Gene Reviews著者: Philip J Ostrowski, MD and Katrina Tatton-Brown, MD.
日本語訳者:佐藤康守(たい矯正歯科)、櫻井晃洋(札幌医科大学医学部遺伝医学)
GeneReviews最終更新日:2023.10.26. 日本語訳最終更新日: 2023.12.1.
原文: Ellis van Creveld Syndrome
疾患の特徴
Ellis-van Creveld(EVC)症候群は、手の軸後性多指症、短い四肢を伴う不均衡型低身長、爪のジストロフィーないし低形成、歯・口腔の諸症候、先天性心疾患、X線写真でみられる異常(狭い胸郭,短肋骨,短い長管骨,球状の尺骨近位端と橈骨遠位端,手根骨・中手骨の癒合,円錐状の指節骨骨端,小さな腸骨稜,寛骨臼の骨棘の伸長[三尖腸骨〈trident ilia〉],脛骨プラトーの外側下がりの傾斜)を特徴とする疾患である。これらより出現頻度がやや少なく、かつばらつきの幅の大きな症候としては、足の軸後性多趾、上口唇の欠損、発達遅滞などがある。
診断・検査
発端者におけるEVC症候群の診断は、特徴的な臨床所見・X線写真所見がみられることに加え、分子遺伝学的検査でDYNC2H1、DYNC2LI1、EVC、EVC2、GLI、SMO、WDR35のいずれかの両アレル性病的バリアント、あるいはPRKACAもしくはPRKACBのヘテロ接合性病的バリアントが同定されることをもって確定する。
臨床的マネジメント
症状に対する治療:
サーベイランス :
妊娠管理 :
骨盤や股関節に異常を有するEVC症候群の妊婦については、帝王切開による分娩が推奨される。
遺伝カウンセリング
DYNC2H1、DYNC2LI1、EVC、EVC2、GLI、SMO、WDR35の病的バリアントに起因するEVC症候群は、常染色体潜性の遺伝形式をとる。PRKACAやPRKACB(罹患者に占める割合は2%)の病的バリアントに起因するEVC症候群は、常染色体顕性の遺伝形式をとる。
常染色体潜性遺伝:
両親ともEVC症候群関連病的バリアントのヘテロ接合体であることが判明している場合、罹患者の同胞は、受胎の段階で、罹患者である可能性が25%、ヘテロ接合体である可能性が50%、家系内にある病的バリアントをどちらも継承しない可能性が25%である。家系内に存在する複数のEVC症候群関連病的バリアントが特定されている場合は、リスクを有する血族に対する保因者検査や、出生前・着床前遺伝学的検査が施行可能である。
現在のところ、Ellis-van Creveld(EVC)症候群に関するコンセンサスが得られた臨床的診断基準は公表されていない。
本疾患を示唆する所見
以下のような臨床所見や画像所見ならびに家族歴を組み合わせて有している発端者については、EVCを疑う必要がある。
臨床所見
A.19ヵ月時における顔面の形態異常。広く短い鼻、上唇正中部の欠損を認める。
B,C,D,E.19ヵ月時の手と足の写真。手の両側性多指症、ならびに、ほとんどの爪にジストロフィーを認める。
F,G.24ヵ月時のX線写真。左第Ⅵ中手骨の癒合を伴う軸後性多指症、短指症、中節骨の円錐形骨端を認める。
H,I.24ヵ月時のX線写真。短趾症を認める。
J.3歳9ヵ月時の骨盤X線写真。三尖形の腸骨で、小さな寛骨臼の骨棘(矢印)を認める。
K.3歳9ヵ月時の下肢のX線写真。両側性の外側脛骨骨幹端低発達(外側下がりの脛骨プラトー)に起因する外反膝を認める。
以前にシステマティックレビュー[Da Silvaら2023]で報告されたEVC症候群の1例の未公表写真。
画像所見(図1F-K参照)
家族歴
常染色体潜性遺伝に一致した家族歴(例えば、罹患同胞の存在や親の近親婚)を示す。判明している限りで家族歴がないとしても、本疾患は除外できない。
診断の確定
発端者におけるEVC症候群の診断は、これを示唆する所見を有することに加え、分子遺伝学的検査でDYNC2H1、DYNC2LI1、EVC、EVC2、GLI、SMO、WDR35のいずれかの両アレル性病的バリアント(pathogenicとlikely pathogenicの両方を含む)、あるいはPRKACAもしくはPRKACBのヘテロ接合性病的バリアント(pathogenicとlikely pathogenicの両方を含む)が同定されることで確定する。
注:(1)アメリカ臨床遺伝ゲノム学会(ACMG)/分子病理学会(AMP)のバリアントの解釈に関するガイドラインによると、「pathogenic」のバリアントと「likely pathogenic」のバリアントとは臨床の場では同義であり、ともに診断に供しうるものであると同時に、臨床的な意思決定に使用しうるものとされている[Richardsら2015]。本セクションで「病的バリアント」と言うとき、それは、あらゆるlikely pathogenicのバリアントまでを包含するものと理解されたい。
(2)意義不明バリアントが同定された場合、それは、本疾患の診断の確定にも否定にも用いることができない。
分子遺伝学的検査のアプローチとしては、遺伝子標的型検査(マルチ遺伝子パネル)と網羅的ゲノム検査(エクソームシーケンシング,ゲノムシーケンシング)を組み合わせるやり方が考えられる。遺伝子標的型検査の場合は、臨床医の側で関与が疑われる遺伝子の目星をつけておく必要がある(「方法1」参照)が、ゲノム検査の場合、その必要はない(「方法2」参照)。
方法1
現況の表現型と直接関係のない遺伝子の意義不明バリアントや病的バリアントの検出を抑えつつ、疾患の遺伝学的原因の特定に最もつながりやすいのは、表1に挙げた遺伝子の一部あるいはすべて、ならびにその他の関連遺伝子(「鑑別診断」の項を参照)を含む骨系統疾患用マルチ遺伝子パネルであるように思われる。
注:(1)パネルに含められる遺伝子の内容、ならびに個々の遺伝子について行う検査の診断上の感度については、検査機関によってばらつきがみられ、また、経時的に変更されていく可能性がある。
(2)マルチ遺伝子パネルによっては、このGeneReviewで取り上げている状況と無関係な遺伝子が含まれることがある。
(3)検査機関によっては、パネルの内容が、その機関の定めた定型のパネルであったり、表現型ごとに定めたものの中で臨床医の指定した遺伝子を含む定型のエクソーム解析であったりすることがある。
(4)ある1つのパネルに対して適用される手法には、配列解析、欠失/重複解析、ないしその他の非配列ベースの検査などがある。
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注:アーミッシュ起源の例については、創始者バリアントであるEVCのc.1886+5G>Tの標的型解析を最初に行うことも考えらえる(表9参照)。
方法2
表現型からは、その他数多く存在する遺伝性の骨格・外胚葉異形成疾患と区別しにくいという場合、網羅的ゲノム検査を用いれば、臨床医の側で関与が疑われる遺伝子を検討する必要がなくなる。エクソームシーケンシングが最も一般的であるが、ゲノムシーケンシングを用いることも可能である。
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| 遺伝子1,2 | EVC症候群に占めるその遺伝子の病的バリアントの割合 | その手法で病的バリアント3が検出される例の割合 | |
|---|---|---|---|
| 配列解析4 | 遺伝子標的型欠失/重複解析5 | ||
| DYNC2H1 | 2%6 | 100%6 | 報告例なし7 |
| DYNC2LI1 | 3%8 | 100%8 | 報告例なし7 |
| EVC(EVC1) | 49%9 | 84%9 | 16%9,10 |
| EVC2 | 38%9 | 90%9 | 10%9,10 |
| GLI1 | 4%11 | 100%11 | 報告例なし7 |
| PRKACA | 1%s12
|
100%12 | 報告例なし7 |
| PRKACB | 1%13 | 100%13 | 報告例なし7 |
| SMO | 1%未満14 | 100%14 | 報告例なし7 |
| WDR35 | 2%15 | 100%15 | 報告例なし7 |
| 症候 | その症候を有する例の割合 | コメント |
|---|---|---|
| 軸後性多指症(手) | 98% | その95%超が両側性 |
| 四肢の短縮 | 83% | その36%が出生前の四肢短縮 |
| 爪ジストロフィー/低形成 | 78% | |
| 低身長 | 73% | |
| 先天性心疾患 | 66% | その80%超が心房中隔欠損 |
| 狭い胸郭 | 66% | 通常は非対称性 |
| 歯の異常 | 59% | |
| 短指趾 | 35% | |
| 軸後性多趾症(足) | 34% | その90%超が両側性 |
| 上口唇の欠損 | 28% | |
| 発達遅滞 | 9% |
Caparrós-Martínら[2015],Palencia-Camposら[2017],Nicetaら[2018],Aubert-Muccaら[2023],Da Silvaら[2023]に基づく。
発育不全
EVC症候群罹患者には、不均衡型の低身長が多くみられる。約3分の1の罹患者は、出生前の超音波検査での長管骨の短縮や出生時における低身長や四肢短縮など、周産期のチェックで発育不全が明らかに認められる[Da Silvaら2023]。小児期には発育不全とそれに伴う低身長がみられる。体の各分節は不均衡で、胸郭は細長く、多くの場合、四肢すべての短縮を伴う。肢の中にあっても影響の現れ方は異なり、近位から遠位に向かって次第に重症度は増大する(近位肢長>中間肢長>遠位肢長)[Baujat & Le Merrer 2007]。成人期の身長は、大多数がmidparental heightを下回り、109cmから152cmの間となる。
筋骨格症候
EVC症候群罹患者に最も多くみられるのは、両側性の手の多指症である(図1B-C,図1F-G参照)[Da Silvaら2023]。ほぼ全例が両手の六指症を呈するが、これより少ないながら両手とも七指症(手指が7本みられる状態)になる例もみられる。足の軸後性多趾症は手の多指症より少ないが、ほぼ全例が両側性である。多指趾は、時に出生前の超音波検査で明らかになるようなこともある。
肋骨の低発達/短肋骨のため、胸郭はふつう細長くなり、発生段階における肺低形成や出生後の拘束性肺疾患につながる場合がある。重症の呼吸不全に至ることは稀である[Huber & Cormier-Daire 2012]。少ないながら鳩胸がみられることもある。これ以外の骨格異常としては、長管骨の短縮、短指趾(図1B-C,図1F-I参照)、手根骨・中手骨の癒合(図1G参照)、外反膝(脛骨の外側骨幹端の骨化遅延に起因)がある(図1K参照)[Handaら2020,Da Silvaら2023]。尺骨と橈骨は、骨端部が球状の異常な形態を呈することで、独特の外観を呈することが多い。骨年齢は概して遅延する[Baujat & Le Merrer 2007]。彎指趾や合指趾の報告もみられる。
頭蓋骨と脊椎は、ふつう正常である[Handaら2020]。筋力も正常である。
歯・口腔症候
歯の異常は高頻度にみられ、変化に富む。最も多くみられる所見は、歯の萌出遅延と無歯症である。出生歯や、満2ヵ月未満の段階で乳歯が早期萌出をきたす例、歯の形態異常(例えば、円錐歯)をもつ例もみられる。これらより低頻度の所見としてはエナメル質形成不全、移転歯、タウロドントなどがある[Peña-Cardellesら2019]。過剰小帯や癒着などの小帯の異常も多くみられる[Da Silvaら2023]。
爪のジストロフィー
爪は概して低形成で、すべての爪が、変色・脆弱性・点状凹窩・陥入爪・深く落ちくぼんだ爪等を伴って、多少ともジストロフィーの様相を呈する(図1B-E参照)。
先天性心疾患
先天性心疾患が比較的多くみられ、出生前の段階でこれが発見されることがある。先天性心疾患のある例では心房中隔欠損は必発に近く、これが単独か他の奇形が併存するかのどちらかとなる。心室中隔欠損、単心房、左上大静脈も比較的多くみられる。先天性心疾患を有する例の半数弱は、一定程度の心不全を発症することになる[Hillsら2011]。これら以外の奇形(例えば、左室低形成、肺動脈弁狭窄/閉鎖、大動脈縮窄)も稀にみられる[Hillsら2011]。
頭蓋顔面症候
頭蓋顔面症候は多様かつ非特異的であって、EVC症候群に特異的な顔面の特徴があるわけではない。上口唇の欠損(図1A参照)は、不全唇裂(口蓋裂なし)に併存する形で現れることがしばしばある。口唇の欠損がみられる例については、癒着のため歯肉上唇移行部の口腔前庭が形成されていない例がしばしばみられる。これ以外に、4人に1人未満の割合で報告されている顔面症候として、眼間開離、短く広い鼻(図1A参照)、長い人中、出生後の小頭症などがある[Da Silvaら2023]。
発達
EVC症候群では、ふつう知的障害はみられない。知能は多くの場合正常であるが、発達遅滞/知的障害を有する例も少数みられる。その程度は多くが軽度ないし中等度である[Öztürkら2021,Zakaら2021,Qianら2022]。運動技能に問題がある例が多いものの、これは、筋骨格の異常に伴う続発性のものである可能性がある。
その他
その他の症候(EVC症候群罹患者の5%未満で報告されているもの)としては、次のようなものがある。
遺伝子ごとにみた表現型との相関
EVC2
詳細な評価の結果、EVC2関連EVC症候群罹患者のうち、EVCに病的バリアントを有する例では一部の症候の発生頻度が高くなることが判明している[Da Silvaら2023]。ただ、表現型からは、臨床的にEVC関連EVC症候群をEVC2関連EVC症候群と見分けることはほとんどできない。EVC2に両アレル性の病的バリアントを有する例は、EVCに病的バリアントを有する例より管状骨の短縮と肥厚が顕著にみられると同時に、低体重である。このことから、EVC2関連EVC症候群のほうが重症であることが示唆される(確定ではない)。
DYNC2H1,DYNC2LI1,GLI1,PRKACA,PRKACB,SMO,WDR35
DYNC2H1、DYNC2LI1、GLI、PRKACA,PRKACB、SMO、WDR35の病的バリアントに起因するEVC症候群は稀であるため、遺伝子ごとの表現型との相関は、はっきりしたことがわかっていない。ただ、DYNC2H1関連、DYNC2LI1関連、GLI関連、SMO関連、WDR35関連の各EVC症候群は足の軸後性多趾症がより高頻度である[Caparrós-Martínら2015,Palencia-Camposら2017,Nicetaら2018,Aubert-Muccaら2023,Piceci-Sparascioら2023]。
遺伝型-表現型相関
EVCやEVC2に生じた遺伝子内大欠失/重複に起因するEVC症候群では、筋骨格所見の割合が減り、顔面の形態異常の頻度が増す形で、臨床症候の現れ方が非定型的となる[Da Silvaら2023]。
EVC
DYNC2H1関連、DYNC2LI1関連、GLI関連、PRKACA関連、PRKACB関連、SMO関連、WDR35関連の各EVC症候群では特段の遺伝型-表現型相関は確認されていない。
疾患名について
2023年改訂の骨系統疾患国際分類[Ungerら2023]で、EVC症候群は、グループ10の「繊毛異常あるいは繊毛シグナル伝達異常に起因する骨格疾患」に分類されており、「軟骨外胚葉異形成症(Ellis-van Creveld)」という名がつけられ、その後に、例えば、「軟骨外胚葉異形成症(Ellis-van Creveld),EVC2関連」といった形で原因遺伝子が付記されている。
発生頻度
EVC症候群の正確な発生頻度はわかっていない。EVC症候群の診断に加え、表1に挙げた遺伝子の1つに病的バリアントが同定されたものは、現時点で約250例が報告されている。
EVC症候群は、アーミッシュ起源の人に高頻度で認められる。その理由は、ペンシルベニア州Lancaster郡のアーミッシュ集団では、EVCの創始者バリアント(c.1886+5G>T)が存在することにある[McKusick 2000]。
臨床像
Ellis-van Creveld(EVC)症候群は、手の軸後性多指、不均衡型低身長、外胚葉異形成の症候、先天性心疾患、X線写真の異常(短肋骨と短い管状骨)を特徴とする疾患である[Da Silvaら2023]。これらより出現頻度がやや少なく、かつばらつきの幅の大きな症候としては、足の軸後性多趾、顔面の形態異常、発達遅滞などがある。表1に挙げた遺伝子の1つに病的バリアントが同定されたEVC症候群罹患者が、これまでに約250人報告されている。以下に述べるMyhre症候群の表現型の特徴は、これらの報告を基礎としたものである。
DYNC2H1、DYNC2LI1、EVC、EVC2、GLI1、PRKACA、PRKACB、SMO、WDR35の生殖細胞系列病的バリアントに関連して生じるその他の表現型を表3にまとめた。
| 遺伝子 | 遺伝形式 | 疾患名1 |
|---|---|---|
| DYNC2H1 | AR | 短肋骨多指症候群(SRPS),DYNC2H1関連 |
| AR | 短肋骨胸郭異形成症(以前の呼称は、呼吸不全性胸郭異形成症あるいはJeune症候群),DYNC2H1関連 | |
| DYNC2LI1 | AR | 短肋骨多指症候群(SRPS),DYNC2LI1関連 |
| AR | 短肋骨胸郭異形成症(以前の呼称は、呼吸不全性胸郭異形成症あるいはJeune症候群),DYNC2LI1関連 | |
| EVC(EVC1) | AD | Weyers先端顔面(先端歯)異骨症,EVC関連 |
| EVC2 | AD | Weyers先端顔面(先端歯)異骨症,EVC2関連 |
| GLI1 | AR | 軸前性多指症,GLI1関連 |
| AR | 軸後性多指症,GLI1関連 | |
| PRKACA | AD | 心房異常-多指-多発性心奇形症候群,PRKACA関連 |
| PRKACB | AD | 心房異常-多指-多発性心奇形症候群,PRKACB関連 |
| SMO 2 | AR | 視床下部過誤腫と多指(Pallister-Hall様)症候群,SMO関連 |
| WDR35 | AR | 短肋骨胸郭異形成症(以前の呼称は、呼吸不全性胸郭異形成症あるいはJeune症候群),WDR35関連 |
| AR | 頭蓋外胚葉異形成症(Levin-Sensenbrenner),WDR35関連(「頭蓋外胚葉異形成症」のGeneReviewを参照) |
AD=常染色体顕性;AR=常染色体潜性
散発性腫瘍
基底細胞がんでSMOの活性化型体細胞ミスセンスバリアントが同定されることがある。これは、生殖細胞系列に存在するものではないため、バリアントを有している例でもこの腫瘍への素因が継承されるわけではない(OMIM 605462)。
今のところ、Ellis-van Creveld(EVC)症候群の臨床的管理に関する公表済のガイドラインは存在しない。
最初の診断に続いて行う評価
EVC症候群と診断された罹患者については、疾患の範囲やニーズを把握するため、診断に至る過程ですでに実施済でなければ、表5にまとめたような評価を行うことが推奨される。
| 系/懸念事項 | 評価 | コメント |
|---|---|---|
| 成長 | 身長・体重・頭囲の測定 | |
| 筋骨格 |
|
|
| 呼吸器 | 呼吸不全や拘束性肺疾患の評価 | 胸郭の狭窄や呼吸窮迫が顕著にみられる例について行う。 |
| 歯 | 歯科的診査 | 治療を要する無歯症や歯の異常、ならびに出生歯抜去の必要性に関する評価 |
| 心血管 | 心エコー | |
| 発達 | 発達評価 | |
| 尿路生殖器 | 性器奇形に関する臨床的診査と腎/骨盤超音波 | |
| 神経 | 神経学的評価 | 神経学的評価で異常のみられた例については脳MRIを検討する。 |
| 聴覚 | 聴覚評価 | |
| 遺伝カウンセリング | 遺伝の専門医療職1が行う。 | 医学的、個人的な意思決定の用に資するべく、本人や家族に対し、EVC症候群の本質、遺伝形式、そのもつ意味についての情報提供を行う。 |
| 家族への支援/情報資源< | 医療関係者、それ以外の職種も含めたケアチーム、家族支援組織の手で行う。 | 以下の必要性を調べることを目的として行う家族や社会構造の評価
|
症候に対する治療
生活の質の向上、機能の最大活用、合併症の軽減を目的とした支持療法が推奨される。
関連諸分野の専門家が集まった多職種連携によるケアが望ましい(表6参照)
| 症候/懸念事項 | 治療 |
考慮事項/その他 |
|---|---|---|
多指趾 |
外科的切断術(望ましいと判断された場合) |
|
筋骨格 |
外反膝の矯正術 |
整形外科的評価で必要性が認められた場合。 |
理学療法 |
物理療法・リハビリテーション医学の専門家の手で行う。 |
|
呼吸不全 |
機械換気 |
周産期、ないし、重度の拘束性肺疾患を有する例について必要になる場合あり。 |
歯の異常 |
歯の異常に対する矯正歯科治療ないし外科的治療 |
|
先天性心疾患 |
心臓病専門医/心臓外科医による標準治療 |
|
発達遅滞 |
発達遅滞を有する例について、必要に応じ発達サービス(理学療法ないし作業療法) |
|
尿路性器奇形 |
外科的改善術(これが適応となる場合) |
|
難聴 |
難聴に関する標準治療 |
|
定期的追跡評価
現段階でみられる症状、支持療法に対する反応、新たな症候の出現のモニタリングを目的として、表7に示した評価が推奨される。
| 系/懸念事項 | 評価 | 実施頻度 |
|---|---|---|
| 成長 | 身長・体重・頭囲のモニタリング | 小児期を通じ少なくとも年に1度。 |
| 筋骨格 | X線写真評価を含めた整形外科的評価 | 必要に応じ。 |
| 物理療法・リハビリテーション医学的評価 | 理学療法を要する例について必要に応じ。 | |
| 呼吸器 | 呼吸不全/拘束性肺疾患の症候に関する評価 | 呼吸不全の徴候/リスクをもつ例について必要に応じ。 |
| 歯 | 歯の萌出状況、叢生の状況、歯の形態異常に関するモニタリング | 小児期を通じ年に1度。 |
| 心血管 | 心エコー | 必要に応じ。 |
| 発達 | 発達の進行状況と教育上のニーズに関するモニタリング | 成人期まで来院ごと。 |
| 聴覚 | 聴覚評価 | 難聴がある場合は必要に応じ。 |
リスクを有する血縁者に対して行う遺伝カウンセリングを目的とした検査関連の事項については、「遺伝カウンセリング」の項を参照されたい。
妊娠に関する管理
骨盤/股関節の異常を有するEVC症候群妊婦では、帝王切開が推奨される。
妊娠中の薬物使用に関する詳しい情報は、MotherToBabyを参照されたい。
研究段階の治療
さまざまな疾患・状況に対して進行中の臨床試験に関する情報については、アメリカの「Clinical Trials.gov」、ならびにヨーロッパの「EU Clinical Trials Register」を参照されたい。
注:現時点で本疾患に関する臨床試験が行われているとは限らない。
「遺伝カウンセリングは個人や家族に対して遺伝性疾患の本質,遺伝,健康上の影響などの情報を提供し,彼らが医療上あるいは個人的な決断を下すのを援助するプロセスである.以下の項目では遺伝的なリスク評価や家族の遺伝学的状況を明らかにするための家族歴の評価,遺伝学的検査について論じる.この項は個々の当事者が直面しうる個人的あるいは文化的、倫理的な問題に言及しようと意図するものではないし,遺伝専門家へのコンサルトの代用となるものでもない.」 -編集者注
遺伝形式
DYNC2H1、DYNC2LI1、EVC、EVC2、GLI、SMO、WDR35の病的バリアントに起因するEllis-van Creveld(EVC)症候群は、常染色体潜性の遺伝形式をとる。
PRKACA、PRKACBの病的バリアントに起因するEVC症候群(罹患者の2%を占める)は、常染色体顕性の遺伝形式をとる[Palencia-Camposら2020,Aubert-Muccaら2023]。
本項では、常染色体顕性遺伝に関する説明は割愛する。
家族構成員のリスク(常染色体潜性遺伝)
発端者の両親
ただ、ヘテロ接合性バリアントの少数(ふつうはEVC2のエクソン22のトランケーションバリアント)については、Weyers先端顔面異骨症(表3参照)の形で現れる場合がある[Da Silvaら2023]。
発端者の同胞
発端者の子
発端者の生殖上のパートナーがEVC症候群の罹患者であるとか、EVC症候群関連の病的バリアントのヘテロ接合体であるといった場合は事情が変わってくるが、そうでない場合、発端者の子はEVC症候群関連病的バリアントに関し絶対ヘテロ接合者(絶対保因者)となる
他の家族構成員
発端者の両親の同胞は、50%の確率で表1に挙げた遺伝子の1つの病的バリアントの保因者となる。
保因者の特定
リスクを有する血族に対し保因者検査を行うためには、家系内に存在する複数のEVC症候群関連病的バリアントを事前に同定しておくことが必要である。
関連する遺伝カウンセリング上の諸事項
家族計画
出生前検査ならびに着床前遺伝学的検査
分子遺伝学的検査
家系内に存在する常染色体潜性EVC症候群関連の複数の病的バリアントが同定されている場合は、出生前検査や着床前遺伝学的検査が可能である。
胎児超音波検査
家族歴からEVC症候群のリスクがあることが判明していない胎児に胎児超音波検査を行った結果、長管骨の短縮・多指趾・胸郭の狭窄・先天性心疾患(多くは、心内膜床欠損)といった所見がみられた場合は、既知のEVC症候群関連遺伝子に関する標的型検査を迅速に検討する必要があろう(「診断」の項を参照)[Chenら2012]。罹患胎児に確認される可能性のあるその他の超音波検査所見としては、重度の上唇欠損、尿路性器奇形、中枢神経系奇形がある(ただし、後2者はEVC症候群での報告例は少ない)。
出生前検査の利用に関しては、医療者間でも、また家族内でも、さまざまな見方がある。現在多くの医療機関では、出生前検査を個人の決断に委ねられるべきものと考えているようであるが、こうした問題に関してはもう少し議論を深める必要があろう。
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分子遺伝学
分子遺伝学とOMIMの表の情報はGeneReviewsの他の場所の情報とは異なるかもしれない。表は、より最新の情報を含むことがある。
| 遺伝子 | 染色体上の座位 | タンパク質 | Locus-Specificデータベース | HGMD | ClinVar |
|---|---|---|---|---|---|
| DYNC2H1 | 11q22.3 | 細胞質ダイニン2重鎖1 | DYNC2H1 database | DYNC2H1 | DYNC2H1 |
| DYNC2LI1 | 2p21 | 細胞質ダイニン2軽中間鎖1 | DYNC2LI1 | DYNC2LI1 | |
| EVC | 4p16.2 | EvC複合体メンバーEVC | EVC database | EVC | EVC |
| EVC2 | 4p16.2 | リンビン | EVC2 database | EVC2 | EVC2 |
| GLI1 | 12q13.3 | シンクフィンガータンパク質GLI1 | GLI1 | GLI1 | |
| PRKACA | 19q13.12 | cAMP依存性プロテインキナーゼ触媒サブユニットα | PRKACA | PRKACA | |
| PRKACB | 1p31.1 | cAMP依存性プロテインキナーゼ触媒サブユニットβ | PRKACB | PRKACB | |
| SMO | 7q24.1 | Smoothenedホモログ | SMO | SMO | |
| WDR35 | 2p24.1 | WDリピート含有タンパク質35 | WDR35 | WDR35 |
データは、以下の標準資料から作成したものである。
遺伝子についてはHGNCから、染色体上の座位についてはOMIMから、タンパク質についてはUniProtから。
リンクが張られているデータベース(Locus-Specific,HGMD,ClinVar)の説明についてはこちらをクリック。
| 165220 | GLI FAMILY ZINC FINGER 1; GLI1 |
| 176892 | PROTEIN KINASE, cAMP-DEPENDENT, CATALYTIC, BETA; PRKACB |
| 225500 | ELLIS-VAN CREVELD SYNDROME; EVC |
| 601500 | SMOOTHENED, FRIZZLED CLASS RECEPTOR; SMO |
| 601639 | PROTEIN KINASE, cAMP-DEPENDENT, CATALYTIC, ALPHA; PRKACA |
| 603297 | DYNEIN, CYTOPLASMIC 2, HEAVY CHAIN 1; DYNC2H1 |
| 604831 | EVC CILIARY COMPLEX SUBUNIT 1; EVC |
| 607261 | EVC CILIARY COMPLEX SUBUNIT 2; EVC2 |
| 613602 | WD REPEAT-CONTAINING PROTEIN 35; WDR35 |
| 617083 | DYNEIN, CYTOPLASMIC 2, LIGHT INTERMEDIATE CHAIN 1; DYNC2LI1 |
分子レベルの病原
EVCとEVC2は、ともに一次繊毛の基底小体にあって複合体を形成するタンパク質をコードしている[Ruiz-Perezら2007]。これらは一次繊毛内のヘッジホッグシグナル伝達のメディエーターとして不可欠の機能を担っている。このヘッジホッグシグナル伝達は、口腔顔面領域、軸骨格の軟骨板、心臓の形態形成といった発生の基本的ドライバーの1つである[Louieら2020]。
SMOは、ヘッジホッグの結合によって活性化される転写因子の1つをコードしており、GLIタンパク質群(その1つをコードしているのがGLI1)の産生につなげる働きをしている[Tukachinskyら2010]。SMOはまた、EVC-EVC2複合体とも相互作用を行い、これによりGLIタンパク質が一次繊毛の先端へと移動できるようになる。GLIタンパク質は、ヘッジホッグシグナル伝達の遠位エフェクターで、発生途上にある組織の増殖・分化の調節を行う働きを担っている[Louieら2020]。
WDR35はゴルジ小胞を被覆するタンパク質をコードしており、組立てと輸送の両面に影響を及ぼすことで、一次繊毛への輸送シグナルとしての働きを果たしている。これが障害を受けることで、EVCやSMOの一次繊毛への動員が阻害されることがわかっている[Caparrós-Martínら2015]。同じように、DYNC2H1とDYNC2LI1は、一次繊毛への物質輸送において中心的働きをなすダイニン2のサブユニットをコードしている[Nicetaら2018]。
PRKACAとPRKACBは、タンパク質キナーゼA(PKA)のサブユニットをコードしている。PKAは、Gタンパク質共役型受容体(GPCR)の細胞内メディエーターで、細胞内cAMPの上昇に伴って活性化される。一次繊毛内で、PKAはGLIタンパク質をあらゆる細胞種で抑制(ということはすなわち、ヘッジホッグシグナル伝達を抑制)する[Palencia-Camposら2020]。ヘッジホッグが結合すると、それに伴ってSMOが活性化され、繊毛のGPCRが除かれて、結果的にPKAが不活性化されることになる
疾患の発症メカニズム
EVCとEVC2の疾患発症メカニズムは機能喪失型である[Zhangら2016,Louieら2020]。両者は1つのタンパク質複合体として機能するにもかかわらず相補性を有さず、片方のタンパク質が失われただけで、複合体の機能が障害されることになる。他のEllis-van Creveld(EVC)症候群関連遺伝子については、上記2つの遺伝子より疾患の発症メカニズムに関するデータが少ない。ただ、EVCとEVC2の発症メカニズムと、その他の遺伝子のもつ機能で判明していることを合わせて考えると、DYNC2H1、DYNC2LI、GLI1、SMO、WDR35関連の各EVC症候群も、その発症メカニズムは機能喪失型である可能性が高いと思われる。一方、PRKACA、PRKACB関連EVC症候群については、機能獲得型の可能性がある。それは、疾患を引き起こすバリアントは、cAMPの感度を上昇させることでPKA活性を亢進させることがわかっている、つまりは、ヘッジホッグシグナル伝達を阻害することがわかっているからである[Palencia-Camposら2020]。このことは、この2つの遺伝子が常染色体顕性の遺伝形式をとることとも合致している。
| 遺伝子 | 特別な考慮事項 |
|---|---|
EVC |
EVCとEVC2のコーディング領域は、ゲノム内で隣接し、互いに離れる方向の逆向きで、かつ、両者の間は2.6kbのゲノム配列で隔てられているという状態であるが、両遺伝子は互いに相同性をもたず、他のどの領域とも相同性を有しない1。 |
EVC2 |
| 遺伝子 | 参照配列 | DNAの塩基変化 | 予測されるタンパク質の変化 | コメント[参考文献] |
|---|---|---|---|---|
EVC |
NM_153717.2 |
c.1886+5G>T |
-- |
ペンシルベニア州Lancaster郡のアーミッシュ集団にみられる創始者バリアント[McKusick 2000] |
上記のバリアントは報告者の記載をそのまま載せたもので、GeneReviewsのスタッフが独自に変異の分類を検証したものではない。
GeneReviewsは、Human Genome Variation Society(varnomen.hgvs.org)の標準命名規則に準拠している。
命名規則の説明については、Quick Referenceを参照のこと。
Gene Reviews著者: Philip J Ostrowski, MD and Katrina Tatton-Brown, MD.
日本語訳者:佐藤康守(たい矯正歯科)、櫻井晃洋(札幌医科大学医学部遺伝医学)
GeneReviews最終更新日:2023.10.26. 日本語訳最終更新日: 2023.12.1.[in present]
原文: Ellis van Creveld Syndrome
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