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アンドロジェン不応症候群
(Androgen Insensitivity Syndrome)

[Androgen Resistance Syndrome, Testicular Feminization. Includes: Complete Androgen Insensitivity Syndrome (CAIS), Partial Androgen Insensitivity Syndrome (PAIS), Mild Androgen Insensitivity Syndrome (MAIS)]

GeneReview著者:Bruce Gottlieb, PhD, Lenore K Beitel, PhD, Mark A Trifiro, MD
日本語訳者:櫻井晃洋(信州大学医学部附属病院遺伝子診療部)
GeneReview最終更新日:2006.9.19 日本語訳最終更新日:2007.1.7

原文 Androgen Insensitivity Syndrome


要約

疾患の特徴

 典型的なアンドロジェン不応症候群(androgen insensitivity syndrome, AIS)では,46,XYの核型を有する人において,出生時の外性器の女性化や不完全男性化,思春期の二次性徴の異常や不妊をきたす.AISはアンドロジェン作用不全の程度によって大きく3種の表現型に分類される:完全型(complete androgen insensitivity syndrome,  CAIS)は完全な女性型外性器を有する;不全型(partial androgen insensitivity syndrome, PAIS)では外性器は女性に近い場合,男性に近い場合,あいまいな場合がある;軽症型(mild androgen insensitivity syndrome, MAIS)では外性器は男性型である.

診断/検査

 AISの診断は外性器の不完全男性化,精子形成不全,ミュラー管由来器官の欠失もしくは未発達,正常もしくは亢進したテストステロン合成と正常なジヒドロテストステロンへの変換,正常もしくは亢進した黄体ホルモンレベル,性器皮膚線維芽細胞でのアンドロジェン結合能の欠如もしくは低下,などを呈し,染色体核型が46,XYであることを確認することでなされる.アンドロジェン受容体(AR)遺伝子(Xq11-q12)の分子遺伝学的検査では完全型AISの発端者の95%以上で変異を検出できる.不全型,軽症型AISにおける検出率は明らかでない.

臨床的マネジメント

精巣の悪性腫瘍を予防するため,CAISでは二次性徴が完了した思春期以降に精巣摘出を行うか,思春期以前に精巣摘出を行ってその後エストロジェン補充を行うかする.CAISに対する他の治療としては性交痛を防ぐための膣拡張術が行われる.PAISに対する治療としては,外性器が女性に近い場合は基本的にCAISと同様であるが,思春期の陰核肥大を回避するために思春期前に性腺摘出を行うことが多い.外性器が男性に近い場合には,両親やヘルスケア専門科はどちらの性で育てるかをできるだけ早期に決定する必要がある.男性として育てる場合には精巣固定術や尿道下裂の修復を行う.女性として育て,思春期以降に性腺摘出を行う場合にはエストロジェンとアンドロジェン両者の補充療法が必要となる.MAISの男性は女性化乳房に対する手術が必要となる場合がある.アンドロジェン投与の試みは乳児期における男性化を促進するのに有用かもしれない.診断の告知は,専門的支援と家族への支援のもとに,共感的な雰囲気のもとで行うのが望ましい.定期的なチェックには男性として育てられている者に対する女性化乳房の評価も含まれる.

遺伝カウンセリング 

AISはX連鎖劣性遺伝の形をとる.罹患した46,XY患者はほぼ常に不妊である.保因者女性は50%の確率で変異AR遺伝子を子に伝える.病因となっている遺伝子変異が明らかにされている家系では,変異解析による保因者診断が臨床的に提供可能である.保因者女性が妊娠した場合には,保因者診断も考慮できる.


診断

臨床診断

AISは3種の表現型に分類される:完全型(complete androgen insensitivity syndrome,  CAIS),不全型(partial androgen insensitivity syndrome, PAIS),そして軽症型(mild androgen insensitivity syndrome, MAIS)である.

AISの推定診断の根拠としては以下のような所見が含まれる

  • 性器以外に異常がないこと
  • 形成不全のない精巣
  • ミュラー管由来器官の欠如もしくは形成不全(卵管,子宮,頚管の欠如)と短い膣の存在
  • 出生時の外性器の不全男性化
  • 思春期時の精子形成不全や身体の男性化不全

表1 AIS表現型の分類

外性器

所見

CAIS

女性(精巣女性化)

  • ウォルフ管由来器官の欠如や低形成
  • 精巣上体・精管は存在することもしないこともある
  • 停留睾丸
  • 短い盲端の膣
  • 恥毛,腋毛が薄いか欠如

PAIS

女性に近い

  • 停留睾丸
  • 陰核肥大と陰唇癒合
  • 尿道口と膣口の別個の開口または尿生殖洞

不明瞭

  • 陰核様の小陰茎(<1cm),大陰唇様の二分陰嚢
  • 下降もしくは停留睾丸
  • 会陰陰嚢尿道下裂または尿生殖洞
  • 思春期の女性化乳房

男性に近い

  • 単純(陰茎)または重症(会陰)尿道下裂正常大の陰茎と下降した睾丸を伴う尿道下裂,または小陰茎,二分陰嚢,下降もしくは停留睾丸を伴う重症尿道下裂
  • 思春期の女性化乳房

MAIS

男性(男性化不全)

  • 精子形成不全,思春期男性化不全
  • 思春期の女性化乳房

CAISの診断は通常臨床所見と検査所見のみでなされる.

PAISやMAISでは,診断に有用な検査所見がすべての罹患者で得られるわけではないので,その診断にはX連鎖性遺伝に合致する家族歴が必要となる場合もある.

検査

AISの診断には以下の検査所見が必要とされる.

  • 46,XYの核型
  • 睾丸による正常もしくは亢進したテストステロン合成
  • 正常なテストステロンからジヒドロテストステロンへの変換
  • 下垂体による正常もしくは亢進した卵胞ホルモン合成
  • CAISの場合には(PAISにはあてはまらない),生後0-3か月の血中LHとテストステロンの一過性上昇
  • 性器皮膚線維芽細胞でのアンドロジェン結合能の低下もしくは欠如

家族歴

CAISの診断は臨床所見や検査所見のみでなしうる;しかしながらPAISやMAISの診断はX連鎖性遺伝に合致する家族歴が必要となる場合もある.「他の罹患した家族」には以下の両者が含まれる.

  • 罹患した46,XY患者
  • 46,XX女性で有所見の者.約10%の保因者女性は恥毛や腋毛の発生の遅れや左右非対称の分布といった所見を認める.

男性に近い表現型を呈する散発例においてPAISの診断を可能にする他の所見としては以下があげられる.

  • 超音波や造影検査で確認された前立腺やウォルフ管由来器官の形成不全
  • 蛋白同化ステロイド,スタノゾロールに対する性ホルモン結合グロブリン(SHBG)低下反応の不良
  • 生後1年間や思春期発来後の抗ミュラー管因子の高値

分子遺伝学的検査

遺伝子 ARはアンドロジェン不応症候群に関連している唯一の遺伝子である.直接シークエンスによりCAISの90%以上,PAISの50%以下でAR遺伝子に原因となる変異を認める.MAISにおいてAR遺伝子変異を有する比率は不明である.

分子遺伝学的検査:臨床応用

  • 確定診断
  • 保因者診断
  • 出生前診断

分子遺伝学的検査:検査方法

シークエンス解析 全8エクソンのシークエンス解析では95%以上のCAISで変異検出が期待できる.PAISやMAISでの変異検出率は明らかでないが,PAISでは50%未満,MAISではさらに低い.

性器皮膚線維芽細胞でのアンドロジェン結合能の欠如/低下がある場合には,AR遺伝子のアンドロジェン結合ドメインに変異がある確率が40%に達する.アンドロジェン結合能が正常の場合にはAR遺伝子に変異を検出できる可能性は,エクソン1を含めて全領域を検索した場合でも10%以下である.

表2は本症の分子遺伝学的検査をまとめたものである.

表2 AISで用いられる分子遺伝学的検査

検査法

変異の検出

変異検出率

シークエンス解析

AR遺伝子変異

  • CAISの95%以上
  • PAISの50%未満
  • MAIS では不明

検査結果の解釈

  • アンドロジェン結合能低下を伴う変異陰性例の一部は以下の機序によるものである.
    • AR遺伝子の発現調節部位やイントロンなど,現在の検査法では検出できない部位の変異によるもの
    • 「タイミング」の問題,すなわち正常なアンドロジェン合成能やアンドロジェン反応性の獲得が男性性器形成に重要な時期よりも遅れてしまったため
  • AR遺伝子と共役する因子の遺伝子変異やアンドロジェンの制御に関わる遺伝子の変異もこうした症例の原因を説明しうる.
  • AR遺伝子の体細胞モザイクが生じれば,性器の皮膚ではAR遺伝子変異が生じているが白血球では変異が存在しないということもありうる.

発端者の検査手順

  1. 発端者の血液から抽出したDNAでAR遺伝子変異のシークエンス解析を行う.
    注)もし発端者の母親からの検体も得ることができれば有用である.
  2. もしAR遺伝子変異が確認できない場合は,性器皮膚線維芽細胞でアンドロジェン結合能を評価する.

遺伝学的に関連した疾患

AR遺伝子のCAGリピートの伸長は球脊髄性筋萎縮症(SBMA; Kennedy症候群)の原因となる.

他にAR遺伝子変異が関与する疾患には以下のものがある.

  • 前立腺がん
  • 男性乳がん
  • 喉頭がん

さらに,AR遺伝子のCAGリピート長の変化は以下の疾患と関連している.

  • 前立腺がん
  • 男性不妊
  • 女性乳がん
  • 子宮内膜がん
  • 大腸がん

臨床像

自然経過

完全型AIS(CAIS;精巣女性化症候群) 
CAISでは正常の女性型外性器を有する.典型例では思春期以前に睾丸がそ径部腫瘤として見つかったり,思春期に無月経や性毛の発毛不全で気づかれたりする.乳房発育や皮下脂肪沈着は正常の女性と同様である.性のアイデンティティーや指向は影響されない.

CAISはほとんど常にごく普通の女性である.すなわち罹患したXY女性は正常な女性外性器を有し,陰核肥大や陰唇癒合のような男性化徴候を認めることはほとんどない.時にウォルフ管の発達が認められる.

不明瞭な外性器やほぼ女性型の外性器を有する部分型AIS(PAIS
臨床像はCAISに似ているが,陰核肥大や陰唇癒合のような男性化徴候が認められる.

不明瞭な外性器もしくはほぼ男性型の外性器を有するPAIS(Reifenstein症候群)
児の性別の決定が問題となる.PAISの家系では,表現型の不釣合いが反対の性を選択する根拠となる.ほぼ男性型の外性器を有するPAISでは男性として育てられる.思春期の女性化乳房と精子形成不全はPAISの全例にみられる.恥毛の量は通常中等度である.顔面,体幹の体毛,腋毛はしばしば少ない.

軽症型AIS(MAIS)
外性器は通常明瞭な男性型である.罹患者は通常思春期に女性化乳房をきたす.時に顔面や体幹の体毛に乏しく小陰茎を有するなどの不全男性化を示すこともある.インポテンスが本人の訴えとなることもある.精子形成は正常のことも障害されていることもあり,男性不妊が唯一の訴えである場合もある.したがって特発性男性不妊の一部はMAISによるものと考えられる.

MAISはほぼ常に家族性にみられる.

遺伝子型と表現型の関連

一部のAR遺伝子ミスセンス変異では,蛋白機能と外性器発達との間に相関がみられ,特にCAISで顕著である.

PAISでは相関はそれほど明瞭ではなく,家系内でも表現型の個人差がみられる.

ARデータベースでは同じ変異で異なるAIS病型を生じるものが25以上登録されている.

一部の点変異で表現型に差があることについては,「バックグラウンド」の遺伝的素因の影響よりも体細胞モザイクによるものであると考えられる.体細胞モザイクが表現型の多様性を生じる機序については,Gottliebら(2001)が詳細に考察している.

一部のミスセンス変異が精子形成能の異常や女性化乳房,高い声,インポテンスといった男性化不全の発現に関与しているかどうかについてはまだ明らかにされていない.

さまざまな病型のAISの原因となる他に,AR遺伝子変異はがん,特に前立腺がんとの関連が知られている.がんと関連する遺伝子変異はAISで認められる機能喪失型変異とは異なり,機能獲得型変異である.

浸透率

軽症罹患者,特に不妊だけが臨床症状の罹患者では分子遺伝学的検査が行われないので,浸透率に関する確実なデータは存在しない.

表現促進現象

AISでは表現促進現象は知られていない.

病 名

以前用いられた「精巣女性化症候群」あるいはアンドロジェン抵抗性症候群という病名は最近はほとんど用いられない.

頻 度

CAISの頻度は2-5人/100,000人と記載されている.これは他に異常がなく,そ径あるいは腹部に組織学的に正常な睾丸が確認された女性の数から推測されている.オランダでの10年以上にわたる調査では,AISの頻度は最低で1人/99,000人と算出された.

PAISは少なくともCAISと同程度の頻度である.

MAISの頻度は不明である.


鑑別診断

本稿で扱われる疾患に対する遺伝学的検査の実施可能性に関する最新情報は,GeneTests Laboratory Directoryを参照のこと.―編集者注.

AR遺伝子変異による(したがってPAISの部分症である)尿道下裂は局所の検索のみでは他の理由(多くは不明である)による尿道下裂との鑑別はできない.

何人かの研究者は種々の原因による尿道下裂のうちどの程度がAR遺伝子変異によるものかを調べた.Sutherlandらは陰茎尿道下裂40例のうち1例にAR遺伝子変異を同定した.Hiortらは陰茎尿道下裂12例ではAR遺伝子変異を見つけられなかったが,重度(陰嚢,会陰)尿道下裂患者9例のうち1例に変異を見出した.Batchらは単発性の重度(会陰)尿道下裂の2兄弟にAR遺伝子変異を同定した.Alleraらは重症尿道下裂の9例のAR遺伝子をシークエンスし,1例に変異を同定した.McPhaulらはAlleraらが検討した残りの8例のうち2例で,性器皮膚線維芽細胞にアンドロジェン反応性レポーター遺伝子を組み込んだアデノウイルスを導入しARが標的遺伝子を活性化できないことを示した.

AR遺伝子の点変異によるMAISはAR遺伝子のCAGリピート伸長によるMAISと臨床的に鑑別できない.このトリプレットの病的伸長は球脊髄性筋萎縮症(Kennedy症候群)の原因となる.

外性器の男性化不全と思春期の二次性徴の不全はAR遺伝子と無関係な多くの症候群の部分症である.これらはAR蛋白と関係があるかもしれない.例外のひとつはAR遺伝子を含む領域の欠失による隣接遺伝子効果によるもので,精神発達遅滞と外性器異常をきたす.

外性器異常をきたす46,XY個体で他の疾患を示唆する所見としては以下のものがある.

  • テストステロン生合成の部分的異常により前駆体のレベルが上昇し,代償的な卵胞ホルモン上昇によってテストステロンレベルが正常に保たれている場合
  • セルトリ細胞による抗ミュラー管因子の合成不全を伴う睾丸形成異常によってミュラー管由来器官が遺残している場合
  • テストステロンによって分化すべきウォルフ管由来男性内生殖器構造の遺残は5α還元酵素の欠損を示唆する.しかしこの遺残はテストステロン生合成不全やPAISでもみられる.

AIS患者の臨床像で考慮すべきいくつかの問題がある.

  • 出生後のテストステロン,ジヒドロテストステロン,卵胞ホルモンが正常であることは,必ずしも胎児期の外性器男性化に重要な時期にこれらホルモンが正常であったことを意味しない.
  • 出生後のアンドロジェン反応性が正常であることは,胎児期にも正常であったことを意味しない.正常なアンドロジェン生合成やアンドロジェン反応性の獲得の遅れが出生後のアンドロジェン不応の原因となりうる.
  • 出生後のアンドロジェン反応性の低下はアンドロジェン受容体自体だけでなく他の関連因子の異常による可能性がある.

臨床的マネジメント

最初の診断時における評価

性器皮膚細胞でのアンドロジェン結合能の評価はその後のホルモン療法の効果を予測するのに役立つ.

病変に対する治療

最近の総説(Hughes et al. 2006)ではAISを含む性分化異常に対する標準的マネジメント法を模索している.

CAIS 通常行われるのは思春期以後女性化が完了した時に睾丸を摘出することである.なぜならば女性化は一部睾丸からのエストロジェンによって,また一部は末梢でのアンドロジェンからエストロジェンへの変換によっておきるからである.

思春期以後に性腺を摘出するのは停留睾丸の場合と同様悪性化するリスクがあるためであり,これは思春期以前にはほとんどおこらない.そ径の睾丸が身体的もしくは美容的に不具合を生じたり,ヘルニア縫合術が必要となったりする場合には思春期前の睾丸摘出術が考慮される.この場合,思春期発来と女性化の維持,そして骨粗鬆症を予防するためにエストロジェン補充が必要となる.

膣は性交疼痛症を避けるために拡張術が必要となるほど短い場合がある.

問題は罹患者本人に対し,いつどの程度までCAISについて告げるかということであるが,これについては統一された答えはない.しかしながら,家族や専門家,他の罹患者からのサポートが得られないような状況で診断を隠されたり自分で診断に気づいたりするよりも,しっかりした環境で全般的な診断や情報の提供をするほうが望ましいという点は次第に明らかになりつつある.

女性に近い外性器を示すPAIS 思春期に進行する陰核肥大による心理的不快を避けるため,性腺摘出術の意義があることを除けば,問題はCAISの場合と同様である.

体細胞モザイクのためにPAISの診断が困難な場合には,性の変更は問題を生じることがある.

不明瞭もしくは男性に近い外性器を示すPAIS 新生児の外性器が不明瞭であったときに,性別をどちらにするかがもっとも重要な事項である.両親やヘルスケアパートナーによる細心の注意をはらった決定が求められ,かつ可能な限り早く決定されるべきである.純粋に解剖学的もしくは外科的な問題だけでなく,男性として育てることを選ぶ場合には,思春期のアンドロジェン反応性を期待して薬理学的量のアンドロジェン投与を試みる必要がある.さらに,アンドロジェンによる陰茎の成長が再建手術を容易にする.

性別を決定する前に可能な限りの情報を集めてもAISの家族歴がない場合には,AR遺伝子の検索が考慮される.しかしながら,性別を決定する際には,PAISでは変異検出率が低いこと,変異が見つかっても表現型の予測にはあまり役立たないことを認識しておく必要がある.アンドロジェン受容体の機能を評価しておくことはアンドロジェン投与の効果の予測,ひいては性別の決定に有用である.

症例経験も少ないので,男性として育てられたPAIS患者に対する長期のアンドロジェン投与の効果は明らかではない.AR遺伝子のDNA結合ドメインにミスセンス変異を有する患者においてはアンドロジェン療法に対する反応が得られると信じるに足りる理由がある.

思春期の女性化乳房に対しては最終的には乳房形成術が必要となる.

女性として育てられ,思春期以後に性腺摘出術を受けたPAIS患者ではエストロジェンとアンドロジェンの混合補充療法が必要となる.後者の補充はリビドーを保つためである.

MAIS MAISの男性は時に女性化乳房に対して乳房形成術が必要となる.

男性化を促進するためにアンドロジェン補充療法が薦められる.

一次病変の予防

アンドロジェン補充療法に,女性化乳房のような一次病変を予防する効果があるかどうかは不明である.

定期検査

  • 生下時に不明瞭であった外性器の発育を追跡する.これによって性別の再考も必要となりうる.
男性として育てられる罹患者に対しては思春期の女性化乳房の評価を行う.

研究中の治療法

種々の疾患や病態に対する臨床試験の情報については,ClinicalTrials.gov を参照のこと.

遺伝カウンセリング

「遺伝カウンセリングは個人や家族に対して遺伝性疾患の本質、遺伝、健康上の影響などの情報を提供し、彼らが医療上あるいは個人的な決断を下すのを援助するプロセスである。以下の項目では遺伝的なリスク評価や家族の遺伝学的状況を明らかにするための家族歴の評価、遺伝子検査について論じる。この項は個々の当事者が直面しうる個人的あるいは文化的な問題に言及しようと意図するものではないし、遺伝専門家へのコンサルトの代用となるものでもない。」

遺伝形式

AISはX連鎖劣性遺伝形式をとる.

家族のリスク

46,XY発端者の両親

  • 発端者の父は罹患しておらず保因者でもない.
  • 罹患した子を持ち,かつ他にも罹患した親族がいる女性はヘテロ接合体の保因者である.
  • もし女性が罹患した子を持ち,かつ白血球から抽出したDNAで遺伝子変異が確認できない場合,彼女は生殖細胞モザイクを有している.
  • 家系図上発端者が唯一の罹患者である場合には,発端者の母や家系内の他の46,XX女性の遺伝的状況についてはいくつかの可能性が考えられる.
  1. 罹患者がAR遺伝子の新生突然変異を有する場合.これには2つの機序が存在する.
    • 生殖細胞系列変異 変異は受精卵の時点で存在しており,したがって罹患者の身体全体に存在している.この場合,罹患者の母は変異を有しておらず他の家族にはリスクはない.
    • 体細胞モザイク 変異は受精以降におきたため,罹患者の身体の一部に存在している.この場合罹患者の母が変異を有している確率は低いがゼロではない.
  1. 罹患者の母が新生突然変異を有している.母親にこの変異が生じる機序としては以下の2つがある.
    • 生殖細胞系列変異 変異は受精時に卵子や精子に存在しており,したがって母親の身体全体に存在している.この変異は血液検体で検出できる.
    • 生殖細胞モザイク 変異は母の卵巣の一部の細胞に存在しており,血液検体では検出できない.
    • 体細胞モザイク 変異は母の卵巣と体細胞の一部に存在しており,白血球DNAで変異が検出される場合もされない場合もある.

いずれの場合も子は変異AR遺伝子を受け継ぐリスクを有している.一方母の同胞は変異遺伝子を受け継いでいない.

  1. 罹患者の母方祖母が新生遺伝子変異を有している.この場合,母方祖母から生まれた女性全員が変異AR遺伝子を有している可能性がある.
    • CAISまたはPAISが1例だけ確認された30家系のうち22家系で,母親がAR遺伝子変異をヘテロで有していた.新生突然変異であった8例のうち,3例は体細胞モザイクであった.

発端者の同胞 

  • 同胞のリスクは母の遺伝学的状況による.
  • もし母が保因者であれば,子は50%の確率で変異遺伝子を受け継ぐ.
  • 変異を受け継いだ46,XYの子は罹患する.
  • 46,XXの子は保因者となる.
  • もし家系内で唯一の罹患者の母親で変異が検出されないならば,同胞のリスクは低いが,一般人口集団のそれよりは高い.生殖細胞モザイクの可能性が残されるからである.

発端者の子 AISの型(CAIS,PAIS,MAIS)にかかわらず,46,XYの人は不妊である.

発端者女性の子 

  • AR遺伝子変異を有する女性の子は以下のそれぞれについて25%のリスクを有する.
    • 46,XYで罹患する
    • 46,XYで罹患しない
    • 46,XXで保因者となる
    • 46,XXで保因者とならない
  • CAISやMAISの46,XYの子の表現型は予測可能である.PAISの性器の表現型は家系内での個人差は小さいが,異なる家系では同じ変異でも表現型に差が大きく,これが遺伝カウンセリングをより難しいものにしている.

保因者診断

女性保因者は以下の方法の組み合わせによって同定することができる.

  • 家族歴
  • 臨床所見 保因者の10%は陰毛や腋毛の生育が左右非対称であったり,少なかったり,遅れたりする.これはランダムなX染色体不活化による.陰毛や腋毛の生育が正常であることは保因者の可能性を否定するものではない.
  • 分子遺伝学的検査 発端者でAR遺伝子変異が同定されれば臨床的に保因者診断を行うことができる.
  • 性器皮膚線維芽細胞のアンドロジェン結合能評価 例外的な場合(AR遺伝子変異が見つからない場合)を除けば,46,XYの罹患者は性器皮膚線維芽細胞のアンドロジェン結合能が障害されている.単一細胞クローンを用いた検討によってヘテロ接合体も同定することができる.

遺伝カウンセリングに関連したその他の問題

性別の決定 新生児の外性器が不明瞭であったときに,性別をどちらにするかがもっとも重要な事項である.両親やヘルスケアパートナーによる細心の注意をはらった決定が求められ,かつ可能な限り早く決定されるべきである.

診断の告知 AIS患者本人に対し,どの程度まで,そしていつ診断を告げるかということについては統一された答えはない.しかしながら,家族や専門家,他の罹患者からのサポートが得られないような状況で診断を隠されたり自分で診断に気づいたりするよりも,しっかりした環境で全般的な診断や情報の提供をするほうが望ましいという点は次第に明らかになりつつある.

家族計画 遺伝学的なリスクの評価,保因者診断,出生前診断の可能性などは妊娠前に行っておくのが望ましい.

DNAバンク DNAバンクは主に白血球から調製したDNAを将来の使用のために保存しておくものである.検査法や遺伝子,変異あるいは疾患に対するわれわれの理解が進歩するかもしれないので,ことに現在行っている分子遺伝学的検査の感度が100%ではないような疾患に関してはDNAの保存は考慮すべきかもしれない.このサービスを行っている機関についてはDNA bankingの項を参照のこと.

訳注)日本ではこのようなサービスは行われていない.

出生前診断

変異解析による出生前診断は家系内で原因となるAR遺伝子変異が判明している場合に可能となる.通常の手順では胎生10−12週に採取した絨毛や16−18週*に採取した羊水中細胞を用いて染色体検査を行い胎児の性染色体を調べる.もし胎児の性染色体がXXであれば,それ以上の検査は不要である.もしXYであるならば,DNAを抽出して分子遺伝学的検査の項に記載したのと同じ方法で解析を行う.

アンドロジェン不応症のように知的障害をきたさず何らかの治療法が存在する疾患に対する出生前診断の希望は多くはない.専門家の間や家族内においても,特にそれが早期診断ではなく妊娠中絶を目的とした場合には,出生前診断に対する考え方の違いが存在しうる.多くの専門機関は出生前診断については夫婦の自己決定の問題だと考えているが,この問題については注意深く議論することが適切である.

すでに家系内の罹患者で遺伝子変異が同定されている場合には,着床前診断が提供可能となる.

訳注)日本では行われていない.

更新履歴

  1. 日本語訳者 :櫻井晃洋(信州大学医学部附属病院遺伝子診療部)
    GeneReview最終更新日:2004.4.8 日本語訳最終更新日:2004.10.1
  2. 日本語訳者 :櫻井晃洋(信州大学医学部附属病院遺伝子診療部)
    GeneReview最終更新日:2006.9.19 日本語訳最終更新日:2007.1.7 (in present) 

原文 Androgen Insensitivity Syndrome

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