Gene Reviews著者: Sharon D Whatley, PhD and Michael N Badminton, PhD, FRCPath.
日本語訳者: 和泉 賢一 (札幌医科大学医学部遺伝医学,NGSDプロジェクト)
Gene Reviews 最終更新日: 2013.2.7 日本語訳最終更新日: 2017.12.29
原文: Acute Intermittent Porphyriareacher Collins Syndrome
疾患の特徴
ハイドロキシメチルビレン合成酵素(Hydroxymethylbilane synthase :HMBS)の正常の半分の活性となり、急性間欠性ポルフィリン症(このGeneReviewでは急性間欠性ポルフィリン症Acute Intermittent Porphyria: AIPと呼ぶ)が起こる。臨床的に、腹膜刺激症状を伴わないが、吐き気・嘔吐・頻脈があり、生命の脅威になるような急性の内臓痛が特徴である.発作は神経学的所見(精神変化、てんかん、呼吸麻痺を悪化させることのある末梢神経障害)と低ナトリウム血症であり、わかりにくいかもしれない。特定の薬物、アルコール飲料、内分泌的要因、カロリー制限、ストレス、感染によって引き起こされ、2週間以内に通常改善する。AIPの患者のほとんどは1回か数回の発作を経験している。約5%(主に女性)は、なんども発作をおこし(発作が年4回以上と定義される)、年単位で続く。他の長期の合併症は慢性腎不全、肝癌、高血圧である。発作は、思春期前は稀であり、男性より女性に起きやすい。リスクのあるHMBS遺伝子の遺伝子変異をもつすべての患者は急性の発作を起こすAIPになる素因がある;しかし、ほとんどは症状がなく、後期(発症前)AIPと呼ばれる。
診断・検査
一つの例外(5-amonolevulinate dehydratase deficiency;ALAD)はあるものの、ポルフィリン症の急性発作は尿中porphobilinogen(PBG)濃度増加に関与している。AIPによる増加したPBG濃度、便や血漿中のポルフィリン解析により、AIPによる増加したPBG濃度を示せば、他の急性ポルフィリアの除外ができる。分子遺伝学的検査で、症状のある患者の同定された病的変異は、発端者の血縁者のAIPの同定のためにも使うことができる。赤血球HMBS酵素活性定量は、病的変異が同定できない、もしくは分子学的検査をすることができないHMBG病的変異の家系に有効かもしれない。
臨床的マネジメント
重症神経内臓発作:
軽発作:対症療法、カロリー投与と血漿交換
再発性急性発作:ポルフィリア専門家と一緒に管理する;ゴナドレリンアナログ、定期的なヘマチン点滴もしくは(最後の方法として)肝移植を含む排卵抑制を含む治療オプション
リスクのある血縁者の評価:
もし、HMBS病的変異が家族でわかっているなら、遺伝的状態を明らかにすることで、リスクのある血縁者が遺伝学的検査から利益を得るかもしれない。つまり、AIPの急性発作を起こすリスクが増大していることが早めにわかり、急性発作のリスクを下げることができる。
一次症状の予防:
すべての潜在性ポルフィリア患者、罹患者の両親、緩解した患者は急性発作のリスクを軽減する方法についてアドバイスを受けるべきである。
2次合併症の予防:
ヘムアルギニンでの定期的な治療を行っている患者は鉄過剰症の発見のための血中鉄濃度のモニタリングが必要である。
サーベイランス:
急性発作を起こした経験のある患者は腎機能のモニタリングが必要である;国によっては、肝癌の発見のため毎年肝臓の画像検査も50歳以上のHMBS病的変異の全ての患者に行っている(急性発作の経験の有無にかかわらず)。
遺伝カウンセリング
AIPは常染色体優性遺伝形式で遺伝する。発端者の約1%が新生病的変異の可能性がある。HMBS病的変異の患者の同胞や子孫はHMBSを受け継ぐ確率は50%である;しかし、浸透率は低いため、遺伝的にHMBS病的変異を持った人が急性発作を起こす確率は低い。出生前診断は可能だが、低い臨床的浸透率と発症成人の大部分が臨床的に良好な予後を送るため、ほとんどされない。
臨床診断
急性間欠性ポルフィリン症(AIP)患者は2つのカテゴリーに分けられる。
AIPの急性発作を疑うべき人
他の理由では説明できない、身体的兆候のない重篤で、急激な腹痛(注 参照)。時折背部や大腿でより激しく起きる疼痛で、通常治療にオピエート鎮痛薬が必要となる。吐き気、嘔吐、便秘、頻脈、高血圧がよく見られる。低下している筋力、痙攣、精神変化、低ナトリウム血症のどれか一つ、もしくは複合して起きることがあり、その場合急性ポルフィリア症の可能性が高い[Hift & Meissner 2005, Puy et al 2010]。尿は赤~赤みがかった茶褐色のことがある;しかし、これは常時みられる所見ではない。検体が新鮮な時には特にそうである。色は空気に触れることによって増強され、ポルフィリンやポルフィリンの前駆体ポルフォビリノーゲン(PBG)から作られるポルフォビリンの尿中濃度増加を反映している。
注: 腹痛はほとんどの全ての急性発作に存在する:非典型的なことは稀である[Hilt & Meissner 2005, Puy et al 2010]。臨床的に区別できない急性発作が他の急性ポルフィリン症で起こりうる。鑑別診断の項参照。
検査
臨床的に明らかなAIP
特別な量的アッセイを使った尿中PBG濃度の増加の所見は、病状のある患者の急性ポルフィリア症の明確な診断確定に重要である。
AIPによって増加する尿中PBG(表1)の確定には、次のような根拠が必要である。
表1. 臨床的に明らかなAIPの生化学的特徴
欠失酵素 | 酵素活性 | 赤血球 | 尿 | 弁 | 血漿 |
---|---|---|---|---|---|
ハイドロキシメチルビレン合成酵素 (HMBS) (EC2.5.1.61) |
HMBS 正常の~50%1,2 |
赤血球ポルフィリン: 正常 |
PBG3とALA4 増加ポルフィリン: 増加5 |
全ポルフィリン:正常7または少量増加 6 | 血漿ポルフィリン:増加蛍光発光法 ピーク ~619nm8 |
尿中PBGの測定。 尿検体を検査前日光遮断した状態で、最もよく検査できる。注:(1)24時間畜尿は解析の不要な遅れをきたし、PBGの変質を起こす;(2)非常に薄まった尿は偽陰性の結果となる
注:尿(と血漿)PBGとALA濃度は高性能な液体クロマトグラフィーや質量分析計でも測定できる[floderus et al 2006, Zhang et al 2011]。PBGのクレアチニン比として、数式により尿濃度を考慮して結果を補正するべきである。
急速な半定量的PBGアッセイ法は国によっては利用可能である(Trace PBG kit. Thermo Trace/DMA, Arligton, Texas)。このアッセイ法とWatson-Schwartz検査とを比較すると、感度は95%と38%であり、精度は99%と82%であった[Deacon & Peters 1998]。
注:(1)すべての定性および半定性検査は偽陽性を除くため、特定の量的測定法により確定されなくてはならない。(2)もし、急性ポルフィリア症の臨床的疑問が続いているなら、偽陰性の検出とスクリーニング検査の感度以下のPBG濃度の検出のため、ネガティブ試験もおなじ方法で確認すべきである。
判定 AIP様の症状の続く患者が正常な尿中PBG濃度であれば、診断は除外する。
尿中PBG濃度は常にAIPの症状時は上昇している。急性発作の間、しばしばPBG濃度は基準値上限濃度の10-20倍以上になる[Kauppinen & Fraunberg 2002, Anderson et al 2005, Elder et al 2013]。
潜在性AIPの成人や急性発作後の寛解期の患者は増加したPBG量を排泄することがある。このように、増加した尿中PBG排泄は症状がポルフィリン症の結果であることを確定するのに必要ではない。尿中PBG濃度でのベースラインからの最小でも2倍の増加が、AIPにより症状とともに続く[Aarsand et al 2006];しかし、実際には、ベースライン情報はほとんど利用できない。
潜在性(症候前)AIP 関連する遺伝カウンセリングの問題、リスクのある症状のない家族の検査の項目参照。
分子遺伝学的検査
遺伝子
HMBSはAIPを起こすことで知られる唯一の遺伝子である。
臨床検査
表2. AIPに使用される分子遺伝学的検査の要約
遺伝子1 | 検査法 | 検出されるアリル変異2 | 検査法による変異検出頻度3 |
---|---|---|---|
HMBS | シークエンス解析4 | シークエンス変異 | 98%5 |
欠失/重複解析6 | エクソンまたは全ゲノム欠失/重複 |
検査戦略
発端者の診断の確定
症状のある患者のAIPの診断は、(解析前に遮光した)任意のサンプル尿中のPBG増加による。正常な総便中ポルフィリンもしくは正常なコプロポルフィリン異性体比、正常か蛍光発光のピークが619nm付近の血清ポルフィリン蛍光発光スキャンでの根拠とともに、
分子遺伝学的検査は症状のある患者の診断確定には必要ないが、臨床的または生化学的寛解にある患者の明らかなAIPの診断の確定もしくは否定に役に立つことがある[Whatley et al 2009]。加えて、その患者の分子遺伝学的検査は、もし臨床症状もしくは生化学的所見がホモ接合性のHMBS病的変異もしくは2重のポルフィリン症(2つの別々のポルフィリン症関連遺伝子のヘテロ接合性病的変異)もしくはなにか非典型的な場合、検討すべきかもしれない。
生化学的に証明されたAIP患者の分子遺伝学的検査の主な目的は患者の家族の分子学的に病的変異を同定することである。
検査する際、分子遺伝学的検査は通常まずHMBSのシークエンス解析をはじめ、もし病的変異が同定されない場合、続いて欠失/重複解析を行う。
分子遺伝学的検査は予後判定には有用ではない。
リスクのある症状のない成人家族の発症予測的検査は、まず家族の病的変異の同定が必要である。
リスクのある妊娠での出生前診断および着床前診断は、まず家族の病的変異の同定が必要である。
臨床像
症状は急性ポルフィリン症(AIP)の病気を起こしやすくする遺伝的変化をもつ人のほんの少数に現れる。症状は男性より女性に多く、思春期前は稀である。発症は典型的には、30代か40代に起きる[Anderson et al 2001, Elder et al 2013]。
急性間欠性ポルフィリン症(AIP)
AIPでは、腹部内蔵、末梢、自律、中枢神経系システムが冒される。通常間欠的で時々重篤なこともあるように所見の幅が広い。急性発作の予後は個人によって様々である。
罹患者は通常数日で発作から回復するが、以前に経験や治療したことのないような重篤な発作からの回復は数週間から数か月かかる場合もある。臨床的なAIPの症状は、典型的には個人のある外因性または内因性要素への暴露によって引き起こされるが、急性発作を起こす因子が同定されないことは珍しくない。
急性発作
筋性防御を伴わない、全体的もしくは局所的なひどい腹痛は良く認められ、しばしば急性発作の前兆になる。背部、臀部、四肢は特徴的であるかもしれない。吐き気、嘔吐、便秘または下痢、腹部膨満、イレウスなどの胃腸症状も良く認められる。頻脈と高血圧は高頻度であるが、発熱、発汗、不穏、振戦はあまり見られない。尿閉、失禁、排尿困難は存在することがある。
末梢神経障害
末梢神経障害は主に運動神経であり、過去より現在の方が認められなくなった。筋力低下はしばしば下肢近位側より始まり、上肢や下肢遠位にみられることもあり、呼吸筋まで悪化して呼吸不全を伴う完全麻痺になることがある。両側性軸索運動神経障害は遠位橈骨神経を障害することもある[King et al 2002]。運動神経障害は脳神経も含み、球麻痺をおこすことがある。
まだらな感覚神経障害も起こすことがある[Wikberg et al 2000]。
精神変化
精神的変化は症状を有する患者の最大30%まで存在するが、この疾患の非常に稀ではあるが、強い症状である[Hift & Meissner 2005, Puy et al 2010]。変化は、不眠、不安、うつ、厳格、混乱、パラノイア、記憶喪失、に加え/または傾眠から昏睡までの意識変容を含む。これらの症状は発作後は改善するが、不安は続くかもしれない。
痙攣
けいれんは急性発作中に起こることがあり、特に低ナトリウム血症の患者に起こり、嘔吐や不適切な輸液で悪化する。低ナトリウム血症の原因は不明である;SIADH(syndrome of inappropriate antidiuretic hormone release; 不適切な抗利尿ホルモン分泌症候群)と腎性塩類喪失の両方がメカニズムとして考えられている。
けいれんは急性発作の中枢神経系(CNS)に関する症状としても起こることがある。
MRI所見
MRI変化はCNS病変の兆候のある7人の患者中2人に認められた。主な所見は後頭部の可逆的脳症症候群である[Celik et al 2002, Bylesjo et al 2004, Kauppinenn 2009]。MRI所見は、AIPよりも早急な低ナトリウム血症の補正による結果かもしれない[Susa et al 1999]。
ポルフィリン症の皮膚所見はAIPにはおこらない。
促進因子
急性ポルフィリン症の発作は内因性もしくは外因性因子で促進されることもある[Anderson et al 2001]。その因子に含まれるものとして、
慢性合併症
死亡率
発作に関連する直接的な死亡は現在ほとんどの国では非常にまれであり、治療の改善(ヒトヘムの使用)や発症前血縁者の同定やカウンセリングのおかげである。死は肝癌や肝移植の合併症として起こりうる。
ホモ接合性のHMBS欠損
今までに、ホモ接合性のHMBS病的変異をもつ5人の子供が報告されている。皆、コントロールのHMBS酵素活性の3%以下の酵素活性であった。
病因
急性ポルフィリン症の臨床症状をおこしている神経領域の病因に対して2つの主要な仮説が示されている:ALA毒性または、神経ヘム欠乏である。しかし、繰り返す発作の治癒としての肝移植の成功[Soonawalla et al 2004]や急性発作を以前起こしたAIP患者から非罹患者への肝臓の移植[Dowman et al 2011]は明らかに肝由来の神経毒、おそらくALA、の放出が原因と示している。増加するALA産生は肝由来ALA合成活性、AIP急性発作を引き起こす因子の多くの影響によって起こる[Thunell 2006]。
遺伝型―表現型相関
正常活性の約10%の病的変異は、正常活性10%以下の病的変異より浸透率が低いかもしれないといういくつかの報告は別として[Andersson et al 2000a, Fraunberg et al 2005]、遺伝型―表現型相関はAIPでは明白ではない。
浸透率
HMBS病的変異の臨床的な浸透率は正確にはわかっていない。
スイスの患者のある報告によればカスケードスクリーニングで確かめられた52%の血縁者は典型的な臨床症状とALAおよびPBGの増加、HMBS活性の低下が確かめられた[Schuurmansa et al 2001]。しかし、ほとんどの経験のあるポルフィリン症専門家の書いた報告では、彼らは医学的管理のため病院に入院するような急性発作(急性腹痛±関連する自律神経、運動、中枢神経症状)を起こすような浸透率は10%-20%としている[Anderson et al 2005, Puy et al 2010, Badminton et al 2012]。
人口調査では、低い数字が示されている。
フランスでの疾患特異的HMBS変異の最小有病率は住人100万人あたり597人であった[Nordmann et al 1997]。フランスでの明らかなAIPの浸透率は最近では100万人あたり5.5人として報告されている[Elder et al 2013]、そのため、浸透室は約1%となる。
有病率
ほとんどの国では、AIPは急性肝性ポルフィリン症の最も一般的なものである[Anderson et al 2001, Puy et al 2010]。
このGeneReviewで議論されている以外のHMBSの変異に関する別の表現型は知られていない。
急性神経内蔵発作は急性間欠性ポルフィリン症(AIP)とほかの3つの急性ポルフィリン症では臨床的に区別できない:遺伝的コプロポルフィリン症(HCP)、多様性ポルフィリン症(VP)、ALAD欠損ポルフィリン症(ADP)、そして複雑な遺伝的チロシン血症Ⅰ型(Table 3)[Puy et al 2010]。
鉛中毒も症状は似ていて、ヘム生合成を邪魔する;しかし、貧血という鉛中毒性の症状は、AIPの症状ではない。
表3.臨床的に明らかな鑑別疾患として考えられる疾患
疾患 | 臨床症状 | 尿 | 便 | 血漿 | 赤血球 |
---|---|---|---|---|---|
遺伝性コプロポルフィリン症(HCP) | 急性発作 ±皮膚領域1 |
PBG,ALA2,ポルフィリン3の増加 | コプロポルフィリンⅢ増加 | 血漿ポルフィリンの増加 蛍光発光ピーク~620nm4 |
|
多様性ポルフィリン症(VP) | 急性発作 ±皮膚領域1 |
PBG,ALA2,ポルフィリン3の増加 | プロトポルフィリン症の増加5 | 血漿ポルフィリンの増加 蛍光発光ピーク~626nm6 |
|
ALAD欠損 ポルフィリン症 |
急性発作 | ALA,コプロポルフィリンⅢ、正常PBG | 亜鉛-プロトポルフィリン;ALAD活性の低下 | ||
遺伝性チロシン血症1型 | 急性発作 | ALA増加 | ALAD活性低下 | ||
鉛中毒 | 腹痛、貧血 | ALA増加;正常コプロポルフィリンⅢ、PBG | 亜鉛-コプロポルフィリンの増加;ALAD活性低下 |
診断の異常所見を示した。臨床的明らかなAIPの生化学的特徴は表1参照
ALA=5-aminolevulinic acid
ALAD = 5-aminolevulinate dehydratase
初期診断に続く評価
疾患の進展度やAIPと診断された患者の需要を決めるために、次のような評価を勧める。
症状の治療
急性神経内蔵発作
急性神経内蔵発作の直接の治療は急性ポルフィリン症の特殊なタイプの確定に必要ではない。
臨床評価は全神経学的所見を含む
AIPとわかっている人でも、ポルフィリン症に加えて腹痛の原因を検討する。
検査は次のようなことを含む:
MRIはCNS症状があれば、検討する
一般的な検査
支持療法
効果的な鎮痛薬は可能な限り早く与える。通常は非経口オピエート(モルヒネ、ジアモルヒネ、フェンタニルは安全である)の形で投与する。かなり多い量も、重篤な急性発作の際は必要なときがある。患者のコントロール可能な鎮痛薬や疼痛管理チームからのサポートを検討する。
プロクロルペラジン、プロマジン、またはオンダンセトロンは安全と考えられている。
特別な治療
注:(1)20%ヒト血清アルブミン溶液で戻したヘマチンで、さらに/または大きな静脈または中心静脈カテーテルを使用することで、経静脈的注射後の静脈炎は最小化される。ヘマチンを投与するため使われた末梢のカニューレはそれぞれ交換すべきである。(2)溶解できていない粒子状物質インラインフィルター付きの輸液セットが推奨される。(3)全部で100mLの生食のボーラスでの静脈カテーテルの強いフラッシュが推奨される。
再発性急性発作
再発する急性発作はポルフィリン症専門家からのサポートとアドバイスが管理にもっともよい。
ポルフィリアセンターの情報や専門家の詳細を参照。
医療は急性発作の頻度や重症度を減らす目的であり、次のような方法がある。
他の治療
肝移植は治癒的で複数のセンターで報告されている[Soonawalla et al 2004, Wahlin et al 2010, Dowman et al 2012]。繰り返す命にかかわるような急性発作、医療の効果不十分、QOLの低下などが適応である[Seth et al 2007]。
肝腎同時移植、これはうまく行っているが、繰り返す重篤な発作と腎不全を持つAIP患者に適応と考えられている[Wahlin et al 2010]。腎移植は明らかな、または潜在性AIPの患者の腎不全で行われる[Nunez et al 1987, Warholm & Wilczek 2003]。
シメチジンは代替治療として提案されている[Rogers 1997]。しかし、臨床的有用性の証拠としては、まだわかりにくい。最近の正式な研究は行われておらず、国際的ポルフィリン症ミーテイングにおける経験ある専門家の非公式のフィーバックでは、この治療で利益をえる患者はほとんどいないことが示唆された。
その他
患者は、アクシデントの起こった場合に素晴らしい助言をもらえる組織に登録するようアドバイス受けるべきである(例えば、MedicAlertRや似た組織)。
どこか利用できる国際患者組織から利用できるサポートについてアドバイスを受けるべきである。
良い質の情報は、現在紙媒体やインターネットで、患者や専門組織から広く手に入れられ、活用できる。
ある特殊な臨床的な状態(例えばてんかん、HIV、マラリア、結核、高脂血症、高血圧)にあるポルフィリン症の患者の安全な治療のアドバイスは、ヨーロッパポルフィリン症ネットワークウェブサイトおよび/またはポルフィリン症南アフリカウェブサイトで活用可能である。
一次疾患の予防
急性発作を予防するために、患者は次のような潜在的な誘発因子についてアドバイスされる。 適切な栄養を通常のバランスのとれた食事で摂取しているか確かめる。特に、炭水化物を完全に除去した食事など、管理されていないカロリー制限食を避ける。
2次合併症の予防
末期腎不全、慢性的全身の動脈性高血圧によるものと思われるが、これは、効果的な血圧コントロールを通して遅らせることができるかもしれない[Andersson et al 2000b]。
100mgのへミンは8㎎の鉄を含むため、へミンの頻回投与は鉄負荷過剰のリスクが増す。血清フェリチン濃度そして/またはトランスフェリン充足度の小児のモニターはそれゆえへミンを繰り返し投与する患者には適切である。
サーベイランス
スウェーデンでのAIP患者の肝癌の高リスクの観点から、毎年の肝臓の画像検査を50歳以降は推奨される。そのことは生存率を改善するようである[Innala & Andersson 2011]。少数の国では、初期スクリーニングもしている。国によっては、リスクが低いようであるため、もっと広範囲に似た検査を推奨すべきかどうかは明らかになっていない[Deybach & Puy 2011, Stewart 2012]。
注:血清α-fetoprotein測定は有効ではない。
避けるべき薬物/環境
限度を超えたアルコール消費や喫煙を避ける。多くの薬の安全性について、またほかの急性ポルフィリン症の販売医薬品についての知識は不十分である;しかし、ポルフィリン症を引き起こすような薬の評価のための根拠に基づいたガイドラインが出版されている[Thunell et al 2007, Hift et al 2011]。
リスクのある血縁者の評価
HMBS病原性変異が家系内でわかっており、リスクのある血縁者は分子遺伝学的検査から遺伝的性質を明らかにすることで利益を得ることができることがあり、そしてAIPの急性発作をおこすリスクの増大した人を早期に同定することができ、予防的方法について、コンサルトを受けることができる。
遺伝カウンセリング目的のリスクのある血縁者の検査に関連した問題については遺伝学的カウンセリングの項目参照。
妊娠の管理
AIPの女性の多くは、ポルフィリン症に関連したなんの臨床的問題なしに完全に正常妊娠をする[Marsden & Rees 2010]。しかし、妊娠がポルフィリン症を引き起こしたり悪化させたりすることはわずかながらある。
AIPをもつ女性は、妊娠中腹痛、高血圧、頻脈を経験するとき、所見が急性発作によるものであると思う前に妊娠の合併症を除外すべきである。
妊娠中に起こる急性発作に対する対症療法は、催奇形性やポルフィリン症の急性発作を早めたり悪化させたりする点について、薬剤の安全性を考慮に入れるべきである。
経静脈的ヒト型へミン(両方とも利用可能な状態で)は妊娠中の急性発作の治療に使われてきたし、安全のようである[Anderson et al 2005, Marsden & Rees 2010]。英国とフランスの女性の何人かの方は定期的にヘムアルギニン注射を妊娠中に、母子ともになんの明らかな副作用もなく受けてきている[Badminton & DeyBach 2006]。
長期の絶食は、エルゴメトリンなどの安全でない薬物の使用と同様に、出産・分娩中は避けるべきである。
注:産科的緊急状態では、主要な臨床的利益が見込まれる場合や命に危険があるときに必要であれば、薬を制限するべきではない。
良い鎮痛薬を使い、ストレスは最小限にすべきである。ブピバカインを使った脊髄または硬膜外麻酔の形での局所麻酔は安全に使用できる。
検査下の治療
アデノ関連ウイルス由来のAIPの遺伝治療の臨床試験はヨーロッパで行われている(詳しくは、cima.es/aipgene参照)。
疾患と状態の広い範囲での臨床研究の情報を得るならばClinicalTrials.govを参照。
「遺伝カウンセリングは個人や家族に対して遺伝性疾患の本質,遺伝,健康上の影響などの情報を提供し,彼らが医療上あるいは個人的な決断を下すのを援助するプロセスである.以下の項目では遺伝的なリスク評価や家族の遺伝学的状況を明らかにするための家族歴の評価,遺伝子検査について論じる.この項は個々の当事者が直面しうる個人的あるいは文化的な問題に言及しようと意図するものではないし,遺伝専門家へのコンサルトの代用となるものでもない.」
遺伝形式
AIP(急性間欠性ポルフィリン症)は常染色体優性形式で遺伝する。
患者家族のリスク
発端者の両親
注:AIPの方は、潜在性AIPをもつ家族の疾患の認識不足(例えば、臨床的、生化学的検査で明らかでないHMBS病的変異をもっている)により、しばしば家族歴は陰性である。
発端者の同胞
発端者の子孫
HMBS欠損症患者の子は、HMBS病的変異を50%の割合で受け継ぐ。
発端者の他の家族
他の家族のリスクは、発端者の両親の遺伝子変異の状況に依る。両親のいずれかが発症している、あるいは、病的変異を持っている場合は、その者の家族は変異遺伝子を持っている可能性がある。
遺伝カウンセリングに関連した問題.
早期診断や早期治療の目的でリスクのある血縁者の評価するときの情報を得るため、管理、リスクのある血縁者の評価の項も参照。
リスクのある無症状の家族に対する検査
18歳より若いリスクのある血縁者の検査
急性発作は思春期前では稀であるが、可能性はあるため、AIPの血縁者の子供は、両親か保護者からの適切な同意を得て、検査の提供を行うべきである。このことは、発作を起こす因子の回避の助言/教育を得る機会を与え、早期の診断と発作が起きたときの迅速な治療を確実なものにする。
明らかな突然病的変異をもつ家族への検討
常染色体優性疾患をもつ発端者の両親のどちらも、臨床的症状や病的変異を持たないとき、発端者は新生病的変異をもつと思われる。しかし、父親が異なる場合や母親が異なる場合(例えば、生殖補助など)、また公にしていない養子縁組の可能性などを含め、可能な非医学的な説明も検討すべきである。
家族計画
DNAバンク
DNAバンクは主に白血球から調製したDNAを将来の使用のために保存しておくものである。検査法や遺伝子、変異あるいは疾患に対するわれわれの理解が進歩するかもしれないので,DNAの保存は考慮に値する。
出生前検査や着床前の遺伝学的検査
家族の罹患者で病的変異が同定されれば、出生前診断や妊娠のための着床前診断は、AIPのリスクがあるため可能な選択肢となる。
(a)大抵のHMBS欠損症の方は一生無症状であり、(b)分子的遺伝学的検査も生化学的検査もAIPの臨床的発作を予測できない上、(c)AIP成人の予後や治療はかなり改善しているため、出生前検査の申し出は一般的ではない。特に検査が早期診断より堕胎の目的であると考えられる場合、出生前診断検査をすることに関しての考え方の違いは家族や医学的専門家の間にも存在する。大抵のセンターは出生前診断に関して両親の選択であると考えているが、この問題に対する議論は適切である。
GeneReviewsスタッフは罹患者と家族のための疾患特異的もしくは支持組織もしくは登記を選別した.GeneReviewsは他団体による情報について責任を負わない。
Molecular geneticsやOMIMの情報と,このGeneReviewの項目に記載されているものは違うかもしれない.表には,より最近の情報が含まれている可能性がある.
Table A AIP : 遺伝子とデータベース
遺伝子 | 染色体座 | タンパク質 | 座位選択的 データベース |
HGMD | ClinVar |
HMBS | 11q23?.3 | Porphobilinogen deaminase | HMBS database | HMBS | HMBS |
Table B. AIPのOMIM Entries
176000 | PORPHYRIA, ACUTE INTERMITTENT; AIP |
609806 | HYDROXYMETHYLBILANE SYNTHASE; HMBS |
分子遺伝学的病因
AIPはHMBSの欠損によって起きる。
遺伝子の構造
15のエクソンからなり、すべての組織で発現しており、偏在するHMBSのアイソフォーム(エクソン1と3-15)と赤血球系細胞にのみ存在する赤血球系アイソフォーム(エクソン2-15)でコードされる10kb以上の遺伝子である[Grandchamp et al 1989]。
しかし、エクソン2は赤血球系の特別なアイソフォームでしか翻訳されない5'領域のRNAのみをエンコードしている。
赤血球系特異的でハウスキーピングなmRNAは2つのプロモーターの制御下、選択的スプライシングによって作られる(最長の翻訳リファレンスシークエンスはNM000190.3)。上流のプロモーターはすべての組織で活動しているが、3kb下流に存在するもう一つのプロモーターは赤血球系細胞でしか働いていない。赤血球系プロモーターはCACCCモチーフ、2つのGATA-1サイト、1つのNF-E2結合サイトを含む他の赤血球系特異的プロモーターの構造的特徴のいくつかをもつ。この所見は共通のトランス作動性の因子がこれらの遺伝子のHMBS酵素活性の転写を同時制御しているかもしれないことを示している。詳細な遺伝子や蛋白の情報の要約は、Table A参照。
病的アレル変異
HMBSには386以上の病的変異が同定されている(Table A,HGMD参照)。ほとんどのHMBS病的変異は、蛋白コーディング領域のミスセンス変異かナンセンス変異もしくは小欠失/挿入である。各エキソンのスプライス領域の変異は共通である。大きな欠失/重複/挿入や全遺伝子欠損も報告がある。
正常な遺伝産物
HMBS(porphobilinogen deaminase)はヘム生合成経路の3番目の酵素である。細胞質で4つのポルフォビリノーゲン分子からlinear tetrapyrrole hydroxymethlbilaneの合成の触媒として局在するモノマーとして働く[Anderson et al 2001]。
異常な遺伝産物
病的変異の大部分(~85%)は(以前よりCRIM-陰性変異と言われている)蛋白を不安定もしくは欠損する変異の結果、すべての組織での酵素蛋白の50%減少と関連する。残りは、主に(以前よりCRIM陽性として知られる)ミスセンス変異であり、結果として蛋白の安定性やフォールディング、共因子の集合や触媒過程に影響する結果となる。結晶構造を基にしたモデル研究はこれらのメカニズムに重要な洞察を与える[Gill et al 2009]。