Gene Reviews著者: Alexander J Groffen, PhD, Hennie Bikker, PhD, and Imke Christiaans, PhD, MD
日本語訳者:櫻井晃洋(斗南病院ゲノム医療センター)
GeneReviews最終更新日:2024.3.21 日本語訳最終更新日: 2026.9.19
疾患の特徴
この概要の目的は以下のとおり。
QT 延長症候群(LQTS)は、心電図におけるQT延長とT波異常を特徴とする疾患である。LQTSは、特に若年者において、生命を脅かす不整脈発作のリスクを著しく高める。分子遺伝学的検査により、罹患者の約80%で遺伝的原因が特定され、その多くは常染色体顕性LQTSに関連する遺伝子に起因している。その後のカスケード遺伝学的検査により、発症と死亡を減らすための個別化された治療管理戦略の恩恵を受けることができる、リスクの高い親族の特定が可能になる。
LQTSの臨床診断のための最初のスコアリングシステムは、Schwartz & Crotti [2011]によって更新され、主に心電図所見に基づいており、その中でも補正QT間隔の延長が最も顕著であった。このスコアリングシステムでは、遺伝学的検査の結果は考慮されていなかった。しかしながら、 LQTSを引き起こすことが証明されている病的バリアントの検出も、LQTSの診断を確立するのに十分である [ Priori et al 2013 ]。この考え方は、欧州心臓病学会のLQTS管理ガイドラインで提案されているLQTS診断スコアリングシステムに反映されている [ Zeppenfeld et al 2022 ] (表1を参照)。QT延長の二次的原因がない場合、LQTSリスクスコアが3.0を超えていれば、LQTSの診断に十分である。
| 所見 | ポイント | ||
|---|---|---|---|
| 心電図1 | QTc2 | 480ミリ秒以上 | 3.5 |
| 460~479ミリ秒 | 2 | ||
| 450~459ミリ秒(男性の場合) | 1 | ||
| 運動負荷後回復期4分で480ms以上 | 1 | ||
| Torsades de Pointes3 | 2 | ||
| T波交互脈 | 1 | ||
| 3つの誘導でノッチを伴うT波 | 1 | ||
| 年齢不相応の徐脈4 | 0.5 | ||
| 臨床歴 | 失神 3 | ストレスを伴う | 2 |
| ストレスを伴わない | 1 | ||
| 先天性難聴 | 0.5 | ||
| 家族の歴史 | LQTSの臨床診断または分子診断を受けた家族がいる5 | 1 | |
| 近親者における30歳未満での原因不明の突然心臓死5 | 0.5 | ||
| 遺伝子検査結果 | LQTSを引き起こすことが知られている遺伝子の病的バリアント | 3.5 | |
| 合計点数: 1.0以下=LQTSの可能性が低い;1.5~3.0=LQTSの可能性が中程度;3.0超=LQTSの臨床診断 | |||
Schwartz & Crotti [2011]を基に、 Zeppenfeld et al [2022]で修正を加えた。
LQTS = QT延長 症候群;QTc = 補正QT
心臓の所見
T波異常には、T波交互脈、ノッチT波、広基性T波、平坦T波が含まれる(簡潔な例についてはAdlerら[2020]およびWildeら[2022] 、包括的なレビューについてはTardoら[2023]を参照)。これらは頻脈性不整脈、典型的には心室頻拍Torsades de Pointes(TdP)と関連している。TdPは通常自然に終息し、動悸、めまい、またはLQTS患者で最も一般的な症状である失神を引き起こす可能性がある。失神は通常、突然で前兆がない。病歴を注意深く評価することで、LQTS関連失神を、予兆やその他の警告症状が現れる一般的な血管迷走神経性失神や起立性失神と区別することができる。前兆、失禁、発作後所見がないことは、LQTS関連失神をてんかん発作と区別するのに役立つ。有症状の患者における失神発作の回数は1回から数百回まで幅があるが、平均すれば数回程度である。場合によっては、TdPは心室細動や心停止の回避(除細動が行われた場合)、あるいは突然死へと進行する。
心臓イベント(失神、心停止、突然心臓死など)は乳幼児期から中年期まで発生する可能性があるが、最も多いのは10歳代前半から20歳代で、その期間を通じてリスクは一般的に減少する。イベントの通常の年齢範囲は、遺伝型によって多少異なる。心臓イベントは40歳以降ではまれであり、発生した場合は、QT延長作用のある薬剤の投与または低カリウム血症によって誘発されることが多い。40歳以上の個人の心臓イベントは、SCN5A関連LQTSに伴う可能性が高くなる。
KCNH2、KCNQ1、SCN5Aの病的バリアントは、LQTSの分子遺伝学的原因が特定された個人の90%を占める。これらの遺伝子に病的バリアントを持つ個人では、3つの臨床表現型が認められる(表2を参照)。
| 遺伝子 | 平均QTc 1 | ST波とT波の形態 2 | すべての心臓イベント3 | 失神 4 | 心停止蘇生5 | SCD | 心臓イベントトリガー 6 |
|---|---|---|---|---|---|---|---|
| KCNH2 | 480ミリ秒 | 二峰性(ノッチ状)T波、低電圧T波交互脈(二相性) | 49% | 36% | 6% | 5% | 聴覚刺激、感情、運動、睡眠 |
| KCNQ1 | 広範囲にわたるT波 | 44% | 37% | 4% | 3% | 運動、感情 | |
| SCN5A | 474ミリ秒 | ST延長;高振幅かつ狭いT波 | 41% | 23% | 8% | 9% | 睡眠 |
SCD = 突然心臓死
失神発作の発生率はKCNQ1関連LQTS患者で最も高く、SCN5A関連LQTS患者で最も低いものの、LQTSレジストリに登録され治療を受けている遺伝的原因が特定された患者群では、突然の心停止または死亡の発生率はSCN5A関連LQTS患者で最も高かった(表2参照)。LQTSの合併症で死亡する患者のうち、死亡が疾患の最初の兆候となるのは推定10~15%である。
突然心臓死のリスクは、失神の既往歴、発端者かどうか(つまり、LQTSの遺伝的原因が特定された家族で最初の人であること)、QTc間隔、治療、年齢、性別によって左右される。年齢と性別による依存性は、LQTSの3つの主要な遺伝的原因によって異なる。全体として、男子は思春期開始前、女子は思春期開始後(13~14歳)に比較的高いリスクがある[ Wang et al 2022 ]。
| 遺伝子 | 当該年齢までに 1回以上の心臓イベントを経験した人の割合1,2 | ||||
|---|---|---|---|---|---|
| 10歳 | 20歳 | 30歳 | 40歳 | 50歳 | |
| KCNH2 | 9% | 29% | 42% | 46% | 49% |
| KCNQ1 | 15% | 32% | 38% | 42% | 44% |
| SCN5A | 7% | 23% | 29% | 37% | 41% |
LQTSは心電図変化や症状の浸透率が低い。LQTSの分子遺伝学的原因が特定された個人の約25%は、ベースライン心電図で正常なQTc(<440 ms)を示す。正常なQTcを示す個人の割合は、KCNQ1関連LQTS(36%)の方がKCNH2関連LQTS(19%)やSCN5A関連LQTS(10%)よりも高かった[ Priori et al 2003、Goldenberg et al 2011 ]。適切な治療により、KCNQ1関連LQTSの少なくとも56%、KCNH2関連LQTSの51%、SCN5A関連LQTSの59%は無症状のままである(50歳時点での評価)[ Kutyifa et al 2018 ]。
心臓以外の所見
LQTSの中には、心臓不整脈以外の症状も伴うものがある。
両アレル性病的バリアント/二遺伝子性遺伝
常染色体顕性LQTSに関連する遺伝子の両アレル性病的バリアントまたは2つの異なる遺伝子のヘテロ接合性病的バリアントによるLQTSは、一般的にQTc間隔の延長と心臓イベントの発生率の上昇を伴うより重篤な表現型と関連している[ Schwartz et al 2003、Westenskow et al 2004、Tester et al 2005、Itoh et al 2010、Mullally et al 2013 ]。
病名
「後天性 QT 延長症候群」という名称は、非遺伝的原因や病態に伴うQT間隔延長と、遺伝性QTc延長素因を区別するために用いられることがある。なお、遺伝子と環境の相互作用は存在し、後天性QT延長症候群に関連する薬剤曝露や病態は、QT延長の遺伝的素因を持つ個体においても心臓イベントの引き金となる可能性がある。
頻度
LQTSの有病率は1:2,500と推定されている[ Schwartz et al 2009、Giudicessi & Ackerman 2013、Lieve & Wilde 2015 ]。
頻度
LQTSの有病率は1:2,500と推定されている[ Schwartz et al 2009、Giudicessi & Ackerman 2013、Lieve & Wilde 2015 ]。
ClinGen遺伝子キュレーションフレームワークを使用して、臨床ゲノムリソースQT延長症候群遺伝子キュレーション専門家パネルは、報告されたQT 延長症候群(LQTS)関連遺伝子を、LQTS、後天性LQTS、およびLQTS関連表現型の臨床的妥当性分類レベルについて、確実(definitive)、可能性大(strong)、中程度(moderate)、限定的(limited)に分類した(表4を参照)[ Adler et al 2020 ]。
| 遺伝子 1 | LQTSの病的バリアントに占める割合2 | 遺伝子妥当性分類 3 | LQTSの表現型 | コメント | OMIM表現型 |
|---|---|---|---|---|---|
| KCNQ1 | 30%~35% | 確実 | 広基性T波を伴うQT延長症候群(LQTS) 4(心房細動の有無を問わず) | 注: KCNQ1の両アレル性バリアントはJervell and Lange-Nielsen症候群を引き起こす | 192500 |
| KCNH2 | 25%~30% | 確実 | 二分T波を伴うQT延長症候群 4 | 613688 | |
| SCN5A(機能獲得型バリアント) | 5%~10% | 確実 | 長い水平STセグメント を伴うLQTS 4 | 603830 | |
| CACNA1C(機能獲得型バリアント) | 1%未満 | 確実 | LQTS | 一部の人は、Timothy症候群に一致する追加の特徴を示す。 | 601005 |
| CALM1 | 1%未満 | 確実 | LQTSまたは LQTS-CPVT重複 5 |
616247 | |
| CALM2 | 1%未満 | 確実 | 616249 | ||
| CALM3 | 1%未満 | 確実 | 618782 | ||
| CAV3 | 1%未満 | 確実 | LQTS | カベオリン症は、幅広い表現型と関連している 。6 | 123320 192600 606072 611818 614321 |
| KCNJ2 | 1%未満 | 確実 | LQTS | 一部の患者は、Andersen-Tawil症候群に一致する追加の特徴を有している。 | 170390 |
| TRDN | 1%未満 | 確実 7 | CPVT-LQTS重複症候群 8 | 615441 | |
| KCNE19 | 1%未満 | 可能性大 | 後天性LQTSに対する感受性6 | 注: KCNE1の両アレル性バリアントはJervell and Lange-Nielsen症候群を引き起こす | 613695 |
| 限定的 | LQTS | ||||
| KCNE2 | 1%未満 | 可能性大 | 後天性LQTSに対する感受性3 | 613693 |
QTc間隔延長のその他の原因として考慮すべき事項:
小児および若年成人における失神または突然死のその他の原因として考慮すべき事項:
LQTSの遺伝学的原因の特定:
臨床病歴 失神や心停止を起こした患者の臨床歴からは、遺伝子特異的な心臓発作の誘因が明らかになることがある。まれに、LQTSは遺伝子特異的な心臓以外の症状を伴うことがある。
身体診察 LQTS患者の大多数は、関連する身体的特徴を伴わない。まれに、LQTSは遺伝子特異的な心臓外の特徴を伴うことがある。特定のLQTS関連症候群を示唆する心電図の特徴(例:Andersen-Tawil症候群に特徴的なTUパターンを示す心電図)を有する患者は、その症候群の身体的特徴についての評価が可能になる。
家族歴 3世代にわたる家族歴を聴取し、小児または(若年)成人における失神、心停止蘇生、突然死などのLQTSの症状を示す血縁者に注意を払い、直接診察または分子遺伝学的検査の結果や心電図所見を含む診療記録を通じて関連所見を記録する。また、血縁者における症状の誘因、およびてんかん(LQTSに伴う失神はてんかんに起因する可能性がある)にも特に注意を払う必要がある。このような場合、診療記録の確認には、心電図とともに脳波記録を含める必要があり、これにより罹患した血縁者のQTc延長が明らかになることがある。
心電図評価 安静時心電図の補正QT(QTc)値とST-T波の形態は、LQTSの特定の遺伝的原因を示唆する可能性がある(表2参照)。安静時心電図で境界域のQTc値を示す個体では、QTc延長を明らかにするために追加の検査が役立つ可能性がある[ Priori et al 2013 ]。
分子遺伝学的検査には、遺伝子標的検査(多遺伝子パネル)と包括的なゲノム検査(エクソームシーケンス、ゲノムシーケンス)の組み合わせが含まれる。単一遺伝子検査は現在、LQTSでは一般的ではなく、どの遺伝子が関与している可能性が高いかを医師が推測する必要があるが、多遺伝子パネルを用いたゲノム検査ではそのような推測は不要である。多遺伝子パネルの概要については、こちらをクリック。遺伝学的検査を依頼する医師向けのより詳細な情報は、こちらを参照のこと。
使用するシーケンス法やコピー数変異検出ツールによっては、エクソンまたは遺伝子全体の欠失/重複が検出されない場合があある。KCNH2またはKCNQ1のエクソンまたは複数エクソンの欠失または重複は、LQTS患者の約3%で確認されている[ Barc et al 2011 ]。さらにまれに、TRDNのエクソン2のホモ接合性欠失がQTc延長(490ms)の患者で報告されているが、この患者はRYR2に無症状の父親から受け継いだ意義不明の変異も持っていた[ O'Callaghan et al 2018 ]。
注: (1)パネルに含まれる遺伝子および各遺伝子に対する検査の診断感度は検査機関によって異なり、時間の経過とともに変化する可能性がある。(2)一部の多遺伝子パネルには、本GeneReviewで論じられている疾患とは関連のない遺伝子が含まれている場合がある。(3)一部の検査機関では、パネルオプションとして、検査機関が独自に設計したカスタムパネルや、臨床医が指定した遺伝子を含む表現型に焦点を当てたカスタムエクソーム解析などが含まれる場合がある。(4)パネルで使用される手法には、シーケンス解析、欠失・重複解析、および/またはその他の非シーケンシングベースの検査が含まれる場合がある。
初回診断後の評価
QT延長症候群(LQTS)と診断された患者の疾患の程度とニーズを把握するために、LQTS患者の管理における主な焦点は、心臓イベントのリスクが高い患者群を特定することである。このリスク層別化のために、診断に至った評価の一部として実施されていない場合は、以下の評価が推奨される。
LQTSの性質、遺伝様式、および影響について、患者本人とその家族に情報を提供し、医学的および個人的な意思決定を円滑に進めるために、臨床遺伝専門医、認定遺伝カウンセラー、認定遺伝看護師、または遺伝学の高度実践医療従事者(ナースプラクティショナーまたは医師助手)との相談が推奨される。
症状の治療
GeneReviewsにおいて、標的治療とは、疾患の発症に関わる特定の根本的なメカニズムに作用する療法(その遺伝性疾患の1つ以上の症状に対して著しい有効性があるかどうかにかかわらず)、疾患の根本的な遺伝的原因が判明していなければ検討されなかったであろう療法、あるいは治癒につながる可能性のある療法を指す。—編者注
無症状者
β遮断薬は、QTc間隔は正常だが分子遺伝学的検査で病的バリアントが認められた人を含め、無症状のすべての人に臨床的に適応となる[ Priori et al 2004、Schwartz et al 2009 ]。病的バリアントを有し、40歳以前に無症状であった男性は、心血管イベントのリスクが低い。これらの人では、β遮断薬の必要性について議論することができる[ Locati et al 1998 ]。
植込み型除細動器(ICD) 一般的に、β遮断薬療法を試していない無症状のLQTS患者にはICDは適応とならない。ICDの予防的植込みは、分子遺伝学的検査で2つ以上の病的バリアント(常染色体顕性LQTSに関連する遺伝子)を持つ無症状患者など、非常に高いリスクがあると疑われる無症状患者に対して検討される[ Priori et al 2013 ]。近親者にLQTS関連の突然死があったとしても、無症状患者にICDを植え込む適応にはならない[ Kaufman et al 2008 ]。
有症状者
症状のある人は全員治療を受けるべきである[ Priori et al 2013 ]。症状の完全な消失が目標である。治療は失神、心停止、突然死の予防に重点を置いている。
β遮断薬は、QT延長を伴う無症状の患者や、QTc間隔は正常だが分子遺伝学的検査で病的バリアントが認められた人を含め、LQTSの治療の主軸である[ Priori et al 2004、Schwartz et al 2009 ]。一部の患者はβ遮断薬を使用しても症状が現れる [ Moss et al 2000 ]。しかし、KCNQ1関連LQTS患者でβ遮断薬による治療を受けていると報告されている症例で発生する心血管イベントの大部分は、薬剤が無効なのではなく、服薬不履行(服薬遵守不良)および/またはQT延長作用を持つ薬剤の投与が原因である[ Vincent et al 2009 ]。したがって、以下の点に注意することが重要である。
β遮断薬療法を受けていても再発リスクが高いため、心停止から蘇生したLQTS患者にはICDが推奨されるが、β遮断薬を服用していない状態で心停止を起こしたKCNQ1関連LQTSの小児は、β遮断薬または左心交感神経遮断術で治療できる[ Alexander et al 2004、Vincent et al 2009、Jons et al 2010 ]。β遮断薬抵抗性の失神、心室性不整脈、またはβ遮断薬療法の禁忌(例:重度の喘息)がある患者にはICDが有用である[ Zareba et al 2003、Priori et al 2013、Zeppenfeld et al 2022 ]。
左心交感神経遮断術(LCSD)は、ICD療法を拒否または禁忌である、および/またはβ遮断薬が無効、耐えられない、受容できない、または禁忌であるLQTSの高リスク患者に推奨される[ Schwartz et al 2004、Priori et al 2013、Zeppenfeld et al 2022 ]。LCSDは、β遮断薬またはICDによる治療中にイベントを経験した患者に有用である[ Priori et al 2013 ]。
ナトリウムチャネル遮断薬(例:メキシレチン)は、SCN5Aの特定の病的バリアントを有し、QTc間隔が500msを超える患者に対する追加の薬物療法として有用であり、ナトリウムチャネル遮断薬はQTc間隔を40ms以上短縮することが示されている[ Priori et al 2013、Zeppenfeld et al 2022 ]。
注:ほとんどの患者は通常の生活を送ることができる。成人患者および小児患者の保護者に対する教育、特にβ遮断薬の服用遵守に関する教育は、治療管理において重要な側面である。
喘息、起立性低血圧、うつ病、糖尿病の有無を評価する。これらの疾患は、β遮断薬による治療によって悪化する可能性がある。
電解質バランスの異常はQTc間隔を延長させる可能性があり、電解質異常の特定と是正は重要である。これらの異常は、下痢、嘔吐、代謝異常、および減量を目的とした偏った食事によって発生する可能性がある。
手術、内視鏡検査、出産、歯科治療などの選択的処置中に不整脈が発生する頻度は低いものの、そのような処置中は心電図をモニタリングし、必要に応じて適切な医療従事者に連絡を取ることが賢明である。
遺伝型に基づいて生活習慣の改善が推奨される(「回避すべき薬剤/環境」を参照)。
経過観察
β遮断薬の投与量は、有効性と副作用について定期的に評価し、必要に応じて調整する必要がある。特に成長期の子どもにおいては、有効性試験を含む投与量調整が重要である。
植込み型除細動器(ICD)を装着している人は、不適切な電気ショックや、植込み部位またはリード線の合併症がないか、定期的にICDの評価を受ける必要がある。
回避すべき薬剤/環境
QT間隔をさらに延長させる薬剤や、torsade de pointesを引き起こす薬剤は、すべてのLQTS患者が避けるべきである。完全かつ最新のリストについては、CredibleMeds®(無料登録が必要)を参照のこと。
局所麻酔薬の一部として投与されるエピネフリンは不整脈を引き起こす可能性があり、使用は避けるのが最善である。
遺伝型に基づいて生活習慣の改善が推奨される。
妊娠管理
産褥期は、特にKCNH2関連LQTS患者において、心臓イベントのリスク増加と関連している。β遮断薬治療は、出産後9か月間のイベントの減少と関連していた[ Seth et al 2007 ]。抗不整脈薬の適合性や監視措置を含む、妊娠中および産後の最適なケアに関する推奨事項は、 Roston et al [2020]に記載されている。
妊娠中の薬の使用に関する詳しい情報は、MotherToBabyを参照のこと。
研究中の治療法
現在進行中の研究では、SCN5A関連LQTS患者におけるラノラジン(ranolazine)という薬剤を評価している[ Cano et al 2020 ]。
タンパク質輸送障害によるKCNH2関連LQTS患者に対しては、ルマカフトール(lumacraftor)とイバクラフトール(ivacraftor)の併用療法が研究されている[ Schwartz et al 2019 ]。
臨床試験に関する情報にアクセスするには、米国ではClinicalTrials.gov 、欧州ではEU臨床試験登録簿を検索のこと。
「遺伝カウンセリングは個人や家族に対して遺伝性疾患の本質,遺伝,健康上の影響などの情報を提供し,彼らが医療上あるいは個人的な決断を下すのを援助するプロセスである.以下の項目では遺伝的なリスク評価や家族の遺伝学的状況を明らかにするための家族歴の評価,遺伝学的検査について論じる.この項は個々の当事者が直面しうる個人的あるいは文化的、倫理的な問題に言及しようと意図するものではないし,遺伝専門家へのコンサルトの代用となるものでもない.」 -編集者注
遺伝的リスク評価
心臓以外の症状を伴わないLQTSは、通常常染色体顕性遺伝形式で遺伝する。不整脈以外の表現型を伴うLQTSのタイプであるTimothy症候群(CACNA1Cのヘテロ接合性病的バリアントが原因)とAndersen-Tawil症候群(KCNJ2のヘテロ接合性病的バリアントが原因)も、常染色体顕性遺伝形式で遺伝する。若年期に高いイベントリスクと難聴を伴う重度の常染色体潜性LQTSであるJervell and Lange-Nielsen症候群は、KCNQ1またはKCNE1の両アレル性病的バリアントによって引き起こされる。TRDNの両アレル性病的バリアントは、非常にまれで重度の常染色体潜性LQTS-カテコールアミン誘発性多形性心室頻拍(CPVT)重複症候群の原因となる(表5参照)。
| 遺伝子1 | LQTS表現型 | 遺伝形式 |
|---|---|---|
| CACNA1C | 心臓外症状を伴わないQT延長症候群(CACNA1C関連疾患を参照)。 | AD |
| Timothy症候群(CACNA1C関連疾患を参照。) | ||
| CALM1 | 心臓外症状を伴わないQT延長症候群 | |
| CALM2 | ||
| CALM3 | ||
| CAV3 | 心臓外症状の有無にかかわらず、QT延長症候群 | |
| KCNE1 | 心臓外症状を伴わないQT延長症候群 | |
| 後天性LQTSに対する感受性 | ||
| Jervell and Lange-Nielsen症候群 | AR | |
| KCNE2 | LQTSに対する感受性 | AD |
| KCNH2 | 心臓外症状を伴わないQT延長症候群 | |
| KCNJ2 | Andersen-Tawil症候群 | |
| KCNQ1 | 心臓外症状を伴わないQT延長症候群 | |
| Jervell and Lange-Nielsen症候群 | AR | |
| SCN5A(機能獲得型バリアント) | 心臓外症状を伴わないQT延長症候群 | AD |
| TRDN | CPVT-LQTS重複症候群 | AR |
AD =常染色体顕性遺伝;AR =常染色体潜性遺伝;CPVT = カテコールアミン誘発性多形性心室頻拍
両アレル性病的バリアント(常染色体顕性LQTSに関連する遺伝子)または2つの異なる遺伝子における病的バリアントのヘテロ接合性(すなわち、二遺伝子病的バリアント)に関連するLQTSも報告されている(両アレル性病的バリアント/二遺伝子遺伝を参照)。
家族へのリスク(常染色体顕性遺伝)
本節では、常染色体顕性遺伝性QT延長症候群(LQTS)の遺伝的リスク評価の基本的な概要を説明する。特定の家族やLQTSの遺伝的原因に特有の問題については、包括的には取り上げない。発端者が特定の症候群(例:Timothy症候群、Andersen-Tawil症候群)を有する場合は、その疾患に対するカウンセリングが必要である。心臓以外の症状を伴うLQTSの家族における遺伝的リスク評価については、本節ではこれ以上説明しない。
患者の両親
注:両アレル性および二遺伝子性の病的バリアントが報告されている。LQTS患者に両アレル性または二遺伝子性の病的バリアントが認められる場合、両親のいずれもが病的バリアントを有している可能性を考慮する必要がある。
患者の同胞
発端者の兄弟姉妹のリスクは、発端者の両親の遺伝的状態によって異なる。
患者の子
LQTS患者の子はそれぞれ、50%の確率で病的バリアントを受け継ぐ。
その他の血縁者
その他の家族へのリスクは、発端者の両親の状態によって異なる。親が臨床的に罹患している、および/または病的バリアントを持っている場合、その親の家族もリスクがある
。
発端者の同胞
発端者の兄弟姉妹のリスクは、発端者の両親の遺伝的状態によって異なる。
発端者の子
その他の家族構成員
その他の家族へのリスクは、発端者の両親の状態によって異なる。親がCHEK2病的バリアントを持っている場合、その親の家族もリスクを有する可能性がある。
リスクのある血縁者の評価
特有のリスク要因
LQTS患者では症状の発現率が低いため、罹患している家族を正確に特定するには、運動負荷心電図を含む慎重な心電図検査が必要となる場合が多い。家族歴に突然死がないことはよくあることであり、診断を否定するものではなく、血縁者に突然死が起こる可能性を排除するものでもない。
LQTSの分子診断を受けた発端者の家族における発症前遺伝学的検査
発端者においてLQTS関連の病的バリアントが同定された場合、LQTS関連病的バリアントのヘテロ接合体であることが判明した人が、標的療法の迅速な開始、サーベイランス、および避けるべき薬剤や環境(例えば、QT間隔をさらに延長させる薬剤や遺伝子特異的な心臓イベントの引き金となる因子)の認識からできるだけ早期に恩恵を受けられるよう、一見無症状の血縁者の遺伝学的状態を明らかにすることが適切である。発症前遺伝学的検査は、出生時からあらゆる年齢のリスクのある家族全員、特に小児期に心臓イベントのリスクが最も高い18歳未満の個人に対して推奨される[ Wilde et al 2022 ]。
発症前遺伝学的検査は、家族性LQTS関連病的バリアントのヘテロ接合体であり、LQTS関連症状のリスクがある血縁者を特定するために使用できるが、疾患の経過(つまり、LQTS関連の心電図変化や症状が発生するかどうか、発生する場合は発症年齢や重症度)を予測するために使用することはできない。
LQTSの臨床診断を受けた発端者の家族の評価
発端者のLQTS関連病的バリアントが不明で(既知のLQTS関連遺伝子の分子遺伝学的検査を受けたLQTS患者の最大25%がこれに該当する[ Ingles & Semsarian 2020 ])、LQTSが後天性ではないと思われる場合には、第一度近親者はリスクがあるとみなすべきである。これらの近親者は安静時心電図でQTc分析を受け、安静時心電図でQTcが正常な場合は運動心電図でQTc分析を受けるべきである(表1に記載されているQTc測定値を用いて、安静時心電図に加えて運動心電図を評価することで、QTc分析による診断精度が大幅に向上する)。現在までに、正常所見の個人で心電図を繰り返す時期に関する明確な推奨事項はない。
注:LQTSは心電図の変化や症状に対する浸透率が低いため、心電図検査でLQTS関連の所見が認められないことを遺伝的状態の評価に用いることはできない(つまり、LQTS関連の病的バリアントのヘテロ接合体である個人でも、ベースライン心電図ではQTcが正常である可能性がある)。
DNAバンク
検査方法論や遺伝子、病原性メカニズム、疾患に関する理解は将来的に向上する可能性が高いため、分子診断が確定していない患者(すなわち、原因となる病原性メカニズムが不明な患者)のDNAをバンクに保存することを検討すべきである。詳細については、Huang et al [2022]を参照のこと。
GeneReviewsスタッフは、この疾患を持つ患者および家族に役立つ以下の疾患特異的な支援団体/上部支援団体/登録を選択した。GeneReviewsは、他の組織によって提供される情報には責任をもたない。選択基準における情報については、ここをクリック。
Gene Reviews著者: Alexander J Groffen, PhD, Hennie Bikker, PhD, and Imke Christiaans, PhD, MD
日本語訳者:櫻井晃洋(斗南病院ゲノム医療センター)
GeneReviews最終更新日:2024.3.21 日本語訳最終更新日: 2026.9.19[in present]
| 印刷用 | ||
| X POST | ||