BRCA1およびBRCA2関連遺伝性乳がん卵巣がん
(FBRCA1 and BRCA2 Hereditary Breast and Ovarian Cancer)

[Synonyms:BRCA1- and BRCA2-Associated HBOC]

Gene Reviews著者: JNancie Petrucelli, MS, Mary B Daly, MD, PhD, and Tuya Pal, MD
日本語訳者:櫻井晃洋(斗南病院ゲノム医療センター)

GeneReviews最終更新日:2026.3.25. 日本語訳最終更新日: 2026.7.16.

原文: BRCA1 and BRCA2 Hereditary Breast/Ovarian Cancer


要約


疾患の特徴

BRCA1関連およびBRCA2関連遺伝性乳がん・卵巣がん(HBOC)は、女性乳がん、男性乳がん、卵巣がん(卵管がんおよび原発性腹膜がんを含む)の発症リスクが高いことを特徴とする。また、前立腺がん、膵がん、および主としてBRCA2病的バリアント保有者における黒色腫など、その他のがんの発症リスクも、頻度は低いものの高くなる。関連するがんの発症リスクは、HBOCの原因がBRCA1病的バリアントであるかBRCA2病的バリアントであるかによって異なる。

診断・検査

BRCA1関連およびBRCA2関連HBOCの診断は、分子遺伝学的検査によって、発端者にBRCA1またはBRCA2のヘテロ接合性生殖細胞系列病的バリアントを同定することで確定される。

臨床的マネジメント

症状に対する治療:
がんの治療は腫瘍専門医が行う。BRCA1関連およびBRCA2関連乳がんでは、同側乳がんおよび対側乳がんの発症率が高いため、乳がんに対する初回手術として両側乳房切除術を考慮する。BRCA1関連およびBRCA2関連腫瘍では、PARP阻害薬を考慮することがある。黒色腫の治療は皮膚科医および腫瘍専門医が行う。

一次病変の予防:
乳がんの予防として、予防的両側乳房切除術、予防的卵巣摘出術、およびタモキシフェンなどによる化学予防が行われているが、これらの予防手段は高リスク女性を対象としたランダム化試験では評価されていない。卵巣がんの予防として、予防的卵管切除術後に卵巣摘出術を遅らせて行う方法、または卵管卵巣摘出術を行う。

 

経過観察:
女性の乳がんスクリーニングは、月1回の乳房自己検査、年1回または半年に1回の臨床的乳房検査、年1回のマンモグラフィおよび乳房MRIを組み合わせて行う。卵巣がんのスクリーニングとして、35歳から年1回の経腟超音波検査および血清CA-125濃度測定を考慮することがある。しかし、これらのスクリーニングは、高リスク女性、平均的リスクの女性のいずれにおいても、早期卵巣がんの発見に有効ではない。男性の乳がんスクリーニングとして、乳房自己検査に関する教育および指導を行い、35歳から年1回の臨床的乳房検査を行う。BRCA2病的バリアントをヘテロ接合で有する男性では、40歳から年1回の血清前立腺特異抗原(PSA)検査および直腸指診によるスクリーニングを開始する。BRCA1病的バリアントをヘテロ接合で有する男性についても、同様のスクリーニングを考慮する。黒色腫のスクリーニングは、家族歴に応じて個別に判断する。無症状者に対する膵がんのスクリーニングは、一般には推奨されない。

リスクの高い親族の評価:
BRCA1関連およびBRCA2関連HBOCは、常染色体顕性遺伝形式をとる。BRCA1またはBRCA2病的バリアントを有する者の大多数は、その病的バリアントを両親のいずれか一方から受け継いでいる。しかし、BRCA1およびBRCA2の病的バリアントに関連する乳がん、卵巣がん、その他のがんの浸透率は100%未満であるため、BRCA1またはBRCA2病的バリアントを有する者であっても、親ががんを発症しているとは限らない。BRCA1またはBRCA2の生殖細胞系列病的バリアントを有する者の子が、その病的バリアントを受け継ぐ確率は50%である。家系内でがんの素因となるBRCA1またはBRCA2の生殖細胞系列バリアントが同定されている場合には、出生前および着床前遺伝学的検査が可能である。

 

遺伝カウンセリング

FH腫瘍易罹患性症候群は常染色体顕性遺伝の形式をとる。FH腫瘍易罹患性症候群と診断された人はヘテロ接合体である親からFH遺伝子の生殖細胞系列病的バリアントを受け継いでおり、その親はFH腫瘍易罹患性症候群の症候を呈していることも無症候のこともある。FH腫瘍易罹患性症候群罹患者の子はそれぞれ独立に、50%の確率でFH遺伝子の病的バリアントを受け継ぐ。FH遺伝子の病的バリアントを継いだ子孫における症候発現確率、発現年齢、重症度、どの特性が出現するか、進行速度を正確に予測することはできない。家系員のFH遺伝子の病的バリアントがわかっていれば、at risk血縁者の発症前検査や着床前診断/出生前診断は可能である出生前診断が可能となる。(訳注:日本では本症候群に対する着床前診断/出生前診断の前例はない。)


診断

発端者の所見

注:(1)「乳がん」には、浸潤がんおよび非浸潤性乳管がんの両方が含まれる。(2)「卵巣がん」には、上皮性卵巣がん、卵管がん、および原発性腹膜がんが含まれる。

BRCA1およびBRCA2の病的バリアントに関する確率モデル

個人または家族がBRCA1またはBRCA2の生殖細胞系列病的バリアントを有している可能性を推定するために、いくつかのモデルが開発されてきた。経験豊富な医療従事者であっても、確率モデルを使用することで、BRCA1またはBRCA2の病的バリアントを有している可能性が高い個人を特定する能力が高まることが示されている。BRCA1およびBRCA2の病的バリアントに関する確率モデルの詳細については、こちらをクリック。

診断の確定

BRCA1およびBRCA2関連HBOCの診断は、分子遺伝学的検査により、発端者のBRCA1またはBRCA2においてヘテロ接合性の生殖細胞系列の病的(または病的と推定される)バリアントが同定された場合に確定される(表1を参照)。
注:(1)分子遺伝学的検査は、BRCA1またはBRCA2関連のがん(例:50歳未満での乳がん、卵巣がん)を有する個人において、最も有用な情報を得られる可能性が高い(このような個人は、しばしば「最適な検査対象者」と呼ばれる)。したがって、分子遺伝学的検査は、無関係ながんに罹患している可能性のある家族や、がんの既往歴がない家族ではなく、理想的にはまず「最適な検査対象者」に対して実施すべきである。(2) 最適な検査対象者がいない場合、がんの病歴がない別の個人に対して分子検査を行うことも可能だが、その場合は、病的バリアントが検出されなかったとしても、その家族に BRCA1 または BRCA2 の病的バリアントが存在する可能性が排除されるわけではないことを理解しておく必要がある。(3) 米国臨床遺伝・ゲノミクス学会(ACMG)および分子病理学会(AMP)のバリアント解釈ガイドラインによれば、臨床現場において「病的バリアント」と「病的と推定されるバリアント」は同義であり、いずれも診断的意義があるとみなされ、臨床的判断に用いることができる。本GeneReviewにおける「病的バリアント」への言及は、病的と推定されるバリアントを含むものと理解される。(4) 意義不明のヘテロ接合型BRCA1またはBRCA2バリアントが同定されたとしても、それだけでは診断を確定または除外することはできない。

分子検査のアプローチには、BRCA1およびBRCA2パネルや、多遺伝子パネルの使用が含まれる。

アシュケナージ系ユダヤ人の祖先を持つ被検者については、BRCA1およびBRCA2の3つの病的創始者バリアントに対する標的解析から開始することを検討できる。BRCA1 c.68_69delAG (BIC: 185delAG)、BRCA1 c.5266dupC (BIC: 5382insC)、およびBRCA2 c.5946delT (BIC: 6174delT)の3つを合わせると、アシュケナージ系ユダヤ人の血統を持つ個人で同定された病的バリアントの最大99%を占める。標的解析によって病的バリアントが同定されない場合は、BRCA1およびBRCA2の塩基配列解析および欠失・重複解析、あるいは多遺伝子パネル検査を実施することが適切である。

注:BRCA1またはBRCA2の生殖細胞系列病的バリアントを有することが既知の家族において、リスクのある親族は、以下の状況を除き、その家族特有の生殖細胞系列病的バリアントに関する検査のみを受ければよい場合がある。

マルチ遺伝子パネルの概要については、こちらをクリック。遺伝学的検査を依頼する臨床医向けのより詳細な情報については、こちらを参照のこと。

表1 BRCA1およびBRCA2に関連する遺伝性乳がん・卵巣がんにおける分子遺伝学的検査

遺伝子 遺伝子の病的バリアントに起因するBRCA1およびBRCA2関連HBOCの割合 病的バリアントの頻度
シーケンス解析 標的欠失重複解析
BRCA1 66% 7%-89% 5 11%-13% 5
BRCA2 34% 97%-98%5 2%-3%5
  1. 染色体上の遺伝子座およびタンパク質については、「表A. 遺伝子およびデータベース」を参照のこと。
  2. この遺伝子で検出されるバリアントに関する情報については、「分子遺伝学」を参照のこと。
  3. 配列解析では、良性、おそらく良性、意義不明、おそらく病的、または病的のバリアントが検出される。バリアントには、ミスセンスバリアント、ノンセンスバリアント、スプライス部位バリアント、および遺伝子内の小規模な欠失・挿入が含まれる場合がある。通常、エクソンまたは遺伝子全体の欠失・重複は検出されない。配列解析結果の解釈において考慮すべき事項については、こちらをクリック。
  4. 遺伝子特異的欠失・重複解析では、遺伝子内の欠失または重複を検出する。使用される手法には、定量PCR、長距離PCR、多重ライゲーション依存プローブ増幅法(MLPA)、および単一エクソンの欠失または重複を検出するように設計された遺伝子特異的マイクロアレイなど、さまざまな技術が含まれる。
  5. Trutyら [2019]、LaDucaら [2020]

臨床的特徴


BRCA1およびBRCA2に関連するHBOCは、主にBRCA2の病的バリアントを有する個人において、男女ともに乳がん、卵巣がん(卵管がんおよび原発性腹膜がんを含む)、ならびに前立腺がん、膵臓がん、悪性黒色腫などの他のがん(ただし、そのリスクは比較的低い)の発症リスクが高まることが特徴である。悪性腫瘍の発症リスクの推定値は、その算出の根拠となった状況によって大きく異なる。表2は、生殖細胞系列のBRCA1またはBRCA2病的バリアントを有する個人における悪性腫瘍のリスクをまとめたものである。

表 2. 生殖細胞系列BRCA1/2病的バリアントを有する個人の悪性腫瘍リスク
がん種 一般集団のリスク 悪性腫瘍のリスク 1

BRCA1

BRCA2
乳腺 12% 70歳までに55%-72% 45%-69%
対側乳房 2% w/in 5 yrs 10年以内に20%-30%; 20年以内に40%-50%

卵巣

1%-2% 39%-44% 11%-17%
男性乳腺 0.1% 1%-2% 6%-8%
前立腺 69歳までに6% 75歳までに21%
85歳までに29%
75歳までに27%
85歳までに60%
0.5% 1%-3% 70 歳までに3%-5%
黒色腫 (皮膚および眼) 1.6% リスク上昇
  1. Verhoog et al [2000]Brose et al [2002]Satagopan et al [2002]Thompson & Easton [2002]Antoniou et al [2003]Hearle et al [2003]Kirova et al [2005]Robson et al [2005]van Asperen et al [2005]Chen et al [2006]Risch et al [2006]Chen & Parmigiani [2007]Tai et al [2007]Graeser et al [2009]Evans et al [2010]van der Kolk et al [2010]Kote-Jarai et al [2011]Iqbal et al [2012]Leongamornlert et al [2012]Moran et al [2012]Mavaddat et al [2013]Molina-Montes et al [2014]Basu et al [2015]van den Broek et al [2015]van den Broek et al [2016]Kuchenbaecker et al [2017]Nyberg et al [2020]Reiner et al [2020]

乳がん 散発性腫瘍と比較して、BRCA1関連腫瘍は髄様組織型を呈する割合が高く、組織学的悪性度が高く、エストロゲン受容体陰性およびプロゲステロン受容体陰性である可能性が高く、ヒト上皮成長因子受容体2(HER2)の過剰発現を示す可能性が低い。したがって、BRCA1関連腫瘍は「トリプルネガティブ」乳がんの範疇に分類され、基底様乳がんとオーバーラップする。
BRCA2関連腫瘍の組織学的特徴は一貫性を欠くが、BRCA1関連腫瘍に比べてより不均一であり、その特徴も十分に解明されていないようである。これらは一般的にエストロゲン受容体およびプロゲステロン受容体陽性であるが、BRCA2生殖細胞系列病的バリアントを有する2,392名を対象とした大規模な国際共同研究では、16%がトリプルネガティブ腫瘍を有することが判明した。
生殖細胞系列のBRCA1またはBRCA2病的バリアントが、乳がん患者の予後不良と関連しているという証拠は一貫していない。

対側乳がん(CBC).保存療法を受けた女性において、CBCの発生率が高いことがいくつかの研究で報告されている。CBCの予測因子には、初回乳がん発症時の年齢、若年発症乳がんの家族歴、およびバリアントが認められたBRCA遺伝子などが挙げられる。CBCのリスクは、初回乳がんが若年時に発症した女性において最も高くなる。ほとんどの研究では、BRCA2の病的バリアントを有する個人と比較して、BRCA1の病的バリアントを有する個人においてCBCの発生率が高いことが示されている。予防的卵巣摘出術を受けた女性では、CBCのリスクが低下していた。また、BRCA1またはBRCA2の病的バリアントを有する個人において、放射線療法の実施とCBCリスクの増加との間に明確な関連性は認められなかった。

同側乳がん.2件の症例対照研究では、生殖細胞系列のBRCA1またはBRCA2病的バリアントを有する個人において、散発性対照群と比較して同側乳がんの発生率が有意に高いことが報告されている。しかし、他の研究では、生殖細胞系列のBRCA1またはBRCA2病的バリアントを有する個人において、散発性乳がん患者と比較して同側乳がんのリスク上昇は認められなかった。また、放射線療法を受けた患者では、受けなかった患者と比較して、同側乳がんのリスクが有意に低下することも示されている。

卵巣がん(卵管がんおよび原発性腹膜がんを含む).生殖細胞系列のBRCA1またはBRCA2の病的バリアントを有する女性では、粘液性腫瘍や境界型腫瘍に比べ、漿液性腺がんの割合が高いことが観察されている。漿液性腺がんは一般的に高悪性度であり、顕著な上皮内リンパ球、著明な核異型、および豊富な有糸分裂を呈する。高悪性度の漿液性がんの多くは、卵巣ではなく卵管に由来する。
生殖細胞系列のBRCA1またはBRCA2病的バリアントを有する女性における卵巣がんの生存率に関する研究では、相反する結果が報告されている。26件の観察研究を統合した解析では、BRCA1またはBRCA2病的バリアントを有する患者は、有さない患者と比較して、より良好な生存率が認められた。この結果は、病期、悪性度、組織型、および診断時の年齢を調整した後も維持された。大規模な人口集団での症例対照研究では、生殖細胞系列のBRCA1またはBRCA2病的バリアントを有する患者において、プラチナ製剤ベースの治療に対する奏効率が高く、無増悪生存期間が長く、全生存期間が改善していることが明らかになった。同様に、プラチナ感受性の上皮性卵巣腫瘍を有する患者は、プラチナ耐性腫瘍を有する患者に比べて、生殖細胞系列のBRCA1またはBRCA2病的バリアントを有している可能性が高かった。卵巣がん患者を対象とした大規模な非選別コホート研究では、生殖細胞系列のBRCA1またはBRCA2病的バリアントを有する患者の短期生存率は、BRCA1またはBRCA2病的バリアントが同定されていない患者よりも良好であった。しかし、この生存上の優位性は短期間に留まり、長期的な生存利益にはつながらなかった。

男性乳がん.BRCA1およびBRCA2に関連する男性乳がんの大部分、特にBRCA2の病的バリアントに関連するものは、高悪性度で、ホルモン受容体陽性であり、リンパ節転移を伴う。高悪性度の組織所見を示すにもかかわらず、BRCA1またはBRCA2に関連する乳がんの男性患者では、5年生存率が良好であることが示されている。

前立腺がん.BRCA2関連の前立腺がんは、診断時の腫瘍ステージや悪性度が高いこと、Gleason scoreが高いこと、診断時の前立腺特異抗原(PSA)値が高いことなど、侵襲性の高い疾患の特徴を伴う傾向が強い。

膵臓がん.BRCA1およびBRCA2は、遺伝性膵管腺がん(PDAC)の既知の遺伝的要因の中で最も一般的なものの一つであり、診断時の平均年齢は約60.3歳(範囲33~83歳)である。BRCA1およびBRCA2関連PDACにおいて、プラチナ製剤ベースの治療およびポリADPリボースポリメラーゼ(PARP)阻害剤に対する感受性が高まるという証拠が蓄積されている。

黒色腫.BRCA2の病的バリアントを有する個人では、皮膚および眼の黒色腫の発症リスクが高まる。BRCA1またはBRCA2の病的バリアントを有する490家族を対象とした分析では、生殖細胞系列のBRCA2病的バリアントを有する個人において、ぶどう膜黒色腫のリスクが高まることが示された。

その他の癌.BRCA1およびBRCA2の病的バリアントを有する個人は、その他の悪性腫瘍のリスクが高くなる可能性がある。さらに、BRCA1の病的バリアントを有する女性では、漿液性子宮癌のリスクが高まる可能性があるが、そのデータは決定的ではない。
現時点では、BRCA1またはBRCA2の病的バリアントに関連する良性腫瘍や身体的異常は知られていない。

遺伝子ごとの表現型の相関

生殖細胞系列のBRCA1病的バリアントを有する女性では、生殖細胞系列のBRCA2病的バリアントを有する女性と比較して、卵巣がんおよび原発性腹膜乳頭状漿液性がんの発生率が著しく高く、発症年齢も若い傾向にある。BRCA2の病的バリアントを有する人は、男性乳がん、前立腺がん、膵臓がん、および悪性黒色腫のリスクが高い傾向にある。

遺伝型と表現型の相関

BRCA1およびBRCA2の遺伝型と表現型の相関が確認されている。こうした相関は、現時点では個々のリスク評価や管理には活用されていないが、適切な検証を経れば、将来的に活用される可能性がある。

BRCA1
浸透度が低下した対立遺伝子 p.Arg1699Gln は、中程度のリスクと関連していることが判明した。70歳までの乳がんまたは卵巣がんの推定累積リスクは24%であった。

BRCA2
国際コンソーシアムによる大規模な症例対照研究において、p.Lys3326Terアレルは、他のBRCA2病的バリアントと比較して、乳がんおよび卵巣がんの発症リスクが低いことと関連していた。乳がんのオッズ比(ORw)は1.28、浸潤性卵巣がんのORwは1.26であった。
BRCA1およびBRCA2の両方において、エクソン11内またはその近傍に卵巣がんクラスター領域(OCCR)が同定されている。OCCR内の病的バリアントは、これらの遺伝子の他の部位に病的バリアントを有する家系で見られる場合と比較して、卵巣がん対乳がんの比率がより高いことと関連している。
BRCA1およびBRCA2では、複数の乳がんクラスター領域が観察されており、これらは乳がんリスクの相対的な上昇および卵巣がんリスクの低下と関連している。

浸透率

BRCA1およびBRCA2の病的バリアントに関連する乳がん、卵巣がん、およびその他のがんの浸透度は100%未満である(表2を参照)。

有病率

BRCA1およびBRCA2の病的バリアントは、HBOCの最も一般的な原因である。一般集団におけるBRCA1およびBRCA2の病的バリアントの有病率は、100~200人に1人と推定されている。
創始者バリアントの存在により、特定の集団ではBRCA1およびBRCA2関連HBOCの有病率が高くなっている(表6を参照):

BRCA1および/またはBRCA2の創始者バリアントは、アフリカ系、アーミッシュ系、アイスランド系の祖先を持つ人々を含む、その他のいくつかの集団でも報告されている(表6参照)。

遺伝的に関連する疾患

ファンコニ貧血BRCA1およびBRCA2における両アレル性の生殖細胞系列病的バリアントは、ファンコニ貧血と関連している。ファンコニ貧血は、主要な臓器系における発達異常、汎血球減少を伴う早期発症の骨髄不全(多くの場合、生後10年以内に発症)、および早期発症の急性白血病や固形腫瘍を含む高いがん発症リスクを特徴とし、6歳までに何らかの悪性腫瘍を発症する累積確率は97%である。


鑑別診断

症候群性乳がん.以下のがん発症リスク症候群を有する患者では、乳がんのリスクが高まる。多くの場合、BRCA1およびBRCA2に関連する遺伝性乳がん卵巣がんは、家族内に認められる腫瘍の組み合わせに基づいて、これらの他の疾患と区別することができる。しかし、場合によっては、疾患を鑑別するために分子遺伝学的検査が必要となることがある。

表3 BRCA1およびBRCA2に関連する遺伝性乳がん卵巣がんの鑑別診断において考慮すべき、がん感受性に関連する遺伝子.

遺伝子 がん易罹患症候群 遺伝形式 関連がん / 特徴的所見
乳がん高浸透率(高リスク)遺伝子
ATM ATM関連がん素因 AD 特定のATM病的バリアント(例:c.7271T>G)は、高浸透率の乳がんと関連している。その他のほとんどのATM病的バリアントのヘテロ接合体は、中程度の浸透率の乳がんと関連している(以下を参照)。
CDH1 遺伝性びまん性胃がん AD 乳がん(小葉がん)、びまん性胃がん
PALB2 PALB2関連がん易罹患性(OMIM 620442) AD 乳がん(58%以下) 1 、卵巣がん1例、男性乳がん、膵臓がん
PTEN PTEN過誤腫症候群 AD 乳がん。その他のがん:甲状腺がん、腎細胞がん、子宮内膜がん、大腸がん。多発性過誤腫、大頭症、毛包皮下腫、乳頭状丘疹。患者は通常、20代後半に症状が現れる。
STK11 ポイツ・ジェガーズ症候群 AD 乳がん。その他のがん:消化管がん、卵巣がん(主にSCTAT)、子宮頸がん(悪性腺腫)、膵臓がん、セルトリ細胞精巣腫瘍。消化管ポリポーシス、粘膜・皮膚の色素沈着、指に現れる色素沈着性斑。
TP53 リ・フラウメニ症候群 AD 乳がん(多くの場合、閉経前)。その他の癌:軟部組織肉腫、骨肉腫、脳腫瘍、副腎皮質癌、白血病。早期発症および多発性原発癌。
乳がんおよび/または卵巣がんの中程度浸透度(中程リスク)遺伝子
ATM ATM関連がん素因 AD 特定のATM病的バリアント(特にc.7271T>G)は、高浸透率の乳がんと関連している。その他のほとんどのATM病的バリアントのヘテロ接合体は、中程度の浸透率の乳がんと関連している。膵がんや前立腺がんなど、他の種類のがんに対するリスクも上昇する。
BARD1 BARD1関連がん感受性(OMIM 114480) AD 乳がん
BRIP1 BRIP1関連がん感受性(OMIM 605882) AD 上皮性卵巣がん2、乳がんのリスクが上昇する可能性あり
CHEK2 CHEK2関連がん感受性 AD 乳がん3
EPCAM
MLH1
MSH2
MSH6
PMS2
リンチ症候群 AD 卵巣がん、乳がんのリスクがわずかに上昇。大腸ポリープ、子宮内膜がん、胃がん、およびその他のがん。 4
RAD51C RAD51C関連がん感受性(OMIM 613399) AD 卵巣がん、乳がんの可能性あり(特にER/PR陰性の乳がん)
RAD51D RAD51D関連がん感受性(OMIM 614291) AD 卵巣がん、乳がんの可能性あり(特にER/PR陰性の乳がん)

AD = autosomal dominant(常染色体顕性遺伝); ER = estrogen receptor(エストロゲン受容体); PR = progesterone receptor(プロゲステロン受容体); SCTAT = sex cord tumor with annular tubules(環状管を伴う性索腫瘍)

  1. Antoniou ら [2014]、Yang ら [2020]
  2. Ramus ら [2015]
  3. CHEK2バリアントNM_007194​.3:c.1100delC は、女性では乳がんリスクが推定で 2~3 倍、男性では 10 倍に増加すると関連している。
  4. PMS2に関する注記:いくつかの研究では、卵巣がんの生涯リスクが3%であり、これは一般人口で観察されるリスクよりも高いことが示唆されているが、PMS2の病的バリアントを有する個人におけるリスクを具体的に検討した研究では、卵巣がんの相対リスクの統計的に有意な増加は確認されていない。

臨床的マネジメント

最初の診断に続いて行う評価

BRCA1またはBRCA2に生殖細胞系列の病的バリアントを有する個人に対しては、分子遺伝学的検査の結果が通知される際、原発病変のサーベイランスおよび予防に関する選択肢についてカウンセリングが行われる。

症状の治療

乳がん.全米総合がんネットワーク(NCCN)のガイドラインでは、BRCA1またはBRCA2の病的バリアントを有する女性については、同側および対側の乳がん発症率が高いことから、乳がんの一次外科的治療として両側乳房切除術を検討すべきであると示唆している(NCCNガイドライン;無料登録およびログインが必要)。
PARP阻害剤は、DNA修復におけるその役割から、BRCA1およびBRCA2関連乳がん患者における有望な治療法として注目されている。BRCA1BRCA2、およびPARPはいずれもDNA修復に関与しているため、これらを同時に阻害することで、腫瘍細胞の「相乗的な致死性」を引き起こす可能性がある。PARP阻害剤は、当初、BRCA1およびBRCA2関連の転移性乳がん患者を対象に研究された。無増悪生存期間に有意な改善が認められ、その結果、2017年に局所進行性転移性乳がんの女性患者に対するオラパリブのFDA承認に至った[Robson et al 2017, Litton et al 2018]。最近の無作為化二重盲検第III相試験では、オラパリブは、早期の高リスク、ヒト上皮成長因子受容体2(HER2)陰性のBRCA1およびBRCA2関連乳がん患者において、補助療法として無増悪生存期間を改善したことが示された[Tutt et al 2021]。BRCA1遺伝子やBRCA2遺伝子に関連した乳がんや卵巣がんの治療は,非遺伝性の乳がんや卵巣がんの治療と同様である.米国総合がんセンターネットワーク(NCCN)のガイドラインでは,乳がんに対して最初に行う外科的治療として,BRCA1BRCA2にバリアントがある女性では同側乳がんや対側乳がんの発症率が高いため,両側乳房切除が検討可能であるとされている.乳がんの治療に関しては,米国総合がんセンターネットワークのガイドラインを参照のこと(要登録).

卵巣がん.PARP阻害剤は、プラチナ製剤ベースの治療が奏効しなかった後の卵巣がん再発例において、奏効率を改善することが最初に確認された。その後、オラパリブは、プラチナ感受性再発卵巣がんにおける維持療法として、無増悪生存期間を有意に延長することが示された。この研究では、BRCA1およびBRCA2の病的バリアントを有する患者において最も大きな効果が認められた。また、オラパリブは、BRCA1およびBRCA2関連の進行性卵巣がんの初回治療後に新たに診断された女性においても、維持療法として有意な有効性を示している。SOLO-1試験では、オラパリブの維持療法に無作為に割り付けられた患者は、プラセボ群と比較して、疾患の進行または死亡のリスクが70%低かった。オラパリブは、2014年に転移性卵巣がん、2017年に再発疾患の維持療法、2019年に補助療法完了後の維持療法として、米国食品医薬品局(FDA)の承認を取得した。

前立腺がん.固形がんに対するオラパリブの使用に関する有望な第I相試験データに続き、第II相試験において、BRCA1およびBRCA2関連の進行性前立腺がんを有する男性患者におけるその有効性が確認された。その後の第II相試験では、BRCA1およびBRCA2を含むDNA損傷修復遺伝子に病的バリアントを有する進行性前立腺がんの男性患者を対象に、オラパリブとアンドロゲン標的療法+プレドニゾンを比較した。オラパリブ治療群では、奏効率および無病生存期間に有意な改善が認められた。オラパリブとルカパリブの両方は、2020年にこの適応症についてFDAの承認を受けた。

膵臓がん.膵臓がんは標準的な全身療法に対する反応が乏しいため、新規の標的治療薬の探索が急務となっている。第III相POLO試験では、BRCA1およびBRCA2関連の転移性膵臓がん患者を対象に、オラパリブ群とプラセボ群に無作為に割り付けた。奏効率は、オラパリブ群で22.1%、プラセボ群で9.6%であった。無増悪生存期間および全生存期間はいずれも、オラパリブ群で2倍となった。しかし、特にPARP阻害剤を他の全身療法と併用する場合の毒性が、その使用を制限している。FDAは、BRCA1およびBRCA2関連の進行性膵臓がんに対する維持療法としてオラパリブを承認している。

悪性黒色腫.治療は皮膚科医および/または腫瘍専門医の指示に従う。

一次病変の予防

乳がん

注:タモキシフェン治療による重大な有害事象としては、服用群において非服用群と比較して、子宮内膜がんおよび血栓塞栓症(肺塞栓症を含む)の発生率が高いことが挙げられる。血栓塞栓症の既往歴がある女性や凝固障害のある女性は、タモキシフェンの服用を避けるべきである。タモキシフェンを服用中の女性には、異常な膣出血があった場合は直ちに産婦人科医に報告するよう指導すべきである。

卵巣がん(卵管がんを含む)

注:現在の(1975年以降に開発された)経口避妊薬製剤の使用が、生殖細胞系列のBRCA1またはBRCA2病的バリアントを有する女性における早期発症乳がんのリスクを高めるという証拠はない。

経過観察

表 4. BRCA1およびBRCA2に関連する遺伝性乳がん卵巣がんの女性に対して推奨されるサーベイランス

疾患/検査項目 検査内容 頻度
乳がん 乳房自己検診 毎月
臨床的乳房検診 25歳から6~12ヶ月ごと
マンモグラフィ 30歳から毎年
乳房MRI 25歳から毎年、または30歳未満の家族に乳がんの診断歴がある場合はそれより早期から
卵巣がん スクリーニングは推奨されない1
悪性黒色腫 皮膚科医による皮膚検査 家族歴に基づき個別に判断
膵臓がん バリアントの状態および家族歴に基づく基準を満たす無症状の被験者については、膵臓がんスクリーニングのリスクとベネフィットをより明確に把握するため、研究環境において造影MRI/MRCPおよび/またはEUSの実施が検討される場合がある。      

EUS = endoscopic ultrasound(内視鏡超音波検査); MRCP = magnetic resonance cholangiopancreatography(磁気共鳴胆管膵管造影)

  1. 予防的な両側卵管卵巣摘出術を選択しなかった女性について:一部の臨床医は、毎年経膣超音波検査やCA-125値の測定を行っているが、これらの検査法は、高リスクの女性においても平均リスクの女性においても、早期の卵巣がんを検出する上で有効ではないことが示されている。

表5.BRCA1およびBRCA2に関連する遺伝性乳がん卵巣がんを有する男性に対する推奨されるサーベイランス

疾患/検査項目 検査内容 頻度
乳がん 乳房自己検診の指導 BRCA1またはBRCA2の病的バリアントが確認された時点
乳房自己検診 35歳から毎月
臨床的乳房検診 35歳から毎年
前立腺がん 血清PSA検査、直腸指診 血清PSA検査、直腸指診  BRCA2病的バリアントのヘテロ接合体を有する男性を対象に、40歳から毎年 1
悪性黒色腫 皮膚科医による皮膚検査 家族歴に基づき個別に判断
膵臓がん バリアントの状態および家族歴に基づく基準を満たす無症状の被験者については、膵臓がん検診のリスクとベネフィットをより明確に把握するため、研究環境において造影MRI/MRCPおよび/またはEUSの実施が検討される場合がある。   

EUS = endoscopic ultrasound(内視鏡超音波検査); MRCP = magnetic resonance cholangiopancreatography(磁気共鳴胆管膵管造影); PSA = prostate-specific antigen(前立腺特異抗原)

  1. BRCA1の病的バリアントを有する男性とその医療提供者は、40歳から年1回のPSAスクリーニングを開始することについて話し合い、検討することができる。

避けるべき検査法・状況

BRCA1またはBRCA2の病的バリアントを有する個人に特化したデータは存在しない。

リスクのある親族の評価

家族内でがん素因となるBRCA1またはBRCA2の生殖細胞系列病的バリアントが特定された場合、リスクのある親族に対する検査を行うことで、その家系の病的バリアントを同様に保有している家系員を特定することができ、がんが発見された際に、より綿密な経過観察や特定の治療が必要となる。
遺伝カウンセリングを目的としたリスクのある親族の検査に関する事項については、「遺伝カウンセリング」を参照のこと。

研究中の治療法

現在、BRCA1およびBRCA2関連の乳がんおよび卵巣がんの治療に向けた新たなアプローチについて、いくつかの研究が進行中である。これらの研究の大部分は、PARP阻害剤を対象としている。
転移性膵がんに対するPARP阻害剤治療については、いくつかの前向き無作為化臨床試験が行われている。
また、治療抵抗性のバイオマーカーや予想される治療毒性を特定するための研究も進行中である。
さらに、他のPARP阻害剤を単独で、あるいは他の全身療法と併用して使用することを検討する臨床試験も実施されている。
臨床試験に関する情報は、米国のClinicalTrials.govおよび欧州のEU Clinical Trials Registerで検索することができる。

その他


ホルモン補充療法(HRT)。一般集団を対象とした研究によると、閉経後の女性における長期のエストロゲン補充療法は乳がんのリスクを高める可能性があるが、更年期症状の治療を目的とした短期の使用ではリスクは高まらないことが示唆されている。しかし、HRTに関する無作為化プラセボ対照試験では、エストロゲンとプロゲスチンを併用する比較的短期間の治療でさえ、乳がんの発生率を増加させることが示された。

BRCA1およびBRCA2ヘテロ接合体におけるHRTが乳がんリスクに及ぼす影響に関する3つの観察研究が発表されている。Rebbeckらは、BRCA1またはBRCA2の生殖細胞系列病的バリアントを有する462人の女性を対象としたコホート研究において、両側予防的卵巣摘出術後のHRTに関連する乳がんリスクを評価し、両側予防的卵巣摘出術後のいかなる種類のHRTも、手術に伴う乳がんリスクの低減に有意な変化をもたらさないことを明らかにした。術後の追跡期間は3.6年であった。その結果、BRCA1またはBRCA2の生殖細胞系列病的バリアントを有する女性において、短期のホルモン補充療法(HRT)は乳がんのリスクを実質的に増加させないという結論が導かれた。このコホートのデータを拡大して実施されたその後の研究では、1,299人の女性が対象となり、平均追跡期間は5.4年であった。乳がんリスクの上昇は認められず、BRCA1ヘテロ接合体では乳がんリスクの有意な低下が確認された。BRCA1病的バリアントを有する閉経後女性472名を対象とした別のマッチング症例対照研究においても、HRTの使用は乳がんリスクの低下と関連していた。最後に、平均追跡期間4.3年の432組のマッチングペアを対象とした症例対照研究でも、BRCA1ヘテロ接合体における乳がんリスクの低下が確認された。これらの研究を総合すると、外科的閉経を経たBRCA1およびBRCA2ヘテロ接合体におけるHRTの短期使用が支持される。


遺伝カウンセリング

「遺伝カウンセリングは個人や家族に対して遺伝性疾患の本質,遺伝,健康上の影響などの情報を提供し,彼らが医療上あるいは個人的な決断を下すのを援助するプロセスである.以下の項目では遺伝的なリスク評価や家族の遺伝学的状況を明らかにするための家族歴の評価,遺伝学的検査について論じる.この項は個々の当事者が直面しうる個人的あるいは文化的、倫理的な問題に言及しようと意図するものではないし,遺伝専門家へのコンサルトの代用となるものでもない.」

遺伝形式

BRCA1およびBRCA2に関連する遺伝性乳がん卵巣がん(HBOC)は、常染色体顕性遺伝の形式で遺伝する。

家族構成員のリスク

発端者の両親

BRCA1BRCA2の病的バリアントをもつ発端者の両親

BRCA1BRCA2の病的バリアントをもつ発端者の同胞

発端者の同腹の兄弟姉妹ががんを発症するリスクは、発端者の両親の遺伝的状態によって異なる。

BRCA1遺伝子やBRCA2遺伝子のバリアントをもつ発端者の子

BRCA1BRCA2の病的バリアントをもつ発端者のその他の血縁者.

他の血縁者が有するリスクは、症例の両親の遺伝的状態によって異なる。両親のいずれかがBRCA1またはBRCA2の生殖細胞系列の病的バリアントを持っている場合、その親の家族はリスクを有する。具体的なリスクの程度は、症例との血縁関係によって異なる。

関連する遺伝カウンセリング上の諸事項

早期診断目的のリスクのある血縁者の検査や治療に関する情報については,「臨床的マネジメント」,「リスクのある血縁者の検査」を参照のこと.

家族計画

遺伝的ながんリスク評価とカウンセリング.

分子遺伝学的検査を用いるか用いないかにかかわらず,がん発症リスク評価によるリスク保持者の同定に関する医学的,心理的,倫理的問題については,これらの問題を総合的に扱った「がんの遺伝学的リスク評価とカウンセリング(Elements of Cancer Genetics Risk Assessment and Counseling)(米国国立がん研究所が作成したPDQ®の一部)を参照のこと.

リスクのある無症状の成人血縁者.

一般に,BRCA1遺伝子やBRCA2遺伝子の生殖細胞系バリアントの保有者の血縁者は,同一のバリアントを有しているリスク,分子遺伝学的検査に関する選択肢,がん発症リスク,推奨されるがんスクリーニング検査(「経過観察」の項を参照)や予防的手術)「一次病変の予防」の項を参照)について,カウンセリングを受けるべきである.
発端者で同定されたがん素因となる生殖細胞バリアントを継承していない、リスクのある成人の親族は、個人のリスク要因に応じて、がん発症リスクが一般人口と同等かそれ以上であると推定される。例えば、その家族特有のBRCA1またはBRCA2の病的バリアントを持たないリスクのある女性の親族であっても、乳房生検の所見で非定型乳管過形成が認められた場合、乳がんのリスクが高まっている可能性がある。
がん発症リスクが一般集団と同程度であると判断された家族構成員については、米国がん協会(American Cancer Society)や全米総合がんネットワーク(NCCN)が平均リスクの個人に対して推奨しているような、適切ながん検診を受けることが推奨される。
注:家族内の罹患者がBRCA1またはBRCA2の分子遺伝学的検査を受けていない場合、あるいは特定されたBRCA1またはBRCA2の病的バリアントを持たない場合、同定可能なBRCA1またはBRCA2生殖細胞系列病的バリアントを持たない個人には、この推定は適用できない。

18歳未満のリスクのある無症状の血縁者への検査.

一般的に、BRCA1およびBRCA2に関連するHBOCの遺伝学的検査は、18歳未満のリスクのある個人に対しては推奨されない。米国医学遺伝学会(ACMG)と米国人類遺伝学会(ASHG)が共同で策定したガイドラインでは、18歳未満の個人に対して予測的遺伝学的検査を実施するのは、その検査結果が医療管理に影響を与える場合に限定すべきであるとされていまるす。BRCA1およびBRCA2関連のHBOCに対するサーベイランスは、通常、25歳前後から開始することが推奨されているため、検査の決定は、個人が成人となり、自立した判断ができるようになるまで延期することが推奨される。ただし、BRCA1およびBRCA2関連のHBOCを有する個人において、極めて若年でがんが診断されたという稀な報告があるため、家族内で最も早期に診断された事例に基づいて、スクリーニングを個別化することが推奨される点に留意することが重要である。

出生前および着床前遺伝学的検査

家族内でBRCA1またはBRCA2の生殖細胞系列病的バリアントが特定されれば、BRCA1およびBRCA2に関連するHBOCに対する出生前および着床前遺伝学的検査が可能となる。
出生前および着床前遺伝学的検査の利用に関しては、医療従事者間や家族内でも見解の相違があるかもしれない。ほとんどの医療従事者は、出生前および着床前遺伝学的検査の利用を個人の判断に委ねるべきだと考えているが、これらの問題について話し合うことは有益な可能性がある。

 


関連情報

GeneReviewsスタッフは、この疾患を持つ患者および家族に役立つ以下の疾患特異的な支援団体/上部支援団体/登録を選択した。GeneReviewsは、他の組織によって提供される情報には責任をもたない。選択基準における情報についてはここをクリック。


分子遺伝学

分子遺伝学とOMIMの表の情報はGeneReviewsの他の場所の情報とは異なるかもしれない。表は、より最新の情報を含むことがある。

表A. BRCA1およびBRCA2に関連する遺伝性乳がん卵巣がん:遺伝子とデータベース

遺伝子 染色体座位 タンパク質 座位特異的データベース HGMD ClinVar
BRCA1 17q21​.31 Breast cancer type 1 susceptibility protein BRCA1ホームページ - LOVD
定量的統合評価により臨床的に再分類されたBRCA1およびBRCA2の塩基配列バリアントデータベース
BRCA1 @ ZAC-GGM
BRCA1 BRCA1
BRCA2 13q13​.1 Breast cancer type 2 susceptibility protein BRCA2ホームページ - LOVD
定量的統合評価を用いて臨床的に再分類されたBRCA1およびBRCA2の塩基配列バリアントデータベース
ファンコニ貧血バリアントデータベース (FANCD1 - BRCA2)
BRCA2 @ ZAC-GGM
BRCA2 BRCA2

データは以下の標準的な参考文献から収集されている:HGNCの遺伝子情報、OMIMの染色体座標、UniProtのタンパク質情報。リンクが提供されているデータベース(Locus Specific、HGMD、ClinVar)の説明については、こちらをクリック。

表B. BRCA1およびBRCA2に関連する遺伝性乳がん卵巣がんに関するOMIMのエントリ(OMIMで全件を表示)

113705 BRCA1 DNA REPAIR-ASSOCIATED PROTEIN; BRCA1
114480 BREAST CANCER
600185 BRCA2 DNA REPAIR-ASSOCIATED PROTEIN; BRCA2
604370 BREAST-OVARIAN CANCER, FAMILIAL, SUSCEPTIBILITY TO, 1; BROVCA1
612555 BREAST-OVARIAN CANCER, FAMILIAL, SUSCEPTIBILITY TO, 2; BROVCA2
613347 PANCREATIC CANCER, SUSCEPTIBILITY TO, 2
614320 PANCREATIC CANCER, SUSCEPTIBILITY TO, 4; PNCA4

分子病態

BRCA1は、通常は細胞核内に存在するリン酸化タンパク質である乳がん1型感受性タンパク質(BRCA1)をコードしている。BRCA1は、細胞周期の進行、遺伝子転写の調節、DNA損傷応答、ユビキチン化など、細胞内シグナル伝達経路に関与するいくつかのタンパク質と相互作用する。
BRCA1/BARD1タンパク質複合体は、ユビキチンリガーゼ活性を増強する。この活性は、中心体の機能調節に関連しており、DNA修復や細胞周期の調節に関与している。
BRCA1は、DNA損傷部位でBRCA2およびRAD51と共局在し、RAD51を介したDNA二本鎖切断の相同組換え修復を活性化させる。BRCA2は、RAD51の利用可能性と活性を調節する。RAD51は、一本鎖DNAを被覆してヌクレオプロテインフィラメントを形成し、これが相同DNA二重鎖に侵入してペアを形成し、鎖交換を開始する。

疾患発症のメカニズム 機能喪失

表6. BRCA1およびBRCA2に関連する遺伝性乳がん卵巣がん:遺伝子ごとの注目すべき病的バリアント

遺伝子 参照配列 DNA塩基置換
(アレル 1)
予測されるタンパク質の変化 Comment [Reference]
BRCA1 NM_007294​.4
NP_009225​.1
c.68_69delAG
(185delAG or 187delAG)
p.Glu23ValfsTer17 アシュケナージ系ユダヤ人における創始者バリアント;この集団における病的バリアントの72%を占める2
c.115T>G p.Cys39Gly アッマサリック出身のイヌイットにおける創始者バリアント;この集団における病的バリアントの95%以上を占める 3
c.815_824dupAGCCATGTGG
(943ins10)
p.Thr276AlafsTer14 西アフリカ系の人々における創始者バリアント 4
c.5096G>A p.Arg1699Gln 中程度のリスクを有するバリアント5
c.5266dupC
(5385insC or 5382insC)
p.Gln1756ProfsTer74 アシュケナージ系ユダヤ人における創始者バリアント;この集団における病的バリアントの26%を占める2
BRCA2 NM_000059​.4
NP_000050​.3
c.771_775delTCAAA (999del5) p.Asn257LysfsTer17 アイスランド人における創始者バリアント6
c.5073dupA p.Trp1692MetfsTer3 ペンシルベニア州サマセット郡のアミッシュにおける創始者バリアント7
c.5946delT
(6174delT)
p.Ser1982ArgfsTer22 アシュケナージ系ユダヤ人における創始者バリアント;この集団における病的バリアントの95%を占める 2

表に記載されたバリアントは著者らから提供されたものである。GeneReviewsスタッフは、バリアントの分類について独自に検証を行っていない。
GeneReviewsは、Human Genome Variation Society(varnomen​.hgvs.org)の標準的な命名規則に従っている。命名法の説明については「クイックリファレンス」を参照のこと。

  1. Variant designation that does not conform to current naming conventions
  2. Bahar et al [2001], Frank et al [2002], Phelan et al [2002], Ferla et al [2007], Cox et al [2018]
  3. Hansen et al [2009], Harboe et al [2009], Hansen et al [2010]
  4. Mefford et al [1999]
  5. Moghadasi et al [2018]
  6. Rafnar et al [2004]
  7. See Resources for Genetics Professionals — Genetic Disorders Associated with Founder Variants Common in the Amish Population.

 

 

 


更新履歴:

  1. Gene Review著者: Nancie Petrucelli, MS, Mary B Daly, MD, PhD, Julie O Bars Culver, MS, Gerald L Feldman, MD, PhD, FACMG.
    日本語訳者: 櫻井晃洋(信州大学医学部遺伝医学・予防医学講座) )
    Gene Review 最終更新日: 2007.7.19. 日本語訳最終更新日: 2008.3.24.
  2. Gene Review著者: Nancie Petrucelli, MS, Mary B Daly, MD, PhD, Gerald L Feldman, MD, PhD, FACMG.
    日本語訳者: 窪田美穂(ボランティア翻訳者),櫻井晃洋(信州大学医学部附属病院遺伝子診療部)  
    Gene Review 最終更新日: 2011.1.20. 日本語訳最終更新日: 2011.3.20.
  3. Gene Review著者: Nancie Petrucelli, MS, Mary B Daly, MD, PhD, Gerald L Feldman, MD, PhD, FACMG.
    日本語訳者: 窪田美穂(ボランティア翻訳者),櫻井晃洋(信州大学医学部附属病院遺伝子診療部)  
    Gene Review 最終更新日: 2011.1.20. 日本語訳最終更新日: 2011.3.20.
  4. Gene Review著者: Nancie Petrucelli, MS, Mary B Daly, MD, PhD, and Gerald L Feldman, MD, PhD, FACMG.
    日本語訳者: 窪田美穂(ボランティア翻訳者),櫻井晃洋(札幌医科大学医学部遺伝医学)  
    Gene Review 最終更新日: 2013.9.26. 日本語訳最終更新日: 2013.12.25.
  5. Gene Reviews著者: JNancie Petrucelli, MS, Mary B Daly, MD, PhD, and Tuya Pal, MD
    日本語訳者:櫻井晃洋(斗南病院ゲノム医療センター)
    GeneReviews最終更新日:2026.3.25. 日本語訳最終更新日: 2026.7.16.[in present]

原文: BRCA1 and BRCA2 Hereditary Breast/Ovarian Cancer

印刷用

 

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