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CADASIL

[Synonyms: Cerebral Autosomal Dominant Arteriopathy with Subcortical Infarcts and Leukoencephalopathy]

GeneReview著者: Saskia AJ Lesnik Oberstein, MD, PhD; Elles MJ Boon, PhD; Gisela M Terwindt, MD, PhD
日本語訳者: 大塚洋子(ボランティア翻訳者)、櫻井晃洋(札幌医科大学医学部遺伝医学)
GeneReview最終更新日: 2015.3.15. 日本語訳最終更新日: 2015.3.22.

原文 CADASIL


要約

疾患の特徴 

皮質下梗塞および白質脳症を伴う常染色体優性脳動脈症(CADASIL: Cerebral Autosomal Dominant Arteriopathy with Subcortical Infarcts and Leukoencephalopathy)に特徴的な病歴には、成人中期発症の反復性脳虚血発作、認知症に進行する認知機能障害、前兆のある片頭痛、気分障害、アパシーのほか、神経画像検査により検出されるびまん性大脳白質病変および皮質下梗塞がある。

診断・検査 

95%を超える患者にNOTCH3遺伝子の変異が認められる。NOTCH3遺伝子は、CADASILを引き起こすことが知られている唯一の遺伝子である。CADASILの病理学的特徴は、細動脈中膜で観察される電子密度の高い顆粒状物質と動脈壁のNOTCH3染色性の増強にある。これらは皮膚生検組織で確認できる。

臨床的マネジメント 

症状の治療: CADASILには有効性の証明された治療法はない。抗血小板療法がたびたび行われるが、CADASILに対する有効性は証明されていない。片頭痛は、症状発生の頻度に応じて対症的にも予防的にも治療を行うべきである。高血圧、糖尿病あるいは高コレステロール血症が併存する場合も治療すべきである。患者とその家族を対象として、実用的支援、情緒的支援、およびカウンセリングを含めた支持療法の提供が望まれる。

回避すべき薬剤や治療法: 血管造影検査および抗凝固薬は脳血管発作を惹起する可能性がある。喫煙により脳卒中の危険性が高まる。血栓溶解療法(静脈内血栓溶解療法)は脳出血の危険性を高めるものと推測されるため、禁忌である。

遺伝カウンセリング 

CADASILは常染色体優性形式で遺伝する。ほとんどの症例で患者の一方の親が罹患しており、新生変異はまれと考えられる。患者の子はいずれも、50%の確率で変異を受け継ぎ本疾患の徴候を現す。家系内の病原性変異が同定されていれば、リスクの高い妊娠に対する出生前診断や着床前診断が技術的には可能である。ただし、典型例において成人期の発症となる疾患では、出生前診断の希望はまれである。


診断

臨床診断

CADASILには広く認められた診断基準はない。CADASILの診断スクリーニングがPesciniらによって提唱されている。

CADASILを示唆する所見

以下の所見を呈する場合にはCADASILを疑うべきである.

CADASILの臨床症状は家系によって異なり、しかも同一家系内の患者の症状も一様ではない。本疾患は、皮質下虚血性イベント、認知機能障害、前兆のある片頭痛、気分障害、およびアパシーの5つの症状を特徴とする。

  • 一過性脳虚血発作および脳虚血性発作は平均年齢47歳(年齢範囲20〜70歳)で発生する。ほとんどの症例で古典的な血管系の危険因子を認めない。虚血性イベントは皮質下領域で発生し、その病態は総じてラクナ症候群である。
  • 認知機能障害は通常実行機能障害(軽度の認知障害)から始まる。症状は進行性であるが、再認記憶と意味記憶は一定程度維持される。大多数は脳卒中の発作を繰り返すたびに段階的に悪化する。
  • 前兆のある片頭痛はCADASIL患者の30〜40%にみられる。この症状を伴う例では、平均発症年齢30歳(年齢範囲6〜48歳)で初発症状として出現することがある。遷延性の、脳底型または片麻痺性前兆に錯乱、発熱、髄膜炎、または昏睡を伴う非典型的な発作を認める。
  • 気分障害が患者の30%にみられる。
  • アパシーが患者の40%にみられる。アパシーは抑うつとは独立した症状である可能性がある。

脳画像検査:病変の進行に伴い画像上の異常所見があらわれる。

  • MRI画像の白質高信号域は、時には極めて微細な例もあるが、21歳以降には大多数の症例で描出されるようになる。
    • 側頭極の白質高信号
    • 外包の白質高信号
  • 病原性変異を持つ20〜30歳の患者では、しばしば最初に側頭葉前部の白質に明瞭な高信号域が現れる。この時点では、脳室周囲のキャップ状の高信号域を除き、白質のその他の領域に画像上異常は見られない。
    本疾患の経過に伴い白質高信号を示す病変の容積が増加し、一部の高齢患者では、最終的に病巣が拡大癒合し正常な様相を呈する白質がほとんど識別不能なほどにまで縮小する。
  • 症候性の患者では、白質高信号域は脳室周囲白質と深部白質に認められ左右対称に広がる。大脳白質病変の体積は、前頭葉、側頭葉、頭頂葉の順に大きい。
  • 患者の70−80%に血管周囲領域の拡張が認められる。こうしたMRI上の異常所見は皮質下ラクナ病変とも呼ばれる.
  • 主に視床に認められる小出血はT2強調gradient echo画像でもっともよく検出できる。

家族歴 常染色体優性遺伝形式にのっとった家族歴があることは診断の補助になるが,家族はしばしば誤った診断がなされているので,必須ではない.CADASILの臨床像は同一家系内でも個人差が大きいことに注意を要する.

診断の確定

ADASILの診断はNOTCH3遺伝子の病原性変異の確認(表1),もしくは遺伝学的検査結果が不確定の場合は,皮膚生検標本における特徴的な電顕所見および免疫染色所見の証明によってなされる.

分子遺伝学的検査はNOTCH3遺伝子のエクソン2−24およびイントロン−エクソン境界のシークエンス解析と,これで変異が見つからない場合の重複/欠失解析を含む.

注:CADASIL罹患者で,NOTCH3病的変異のホモ接合が報告されている.ホモ接合体の臨床像もCADASILのそれに合致する.

表1. CADASILの分子遺伝子的検査

遺伝子1

検査方法

本法で検出可能な変異の検出率

NOTCH3

シークエンス解析

推定値>95%

欠失/重複解析

不明

  1. 染色体座位とタンパク名のデータは、(原文の)Table A "CADASIL: Genes and Databases"に掲載されている。アレル多型については、(原文の)"Molecular Genetics"の項を参照のこと。
  2. シークエンス解析で検出される多型は,良性,おそらく良性,意義不明,おそらく病的,病的,に分類される.病的多型(変異)には,小欠失/挿入,ミスセンス変異,ナンセンス変異,スプライス変異が含まれる.通常、エクソン単位の欠失/重複や遺伝子全領域の欠失/重複は検出されない。シークエンス解析の結果を解釈する際に検討すべき事項については、GeneReviewsのAppendix "Interpretation of Sequence Analysis Results"を参照のこと.
  3. 上皮細胞成長因子(EGF)様反復配列(原文の"Molecular Genetics"の項を参照)をコードするすべてのエクソン(エクソン2〜23*2)をシークエンス解析し、かつ厳しい組み入れ基準を適用した場合の推定値
  4. ゲノムDNAのコーディング領域および隣接するイントロン領域のシークエンス解析では容易に検出できない、欠失/重複の同定を目的として行われる。この検査では、NOTCH3遺伝子/染色体分節を対象に含む、定量PCR法、ロングレンジPCR法、多重連鎖反応依存性プローブ増幅法(MLPA: multiplex ligation-dependent probe amplification)、染色体マイクロアレイ解析(CMA: chromosomal microarray analysis)といったさまざまな手法が使用される。
  5. Ruttenら(2013).

皮膚生検 皮膚生検などにより得られた小径の細動脈の超微細構造解析により診断を確定できる。電子顕微鏡下で、血管中膜の平滑筋細胞周辺に特徴的なオスミウム好性顆粒状物質(GOM: Granular Osmiophilic Material)が認められる。この病変はCADASILに特異性高く出現する。ただし、報告される感度には幅がある。

NOTCH3抗体による生検皮膚の免疫染色では、血管壁にNOTCH3の染色を認める。

熟練した(神経)病理医による電子顕微鏡と免疫染色双方の評価により,CADASILの確定診断が可能である.

遺伝的に関連のある疾患

外側髄膜瘤症候群患者(Lehman症候群)で,NOTCH3遺伝子エクソン33(タンパクの細胞内領域のPESTドメインをコードする)の切断変異が報告されている.この変異はNOTCH3シグナル伝達系の機能獲得を介して作用すると考えられ,CADASILで認められるNOTCH3変異とは別個のものである.

常染色体優性新生児筋線維腫症でNOTCH3遺伝子エクソン25の変異(c.4556T>C, p.Leu1519Pro)が報告されている.

NOTCH3シグナル伝達経路は腫瘍発生に関与する(原文の"Molecular Genetics"の項を参照)。


臨床像

自然経過

CADASILは微小血管障害の一病態であり、主として脳を障害する。CADASILの臨床症状、発症年齢、進行経過はさまざまである。

皮質下虚血性イベント 一過性脳虚血発作(TIA: transient ischemic attack)と脳卒中はもっとも高頻度に生じ、症候性患者の約85%にみられる。小血管病変に関連する脳卒中は明らかに当疾患の主症状と考えられる。

虚血性エピソードの平均初発年齢はおおよそ45-50歳であるが,20歳代から70歳代にわたる。

虚血性エピソードは、定型例では古典的ラクナ症候群(純粋運動性不全片麻痺、失調性不全片麻痺、一側の手の巧緻運動障害・構音障害、純粋感覚性障害、感覚運動障害を特徴的な症状とする)として現れる。しかし、この他の病型をとるラクナ症候群(脳幹、大脳半球に発生)も観察される。虚血性エピソードは多くの場合反復性であり、歩行障害、尿失禁、仮性球麻痺を伴う重度の障害につながる。

大血管の支配領域を巻き込む脳卒中が時折報告される。このような症例は、病因の異なる他疾患が偶然、CADASIL患者で観察された可能性がある。

認知機能障害および認知症 認知機能障害は2番目に合併頻度の高い症状であり、早い例では35歳から始まる.患者の約75%は認知症を発症し,しばしばアパシーを伴う。

認知障害のパターンは初期には遂行機能の障害(遂行速度およびエラーモニタリング),流暢な言語の障害,想起障害が特徴的である.認知機能障害は興味関心の対象が狭まりを伴う。大半の症例で認知機能は緩徐かつ段階的に低下する。Amberlaらの研究(2004年)によれば、NOTCH3遺伝子に変異を持つ脳卒中発症前の患者で作業記憶と遂行機能の低下が観察されており、認知機能の低下は、症候性の虚血エピソード発生以前に潜行性に始まる可能性があると推測される。

片頭痛 片頭痛はCADASIL患者の約35%にみられる。平均26-29歳で初回発作を生じる。片頭痛を合併する患者の頻度は5%から77%と報告により差がある.片頭痛を有する患者の90%は前兆を経験する。CADASILの家系のなかには、諸症状のうち前兆のある片頭痛がもっとも顕著に表れる家系がある。遷延型前兆、脳底型前兆、または片麻痺性前兆を伴ったり、錯乱、発熱、髄膜炎、または昏睡を生じたりする非典型的な発作もみられる。

精神障害 CADASILのコホート研究の多くで,患者の約1/3に精神障害が認められている.その頻度は報告により差がある.イタリア人患者23例の小規模な調査ではうつの生涯発症リスクは74%であった.一方中国人のコホートでは,精神障害は7%に認められるにすぎなかった.

精神障害の内容は人格変化から重度の抑うつにわたる。これらの障害が一次性または反応性のいずれであるかについては現時点では解明されていない。ただし、精神医学上の問題を生じたCADASIL患者についての記述は以前からみられる。 可逆性急性脳症 一部の患者で急性脳症発症の報告がある。錯乱、頭痛、発熱、痙攣、および昏睡を伴い、死亡に至る症例も時折みられる。

てんかん CADASIL患者の10%に中年期にてんかんがみられ,通常脳卒中にともなう二次的なものである。 妊娠 妊娠期から産褥期(とりわけ産褥期、つまり出産以降子宮が妊娠前の大きさに戻るまでの期間)においては、前兆のある片頭痛を生じるリスクが高まる旨ことが示唆されている。前兆のある片頭痛の症状は、一過性脳虚血の症状と混同されることがある。

その他

  • 心疾患 CADASILへの罹患が心疾患の合併に関連するか否かについては議論がある。オランダの研究によれば、NOTCH3遺伝子変異を持つ患者の約25%に、急性心筋梗塞(MI)の既往および/または調査時点において心電図に異常Q波が認められた。この合併率はNOTCH3遺伝子変異を持たない対照群に比べて有意に高い。一方、Cumurciucらの研究では、NOTCH3遺伝子変異を持つ患者23人に心電図検査を行ったところ、心筋梗塞の既往を示唆する所見は得られなかった(2006年)。2つの研究が,心電図上のQT時間変動の増大に基づき,不整脈リスクの上昇を示唆している.
  • 神経 CADASIL患者の神経生検における異常所見が報告されており,末梢神経障害はCADASILの部分症かもしれない.他の研究ではCADASILと末梢神経障害の関連は認められていない. •
  • 眼科的異常 潜在性の網膜病変の発生が報告されている。眼底検査により、無症候性の網膜血管異常が明らかになることがある。 •
  •  腎血管へのNOTCH3蓄積とGOM沈着が認められ,腎動脈の狭窄が報告されている.CADASILにおける腎障害についての大規模な研究報告はないが,現時点で腎機能が影響を受けるという証拠は示されていない.
  • 長期予後および死因 411人の患者を対象とした大規模研究によりCADASILの長期予後を示すデータが収集された。この研究によれば、介助なしの歩行が不能となる年齢の中央値は約60歳、寝たきりになる年齢の中央値は64歳である。死亡年齢の中央値は68歳であり、女性患者よりも男性患者のほうが疾患の進行が速い。男性患者の生存時間の中央値はドイツの生存率曲線から推定される値よりも有意に低い。女性患者の生存時間の中央値はわずかに低いが有意差はない。この差の理由は不明だが,性ホルモン,リスク因子への対応の性差―治療,社会支援,社会経済的要因,などが考えられる. 死亡原因の第1位は肺炎、次に突然死、窒息と続く。死因となる症状が出現した時点で、患者の78%は全面的な介助を要する状態、63%は寝たきりの状態にあった。
  • 病態生理 無症状のCADASIL患者または認知症を合併したCADASIL患者においては脳酸素摂取率が上昇する。この事実から明らかなように、患者の脳への血液供給量は需要量未満に低下する。脳血流量、脳血液量、および脳ブドウ糖消費量が著しく低下する。さらに、脳血管反応性の障害がみられるが、これは小動脈および細動脈で血管平滑筋細胞の変性が観察されることと矛盾しない。また、病理解剖およびグラディエントエコー法によるMRI画像検査により脳微小出血が高頻度で確認される。これは脳微小血管の脆弱性亢進を示唆する。

遺伝型と表現型との関連

遺伝型と表現型の相関性について記述した研究はいくつかあるが、遺伝型を基にCADASIL患者の表現型を予測することはできない。発症年齢、疾患の重症度、および進行経過は、一家系内においてさえ大幅に異なることがある。

ホモ接合性変異を有するCADASIL症例が報告されている。NOTCH3遺伝子変異のホモ接合体患者の表現型は、CADASILの疾患スペクトラムの基準を満たす。

浸透率

当疾患の浸透率はおそらく100%と考えられるが、発症年齢、臨床症状の重症度、および疾患の進行に関連する発現は一様でない。

病名

過去の文献には"hereditary multi-infarct dementia(遺伝性多発脳梗塞性痴呆)"、"chronic familial vascular encephalopathy(慢性家族性血管性脳症)"、および"familial subcortical dementia(家族性皮質下性痴呆)"の病歴を持つ家系の記述がみられる。これらはCADASIL症例の初期の報告にほかならない。

頻度

CADASILと診断されていない患者が多いと推測されるため,本症の正確な頻度は不明である.多数の小規模な,あるいは国におけるCADASIL患者の登録データに基づき、罹患者頻度は少なくとも成人100,000人当たり2-4人と推定されている。

CADASIL関連情報の大半は欧州で発表されたものであるが、当疾患はすべての大陸で観察されている。 フィンランドおよびイタリアのマルシェ地域のCADASIL患者に創始者効果を認めたとの報告がある。


鑑別診断

本稿で扱われる疾患に対する遺伝学的検査の実施可能性に関する最新情報は,GeneTests Laboratory Directoryを参照のこと.―編集者注.

CADASILの鑑別診断には以下を含む.

  • 多発性硬化症(MS)
  • ビンスヴァンガー病を含む孤発性脳小血管病
  • 中枢神経限局性血管炎

この三者は、臨床的特徴とMRI画像の異常がCADASILに類似する場合がある.したがって鑑別には側頭極のMRI所見,視神経や脊髄病変の欠如,脳脊髄液の電気泳動にてオリゴクローナルバンドが検出されないこと,高血圧の所見がないことが重要な所見となる.

このほか、下記遺伝性疾患の診断を除外する必要がある。

  • ファブリー病
  • CARASIL: Cerebral Autosomal Recessive Arteriopathy with Subcortical Infarcts and Leukoencephalopathy(皮質下梗塞と白質脳症を伴う常染色体劣性脳動脈症)
  • MELAS: Mitochondrial Encephalomyopathy, Lactic Acidosis, and Stroke-like episodes(ミトコンドリア脳筋症・乳酸アシドーシス・脳卒中様発作症候群)
  • 白質ジストロフィーの一部の病型

これらの疾患は、関連する臨床徴候、MRI画像、遺伝形式、および適切な臨床検査によりCADASILとの鑑別が可能である。 若年者が前兆のある片頭痛を発症しており、しかもMRI検査にて複数の白質病変が検出された場合は、CADASILへの罹患を疑う必要もある。

臨床医への注: 個々の患者に適した本疾患の'simultaneous consult(並行診断)'については SimulConsult® のサイトを参照して頂きたい。SimulConsult® は、患者の所見を基に鑑別診断を提供する対話型診断支援ソフトウェアツールである(利用には登録または施設からのアクセスが必要)。


臨床的マネジメント

初回の診察後の評価

CADASILと診断された患者の疾患の広がり・程度を確定するために、以下の方法による評価が推奨されている。

  • 神経学的評価
  • 遂行機能に焦点を絞った心理測定法
  • 標準的な脳MRI検査(FLAIRシークエンス)

遺伝専門医とのコンサルテーション 精神医学的コンサルテーションを考慮すべきである.

症状に対する治療

CADASILには有効性の証明された治療法はない。抗血小板療法がたびたび行われるが、CADASILに対する有効性は証明されていない。

片頭痛は、症状発生の頻度に応じて対症的にも予防的にも治療を行う必要がある。片頭痛発作の治療薬としてトリプタンは麦角誘導体よりも好ましい可能性があるが、トリプタンと麦角誘導体を避けるべきとする説には証拠がない。

高血圧、糖尿病、および高コレステロール血症が併存する場合は治療すべきである。 実際的支援、情緒的支援、およびカウンセリングなどの,患者とその家族を対象とした支持療法を実施することが適切である。 del Rio-Espinolaらにより、CADASIL患者に対する医学的管理の方法について新たな考察が加えられた。

一次病変の予防

CADASILの脳卒中や血管性認知障害に対する予防法はない。 片頭痛発作は、対症的および予防的に,標準的治療法にのっとって対処する。

経過観察 CADASILに対する国際的に標準化されたサーベイランスガイドラインは存在しない.いくつかの国では,たとえばフランス健康局によるCADASIL医療ガイドラインのように,ガイドラインを作成し,公開している.

診断時から,CADASILについての経験が豊富な神経内科医による毎年のフォローアップが推奨される. うつや他の精神的症状が認められた時は神経精神科医への紹介が推奨される. 必要に応じて,リハビリ科医師,理学療法士,心理士などの専門職への紹介も行う.

CADASIL患者の診療の間隔は患者の重症度や症状の種類,患者の希望や医療担当者の判断による.

回避すべき薬剤や治療法

血管造影検査および抗凝血剤は脳血管発作を惹起する危険性があるため、CADASILの患者への使用は禁忌である。 喫煙により脳卒中の危険性が高まるため、CADASILの患者は喫煙を避けるべきである。 血栓溶解療法(静脈内血栓溶解療法)は脳出血の危険性を高めるものと推測されるため、禁忌である[専門医の意見]。

リスクのある血縁者の評価

遺伝カウンセリングを予定してリスクのある血縁者を検査する際の問題については、後述の「遺伝カウンセリング」の項を参照のこと。 妊娠期の管理 臨床診療から得られた知見に基づく限り、CADASILに罹患した子宮内または娩出中の胎児、娩出後の新生児に合併症が生じるリスクが高まるとの根拠はない(正式な研究は実施されていない)。

NOTCH3遺伝子に変異を持つ女性患者は、妊娠中、分娩中、および分娩直後(産褥期)に神経学的イベントを生じるリスクが高まるとの記述がみられる(後ろ向き研究の結果であることに注意が必要)。筆者らの経験では、大多数のCADASILの女性患者は、妊娠および分娩の際に合併症を経験することはないが、一過性の神経学的イベントの発生がときおり報告される(その多くは片頭痛の前兆として矛盾しない症状を呈する)[Lesnik Oberstein、臨床的観察から得た未発表の情報]。

研究中の治療法

アセタゾラマイドの片頭痛に対する効果について小規模の観察研究が行われ,有効性が示唆された.アセタゾラマイドは脳血流にも有益な効果があったとする症例報告がある.アセタゾラマイドはCADASILに対してルーチンには投与されない. さまざまな疾患や病態についての臨床試験情報についてはClinicalTrials.govを検索すること.

その他

横断研究と縦断研究の結果、血圧の高いCADASIL患者は疾患の進行が比較的早いことが示唆された。ただし、降圧剤による治療が疾患の進行速度に及ぼす効果については、対照群を設定した研究のデータが提示されていない。 脳神経科医は一般に、脳卒中症例の経験に基づき、サリチル酸系薬剤を処方することが多い。しかし、CADASIL患者の脳卒中の予防を目的としたこの処方の有効性については研究がない。


遺伝カウンセリング

「遺伝カウンセリングは個人や家族に対して遺伝性疾患の本質,遺伝,健康上の影響などの情報を提供し,彼らが医療上あるいは個人的な決断を下すのを援助するプロセスである.以下の項目では遺伝的なリスク評価や家族の遺伝学的状況を明らかにするための家族歴の評価,遺伝子検査について論じる.この項は個々の当事者が直面しうる個人的あるいは文化的な問題に言及しようと意図するものではないし,遺伝専門家へのコンサルトの代用となるものでもない.」

遺伝形式

CADASILは、常染色体優性形式で遺伝する。

患者家族のリスク

発端者の両親

  • CADASILと診断される患者の大多数は片親が罹患している。ただし、時折り家族歴陰性例が報告される。
  • CADASILの発端者は新生変異により罹患する場合がある。新生変異が2例報告されている。
  • CADASIL患者が既知のNOTCH3変異を持つ場合、見かけ上無症状の親の評価方法としては分子遺伝学的検査が推奨される。無症状の親を対象とした遺伝学的検査は予測検査として行われるため、正式な遺伝カウンセリングの実施を前提とすべきである。
  • 見かけ上家族歴が陰性と考えられても、適切な評価を行って初めて確定することができる(下記の注を参照)。 •
  • Razviらの記述(2005年a)によれば、CADASILの特徴を示す患者の家族歴が誤って陰性とされることは少なくない。Razviらは、CADASILの家系を同定する際に、早発性脳卒中の家族歴のみを根拠とするのはおそらく不十分であると結論付けている。
  • NOTCH3遺伝子にホモ接合性変異を持つCADASIL患者が報告されている。このような症例では、発端者の両親がいずれもNOTCH3変異を持っている可能性がある。

注: CADASILと診断された患者の大多数は罹患した親を持つ。しかし、血縁者に罹患の認識がない、未発症の親の早期死亡、親の遅発性発症といった理由で家族歴が陰性であるかのように見えることがある。

発端者の同胞 

  • 発端者の同胞のリスクは発端者の両親の遺伝的状態により異なる。
  • 発端者の片親が罹患している場合、同胞のリスクは50%である。
  • 発端者がNOTCH3遺伝子のホモ接合性変異を持ち、しかも両親がともにヘテロ接合性変異を持つ場合、発端者の同胞が少なくとも一方のアレルの変異を受け継ぐリスクは75%である。
  • 白血球から抽出したDNAの遺伝子検査でどちらの親にも病原性変異が検出されない場合、発端者はおそらく新生変異を持つものと考えられ、同胞のリスクはほとんどない。理論上、生殖細胞系列モザイクの可能性はあるが、今までに報告は見られない。

発端者の子

  • NOTCH3遺伝子に変異を持つ発端者の子はそれぞれ50%の確率で変異を受け継ぐ。
  • 発端者がNOTCH3遺伝子のホモ接合性変異か複合ヘテロ接合性変異を持つとき、発端者の子はそれぞれ100%の確率で変異のいずれか1つを受け継ぐ。

その他の血縁者

  • その他の血縁者のリスクは発端者の両親の状態による。
  • 親が罹患している場合は、その親の家系の構成員にリスクが生じることがある。

遺伝カウンセリングに関連した問題

リスクのある無症状成人血縁者の検査は、上述「分子遺伝学的検査」の項に示した検査技術により実施可能である。このような検査には、無症状の患者の発症時期、重症度、症状のタイプ、進行速度を予測する観点からの有用性はない

CADASILの発症リスクを持ちながらも未発症の血縁者が非特異的で曖昧な徴候を示す場合、この血縁者を対象としたルーチン検査は予測的検査であり診断検査とはならない。リスクのある血縁者の検査に際しては、事前に家系内の発症者の検査を実施し分子遺伝学的な診断を確定しておく必要がある。

発症前遺伝子検査に際しては、ハンチントン病を対象として公表されたガイドラインに準拠することが望ましい。

リスクのある無症状成人血縁者は、挙児、経済的問題、キャリアプランに関連する個人的な意思決定を目的として発症前検査を希望することがある。

この他にも、文字通り「知る必要」があるとする場合など、さまざまな動機が考えられる。通例、リスクのある成人血縁者の発症前検査を実施する際には検査前面接が行われ、検査を希望する動機、被検者のCADASIL関連知識、検査結果(陽性または陰性)が及ぼし得る影響を評価する。

発症前診断を希望する成人血縁者は、自らが遭遇するであろう健康、寿命、身体障害保険の保障、雇用・教育差別、家族や社会との関わりの変化等の問題についてカウンセリングを受けるべきである。さらには、被験者本人の検査結果から推測される他の血縁者のリスク状態についても考慮すべきである。インフォームドコンセントを遵守し、記録は機密下に保管する必要がある。検査結果が陽性の場合には、長期にわたる経過観察と評価の態勢を整える必要が生じる。

リスクのある18歳未満の無症状者の検査 治療法のない成人発症型疾患のリスクを持つ18歳未満の無症状者に対しては発症前検査を行うべきでない。この点に関してはコンセンサスが得られている。主たる理由は、相応の利益をもたらさずに未成年者から自律的決定権を奪うことにある。この他には、検査結果が原因で家庭内に葛藤が生じ不健全な影響が及ぶ可能性、将来、障害者の烙印を押され差別を受ける恐れ、遺伝学的情報を原因とする不安などが懸念される。

CADASILの確定診断を受けた患者を擁する家系においては、症状のある者は、年齢にかかわらず必ず遺伝学的検査を受ける必要がある。 詳細は以下の文献を参照のこと。

  • 米国遺伝カウンセラー学会の作成になる未成年を対象とした、成人発症型疾患の遺伝学的検査に関する意見書"Genetic Testing of Minors for Adult-Onset Conditions"
  • 米国人類遺伝学会および米国医療遺伝学協会により公表された、小児期および青年期に実施される遺伝学的検査の倫理的、法的、心理社会的な影響についての留意事項"Ethical, Legal, and Psychosocial Implications of Genetic Testing in Children and Adolescents"
  • 見かけ上、新生変異とみられる家系への配慮 常染色体優性疾患の発端者の両親のどちらにも当疾患の原因となる変異や臨床的根拠が認められない場合、発端者が新生変異を持っている可能性がある。しかし、生物学的父親や母親が異なる場合(例えば生殖補助医療による出生)や非開示の養子縁組など、疾患以外の理由について調査することもあり得る。

家族計画

  • 遺伝学的リスクの評価および出生前検査利用の検討は、妊娠前に行うのが望ましい。
  • 若年成人の患者またはリスクを持つ若年成人に対しては、子に及ぶ潜在リスクや妊娠出産に関する選択肢についての話し合いを含めた遺伝カウンセリングの機会を提供することが望ましい。

DNAバンキングとは、将来の使用に備えてDNA(一般には白血球より抽出)を貯蔵しておくことをいう。今後、検査技術の改良や遺伝子とその変異や疾患の研究の進展が見込まれるため、患者のDNAの貯蔵は検討に値する。

出生前診断

リスクが高い妊娠に対して出生前診断を実施することができる。絨毛膜絨毛サンプリング(CVS)により絨毛細胞を採取するか(妊娠第10〜12週頃に実施)、羊水穿刺により胎児細胞を採取したうえで(通例、妊娠第15〜18週頃に実施)、これらの細胞から抽出した胎児DNAを解析する。出生前診断を実施する前に、家系内患者の病原性変異が同定されている必要がある。CADASILの出生前診断実施例が報告されている。

注: 胎生週数は、最終正常月経の開始日から数えた月経週で表すか、超音波検査の測定結果を基に割り出す。 CADASILのように、定型例において成人発症となる疾患の場合、出生前検査・診断の要望は多くはない。とりわけ出生前検査が早期診断を目的とせず人工妊娠中絶を念頭に行われる場合には、医療専門家や家族の間で出生前診断に対する見解の違いがあり得る。大方の医療機関は、出生前診断を受けるか否かの決定は両親に委ねられるものと考えるであろうが、こうした問題は議論を交わして然るべきである。

着床前遺伝子診断(PGD: Preimplantation Genetic Diagnosis)は、すでに病原性変異が同定されている家系ならば利用できる可能性がある。


原文 CADASIL

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