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APC関連ポリポーシス
(APC-Associated Polyposis Conditions)

Gene Reviews著者: Kory W Jasperson, MS, Swati G Patel, MD, MS, and Dennis J Ahnen, MD.
日本語訳者: 箕浦祐子(札幌医科大学大学院医学研究科遺伝医学),櫻井晃洋(札幌医科大学医学部遺伝医学)

Gene Reviews 最終更新日: 2017.2.2. 日本語訳最終更新日: 2018.5.6.

原文: APC-Associated Polyposis Conditions


要約

疾患の特徴 

APC関連ポリポーシス(APC-associated polyposis conditions)には,家族性大腸ポリポーシス(FAP),軽症型FAP(attenuated FAP),胃腺がん,胃近位ポリポーシス (GAPPS) が含まれる.

FAPは数百から数千の前がん大腸ポリープが発生する大腸がん易罹患性症候群で,発症の平均年齢は16歳(範囲:7-36歳)である.35歳までに,95%の患者に大腸ポリープが発生する.大腸切除術を施行しない限り大腸がんは必発である.未治療患者における大腸がん診断の平均年齢は39歳(範囲:34-43歳)である.大腸以外にも,胃底・十二指腸ポリープ,骨腫,歯牙異常,網膜色素上皮の先天性肥大(congenital hypertrophy of the retinal pigment epithelium: CHRPE),軟部組織腫瘍,デスモイド腫瘍,関連がんなどさまざまな病変を合併する.

軽症型FAPの特徴は,複数の大腸ポリープ(平均30個)が生じ,より近位で発生すること,FAPよりも高齢になってから大腸がんが発生する点である.

GAPPSは,胃底腺ポリポーシス,および胃がんのリスク上昇を特徴とし,大腸関連症状を有するという報告はほとんど見られない.

診断・検査 

APC関連ポリポーシスは,現在では分子遺伝学的検査によって確定診断される.一般的には,関連の疑われる個人的および/または家族歴の特徴を持つ個人において,APC遺伝子にヘテロ接合型の生殖細胞系列病的バリアントが同定されることによって確定する.

臨床的マネジメント 

症状の治療: 大腸がんの診断または疑いがある,あるいは重大な症状(出血/閉塞)がある場合は,大腸切除術の絶対的適応となる.その他,大腸切除術の適応となる関連症状としては,内視鏡的に切除することが難しいと思われる6mmよりも大きな複数の腺腫がある場合や,サーベイランス期間中に顕著な腺腫数の増加が認められた場合,高悪性度異形成を伴う腺腫がある場合,大腸を正確に調べられない状況(例えば,無数の小型腺腫の存在,あるいは大腸内視鏡のアクセスや適応が限られている場合)などが含まれる.数々の研究で,非ステロイド消炎鎮痛薬(NSAIDs)がFAPにおける腺腫を退縮させ,ポリープによる症状を減らすいうことが示されたが,現在FDAが承認しているFAPのための化学予防剤は存在しない.十二指腸ポリープが絨毛性変化や高度異形成を生じた場合,径が1cmを超えた場合,あるいは臨床症状を引き起こしている場合には,内視鏡あるいは外科的ポリープ切除が考慮される.骨腫は美容的な理由で切除される.デスモイド腫瘍は外科的に切除されるか,もしくはNSAIDs,抗エストロゲン薬,細胞毒性化学療法,および/または放射線照射によって治療する.

サーベイランス: 大腸スクリーニングについては,FAPについては10-12歳に達したら,軽症型FAPについては10代後半から開始する.20-30歳あるいは結腸手術前には,食道胃十二指腸鏡検査を,定期的な身体検査では,甲状腺の触診,神経学的検査,および腹部検査(デスモイドの場合)を実施し,さらに甲状腺がんのリスク増加を考慮する場合,1年ごとの甲状腺超音波画像検査も検討する.肝芽腫のスクリーニングには,肝臓超音波検査と血清αフェトプロテイン濃度の測定を行う(5歳まで).GAPPSの患者に対する胃がんスクリーニングや予防的胃切除術の効果については,現段階ではわかっていない.

リスクのある親族の検査: 分子遺伝学的検査によって早期にリスクのある血縁者を診断することは,診断の確実性を上げ,病的バリアント遺伝子を受け継いでいない血縁者に対して経済的負担のかかるスクリーニングを回避することができる.

遺伝カウンセリング 

APC関連ポリポーシスは常染色体優性遺伝の形式をとる.約75-80%の患者には罹患した親がいる.患者の子は50%の確率でAPC遺伝子における病的バリアントを受け継ぐ.家系内の発端者における病的バリアントが同定されている場合には,出生前診断や着床前診断が可能である.

訳注:日本では,本症に対する出生前診断や着床前診断は行われない.いずれにしても次世代への遺伝に関しては細心の遺伝カウンセリングが必要である.


本稿の記載範囲

APC関連ポリポーシス には以下の病態が含まれる.

  • 家族性大腸ポリポーシス(FAP)
  • 軽症型FAP
  • 胃腺がんおよび胃近位ポリポーシス(Gastric adenocarcinoma and proximal polyposis of the stomach;GAPPS)

同義語と旧名については,Nomenclature(学名)を参照すること.


診断

APC関連ポリポーシスが疑われる所見

米国総合癌センターネットワーク (NCCN)はFAPおよび軽症型FAPの診断のためのアルゴリズムを発表している[Provenzale et al 2016].これらのガイドラインでは,APC遺伝子の遺伝学的検査が推奨されている.GAPPSの診断ための合意の得られたガイドラインはまだ存在しない.

NCCNガイドラインでは,以下の臨床的所見が見られる場合,APC関連ポリポーシスを疑うべきであるとされている.

  • 複数の大腸腺腫性ポリープ(少なくとも累計10-20個の大腸腺腫性ポリープ)
  • 大腸腺腫性ポリープの家族歴(11個以上のポリープがある人が1人,または複数のポリープを持っている近親者が2人以上いればそれ以下の個数でも考慮する.特に若年発症の場合),さらに/または大腸以外に以下の所見が見られる場合.家族歴に基づいて,遺伝カウンセリングや検査の斡旋が必要な場合,ポリープの総数,発症年齢,罹患している血縁者の数,および大腸以外の所見の有無などが影響しうる.
  • 肝芽腫
  • 網膜色素上皮の多巣/両側性先天性肥大(CHRPE)
  • デスモイド腫瘍
  • 櫛状型甲状腺乳頭部がん

上記に加え,APC関連ポリポーシスが疑われる特徴以下の症状が見られる場合も,APC遺伝子の遺伝学的検査をするべきかどうか考慮する.腺腫性ポリープが少数〜ない状態での大腸がんの若年発症,歯牙異常(例えば,過剰歯),骨腫,歯肉腫,類表皮嚢胞,十二指腸腺腫およびがん,胃底腺ポリポーシス,胃がん,膵がん,小腸がん腫および/または髄芽腫.

確定診断

APC関連ポリポーシスの診断は,通常,特徴的な臨床所見を示す患者においてなされ,APC遺伝子にヘテロ接合型の生殖細胞系列病的バリアントが同定されることによって確定する(表1を参照)

注:APC関連ポリポーシスを表す用語は,様々なものが使われてきた.FAP,軽症型FAP,Gardner症候群,Turcot症候群,または最近では,胃腺がんおよび胃近位ポリポーシス(GAPPS)とも記される.これらの表現型に関連する臨床所見はAPC関連ポリポーシスに含まれるが,現在ではこれらすべてがAPC遺伝子の病的バリアントによって引き起こされることが,遺伝学的に定義されている.Gardner症候群やTurcot症候群という用語は,歴史的には興味深いが,現在ではどちらもFAPの範囲に入るものと認識されており,今後は使われるべきではない.GAPPSはつい最近になって使われるようになった用語で,正確な表現型については,まだよくわかっていない.マネジメントガイドラインはFAPと軽症型FAPでは異なっている.FAPと軽症型FAPを区別する正確な臨床診断基準については,まだ合意は得られていない.

家族性大腸ポリポーシス(FAP)の診断は,分子遺伝学検査(Table 1参照)によって APC遺伝子にヘテロ接合型の生殖細胞系列病的バリアントを認め,以下の条件のいずれかを満たす場合になされる.

  • 100個以上の大腸腺腫性ポリープ (若年発症者や大腸切除術を実施したものについては,腺腫性ポリープが100個未満の場合も).

注:(1) 100個以上の大腸ポリープはFAPの特異的所見ではない.APC遺伝子の検査は,FAPとその他の大腸ポリポーシスとの鑑別の一助となりうる (鑑別診断の項を参照).

  • 腺腫性ポリープは100個未満であるが,血縁者にFAPと確定診断された患者がいる.

軽症型FAP(attenuated FAP)の診断は,分子遺伝学的検査(Table 1参照)でAPC遺伝子にヘテロ接合型の生殖細胞系列病的バリアントがあり,以下の条件に合致する場合に考慮される.

  • 血縁者にFAPと確定診断された患者がいる;そして/または
  • 大腸の腺腫性ポリープが100個未満;あるいは
  • 平均年齢(41歳) 以上の時点で,大腸の腺腫性ポリープが101個以上ある.

胃腺がんおよび胃近位ポリポーシス(GAPPS)の診断は,以下の条件にあてはまる場合になされる[Worthley et al 2012].

  • 胃体部および胃底腺の限局性ポリープ
  • 近位の胃に101個以上のポリープがあるか,あるいは1度近親にGAPPSの患者がおり,31個以上のポリープがある.
  • 主に胃底腺ポリープ(FGPs)があり,異形成の領域を有するもの(または異形成性FGPまたは胃腺がんの家族歴がある).
  • 常染色体優性遺伝形式
  • 大腸あるいは十二指腸にポリープの形跡がない.

注:(1)プロトンポンプ阻害剤の使用(プロトンポンプ阻害剤の適応となる患者では内視鏡による反復治療が推奨される)やその他の遺伝的要因など,他の原因で生じる胃のポリープは除外されるべきである.(2)上記の診断基準は,元々GAPPSの原因となるAPC遺伝子のプロモーター1Bにおける疾病関連変異の同定に先立って提唱されたものである.この新規の情報がある以上,APC遺伝子のプロモーター1Bにおける疾病関連変異はGAPPSの診断基準に含めるべきであるが,より多くの情報が入手可能になると,これらの診断基準は目まぐるしく変化していくことになる.例えば大腸ポリポーシスは,現在ではGAPPS患者にも一定数見られることがわかってきている.

分子遺伝学的検査

分子遺伝学的検査法には,単独の遺伝学的検査やマルチジーンパネルなどがある.

  • 単独の遺伝学的検査.APC遺伝子のシークエンスおよび欠失/重複解析の両方を実施するべきである.最初の検査でAPC遺伝子に病的バリアントが見つからない場合は,欠失/重複解析で制御領域(特にプロモーター1B)の解析も実施する.
  • マルチジーンパネルにはAPC遺伝子や他の関連遺伝子(「鑑別診断」の項を参照)が含まれている.注:(1)マルチジーンパネルに含まれる遺伝子や検査の精度は,検査機関によって異なっているだけでなく,時代とともに変化する.(2)マルチジーンパネルには本稿で扱っている病態に関連のない遺伝子が含まれている場合もあるため,臨床医は最善のコストで遺伝的原因を確定できるよう,重要性の低い所見を排除しつつ,どの検査を行うのが最適であるかを決定しなければならない.(3)こうした検査で用いられる手法には,配列解析,欠失・重解析,配列解析以外の検査がある.

マルチジーンパネルの詳細については別項を参照すること.臨床医のための,遺伝学的検査依頼に関するより詳細な情報はこちらを参照.

Table 1. APC関連ポリポーシスで使用される分子遺伝学的検査の概要

遺伝子1 検査方法 この方法3により検出可能な病的バリアントを
有する発端者の割合2
APC 配列解析? £90%?
欠失/重複解析6 〜8%-12%7
  1. 染色体座位およびタンパク名はTable A.遺伝子とデータベースの項を参照のこと.
  2. アレル多型の関連情報は分子遺伝学の項を参照のこと.
  3. APC遺伝子病的バリアントの検出率は大腸ポリポーシスの重症度および家族歴に依存する.古典型ポリポーシスにおける検出率は軽症型[Sieber et al 2002, Aretz et al 2005, Michils et al 2005, Aretz et al 2006]より高い.ポリポーシスの家族歴を有する集団における検出率は,親世代に罹患者のない集団より高い[Truta et al 2005, Aretz et al 2007, Hes et al 2008]. 軽症型FAPにおいて,同定できるAPC遺伝子病的バリアントの割合は30%以下である[Lefevre et al 2006].
  4. 配列解析で検出される変異は非病的バリアント,おそらく非病的バリアント,意義不明な変異,おそらく病的バリアント,病的バリアントがある.病的バリアントには小規模な遺伝子内欠失/挿入やミスセンス,ナンセンス,スプライス部位変異が含まれる.通常,エクソンや全遺伝子の欠失/重複は検出されない配列解析結果に対する解釈は別項を参照すること.
  5. 明らかなAPC遺伝子新生突然変異(すなわち家族歴がない)による患者の約20%が体細胞モザイクである[Hes et al 2008]. 体細胞モザイクの患者において,血液リンパ球から抽出したDNAを用いたAPC遺伝子解析は変異細胞数が少ないため,病的バリアントを検出できない可能性がある[Aretz et al 2007, Hes et al 2008].これは罹患した親を有する集団に比べ,孤発例(家系内に罹患者が1人しかいない)における病的バリアントの検出率が低いこと(の一部)を説明できる
  6. 標的遺伝子の欠失・重複解析では,遺伝子内の欠失や重複が検出できる.検査方法は,定量的PCR,ロングレンジPCR,MLPA(multiplex ligation-dependent probe amplification)法,単一エクソンの欠失や重複の検出を目的とする標的遺伝子マイクロアレイなどである.大きい欠失/重複の検査には,APC遺伝子の制御領域(特にプロモーター1B)が含まれるべきである. [Rohlin et al 2011].
  7. 100個以上の大腸ポリープを有するAPC関連ポリポーシス患者の約8-12%でAPC遺伝子の部分欠失または全欠失が認められる[Sieber et al 2002, Bunyan et al 2004, Aretz et al 2005, Michils et al 2005].ある研究では,10個以上の腺腫性ポリープを有する296名の患者のうち,配列解析,PTT(Protein truncation testing)変性検査および変性勾配ゲル電気泳動(バリアントスキャンの一種)ではMUTYHAPC遺伝子に病的バリアントを認めなかった19名(6%)において,MLPA法によってAPC遺伝子の広範囲の欠失が検出された[Nielsen et al 2007b].

検査特徴 検査の感度,特異度およびその他の検査特徴に関する情報はEuroGentest [Aretz et al 2011 (full text)]より確認できる.


疾患の特徴

臨床像

APC関連ポリポーシスには家族性大腸ポリポーシス(FAP),軽症型FAP,および胃腺がん,胃近位ポリポーシス (GAPPS)が含まれる.

家族性大腸ポリポーシス (FAP)

FAPの患者は大腸腺腫性ポリープが20〜30歳代に出現しはじめる.ポリープが診断される平均年齢は16歳(7-37歳)である[Petersen et al 1991].35歳までには95%の患者でポリープを発生する.いったんできるとポリープは急速に増え,病変が完全に進行すると典型例では数百から数千におよぶポリープが認められる.大腸切除術を行わなければ大腸がんは必発である.未治療患者が大腸がんと診断される平均年齢は39歳(34-43歳)である.未治療のFAP患者の大腸がんを発症するリスクは21歳までで7%,45歳までで87%,50歳までで93%である[Bussey 1975].稀ではあるが,50歳台で無症状の患者も報告されている[Evans et al 1993].一般に,家系間,家系内で表現型が様々に異なる [Giardiello et al 1994, Rozen et al 1999].

FAPに認められる他の病変

Table 2. FAPにおける大腸がん以外のがんの生涯発症リスク

部位 がんのタイプ 生涯リスク
小腸:十二指腸あるいは乳頭部周囲 癌腫 4%-12%
小腸:十二指腸より遠位部 まれ
膵臓 腺癌 〜1%
甲状腺 甲状腺乳頭癌 1%-12%
中枢神経 通常は髄芽腫 <1%
肝臓 肝芽腫 1.6%
胆管 腺癌 低いが,一般集団より高い
腺癌 西洋文化圏においては<1%

小腸ポリープおよび小腸がん 十二指腸の腺腫性ポリープは50-90%のFAP患者に認められ,通常十二指腸の第二区域,第三区域に発生し[Kadmon et al 2001],より遠位に発生することは比較的少ない[Wallace & Phillips 1998].十二指腸ポリープはポリープの数と大きさ,組織像,異形成の程度による分類法が確立している[Spigelman et al 1989].大腸ポリープの数と上部消化管ポリープの数についてはあきらかな相関は認められない[Kadmon et al 2001].

乳頭部周辺(十二指腸乳頭部とファーター乳頭部を含む)の腺腫性ポリープは少なくとも50%のFAP患者に認められる.この領域のポリープは膵管の閉塞をきたす結果,膵炎または胆道閉塞を起こしうるため,FAPではこれらの合併症の頻度が高い.こうしたポリープはしばしば小さく,その観察には側視鏡による検査が必要となる.一部の研究者は膵胆管系の分泌,たとえば胆汁がこの部位の腺腫やがんの発生に関与していると理論付けており[Wallace & Phillips 1998],乳頭部周辺のポリープの悪性化のリスクが十二指腸の他の部位の腺腫よりも高い理由であるかもしれない[Kadmon et al 2001].

小腸がんの生涯発症リスクは4-12%,大多数は十二指腸に発生する.十二指腸における腺癌は乳頭部に最も多く見られる.17〜81歳の間に発症し,診断時の平均年齢は45〜52歳と報告されている[Wallace & Phillips 1998, Kadmon et al 2001].十二指腸遠位部に発生する小腸がんは稀である.FAP患者において,空腸がんと確認されたのは17例,回腸がんと確認されたのは3例のみであった[Ruys et al 2010].

膵がん データは少ないが,197のFAP家系に関する研究では,FAP患者およびリスクのある血縁者において,膵がんの相対的リスクは一般集団より4.5倍高いことが示されている.FAP患者における80歳までの膵がんの生涯発症リスクは1%と推定されている[Giardiello et al 1993].

甲状腺がんおよび良性甲状腺疾患 FAPにおける甲状腺がんの頻度は報告によって非常にばらつきがある.様々な後ろ向き調査を取りまとめた総説による甲状腺がんの発生率は0.4%-2%である一方で,前向き研究では有病率がより高く,2.6%-11.8%と報告されている[Cetta 2015].FAP患者における甲状腺がんの頻度は,女性:男性比が80:1と著しい性差があり,80%以上の患者が18〜35歳の間に診断される[Cetta 2015].病理組織学的には乳頭癌が多数を占め,時に篩状様構造を認める[Jarrar et al 2011, Steinhagen et al 2012].これらは散発性のがんとして発症するが,甲状腺乳頭部のこの種の癌はAPC遺伝子の生殖系列分子遺伝学的検査の適応となる[NCCN 2016].

良性甲状腺疾患の頻度に関するデータは少ない.ある後ろ向き研究によると,FAP患者の9.1%が良性甲状腺疾患(甲状腺機能低下症,甲状腺嚢胞,甲状腺腫または甲状腺炎)を有していた [Steinhagen et al 2012],一方別の前向きスクリーニング研究では,患者の38%が良性甲状腺結節を有していた[Jarrar et al 2011].対象者の数や研究デザイン(後ろ向き研究と前向きスクリーニング研究)の違いよって,各報告における甲状腺疾患の発生率の違いが生じたと考えられる.家族集積性と女性優位性が見られる.

中枢神経系(CNS) APC遺伝子に病的バリアントのある患者におけるCNS腫瘍は,一般的に髄芽腫である.CNS腫瘍のリスクがFAP患者において増加するのは事実であるが,その絶対的リスクは約1%にすぎない.以前は,この大腸ポリポーシスとCNS腫瘍の併発にはTurcot症候群という名称がつけられていたが,この区別はもはや臨床的に有用ではない.

肝芽腫 FAPにおける肝芽腫の絶対的リスクは2%未満だが,その値は一般集団より750〜7,500倍も高い[Aretz et al 2007]. 肝芽腫の大多数は3歳までに発生する[Aretz et al 2007].

胃ポリープおよび胃がん FAPにおいては,胃底腺および腺腫性の両方のポリープのリスクが高まる [Bülow et al 1995].

  • 胃底腺ポリープ(FGPs)は胃底部あるいは胃体部に発生する良性腫瘍である.これらを過誤腫様腫瘍と分類する人もいるが,この分類については未だ議論の下にある.FGPsはFAP患者の約半数に認められ,散発性のFGPsよりも異形成変化を生じることが多い[Offerhaus et al 1999].胃のFGPsのより詳細な総説とFAPや軽症型FAPとの関連についてはBurt [2003]を参照のこと.
  • 胃腺腫性ポリープは2番目に頻度が高いFAP患者の胃病変で[Bülow et al 1995, Wallace & Phillips 1998],通常胃幽門洞に限局する[Offerhaus et al 1999].

報告はあるものの [Offerhaus et al 1999, Garrean et al 2008],西洋文化圏に生活するFAP患者の胃がんリスクは低い.日本や韓国のFAP患者においては一般集団より10倍高い[Garrean et al 2008].胃腺がんはほとんどの場合腺腫から発生すると考えられるが,胃底腺ポリープから発生することもある[Zwick et al 1997, Hofgartner et al 1999, Attard et al 2001].

FAPにおける消化管以外の非悪性病変

以前は,大腸ポリポーシスと,骨腫,歯牙異常,良性の皮膚病変などの顕著な消化管以外の病変の併発は,はじめにその関連性を見出したEldin GardnerにちなんでGardner症候群と呼ばれていた[Gardner 1951].現在ではこれらの症状はAPC遺伝子の病的バリアントに起因していることが明らかとなっており,FAPに分類される.

骨腫 骨腫はFAP患者の約20%に発生する.頭蓋や下顎骨にもっとも高頻度に見られるが,全身のどの骨にも生じうる.骨腫は通常臨床症状を引き起こさず悪性化もしない.小児において大腸ポリープよりも先に現れることがある.

歯牙異常 未萌出歯,1個ないし数個の歯牙の先天的欠損,過剰歯,含歯性嚢胞(未萌出歯の歯冠に関連する歯原性嚢胞),歯牙腫瘍などが約17%のFAP患者に出現すると報告されている.これらの一般人口集団での発生頻度は1−2%である[Brett et al 1994].

網膜色素上皮の先天性肥大(CHRPE) CHRPEは網膜上の不連続で平坦な色素性病変で,年齢とは関係なく臨床症状もきたさない.FAP患者の75%に及んで生じることが報告されている.CHRPEを可視化するには,散瞳させた上での間接検眼鏡による眼底検査を要する場合がある.罹患家系においては多発性,または両側性のCHRPEを認めることはその者にFAPが遺伝していることを示唆する一方,単発性の病変は一般集団にも認められる [Chen et al 2006].

良性皮膚病変 これには類表皮嚢胞や線維腫が含まれ,顔面を含む全身に出現しうる.これらは悪性ではないので,主として美容上の問題となる.稀ではあるが,多発性毛母腫(pilomatricoma;良性の毛包腫瘍)も報告されている[Pujol et al 1995].

デスモイド腫瘍 FAP患者の10〜30%にデスモイド腫瘍が発症する[Nieuwenhuis et al 2011b, Sinha et al 2011].FAP患者でデスモイド腫瘍が発症するリスクは一般集団の800倍以上とされている[Nieuwenhuis et al 2011a].デスモイド型線維腫症患者の少なくとも7.5%はFAP患者である[Nieuwenhuis et al 2011a].よく分かっていないが,この良性の線維性腫瘍は筋線維芽細胞のクローン性増殖によるもので,局所的には浸潤性を有するが遠隔転移はしない[Clark et al 1999].病理組織学的に異なる線維腫病変であるGardner関連線維腫(GAF)はデスモイド腫瘍の前駆病変であるとの仮説がある[Wehrli et al 2001].

デスモイド腫瘍の発生率は20〜30歳代に最も高く,40歳までに発生したデスモイド腫瘍が全体の80%を占める[Sinha et al 2011].FAP患者のデスモイド腫瘍の65%が腹部あるいは腹壁内に発生する[Sinha et al 2011].デスモイド腫瘍が腹部臓器を圧迫したり,腹部手術を複雑にしたりすることもある.約5%のFAP患者はデスモイド腫瘍を経験し,あるいは死因となる.デスモイド腫瘍は報告された腹部腫瘍の死亡率において最も高い[Sinha et al 2011].腹部のデスモイド腫瘍は自然に発生したり,手術後に発生したりする[Bertario et al 2001].妊娠によるデスモイド腫瘍の発生と進行への影響はまだ不明である[Sinha et al 2011].デスモイド腫瘍発生の独立予測因子としては,APC遺伝子コドン1399より下流(3’側)の病的バリアント,デスモイド腫瘍の家族歴,女性,腹部手術の既往があげられる[Sinha et al 2011].デスモイド腫瘍の家族歴は最もリスクへの影響が強く,第一度近親者にデスモイド腫瘍発症者がいれば,リスクは7倍となる[Sinha et al 2011].

CTスキャンやMRIがデスモイド腫瘍の評価に有用である[Clark & Phillips 1996].CTによるFAP患者のデスモイド腫瘍のスコアリングが開発されている[Middleton et al 2003].
副腎腫瘤 FAP患者において,副腎腫瘤のリスクは一般集団より2〜4倍高いと報告されている[Rekik et al 2010].副腎腫瘤は一般集団の1〜3%に認められるが,ある後向き調査によればFAP患者の7.4%に副腎腫瘤が認められた[Marchesa et al 1997].さらに,107例のFAP患者による前向き研究では,対象者の13%に腹部CTで1cm以上の副腎腫瘤を認めた[Smith et al 2000b].機能的病変や癌腫も生じうるが,ほとんどの副腎腫瘤は偶発的に見つかる非症候性の腺腫である [Marchesa et al 1997, Rekik et al 2010].

軽症型FAP

軽症型FAPは古典型FAPより少ない数の(平均30個)大腸ポリープを生じることが特徴であるが,大腸がんの顕著なリスクを伴う.ポリープは古典型FAPに比べてより大腸の近位に認められる傾向がある.
軽症型FAPにおける大腸がんの80歳までの累積発症リスクは70%と推測されている[Neklason et al 2008].大腸がんと診断される平均年齢は50-55歳で, FAPに比べて10-15歳遅いが,散発性の大腸がんに比べれば若年発症である[Spirio et al 1993,Giardiello et al 1997].
同一のAPC遺伝子の生殖細胞系列病的バリアントを伴う軽症型FAPの2つの大家系では[Burt et al 2004,Neklason et al 2008]:

  • 120名の変異陽性者の腺腫性ポリープ数の中央値は25個(範囲:0-470個)であった
  • 120名の変異陽性者で詳細な大腸内視鏡検査記録が得られた患者のうち,44名(~37%)は腺腫性ポリープが10個未満であった
  • これらのポリープが10個未満だった44名のうち3名が大腸がんを発症し,そのうち1名は30歳前に診断された.

軽症型FAPのその他の所見としては,以下があげられる

胃腺がんおよび胃近位ポリポーシス (GAPPS)

胃腺がんおよび胃近位ポリポーシス (GAPPS)は,2012年に胃底腺ポリポーシスと小腸型胃腺癌の見られる3家系について初めての記述が見られる[Worthley et al 2012] .この研究中のGAPPS患者はFAPや軽症型FAPと比べて,胃がんのリスクが高く,胃の幽門洞,幽門,小腸および大腸については正常であると報告されている[Worthley et al 2012].この3家系では,APC遺伝子やその他の遺伝子の遺伝学的検査で原因となりうる病的バリアントは,はじめは明らかにならなかった[Worthley et al 2012].その後さらにGAPPS患者の3家系を加えた解析では,APC遺伝子のプロモーター1Bの結合モチーフであるYing Yang1(YY1)に疾病に関連する変異が見つかった[Li et al 2016].このプロモーター1Bの疾病関連変異は,6家系すべてのGAPPS患者で突き止められた[Li et al 2016].

その他のGAPPS家系でもAPC遺伝子のプロモーター1BのYY1に疾病関連変異が認められた[Repak et al 2016].1人の患者では,毎回複数の生検を行う内視鏡的サーベイランスを実施したにもかかわらず,転移性胃がんが発生した[Repak et al 2016].この患者の家系からは他に2名が胃内視鏡検査を実施し,それぞれの検査ごとに実施した複数の生検で,低悪性度および局所的に高悪性度の異形成が認められたが,浸潤がんではなかった[Repak et al 2016].この2名はその後胃切除術を実施し,早期の胃腺癌(ステージTA)が見つかった[Repak et al 2016].

プロモーター1Bの疾病関連変異が大腸ではなく胃のポリポーシスの原因となるのは,この1Bプロモーターは胃において単独でAPC遺伝子の発現を制しているためと考えられる.大腸でAPC遺伝子の発現を制する1Aプロモーターは,胃の組織ではメチル化を受けて不活性化する.すなわち,GAPPS患者は,大腸では1Aプロモーターを介してAPC遺伝子が正常に発現するが,胃では1Aプロモーターがメチル化された上に1Bプロモーターに変異が起きているため,APC遺伝子が発現しないということになる.

遺伝型と表現型の相関

同じAPC遺伝子病的バリアントを有していても患者ごとや家系ごとに差があるが[Giardiello et al 1994,Friedl et al 2001],これまでに遺伝型と表現型の相関を明らかにするための多くの検討がなされている.ある研究者は遺伝型に基づいた臨床的マネジメント法を提唱しているが[Vasen et al 1996],別の研究者は遺伝型に基づく治療方針を行うべきではないと考えている[Friedl et al 2001].

現在まだ一般的に利用されていないが,下記の相関は将来的に治療選択に重要となるかもしれない(本節に記載した病的バリアントの参照配列はTable 3を参照すること).

  • 最も高頻度のAPC遺伝子病的バリアントはコドン1309にある(c.3927_3931delAAAGA)[Friedl & Aretz 2005].ここに病的バリアントを生じると若年のうちに多数のポリープが発生しやすい[Friedl et al 2001,Bertario et al 2003].
  • 大腸病変の平均発症年齢は,変異部位によって差がある:
    • コドン1309:20歳
    • コドン168-1580(1309を除く):30歳
    • コドン168より上流(5’側)および1580より下流(3’側):52歳
  • コドン1250-1464の病的バリアントを伴う密生型ポリポーシス(平均5,000個)が報告されている[Nagase et al 1992].
  • 軽症型FAPは下記と関連する.
  • イタリアのFAP患者におけるある研究では,病的バリアントがコドン976-1067に存在すると十二指腸腺腫のリスクは4倍高い[Bertario et al 2003].
  • 顕著な大腸外病変はしばしば(完全ではないが)より遠位のAPC遺伝子の病的バリアントと関連する.190名のFAP患者における9種類の大腸外病変(デスモイド腫瘍,骨腫,類表皮嚢胞,十二指腸腺腫,胃ポリープ,肝芽腫,歯牙異常,乳頭部周囲がん,脳腫瘍)を検討した後ろ向き調査[Wallis et al 1999]では,
    • コドン1395-1493に病的バリアントを持つ患者では,コドン177-452に病的バリアントを持つ患者に比べ,有意にデスモイド腫瘍,骨腫,類表皮嚢胞の頻度が高かった
    • コドン1395-1493に病的バリアントを持つ患者では,コドン457-1309に病的バリアントを持つ患者に比べて,有意にデスモイド腫瘍と骨腫の頻度が高かった
    • コドン177-452に病的バリアントを持つ患者には,骨腫あるいは乳頭部周囲がんを発症した者はいなかった.
    • 肝芽腫および/または脳腫瘍はコドン457-1309に病的バリアントを持つ患者のみに認められた.
  • デスモイド腫瘍には以下のような相関がある.
    • 2,098名のFAP患者の統合的データをレビューした結果,Sinha et al [2011]APC遺伝子のコドン1399の3’側における病的バリアントがデスモイド腫瘍を発生させるオッズ比は4.37であることを確認した.
    • APC遺伝子変異が認められた269例の検討では,デスモイド腫瘍はコドン1444の5’側に病的バリアントを有する患者の20%,コドン1444より3’側に病的バリアントを有する患者の49%,コドン1445-1580に変異を有する患者の61%に認められた[Friedl et al 2001]
    • APC遺伝子の3’末端に病的バリアントを有し,重症なデスモイド腫瘍を伴う数家系が報告されている[Eccles et al 1996,Scott et al 1996,Couture et al 2000].
    • Nieuwenhuis & Vasen [2007]はデスモイド腫瘍とコドン1444より下流の病的バリアントに一貫した相関を明らかにした.
    • デスモイド腫瘍と遺伝型の関連についてのデータについては未だ議論の余地がある.Church et al [2015]は最近,FAPにおけるデスモイド病変の発症および重症度と遺伝型には関連があると評価した.彼らは,コドン1399の3’側の病的バリアントを持つと発症頻度が高くなるが,APC遺伝子の変異の部位に関わらず,デスモイド病変は起こりうると結論づけた[Church et al 2015].さらに,この領域の病的バリアントは,より症候に関連し致命的であるとしている[Church et al 2015].
  • CHRPEは以下と関連している.
  • 甲状腺がんとFAPを伴う患者では以下のような関連性がある.
    • 24名の患者において,病的バリアントの大多数はコドン1220より5’側にあった[Cetta et al 2000];
    • 別の研究では12名中9名でAPC遺伝子の病的バリアントが,変異の集中した領域(コドン1286-1513)より上流に認められた[Truta et al 2003].
  • 2006年8月時点での文献と追加で罹患した患者についての報告[Nielsen et al 2007a]によれば,89種類の超顕微鏡的APC遺伝子欠失(42の部分欠失と47の全遺伝子欠失)が同定されている.軽症型FAPの報告もあるが,大多数のAPC遺伝子部分欠失および全欠失は100-2000個の大腸腺腫と関連していた[Nielsen et al 2007a].大腸外病変は36%の症例に認められ,部分欠失例と完全欠失例で明らかな違いはない[Nielsen et al 2007a].94例のFAP患者では,1例のAPC遺伝子全欠失および1例の部分欠失が認められた [Smith et al 2016].その他の全欠失および部分欠失が報告されている6例では,すべてが軽症型FAPではなく,FAPの表現型と一致すると分類された [Quadri et al 2015].

浸透率

FAPでは,未治療の場合の大腸腺腫性ポリポーシスと大腸がんの浸透率は実質的に100%である.
軽症型FAPでは,大腸ポリポーシスの浸透率はまだ完全に分かっていないが,80歳までの大腸がんの発生リスクはおおよそ70%と推測されている[Neklason et al 2008].

GAPPSでは,消化管ポリープおよびがんの浸透率は,今のところわかっていない.

APC関連ポリポーシスにおける他の腸管内および腸管外病変の浸透率は臨床像の項を参照のこと.

病名

FAPは家族性大腸ポリポーシス(familial polyposis coli)としても知られている.歴史的にadenomatous polyposis coli (APC)とも呼ばれていた.現在,これが原因遺伝子の名前になっている.FAPはしばしば100個以上の大腸ポリープがある古典的FAPを指す.古典的FAPとFAPは言い換えて使ってもよいだろう.

Gardner症候群は,骨腫と軟部組織腫瘍(類表皮嚢胞,線維腫,デスモイド腫瘍)とFAPの大腸腺腫性ポリープを併せ持つ[Gardner & Richards 1953].これらの大腸外病変が顕著である場合は,多くの臨床医がGardner症候群という用語を使い続けてきた.しかしながら,これらの症状はその他の腸管外病変が存在するかどうかに関わらず,どのFAP患者にも起こりうる.Gardner症候群は,かつては臨床的実体をFAPとは区別するべきものと考えられていたが,現在では,APC遺伝子の病的バリアントがあれば,FAPおよびGardner症候群のどちらも引き起こすことがわかっている.FAPのその他の症状(例えば上部消化管ポリポーシス)もGardner症候群にも見られる.腸管外腫瘍とAPC遺伝子の病的バリアントの座位には,ある程度関連が見られる.遺伝型と表現型の相関を参照のこと.

Turcot症候群は,大腸ポリポーシスまたは大腸がんと中枢神経 (CNS) 腫瘍が併発した状態である.以前は,CNS腫瘍を発症したFAPあるいはLynch症候群(鑑別診断を参照)患者のことをTurcot症候群とみなしていた.Turcot症候群の分子的基盤はFAPに関連するAPC遺伝子の病的バリアントか,Lynch症候群に関連する遺伝子の病的バリアントのどちらかである[Hamilton et al 1995].APC遺伝子の病的バリアントを持つ患者のCNS腫瘍は通常髄芽腫だが,Lynch症候群患者では多型神経膠芽腫が一般的である.Gardner症候群同様,Turcot症候群も一時は臨床的実体をFAPとは区別するべきものと考えられていたが,現在はFAP患者のすべてにおいて,生涯リスクは比較的低いものの,脳腫瘍のリスクが高まると認識されている.つまり,Turcot症候群という用語は,臨床的有用性は低い昔の名称ということになる.

軽症型FAP(=軽症型大腸腺腫性ポリポーシス)は「遺伝性扁平腺腫症候群」と同じものである[Lynch et al 1992].

頻度

FAPの頻度は,6,850~31,250人に1人(人口10万人あたり2.29-3.2人)と幅がある[Bussey 1975, Järvinen 1992, Bisgaard et al 1994, Bülow et al 1996, Björk et al 1999, Iwama et al 2004, Scheuner et al 2010]世界中で発症頻度の地域差はなく,男女差もない.
軽症型FAPは,FAPに比べてポリープ数が少なく大腸直腸がんのリスクも低いため,診断されていない可能性がある[Neklason et al 2008].

GAPPSの頻度は,今のところわかっていない.

APC関連ポリポーシスは,かつて全大腸がんの0.5%を占めると考えられてきたが,リスクのある家族に対して早期のポリープ発見と予防的大腸切除術が行われるようになったため,この数字は低下しつつある.


遺伝的に関連がある疾患

5q22の欠失.APC遺伝子を含む5q22の染色体中間部欠失が,軽症型腺腫性ポリポーシス[Pilarski et al 1999]および古典的腺腫性ポリポーシス[Heald et al 2007]の患者で報告されている.どの報告においても,これらの患者は認知機能障害があり,その症状は通常軽度〜中等度で,大半は身体の形態異常を有する[Heald et al 2007].


鑑別診断

APC関連ポリポーシスは他の大腸がんを伴う遺伝性疾患や他の消化管ポリポーシス症候群とは分子遺伝学的検査,病理学的所見や臨床的特徴によって鑑別される.

鑑別診断を考慮すべき遺伝性疾患

  • MUTYH関連ポリポーシス(MAP) MAPの臨床像は軽症型FAPに似ているが,常染色体劣性遺伝形式をとる.MUTYH遺伝子の生殖細胞系列両アレルの病的バリアントが多発性腺腫や大腸ポリポーシスを有する患者に認められる.もし大腸ポリポーシス患者でAPC遺伝子に病的バリアントが見つからなかった場合は,MUTYH遺伝子検索を検討する必要がある[Sieber et al 2003].

MUTYH遺伝子の両アレルの病的バリアントが,ポリープがないかごくわずかしかなく,50歳以前に大腸がんを発症した患者の数名で同定されている[Wang et al 2004].MUTYH遺伝子の両アレルの変異を有する患者における十二指腸ポリポーシスの頻度は4‐25%である.腸管外病変も報告されている[Aretz et al 2006].

ある研究によれば,APC遺伝子の病的バリアントがないポリポーシス患者におけるMUTYH変異の検出率は大腸病変の重症度に左右され[Aretz et al 2006],MUTYH遺伝子の両アレルの病的バリアント陽性率は下記のように報告されている.

  • 25歳以上で10-100個のポリープ,あるいは45歳以降で100個以上のポリープと診断された患者は227名中40名(18%)
  • 35-45歳で100個以上のポリープを診断された患者は26名中7名(27%)
  • 35歳以前に100個以上のポリープを診断された患者は41名中0名
  • 68歳でおよそ1,000個のポリープを診断された患者が1名
  • Lynch症候群(hereditary non-polyposis colon cancer: HNPCC) HNPCCは4種類のミスマッチ修復遺伝子(MLH1, MSH2, MSH6,PMS2)のうちのひとつ,あるいはEPCAM遺伝子のヘテロ接合型生殖細胞系列病的バリアントが原因となり,大腸がんや他のがん(子宮内膜,卵巣,胃,小腸,肝胆道,上部尿路,脳,皮膚)の発症リスク上昇を特徴とする疾患である.若年発症の大腸がんや腺腫性ポリープの少ない患者ではLynch症候群と軽症型FAPの鑑別は難しい[Cao et al 2002].このような場合には,大腸以外のがんの家族歴や腫瘍組織のマイクロサテライト不安定性(MSI)検査,もしくは免疫組織化学(IHC)検査の検討が,どちらの原因が関与しているか鑑別するのに有用である.

ミスマッチ修復遺伝子の両アレルの病的バリアントは,まれではあるが報告がある.罹患者は小児期に頻繁に脳腫瘍,血液系悪性腫瘍,または大腸がんやその他のLynch症候群関連がんを発症する[De Vos et al 2005, Felton et al 2007].カフェ・オレ斑や腋窩/鼠径部のそばかすが大多数の患者に見られ,軽症型FAPに類似する多発性大腸腺腫も認められる[Felton et al 2007, Jasperson et al 2011].

  • MSH3関連ポリポーシス MSH3関連ポリポーシスはDNAミスマッチ修復遺伝子であるMSH3の両アレルの病的バリアントによって引き起こされる病態で,常染色体劣性遺伝形式をとる.大腸および十二指腸腺腫,大腸がん,胃がん,早期発症の星状細胞腫を特徴とする.
  • Peutz-Jeghers症候群(PJS) PJSはAPC関連ポリポーシスに見られないPeutz-Jeghers型ポリープと皮膚粘膜の色素沈着が特徴である.PJS型ポリープは通常小腸(空腸,回腸および十二指腸の順)にしばしば症候的に好発するが,消化管の他のどの部位にも生じうる.PJSは常染色体優性遺伝形式をとる.分子遺伝学的検査では大部分の患者で原因遺伝子であるSTK11の病的バリアントを認める.
  • PTEN過誤腫症候群(PTEN hamartoma tumor syndrome: PHTS) PHTSの中に最も多いCowden症候群(CS)では多発性大腸ポリープが見られる.APC関連ポリポーシスと違って,過誤腫性ポリープ,若年型ポリープ,脂肪腫および神経節腫が一般的で,Cowden症候群では,大腸がんのリスクが増加する.しかし,乳がん,甲状腺がん,および子宮内膜がんの方がより一般的である.CS診断基準を満たした患者の約80%で,PTEN遺伝子に病的バリアントが検出される.
  • 若年性ポリポーシス症候群(Juvenile polyposis syndrome, JPS) JPSは過誤腫性ポリープに特徴づけられ,これはAPC関連ポリポーシスとの鑑別の要となる.過誤腫性ポリープは消化管,特に胃,小腸,結腸,直腸に発生する.JPS患者の多くは20歳までに数個のポリープが発生する.一部の患者では生涯を通じて4-5個のポリープしか発生しないが,その一方で同じ家系内の患者で100個以上のポリープが発生することもある.大多数の若年性ポリープは良性であるが,悪性化をきたすこともある.JPSは常染色体優性遺伝形式をとる.JPS患者の約20%はSMAD4遺伝子に,20%はBMPR1A遺伝子に病的バリアントを持つ.APC遺伝子に病的バリアントがある者の報告はなかった.
  • 遺伝性混合ポリポーシス症候群(Hereditary mixed polyposis syndrome, HMPS) HMPSでは大腸がんや様々な異なるタイプの大腸腺腫のリスクが上昇する(OMIM 601228).HMPSの特徴的病変は若年型-腺腫型大腸ポリープの混合型である[Rozen et al 2003].さらに,大腸腺腫,過形成鋸歯状腺腫や混合型の過形成腺腫性ポリープも生じうる. HMPSはGREM1遺伝子上流における遺伝子重複が原因である[Jaeger et al 2012].
  • 神経線維腫症1型(Neurofibromatosis type 1 ,NF1) NF1では多発性のポリープ様神経線維腫や神経節腫が小腸,胃,大腸に生じることがある.NF1はNF1遺伝子の病的バリアントによって発症し,常染色体優性遺伝形式をとる.
  • NTHL1-関連ポリポーシス(OMIM 616415) NTHL-1関連ポリポーシスは,NTHL1遺伝子の両アレルの生殖細胞系列病的バリアントによって生じ,常染色体劣性遺伝形式をとる.当初,血縁関係のない3家系から,7名の腺腫性ポリポーシス患者(8-50個のポリープ)が報告された[Weren et al 2015].そのうち4名は大腸がんと診断されており(40-67歳),全員に多数の大腸腫瘍があった.NTHL1関連ポリポーシス患者においても,子宮内膜がん,前がん状態の子宮内膜病変,十二指腸腺腫,十二指腸がんのリスクが増加する [Weren et al 2015].複数の原発腫瘍(結腸がん,粘液性・漿液性混合型の卵巣嚢胞,真皮内母斑,膀胱癌,髄膜腫,多発性脂漏性角化症,基底細胞癌,多発性大腸腺腫,扁平上皮癌,浸潤性乳がん)も,NTHL1遺伝子の両アレルの生殖細胞系列病的バリアントをもつ別の患者で報告されている.

鑑別診断を考慮すべき後天的疾患

  • Cronkite-Canada症候群 消化管全般の過誤腫性ポリポーシス,皮膚過剰色素沈着,脱毛,爪萎縮をきたす.
  • 結節性リンパ性過形成 小腸,胃,結腸にリンパ節の過形成をきたすリンパ性増殖性疾患で,通常よく見られる様々な免疫不全症候群との関連があると考えられている.
  • リンパ腫様ポリポーシス 消化管における原発性節外リンパ腫の発生を特徴とする.多発性リンパ腫様ポリポーシスと地中海型リンパ腫の2病型がある.
  • 炎症性ポリポーシス 後天性で炎症性腸疾患(最も多いのは潰瘍性大腸炎)に伴い非腫瘍性ポリープを生じる.
  • 散発性大腸腫瘍 大部分の家族性ではない大腸腫瘍では,APC遺伝子の体細胞変異が関連している.[Miyoshi et al 1992,Powell et al 1992,Smith et al 1993].この変化はがん化の初期段階で起きると考えられている[Fearon & Vogelstein 1990].
  • 治療関連ポリポーシス 近年、消化管ポリポーシスの原因として報告されている [Yurgelun et al 2014].放射線治療と化学療法を受けた5名の小児がん生存者全員が,消化管ポリポーシスを発症した [Yurgelun et al 2014].しかし,消化管ポリポーシスは化学療法/放射線によるものなのか,それともこの5名に偶発的に起きたものなのかはまだ不明である.

その他

鋸歯状ポリポーシス症候群(かつて:過形成ポリポーシス) 多発性大腸鋸歯状ポリープ(過形成ポリープ,定着型鋸歯状腺腫/ポリープおよび古典型鋸歯状腺腫)を含む.本症は遺伝性かそれとも後天的なのかまだ明らかではない[Snover et al 2010]. 通常,鋸歯状ポリープは顕著であるが,鋸歯状ポリポーシスの患者は多発性大腸腺腫を合併することも多い[Kalady et al 2011].大腸がんの家族歴が見られる場合もあるが,同じ家系内に鋸歯状ポリポーシス症候群の診断基準を満たした患者が1名以上いるのは稀である.


臨床的マネジメント

初診後の評価

FAPまたは軽症型FAPと診断された患者は,この節で概要を述べるように,サーベイランスおよび主要な症状の予防,治療のための年齢に応じた勧告について,カウンセリングを受けることが望ましい.現段階では,GAPPSに対するコンセンサスのとれた管理ガイドラインはない.

症状の治療

手術の情報を含む臨床的パラメーターについて,米国総合癌センターネットワーク(NCCN)  [Provenzale et al 2016] (full text), 米国消化器病学会[Syngal et al 2015] (full text), 米国大腸外科医学会[Church et al 2003b],米国臨床腫瘍学会[Stoffel et al 2015] (full text),および腫瘍外科学会[Guillem et al 2006] (full text)が概説している.

  • 大腸ポリープ FAP患者に対しては腺腫が発生した後は大腸切除術が推奨される.手術時期は腺腫のサイズ,進行した組織構造の存在(絨毛構造,高度異形成)と腺腫性ポリープの数によっては遅らせることもできる.大腸切除術の絶対的適応は,大腸がんと報告されたあるいは疑わしい状態,もしくは重大な症状(腸閉塞や下血‐これらは,がんが存在しなければめったに起こらない)が表れた場合である.大腸切除術の相対的適応は,内視鏡検査で管理しきれない6oを超える複数の腺腫がある場合や,経過観察期間中に腺腫の数が顕著に増加する場合,高度異形成の腺腫がある,もしくは大腸検査が適切に実施できない(例えば,無数の小型腺腫の存在や大腸内視鏡検査のアクセスや追従が制限される)場合などが含まれる.

軽症型FAPでは大腸切除術はおそらく必要であるが,約1/3の患者では,ポリープの数が少ないため,定期的な大腸内視鏡と内視鏡的ポリープ切除術によって経過観察が十分可能である(サーベイランスの項を参照とのこと).
大腸切除の術式を以下にあげる.

  • 大腸全摘・回腸嚢肛門(管)吻合術(IPAA) は,腹腔鏡下,補助的な腹腔鏡下,または開腹で実施される.IPAAは,肛門移行上皮および低位直腸粘膜1〜2cmを残してステープルで留める,あるいは肛門粘膜を完全に切除した後,手で縫合する.
  • 結腸全摘・回腸直腸吻合術(IRA).初期段階の処置である.
  • 大腸全摘・回腸人工肛門造設術

手術の選択は、臨床的状況による。

  • IPAAは,FAP患者では通常,直腸のポリープによる症状が大きいあるいは,直腸の病態が内視鏡的に管理できなくなった時点でIRAの次の処置として実施される.この処置の長所は,直腸がんのリスクをほぼ排除し,腸の機能を比較的いい状態で温存できることである.ただし,膀胱/性機能不全のリスクは増加し,機能的帰結は様々である.

FAPの患者と回腸嚢に関する研究では,57%の回腸嚢に腺腫性ポリープが見つかった.嚢胞腺腫の発達と,結腸あるいは十二指腸のポリープの重症度に関連は見られなかった[Groves et al 2005].手術移行帯(surgical transition zone)におけるがんが報告されている[Ooi et al 2003]が,稀である.

  • IRAは一般的に,直腸のポリープによる症状が少なく,内視鏡的管理が可能と考えられる場合に検討される(通常軽症度FAPの場合に用いられる).合併症率が低く,技術的に簡単な処置である.通常,機能的帰結は良好であり,性または尿路機能不全のリスクは最小限である.この処置は,重症の直腸疾患があったり,術後に残りの直腸の内視鏡によるサーベイランスを確実に受けることができない患者に対しては実施すべきではない.
  • 大腸全摘・回腸人工肛門造設術は,(直腸ポリープ/がんによる苦痛のため)大腸全摘術が必要となったり,IPAAへの禁忌(例えば,嚢胞が骨盤底に達するのを妨げるような腸間膜デスモイド,骨盤底に浸潤する低位直腸がん,あるいは括約筋の制御不良がある個人による選択)があるという場合でない限り,めったに必要となることはない.

小腸ポリープ ポリープが絨毛性変化や高度の異形成を示す場合や直径が1 cmを超える場合,臨床症状を引き起こす場合には,十二指腸および/または乳頭部腺腫の内視鏡あるいは手術による切除が推奨される.[Wallace & Phillips 1998,Saurin et al 1999,Kadmon et al 2001].

手術の選択肢には,膵臓温存十二指腸切除術も含まれる.これは乳頭部が関与しておらず,がんの疑いがない場合に有効な選択肢である.膵十二指腸切除術(Whipple procedure)は著しく高度な病的状態であれば手術の選択肢となりうるが,その場合は,十二指腸乳頭部が関与しているか,あるいはがんが確認されたもしくは強く疑われるか否かを検討しなければならない.

骨腫 美容的理由により切除される.

デスモイド腫瘍 可能な治療法としては,外科的切除(頻回に再発する場合),非ステロイド性抗炎症薬,抗エストロゲン薬,細胞障害型化学療法,放射線照射などがある[Griffioen et al 1998,Clark et al 1999,Smith et al 2000a,Tonelli et al 2003,Gega et al 2006].デスモイド腫瘍に対する治療法の総説がある(Guillem et al [2006]).

副腎腫瘍 Smith et al [2000b]Ferrández et al [2006]によれば,FAP患者に対する副腎のスクリーニングを行う根拠となるエビデンスは見つからなかった.

化学的予防 現時点では,FDAに承認されたFAP用化学予防薬はない.

非ステロイド性抗炎症薬(NSAIDs) スリンダク(sulindac)の非プラセボ対照試験および観察試験は,ポリープの大きさと数を顕著に減少させ,初めのうちは有望だった.しかしながら,これらの予備研究はそのデザインに限界があった(非プラセボ対照試験であり,罹患者数が少なく,検査可能な直腸だけという患者も含まれていた).その後,いくつかの対照試験において,スリンダクによる治療中にポリープによる症状を軽減したことが確認された[Labayle et al 1991, Giardiello et al 1993a, Nugent et al 1993].しかしながら,スリンダク中止後,急速な再発またはポリープ数の増加が見られた[Labayle et al 1991, Giardiello et al 1993a].その後の,APC遺伝子に病的バリアントのある患者でポリープを予防できるかを評価するためにデザインされた研究では,プラセボ群と比較して有益な傾向はみられたが,統計的な有意は得られなかった[Giardiello et al 2002].

FDAは当初,結腸におけるポリープによる症状や大きさを軽減させる(同様に十二指腸でも軽減させる)という科学的根拠に基づき,FAP患者に対してセレコキシブ(celecoxib)の処方を承認した[Steinbach et al 2000, Phillips et al 2002].しかし,心血管および脳血管への安全性に懸念があるとして,ロフェコキシブ(rofecoxib)は市場から完全に撤退し,FAP患者に対するセレコキシブのFDA承認も取り下げられた.
アスピリンはFAPでは,ほとんどあるいは全く有益でないことが示されている[Burn et al 2011, Ishikawa et al 2013].
スリンダクとジフルオロメチルオルニチン(セレコキシブ)の併用により,散発性の異時性腺腫が顕著な減少を示したという報告があり,NSAIDsと他の薬剤との組み合わせへの関心が高まった[Meyskens et al 2008].92名のFAP患者が参加した無作為化プラセボ対照研究では,スリンダクとエルロチニブ(EGF受容体阻害剤)の6か月間の併用により,プラセボと比べ,十二指腸ポリープの症状が軽減した[Samadder et al 2016].有害事象は,投薬群に共通して見られた(87%にニキビ様発疹)が,重大な有害事象はほとんどなかった(全参加者のうち2名) [Samadder et al 2016].セレコキシブ単剤とセレコキシブ+ジフルオロメチルオルニチン(DFMO)の併用をFAP患者で比較したところ,限定的な内視鏡視野内でのポリープの症状の明らかな違いは見られなかった(しかし,より広範囲の映像評価を使用した場合,薬剤を併用した治療群でポリープの症状軽減が見られた) [Lynch et al 2016].

現在,多くの化学予防剤の試験が実施されている(研究中の治療法の項を参照).FDAは腺腫の数や大きさの変化は,臨床的有用性の根拠となり当局が承認する基準を満たすものであると述べている.臨床的有用性として引き合いに出される適当な例としては,大腸がんのリスク減少や,手術の適用となる事例の削減などが含まれる.現在進行中の試験は,これらがエンドポイントとして設定されている.

:大腸切除術前のNSAIDsの使用はまだ試験段階にある(研究中の治療法の項を参照すること).

一次病変の予防

FAP患者の大腸がんリスク削減のために,大腸切除術が提案される.軽症型FAPの患者では,大腸切除術が必要となることもあるが,約1/3の患者では,大腸ポリープの数が少ないため,定期的な大腸内視鏡下ポリープ切除術によっても,十分大腸がんを予防可能である.そのため,大腸内視鏡検査は大腸がん予防および経過観察に有用である.
十二指腸/乳頭部腺癌のリスクを軽減するために,ポリープが絨毛様変化あるいは高度異形成が見られたり,ポリープの直径が1pを超えたり,何らかの症候を起こしたりする場合には,十二指腸および/または乳頭部腺腫の内視鏡的あるいは外科的切除を考慮すべきである.

経過観察

複数の専門家団体が,現時点でのエビデンスに基づき,専門家のコンセンサスもふまえてガイドラインを公表している[Church et al 2003b, Syngal et al 2015, NCCN 2016].以下の経過観察の推奨事項は,これらの専門家団体のガイドラインに基づいている.
FAPであることがわかっている人に対して 

  • 10-12歳以降,1年ないし2年ごとにS状結腸内視鏡検査あるいは大腸内視鏡検査
  • ひとたびポリープが発見されたら大腸内視鏡検査
  • ポリープが生じてから大腸切除術が1年以上延期される場合は,毎年の大腸内視鏡検査.対象者の年齢が10-20歳で,腺腫の大きさが6 mm未満でありかつ絨毛様変化や高度異形成を伴っていない場合には,大腸切除術の延期を考えてもよい.
  • Vater乳頭部の完全な可視化も可能な食道胃十二指腸内視鏡検査(EGD)(必要であれば十二指腸内視鏡を使用)が推奨されているが,開始年齢についての提案は様々である.米国消化器病学会は23-30歳の間にスクリーニングを開始することを推奨しているが,NCCNは20-25歳あるいは大腸切除術前に始めることを勧めている.経過観察は十二指腸腺腫の症状の状況により,6ヶ月〜4年ごとに実施する.EGDの頻度は十二指腸腺腫の重症度による.Spigelmanの病期分類基準が検査頻度決定に役立つ.Spigelmanの病期分類基準はSyngal et al [2015]にまとめられている(Table 9を参照).NCCNは上部内視鏡検査の時に胃の検査も実施することを推奨している(頻度は十二指腸ポリープのサーベイランスに従う).胃底腺ポリープはFAP患者に共通して見られ,低度異形成も見られるが,めったに進行しない.胃ポリープのスクリーニングや手術は高度異形成が見られる場合のみ,考慮されるべきである.非胃底腺ポリープは内視鏡で取り除く.
  • 十歳代後半になったら,消化管以外の症状と神経学的障害(CNS腫瘍を調べるため)の評価を含む毎年の身体検査と甲状腺の触診を開始する.
  • 甲状腺がん.甲状腺結節がある場合は,毎年の甲状腺検査に加え,十歳代後半以降[NCCN 2016],毎年の甲状腺超音波検査と穿刺吸引細胞診を検討する[Herraiz et al 2007].ある研究では,甲状腺がんのある5名の罹患者で,頚部の検査では検出できなかったため,臨床的所見がなくても超音波検査による甲状腺スクリーニングは妥当なものであるかもしれない[Jarrar et al 2011].しかしながら,この推奨事項を支持するデータは限定的である[NCCN 2016].
  • デスモイドのための毎年の腹部触診.家族歴にデスモイド罹患者がいる場合は,大腸切除術後1-3年以内およびそれ以降は5-10年ごとにMRIまたはCTスキャンを検討する.デスモイド腫瘍のスクリーニングおよび治療については,支持するデータは限られている.
  • 小腸ポリープおよびがん.米国消化器病学会は,定期的な遠位十二指腸の小腸スクリーニングは推奨していない[Syngal et al 2015]が,NCCNは,特に十二指腸ポリポーシスが進行している場合,(適用可能な場合は)デスモイドのためのCTまたはMRIによる小腸の可視化を付加することも検討することを推奨している.
  • 肝芽腫のスクリーニング:FAP患者における効果は明らかではない.同様に肝芽腫のリスクが高いBeckwith-Wiedemann症候群のスクリーニングプロトコールでは,しばしば頻回(2-3ヶ月ごと)の腹部超音波検査と血清αフェトプロテイン(AFP)濃度の測定がおこなわれ,肝芽腫の早期発見につながっている[Tan & Amor 2006].FAP患者では,5歳までの間,3-6ヶ月ごとの肝臓の触診,腹部超音波検査,AFP測定を用いるスクリーニングが提案されている[NCCN 2016].
  • 副腎腫瘍.Smith et al [2000b]Ferrández et al [2006]は,FAP患者において副腎腫瘤をスクリーニングを正当化する科学的根拠はないとしている.

大腸切除術を受けた人に対して

  • 回腸嚢肛門(管)吻合術(IPAA)を伴う大腸全摘術を実施した場合は,2年ごとに回腸嚢を内視鏡で観察することが勧められる[Syngal et al 2015, NCCN 2016].
  • 回腸吻合を伴う大腸亜全摘術が行われた場合は,発生するポリープの数にもよるが,残存直腸の観察を6-12ヶ月ごとに行うべきである[Syngal et al 2015, NCCN 2016].残存直腸からがんが発生する可能性はまだあるが,現在の管理法に従えばそのリスクは低い[Church et al 2003a].
  • 大腸全摘・回腸人工肛門造設術を実施した場合は,2年ごとの回腸内視鏡検査が推奨される[NCCN 2016].

軽症FAPであることがわかっている人に対して 

  • 十歳代後半以降,2-3年ごとの大腸内視鏡検査
  • 腺腫が確認されれば,ポリープの状態に応じて1-2年ごとに大腸内視鏡検査とポリープ摘除術を実施する.
  • 大腸切除術:絶対的および相対的適応はFAPと同様(経過観察の項を参照).
  • FAP同様の上部消化管のスクリーニングと経過観察(経過観察の項を参照).
  • 甲状腺結節がある場合は,甲状腺超音波検査と穿刺吸引細胞診によるフォローアップを考慮し,消化管以外の症状と神経学的障害(CNS腫瘍を調べるため)の評価を含む毎年の身体検査と甲状腺の触診を実施する. [Herraiz et al 2007].ある研究では,甲状腺がんのある5名の罹患者で,頚部の検査では検出できなかったため,臨床的所見がなくても超音波検査による甲状腺スクリーニングは妥当なものであるかもしれない[Jarrar et al 2011].
  • FAP患者に比べ,軽症型FAPではデスモイド腫瘍と肝芽腫のリスクは低いため,これらの腫瘍のスクリーニングは,今のところ推奨されていない.

GAPPSであることがわかっている人に対して.現時点ではGAPPS患者に対して胃がんのスクリーニングや予防的胃切除術を検討すべきかどうかははっきりしていない.胃ポリポーシスの程度にもより,胃底腺ポリポーシスが急速に進行するという報告もあるため,この病態における胃がんの経過観察の効果は限定的である[Repak et al 2016].

避けるべき薬剤や環境

手術とデスモイドのリスク.腹部手術によってデスモイド腫瘍のリスクが増加することは証明されており,2段階の手術を必要とする外科的処置においてより高まる.デスモイドのリスクが高い患者(女性;APC遺伝子のコドン1395-1493に病的バリアント;家族歴にデスモイド罹患者がいる)では,推奨される時期よりも手術を遅らせるか,2回目の手術が必要となる可能性を最小限に留めるために,1回で大腸がんのリスクを決定的になくせるような手術を行う(例えば,大腸全摘・回腸人工肛門造設術)かを検討する.

手術と生殖能力.女性では,回腸直腸吻合術よりも大腸全摘・回腸嚢肛門(管)吻合術の後に,生殖能力が低下する.そのため,女性のFAP患者では術式の選択の際に,議論する必要がある[Olsen et al 2003].

リスクのある血縁者に対する検査

リスクのある家族に対して推奨される遺伝学的検査 APC関連ポリポーシスを早期に認識することは,適切な時期に治療介入を行い,予後を改善させるのに役立つ.したがってリスクのある子どもの早期の症状について経過観察を行うのは適切である;Syngal et al [2015](full text), NCCN [2016]を参照.

リスクのある家族に対して早期に変異を同定するために分子遺伝学的検査を行うことは(遺伝カウンセリングの項参照),診断をより正確なものとし,病的バリアントを受け継いでいない家族員に対して経済的負担のかかるスクリーニングを減らすことができる.APC関連ポリポーシスのリスクのある者における分子遺伝学的検査とS状結腸鏡検査のコスト比較分析によれば,遺伝学的検査の方が保因者を確定するのに費用対効果が優れている[Cromwell et al 1998].さらに,APC関連ポリポーシス患者が親族にいることをきっかけに診断された人の生命予後は,症状を基に診断された患者よりも明らかに良好である[Heiskanen et al 2000].

FAPのリスクのある人に対する大腸スクリーニングは早ければ10-12歳から始まるので,分子遺伝学的検査は一般に10歳までに提供される.親や小児科医は乳児期から5歳までの肝芽腫のスクリーニングを考慮するので,出生時の遺伝学的検査も正当化される.軽症型FAPの場合,大腸スクリーニングは十歳代後半から開始されるので,分子遺伝学的検査もそれまでに提供されればよい.
注:スクリーニングを開始する至適年齢についての確証はない.したがって何歳でテストを実施し,スクリーニングを開始するかは医療機関,家族歴,肝芽腫のスクリーニング,親や子の希望によって変わってくる.

妊娠の管理

妊娠/生殖/ホルモン剤の使用 FAP患者の女性が妊娠することへの影響があるのかどうかという情報は限定的である.大腸摘出術を行った16名を含む58名のデンマークのFAP女性患者の研究では,受胎,妊娠,出産の頻度は,コントロール群と変わらなかった[Johansen et al 1990].もう少し大規模な研究では,162名のFAP女性の受胎率を,2つの大腸術式の前後とコントロール群で比較している.手術を実施していないFAP女性ではコントロール群と同様に受胎した.さらに,結腸全摘・回腸直腸吻合術(IRA)の術式を選択したFAP女性もコントロール群と同様の受胎率を示した.大腸全摘・回腸嚢肛門(管)吻合術(IPAA)を実施したFAP女性では,コントロール群と比べ,著しい受胎率の減少が見られた[Olsen et al 2003].

別の研究では,IRA,IPAAおよび大腸全摘・回腸人工肛門造設術を実施したいずれのFAP患者においても,自己申告による妊娠の問題に違いは見られなかった[Nieuwenhuis et al 2010].しかしながら,最初の手術をより若年で実施した者は,術後に妊娠の問題が発生する頻度が高まった[Nieuwenhuis et al 2010].

デスモイド腫瘍の発生や進行と妊娠との関係性については,支持する根拠は薄い[Sinha et al 2011].

大腸摘出術を行った女性の産科関連合併症のリスクは,その他の主要な腹部手術をした女性と変わらないと考えられ,こういった手術をしていない者と比べ,帝王切開による出産が多い.

デスモイド腫瘍の治療には抗エストロゲン薬が有効であるため,デスモイド腫瘍は妊娠中に増加するホルモンに影響を受けると考えられている.しかし,ある研究では,デスモイド腫瘍ができる前に妊娠した女性は,妊娠したことのない女性より,デスモイド腫瘍による合併症が明らかに少ないという結果を示している[Church & McGannon 2000].
大腸切除術を実施した時のFAP女性に関する研究では,妊娠歴と大腸ポリープの重症度には関連は見られなかったが,重症の十二指腸疾患をもつ者の割合は,経産女性の方が未経産女性に比べて明らかに高かった[Suraweera et al 2007].
いくつかの研究では,一般集団においては,女性ホルモンは大腸がんの発生に予防的に働くことが示唆されている.ある女性では,経口避妊薬を使用した後,ポリープが減少した[Giardiello et al 2005].

研究中の治療

現在進行中(募集は終了)の多施設共同試験では,DFMO+スリンダクと,それぞれ単剤を使用した場合の,FAP関連イベント(手術が必要となるか,進行したがんの発生,あるいは死と定義する)が最初に起こる時期を調査している.臨床試験の項を参照.

単一のコントロール群をおいた試験では,ω3多価不飽和脂肪酸であるエイコサペンタエン酸(EPA)はFAP患者のポリープの大きさと数を20-30%減少させた.この脂肪酸に類似した薬剤を投与する試験も計画され始めている.
クルクミンは香辛料のターメリック中に含まれる主要成分である.コントロール群をおかない5名の罹患者の小規模試験では,6ヶ月の治療後,ベースラインと比べてすべての患者でポリープの大きさと数が減少した[Cruz-Correa et al 2006].主要アウトカムをポリープの大きさと数に設定した,12ヶ月間FAP患者にクルクミンを与える二施設間二重盲検化プラセボ対照試験の募集が完了している.

広い領域にわたる疾患や病態に関する臨床試験についての情報は,アメリカについてはClinicalTrials.govを,ヨーロッパについてはwww.ClinicalTrialsRegister.euを参照すること.


遺伝カウンセリング

「遺伝カウンセリングは個人や家族に対して遺伝性疾患の本質,遺伝,健康上の影響などの情報を提供し,彼らが医療上あるいは個人的な決断を下すのを援助するプロセスである.以下の項目では遺伝的なリスク評価や家族の遺伝学的状況を明らかにするための家族歴の評価,遺伝子検査について論じる.この項は個々の当事者が直面しうる個人的あるいは文化的な問題に言及しようと意図するものではないし,遺伝専門家へのコンサルトの代用となるものでもない.」

遺伝形式

APC関連ポリポーシスは常染色体優性遺伝の形式をとる.

患者家族のリスク

発端者の両親

  • APC関連ポリポーシスと診断された患者の大部分には,罹患した親がいる.
  • 約20-25%のAPC関連ポリポーシス患者は新生突然変異である[Bisgaard et al 1994].
  •  (a)発端者の病的バリアントがわかっている場合には分子遺伝学的検査で,あるいは(b) 発端者において遺伝学的検査が実施されていない場合は,APC関連ポリポーシスの臨床所見によって,患者の両親の評価を行うのが適切である.
  • 発端者で見つかった病的バリアントが両親の白血球DNAに検出されなかった場合,発端者の病的バリアントが新生突然変異であるか,どちらかの親の生殖細胞系列モザイクの可能性が考えられる.生殖細胞系列モザイクは多数の家系から報告されている[Hes et al 2008, Schwab et al 2008, Spier et al 2016].
  • APC関連ポリポーシスと診断された患者の大多数には罹患した親がいるが,家族がこの疾病を認識していなかったり,親が発症前に早期に死亡していたり,あるいは罹患した親の発症年齢が高かったりするために,家族歴が明らかでない場合もある.そのため,分子遺伝学的検査が発端者の両親に対して行われていない限り、明らかに陰性という家族歴は確認できない。

発端者の同胞

発端者の同胞のリスクは両親の遺伝的状況による.

  • 両親のいずれかが罹患者かAPC遺伝子に病的バリアントを有している場合は,同胞が病的バリアントを受け継ぐリスクは50%である.
  • 両親のいずれもが発端者に認められたAPC遺伝子の病的バリアントを有していない場合でも,生殖細胞系列モザイクの可能性があるため,一般集団よりはわずかに高い(それでも1%未満).したがって,明らかに新生突然変異と思われる場合であっても同胞の分子遺伝学的検査が考慮されるべきである.
    • 生殖細胞系列モザイクは無症状の79歳の女性で確認されている.彼女の2人の息子は数千個の大腸ポリープとAPC遺伝子変異を有している[Hes et al 2007].
    • 他にも,2人の子どもには大腸腺腫性ポリポーシスとAPC遺伝子変異が同定されているが,母親は無症状の生殖細胞系列モザイクであった例も報告されている.[Schwab et al 2008]

発端者の子

FAP患者の子はそれぞれ,50%の確率でAPC遺伝子の病的バリアントを受け継ぐ.

他の家族

他の家族のリスクは発端者の両親の状況による.両親のいずれかが罹患しているか,APC遺伝子の病的バリアントを有している場合は,彼または彼女の血縁者にもリスクがある.

遺伝カウンセリングに関連した問題

リスクはあるが無症状の者に対する検査

リスクのある若年の家族に対する分子遺伝学的検査は臨床的マネジメントに導く手段として適切である(マネジメント,リスクのある血縁者に対する検査の項参照).

分子遺伝学的検査は,臨床的に診断された血縁者が遺伝学的検査によってAPC遺伝子に病的バリアントが確認される際に,リスクのある家族の遺伝的状態を確実に判断するために用いられる.

臨床的に診断された血縁者の検査情報が入手できない状況で,リスクのある家族の遺伝的状態を判断するために分子遺伝学的検査を行うのは問題を含んでおり,またその結果の解釈には注意を要する.家族での結果が陽性であった場合は,その家系内にAPC遺伝子の病的バリアントが存在することを意味し,同じ検査法が家系内の他のリスクのある者の,遺伝的状態の評価に利用できることを示す.一方,罹患している患者よりも先に家族に対して分子遺伝学的検査が行われる場合,病的バリアントが見つからなかったからといって,他の家族にAPC遺伝子の病的バリアントが存在する可能性がなくなるわけではない.

FAPのリスクのある家族員に対する大腸スクリーニングは早ければ10歳に始まるので,分子遺伝学的検査は一般にこの年齢までに提供される.軽症型FAPに対する同様の大腸スクリーニングは18-20歳に開始されるので,分子遺伝学的検査は18歳前後で提供されるべきである.

両親はしばしば疾患を受け継いでいない子に対する不要なスクリーニング検査を避けたいという思いで,より早期の遺伝学的検査を希望する.遺伝学的検査の前には子と両親に対する教育に関して特別の注意を払う必要がある.検査結果を両親と子に伝える方法についてはあらかじめ決めておくべきである.大部分の子どもは発症前遺伝学的検査結果の開示後に臨床的に重要な心理的問題を生じてはいないが,Codori et al [2003] らはこうした家族に対する長期の心理的サポートを準備することを推奨している.

DNAバンク は,将来的に利用するために,(通常は白血球から抽出した)DNAを保管しておくことである.検査手法や,遺伝子,アレルの変異,疾患への理解は将来改善する可能性が高く,罹患者のDNAを保管しておくことは考慮されるべきである.

遺伝性腫瘍のリスク評価と遺伝カウンセリング 分子遺伝学的検査の実施の如何に関わらず,がんのリスク評価の過程で遺伝性腫瘍のリスクのある者を同定することの,医学的,心理学的,倫理的な包括的説明はCancer Genetics Risk Assessment and Counseling - for health professionals (part of PDQ®, National Cancer Institute)を参照すること.
新生突然変異によって発症したかのようにみえる血縁者への配慮 発端者の両親のどちらともに,発端者で同定された病的な遺伝子バリアントや臨床的所見がない場合は,発端者は新生突然変異かあるいは,患者家族のリスクの項に記述したように,どちらかの親のモザイクによって発症した可能性が高い.ただし,父親が異なるとか代理出産(例えば,生殖補助医療によるもの),開示されていない養子縁組のような非医学的な理由による可能性も念頭におく必要がある.

家族計画

  • 遺伝学的リスクを判定および出生前診断を利用するかどうかの議論は,妊娠前に行うのが望ましい.
  • 罹患している,もしくはリスクのある若い成人に対しては,遺伝カウンセリング(子どもがリスクを持つ可能性や生殖医療における選択肢に関する検討を含む)を提供するのが適切である.

出生前診断および着床前の遺伝的診断

APC遺伝子の病的バリアントが罹患者で同定されれば,リスクの高い妊娠のための出生前診断や着床前の遺伝学的診断が可能である[Rechitsky et al 2002, Davis et al 2006, Moutou et al 2007].分子遺伝学検査を利用する基準は,遺伝カウンセリングに関連した問題の項で扱っており,「リスクはあるが無症状の者に対する検査」が出生前診断の場合にも適用される.胎児においてAPC遺伝子の病的バリアントを検出しても発症時期や重症度の予測はできないことに注意する必要がある.

訳注:一般に本症に対して出生前診断の適応があるとは考えられていない.

医療の専門家の間や家族内においても,特にそれが早期診断ではなく妊娠中絶を目的とした場合には,出生前診断に対する考え方の相違が存在しうる.多くの専門機関は出生前診断については夫婦の自己決定の問題だと考えているが,この問題については議論することが適切である.

訳注:日本では行われない.


関連情報


分子遺伝学

分子遺伝学およびOMIMの表の情報はGeneReviewの他の情報と異なることがある。表にはより最近の情報が含まれていることがある。−ED.

Table A. APC関連ポリポーシス:遺伝子およびデータベース

遺伝子記号 染色体座位 タンパク質 座位特異性 HGMD ClinVar
APC 5q22.2 Adenomatous polyposis coli protein APC @ ZAC-GGM
Colon cancer gene variant databases: Adenomatous Polyposis Coli (APC)
APC APC

データは以下の標準的参照資料をもとに作成した。遺伝子はHGNC、染色体座位はOMIM、タンパク質は UniProtを参照した。リンクが提供されたデータベース(座位特異性, HGMD,ClinVar)の詳細についてはこちらを参照のこと。

Table B. OMIMにおけるAPC関連ポリポーシス (View All in OMIM)
175100 FAMILIAL ADENOMATOUS POLYPOSIS 1; FAP1
611731 APC GENE; APC

遺伝子の構造 APC遺伝子は,複数の翻訳および非翻訳領域に選択的にスプライスされる.主な転写物NM_000038.5は15個のエクソンがあり,311.8-kdのタンパク質を構成する2843個のアミノ酸をコードする.最後のエクソンはサイズが大きく,APC遺伝子の翻訳領域の四分の三以上を構成している.遺伝子およびタンパクに関する詳細な要約はTable Aの遺伝子の欄を参照すること.

病的バリアント APC関連ポリポーシスを有する家系では,700ヵ所以上の生殖細胞系列病的バリアントが同定されている[Beroud et al 2000].病的バリアントは通常1アミノ酸置換やフレームシフトを引き起こし,早期切断型APCタンパクが生成される.病的バリアントは遺伝子全領域に点在するが,主に5’末端に位置している.最も頻度の高い生殖細胞系列APC病的バリアントはc.3927_3931delAAAGAである.(更なる情報はTable Aを参照すること)

Table 3 選択的APC病的バリアント

DNA塩基配列の変化 予測されるタンパク質の変化 参照配列
c.3927_3931delAAAGA p.Glu1309AspfsTer4 NM_000038.5
NP_000029.2

変異の分類に関する注記:表に記載された変異は著者らによって提供された。GeneReviewsのスタッフは変異の分類を自主的に検証していない。

命名に関する注記:GeneReviews はHuman Genome Variation Society (varnomen?.hgvs.org)の標準的な命名規則に従う。命名の説明に関してはQuick Referenceを参照のこと。

正常遺伝子産物

APCタンパクはヒト上皮細胞の細胞核および細胞膜/細胞骨格に存在する[Neufeld & White 1997].APCはホモ二量体のタンパク質であり[Joslyn et al 1993],GSK3b[Rubinfeld et al 1996], βカテニン[Rubinfeld et al 1993, Su et al 1993],γカテニン[Hulsken et al 1994, Rubinfeld et al 1995],チューブリン[Munemitsu et al 1994, Smith et al 1994],EB1[Su et al 1995]およびhDLG(ショウジョウバエの腫瘍抑制タンパク質であるDiscs large(Dlg)のヒトホモログ)[Matsumine et al 1996]などのタンパク質と結合する.APCタンパク産物は腫瘍抑制因子である.APCタンパクはグリコーゲン合成酵素キナーゼ3b(GSK-3b)との複合体を作り,この複合体は、細胞質基質のβカテニンをリン酸化し,その後のユビキチン媒介プロテオソームによる排除を標的とする機能を果たす.βカテニンは,細胞接着および細胞内のシグナル伝達に関与する.[Korinek et al 1997, Morin et al 1997, Nakamura 1997, Peifer 1997, Rubinfeld et al 1997].正常なAPCタンパクの存在は,おそらくβカテニンを制御することによって,細胞質でのβカテニンの蓄積を防いで正常なアポトーシスを維持し,そしておそらく細胞増殖を減少させているようだ.この経路は通常,既知のいくつかの細胞増殖機能に関与するWingless-Wntシグナル経路に含まれている.

APCタンパクは有糸分裂時の動原体に集積し,動原体微小管接着に作用し,マウス胚幹細胞の染色体分離で役割を果たす[Fodde et al 2001, Kaplan et al 2001].染色体不安定性がAPC機能喪失時によく見られるため,APCタンパクは染色体不安定性に関与すると推測されている.

APCタンパクのその他の役割は,大腸腺窩細胞遊走に対する制御,Eカドヘリンと共に細胞接着に対する制御,GSK3bと共に細胞極性に対する制御,またはその他の微小管と関連する機能を持つ[Nathke et al 1996, Barth et al 1997, Etienne-Manneville & Hall 2003]. Goss & Groden [2000]はAPCタンパク機能について非常に優れたレビューを提示している.

異常遺伝子産物

通常,APC遺伝子病的バリアントでは,切断型のタンパク質が生成される.実験では,正常な長さのAPCタンパクは細胞膜/細胞骨格,ヒト上皮細胞の核画分に存在したのに対し,変異したAPC遺伝子しか存在しない大腸がん細胞では,切断型のAPCタンパクは核画分に存在しなかった[Neufeld & White 1997].

異常(一般的には切断型の)タンパク質を生成するAPC遺伝子の病的バリアントでは,GSK-3bと結合できず,βカテニンを排除できないため,高濃度の遊離細胞質βカテニンが観察される.遊離細胞質βカテニンは細胞核に遊走し,転写因子Tcf-4 またはLef-1(T細胞リンパ系強化因子)と結合したり,c-MycやサイクリンD1のようながん遺伝子の発現を活性化する可能性がある[Chung 2000]. APC遺伝子が標的とするものすべてはまだわかっていないが,細胞増殖を増やしたり,アポトーシスを減らしたりする可能性がある.APCタンパクは細胞遊走に重要であるため,異常APCタンパクは,正常な大腸腺窩の細胞配置を混乱させる可能性がある.さらに,APC遺伝子病的バリアントは大腸がんにおける染色体不安定性に関与すると考えられている[Fodde et al 2001]


更新履歴

  1. Gene Review著者: Randall W Burt, MD, Kory W Jasperson, MS
    日本語訳者: 櫻井晃洋(信州大学医学部遺伝医学・予防医学講座)
    Gene Review 最終更新日: 2008.7.24. 日本語訳最終更新日: 2008.12.15.
  2. Gene Review著者: Kory W Jasperson, MS and Randall W Burt, MD.
    日本語訳者: 江田 肖(瀬戸病院 遺伝診療科),櫻井晃洋(札幌医科大学医学部遺伝医学)
    Gene Review 最終更新日: 2014.3.27.   日本語訳最終更新日: 2014.6.27. 
  3. Gene Reviews著者: Kory W Jasperson, MS, Swati G Patel, MD, MS, and Dennis J Ahnen, MD.
    日本語訳者: 浦祐子(札幌医科大学大学院医学研究科遺伝医学),櫻井晃洋(札幌医科大学医学部遺伝医学)
    Gene Reviews 最終更新日: 2017.2.2. 日本語訳最終更新日: 2018.5.6.(in present)

原文 APC-Associated Polyposis Conditions

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