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22q11.2重複
(22q11.2 Duplication)

Gene Review著者: Helen V Firth, DM, FRCP, DCH Consultant Clinical Geneticist, Addenbrooke's Hospital, Cambridge, United Kingdom
日本語訳者: 江田 肖(瀬戸病院 遺伝診療科),櫻井晃洋(札幌医科大学医学部遺伝医学)  
Gene Review 最終更新日: 2013.11.21 日本語訳最終更新日: 2014.6.2

原文 22q 11.2 Duplication


要約

疾患の特徴 

本章において、22q11.2重複はよくみられる3Mbあるいは1.5Mbの近位縦列重複と定義される。22q11.2重複の表現型は通常軽度だが、非常に多様である。臨床所見は一見正常な例から、知的障害/学習障害、精神運動発達遅延、成長障害や筋緊張低下まで広範囲にわたる。発端者の両親が一見正常である割合が高いことから、22q11.2重複を有するにも関わらず、識別できるような表現型的影響がないことが多いと考えられる。

診断・検査 

臨床所見だけで、22q11.2重複を疑うような明白な表現型はない。一般的なGバンド染色体検査は22q11.2重複を検出できない。ほとんどの患者は染色体マイクロアレイにより22q11.2重複が同定される。

臨床的マネジメント 

対症療法:患者個々のニーズに合った教育プログラム。

サーベイランス:教育ニーズが満たされているのかを確認するために、定期的発達の評価を受けること。

遺伝カウンセリング 

22q11.2重複は常染色体優性遺伝形式で受け継がれるか、または新生突然変異(de novo)によって生じる。22q11.2重複と診断されるほとんどの患者は片親から重複を受け継いでいる。同じゲノムの変化にもかかわらず、子には明らかな臨床所見が見られるが、同じ重複を有する親は正常あるいはほぼ正常な表現型を呈する(22q11.2重複による身体的所見がない)ことがある。罹患者の子は50%の確率で同じ重複を受け継ぐ。出生前診断は技術的に可能だが、22q11.2重複の検査結果から、表現型を予測するのが不可能である。


診断

臨床診断

22q11.2重複は2003年に初めて報告された[Ensenauer et al 2003, Hassed et al 2004, Yobb et al 2005]新しい疾患である。一般的なGバンド染色体検査では検出できない。2007年、22q11.2重複のほとんどは22q11.2欠失症候群に対するアレイCGH法あるいはMLPA法により確認された[Stachon et al 2007]。現在、いくつかのタイプの染色体マイクロアレイがコピー数増加の検出に応用されている。

染色体マイクロアレイ検査は通常発達遅延や知的障害を評価するための一環として用いられる。この被検者バイアスにより、22q11.2重複の表現型を確立するのが困難である。臨床所見だけでは本症を疑うのに十分ではない。
22q11.2重複は分子遺伝学的検査に確定される。注:(1)本章では、22q11.2重複は一般的な3Mbあるいは1.5Mbの近位縦列重複と定義される。(2)この領域を含むその他の重複は、一般的な3Mbあるいは1.5Mbの近位縦列重複と異なる切断点が少なくとも1つ含まれる。

分子遺伝学的検査

GeneReviewsは,分子遺伝学的検査について,その検査が米国CLIAの承認を受けた研究機関もしくは米国以外の臨床研究機関によってGeneTests Laboratory Directoryに掲載されている場合に限り,臨床的に実施可能であるとする. GeneTestsは研究機関から提出された情報を検証しないし,研究機関の承認状態もしくは実施結果を保証しない.情報を検証するためには,医師は直接それぞれの研究機関と連絡をとらなければならない.―編集者注.

臨床検査

Table 1. 22q11.2重複に使用される分子遺伝学的検査の概要

検査方法 検出される変異1 変異の検出率
欠失/重複解析2,3 3Mbあるいは1.5Mbの重複 N/A
  1. アレル変異に関する情報は「分子遺伝学」の項を参照のこと。
  2. 欠失/重複解析とは、シークエンス解析で検出できない、ゲノムDNAの翻訳領域やイントロン隣接領域における遺伝子変異を同定するための検査であり、本症ではゲノム染色体マイクロアレイ(CMA)が使われている(例:aCGH, SNPアレイ)。
  3. 22q11.2領域に注目したその他の欠失/重複解析法は、重複の確認や重複サイズを決定するためのフォローアップ検査、または発端者の血縁者のための検査に用いられる(例:間期FISH法、MLPA、定量PCR)。

検査手順

発端者における確定診断 3Mbあるいは1.5Mbの近位縦列重複の検出が必要である。
 
リスクのある血縁者における評価 22q11.2欠失/重複に焦点をあてた検査法により、血縁者に同じ重複の検出が可能である。

出生前診断および着床前診断(PGD) 事前に発端者の重複が同定される必要がある。本症において、正確に表現型を予測するのは困難であるため、出生前診断やPGDが臨床的に適切かどうかはまだ確定されていない(「出生前診断」の項を参照する)。

遺伝学的に関連した(アレル)疾患

22q11.2微小欠失症候群は、本症において重複した3Mbあるいは1.5Mb領域や遺伝子の欠失が関与している。


臨床像

自然歴

本症の臨床所見は一見正常な例から、知的障害/学習障害、精神運動発達遅延、成長障害、筋緊張低下まで広範囲にわたる。
以下は22q11.2重複の最も一般的な症候性所見である[Wentzel et al 2008]。

22q11.2重複を有する9名の患者に関する研究によると、本症の表現型は通常軽度だが、非常に多様であった[Ou et al 2008]。同じように、11名のフランドル人の小児(3-13歳)に関する研究では、22q11.2微小重複の小児における臨床的表現型は大部分が軽微だが、非常に多彩であった[van Campenhout et al 2012]。
22q11.2重複の発端者は、高い割合で一見正常な両親を持っていることから、22q11.2重複の多くは識別できるような表現型を示さないと考えられる。Eichlerらは様々な発達障害を有する集団における22q11縦列重複の頻度を0.31%と報告した。この値は発達障害を有しない集団における0.06%という頻度に比べ、5倍高い(p=1.26x10-5) [E Eichler, 未公開データ; van Campenhout et al 2012を参照]。二次的に確認された患者に関する研究は、染色体検査からの被検者集団よりバイアスの少ない表現型の確立に役立つ。さらに、表現型が詳しく記載されない「一見正常」の集団における大規模なデータ分析は、本症のより完全な全体像を把握することに役立つ。

遺伝子型‐表現型の相関

得られているデータに限りがあること、および22q11.2重複の表現型への影響の有無やその程度の確立が困難であるため、3Mbと1.5Mbの重複の違いを特定するのは不可能である。Albertiらが1.5Mbの重複を有する患者について記載している(Alberti et al [2007])。

浸透率

22q11.2縦列重複が確認された発端者において、臨床的特徴をこの重複に帰す際には注意を要する。22q11.2重複は発達遅延、知的障害やほかの臨床的特徴から染色体異常を疑われた被検者だけでなく、健常者にもこの領域の重複が認められるからである。
22q11.2における縦列重複は通常受け継がれるものである。Van Campenhoutら[2012]は重複領域のサイズが異なる(324kb-3450kb)22q11微小重複を有する発端者について調査している。遺伝形式が分かった10名の発端者のうち、4名が新生突然変異、6名が片親(2名が母親、4名が父親)から重複を受継いでいた。既存の技術と知識では、22q11.2重複という検査結果に基づいて信頼できる表現型の予測を行うのは不可能である[Wentzel et al 2008]。

罹患率

発達遅延/知的障害を精査するために、ゲノムマイクロアレイ解析を勧められた7000人の研究調査では、22q11.2における3Mbの重複が10人の患者に確認された。従って、22q11.2重複の罹患率はこの集団において、おおよそ700人に1人と推定される[Ou et al 2008]。
発達に問題を有する15,000人以上の患者に関する最近の研究では[E Eicher, unpublished data May 2011; referenced in van Campenhout et al 2012]、本症の罹患率は320人に1人と推定されている。この罹患率の上昇は、アレイ解析がより広範に使用され、軽度な発達遅延の患者が加わったからと考えられる。


鑑別診断

本稿で扱われる疾患に対する遺伝学的検査の実施可能性に関する最新情報は,GeneTests Laboratory Directoryを参照のこと.―編集者注.

22q11.2重複の最も一般的な所見は知的障害/学習障害である。精神運動発達遅延、成長障害および筋緊張低下も良く見られるが、これらは細胞遺伝学的検査の適応としては非特異的な所見である。上記所見に対する22q11.2重複の関与はまだ不明である。

一部の小児患者において、発達の問題の遺伝学的原因は1つではないと認識されつつある。重度な発達の問題あるいは/および多発奇形を有する小児に22q11.2縦列重複が確認された場合に、表現型に関与するほかの遺伝学的原因の有無を確認するために、更なる検索を考えるべきである。

注:本症に関する鑑別診断は、診断支援ソフトを参照すること(事前登録または研究目的の使用が必要)。


臨床的マネジメント

初診時における評価

22q11.2重複と診断された患者に対し、疾患および治療ニーズの範囲を確立するために、下記が推奨されている。

治療法

個々のニーズに合った教育プログラムを提供すべきである。

治療法

個々のニーズに合った教育プログラムを提供すべきである。

サーベイランス

患者の教育的ニーズが満たされているかどうかを確認するために、定期的に発達の評価を受けるのが適切である。

リスクのある血縁者の評価

リスクのある血縁者の検査は「遺伝カウンセリング」の項を参照のこと。

研究中の治療

注:本疾患における臨床試験は行われていない。


遺伝カウンセリング

「遺伝カウンセリングは個人や家族に対して遺伝性疾患の本質,遺伝,健康上の影響などの情報を提供し,彼らが医療上あるいは個人的な決断を下すのを援助するプロセスである.以下の項目では遺伝的なリスク評価や家族の遺伝学的状況を明らかにするための家族歴の評価,遺伝子検査について論じる.この項は個々の当事者が直面しうる個人的あるいは文化的な問題に言及しようと意図するものではないし,遺伝専門家へのコンサルトの代用となるものでもない.」

遺伝形式

22q11.2は常染色体優性遺伝形式または新生突然変異によって生じる。

患者家族のリスク

発端者の両親

発端者の同胞 

発端者の子

発端者の子は50%の確率で重複を受け継ぐ。重複を受け継いだ場合の表現型を予測するのは不可能である。僅かに微小三重複へ拡大する可能性がある(「発端者の同胞」の項を参照のこと)。

他の血縁者 

遺伝カウンセリングに関連した問題

家族計画

DNAバンク

DNAバンクは主に白血球から調製したDNAを将来の使用のために保存しておくものである。検査法や遺伝子,変異あるいは疾患に対する私たちの理解が進歩するため,罹患者のDNAを保存することは考慮すべきかもしれない。
 
出生前診断

出生前診断は技術的に可能である。羊水(妊娠15-18週)または絨毛(妊娠10-12週)から採取した胎児細胞を用いて、「分子遺伝学的検査」の項に記載されている間期FISH法によい検出することが可能である。
しかし、検査結果から本症の表現型を正確に予測するのは不可能である。
本症の表現型を正確に予測するのが困難であることから,22q11.2重複に対する出生前診断の臨床的な適切性はまだ確定されていない。出生前診断の希望があった場合に、本症に関する知識のもとで、慎重に考慮や話し合いをし、既存文献をレビューする意義がある。

*妊娠週数は最終月経の開始日あるいは超音波検査による測定に基づいて計算される。

着床前診断(PGD) 家系内の遺伝子病的変異が同定されている場合には技術的には可能である。

訳注:本疾患に対して出生前診断の適応があるとは考えられていないし,着床前診断も行われていない。

関連情報

染色体起因しょうがいじの親の会 http://www.eve.ne.jp/FLC/


分子遺伝学

下記の記述は最新の情報が含まれているため、GeneReviewsに記載されているほかの情報と異なる場合がある。

Table A 22q11.2重複:遺伝子とデータベース

棄却域 遺伝子記号 染色体座位 タンパク質
DGCR 該当なし 22q11.2 該当なし

Table B  OMIMにおける22q11.2重複の関連情報

608363 CHROMOSOME 22q11.2 DUPLICATION SYNDROME

分子遺伝学的発病機序 

染色体22q11.2におけるローコピー数配列(LCR22s)が介在する染色体再構成は微小欠失および微小重複を引き起こす。このゲノム領域は動的変化が起きやすく、少なくとも1家系が22q11.2重複から三倍体に拡大したと報告されている[Yobb et al 2005]。
下記のように、22q11重複は重複のサイズおよび遺伝子量よって異なる。

これらの重複は22q11.2領域における特徴的な微小欠失への予測相互再構成として現れたかもしれない[Ou et al 2008]
DiGeorge/口蓋心臓顔面症候群領域内および遠位における選択的LCRs(LCR22s)を組換え基質とする高頻度な染色体再構成により、この動的変化が起きやすい領域内に、より小さい重複も起こりうる。


原文 22q 11.2 Duplication

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