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ハイドロキシメチルビレン合成酵素欠損症
(
Hydroxymethylbilane Synthase (HMBS) Deficiency)
[Porphobilinogen Deaminase Deficiency, HMBS Deficiency. Includes: Acute Intermittent Porphyria (AIP)]

Gene Review著者:Stig Thunell, MD, PhD.
日本語訳者:大門真(山形大学医学部第三内科)
Gene Review 最終更新日: 2010.3.23. 日本語訳最終更新日:2010.4.19.

原文 Acute Intermittent Porphyria (Hydrosymethylbilane Synthase(HMBS) Deficiency)


要約

疾患の特徴 

ハイドロキシメチルビレン合成酵素(Hydroxymethylbilane synthase :HMBS)欠損症は臨床的にも生化学的にも症状を呈さないことがあるが、臨床症状を呈した場合は急性間欠性ポルフィリン症(Acute Intermittent Porphyria: AIP)と診断される。AIPでは内臓、末梢、自律、及び、 中枢神経系が障害され、男性よりも女性に多くみられる。発症は、通常思春期以降。急性発作で最もよくみられる症状は、腹痛で、多くの場合は発作の初発症状である。嘔気、嘔吐、便秘、下痢、腹部膨満、腸閉塞、尿閉、失禁、排尿異常、もよくみられる症状である。末梢神経障害としては、腕や下肢の筋力低下が生じ、また、脳神経障害も生じることがある。重度の急性発作では、恒久的な四肢麻痺が残ることもある。精神症状としては、ヒステリー、不安、無欲、抑うつ、恐怖感、精神異常、身体異常、興奮, 譫妄, 傾眠, 昏睡が見られる。急性発作は数日で治まることもあるが、診断と治療が適切に行われず重症化した場合は、治まるのに数週間から数カ月かかることもある。急性発作では、呼吸筋麻痺、あるいは、電解質バランスの異常による心血管不全により、死に至ることもある。肝細胞癌、及び、腎障害のリスクは高まる。AIPの急性発作を引き起こす誘因としては、絶食、ストレス、感染、過度の運動、女性ホルモンの変動、ポルフィリン症を誘導させる処方薬物、あるいは、性ホルモンの投与、あるいは、有機溶剤、殺生物剤、大麻、喫煙、ワインの成分、及び、アルコールや同族の酒精、への暴露があげられる。

診断・検査 

AIPの発作中は、尿の色は赤色、あるいは、赤茶色になり、尿中ポルフォビリンーゲン(porphobilinogen : PBG)は増加する。HMBS欠損症の臨床症状のない者では、約30%のみで、尿中PBGが増加する。HMBS欠損症の望ましい検査法は、HMBS酵素をコードしているHMBS遺伝子の解析である。HMBS遺伝子解析は、少数の専門医療機関で行われているが、本症の98%以上で遺伝子異常が見つけられており、臨床検査法として有用である(本邦では、鳥取大学医学部機能病態内科学、及び、山形大学医学部第三内科、にて解析可能)。

臨床的マネジメント 

重症発作:AIPを増悪させ得る薬物の投与を中止する;必要に応じて、完全静脈栄養(total parenteral nutrition)も含めた、適切な栄養補給を行う;興奮、嘔吐、便秘、高血圧、頻脈、痛み、及び、感染症を、ポルフィリン症を誘導しない薬物で治療する;体液量をモニターし、電解質異常、特に低ナトリウム血症を是正する;呼吸の支持療法、及び、早期の人工呼吸管理を行う。急性発作:ヘミン(ヘマチン、ヘム アルブミン、あるいは、ヘム アルギニン)の適切な投与は、急性神経内臓発作を軽減させ、また、麻痺に陥ることを防ぐための、特異的な治療法である(本邦では、現在、ヘミン製剤は保険認可されておらず、個人輸入での使用となる。現在、保険収載をめざしての臨床治験の準備中である。)。軽症発作:生理食塩水に溶解した10%-20%のブドウ糖液をまず静脈内投与し、その後、必要に応じて、ヘミンを投与する。

主要症状の予防急性発作は以下の方法で予防される:誘因を避けるような生活習慣、ライフスタイルを行うようにカウンセリングする;感染症の適切な治療を行う;月経周期に伴い月経前に発作が起こる女性には、排卵を抑え発作を予防する目的で、長時間作用型のGnRH類似化合製剤を使用する。

回避すべき薬物や環境ストレス、不規則な食事、ダイエット、アルコール、喫煙、大麻;ポルフィリン症を誘導することが知られている薬物、及び、漢方薬;殺生物剤、及び、有機溶剤(例えば、染料、あるいは、洗剤に含まれる)。

経過観察:長期に亘り急性発作を繰り返した患者では腎機能を調べる;ヘミンで繰り返し治療を受けた患者では、鉄の過剰投与の有無を調べるため、血清フェリチン濃度を測定する;肝細胞癌の早期発見のため、50歳以上の症例では、年に1−2回、肝臓の画像検査を行う。

リスクのある家族の検査早期に予防対策を取るために、リスクのある家族の遺伝状況を明らかにする。その方法としては、赤血球HMBS酵素活性測定、あるいは、家族特異的な病因遺伝子異常が分かっている場合は、遺伝子解析が行われる。

遺伝カウンセリング 

HMBS欠損症は常染色体優性遺伝型式をとる.新生突然変異の割合は不明であるが、多分1%程度であろう。 本症患者の子供は50%のリスクで本症を受け継ぐ;しかしながら、浸透率は10-50%で、また、本症の発病性に関与する因子は不明であるので、遺伝子異常を受け継いでいる者が発症するかどうかを予想することは出来ない。家族での病因遺伝子異常が分かっている場合は、高リスク者の妊娠に際して、出生前診断を行うことは可能であるが、成人発症の、少なくとも部分的には、治療可能な疾患の出生前診断の要望は多くはない。


診断

臨床診断

HMBS欠損症の診断基準を考える上で、定義しておく必要のある用語

近年の用語として、HMBS欠損症は別に以下の様にもよばれる:

  • 臨床的、あるいは、生化学的に異常のないHMBS欠損症
  • 生化学的な異常(すなわち、尿中ポルフォビリンーゲン(porphobilinogen:PBG)排泄増加)のみを認めるHMBS欠損症
  • 臨床的、及び、生化学的に異常の見られるHMBS欠損症 (すなわち、急性間欠性ポルフィリン症 [AIP])

少し古いが、今でもまだ時々使われる用語として、HMBS欠損症は以下の様にもよばれる:

  • 症候性AIP (すなわち、臨床症状あり)
    あるいは
  • 潜在AIP (すなわち、病因HMBS遺伝子異常を持ってはいるが、臨床症状は無い者).

注: 本文中では、 AIPという用語は、臨床的、及び、生化学的に異常の見られるHMBS欠損症を意味する。
AIPの診断は、以下の所見より疑われる:

  • 急性発作の症状. AIP の90-95%の症例は腹痛と頻脈(最も一般的な症状)を呈する; しかしながら、AIPに特異的な症候はない。
  • 赤、あるいは、赤茶色の尿. この色は、いちごジュースを薄めた色からポートワインの色までと種々異なり、空気や光に触れると増強される。この色は、ポルフィリンの前駆体であるPBGとそれから産生されたポルフィリンの尿中濃度の増加を反映する。
  • 常染色体優性遺伝に合致する家族歴

確定診断:

  • 臨床的、及び、生化学的に異常の見られるHMBS欠損症の診断は臨床症状の存在、赤、あるいは、赤茶色の尿、及び、尿中PBGの排泄増加に依る。
  • 生化学的な異常を認めないHMBS欠損症診断は主として遺伝子解析に依る。

検査

生化学検査

尿中デルターアミノレブリン酸(δ-aminolevulinic acid : ALA)及びポルフォビリンーゲン(porphobilinogen : PBG)

  • Watson-Schwartz 試験 . 本法は、尿中PBG濃度が正常上限値の5倍以上の時に約50%で、正常上限値の10−20倍以上の時には常に、陽性を示す。

    注: 本法は、迅速に結果が必要な場合に、随時尿での迅速PBG測定に用いられる。しかしながら、他の急性ポルフィリン症と鑑別してAIPと診断するには、イオン交換カラム クロマトグラフィー法によるPBG特異的定量法で尿中PBG量を確定させねばならない。

  • イオン交換カラム クロマトグラフィー法.   尿中のPBG (及び ALA)は、まず、イオン交換カラム クロマトグラフィー法にて他のクロモゲンと分離され、その後、その濃度は分光光度法にて測定される。本法はWatson-Schwartz 試験より感度、及び、特異度が高い。例えば、あるイオン交換レジンを用いた半定量キット(Trace PBG kit, Thermo Trace/DMA, Arlington, Texas)の感度はWatson-Schwartz 試験に比して、95% 対38%、 特異度は99% 対 82% であったと報告されている(Deacon AC, et al. Ann Clin Biochem. 1998; 35: 726−732)。
  • High-performance liquid chromatography - mass spectrometry (HPLC-MS). 本法では、PBG 、及び、ALAの尿中、及び、血漿の濃度を特に正確に定量できる。

AIP(すなわち、臨床的、及び、生化学的に異常の見られるHMBS欠損症)での結果。

  • 血漿、及び、尿中のPBG、及び、ALA濃度は、AIP患者で必ず増加しており、典型的には上限値の数倍から、時には10倍以上になる。

    注: (1) 急性発作では、尿中PBG排泄量は20mg/24時間になることがしばしばで、時に、200 mg/24 時間となることもある。(2) 上記検査値は一般的な値であり、測定値は検査施設毎に異なるので注意。
    ・ 尿中のPBG濃度の測定は、AIPの最も診断価値の高い生化学検査である。
    注: PBG、及び、ALAの血漿と尿中の濃度は強く関連しているが、本症の病勢評価には、朝の血漿での測定より、朝の随時尿での測定が、より簡便である。
      ゜尿中PBG、及び、ALA濃度は、無症候時の上限の値の多寡に依らず、その値の2倍以上となる。
     ゜尿中PBGの濃度は、尿中ALAの濃度の2倍を超えることもある(重量濃度では無く、分子量濃度で;健常者では0.3との報告あり(Floderus Y, et al. Clin Chem. 2006; 52: 701−707.))。

臨床症状の見られないHMBS欠損症での結果

  • 尿中ALA、及び、PBG排泄量は、一般的な半定量検査では種々。
    • 臨床症状の見られないHMBS欠損症の70%で、尿中PBG排泄量は正常。
    • 臨床症状の見られないHMBS欠損症の、僅か30%で、尿中ALA、及び、PBG排泄量は増加。
  • HPLC-MS法でも、血漿PBGは測定感度未満
  • HPLC-MS法で測定すると、血漿ALAは測定感度を容易に超える
  • 注:臨床症状の見られないHMBS欠損症患者では、血漿PBG/ALA比は比較的一定である。

フィンランドでのHMBS遺伝異常の確認された196名の症例での研究では、尿中PBG値(イオン交換カラム クロマトグラフィー法で分離し、分光光度法にて測定)測定により、急性発作中の35名のAIP患者全員(100%)、また、臨床症状の見られないHMBS欠損症患者81名中85%を見つけることが出来た。臨床症状を呈した症例での、尿中PBG排泄量の平均値は基準値上限の50倍であった。

注:(1)腎臓でのクリアランスは、PBGとALAで同じで、70 mL/minであり、クレアチニンのクリアランスと違わない。(2)血漿PBGには日内変動(朝高い)があるが、血漿ALAにはない。(3)腎障害をきたした者では、血漿ALAは血漿PBGに比してその障害に応じて増加する。これは、たぶん各々の腎臓からの排泄過程の障害の違いを反映していると思われる(4) HMBS遺伝子異常を持つ小児では、尿中PBG排泄量は正常、あるいは、尿中ALA排泄量と比べて極わずかにしか上昇しておらず、この結果はAIPが小児では極少ないということと一致する。

尿中ポルフォビリン(porphobilin)、及び、ポルフィリン.  AIP重症例では、尿は常に赤みがかった色になる。これは、膀胱、あるいは、採尿バイアル内で、PBGの自然酸化により生じるポルフォビリン、及び、PBGから非酵素的に産生されるウロポルフィリンIに因る。

糞便中ポルフィリン. AIPでは、通常は正常値、あるいは、極わずかに増加。

注: 本検査は古い医学文献で言及されてはいるが、施行されることは稀である。
ヘモグロビン、及び、ビリルビン産生率. 正常。AIP 患者は、貧血も黄疸も呈さない。

分子遺伝学的検査

赤血球ハイドロキシメチルビレン合成酵素(Erythrocyte hydroxymethylbilane synthase :HMBS) (EC 4.3.1.8)酵素活性、及び、酵素量.  

注:HMBSは、以前はポルフォビリノーゲン デアミナーゼ(porphobilinogen deaminase:PBGD)と呼ばれていた。

HMBS 酵素欠損には3種類のタイプが知られているが(表1)、臨床症候は同一である。 どのタイプでも、赤血球HMBS酵素活性は、臨床症状の有無にかかわらず同じである。

  • タイプ I: HMBS 酵素活性、及び、蛋白量、ともに全ての組織で、約半分に低下している。
  • タイプ II: HMBS 酵素活性、及び、蛋白量、ともに非赤血球系の細胞(例えば、繊維芽細胞、リンパ球、肝細胞)でのみ、低下している。赤血球HMBS酵素活性、及び、蛋白量、は正常。
  • タイプ III: HMBS 酵素活性は全ての組織で低下しているが、 HMBS 蛋白量は、赤血球で、正常値の50%以上あり、特殊な症例では、270%に達することもある。

1.急性間欠性ポルフィリン症の分子サブタイプ

タイプ  1

赤血球HMBS 酵素活性 2 (対照との比率:% )

赤血球HMBS 酵素蛋白量 3 (対照との比率:%)

赤血球酵素蛋白量/活性比4

CRIM(免疫的交差物質) 5

I

50%

50%

1

(−)

II

100%

100%

1

(−)6

III

50%

>50%

>1

(+)

    1. タイプI、及び、タイプIIIの酵素欠損を示す古典的 AIPは、HMBS欠損症の95%を占め、 タイプIIの酵素欠損を示す非赤血球変異タイプAIPは、AIPの5%を占める。
    2.  (a)赤血球HMBS 酵素活性は赤血球産生亢進に伴い増加するので、溶血性貧血がみられる場合は、正常値となる場合がある(偽陰性)。(b)赤血球HMBS 酵素活性は循環血液中の赤血球の年齢に依存する。循環血液中の赤血球の平均年齢は個人で異なる。骨髄から、加齢した赤血球が放出される血液学的な病態、例えば、鉄欠乏性貧血では、赤血球HMBS 酵素活性は減少する(偽陽性)。(c)HMBS遺伝子異常のヘテロ接合体症例と正常者を鑑別する赤血球HMBS 酵素活性のカットオフ値は、適切に設定したとしても、それによる本症の推定率は約90%に留まる。
    3. 免疫学的に測定されるHMBS 蛋白量
    4. 免疫学的に測定されるHMBS 蛋白量と測定されたHMBS酵素活性の比
    5. Cross-reactive immunologic material:免疫的交差物質。

      *免疫学的に測定されるHMBS 蛋白量が酵素活性低下と同様に、減少している場合、Negative (-)、減少していない場合、想定される蛋白量を超えた物質が存在するとして、Positive (+)とする。Negativeの場合は、HMBS蛋白自体がの減少しているが、Positiveの場合は、HMBS蛋白自体は減少しておらず、酵素活性がないHMBS蛋白が存在することを意味する。

    6. CRIM検査は、明瞭なAIPの症候があるが、赤血球HMBS 酵素活性が正常な場合においてのみ必要。

検査結果の解釈  略.

検査手順

発端者における確定診断.

  • 神経内臓症候を含む急性発作時には、尿中PBG測定が診断の感度、特異度ともに高く、第一に行われる。

    注;尿中ALAも増加しているが、AIPの診断の補助にはならない。しかしながら、尿中ALA濃度測定は、神経内臓症候を呈する他疾患、例えば、ALAD欠損ポルフィリン症、あるいは、鉛中毒、を除外診断するのに有用。

  • 最初に、随時尿中のPBG濃度を、the Trace PBG Kit [Thermo Trace/DMA, Arlington, Texas]を用いて測定する。
  • 次に、同じサンプル中のPBG濃度、あるいは、24時間の尿中PBG排泄量を分光光度法を用いたイオン交換カラム クロマトグラフィー法にて定量的に測定する。

*:本邦の状況を鑑みると、まず随時尿中のPBG濃度増加をWatson-Schwartz 試験で判定し、次に、蓄尿し24時間の尿中PBG排泄量を定量する(検査会社へ外注)のが、一般的。 .

  • HMBS遺伝子検査により、HMBS欠損症の98%で病因遺伝子異常が確認できる。

リスクのある家族の発症前検査                             

発端者のMBS遺伝子異常が分かっている場合は、リスクのある家族の遺伝状況を明らかにする方法として、遺伝子解析が尿中PBG排泄量測定より優る。

出生前、及び、着床前診断

  リスク者の妊娠に際して、出生前、及び、着床前診断を行う場合は、事前に、病因HMBS遺伝子異常が分かっている必要がある。

遺伝学的に関連する疾患

HMBS遺伝子変異に起因する他の疾患は知られていない.


臨床像

自然経過

HMBS欠損症の人は、ほとんどの時期、臨床症状を呈さないが、一部の人が、急性間欠性ポルフィリン症(AIP)として発症する。AIPでは、肝臓で産生された神経毒性の代謝産物が原因となり、間欠的に生化学的、及び、臨床的症候が出現する

急性間欠性ポルフィリン症(AIP)

AIPでは、内臓、末梢、自律、及び、 中枢神経系が障害され、種々の症状が出現する。これら症状は通常間欠的に起こり、時に生命にかかわる程である。急性発作の経過は、とても変化に富んでおり、患者毎でも、また、同じ患者でも発作の度に異なる。

HMBS欠損症では、思春期以前に臨床症状が出現することは極稀で、男性より女性で多く見られる。

急性発作は数日で治まることもあるが、診断と治療が適切に行われず重症化した場合は、治まるのに数週間から数カ月かかることもある。急性発作は、ほとんどの症例では、誘因となる内因性、あるいは、外因性の因子による影響で引き起こされるが、誘因が特定できなこともまたよく見られる。

急性発作. 腹痛は、最もよくみられる症状で、全体的、あるいは、局所的のいずれの場合もあり、しばしば急性発作の初発症状となる。他の消化器症状としては、嘔気、嘔吐、便秘、下痢、腹部膨満、腸閉塞、がみられる。尿閉、失禁、排尿異常、もよくみられる症状である。頻脈や高血圧も高頻度にみられ、発熱、発汗過多、不穏や振戦も低頻度ながらみられる。

末梢神経障害は良くみられる。筋力低下はしばしば下肢近位側より始まり、上肢や下肢遠位にみられることもある。運動神経障害は脳神経にもおこることがあり、球麻痺や呼吸障害を引き起こし、死につながることもある。重度な急性発作後には、恒久的な四肢麻痺等の重篤な神経障害が起こることがある。

感覚神経障害も不規則に起こる。

発症者では、潜在者と比して有意に多く、遠位に慢性に対称性に軸索障害の症状を認める。

精神症状は顕著で、本症の特徴の一つである。ヒステリー、不安、無欲、抑うつ、恐怖感、精神異常、身体異常、興奮、譫妄, 傾眠, 昏睡が見られる。統合失調症と類似の症状を呈する者もある。自殺もよく見られる。

けいれん が急性発作時に見られることがある。特に、嘔吐、不適切な輸液管理、抗利尿ホルモン不適合分泌症候群(SIADH)によって生じた低ナトリウム血症を呈する患者でみられることがある。スウエーデンの268名の患者を対象とした研究では、3.7%がてんかん発作(強直間代性、あるいは、2次的に全般性となる部分発作)を起こしたと報告されている。

MRI 所見.  多発性の高信号白質病変がHMBS遺伝子異常のある症例の約25%でみられる。既に発作を経験した症例は、そうでない症例に比して、より多くの病巣を呈する傾向がある。これら病巣は、後に述べる様な適切な治療にて改善するようである。AIPそのものに因るのではなく、低ナトリウム血症の補正を急激に行ったことに因るとみられる病巣が認められることもある。これらの知見は症例報告によるものであり、一般化できるかは不明である。

肝細胞がん.  HMBS遺伝子異常のある症例では、肝細胞がん発症のリスクが高まる。AIPの有病率の高い、北スウエーデンの2つの地域を対象とした後ろ向き住民対象研究では、死亡者の内、AIP患者では27%に、そうではない者では0.2%に肝細胞がんがみられた(p<0.0001)。この関連は、ALAの酸化産物である4,5-dioxovaleric acidが、ヌクレオシドおよび単離DNAのグアニン分子をアルキル化する作用を持ち、肝細胞に発がん性変異を引き起こす可能性があることと関係しているのかもしれない。

腎障害.  本症では、特に、長期に亘り急性発作を繰り返した症例では、時に、他の明確な原因もなく、腎障害がみられることがある。多くの症例は高血圧を持っているが、腎障害があるにもかかわらず血圧が正常なこともある。

典型的な病理所見は、瀰慢性の糸球体硬化、間質の変化、及び、虚血巣である。AIPの急性発作での長く続く血管攣縮が病因の可能性としてあげられている。

尿細管間質腎炎を呈した症例では、過酸化脂質の尿中排泄増加がみられ、過酸化脂質による腎尿細管細胞ミトコンドリア障害が病因と示唆されている。

皮膚症状.  本症では皮膚症状はみられない。

誘因.  HMBS欠損症では、種々の内因性、あるいは、外因性の因子が誘因となり発作が起こることが多い。誘因は以下;

  • ALA合成酵素(非赤血球ALAS, あるいは ALAS-N)の誘導.  ほとんどの誘因は肝臓で、ヘム合成経路の律速酵素であるALAS-Nの酵素活性を増加させる。ALAS−N酵素活性が増加すると、部分的に低下しているHMBS酵素が律速部位となり、ポルフィリン前駆体、ALA、及び、PBGの蓄積を引き起こし、急性発作につながる。

    注: ALAS-N の誘導因子は赤血球特異的ALAS(ALAS-E)の遺伝子発現に影響を与えない。このことが、AIPでは血液学的異常を認めないことの理由かもしれない。

  • 種々の脂溶性外因物質

多くの脂溶性外因物質は肝臓において、ヘム酵素である、チトクロームP450で解毒される。ヘム酵素誘導は、それに伴いポルフィリン産生性のALAS-Nを誘導し、ヘム産生を亢進させる。その様なヘム酵素の誘導作用のある脂溶性外因物質は以下:

    • アルコール飲料に含まれる成分
    • バルビタール、スルホンアミド系抗菌薬、大半の抗テンカン薬(AEDs)、プロゲスタゲン、合成エストロゲン、及び、その他
    • 有機溶剤(例えば、塗料、及び、洗剤に含まれる物)
    • 殺生物剤
    • 喫煙.  (すなわち、タバコの煙に含まれる、多環芳香族等の化学物資)
    • 大麻
  • 絶食. 腹部X線撮影の前にしばしば行われる、あるいは、ダイエットや、長距離運動に伴う、不適切なカロリー摂取は、良くある誘因の一つである。正常なホルモンの調整反応として起こる、種々の転写因子の作用にて、低血糖は核受容体であるPXRとCARを活性化する。この活性化が、肝臓のALAS-N発現を直接誘導する。また、 絶食は肝臓のミクロゾームのヘム酸化酵素1を誘導し、肝臓のヘム濃度を低下させ、ヘムによるALAS-N発現の抑制を解除する(すなわち、ALAS-N発現を誘導する)。
  • ストレス.  随伴する病気、感染症、アルコール過剰摂取、及び、外科手術、等の精神的、及び、その他のストレスは、2つの核受容体、PXRとCAR、の活性化を介してALAS-Nの発現を誘導する。ヘム酸化酵素1遺伝子もまた誘導され、肝細胞内のヘム濃度を減少させる。
  • 飛行機を利用した海外旅行. 飛行機を利用した海外旅行 に際して起こる可能性のある、脱水、食事の摂取ミス、アルコール摂取、感染、低酸素、及び、ストレス、は相い重なって急性発作の危険因子となる。
  • 内分泌因子.  ポルフィリン産生性のALAS-Nの転写誘導は、核受容体であるPXRとCAR の活性化により起こる。これら受容体の活性化は、グルカゴン、グレリン、成長ホルモン、副腎性男性ホルモン、コルチゾ−ル等のホルモンにより調整されている。性ホルモンは、AIPの臨床症状の出現(男性よりも女性に、特に、月経前の時期に、より多くみられる)に重要な役割を持つ。月経周期に伴いAIP症状の悪化を示す女性症例は多々ある。合成エストロゲン、プロゲステロン、及び、排卵誘発剤は急性発作の危険因子である。AIP発症の既往のある閉経後の女性への、ホルモン補充療法(HRT)は急性発作を引き起こすことはまれであるが、AIP症状のある女性へのHRTは約25%の症例で急性発作をおこすと報告されている。一方、AIP女性の妊娠中は、種々のステロイドホルモンが大量に増加するにもかかわらず、経過は良好である。

保護因子. 2型糖尿病(DM)を発症すると、本症の症状は軽減することがある。DM発症後に、AIP患者は急性発作、あるいは、他のAIP関連の症状を呈する事はなくなったとの報告がある(Lithner F. et al. Diabetes Care. 2002; 25: 797−798)。尿中ALA、及び、PBG排泄も低下する。

注: 急性発作の標準治療である炭水化物投与の効果はALAS-N遺伝子の発現抑制、及び、ALAS-N蛋白の翻訳後抑制を介しておこるとされている。

死亡率.  アメリカ合衆国では、症候を呈したことのあるAIP症例の死亡率は一般人口に比して3倍高いと報告されている。AIPによる死亡の多くは、診断、及び、治療の遅れによりしばしば増悪した、急性発作中起こったものであった。生存率は、ヘミン製剤による治療が可能となった1971年来改善したが、その改善の程度は有意とまではなっていない。

一方、スウエーデンでは、ヘミン製剤での治療が可能となってからは、医療者、及び、患者への本症の病態、及び、忌避すべき因子についての情報提供と相まって、急性発作による死亡は稀であると、約1000名のHMBS遺伝子異常ヘテロ接合体患者での研究で報告されている。

病因.  HMBS遺伝子ホモ接合体異常者では、末梢神経障害と、MRI所見として、進行性の大脳の大きさの縮小、髄鞘化の遅延、髄鞘化を示す信号強度の顕著な異常、及び、多巣性の白質の血管周囲腔の空洞化、が認められた。このMRI所見から、本症の第一の病態の過程は、大脳における軸索障害を伴わない(軸索防御)髄鞘化障害であると示唆される。これら神経学的所見の基となる機序は良く分かってはいない。
現在、急性神経発作を引き起こす機序としては、以下の2つの仮説が主要なものと考えられている。:

  • 直接的神経毒性. ALA蓄積による直接的な神経毒性は、最も考えられる機序である。未成熟な乏突起膠細胞はグルタミン酸、あるいは、他の興奮性の刺激にとても弱い。ALA蓄積は、グルタミン酸との相同性があり、よって、選択的に白質を障害する。また、乏突起膠細胞はGABA受容体を発現しており、GABAは乏突起膠細胞前駆細胞においてカルシウム濃度を増加させることが知られている。ALA蓄積は、GABAとの相同性があり、視床下部のGABA受容体の阻害にもつながるかもしれない。視床下部のGABA受容体の活性化は、ポルフィリン産生性のストレスにより引き起こされるCRH放出を減弱させる。
  • ヘム欠乏. HMBS酵素活性の低下により、中枢神経系で、2次的にヘム欠乏が生じる。ヘム欠乏は、まずミトコンドリアの電子伝達系を障害し、灰白質を障害すると考えられる。しかしながら、その様な障害に起因すると思われる解剖学的な変化、のみならず、ミトコンドリアの呼吸鎖障害の所見も、HMBS遺伝子ホモ接合体異常者で見られなかった。
  • ヘム欠乏はAIP患者の中枢神経系で認められるが、神経内のヘム欠乏ではなく、ALAの神経毒性がAIPの神経障害の原因であるとの報告もある(Solis C, et al. Arch Neurol. 2004; 61: 1764−1770)。

その他の仮説:

  • 血漿メラトニン濃度の低下によるALA介在性の脂肪酸化の増加。ラットを用いた実験では、小脳、及び、海馬におけるALAにより誘導される脂肪酸化はメラトニンにより減少すると報告されている。
  • ALAに因る活性酸素の産生は、中枢神経系の膜に酸化的障害を与える。
  • 肝臓で、ヘム依存性酵素であるトリプトファン ピロラーゼ(tryptophan pyrrolase)の活性が低下し、トリプトファンが過剰産生される。その結果、脳では、トリプトファン量が増加し、神経伝達物質であるセロトニン(5-hydroxytryptamine:serotonin)の産生が増加する。

ホモ接合体HMBS欠損症.

現時点では、HMBS遺伝子の病因遺伝子異常を2つ持つ(ホモ接合体、あるいは、複合ヘテロ接合体)者の報告は5例である。

  • 報告されているホモ接合体は、p.Arg167Gln, p.Arg167Trp, p.Leu81Proで、複合ヘテロ接合体はp.[Arg167Trp]+[Arg173Gln] であった。
  • これら全ての症例では、HMBS酵素活性は正常の2%未満であった。
  • 臨床症状は小児期早期に出現し、重症。重度の小脳失調、構音障害、重度の精神運動遅滞、及び、中枢性、及び、末梢性の神経症状を呈する。
  • 1症例のMRI 所見の報告では、大脳乏突起膠細胞選択的な生後の障害を示唆する白質病変が認められた。

遺伝子型と臨床型の関連

遺伝子型と臨床型の関連はHMBS欠損症では明らかではない。 (1)ヘテロ接合体のHMBS酵素活性は正常状態ではヘム合成に十分な量ある。(2)環境因子が臨床症状の発現に影響を及ぼす。以上のことが、この理由の一部と考えられる。いまだ未発見のなんらかの遺伝子が修飾していることも大いに考えられる。

スウエーデンでの病因遺伝子異常が確定している468名のHMBS欠損症症例を用いた研究では、p.Trp198X  及びp.Arg173Trp 異常を持つ者は、p.Arg167Trp 異常を持つ者に比して、臨床症状を発現している者の割合(有病率) が高かった。

p.Trp198X、及び、p.Arg173Trp 異常を持つ者では、p.Arg167Trp異常を持つ者より、HMBS酵素活性が低い。この酵素活性の低さが、勿論、他の要因も寄与しているだろうが、遺伝子型と臨床型との関連に寄与していると思われた。

浸透率 

HMBS遺伝子異常をヘテロで持つAIP症例での、神経内臓症状出現、あるいは、尿中ALA、または、PBG排泄量増加を指標とした場合の浸透率は多岐に亘り、10%未満から20%、52%と種々の報告がある。この低い浸透率は、本症の発症に、付加因子、例えば、種々の薬物、ホルモン、カロリー摂取不足、ストレス、等、が必要なことが大きな要因となっていると考えられる。

病名 

AIP、及び、その他の肝性ポルフィリン症は、病因遺伝子異常を背景に種々の薬物等の誘因が加わることにより臨床症状が発現することの重要性を強調して、薬物遺伝学的、あるいは、外因的な病態と分類されている。
急性間欠性ポルフィリン症という病名には歴史的起源があるが、現在は、HMBS遺伝子異常を持つ者に臨床症状が見られた場合に限って用いる。以下の、新しい、より適切な病名は、未だ一般的ではないが、多くの科学論文で用いられている。

  • HMBS欠損症
  • 臨床症状につながる(すなわち、AIP)HMBS遺伝子異常を持つ者は、HMBSヘテロ接合体と呼ばれる。さらに、遺伝子異常毎に別に表現される(例えば、 p.Arg167Trp HMBSヘテロ接合体)。

AIPの旧式名:

  • 間欠性急性肝性ポルフィリン症(IAP)、あるいは、スウエーデン型ポルフィリン症
  • 急性ピロール尿症(acute pyrroluria)(AIP患者は多量のポルフィリン前駆体、すなわちALA、及び、PBGを産生、排泄することにより命名)

頻度 

AIPは、ほとんどの国において、最も多くみられる急性ポルフィリン症である。
本症は多くの集団で報告されているが、HMBS欠損症が最も高い頻度でみられるのはスエーデン北部で、有病率は1:10,000である。その他のヨーロッパでの有病率は10万人に1−2人と推定されている。


鑑別診断

尿の赤色化が見られる他状況:

  • 尿への血液の混入
  • ビート(beets:かぶ、大根)の摂食
  • 晩発性皮膚ポルフィリン症(PCT). 皮膚ポルフィリン症で最も多いもので、尿の赤色化は、PBGではなく、ポルフィリンの自己酸化に因る。注:PCTにみられる水泡性の皮疹は、AIPでは見られず、両者を鑑別する典型的な所見である。
  • 遺伝性コプロポルフィリン症(HCP)、及び、多様性ポルフィリン症(VP). 急性ポルフィリン症の2つの別の型。これらでは、皮膚病変と神経内臓障害の両方がみられ、時に赤色尿が見られる。

救急治療室、集中治療室、あるいは、精神科病院で、説明不可能な神経内臓症状、あるいは、精神症状が見られた場合、AIPが疑われる。しかしながら、AIPの神経内臓症状はとても非特異的なことより、種々の他病態と間違われる可能性がある。

急性間欠性ポルフィリン症(AIP)は、4つの急性ポルフィリン症の内で、最も多く、また、最も重症な疾患である。AIPとの鑑別診断では、遺伝性コプロポルフィリン症(HCP)、多様性ポルフィリン症(VP)、ALADポルフィリン症(ADP)、及び、1型遺伝性チロシン血症を念頭に置く(表3)。

3. AIPの鑑別診断で考慮すべき疾患

疾患

尿中排泄量

便中排泄量

ALAD 活性

神経内臓発作

光線皮膚症状

ALA

PBG

コプロポルフィリン

コプロポルフィリン

プロトポルフィリン

AIP

正常 あるいは ↑

正常

正常 あるいは ↑

正常

+

遺伝性コプロポルフィリン症 (HCP)

正常

正常

+

+

多様性ポルフィリン症(VP)

正常 あるいは 時に ↑

正常 あるいは 時に ↑

正常

+

+

ALADポルフィリン症 (ADP)

正常

 

 

+

1型遺伝性チロシン血症

正常

正常

正常

正常

+

血漿、及び、尿中ポルフィリン濃度から鑑別診断するにあたっての注意点

  • AIP、及び、HCPでは、急性発作時に、血漿に、621 nMの波長の明瞭な蛍光放射のピークが見られる。一方、VPでは、蛍光放射のピークは624-627 nMに見られる。
  • AIPでは、血漿ポルフィリン濃度は正常、あるいは、やや増加しているが、多様性ポルフィリン症では、血漿ポルフィリン濃度は顕著に増加している。すなわち、血漿ポルフィリン濃度が正常、あるいは、やや増加している場合は、多様性ポルフィリン症の診断は除外される。
  • 発作時に尿中PBG排泄増加がみられる、AIPとは別の2つの疾患である、HCP、及び、VPは、糞便中のポルフィリン排泄量が正常、あるいは、軽度増加の場合は除外される。

臨床的マネジメント

最初の診断に続いて行なう評価

HMBS欠損症と診断された場合、疾患の重症度を評価する為、MRIを含めた神経学的な評価が推奨される

病変に対する治療

急性発作の治療は以下:

  • アルコールやタバコ等の肝性ポルフィリン症を増悪させ得る全ての薬物の投与を即時中止する(回避すべき薬物や環境の項、参照)。
  • 必要に応じて、エネルギー摂取バランスを回復させる。経口摂取が不可能な場合は、完全静脈栄養(TPN)を行う。
  • 軽症発作の場合は、1日当たり最低400グラムの炭水化物の供給を目標にグルコースの静脈内投与を行う。投与二日後でも、改善が満足できるものでない場合は、ヘミン製剤の静脈内投与が推奨される。
  • 全ての 随伴する感染症、及び、他疾患に対して適切な治療を行う。
  • 高血圧、疼痛、及び、電解質異常、特に、不適切抗利尿ホルモン分泌症(SIADH)による低ナトリウム血症に対して適切な治療を行う。
  • 球麻痺に対して人工呼吸器が必要かどうかを判断するため、肺活量をベッドサイドで測定する機器を使用する。  
  • ヘミン製剤 (ヘマチン、ヘム アルブミン あるいはヘム アルギニン)の静脈内投与は, 軽症例を除いて、炭水化物を最初に試しに投与することなく、開始すべきである。ヘミン製剤はALAS-N酵素活性を抑制し、故にALA、及び、PBGの排泄を減少させ、急性神経内臓発作を軽減させるのに最も効果的な治療である。ヘミン製剤の静脈内投与は、早期に行われれば、生命予後の改善につながるかもしれない。神経障害が可逆的な早期に使用された場合、麻痺の出現やその増悪の防止にも役立つかもしれない。

    推奨されているヘミンの初期投与量は3−4mg/kgで、1日1回、10-15分以上の時間をかけ静脈内投与し、4日続ける。臨床経過によっては、投与期間を延長してもよい。高用量での投与は、可逆的ではあるが、腎機能を障害すると報告されているので、24時間内の投与量は、6mg/kgを超えてはならない。

    アメリカ合衆国で使用可能なヘミン製剤はPanhematinTM [Ovation Pharmaceuticals, Deerfield, Illinois]のみで、本薬剤はアメリカ食品医薬品局により急性ポルフィリン発作の治療薬として承認されている。本薬剤は塩化ヘミン、炭酸ナトリウム、塩化水素, 及び、ソルビトールを用いて調整されたヘマチン(水酸化ヘム)を含み、乾燥粉末として提供される。静脈内投与の直前に、蒸留水で溶解して用いる。

    注:(1)Panhematinの静脈注射は静脈炎を引き起こすことがある。この問題は、Panhematinに等モル量の人血清アルブミンを加えることや、太い血管への投与、あるいは、カテーテルを用いて中心静脈へ投与することにより軽減することが出来る。(2)使用前に、不溶性物質を除くため、0.45ミクロン以下の濾過孔サイズのフィルターを用いて最終濾過することが推奨される。(3)蒸留水に溶解したPanhematinの投与は一過性の軽度の血液凝固障害と関連しているので、抗血液凝固療法の併用は避けるべきである。(4)もう一つのヘミン製剤である、ヘム アルギニン(Heme arginate)はPanhematinと比べて、液体状態でより安定で、また、副作用も少ないが、アメリカ合衆国では使用できない。
    ヘム アルギニンは、現在、症候性の急性ポルフィリン症の治療薬として効果的であることが、強固に確立されている。急性発作の治療においては、ヘミンと同等の効果を持つが、副作用はより少ない。ヘム アルギニンは、ヘミンとL-アルギニンを反応させた安定した産生物で、液体で供給される。
    血液凝固障害、及び、静脈炎は、ヘムの分解産物により引き起こされるもので、ヘム アルギニン、あるいは、アルブミンを加えたPanhematinでは、蒸留水に溶解したPanhematinに比べて、より少ない。

  • 肝臓移植. 同所死体肝臓移植により、1.5年以上も生化学的、及び、臨床的に寛解状態となった19歳の女性の重症AIP症例 の報告がある。肝臓移植は、他の治療が有効でない最重症例では、考慮されるべきであり、 推奨され始めている。
  • AIP患者への腎臓移植は、これまでに合併症を生じることなく行われている。
  • これまでも問題なく行われている肝腎同時移植は、重度の急性発作を繰り返す腎不全のAIP患者において考慮され得る。

一次病変の予防

予防方法:

  • 適切な栄養補給. カロリーの補充は尿中ALA、PBG排泄量を減少させ、臨床症状の軽減につながる。適切な栄養補給は、栄養摂取量の少なかった者、あるいは、過度の体重減少が認められた者では、特に、有用である。
  • ポルフィリン症を誘発させることが知られている薬物、あるいは、化学物資の使用を避ける。
  • 随伴疾患、あるいは、感染症の適切な治療。
  • 月経周期に伴い起こる発作を予防する為に、低用量の経口避妊薬を用いる;ただし、本治療がポルフィリン症を悪化させることもある。
  • 月経周期に伴いAIP症状の増悪をみる女性患者では、排卵を抑制し、月経前の発作の出現を防止するために、長時間作動型のGnRH作動作用のある類似化合薬の鼻腔内、あるいは、皮下投与を行う。注:本治療は実際にポルフィリン症を悪化させ得るので、ポルフィリン症治療の専門家においてのみ行われるべきである。
  • 急性ポルフィリン発作を予防する為のヘミン製剤の静脈内投与方法は確立していないが、週に1−2回、3-4 mg/kgの量で投与すると有効であったとの報告がある。

二次病変の予防

AIPでは、思いのほか、自殺が多いので、早期からの精神科的治療、及び、効果的な痛みへの治療が重要である。

慢性的な全身動脈の血圧増加の結果起こると考えられる末期腎障害の発症は血圧のコントロールを十分に行えば遅れさせることができる。

 

経過観察

100 mgのヘミンは8 mgの鉄を含んでいるので、頻回のヘミン注射は鉄の過剰蓄積を招く危険がある。従って、繰り返しヘミンで治療を受けている者では、血清フェリチン、及び、トランスフェリン値を定期的に測定する。

HMBS欠損症患者では肝細胞癌の発症率が増加しているので、50歳以上の患者では定期的な肝臓の画像検査を行う。

注: AIP患者で肝細胞癌を併発した場合は、AFPが増加することはまれである。従って、血清のAFP測定は、他の病因による肝細胞癌の場合と比して、HMBS欠損症に随伴する肝細胞癌の場合は、スクリーニング検査としての意義は大変低い。

回避すべき薬剤・環境

アルコール、及び、喫煙 .

急性ポルフィリン発作を引き起こしうる薬物.

  • 多くの薬剤、及び、その他の医薬部外の物質の急性ポルフィリン症での安全性についての知見は不完全である。しかしながら、薬剤のポルフィリン症誘発性についての評価のエビデンスに基づくガイドラインが報告され(Thunell S, et al. Br J Clin Pharmacol. 2007; 64: 668−79.)、その原則に基づいて分類された処方薬のリストは、ウエッブ サイト、www.drugs.porphyria.org、に掲載されている。
  • 発作を引き起こす危険のある、あるいは、可能性のある物質のリストは以下のウエッブ サイトにも掲載されている。
    • Drugs-porphyria.org (http://drugs-porphyria.org/)
    • Porphyria, A Patient's Guide (http://www.uq.edu.au/porphyria/)
    • The American Porphyria Foundation (http://www.porphyriafoundation.com/)
    • European Porphyria Initiative (http://www.porphyria-europe.com/
  • バルビタール、及び、スルホンアミド系抗菌薬は、有名な急性ポルフィリン症の誘発剤である。
  • ゲスタゲン、及び、合成エストゲンは発作を高頻度に誘発する。
  • ほとんど全ての抗てんかん薬(AEDs)は、AIPを含む急性ポルフィリン症を引き起こしうる。ガバペンチン(Gabapentin)、及び、ビガバトリン(vigabatrin) は他のAEDsよりは安全かもしれない。
他にも種々のポルフィリン誘発性の処方薬があり、それ等の薬剤は可能な限り避けるべきである。

リスクのある親族への検査

以下の対応が適切:

  • リスクのある家族の遺伝状況は、その家族でHMBS遺伝子異常が特定されている場合は、遺伝子解析にて明らかにする。

    注:遺伝子解析はHMBS遺伝子異常を確認する正確な手法であるが、AIPの臨床症状発現の予測にはつながらない;しかしながら、HMBS遺伝子異常ヘテロ接合体者において、尿中PBG濃度の増加がみられた場合、急性発作のリスクが高まっていることが示唆される。

  • 臨床的、あるいは、生化学的に異常がないHMBS欠損症の家族に対しては、予防策をとり、危険因子を避けるように勧告する。

研究中の治療

合成ヘム類似化合物、例えば、スズ プロトポルフィリン(tin-protoporphyrin)、あるいは、スズ メソポルフィリン(tin-mesoporphyrin)はヘム酸化酵素の活性を抑制し、ヘムの分解を減少させ、肝臓のヘム濃度を増加させる。これらの物質は、AIP、及び、VP患者において、ALA、PBG、及び、ポルフィリンの排出を減少させる。ヘミン効果を延長させる為に本物質を使用することについては、まだ、研究段階である。

組み換えHMBS酵素の静脈内注入による補充療法が試されており、安全で、かつ、血漿、及び、尿中の、ALA、及び、PBGの除去という指標でみると、有効であると証明されている。しかしながら、臨床症状の改善に関しては報告されてはいない。

アデノ ウイルス、あるいは、アデノ随伴ウイルスを用いた遺伝子治療は、AIPの動物モデルで、長期に亘り、肝臓のHMBS欠損を改善させたと報告されている。

その他

HMBS遺伝子異常ヘテロ接合者には、安全ではない薬物、あるいは、物質を不必要に投与されることを避けることが出来るように、医療上の警告を意味する腕輪、及び、財布に入れるカードを提供する。

シメチジン(Cimetidine)は治療薬として使えると示唆されたが、その臨床上の有用性は明確ではないままである。シメチジンは、肝臓のチトクローム P450の阻害薬で、これら酵素により活性化される化学物質により引き起こされる実験的ポルフィリン症を改善させる。しかし、この機構は、人の遺伝性ポルフィリン症とは必ずしも関連してはいない。 


遺伝カウンセリング

「遺伝カウンセリングは個人や家族に対して遺伝性疾患の本質,遺伝,健康上の影響などの情報を提供し,彼らが医療上あるいは個人的な決断を下すのを援助するプロセスである.以下の項目では遺伝的なリスク評価や家族の遺伝学的状況を明らかにするための家族歴の評価,遺伝子検査について論じる.この項は個々の当事者が直面しうる個人的あるいは文化的な問題に言及しようと意図するものではないし,遺伝専門家へのコンサルトの代用となるものでもない.」

遺伝専門医や出生前診断クリニックをお探しの場合には、GeneTests Clinic Directoryを参照のこと.

遺伝形式

HMBS欠損症は常染色体優性形式で遺伝する。

患者家族のリスク

発端者の両親

  • HMBS欠損症と診断された人の大多数は、その両親の内のいずれか(症候性である場合も、ない場合もあるが)から遺伝子異常を受け継いでいる。
  • 新規に発生した遺伝子異常が原因となるHMBS欠損症の発端者もある。新規発症遺伝子異常が病因となっている症例の割合は不明であるが、可能性としては低い。
  • 明らかに新規に遺伝子異常が起こり病因となった発端者の両親の評価には、尿中ALA、及び、PBG測定、及び、発端者のHMBS遺伝子異常が分かっている場合は、HMBS遺伝子解析を行うことが推奨される。

    注: HMBS欠損症患者では、家族内の臨床的、あるいは、生化学的に異常が無いHMBS欠損症患者が認識され損なうことにより、家族歴はしばしば陰性である。

発端者の同胞

  • 発端者の同胞のリスクは発端者の両親の遺伝子異常の状況(すなわち、どちらかがが、あるいは、双方共にHMBS遺伝子異常を持っているかどうか)に依る。
  • もし発端者の両親のどちらかのみがHMBS遺伝子異常を持っている場合、発端者の同胞の遺伝子異常を受け継いでいるリスクは50%である。臨床的浸透率は低い(10-50%)ので、HMBS遺伝子異常を受け継いでいる者が将来発症するかどうか、また、もし発症するとして、発症年齢、重症度、及び、症状のタイプ、を予測することは可能ではない。

発端者の子

HMBS欠損症患者の子は、HMBS遺伝子異常を50%の割合で受け継ぐ。 .

発端者の他の家族 

他の家族のリスクは、発端者の両親の遺伝子異常の状況に依る。両親のいずれかが発症している、あるいは、病因遺伝子異常を持っている場合は、その者の家族は遺伝子異常を持っている可能性がある。

遺伝カウンセリングに関連した問題.

リスクのある無症状の成人家族に対する検査 

HMBS欠損症のリスクのある無症状の成人の検査としては、赤血球HMBS酵素活性測定、あるいは、家族内の発症者でHMBS遺伝子異常が分かっている場合は、遺伝子解析が行われる。これらの検査は、HMBS遺伝子異常を受け継いでいる者の将来の発症の有無、及び、時期を知るには有用ではない。しかしながら、HMBS欠損症罹患のリスクのある者の特定は、急性発作や、その他の症状の出現を予防するために、既知の危険因子を避けることや他の対応策をとることが有用なことより、それに対応した管理につながる。HMBS欠損症のリスクのある者の検査をする前に、その家族内の発症者をまず検査して、病因遺伝子異常を特定することが必要である。

明らかに新生突然変異による家族 

常染色体優性遺伝形式の疾患の発端者の両親のいずれもが、臨床的なその疾患である証拠、あるいは、病因遺伝子異常を持たない場合は、発端者は新規発現遺伝子異常をもっている可能性が高い。しかしながら、父親が違う、母親が違う(例えば、生殖補助医療)、非公開の養子縁組、等の非医療上の説明もまた考えられ得る。

家族計画 

  • 遺伝リスクの確定、及び、出生前診断についての議論は妊娠前に行われるのが望ましい。
  • 発症者、あるいは、リスクのある若年成人に、子供のリスク、及び、生殖における選択肢についての議論を含めた遺伝カウンセリングを提供することは適切である。

DNAバンキング DNAバンクは主に白血球から調製したDNAを将来の使用のために保存しておくものである.検査法や遺伝子,変異あるいは疾患に対するわれわれの理解が進歩するかもしれないので,DNAの保存は考慮に値する.ことに現在用いられている分子遺伝学的検査の感度が100%ではないような疾患では特に重要である.

出生前診断

リスクのある妊娠について出生前診断が技術的に可能である。 DNAは胎生16−18週に採取した羊水中細胞や10−12週*に採取した絨毛から調製する。成人発症型疾患の出生前診断の希望に対しては注意深い遺伝カウンセリングを必要とする。出生前診断を行う以前に、罹患している家族において病因となる遺伝子変異が同定されている必要がある。

  • 胎生週数は最終月経の開始日あるいは超音波検査による測定に基づいて計算される。

    訳注:日本では本症に対する出生前診断は行われていない。

HMBS欠損症患者の多くは生涯無症候であり、遺伝解析、及び、生化学的検査のいずれもAIPの臨床症状の出現を予測出来ず、また、AIPの成人症例の治療法、及び、予後が相当に改善したことより、出生前診断の要望は多くはない。出生前診断を行うに際しては、特に、早期診断というよりも妊娠中絶を目的に考慮される場合には、医療専門家と家族との間には展望の違いがあることがある。ほとんどの医療機関では、出生前診断を行う決定は、両親の選択と考えているが、この件に関して討議されることは適切である。

着床前遺伝子診断

病因遺伝子異常が分かっている家族においては、着床前遺伝子診断が可能である。

訳注:本邦では行われていない。


原文 Hydrosymethylbilane Synthase(HMBS) Deficiency

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