GRJ top > 遺伝子疾患情報リスト
grjbar

アルカプトン尿症
(Alkaptonuria)

[Alcaptonuria]

Gene Reviews著者: Wendy J Introne, MD, Michael A Kayser, DO, William A Gahl, MD, PhD
日本語訳者: 窪田美穂(ボランティア翻訳者),鳴海洋子(信州大学医学部附属病院遺伝子診療部)          

Gene Reviews 最終更新日: 2011.3.10.日本語訳最終更新日: 2011.4.18

原文 Alkaptonuria


要約

疾患の特徴 

アルカプトン尿症は、チロシン代謝経路でホモゲンチジン酸(HGA)をマレイルアセト酢酸へ変換する酵素であるホモゲンチジン酸-1,2-ジオキシゲナーゼの欠損により発症する。アルカプトン尿症の3大特徴は、尿中HGAの存在、組織褐変(結合組織の帯青黒色の色素沈着)、および脊椎と大関節の関節炎である。尿中に排泄されるHGA酸化物がメラニン様産生物を作り出し、尿は起立性の暗褐色尿となる。組織褐変は30歳以降にしか起こらないが、関節炎は20歳代からの発症が多い。その他の症状には色素沈着、大動脈弁や僧帽弁の石灰化や閉鎖不全があり、大動脈拡張、腎臓結石、前立腺結石が生じることもある。

診断・検査 

アルカプトン尿症の診断はガスクロマトグラフィ-質量分析法にて尿中HGA高値であることから行われる。アルカプトン尿症患者のHGAの1日排泄量は、通常1〜8gである。アルカプトン尿症はホモゲンチジン酸-1,2-ジオキシゲナーゼをコードする遺伝子であるHGD遺伝子の変異により生じる。分子遺伝学的検査が臨床的に実施されている。

臨床的マネジメント 

症状の治療 患者に合わせた関節痛の治療;筋力や柔軟性を維持するための理学療法および作業療法;適宜、膝、腰、肩の関節置換法;適宜、前立腺結石や腎臓結石に対する外科的処置。

経過観察 40歳以上になると、大動脈拡張、大動脈弁や僧房弁の石灰化や閉鎖不全を検出するための心エコー検査;冠動脈の石灰化を検出するCT検査。

回避すべき薬剤や環境 関節炎への重症化を避けるため、重労働や衝撃の大きいスポーツなどの脊椎や題関節への物理的ストレスを回避すること。

発症リスクのある血縁者への検査: 罹患者の同胞に対して尿中HGA値が上昇しているかを調べることにより、早期診断と続発性合併症を予防する早期介入が可能となる。

 

遺伝カウンセリング 

アルカプトン尿症は常染色体劣性疾患である。受精において、罹患者の同胞が罹患する確率は25%、症状のない保因者となる確率は50%、発症もせず保因者ともならない確率は25%である。発症リスクのある同胞が罹患していないことが分かった場合、その同胞が保因者である確率は2/3となる。GeneTests Laboratory Directoryには出生前診断を提供している施設が掲載されていないが、疾患原因変異が同定されている家系に対しては、個別の出生前診断を行っている施設での分子遺伝学的検査を用いた出生前診断が可能な場合がある。


診断

臨床診断

アルカプトン尿症はチロシン代謝経路でホモゲンチジン酸 (HGA)をマレイルアセト酢酸に変換するホモゲンチジン酸-1,2-ジオキシゲナーゼの欠損により発症する(図1)。

図1 チロシン代謝経路. アルカプトン尿症の特徴はホモゲンチジン酸 (HGA)をマレイルアセト酢酸に変換するホモゲンチジン酸-1,2-ジオキシゲナーゼの欠損である。

fig1

アルカプトン尿症の3大特徴は以下である:

  • HGA. 尿中に排泄されるHGA酸化物がメラニン様産生物を作り出し、尿は起立性の暗褐色尿となる。アルカプトン尿症患者の尿は通常暗褐色尿で、起立した際もしくはアルカリ性物質に触れると暗褐色となる。しかし、排尿後数時間は暗褐色化が起こらないため、多くの患者は尿に異常色を観察することがない。

  • 組織褐変(結合組織の帯青黒色の色素沈着). 結合組織中のHGA蓄積およびHGA酸化物(ベンゾキノン酢酸など)による組織褐変が起こる。強膜の褐色色素沈着が角膜と外眼角と目頭の間の直筋付着部に認められる。色素沈着は結膜や角膜にも認められることがある。色素沈着は視力に影響しない[Chevez Barrios & Font 2004]。

    • 耳介軟骨の色素沈着は、まず耳甲介や対輪に、後に耳珠で認められる。軟骨は灰色がかった青色(slate blue )もしくは灰色となり、不整形と感じられたり厚みを帯びたと感じられる。X線画像で耳介軟骨の石灰化がみられることもある。
    • 耳垢や汗に色素が出て、衣服が変色することもある。
    • 腱の色素沈着のために、手の皮膚や第1指と第2指の間が深紫に変色することがある。
  • 関節炎. 関節炎は脊椎から発症する場合が多く、病変が大関節に認められる点が強直性脊椎炎に類似する。脊髄のX線画像で認められる椎間板の平坦化や石灰化がこの疾患の特徴である。臨床所見には、椎間板の石灰化後の椎間板変性から最終的な椎体の融合に至るまでが含まれる。増骨性病変の形成や椎間靭帯の石灰化はごく少数である。大関節のX線画像では関節空隙の狭隘化、肋軟骨下嚢胞が認められるが、増骨性病変の形成が認められる場合もある。筋肉付着点で腱付着部症が認められる場合がある[Mannoni et al 2004]。

検査

生化学検査. アルカプトン尿症の診断はガスクロマトグラフィ-質量分析法で高い尿中HGA値が認められることに基づいて行われる。アルカプトン尿症患者のHGA値の1日排泄量は通常1〜8gである [La Du 2001, Phornphutkul et al 2002]。24時間尿でのHGA正常値は20〜30mgである。生化学検査を行っている施設に関しては、Image testing.jpgを参照。

保因者. 臨床的に実施されている生化学検査では保因者であるかはわからない。

分子遺伝学的検査

遺伝子. ホモゲンチジン酸-1,2-ジオキシゲナーゼをコードする遺伝子であるHGD遺伝子は、アルカプトン尿症を発症させることが知られている唯一の遺伝子である[Pollak et al 1993, Janocha et al 1994, Fernandez-Canon et al 1996]。

臨床検査

  • シークエンス解析. シークエンス解析では、スロバキア系民族にみられる8種類のHGD遺伝子変異(「標的変異解析」の項を参照のこと)や、他の民族でも認められるシークエンス・バリアントが検出される。
  • 標的変異解析. スロバキア系民族で認められる8種類の変異をまとめて検出できる診断パネルが臨床検査に利用されている。

c.481G>A(p.Gly161Arg)変異、c.457dup(p.Asp153GlyfsX26)変異、c.808G>A(p.Gly270Arg)変異、c.1111dup(p.His371ProfsX4)変異の4種類がスロバキア系民族における創始者変異であり、これらの変異はスロバキア系民族で認められるすべての変異の80%を占める。

その他の民族では、c.688C>T(p.Pro230Ser)変異c.899T>G(p.Val300Gly)変異、c.174delA(p.Ser59AlafsX52)変異、c.16-1G>A(p.Tyr6_Gln29del)変異、c.342+1G>A (p.Leu95_Ser114del)変異、c.140C>T(p.Ser47Leu)変異の6種類の変異が多いが、これらの変異はスロバキア系民族では稀である。スロバキア系民族以外の変異頻度は不明である。

表1 アルカプトン尿症の分子遺伝学的検査

遺伝子

検査方法

検出変異

検査方法ごとの変異検出頻度 1

検査の実施

HGD

標的変異解析

スロバキア系民族に多い変異

80%超

臨床
Image testing.jpg

シークエンス解析

シークエンス・バリアント 2

90%

「検査の実施」はGeneTests Laboratory Directoryに掲載されている検査実施状況である。検査の実施に関してはGeneTests Laboratory Directoryを参照のこと.GeneReviewsは,分子遺伝学的検査について,その検査が米国CLIAの承認を受けた研究機関もしくは米国以外の臨床研究機関によってGeneTests Laboratory Directoryに掲載されている場合に限り,臨床的に実施可能としている.GeneTestsは研究機関から提出された情報の検証や,研究機関の承認状態もしくは実施結果の保証は行わない.情報を検証するためには,医師は直接それぞれの研究機関と連絡をとらなければならない.

  1. 当該遺伝子に存在する変異の検出方法の精度
  2. シークエンス変異で検出される変異の例には、小規模な遺伝子内欠失・挿入やミスセンス変異、ナンセンス変異、スプライス部位変異が含まれる。

検査結果の解釈

シークエンス解析結果の解釈について考慮すべき点についてはこちらを参照。

検査手順

発端者の確定診断

  • ガスクロマトグラフィ-質量分析法により1日の尿検体中のHGA重量を検出されれば、アルカプトン尿症の診断が確立する。
  • HGD遺伝子の分子遺伝学的検査:
    • 発端者がスロバキア系民族の場合、まず当該民族に同定されている変異に対する標的変異解析を実施すること。変異が1つ、もしくはまったく認められない場合には、続いてシークエンス解析を行うこと。
    • スロバキア系民族以外の患者に対しては、HGD遺伝子のシークエンス解析を行うこと。

保因者診断

発症リスクのある血縁者の保因者診断には、事前に家系内の疾患原因遺伝子の同定が必要である。

注:保因者とは常染色体劣性疾患のヘテロ接合体のことであり、疾患を発症するリスクはない。

発症リスクのある妊娠に対する出生前診断や着床前診断(PGD)には、家系内での疾患原因変異の事前同定が必要である。

注:GeneTests Laboratory Directoryには掲載施設で実施可能な臨床検査を載せることがGeneReviewsの方針である.ここで掲載されている検査は必ずしも著者や編集者や審査者が推奨をするものではない.

遺伝的に関連のある疾患

アルカプトン尿症以外にHGD遺伝子の変異と関連する表現型はない。


臨床像

自然経過

アルカプトン尿症の臨床所見には、尿中にHGAとその酸化物が存在することから生じる起立性尿の暗褐色化と、結合組織の組織褐変、脊椎や大関節の関節炎がある。HGA排泄量と疾患の重症度は同一家系内でも大きなばらつきが認められることがある。幾つかの症例では、慢性的関節痛のために診察を受けようと思った際や、整形外科手術で関節軟骨の黒色化が認められた際になってはじめてアルカプトン尿症の診断が下される。

 アルカプトン尿症による発達遅滞や認知障害はなく、一般に生命予後は悪くない。

尿所見.通常、アルカプトン尿症患者の尿は暗褐色尿であるか、起立した場合もしくはアルカリ性物質に触れると暗褐色となる。しかし、排尿後数時間は暗褐色化は起こらず、多くの患者は尿の異常色を観察することはない。

結合組織.  一般に、色素的な変化が認められるのは30歳以降である。アキレス腱の肥厚化、腱炎、腱断裂などの腱関連症状も臨床的に認められ[Phornphutkul et al 2002]、MRI画像でもみることができる。

関節. 組織黒変症を伴う関節炎はアルカプトン尿症で長期的に認められる一般的症状である。脊椎を含む関節症状は通常20歳代に生じる。ある大家系では腰痛が30歳以前の49%に、40歳未満では94%に認められた[Phornphutkul et al 2002]。

腰椎や胸椎症状は頸椎症状の前に現れる。一般に、仙腸骨部は侵されない。脊椎の柔軟性の低下が疾患の重症度と直接的な相関がある。前方への柔軟性が低下した患者は機能障害を呈し、疲労感が増す[Perry et al 2006]。

関節症状は疾患初期に生じ、女性と比べ男性で進行速度が速いようである。膝、腰、肩の症状が多い。患者の50%が55歳までに最低1回の関節置換術を要する。小関節の症状は大きくない。

大量に排泄されるHGAの処理を行うのが腎臓であるため、腎機能障害が組織褐変と関節破壊を増悪させる[Introne et al 2002]。

他の臓器所見

  • 心臓. 心臓や血管の組織沈着により動脈弁や僧帽弁の石灰化や閉鎖不全や、ときに大動脈拡張が生じることがある。大動脈弁の肥厚化が閉鎖不全を起こし、大動脈弁置換術が必要となる場合がある。また、大動脈弁狭窄も報告されている[Cercek et al 2002]。胸部CT画像で冠動脈の石灰化が認められている。通常、心臓所見が現れるのは50歳代である[Phornphutkul et al 2002]。
  • 腎臓結石.  64歳までに腎臓結石の既往をもつアルカプトン尿症患者は50%である。
  • 前立腺結石.  黒色の前立腺結石がアルカプトン尿症患者に比較的多く認められる。ある家系では、31〜60歳の男性27人のうち8人が前立腺結石の既往があった。このような結石の通過はきわめて痛みをともなうものであるため、ときに予防的手術が勧められる[Phornphutkul et al 2002]。

遺伝子型と臨床型の関連

HGD遺伝子変異の種類とHGA排泄量もしくは疾患の重症度との間に関連性は認められない。

浸透率 

尿中HGAの上昇および組織黒変症を伴う関節炎はHGD遺伝子変異をホモ接合で有する場合、もしくはヘテロ接合で有する場合に生じる。

病名

アルカプトン尿症は集合的に組織褐変症と呼ばれることがある(しかし、この名称は誤りである)。

頻度 

最低でもアルカプトン尿症症例は1,000症例報告されているが、これは過小評価と考えられる[La Du 2001]。米国におけるアルカプトン尿症の頻度は25万〜100万人の出生児のうち1人と推定されている。

世界中でアルカプトン尿症が認められるが、ドミニカ共和国[Milch 1960]やスロバキアとボヘミア地方の国境近辺で高く、これは創始者変異の影響を示すものだと考えられる[Srsen 1983]。スロバキアにおけるアルカプトン尿症の頻度は推定19,000人中1人である[Zatkova et al 2003]。 .


鑑別診断

本稿で扱われる疾患に対する遺伝学的検査の実施可能性に関する最新情報は,GeneTests Laboratory Directoryを参照のこと.―編集者注.

組織褐変症.  アルカプトン尿症による組織褐変は、慢性皮膚潰瘍の外用薬として用いられるフェノールの長期的使用後に生じる後天的可逆性色素変化と混同される場合がある[La Du 2001]。抗マラリア薬のアタブリン(Atabrine(R))[Ludwig et al 1963]、皮膚美白剤のハイドロキノン、抗生剤のミノサイクリンの長期使用後に化学的に誘発された組織褐変も報告されている[Suwannarat et al 2004]。

アルカプトン尿症の1症例では、眼の組織黒変が黒色肉腫と誤って診断され、眼球摘出された[Skinsnes 1948]。

尿中HGA排泄が検出されない場合には徹底的な病歴聴取により偽陽性診断を除外しなければならない。

関節炎.  アルカプトン尿症の関節炎は、その脊椎や大関節症状が強直性脊椎炎と類似しているが、両社は仙腸骨関節に病変が認められないことや、X線画像所見が異なる。また、脊椎のX線画像所見によりアルカプトン尿症と関節リウマチや変形性関節炎との鑑別が可能である。

臨床医への注:個別の患者に対するImage SimulConsult.jpgについては,SimulConsult(R)を参照.SimulConsult(R)は患者の所見を基に鑑別診断を提供する双方向型診断決定補助ソフトトである(登録または施設からのアクセスが必要).


臨床的マネジメント

最初の診断時における評価

アルカプトン尿症と診断された患者の疾患の程度を確立するために、以下が推奨される:

  • 注意深い病歴聴取と身体検査(とりわけ脊椎や大関節の可動域に注意を払うこと)
  • 眼科的評価
  • 可動域が限られている場合や関節痛が生じた場合には、理学療法やリハビリの評価
  • 24時間尿のHGA量測定後の有機酸解析
  • 40歳以上では心電図検査やエコー検査  
  • 腎臓の超音波検査や腹部ヘリカルCT画像検査による腎臓結石の有無の確認

症状に対する治療

アルカプトン尿症の関節痛は深刻であるため、注意深い疼痛管理が必要である。綿密なフォローアップと長期的管理を行って、一人一人に合った適切な疼痛管理を行うこと。

筋力や柔軟性を適度に保つためには理学療法や作業療法が重要である。

膝、腰、肩の関節置換術が重症な関節炎への1つの対処法となる。一般に、関節置換術の目的は可動域の増加というより疼痛緩和である。アルカプトン尿症患者では、変形性関節炎患者と比べ、関節置換術が人工関節置換術後の生存率(prosthetic survival )との関連性が高い[Spencer et al 2004]。

前立腺や腎臓結石に対して外科的処置が行われることもある。

一次病変の予防

幾つかの治療法が研究されているが、予防的治療や治癒をもたらす治療法はない。「研究中の治療法」の項を参照のこと。

アルカプトン尿症におけるニチシノンの効果に関する臨床試験が現在行われている。ニチシノンはチロシン血症1型の承認治療薬であるが、アルカプトン尿症は適応外である。

続発性病変の予防

水泳のような適度な体重免荷運動による関節の可動域の維持がもたらす効果は大きい。

アルカプトン尿症の若年患者には接触のないスポーツや衝撃の少ないスポーツを勧める。

経過観察

40歳以降は心臓の合併症に対して1〜2年に1回チェックを行うことが望ましい。以下の検査を行うべきである:

  • 心エコー検査(大動脈拡張や大動脈弁や僧房弁の石灰化や閉鎖不全)
  • CT検査(冠動脈石灰化)

40歳以降は泌尿器合併症が多くみられるようになる。定期的な経過観察は推奨されないが、泌尿器の合併症が起こりうること自覚させるとよい。黒色化した前立腺結石がX線画像で認められることがある。また、腎臓結石は超音波検査や腹部ヘリカルCT画像で検出できる。

回避すべき薬物や環境

脊椎や大関節への物理的負荷を避ける(重労働や接触の激しいスポーツ)。これにより重症関節炎への進行を遅らせることができるかもしれない。

リスクのある親族への検査

尿中HGA値の上昇を検査することにより患者同胞をアルカプトン尿症と診断することが可能である。

  • 若年患者には衝撃の強いスポーツや接触の多いスポーツを避けるよう指導する。
  • 職業選択の際には、重労働を含む職業をさけることも考慮される。
  • 適切な運動とともに関節を強化し柔軟性を高める運動を行うことで、全般的な関節の可動性と機能を維持できることがある。

遺伝カウンセリングとして扱われるリスクのある親族への検査に関する問題は「遺伝カウンセリング」の項を参照のこと。

研究中の治療法

ニチシノン(2-(2-nitro-4-トリフルオロメチルベンゾイル-1,3-シクロヘキサンジオン(NTBC))の経口投与によるアルカプトン尿症の薬物療法が提案されている[Anikster et al 1998]。ニチシノンはトリケトン系除草剤の1つであり、HGA産生酵素である4-ヒドロキシフェニルピルビン酸ジオキシゲナーゼを阻害する。ニチシノンはチロシン血症1型の承認治療薬である。

ニチシノンは2人の患者の尿中HGA排泄量を少なくとも69%低下させたが、その代わりに血漿チロシン濃度が上昇することとなった[Phornphutkul et al 2002]。唯一知られている副作用は、羞明やまれに角膜結晶を起こすとされる血症チロシン濃度の上昇である。理論的には、チロシン血症3型に関連する神経学的合併症の発症が考えられる。

最近では、アルカプトン尿症患者の最大95%で低用量ニチシノンが尿中HGA量を低下させた。同一の研究では、7人の患者が正常のタンパク摂取を行いながら最長15週間ニチシノン治療を受けたが、全員の血漿チロシン濃度が上昇した。眼科的、神経学的、重度の皮膚科的合併症は報告されていない。2人の患者が一過性の肝トランスアミナーゼ値の上昇をみたが、ニチシノン投与を中止すると正常値に戻った[Suwannarat et al 2005]。

ニチシノンが関節疾患の進行の遅延化をもたらすかどうかを判断するため、研究が続けられている。

種々の疾患に対する臨床試験についてはClinicalTrials.govを参照のこと。

その他

組織褐変を予防もしくは治療できることが立証された治療法はまだない。

  • HGAの産生量を低下させるためフェニルアラニンやチロシンの摂取制限が勧められるが、この2種類のアミノ酸の摂取を厳しく制限することは長期的にみて実際的でなく、危険性を伴うこともある。
  • ビタミンCの大量摂取によりHGA誘導体の1つである尿中ベンゾキノン酢酸量が低下したが、HGAの排泄量には効果がなかった[Wolff et al 1989]。アスコルビン酸の大量摂取により黒色色素の沈着が予防できる可能性があるという仮説が提示されているが、基本的な代謝障害に変化をもたらすものではない[Wolff et al 1989]。アスコルビン酸の臨床的有効性を示した信頼できる研究はない[La Du 2001]。
  • 経口ビスフォスフォネート治療によって骨量減少の進行を停止させると言われているが、4人の患者に対する前向き研究では有効性を示すことができなかった[Aliberti et al 2007]。

遺伝クリニックは、患者や家族に自然経過、治療、遺伝形式、患者家族の遺伝的発症リスクに関する情報を提供とするとともに、患者サイドに立った情報も提供する.Gene Test Clinic Directoryを参照のこと.

患者情報 本疾患の支援グループや複数疾患にまたがった支援グループについては「患者情報」を参照のこと.これらの機関は患者やその家族に情報、支援、他の患者との交流の場を提供するために設立された.


遺伝カウンセリング

「遺伝カウンセリングは個人や家族に対して遺伝性疾患の本質,遺伝,健康上の影響などの情報を提供し,彼らが医療上あるいは個人的な決断を下すのを援助するプロセスである.以下の項目では遺伝的なリスク評価や家族の遺伝学的状況を明らかにするための家族歴の評価,遺伝子検査について論じる.この項は個々の当事者が直面しうる個人的あるいは文化的な問題に言及しようと意図するものではないし,遺伝専門家へのコンサルトの代用となるものでもない.」

遺伝形式

アルカプトン尿症は常染色体劣性疾患である.

患者家族のリスク

発端者の両親

  • 受精時、罹患者の同胞が発症する確率は25%、無症状の保因者である確率は50%、発症せず保因者でもない確率は25%である。
  • 発症リスクのある同胞が罹患しなかった場合、その同胞が保因者である確率は2/3となる。
  • ヘテロ接合体(保因者)は無症状である。

発端者の同胞 

  • 受精時、罹患者の同胞が発症する確率は25%、無症状の保因者である確率は50%、発症せず保因者でもない確率は25%である。
  • 発症リスクのある同胞が罹患しなかった場合、その同胞が保因者である確率は2/3となる。
  • ヘテロ接合体(保因者)は無症状である。

発端者の子

アルカプトン尿症患者の子は必ずヘテロ接合体(保因者)であり、アルカプトン尿症を発症させる変異アレルを1つ有する。

発端者のその他の血縁者

発端者の両親の同胞が保因者である確率は50%である。

保因者診断

分子遺伝学的検査. 発症リスクを有する血縁者の保因者診断は、家系内の疾患原因となる変異が同定されていれば、可能である。

生化学検査. 生化学的検査による遺伝子検査は保因者診断の方法としては信頼性がない。

遺伝カウンセリングに関連した問題

早期診断や早期治療目的の発症リスクを有する血縁者への検査に関する情報は、「臨床的マネジメント」、「発症リスクのある血縁者への検査」の項を参照のこと。

家族計画 

  • 遺伝リスクの決定や出生前診断の利用について話し合う最適な時期は妊娠前である.
  • 罹患している若年成人やリスクのある若年成人に対して遺伝カウンセリング(子への潜在的リスクや生殖手段)の提供は適している。

DNAバンキングは,将来的な使用のために,通常は白血球から抽出したDNAを保存しておくことである.検査手法や,遺伝子,変異,疾患への理解は将来改善する可能性があり,患者DNAの保存は考慮されるべきである.ことに現在行っている分子遺伝学的検査の感度が100%ではない疾患に関してはDNAの保存は考慮すべきかもしれない.このサービスを行っている機関についてはDNA bankingの項を参照のこと.

出生前診断

GeneTests Laboratory Directory には、アルカプトン尿症に対する分子遺伝学的な出生前診断を提供している施設は掲載されていない。しかし、疾患原因変異が同定されている家系では出生前診断が可能なことがある。個別の出生前診断を行っている施設に関しては、Image testing.jpgを参照のこと.

何らかの治療法があり、アルカプトン尿症のように、知能障害や生命予後が悪くない疾患に対する出生前診断の希望は多くない。出生前診断については、専門医の間でも家族によっても考え方が異なるだろう.特に、検査が妊娠中絶を考慮したうえで行われる場合にはなおのことである.たいていの医療機関では出生前診断を受けるかどうかの決定は両親の選択に委ねると考えるであろうが、この問題に関しては慎重な議論が必要である.

着床前診断は事前に疾患原因変異が同定されている家系では実施可能である.着床前診断を行っている施設に関してはImage testing.jpgを参照のこと。

注:GeneTests Laboratory Directoryの掲載施設で実施可能な臨床検査を載せることがGeneReviewsの方針である.ここで掲載されている検査は必ずしも著者や編集者や審査者の推奨を反映するものではない.


原文 Alkaptonuria

印刷用

 

grjbar
GRJ top > 遺伝子疾患情報リスト