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筋萎縮性側索硬化症概説
(Amyotrophic Lateral Sclerosis Overview)

Gene Review著者: : Lisa Kinsley, MS, CGC, Teepu Siddique, MD
日本語訳者: 窪田美穂(ボランティア翻訳者),日根野晃代(信州大学医学部附属病院脳神経内科) 
Gene Review 最終更新日: : 2012.5.31. 日本語訳最終更新日: 2012.11.17.

原文 Amyotrophic lateral Sclerosis Overview


要約

疾患の特徴 

筋萎縮性側索硬化症(ALS)は上位運動ニューロンと下位運動ニューロン双方を侵す進行性の神経変性疾患である.上位運動ニューロン症状には,腱反射亢進,伸展性足底反応,筋緊張亢進,筋力低下(weakness in a topographic representation)がある.下位運動ニューロン症状には,脱力,筋萎縮,腱反射減弱,筋痙攣,線維束性収縮がある.病初期の症状は様々であるが,典型的には非対称性にみられる限局的な四肢の筋力低下(つまずき易さや握力低下),もしくは球麻痺症状(構語障害,嚥下障害)を呈する.その他の所見としては線維束性収縮,筋痙攣,情動不安定がみられることがあるが,気分障害に至るとは限らない.初発症状にかかわらず,最終的には他の筋肉にも萎縮と筋力低下が及ぶ.平均発症年齢は,家族歴がない場合が56歳,家系に患者がいる場合(家族性ALS)が46歳である.平均罹病期間は約3年であるが,顕著なばらつきがある.通常,呼吸筋が侵されて死亡に至る.

診断・検査 

ALSの診断は臨床所見,電気生理学的検査,類似症状を呈する他の病態の除外から行われる.幾つかのALS関連遺伝子に対する分子遺伝学的検査が臨床的に実施されており,遺伝的サブタイプの診断や遺伝カウンセリングで重要な役割を担っている.

臨床的マネジメント 

症状の治療:緩和的治療である.ALS患者は神経内科医,専門看護師,呼吸器科医,言語療法士,理学療法士,作業療法士,呼吸療法士,栄養士,臨床心理士,ソーシャルワーカー,遺伝専門医で構成される医療チームのケアを受けるとよい.リルゾールは現在FDAが承認している唯一のALS治療薬である.球麻痺症状を伴う患者の唾液分泌は三環系抗うつ薬や他の抗コリン薬により軽減できる.仮性球麻痺症状には抗うつ薬が用いられる.嚥下困難は液体にとろみをつけたり固形物を裏ごししたりすることや,最終的手段としてカロリー摂取と水分補給の維持のため,胃瘻チューブの設置で対処する.バクロフェン,ベンゾジアゼピンといった薬剤は,痙性や筋痙攣を緩和させる.アルファベット・ボードやコンピュータ支援機器はコミュニケーションの助けとなる.その他,歩行器,車椅子,浴室改装,病院用ベッド,昇降装置(ホイヤー・リフト)のような支援機器も日常生活行動に役立つ.呼吸の補助にはBIPAP(非侵襲的陽圧呼吸)または侵襲的人工呼吸器の選択肢がある.末期にはホスピスでの介護を受けるのがよい.

遺伝カウンセリング 

筋萎縮性側索硬化症は常染色体優性,常染色体劣性,X連鎖性の遺伝形式をとる.遺伝カウンセリングやリスク評価は正確な遺伝学的診断に基づいて行う.


定義

筋萎縮性側索硬化症(ALS)の臨床症状

筋萎縮性側索硬化症(ALS)は上位運動ニューロンと下位運動ニューロン双方を侵す進行性の神経変性疾患である.前頭葉の運動野に存在する上位運動ニューロンは皮質からの下行性経路を通じて脳幹(皮質延髄路),さらに脊髄(皮質脊髄路)へと軸索を伸ばし,様々な下位運動ニューロンの動きに影響を与える.上位運動ニューロンは脳幹からの下行路を通じても下位運動ニューロンに影響を及ぼす.ALSの上位運動ニューロン症状には,腱反射亢進,伸展性足底反応,筋緊張亢進がある.脳幹および脊髄に存在する下位運動ニューロンは,横紋筋を支配する.ALSの下位運動ニューロン症状には筋力低下,筋萎縮,腱反射減弱,筋痙攣,線維束性収縮がある.

疾患の特徴.初期の症状はさまざまである.患者のほとんどが四肢の左右非対称性の限局的な筋力低下(つまづき易さや握力低下)や球麻痺症状(構音障害,嚥下障害)を訴えることが多い.その他の所見には線維束性収縮,筋痙攣,情緒不安定がある.情緒不安定は気分障害には至らない場合が多い.他の疾患で一般的に見られないALSの特徴的な診断所見は,筋萎縮を認める部位での腱反射亢進で,感覚障害は伴わない.

四肢の症状は球麻痺症状よりも高頻度にみられる.家族性ALSでは下肢からの発症が最も多い[Mulder et al 1986, Siddique 1991].ALSには様々なサブタイプが存在する.

  • 発話障害と嚥下障害を伴う「進行性球麻痺型」
  • 四肢型ALS
  • 下位運動ニューロンのみが侵される進行性筋萎縮型
  • 上位運動ニューロン障害優勢型

初発症状にかかわらず,最終的に筋萎縮と筋力低下は全身に広がる.

眼球運動ニューロンは一般にALSでは障害されないが,とりわけ人工呼吸器による長期生存例などで疾患の経過が長期に及ぶと侵されることがある.いったんコミュニケーションや表情を司る筋肉が全て麻痺してしまうと,患者は「ロックトイン症候群(閉じ込め症候群)」の状態となる.眼球運動だけが侵されない場合もあり,こうした際は特別な装置を用いればコミュニケーションが可能となる.

通常,呼吸筋が侵されて死亡に至る.

前頭葉・側頭葉の病変

前頭側頭型認知症(FTD)は人格や社会的行動に深刻な変化をもたらすものであり,決断力と洞察力の欠如,社会的脱抑制,注意散漫を特徴とするが,記銘力は保たれる[Neary et al 1998].注意力,抽象化作業,計画性,問題解決能力における認知機能障害が生じるが,感覚機能や空間認知機能は保たれることが共通した特徴である.進行性失語症を伴う患者では,特に言語機能が障害されることがある.

家族歴の有無にかかわらず,ALS患者の約5%にNearyらの診断基準を満たすFTDを認める[Neary et al 1998].優性遺伝のALS/FTD家系では,FTDもしくはALSのいずれか,あるいは両方を発症する場合がある[Hosler et al 2000].

30〜50%のALS患者にはNearyの認知症基準を満たさない遂行機能障害を認める[Portet et al 2000,Lomen-Hoerth et al 2003].FTD患者と比較すると,ALS患者の遂行機能障害は軽微であることが多く,通常の精神機能検査では見過ごされることがある.詳細な精神心理学的検査により,感情移入や楽観視といった社会的に好ましい特徴に隠されてしまいがちな軽微な変化を発見することができる.このような社会的に好ましい精神的特徴はALSの専門家にはよく知られていて,介護者とALS患者との間に深い絆を作る.また社会的つながりが維持され,患者の「積極的」な態度が評価されるため,ALS患者は一般に家族に慕われている.

前頭側頭型認知症を伴わないALS患者において,言語的・非言語的な流暢さの欠如や,概念構築の困難などの遂行機能障害を認める場合があるが,こうした症状が現れるのが疾患経過のごく初期であることがある.遂行機能障害は球麻痺症状で発症した患者により多くみられる[Schreiber et al 2005].

また,認知機能障害を臨床的に認めないALS患者の前頭葉や側頭葉に白質の構造異常が認められることがある[Abrahams et al 2005].

これに対して,Lomen-Hoerth et al [2002]の報告によれば,ALSやFTDの家族歴がないFTD患者36人に対する臨床検査では,確実にALSである者が6名,ALSが疑われる症状を呈する者が12人いた.

疾患経過

孤発性ALSは,ALSの家族歴がないALSであり,血縁者に少なくとも1人ALS患者がいる家族性ALSとは区別されるが,両者の臨床像は類似している.しかし,孤発性ALSの平均発症年齢が56歳[Testa et al 2004]であるのに対し,家族性ALSの平均発症年齢は約46歳である[Juneja et al 1997].一般に,性別にかかわらず,発症年齢が55歳未満の場合,生存期間が長くなっている[Magnus et al 2002].80歳以降でALSと診断された患者は,80歳以下で診断された患者と比べると生存期間1.7年短い[Forbes et al 2004].球麻痺症状で発症したALSでは,呼吸機能の低下が他のタイプよりも急速であるが,全般的な筋力低下はより緩徐である[Magnus et al 2002].家族性ALSでは孤発性ALSと比べて進行が著しく短かったり長かったりすることがあり,特異的な遺伝子変異との相関がうかがえる[Cudkowicz et al 1997, Juneja et al 1997].

その他

孤発性ALSは女性より男性が罹患しやすく,性差は1.3:1である.

家族性ALSの浸透率は年齢と変異によって異なる.SOD1遺伝子の病原性変異を持つ場合,50%が46歳までに,90%が70歳までに症状が現れる[Siddique 1991].しかし,この割合は浸透率が高い家系に偏った確認バイアスによる過大評価の可能性もある.

多くみられる2種類の遺伝子変異のひとつであるFUSの変異を有する場合,51歳までに症状が現れる患者は全体の50〜70%であり,71歳までに症状が現れる患者は全体の90%以上である[Blair et al 2010].

表現促進現象はないと考えられており,家系ごとに,また家系内でも発症年齢や疾患の進行速度にばらつきがあるのが普通である[Appelbaum et al 1992].


ALSの確定診断

ALSの診断には特徴的な臨床症状と電気生理学的検査所見に加え,類似症状を呈する他疾患の除外が必要である(「ALSの鑑別診断」の項を参照のこと).

臨床的特徴.エスコリアル診断基準[Brooks et al 2000]は研究目的でALSの診断を標準化するために開発された.全ての臨床医がこのような厳格な基準を用いているわけではないが,この診断基準は日常臨床の場で多く使われ始めている.エスコリアル診断基準は以下の通りである.

  • 以下の症状が全て認められること:
    • 臨床的診察,電気生理学的検査,もしくは神経病理学的検査での下位運動ニューロン変性所見
    • 臨床的診察での上位運動ニューロン変性所見
    • ある部位での症状や徴候の進行性の拡大,もしくは他の部位への進行性拡大を示す病歴もしくは検査所見
  • 上記3項目とともに,以下の症状がひとつもないこと:
    • 下位運動ニューロンや上位運動ニューロンの変性の所見が他の疾患で説明される可能性がある電気生理学的検査所見または病理学的検査所見である場合
    • 観察された臨床徴候や電気生理学的徴候の原因が他の疾患過程である可能性を示す神経画像所見である場合

中枢神経系の4領域(すなわち,脳幹,頚髄,胸髄,腰仙髄)の上位運動ニューロンや下位運動ニューロン症状の臨床症状の存在は,慎重な病歴聴取,一般診察,神経学的診察によって確認される.

病理学的診断によらないALSの臨床診断は,エスコリアル診断基準に基づいて実施される臨床検査評価によってさまざまな確実性の程度に分類される[Brooks et al 2000]:

  • 臨床的に確実なALS (Clinically definite ALS).上位運動ニューロンおよび下位運動ニューロン症状を3つの領域に認める場合.
  • 臨床検査の裏付けがある臨床的に確実な家族性ALS (Clinically definite familial, laboratory-supported ALS)ALSの原因遺伝子に病原性変異を有する患者において,少なくとも1つの領域に進行性の上位運動ニューロン症状または下位運動ニューロン症状を認める場合(神経学的異常を説明しうる他の原因がないことが条件).
  • 臨床的に可能性の高いALS (Clinically probable ALS).上位運動ニューロン症状および下位運動ニューロン症状を少なくとも2つの領域に認める場合.上位運動ニューロン症状の幾つかが,必ず下位運動ニューロン症状を呈する領域の頭側でなければならない.
  • 臨床検査の裏付けがある臨床的に可能性の高いALS (Clinically probable, laboratory-supported ALS)2つ以上の上肢または下肢に下位運動ニューロン障害を示す筋電図所見があり,かつ上位運動ニューロン症状および下位運動ニューロン症状をが1つの領域のみに認めるか,1つの領域で上位運動ニューロン症状のみを認める場合.
  • 臨床的に可能性のあるALS (Clinically possible ALS).1つの領域のみに上位運動ニューロン症状と下位運動ニューロン症状を認めるか,上位運動ニューロン症状のみを2つ以上の領域に認めるか,下位運動ニューロン症状を上位運動ニューロン症状よりも頭側で認める場合.
  • 臨床的に疑われるALS (Clinically suspected ALS)下位運動ニューロン症状のみ.

電気診断検査.筋電図(EMG)により臨床的罹患部位や臨床的未罹患部位の下位運動ニューロン障害所見を電気生理学的に確認することができる.

病理学的検査.ALSの確定診断は脳幹と脊髄の病理所見に基づいてなされる.病理学的変化は以下の通りである:

  • 脊髄前角,第7,第10,第11,第12脳神経の運動核における運動ニューロンの変性や脱落.これらの所見は第12脳神経(舌下神経)において最も高頻度である.
  • 外側皮質脊髄路や前皮質脊髄路におけるミエリンの染色性低下を伴う軸索の脱落.皮質延髄路や皮質脊髄路の変性は内包や中脳大脳脚で検出される.

なかには脊髄後索感覚路の中央部に軽度の変性を呈す患者もいるが,生存中に感覚消失が現れないのが通常である.

大脳皮質運動野におけるベッツ細胞の脱落が報告されているが,ベッツ細胞自体が少ないために見逃されがちである.

組織学的所見としては,運動ニューロンの細胞質に出現するレビー小体様封入体やブニナ小体が挙げられる.スケイン様封入体と呼ばれるユビキチン化された封入体は,ほぼ全てに存在する. SOD1遺伝子の変異を持たないALSでは,ユビキチン陽性,タウ陰性,αシヌクレイン陰性の細胞質封入体の存在が特徴的である[Arai et al 2006].


ALSの鑑別診断

ALSの確定診断の際に鑑別すべき他の遺伝性および後天性疾患について,以下に論じる[Traynor et al 2000].

鑑別を要する遺伝性疾患は以下の通りである:

  • 球脊髄性筋萎縮症(SBMA,ケネディー病)は,典型的には男性にのみ発症するX連鎖性疾患であり,近位筋の筋力低下,筋萎縮,線維束性収縮が特徴である.罹患男性はアンドロゲン不応症のため,女性化乳房,睾丸萎縮,妊性低下が起こる.SBMAは,上位運動ニューロン症状がないこと,緩徐な経過,女性化乳房および感覚障害の存在により,非家族性ALSと臨床的に鑑別可能である.アンドロゲン受容体(AR)遺伝子の遺伝学的検査が診断に用いられる.
  • 脊髄性筋萎縮症(SMA)は,脊髄前角細胞および脳幹神経核の細胞の進行性変性と脱落を特徴とする常染色体劣性疾患であり,遠位筋よりも近位筋の筋力低下と萎縮が左右対称的に起こる(下位運動ニューロン障害のみ).筋力低下の発症は,出生前の場合もあれば成人期のこともある.脊髄筋萎縮患者への分子遺伝学的検査により,大多数の患者でSMN遺伝子の変異が同定される.
  • ALS8(別名SMA4型,フィンケル型SMA)は,上位運動ニューロン障害が軽度に認められる成人発症型下位運動ニューロン病患者でSMN遺伝子検査が陰性の場合に考慮される.ALS8型はVAPB遺伝子の変異により発症し,常染色体優性の遺伝形式をとる[Nishimura et al 2004].
  • DCTN1遺伝子の変異によって生じる遠位型の遺伝性の運動ニューロン障害VIIBは,早期成人発症の緩徐進行性の常染色体優性遺伝の下位運動ニューロン疾患で,声帯病変を伴うが,感覚は保たれる[Puls et al 2003].
  • 原発性側索硬化症(PLS)と診断されるのは,合併症がなく,緩徐進行性の上位運動ニューロン疾患を有する患者において,痙縮を引き起こす他の原因が否定された場合である.PLSを1つの疾患としてとらえるか,ALSのサブタイプとするのかに関しては議論が分かれている.上位運動ニューロン障害が優勢のALSでは,下位運動ニューロン障害はほとんどなく,みられる場合でも疾患後期に現れる.成人発症型のPLSは孤発性疾患であるが,少なくとも一部の若年発症型のPLSは常染色体劣性遺伝である.若年発症型のPLSは乳児期に進行性上行性麻痺として気づかれる場合がある[Strong & Gordon 2005].少なくとも1つの遺伝子(ALS2遺伝子)における変異がALSとPLS双方に関連している(表2を参照のこと).
  • 遺伝性痙性対麻痺(HSP)の特徴は,潜行性に進行する下肢の筋力低下と痙縮である.神経障害が下肢の進行性の筋力低下と痙縮,緊張性膀胱,下肢振動覚の軽度障害(位置覚障害を伴うこともある)に限定されている場合,「純粋型」(uncomplicated)HSPに分類される.他器官の症状や,痙攣発作,認知症,筋萎縮,錐体外路症状,末梢性ニューロパチーなどの神経障害を伴う場合,「複合型」(complicated)HSPに分類される.非症候群型HSPや純粋型HSPでは生存期間は短縮しない.HSPは遺伝的に多様であり,遺伝形式は常染色体優性,常染色体劣性,もしくはX連鎖性である.
  • ヘキソサミニダーゼA欠乏症はヘキソサミニダーゼAの欠損によりスフィンゴ糖脂質の1つであるGM2ガングリオシドがリソソームに蓄積し発症する神経変性疾患である.ヘキソサミニダーゼA欠乏症には若年型,慢性型,成人発症型といったサブタイプがあるが,全て緩徐進行性であり,進行性ジストニア,脊髄小脳変性,運動ニューロン疾患などの様々な神経症状を呈する.成人発症型では双極性の精神障害が認められることもある.
  • 成人ポリグルコサン小体病は40歳以降に発症する上位運動ニューロン機能と下位運動ニューロン機能が侵される緩徐進行性疾患であり,四肢遠位部の感覚喪失,早期の神経因性膀胱,小脳機能障害,認知障害を伴う[Tonin et al 1992,McDonald et al 1993].成人ポリグルコサン小体病は常染色体劣性疾患であり,グリコーゲン分枝酵素をコードするGBE1遺伝子の変異により発症する.
  • BSCL2遺伝子関連神経疾患.BSCL2遺伝子関連神経疾患に該当するものは,シルバー症候群,シャルコー・マリー・トゥース病2型,遠位型遺伝性運動性ニューロパチーV型,痙性対麻痺17型(SPG17)である.これらの疾患の特徴は,緩徐進行性,上位運動ニューロン障害(すなわち,下肢の反射亢進や様々な程度の伸展性足底反応を伴う軽度から重度の痙縮といった錐体路症状による歩行障害),下位運動ニューロン障害(すなわち,腓骨筋や手の小筋の筋萎縮),振動感の異常,凹足などの足奇形である.発症は10歳前から60歳代と幅広い.
  • 骨パジェット病と前側頭葉型痴呆を伴う遺伝性封入体筋炎(IBMPFD).骨パジェット病と前側頭葉型痴呆を伴う遺伝性封入体筋炎(IBMPFD)の特徴は,成人発症性の近位筋や遠位筋の筋力低下,早期発症性の骨パジェット病,若年性前頭側頭型認知症である.IBMPFDは移行型小胞体ATPアーゼをコードするVCP遺伝子の変異により起こる.移行型小胞体ATPアーゼは細胞周期の制御,膜融合,ユビキチン-プロテアソーム分解経路といった細胞活性に関連している.

後天性疾患.ALSと鑑別すべき後天性疾患には頚椎疾患,脳幹や脊髄の腫瘍,甲状腺疾患,鉛中毒,ビタミンB12欠乏症,多発性硬化症,潜在癌による腫瘍随伴症候群,運動ニューロパチー,重症筋無力症,筋無力症候群,封入体筋炎がある.

頚部脊柱管狭窄を伴う頚椎症は,下肢の上位運動ニューロン症状と上肢の下位運動ニューロン症状を引き起こすので,十分な鑑別を行う必要がある.頚椎症は発症頻度の高い疾患であるため,ALS患者にも合併していることが多い.臨床症状の確認や下位運動ニューロン障害の程度の評価の目的で,筋電図(EMG)や神経伝導速度(NCV)の測定が実施される.

類似症状を呈する他の状態の評価の目的で以下が実施される:

  • 脳や脊髄の神経画像診断
  • 血算(CBC);ビタミンB12,鉛,甲状腺刺激ホルモン(TSH),抗GM1ガングリオシド自己抗体(自己免疫性の運動ニューロパチーで上昇することがある)などの血液検査.
  • 感染や多発性硬化症を除外するための脳脊髄液(CSF)検査
  • 潜在癌に伴う腫瘍随伴症候群に関連する血清中の神経自己抗体の測定
  • 必要な場合には,筋肉や神経の生検
  • 重金属への曝露が疑われる場合には重金属に関する検査

臨床医への注:本疾患に関連して行われる患者に応じた「医療相談(simultaneous consult)」には,親の所見に基づいた鑑別診断を提供する双方向性診断支援ソフト(要登録,アクセス制限あり)を参考にしてもよいだろう.

  • ALS1
  • ALS2
  • ALS4
  • X連鎖性ALS
  • 孤発性ALS

ALSの頻度

ALSの新規診断患者数は,1年間に10万人あたり1〜3人である.

ALS患者の頻度は約10万人あたり4〜8人[Traynor et al 1999]であり,年間の新規患者数とほぼ同じである.これは一般に患者の生存期間がALSの確定診断後2〜5年にすぎないからである.

孤発性ALSが診断される平均年齢は56歳である.80歳以上の標準化罹患率は,男性が10万人中10.2人,女性が10万人中6.1人である[Forbes et al 2004].

世界的に見たALSの民族分布は,南太平洋地方(グアム)を除き,同じである.グアムでは「ALS/パーキンソン症候群/認知症複合」の発症率が高い[Plato et al 2002, Waring et al 2004].最近の研究ではアフリカ人での発症率が低くなっているが,この点については一般住民を母集団とした前向き研究で確認する必要がある.

病因

ALSの環境性(後天性)要因

ここ数年で,身体的要因や食事面での原因に加えて,水銀,マンガン,農作業製品(化学肥料,殺虫剤,除草剤)などへの曝露が,ALSの発症に関与していると考えられるようになった[Wicklund 2005].

湾岸戦争の退役軍人でALSの発症頻度が高まっている理由として環境的曝露が挙げられている[Haley 2003,Horner et al 2003].この研究は現在も継続されており,退役軍人のALS患者登録制度が設けられている[Kasarkis et al 2004].ALSと診断された退役軍人は,退役軍人管理局の健康障害給付の受給資格が得られる.

遺伝的要因

ALS患者の推定10%にはALSの血縁者が少なくとも1人存在しており,家族性ALSと診断される.

家族性ALSは遺伝形式ごとに分類され,さらに特異的遺伝子や染色体座ごとのサブタイプに分類される.

常染色体優性ALS(表1参照)

表1.常染色体優性ALSの分子遺伝学

家族性ALS患者の割合(%)

遺伝子座
(遺伝子記号1

疾患名

蛋白質

分子遺伝学的検査の実施

20%

ALS1 (SOD1)

家族性ALS

スーパーオキサイドジスムターゼ(Cu-Zn)

臨床
説明: Image testing.jpg

ALS3 (18q21)

家族性ALS

 

研究のみ

ALS42(SETX)

錐体路症状を伴う運動ニューロパチー

ヘリカーゼセナタキシンである可能性が高い

臨床
説明: Image testing.jpg

~4%

ALS6 (FUS/TLS)

家族性ALS

RNA結合蛋白FUS

臨床
説明: Image testing.jpg

ALS7 (20p13)

家族性ALS

 

研究のみ

ALS82(VAPB)

フィンケル型脊髄性筋萎縮症(SMA)またはSMA4型

Vesicle-associated membrane protein-associated protein B/C

臨床
説明: Image testing.jpg

3

ALS9 (ANG)

家族性ALS

アンジオゲニン

臨床
説明: Image testing.jpg

1〜4%

ALS10 (TARDBP)

TAR DNA結合蛋白(TARDBP)関連筋萎縮性側索硬化症

TAR DNA-binding protein 43

臨床
説明: Image testing.jpg

ALS11 (FIG4)

家族性ALS

ポリホスホイノシチド・ホスファターゼ

臨床
説明: Image testing.jpg

23〜30%

ALS/FTD2(C9orf72)

C9FTD/ALS

未同定蛋白C9orf72

臨床
説明: Image testing.jpg

ALS/FTD2(17q)

 

不明

研究のみ

不明

ALS14 (VCP)

家族性ALS

不明 移行型小胞体ATPアーゼ

臨床
説明: Image testing.jpg

筋萎縮性側索硬化症多重遺伝子パネル4

臨床
説明: Image testing.jpg

検査の実施とは,GeneTests Laboratory Directory掲載施設での実施状況である.GeneReviewsは,分子遺伝学的検査について,その検査が米国CLIAの承認を受けた研究機関もしくは米国以外の臨床研究機関によってGeneTests Laboratory Directoryに掲載されている場合に限り,臨床的に実施可能としている.GeneTestsは研究機関から提出された情報の検証や,研究機関の承認状態もしくは実施結果の保証を行わない.情報を検証するためには,医師は直接それぞれの研究機関と連絡をとらなければならない.

  1. 遺伝子が不明な場合にのみ,染色体座を掲載
  2. 上位運動ニューロン症状と下位運動ニューロン症状双方を伴うALS関連運動ニューロン疾患
  3. 特定の民族集団にのみ該当すると考えられる
  4. 多遺伝子パネルに含まれる遺伝子と使用方法は,検査機関ごとに異なる.

ALS1型. SOD1遺伝子の変異が原因であるのは全家族性ALS症例の約20%,孤発性ALSの約3%にすぎない[Shaw et al 1998, Battistini et al 2005].孤発例(すなわちALSの家族歴を持たない患者)にSOD1遺伝子の変異を認める場合,大多数が不完全浸透もしくは家族歴の聴取が不十分であると考えられるが,p.His80Arg変異を持つ1家系で新生突然変異が報告されている[Alexander et al 2002][ALS Online Database].

ALS1型の発症年齢は遺伝子型とほとんど相関せず,同一家族内でも幅広いばらつきが認められる[Cudkowicz et al 1997, Juneja et al 1997].特定の変異が若年発症と関連しているとの報告があるが,症例数が少なく一般化できない.以下にこうした症例を挙げる:

  • Orrell et al [1997]の報告によれば,p.Ile113Thr変異を持つ患者の罹病期間は2.5年から20年,p.Gly93Arg変異では2年から12年である.
  • SOD1変異が同定された北米家系の約50%に存在するp.Ala4Val変異は,平均罹病期間が1年という急速な疾患経過と一貫した相関がみられる[Juneja et al 1997].
  • 一方,p.Gly37Arg変異,p.Gly41Asp変異,p.His46Arg変異,p.Glu100Lys変異を有する患者では,平均罹病期間が17年以上と非常に長い臨床経過をとる [Cudkowicz et al 1997; Juneja et al 1997; Siddique & Brooks未発表のデータ].

臨床症状がSOD1遺伝子の変異と相関する場合もある.p.Ala4Val 変異やp.Val148変異を有する患者では上位運動ニューロン症状をほとんどないことが多く,これに基づきエスコリアル診断基準では, SOD1変異を持つ患者のALSの確定診断には下位運動ニューロン所見が認められれば十分であるとされている[Cudkowicz et al 1998].

p.Ile113Thr変異やp.Asp90Ala変異では浸透率の低下が報告されている[Khoris et al 2000].

このほかp.Asp90Ala変異に関しては以下が言える:

  • p.Asp90Ala変異を持つ患者は運動失調を伴うことがあるため,初期診断に戸惑うことがある.
  • p.Asp90Ala変異には民族的分布と遺伝形式に偏りがある.p.Asp90Ala変異を持つスウェーデン北部とフィンランド出身者では,ヘテロ接合体はALSを発症しないがホモ接合体は発症する[Sjalander et al 1995].他の民族ではヘテロ接合体の罹患者が同定されているが,経過は緩徐進行性であることが多い[Al-Chalabi et al 1998].
  • 下肢からの発症,緩徐な疾患経過,発症年齢が30〜45歳という特徴的な表現型の常染色体劣性ALSを有すると推定される1家系がある.この家系では,p.Asp90Ala変異と p.Asp96Asn変異の複合ヘテロ接合体は発症するが,1つの変異のみを有するヘテロ接合体は発症しない[Hand et al 2001].
  • p.Asp90Ala変異を有する常染色体劣性遺伝形式のALSは,イタリア家系の3人[Conforti et al 2008],ロシア家系の1人[Skvortsova et al 2001]にも認められている.

SOD1遺伝子のcDNA(相補DNA)とタンパク質の配列データベースはNM_000454.4とNP_000445.1を参照. SOD1遺伝子に関しては,翻訳された蛋白質の番号が開始コドンのメチオニンから始まっておらず,その次のコドンのアラニンを1番としている.GeneReviewでは,この方法でアミノ酸番号を記載している.

ALS3型.1つの大家系で,大部分の患者が下肢症状から発症する典型的ALSを認めた.発症年齢は45歳,罹病期間は5年であった.疼痛,認知症,感覚喪失,小脳変性といった非定型的な症状はみられなかった[Hand et al 2002].

ALS4型(球麻痺症状を伴わない優性遺伝の若年発症型運動ニューロン疾患)ALS4型は緩徐進行性の遠位筋の筋力低下と筋萎縮を呈し,上位運動ニューロン症状を伴うが,感覚障害や球麻痺症状は伴わない[Rabin et al 1999].さらに,De Jonghe et al [2002]によりベルギー系,オーストリア系,英国系の3家系が追加報告されており,これらの家系の発症は青年期である.罹病期間は長期にわたることがあり,天寿をまっとうする者もいる.ALS4型はセナタキシンをコードするSETX遺伝子の変異が原因である.セナタキシンはDNAとRNAのヘリカーゼドメインを構成しており,RNAプロセシングに関わっていると考えられる[Chen et al 2004]. SETX遺伝子の変異は眼球運動失行を伴う失調症2型(AOA2)の原因遺伝子でもある.

ALS6型FUS(別名TLS)遺伝子の変異はSOD1遺伝子の変異のない家族性ALS症例の約4%で最近同定された変異であるが,正確な頻度を確かめるためには大規模な家族性ALSコホートにおけるスクリーニングが必要である.Kwiatkowski et al [2009]は,p.His517Gln(c.1551C>G)ミスセンス変異のホモ接合体をもつ患者4名を,カーボベルデ共和国の1家系で同定した.この家系の患者は上肢近位筋の筋力低下で発症し,症状が次第に下肢に拡大したが,球麻痺症状は生じなかった.発端者の母系祖父母はいとこ同士であった.その後のFUS遺伝子のスクリーニングにより,13個のFUS/TLS遺伝子の変異が17の家族性ALS家系で見つかったが,孤発性ALS患者293人ではFUS/TLS遺伝子の変異はなかった.最も頻度の高い変異はp.Arg521Cysとp.Arg521Glyでそれぞれ3家系で同定された.

p.Arg521Gly変異をもつ患者の病理学的検索では,びまん性のユビキチン陽性構造物が認められており,これらは変異蛋白の細胞質内残留や凝集であると考えられる.FUS/TLS遺伝子はDNAとRNAの代謝に関与する核蛋白質をコードしており,腫瘍化に関与していると考えられている[Kwiatkowski et al 2009].

これとは別に,Vance et al [2009]は16番染色体との連鎖が認められた英国ALS家系の6人でp.Arg521Cys変異を同定した.この変異は家族性ALSの発端症例197人からなるコホートでも4人に同定された.更に,8家系で2つの全く新しいミスセンス変異が同定された.

Kwiatkowski et al [2009]の報告と同様,FUS/TLS遺伝子の変異をもつ患者3人の神経病理学的検討では,下位運動ニューロン疾患で一般に認められる所見に加えて,抗FUS抗体で染色される細胞質内封入体が認められた.ALS6型患者20人の臨床情報から以下の点が明らかになった.すなわち,ALS6型の発症に性差はなく,平均発症年齢は44.5歳,発症は頚髄(上肢の症状)からが10人,腰髄(下肢の症状)からが5人,延髄(球麻痺症状)からが3人であった.認知機能障害を呈した患者はいなかった.

FUS遺伝子に関する配列データベースはNM_004960.2 とNP_004951.1を参照.

ALS7型親の1人が絶対的ヘテロ接合体である同胞15人のうち2人が罹患している家系で連鎖が確認され,不完全浸透の可能性が考えられている[Sapp et al 2003].臨床症状についての報告はない.

ALS8型脊髄性筋萎縮症(SMA)4型もしくはフィンケル型SMAとして知られるALS8型の特徴は,主として下位運動ニューロン症状であるが,上位運動ニューロン症状を認める家系もある.ALS8型はVAPB 遺伝子の変異が原因で,この遺伝子は小胞体-ゴルジ間での輸送および分泌の際に作用する蛋白をコードしている[Nishimura et al 2004].この遺伝子のp.Pro56Ser変異が1つの大家系と別の6家系で同定されているが,家系ごとに疾患経過が異なる(ALS8型,遅発性SMA,急速進行性のALS).ハプロタイプ解析からp.Pro56Ser変異は,ポルトガル系ブラジル人とアフリカ系ブラジル人患者における創始者変異であることが判明した.これはブラジルがポルトガルの植民地であったという歴史的な事実に一致する[Nishimura et al 2004].

VAPB遺伝子に関する配列データベースは,NM_004738.3とNP_004729.1を参照.

ALS9型.ALS9型はフランス,イタリア,北米,北欧の孤発症例および家族性ALS患者の少数で報告されている[Greenway et al 2006,Wu et al 2007,Gellera et al 2008,Paubel et al 2008].患者は典型的なALS症状を呈すると報告されたが,ANG遺伝子の変異を有する患者の欧州でのコホート研究では,球麻痺症状で発症した患者の割合は予想よりも多かった(60%).

  • 配列データベースNP_001136.1に記載されているp.Arg145His変異(成熟蛋白質の場合はArg121His[R121H]変異)は,フランス人患者1人における急速な疾患経過との相関していた.
  • 配列データベースNP_001136.1に記載されているp.Lys41Ile変異(成熟蛋白質の場合はLys17Ile[K17I]変異)は,健常人にも認められる多型であるが(下述),オランダの家族性ALSの大家系でも同定されている.この家系の病像は,下肢発症で下位運動ニューロン症状が主体であり,疾患の進行は急速進行性〜平均的である.1人の患者はALS発症の5年前にパーキンソン病を発症しており,前頭側頭型認知症(FTD)が疑われる症状を呈していた.

ANG遺伝子の変異によるALSの発症機構はまだ解明されておらず,p.Ile70Val変異(成熟蛋白質の場合はIle46Val変異:NP_001136.1)とp.Lys41Ile変異は健常人にもみられる[Greenway et al 2006,Gellera et al 2008]. ANG遺伝子の変異はメンデル遺伝形式でALSの発症と強力に関連しているとはいえないが,ある特定の集団におけるALS発症の危険因子の1つではないかと考えられる.

ANG遺伝子に関する配列データベースは,NM_001145.4とNP_001136.1を参照.

ALS10型(TARDBP関連ALS)ALS10型の臨床表現型は孤発性ALSやSOD1遺伝子の変異を認める家族性ALSと区別できない.家族性ALSにおけるTARDBP変異の頻度は0.6%[Sreedharan et al 2008]から3.8%[Kabashi et al 2008]と報告されており,北欧,オーストラリア,中国の家族性ALS患者と孤発性ALS患者の少数で同定されている.

TARDBP変異をもつ患者の77%が脊髄症状で発症しており,下位運動ニューロン症状が優位な患者は39%であった[Ku¨hnlein et al 2008].TARDBP遺伝子の変異をもつ患者では前頭側頭型認知症や認知障害の報告はない.

TARDBP遺伝子はTDP-43をコードしている.TDP-43は,RNA・DNA結合蛋白であり,遺伝子発現やスプライシングの制御に関与している.興味深いことに,前頭側頭葉変性症(FTLD)と同様に,ユビキチン化されたTDP-43封入体がSOD1遺伝子の変異をもたない家族性ALS患者の剖検で見つかっており[Van Deerlin et al 2008],ALSとFTDの臨床的重複が示唆されている.TDP-43封入体はアルツハイマー病(「アルツハイマー病概説」を参照)や他の神経変性疾患など,多くの疾患で報告されている.

ALS11型(FIG4関連ALS)ALS11型は,「臨床的に可能性の高いALS(probable ALS)」もしくは「臨床的に確実なALS(definite ALS)」と診断されたヨーロッパ系の非血縁者5人で報告された.このうち2人にはALSの家族歴があった[Chow et al 2009].5人全員が成人発症性であり,皮質脊髄路所見を優位に認めた.神経伝導速度検査は正常であった.筋電図検査では多少の脱神経が示された[Chow et al 2009].

患者5人は,FIG4遺伝子のミスセンス変異(1人),スプライス部位変異(2人),もしくは短縮型変異(2人)のヘテロ接合体であった.この5種類の変異は全て,蛋白質の完全な機能喪失,もしくはかなりの喪失を生じさせた[Chow et al 2009].

C9FTD/ALS(C9orf72関連ALS,ALS/FTD2)この症候群の家系の患者では,行動異常が目立つが記銘力は比較的保たれるFTD(前頭側頭型認知症)症候群と運動ニューロン疾患の症状がみられる.随伴するFTDは,始めのうちはアルツハイマー病,軽度認知障害,レビー小体を伴う認知症と診断されることもあろう[Murray et al 2011].

C9orf72の非コード領域のGGGGCCの6塩基反復配列の伸長は,FTD/ALSの1大家系でみられる症状と強い相関がある.延長試験での詳細な解析で,C9orf72反復配列の伸長は家族性FTD(前頭相当型認知症)(11.7%)と家族性ALS(23.5%)の双方で最も多い遺伝子異常であることが判明した[DeJesus-Hernandez et al 2011].反復配列の伸長は,もう一つの別のスプライシングを受けたC9orf72の転写産物を喪失させ,核内RNA巣を形成させることから,多発性の疾患メカニズムがうかがわれる[DeJesus-Hernandez et al 2011].

ある研究では,C9orf72の反復配列の伸長を認める場合,上位運動ニューロン徴候を伴わない進行性筋萎縮症と診断された1人の例外を除いて,全員が古典的ALSであった.このうち3人の患者(18.8%)がALS/FTD型と診断された.反復配列の延長がないALS患者では,前頭側頭型認知症(FTD)もしくは認知症の親族がいる割合が213人中61人(28.6%)であったのに対して,反復配列の延長があるALS患者では16人中11人(68.8%)と報告された[DeJesus-Hernandez et al 2011].剖検の病理診断で罹患者にはTDP-43が見つかった[DeJesus-Hernandez et al 2011].

ALS/FTD1は9q21-q22と連鎖し,ALS/FTD2は9p21.3-p13.2と連鎖しているという遺伝的異質性が存在する.

Wilhelmsen et al [2004]は,αシヌクレインや4R/0Nタウの病理所見を有し,17番染色体長腕に連鎖する,サンフランシスコのALS/FTDの1家系を報告した.臨床像は運動ニューロン疾患が主体で,FTDと多彩な錐体外路症状を認めた.この家系の患者には,FTDやALS発症の数十年前から前頭葉前部の機能障害がみられたと報告されている.この家系の発症者の3人はALSの診断の数年後,50〜60歳代で死亡した.1人は進行性核上性麻痺(PSP)様の症候を80歳代で呈した.家系の罹患者にはタウ蛋白をコードするMAPT遺伝子の変異を認めなかった.

本症候群の特徴的な病理学的所見はタウ封入体とαシヌクレイン封入体である.不溶性のタウ蛋白封入体は主に4R/0Nアイソフォームから成り,脳の罹患部位にほぼ限局して認められる.

ALS14型(VCP関連ALS)常染色体優性のALSを有するイタリアの1家系で,バロシン含有蛋白をコードするVCP遺伝子の変異が報告されている[Johnson et al 2010].全ての罹患者は上位運動ニューロン徴候と下位運動ニューロン徴候を呈し,筋電図検査では脱神経と慢性的な神経再支配が明らかになった.5人の患者は急速進行性の経過をたどった[Johnson et al 2010].これまではVCP遺伝子変異が同定されたのは,骨パジェット病と前側頭葉型痴呆を伴う遺伝性封入体筋炎(IBMPFD)を有する家系であった.

常染色体劣性ALS(表2参照)

表2.常染色体劣性ALSの分子遺伝学

家族性ALS患者における割合(%)

染色体座
(遺伝子記号
1

蛋白質

分子遺伝学的検査の利用

参考文献

ALS2 (ALS2)

アルシン

臨床
説明: Image testing.jpg

Hentati et al [1994]Yang et al [2001]

ALS5 (15q15.1-q21.1)

 

研究のみ

Hentati et al [1998]

ALS12 (OPTN)

オプチニューリン

臨床
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Maruyama et al [2010]

SPG202(SPG20)

スパルティン

臨床
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Patel et al [2002]

筋萎縮性側索硬化症の多重遺伝子パネル3

臨床
説明: Image testing.jpg

 

検査の実施とは,GeneTests Laboratory Directory掲載施設での実施状況である.GeneReviewsは,分子遺伝学的検査について,その検査が米国CLIAの承認を受けた研究機関もしくは米国以外の臨床研究機関によってGeneTests Laboratory Directoryに掲載されている場合に限り,臨床的に実施可能としている.GeneTestsは研究機関から提出された情報の検証や,研究機関の承認状態もしくは実施結果の保証を行わない.情報を検証するためには,医師は直接それぞれの研究機関と連絡をとらなければならない.

  1. 遺伝子が不明な場合にのみ,染色体座を掲載
  2. 上位運動ニューロン症状と下位運動ニューロン症状双方を伴うALS関連運動ニューロン疾患
  3. 多重遺伝子パネルに含まれている遺伝子と検査方法は,検査機関ごとに異なる.

ALS2型.アルシン関連疾患(ALS2遺伝子関連疾患)では錐体路の上位運動ニューロンの逆行性変性が認められる.発症時には乳児型上行性痙性麻痺(IAHSP)の表現型を呈するが,報告例は全て,最終的には原発性側索硬化症(JPLS)と診断されている.その他の家系でも下位運動ニューロン症状が認められてはいるものの,上位運動ニューロン症状が主体のALSの病像を呈する.

ALS2遺伝子関連疾患の特徴は,小児期発症(平均発症年齢6.5歳),顔面筋の痙縮,制御不能の笑い,痙性構語障害,痙性歩行,一様でない中等度の筋萎縮,膀胱機能障害,感覚障害である.12歳から50歳までに寝たきりとなる患者もいる.

ALS2遺伝子は選択的スプライシングにより2つの転写産物(long formとshort form)を発現させる.Long formは若年発症型原発性側索硬化症[PLS],short formは若年発症型ALSの発症に関連している[Yang et al 2001].成人発症型ALSではALS2遺伝子の変異は同定されていない[Hand et al 2003].

ALS5型.チュニジア,南アジア,ドイツのALS5型家系は,発症年齢が8〜18歳であり,上位運動ニューロン症状と下位運動ニューロン症状,舌の線維束性収縮と萎縮を呈し,ときに軽度の知的障害がみられる[Hentati et al 1998].

ALS12型.ALS12型はオプチニューリンをコードしており,10番染色体(10p15-p14)に位置するOPTN遺伝子のホモ変異体,もしくはヘテロ変異体により生じる.遺伝形式は常染色体劣性,もしくは常染色体優性である.ALS12型の患者は日本系であり,同族婚の結果として発症する.発症年齢は20歳代から50歳代である.大多数の患者では進行は緩徐であり,呼吸不全による死亡までの罹病期間長期化していた[Maruyama et al 2010].

オプチニューリンは孤発性ALSと非SOD1家族性ALSの発症機序にも関与していることが示されており,これらのタイプのALSではSOD1関連のALSの経路とは異なる同一の経路があることがうかがわれる[Deng et al 2011b].

このほか,ALS2遺伝子にもOPTN遺伝子にも変異がなく,15番染色体長腕にも連鎖を認めない家系が同定されている.

痙性対麻痺(SPG)20型(トロイアー症候群)の臨床的特徴は,構語障害,遠位筋萎縮,軽度発達遅滞,低身長を伴う痙性不全対麻痺である.ほとんどの患児には初期に発達指標(歩行・言語)の遅れを認め,その後,歩行や言語機能の緩徐な低下が見られる.病的な多幸症や号泣といった情動不安定や感情障害もよく見られる.軽度の小脳症状も一般的に認める.最重症の患者は舞踏アテトーゼを呈する.本症はスパルティンをコードするSPG20遺伝子の変異により発症する.スパルティンはエンドソーム輸送に関与していると考えられている.

X連鎖性ALS(表3参照)

表3.X連鎖性ALSの分子遺伝学

家族性ALS患者の割合(%

遺伝子座
(遺伝子記号)

疾患名

蛋白質

分子遺伝学的検査
の利用

ALS15 (UBQLN2)

筋萎縮性側索硬化症15型
(前頭側頭型認知症の有無は問わない)

ユビキリン2

臨床
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筋萎縮性側索硬化症の多重遺伝子パネル1

臨床
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検査の実施とは,GeneTests Laboratory Directory掲載施設での実施状況である.GeneReviewsは,分子遺伝学的検査について,その検査が米国CLIAの承認を受けた研究機関もしくは米国以外の臨床研究機関によってGeneTests Laboratory Directoryに掲載されている場合に限り,臨床的に実施可能としている.GeneTestsは研究機関から提出された情報の検証や,研究機関の承認状態もしくは実施結果の保証を行わない.情報を検証するためには,医師は直接それぞれの研究機関と連絡をとらなければならない.

  1. 多重遺伝子パネルに含まれる遺伝子と使用方法は,検査機関ごとに異なる.

ALS15型ユビキチン様蛋白質であるユビキリン2をコードするUBQLN2遺伝子の変異により,X連鎖性優性ALSとALS/認知症が生じる[Deng et al 2011a].

ユビキリン2の病態は,UBQLN2遺伝子変異の有無を問わず,ALS患者の脊髄とALS/認知症を有する患者の脳で報告された[Deng et al 2011a].

ユビキリン2はユビキチンファミリーに属し,ユビキチン化された蛋白質の分解を制御している.機能解析では,UBQLN2遺伝子の変異により蛋白質の分解障害が生じることが示された[Deng et al 2011a].これらの所見から,蛋白質分解経路の障害から異常な蛋白質が凝集し,神経変性が生じることとユビキリン2の異常との間に関連があることがわかり,治療的介入が探索可能な一般的な発症機序が示されている[Deng et al 2011a].

その他.5つの成人発症型家族性ALSの家系でX染色体との連鎖が確認されおり,この家系では明らかな男性から男性への遺伝は認められていない.臨床的には,古典的な上位運動ニューロン症状と下位運動ニューロン症状が認められ,典型的な患者では上位運動ニューロン症状が下位運動ニューロン症状に先行して出現する.本家系の男性患者は女性患者より発症年齢がかなり低く,20歳以前であることも多い[Hong et al 1998].

孤発性ALS

約90%のALS患者にはALSの家族歴がなく,孤発性ALS(SALS)と呼ばれている.

注:真の孤発性ALSは遺伝性ALSの単独症例(患者に当該疾患の家族歴がない場合)と区別する必要がある.例えば,幾つかのSOD1遺伝子の変異でみられる低い浸透率により,SOD1遺伝子の変異を持つ患者が罹患の判明している家系内唯一の患者である場合(すなわち孤発例)であることもたびたびあり,そのため(誤って)孤発性の症例とみなされるケースである.

近年,孤発性ALSにおけるTARDBP遺伝子変異の関与を指摘する報告があるが,孤発性ALSにおけるANG遺伝子およびTARDBP遺伝子変異の低い浸透率,臨床像の多様性,新規突然変異の発生率を明らかにするためには,更なる研究が必要である.これらの報告では,対象としている患者が孤発例であることを明確に証明できるほどの家族歴が記載されていない.

孤発性ALSの病因は不明であるが,複数の要因が関与していると考えられている.酸化的ストレス,グルタミン酸興奮毒性,ミトコンドリア機能障害,炎症,アポトーシスが絡み合って発症するのではないかと繰り返し提唱されているが[Cleveland & Rothstein 2001],実証されていない:

  • 血管内皮細胞増殖因子(VEGF)をコードする遺伝子の変異もALSの経過を修飾しているのではないかと推測されている[Lambrechts et al 2003].VEGFや関連蛋白はALSにおいて生物学的な役割を担っていると考えられるが,直接的な原因とは考えにくい[Chen et al 2006].
  • APOE遺伝子の変異,とりわけE*2アレルは,ALSの早期発症を抑える働きをしている可能性がある[Li et al 2004].

様々な民族集団で,7番染色体長腕に存在するパラオキソナーゼ(PON)遺伝子クラスターにおける一塩基多型(SNPs)と孤発性ALSとの関連が認められた[Saeed et al 2006].血清パラオキソナーゼは高比重リポ蛋白(HDL)と関連があり,PON遺伝子多型は冠動脈性心疾患のリスクを高める.PON酵素は内在性の過酸化脂質や殺虫剤,神経ガス,スタチン系薬剤といった生体異物の代謝に関わっている.


評価手順

ALSの診断が確定したら,ALSのサブタイプの確定のため,また予後や遺伝カウンセリングを検討する際の参考とするために,以下の手順を用いることができる.当該患者のALSサブタイプの確定には,通常,家族歴の聴取と分子遺伝学的検査の実施が必要となる.

家族歴.神経学的徴候・症状が認められる血縁者が他にいないか注意しつつ,3世代の家族歴を聴取すること.親族の関連する所見の記録は,親族本人への診察もしくは分子遺伝学的検査,神経放射線検査,剖検所見といった診療記録によって得られる.

分子遺伝学的検査.分子遺伝学的検査の際には正式な遺伝カウンセリングを必ず実施すること:

  • 遺伝子特異的検査や遺伝子シークエンス解析
    • SOD1遺伝子に対する検査は,血縁者にALSの罹患者がいる場合に加え,何らかの理由で近親が早期に死亡した場合を含め家族歴が不十分である場合に実施することが適切である.家族性ALS患者の約20%がSOD1遺伝子に病原性変異を有するALS1型である.疾患の重症度と進行度に関してSOD1遺伝子変異をどれほど重要視するかについては,遺伝型と表現型の相関関係が多種多様であるため,同定された変異に依存する.SOD1遺伝子の変異が検出されない場合でも家族性ALSが除外されるわけではない.

      ALSの家族歴を持たないALS患者では最大3%にSOD1遺伝子変異が認められる.浸透率に関するデータが限られている変異が多いため,他の親族に臨床症状が生じるリスクを提示することは困難である.
    • SETX遺伝子検査は錐体路徴候を伴う青年発症型の脊髄性筋萎縮症の家系への実施が適切である.
    • VAPB遺伝子検査は成人発症で脊髄性筋萎縮症の臨床症状が主にみられる場合に実施すべきである.
    • FUS/TLS遺伝子,TARDBP遺伝子,ANG遺伝子の検査は臨床的に実施されており,家族性ALS患者でSOD1遺伝子の変異が認められない患者で考慮されるべきである.
    • ALS2遺伝子検査は小児発症型で上位運動ニューロン症状が主体のALS患者に対する実施が適切である.
    • VCP遺伝子検査は封入体筋炎,パジェット病,前側頭葉型痴呆の症状の有無を問わず,家族性ALSの患者に考慮されるべきである.
    • OPTN遺伝子検査は,常染色体優性もしくは常染色体劣性の家族歴をもつ患者や,一般的なALS関連遺伝子の変異をもたない孤発例患者に対して考慮される.

      もしくは
  • 多重遺伝子検査.OPTN遺伝子以外のALS関連遺伝子を含むALSの多重遺伝子パネルの利用を検討する.

    注:多重遺伝子パネルの使用方法や含まれる遺伝子は様々であるため,ALS患者に対するパネルごとの1種類の,もしくは複数の原因遺伝子変異の検出能力も多様となる.

遺伝カウンセリング

「遺伝カウンセリングは個人や家族に対して遺伝性疾患の本質,遺伝,健康上の影響などの情報を提供し,彼らが医療上あるいは個人的な決断を下すのを援助するプロセスである.以下の項目では遺伝的なリスク評価や家族の遺伝学的状況を明らかにするための家族歴の評価,遺伝子検査について論じる.この項は個々の当事者が直面しうる個人的あるいは文化的な問題に言及しようと意図するものではないし,遺伝専門家へのコンサルトの代用となるものでもない.」

遺伝形式

家族性筋萎縮性側索硬化症は常染色体優性,常染色体劣性,またはX連鎖性の遺伝形式をとる.遺伝形式の確定は家族歴と分子遺伝学的検査に基づいて行う.

患者家族のリスク- 常染色体優性ALS

発端者の両親

  • 常染色体優性ALSと診断される患者の大多数は親の1人が罹患者である.
  • 成人発症型の常染色体優性ALSの発端者は,新生遺伝子変異のために発病した可能性がある.新生突然変異による患者の割合は不明である.
  • 一見, SOD1遺伝子の新生突然変異のようにみえる発端者の両親に対しては, SOD1遺伝子に対する分子遺伝学的検査を実施してもよいが,このような分子遺伝学的検査は発症前診断としての遺伝学的検査とみなすこともできるため,正式な遺伝カウンセリングを行い実施すること.

注: 常染色体優性ALSと診断された患者のほとんどには罹患者である親が1人存在する.しかし,親族が疾患を認識していない,症状発現前に親が死亡した,罹患者の親が遅発性であったり浸透率が低いなどの原因により,一見家族歴を持たないようにみえる場合も考えられる.

発端者の同胞 

  • 同胞のリスクは発端者の両親の遺伝学的状況に基づく.
  • 発端者の親の1人が変異アレルを有する場合,同胞が変異アレルを受け継ぐ確率は50%である.
  • どちらの親も変異アレルを持たない場合,同胞のリスクは低い.これまでに生殖細胞系列のモザイクによる遺伝の報告はないが,可能性はある.

発端者の子

常染色体優性ALS患者の子が変異を受け継ぐ確率は50%である.

その他の発端者の家族

他の親族のリスクは発端者の両親の遺伝学的状況に依存する.親の1人が罹患者である場合,その他の親族にもリスクが存在するであろう.

患者家族のリスク- 常染色体劣性ALS

発端者の両親

  • 患者の両親は必ずヘテロ接合体(絶対保因者)であり,病原性変異を1コピー持つ.
  • ヘテロ接合体は無症状である.

発端者の同胞

  • 同胞が変異遺伝子をホモ接合体で有する確率は25%,無症状の保因者となる確率は50%,罹患もせず保因者にもならない確率は25%である.
  • リスクのある同胞が罹患でないと判明した場合,この同胞が保因者であるリスクは2/3となる.
  • ヘテロ接合体は無症状である.

発端者の子

常染色体劣性ALS患者の子は必ず病原性変異のヘテロ接合体(絶対保因者)である.

その他の発端者の血縁者.

絶対保因者(ヘテロ接合体)の同胞がヘテロ接合体である確率は50%である.

血縁者のリスク−経験上のリスク

データなし.

遺伝カウンセリングに関連した問題

リスクのある無症状の成人への検査

不完全浸透であること,発症年齢の予測が不可能であること,予防的手段がないことから,SOD1遺伝子やVAPB遺伝子の変異に対する発症前診断には賛否両論がある.発症前診断は個々の人によって状況が異なるため,インフォームドコンセントを得る際には,遺伝カウンセラーや臨床心理士とともにカウンセリングを実施することが推奨される.ALSの発症前診断に関するプロトコールが提案されているが[Fanos et al 2004],現在時点では(ハンチントン病の場合のような)確立された検査のプロトコールは存在しない.しかし,検査実施機関では非常に慎重に類似のプロトコールに従っていることが多い.

18歳未満の無症状者に対する検査

治療法がない成人発症の疾患のリスクがある18歳未満の無症状者に対して検査を実施することは不適切だとみなされている.その主たる理由は,検査による実質的な利益が期待できないにもかかわらず子どもの自律の原則を奪う結果になるからである.また,そのような情報が家族関係に悪影響を及ぼす可能性,将来的に遺伝学的な差別を受ける危険性,遺伝学的な情報を知ることにより不安が生じる可能性,などの懸念も存在する.

子どもに対する遺伝学的検査に関する米国遺伝カウンセラー学会の決議文も参照のこと.米国人類遺伝学会と米国臨床遺伝学会は考慮すべき点として,小児期および青年期における遺伝学的検査の倫理的,法的,心理的影響を挙げているので参照のこと.

18歳未満の症状を有する患者にとっては,特異的診断(遺伝学的診断)の確立が有益である場合が多い.

DNAバンキング

DNAバンキングは,将来の使用のために,通常は白血球から調整したDNAを貯蔵しておくことである.検査手法や,遺伝子,変異,疾患への理解は将来改善する可能性があり,患者のDNAを貯蔵しておくことは考慮されるべきである.このサービスを行っている機関についてはDNA bankingの項を参照のこと.

出生前診断

ALSの中の幾つかのタイプに対する出生前診断は,通常胎生週数15〜18週頃に実施される羊水検査や胎生週数10〜12週頃に実施される絨毛生検(CVS)により採取された胎児細胞のDNA分析により技術的に可能である.出生前診断の実施前に,家系内患者の病原性アレルが同定されていることが条件である.

注:胎生期間は最終月経の第1日から換算するか,超音波による計測によって算出される.

病原性変異が同定されている家系において,その遺伝子変異によるALSの分子遺伝学的出生前診断を提供している検査施設がGeneTests Laboratory Directory に掲載されていない場合でも出生前診断が可能であることがある.個別の出生前診断を実施している施設に関しては,TESTINGを参照のこと.

親への(発症前診断を含む)遺伝学的検査の実施に先立って出生前診断を行うことにより,親の遺伝学的状況が明らかになることがある.従って,ALSの出生前診断を考慮する場合には,いかなる場合も遺伝カウンセリングを行うことが勧められる.

ALSのような成人発症の疾患に対する出生前診断の要望は一般的ではない.出生前診断を行うことに対しては,専門医の間でも家族によっても考え方が異なるであろう.特に,検査が早期診断目的ではなく,妊娠中絶を前提に行われる場合にはなおのことである.たいていの医療機関では出生前診断を受けるかどうかの決定は両親の選択に委ねると考えるであろうが,この問題に関しては慎重な議論が必要である.

着床前診断(PGC)

着床前診断は家系内に病原性変異が同定されている場合に実施可能である.着床前診断を行っている施設に関してはTESTINGを参照のこと.

注:GeneTests Laboratory Directoryに掲載されている検査機関で臨床的に検査が行われている場合に限り,臨床的に実施されているとするのがGeneReviewsの方針である.こうした掲載には著者,編集者,査読者の意向は必ずしも反映されていない.


臨床的マネジメント

初回診断後の評価

筋萎縮性側索硬化症(ALS)と診断された患者の疾患の程度を測るためには,以下の評価が推奨されている:

  • 電気生理学的検査 筋電図(EMG)・神経伝導速度(NCV) (四肢のうち三肢)
  • 臨床検査.脳脊髄液検査,筋生検,重金属に関する24時間蓄尿検査,血液検査(血算,網羅的な血液生化学検査,γ-グルタミルトランスペプチダーゼ(GGT),ビタミンB12,葉酸,梅毒検査,抗核抗体/リウマチ因子(ANA8/RF) ,甲状腺機能,クレアチン・キナーゼ(CK),血清タンパク電気泳動(SPEP),尿タンパク電気泳動(UPEP),免疫固定法検査,免疫グロブリン定量,抗GM1抗体,血清ライム病抗体,赤血球沈降速度)
  • 放射線学的検査頭部,頚椎,胸椎,腰椎のMRI
  • 神経学的検査一般理学所見,精神状態,脳神経検査,運動機能検査,感覚機能検査,歩行機能検査,反射など
  • 神経心理学的検査認知機能障害の評価の目的で(可能であれば)神経心理学的検査を行う.
  • 遺伝相談

症状の治療

治療は緩和的であり,神経内科医,専門看護師,呼吸器科医,言語療法士,理学療法士,作業療法士,呼吸療法士,栄養士,臨床心理士,ソーシャルワーカー,遺伝カウンセラーなど複数の専門領域にわたるチームによるケアが多くの患者にとって有益である.

このようなチームのケアを受けた患者の予後が良好となることを示すデータがある[van den Berg et al 2004,Andersen et al 2005].生存期間に影響を与える要因は,年齢,肺活量,疲労,体力,痙縮,世帯収入,抑うつ症状であり[Paillisse et al 2005],医療チームの専門家がこのような要因のほとんどに対応する.

現在のところ,リルゾールがFDAの承認を受けている唯一のALS治療薬である.作用機序はグルタミン酸阻害作用であると考えられている.臨床試験では,一部の患者に疾患の進行をわずかに遅らせる効果が認められたが,全ての患者の進行を遅らせたわけではない[Riviere et al 1998].リルゾール治療により血清アラニンアミノトランスフェラーゼ(ALT)値は10〜15%上昇する.また,まれに骨髄抑制が生じることがある Bensimon & Doble 2004].

球麻痺症状を呈している患者では,三環系抗うつ薬や抗コリン薬の投与により唾液分泌量を減少させ,吸引の頻度を減らすことができる.

仮性球麻痺症状はニューロデックス(デキストロメトルファンやキニジン)などの抗うつ薬で対処できる.

嚥下困難は,液体にとろみをつけたり固形物を裏ごししたりすることや,最終的手段として胃瘻チューブを用いることで対処可能であり,カロリー摂取や水分補給を保つことができる.生存期間の予後因子の一つである栄養管理は臨床の場で注目されている.

バクロフェンやベンゾジアゼピンといった薬剤により痙縮や筋痙攣を緩和できるが,一般的に脱力や傾眠の副作用を伴う.患者に合わせた躯幹や四肢の中等度の運動負荷により,痙縮を軽減できる場合がある[Ashworth et al 2004].

発語支援機器やコミュニケーション支援機器には,アルファベット・ボード等の簡単なものから,コンピュータ支援機器といった高度なものまである.眼球運動制御型のオンスクリーン・キーボードが最近開発されたため,四肢の運動機能が全く残っていない患者でもコミュニケーションが可能となるだろう.

歩行器や車椅子といった支援機器により移動能力が増す.また,介護用に整備された浴室や,病院用ベッド,昇降装置(ホイヤー・リフト)といった設備は家庭での日常生活の活動域を広げる.

BIPAP(二相性気道内陽圧)などによる人工呼吸器は,ALS患者の生活の質を保ちつつ生存期間を延長させるための役割を増してきている.1999年に米国神経学会は,理論的努力性肺活量(FVC)が予測値の50%未満である患者に対し,非侵襲的人工呼吸(NIV)の利用を勧告する規準を発表した[Miller et al 1999].最近の研究では,球麻痺症状の発症以前にNIVが導入された場合,平均生存期間が顕著に延長することが示された[Farrero et al 2005].したがって,呼吸器科医による評価は努力性肺活量が50%以下になる前に実施すべきである.

気管切開や人工呼吸器により生存期間が延長される可能性があるが,このような介入により衰弱する場合も多い[Albert et al 1999].

患者と介護者双方に与えるALSの心理的社会的な影響は甚大なものであり,継続的に対処していく必要がある[Goldstein et al 1998].FVCが30%未満となった場合の一般的対処であるホスピス・ケアは終末期の患者に安息の場を与えている.

経過観察

3カ月ごとに複数の専門医を配したALS専門クリニックで評価を受けるとよい.

  • 筋力低下,筋萎縮,歩行障害,微細運動・粗大運動障害,嚥下障害(息詰まりやむせに注意を向ける),潜在性誤嚥性肺炎などの程度を知るための神経学的検査
  • 肺機能検査
  • 栄養状態
  • 理学療法士・作業療法士による評価
  • 言語機能評価

回避すべき薬剤・環境

患者と介護者は,家庭や仕事場の安全上の注意や環境整備に関する教育を受けるべきである.

リスクの高い血縁者の検査

遺伝カウンセリング目的のリスクのある親族に対する検査に関連する問題は,「遺伝カウンセリング」を参照のこと.

研究中の治療

キサリプロデンはフランスで実施された安全性と有効性に関する第2相試験でALS患者のFVCの低下速度を43%遅らせたが,運動機能検査や徒手筋力検査のスコアを改善するには至らなかった[Lacomblez et al 2004].さらなる研究が求められる.

Fornai et al [2008]は,リルゾールに加えてリチウムを毎日摂取することにより,少数のALS患者で疾患の進行の遅延が認められたと報告した.リチウムの神経保護作用を確証するためにはさらなる研究と臨床試験が必要である.

様々な疾患や病態に対する臨床試験に関する情報へアクセスしたい場合には,ClinicalTrials.govを参照のこと.

患者登録

有志の患者登録への連絡先はGeneReviewsスタッフに問い合わせること.

全米筋萎縮性側索硬化症(ALS)登録
電話:1-800-232-4636
電子メール:cdcinfo@cdc.gov
Webwwwn.cdc.gov/als

その他

ALS患者は一般にビタミンE,ビタミンC,各種ビタミンB,セレニウム,亜鉛,コエンザイムQ10や,薬用ニンジン,イチョウの葉,Maharishi Amrit Kaleshといった生薬製剤を摂取していることが多い[Cameron & Rosenfeld 2002].コクラン・レビューでOrrell et al [2007]は,ビタミンE,高用量コエンザイムQ10,ビタミンC,セレニウム,βカロチン,N-アセチルシステイン,L-メチオニン,セレジリン等を様々に組み合わせた抗酸化治療に関する21の臨床試験について総括評価を行った.その結果,これらの試験の大多数は統計的評価を下すには母数が不十分であった.抗酸化剤への忍容性が良好であった試験が多かったが,寿命,筋力,一定期間における機能評価スケールに統計的に有意な差は認められなかった.

専門家による遺伝クリニックは,患者や家族に自然経過,治療,遺伝形式,患者家族の遺伝的発症リスクに関する情報を提供とするとともに,患者サイドに立った情報も提供する.Gene Test Clinic Directoryを参照のこと.

本疾患の支援グループや複数疾患にまたがった支援グループについては「患者情報」を参照のこと.これらの機関は患者やその家族に情報,支援,他の患者との交流の場を提供するために設立された.


更新履歴

  1. Gene Review著者: Sandra Donkervoort, MS, CGC, Teepu Siddique, MD
    日本語訳者:窪田美穂(ボランティア翻訳者),関島良樹(信州大学医学部附属病院遺伝子診療部)
    Gene Review 最終更新日: 2009.7.28. 日本語訳最終更新日: 2010.12.14.
  2. Gene Review著者: : Lisa Kinsley, MS, CGC, Teepu Siddique, MD
    日本語訳者: 窪田美穂(ボランティア翻訳者),日根野晃代(信州大学医学部附属病院脳神経内科) 
    Gene Review 最終更新日: : 2012.5.31. 日本語訳最終更新日: 2012.11.17. (in present)

原文 Amyotrophic lateral Sclerosis Overview

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