Gene Review著者: Lisbeth Tranebjaerg,MD,PhD, Ricardo A Samson,MD,and Glenn Edward Green,MD.
日本語訳者: 小原令子,高木敦子,西村基,野村文夫(千葉大学附属病院遺伝子診療部)尾内善広(千葉大学医学部公衆衛生学講座)
Gene Review 最終更新日: 2012.10.4. 日本語訳最終更新日: 2014.3.30
原文 Jervell and Lange-Nielsen Syndrome
疾患の特徴
ジャーベル・ランゲ-ニールセン症候群(JLNS)は、先天性重度両側性感音難聴と通常500 msec以上となるQTc延長によって特徴づけられる。QTc間隔の延長は、心室性頻脈、Torsade de pointes、心室細動などの頻脈性不整脈と関係しており、これらが失神や突然死を招くと推測される。鉄欠乏性貧血やガストリン値の上昇もしばしばJLNSに見られる特徴である。JLNSの古典型例は、聾があり、精神的ストレス時や運動時または恐怖を感じた際に失神発作を起こすことのある小児である。JLNS罹患児の50%は3歳までに何らかの心イベントを経験している。また無治療のJLNS罹患児の半数以上が15歳前に亡くなっている。
診断・検査
先天性感音性難聴とQT延長を有する子どもで、KCNQ1遺伝子もしくはKCNE1遺伝子いずれかの両アリルに疾患原因となる変異が確認された場合にJLNSと確定診断される。JLNSの原因遺伝子としてはKCNQ1とKCNE1の2つのみが知られている。
臨床的マネジメント
臨床症状に対する治療:難聴には人工内耳の埋め込み;QT間隔延長に対してはb-アドレナリン受容体遮断薬(bブロッカー);心停止を経験した者または他の治療効果が認められなかった者に対しては埋め込み型除細動器 (ICD);鉄欠乏性貧血のある患者に対しては通常の治療を行う 。
二次的合併症の予防:不整脈のリスクが増加するので、麻酔中は特別な注意が必要である。
定期検査:bブロッカーの量についてはその効果と副作用を定期的に評価すべきであり、特に成長期には3か月から6か月毎に評価すべきである;ICDについては、誤作動はないかどうか、ポケットやリード線の状態などを定期的に点検する必要がある 。
回避すべき薬物や環境:QT延長を誘発する薬剤;QT延長症候群患者において失神を誘発するような活動は回避すべきである 。
リスクのある親族の検査:リスクのある同胞については、標準的な新生児聴覚スクリーニングと心電図検査;家系内発症者において疾患原因となる遺伝的変異が判明している場合は、確定診断のための分子遺伝学的検査を行う。
その他:家族に対する心肺蘇生法のトレーニング;診断名の記載があるIDブレスレットの装着;地域の救急医療サービスに対して、JLNSのハイリスク患者であることを通知する 。
遺伝カウンセリング
JLNSは常染色体劣性形式で遺伝する。JLNS罹患児の両親はこの疾患遺伝子に関して通常ヘテロ接合体である;稀に片親のみが保因者で、もう一方の変異が新生突然変異によって起こる場合がある。両親はQT延長症候群(LQTS)の症状を示すこともあれば、示さないこともある。受胎時に、罹患児の同胞それぞれがJLNSに罹患する確率は25%、JLNSの疾患原因となる変異の保因者でLQTSのリスクがある確率は50%、非罹患で遺伝的保因者でもない確率は25%である。家系内で疾患原因の変異が既知の場合には、リスクのある親族についての保因者診断や、リスクのある妊娠に際しての出生前診断が可能となる。
臨床診断
以下の症状全てを満たす場合、ジャーベル・ランゲ-ニールセン症候群(JLNS)と確定診断される。
[Priori et al 1999]
難聴 分子遺伝学的にJLNSと確定診断された患者は全て先天性重度感音難聴を呈する。
(Deafness and Hereditary Hearing Loss Overviewを参照のこと)。
QTc延長 現存の診断基準に基づくならば、全てのJLNS罹患者は500 msec以上(平均550 msec)のQTcを呈し、心室の脱分極と再分極の時間が延長している[Tyson et al 2000]。一般的に正常なQTcの上限は、男性で440 msec、思春期後の女性で460 msecである[Priori et al 1999, Allen et al 2001]。
注:(1)分子レベルでの解明がなされる以前は、JLNSの診断は臨床基準のみに依存していたため、分子遺伝学的に確定診断されたJLNS罹患児の中で、どのくらいの子どもがQTc延長のボーダーライン(440 ~500 msec)を呈するのか、またはQTc正常範囲に含まれるのかについては、現在も不明なところである。この点については、より多くの罹患者データが集積されつつあり、いずれ判明すると考えられる。Schwartzら[2006]の総説には、135家系中の186人の罹患者(遺伝子変異は63家系(47%)で確定)についての自然経過、分子レベル情報、臨床的特徴について包括的概要が記載されている。(2)難聴は、家族性QT延長症候群(LQTS)と診断されてから見つかることが多い(Romano-Ward Syndromeを参照のこと)。このような状況からすると、難聴は、特にそれが中等度の場合には、LQTSの発症原因とは全く関係がないと考えられる。
分子遺伝学的検査
GeneReviewsは,分子遺伝学的検査について,その検査が米国CLIAの承認を受けた研究機関もしくは米国以外の臨床研究機関によってGeneTests Laboratory Directoryに掲載されている場合に限り,臨床的に実施可能であるとする. GeneTestsは研究機関から提出された情報を検証しないし,研究機関の承認状態もしくは実施結果を保証しない.情報を検証するためには,医師は直接それぞれの研究機関と連絡をとらなければならない.―編集者注.
遺伝子 JLNSはKCNQ1またはKCNE1のいずれかの遺伝子の変異が原因で起こる[Neyroud et al 1997, Splawski et al 1997, Duggal et al 1998, Chen et al 1999]。
臨床検査
表1.ジャーベル・ランゲ-ニールセン症候群に用いられる分子遺伝学的検査の概要
遺伝子記号 | JLNSにおける当該遺伝子の変異率 | 検査方法 | 検出される変異 |
---|---|---|---|
KCNQ1 | 90%1 | 塩基配列解析/ 変異スキャン |
塩基配列のバリアント2,3 |
欠失/重複の解析4 | 単一または複数エクソンの欠失または重複5 | ||
KCNE1 | 10%6 | 塩基配列解析/ 変異スキャン |
塩基配列のバリアント2,3 |
欠失/重複の解析4 | 遺伝子の部分的または全欠失;報告は無い7 |
検査結果の解釈
塩基配列解析の結果において解釈上考慮すべき点については、次をクリックのこと。
http://www.ncbi.nlm.nih.gov/books/NBK6851/検査手順
発端者の確定診断 2つの方法がある:
または
リスクのある血縁者の保因者検査 まず家系内において疾患原因となっている変異が特定されていることが必要である。
注:保因者はこの常染色体劣性遺伝病についてはヘテロ接合体である。
出生前診断と着床前遺伝子診断(PGD) リスクのある人の妊娠に際して出生前診断や着床前遺伝子診断を行なうには、まず家系内において疾患原因となっている変異が特定されていることが必要である。
遺伝的に関連のある(同一アレルの)疾患
KCNQ1または KCNE1の変異ヘテロ接合体は、難聴を伴わないQT延長症候群(LQTS)の子どもに観察され常染色体優性形式で遺伝する[Towbin et al 2001](ロマノ-ワード症候群とも呼ばれている)(「鑑別診断」を参照のこと)。
自然経過
ホモ接合体 分子遺伝学的にジャーベル・ランゲ-ニールセン症候群(JLNS)と確定されたすべての人に、先天性重度両側性感音難聴の聾がみられる(Deafness and Hereditary Loss Overviewを参照のこと)。
心臓の異常な脱分極と再分極は、QT延長と頻脈性不整脈(心室性頻脈、Torsade de pointes、心室細動が含まれる)を引き起こし、これらが結果的に失神や突然死につながると推測される。JLNSの古典型例は、聾があり、精神的ストレス時や運動時または恐怖を感じた際に失神発作を起こす小児である。
Schwarzらが行なった135家系のJLNS患者の調査[2006]では、顕著なQTc延長(557±65 msec)が認められた;そのうちの50%が3歳前に不整脈などの心イベントを経験しており、その誘因は情動や運動であった。しかし、調査対象に重症者の選択バイアスがかかった可能性も否定できない:成人に達するまで(中には50歳までという症例も1例あるが)聾以外何の臨床症状も示さずJLNSと推定診断された症例報告もある。
JLNSにおけるQTc延長は、特にそれが重度の場合には、乳幼児突然死(SIDS)のリスク上昇と関連があると思われる。JLNS罹患児で無治療の小児の半数以上は15歳前に亡くなるが、成人期になって数回の失神を経験しながらも生存している症例も報告されている。
KCNQ1-JLNS罹患者は、高頻度で鉄欠乏性貧血や高ガストリン血症を発症する[Winbo et al 2012b]。これはKCNQ1カリウムチャンネルの消失と胃酸分泌の低下によって生じると考えられる。Winboら[2012b]の調査研究は、ノルウェーのJLNS患者における貧血について、以前に行われた事例報告[Tranebjaerg et al 1999]を確証したものである。
JLNS患者間では性差はないが、女性の方が心停止や突然死のリスクがより低い[Schwarz et al 2006]。
身体所見では聾以外は明らかな異常はない。
ヘテロ接合体 ヘテロ接合体の人は、通常、聴力正常である。ヘテロ接合体の人の中にはQTc延長、失神、突然死を全く起こさない人もいる。しかしそれとは対照的に、失神や突然死につながるQTc延長を呈し、その症状が常染色体優性形式で遺伝する人もいる。このタイプのQT延長症候群はロマノ-ワード症候群(RWS)と呼ばれている。 RWSは他の複数遺伝子の変異によっても起こるが、これらはホモ接合型で聾/JLNS を引き起こすことはない(「鑑別診断」を参照のこと)。 RWSの遺伝子変異ではQTc間隔にかなりの多様性があり、正常のものから著しい延長をきたすものまである。
側頭骨の病理組織 分子遺伝学的検査が利用可能になる以前は、数例の側頭骨の組織学的検査が行なわれていたが、それ以降は行なわれていない。Kcnq1ノックアウトマウス(これはヒトのJLNSの動物モデルと考えられる)では、血管条の萎縮や内リンパ管区画および周辺部膜の崩壊が顕著である。コルチ器の完全崩壊やそれに付随したらせん神経節の変性も観察されている[Rivas & Francis 2005]。ノルウェーのJLNS罹患者で、KCNQ1遺伝子の572番目から576番目の欠失変異(c.572_576del)がホモ接合型である人の側頭骨病理組織検査では、重度の血管条萎縮と蝸牛神経線維を欠いたコルチ器が観察された[Tranebjaerg L& Merchant SM、未発表データ2012]。
遺伝子型と臨床型の関連
遺伝子型と表現型について、より正確に関連予測をするため、分子遺伝学的にJLNSと確定された多くの患者のデータが調べられた。遺伝子型が明らかになった63人のうち33%は複合ヘテロ接合体であった[Schwarz et al 2006]。少なくとも1人の不活性型変異(挿入/欠失、スプライス変異、トランケーション)を有する患者とミスセンス変異をもつ患者たちの間では、臨床的に明確な違いがみられなかった。
Schwarzら[2006]が調査した無症状の6症例では、2人にKCNQ1変異を、4人にKCNE1変異を認めた。さらに、KCNE1変異によるJLNSはKCNQ1変異のそれに比べてより軽症であることが確認された。
病名
ジャーベル・ランゲ-ニールセン症候群は、ジャーベル・ランゲ-ニールセンの心聴覚症候群やsurdo cardiac症候群とも呼ばれている。
JLNSは今では一つの症候群として確立されており、心臓や蝸牛の病理学的変化は共通の分子学的機序によって起こると考えられている。昔の文献には、QT延長症候群と重度ではない難聴を併せ持つ症例報告もあるが、これらの多くは、難聴とQT延長がそれぞれ別の原因によって発症しているものと考えられる(「鑑別診断」を参照のこと)。
頻度
頻度は調査集団によって異なる:
以上が頻度に関するデータとして最も信頼性が高いものである;しかし小児の場合、診断基準としてQTcを440 msec以上とするのは、15%-20%の偽陽性を含む可能性があるだろう[Allan et al 2001]。Schwartzら[2006]の総説に記載されている研究のデザインには、頻度評価についての改善は認められなかった。
本稿で扱われる疾患に対する遺伝学的検査の実施可能性に関する最新情報は,GeneTests Laboratory Directoryを参照のこと.―編集者注.
QT延長症候群(LQTS)の有無に関係なく、聾とQTc延長には、遺伝的要因、環境的要因も含めて複数の発症機序がある。聾とQTc延長(またはLQTS)の両方を有する患者の多くには、それぞれ別の発症要因がある。特に両親が血族婚でない場合や同胞に発症者がいない場合は、これらの可能性のすべてを、それぞれの患者について考慮しなければならない。難聴とQTc延長の両方を有する患者については、下記の事項を考慮する:
LQTの複数遺伝子パネルでは、この項で取り上げている疾患に関連があると報告されている複数の遺伝子について調べることができる。注:搭載されている遺伝子や使用方法は検査機関ごとに異なっている。
ロマノ-ワード症候群(RWS、QT延長症候群)ロマノ-ワード症候群(RWS)の診断は、心電図上におけるQT間隔の延長、臨床症状、家族歴に基づく; または先天性重度感音難聴がなく(このような難聴がある場合はジャーベル・ランゲ-ニールセン症候群の可能性が高い)、KCNQ1(遺伝子座 LQT1)変異、KCNH2(遺伝子座 LQT2)変異、SCN5A(遺伝子座 LQT3)変異、KCNE1(遺伝子座LQT5)変異またはKCNE2(遺伝子座 LQT6)変異の中のひとつが同定されることによって診断される。KCNE1に変異のある者は心房細動もあるかもしれない[Olesen et al 2012]。他の2つの遺伝子、ANK2とKCNJ2の変異もそれぞれLQT4とLQT7の原因になると提唱されてきたが根拠が明らかでなく、真に原因遺伝子であるかについては現在も検討中である。RWSの診断基準は、QTc延長を誘発することのないような条件下で測定された、安静時の心電図上の QTc値で確立されている。表2はRWSと関連性があると知られている遺伝子の概要である。KCNQ1とKCNE1のみがRWSとJLNSの両方に関わっている。
難聴のない常染色体劣性型ロマノ-ワード症候群の3家系についてはLarsenらが詳しく調査している[Larsen et al 1999]。
表2.常染色体優性型QT延長症候群(ロマノ-ワード症候群)関連遺伝子
遺伝子座 | 遺伝子 | タンパク質機能 | RWS患者中での割合 |
---|---|---|---|
LQT1 | KCNQ1 | IKs K+チャンネルaサブユニット | 46% |
LQT2 | KCNH2 (HERG) | IKs K+チャンネルaサブユニット | 38% |
LQT3 | SCN5A | INa Na+チャンネルaサブユニット | 13% |
LQT41 | 未同定 | 未知 | |
LQT5 | KCNE1 | IKs K+チャンネルbサブユニット | 2% |
LQT6 | KCNE2 | IKr K+チャンネルbサブユニット | 1% |
LQT71 | 未同定 | 未知 | |
LQT9 | CAV3 | 稀 | |
LQT10 | SCN4B | 稀 | |
LQT11 | AKAP9 | 稀 | |
LQT12 | SNTA1 | 稀 | |
LQT13 | KCNJ5 | 稀 |
Keatingと Sanguinetti「2001」による
LQT=Long QT
Ikr=rapidly activating delayed rectifier potassium current
IKs=slowly activating delayed rectifier potassium channel
1. Romano-Ward Syndromeより。 他の2つの遺伝子、ANK2とKCNJ2もそれぞれLQT4とLQT7に関連があると提唱されてきたが、QT延長症候群(LQTS)の原因遺伝子とすべきかどうかは未確定であり、現在も検討中である。
LQTSと関連のある心臓のチャンネル病で、他の遺伝性疾患には以下が含まれる[Ackerman 2005]:
難聴の原因 難聴の鑑別診断として、他の症候群性または非症候群性の疾患だけでなく、後天的疾患についても考慮する必要がある。遺伝性難聴についてもっと知りたい場合には、Deafness and Hereditary Loss Overviewを参照のこと。
特に注目すべき疾患のひとつにDFNB1があり、これは最も多い常染色体劣性遺伝形式の非症候群性難聴である。DFNB1は、先天性で非進行性、軽度から重度にまたがる感音性聴覚障害の疾患である。付随する他の医学的所見は何もない。難聴の原因となる変異をGJB2またはGJB6に認めた場合にDFNB1と確定診断される。これらの変異によって、それぞれギャップ結合タンパク質ベータ2(コネキシン26)とギャップ結合タンパク質ベータ6(コネキシン30)の変性が起こる。分子遺伝学的検査では、99%以上でこれらの遺伝子内に変異を見いだしている。重度の両側性感音難聴があり、しかしGJB2やGJB6の変異はなく身体的所見も正常という幼児ではJLNSを考えるべきである。
後天性LQTSの原因
乳幼児突然死症候群(SIDS) 最近の多施設からの集積データは、乳幼児突然死症候群(SIDS)の9.5%のケースで、7つのLQTS関連遺伝子 (KCNQ1,KCNH2,SCN5A,KCNE1,KCNE2,KCNJ2,CAV3)のうちのひとつが、機能的影響を及ぼすような変異ヘテロ接合型になっている可能性を示している[Arnestad et al 2007,Berul & Perry 2007,Wang et al 2007]。このように不整脈による突然死はSIDSに深く関わっていると考えられるが、これらのSIDS症例中どのくらいの割合が重度の聴覚障害を伴っていたのかは推測も含め不明である。近年、一般的に行なわれている新生児聴覚スクリーニングに新生児期の心電図検査を併用すれば、ハイリスクのJLNS新生児を見つけ出すのに非常に有効であろう。
臨床医への注: この疾患の患者に特化した「同時相談」については、相互的診断確定の支援ツールソフトSimulConsult®を参照するとよい。ここでは患者の所見に基づいた鑑別診断を提供している(要登録、アクセス制限あり)。
最初の診断時における評価
ジャーベル・ランゲ-ニールセン症候群(JLNS)の患者を診察する際には、病状を把握するために以下の項目を評価することが推奨される:
病変に対する治療
LNSの難聴に対して人工内耳(CI)の装着は有効であると考えられる。この処置は双極性のペースメーカーに対して干渉作用をもつものではない[Green et al 2000,Chorbachi et al 2002] (Deafness and Hereditary Hearing Lossを参照のこと)。これまで論文として公表されたものの累積数として、JLNSの約20人が人工内耳の埋め込みを受けている。ただし、JLNSの診断は4人のノルウェー患者においてのみ分子遺伝学検査で確定されており、4人すべてがKCNQ1変異を有していた。
注:人工内耳埋め込み術は安全であると考えられるが、麻酔の間は不整脈のリスクが増すので特別な注意が必要である[Daneshi et al 2008, Siem et al 2008,Yanmei et al 2008]。周術期の心停止で一人の患者が亡くなっている「Broomfield et al 2010」。
JLNS管理のメインゴールは、失神、心停止、突然死を防ぐことである。bブロッカーの治療効果は部分的でしかないことを注意しておくべきである:この治療をしても51%の人が心イベントを、27%の人が心停止や突然死を経験している。それ以外の治療(たとえばペースメーカー、埋め込み型除細動器、左側交感除神経術など)を受けたとしても、32人中の18人(56%)には何らかの異状があり、そのうちの7人は突然死している[Schwartz et al 2006]。
心突然死のリスクは5歳以下の幼児では低いようであるが、このようなハイリスクの小児については治療が早期に行なわれるべきで、5歳を過ぎたらICDの埋め込みが検討されるべきであろう[Richter & Brugada 2006]。
鉄欠乏性貧血の治療は、標準的なガイドラインに従って行なう。
一次的な病変の予防
「病変に対する治療」にある失神、心停止、突然死の予防について参照のこと。
二次的合併症の予防
心不整脈のリスクが増加するので、麻酔が必要なときは特に注意が必要である[Daneshi et al 2008, Siem et al 2008,Yanmei et al 2008]。
経過観察
βブロッカーの量が適切であるかどうかは効果と副作用を考慮しながら定期的に評価し、必要に応じて量を加減するべきである。成長する小児に対して適切量を処方することは特に重要で、急速な成長期にある場合は3-6か月毎に評価したほうがよい。
患者は埋め込み型除細動器(ICD)について、誤作動はないかどうか、ポケットやリード線の状態を定期的、周期的に点検するべきである。
回避すべき薬物や環境
以下に示すものは回避すべきである:
循環器科の医師は治療の有効性に応じた活動制限を薦めるべきである。
リスクのある親族の検査
JLNS罹患児の難聴を発見するには、標準的な新生児スクリーニング・プログラムで十分である。
JLNSとロマノ・ワード症候群は関連性があるので、たとえ正常な聴力があっても、JLNSのリスクがある親族については心電図検査を考慮すべきである。
もし患者家系内でJLNSの原因となる遺伝子変異が特定されている場合、先天性重度感音性難聴のある親族については、JLNSの確定診断をするために分子遺伝学的な検査をすることが推奨される。
リスクのある親族の検査に関しては「遺伝カウンセリング」の項を参照のこと。
研究中の治療法
様々な疾患や病態に対する臨床試験情報へアクセスする場合には、Clinical Trials.govを参照のこと。 注:現在この疾患についての臨床試験はないであろう。
その他
JLNS患者の家族は、心肺蘇生法(CPR)についてトレーニングを受けておくべきである。JLNS患者の95%が成人前に心イベントを経験している[Schwartz et al 2006]。
患者はJLNSの診断について説明が記載されているIDブレスレットを身につけておくべきである。
地域の救急医療サービス(EMS)に対して、JLNSのハイリスク患者であることを知らせておくことが適切である [Hazinski et al 2004]。
「遺伝カウンセリングは個人や家族に対して遺伝性疾患の本質,遺伝,健康上の影響などの情報を提供し,彼らが医療上あるいは個人的な決断を下すのを援助するプロセスである.以下の項目では遺伝的なリスク評価や家族の遺伝学的状況を明らかにするための家族歴の評価,遺伝子検査について論じる.この項は個々の当事者が直面しうる個人的あるいは文化的な問題に言及しようと意図するものではないし,遺伝専門家へのコンサルトの代用となるものでもない.」
遺伝形式
ジャーベル・ランゲ-ニールセン症候群(JLNS)は、常染色体劣性遺伝形式で遺伝する。
患者家族のリスク
発端者の両親
発端者の同胞
発端者の子
発端者の他の家族
発端者の両親の同胞については、KCNE1かまたはKCNQ1のいずれかに変異をもちLQTSを発症するリスクが50%となる。
保因者検査
保因者検査は、その家系内において一度遺伝子変異が特定された場合に、家系内の人に対して行なうことができる。
遺伝カウンセリングに関連した問題
早期の診断と治療を目的としたリスクのある親族についての評価は、「臨床的マネジメント」の項の“リスクのある親族の検査”を参照のこと。
JLNS家系においては、QTc延長が常染色体優性遺伝形式で伝わることがあるので、リスクのある家系内の人たちについては、LQTSの見極めをするために早期に心電図検査を行なうことが重要である。LQTSのある人たちは突然死のリスクが増加するので、心臓にかかわる治療介入が必要である。JLNS患者のいる家系内の人たちについて、実際のLQTS発症リスクはわかっていない。
JLNSの保因者はLQTS関連遺伝子に変異をひとつもつことになり、この遺伝子変異がQTc延長やLQTSを引き起こす原因となる(ただし治療が必要な場合もあれば不必要の場合もある)。いずれにしろ、その変異はLQTS(ロマノ-ワード症候群)またはJLNSとして臨床的意義をもった形でその後の世代に伝わっていくので、このことが家系の評価に混乱を来たしている。
家族計画
DNAバンキング
DNAバンキングとは、将来的利用を想定してDNAを保存しておくことである(多くの場合は白血球から抽出する)。検査技術や、我々の遺伝子、変異、疾患に対する理解が将来的によい方向に変わっていくことも考えられるので、患者のDNAを保存しておくことは考慮されるべきことである。
出生前診断
リスクのある妊娠に際しての出生前診断は、妊娠約15-18週に羊水穿刺によって得た胎児細胞や、妊娠約10-12週に絨毛採取によって得た胎児細胞からDNAを抽出して行なわれる。出生前診断が行なわれる前には、家系内の患者について疾患原因となった両アレルの変異が特定されていなければならない。
注:妊娠期間は月経週齢によって表わされ、最終の月経期間の第1日目から計算する場合と超音波診断で計測する場合とがある。
LQTSのように知性に影響を与えず何らかの治療法がある場合には、出生前診断の要望は通常ない。専門医の間でも、家族の間でも、特に出生前診断を早期の診断というよりも妊娠中絶のための検査と考えているような場合は、その後の展望に関する考え方に相違があるかもしれない。ほとんどの検査機関では、出生前診断についての決断は両親の選択によって行なわれるであろうが、付随するこれらの問題について議論されることが大切である。
着床前遺伝子診断(PGD)は、疾患原因となっている変異が特定されている家系において利用可能である。
以下は、GeneReviewsスタッフが選んだ当該疾患患者やその家族のための患者サポート団体や患者登録である。GeneReviewsはこの他の組織が提供している情報には責任を持たない。
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