ルビンスタインーテイビ症候群
Rubinstein-Taybi Syndrome

Gene Review著者:Cathy A Stevens, MD
日本語訳者:古庄知己(信州大学医学部附属病院遺伝子診療部)、吉江幸司(信州大学医学部医学科)
Gene Review 最終更新日2004.9.13 日本語訳最終更新日2005.1.13

原文 Rubinstein-Taybi syndrome


要約

疾患の特徴

Rubinstein-Taybi Syndrome(以下RSTS)は特徴ある顔貌、幅広くしばしば角張った母指趾、低身長、中等度〜重度の精神遅滞を特徴とする症候群である。顔貌上の特徴として、眼瞼裂斜下、鼻翼より下方に伸びた鼻柱(鼻中隔下端)、高口蓋がある。胎児期における成長は正常であるが、生後数ヶ月までに急激に成長障害をきたす。IQスコアは25〜79で、平均36〜51である。その他、コロボーマ、白内障、先天性心疾患、腎奇形、停留睾丸の合併がみられる。

診断・検査

RSTSの診断は臨床所見を基本とする。FISHによるCREBBP(cAMP-regulated enhancer-binding protein)遺伝子解析が臨床ベースで利用可能であり、10%弱の症例で見られる微小欠失を検出する。Mutation scanningも臨床ベースで利用可能であるが、その検出率は不明である。他のタイプの分子遺伝学的検査は研究レベルであり、35%の症例の変異を検出する。

遺伝カウンセリング

RSTSは常染色体優性遺伝形式をとる。ほとんどの症例で両親は非罹患である。両親が罹患していない場合の経験的な再発リスクは0.1%以下である。FISH解析による出生前診断は可能である


診断

臨床診断 顔面頭蓋所見 小頭症、眼瞼裂斜下、鼻翼より下方に伸びた鼻柱(鼻中隔の下端)を伴った鷲鼻、高口蓋はRSTSに特徴的である。Grimacing smile(しかめつらをして笑うこと)も見られる。上顎切歯の永久歯にはしばしば距錘咬頭が見られる。

その他の所見:母指趾は幅広く、しばしば角張っている。末節骨も幅広く見えることがある。基節骨も異常な形態をしていることがある。手足のレントゲン写真は、異常であるが必ずしもRSTSに特異的ではない。男児ではほとんど全例に停留睾丸を認める。尿路奇形がしばしば見られる。さまざまなタイプの先天性心疾患がRSTS患者の約1/3に見られる。

成長:胎児期における成長はしばしば正常であるが、生後数ヶ月において急激に成長障害をきたす(体重、身長、頭囲ともに)。肥満も小児期あるいは思春期に見られ、通常成人例も低身長である。

精神遅滞:IQスコアの平均は36〜51であるが、発達予後は患者によってさまざまである。

検査

染色体解析:通常の分染法において染色体構造異常が時折見られる。Hennekam、Stevensらの総説(1990)によれば、RSTSの11例において染色体異常が見出されたが、決まった傾向は見出せなかった。16p13.3による切断が疑われている。主な報告例は以下のとおりである。

1. de novoの相互転座   t(2;16)(p13.3;p13.3)

t(7;16)(q34;p13.3)

t(2;16)(q36.3;p13.3)

2. de novoの腕間逆位   inv(16)(p13.3;q13)

分子遺伝学的検査

遺伝子CREBBPはRSTSとの関連が示された唯一の遺伝子である。

検査の適応

分子遺伝学的検査(臨床的ベース)

分子遺伝学的検査(研究レベル

直接DNA解析:ノザンブロット、サザンブロット、ダイレクトシ−ケンスを用いることにより、RSTS患者におけるCREBBP遺伝子変異検出率は35%にまで上昇する。20例を解析したBatschらの研究では、2例が微小欠失、1例が148bp欠失、2例が同じナンセンス変異、2例がスプライス変異、1例がミスセンス変異であった。ミスセンス変異を持つ患者は典型的な顔貌および指所見を呈するが、低身長、小頭症、および精神遅滞を伴わなかった。

表1:Rubinstein-Taybi Syndromeにおける分子遺伝学的検査

検査法
検出できる変異
変異検出率
利用可能度
FISH
微小決失
〜10%
臨床利用可能
変異スキャン
シーケンス異常
不明
臨床利用可能
直接DNA
変異
35%
研究ベース

本遺伝子に関連した疾患

CREBBP遺伝子に関わる体細胞転座t(8;16)(p11;p11.3)は急性骨髄性白血病と関連する。

臨床像

 特徴的な顔貌と手足の所見により生後間もなく気づかれることが多い。乳児早期には呼吸困難、摂食障害(哺乳困難)、体重増加不良、反復性感染、便秘などが問題となる。

<遺伝子型と臨床型の関連>

 16番染色体短腕の欠失の有無と臨床症状との関連は明らかでない。しかし、Hennekamらは、欠失例では小頭症、母趾の部分重複、母指趾の角張りを呈する頻度が高いことを見出した。精神機能には相違が見られなかった。Bartshらは欠失例ではより重症化することを示唆した。

<頻度>

 出生時有病率は1/100,000 − 1/125,000 であることがオランダの調査により報告されている。RSTSと報告されている例の大多数は白色人種であるが、黒人やアジア人例もある。非白色人種において頻度が低いのか、他の要因によるものなのかは確かめられていない。

鑑別診断

 特徴的顔貌および手足の異常からRSTSの診断は容易であることが多いが、鑑別すべき疾患には以下のものが含まれる。

幅広く屈曲した母指趾

頭蓋早期癒合症の有無、顔貌上の相違により鑑別しうる。

幅広い母指趾

顔貌

・Floating-Harbor症候群

RSTS類似の顔貌と四肢異常を持ち、正常知能の母と2児例が報告されている。

臨床的マネジメント

<診断時点で推奨される評価>

<治療法>

<追跡調査>

<避けるべき薬物・環境>

 喉頭壁が閉鎖(collapse)しやすいため、気管内挿管が難しいことがある。必要な場合には、小児の複雑な気道問題に慣れた麻酔科医が全身麻酔をかけるべきである。これらの問題のため、RSTS患児に対しては、早めに挿管し、抜管を焦らないことが必要である。

遺伝カウンセリング

「遺伝カウンセリングは個人や家族に対して遺伝性疾患の本質、遺伝、健康上の影響などの情報を提供し、彼らが医療上あるいは個人的な決断を下すのを援助するプロセスである。以下の項目では遺伝的なリスク評価や家族の遺伝学的状況を明らかにするための家族歴の評価、遺伝子検査について論じる。この項は個々の当事者が直面しうる個人的あるいは文化的な問題に言及しようと意図するものではないし、遺伝専門家へのコンサルトの代用となるものでもない。」

遺伝形式

 常染色体優性遺伝である。

家族のリスク

発端者の両親

発端者の同胞

発端者の子ども

 RSTS患者から子どもが生まれることは稀であるが、理論的罹患率は50%である。

他の家族メンバー

 発端者家族の罹患リスクは一般人の罹患リスクより増加することはない。ほとんどのRSTS患児の親は罹患していないからである。

出生前診断

 FISH解析を用いた出生前診断が可能である。羊水穿刺による胎児細胞の染色体検査では妊娠15〜18週に、絨毛採取による検査では妊娠10〜12週に行われる。家系内罹患者においてFISH解析で変異が検出された場合に可能である。

 RSTSの分子遺伝学的検査を出生前診断目的に行っている施設はGeneTest上にはない。しかし、臨床ベースあるいは研究レベルの検査によって、遺伝子変異が罹患者で見出されている例では、出生前検査は可能であろう。

分子遺伝学

Rubinstein-Taybi 症候群の分子遺伝学

遺伝子
染色体座位
タンパク
CREBBP
16p13.3
CREB-bionding protein

オンライン検索(OMIM)

180849  
RUBINSTEIN-TAYBI SYNDROME
600140
CREB-BINDING PROTEIN

ゲノムデ−タベ−ス(Rubinstein-Taybi Syndrome)

遺伝子 Entrez Gene HGMD GeneCards GDB GenAtlas
CREBBP 600140 437159 CREBBP 43159 CREBBP

遺伝子変異

 ヒトCREBBP cDNAは全長9068bpにおよび、そのうち7329bpが2442アミノ酸へと翻訳される。CREBBP遺伝子の全長は154kbであり、31の翻訳エクソンを含む。翻訳は、セントロメアからテロメアに向かって行われる。ヒトCREBBP遺伝子全領域には、5つのコスミド(RT100、RT102、RT191、RT203、RT166)と1つのBACクローンがある。

病的遺伝子変異

 RSTSはCREBBP遺伝子(16p13.3)のハプロ不全により引き起こされる。微小欠失は患者の10%弱に見られ、ナンセンス変異、スプライス変異も見られる。HATドメイン内の変異は、ヒストンのアセチル化をできなくさせ、転写因子CREBのコアクチベ−タ−機能を減弱させる。CREBBP遺伝子は腫瘍抑制作用も持つため、その変異は癌化を誘発する可能性がある。サザンブロット、ノザンブロット、ダイレクトシ−クエンスといった手法を用いることで患者の35%に変異を検出できるとの報告もある。

正常遺伝子産物

 CREB結合蛋白は265kDaに及び、多数の遺伝子発現制御に関わる2442アミノ酸を含む。CREBBPは特異的DNA配列に結合する転写因子と転写に用いられるタンパクとを架橋する。このタンパクは異なるシグナル伝達回路のメディエ−タ−であると同時に細胞周期においてG1期からS期への移行を抑制的に制御する因子ともなる。またヒストンアセチルトランスフェレ−ス活性を有し、転写因子をDNAへと近接させる機能を持つ。ほぼすべての組織において高い発現が見られる。


関連情報

Rubinstein-Taybi Syndrome患者の会 「コスモスの会」(日本)

RTS Canada
www.rts.canada.org

Rubinstein-Taybi Parent Group
Ibaxter@ruraltel.net

Rubinstein-Taybi Syndrome site
www.rubinstei-Taybi.org

Rubinstein-Taybi Syndrome Support Group-England
nick@ruck.org.uk

 

原文 Rubinstein-Taybi syndrome

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