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赤緑色覚異常
(Red-Green Color Vision Defects)

[Red-Green Color Blindness]
Gene Review著者: Samir S Deeb, PhD, Arno G Motulsky, MD.
日本語訳者: 渡部かをり(信州大学医学部医学科),涌井敬子(信州大学医学部社会予防医学講座遺伝医学分野)
Gene Review 最終更新日: 2005.9.19. 日本語訳最終更新日: 2006.1.31.

原文 http://www.genereviews.org/profiles/rgcb


 

要約

訳注:本稿ではcolor vision defectsおよびcolor blindnessの日本語訳としてそれぞれ「色覚異常」,「色盲」という用語を用いているが,色覚に関係する遺伝子変異を有していても,ほとんどの場合日常生活の上で困難を生じない.また印刷や表示の色調を工夫することでこうした体質を持つ人の不便はさらに軽減できる(色覚バリアフリー化).このような理解のもとに,かつては日本国内の学校で行われていた色覚検査は現在では行われなくなり,原則として色覚による就業制限も撤廃されている.現在では「色覚異常」や「色盲」に代って「色覚特性」という用語が用いられることが多くなってきている.

疾患の特徴 

遺伝性の色覚異常は幼児期早期に明らかになり,大半は男性である.眼科的もしくは他の臨床的異常は伴わない.第一色弱・第二色弱を持つ人(すなわち三原色異常)の大半は,問題なく色を区別できる.軽度の色覚異常を持つ人の一部は,検査されるまで異常に気付かないこともある.二色性色覚異常を持つ人(すなわち二色性色覚者)は,色でカモフラージュされたテクスチャーを判読するのに正常色覚をもつ観察者よりも長けている.欧米白人では,男性の8%と女性の0.5%は色覚異常を持つ.アフリカ人(3〜4%)やアジア人(3%)の男性では頻度はより低い.

診断・検査 

臨床的な色覚検査表は広く赤緑色覚異常を見つけるのに用いられ,石原表とAO-HRR仮性同色表が含まれる.第一色盲,第二色盲,第一色弱,第二色弱の確定診断には色の組み合わせができるアノマロスコープの使用を必要とする.赤緑色覚異常と関連する2つの遺伝子は赤錐体色素をコードするOPN1LWと緑錐体色素をコードするOPN1MWである.全ての赤緑色覚異常(100%の第一色覚異常と約65%の第二色覚異常)のおよそ75%は,これらの遺伝子の分子遺伝学的検査によって診断できる.このような検査は基礎研究でのみ利用可能である.

臨床的マネジメント 

高校生の年代での重度な色覚異常の診断には,両親や当事者の少年との意思疎通が重要である.診断によって特定の職業選択が影響を受ける可能性があるからである.個々に適したフィルタをつけたカラーコンタクトレンズは色の識別能を改善するかもしれない.色覚異常を持つ人を混乱させないような色の提示が,教育的な場所において用いることができるようになった.

遺伝カウンセリング 

色覚異常はX連鎖劣性遺伝で受け継がれる.発端者の母親は変異の保因者なので,妊娠ごとに変異を伝える可能性は50%である.発端者の同胞男性が変異を受け継いだ場合は罹患し,同胞女性が受け継いだ場合は保因者となる.男性の発端者は変異をすべての娘に伝え,その娘は保因者になるが,息子にはまったく変異は伝わらない.分子遺伝学的検査を用いた保因者検査と出生前診断は利用できない.


診断

臨床診断

正常の三原色色覚

ヒトの網膜は二種類の光受容体からなる.

注:各々の光受容体細胞は,タンパク質の構成成分(オプシン)からなる1種類の光色素を含み,そしてそれには発色団の11シスレチナールが共有結合している.

正常な人間の色覚は三色識別で,3種類の錐体(図1)は以下の光に最大の感受性を示す:

  図1

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

図1A.正常な三色色覚を持つ人間の三種類の錐体色素の光吸収スペクトル.
相対的な光の吸収は,ナノメートル(nm)単位で波長に対して表される.青(B),緑(G),赤(R)色素の最大吸収波長は,曲線で示されている.
図1B.正常色覚の観察者が見ることができる可視スペクトル.

注:(1)赤と緑の光色素は,最大光吸収波長がおよそ30nmほど異なる. (2) 色の認識は網膜と脳での赤と緑の錐体の信号出力の比較に依存するので,赤と緑の錐体の両方がスペクトルの赤から緑領域での色の認識に必要である.(3)錐体光受容体の3つの種類は,可視スペクトルでおよそ100万色の認識を可能にする.(4)ヒトの網膜における赤と緑の錐体光受容体の数にはかなりの個人差がある.赤錐体と緑錐体の比率は,1赤:2緑から8赤:1緑の間で変動し,平均は4赤:1緑である.赤錐体と緑錐体の比率の違いは,検査における色覚に影響を及ぼすとは思われないが,自然の状態では若干の影響が見られた.

赤緑色覚異常

一般的な色覚異常は異常の大きさと,欠損しているもしくは機能異常を有する錐体光受容体のタイプに基づいて4つのサブクラスに分類される.色覚異常が重い順に,第一色盲,第二色盲,第一色弱,第二色弱である.

注:「Protan」は,第一色盲と第一色弱を指し,「Deutan」は第二色盲と第二色弱を指す.

二色性色覚を持つ人(二色型色覚者)は,異常な三原色性色覚を持つ人よりもより異常の程度が強い.

図2

図2.色覚異常男性の網膜錐体光受容体の吸収スペクトル
 A.第一色盲男性(青と緑錐体のみ)の吸収スペクトル
 B.第二色盲男性(青と赤錐体のみ)の吸収スペクトル
 C.第一色弱男性(青と緑錐体と緑様錐体のみ)の吸収スペクトル
 D.第二色弱男性(青と赤錐体と赤様錐体のみ)の吸収スペクトル

第一,第二,第三色盲の人が色をどう見ているかのシミュレーションはhttp://www.vischeck.comhttp://jfly.nibb.ac.jpで見ることができる.

色覚の表現型の検査

石原式色覚検査表とAO-HRR仮性同色表 これらは赤緑色覚異常を見つけるのに広く用いられている臨床的色覚検査表である.さまざまな色点の集合が印刷されており,数字(石原)やシンボル(HRR)を読み取るようになっている(図3).赤緑色覚異常をもつ人は特定の数字またはシンボルを逃すか,読み誤ってしまう.色覚表は,大半の眼科医と検眼師のもとで利用できる.カラーチャートテストは,特定の網膜の疾患または後天性色覚異常の評価において色覚を評価するために用いられるかもしれない.

図3

図3.一般的な赤緑色覚異常に対する石原式色覚検査表.被検者のスクリーニングのために一般に用いられる石原(仮性同色)表のうちの6枚が示されている(www.toledo-bend.comからの画像).正常な色覚をもつ人は,左から右に,数25,6,8(一番上の列),56,29,45(一番下の列)と読むことができる.第一色盲と第二色盲の人は,25と56しか読むことができない.三原色異常の人は上の6枚の表では全ての数字を読むことができるが,多くの人は他の石原表で数字または文字を読み誤る.

注:多くのウェブサイトが,色覚異常に対するオンラインテストを提供している.モニタ画面の色の変わりやすさは,オンライン色覚検査の正確さを制限する.

4歳から7歳の子供たちの色覚異常を検査するために特定の石原表が選ばれ,特別な石原式検査は数字の代わりに形,絵と経路を使用した少数のテスト表で構成されている.

ランタンテスト ファーンズワースランタン(FALANT)テストは,米連邦機関によって使われている色に名をつける検査である.色のペア(赤,緑,白を含む)が示され,成功・失敗レベルは色を識別するのに失敗した数に基づく.全ての二色型色覚者と75%の三原色異常色覚者は,この検査をうまく行えない.及第・落第等級の分布は,二項的でなく連続的である.この検査は臨床的には使われない.

アノマロスコープ より精巧な器具の一つがアノマロスコープであり,それは被検者に色の一致を要求するものである.被検者はスクリーンの半分で純粋な黄色の光を見,一方もう半分で赤と緑の光を混合させた光を見る.黄の光の明るさと緑と赤の混合した光の明るさは,両方の半視野が色と明るさにおいて同一に見えるまで被験者によって調節される.緑と赤の光の割合で一致していると認められた範囲が記録される.

第一色盲,第二色盲,第一色弱,第二色弱の厳密な鑑別には,アノマロスコープの使用を必要とする.アノマロスコープ検査は一般的に,色覚表ほど利用できない.アノマロスコープ検査は臨床目的のためには通常必要ではない.

分子遺伝学的検査

遺伝子 2つの遺伝子が赤緑色覚異常に関連している:

これら2つの遺伝子はクラスターを形成しており(それは一般にアレイとよばれている),1つの赤い色素遺伝子に1つ以上の緑の色素遺伝子が連結している(図4).しかし2つの遺伝子(すなわち1つの赤い色素遺伝子と隣接した緑の色素遺伝子)だけが網膜光受容体に発現され,色覚の表現型に関与する.クラスターの3番目以降の色素遺伝子は,正常であれ異常であれ発現していない.

コドン180,277と285の違いは,正常な赤と緑の色素の間の最大光吸収波長の30nmの違いの大部分を説明する(図4).

図4

図4.正常色覚を持つ人に見られる赤と緑の色素遺伝子クラスターのバリエーション.X染色体の遺伝子集団は,1つの赤の色素遺伝子と1つ以上の緑の色素遺伝子から成る.緑の色素遺伝子の数は白人の間では平均2つで1から6まで変わる.四角は赤と緑の色素遺伝子の6つのエクソンを表す.赤と緑の色素遺伝子はそれぞれ長さおよそ15kbと13kbであり,遺伝子間領域は長さおよそ25kbである.赤の遺伝子とすぐに隣接した緑の色素遺伝子だけが光受容体に発現し,すなわち色覚表現型に影響する.したがって,一番下の集団の三番目を占める緑−赤複合型遺伝子は,第二色覚異常を引き起こさない.

イントロンと遺伝子間領域を含む赤と緑の色素遺伝子の繰り返しユニットの間の塩基配列の高い相同性は,これらの遺伝子で比較的頻繁な交叉イベントを生じる原因となる.これらのイベントは,遺伝子間領域(図5A)での不均等な組み換えによる遺伝子数の変化(欠失を含む)や,遺伝子間の組み換え(図5B)の結果としての色々な赤−緑複合型遺伝子の形成を引き起こす.これらの複合遺伝子は,最大光吸収波長がさまざまなキメラ色素をコードする.エクソン5の組み換えは赤の色素を緑様色素に,または緑の色素を赤様色素に変える.これらのキメラ色素は,色覚の表現型をかなり多様なものにしている.

図5

図5.遺伝子数の変化と赤−緑の複合型遺伝子形成
A. 遺伝子間の組み換えは緑色素遺伝子の数の変化に結びつき,第二色盲の人に観察されるような欠失も含む.四角は赤と緑の色素遺伝子の6つのエクソンを表す.
B. 遺伝子間の組み換えは第二色弱の男性に一般に観察される5’緑−赤3’複合型遺伝子や第一色弱の男性で一般に観察される逆の5’赤−緑3’複合型遺伝子の形成につながる.

注:集団の3番目の位置を示す正常な緑の色素遺伝子は,網膜に表現されず色覚に影響しない.

分子遺伝学的検査:研究レベル

第一色覚異常 

クラスターの中の最初の遺伝子はプロモーター領域と一緒に,赤色素遺伝子の上流に位置する特異的な前向きプライマーとエクソン5部分に対応する逆向きプライマーによって増幅される.逆向きプライマーは,赤色素遺伝子または緑色素遺伝子のエクソン5のいずれかに対応するものを用いる.

第一色覚異常の男性では,クラスターの一番目の遺伝子は赤−緑複合遺伝子である.その融合点はさまざまであるが,緑色素遺伝子のエクソン5(図6,クラスター1-3参照)を含み,緑色素遺伝子のエクソン5に特異的な逆向きプライマーによってのみ増幅される.エクソン5に特異的な逆向きプライマーを用いることによって,クラスターの最初の遺伝子が赤色素遺伝子(第一色覚異常でない男性で存在する)か赤−緑複合遺伝子(第二色覚異常の男性で存在する)かを簡単に確定することができる.これは男性の第一色覚異常,そして第一色覚異常の遺伝子を有する女性保因者(赤と緑のエクソン5逆向きプライマーの両方で増幅される)を迅速に診断する方法である.

注:第二色覚異常の男性は,正常色覚の人のように集団の一番目の位置に正常な赤い色素遺伝子を持っているので,この方法によっては確認することはできない.

第二色覚異常

一般にイントロン4に融合点をもつ緑−赤複合遺伝子は,緑のエクソン4に特異的な前向きプライマーと赤のエクソン5に特異的な逆向きプライマーを用いるPCRによって簡単に検出できる.他のイントロンの融合を持つその他の緑−赤複合遺伝子は,シークエンス解析やSSCP分析などのより詳細な分析を必要とする.

 

シーケンス分析は,赤緑色覚異常の1-2%を引き起こす赤と緑の色素遺伝子の点突発変異を検出する.

図6

図6.赤緑色覚異常に関連する典型的な遺伝子集団 一般的な赤緑色覚異常は,遺伝子の欠失(例えばB6)または赤−緑複合遺伝子の形成(eg.,A1,A2,A3,B4,B5)によって起こる.遺伝子間領域に起こる相同だが不均衡な組み換えは欠失を生じる;赤と緑の色素遺伝子内で起こる組み換えは,非現実な光色素をコードするキメラ遺伝子を形成する.四角は赤と緑の色素遺伝子の6つのエクソンを表す.

A.第一色覚異常に関連する遺伝子クラスター.各々のクラスターは,5' 赤−緑3' 色素複合遺伝子(A1, A2, A3)をもつ赤色素遺伝子の置換によって特徴付けられた赤と緑の色素遺伝子間の不均等な組み換えの副産物のうちの一つである.エクソン5が色素スペクトルの調律において主要な役割を持つため,複合型遺伝子は緑様色素をコードする(図5参照).

B.第二色覚異常に関連する遺伝子クラスター.これらのクラスターの一部は融合点の位置に依存するキメラ赤様色素をコードする5’緑−赤3’複合遺伝子(B4,B5)を含む.他のクラスター(B6)は遺伝子間領域で不均等な組み換えの結果として緑の色素遺伝子は欠失する.クラスター(B7)の珍しいタイプではC203Rのような機能喪失型点変異をもつ遺伝子を含む.クラスター(B4)の3番目に位置する正常な緑色素遺伝子は網膜で発現せず色覚に影響しない.

表1で赤緑色覚異常に関連する分子遺伝子検査をまとめた.

表1.赤緑色覚異常で使われる分子遺伝子検査

検査方法 発見される突然変異

赤緑色覚異常の人の突然変異発見率

検査の有効性
Protan Deutan
変異スキャン 欠失,複合型遺伝子 100% 〜65% 研究のみ
シーケンス解析 OPN1LWOPN1MWのミスセンス変異 1-2%
  1. 「Protan」は,第一色盲と第一色弱を示す.
  2. 「Deutan」は,第二色盲と第二色弱を示す.
  3. OPN1LWOPN1MWはそれぞれ,赤色素と緑色素をコードしている.

遺伝子レベルでの関連疾患

青錐体一色型色覚 この約100,000に1人のまれなX連鎖劣性遺伝性疾患では,大部分の赤と緑の錐体は機能しておらず視力は重度に減退している.青錐体一色型色覚は以下に起因する場合がある:

または


臨床像

自然経過

遺伝する赤緑色覚異常は幼児期早期に明らかになる.ひとたび完全に表現されると,その状態は生涯ずっと続く.主として男性が罹患する.状態は眼科的異常を伴うものではなく,網膜基底部は正常である.他の関連する臨床的異常もない.

第一色弱・第二色弱を持つ人(すなわち三原色異常)の大半は,正しく色を識別することに問題はない.軽度の色覚異常を持つ人を持つ人の一部は,適切な方法によって検査をされるまで異常に気付かないこともある.彼らは迷彩を判読するのに長けていると言われる.

二色性色覚異常を持つ人(すなわち二色性色覚者)は,色でカモフラージュされたテクスチャーを判読する能力が正常色覚をもつ者よりも優れている.

赤緑色覚異常をもつ人は,通常,赤と緑を識別する能力を必要とする産業,海,空,鉄道や軍の仕事につくことを制限される.軽い赤緑色覚異常の人は単純で実際的な仕事で色を識別することができるかもしれないが,一部の職業,特に公共の安全に関連があるものではFALANTランタンテストのようなカラーチャートテストによるより厳しい色識別能が要求される.

ヘテロ接合体 赤緑色覚異常はX連鎖劣性遺伝で受け継がれるため,ホモ接合体の女性や不均衡X染色体不活化を生じたヘテロ接合体の女性(浸透率の項参照)だけが,X連鎖赤緑色覚異常を生じる.

遺伝子型と臨床型の関連

赤緑色覚異常における遺伝子型と表現型との関係は,前述の「診断」の項で述べたとおりである.

正常な色覚をもつと考えられる女性と男性の間で,可視スペクトルの赤−緑領域における色覚に微妙な違いのあることが,カラーマッチングテストで観察されている.この変化は赤色素のアミノ酸の180番目における良性多型の存在に起因している.

正常な色覚を持つ男性における赤い光へのより高い感受性は,180番目のセリンの存在と強く相関していた. 180番目にアラニンをもつ対立遺伝子によってコードされる色素は,セリンをもつ対立遺伝子によってコードされた色素よりおよそ5nm短い最大吸収波長をもつ.

欧米白人の中で,男性の62%はセリンを,38%はアラニンを赤色素のアミノ酸180番目に有している.したがってこの多型が,赤緑色覚異常と関係していない赤い色覚の微妙な個人差を説明できる.

浸透率 

X連鎖赤緑色覚異常の男性は適切な検査をされたとき色覚異常を示す.しかし,欧米白人男性の5%を占める第二色弱を持つ三色型色覚者のかなりの部分(15〜30%)は,スクリーニングプレートテストによって初めて彼らの色覚異常を指摘されるかもしれない.

女性保因者は,通常赤緑色覚異常をもたない.時折,一方のX染色体に赤・緑色素遺伝子の変異を持つ女性で,正常な赤・緑色素の遺伝子を持つX染色体の不均衡な不活化を生じると,変異遺伝子のみの発現を許してしまい,赤緑色覚異常を引き起こす.不均衡なX染色体不活化は,赤緑色覚異常に関連した遺伝子異常のヘテロ接合体である女性の一卵性双生児でより普通にみられる.双子の片方が正常な赤緑遺伝子をもつX染色体を完全に不活化させる一方で,双子のもう片方は赤緑色覚異常に関連する赤緑遺伝子の再配置をもつX染色体を不活化させる.このように,双子の片方が正常な色覚を持つ一方でもう片方は赤緑色覚異常を持つことがある.

二つのX染色体の両方が赤緑色覚異常と関連する同一の遺伝子再構成を生じたホモ接合体の女性,そして赤緑色覚異常を持つ男性は同様に罹患する.

頻度 

赤緑色覚異常は高頻度にみられる特性である.


鑑別診断

色覚異常は,4つの主な病型に分類される:一般の赤緑色覚異常,青錐体一色型色覚,第三色盲と全色盲である(図7).

図7

図7.色覚異常の種類.円は,通常もしくは不完全な色覚を持つ男性の網膜にある,青(B),緑(G)と赤 (R)感受性の錐体を示す.G’・R’とラベリングされた錐体は,異常な緑様色素と赤様色素を含み,それぞれ5' 赤−緑 3',5' 緑−赤3'複合遺伝子によってコードされている.―は錐体の欠損を示す.

青錐体一色型色覚 前述の「遺伝子レベルでの関連疾患」を参照.

第三色覚異常 第三色覚異常は,第7染色体上のS(または青)網膜錐体色素をコードしている遺伝子のミスセンス変異によって起こる.X連鎖赤緑色覚異常と違い,第三色覚異常は男性と女性で同じ頻度で見られ,不完全な浸透率で常染色体優性遺伝により伝えられる.短波長領域(青−黄)の色の識別が障害される.AO-HRR仮性同色表は第三色覚異常を見つけることができるが,石原表ではできない.

全色盲(桿体一色型,全色覚異常) 全色盲は弱視,振子様眼振,光過敏症(光恐怖症),偏心固視と色の識別の減退もしくは完全な欠損によって特徴づけられる.全色盲をもつ全ての人(色盲罹患者)は,3種類の錐体に司られているすべての色の識別が障害されている.最高の視力は完全な全色盲では20/200以下であって,不完全な全色盲では高くても20/80くらいである.視力は,通常長期にわたって安定している.CNGA3CNGB3GNAT2の突然変異が原因となる.遺伝形式は常染色体劣性遺伝である.

後天性色覚異常 これらはさまざまな眼科疾患(例えば黄斑ジストロフィー)や視神経,脳の疾患に伴って生じ,通常他の眼科的あるいは臨床的所見を伴い,専門の眼科医や神経科医への相談が必要となる.こうした後天性障害は分類が難しく,しばしば視力減退や視野欠損を伴う.男性と女性とで同じ頻度で見られる.常に両眼で起こる遺伝性の赤緑色覚異常とは対照的に,後天性色盲は単眼で起こりうる.遺伝性赤緑色覚異常は男性の8%に起こるので,そのような眼疾患の精査中にこれとは無関係な赤緑色覚異常の偶発が見つかるかもしれない.

クロロキンやジギタリスなどの薬は時折通常の遺伝性赤緑色覚異常とは異なる後天性両眼性色覚異常を引き起こすことがある.


臨床的マネジメント

徴候に対する治療

高校生の年代での重度な色覚異常の診断は,両親や当事者の少年との意思疎通が重要である.診断によって特定の職業選択が影響を受ける可能性があるからである.

着色したカラーコンタクトレンズ(ChromagenTM)が利用可能である.このコンタクトレンズは広範囲なスペクトルのものが用意されており,その中から各人に好ましいものを選択するようになっている.このフィルターが色の識別をわずかながら改善するかもしれない.ChromagenTMコンタクトレンズはFDAの承認を受けてはいないが, FDAによる色覚異常に対する利用を目的とした販売許可は得ている.

http://jfly.iam.u-tokyo.ac.jp/color/ は,色覚異常を持つ閲覧者を混乱させないような色の提示方法について解説している.

一次病変の予防

赤緑色覚異常に対する特異的な治療法は存在しない.

研究中の治療法

さまざまな疾患の臨床研究に関する情報は,ClinicalTrials.govを参照のこと.


遺伝カウンセリング

「遺伝カウンセリングは個人や家族に対して遺伝性疾患の本質,遺伝,健康上の影響などの情報を提供し,彼らが医療上あるいは個人的な決断を下すのを援助するプロセスである.以下の項目では遺伝的なリスク評価や家族の遺伝学的状況を明らかにするための家族歴の評価,遺伝子検査について論じる.この項は個々の当事者が直面しうる個人的あるいは文化的な問題に言及しようと意図するものではないし,遺伝専門家へのコンサルトの代用となるものでもない.」

遺伝形式

赤緑色覚異常はX連鎖劣性遺伝で伝えられる.

患者家族のリスク
 
発端者の両親

  1. 色覚異常男性の父親は色覚異常でも変異保因者でもない.
  2. 家族内に2人以上の罹患者がいる場合は,罹患男性の母親は絶対的保因者である.
  3. もし家系内で発端者が唯一の罹患者であるならば,母親が保因者であることは間違いない.なぜなら,新生突然変異は赤緑色覚異常において報告されたことがないからである.
  4. 男性罹患者の母親は,保因者である.
  5. ホモ接合体の女性の母親は,娘の色覚異常の原因となっている.
  6. 女性保因者はめったに色覚異常の問題を抱えていない.しかし軽度の異常が時折色覚検査で見つかることがある.一部の女性保因者は,不均衡なX染色体不活化の結果として色覚異常をもつことがあるかもしれない(浸透度の項を参照).

発端者の同胞 

  1. 発端者の母親は変異の保因者であるため,妊娠ごとに変異が受け継がれる可能性は50%である.
  2. 変異を受け継いだ男性の同胞は罹患する.変異を受け継いだ女性の同胞は保因者となる.
  3. もし発端者がホモ接合体の女性ならば,その女性の姉妹は各々保因者であるリスクが50%あり,色覚異常であるリスクが50%である.

発端者の子 

  1. 発端者の男性は,娘全員に変異を伝え,その娘は保因者となる.息子には変異を伝えない.
  2. ホモ接合体の女性は,彼女の子全員に変異を伝える.息子は罹患し,娘は保因者となる. 発端者の他の家族 発端者の母方のおばは保因者である可能性があり,そのおばの子孫は,性別によるが,保因者か色覚異常罹患者となる可能性がある.

保因者の検出

分子遺伝学的検査による保因者診断は臨床的には利用できない.

関連のある遺伝カウンセリング上の問題

DNAバンキング DNAバンクは主に白血球から調製したDNAを将来の使用のために保存しておくものである.検査法や遺伝子,変異あるいは疾患に対するわれわれの理解が進歩するかもしれないので,DNAの保存は考慮に値する.DNAバンキングはことに現在分子遺伝学的検査が研究ベースでしか利用できないような疾患では有用かもしれない.

出生前診断

分子遺伝学的検査による出生前診断は行われない.


原文 http://www.genereviews.org/profiles/rgcb

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