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APC関連ポリポーシス
(APC-Associated Polyposis Conditions)
[FAP, Adenomatous Polyposis Coli (APC), Includes: Gardner Sndrome; Turcot Syndrome; Attenuated FAP (Attenuated Polyposis Coli, AAPC)]

Gene Review著者: Kory W Jasperson, MS and Randall W Burt, MD.
日本語訳者: 江田 肖(瀬戸病院 遺伝診療科),櫻井晃洋(札幌医科大学医学部遺伝医学)
Gene Review 最終更新日: 2014.3.27.   日本語訳最終更新日: 2014.7.19.

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原文 APC-Associated Polyposis Conditions


要約

疾患の特徴 

APC関連ポリポーシス(APC-associated polyposis conditions)には,家族性大腸ポリポーシス(familial adenomatous polyposis: FAP),軽症型FAP(attenuated FAP),Gardner症候群,Turcot症候群が含まれる.
FAPは数百から数千の前がん大腸ポリープが発生する大腸がん易罹患性症候群で,発症の平均年齢は16歳(範囲:7-36歳)である.35歳までに,95%の患者には大腸ポリープが発生する.大腸切除術を施行しない限り大腸がんは必発である.未治療患者における大腸がん診断の平均年齢は39歳(範囲:34-43歳)である.大腸以外にも、胃・十二指腸ポリープ,骨腫,歯牙異常,網膜色素上皮の先天性肥大(congenital hypertrophy of the retinal pigment epithelium: CHRPE),軟部組織腫瘍,デスモイド腫瘍,関連がんなどさまざまな病変を合併する.
軽症型FAPは大腸がんの高いリスクを伴っているが,ポリープ数はより少なく(平均30個),より口側に発生し,大腸がんはより高齢になって発症するため、臨床的マネジメントはFAPとかなり異なる.
Gardner症候群はFAPに典型的な大腸ポリープに、骨腫と軟部組織腫瘍を合併する疾患である.
Turcot症候群は大腸ポリポーシスと中枢神経腫瘍が合併する疾患である.

こうした臨床像の違いは,APC遺伝子の変異部位の違いによって生じたと考えられている.

診断・検査 

APC関連ポリポーシスはAPC遺伝子の変異によって生じる.診断は基本的には臨床所見に基づく.FAP典型例の90%で分子遺伝学的検査によりAPC遺伝子病的変異が検出される。分子遺伝学的検査はリスクをもつ患者家族の早期診断や,臨床所見のはっきりしない患者(腺腫性ポリープが100個未満)の確定診断の目的で行われる.

臨床的マネジメント 

症状の治療 大腸腺腫が20-30個に達するか,病理学的に進展した腺腫が認められたときは大腸切除が勧められる.非ステロイド消炎鎮痛薬(NSAIDs),特にスリンダク(sulindac)がFAPにおける腺腫を退縮させ,大腸亜全摘術を施行した患者の残存直腸に発生した,切除を要するポリープの数を減少させたという報告がある.十二指腸ポリープが絨毛性変化や高度な異形成を生じた場合,径が1cmを超えた場合,あるいは臨床症状を引き起こしている場合には,内視鏡あるいは外科的ポリープ切除が考慮される.骨腫は美容的な理由で切除される.デスモイド腫瘍は外科的に切除されるか,もしくはNSAIDs,抗エストロジェン薬,細胞毒性化学療法,または放射線照射によって治療する.

サーベイランス 肝がんのスクリーニングには腹部超音波検査と血清αフェトプロテイン濃度の測定を行う(5歳まで).10-12歳に達したら,S状結腸鏡もしくは大腸内視鏡検査を開始する.一旦ポリープが発見されたら,大腸切除術を施行するまで年1回の大腸内視鏡検査を継続する.上部消化管内視鏡検査は25歳までに,もしくは大腸手術を行なう以前に開始する.十二指腸腺腫が見つかった場合は,小腸X線撮影やCTスキャンを行なう.定期的な身体診察には甲状腺の触診および甲状腺超音波画像検査が含まれる。

リスクのある親族の検査 分子遺伝学的検査によって早期にリスクのある血縁者を診断することは,診断の確実性を上げ,変異遺伝子を受け継いでいない血縁者に対する経済的負担のかかるスクリーニングを回避することができる.

 

遺伝カウンセリング 

APC関連ポリポーシスは常染色体優性遺伝の形式をとる.約75−80%の患者には罹患した親がいる.患者の子は50%の確率でAPC遺伝子における病的変異を受け継ぐ.家系内の発端者における病的変異が同定されている場合には,出生前診断や着床前診断が可能である.

訳注:本症に対する出生前診断や着床前診断は行われない.いずれにしても次世代への遺伝に関しては細心の遺伝カウンセリングが必要である.

 


本項の記載範囲

APC関連ポリポーシスには以下の病態が含まれる.

  • 家族性大腸ポリポーシス(FAP)
  • Gardner症候群
  • Turcot症候群
  • 軽症型FAP

診断

臨床診断

APC関連ポリポーシスには(1)表現型が類似する家族性大腸ポリポーシス(FAP)、Gardner症候群、Turcot症候群および(2)大腸ポリープの数やがんのリスクが比較的少ない軽症型FAPが含まれる。

家族性大腸ポリポーシス(FAP)の臨床診断は以下の条件のいずれかを満たす場合になされる.

  • 100個以上の大腸腺腫性ポリープ.

注:(1)FAPの診断は通常ポリポーシスが40歳以前に発生した患者に対して考慮される.(2)100個以上の大腸ポリープはFAPの特異的所見ではない。APC遺伝子検査は、FAPとMUTYH関連ポリポーシス(MAP)や原因不明の大腸ポリポーシスとの鑑別を可能にする(鑑別診断の項を参照)。

  • 腺腫性ポリープは100個以下であるが,血縁者にFAP患者がいる.

Gardner症候群は大腸腺腫性ポリポーシスと骨腫,軟部組織腫瘍(類上皮嚢胞,線維腫,デスモイド腫瘍)を合併する[Gardner & Richards 1953].

Turcot症候群は大腸腺腫性ポリポーシスと中枢神経腫瘍(多くは髄芽腫)を合併する.

軽症型FAP(attenuated FAP)の臨床診断は以下の条件のいずれかを満たす場合になされる.

  • 10-99個の大腸腺腫性ポリープ.

注:年齢が進んで(35-45歳)100個以上のポリープが認められる症例は軽症型FAPとして発見される場合がある.

  • 60歳以前の大腸直腸がんの既往および多発性大腸腺腫性ポリープの家族歴がある.

現時点では軽症型FAP診断に用いられる,コンセンサスが得られた診断基準はない.Nielsenらは以下の診断基準を提唱している [2007b]

  • 30歳以前に100個以上のポリープが認められた血縁者がいない.

かつ,

  • 30歳以降に10-99個の腺腫が認められる血縁者が少なくとも2名がいる.

または,

  • 30歳以降に10-99個の腺腫が認められる血縁者が1名で,第一度近親者に数の少ない腺腫を伴う大腸がん罹患者がいる.

注:(1)この診断基準は軽症型FAPに見られる表現型の多様性が考慮されている(例:一部の患者は高齢になって100個以上のポリープを発生するが,大多数は100個未満のままである).(2)この診断基準の限界として,APC遺伝子変異を考慮していないことがあげられる.APC遺伝子変異を認めないポリポーシス患者では高い割合で両アレルのMUTYH変異が認められるため、MUTYH関連ポリポーシスとして分類されるべきである(鑑別診断の項を参照).

Knudsenら[2010]は軽症型FAPの診断基準として下記を提唱している。

  • 優性遺伝形式の大腸腺腫症

および

  • 25歳以降に100個以下の大腸腺腫

注:Knudsenらが提唱している軽症型FAPの診断基準には下記の限界がある。(1)APC遺伝子変異が考慮されていない、(2)必要となる大腸腺腫の数が定義されていない、(3)ATP関連ポリポーシスの20%-25%は孤発例であるため、家族歴の有無から優性遺伝形式を判断するのは不十分である(例:家系内に罹患者1人しかいない場合)。

APC関連ポリポーシスの診断基準では考慮されていないが、臨床診断をくだす上で参考となる所見としては,胃ポリープ,十二指腸腺腫性ポリープ,骨腫,歯牙異常(とくに過剰歯や歯牙腫瘍),網膜色素上皮の先天性肥大(CHRPE),軟部組織腫瘍(特に類上皮嚢胞や線維腫),デスモイド腫瘍,関連がんなどがある.

分子遺伝学的検査

GeneReviewsは,分子遺伝学的検査について,その検査が米国CLIAの承認を受けた研究機関もしくは米国以外の臨床研究機関によってGeneTests Laboratory Directoryに掲載されている場合に限り,臨床的に実施可能であるとする. GeneTestsは研究機関から提出された情報を検証しないし,研究機関の承認状態もしくは実施結果を保証しない.情報を検証するためには,医師は直接それぞれの研究機関と連絡をとらなければならない.―編集者注.

遺伝子 APC遺伝子はAPC関連ポリポーシスに関与する唯一の遺伝子である.

臨床検査

Table 1. APC関連ポリポーシスで使用される分子遺伝学的検査の概要

遺伝子¹

検査方法

検出率²

APC

シーケンス解析³

£90%?

重複/欠失解析?

〜8%-12% 6,7

  1. 染色体座位およびタンパク名はTable A.遺伝子とデータベースの項、アレル多型の関連情報は分子遺伝学の項を参照のこと。
  2. APC遺伝子病的変異の検出率は大腸ポリポーシスの重症度および家族歴に依存する。古典型ポリポーシスにおける検出率は軽症型[Sieber et al 2002, Aretz et al 2005, Michils et al 2005, Aretz et al 2006]より高い。ポリポーシスの家族歴を有する集団における検出率は、親世代に罹患者のない集団より高い[Truta et al 2005, Aretz et al 2007, Hes et al 2007]. 軽症型FAPにおいて、同定できるAPC遺伝子病的変異の割合は30%以下である[Lefevre et al 2006].
  3. APC遺伝子の全エクソンおよびイントロン-エクソン隣接領域を調べるフルシーケンス解析は、APC遺伝子変異を検出するのに最も正確な臨床検査である[Hegde et al 2014]. シーケンス解析で検出される変異は非病的変異、おそらく非病的な変異、意義不明な変異、おそらく病的な変異、病的変異がある。病的変異には小規模な遺伝子内欠失/挿入やミスセンス、ナンセンス、スプライス部位変異が含まれる。通常、エクソンや全遺伝子の欠失/重複は検出されない。ほとんどのAPC遺伝子病的変異はナンセンス変異またはフレームシフト変異であり、それによって切断型APCタンパクが生成される。シーケンス解析結果に対する解釈は別項を参照すること。
  4. 明らかなAPC遺伝子新生突然変異(すなわち家族歴がない)による患者の約20%が体細胞モザイクである[Hes et al 2007]. 体細胞モザイクの患者において、血液リンパ球から抽出したDNAを用いたAPC遺伝子解析は変異細胞数が少ないため、病的変異を検出できない可能性がある[Aretz et al 2007, Hes et al 2007].これは罹患した親を有する集団に比べ、孤発例(家系内に罹患者が1人しかいない)における病的変異の検出率が低いことの一部を説明できる。
  5. ゲノムDNAの翻訳およびその隣接領域におけるシーケンス解析で検出できない大きい欠失/重複(エクソンまたは全遺伝子)を調べるには、この遺伝子/染色体区域を含む定量PCR、MLPAまたは染色体マイクロアレイ(CMA)が行われる。大きい欠失/重複検査には、APC遺伝子の制御領域(特にプロモーター1B)が含まれるべきである。さらに、APC関連ポリポーシスと疑われるが病的変異が検出されなかった患者には、最初の検査で調べていなければ、プロモーター1B欠失の有無を調べるべきである[Rohlin et al 2011].
  6. 100個以上の大腸ポリープを有するAPC関連ポリポーシス患者の約8%-12%でAPC遺伝子の部分欠失または全欠失が認められる[Sieber et al 2002, Bunyan et al 2004, Aretz et al 2005, Michils et al 2005].ある研究では,10個以上のポリープを有する296名の患者のうち19名(6%)に,シークエンス解析、PTT(Protein truncation testing)変性検査および変性勾配ゲル電気泳動によるMUTYHやAPC遺伝子変異を認められなかったMLPA法でAPC遺伝子欠失を検出された[Nielsen et al 2007b].
  7. 5番染色体長腕の中間部欠失が大腸ポリポーシスおよび精神発達遅滞を伴う患者において、一般的な染色体検査によりAPC遺伝子を含む染色体5qの中間部欠損が同定された[Heald et al 2007].少なくとも1名の患者は、アレイCGHによって一般的な染色体検査で検出できない微小な欠失が確認されている[Heald et al 2007].

連鎖解析 患者に病的変異が同定されなかった場合,世代の異なる複数の患者がいる家系においては連鎖解析が考慮される.連鎖解析は正確なAPC関連ポリポーシスの臨床診断と家族の正確な遺伝的関係の把握が基礎となる.また連鎖解析は検査を受ける患者家族の協力と希望の程度に依存する.APC関連ポリポーシスの連鎖解析に用いられるマーカーは情報量が多くかつAPC遺伝子座に強く連鎖しているので,95%以上の家系において、精度が98%以上である[Petersen et al 1991, Burt et al 1992].患者が1人だけの家系では連鎖解析は行えない.新生突然変異が原因となっている患者に罹患した子がいないような場合にはしばしばこのようなことが起こる.

注:感度が70-90%であるPTT変性検査は上記に記載されているより感度の高い検査に取って変わられつつある[Hegde et al 2014].しかし、一部の検査室ではPTT変性検査はまだ行われている[Hegde et al 2014]。

検査の特徴 検査の感度、特異度およびその他の検査特徴に関する情報はEuroGentest [Aretz et al 2011 (full text)]より確認できる。

検査手順

発端者の診断目的

FAP診断基準を満たした患者やAPC関連ポリポーシスに疑われる患者に分子遺伝学的検査を考慮すべきである。

系列単遺伝子検査(Sequential single gene testing) 

APC関連ポリポーシスが疑われる患者の診断に用いられる検査の選択肢の1つは系列単遺伝子検査である。

  • APC遺伝子のシークエンス解析もしくは重複/欠失解析は最初に考慮されるべきである.
  • APC遺伝子に病的変異が見つからなかった場合はMUTYH遺伝子(鑑別診断の項を参照すること)の分子遺伝学的検査を考慮する.

並列検査(Concurrent testing)

もう1つの選択肢は大腸がんに関連する2つあるいはそれ以上の遺伝子に対する並列遺伝学的検査である。

  • 標的並列検査APCおよびMUTYHの並列分子遺伝学検査を考慮する。この2つの遺伝子は下記マルチ遺伝子パネルで同時に調べることができる(下記を参照).
  • マルチ遺伝子パネル。最近、APC関連ポリポーシスに疑われる患者の確定診断に用いられるのはマルチ遺伝子パネルである。マルチ遺伝子パネルは消化器官ポリポーシスに関連する一部あるいは全遺伝子の同時分析に用いられる。これらのパネルは検査法や検査する遺伝子によって異なる。

注:細胞遺伝学的解析やアレイCGHは発達遅延を伴う腺腫様ポリポーシスに行われる。アレイCGHはAPC遺伝子が近傍領域における細胞遺伝学的に明らかな染色体欠失に含まれるかどうかを調べるのに用いられている[Wallerstein et al 2007].

遺伝子レベルでの関連(アレル)疾患

5q22欠失 APC遺伝子を含む5q22領域の欠失が軽症型FAPおよび古典型FAP患者で報告されている[Pilarski et al 1999].すべての症例で,認知障害(通常軽度〜中等度)を伴っており,患者の大多数は先天奇形も合併している[Heald et al 2007].


臨床像

自然経過

APC関連ポリポーシスには古典型FAPおよびオーバーラップがある2つの症候群、すなわちGardner症候群とTurcot症候群,そして軽症型FAPが含まれる.

古典型FAP

」大腸腺腫性ポリープが平均16歳(7−37歳)で出現する[Petersen et al 1991].35歳までには95%の患者ではポリープを発生する.いったんできるとポリープは急速に増え、病変が完全に進行すると典型例では数百から数千におよぶポリープが認められる.大腸切除術を行わなければ大腸がんは必発である.未治療患者が大腸がんと診断される平均年齢は39歳(34−43歳)である.未治療のFAP患者の大腸がんを発症するリスクは21歳までには7%、45歳までには87%,50歳までには93%である[Bussey 1975].稀ではあるが,50歳台で無症状の患者も報告されている[Evans et al 1993].家系間,家系内での臨床像の個人差がしばしば認められる[Giardiello et al 1994, Rozen et al 1999].

FAPに認められる他の病変

Table 2. FAPにおける大腸がん以外のがんの生涯発症リスク

部位

がんのタイプ

生涯リスク

小腸:十二指腸あるいは
乳頭部周囲

4%-12%

小腸:十二指腸より
遠位部

膵臓

腺腫

〜1%

甲状腺

甲状腺乳頭癌

1%-12%

中枢神経

通常は髄芽腫

<1%

肝臓

肝芽腫

1.6%

胆管

腺癌

低いが、一般集団より高い

腺癌

西洋文化圏においては<1%

小腸ポリープおよび小腸がん 十二指腸の腺腫性ポリープは50−90%のFAP患者に認められ,通常十二指腸の第二区域,第三区域に発生し[Kadmon et al 2001],より遠位に発生することは比較的少ない[Wallace & Phillips 1998].十二指腸ポリープはポリープの数と大きさ,組織像,異型性の程度による分類法が確立している[Spigelman et al 1989].大腸ポリープの数と上部消化管ポリープの数についてはあきらかな相関は認められない[Kadmon et al 2001].
乳頭部周辺(十二指腸乳頭部とファーター膨大部を含む)の腺腫性ポリープは少なくとも50%の古典型FAP患者に認められる.この領域のポリープは膵管の閉塞をきたす結果膵炎を起こしうるため、FAPではこれらの併発症の頻度が高い.こうしたポリープはしばしば小さく,その観察には側視鏡による検査が必要となる.一部の研究者は膵胆管系の分泌,たとえば胆汁がこの部位の腺腫やがんの発生に関与していると理論付けており[Wallace & Phillips 1998],乳頭部周辺のポリープの悪性化の危険性が十二指腸のほかの部位の腺腫よりも高い理由であるかもしれない[Kadmon et al 2001].
十二指腸における腺癌は乳頭部に最も多く見られる。17歳〜81歳に発症し、診断時の平均年齢は45歳〜52歳と報告されている[Wallace & Phillips 1998, Kadmon et al 2001].小腸がんの生涯発症リスクは4%-12%、大多数は十二指腸に発生する。

十二指腸遠位部に発生する小腸がんは稀である。空腸がんと確認されたのは17例、回腸がんと確認されたのは3例のみであった[Ruys et al 2010]
膵がん データは少ないが、197のFAP家系に関する研究では、FAP患者およびリスクのある血縁者において、膵がんの相対的リスクは一般集団より4.5倍高い.FAP患者における80歳までの膵がんの生涯発症リスクは1%と推定されている[Giardiello et al 1993].

甲状腺がんおよび良性甲状腺疾患 FAPにおける甲状腺がんの頻度は報告によってばらつきがある。後ろ向き調査による甲状腺がんの発生率は0.4%-6.1% [Steinhagen et al 2012]、一方で超音波スクリーニングによる前向き研究では有病率が2.6%-12%と報告されている[Herraiz et al 2007, Jarrar et al 2011].病理組織学的には乳頭癌が多数を占め、時に篩状様構造を認める[Jarrar et al 2011, Steinhagen et al 2012].

良性甲状腺疾患の頻度に関するデータは少ない。ある後ろ向き研究によると、FAP患者の9.1%が良性甲状腺疾患(甲状腺機能低下症、甲状腺嚢胞、甲状腺腫または甲状腺炎)を有していた [Steinhagen et al 2012]。一方別の前向きスクリーニング研究では、患者の38%が良性甲状腺結節を有していた[Jarrar et al 2011].対象者の数や研究デザイン(後ろ向き研究と前向きスクリーニング研究)の違いよって、各報告における甲状腺疾患の発生率の違いが生じたと考えられる。家族集積性と女性優位性が見られる。
中枢神経系(CNS) Turcot症候群を参照のこと。

肝芽腫 FAPにおける肝芽腫の絶対的リスクは2%以下だが、その値は一般集団より750〜7500倍も高い[Aretz et al 2007]. 肝芽腫の大多数は3歳までに発生する[Aretz et al 2007]。

胃ポリープおよび胃癌 胃ポリープは胃底腺ポリープの場合も腺腫性の場合もある[Bülow et al 1995].

  • 胃底腺ポリープ(胃底部あるいは胃体部に発生する過誤腫様腫瘍)はFAP患者の約半数に認められる[Offerhaus et al 1999].胃底腺ポリープのより詳細な総説とFAPや軽症型FAPとの関連についてはBurt [2003]を参照のこと.
  • 胃腺腫性ポリープは2番目に頻度が高いFAP患者の胃病変で[Bülow et al 1995, Wallace & Phillips 1998],通常胃噴門部に限局する[Offerhaus et al 1999].

すでに報告されたように[Offerhaus et al 1999, Garrean et al 2008]、西洋文化圏に生活するFAP患者の胃がんリスクは低い.日本や韓国のFAP患者においては一般集団より10倍以上高い[Garrean et al 2008].胃腺がんはほとんどの場合腺腫から発生すると考えられるが,胃底腺ポリープから発生することもある[Zwick et al 1997, Hofgartner et al 1999, Attard et al 2001].

消化管以外の病変

骨腫 骨腫は頭蓋や下顎骨にもっとも高頻度に見られるが,全身のどの骨にも生じうる.骨腫は通常臨床症状を引き起こさず悪性化もしない.小児において大腸ポリープよりも先に現れることがある.
歯牙異常 未萌出歯,1個ないし数個の歯牙の先天的欠損,過剰歯,含歯性嚢胞(未萌出歯冠に発生する歯原嚢胞),歯牙腫瘍などが約17%のFAP患者に出現すると報告されている.これらの一般人口集団での発生頻度は1−2%である[Brett et al 1994].

網膜色素上皮の先天性肥大(CHRPE) CHRPEは網膜上の不連続で平坦な色素性病変で,年齢とは関係なく臨床症状もきたさない.CHRPEを検索するには散瞳させた上での間接検眼鏡による視神経乳頭の観察を要する場合がある.罹患家系においては多発性,両側性のCHRPEを認めることはその者にFAPが遺伝していることを示唆する.一方,単発性の病変は一般集団にも認められる [Chen et al 2006].
良性皮膚病変 これには類上皮嚢胞や線維腫が含まれ,顔面を含む全身に出現しうるので,主として美容上の問題とな

.稀ではあるが,多発性毛母腫(pilomatricoma)も報告されている[Pujol et al 1995].
デスモイド腫瘍 FAP患者の10%〜30%にデスモイド腫瘍が発症する[Nieuwenhuis et al 2011b, Sinha et al 2011].FAP患者でデスモイド腫瘍が発症するリスクは一般集団の800倍以上とされている[Nieuwenhuis et al 2011a].デスモイド腫瘍患者の少なくとも7.5%はFAP患者である[Nieuwenhuis et al 2011a]。よく分かっていないが、この線維性の良性腫瘍は筋線維芽細胞のクローン性増殖によるもので,局所的には浸潤性を有するが遠隔転移はしない[Clark et al 1999].病理組織学的に異なる線維腫病変であるGardner関連線維腫(GAF)はデスモイド腫瘍の前駆病変であるとの仮説がある[Wehrli et al 2001].

デスモイド腫瘍の発生率は20〜30代に最も高く、40歳までに発生したデスモイド腫瘍が全体の80%を占める[Sinha et al 2011].FAP患者のデスモイド腫瘍の65%が腹部あるいは腹壁内に発生する[Sinha et al 2011].デスモイド腫瘍が腹部臓器を圧迫したり,腹部手術を複雑にしたりすることもある.約5%のFAP患者はデスモイド腫瘍を経験し、あるいは死因となる。デスモイド腫瘍は報告された腹部腫瘍の死亡率において最も高い[Sinha et al 2011].腹部のデスモイド腫瘍は自然に発生したり,手術後に発生したりする[Bertario et al 2001].妊娠によるデスモイド腫瘍の発生と進行はまだ不明である[Sinha et al 2011].デスモイド腫瘍発生の独立予測因子としては,APC遺伝子コドン1399より下流(3’側)の変異,デスモイド腫瘍の家族歴,女性,腹部手術の既往があげられる[Sinha et al 2011].デスモイド腫瘍の家族歴を有する患者は第一度近親者にデスモイド腫瘍発症者がいれば、リスクが7倍高い[Sinha et al 2011].
CTスキャンやMRIがデスモイド腫瘍の評価に有用である[Clark & Phillips 1996].CTによるFAP患者のデスモイド腫瘍のスコアリングが開発されている[Middleton et al 2003].
副腎腫瘤 FAP患者において、副腎腫瘤のリスクは一般集団より2〜4倍高いと報告されている[Rekik et al 2010].副腎腫瘤は一般集団の1〜3%に認められるが,後向き調査によればFAP患者の7.4%に副腎腫瘤が認められた[Marchesa et al 1997].ほかに、107例のFAP患者による前向き研究では、対象者の13%に腹部CTで1cm以上の副腎腫瘤を認めた[Smith et al 2000b].機能的病変や癌腫も生じうるが、ほとんどの副腎腫瘤は非症候性の偶発腫である[Marchesa et al 1997, Rekik et al 2010].

妊娠・ホルモン投与 FAP女性患者における妊娠の影響に関する知見はわずかしかない.58名のデンマーク人女性患者での研究では,妊孕性,妊娠,分娩については一般集団と変わりがなかった[Johansen et al 1990].162名のFAP女性患者における2つの大腸手術の前後での妊孕率に関する、より大規模な研究では、手術を受けていない患者の妊孕率は対照群と変わりがなかった.また回腸直腸吻合術(IRA)を受けた患者においても対照群と変わりがなかった.しかし、回腸嚢肛門管吻合術(IPAA)を受けた女性患者の妊孕率は対照群に比較して明らかに低下した[Olsen et al 2003].
ほかの研究では、IRA,IPAAあるいは人工肛門造設術を伴う直腸結腸切除を受けたFAP患者の生殖問題に関する自己報告による有病率は一般集団と変わりがない[Nieuwenhuis et al 2010].しかし、より若い年齢で最初の外科的治療を受けた患者ではより多くの生殖問題を抱える傾向が見られる[Nieuwenhuis et al 2010].
デスモイド腫瘍の進行および発生と妊娠との相関を支持するエビデンスはほとんどない[Sinha et al 2011].
結腸切除術を受けた女性患者の産科的合併症におけるリスクは、一般的な腹部手術を受けた女性と変わりがない。
抗エストロゲン薬はデスモイド腫瘍の治療に有用であることから、妊娠に重要なホルモンがデスモイド腫瘍の発生に影響すると考えられている。しかし、以前の妊娠でデスモイド腫瘍を発生した女性は妊娠したことのない女性に比べ、デスモイド腫瘍の合併が明らかに少ないと報告した研究もある[Church & McGannon 2000].
FAP女性患者の結腸切除術実施時に行われた研究によると、妊娠歴と大腸ポリープの重症度の相関は認められなかった。しかし、重度な十二指腸病変を有する経産女性の割合は未経産女性よりはるかに高かった[Suraweera et al 2007].
一般集団において、女性ホルモンは大腸がんを予防する効果があるとの報告がある。1名のFAP女性患者は経口避妊薬の使用によって、ポリープが減少した[Giardiello et al 2005].
Gardner症候群
Gardner症候群とは古典型FAPによる大腸腺腫性ポリポーシス,骨腫と軟部腫瘍(類上皮嚢胞,線維腫,デスモイド腫瘍)が合併している状態を指す.上記の所見が目立つ場合に,多くの臨床医はGardner症候群という病名を使用し続けている.しかし、他の腸管外病変の有無には関係なくこれらはFAP患者の誰にでも発症しうる.
以前、Gardner症候群は別個の疾患と考えられていたが,現在古典型FAPとGardner症候群の原因は同じAPC遺伝子病的変異であることが明らかになっている.FAPの他の病変(例:上部消化管ポリポーシス)はGardner症候群にも認められる.腸管外病変とAPC遺伝子変異部位には多少の相関がある.「遺伝子型と表現型の相関」を参照のこと.

Turcot症候群

Turcot症候群は大腸ポリポーシスもしくは大腸がんに中枢神経腫瘍を伴う疾患である.大多数のTurcot症候群の分子遺伝学的原因は、FAPの原因となるAPC遺伝子かリンチ症候群[Hamilton et al 1995]の原因となるミスマッチ修復遺伝子のいずれかにおける病的変異である.APC遺伝子変異を伴う患者にみられる中枢神経腫瘍は主に髄芽腫であり,ミスマッチ修復遺伝子変異を有する患者は通常膠芽腫である.
FAP患者では中枢神経腫瘍のリスクは高くなっているが,絶対的リスクは約1%に過ぎない.複数の中枢神経腫瘍患者がAPC関連ポリポーシスを有する家系に見られる。これは遺伝子変異特異性あるいは修飾遺伝子の存在を示唆する.Gardner症候群と同様、Turcot症候群もかつては別個の疾患と考えられていた。現在、生涯発症リスクは比較的に低いが、APC遺伝子病的変異を有するすべての患者において、脳腫瘍の発生リスクが上昇すると考えられている。

軽症型FAP

軽症型FAPは古典型FAPより少ない数の(平均30個)大腸ポリープを生じ大腸がんのリスクを伴う疾患である.ポリープは古典型FAPに比べてより大腸口側(近位)に認められる傾向がある.
軽症型FAPにおける大腸がんの生涯発症リスクは明らかでないが、80歳までの累積発症リスクはおおよそ70%と推測されている[Neklason et al 2008].大腸がんと診断される平均年齢は50-55歳で,古典型FAPに比べて10-15歳遅いが,孤発性の大腸がんに比べれば若年である[Spirio et al 1993,Giardiello et al 1997].
生殖細胞系列におけるAPC遺伝子病的変異を伴う軽症型FAPの2つの大家系では[Burt et al 2004,Neklason et al 2008]:

  • 120名の変異陽性者の平均ポリープ数は25個(範囲:0-470個)であった
  • 120名の変異陽性者で詳細な大腸内視鏡検査記録が得られた患者のうち,44名(37%)はポリープが10個未満であった
  • これらポリープが10個未満の44名のうち3名が大腸がんを発症し,そのうち1名は30歳前に診断された

軽症型FAPのその他の所見としては,以下があげられる

遺伝子型と表現型の相関

同じAPC遺伝子病的変異を有していても患者ごとや家系ごとに差があるが[Giardiello et al 1994,Friedl et al 2001],これまでに遺伝子型と表現型の相関を明らかにするための多くの検討がなされている.ある研究者は遺伝子型に基づいた臨床的マネジメント法を提唱しているが[Vasen et al 1996],別の研究者は遺伝子型に基づく治療方針を行うべきではないと考えている[Friedl et al 2001].

現在まだ一般的に利用されていないが,下記の相関は将来的に治療選択に重要となるかもしれない(本節に記載した病的変異の参照配列はTable 3を参照すること).

  • 最も高頻度のAPC遺伝子病的変異はコドン1309にある(c.3927_3931delAAAGA)[Friedl & Aretz 2005].ここに病的変異を生じると若年のうちに多数のポリープが発生しやすい[Friedl et al 2001,Bertario et al 2003].
  • 大腸病変の平均発症年齢は,変異部位によって差がある:
    • コドン1309:20歳
    • コドン168-1580(1309を除く):30歳
    • コドン168より上流および1580より下流:52歳
  • コドン1250-1464の変異を伴う密生型ポリポーシス(平均5,000個)が報告されている[Nagase et al 1992].
  • 軽症型FAPは以下の特徴がある
  • イタリアのFAP患者における検討では変異がコドン976-1067に存在すると十二指腸腺腫のリスクは4倍高い[Bertario et al 2003].
  • 腸管外病変はしばしば(完全ではないが)より遠位のAPC遺伝子変異と関連する.190名のFAP患者における9種類の大腸外病変(デスモイド腫瘍,骨腫,類上皮嚢胞,十二指腸腺腫,胃ポリープ,肝芽腫,歯牙異常,乳頭部周囲がん,脳腫瘍)を検討した後ろ向き調査[Wallis et al 1999]では,
    • コドン1395-1493に変異を持つ患者ではコドン177-452に変異を持つ患者に比べ,有意にデスモイド腫瘍,骨腫,類上皮嚢胞の頻度が高かった
    • コドン1395-1493に変異を持つ患者ではコドン457-1309に変異を持つ患者に比べて,有意にデスモイド腫瘍と骨腫の頻度が高かった
    • APC遺伝子コドン177-452に変異を持つ患者には骨腫,肝芽腫,乳頭周囲腫瘍あるいは脳腫瘍を発症した者はいなかった
    • 肝芽腫と脳腫瘍はコドン457-1309に変異を持つ患者のみに認められた.
  • デスモイド腫瘍には以下のような相関がある.
    • 2098名のFAP患者の統合的データをレビューした結果、SinhaらはAPC遺伝子のコドン1399の3’側における病的変異はデスモイド腫瘍を発生するオッズ比は4.37であることを確認した.
    • APC遺伝子変異が認められた269例の検討では,デスモイド腫瘍はコドン1444の5’側に変異を有する患者の20%,コドン1444より3’側に変異を有する患者の49%,コドン1445-1580に変異を有する患者の61%に認められた[Friedl et al 2001]
    • APC遺伝子の3’末端に変異を有し、重症なデスモイド腫瘍を伴う数家系が報告されている[Eccles et al 1996,Scott et al 1996,Couture et al 2000].
    • Nieuwenhuis & Vasen [2007]はデスモイド腫瘍とコドン1444より下流の変異に一貫した相関を明らかにした.
  • CHRPEは以下と関連している.
  • 甲状腺がんとFAPを伴う患者では以下のような関連性がある.
    • 24名の患者において、病的変異の大多数はコドン1220より5’側にあった[Cetta et al 2000];
    • 別の研究では12名中9名で変異がクラスター領域(コドン1286-1513)より上流に認められた[Truta et al 2003].
  • 2006年8月時点での文献と追加報告[Nielsen et al 2007a]によれば,89種類のAPC遺伝子欠失(42の部分欠失と47の全遺伝子欠失)が同定されている.軽症型FAPの報告もあるが、大多数のAPC遺伝子部分欠失および全欠失症例には100-2000個の大腸腺腫が見られる[Nielsen et al 2007a].腸管外病変は36%の症例に認められ,部分欠失例と完全欠失例で明らかな違いはない.

浸透率

FAPでは,未治療の場合の大腸腺腫性ポリポーシスと大腸がんの浸透率は100%である.
軽症型FAPでは、大腸ポリポーシスの浸透率はまだ完全に分かっていないが、80歳までの大腸がんの発生リスクはおおよそ70%と推測されている[Neklason et al 2008].
APC関連ポリポーシスにおけるほかの腸管内および腸管外病変の浸透率は臨床像の項を参照のこと。

表現促進現象

最近の観察研究ではAPC関連ポリポーシスにおける促進現象の可能性が示唆されているが[Heald et al 2007],真の遺伝的促進現象(変異に関連した遺伝的機序により下の世代でより重症になるリスクが高まる)はAPC関連ポリポーシスでは観察されていない.むしろ,家系内の最初の患者が臨床的に軽症の場合は,しばしば病的変異の体細胞モザイクが原因である.

病名

FAPは家族性大腸ポリポーシス(familial polyposis coli)としても知られている。歴史的にadenomatous polyposis coli (APC)とも呼ばれていた.現在、これが原因遺伝子の名前になっている.
FAPと同様にAPC遺伝子の変異に起因することがわかっているので,現在ではGardner症候群という病名は主に歴史的な意味合いがある.さらに,十分な検索により,目立たない腸管外病変がほとんどすべてのFAP患者で認められる.にもかかわらず,腸管外病変が目立つ患者や家系はこれからもGardner症候群とよばれるであろう.
FAPの一部の家系では複数の患者に中枢神経腫瘍が認められることから,Turcot症候群という病名は意義の不確かなFAP関連病変として使われる.Turcot症候群は中枢神経腫瘍を伴う大腸腺腫性ポリポーシスとしても知られている.
軽症型FAP(=軽症型大腸腺腫性ポリポーシス)は「遺伝性扁平腺腫症候群」と同じものである[Lynch et al 1992].

頻度

すべてのAPC関連ポリポーシスを含む(一部の軽症型FAPが含まれていない可能性がある)患者登録データによれば,FAPの頻度は人口10万人あたり2.29-3.2人である[Burn et al 1991,Jarvinen 1992,Bülow et al 1996].
軽症型FAPは,古典型FAPに比べてポリープ数が少なく大腸直腸がんのリスクも低いため,診断されていない可能性がある[Neklason et al 2008].
APC関連ポリポーシスは,かつて全大腸がんの0.5%を占めると考えられてきたが,リスクのある家族に対して早期のポリープ発見と予防的大腸切除術が行われるようになったため,この数字は低下しつつある.


鑑別診断

本稿で扱われる疾患に対する遺伝学的検査の実施可能性に関する最新情報は,GeneTests Laboratory Directoryを参照のこと.―編集者注.

APC関連ポリポーシスは他の大腸がんを伴う遺伝性疾患や他の消化管ポリポーシス症候群とは分子遺伝学的検査,病理学的所見や臨床的特徴によって鑑別される.鑑別すべき疾患には以下のものが含まれる.

  • MUTYH関連ポリポーシス(MAP) MAPの臨床像は軽症型FAPに似ているが,常染色体劣性遺伝性形式をとる.MUTYH遺伝子の生殖細胞系列変異が多発性腺腫や大腸ポリポーシスを有する患者に認められる.もし大腸ポリポーシス患者でAPC遺伝子に病的変異が見つからなかった場合は,MUTYH遺伝子検索を検討する必要がある[Sieber et al 2003].

MUTYH遺伝子の両アレルの変異が,ポリープがないかごくわずかしかなく,50歳以前に大腸がんを発症した患者の数名で同定されている[Wang et al 2004].MUTYH遺伝子の両アレルの変異を有する患者における十二指腸ポリープの頻度は4‐25%である.腸管外病変も報告されている[Aretz et al 2006].
ある研究によれば,APC遺伝子の病的変異がないポリポーシス患者におけるMUTYH変異の検出率は腸管病変の重症度に左右され[Aretz et al 2006]、MUTYH遺伝子の両アレルの変異陽性率は下記に報告されている.

  • 25歳以上で10−100個のポリープ、あるいは45歳以降で100個以上のポリープと診断された患者227名中40名(18%)
  • 35−45歳で100個以上のポリープを診断された患者26名中7名(27%)
  • 35歳以前に100個以上のポリープを診断された患者41名中0名(0%)
  • 68歳で診断されたポリープおおよそ1,000個あたり1名
  • リンチ症候群(hereditary non-polyposis colon cancer: HNPCC) HNPCCは4種類のミスマッチ修復遺伝子(MLH1, MSH2, MSH6,PMS2)のうちのひとつの生殖細胞系列変異が原因となり,大腸直腸がんや他のがん(子宮内膜,卵巣,胃,小腸,肝胆道系,上部尿路系,脳,皮膚)を発症するリスクが上昇する疾患である.若年発症の大腸がんや腺腫性ポリープの少ない患者ではリンチ症候群と軽症型FAPの鑑別は難しい[Cao et al 2002].このような場合には大腸以外のがんの家族歴や腫瘍組織のマイクロサテライト不安定性(MSI)検査,もしくは免疫組織化学(IHC)検査の検討がどちらの原因が関与しているか鑑別するのに有用である.

ミスマッチ修復遺伝子の両アレルの変異はまれではあるが報告がある.罹患者は小児期に頻繁に脳腫瘍,血液系腫瘍,または大腸がんやその他のリンチ症候群関連がんを発症する[De Vos et al 2005, Felton et al 2007].カフェ・オレ斑や腋窩/鼠径部のそばかすが大多数の患者に見られ,軽症型FAPに類似する多発性腺腫も認められる[Felton et al 2007, Jasperson et al 2011].

  • Peutz-Jeghers症候群(PJS) PJSはAPC関連ポリポーシスに見られないPeutz-Jeghers型ポリープと皮膚粘膜の色素沈着が特徴である。PJS型ポリープは通常小腸(空腸,回腸および十二指腸)に好発するが,消化管の他のどの部位にも生じうる.PJSは常染色体優性遺伝形式をとる。分子遺伝学的検査では大部分の患者で原因遺伝子であるSTK11の変異を認める.
  • PTEN過誤腫症候群(PTEN hamartoma tumor syndrome: PHTS) PHTSの中に最も多いCowden症候群(CS)では多発性大腸ポリープが見られる。APC関連ポリポーシスと違って、過誤腫性ポリープ(若年型ポリープ、脂肪腫および神経節腫)が一般的で、大腸がんは稀な所見である。CS診断基準を満たした患者の約80%で、PTEN病的変異が検出される。
  • 若年性ポリポーシス症候群(Juvenile polyposis syndrome, JPS) JPSは過誤腫性ポリープに特徴づけられ、これはAPC関連ポリポーシスとの鑑別の要となる.過誤腫性ポリープは消化管,特に胃,小腸,大腸,直腸に発生する.JPS患者の多くは20歳までに数個のポリープが発生する.一部の患者では生涯を通じで4−5個のポリープしか発生しないが,その一方で同じ家系内の患者で100個以上のポリープが発生することもある.大多数の若年性ポリープは良性であるが,悪性化をきたすこともある.JPSは常染色体優性遺伝性である.JPS患者の約20%はSMAD4遺伝子、20%はBMPR1A遺伝子に病的変異を持つ.APC遺伝子に病的変異との報告はなかった.
  • 遺伝性混合ポリポーシス症候群(Hereditary mixed polyposis syndrome, HMPS) HMPSでは大腸腺腫や大腸がんのリスクが上昇する.HMPSの特徴的病変は若年型-腺腫型大腸ポリープの混合型である[Rozen et al 2003].さらに、大腸腺腫,過形成ポリープ、鋸歯状腺腫や混合型の過形成-大腸腺腫ポリープも生じうる.最近では、GREM1遺伝子上流における遺伝子重複がHMPSの原因と報告されている[Jaeger et al 2012].HMPSは常染色体優性遺伝をとる.
  • 神経線維腫症1型(NF1) NF1では多発性のポリープ様神経線維腫や神経節腫が小腸,胃,大腸に生じることがある.

APC関連ポリポーシスと鑑別すべき病態には以下の後天的疾患も含まれる.

  • Cronkite-Canada症候群 消化管全般の過誤腫性ポリポーシス,皮膚過剰色素沈着,脱毛,爪萎縮をきたす.
  • 結節性リンパ性過形成 リンパ性増殖性疾患で,小腸,胃,大腸のリンパ節の過形成をきたす.通常よくみられるさまざまな免疫不全症候群に併発することがある.
  • リンパ腫様ポリポーシス 消化管における節外リンパ腫の発生による.多発性リンパ腫様ポリポーシスと地中海型リンパ腫の2病型がある.
  • 炎症性ポリポーシス 後天性で炎症性消化器疾患(最も多いのは潰瘍性大腸炎)に伴い非腫瘍性ポリープを生じる.
  • 散発性大腸腫瘍 大部分の非遺伝性大腸がんではAPC遺伝子の体細胞変異を生じている[Miyoshi et al 1992,Powell et al 1992,Smith et al 1993].この変化はがん化の初期段階で起きると考えられている[Fearon & Vogelstein 1990].
  • 治療関連ポリポーシス 最近報告された消化管ポリポーシスのなりうる原因である.放射線治療と化学療法を受けた5名の小児がん生存者は消化管ポリポーシスを発症した[Yurgelun et al 2013].しかし、消化管ポリポーシスは化学療法/放射線によるものなのか、それとも偶発的なものなのかはまだ不明である.

その他

鋸歯状ポリポーシス(かつて:過形成ポリポーシス)は多発性大腸鋸歯状ポリポーシス(過形成ポリポーシス、定着型鋸歯状腺腫/ポリープおよび古典型鋸歯状腺腫)を含む.本症は遺伝性かそれとも後天的なのかまだ明らかではない[Snover et al 2010]. 通常、鋸歯状ポリープは顕著であるが、鋸歯状ポリポーシスの患者は多発性大腸腺腫を合併することも多い[Kalady et al 2011].家族歴が見られる場合もあるが、同じ家系内に鋸歯状ポリポーシスの診断基準を満たした患者が1名以上にいるのが稀である。

注:本症に関する鑑別診断は、診断支援ソフトを参照すること(事前登録または研究目的の使用が必要).


臨床的マネジメント

確定診断後における評価

APC関連ポリポーシスと診断された患者の病変の程度を把握するために以下の評価が推奨されている.

  • 本人の既往歴,特に古典型FAPに関連した既往(大腸がん,大腸ポリープ,直腸出血,下痢,腹痛)について
  • 特にFAP病態に関連した家族歴
  • 古典型FAPの腸外病変に特に注意した身体診察
  • CHRPEを評価するための眼科診察(任意)
  • 大腸内視鏡検査による病理学的評価
  • 側視鏡による上部消化管内視鏡検査の検討;もし臨床症状がある場合は,小腸造影や造影剤を用いた腹部・骨盤腔のCT検査

注:Smith et al [2000b]Ferrández et al [2006]は,FAP患者の副腎腫瘤をスクリーニングする意義は認められないと報告している.

症状に対する治療

古典型FAP患者に対しては腺腫が発生した後は大腸切除術が推奨されるが,手術時期はポリープのサイズと数によって遅らせることもできる.通常、腺腫の数が20−30を超えた時や,病理学的に進行した多発性腺腫が発生した時は手術が勧められる.
軽症型FAPでは大腸切除術はおそらく必要であるが,約1/3の患者では,ポリープの数が少ないため、定期的な大腸内視鏡と内視鏡的ポリープ切除術によって経過観察が十分である(サーベイランスの項を参照とのこと).
大腸切除の術式は以下にあげられる.

  • 肛門温存直腸結腸切除
  • 回腸肛門吻合術を伴う直腸結腸切除
      • 直腸粘膜全摘を伴わない一括的吻合

あるいは

      • 直腸粘膜全摘を伴う手縫い吻合
  • 回腸肛門吻合術を伴う結腸全摘術;軽症型FAPや直腸にポリープが進展している場合にしばしば施行される
  • 永続的人工肛門造設を伴う結腸全摘術

    注:この方法が必要になることはめったにない.

回腸パウチを造設した患者の57%でパウチに腺腫様ポリープが見つかった.パウチでのポリープ発生と大腸や十二指腸でのポリープの重症度には明らかな相関はなかった[Groves et al 2005].
外科的移行帯のがん発生リスクは低いが報告がある[Ooi et al 2003].

  • 小腸ポリープ ポリープが絨毛性変化や高度の異型性を示す場合や直径が1 cmを超える場合,臨床症状を引き起こす場合には内視鏡あるいは手術による切除を考慮すべきである[Wallace & Phillips 1998,Saurin et al 1999,Kadmon et al 2001].

重度の十二指腸腺腫に対しては膵十二指腸切除術(Whipple procedure)が必要となる場合もある.

心血管および脳血管病変に悪影響を与えるため、2005年にロフェコキシブ(rofecoxib)が市場から撤退した.また、腺腫を収縮させるに必要な用量を投与することで、同じ悪影響はセレコキシブ(celecoxib)でも起きたため、FAP治療のためにこうした薬剤の長期投与に疑問が投げかけられている.セレコキシブは補助療法として、FDAに承認されたものの、心血管への影響や長期的フォローアップによる有効性を検証できるエビデンスが少ないとのことで、承認が撤回された.ある研究では、アスピリンはポリープ収縮に中等度の効果を認めたが、FAPでの使用は更なる研究が必要とされ、現段階ではまだ推奨されていない[Ishikawa et al 2014].

注:大腸手術前のNSAIDsの使用はまだ試験段階にある(研究中の治療法の項を参照すること).

一次病変の予防

20〜30個以上の腺腫をまたは複数の腺腫に進行性の組織像が見られる場合に、大腸がんリスクを軽減するために大腸全摘が推奨される.
十二指腸/膨大部腺癌のリスクを軽減するために、ポリープが絨毛様変化あるいは重度な異型性が見られたり、ポリープの直径が1pを超えたり、何らかの症候を起こしたりする場合に、内視鏡あるいは外科的切除を考慮すべきである.

サーベイランス

FAP患者APC遺伝子病的変異陽性者,遺伝子検査は行われていないが罹患しているリスクがある人,遺伝子検査で変異を同定できなかった家系の家族員に対して推奨される経過観察は以下となっている[Giardiello et al 2001].

  • 10-12歳以降,1年ないし2年ごとにS状結腸内視鏡検査あるいは大腸内視鏡検査.
  • 一旦ポリープが発見されたら大腸内視鏡検査.
  • もしポリープが生じてから大腸切除術が1年以上延期される場合は毎年の大腸内視鏡検査.もし対象となる者の年齢が10歳台で,腺腫の大きさが6 mm未満でありかつ絨毛様変化を伴っていない場合には,大腸切除術の延期を考えてもよい.
  • 食道胃十二指腸内視鏡(EGD)は大腸ポリープが発見されたら,あるいは25歳になったら開始し,1-3年ごとにくり返す.

注:(1)EGD検査の頻度は十二指腸腺腫の程度による.Spiegelmanの病期分類が検査の頻度を決めるのに役立つ.(2)十二指腸乳頭を観察するために側視鏡を使用したほうがよい.(3)腺腫様組織は通常乳頭部に認められるので,たとえポリープが見当たらなくても乳頭が大きくなっているように見える時は生検を行うべきである.(4)症例によっては総胆管の腺腫を確認する目的で内視鏡的逆行性胆道膵管造影(ERCP)が必要となる.(5)FAPの小腸病変をスクリーニングするためのビデオカプセル内視鏡(video capsule endoscopy, VCE)の有用性は明らかではない.小腸近位部の大きなポリープの同定が不正確であることや乳頭部を観察することができないことなどから,APC関連ポリポーシスに対するビデオカプセル内視鏡の有用性に疑問がもたれている[Wong et al 2006].ある小規模な研究によると、VCEを受けた21名のFAP患者(79%)では膨大部は観察されていなかった[Yamada et al 2014].

  • 十二指腸腺腫が発見された時や大腸摘除術の前には小腸X線検査(小腸造影や経口造影剤を用いた腹部・骨盤部のCT)を行い,所見や症状の有無によって1-3年ごとにくり返す.
  • 肝芽腫のスクリーニング:FAP患者における効果は明らかではない.同様に肝芽腫のリスクが高いBeckwith-Wiedemann症候群のスクリーニングプロトコールでは,しばしば頻回(2-3か月ごと)の腹部超音波検査と結成αフェトプロテインの測定がおこなわれ,肝芽腫の早期発見につながっている[Tan & Amor 2006].FAPにおける同様のスクリーニングは出生時から5歳になるまでの間,考慮される.3か月ごとに検査を行うべきとする考えもあるものの,FAPにおける適切な検査間隔は不明である[Hirschman et al 2005, Aretz et al 2007].
  • 主に美容的問題で腸管外病変に注意し,甲状腺の触診を含む年1回の身体診察.甲状腺結節を認める時は超音波検査や吸引細胞診を行う[Herraiz et al 2007]. ある研究[Jarrar et al 2011]では甲状腺がんを発症した5名の患者は頸部検査によって検出されたため、臨床所見がなくても超音波検査による甲状腺スクリーニングを考慮すべきである.

大腸切除術を受けた人に対して推奨される経過観察 

  • 回腸肛門吻合術を伴う結腸全摘術が選択された場合は,2年ごとの回腸嚢を内視鏡で観察することが勧められる.
  • 結腸亜全摘術が行われた場合は,発生するポリープの数にもよるが,残存直腸の観察を6-12か月ごとに行うべきである.残存直腸からがんが発生する可能性は常にあるが,現在のマネジメント法にしたがえばその危険性は小さい[Church et al 2003a].

軽症FAPを有するリスクがある人に対して推奨される経過観察 

  • 18-20歳頃に開始し,2-3年ごとの大腸内視鏡検査
  • 結腸切除術:腺腫が20-30個に達した場合や,病理所見が進行した場合に通常勧められる(大腸切除術を受けた人に対して推奨される経過観察の項を参照すること).
  • 上部消化管内視鏡検査(EGD)を25歳もしくは結腸切除術施行以前に開始し,1-3年ごとに繰り返す.

    注:(1)検査の頻度は十二指腸腺腫の程度による.Spiegelmanの病期分類が検査の頻度を決めるのに役立つ.(2)十二指腸乳頭を観察するために側視鏡を使用したほうがよい.(3)腺腫様組織は通常乳頭部に認められるので,たとえポリープが見当たらなくても乳頭が大きくなっているように見える時は生検を行うべきである.(4)症例によっては総胆管の腺腫を確認する目的で内視鏡的逆行性胆道

  • 甲状腺の触診を含む年1回の身体診察.甲状腺結節を認める時は超音波検査や吸引細胞診を行う[Herraiz et al 2007].

家系内に同定されているAPC遺伝子病的変異を受け継いでいない家族員に対して推奨される経過観察 

  • 平均的なリスクを持つ人と同様に、50歳から大腸がんスクリーニングを行う.

リスクのある家族に対する検査

リスクのある家族に対する遺伝学的検査

FAPあるいは軽症型FAPを早期に診断することは,適切な時期に治療介入を行い,予後を改善させるのに役立つ.したがってリスクのある子どもの早期の症状について経過観察を行うのは適切である[American Gastroenterological Association 2001 (full text), Hegde et al 2014 (full text)].

リスクのある家族に対して分子遺伝学的検査を行うことは(遺伝カウンセリングの項参照),診断をより正確なものとし,病的変異を受け継いでいない家族員に対して経済的負担のかかるスクリーニングを減らすことができる.APC関連ポリポーシスにおける分子遺伝学的検査とS状結腸鏡検査のコスト比較分析によれば、遺伝子検査のほうが保因者を確定するのに費用効果が優れている.さらに,APC関連ポリポーシス患者が親族にいることをきっかけに診断された人の生命予後は,症状をもとに診断された患者よりも明らかに良好である[Heiskanen et al 2000].

古典型FAPのリスクのある人に対する大腸スクリーニングは早ければ10-12歳から始まるので,分子遺伝学的検査は一般に10歳までに提供される.親や小児科医は乳児期から5歳までの肝芽腫のスクリーニングを考慮するので,出生時の遺伝学的検査も正当化される.軽症型FAPの場合大腸スクリーニングは18-20歳から開始されるので,分子遺伝学的検査も18歳ごろに提供されるべきである.

注:スクリーニングを開始する最適年齢についての確証はない.したがってスクリーニングの開始年齢とスクリーニング方法については医療機関,家族歴,肝芽腫のスクリーニング,親や子の希望によって変わってくる.

研究中の治療

ある小規模な第1相臨床試験では、セレコキシブは大腸全摘術実施前のFAP小児患者に大腸ポリープを減少させる効果があると報告した[Lynch et al 2010]. セレコキシブは心血管疾患リスクを増加させ、長期投与による完全性の問題は懸念の一つである[Solomon et al 2008].CAPPI(大腸腺腫/がん予防プログラム)研究では、アスピリンはFAP患者にポリープの数やサイズを減少させる効果が見られるが、既存のエビデンスは患者への長期投与を支持しない[Burn et al 2011].
広い領域にわたる疾患や病態に関する臨床試験についての情報はClinicalTrials.govを参照すること.

その他

結腸ポリープの発生を予防する目的でNSAIDsが用いられたが,効果が見られなかった[Giardiello et al 2002].


遺伝カウンセリング

「遺伝カウンセリングは個人や家族に対して遺伝性疾患の本質,遺伝,健康上の影響などの情報を提供し,彼らが医療上あるいは個人的な決断を下すのを援助するプロセスである.以下の項目では遺伝的なリスク評価や家族の遺伝学的状況を明らかにするための家族歴の評価,遺伝子検査について論じる.この項は個々の当事者が直面しうる個人的あるいは文化的な問題に言及しようと意図するものではないし,遺伝専門家へのコンサルトの代用となるものでもない.」

遺伝形式

APC関連ポリポーシスは常染色体優性遺伝の形式をとる.

患者家族のリスク

発端者の両親

  • 約20-25%のAPC関連ポリポーシス患者は新生突然変異である[Bisgaard et al 1994].
  • 新生突然変異を生じた遺伝子の由来を調べた研究[Aretz et al 2004]では若干父親由来である場合が多かった(12/16,統計的有意差なし)が,別の研究[Ripa et al 2002]では差がなかった.したがって、父親の加齢に伴うAPC遺伝子新生突然変異率の上昇は示されていない[Ripa et al 2002, Aretz et al 2004].
  • 患者の遺伝子変異が明らかとなった場合には遺伝学的検査で,あるいはAPC関連ポリポーシスの臨床所見によって,患者の両親に評価を行うのが適切である.

    注:APC関連ポリポーシスと診断された患者の大多数には罹患した親がいるが,家族内の患者の存在を認識していなかったり,親が発症前に早期に死亡していたり,あるいは罹患した親の発症年齢が高かったりするために,家族歴が明らかでな場合もある.

発端者の同胞 

  • 発端者同胞のリスクは両親の遺伝的状況に依存する.
  • 両親のいずれかが罹患者か病的変異を有している場合は,そのリスクは50%である.
  • もし両親のいずれもが,発端者に認められた変異を有していない場合は,同胞のリスクは低くなるが,生殖細胞モザイクの可能性があるため,一般集団よりは高い.したがって,明らかに新生突然変異と思われる場合であっても同胞の遺伝学的検査が考慮されるべきである.
  • 生殖細胞モザイクは無症状の79歳の女性で確認されている.彼女の2人の息子は数千個の大腸ポリープとAPC遺伝子変異を有している[Hes et al 2007].他にも、2人の子どもには大腸ポリポーシスとAPC遺伝子変異が同定されているが、母親は無症状の生殖細胞モザイクであった[Schwab et al 2008].

発端者の子 FAP患者の子は50%の確率で変異遺伝子を受け継ぐ.

他の家族 

他の家族のリスクは発端者の両親の状況による.両親のいずれかが罹患しているか,病的変異を有している場合は,彼(彼女)の血縁者にもリスクがある.

遺伝カウンセリングに関連した問題

リスクはあるが無症状の成人や小児に対する検査

リスクのある若年の家族に対する分子遺伝学的検査は臨床的マネジメントに導く手段として適切である.
分子遺伝学的検査は,臨床的に診断された患者でAPC遺伝子変異が確認された場合に,リスクのある家族の状況を確実に判断するために行うことができる.

臨床的に診断された親族の遺伝子検査情報が入手できない状況で,リスクのある家族の状況を判断するために分子遺伝学的検査を行うのは問題を含んでおり,またその結果の解釈には注意を要する.家族での結果が陽性であった場合は,その被験者は変異遺伝子を有しており同じ検査法が家系内の他の者の検査に利用できることを示す.一方罹患している患者よりも先に家族に対して分子遺伝学的検査が行われる場合,検査で変異が見られなかったことは必ずしもその被験者が変異遺伝子を有していないことを意味しない.そのような場合には分子遺伝学的検査による保因者診断はできないので,リスクのある家族員は臨床的な経過観察プログラムにしたがう必要がある.

古典型FAPのリスクのある家族員に対する大腸スクリーニングは早ければ10歳に始まるので,分子遺伝学的検査は一般にこの年齢までに提供される.軽症型FAPに対する同様の大腸スクリーニングは18-20歳に開始されるので,分子遺伝学的検査は18歳前後で提供される.分子遺伝学的検査はもし検査結果で臨床的マネジメントを変更するような場合(例:両親が子どもの肝芽腫スクリーニングを考慮するような場合)にはより早期に行われることもある.FAPで肝芽腫のリスクが高いことを考慮して,生後数か月の間に予測的遺伝学的検査が検討される場合もある.

両親はしばしば疾患を受け継いでいない子に対する不要なスクリーニング検査を避けたいという思いで、より早期の遺伝子検査を希望する.遺伝子検査の前には子と両親に対する教育に関して特別の注意を払う必要がある.検査結果を両親と子に伝える方法についてはあらかじめ決めておくべきである.大部分の子どもは発症前遺伝子検査結果の開示後に明らかな心理的問題を生じてはいないが,Codoriらはこうした家族に対する長期の心理的サポートを準備することを推奨している.

他の考慮すべき問題

APC遺伝子の分子遺伝学的検査をオーダーする医師や検査を受ける被験者は,検体を検査機関に送る以前に検査のリスク,利点,限界について理解しておくことが勧められる.ある調査によればFAPの検査を受けた患者の約3分の1では医師が検査結果を誤って解釈していた[Giardiello et al 1997].またMichieら[2002]によれば,変異陰性という結果を遺伝専門医以外から伝えられた家族は,遺伝専門医から陰性結果を伝えられた場合に比べて定期的検査の継続を希望する割合が高かった.なぜ一部の被検者は検査結果が陰性であっても、安心できずサーベイランスを継続するのかに関する追跡調査では,著者らは結果の受容においては効果的なコミュニケーションが鍵であると結論付けているMichie et al [2003].遺伝カウンセラーへの紹介や遺伝子検査を日常的に行っている機関への紹介が勧められる.

遺伝性腫瘍のリスク評価と遺伝カウンセリング

分子遺伝学的検査に関わらず、遺伝学的リスク評価の過程で保因者を同定することの医学的,心理学的,倫理的な理解はElements of Cancer Genetics Risk Assessment and Counseling (part of PDQ®, National Cancer Institute)を参照すること.

明らかな新生突然変異を有している家系について

発端者の両親に遺伝子変異や発症の証拠がない場合は,発端者は新生突然変異によって発症した可能性が高い.ただし,父親が異なるとか開示されていない養子縁組のような非医学的な理由による可能性も念頭におく必要がある.

DNAバンク

DNAバンクは主に白血球から調製したDNAを将来の使用のために保存しておくものである.検査法や遺伝子,変異あるいは疾患に対するわれわれの理解が進歩するかもしれないので,ことに現在行っている分子遺伝学的検査ではすべての変異を検出できないような疾患に関してはDNAの保存は考慮すべきかもしれない.
 *胎生週数は最終月経の開始日あるいは超音波検査による測定に基づいて計算される.

訳注:一般に本症に対して出生前診断の適応があるとは考えられていない.

FAPのような治療法が存在する典型的な成人発症の遺伝性疾患に対する出生前診断の希望はあまりない.専門家の間や家族内においても,特にそれが早期診断ではなく妊娠中絶を目的とした場合には,出生前診断に対する考え方の違いが存在しうる.多くの専門機関は出生前診断については夫婦の自己決定の問題だと考えているが,この問題については注意深く議論することが適切である.

着床前診断 いくつかのがん易罹患性疾患に対する着床前診断が報告されており,子どもがFAPとなる可能性を有するカップルに対する選択肢となりうる.着床前診断を行う前に,親となる患者の変異が明らかにされている必要がある.妊娠は生殖補助療法によって成立させ,不妊治療の専門家や内分泌の専門家との連携が必要である.

訳注:日本では行われない.


分子遺伝学

下記の記述は最新の情報が含まれているため、GeneReviewsに記載されているほかの情報と異なる場合がある

Table A. APC関連ポリポーシス:遺伝子およびデータベース

遺伝子記号

染色体座位

タンパク

座位特異性

HGMD

APC

5q22.2

Adenomatous polyposis coli protein

APC @ ZAC-GGM
Colon cancer gene variant databases: Adenomatous Polyposis Coli (APC)

APC

Table B. OMIMにおけるAPC関連ポリポーシス (View All in OMIM)

175100

FAMILIAL ADENOMATOUS POLYPOSIS 1; FAP1

611731

APC GENE; APC

遺伝子構造

APC遺伝子には15個のエクソンがあり、複数の翻訳および非翻訳領域に選択的にスプライスされる.主な転写物NM_000038.5は、311.8-kdタンパクを構成する2843個アミノ酸を翻訳する.最後のエクソンはサイズが大きく、APC遺伝子の四分の三以上を構成している.遺伝子およびタンパクに関する詳細な要約はTable Aの遺伝子記号を参照すること.

病的アレル変異

APC関連ポリポーシスを有する家系では、826ヵ所以上の病的変異が同定されている[Beroud et al 2000].病的変異は通常1アミノ酸置換やフレームシフトを引き起こし、切断型APCタンパクが生成される.病的変異は遺伝子全領域に点在するが、主に5’末端に集中している.最も頻度の高い生殖細胞系列APC病的変異はc.3927_3931delAAAGAである.(更なる情報はTable Aを参照すること)

Table 3 選択的APCアレル変異

変異アレルの分類

DNA塩基配列の変化

タンパク・アミノ酸の変化(Alias1)

参照配列

非病的変異

c.5465T>A

p.Val1822Asp
(p.Asp1822Val)

NM_000038.5
NP_000029.2

臨床的意義が不明な変異

c.3949G>C

p.Glu1317Gln

大腸がんの素因となる変異

c.3920T>A

p.Ile1307Lys

病的変異

c.3927_3931delAAAGA

p.Glu1309AspfsTer4

正常遺伝子産物 APCタンパクはヒト上皮細胞の細胞核および細胞膜/細胞骨格に存在する[Neufeld & White 1997].APCタンパクはホモ二量体化のタンパクであり[Joslyn et al 1993]、GSK3b[Rubinfeld et al 1996], βカテニン[Rubinfeld et al 1993, Su et al 1993]、γカテニン[Hulsken et al 1994, Rubinfeld et al 1995]、チューブリン[Munemitsu et al 1994, Smith et al 1994]、EB1[Su et al 1995]およびhDLG(ショウジョウバエのがん抑制蛋白質であるDiscs large(Dlg)のヒトホモログ)[Matsumine et al 1996]などのタンパクと結合する.APCタンパク産物は腫瘍抑制因子である.APCタンパクはグリコーゲン合成酵素キナーゼ3b(GSK-3b)との複合体を作り、この複合体は細胞接着および細胞内のシグナル伝達に関与するβカテニンを標的とする[Korinek et al 1997, Morin et al 1997, Nakamura 1997, Peifer 1997, Rubinfeld et al 1997].正常なAPCタンパクはβカテニンを制御することによって、正常なアポトーシスを維持し、細胞増殖を減少させる役割を果たしている.この経路は正常な、既知のいくつかの細胞増殖機能に関与するWingless-Wntシグナルに含まれている.

APCタンパクは有糸分裂時の動原体に集積し、動原体微小管接着に作用し、マウス胚幹細胞の染色体分離に働く[Fodde et al 2001, Kaplan et al 2001].染色体不安定性がAPC機能喪失時によく見られるため、APCタンパクは染色体不安定性に関与すると推測されている.

APCタンパクのその他の役割は、大腸腺窩細胞遊走に対する制御、Eカドヘリンと共に細胞接着に対する制御、GSK3bと共に細胞極性に対する制御、またはその他の微小管と関連する機能を持つ[Nathke et al 1996, Barth et al 1997, Etienne-Manneville & Hall 2003]. Goss & Groden [2000]はAPCタンパク機能について非常に優れたレビューを提示している.

異常遺伝子産物 通常、APC遺伝子病的変異より、切断型のタンパクを生成される.正常長さのAPCタンパクは細胞膜/細胞骨格、ヒト上皮細胞の核画分に存在するに対し、大腸がん細胞では変異したAPC遺伝子しか存在しない.従って、切断型のAPCタンパクは核画分に存在しないことは明らかとなった[Neufeld & White 1997].
異常タンパクを生成するAPC遺伝子変異アレルでは、高濃度の遊離細胞質βカテニンを観察される.遊離細胞質βカテニンは細胞核に遊走し、転写因子Tcf-4 or Lef-1(T細胞リンパ系エンハンサー因子)と結合することで、c-MycやサイクリンD1のようながん遺伝子の発現を活性化する可能性がある[Chung 2000]. 標的とされる特異的遺伝子はまだ不明だが、細胞増殖を増やしたり、アポトーシスを減らしたりする遺伝子である可能性がある.APCタンパクは細胞遊走に重要であるため、異常APCタンパクは、正常な大腸腺窩の細胞配置を混乱させる可能性がある.さらに、APC遺伝子病的変異は大腸がんにおける染色体不安定性に関与すると思われている[Fodde et al 2001].


更新履歴

  1. Gene Review著者: Randall W Burt, MD, Kory W Jasperson, MS
    日本語訳者: 櫻井晃洋(信州大学医学部遺伝医学・予防医学講座)
    Gene Review 最終更新日: 2008.7.24. 日本語訳最終更新日: 2008.12.15.
  2. Gene Review著者: Kory W Jasperson, MS and Randall W Burt, MD.
    日本語訳者: 江田 肖(瀬戸病院 遺伝診療科),櫻井晃洋(札幌医科大学医学部遺伝医学)
    Gene Review 最終更新日: 2014.3.27.   日本語訳最終更新日: 2014.6.27. (in present)

 

原文 APC-Associated Polyposis Conditions

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