GeneReviews著者: Nailah Siddique, RN, MSN and Teepu Siddique, MD, DSc (hc)
日本語訳者:冨成麻帆(名古屋大学医学部附属病院),中村勝哉(信州大学附属病院遺伝子医療研究センター)
GeneReviews最終更新日:2019.10.3. 日本語訳最終更新日: 2021.4.7.
原文 Amyotrophic lateral Sclerosis Overview
疾患の特徴
本概説の目的は、筋萎縮性側索硬化症(ALS)の遺伝的原因と関連する遺伝カウンセリング上の問題について、臨床医の意識を高めることである。
本概説の目標は、以下の通りである。
目標 1
ALSの臨床的特徴を説明できる。
目標 2
ALSの遺伝的原因を見直す。
目標 3
ALSの発端者が持つ遺伝的原因を特定するための評価方法を提供する(可能な場合)。
目標 4
ALS患者の家族に遺伝カウンセリングの情報を提供する。
目標 5
ALSの管理について高いレベルの見解を提供する。
ALSの臨床症状
筋萎縮性側索硬化症(ALS)は、脳と脊髄の両方が障害される進行性で致死的な神経変性疾患であり、 従来、ALSは主に運動ニューロンが障害される 症候群と認識されてきたが、前頭葉および側頭葉にある他の領域が、一部の患者に様々な程度で関与しているとの認識が高まっている。さらに、 骨(骨Paget病) や筋肉(封入体筋炎)のような神経系以外の他のシステムが関与している可能性がある。変性の場所と程度によって臨床像が決まり、これには、定義上、運動機能低下が含まれ、認知機能症状や行動症状も含まれる場合がある。症状の発現、進行、生存率には大きなばらつきがある[Hardiman et al 2017]。
運動障害
運動症状は、上位・下位運動ニューロンの両方に変性の結果として起こる。前頭葉の運動 野にある上位運動ニューロン(UMN)は、 皮質遠心路 を介して脳幹(皮質延髄路)および脊髄(皮質脊髄路)に軸索を伸ばし、下位運動ニューロン(LMN)のパターン化された活動に影響を与える。UMN は、脳幹からの下行路を通じてもLMNに影響を及ぼす。ALSのUMN徴候には、腱反射亢進、進展性 足底反応、筋緊張亢進がある。脳幹と脊髄に位置するLMNは、横紋筋を支配する。ALSにおけるLMN徴候は筋力低下、筋萎縮、腱反射低下、筋痙攣、線維束性収縮などがある。
初期症状はさまざまであり、非対称的な 四肢の限局的な筋力低下(つまずく、または握力低下)または球 症状(構音障害、嚥下障害)のいずれかを呈することが多い。その他の所見には、 線維束性収縮、筋痙攣、必ずしも気分的なものではない情緒不安定などが考えられる。他の神経変性疾患には見られずALSに 診断的特徴 は、感覚障害を伴うことなく、筋萎縮を認める分節 での腱反射亢進である。
初発症状には、球麻痺症状よりも四肢障害がよくみられる。ALSには下記のような様々な病型があることが知られている。
神経心理学的関与
近年の ALSの遺伝学的および 神経病理学的 研究によると 、当然、ALS はその疾患概念により運動 系が障害される が、より広域の前頭側頭部の変性により 少なくともある程度の認知および 行動機能障害を引き起こす可能性があるという理解が強まっている。認知機能低下が明らかで ないALS患者の前頭 側頭葉の 白質構造異常が認められることもある[Abrahams et al 2005]。
ALS患者の45%以上が、ある時期から何らかの認知機能障害を抱えていると報告されている[Raaphorst et al 2012, Beeldman et al 2016]。いくつかの神経心理学的領域が影響を受ける可能性がある。最も一般的な障害は、遂行機能(感情および衝動の制御、柔軟な思考、自己モニタリング、計画と優先事項の位置づけ、整理、タスクの開始、ワーキングメモリの困難さによって示される)、言語流暢性、社会的認知(他人の感情を解釈することの困難さや社会的状況における洞察力の欠如によって示される)である [Beeldman et al 2016]。
症状は軽度から重度までさまざまである。
重度の前頭側頭型認知症(FTD)、特に行動障害型FTD (bvFTD)では、人格変化と同じように重度のアパシー と、社会的に適切な行動、判断力、自制心の 進行性の低下が 、5%から27%の範囲で認められる報告されている[Raaphorst et al 2012]。しかし、近年のイタリアにおける集団ベースの研究では、発生率は10%に近いか[Montuschi et al 2015]、おそらく5%に近い可能性があることが示唆されている。さらに、FTD を伴うALS 患者(ALS / FTD)は、一般的にbvFTD のみを呈する患者 よりも多くの言語障害(文法、文と構文の理解の困難さ)を経験する[Saxon et al 2017]。一般的に、視空間機能障害は認められない。
ALS / FTDは球麻痺発症ALSに関連している傾向があり、その発生率は39%〜61%と報告されている[Raaphorst et al 2012]。ALS/FTD患者では、運動 症状や神経心理学的症状のいずれも 、最初に現れることがある。ALSの特徴が先に現れた場合、平均して16か月後にFTDが現れるのに対し、FTDの特徴が先に現れた場合、平均して18か月後にALSの特徴が現れる[Raaphorst et al 2012]。
軽度の神経心理学的症状を伴うALS患者は、 病初期、特に球麻痺発症の患者において遂行機能 、言語・非言語的流暢性 、概念形成に障害をの障害が疾患経過の初期にみられることがある[Schreiber et al 2005]。これらのはっきり分かりにくい症状は、定期的な精神状態検査では見逃される可能性がある。型通りの神経心理学検査は、特に共感性や楽観性などの社会的に好ましい特性によって紛れてしまう可能性のある微妙な変化を検出することに役立つ場合がある。これらの好ましい特性は、ALS患者に接する専門家によく知られており、医療チームとALS患者との間にかなりの連結力が生まれる可能性がある。また、社会的なつながりが維持され、「ポジティブ」な態度が評価されるため、ALS患者は一般的に家族から慕われている。
経過
初発症状に関わらず、筋萎縮と筋力低下は最終的に他の領域にも広がっていく。動眼神経は一般的にALSでは、動眼神経は 変性が起きにくい が、特に人工呼吸器により延命をする場合などで 、長期的には障害されることがある 。コミュニケーションと表現の全ての筋肉が麻痺すると、「閉じ込め状態」となる。 眼球運動が保たれたため 、特殊機器を用いた
コミュニケーションが可能な 例もある。
死因の多くは呼吸筋の障害によるものであるが、肺塞栓症や不整脈のような他の原因によ ることがある。
全体として、ALSの発症年齢はは小児期から90歳代まで 大きく異なり、非常に異質性の高い 障害である。男性は約1.3/1の割合で女性よりも多く発症する。男性の平均発症年齢は約55歳でるが、女性は60歳代半ばに多く発症する。
遺伝性ALS 患者は、症状出現が早い傾向にある。罹病機関 も同様に、数か月から数十年の間で変動する。罹患した患者の約半数は、症状発現から5年以内に死亡する。発症が55歳未満の患者は性別に関係なく、長期生存する傾向にある[Magnus et al 2002]。
従来、ALSは患者の家族歴よって 、2人以上の近親者がALSに罹患している 場合には「家族性ALS」、近親者にALSの罹患者がない場合には「孤発性ALS」とされ ていた。ALSの遺伝学 研究が進み、臨床における遺伝学的 検査 が増加するにつれて、この用語は変化してきた。このGeneReviewでは、「遺伝性ALS」とは、家族歴の有無に関係なく、既知のALS遺伝子におけるpathogenenic variantによって引き起こされるALSを指す。「原因不明のALS」とは、家族歴に関係なく、既知のALS遺伝子の病原性多様体が特定されていないALSを指す。
ALS患者の10%から15%が遺伝性ALSだと推定されている。ALSの遺伝子型の中には特定の臨床症状をもたらすものもあるが、発症年齢や症状の進行には家族内や家族間でのばらつきがあることが一般的である(Table 2aおよびTable 2bを参照)。
ALSの診断には特徴的な臨床所見と特異的な電気生理学的検査 所見、および類似症状を呈する 疾患の除外が必要である(「ALSの鑑別診断」を参照)。診断に最も一般的に用いられている診断基準は、改訂Escorial診断基準である[Brooks et al 2000]。Awaji基準[de Carvalho et al 2008]に記載されている筋電図結果の追加評価は、Escorial基準のみで診断するよりも迅速に確定診断できる可能性がある。臨床症状のばらつきと疾患のバイオマーカー欠如により、症状の発症から確定診断に至るまでに数か月から1年かかることは珍しくない。
臨床的特徴
Escorial基準(改訂版)[Brooks et al 2000]は研究におけるALSの診断を標準化するために開発されたが、Awaji基準は早期診断を可能にする変更が組み込まれている。全ての臨床医がこのような厳格な診断基準を用いているわけではないが、これらの診断基準は日々の診療において普及している。基準に含まれる項目は下記の通りである。
中枢神経系の4領域(すなわち脳幹、頸髄、胸髄、腰仙髄)におけるUMN徴候とLMN徴候の臨床症状は、詳細で焦点を絞った病歴聴取、診察、神経学的検査所見によって得ることができる。
病理学的に確認されていないALSの臨床診断は、改訂Escorial基準に基づく臨床・検査評価によってさまざまな確実性のレベルに分類される。[Brooks et al 2000]
電気診断学的検査
筋電図(EMG)は、臨床的罹患部位または臨床的 非罹患部位のLMN障害所見を電気生理学的に示すことができる。Awaji基準[de Carvalho et al 2008] は、Escorial基準を修正し、四肢における慢性的神経原性変化のある電気生理学的所見を、その四肢の病変の臨床的所見と同等とみなせるとしている。さらに、臨床的に疑われるALS カテゴリーの中で、基準は、線維束電位と脱神経を同一視することを提案している。これらの変更により、Escorial基準の「臨床検査の裏付けがある臨床的に可能性の高いALS」項目は不要となった。
The revised Strong consensus ALS frontotemporal spectrum disorder diagnostic criteria (2017)のLevel 1は、ALSにおける前頭側頭葉の関与の程度を確立するために臨床現場で使用できるよう適切なフレームワークを提供している。Strong基準は、評価のための「軸(Axis)」となる3つの方法を提案している。
行動障害を伴うALS(ALSbi):行動変化を伴うか否かにかかわらず無気力であるか、またはRaskovsky基準[2011]に基づく2つの重複しない診断を裏付ける特徴である脱抑制、無気力、思いやり/共感 の喪失、固執/強迫的行動、口唇傾向、および遂行機能障害といった神経心理学的所見が認められる。
神経心理学的評価
神経心理学的評価のゴールドスタンダードは、神経心理学の専門家が実施する神経心理学的検査で、面接と一連の標準化された検査を含み、知能、実行機能(計画、抽象化、概念化を含む)、注意、記憶、言語、知覚、感覚運動機能、動機付け、気分と感情、生活の質、性格を評価する。この検査は数時間を要することと、神経心理学評価の専門家が必要であるため、一般的にはほとんどの臨床現場では利用できない。そのため、スクリーニングや簡単なアセスメントに適したツールが開発されている。改訂されたStrong基準では、以下の 使用を推奨している。
病理学的基準
ALSもFTDも臨床診断であることを覚えておくと便利である。どちらの診断も確定的とみなすためには、病理学的診断が必要である。病理学的基準については、Bigio [2013]を参照。
臨床症状によっては、ALSの確定診断をする前に、いくつかの他の遺伝性疾患や後天性疾患を考慮する必要がある(表1)。診断アルゴリズムは、Goutman [2017]を参照のこと。特定の遺伝性疾患については、表1を参照。
表1. ALSの鑑別診断に関連のある単一遺伝子疾患
遺伝子1 | 疾患 | MOI | 鑑別診断すべき疾患の臨床的特徴 | |
---|---|---|---|---|
ALSと同様の症状 | ALSと区別すべき症状 | |||
AR | 球脊髄性筋萎縮症 | XL | LMN徴候:筋力低下、筋委縮、線維束性筋収縮 |
|
BSCL2 | BSCL2 関連運動ニューロン疾患2 | AD | UMN・LMNの関与 |
|
GBE1 | 成人ポリグルコサン小体病 | AR | UMN・LMNの関与、認知機能障害 |
|
HEXA | ヘキソサミニダーゼA欠乏症 | AR | LMN優位の関与、認知機能障害の可能性 |
|
SMN1 | 脊髄性筋萎縮症IV型 | AR | 近位筋優位な筋力低下・筋萎縮 |
|
AD = autosomal dominant(常染色体優性遺伝); AR = autosomal recessive(常染色体劣性遺伝); MOI = mode of inheritance(遺伝様式);XL = X-linked(X連鎖)
その他の遺伝性疾患 としては、以下の疾患がある。
後発性疾患 には、頸椎疾患、脳幹または脊髄の腫瘍、甲状腺障害、鉛中毒、ビタミンB12欠乏症、多発性硬化症、潜在性癌を伴う腫瘍随伴症候群、運動ニューロパチー、重症筋無力症、筋無力症候群、封入体筋炎などがある。
下肢にUMN徴候、上肢にLMN徴候がある場合は、頸椎狭窄症を伴う頸椎症も鑑別に挙げる必要がある。しかし、頚椎症は発症頻度が高い疾患であるため、ALS患者も併発している可能性がある。
環境曝露 がALSの発症に寄与しているのではないかと長年に亘って指摘されてきたが、特定の遺伝的背景がある場合には、環境曝露がALSの発症に寄与していると考えられる。多くの研究が、居住地、業務上の曝露、運動活動に至るまで、多くの環境要因を示唆している。これらの研究の多くは、参加できる被験者数が少ないために小規模であり、方法論に関する限界が生じている可能性がある。2016年には、BelbasisらがALSと様々なリスク因子について、16の論文をメタアナリシスによって分析した。この研究では、鉛への慢性的な業務上の曝露という1つの因子のみがALSとの間に強い関連性を示していると結論づけている。鉛以外の農業や重金属への曝露、β-カロテンの摂取、および頭部の損傷には十分な有用性のない関連性が認められた。n-3脂肪酸摂取量、極低周波電磁界暴露、農薬曝露、尿酸値との間には弱い関連性が認められた。田舎暮らし、血清脂質値、スタチン使用、喫煙はALSとの関連性は認められなかった[Belbasis et al 2016]。
湾岸戦争の若い退役軍人、特に戦後10年間に、ALS患者が多いことが報告されている [Haley 2003, Horner et al 2003]。シアノバクテリアやβ-N-メチルアミノ-L-アラニン(BMAA)を含む砂漠の塵といった環境曝露が原因ではないかと推測されている[Cox et al 2009]。
本GeneReviewでは、「遺伝性ALS」とは、家族歴に関わらず既知のALS遺伝子に病原性多様体を持つ者を指し、「原因不明のALS」とは、家族歴に関わらず既知のALS遺伝子に病原性多様体を持たない者を指す(臨床症状・経過を参照)。GeneReviewsが「散発性」という用語を使用しているのは、障害の家族歴が分かっていない者を示すのではなく、むしろ、「孤発例」という用語は、家族内での障害の単発発症を指す。
ALS患者の10%は、ALSに罹患している他の家族が少なくとも1人いると推定される。このような家族で報告されている 既知の遺伝的原因の頻度はさまざまな系統で大きく異なる が、 複数の罹患者が存在するALS家系 の少なくとも半分は既知のALS遺伝子が 占めると言っても過言ではない。 様々な程度の確実性を持つ30の遺伝子を以下に示し、4つの最も断固とした一般的な遺伝子を有病率の高い順に示した(表2a参照)、続いて、残りの遺伝子をアルファベット順に挙げる(表2b参照)。
表2a. 遺伝性筋萎縮性側索硬化症:最も一般的な遺伝子と関連する臨床的特徴
遺伝子 | 割合(%) | MOI | 表現型との関連 | 発症/浸透率 | 他の臨床的特徴/注釈 | ||||
---|---|---|---|---|---|---|---|---|---|
家族性ALS | 孤発性ALS | ALS | ALS/ FTD |
FTD | その他 | ||||
C9orf72 (C9orf72- ALS/FTD) |
39%-45% | 3%-7% | AD | + | + | + |
|
|
bvFTDと関連 |
SOD1 (OMIM 105400) |
15%-20% | 3% | AD AR |
+ |
|
認知機能との関与の報告1件(Ile113Thr多様体との関連)2 | |||
FUS (OMIM 608030) |
~4%-8% | 大変まれ | AD | + | + | + | パーキンソニズム |
|
|
TARDBP (TDP-43) (TARDBP-ALS) |
1%-4% | ある | AD | + | + | + | 平均発症年齢53.5±12歳 |
AD = autosomal dominant(常染色体優性遺伝);ALS = amyotrophic lateral sclerosis(筋萎縮性側索硬化症);AR = autosomal recessive(常染色体劣性);bvFTD = behavioral variant of FTD(行動障害型前頭側頭型認知症);FTD = frontotemporal dementia(前頭側頭型認知症);LMN = lower motor neuron(下位運動ニューロン);MOI = mode of inheritance(遺伝様式);PLS = primary lateral sclerosis(原発性側索硬化症);PSP = progressive supranuclear palsy(進行性核上性麻痺);UMN = upper motor neuron(上位運動ニューロン)
C9orf72. 非翻訳領域のGGGGCC6塩基反復配列の伸長が原因である。病原性を示す正確なリピートサイズはしっかりと確立されていない。最近のメタアナリシスでは、リピートサイズが23以上で十分とされているが、60以上のリピートサイズが広く受け入れられている[Iacoangeli et al 2019]。
SOD1(注:多様体の命名法は、場所の特定に最初のコドンが含まれるように徐々に変更されている。)
FUS. p.Ser513Proおよびp.Arg514Ser多様体は、発症年齢(51〜62歳)が遅く、p.Ser513Proは他のFUS多様体よりも罹患期間(84〜156か月)が長い [Akiyama et al 2016]。
TARDBP (TDP-43). 変異型p.Gly298Serは、早期発症と24ヶ月生存率に関連している。
表 2b. 遺伝性筋萎縮性側索硬化症:一般的でない遺伝子と関連する臨床的特徴
遺伝子1 | MOI | 表現型との関連 | 他の臨床的特徴/注釈 | |||
---|---|---|---|---|---|---|
ALS | ALS/ FTD |
FTD | その他 | |||
ALS2 (ALS2-ALS)2 |
AR | + | PLS |
|
||
ANG (OMI611895) | ? AD 3 | + | + | パーキンソン病 |
|
|
ANXA11 (OMIM617839) |
AD | + | 家族性ALSおよび孤発性ALSの両方で報告 | |||
CFAP410 (C21orf2)5 |
AD3 | + | + | 家族性ALSおよび孤発性ALSの両方で報告 | ||
CHCHD10 ( CHCHD10障害を参照) |
AD | + | + |
|
||
CHMP2B (OMIM614696) |
AD | + | + |
|
||
DAO (OMIM124050) |
AD | + | 家族性ALSでのみ報告 | |||
DCTN1 6 (OMIM601143) |
AD | + | + | 家族性ALSでのみ報告 | ||
ERBB4 (OMIM615515) | AD | + | 家族性ALSおよび孤発性ALSの両方で報告 | |||
FIG4 7 (OMIM612577) |
AD | + |
|
|||
HNRNPA1 8 (OMIM615426) |
AD3 | + | 家族性ALSおよび孤発性ALSの両方で報告 | |||
MATR3 (OMIM606070) |
AD | + | + | PLS | 家族性ALSでのみ報告9 | |
MOBP10 | 脚注3を参照 | + | 家族性ALSおよび孤発性ALSの両方で報告 | |||
NEK1 (OMIM617892) | AD3 | + |
|
|||
OPTN11 (OMIM613435) |
AR AD |
+ | + |
|
||
PFN1 (OMIM614808) | AD | + | 少数の患者に認められるミラー・ディカー(Miller-Dieker)症候群の特徴 | |||
SCFD1 10 | 脚注3を参照 | + | 家族性ALSおよび孤発性ALSの両方で報告 | |||
SETX (OMIM602433)12 |
AD | + |
|
|||
SPG11 (spatacsin)13 (OMIM602099) |
AR | + | + | + | パジェット病 |
|
TAF15 14 | 脚注3を参照 | + | 家族性ALSでのみ報告 | |||
TBK1 (OMIM616439) |
AD | + | + |
|
||
TUBA4A (OMIM616208) | AD | + | + | + | 家族性ALSおよび孤発性ALSの両方で報告 | |
UBQLN2 (OMIM300857) | XL | + | + | + | PLS;痙性対麻痺 |
|
UNC13A 14 | 脚注3を参照 | + | 家族性ALSでのみ報告 | |||
VAPB15, 16 (OMIM608627) |
AD | + |
|
|||
VCP17 (OMIM613954) |
AD | + | + | パジェット病 |
|
孤発性ALS
ALSの約85%は、ALSの家族歴のない個人で発症する;一般的な用語では、そのような個人はしばしば「孤発性」ALSと言う。ALSの病歴はわかっているが、遺伝的原因がまだ特定されていない家族内で発生するALSは、「原因不明の家族性ALS」と呼ばれることがある。
遺伝性ALSや原因不明の家族性ALSは、ALSの原因となる遺伝子変異の浸透率が著しく低下している場合には、孤発性ALSに見える可能性がある。家族にみられる他の診断が遺伝的原因、特にFTDまたは骨Paget病の存在を反映している可能性も考慮する必要がある(表1を参照)。
孤発性ALSの病因は、十分に解明されていない。原因は、感受性遺伝子と複数の環境要因の両方が寄与している多因性 であると長きにわたり考えられてきた。
ALSにおける特定遺伝的原因の確立:
病歴. 非常に急速な症状の進行により、p.Ala4Val多様体によるSOD1-ALSの疑いがある。表2aを参照。
身体 所見. 亜急性に下肢脱力がみられる状態で、アキレス腱反射の欠如がある場合はSOD1-ALSの初期徴候である可能性がある[T Siddique, personal observation]。
家族歴. 過去にはFTDを他の認知症と区別することはあまり一般的ではなかったことを記憶にとどめ、神経学的徴候や症状、特に認知機能障害を持つ親族に注意を払いながら、3世代にわたって家族歴を取得する必要がある。パーキンソン病、精神疾患、Paget病にも注意が必要である。家族に関連する所見の文書化は、一人ひとり 直接診察するか 、または分子遺伝学的検査、神経画像検査、剖検の結果を含む医療記録を 見直すことに よって完成する。
分子遺伝学的検査のアプローチは、遺伝子標的検査(マルチ遺伝子パネル検査)と包括的遺伝子検査(エクソーム解析、エキソームアレイ解析、またはゲノム解読)の組み合わせを含める。遺伝子標的検査では、臨床医はどの遺伝子が関与している可能性が高いかの仮説を立てる必要があるが、ゲノム検査ではそうではない。
マルチ遺伝子パネルの紹介はこちらを参照。遺伝子検査をオーダーする臨床医のためのより詳細な情報はこちらを参照。
エクソーム解析が診断に役立たない場合、配列解析では検出できない(マルチ)エクソン欠失や重複を検出するために、エクソームアレイ解析(臨床的に利用可能な場合)を検討することがある。
「遺伝カウンセリングは個人や家族に対して遺伝性疾患の本質,遺伝,健康上の影響などの情報を提供し,彼らが医療上あるいは個人的な決断を下すのを援助するプロセスである.以下の項目では遺伝的なリスク評価や家族の遺伝学的状況を明らかにするための家族歴の評価,遺伝学的検査について論じる.この項は個々の当事者が直面しうる個人的あるいは文化的、倫理的な問題に言及しようと意図するものではないし,遺伝専門家へのコンサルトの代用となるものでもない.」
遺伝性ALS
遺伝形式
遺伝性ALSは常染色体優性、常染色体劣性、X連鎖のいずれかの方法で遺伝する(表2a、2bを参照)。遺伝形式の決定は、家族歴や分子遺伝学的検査に基づいて行われる。
常染色体優性ALS-家族へのリスク
発端者の両親
発端者の同胞. 同胞へのリスクは、発端者の両親の臨床的/遺伝的状態に依存する:
発端者の子.
常染色体優性ALS患者の子供は、ALSに関連した病原性多様体を遺伝する確率が50%である。
その他の発端者の血縁者.
その他の発端者の血縁者へのリスクは、親の状態に依存する:親がALSに罹患していたり、ALS関連の病原性多様体を持っていたりする場合、その血縁者はリスクを負う可能性がある。
常染色体劣性ALS–家族へのリスク
発端者の両親
発端者の同胞
発端者の子.
常染色体劣性ALS患者の子は、病原性多様体の絶対保因者(ヘテロ接合体)である。
その他の発端者の血縁者.
発端者の両親を持つ子は、ALSに関連した病原性多様体の保因者になるリスクが50%ある。
保因者(ヘテロ接合体)検査.
リスクのある親族の保因者検査では、家族内のALS病原性多様体を事前に特定する必要がある。
X連鎖ALS-家族へのリスク
これまでのところ、UBQLN2はALSに関連することが分かっている唯一のX連鎖遺伝子である;ヘミ接合性の男性とヘテロ接合性の女性(X染色体の不活性化によっては高齢の発症になる可能性)の両方が影響を受ける。
発端者の両親
発端者の同胞
発端者の子.
罹患した男性は、UBQLN2病原性多様体を、ヘテロ接合体となる全ての娘に遺伝させ、息子には遺伝させない。罹患した女性は、子の性別に関係なく、病原性多様体を全ての子に遺伝させる可能性が50%ある。
その他の発端者の血縁者.
その他の血縁者へのリスクは、発端者の両親の遺伝的状況に依存する。親がUBQLN2病原性多様体持っている場合、その血縁者の家族は発症のリスクがある。
原因不明のALS
家族性ALS.
表2aおよび2bに記載されているように、X連鎖UBQLN2-ALSが唯一の例外である場合を除き、実質的に全ての成人で発症する遺伝性ALSは常染色体優性遺伝である。家族歴が常染色体優性遺伝(親子間での遺伝のエビデンス、父から子への遺伝の場合もある)を特定するのに十分なものであれば、他の家族へのリスクは「常染色体優性ALS-家族へのリスク」で説明したものと同じである。
遺伝形式をしっかりと決定できない場合でも、遺伝的ALSについてこれまでに分かっていることを考えると、疾患の原因となる多様体を遺伝するリスクは常染色体優性パターンに従う可能性がある。ただし、一部の亜種の浸透率が低下し、どの人が疾患を発症するか予測をより困難にしている可能性が非常に高い。
ALSに関連する遺伝子について分かっていることを考えると、FTDまたはPaget病の家族がいる場合(発端者に現れていなくても)、その人たちもALS患者で特定された多様体のヘテロ接合体であると仮定するのが合理的である。したがって、多様体を子に遺伝させるという同じ遺伝的リスクがある。
これまでに特定されたほとんどのALS疾患の原因となる多様体には、発症年齢、発症部位、および罹患期間に関して少なくともある程度の家族内変動を有している。
孤発性ALS.
ALSを発症する生涯のリスクは、男性では1:350、女性では1:500と推定されている。
家族性ALSで述べたように、FTDやPaget病が他の近親者にいる場合、これは家族性疾患であると懸念されるべきである。
関連する遺伝カウンセリングの問題
予測テスト(つまり、無症候性リスクのある人の検査)
未成年者における予測検査(すなわち、18歳未満の無症状でリスクのある人の検査)
ALSの診断が確定している家族では、年齢に関係なく症状のある人の検査を検討することが適切である。
GeneReviewsスタッフは、この疾患を持つ患者および家族に役立つ以下の疾患特異的な支援団体/上部支援団体/登録を選択した。GeneReviewsは、他の組織によって提供される情報には責任をもたない。選択基準における情報については、ここをクリック。
27001 Agoura Road
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3000 Steeles Avenue East
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Fax: 905-248-2019
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5550 West Touhy Avenue
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www.lesturnerals.org
222 S. Riverside Plaza
Suite 1500
Chicago IL 60606
Phone: 800-344-4863 (toll-free); 800-572-1717 (toll-free)
Email: mda@mdausa.org
www.mda.org/sites/default/files/MDA-ALS-Fact-Sheet-Flyer-FINAL.pdf
PO Box 246
Northampton NN1 2PR
United Kingdom
Phone: 01604250505
Fax: 01604 624726/638289
Email: enquiries@mndassociation.org
www.mndassociation.org
Agency for Toxic Substances and Disease Registry
4770 Buford Highway Northeast
Atlanta GA 30341
Phone: 800-232-4636
Email: cdcinfo@cdc.gov
National ALS Registry
ALSの治療は症状緩和である。
多くの人は、神経内科医、特別に訓練を受けた看護師、呼吸器専門医、言語療法士、理学療法士、作業療法士、呼吸療法士、栄養士、心理士、ソーシャルワーカー、遺伝カウンセラーを含む多職種からなる チームによるケアの恩恵を受ける。データは、そのようなチームのケアを受けている患者がより 予後が良好な 可能性があることを示唆する[van den Berg et al 2004, Andersen et al 2005]。予後に影響を与える要因 は、年齢、努力肺換気量、疲労、体力、痙縮、うつ病、世帯収入などが挙げられるが、そのほとんどが多職種 チーム 専門家による適切な管理が可能である。っ
現在、ALSの治療薬としてFDAから承認されているのは、以下の2つの薬である:
SOD1-ALS患者を対象に、mRNAと結合するように設計されたアンチセンスオリゴヌクレオチドのSOD(スーパーオキシドディスムターゼ)負荷を減少させる効果を評価する第III相臨床試験が現在進行中である。ClinicalTrials.govにて試験NCT02623699を参照。
症状管理
球麻痺の症状のある人の口腔内分泌物は、三環系抗うつ薬と抗コリン作用薬で減らすことができるため、吸引の必要性が減る。
情動調節障害は、ニューデクスタ®(デキストロメトルファンおよびキニジン)などの抗うつ薬で管理できる。
嚥下障害は、液体にとろみを付ける、固形物をピューレ状にする、最終的には胃瘻を使用してカロリー摂取量と水分補給を維持することによって軽減できる。生存における予後因子である栄養管理が臨床現場で注目されるようになりつつある。
バクロフェンやベンゾジアゼピンなどの薬物療法は、痙縮や筋痙攣を和らげるのに役立つが、脱力感や無気力は一般的な副作用である。体幹と四肢を使う中強度の持久運動は、痙縮の軽減に役立つ可能性がある[Ashworth et al 2004]。
ローテク(例:文字盤)やハイテク(例:コンピュータ支援)といったデバイスは、発話やコミュニケーションを支援することができる。最近開発された眼球運動で使用できるスクリーンキーボードにより、四肢機能が残っていない人でもコミュニケーションできる可能性がある。
歩行器や車椅子などの補助装置は、移動を補助することができる。浴室の改装、病院で使用しているようなベッド、昇降装置のホイヤー・リフトなどの他の装置は、家庭での日常生活の活動を補助することができる。
呼吸補助は、ALS患者の生活の質を維持することと、延命することにますます重要な役割を果たしているBiPAP(バイレベル気道陽圧)の使用を含める。1999年、米国神経学会は、理論上では努力性肺活量(forced vital capacity; FVC)が予測値の50%未満の患者に非侵襲的人工換気(initiation of noninvasive ventilation; NIV)を開始することを推奨する基準を発表した[Miller et al 1999]。研究によれば、球麻痺症状が現れる前にNIVを開始すると、平均生存率が大幅に増加する[Farrero et al 2005]。したがって、FVCが50%を下回る前に、呼吸器科医による評価を行う必要がある。
気管切開術や人工呼吸器のサポートは寿命を延ばすことができるが、罹患した人はこれらの介入を拒否することが多い[Albert et al 1999]。
ALSの心理的・社会的な影響は、ALS患者と介護者の双方に多大なものであり、継続的に対処する必要がある[Goldstein et al 1998]。ホスピスケアは、一般的にFVCが30%以下になった時点で開始され、終末期における本人の安楽につながる。
ALS患者は、ビタミンE、ビタミンC、ビタミンB群、セレン、亜鉛、コエンザイムQ10、高麗人参、イチョウ葉、マハリシ・アムリット・カレシュなどの漢方薬で食事 を補うのが一般的である[Cameron & Rosenfeld 2002]。Cochrane Reviewでは、Orrellら[2007]は、ビタミンE、高用量コエンザイムQ10、ビタミンC、セレン、β-カロチン、N-アセチルシステイン、L-メチオニン、セレギリンを含む様々な組み合わせの抗酸化療法の21の臨床試験を要約し、評価している。これらの研究の大部分では、サンプルサイズが統計的評価に十分ではなかった。多くの臨床試験で抗酸化物質の忍容性は良好であったが、寿命、筋力、または機能的評価尺度の経時的な有意差は確認されなかった。
GeneReviews著者: Nailah Siddique, RN, MSN and Teepu Siddique, MD, DSc (hc)
日本語訳者:冨成麻帆(名古屋大学医学部附属病院),中村勝哉(信州大学附属病院遺伝子医療研究センター)
GeneReviews最終更新日:2019.10.03. 日本語訳最終更新日: 2021.04.7[ in present]