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常染色体優性遺伝性多発性嚢胞腎
(Polycystic Kidney Disease, Autosomal Dominant)

[ADPKD. Polycystic Kidney Disease Type 1(PKD1), Polycystic Kidney Disease Type 2 (PKD2)]

Gene Review著者: Peter C Harris, PhD, Vicente E Torres, M.D.
日本語訳者: 櫻井晃洋(信州大学医学部社会予防医学講座遺伝医学分野)
Gene Review 最終更新日: 2006.6.6.  日本語訳最終更新日: 2006.6.10.

原文 ADPKD. Includes: Polycystic Kidney Disease Type 1 (PKD1), Polycystic Kidney Disease Type 2 (PKD2)


要約

疾患の特徴

常染色体優性遺伝性多発性嚢胞腎(ADPKD)は両側性の腎嚢胞,肝,精嚢,膵,くも膜などその他の臓器の嚢胞,頭蓋内動脈瘤や大動脈弓拡張,胸部大動脈解離のような血管異常,僧房弁逸脱,腹壁ヘルニアに特徴づけられる遅発性疾患である.ADPKDに伴う腎症状には腎機能障害,高血圧,腎の痛み,腎不全などがある.約50%のADPKD患者は60歳までに末期腎不全状態となる.多発性肝嚢胞はADPKDで最も高頻度に見られる腎外病変で,その頻度は20歳代では20%であるが,50歳代以降では75%に達する.頭蓋内動脈瘤は約10%の患者に認められ,動脈瘤やクモ膜下出血の家族歴がある患者ではこれらの家族歴がない患者に比べてその頻度が高い(22% vs 6%).僧帽弁逸脱は最も高頻度に見られる弁膜異常で患者の25%に認められる.同一家系内でも腎障害や他病変の重症度には患者ごとに差がある.

診断・検査

ADPKDの確定診断は主として腎の画像検査によってなされる.50%のリスクがある人に対する診断基準は以下の通りである.
 30歳未満で,少なくとも片側性もしくは両側性の嚢胞が2個以上認められる
 30−59歳で,両側の腎にそれぞれ2個の嚢胞が認められる
 60歳以上で,両側の腎にそれぞれ4個の嚢胞が認められる

この診断基準の感度は30歳以上のADPKD患者や30歳未満でPKD1遺伝子変異を有する患者に対してはほぼ100%であるが,30歳未満でPKD2遺伝子変異を有する患者に対しては67%に過ぎない.50%のリスクがある新生児や小児では明らかな嚢胞を認めなくても,超音波上腫大腎を認める場合にはADPKDの診断的意義がある.ADPKDの家族歴がなく両側性の腎腫大や嚢胞の存在を認めた場合は,肝嚢胞の有無には関係なく,他の腎疾患を疑わせる所見がないならばADPKDを疑う根拠となる.しかし診断を確定することはできない.85%の症例ではADPKDはPKD1遺伝子の変異によって発症する.15%の症例ではPKD2遺伝子変異が原因である.直接シークエンスによる分子遺伝学的検査は臨床的に利用可能であり,変異検出率は約85%である.

臨床的マネジメント

現在のADPKDに対する治療目標は腎および腎外の障害による病悩や死亡を防ぐことにある.高血圧の治療にはACE阻害薬の投与や食事療法が含まれる.側腹部痛に対しては古典的な治療法が行われる.

治療のオプションとしては非オピオイド鎮痛剤,三環系抗うつ剤,麻薬性鎮痛剤,内臓神経ブロック,腎の脱神経療法などがある.より積極的な治療としては嚢胞内容除去と硬化によるのう胞減圧術がある.多数の嚢胞が疼痛を誘発している患者では腹腔鏡や開腹術によるのう胞開窓術が奏功することがある.のう胞内出血や肉眼的血尿は通常自然に治癒し,凝血塊による閉塞を予防するためのベッド上安静,鎮痛剤,適切な補液といった古典的な対応が有効である.腎結石に対する治療法はADPKD以外の結石の治療と同様である.

嚢胞の感染症は治療が難しい.治療薬としてはトリメトプリム−サルファメトキサゾールやフルオノキノロン,クロラムフェニコールが選択される.腎障害の進行を遅らせるための治療としては高血圧や高脂血症のコントロール,蛋白摂取の制限,アシドーシスのコントロール,高リン血症の予防などがある.破裂もしくは症状を有する頭蓋内動脈瘤に対する第一の治療は破裂した動脈瘤のクリッピングである.手術リスクが高い患者や技術的に治療が難しい病変を有する患者に対してはプラチナコイルによる血管内治療も適応となる.定期検査にはMRIによる頭蓋内動脈瘤の検索が含まれる.

遺伝カウンセリング

ADPKDは常染色体優性遺伝の形式をとる。患者の子はそれぞれ50%の確率で変異遺伝子を受け継ぐ.発端者の同胞のリスクは両親の遺伝的状況による.もし両親の一方が罹患しているならば,同胞のリスクは50%である.大多数の患者は両親の一方がADPKDに罹患しているが,約10%の患者は新生突然変異による.家系内の変異がすでに明らかとなっているか,連鎖解析による検査が可能となっている場合は出生前検査が可能である.しかし,ADPKDのように知的障害を伴わず,治療法が存在する成人発症型疾患に対する出生前診断の希望はあまりない.


診断

臨床診断

ADPKDは以下に特徴づけられる多臓器疾患である.

  • 両側性腎嚢胞
  • 肝,精嚢,膵,クモ膜などの他臓器の嚢胞
  • 頭蓋内動脈瘤やドリコエクタジア,大動脈弓の拡張や胸部大動脈解離,僧帽弁逸脱,腹壁ヘルニアなどの腎外病変
  • 他の腎疾患を示唆する所見の欠如

a.50%のリスクを有する人に対する,超音波所見に基づいた診断基準が設定されている.

  • 30歳未満で,少なくとも片側性もしくは両側性の嚢胞が2個以上認められる
  • 30−59歳で両側の腎にそれぞれ2個の嚢胞が認められる
  • 60歳以上で,両側の腎にそれぞれ4個の嚢胞が認められる

この診断基準の感度は30歳以上のADPKD患者や30歳未満でPKD1遺伝子変異を有する患者に対してはほぼ100%である.
30歳未満でPKD2遺伝子変異を有する患者に対する感度は67%である.

b.  50%のリスクがある新生児や小児では明らかな嚢胞を認めなくても,超音波上腫大腎を認める場合にはADPKDの診断的意義がある.

検査

  • 50%のリスクを有する人に対する,超音波所見に基づいた診断基準が設定されている.この基準では30歳未満で,少なくとも片側性もしくは両側性の嚢胞が2個以上認められること,30−59歳では両側の腎にそれぞれ2個の嚢胞が認められること,60歳以上で,両側の腎にそれぞれ4個の嚢胞が認められることを診断条件としている.この診断基準の感度は30歳以上のADPKD患者や30歳未満でPKD1遺伝子変異を有する患者に対してはほぼ100%であるが,30歳未満でPKD2遺伝子変異を有する患者に対しては67%である.
  • 50%のリスクがある新生児や小児では明らかな嚢胞を認めなくても,超音波上腫大腎を認める場合にはADPKDの診断的意義がある.
  • ADPKDの家族歴がなく両側性の腎腫大や嚢胞の存在を認めた場合は,肝嚢胞の有無には関係なくかかわらず,他の腎疾患を疑わせる所見がないならばADPKDが疑う根拠となる.しかし診断を確定することはできない.

分子遺伝学的検査

遺伝子 2つの原因遺伝子が同定されている.PKD1遺伝子とPKD2遺伝子の変異はそれぞれ患者の約85%と約15%の発症原因となっている.

他の遺伝子座 一部の患者では両遺伝子と関連していない別の遺伝子座に原因があると予測されている.

分子遺伝学的検査:臨床的利用

  • 診断の確認 ADPKDの診断は基本的には腎臓の画像所見に基づいてなされる.しかしながら症例によっては臨床所見が不確実な場合に,診断の確認や確定を目的として分子遺伝学的検査が行われる.

  • 発症前診断 若年者で画像所見が不確実な場合や,生体腎移植のドナーになるなど確定診断が必要となった場合に行われる.

  • 出生前診断と着床前診断 ADPKDは通常成人してから発症するので,通常出生前診断や着床前診断が求められることはない.例外的に重症で早期発症した小児患者がいて同胞にも同様のリスクがある場合には考慮されうる.

分子遺伝学的検査:検査方法

  • 連鎖解析 大家系においてはPKD1遺伝子やPKD2遺伝子にリンクしたマイクロサテライトマーカーを用いて発症前診断を行うことが可能である.連鎖解析の重大な欠点は個々の家系において責任遺伝子の存在するアレルを確定するために比較的多人数の罹患者の検体が必要となることである.連鎖解析は家系内患者におけるADPKDの正確な臨床診断や家族間の遺伝学的関係の把握,家族の検査への協力の意思に依存している.こうした制約があるため,連鎖解析を行うことができる家系は50%に満たないが,上記の条件をすべて満たしている家系では正確な診断ができる.家系内に患者がひとりしかいない場合は連鎖解析を行うことはできないし,最近の世代で新生突然変異が生じている場合は解釈が難しくなる.
  • 直接シークエンス PKD1遺伝子はサイズが大きく構造が複雑であり,かつアレルの多様性が知られているため,直接シークエンスには限界がある.現在の変異検出率は約85%である.

  • FISH/マイクロアレイ解析 遺伝子重複が多いことやPKD1遺伝子の大きな欠失によるものは3%に過ぎないことにより,これらの検査法はADPKDにおいてはあまり有用性ではない.

分子遺伝学的検査:研究的解析 研究目的でのDHPLCのような方法を用いた変異解析ではPKD1PKD2 の変異検出率はおおよそ65-70%である.

表1 ADPKDで用いられる遺伝子検査

遺伝子

検査法

検出される変異

検出率

PKD1

FISH/マイクロアレイ

PKD1欠失

非常に低い

 

直接シークエンス

PKD1塩基置換

〜85%

PKD2

 

PKD2塩基置換

 

遺伝子検査結果の評価 略

発端者の検査手順

  1. 超音波,CT,MRIなどによる腎の画像検査を最初に考慮する.
  2. 画像検査の結果が不確実であったり,若い患者で確実な診断が求められる場合に分子遺伝学的検査を考慮する.
  3. FISH/マイクロアレイによる大規模な再構成の検索ではごく一部の変異が確認されるに過ぎない.

遺伝子レベルでの関連疾患

PKD1遺伝子もしくはPKD2遺伝子変異に起因する他の疾患は知られていない.

PKD1遺伝子とこれに隣接する結節性硬化症遺伝子,TSC2の欠失による隣接遺伝子症候群が報告されている.この症候群の患者は出生前もしくは新生児期にすでに結節性硬化症と重度の多発性嚢胞腎が認められる.


臨床像

自然経過

腎病変

ADPKDの患者は全員が腎嚢胞を生じるが,腎障害や他の症状の重症度は同一家系内であっても個人差が大きい.遺伝的多様性やPKD1関連遺伝子の変異,生活環境因子がこうした差の理由と考えられている.ADPKDの腎症状には腎機能障害,高血圧,腎の痛み,腎不全がある.

腎機能障害 尿濃縮能とアンモニア排泄能の低下は早期に起こり,これはおそらく嚢胞による腎構造の破壊,イオン交換の障害,腎髄質における溶質やアンモニアの捕捉の障害などによる.病初期にはこうした障害は軽度で罹患者と非罹患者との間にかなりのオーバーラップがみられる.濃縮能の低下は臨床的に直接問題となることはないが,不適切な食事を摂るなどの代謝ストレスの存在下では,アンモニア排泄が低下すると,尿が酸性に傾いたり低クエン酸尿の状態(これらはADPKD患者で起こりやすい)で尿酸結石やシュウ酸カルシウム結石の形成を促進することになる.

高血圧 早期の機能異常としては腎血流量の低下があり,これはまだ血圧が正常な若年患者にもみられ,高血圧の発症に先行する.高血圧は腎糸球体濾過量が低下する以前にあらわれ,以下のような特徴を有する.

  • 腎血管抵抗の上昇と濾過率の上昇
  • 末梢血レニン活性は正常
  • 血圧−ナトリウム利尿の関係の再設定
  • 食塩感受性
  • 細胞外液量,血漿量,心拍出量は正常もしくは増加
  • アンギオテンシン変換酵素阻害薬により腎血流動態やナトリウム動態が部分的に改善
ADPKDを有する高血圧は末期臓器不全や血管障害・心不全による症状や死を招くことがあり,妊娠中には胎児,母体双方に合併症をもたらす.

腎の痛み 疼痛はADPKDでよくみられる症状である.原因としては嚢胞内出血,腎結石,嚢胞の感染,そして頻度は低いが腫瘍などがある.不快感(軽度の充満感から激痛に至るまで程度はさまざま)は腎の腫大や嚢胞のゆがみによっても起きる.肉眼的血尿は嚢胞内出血や腎結石に伴って生じることも,これらを伴わずに独立して生じることもある.凝血塊の排泄も痛みの原因となる.嚢胞内出血は発熱を伴うことがあり,これはおそらく嚢胞内感染に起因する.多くの場合痛みは自制内で2−7日以内に軽快する.まれには後腹膜出血によって痛みが生じることもあり,この場合は症状も激しく輸血を要する.

腎結石 ADPKDにおける腎結石の頻度はおおよそ20%である.成分としては尿酸とシュウ酸カルシウムが多い.尿のうっ滞は腎構造の破壊による二次的なものと考えられ,代謝要因が結石形成に関与する.

ADPKDにおいて腎結石を誘発する因子としては,アンモニア排泄の低下,尿の酸性化,尿中クエン酸濃度の低下が上げられる.

尿路感染,嚢胞感染 過去においてはADPKD患者における尿路感染症の頻度は過大評価されていた.これは無菌性膿尿が頻繁に起こるためである.一般人口集団と同様,男性患者に比べて女性患者のほうが尿路感染症の頻度は高く,起炎菌はたいていの場合大腸菌や他の腸内細菌である.膀胱からの逆行性感染は腎盂腎炎や嚢胞感染を引き起こす.

腎細胞癌 一般人口集団と比較して,ADPKD患者における腎細胞癌の頻度は特に高くはない.しかしADPKD患者に腎細胞癌を生じた場合には,若年で発症する,頻繁な全身症状を示す,肉腫様腫瘍,両側性腫瘍,多発性腫瘍,転移性腫瘍が多いといった特徴がみられる.男性ADPKD患者は女性患者に比べて腎細胞癌を生じにくい.

その他 重度の腎腫大は局所構造の破壊,すなわち下大静脈の圧迫や胃流出路の閉塞(主に右腎嚢胞によって生じる)による症状を引き起こす.

腎不全 約50%のADPKD患者は60歳までに末期腎不全にいたる.いったん腎障害が進行すると糸球体濾過量(GFR)は平均して毎年5 ml/分の割合で低下する.拡張する嚢胞による腎実質の圧迫や血管硬化,間質の炎症と線維化,尿細管上皮のアポトーシスが原因と考えられる.

遺伝的因子と環境因子の関与が同一家系内でも重症度の個人差を生じる原因となっている.PKD1変異ではPKD2変異に比べて末期腎不全に至るのが20年早い.PKD2では女性より男性のほうが早期に腎不全にいたるが,PKD1ではこのような性差はみられない.他のリスク要因としては30歳以前の発症,30歳以前の血尿の発症,35歳以前の高血圧の発症,高脂血症,HDLコレステロールの低値,鎌状赤血球症家系などがある.アフリカ系アメリカ人や,ACEもしくはENOSに特定の遺伝子型を持つ人で病変進行のリスクが高いかどうかについては議論がある.

腎外病変

多発性肝嚢胞 多発性肝嚢胞はADPKDにおいて最も高頻度に見られる腎外病変である.多発性肝嚢胞の重症度は通常腎嚢胞の重症度と相関するが,例外も多い.

ADPKD患者における頻度は20歳代では20%であるが,50歳代以降では75%に達する.多発性肝嚢胞は女性のほうが早期に発症し,複数回の分娩を経験している女性のほうがより重症化する.閉経後にエストロゲンの補充療法を受けている女性では嚢胞の増大がみられるので,肝嚢胞の進展にはエストロゲンが重要な関与をしていると推測される.

肝嚢胞は通常無症状で肝不全をきたすことはない.症状が現れる場合は嚢胞による占拠性の影響や合併症の進行,あるいはまれな併発病変による.占拠性の影響として腹部膨満や腹痛,早期満腹感,呼吸困難,腰背部痛などがみられる.肝嚢胞はまた下大静脈や肝静脈,胆管を圧迫することもある.

多発性肝嚢胞の合併症としては嚢胞内出血,感染,破裂がある.嚢胞内出血は発熱をきたし,胆嚢炎や嚢胞感染と見誤る.嚢胞感染は局所痛,圧痛,発熱,白血球増多,血沈促進,アルカリフォスファターゼの上昇を伴う.CTやMRIは嚢胞感染の診断に有用であるが,特異度は高くない.白血球分画はより特異的であるが,いつも確実な結果を得るとは限らない.肝嚢胞の破裂は急激な腹痛と腹水を生じる.

他の肝病変 

  • 胆管拡張は胆嚢炎の既往に付随する.
  • 先天性肝線維症はADPKD患者にはきわめてまれである.
  • ADPKD患者における胆管癌の合併頻度は低い.

膵病変 膵嚢胞はADPKD患者の約8%に生じる.これらはフォンヒッペル・リンドウ病で見られるものよりは軽度である.ADPKDと膵腫瘍の関連性についての報告もあるが,これは二つの疾患の偶然の合併と思われる.

血管および心病変 ADPKD患者において最も重要な嚢胞以外の病変には頭蓋内動脈瘤や他の動脈瘤,そしてよりまれであるがドリコエクタジア,大動脈弓の拡張,胸部大動脈や頭頸部動脈の解離,心弁膜異常,冠動脈瘤がある.ADPKD家系における胸部大動脈解離の集積が証明されている.

頭蓋内動脈瘤はADPKD患者の約10%に生じる.動脈瘤やクモ膜下出血の家族歴がある患者ではこれらの家族歴がない患者に比べてその頻度が高い(22% vs 6%).大部分の頭蓋内動脈瘤は無症状である.脳神経麻痺や痙攣といった局所症状は拡大した動脈瘤による局所圧迫が原因である.

ADPKD患者における動脈瘤破裂時の平均年齢は一般人口集団のそれよりも若い(39歳 vs 51歳).

動脈瘤破裂の危険性は他部位での破裂の既往があるかどうかによる.そのような既往がない場合は直径10ミリ以下の動脈瘤が破裂する危険性は年間0.05%,直径10−24ミリでは年間1%,直径25ミリ以上では年間6%である.過去に他部位での破裂の既往がある場合には,破裂の危険性は動脈瘤の大きさに関係なく年間0.5−1%である.

症状を伴う動脈瘤の破裂の危険性は高く,年間約4%に達する.

動脈瘤の破裂は3か月以内に35−55%の重度の臨床症状や死亡をきたす危険性がある.動脈瘤破裂時は大多数の患者では腎機能は正常で,30%は正常血圧である.

頭蓋内動脈瘤を伴うADPKD患者の追跡調査によれば,過去に臨床症状を伴った患者では,新たな動脈瘤の出現や既存の動脈瘤の拡大について中程度のリスクがあり,スクリーニングで発見された無症候性の動脈瘤の拡大のリスクは低かった.

僧帽弁逸脱は最も頻度の高い弁膜異常で,エコー上ADPKD患者の25%に認められる.

正常血圧で腎機能が保たれている若いADPKD患者で左室実質の増加,左室拡張不全,内膜機能不全,中膜肥厚,運動時の血圧過剰上昇が認められるという報告がある.血圧が正常でもADPKD患者では両室の拡張不全があり早期から心臓が影響を受けていると考えられる.こうした所見の臨床的意義はまだ明確ではない.

遺伝子型と臨床型の関連

ヘテロ接合体 変異を生じている遺伝子(PKD1PKD2か)と腎病変の重症度には明瞭な相関がある.

PKD1変異による場合はより腎病変が重症で,診断時年齢も若く,末期腎不全に至る平均年齢も若い(PKD1では54.3歳,PKD2では74.0歳).したがってPKD1変異による患者の大部分は70歳までに末期腎不全に至るが,この年齢ではPKD2変異による患者の半数以上で腎機能はまだ維持されている.

ある家系でPKD1PKD2の両方にヘテロで変異を持つ二人の患者が報告されている.患者はより重度の腎障害を有していたが成人まで生存した.                                                           

ADPKDに伴う腎外病変はいずれの遺伝子による場合にも認められる.いずれの遺伝子が原因の場合も頭蓋内動脈瘤のリスクは高くなっている.

最近の研究ではPKD1PKD2遺伝子の変異の位置と臨床像との関連が検討された.同一家系内においても腎病変,腎外病変のいずれも臨床像の差が大きく,遺伝的修飾因子や環境要因が臨床像や臨床経過に大きく影響していると考えられる.

一卵性双生児患者や同胞における臨床像の差異の検討から遺伝的修飾因子の存在が示唆されている.最近の研究では末期腎不全に至る年齢には遺伝的修飾因子の関与が18-59%認められるという.

PKD1変異を有する患者では,家族間の臨床像の差が記載されており,変異の位置が臨床像に影響している可能性がある.頭蓋内動脈瘤の家族内集積も報告されており,最近の研究ではPKD1遺伝子の5’側に変異を有しているほうが3’側に変異を有しているよりも頭蓋内動脈瘤の頻度が高かった.こうした違いはポリシスチン1が複数の蛋白産物に分断されることによるのかもしれない.PKD2では明らかな変異と臨床像の相関は認められていない.

ホモ接合体 Pkd1Pkd2のノックアウトマウスでは,ホモ接合体は嚢胞腎を伴って胎生期に死亡する.したがってヒトにおいてもホモ接合体や複合ヘテロ接合体は出生に至らないものと考えられる.これに合致する所見として,PKD1変異を有する近親婚の家系で2回の自然流産(妊娠4か月と6か月)が記載されている.ただし胎児の病理組織学的検討は行われていない.

浸透率

嚢胞形成 ADPKDの浸透率は非常に高く,PKD1 もしくはPKD2変異を有する患者ではほぼ全例が高齢になると多発性両側性嚢胞を発症する.疾患が進行性のものなので,小児期や青年期においては,特にPKD2変異を有する患者では嚢胞が明らかでないこともある.

末期腎不全 末期腎不全の浸透率はより低い.PKD1患者では多くが生涯のうちに末期腎不全に至るのに対し,PKD2患者,特に女性では高齢になってもある程度の腎機能が保たれる.

促進現象 

ADPKDにおいて促進現象の存在が示唆されている.しかしながら,家系内でも臨床像のばらつきがあるにもかかわらず,家系ごとの調査では子どもよりも親のほうが重症のことが多い.

命名

ADPKDという病名は成人型多発性腎嚢胞に対しては用いられない.

頻度

ADPKDは致死性単一遺伝性疾患の中ではもっとも頻度の高いものである.生産児における頻度は400人から1000人に1人で,米国では約40万人の患者がいる.おおよそ毎年1800人の患者が腎代替療法(透析,腎移植)を開始している.

ADPKDは世界中すべての人種に見られ,新生突然変異による発症もかなりの頻度になる.米国では末期腎不全患者のうちADPKDによる患者の割合は白人に比べてアフリカ系黒人では少ないが,これはアフリカ系黒人では他の理由による末期腎不全患者が多いことを意味している.


鑑別診断

家族歴がない場合や臨床像が典型的でない場合は鑑別として良性単純性嚢胞や他の嚢胞性疾患の可能性を考慮する必要がある.

超音波検査による健康人の単純性腎嚢胞の頻度は15−29歳で0%,30−49歳で1.7%,50−70歳で11.5%,70歳以上では22.1%であった.両側の腎嚢胞の頻度は30−49歳で1%,50−69歳で4%,70歳以上で9%であった.

単純性肝嚢胞は腹部超音波検査を受けた人の2.5−4.9%に認められる.男性より女性で頻度が高く,年齢とともに頻度は上昇する.大部分の単純性肝嚢胞は単発性で,複数の嚢胞がある場合でも3個を超えることはない.

しばしばADPKDと混同される腎嚢胞には常染色体劣性多発性嚢胞腎,結節性硬化症,フォンヒッペル・リンドウ病,口顔指症候群1型,糸球体嚢胞腎,Hajdu-Cheney症候群,他の先天奇形,限局性腎嚢胞疾患,後天性腎嚢胞がある.これらの疾患の正確な診断には腎外病変の検討が重要である.

常染色体劣性多発性嚢胞腎(ARPKD) ARPKDは集合管の紡錘型拡張による両側性の腎嚢胞性病変と先天性肝線維症が特徴である.先天性肝線維症や胆道形成不全は門脈圧亢進をきたし,門脈域の拡張と線維化,胆管の増殖,中心胆管の欠損,門脈分枝の低形成,そして時に中心静脈周囲の著明な線維化をきたす発生異常である.ARPKD患者の両親は罹患していない.一方ADPKD患者の両親は通常一方が罹患している.一部のARPKD患者では,ADPKDに似た肝病変や限局性嚢胞腎を伴って小児期から青年期に発症する.

結節性硬化症 結節性硬化症は常染色体優性遺伝性疾患で,しばしば腎の血管筋脂肪腫,腎嚢胞,さらに低頻度ではあるが腎細胞癌を伴う.腎嚢胞と腎血管筋脂肪腫の両者の存在は結節性硬化症の診断根拠となる.しかしながら,特に出生1年以内では,腎嚢胞は血管筋細胞腫を伴わずに発症することもある.こうした例では画像所見はADPKDに類似する.

フォンヒッペル・リンドウ病 フォンヒッペル・リンドウ病は常染色体優性遺伝性疾患で,網膜や中枢神経の血管芽腫,腎嚢胞,腎細胞癌,膵嚢胞,褐色細胞腫,精巣上体の乳頭嚢胞腺腫を生じる.腎嚢胞は通常多発性,両側性でしばしば多発性の充実性腫瘍を合併する.充実性腫瘍を伴わない場合は本症の腎臓はADPKDのそれに似ている.

口頭指症候群1型 まれなX連鎖優性遺伝性疾患で,男性では致死である.罹患した女性の腎臓はADPKDのそれと区別ができない.肝嚢胞を伴うこともある.正確な臨床診断は腎外病変,すなわち小帯の過形成,分葉舌,口唇口蓋裂,歯の位置異常といった口腔内の所見や,広い鼻根や鼻翼低形成,頬骨低形成を伴う顔貌異常,指の異常によって確定される.

糸球体嚢胞腎 この疾患名は糸球体嚢胞を伴うが尿細管の異常はほとんどみられず,尿路閉塞や腎異形成,他の嚢胞性疾患や奇形症候群にも属さない疾患群に対して用いられている.患者の多くは乳児期や幼児期に発見され,腎腫大や腎不全を呈する腎疾患の家族歴はない.最近になって,常染色体優性遺伝を示す家系が報告された.これら家系のうち2家系における連鎖解析ではPKD1PKD2には連鎖していなかった.

Hajdu-Cheney症候群 Hajdu-Cheney症候群では腎皮質,腎髄質の嚢胞を伴う腎腫大がみられる.腎機能障害を伴うことも伴わないこともある.このまれな常染色体優性遺伝性疾患は低身長,平坦な顔面中央部,後頭部の突出,下顎の低形成,多毛,末節骨の先端骨溶解,頭蓋底陥入を伴う.

限局性腎嚢胞 限局性腎嚢胞は片側の腎の一部に嚢胞変性を生じるもので,病変部の組織学的所見はADPKDに類似しているが進行性ではないし家族性でもない.この病態は非対称性病変を示すADPKDや,多房性嚢胞性腎腫,嚢胞性腎癌,分節性多嚢胞性腎異形成などと区別する必要がある.

後天性腎嚢胞 末期腎不全で腎実質に生じる嚢胞変性である.患者はしばしば無症状であるが,時に血尿,嚢胞内出血,後腹膜出血を伴う嚢胞破裂,嚢胞感染,腺腫や癌の発生をみることがある.

常染色体優性多発性肝嚢胞 腎嚢胞を伴わずADPKDとは異なる病態であり,明らかに遺伝学的に多様である.最近2つの原因遺伝子,PRKCSHSEC63が同定された.


臨床的マネジメント

最初の診断時に病態評価のために行う検査

  • 腎超音波検査 すべての患者に対して有用である.ただし感度が低いので30歳以下のPKD2患者ではCTやMRIのほうが望ましい.
  • 腹部CT検査 腎や肝の嚢胞性病変の有無と予後の評価に有用である.CTは結石や実質の石灰化も検出できるがMRIではこれらは検出できない.CTもしくはMRI血管造影は腎動脈の描出が必要な時に行われる.ヨード造影剤使用が禁忌の症例に対してもMRIは行える.
  • 通常の血圧測定 初期高血圧に対する米国心臓病学会のガイドラインにしたがって評価する.白衣高血圧(病院で測定する血圧は高いが院外の血圧は正常)が疑われる場合は2時間ごとの児童血圧計による測定が有用である.
  • 血清脂質の測定 高脂血症はADPKDを含む進行性腎疾患の危険因子である.
  • 尿検査 重度の腎嚢胞存在下での微小アルブミン尿や蛋白尿は予後不良を示す所見であり,血圧の厳格なコントロールが必要となる.
  • 心電図 心雑音や収縮期クリックは僧房弁逸脱や先天性心奇形などの弁膜症の存在を示唆する.
  • 心電図もしくは心MRI 胸部大動脈解離の家族歴があってリスクが高い患者に対するスクリーニングとして行う.

  • 頭部MRIもしくはCT血管造影 頭蓋内動脈瘤の家族歴があってリスクが高い患者に対するスクリーニングとして行う.家族歴がない患者に対しては勧められない.

病変に対する治療

現在のADPKDに対する治療目標は腎および腎外の障害による病悩や死亡を防ぐことにある.

高血圧 ADPKDの高血圧に対する降圧剤の選択基準は定まっていない.本症ではレニン・アンギオテンシン系が高血圧発症に関与しているので,ACE阻害剤やアンギオテンシンII受容体拮抗剤は腎機能が残されている患者にとって他の降圧剤よりも有用性が高いかもしれない.ACE阻害剤,アンギオテンシンII受容体拮抗剤,カルシウムチャネルブロッカーは腎血流を増やし,副作用が少なく,血管平滑筋増殖や動脈粥状硬化の進展を抑制する.

  • ACE阻害剤の投与がADPKD患者の微量アルブミン尿を軽快させることが示されているが,カルシウムチャネルブロッカーではこのようなデータはない.
  • 過去の非ランダム化研究では,利尿剤を併用しないACE阻害剤の投与は,利尿剤の投与に比べて,同じ血圧の患者群において糸球体濾過量の低下を遅らせ,蛋白尿の頻度を低下させた.
  • 最近の研究ではACE阻害剤はベータ阻害剤よりも優れた腎保護作用を示せなかった.一方他の研究では,より厳格な血圧コントロールは左室重量を低下させたものの,腎保護作用は示さなかった.
  • 長期にわたる腎疾患に対する食事の効果を見た研究(MDRD study)では,低い目標血圧を設定されたADPKD患者群では通常の目標血圧を設定された群に比べて末期腎不全/死亡が減少した.

側腹部痛 感染や結石,腫瘍など,治療が必要な側腹部痛の原因を除外できたら,保存的方法による疼痛管理が最良である.

  • 非オピオイド系薬剤 好んで用いられるが,鎮痛剤と非ステロイド消炎鎮痛剤の併用のような,腎毒性のある薬剤の長期投与を避けるように注意する必要がある.
  • 三環系抗うつ剤 どのような慢性疼痛にも有効であり,安全に用いることができる.
  • 麻薬系鎮痛剤 長期に用いると身体的,心理的依存を招くので,急性発作の治療のために使うべきである.
  • 内臓神経ブロック 局所麻酔薬やステロイドを用いる.局所麻酔薬の作用時間以上に疼痛を軽減する.
  • 腎神経遮断 胸腔鏡による治療例が報告されている.

保存的治療が奏功しない場合は嚢胞内容の吸引と硬化療法,手術,内視鏡的嚢胞減圧術などが行われる.

  • 嚢胞内容吸引 超音波やCTガイド下に行われ放射線医によって行われる比較的容易な方法である.嚢胞内容の再貯留を予防するために中央に位置する嚢胞の吸引による副作用はより頻度が高く,障害の発生は治療した嚢胞の数に比例する.
  • 硬化療法 95%エタノールやミノサイクリンの酸性溶液による硬化療法がよく行われる.95%エタノールは非常に有効で,良性の腎嚢胞では90%の成功率が得られる.軽度の合併症としては顕微鏡的血尿,局所痛,一過性発熱,アルコールによる全身への影響などがある.気胸,腎周囲血腫,動静脈瘻,尿瘤,感染などの重篤な合併症はまれである.

疼痛の原因となる嚢胞が多発している例では,内視鏡的もしくは外科的な嚢胞開窓術が有効である.

  • 外科的減圧術 80−90%で1年間にわたって有効であり, 62−77%では2年以上にわたって持続的な疼痛緩和が得られる.外科的治療が腎機能低下を促進することはないが,機能低下を遅らせることもない.
  • 内視鏡的開窓術 病変が限局している患者に対して短期的にも長期的にも外科的開窓術と同様の効果が,術後の回復も短期間でかつ合併症が少ない.
  • 内視鏡的および後腹膜鏡的腎摘出術 末期腎不全に至ったADPKD患者に対して行われた.

嚢胞内出血と肉眼的血尿 嚢胞内出血や肉眼的血尿は自然に軽快し,凝血塊による閉塞を防止するための安静,鎮痛剤,適切な補液といった保存的治療によく反応する.

まれに出血がより重度で被膜下や後腹膜の血腫を形成し,ヘマトクリットの低下や血行動態の不安定化を招くことがある.そのような場合には入院,輸血,CTや血管造影による検査が必要となる.非常に重度の出血や持続性の出血の場合には局所的動脈塞栓術が奏功する.もしこうした治療がうまくいかない時には出血をコントロールするために手術が必要となる.

肉眼的血尿が一週間以上持続する場合や,50歳以上の患者で初めて出現した場合には精査を要する.

腎結石 小さい尿酸結石は腎断層撮影では見逃されることがあり,検出にはCTが最も優れている.集合管内の局在を確認し,結石と実質内石灰化を区別するためにCTは造影剤投与の前後で撮影する必要がある.

排泄性尿路造影ではADPKD患者の15%に尿細管拡張を認める.

ADPKD患者の腎結石の治療はADPKD患者以外に生じた腎結石の治療と変わるところはない.

  • 尿酸結石,低クエン酸性シュウ酸カルシウム結石,遠位尿細管アシドーシスに対する治療薬としてクエン酸カリウムが用いられる.
  • 体外衝撃波結石破砕術や経皮的結石破砕術はADPKD患者に対しても特に合併症をきたすことなく施行することができる.

嚢胞感染 嚢胞感染が疑われた場合は,画像検査による確認を行うべきである.

  • CTやMRIが感染をおこした嚢胞を高感度に描出してくれるが,所見は感染に特異的なものではない.
  • 核医学検査,特にインジウム標識白血球スキャンは有用であるが偽陽性や偽陰性の結果を得ることもある.

発熱,側腹部痛,画像所見などが揃っている場合は,抗生物質選択のために超音波もしくはCTのガイド下で嚢胞内容の吸引と培養を行うべきである.

嚢胞感染はしばしば治療に困難をきたす.感受性のある抗生物質による長期の治療をおこなっても軽快しないことも多い.これは抗生物質が嚢胞上皮を通過して嚢胞内に十分な濃度で到達することができないことによる.Gradient cystの嚢胞上皮は遠位尿細管の微小構造と機能を有している.抗生物質はtight junctionを貫通するが,ここは脂溶性物質のみを通過させる.Non-gradient cystはより一般的なものであるが,溶質は拡散によって通過できる.しかし動態解析研究の結果では,水溶性物質はいずれの嚢胞もゆっくりかつ不規則に貫通するため,嚢胞内の薬物濃度は不安定で信頼できない.脂溶性物質はいずれの嚢胞も同様にかつ安定して貫通し,酸性の嚢胞内液に到達するに十分な解離定数が得られる.

薬剤としてはトリメトプリム−サルファメトキサゾールやフルオノキノロンが選択される.クロファムフェニコールは難治性の病変に対して有効性が示されている.

もし抗生剤の投与終了後1-2週間たっても発熱が持続する場合は,感染した嚢胞に対して経皮的もしくは外科的ドレナージを行うべきである.閉塞,腎周囲膿瘍,あるいは結石のような併発病変がある場合はそれぞれ適切な対処が必要となる.併発病変がない場合には以前に有効だった治療を継続するが,感染症を完全に根治させるためには数ヶ月を要することもある.

悪性腫瘍 多発性嚢胞腎に生じた腎細胞癌の診断はそれを強く疑うことが要求される.非典型的な充実性あるいは嚢胞性腫瘤,腫瘍塞栓,局所リンパ節腫脹を検出するにはガドリニウム造影によるMRI検査が特に有用である.

多発性嚢胞腎での移行上皮癌の診断は非常に難しく,通常逆行性腎盂造影が必要となる.

腎不全 ADPKD患者の腎不全への振興を遅らせる目的の治療には高血圧や高脂血症の管理,食事蛋白量の制限,アシドーシスの補正,高リン血症の予防などがある.

動物実験では蛋白摂取量の制限や高血圧の注意深いコントロールがPKDにおける腎不全進行を遅らせることが示されている.しかしながらModification of Diet in Renal Failure (MDRD)スタディでは厳密な血圧管理の効果は認められず,強度の蛋白制限食がわずかに効果を示したのみであった.この介入試験は疾患が進行した患者(GFRが13−55 mL/min/1.73 m2)を対象にしていたので,早期介入における効果をも否定するものではない.

生命表によるデータでは,ADPKDによって透析となった患者は他の理由で透析導入された患者に比べて予後は良い.女性の予後は明らかに男性より良好である.理由は明確ではないが,内因性エリスロポエチン産生が維持され,ヘモグロビン濃度が保たれることと関連しているかもしれない.まれではあるが,下大静脈が正中近くに存在する嚢胞によって圧迫されていると,透析中の血圧上昇をきたすことがある.腎の大きさにもかかわらずADPKD患者でも腹膜透析が行われる.ただしこれは鼠径ヘルニアや臍ヘルニアのリスクを高め,もし発症した場合は手術的修復が必要となる.

多発性肝嚢胞 大多数の多発性肝嚢胞患者は無症状で治療を必要としない.臨床症状を有する例に対する治療としては,エストロゲンを避け,症状軽減のためのH2ブロッカーやプロトンポンプ阻害剤の投与がある.

症状が重度の場合には経皮的吸引と硬化療法,腹腔鏡的開窓術,肝部分切除と開窓術,あるいは肝移植が必要となる.こうした治療は個々の患者についてその適応を考慮しなければならない.

嚢胞吸引とアルコールやミノサイクリンによる硬化療法は単一あるいは少数の嚢胞によって症状が出ている場合に適応となる.硬化剤を注入する前に嚢胞内に造影剤を注入し,胆管との交通がないことを確認する.この治療法の奏功率(1回の治療で70%,追加治療を行うと90%)は嚢胞の大きさと逆相関する.

肝嚢胞の内視鏡的開窓術はあまり頻繁には行われないが,40%の患者では一過性の腹水を生じ,効果はしばしば一過性である.したがって内視鏡的開窓術は非常に大きい嚢胞に対する経皮的硬化療法の代用として行われる.多くの中小サイズの嚢胞がある患者では,大きな嚢胞に対する治療は経皮的硬化療法と内視鏡的開窓術のいずれも有効ではない.多くの例では肝臓の一部分は冒されていないので,肝部分切除と嚢胞開窓術の併用が可能である.一過性の腹水や胆汁漏出などの合併症があり,周術期死亡率が2.5%に及ぶなど手術とその回復期の治療は難しいので,治療は特別な施設でのみ行われるべきである.重度の多発性肝嚢胞患者に対する手術は良好な長期的成績が得られ,場合によっては肝移植よりも望ましい.肝移植は肝実質が強く障害されて肝不全を生じているようなまれな患者に行われるべきである.

頭蓋内動脈瘤

破裂したもしくは症状を呈する動脈瘤 外科的クリッピングが第一選択である.

無症状の動脈瘤 

  • 直径が5ミリメートル以下の動脈瘤やスクリーニングで見つかったものは最初のうちは年1回のスクリーニングで経過観察可能である.もし次第に大きくなってくる場合は手術が考慮される.
  • 直径6−9ミリメートルの動脈瘤に対する治療は議論のあるところである.
  • 直径10ミリメートル以上の未破裂動脈瘤は多くの場合外科的治療が行われる.

外科手術に対するリスクのある患者や手術が難しい位置に動脈瘤が存在する患者の場合にはプラチナコイルによる血管内治療が行われる.血管内治療はクリッピングに比べて合併症は少ないが,長期的治療成績についてはまだ不明である.

解離性大動脈瘤 大動脈弓の直径が55−60ミリメートルに達する場合は大動脈置換術の適応となる.

定期検査

頭蓋内動脈瘤 無症状の患者に対するスクリーニングで発見される動脈瘤は小さく,破裂の危険性も低く,治療を必要としないので,スクリーニングを広く行うことは費用がかかるが効果は少ない.

20−50歳の患者に対するスクリーニングの適応としては頭蓋内動脈瘤やクモ膜下出血の家族歴がある例,動脈瘤破裂の既往がある例,血行動態に大きな変動をきたすような手術が予定されている例,パイロットのようなリスクの高い仕事についている例,本人の不安が強い例,あるいはPKD1遺伝子の特定の変異を持つ例がある.

無症状患者に対するスクリーニング法としてはMRIが優れており,これは非侵襲的で造影剤投与も必要としない.最初の検査で陰性であった76名の患者のうち,平均9.8年の経過観察中に新規の動脈瘤が発生した患者は1名しかいなかったので,再検査を10年後に行うのは理にかなっている.

回避すべき状況や薬物

  • 麻薬性鎮痛剤と非ステロイド系鎮痛剤のように腎毒性のある薬剤を長期に投与すること
  • カフェインはcAMP分解を抑制し嚢胞形成を促進する
  • 重度の多発性嚢胞腎がある患者に対するエストロジェン投与
  • 喫煙

リスクのある親族の検査

ADPKD

  • リスクのある成人に対して検査を行うことによって
    • 罹患者に対して疾患の情報提供ができる
    • 病変や症状に対して早期の治療ができる
    • 非罹患者であることを確定できる
  • 検査前に保険や雇用に関する問題も含めた適切なカウンセリングを行うことが最も重要である
  • 現時点では,無症状の小児に対する検査の適応はない.これは将来適切な治療法が実現すれば変わるかもしれない.

評価中の治療 

ADPKDの遺伝学に関する理解の進展や嚢胞形成メカニズムの解明により,治療的介入の標的が次第に明らかになってきた.

特に興味が持たれているのは,バゾプレッシンV2受容体を標的にしてcAMPレベルを調節することでARPKDやADPKDの動物モデルでの嚢胞形成を抑制できるという最近の報告である.バゾプレッシンV2受容体アンタゴニストを用いた臨床試験が進行中である.

ソマトスタチンの持続型製剤であるオクトレオタイドが嚢胞の拡大を遅らせることが,プラセボを用いた小規模のランダム化クロスオーバー試験で示されている.

EGF受容体アンタゴニストとラパマイシンは多発性嚢胞腎のモデル動物での有効性が示されている.

多種の疾患に対する臨床試験の詳しい情報については,ClinicalTrials.gov を参照のこと.


遺伝カウンセリング

「遺伝カウンセリングは個人や家族に対して遺伝性疾患の本質、遺伝、健康上の影響などの情報を提供し、彼らが医療上あるいは個人的な決断を下すのを援助するプロセスである。以下の項目では遺伝的なリスク評価や家族の遺伝学的状況を明らかにするための家族歴の評価、遺伝子検査について論じる。この項は個々の当事者が直面しうる個人的あるいは文化的な問題に言及しようと意図するものではないし、遺伝専門家へのコンサルトの代用となるものでもない。」

遺伝形式

ADPKDは常染色体優性遺伝の形式をとる。

患者家族のリスク

発端者の両親

  • 大多数のADPKD患者には罹患した親がいる.
  • 約10%の罹患家系は新生突然変異による.
  • 明らかに新生突然変異と思われる患者の両親,特にPKD2患者の両親に対しては,画像検査が勧められる.

発端者の同胞

  • 患者の同胞における罹患リスクは両親の遺伝的状況に依存する.
  • もし親が罹患している場合は,同胞が罹患する可能性は50%である.
  • もし両親のいずれもが画像検査によって罹患していないことが判明した場合は,発端者は新生突然変異によって発症した可能性が高く,同胞のリスクは低い.性腺モザイクによる例の報告はないが,可能性としては残される.

発端者の子 患者の子が変異遺伝子を受け継ぐ可能性は50%である.

他の家族 他の家族のリスクは発端者の両親の遺伝的な状況による.もし両親のいずれかが発症していたり,変異を有したりしている場合は,発端者の親族にもリスクがある.

親族の腎ドナー 腎移植のドナーとなることが考慮されている親族についてはADPKDがないかどうか評価する必要がある.評価としては超音波やCT,MRIによる画像検査が行われる.もし変異が罹患した親族で同定されたり,連鎖解析が有用な場合には,分子遺伝学的検査によってドナーの遺伝学的な状態を評価するのが適当である.

関連する遺伝カウンセリング上の問題

リスクのある無症状成人の検査 

リスクのある無症状成人に対するADPKDの検査は第一に画像検査を行う.分子遺伝学的検査も可能であるが,発症年齢や重症度,症状のタイプや病状の進行を予測するには役立たない.

明らかな症状がない人に対する検査は予測的検査という.ADPKDでは最初に考慮されるのは画像検査である.分子遺伝学的検査は画像検査の結果があいまいであったり,腎移植のドナーになる可能性があるなどの理由で若年(30歳未満)のうちに確定診断が必要な場合に考慮される.リスクのある無症状の患者家族は自分自身の選択として検査を希望するかもしれない.あるいは「知っておかなければならない」それ以外の動機があるかもしれない.無症状の家族に対する検査に先立っては通常検査前の面談を行い,検査を希望する理由やADPKDに対する知識,検査結果が陽性あるいは陰性であったときの心理的影響などを確認する.検査を希望する人に対しては遺伝カウンセリングを行い,将来的におこりうる健康上の問題,人生設計,障害保険,就職差別,社会あるいは家族との関係の変化などについて話し合うべきである.その他の考慮すべき問題としては,他の家族のリスクがある.インフォームド・コンセントを得て,記録は厳密に保管する必要がある.検査結果が陽性であった場合はその後の長期にわたるフォローアップと検査の計画を立てる必要がある.

リスクのある無症状未成年の検査 

一般認識として,成人発症型疾患については無症状の小児期に検査を行うべきではない.その主な論拠は本人の知る,知らないという自己決定の権利を奪い,家族内や社会における烙印付けを招く危険性,さらには教育や職業選択に影響を与える可能性がある,というものである.小児期にすでに症状がある場合には診断を確定するために検査を行うことは利点があると認められる.

明らかに新生突然変異によると思われる家族について 発端者の両親が変異を有していなかったり,疾患の所見を示していなかったりする場合には,発端者は新生突然変異によって発症した可能性が高い.しかし,父親が異なるとか開示されていない養子縁組があったとかいう非医学的な理由による可能性も考慮に入れておく必要がある.

家族計画 遺伝的リスクの評価や出生前診断についての決定は妊娠前に行われるのが望ましい.同様にリスクのある無症状成人の検査についての自己決定も妊娠前に行われるのが最良である.

DNAバンク DNAバンクとは将来的な使用を想定してDNAを(多くは白血球から抽出する)保存しておくものである.遺伝子検査技術や遺伝子、変異、疾患に対するわれわれの認識が将来変化するかもしれないので、現在の遺伝子検査の精度が100%でない状況下ではDNA保存が考慮されうる.

出生前診断

分子遺伝学的検査 リスクのある妊娠における出生前診断は胎生16-18週に施行される羊水穿刺や胎生10-12週に行われる絨毛サンプリングによって採取された胎児細胞から得られるDNAを用いて行うことができる.当該家系における変異や責任アレルは検査前に明らかになっている必要がある.

ADPKDのように知能に影響を与えず治療法も存在している疾患に対して、出生前診断が求められることはあまりない.例外としては重症の患者がいて周産期死亡の既往があったり,乳児期に腎の顕著な腫大を生じた例があったりしたようなまれな場合がある.このような家系では子どもが重症となる可能性が考えられるので,早期から超音波で腎の腫大をモニターしたり,出生前診断を考慮したりすることは適切と考えられる.遺伝子検査が早期診断よりも中絶を目的として考慮される場合は,医療関係者と家族の間では出生前診断に対する見解の相違が生じるかもしれない.ADPKD家系の調査によればADPKDを理由として妊娠中絶を行うと考える家族は4−8%に過ぎないという.多くの医療機関では最終的には両親の意思を尊重するとしているが,この問題については注意深い検討が求められる.

着床前診断 着床前診断を施行した報告があり,当該家系における変異や責任アレルが検査前に明らかになっている場合には技術的に可能である.

訳注:日本では本症に対する出生前診断は行われていない.


関連情報


原文 ADPKD. Includes: Polycystic Kidney Disease Type 1 (PKD1), Polycystic Kidney Disease Type 2 (PKD2

日本語版更新記録

  1. GeneReviews最終更新日:2004.3.5 日本語訳最終更新日: 2005.11.10. 櫻井晃洋(信州大学医学部社会予防医学講座)
  2. Gene Review 最終更新日: 2006.6.6. 日本語訳最終更新日: 2006.6.10. 櫻井晃洋(信州大学医学部社会予防医学講座) (in present)

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