日本語訳者: 厚生労働省 難治性疾患克服研究事業 筋チャネル病および関連疾患の診断・治療指針作成および新規治療法開発に向けた基盤整備のための研究班
Gene Review 最終更新日: 2009.4.28. 日本語訳最終更新日:: 2011.02.03.
原文 Hypokalemic Periodic Paralysis
疾患の特徴
低カリウム性周期性四肢麻痺(HOKPP)は麻痺型とミオパチー型とで特徴づけられる。麻痺型は、低カリウム血症を伴う可逆性の弛緩性麻痺発作を特徴とし、多くの場合は対麻痺もしくは四肢麻痺にまで達するが呼吸筋や心筋は侵されない。急性の麻痺発作は通常、少なくとも数時間から時には数日間続く。生涯で一回しか発作を経験しない罹患者もいるが、たいていは毎日、毎週、毎月あるいはより稀な頻度で繰り返すことがほとんどである。主たる誘発因子は、高炭水化物食摂取や運動後の休息であり、珍しい例としては寒冷刺激で誘発された低カリウム性周期性四肢麻痺の報告もある。発作の間の期間は一定しておらず、カリウムやアセタゾラミドといった予防薬で発作間隔が延びることもある。発作の初発年齢は1歳から20歳と幅があり、最も発作の回数が多いのは15歳から35歳の間で、その後は年齢とともに発作回数は減少していく。罹患者の約25%はミオパチー型になり、進行性不可逆性の筋力低下が主に下肢に出現し、その結果下肢の運動耐性が低下する。その発症時期は一定していない。ミオパチー型は麻痺発作との相関はなく、それ自体が低カリウム性周期性四肢麻痺の唯一の症状であることもある。低カリウム性周期性四肢麻痺の罹患者は麻酔による周術期の筋力低下のリスクが高く、また、常染色体優性遺伝悪性高熱患者(MHS)ほどではないにしても、悪性高熱のリスクも有する。
診断・検査
低カリウム性周期性四肢麻痺の診断は、次の様な特徴に基づく。すなわち、弛緩性麻痺の病歴があること。血清カリウム値が、発作時には低下(0.9mmol/L以下~3mmol/L)するが、発作間欠期には低下していないこと。臨床的にも電気生理学的にもミオトニー症候を認めないこと(温熱誘発性ミオトニー/寒冷誘発性低カリウム性周期性四肢麻痺の一家系は例外)。甲状腺機能亢進症を認めないこと。身体奇形や心臓不整脈を認めないこと。ならびに常染色体優性遺伝性の家族歴を認めることである。これらの全ての診断基準を満たす場合は、およそ55%から70%の確率でCACNA1S遺伝子に変異を持ち、8%から10%の確率でSCN4A遺伝子に変異をもつ。分子遺伝学的検査は臨床上利用可能である。
臨床的マネジメント
臨床症状に対する治療:麻痺発作は経口あるいは経静脈的カリウム投与により治療し血清カリウム値を正常化させ、発作時間を短縮する。治療中は、心電図と血清カリウム値のモニタリングが必須である。
一次症状の予防:炭水化物が少なく、ナトリウム含有が少なく、カリウムを豊富に含む食事を取ること、経口的にカリウムを服用することで麻痺発作は予防できうる。患者によってはアセタゾラミドが有効な場合もある。
二次的合併症の予防:悪性高熱の危険因子に留意すべきである。
経過観察:症状と予防薬に対する反応性によってさまざまである。麻痺発作の頻度、重症度、持続時間に注目し経過観察する。神経学的診察は、ミオパチーによる不可逆的な筋力低下の発見のために、下肢の筋力に注目する。
回避すべき薬物/環境:通常以上の激しい運動や、高炭水化物食、菓子類、アルコール類、グルコース点滴投与などの麻痺発作の誘因は避ける。副腎皮質ステロイドは使用に注意を要する。
リスクのある血縁者の検査:家系内の原因変異が分かっている場合、リスクのある無症状血縁者は、遺伝子診断によって予想外の急性麻痺発作や悪性高熱のリスクがあるかどうか明らかにすることができる。遺伝カウンセリング
HOKPPは常染色体優性形式で遺伝する。HOKPPと診断された患者のほとんどは罹患した親を持つ。新生突然変異の症例の割合は不明である。罹患者の子供が変異を受け継ぐ可能性は50%である。原因変異によるが、男性の場合の浸透率はおよそ90%で、女性の場合は50%程度である。遺伝するリスクのある妊娠に対し、出生前診断は家系における原因変異が判明していれば可能ではある。しかしながら、知能に影響がなく何らかの治療が存在するHOKPPのような疾患に対する出生前診断の要望はあまりない。
臨床診断
診断基準 低カリウム性周期性四肢麻痺(HOKPP)には、麻痺発作と永続的なミオパチーという2種類の異なった筋障害の型があり、これらは単独でも同時にでも起こりうる。純粋な麻痺発作型が最も多く、緩徐進行性ミオパチーを伴う麻痺発作型は少ない。麻痺発作のないミオパチーのみの型はまれである。
検査
一回以上の麻痺発作の既往のある場合、骨格筋イオンチャネル遺伝子の異常による一次性HOKPPなのか他の原因によるのかを鑑別するのにいくつかの検査が有用である。
血清カリウム濃度
注意:発作中の血清カリウム値の測定は、低カリウム性麻痺発作と分類するために必須である。
麻痺発作時の尿細管(内外)カリウム濃度勾配(Transtubular potassium concentration gradient)とカリウム‐クレアチニン比. 腎(尿)からの喪失による低カリウム血症なのか筋細胞内へ取り込まれたための低カリウム血症(イオンチャネル遺伝子異常による一次性HOKPPで見られる)なのかを鑑別するのに、以下の様な検査が有用である。
注意:低カリウム血症の腎性と非腎性との鑑別において、20mmol/Lのカットオフ値は十分とはいえない。
*TTKG=(尿中カリウム/血清カリウム)/(尿浸透圧/血液浸透圧)
注意:身体奇形や心伝導障害による不整脈を合併する場合、鑑別診断としてAndersen-Tawil症候群を考慮すべきである。
血清甲状腺刺激ホルモン、フリーサイロキシン、フリートリヨードサイロニン濃度. 甲状腺中毒性周期性四肢麻痺(Thyrotoxic periodic paralysis:TPP)は一次性HOKPPの鑑別診断として主要なものの一つである。そのため、低カリウム血症を伴う麻痺発作の場合には、以下の検査測定が推奨される。
TSHが低値かつFT3およびFT4が高値を示す場合は甲状腺機能亢進症の存在が示唆され、麻痺発作の原因として可能性が非常に高い(かつ治療可能)事が示唆される。
TPPは甲状腺機能亢進症に対する治療により完治可能である。TPPは家族性遺伝性低カリウム性周期性四肢麻痺(FHOKPP)とは明確に区別される。しかしながら、FHOKPP確定例において、甲状腺機能亢進症合併が低カリウム性麻痺発作の誘因となった例が、少なくとも2例報告されている。
筋電図(EMG)
特異的運動負荷試験(エクササイズテスト, exercise test)は周期性四肢麻痺と非ジストロフィー性ミオトニーの診断補助に有用である:
周期性四肢麻痺と非ジストロフィー性ミオトニーでは、SETとLETの結果の組み合わせにより5パターン(I-V)に分類されている。遺伝性周期性四肢麻痺(高カリウム性および低カリウム性)確定例では、以下の2パターンをとる。
疾患原因変異を持っていても偽陰性で正常型を示す場合があることに留意する。特に無症状の場合や最近麻痺発作が無い場合は注意する。
筋生検. HOKPPのミオパチー型の場合、適切な組織化学的・組織酵素学的染色による筋生険検査は診断の根幹となる。光学顕微鏡では空胞形成がみられ、時にtubular aggregateが見られる。後者はHOKPPにより非特異的であるが、症例によっては唯一の所見である場合がある。注意:電子顕微鏡的検索は必要ではない。
分子遺伝学的検査
遺伝子 低カリウム性周期性四肢麻痺の原因遺伝子として以下の二つが知られている。
他の遺伝子座。カリウムチャネル遺伝子であるKCNE3の変異によってHOKPPと甲状腺中毒性周期性四肢麻痺を起しうることが、ある研究で示唆された。しかしながら、ほかの二つの研究結果ではこの仮説は支持されておらず、正常人でも0.8-1.5%の割合で同じ点変異を認めることが示されている。
臨床的にHOKPPと診断される症例の20-36%では、CACNA1SとSCN4Aで高頻度に見られる9つの変異は認められない。このことは、この疾患がまだ同定されていないCACNA1S遺伝子・SCN4A遺伝子上の他の変異や他の遺伝子上での変異に関連しているなど、多様性を有する可能性を示唆している。しかしながら、未だ他の遺伝子座は同定されていない。
臨床的検査
標的変異解析。エクソン11とエクソン30に分布する4つの変異(p.Arg528His, p.Arg1239His, p.Arg1239Gly, p.Arg528Gly)は、HOKPPのおよそ55-70%に認められる。p.Arg528His と p.Arg1239Hisはp.Arg1239Gly と p.Arg528Glyとに比べて更に多い。5番目の変異(p.Arg897Ser)がエクソン21に最近報告された。
選択的エクソンシークエンス解析。エクソン11とエクソン30の直接シークエンス解析は考慮される。上記4つの高頻度の変異のほか、これらのエクソン上の他の多型も同定できうる。エクソン 21のシークエンス解析も施行されるべきである。
全翻訳領域のシークエンス解析は、臨床上利用可能であり、上記の標的変異解析や選択的エクソンシークエンス解析で陰性であった場合には考慮されるべきである(検査手順参照)。
選択的エクソンシークエンス解析。エクソン12を解析することでHOKPPの約10%を占める5つの変異(p.Arg669His, p.Arg672Ser, p.Arg672His, p.Arg672Gly, p.Arg672Cys)を同定しうる。6番目の変異(p.Arg1132Gln)が報告された、エクソン18の解析も施行されるべきである。
SCN4A全翻訳領域のシークエンス解析/変異探索は、非常に稀な変異や新生突然変異を同定しうる。Sugiuraらによって報告された温熱誘発性ミオトニー/寒冷誘発性麻痺を呈する一家系がその例である。
表1 低カリウム性周期性四肢麻痺に用いられる分子遺伝学的検査
遺伝子記号 | 検査方法 | 同定される変異 1 | 変異検出率 | 検査の実施可能性 |
---|---|---|---|---|
CACNA1S |
標的変異解析 2 | p.Arg528His, p.Arg1239His, p.Arg1239Gly, p.Arg528Gly p.Arg897Ser 1 | 55%-70% | |
エクソン11、21、30のシークエンス解析 2 | 多型 | 55%-70% | ||
全翻訳領域のシークエンス解析 | 多型 | 不明 | ||
SCN4A |
標的変異解析 | p.Arg669His, p.Arg672Ser, p.Arg672His, p.Arg672Gly, p.Arg672Cys p.Arg1132Gln 3 | 8%-10% | |
エクソン 12、18のシークエンス解析 | 多型3 | 8%-10% | ||
全翻訳領域のシークエンス解析 | 多型 | 不明 |
検査の利用可能性については、Gene Tests Laboratory Directory参照のこと。Gene ReviewではUS CLIA-licensed laboratoryもしくはnon-US clinical laboratoryによってGene Tests Laboratory Directoryに記載されている場合のみ、分子遺伝学的検査は臨床的に利用可能と位置付けている。GeneTestは検査機関の提供情報の正確性を確認したり、検査機関のライセンスや実績を保障していない。臨床家は直接検査機関に問い合わせて、情報の正確性について確認しなければならない。
検査結果の解釈 シークエンス解析の結果の解釈に関してはこちら参照のこと
検査手順
発端者の診断確定。分子遺伝学的検査の手順のひとつは以下のとおりである。
発症前診断 遺伝するリスクのある家系内の無症状例に対する発症前診断には、家系における原因変異の事前の同定が必要である。
出生前診断と着床前遺伝子診断 遺伝するリスクのある妊娠に対する発症前診断と着床前遺伝子診断には、家系における原因変異の事前の同定が必要である。
遺伝学的に関連する(同一原因遺伝子による)疾患
CACNA1S エクソン11および30の点変異はHOKPPを引き起こしうるが、エクソン26 の点変異(p.Arg1086Cys, p.Arg1086His)はHOKPPを呈さない常染色体優性遺伝性悪性高熱症(MHS)を引き起こすことが少なくとも2家系で報告されている。変異は同定されていないが、HOKPPとMHSを両方とも引き起こす1家系が報告されている。CACNA1S遺伝子の変異によるMHS症例は、MHS全体の1%にあたる。
MHSは骨格筋カルシウム制御における薬理学的遺伝学的異常である。MHSの疑われる例では、揮発性麻酔薬(ハロセン、セボフルレン、デスフルレン、エンフルレン、イソフルレン)や脱分極性筋弛緩薬(サクシニルコリン)に反応し、制御不能な骨格筋の異化亢進が起こる。誘因となる薬剤が筋小胞体からのカルシウムの放出を引き起こし、骨格筋の収縮・解糖系亢進・細胞の代謝を亢進させ、結果、熱と過剰な乳酸の産生を引き起こす。発症した場合、アシドーシス、高炭酸血症、低酸素血症、血清クレアチンキナーゼ(CK)濃度上昇を伴う横紋筋融解症、心伝導障害ひいては心停止の危険性さえ伴う高カリウム血症、腎不全の危険性を伴うミオグロビン尿症を呈する。ほとんどの場合、悪性高熱の症状は手術室で初発する。適切な治療がなされない場合は死に至る。
SCN4A エクソン12の点変異はHOKPP2型を引き起こしうるが、その他のエクソンには、筋細胞膜の興奮性亢進を特徴とする常染色体優性遺伝疾患の点変異が多く報告されている。
カリウムを多く含む食事の摂取または運動後の休息などが発作を引き起こしうる。寒い気候、精神的ストレス、グルココルチコイド、妊娠は発作を引き起こしたり悪化させたりする。発作は通常、朝食前に始まり、15分から数時間続いた後、消失する。多くの場合、発作中の心不整脈や呼吸不全などは起こさない。
発作間欠期はHyperPP1では、自発的な運動に邪魔にならない程度の軽いミオトニー(筋のこわばり)をともなう。HyperPP1患者は年齢を重ねると多くの場合、緩徐進行性のミオパチーを呈してくる。
SCN4Aの遺伝子変異で起こる疾患はHyperPPとPCの中間型や混合型、PCとPAMの中間型や混合型などを呈しうる。
自然経過
HOKPPには麻痺型とミオパチー型の二つの異なった型がある。自然経過は症例により異なる。
麻痺型 麻痺型の主症状は、低カリウム血症を伴う可逆性の弛緩性麻痺発作であり、多くの場合は対麻痺もしくは四肢麻痺にまで達するが呼吸筋や心筋は侵されない。血清カリウム濃度と筋力低下の重症度とには相関は無い。生涯で一度しか発作を経験しない例もあるが、多くの場合は毎日、毎週、毎月もしくはそれよりも低い頻度で繰り返す事がほとんどである。発作の間隔は様々であり、カリウム摂取やアセタゾラミドといった予防的治療によって延長しうる。
発作の初発年齢は1歳から20歳と幅がある。麻痺発作の初発年齢の平均は遺伝子変異(遺伝子型と臨床型の関係参照)や性別により異なる。平均して女性の方が男性よりも2~3年早く初発する。たいていの場合、発作頻度は15歳から35歳の間が最も多く、その後年齢とともに減少する。
主な発作の誘因は高炭水化物食の摂取と運動後の休息である。発作の誘因となる閾値は症例によって異なる。非常に強いストレス、長時間の旅行、医療的介入(グルコース投与や手術など)といった非常に稀なことを契機として、生涯に数回しか発作を経験しない人もいれば、普段の夜間の睡眠(多くの場合、発作は夜中もしくは起床時に起こる)、スポーツのあとの休息、炭水化物の摂取、月経といったことを契機として頻回に発作を経験する人もいる。
多くの場合急性発作は、少なくとも数時間から時には数日に及ぶ。症例によっては、連続して生じる完全あるいは不全麻痺のために不可逆的な筋力低下や重度の障害に至ることもある。スポーツが出来ないといったことから日常生活動作にも支障をきたすほどの場合もある。
麻痺間欠期に、カリウム摂取やアセタゾラミドによる治療で回復する程度から自然軽快する程度の亜急性筋力低下を経験する患者もある。この亜急性筋力低下とミオパチー型で見られる不可逆性筋力低下を区別するのはしばしば困難である。一方、発作間欠期では活動や運動に全く支障をきたさない症例もある。このように、HOKPPの障害度は一個人の生涯の中でも変化するし、症例によっても様々である。
ミオパチー型 HOKPPのミオパチー型は、HOKPPの約25%にみられ、進行性不可逆性の筋力低下をきたす。その初発年齢は様々であり、多くの場合下肢の運動不耐性として発症する。筋力低下は麻痺発作とは独立して起こり、時には筋力低下のみがHOKPPの唯一の症状である場合もある。
悪性高熱(MH)のリスク上昇 HOKPPの患者では程度は不明だが、悪性高熱症のリスクが上昇している。その程度は、真の常染色体優性遺伝性悪性高熱症ほどではない。HOKPP症例から得た筋組織を用いて、試験管内での収縮試験をしたところ、異常とまでは言えず多くの場合はあいまいな結果となっている。今までに悪性高熱症を発症したHOKPP例が3例報告されている。しかしながら、1症例は、同時に起こったRYR1遺伝子の変異が、明らかな原因であった(二次性合併症の予防参照)。
麻酔前後の筋力低下のリスク上昇 HOKPP症例では、麻酔前後に筋力低下をきたすことがしばしば報告されており、そのリスクについては予防的処置と注意深い麻酔科的な経過観察を要する。(治療参照)
筋病理 ミオパチーに関連する病理学的所見は、遺伝子変異により異なる。CACNA1S遺伝子のp.Arg528His変異を持つ症例では、空胞形成が良く見られる。SCNA4遺伝子のp.Arg672Gly変異を持つ家系のうち二症例では、tubular aggregatesのみしか見られなかった。遺伝子型と臨床型の関連
麻痺発作の初発年齢 CACNA1S遺伝子の p.Arg528His 変異または p.Arg1239His 変異、または SCN4A 遺伝子のp.Arg672His変異をもつ多くの発端者について後方視的解析を行った結果、それぞれの変異について初発年齢の傾向が見出されている。
麻痺発作中の血清カリウム濃度 Millerらの報告では, 麻痺発作中の血清カリウム濃度は、CACNA1S 遺伝子のp.Arg1239His変異が最も低く(1.9±0.4 mmol/L), SCN4A 遺伝子変異では高く (2.2±0.8 mmol/L), CACNA1S遺伝子のp.Arg528His変異は更に高い(2.9±0.7 mmol/L)。いっぽう、Sternbergらはp.Arg528His 変異例(1.69±0.49 mmol/L)は、p.Arg1239His 変異例 (2.23±0.86 mmol/L)に比べて血清カリウム濃度が低かったと報告している。
麻痺発作の頻度、持続時間、誘発因子 Millerらの報告によれば、
p.Arg1239His 変異もしくはSCN4A遺伝子変異例では、運動後の休息。
p.Arg528His変異では高炭水化物食や菓子類。
治療反応性 アセタゾラミドに対する反応性も遺伝子変異によって異なる。
p.Arg672His変異の中国人症例に対しては有効ではなかった。
筋病理
浸透率
疾患原因遺伝子をもつ症例の中では、女性の方が男性よりも症状が軽い傾向がある。
促進現象
促進現象は本症では認められない。
命名
以下は、低カリウム性周期性四肢麻痺の名称としてもはや使用されていない。
この疾患は古くは、1727年に Musgrave が、1853年にCavare´が、 そして1857年にRombergが"periodic palsy" として記載してきたが、Karl Friedrich Otto Westphal (1833-1890)が最初にこの疾患の主な特徴を広く確立して記載したことから、Westphal's diseaseとして広く知られていた。Hartwigは1875年に運動後の休息により筋興奮性が消失し麻痺を呈する症例を報告した。Westphalは孤発性として記述(すなわち家族の中で一人しかいない)し、それは優性遺伝性の家系の報告は1887年にCousotの報告までなかった。
頻度
HOKPPの頻度は不明だが、おおよそ1:100,000と考えられる。
HOKPPは周期性四肢麻痺の中ではもっとも頻度の高い原因疾患である。4つの主な鑑別診断がある。
正―および高カリウム性周期性四肢麻痺(normo/HyperPP)はいくつかの点でHOKPPと異なる。
HyperPP1は電位依存性骨格筋型ナトリウムチャネルをコードするSCN4A遺伝子の点変異により起こる。多くの場合、HOKPPとnormo/HyperPPとの区別は臨床的、生物学的(発作時高カリウム血症)、筋電図所見によって鑑別しうるが、分子遺伝学的検査により確定できる。
甲状腺中毒性周期性四肢麻痺(TPP)は通常家族性ではない。しかし、症例によっては家族性を示唆する傾向もみられる。TPPの臨床的および生物学的な特徴はHOKPPで見られるそれと同一である。さらに、甲状腺中毒性が見られる場合は、SETおよびLETの筋電図反応(Fournierらにより定義されているパターンIVもしくはパターンV)も家族性遺伝性HOKPPとTPPは同一である。アジア人男性に加え、ラテンアメリカ人やアフリカ系アメリカ人を祖先にもつ人はおそらく、他の人種よりも、甲状腺中毒性による周期性四肢麻痺を起すリスクが高い。
たいていの場合TPPは、典型的なHOKPP原因遺伝子変異では起こらないが、遺伝学的に診断の確定しているHOKPPやnormoPPとTPPとの関連性については報告がある。CACNA1S遺伝子の5’非翻訳領域やイントロンに存在する一塩基多型(SNPs)との関連が示唆されているが、確定はしていない。
甲状腺中毒症は遺伝性の低カリウム性あるいは正カリウム性周期性四肢麻痺の麻痺促進因子であり、低カリウム血症と麻痺発作を呈した全ての症例で以下の検査を行うべきと考えられる。
注意。FT3高値およびFT4高値でTSH低値の場合は甲状腺機能亢進症と診断される。甲状腺機能亢進症の治療によりTPPも根治可能である。
Andersen-Tawil症候群は完全な臨床表現系としては、奇形(低身長、側わん、細く曲がった指、眼間離開、小顎、広い額、高口蓋、歯牙欠損)と周期性筋力低下、QT延長および心室性不整脈、低カリウムまたは正/高カリウム血症を伴う周期性四肢麻痺を特徴とする。全ての症状が揃っていないこともありうる。Andersen-Tawil症候群それ自体が、純粋なHOKPPのみを呈することもある。Andersen-Tawil症候群の可能性を検討する上で、発作間欠期の心電図やHolter心電図によるモニタリングは必須である。SETおよびLETによる筋電図反応はHOKPPで見られるものと同様(Fournierらにより定義されているパターンIVもしくはパターンV)である。KCNJ2遺伝子の変異が原因である。低い浸透率と表現型の多様性を伴った常染色体優性遺伝形式である。
カリウム摂取減少、腎排泄亢進、もしくは消化器性喪失による低カリウム血症。低カリウム血症の臨床症状が主に筋力低下であるため、症例によってはHOKPPによる麻痺発作なのか他の原因による低カリウム血症による筋力低下なのか鑑別が困難な場合がありうる。そのような場合、血圧、尿中カリウム濃度、血中重炭酸濃度などの所見を正確に評価することで診断しうる(表2)。
検査の項、麻痺発作時の尿細管(内外)カリウム濃度勾配(Transtubular potassium concentration gradient)とカリウム/クレアチニン比も参照。
表2・二次性低カリウム血症の原因検索の適応
血圧 | 尿中カリウム | 血中重炭酸 | 診断の説明 |
---|---|---|---|
高値 | 一次性または二次性の不適切性(偽性)高アルドステロン血症 |
||
>25 mmol/L | 高値 | Liddle症候群 (tubulopathy) |
|
正常 | <25 mmol/L | 利尿剤治療の既往 |
|
低値または正常 | 消化管からの喪失 |
||
>25 mmol/L | 高値 | 嘔吐 |
|
低値 | 遠位尿細管性アシドーシス1型および2型 (高カリウム血症を伴う4型は除く) |
最初の診断後における評価
低カリウム性周期性四肢麻痺(HOKPP)と診断された患者において、疾患の程度を確定するため、以下の基本的な評価が推奨される。
臨床症状に対する治療
麻痺発作。HOKPPと診断された患者において麻痺発作の治療は次の二つの目的がある。:(1)血清カリウム濃度の正常化、および(2)麻痺発作持続時間の短縮である。血清カリウム濃度の正常化と筋力低下軽快は厳密には平行しない。筋力低下が軽快する数時間前から血清カリウム濃度が正常化していることもある。
経口もしくは経静脈的にカリウムを投与することが唯一の手段であり、低カリウム血症に対しては直接的に治療効果があるが、筋力低下に対してはあくまで間接的であり、麻痺発作の治療は不完全なものである。
低カリウム血症とそれに続く治療によるカリウム濃度の変化は心不整脈を起こす可能性があるため、治療前・治療中・治療後の心電図によるモニタリングは重要であり、繰り返し血清カリウム濃度を評価することも重要である。特に、低カリウム血症により起こる、U波振幅の増大が心電図上で見られる場合には、torsades de pointesとして知られる心室性不整脈が生じる可能性が高い。軽度の低カリウム血症でも深刻な不整脈を起してしまう症例もいる。
低カリウム血症の再発やカリウム過剰投与による二次的な高カリウム血症の検出のために、心電図と血清カリウム濃度のモニタリングは、血清カリウム濃度が正常化した後も、数時間は継続しなければならない。
ミオパチー。HOKPPにおける不可逆性ミオパチーに対しては、予防的治療も根治的治療も知られていない。麻痺発作の予防は、ミオパチーの進展予防にはつながらないようである。同じような筋力低下を呈する他疾患と同様の対処をする。
一次症状の予防
予防治療の目的は、麻痺発作の頻度と程度を軽減することである。誘因となる因子を同定し、可能なら避ける必要がある。
食事は低ナトリウム、低炭水化物とし、カリウムが多く含まれるようなものが望ましい。
経口的カリウム摂取(10-20 mmol/回、3回/日)は発作を予防する可能性がある。特に、いつも発作を起こす時間帯の数時間前に服用するとよい(例えば起床時に麻痺が起こるなら夜間に服用するなど)。
アセタゾラミドはCACN1AS 遺伝子のp.Arg528His変異と p.Arg1239His変異の患者には非常に有効である。しかしながら、SCN4A遺伝子変異をもつ患者のアセタゾラミドの作用ははっきりとしない。すなわち、p.Arg672Gly変異とp.Arg672Ser変異の症例には発作を増悪させることがあり、他のSCN4A遺伝性変異の患者では、効果がある場合がある。
アセタゾラミドは125mg/日から開始し、数週かけて最大1000mg/日まで増量できうる。腎結石の予防のために、服用の際は十分な水分摂取が必須である。
アセタゾラミドの代替薬。アセタゾラミドに忍用性が得られない場合や、長期間の治療でも効果が認められなかった場合には、ジクロフェナミド(50-200mg/日)、トリアムテレン(50-150mg/日)やスピロノラクトン(25-100mg/日)といった代替薬が考慮される。
二次的症状の予防
術前・術後の麻痺。麻酔前後に麻痺の危険性があるため、HOKPP患者の麻酔導入については注意が必要である。揮発性麻酔薬やサクシニルコリンを用いた全身麻酔はHOKPP患者の少数例では安全であったとの報告があるが、HOKPP患者は悪性高熱症のリスクをもつと考え、誘発因子となりうる麻酔法を使用しないようにすべきである。
周術期の一般的なガイドラインとしては、血清カリウム濃度を厳密にコントロールし、大量のグルコース溶液や塩の投与を避け、低炭水化物食とし、体温と体内の酸塩基バランスを維持し、神経筋機能を絶えずモニタリングしながら、注意して神経筋遮断薬を使用することである。
経過観察
診察の頻度は、患者の兆候や症状、予防治療効果によって調整する必要がある。下肢筋力を評価する神経学的検査は、ミオパチーに伴う永久的な筋力低下を見出すために、注意深く行うべきである。
症状のある患者に、質問票を回答してもらうことも未治療での病気の重症度や治療に対する効果を評価する上で有用である。
回避すべき薬物/環境
麻痺発作を誘発する可能性のある次の因子は、可能ならば避けるべきである。
経口もしくは経静脈的コルチコステロイドは麻痺を誘発する可能性があり、HOKPP患者で使用する場合には注意が必要である。
グルコース点滴投与は麻痺を誘発する可能性があり、他の点滴薬に変更するべきである。
リスクのある血縁者の検査
発端者の疾患原因遺伝子変異が同定されている場合、予想外の急性麻痺発作や悪性高熱の危険があるため、リスクのある無症状の血縁者について分子遺伝学的検査をすることは適切である。
発症前診断の結果が分からない場合、リスクのある血縁者は合併症の危険性があるものとして考えるべきである。特に麻酔薬の投与や麻痺の誘発因子を避けるなどの注意を払うべきである。
リスクのある血縁者の検査に関する遺伝カウンセリングについては遺伝カウンセリングを参照。
研究中の治療法
疾患と症状に対する臨床研究についての情報にアクセスするためには、ClinicalTrials.govを検索されたい。
注:本症に対する臨床試験はないかもしれない。
その他
Genetics Clinicsは遺伝専門家から構成されており,患者や家族に自然経過,治療,遺伝形式,患者家族の遺伝的発症リスクに関する情報を提供するとともに,患者サイドに立った情報も提供する.GeneTests Clinic Directoryを参照のこと.
本疾患に対する疾患特異的あるいは包括支援組織についてはConsumer Resourcesを参照のこと.これらの組織は患者とその家族に情報,支援,他の患者との交流の場を提供するために設立されている.
「遺伝カウンセリングは個人や家族に対して遺伝性疾患の本質,遺伝,健康上の影響などの情報を提供し,彼らが医療上あるいは個人的な決断を下すのを援助するプロセスである.以下の項目では遺伝的なリスク評価や家族の遺伝学的状況を明らかにするための家族歴の評価,遺伝子検査について論じる.この項は個々の当事者が直面しうる個人的あるいは文化的な問題に言及しようと意図するものではないし,遺伝専門家へのコンサルトの代用となるものでもない.」
遺伝形式
低カリウム性周期性四肢麻痺(HOKPP)は常染色体性優性遺伝する。
患者家族のリスク
発端者の両親
注:HOKPPと診断された多くの患者は罹患した親を持つが、家系内のメンバーが疾患に気付いていなかったり、浸透率が低いことのために、家族歴がないように見えることがある。
発端者の同胞
発端者の子
患者の子供たちにはそれぞれ50%の確率で変異が遺伝する。
他の血縁者
他の血縁者のリスクは発端者の家族の両親の状況による。もしどちらかの親が罹患しているあるいは疾患原因変異を有していれば、その親の血縁者もまたリスクがある。
遺伝カウンセリングに関連した問題
早期診断と治療を目的としたリスクのある血縁者の検査に関する情報は臨床的マネジメントを参照のこと。
リスクを有する無症状の血縁者の検査。発端者の疾患原因遺伝子変異が同定されている場合、予想外の急性麻痺発作や悪性高熱の危険があるため、リスクのある無症状の血縁者について分子遺伝学的検査をすることは適切である。発症前診断の結果が分からない場合、リスクのある血縁者は合併症の危険性があるものとして考えるべきである。特に麻酔薬の投与や麻痺の誘発因子を避けるなどの注意を払うべきである。
明らかに新生突然変異と考えられる家系 常染色体優性遺伝と仮定し、発端者のどちらの親にも疾患原因変異が存在しないか、本症であるという臨床的徴候がない場合、発端者は新生突然変異を有すると考えられる。しかしながら、代替父親、代替母親(たとえば生殖補助医療)、非公開の養子などの非医学的説明の可能性まで調べることもできよう。
家族計画
DNAバンキング はDNA(通常白血球から抽出)を将来の使用のために保存しておくものである。今後、検査手法や遺伝子、変異、あるいは疾患に対するわれわれの理解が進歩すると予想されるので、罹患者DNAの保存は考慮に値する。特にDNAバンキングは現在可能な検査手法の感受性が100%に満たない場合に重要性を持つ。DNAバンキングを行っている研究所のリストを参照せよ。
出生前診断
リスクのある妊娠について出生前診断が技術的に可能である。 DNAは胎生15-18週に採取した羊水中細胞や10-12週*に採取した絨毛から調製する。出生前診断を行う以前に、罹患している家族において病因となるSCN4Aの遺伝子変異が同定されている必要がある。
* 胎生週数は最終月経の開始日あるいは超音波検査による測定に基づいて計算される。
知能に影響がなく何らかの治療が存在するHOKPPのような疾患に対する出生前診断の要望はあまりない。特に診断が早期診断でなく妊娠中絶を目的として考慮されている場合には、医療従事者の中や家族の間に出生前診断の利用については意見の相違が存在する可能性がある。多くのセンターは出生前診断の決定は両親の選択と考えているが、議論することが妥当である。
訳注:日本では本症に対する出生前診断は行われていない。
着床前診断 は罹患している家族において原因となる遺伝子変異が同定されている場合は行うこともできる。着床前診断を行う研究所を参照せよ。
訳注:日本では本症に対する着床前診断は行われていない。