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アルツハイマー病 概説
(
Alzheimer Disease Overview)

Gene Review著者: Thomas D Bird, MD
日本語訳者: 窪田美穂(ボランティア翻訳者),櫻井晃洋(信州大学医学部附属病院遺伝子診療部)
Gene Review 最終更新日: 2010.3.30. 日本語訳最終更新日: 2010.6.12.

原文 Alzheimer Disease Overview


要約

疾患の特徴 

アルツハイマー病(AD)は、潜行性で認識されにくい記憶力の減退に始まり、徐々に重篤化し、最終的には行動能力の喪失に至る認知症を特徴とする. この他の多くみられる所見に、精神錯乱、判断力の低下、言語障害、興奮、引きこもり、幻覚がある. 振戦、パーキンソン病的特徴、筋緊張亢進、ミオクローヌス、失禁、緘黙症が起こることもある. 全身衰弱、栄養失調、肺炎による死亡が多い.疾患の臨床的持続期間は典型例では8〜10年であるが、1年から25年と幅がある.全AD症例の約25%は家族性(1家系にAD患者が2人以上)で、そのうち晩期発症型(発症年齢60〜65歳以降)が約95%、早期発症型(発症年齢65歳未満)が5%である.

診断・検査

アルツハイマー病の診断は臨床的な神経病理学的評価に基づいて行われる.βアミロイド斑と神経原線維変化という神経病理学的所見は今なお診断の要である. 緩徐進行性の認知症と、神経画像診断上の大脳皮質の全般的萎縮という所見に基づいて行われるADの臨床診断の正診率は約80〜90%である. APOE遺伝子e4 アレルとADの関連性は強いが、APOE遺伝子型が認められることの特異性や感受性は十分には高くない.症状のみられる患者にAPOE遺伝子型を見つけ出すことは、ADと診断する上で補助的な役割を果たすこともあろうが、無症状の段階で発症を予測するようなことができるかというと、現時点ではそうとは言えないだろう. 早期発症型家族性AD(EOFAD)の3タイプは、3つの遺伝子(APP遺伝子、PSEN1遺伝子、PSEN2遺伝子)のどれか1つの変異により発症することが分かっている. これら3遺伝子に対する分子遺伝学的検査は臨床施設で実施されている.

臨床的マネジメント

 症状の治療:治療は支持療法である.個々の症状は患者に合わせて対処される.通常、生活支援設備やケア体制の整った施設での介護が必要となる.アセチルコリンエステラーゼを阻害してコリン作動系活性を亢進させる薬剤により、行動や認知機能面でわずかではあるが有効な改善がもたらされる患者も少数ではあるが存在する(ドネペジル [アリセプト(R)]、リバスチグミン[エクセロン(R)]、ガラタミン).NMDA受容体拮抗薬のメマンチンも使用されている. 抗鬱薬により併発する抑うつ症状を改善することがある.

遺伝カウンセリング

ADは遺伝的に様々な要因が組み合わさったものであるため、AD患者と血縁者の遺伝カウンセリングは当該家系で得られた情報に基づいて行うこと. ADはありふれた疾患であり、いかなる人でもその生涯に認知症にかかるリスクが約10〜12%あることを指摘すべきである.非家族性AD患者と血縁者の遺伝カウンセリングは症状中心に、相対的にADにとらわれずに行うこと. AD孤発例(家系で唯一の発症例)の第1度近親者が生涯にADを発症する累積リスクは約15〜30%であるが、一般に20〜25%と報告されている. この数字は背景リスクの約2.5倍である(27%以下:10.4%). 対照的に、早期発症型アルツハイマー病(EOFAD)は常染色体優性の遺伝形式をとる.


診断

アルツハイマー病の臨床症状

アルツハイマー病(AD)は、潜行性で認識されにくい記憶力の減退に始まり、徐々に重篤化し、最終的には行動能力の喪失に至る認知症を特徴とする. この他多くみられる所見に、精神錯乱、判断力の低下、言語障害、興奮、引きこもり、幻覚がある.Bacanu et al [2005] はADの精神症状(妄想と幻覚)に遺伝性があることを示している.
振戦、パーキンソン病的特徴、筋緊張亢進、ミオクローヌス、失禁、緘黙症が起こることもある[Bird & Miller 2008].
全身衰弱、栄養失調、肺炎による死亡が多い.疾患の臨床的持続期間は典型的に8〜10年であるが、1年から25年と幅がある.

アルツハイマー病の確定診断

アルツハイマー病の鑑別診断には認知症の原因となるその他の要因が含まれる.とりわけ、治療可能なタイプの認知機能の低下には、うつ病、慢性的薬物中毒、慢性中枢神経感染、甲状腺疾患、ビタミン不足(とりわけB12及びチアミン)、中枢神経性血管炎、正常圧水頭症がある[Bird & Miller 2008].
認知症に関連するその他の変性疾患には、前頭側頭型痴呆(17番染色体に連鎖しパーキンソニズムを伴う前頭側頭型認知症(FTDP-17)を含む)、ピック病、パーキンソン病、びまん性レビー小体病(LBD)、クロイツフェルト・ヤコブ病、CADASILなどがあるが、ADと混同されることもある [Rogan & Lippa 2002].

CT 画像やMRI画像により、新生物、正常圧水頭症、脳血管疾患などのAD以外の認知症の原因のいくつかを特定できる.

アルツハイマー病の頻度

ADは北米、欧州における認知症の原因として最多であり、米国では400万人が罹患していると推定される.
ADの頻度は年齢とともに上昇する:

  • 70歳以上の約10%が目立った記憶力の低下をきたしており、これらのうち半数以上がAD患者である.
  • 85歳以上の推定25〜45%以上が認知症である.
ADの発症率は、65〜69歳の年齢層で1000人中2.8人であるが、90歳以上の年齢層では1000人中56.1人と増加する[Kukull et al 2002].

要因

1 アルツハイマー病の原因

原因

症例に占める割合(%

染色体性アルツハイマー病(ダウン症候群)

1%未満

家族性アルツハイマー病(全体)

〜25%

-晩期発症型家族性アルツハイマー病(AD2)

15〜25%

-早期発症型家族性アルツハイマー病(AD1, AD3, AD4)

2%未満

不明(遺伝-環境相互作用型など)

〜75%

アルツハイマー病(AD)の約1〜6%が早期発症型(60〜65歳未満)であり、早期発症型ADの約60%が家族性であり、そのうちの13%が●常染色体優性である [Campion et al 1999].

早期発症型家族性アルツハイマー病(発症年齢60〜65歳未満)と晩期発症型家族性アルツハイマー病(発症年齢60〜65歳以上)の区分には恣意的なところがある.注:早期発症症例が総じて晩期発症型の家系にみられることがある[Brickell et al 2006]

環境要因

ADの発病機序に直接的に影響を与えることが証明されている環境要因(ウイルス、毒物など)はない.晩期発症型ADは遺伝的背景リスクに不明の環境要因が作用した結果であると考えられることが多い[Borenstein et al 2006]. 双生児研究では遺伝要因と環境要因の双方が想定されている[Gatz et al 2006]. たび重なる頭部外傷は、過剰な神経原線維変化が認められる認知症例と関連している [McKee et al 2009].

遺伝要因

染色体性

ダウン症候群(DS). ダウン症候群(トリソミー21)の場合、本質的に全員が40歳以降にADに特徴的な神経病理学的症状を呈する. DS患者の半数以上は、注意深い観察や検査により、認知機能の低下が臨床的に認められる. これらの関連性の説明として考えられるのは、アミロイド前駆体蛋白質をコードする第21番染色体上のAPP遺伝子を3コピー有する患者では,生涯に渡ってこの遺伝子が過剰に発現し,患者の脳内でβアミロイドの過剰生産が起こるというものである.
DSでは10歳以前に脳内アミロイドβ(Aβ)沈着が始まっている可能性がある[Leverenz & Raskind 1998].APP遺伝子の過剰なコピーを持たない部分トリソミー21の78歳女性には、臨床的にも病理学的にもADは認められなかった [Prasher et al 1998]. 2つの研究で、ダウン症候群での認知症の発症年齢とAPOE 遺伝子型との間に関連性がないとされているが[Lai et al 1999, Margallo-Lana et al 2004]、発症年齢とAPP遺伝子多型との関連性を示す研究も1つある[Margallo-Lana et al 2004].

Schupf et al [2001] は、説明はできないものの、35歳以前にDS小児を出産した母親ではAD発症リスクが高いとしている.

単一遺伝子

ADの約25%は家族性(すなわち、血縁者の2人以上がAD患者)である. 家族性症例の臨床的、病理学的表現型は、非家族性症例(すなわち、家系内で唯一のAD患者であり、ADの家族歴がない場合)と同一のようであり[Nochlin et al 1993]、両者は家族歴もしくは分子遺伝学的検査によってのみ区別される. ADの分子遺伝学的基盤に関する膨大な研究の総括がRosenberg [2000]Sleegers & Van Duijn [2001]Nussbaum & Ellis [2003]Goedert & Spillantini [2006]Roses & Saunders [2006]により行われている.

晩期発症型家族性アルツハイマー病(AD2)表2参照のこと)

分子遺伝学. 晩期発症型ADは多数の感受性遺伝子の関与する複雑な疾患であるという考え方が複数の研究により支持されている(Kamboh [2004]Bertram & Tanzi [2004]Serretti et al [2005]Roses & Saunders [2006]によるレビュー及び総括). Bertram et al [2007] はこれらのデータに基づきメタ解析を行った. 現在わかっていることは以下である:

2 晩期発症型発型家族性アルツハイマー病: 分子遺伝学

遺伝子座

遺伝子

タンパク質

検査の実施

AD2

APOE

アポリポ蛋白E

臨床レベル
graphic element

臨床的特徴. 罹患者が複数いる家系が多く、60〜65歳以降に認知症を発症する患者が大部分もしくは全員である. 疾患の持続期間は典型的には8〜10年であるが、実際は2〜25年に及んでいる.

早期発症型家族性アルツハイマー病(EOFAD)

分子遺伝学. 少なくとも3つのEOFADのタイプ(AD1、AD3、AD4)が原因遺伝子に基づいて同定されている.各タイプの割合と原因遺伝子は表3にまとめられている[Campion et al 1999, Janssen et al 2003, Raux et al 2005]. EOFADと実施されている分子遺伝学的検査の詳細は早期発症性家族性アルツハイマー病で述べられている. PSEN1 遺伝子、PSEN2遺伝子、APP遺伝子に変異が認められない常染色体優性の家族性AD血縁患者が報告されていることから、その他の遺伝子がEOFADの原因として同定される可能性がある[Raux et al 2005].

3 早期発症型家族性アルツハイマー病(EOFAD: 分子遺伝学

遺伝子座

 EOFADの割合

遺伝子

タンパク質

検査の実施

AD3

20〜70%

PSEN1

プレセニリン1

臨床レベル
graphic element

AD1

10〜15%

APP

アミロイドβA4蛋白質

臨床レベル
graphic element

AD4

まれ

PSEN2

プレセニリン2

臨床レベル
graphic element

臨床的特徴. 早期発症型家族性ADは、平均発症年齢が通常65歳以前のAD症例が複数みられる家系を指すものであるが、なかには60〜70歳という年齢を用いる研究もある. 発症年齢は通常40歳代から50歳代前半であるが、30歳代や60歳代前半での発症報告されている. Campion et al [1999] では、一般集団における早期発症型ADの頻度を10万人あたり41.2人であるとしている(発症年齢40〜59歳). これら早期発症型AD患者の61%で家族歴が陽性であり、13%が常染色体優性遺伝形式の厳しい基準(すなわち、3世代に罹患者が存在すること)を満たしていた.

EOFADは、家族歴と発症年齢がはっきりしなければ、臨床的に非家族性ADと区別することはできない. 認知症の表現型は晩期発症型ADと類似しており、なかには前駆症状が長く続く場合もある[Godbolt et al 2004, Larner & Doran 2006].

未知の原因

非家族性AD患者はADの診断基準を満たすが、家族歴を持たない. 発症は成人期のいつでも起こりうる. この疾患の正確な発病機序は不明である. 一般的な仮説では、非家族性ADには複数の要因が絡んでいて、加齢や遺伝的素因と、頭部外傷、低教育水準、ウイルス、毒物といった環境要因のどれか、もしくは複数に曝されることといった複合的要因によって発症するが、ADの発病機序に直接的な関与が証明されている環境要因はまだない.

検査手順

家族歴

認知症に関する3世代に渡る家族歴を注意深く聴取すべきである. 各罹患者に関して、認知症の発症年齢を記載すること.一般に、発症が65歳以前の患者は早期発症型アルツハイマー病(AD)とみなされ、65歳以降の発症者は晩期発症型ADとみなされる.神経画像診断や剖検記録などの血縁罹患者の医療記録を入手すること:

  • EOFADの診断は平均発症年齢が60〜65歳以前のAD症例が複数みられる家系に対して行われる.
  • 晩期発症型家族性ADの診断は、平均発症年齢が60〜65歳以上のAD症例が複数みられる家系に対して行われる.

分子遺伝学的検査

晩期発症型家族性アルツハイマー病. APOE遺伝子e4アレルのコピーを1つ、もしくは2つ持っていること(すなわち、e2/e4、e3/e4、e4/e4の遺伝子型)と、晩期発症型アルツハイマー病(AD)との関連はよく知られている(表4)[Jarvik et al 1996, Khachaturian et al 2004, Martins et al 2005]:

  • APOE遺伝子e4アレルとADとの関連は、認知症の家族歴を持つ患者で最も強い.表4の右端列は晩期発症型家族性ADを指していると考えてよい.
  • 正常対照群と比較して、 APOE遺伝子e4アレルとADに認められる最も強い相関関係は、 e4/e4遺伝子型に関するものである. この遺伝子型は正常対照群の約1%に生じるが、家族性AD集団では19%近くまで認められる.
  • ADの臨床診断を受けた患者では、APOE遺伝子e4/e4遺伝子型が認められる場合、ADの正診率は約97%にまで上昇する.

    注: APOE遺伝子のe4アレルが1つ、もしくは2つ持つことと、ADリスクの上昇との相関はアフリカ系米国人 [Green et al 2002]、カリブ系ヒスパニック [Romas et al 2002]でも認められる.

  • AD患者の約42%はAPOE遺伝子のe4アレルを1つも持たない.従って、APOE 遺伝子型の存在はADに特異的ではない. APOE遺伝子e4アレルがみられないからといってADの診断が除外されるわけではない[Mayeux et al 1998].
  • Breitner et al [1999] は性差とAPOE遺伝子型に基づいてAD発症リスクを推定した. 「遺伝カウンセリングに関連する問題」、「リスクのある無症状の血縁者に対する検査」 の項を参照のこと.

臨床診断やリスク評価にAPOE 遺伝子型検査がどれほど有効であるかは、いまだ不明である[Statements and Policies Regarding Genetic Testing]:

  • ADの診断の確定にAPOE遺伝子e4アレルが1つもしくは2つ存在することは必要条件でも十分条件でもないが、APOE 遺伝子型が認めれば、ADの診断に補助的な役割を果たすこともある.なぜならば、APOE 遺伝子のe4アレルを1つもしくは2つ持つ認知症患者のうちのかなりの割合で、剖検時にADと確定される神経病理学的画像診断が見られるからである[National Institute on Aging-Alzheimer’s Association Working Group 1996, Mayeux et al 1998].
  • 一方、APOE 遺伝子型検査は晩期発症型認知症の地域サンプルでのAD同定には有効な診断手段でないことが示された[Tsuang et al 1999].

APOE遺伝子e2アレルがAD発症リスクに関して保護的作用を有するとする研究成果もある(表4).

4 対照群及びAD患者におけるAPOE 遺伝子型の割合

APOE 遺伝子型

正常対照群 (n=304)

AD患者 (n=233)

認知症の家族歴があるAD患者 1 (n=85)

e2/e2

1.3%

0%

0%

e2/e3

12.5%

3.4%

3.5%

e2/e4

4.9%

4.3%

8.2%

e3/e3

59.9%

38.2%

23.5%

e3/e4

20.7%

41.2%

45.9%

e4/e4

0.7%

12.9%

18.8%

Jarvik et al [1996]より修正

  1. 大多数の家系を晩期発症型家族性ADとみなすこともできる.

このようなADと APOE遺伝子e4アレルとの相関関係をみる別の角度として、APOE遺伝子e4アレル頻度との関係がある(表5).

5 対照群及びAD患者におけるAPOE アレル頻度

APOE アレル

正常対照群 (n=304)

AD患者(n=233)

認知症の家族歴があるAD患者1 (n=85)

e2

9.0%

3.9%

5.9%

e3

76.5%

60.5%

48.2%

e4

13.7%

35.6%

45.9%

Jarvik et al [1996]より修正

  1. 大多数の家系を晩期発症型家族性ADとみなすこともできる.

早期発症型家族性アルツハイマー病. EOFADの3つのサブタイプとして知られているAD3、AD1、AD4 [Tsuang et al 1999]は、分子遺伝学的検査によってのみ鑑別できる(表3)(分子遺伝学的検査の詳細に関しては、 「早期発症型家族性アルツハイマー病」を参照のこと).孤発例(すなわち、家系内唯一の早期発症型AD)への遺伝学的検査は議論が分かれるところであり、正式な遺伝カウンセリングの文脈で実施されるべきである [van der Cammen et al 2004].


遺伝カウンセリング

「遺伝カウンセリングは個人や家族に対して遺伝性疾患の本質,遺伝,健康上の影響などの情報を提供し,彼らが医療上あるいは個人的な決断を下すのを援助するプロセスである.以下の項目では遺伝的なリスク評価や家族の遺伝学的状況を明らかにするための家族歴の評価,遺伝子検査について論じる.この項は個々の当事者が直面しうる個人的あるいは文化的な問題に言及しようと意図するものではないし,遺伝専門家へのコンサルトの代用となるものでもない.」

遺伝形式

アルツハイマー病(AD)は一般に複数の要因によるものであり、AD患者と血縁者への遺伝カウンセリングは当該家系に関して得られる情報に基づいて実施すること.早期発症型家族性アルツハイマー病は常染色体優勢の遺伝形式をとる. ADは多遺伝子性、多因子性であると考えられている.

親族へのリスク - 遅発型非家族性アルツハイマー病

非家族性AD患者やその血縁者への遺伝カウンセリングは症状中心に、相対的にADにとらわれずに行うこと.ADは一般的な疾患であり、どんな人にも認知症の発症リスクが生涯に約10から12%あることを指摘すべきである.

発端者の両親,同胞,子

  • AD患者の第1度近親者が生涯にADを発症する累積的なリスクは約15〜30%であるが、典型的リスクは20〜25%と報告されている[Farrer et al 1989, Silverman et al 1994]. この数字は背景リスクと比べると約2.5倍である(27%以下:10.4%) [Green et al 2002, Cupples et al 2004].
  • 患者の発症年齢が第1度近親者のリスクに影響を与えるかに関しては、議論が分かれる. 早期発症型ADではリスクが高まるとする研究もあれば [Silverman et al 1994]、そうでないとする研究もある[Farrer et al 1989].
  • 家系内での罹患者数が増えると近親のリスクは高まるだろうが、家系内での分布が常染色体優性遺伝の特徴を呈していない限り、リスクがどれぐらい増えるかは不明である.罹患する血縁者が2人、3人以上となると、これは上述の非家族性症例の数字を上回るものとなるため、第1度近親者のリスクは高まると考えられるが、その程度は不明である. Heston et al [1981] は、両親がADだったり、70歳以前にADを発症した同胞がいたりする場合の認知症リスクを35〜45%とした.また Jayadev et al [2008]は、両親ともADである子の認知症発症リスクが高いことを示す予備データを報告した..

親族へのリスク − 早発型家族性アルツハイマー病

発端者の両親

  • 早期発症型アルツハイマー病と診断された者の家系内には、もう1人AD患者がいることが多いが、その時点での家族歴が陰性の場合が40%である[Campion et al 1999].
  • 親の早期死亡、血縁者の発病に気付かなかった場合、もしくは、稀であるが新生突然変異により、家族歴が「陰性」な場合もある.

発端者の同胞 

  • 同胞のリスクは発端者の両親の遺伝状況による.
  • 発端者の両親の1人に変異アレルがあれば、同胞が変異アレルを受け継いでいる可能性は50%である.

発端者の子 

早期発症型家族性アルツハイマー病の患者が、それぞれの子に変異アレルを遺伝する確率は50%である.

発端者とその他の血縁者 

他の血縁者のリスクは発端者の両親の遺伝状況による.親の1人が罹患している場合、その血縁者にはリスクがある.

遺伝カウンセリングに関連した問題

発症予測目的の遺伝子型検査認知症患者に対する補助的診断検査としての APOE 遺伝子検査は便利であるが、ADの発症予測検査として無症状者に対するAPOE遺伝子検査を行うことには慎重であるべきだという一般的な合意がある. APOE e4/e4遺伝子型を持つ若年無症状者のAD発症生涯リスクが約30%であるとのデータがある.この数字をさらに精緻化すると、APOE e4/e4遺伝子型の女性が73歳までにADを発症する確率は45%となるが、男性のリスクは25%である [Breitner et al 1999]. これらのリスクはAPOE 遺伝子にe4アレルを1つしか持たない場合、1つも持たない場合には低下し、発症年齢はより高齢化すると考えられる(e4アレル1つ場合のピーク年齢は87歳、e4アレルを持たない場合は95歳). これらの推測値は一般的に臨床的に有用でないと考えられている。しかし、晩期発症型AD患者の血縁者に対する今後のAPOE 遺伝子型検査の有用性を評価する研究試験が現在進行中である [Green 2002, Roberts et al 2005, Green et al 2009].

ダウン症候群

ダウン症候群者の血縁者ではAD発症リスクは高まらない.

リスクのある無症状の家族に対する検査 

  • リスクのある無症状成人に対する検査

    PSEN1遺伝子、PSEN2遺伝子、APP遺伝子の変異による早期発症型家族性アルツハイマー病(EOFAD)のリスクを持つ無症状成人に対する検査は臨床的に実施されている. リスクのある無症状成人に対する検査は患者家系の発病性変異が同定されて初めて行うことができる. なんら特異的な症状や疑わしい徴候がない有リスク無症状者への検査は予測的なものであり、診断のための検査ではないことに留意すべきである.

比較的少数の血縁者がこのような検査を受けることを選んでいるが、通常、人間関係や精神衛生に影響を与えかねない検査結果をうまく受け止めていることが予備的な結果で示された [Steinbart et al 2001]. しかし、このような検査後の重篤な抑うつ症状も報告されている[Quaid et al 2000].

  • リスクのある子どもに対する検査

    成人発症性疾患にリスクがある者に対して、症状の見られない小児期に検査をすべきでないというコンセンサスがある.このような検査に反対する基本的な論点は、彼らの知る権利・知らない権利が剥奪されるという点であり、家族関係やその他の社会的人間関係のなかで烙印付けがされる可能性があるという点あり、教育的職業的影響が深刻なものになりうるという点である.(子どもに対する遺伝子検査に関するアメリカ遺伝カウンセラー学会の決議文を参照のこと.アメリカ人類遺伝学会は考慮すべき点として、小児期青年期における遺伝子検査における倫理的、法的、心理社会的影響を挙げている. )

DNAバンキングは、将来の使用のために、通常は白血球から調整したDNAを貯蔵しておくことである.検査手法や、遺伝子、変異、疾患への理解は将来改善する可能性があり、患者のDNAを貯蔵しておくことは考慮されるべきである.ことに現在行っている分子遺伝学的検査の感度が100%ではないような疾患に関してはDNAの保存は考慮すべきかもしれない.このサービスを行っている機関についてはDNA bankingの項を参照のこと.

出生前診断

アルツハイマー病の幾つかのタイプのリスクが高い妊娠に対する出生前診断は、通常胎生週数15−18週ごろに実施される羊水検査や胎生週数10−12週ごろに実施される絨毛膜絨毛生検(CVS)により採取された胎児細胞から抽出したDNA解析により可能である. 出生前診断の実施以前に、家系内患者の発病性アレルを同定すること. 出生前診断を実施している施設は疾患ごとにGeneTests Laboratory Directory に掲載されているが、graphic elementも参照のこと.
注:胎生週期とは最終月経の第1日から換算するか、超音波による計測によって算出される.

成人期発症性疾患に対する出生前診断への希望は稀である.出生前診断の実施には、専門医のあいだでも家族によっても考え方が異なるだろう.特に、検査が妊娠中絶を考慮したうえで行われる場合にはなおのことである.たいていの医療機関では出生前診断を受けるかどうかの決定は両親の選択に委ねると考えるであろうが、この問題について話し合うことが大切である[Quaid et al 2000].

着床前遺伝子診断 (PGD) は発病性変異が同定されている家系に実施される. PGDを行っている施設に関してはgraphic elementを参照のこと. APP遺伝子変異を1つ持つ母親に対して行われた着床前診断について報告がなされている[Towner & Loewy 2002, Verlinsky et al 2002].

臨床的マネジメント

症状に対する治療

アルツハイマー病(AD)の治療の主流は支持療法となるしかなく、それぞれの症状に対して患者に合った対処がなされる[Bird & Miller 2008]. 一般に患者は通常、最終的には生活支援設備やケア体制の整った施設での介護が必要となる.

ADの正確な生化学的基盤はよく理解されていないが、脳内コリン作動系とその他の神経伝達物質に欠陥がみられることが知られている. アセチルコリンエステラーゼを阻害してコリン作動性を亢進させる薬剤により、行動や認知機能面でわずかではあるが有益な改善がみられる患者も少数いる. このような薬剤の第1号はタクリンであったが、この薬は肝毒性も伴った. ドネペジル(アリセプト(R))[Feldman et al 2004, Seltzer et al 2004, Petersen et al 2005]、リバスチグミン(エクセロン(R)) [Feldman et al 2007]、ガランタミン[Raskind et al 2000, Tariot et al 2000, Mega et al 2005, Reisberg et al 2006, Atri et al 2008] といった同様の薬物動態作用を持つより新しい薬剤には肝毒性がない.

NMDA受容体拮抗薬のメマンチンは中等度から重度のAD治療にいくらかの有効性を持つことが示された[Reisberg et al 2003, Tariot et al 2004].

抗鬱剤には併発する抑うつ症状を改善させる可能性がある.

興奮のコントロールはきわめて困難である[Teri et al 2000, Mintzer et al 2006].

研究中の治療法

抗炎症薬(NSAID)、エストロゲン、神経成長因子、イチョウ、スタチン、BACE 阻害薬、抗酸化剤の治療の評価試験が現在行われており、最近レビューがまとめられた[Overshott & Burns 2005, Klafki et al 2006, Masters & Beyreuther 2006].

種々の疾患に対する臨床試験についてはClinicalTrials.govを参照のこと.

各種ビタミン剤や諸々のOTC(over-the-counter)医薬品(訳注:処方箋なしで薬局で購入できる薬品)がAD治療に用いられている [Yaffe et al 2004].
高コレステロール血症治療のためにHMG-CoA還元酵素阻害薬を摂取した患者が認知症となる割合が低いとする報告もあるが、全ての研究で認められているわけではない [Wolozin et al 2000, Li et al 2004].
ADマウスにβアミロイドワクチンを接種したところADの病理が軽減したことから、ヒトのAD治療でもワクチンという方法を模索する研究に弾みがついた[Schenk et al 1999]. このアプローチのヒトでの治験は少数の被験者に脳炎が生じたために中断した[Check 2002, Ferrer et al 2004, Holmes et al 2008]. このモデルを用いた別のアプローチが現在研究中である.
現時点では、症状が現れているAD患者へのエストロゲン治療は奏効していない[Mulnard et al 2000, Wang et al 2000].
遺伝クリニック  遺伝専門医のいる遺伝クリニックは患者や家族に自然経過、治療、遺伝形式、患者家族の遺伝的発症リスクに関する情報を提供とするとともに、患者サイドに立った情報も提供する.GeneTests Clinic Directoryを参照のこと.

Consumer Resources では、この疾患について、疾患別の支援グループや複数疾患にまたがった支援グループが掲載されている.これらの組織は患者やその家族に情報、支援、他の患者との交流の場を提供する.

関連情報

この疾患に関する疾患別の支援グループや複数疾患にまたがった支援グループに関しては、Consumer Resourcesを参照のこと.これらの組織は患者やその家族に情報、支援、他の患者との交流の場を提供するため設立されたものである. GeneTestsは、読者の便宜を図って、あらかじめ組織と情報を選んで掲載している.GeneTestsはこの他の組織によって提供された情報には責任を持たない.編集者注.

参考文献

遺伝医学的検索:臨床医向けのPubMedの専門的検索は、PubMed Clinical Queries ページを参照のことgraphic element


原文 Alzheimer Disease Overview

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