ADNP関連障害
(ADNP-Related Disorder)

[Synonyms: Helsmoortel-Van der Aa Syndrome, ADNP-Related ID/ASD]

Gene Reviews著者: Anke Van Dijck, MD, PhD
日本語訳者: 吉村祐実(翻訳ボランティア),櫻井晃洋(札幌医科大学医学部 遺伝医学)

GeneReviews最終更新日: 2021.4.15  日本語訳最終更新日: 2022.6.23

原文 ADNP-Related Disorder


要約

疾患の特徴 

ADNP関連疾患は、患者78名のコホートに基づくと、筋緊張低下、重度の言語・運動の遅れ、軽度~重度の知的障害および特徴的顔貌(目立つ前額部、毛髪線高位、広く平らな鼻梁、短く厚い鼻、上向きの鼻尖)を特徴とする。紋切り型の行動、社会的相互行為障害といった自閉症スペクトラム障害の特徴はよくみられる。他のよくみられる所見には、さらなる行動障害、睡眠障害、脳の異常、てんかん、摂食障害、消化管障害、視覚障害(遠視、斜視、皮質視覚障害)、筋骨格系障害、低身長およびホルモン不全を含む内分泌異常、心臓・尿路異常、聴覚障害がある。

診断・検査 

ADNP関連障害の診断は、分子遺伝学的検査でヘテロ接合性ADNP病的バリアントが特定されることで確定する。

臨床的マネジメント 

症状の治療:
治療には症状に応じて言語療法、作業療法、理学的療法;患者のニーズに合わせた専門的な学習プログラム;神経精神医学的症状の治療;必要に応じて栄養サポート;胃腸、眼科、筋骨格、内分泌、および心臓の所見の標準治療;難聴、てんかん、尿路異常、および反復性感染症の標準的な治療、が含まれる。

サーベイランス:
毎回の診察時に、成長および栄養のモニタリング、作業療法および理学的療法の必要性、てんかん、発達の度合い、行動障害、消化管障害、家族のニーズを評価する。年一回の視力検査を行う。

遺伝カウンセリング 

ADNP関連障害は常染色体顕性遺伝(優性遺伝)性疾患であり、典型的にはde novoADNP 病的バリアントによって発症する。他の家族に対するリスクは低いと考えられる。 ADNP 病的バリアントが家族内で同定されたら、出生前診断・着床前診断が可能である。


診断

示唆的所見

以下の臨床的・MRI 所見が認められる場合、ADNP関連障害を検討するべきである。

fig1

図1

MRIの所見では非典型的な白質病変、広い心室、脳梁の発達不全、脳萎縮、皮質異形成、および脈絡膜嚢胞が認められる。

注.これらの所見はADNP関連障害の診断を特異的に示唆するには明確さが不十分である。

確定診断

分子遺伝学的検査によってADNP遺伝子にヘテロ接合性病的バリアントが同定されたらADNP関連障害と確定診断される。 
注. 意義不明のヘテロ接合性 ADNP バリアントが同定された場合は、確定診断に至らない、または確定診断から除外される(参照:表1)。

発達障害の小児や年長の知的障害者における分子遺伝学的検査は一般に、染色体マイクロアレイ(CMA)から始める。 CMAで診断に至らない場合、次の段階は一般的にマルチジーンパネルやエクソームシークエンシングを実施する。ADNPの単一遺伝子解析 (配列解析の次に遺伝子標的欠失/重複解析)は「確定診断」で記述される決定的な所見を有する人に適応できる。

注:(1)パネルに含まれる遺伝子と、各遺伝子に使用される検査の診断感度は、検査機関によって異なり、時間の経過とともに変化する可能性がある。(2)一部のマルチジーンパネルには、このGeneReviewで説明されている疾患とは関連しない遺伝子が含まれている場合がある。(3)一部の検査機関では、パネルオプションには、検査室で設計されたカスタムパネルおよび/または臨床医によって規定された遺伝子を含む表現型に重点をおいたカスタムエクソーム解析が含まれる場合がある。(4)パネルで使用される方法には、配列解析、欠失/重複解析、および/または他の配列解析ベース以外の検査が含まれる場合がある。

マルチジーンパネルに関する詳細はこちら 

臨床家がオーダーする遺伝学的検査のためのより詳細な情報はこちら 

1. ADNP関連障害に使用される分子遺伝学的検査

遺伝子1 方法 この方法で検出される病的バリアント2の割合
ADNP シークエンス解析3 99%4
標的遺伝子の欠失/重複解析5 報告なし
CMA6 1名7
  1. 遺伝子座位またはタンパク質は表A「遺伝子とデータベースを参照。
  2. この遺伝子内に同定されるバリアントの情報はこちらを参照。
  3. シークエンス解析では良性、おそらく良性、意義不明、おそらく病的、病的、のバリアントが検出される。病的バリアントには微小な遺伝子内欠失/挿入、ミスセンス、ナンセンスバリアント、スプライスサイトバリアントを含む;通常はエクソンや全ゲノム欠失/重複は検出できない。 シークエンス解析の解釈については、本文より参照ページ こちら
  4. Coe et al [2014]De Rubeis et al [2014]Helsmoortel et al [2014]Pescosolido et al [2014]Vandeweyer et al [2014]Deciphering Developmental Disorders Study Group [2015], およびHuman Gene Mutation Database(購読料が必要)の専門家の見解に基づくデータ[Stenson et al 2017]
  5. 遺伝子標的欠失/重複解析は、遺伝子内欠失/重複を検出する。単エクソン欠失/重複の検出方法には、定量PCR法、ロングレンジPCR法、MLPA法、標的遺伝子のマイクロアレイがある。
  6. CMAではオリゴヌクレオチドやSNPアレイを使用して、シークエンス解析では検出できないゲノムワイドな大きい欠失/重複(ADNPなど)を検出する。欠失/重複の大きさを検討する能力はマイクロアレイの種類および20q13.13領域におけるプローブの密度に依る。
  7. ADNPおよびDPM1を含む20q13.13のヘテロ接合性欠失を伴う1名にADNP関連障害と一致する特徴が現れている [Huynh et al 2018]。

分子遺伝学的検査

GeneReviewsは,分子遺伝学的検査について,その検査が米国CLIAの承認を受けた研究機関もしくは米国以外の臨床研究機関によってGeneTests Laboratory Directoryに掲載されている場合に限り,臨床的に実施可能であるとする. GeneTestsは研究機関から提出された情報を検証しないし,研究機関の承認状態もしくは実施結果を保証しない.情報を検証するためには,医師は直接それぞれの研究機関と連絡をとらなければならない.―編集者注.

遺伝子 CD40LG (以前にはTNFSF5あるいはCD154として知られた)は、X連鎖高IgM症候群(HIGM1)を引き起こすことが知られている唯一の遺伝子である。

臨床検査

表1.X連鎖高IgM症候群において用いられる分子遺伝学的検査

遺伝子1 検査方法 検出される変異2 検査法による変異検出頻度3
罹患男性 保因者女性
CD40LG

シークエンス解析4

シークエンス バリアント5

95%4,5

95%6

欠失/重複解析7

エクソンあるいは全遺伝子欠失

5%

5%8

  1. 染色体座位とタンパク質は、表A. 遺伝子とデータベースを参照。
  2. アレルバリアントの情報については、分子遺伝学を参照。
  3. 示された遺伝子に存在する変異を検出するために使用される検査方法の能力。
  4. シークエンス解析は、〈良性、おそらく良性、意義不明、おそらく病的、病的〉バリアントを検出する。病的バリアントには遺伝子内の小さな欠失/挿入、ミスセンス変異、ナンセンス変異、スプライス部位変異がある。シークエンス解析では一般的に、エクソン単位あるいは遺伝子単位の欠失/重複は検出できない。シークエンス解析結果の解釈に考慮すべき問題については、ここをクリック。
  5. シークエンス解析前のPCRによる増幅の欠如は、罹患男性のX染色体上のエクソン、多重エクソン、遺伝子そのものの欠失を示唆する。確認のために、欠失/重複解析による追加の検査が必要となることがある。
  6. ゲノムDNAのシークエンス解析は、ヘテロ接合の女性の一つ以上のエクソンまたはX連鎖の遺伝子単位の欠失を検出することができない。
  7. ゲノムDNAのコード領域と隣接しているイントロン領域のシークエンス解析では容易に検出できない欠失/重複を同定する検査。使用される手法は以下の通りである。定量的PCR、long-range PCR、多重連結反応依存性プローブ増幅法(MLPA)、この遺伝子断片、あるいは染色体断片を含む染色体マイクロアレイ(CMA)。
  8. 欠失が家系内で既に確認されているか否かを問わず、この方法で保因者女性に欠失を検出することが技術的には可能である。しかし、研究室によっては、家系内での特異的な欠失が判明している家系でリスクのある女性に対してのみ、上記の欠失検査が行われている。

臨床像

以下の臨床所見は、ADNPにおける病的バリアントが同定された78名の大規模コホートの報告に基づく[Van Dijck et al. 2019]。
特記される点として、著者らが知る最年長の患者は40歳である [著者の個人的見解]。

表2 ADNP    の特徴

特徴 特徴を有する患者の割合 コメント
発達遅延/知的障害 100% 軽度(12%)、中等度(36%)、または重度(52%) 自閉症スペクトラム障害および他の行動障害もよく見られる。
特徴的顔貌 97% 目立つ前額部、高い毛髪線、 眼瞼裂斜、目立つ睫毛、外耳奇形、広く低い鼻梁、鼻尖が厚く上を向いている短い鼻、長い人中、薄い上唇、尖ったオトガイ、歯間離開
消化管/摂食障害 83% 胃食道逆流症、 便秘、口腔の運動障害、食欲低下、嚥下困難、頻繁な嘔吐
視覚障害 74% 斜視、皮質性視覚障害、遠視、目瞼下垂、眼振、近視
四肢の異常 62% 指の異常、単一手掌屈曲線、爪の奇形、サンダルギャップ
筋骨格症状 55% 関節の過度可動性、脊柱側弯症、腰の障害、前胸の奇形、頭蓋骨の奇形
内分泌症状 25% 思春期早発症、甲状腺ホルモンの障害、成長ホルモンの障害
低身長 23% ‒2SD未満
体幹肥満 8%
先天性心奇形 38% 心房中隔欠損、動脈管開存、僧帽弁逸脱、卵円孔開存、心室中隔欠損
聴覚障害 32% 狭い耳道、頻発性中耳炎、難聴
てんかん 16% 意識低下を伴う欠神発作,焦点発作、徐波睡眠期持続性棘徐波を示すてんかん
尿路異常 13% 狭い尿管、両側性膀胱尿管逆流

発達 患児はしばしば筋緊張低下を有する.発達に遅れが見られる。一人座りをするのは平均生後13ヶ月、歩行は2.5歳である。発話障害は顕著で、表出言語能力は「全く言葉を発しない」~「文が出る」の範囲である。排尿訓練は患児の半数で遅延する。いずれの患者も軽度から重度の知的障害を有する。
自閉症スペクトラム障害(ASD)は紋切り型の行動と社会的相互作用の障害を特徴とし、患児の67%で報告されている。患児は高い敏感性を有する(感覚処理障害)。一般に疼痛の閾値が高い。

さらなる行動上の問題には不安、強迫性障害、攻撃的な行動、癇癪、注意欠陥/多動性障害および睡眠障害がある。

特徴的顔貌 には目立つ前額部、毛髪線高位、眼瞼下垂、眼瞼裂斜下、顕著なまつげ、耳の奇形、広くて落ち込んだ鼻梁、短い鼻で、かつ先端が完全に上を向いている、人中が長い、上唇の色が薄い朱色、とがった顎、および歯間離開、ならびに耳介低位、カップ耳を含む外耳奇形がある。

消化管/摂食. 吸啜・咀嚼困難、胃食道逆流症、飽食の欠如、頻回の嘔吐、および便秘を含む摂食障害および消化管障害がよくみられる。胃瘻を必要とする患者もいる。

視力障害. 半数以上が視力障害を有する。最も多いのが遠視や斜視である。41%が皮質性の視力障害を有する。眼科的異常は眼瞼外反、眼欠損症、先天性白内障、眼振、反転/くびれた眼瞼、軽度の眼瞼下垂など様々である。

手の異常には、斜指症、多指症、第五指の短指症、隆起した指腹、突起した指節間関節/遠位末節骨の突起、単一手掌屈曲腺、および爪の奇形がある。

足の異常には、つま先の奇形、扁平足、サンダルギャップが含まれる。

さらに筋骨格系の特徴として、関節弛緩(38%)、漏斗胸、鳩胸、狭い胸郭など前胸の奇形(22%)や斜頭症、三角頭蓋、骨の奇形(14%)がある。

内分泌症状には、甲状腺機能異常(15%, 主に甲状腺機能低下症)および/または成長ホルモン分泌不全がある。一部の患者に思春期早発症がみられる。

成長. 出生時体重、伸長および後頭前頭径は正常範囲である。一部に体幹の肥満が認められる。23%の患者が低身長(年齢2~23歳の患者で<-2SDと報告されている)。成長ホルモン不全は11%に認められている。

心奇形. 心房中隔欠損症が最も一般的である。頻度の少ない心奇形として、動脈管開存症、卵円孔開存症、僧帽弁逸脱症、心室中隔欠損症、およびその他の心血管奇形がある。

てんかん. 一部の患児(16%)は意識消失を伴う欠神発作、焦点発作、徐波睡眠期持続性棘徐波を示すてんかんを発症している。

腎臓.  狭い尿管、両側性膀胱尿管逆流など腎奇形。

反復性の感染症. 患児の多くが上気道感染症、尿路感染症など感染症を繰り返す(51%)。

その他

遺伝型と臨床型の関連

特定の病的バリアントが臨床所見に対して臨床的意義のある影響を及ぼすというエビデンスはない。しかし、p.Tyr719*病的バリアントを有する患者は他のADNP病的バリアントを有する患者よりも歩行開始が遅く、疼痛に対する閾値が高いことが示されている[Van Dijck et al 2019]。

浸透率

浸透率は100%ではない;これまでに報告された2家族では、ADNP関連障害と診断された発端者が罹患していないいずれかの親から病的バリアントを引き継いだ[Van Dijck et al 2019]。

促進現象

ASD患者におけるADNP病的バリアントの陽性率は0.17% と推定されている(95%二項信頼区間: 0.083%-0.32%)。ADNP はASDの原因となる最も一般的な既知の単一遺伝子の1つである[Helsmoortel et al 2014]。

遺伝子レベルでの関連疾患

ADNPに関連する生殖細胞系列の病的バリアントでGeneReview に記述されている以外の表現型は不明である。


鑑別診断

ADNPの病的バリアントに関する表現型の特徴は ADNP関連障害の診断をするには不十分である。知的障害*(ID)に関連することが判明している全遺伝子をADNP関連障害の鑑別診断に含めるべきである。
* 200以上の遺伝子が同定されている。OMIM Phenotypic Seriesを参照 ID, autosomal dominantID, autosomal recessiveID, nonsyndromic, X-linked, およびID, X-linked syndromic)


臨床的マネジメント

最初の診断時における評価

ADNP関連障害と診断された患者の疾患の程度を確立するために、表3に要約した評価項目(診断の評価の一部として実行されていない場合)を推奨する。

表3.ADNP関連障害で推奨される初期診断後の評価

系列/問題 評価 コメント
発達 包括的な発達の評価 運動、適応、認知、発語/言語の評価,ASDおよびIDの検査,早期介入/特別教育に対する評価を含める
精神/行動 行動上の問題があれば神経心理学評価 生後12ヵ月を超える場合:睡眠障害、ADHD、不安またはASDを示唆する特徴など懸念のある行動に対する観察
消化管/
食事
胃腸病学/栄養/栄養管の評価
  • 誤嚥リスクおよび栄養状態の評価を含める
  • 嚥下障害/吸引リスクのある患者に対する胃チューブの設置の評価
視覚 眼科学的検査および視力の評価 皮質視覚障害を特定するための電気生理学的および視覚的知覚試験
筋骨格 整形外科/物理療法学・リハビリテーション/PT/OT評価 以下の評価を含める:
  • 粗大運動能力および微細運動能力
  • 関節の過可動性
  • 可動性、日常生活の活動、矯正器具の必要性
  • PT(粗大運動機能の改善)またはOT(微細運動機能の改善)の必要性
成長 成長パラメータの測定 発育不全,低身長,肥満の評価
内分泌
  • 甲状腺機能異常
  • 低身長の患者における成長ホルモン分泌不全
心臓 心エコー
聴覚 聴覚学的評価;適応であればENTへの紹介
神経 神経学的検査
  • てんかんの懸念があればEEGを検討する。
  • 脳の異常を特定するために脳MRIを使用する。
尿路 尿路感染症に対する評価
免疫学 反復性の感染症に対する評価
遺伝学 遺伝学の専門家による1 医学的・個人的な意思決定を容易にするため、罹患者およびその家族に対してADNP関連障害の病態、遺伝形式、および影響の情報を伝える。
家族のサポート/
情報源
評価:
  •  Parent to Parentのようなコミュニティやonline resources の利用
  • 両親のサポートのためのソーシャルワークの関与の必要性
  • 家庭内看護の紹介の必要性

ADHD = 注意欠陥多動性障害; ASD=自閉症スペクトラム障害; ENT=耳鼻咽喉科専門医; ID=知的障害;MOI=遺伝形式; OT=作業療法;PT=物理学的療法

  1. 遺伝医学の専門家、認定遺伝カウンセラー、遺伝看護専門看護師

症状に対する治療

治療は対症療法となる。特異的な治療はない。小児科医やプライマリケア医による通常の診察が推奨される

表4.ADNP関連障害患者に対する症状の治療

症状/懸念 治療 考慮点/その他
発達 個人のニーズに合わせた言語、OT、PTの特別学習プログラム
精神行動 睡眠障害/行動障害など神経精神学的症状の治療
体重増加不良/成長障害
必要に応じて栄養の補助
消化管 便秘および胃食道逆流症に対する標準治療
視力異常/斜視 眼科医による標準治療が推奨される 早期介入または学区によるコミュニティ視覚サービス
中心視力障害 特異的治療はない。視覚の発達のための早期介入
斜頭症/他の筋骨格系障害 標準治療
甲状腺機能低下 標準治療
心奇形 心臓専門医による標準治療
聴覚障害 標準治療
てんかん 経験豊富な神経専門医によるAEDを用いた標準治療
  • 多くのAEDが有効であるかもしれない。本疾患に対して特に有効性を示したAEDはない。
  • 両親/介護者に対する教育1
尿路の奇形 標準治療
反復性の感染症 標準治療
家族/コミュニティ
  • 家族と地域の支援、休息およびサポートをつなぐために必ずソーシャルワーカーが関わること
  • 複数の準専門機関での診察予定、機器、薬、および消耗品を管理
  • 緩和ケアへの関与と訪問看護の必要性の継続的な評価
  • 適応型スポーツやスペシャルオリンピックスへの参加を検討する

AED =抗てんかん薬; OT = 作業療法; PT = 理学的療法

  1. 一般的なてんかんの症状に関する親/介護者の教育は適切である。てんかんと診断された子供に対する非医学的介入と対処戦略に関する情報はこちら

経過観察

5. ADNP関連障害患者に対して推奨されるサーベイランス

症状/懸念 治療 頻度
摂食
  • 成長パラメータの測定
  • 栄養状態および経口摂取の安全性の評価
診察のたびに
筋骨格 物理療法、可動性、自助スキルのOT/PTによる評価
神経学
  • 臨床的に適応となるてんかん患者のモニタリング
  • 新しい症状(例:てんかん,口調の変化,運動障害)の評価
発達 発達過程および教育の必要性のモニタリング.
精神医学/行動 不安、注意力、攻撃的または自傷行為
視力の評価 年に1度
消化管 便秘および消化管逆流症の徴候と症状のモニタリング 診察のたびに
家族/コミュニティ 家族がソーシャルワーカーに求めるサポートの評価(例:緩和ケア、休息介護、家庭看護、地域の支援など)ならびにケア・コーディネーション

OT = 作業療法; PT = 理学的療法

リスクのある血縁者の評価

遺伝カウンセリングとして扱われるリスクのある親族への検査に関する問題は「遺伝カウンセリング 」の項を参照のこと。

研究中の治療法

ノックアウトマウスモデルに神経保護オクタペプチド(NAPVSIPQ;NAP)を投与したところ、認知機能異常が一部改善されたと報告されている[Bassan et al 1999Vulih-Shultzman et al 2007]。Adnp+/− マウスにおいて、学習および記憶が改善し、神経変性病変が減少した。NAPの薬名は、複数の選択された神経障害の治療の候補であるダブネチドである。この薬剤の鼻腔内製剤および静脈内は、血液脳関門を通過することが示されている。第II相および第III相臨床試験では、重大な副作用がなく、良好な忍容性を示した。疾患がADNPの機能喪失の結果であるかどうかは不明であり、ノックアウトマウスモデルは自閉症の特徴について評価されていないが、観察結果はADNP関連障害の患者に治療の希望を高めた[Vandeweyer et al 2014]。

広範囲にわたる疾患や病態の臨床試験に関する情報は、ClinicalTrials.gov ClinicalTrials.gov(米国)(https://clinicaltrials.gov)とEU Clinical Trials RegisterEU Clinical Trials Register(ヨーロッパ)(https://www.clinicaltrialsregister.eu/ctr-search/search)より入手できる。

注:ADNP関連障害の患児に対するケタミン投与を検討する第II相臨床試験が募集中である。


遺伝カウンセリング

「遺伝カウンセリングは個人や家族に対して遺伝性疾患の本質,遺伝,健康上の影響などの情報を提供し,彼らが医療上あるいは個人的な決断を下すのを援助するプロセスである.以下の項目では遺伝的なリスク評価や家族の遺伝学的状況を明らかにするための家族歴の評価,遺伝学的検査について論じる.この項は個々の当事者が直面しうる個人的あるいは文化的、倫理的な問題に言及しようと意図するものではないし,遺伝専門家へのコンサルトの代用となるものでもない.」

遺伝形式

ADNP関連障害は典型的にはde novoの病的バリアントが原因の常染色体顕性遺伝(優性遺伝)疾患である。

家族構成員のリスク

発端者の両親

注:親の白血球DNAの検査では、体細胞モザイクは検出できない可能性がある。

発端者の同胞 

発端者の同胞に対するリスクは、発端者の両親の遺伝的状況に依る。

発端者の子

他の家族構成員

遺伝カウンセリングに関連した問題

家族計画 

遺伝的リスクの評価や出生前診断についての検討は妊娠前に行うのが望ましい.同様に,リスクのある無症状血縁者の遺伝状況を確定する検査についての話し合いも妊娠前に行うことが最適である.罹患している人の親に対して遺伝カウンセリング(子への潜在的リスクや生殖手段)の提供は適している。

DNAバンキングは,将来の使用のために白血球から調整したDNAを貯蔵しておくことである.検査手法や,遺伝子,バリアント,疾患への理解は将来改善する可能性があり,患者のDNAを貯蔵しておくことは考慮されるべきである.

出生前診断および着床前診断

罹患した家族にADNP 病的バリアントが同定されると、リスクが高い妊娠の出生前検査および着床前遺伝子検査が可能になる。

出生前診断については、専門医の間でも家族によっても考え方が異なるだろう.たいていの医療機関では出生前診断を受けるかどうかの決定は両親の選択に委ねると考えるであろうが、この問題に関しては慎重な議論が必要である.


更新履歴:

  1. Gene Reviews著者: Anke Van Dijck, MD, PhD
    日本語訳者: 吉村祐実(翻訳ボランティア),櫻井晃洋(札幌医科大学医学部 遺伝医学)
    GeneReviews最終更新日: 2021.4.15  日本語訳最終更新日: 2022.6.23[ in present]

原文 ADNP-Related Disorder

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