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MCT8変異による甲状腺ホルモン輸送障害
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遺伝子シンボル |
検査方法 |
発見された変異 |
検査方法による変異発見率 1 |
検査の利用可能 |
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男性罹患者 |
女性保因者 2 |
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SLC16A2 (MCT8) |
塩基配列決定法 |
塩基配列変異 |
不明 |
不明 |
臨床的 |
エクソンまたは遺伝子全体の欠失 |
不明 3 |
0% 4 |
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欠失/重複決定法 5 |
エクソンまたは遺伝子全体の欠失 |
不明 |
不明 |
検査結果の解釈
検査手順
発端者の診断の確定/確立.MCT8 変異による甲状腺ホルモン輸送障害の診断は、精神運動発達遅滞と特徴的な甲状腺検査結果を示す男性で確立できる。MCT8遺伝子に変異が発見されれば、この診断は確定される。今日までに、MCT8 遺伝子変異を持ちながら正常または特徴のない甲状腺検査結果が報告された者はいない;したがって、MCT8遺伝子全体の塩基配列を決定する前に(T3とrT3の濃度測定を含む)甲状腺検査をおこなうことを推奨する。
リスクのある女性親族の保因者検査は、(a)家系の病因変異の先の発見後でも、または(b)もし男性患者が甲状腺ホルモン検査を利用できない場合でも、塩基配列決定法によっておこなうことができる。もし変異が発見されなかったら、欠失/重複異常を発見できる他の方法を用いることができる。
注意:女性保因者はこのX連鎖疾患のヘテロ接合体であって、通常この疾患に関連した臨床症状が出現することはない。
リスクのある妊娠での出生前診断と着床前遺伝子診断(PGD)は家系の病因変異を先に発見する必要がある。
遺伝学的に関連する疾患
MCT8 遺伝子変異は非症候性X連鎖精神遅滞の原因として疑われてきた。(すなわち、甲状腺ホルモン異常を伴わない);しかしながら、予備的な甲状腺検査を受けていない401例の精神遅滞の男性同胞を検査した研究では、ただのひとつの家系でMCT8 遺伝子変異が発見された。その後、甲状腺検査で、その患者が典型的な甲状腺検査結果を示したことが明らかになった [Frintsら2008]。
臨床像
新生児期.MCT8変異による甲状腺ホルモン輸送障害の乳児は、出生時の身長、体重と頭囲は正常である。筋緊張低下と哺乳困難は、生後1週か、または1ヵ月以内に出現しうる。
成長.身長増加は典型的に正常であるが、およそ20%の男性が低身長である[SchwartzとStevenson 2007]。体重増加は身長増加に比べ遅れる;小頭症は年齢が進むと明らかになる。
頭蓋顔面.出生前と乳児期の筋緊張低下が原因かもしれない共通の顔貌所見は、眼瞼下垂、開口とテント状上口唇を含む。耳の長さは成人患者のおよそ半分で97パーセンタイルを超える。カップ状耳、鼻と耳の肥厚化、上向き耳朶や顔面の皺の減少もまた報告されている。
神経筋.体幹の筋緊張低下は成人期まで持続する。四肢の進行性過緊張によって痙性四肢麻痺と関節拘縮が出現する。総体的に筋量は減少し、これは全身の筋力低下と関連する。男性患者は「しなやかな頸」と記載され、成人になっても頚定不良である。
男性患者が、ジストニーおよび/またはアテトーゼ、および特徴的な発作性または運動誘発性ジスキネジーとして記載される無目的な運動を経験することはよくある[Brockmann et al 2005, Fuchs et al 2009]。これらは、着替えや子どもを持ち上げることを含む体性感覚刺激によって惹起されうる。運動発作の間、体幹は進展し口は開く;四肢の伸展や屈曲は1から2分間の長さで持続する。
けいれん発作は乳児期か小児期早期の間に発病する患者のおよそ25%に出現する[Schwartz & Stevenson 2007]。
勢いある反射、足クローヌス、および伸展性足底反応(バビンスキー徴候)はよくみられる。報告はあるが、回転性眼振と非共同性眼球運動はあまりみられない[Dumitrescu et al 2004]。
骨格.ロート胸と側弯はよくみられ、筋緊張の低下と筋量の低下の結果がもっとも考えうる。
行動.一般に、患者は注意深く、好意的で従順である。彼らは攻撃的でなく、あるいは破壊的でもない。
発達.精神運動遅滞は男性患者の100%に見られる。男性患者の多くは決して座位や独歩することなく、あるいは時を経て、これらの運動能力を失う。さらに、男性患者の多くは決して言葉を話さないか、または重度の構音障害から二次的に不明瞭な音のみが出現するようになるかもしれない。
その他.乳児期の甲状腺機能低下症の典型的な所見(すなわち、新生児黄疸の遷延、粘液水腫の皮膚変化、巨舌、嗄声、臍ヘルニア、そして低身長)はみられない[Schwartz et al 2005]。
寿命.ある患者に、通常は反復性の感染症および/または嚥下性肺炎が原因となる早期死亡が出現している。少数例で、70歳を超える生存が報告されている。
ヘテロ接合体の女性患者.MCT8遺伝子を切断する新規転座と、不利なnonrandomのX染色体不活性化で、MCT8変異による甲状腺ホルモン輸送障害の典型的な特徴を持つ女性が報告された[Frints et al 2008]。上述の精神運動所見の多くはヘテロ接合体女性にはおこらないが、知的な遅れと精神遅滞は稀に報告がある[Dumitrescu et al 2004、 Schwartz et al 2005、 Herzovich et al 2007]。
遺伝子型と臨床型の関連
少数のミスセンス変異(p.Ser194Phe、 p.Leu434Trp、 p.Leu568Pro)と一アミノ酸欠失(p.F501del)は、幾分の言語発達、読み/書き、および/または失調があるにもかかわらず援助なしで歩く能力を含む軽微な精神運動遅滞と関連する[Jansenら 2008、 Visserら 2009]。独歩と言語発達がみられるのは、他の変異を持つ男性患者では珍しい。
浸透率
MCT8変異を持っていて、病気にならない男性は報告されていない。したがって、浸透率は100%と思われる。ヘテロ接合体女性は典型的には臨床的に正常である。
促進現象
促進現象は観察されていない。
病名
MCT8遺伝子の発見と甲状腺ホルモン代謝の欠損の後で、MCT8変異による甲状腺ホルモン輸送障害がこの病気の名前として与えられた。
MCT8異常を有する患者と以前に記載された症候群であるAllan-Herndon-Dudley syndrome (AHDS)の臨床的表現型の間に部分的な一致があることから、Schwartzら[2005]は、AHDSの6家系でMCT8遺伝子を解析した。MCT8遺伝子変異は6家系すべてで発見された。
頻度
MCT8変異による甲状腺ホルモン輸送障害の有病率は不明である。しかしながら、およそ5年間に50家系以上が発見され、この症候群が以前暗示されたよりも多いことが示唆されている。
鑑別診断
多くの疾患がX連鎖遺伝形式で筋緊張低下と重度の精神遅滞を示す。下に記載された、いくつかの疾患も、痙性やけいれん発作、あるいはMCT8変異による甲状腺ホルモン輸送障害と一部重なる他の特徴を示しているので、考慮すべきである。
重要なことで、ひとつの研究では、年齢とともに珍しく髄鞘化が改善されたPelizaeus-Merzbacher病様疾患の重症型53家系の11%でMCT8遺伝子変異が報告された[Vaurs-Barriereら 2009]。
臨床的マネジメント
MCT8変異による甲状腺ホルモン輸送障害と診断された患者の病気の程度や適切な治療法を確立するために、現在流通し、公表されているガイドラインは存在しない。
最初の診断に続いて行なう評価
患者で病気の程度を確立するために、次の事柄が推奨されている。
病変に対する治療
次に記載する治療が適切である。
注意:小児期の補充量による甲状腺ホルモン治療は有益な効果はない。しかしながら、PTUとT4の組み合わせ治療は一例の患者で観察されたように体重増加と心拍数への有益な効果があるかもしれない。
適切な手段は次の事柄を含む
経過観察
適切な経過観察は次の事柄を含む
リスクのある親族への検査
遺伝カウンセリング目的のリスクのある親族の検査に関連する問題は遺伝カウンセリングを参照せよ
研究中の治療
細胞への輸送でMCT8を必要としない甲状腺ホルモン類似物は評価中である。そのような類似物質のひとつは、Mct8変異マウスでの効果検査によって発見されている。
広範な疾患や病気の臨床研究の情報の入手にはClinicalTrials.govを検索せよ。
その他
遺伝クリニックは、遺伝学の専門家が職員で、患者と家族に自然歴、治療、遺伝形式に関する情報を提供している、そして他の家族メンバーには遺伝的リスクと利用可能な消費者中心の資源についての情報も同じように提供している。GeneTests Clinic Directoryを参照せよ。
疾患特異的、さらに/またはこの疾患の包括的支持組織の消費者資源を参照せよ。これらの組織は、情報や援助と、他の患者への接触を患者と家族に提供するために設立されている。
遺伝カウンセリング
「遺伝カウンセリングは個人や家族に対して遺伝性疾患の本質,遺伝,健康上の影響などの情報を提供し,彼らが医療上あるいは個人的な決断を下すのを援助するプロセスである.以下の項目では遺伝的なリスク評価や家族の遺伝学的状況を明らかにするための家族歴の評価,遺伝子検査について論じる.この項は個々の当事者が直面しうる個人的あるいは文化的な問題に言及しようと意図するものではないし,遺伝専門家へのコンサルトの代用となるものでもない.」
遺伝形式
MCT8(SLC16A2)変異による甲状腺ホルモン輸送体障害はX連鎖形式で遺伝する。
患者家族のリスク
発端者の両親
男性発端者の両親
発端者の同胞
発端者の同胞のリスクは両親の遺伝的事情に依存する:
発端者の子
男性患者は子どもを持たない。
女性発端者の子
女性患者は子どもを持たないであろう;報告された唯一の女性患者は低ゴナドトロピン性腺機能低下症であった。MCT8遺伝子変異を持つ女性は、それぞれの子どもに病因変異を遺伝するのに50%のリスクがある:変異を遺伝した男児は発病する;変異を遺伝した女児は保因者になり、軽微な甲状腺検査異常を示すかもしれない。
発端者の他の家族
もし発端者の母親が病因変異を持つことが判明したら、母親の家系の女性親族は保因者のリスクが高くなるかもしれない(軽微な甲状腺検査異常を示すかもしれないが典型的な症状はない)、男性親族は発端者との遺伝的関連によって発病するリスクがあるかもしれない。表現型が正常の男性はおそらく変異を持っていないと思われる。
保因者診断
もし家系で病因変異が発見されているならば、リスクのある女性親族の保因者診断は可能である。
遺伝カウンセリングに関連した問題.
家族計画
DNAバンキング DNAバンクは主に白血球から調製したDNAを将来利用することを想定して保存しておくものである。検査技術や遺伝子、変異、あるいは疾患に対するわれわれの理解が将来さらに進歩すると考えられるので、DNA保存が考慮される。DNAバンクは特に分子遺伝学的検査の感度が100%でないような状況においてはことに重要である。
出生前診断
リスクのある妊娠について出生前診断が技術的に可能である。 DNAは胎生16−18週に採取した羊水中細胞や10−12週*に採取した絨毛から調製する。成人発症型疾患の出生前診断の希望に対しては注意深い遺伝カウンセリングを必要とする。出生前診断を行う以前に、罹患している家族において病因となる遺伝子変異が同定されている必要がある。
原文 MCT8 (SLC16A2)-Specific Thyroid Hormone Cell Transporter Deficiency