは、大腸がん、子宮がん、卵巣がん、胃がん、小腸がん、胆道がん、尿管がん、脳腫瘍、皮膚がんのリスクの増加を特徴とする。Lynch症候群でみられるがんの中で、最もリスクが高いのが大腸がん(生涯リスク52-82%、平均診断年齢44-61歳)で、大腸の腫瘍は一般にマイクロサテライト不安定性を示す。Lynch症候群患者で腺腫の生涯リスクを調べた最近の研究では、4%の患者で10個以上のポリープが認められたと報告されている[Kalady et al 2015]。Lynch症候群は、ミスマッチ修復遺伝子(MLH1MSH2MSH6またはPMS2)の生殖細胞系列の病原性バリアントまたは生殖細胞系列でのEPCAM遺伝子の欠失がヘテロ接合性にあることが原因で起こり、常染色体優性遺伝形式をとる。

Peutz-Jeghers 症候群(PJSは、消化管の過誤腫性ポリープと皮膚粘膜の色素沈着を特徴とする。ポリープは小腸にできることが多い。皮膚粘膜の色素沈着は、濃褐色から濃紺の斑点としてみられ、しばしば年齢とともに消失する。PJSの患者では、大腸がん、胃がん、乳がん、肺がん、膵臓がん、性器がんのリスクも上昇している。STK11のヘテロ接合性の病原性バリアントが、PJS患者の94%で検出される[Aretz et al 2005]。遺伝形式は常染色体優性遺伝。

若年性ポリポーシス症候群(JPSは、消化管過誤腫性ポリープのリスク上昇を特徴とする。JPSは5個を超える大腸の若年性ポリープ、消化管全体にみられる複数の若年性ポリープ、またはJPSの家族歴があり数を問わず若年性ポリープがみられる場合に臨床診断される。若年性という言葉は、発症年齢よりもポリープの組織学的所見を反映している。過誤腫性ポリープは、一般に小腸、胃、結腸、直腸にみられる。若年性ポリープは良性であるが、悪性化を起こすこともある。JPS家系の消化管がんのリスクは9-50%である。がんのリスク上昇は主に結腸がんによるが、胃がん、上部消化管がん、膵臓がんも報告されている。JPSの発症に関わる遺伝子として、BMPR1A SMAD4が知られている。約20%のJPS患者はBMPR1Aの病原性バリアントを有し、約20%はSMAD4の病原性バリアントを有する。SMAD4の病原性バリアント保有者は、遺伝性出血性毛細血管拡張症のリスクも高い。

PTEN過誤腫症候群(PHTSには、Cowden症候群(CS)、Bannayan-Riley-Ruvalcab症候群(BRRS)、PTEN関連Proteus症候群 (PS)が含まれる。CSは消化管の多発性過誤腫性ポリープと、乳がん、甲状腺がん、子宮がん、直腸がん、結腸がんのリスク上昇を特徴とする。BRRSは、消化管ポリープ、巨頭症、皮膚の脂肪腫、陰茎鬼頭の色素斑を特徴とする疾患である。PSは発現度が多様な疾患であるが、過誤腫性の組織過成長、結合組織の母斑、表皮の母斑、骨化過剰症がみられることが多い。PHTSの診断は、PTENの病原性バリアントが検出された場合にのみ行われる。遺伝形式は常染色体優性である。

遺伝性混合性ポリポーシス症候群(HMPSは、世界で数家系しか報告のない稀な疾患である。HMPS患者は、腺腫性ポリープ、若年性ポリープ、過形成ポリープ、組織型の入り混じったポリープの発症リスクが高い。これらの患者では結腸がんのリスクも高い[Jaeger et al 2003]。HMPS1(OMIM)は染色体15q13-q14の重複(ヘテロ接合性)、HMPS2(OMIM)はBMPR1Aの病原性バリアント(ヘテロ接合性)が原因となる。HMPSは常染色体優性形式で遺伝する。

鋸歯性ポリポーシス症候群(SPSは、以前は過形成性ポリポーシス症候群とされていた疾患で、消化管の無柄性鋸歯性ポリープ、鋸歯性腺腫、または過形成ポリープ、および大腸がんのリスク上昇を特徴とする。WHOが作成した腫瘍定義国際分類では、20個の鋸歯性(または過形成性)ポリープが結腸全体に分布していることが診断基準の一つに含まれる。SPSの原因については議論が続いているが、PTENのヘテロ接合性生殖細胞系列病原性バリアントと、MUTYHの両アレル性生殖細胞系列病原性バリアントが少数のSPS患者で認められている[Buchanan et al 2009, Kalady et al 2011]。


臨床的マネジメント

初回診断後の評価

MUTYH関連ポリポーシス(MAP)と診断された患者の疾患の程度とニーズを明らかにするために、以下の評価を行うことが推奨される。

  • MAP(または大腸がん)に関連する特徴に重きをおいた患者の病歴評価:大半が腺腫性である結腸ポリープ、結腸がん、直腸出血、腹痛と腹部不快感、腹部の張り、下痢
  • 大腸内視鏡検査および病理学的評価
  • 上部消化管内視鏡検査および病理学的評価
  • 甲状腺の超音波検査による診断時のベースライン評価がCleveland Clinic study [LaGuardia et al 2011]で示唆されている。
  • 臨床遺伝専門医や遺伝カウンセラーへの相談。

症状の治療

一般に、消化器腫瘍の治療は家族性大腸腺腫症(FAP)および非定型家族性大腸腺腫症(AFAP)と同様である(「APC関連ポリポーシス」を参照)。

結腸ポリープおよび結腸がん
大腸内視鏡が結腸がんのサーベイランスに有効である。疑わしいポリープは、ポリープのサイズと密度が内視鏡的切除(ポリペクトミー)により管理できなくなるまでは、ポリペクトミーを行う。管理できなくなった時点で、ポリープの特徴および発生部位に基づいて大腸亜全摘術または結腸直腸切除術を実施する[Lipton & Tomlinson 2006, Sampson & Jones 2009]。

十二指腸ポリープ
ポリープの臨床的マネジメントは、FAP患者と同様である。特に、サイズが大きいポリープ、異形成または絨毛性変化を示すポリープは内視鏡的に切除する。

甲状腺所見は、甲状腺の専門医が評価し、経過観察、手術、穿刺吸引(FNA)の適切な組み合わせを決定する[Cleveland Clinic study: LaGuardia et al 2011]。

サーベイランス

MUTYH病原性バリアントを生殖細胞系列で両アレル性に有する者

米国National Comprehensive Cancer Network (NCCN) のガイドライン [NCCN 2012]:

  • 全大腸内視鏡検査を25-30歳で開始し、1-2年に1回行う。大腸摘除術後は、残存結腸または直腸の内視鏡検査を1-2年に1回行う。
  • 上部消化管内視鏡検査と側視型内視鏡検査を30-35歳で開始し、3-5年間隔で行う。
  • 現時点で、甲状腺異常のスクリーニング間隔についての一致した見解はない[LaGuardia et al 2011]。
  • 消化器以外の悪性腫瘍に関して、現時点では、西洋の一般集団向けに存在するプロトコール以上の特別なサーベイランスは推奨されていない。

欧州:

  • マヨルカ島でのコンセンサス会議に基づいて決められたスクリーニング開始年齢は、米国と異なる[Vasen et al 2008]。
  • 全大腸内視鏡は18-20歳で開始する。
  • 側視型十二指腸内視鏡を含む上部消化管内視鏡検査を25-30歳で開始する。
  • 推奨されるスクリーニング間隔は、重症度に基づく[Spigelman et al 1989]

MUTYH病原性バリアントをヘテロ接合性に持つ

NCCNガイドラインは、MUTYH病原性バリアントをヘテロ接合性に持つ人に対し特別なスクリーニングを提案していない。

利用可能なデータから、MAP患者の血縁者でヘテロ接合性の病原性バリアント保有者は、一般集団の同年齢の人と比べて2-3倍大腸がんのリスクが高い(「臨床像」の「MUTYHヘテロ接合体」を参照)。このため、ヘテロ接合性のバリアント保有者には、集団スクリーニングのベネフィットを期待するか、あるいは家族歴に基づき、平均的に中等度のリスクを想定した大腸スクリーニングを提案する[Jones et al 2009]。

リスクのある血縁者の評価

早期診断・治療によって罹患率と死亡率を低減するため、遺伝学的にMAPと診断された患者の、全く症状がない年長および年少の同胞に対して、発端者で見つかったMUTYHの病原性バリアントの分子遺伝学的検査を行い、遺伝学的な状況を明らかにすることは適切である。

遺伝カウンセリングの目的については、「遺伝カウンセリング」の項で、リスクのある血縁者の検査に関連した問題を参照されたい。

研究中の治療

ClinicalTrials.govでは、幅広い疾患や状況の臨床研究の情報が得られる。

注:この疾患の臨床試験は登録されていないかも知れない。


遺伝カウンセリング

「遺伝カウンセリングは個人や家族に対して遺伝性疾患の本質,遺伝,健康上の影響などの情報を提供し,彼らが医療上あるいは個人的な決断を下すのを援助するプロセスである.以下の項目では遺伝的なリスク評価や家族の遺伝学的状況を明らかにするための家族歴の評価,遺伝学的検査について論じる.この項は個々の当事者が直面しうる個人的あるいは文化的、倫理的な問題に言及しようと意図するものではないし,遺伝専門家へのコンサルトの代用となるものでもない.」

遺伝形式

MUTYH関連ポリポーシス(MAP)は常染色体劣性遺伝形式で受け継がれる。

患者家族のリスク

発端者の両親

  • 罹患者の両親は絶対保因者である(すなわちMUTYH病原性バリアントを1個保有している)。
  • MAP患者の血縁者でヘテロ接合性の病原性バリアント保有者は、遅発性の大腸がんリスクが2-3倍高い(「臨床像」の「MUTYHヘテロ接合体」および「サーベイランス」の「MUTYH病原性バリアントをヘテロ接合性に持つ者」を参照)。

発端者の同胞 

  • 基本的に、患者の同胞が罹患する確率は25%、キャリアとなりCRCリスクが少し上昇する確率は50%、罹患もせずキャリアでもない確率は25%である。
  • MAP患者の血縁者でヘテロ接合性の病原性バリアント保有者は、遅発性の大腸がんリスクが2-3倍高い(「臨床像」の「MUTYHヘテロ接合体」および「サーベイランス」の「MUTYH病原性バリアントをヘテロ接合性に持つ者」を参照)。

発端者の子

  • MAP患者が子を持つ場合、パートナーがMUTYH病原性バリアントの保有者でない限り、子はヘテロ接合性のMUTYH病原性バリアント保有者(絶対保因者)となる。
  • MUTYH病原性バリアントの一般集団での頻度は1-2%であるため、1個または2個のMUTYH病原性変異を持つ人の子が、2個のMUTYH病原性バリアントを受け継ぐ可能性は、0.5-1.0%である。
その他の血縁者

発端者の両親の同胞がMUTYH病原性バリアントを保有するリスクは50%である。

保因者診断

リスクのある血縁者の保因者診断を行うためには、家系内のMUTYH病原性バリアントが同定されている必要がある。

1個または2個のMUTYH病原性バリアントを持つ人のパートナーに対しては、保因者かどうか確認して子のMAPリスクを明らかにするため、MUTYHの配列解析を提案することができる。

遺伝カウンセリングに関連した問題

早期診断と治療を目的としたリスクのある血縁者の評価については、「臨床的マネジメント」「リスクのある血縁者の評価」の項を参照されたい。

症状のない18歳未満の人の検査

MAP患者またはリスクを有する人のスクリーニングとマネジメントは、18歳より前には開始されないため、18歳未満の人の遺伝学的検査は適切でないと考えられる。

家族計画 

  • 遺伝学的リスクの算定、保因者かどうかの確認および出生前診断の可能性についての話し合いは、妊娠前が最適である。
  • 子がMAPに罹患するリスクを知るために、罹患している若年成人や保因者である若年成人、または保因者リスクのある若年成人、またそのパートナーに対して、それまでに行っていない場合には、遺伝カウンセリング(子の潜在的リスクや生殖手段についての話し合いを含む)と遺伝学的検査を提案するのは適切である。

DNAバンク

DNAバンキングは、将来使用する可能性に備えてDNA(一般に白血球細胞から抽出したもの)を保存しておくことである。検査方法、および我々の遺伝子、アレル・バリアント、疾患に関する理解は将来進歩する可能性があるため、罹患者のDNAバンキングについて考慮すべきである。

出生前診断と着床前診断

罹患した家族のMUTYH病原性バリアントが同定されている場合、リスクのある妊娠に対する出生前診断およびMAPの着床前診断が可能である。

出生前診断を行うかどうかについては、特に早期診断のためでなく妊娠中断を目的に考慮される場合には、医療専門家の間でも家族内でも、考え方に違いがある可能性がある。多くの医療機関では、出生前診断は両親の選択に沿って実施を検討するが、このような問題について話し合うことが適切である。


分子遺伝学

分子遺伝学およびOMIMの表の情報は、GeneReviewsの他の部分の記載内容と異なる可能性がある。表には、より最近の情報が含まれていることがある。

表A
MUTYH関連ポリポーシス:遺伝子およびデータベース

遺伝子 染色体座位 タンパク質 遺伝子特異的データベース HGMD
MUTYH 1p34 .1 Adenine DNA glycosylase

MUTYH homepage - Colon cancer gene variant databases

MUTYH

  データは以下の標準的参照資料をもとに作成した。遺伝子はHGNC、染色体座位、座位の名称、遺伝子変異に密接に関連した領域、相補群はOMIM、タンパク質はUniProtを参照した。遺伝子特異的データベースとHGMDの説明は、こちらを参照されたい。

表B
MUTYH関連ポリポーシスのOMIM登録番号(内容はOMIMを参照されたい)
604933

MutY, E. COLI, HOMOLOG OF; MUTYH

608456 FAMILIAL ADENOMATOUS POLYPOSIS 2; FAP2

遺伝子の構造
MUTYHは、以前はMYHと呼ばれていた遺伝子で、16のエクソンからなる1.9kbのコーディング領域を有する。hMYHCYP2CMGC4416RP4-534D1とも呼ばれていた。

この遺伝子には、異なるアイソフォームをコードする複数の転写バリアントが存在する(www.ncbi.nlm.nih.gov/gene/4595)。HGVSの新しい推奨に従うと、MUTYHの配列バリアントを記述するコーディングDNAの参照配列はRefSeqGene のNG008189.1、転写産物α5、NM_001128425.1となる。もっとも長い転写産物(NM_001128425.1)を参照配列に選ぶことにより、塩基とアミノ酸の番号は、157番目の塩基(53番目のアミノ酸)より後で、最大42塩基(14アミノ酸)異なる。

病原性バリアント
2種の一般的な病原性バリアントが知られている。2種のミスセンスバリアントであるエクソン7のc.536A>G(p.Tyr179Cys)とエクソン13のc.1187G>A(p.Gly396Asp)は、一般集団の1-2%に保有されており[Al-Tassan et al 2002, Cleary et al 2009]、北欧で保有されるMUTYH病原性バリアントの少なくとも90%をしめている。Nielsen et al [2009b]は、これら北欧起源の病原性バリアントの1つまたは両方が、MAP患者の70%近くで認められることを確認した。
注意:これらの病原性バリアントは、韓国、日本、欧州系ユダヤ民族では見つかっておらず、創始者効果と民族間の違いについての理論を裏付けている[Miyaki et al 2005, Peterlongo et al 2006, Kim et al 2007, Yanaru-Fujisawa et al 2008]。

このほかいくつかの一般的な、おそらくその集団に起源を持つ病原性バリアントが、異なる集団で報告されている(参照配列:NM_001128425.1、NP_001121897.1)。

  • 北欧起源 c.1147delC(p.Ala385ProfsTer23)[Nielsen et al 2009b]
  • オランダ c.1214C>T(p.Pro405Leu)[Nielsen et al 2005]
  • イタリア c.1437_1439del (p.Glu480del) [Gismondi et al 2004]
  • インド系英国人 c.1438G>T(p.Glu480Ter) [Dolwani et al 2007]
  • パキスタン c.312C>A(p.Tyr104Ter)[Dolwani et al 2007, Khawaja & Payne 2007, Prior & Bridgeman 2010]
  • スペイン、ポルトガル、チュニジア c.1227_1228dup(p.Glu410GlyfsTer43)[Gómez-Fernández et al 2009, Abdelmaksoud-Dammak et al 2012] スペイン、ブラジル、フランス エクソン4-16の欠失[Rouleau et al 2011, Torrezan et al 2011, Castillejo et al 2014]
  • 日本、韓国 c.1118C>T(p.Ala373Val)および c.857G>A(p.Gly286Glu)[Kim et al 2007, Yanaru-Fujisawa et al 2008]

表4
MUTYH病原性バリアントの例
DNAの塩基変化 タンパク質のアミノ酸変化 参照配列
c.312C>A p.Tyr104Ter NM_001128425 .1
NP_001121897 .1
c.536A>G p.Tyr179Cys
c.857G>A p.Gly286Glu
c.1118C>T p.Ala373Val
c.1187G>A p.Gly396Asp
c.1214C>T p.Pro405Leu
c.1227_1228dupGG p.Glu410GlyfsTer43
c.1437_1439delGGA p.Glu480del
c.1438G>T p.Glu480Ter
エクソン4-16の欠失 1  

バリアントの分類に関する注記:表中のバリアントはそれぞれの著者が報告したものである。GeneReviewsのスタッフは、バリアントの分類を独立した立場で検証していない。
命名法に関する注記:GeneReviewは、HGVS(www.hgvs.org)の標準的な命名法に従っている。命名法の説明は、「Quick Reference」を参照されたい。

  1. バリアントの呼び方は最近の命名規則と一致していない。

正常な遺伝子産物

MUTYHタンパクであるアデニンDNAグリコシラーゼは、電離放射線、化学的酸化剤、有酸素代謝で生成する酸素分子種によって起こるDNA損傷の修復、特に塩基除去修復で重要な役割を果たしている。ヒトでは、酸化ダメージにより生じるもっとも変異原性の強い分子種は8-オキソ・デオキシ・グアニジン(8-oxo-dG)で、本来のシトシンの代わりにアデニンとミス対合を起こしやすいため、DNAのG:C>T:Aのトランスバージョン変異の原因となる[Isidro et al 2004]。

DNA塩基除去修復プロセスでは、一連の酵素が協働して8-oxo-dGによる変異を防いでいる。これらの酵素には、3リン酸ヌクレオチド加水分解酵素であるNUDT1(またはMTH1)とDNAグリコシラーゼOGG1およびMUTYHがある。NUDT1は、塩基プールから8-oxodGTPを除去して酸化されたグアニン塩基がDNA複製時に取り込まれるのを防ぎ、OGG1はDNAに間違って取り込まれた8-oxo-dG付加体を切り出す。MUTYHは、誤って取り込まれたアデニン塩基を認識して切り出し、G:C>T:Aのトランスバージョンを防ぐ。8-oxo-dG-Aの間違った塩基対を認識したのち、MUTYHはチェックポイント・クランプであるRad9–Rad1–Hus1 (9–1–1) 複合体を動員し、これがAPE1、PCNA、RPA1など、変異原性を持つ脱塩基サイトの修復に関わる下流のタンパク質を召集することにより、続いて起こる酵素反応のプロセスをコーディネートする[Parker & Eshleman 2003, Isidro et al 2004, Shi et al 2006, Luncsford et al 2013, Markkanen et al 2013]。

酸化ストレス下では、MUTYHはプログラム細胞死の分子スイッチとして働き、発がんを抑制する[Markkanen et al 2013, Oka et al 2014]。また、MUTYHの転写はTP53によって制御されていることから、MUTYHタンパク質はp53の発がん抑制のメディエーターである可能性がある[Oka et al 2015]。

広範囲にわたるpre-mRNAの選択的スプライシング、転写開始およびpoly A付加の代替領域の使用によって、MUTYHタンパク質にはいくつかの異なるアイソフォームが生じる。主要な3種類のMUTYH 転写産物pre-mRNA(α、β、γ)があり、互いに5'末端の配列が異なっている[Ohtsubo et al 2000]。これら3種のpre-mRNAから、エクソン1とエクソン3の選択的スプライシングにより、15種類以上のmRNAが作られ[Oka & Nakabeppu 2011]、少なくとも10種類のMUTYHタンパク質のアイソフォーム(アミノ酸数429-549)が生じる[Out et al 2010, Markkanen et al 2013] (www.ncbi.nlm.nih.gov/gene/4595参照)。

最長の転写バリアントであるNM_001128425.1(α5)がコーディングDNAの参照配列として使用されている。

アイソフォームは、ミトコンドリア局在シグナル(MLS)を含むN末端の構造が異なる。推定される核局在シグナル(NLS)は、C末端とN末端の両方に位置する。MUTYHのMLSとNLSの機能は完全には解明されていない。代替転写産物とアイソフォームの機能も、未だ明らかではない[Markkanen et al 2013]。グリコシラーゼ活性レベルおよび組織ごとの発現レベルのどちらかまたは両方が異なる可能性がある[Ma et al 2004]。

変異遺伝子産物

MUTYHの機能欠損により、DNA複製後の娘鎖にG:C>T:Aトランスバージョン変異の蓄積が起こる。MAP患者の大腸がん腫瘍組織DNAでは、このトランスバージョン変異が一般的にみられるとする研究が複数ある。これらのトランスバージョン変異により病原性バリアントができると、mRNAにストップコドンが生じ、短縮されたタンパク質が生成される[Lipton & Tomlinson 2004]。

がん

MAP腫瘍では、体細胞性の病原性バリアントがいくつかのがん関連遺伝子で報告されている[Nielsen et al 2009a]が、KRASの病原性バリアントが代表的(大腸がんの64%でみられる)である。KRAS(OMIM)は細胞分裂の制御に関わっており、ヒトの多くの種類の腫瘍で、高頻度に活性化されるがん遺伝子の一つである。KRASの活性化バリアントは、内在性のGTPase活性の障害とGTPaseにより活性化されるタンパク質への抵抗性の供与によって、GTPと結合し活性化されたRasを集積させる[Zenker et al 2007]。KRASの発がん活性に関わる重要な領域は、コドン12、13、59、61、63である[Grimmond et al 1992]。MAP大腸がんでKRASコドン12のGGT>TGTトランスバージョン変異が偏向してみられる(コドン12の2番目のG、または他のコドンのG>Tトランスバージョンではなく)が、その理由はまだ明らかではない。

注意すべき点として、MAP関連大腸がんで、APCの体細胞性変化による病原性バリアントが、14%から83%みられており[Nielsen et al 2009a]、AGAA またはTGAAのモティーフが他のモティーフより極めて高頻度に生じる[Jones et al 2002]。これらのモティーフではグアニンの酸化および変異MUTYHによる認識と修復の欠失の感受性が高まっているため、特別な配列でのG>T変化の偏向が生じている可能性があるが[Jones et al 2002]、今後の解明を待つ必要がある。

さらに、G>TトランスバージョンがKRAS(腫瘍発生初期に変異が起こる)で高頻度にみられ、TP53SMAD4(腫瘍の進展に関わる)ではみられないことから、MUTYHの効果は、発がんの初期段階で優勢であることが示唆される[Nielsen et al 2009a]。


更新履歴

  1. Gene Reviews著者: Maartje Nielsen, MD, Henry Lynch, MD, Elena Infante, MS, CGC, and Randall Brand, MD.
    日本語訳者: 菅原宏美,田村和朗(近畿大学大学院総合理工学研究科 理学専攻 遺伝カウンセラー養成課程)
    Gene Reviews 最終更新日:2015.9.24.日本語訳最終更新日: 2017.8.10in present)

原文 MUTYH-Associated Polyposis

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