Gene Reviews著者: Stephen G Kaler, MD, MPH and Andrew T DiStasio, PhD
日本語訳者:米川裕子、升野光雄、山内泰子(川崎医療福祉大学大学院 医療福祉学研究科 遺伝カウンセリングコース)
GeneReviews最終更新日: 2021.4.15. 日本語訳最終更新日: 2023.12.7.
原文: ATP7A-Related Copper Transport Disorders
疾患の特徴
メンケス病、オクシピタル・ホーン症候群(OHS)、ATP7A関連遠位運動ニューロパチー(DMN) は、X連鎖遺伝子で、銅輸送アデノシントリホスファターゼ(ATPase)をコードする、ATP7Aの病的バリアントによって引き起こされる疾患である。古典的メンケス病は、通常、正常な妊娠と出産の後、6週から12週の健康な期間の後に現われる。摂食困難および/もしくは痙攣が、通常現れる初期症状である。家族歴が知られていないか、疑われない場合は、診断の評価に数か月を費やし、それまでに筋緊張低下と重大な神経発達遅滞が明らかになる。OHSは神経学的に軽度で、小児期後期もしくは青年期まで認識されない。どちらの表現型も血清銅の値が低く、かき乱された銅代謝の他の症状として、結合組織の弱さを含む。一方、ATP7A関連DMNは通常、成人期早期に、明白な銅代謝異常がない、孤立性(限局性)筋力低下と筋萎縮を呈する。
診断・検査
メンケス病とOHSは、腸管の銅吸収が減少した結果、いくつかの組織の銅の濃度低下、他の組織での銅の蓄積、ドーパミンベータヒドロキシラーゼ(DBH)やリシルオキシダーゼなどのような銅依存性酵素の活性低下によって特徴付けられる。血清銅濃度と血清セルロプラスミン濃度は、メンケス病とOHSで低下しているが、ATP7A関連DMNでは正常である。とりわけ、生後数か月の健康な新生児では、血清銅と血清セルロプラスミンの値が低い。したがって2か月未満の乳児では、これらは確実な診断のバイオマーカーにはならない。
ATP7A関連銅輸送障害の発端者の診断のほとんどは、男性ではヘミ接合性ATP7Aの病的バリアント、女性では、偏りのあるX不活化もしくはX染色体—常染色体転座を伴うヘテロ接合性ATP7Aの病的バリアントの検出によって確認される。後者のシナリオは非常に稀である。
臨床的マネジメント
一次症状の予防(および治療):
生後28日(未熟性/在胎期間で修正された)までにヒスチジン銅の皮下注射を開始すると、生存が高まり、神経発達の転帰が改善する。
症状の治療:
サーベイランス:
遺伝カウンセリング
ATP7A関連銅輸送障害はX連鎖形式で遺伝する。罹患男性の約1/3にはメンケス病/OHS/DMNの家族歴がない。もし母親がヘテロ接合体であれば、ATP7Aの病的バリアントを伝えるリスクは各妊娠で50%である。病的バリアントを受け継いでいる男性は、彼の兄弟に発症している疾患に罹患するだろう。病的バリアントを受け継いだ女性はヘテロ接合性で、一般的には罹患しないだろう。メンケス病の生存者である男性と、OHSもしくはATP7A関連DMNを持つ男性は、理論上は、すべての娘に病的バリアントを引き継ぎ、息子には引き継がない。罹患家族構成員で病的バリアントが同定されていれば、リスクのある女性血縁者のヘテロ接合体検査、リスクの増加した妊娠に対しての出生前検査および着床前遺伝学的検査が可能である。
ATP7A関連銅輸送障害:含まれる表現型 |
---|
|
同義語と旧名称については命名法を参照。
本疾患を示唆する所見
以下のような臨床・検査所見がある人では、ATP7A関連銅輸送障害(メンケス病、オクシピタル・ホーン症候群、ATP7A関連遠位運動ニューロパチー)を疑うべきである。
臨床所見
古典的メンケス病は、生後6週から12週の間に、筋緊張低下、発育不全および痙攣を発症した男児で疑われる。
その後間もなく、頭髪の変化が現れる:頭髪と(通常)眉毛は短く、まばらで、粗く、撚り合わせたようで、しばしば色素は薄い(白、銀もしくはグレー)。側頭部、後頭部では、頭髪はより短く、薄い。頭髪はスチールウールのクリーニングパッドを連想させる。光学顕微鏡での毛髪分析では捻転毛(180度捻れた毛幹)、裂毛症(毛幹の横折れ)、および毛髪縦裂症(毛幹の縦割れ)が認められる。正常な円柱構造の平坦化により、捻転毛におけるねじれの周期性は生まれつきの縮毛で見られるそれとは異なる。
特異的臨床像:
オクシピタル・ホーン症候群(OHS)は以下の男性で疑われる:
ATP7A関連遠位運動ニューロパチー(DMN)、シャルコー・マリー・トゥース遺伝性ニューロパチーに類似する成人発症のDMNは、古典的メンケス病またはOHSに特徴付けられる、臨床的異常もしくは生化学的異常のいずれも共有しない。そして以下によって特徴付けられる:
検査所見
銅とセルロプラスミンの血清濃度。古典的メンケス病もしくはOHSを持つ男性では血清銅濃度が低く、血清セルロプラスミン濃度も低い(表1参照)。
表1. メンケス病、オクシピタル・ホーン症候群およびATP7A関連遠位運動ニューロパチーを持つ男性における、血清銅とセルロプラスミンのおおよその濃度
血清濃度 | 古典的メンケス病 1 | 軽度メンケス病/OHS | ATP7A関連DMN | 基準値 |
---|---|---|---|---|
銅 | <40 µg/dL | 40-75 µg/dL | 80-100 µg/dL | 75-150 µg/dL; (生後3か月まで: 20-70 µg/dL) |
セルロプラスミン | 10-100 mg/L | 120-220 mg/L | 230-300 mg/L | 200-450 mg/L; (生後3か月まで: 50-200 mg/L) |
OHS=オクシピタル・ホーン症候群;DMN=遠位運動ニューロパチー
診断の確定
ATP7A関連銅輸送障害の診断は、発端者において分子遺伝学的検査で、男性ではヘミ接合性ATP7Aの病的(または、おそらく病的)バリアント、女性ではヘテロ接合性ATP7Aの病的(または、おそらく病的)バリアントのいずれかが検出されるか(表2)、分子遺伝学的検査の結果があいまいな場合、追加の生化学的研究(追加の生化学的研究参照)によって、確立されるのが最も一般的である。
注:(1)女性の発端者でこの診断を確立するために必要な臨床・検査所見は、男性と同じである(表1
参照)。症状のある女性がXq21.1 を含む X 染色体—常染色体転座をもつ例もある。(2)ACMG/AMPバリアント解釈ガイドラインによると、「病的バリアント」と「おそらく病的バリアント」という用語は、臨床の場では同義で、どちらも診断的とみなされ、どちらも臨床意思決定に用いることができることを意味する[Richards et al 2015]。この項における「病的バリアント」への言及は、あらゆる「おそらく病的バリアント」を含むと理解される。(3)意義不明なヘミ接合性またはヘテロ接合性ATP7Aバリアントの同定は、診断を確立するものでも除外するものでもない。分子遺伝学的検査
分子遺伝学的検査のアプローチは、単一遺伝子検査と多遺伝子パネルの使用を含む。
多遺伝子パネルの導入についてはこちらをクリック。遺伝学的検査を依頼する臨床医のためのより詳細な情報についてはこちらで見られる。
表2. ATP7A関連銅輸送障害に使用される分子遺伝学的検査
遺伝子1 | 方法 | その方法によって検出できる病的バリアントを持つ発端者の割合2 |
---|---|---|
ATP7A | シークエンス解析3 |
80%4,5 |
標的遺伝子の欠失/重複解析6 |
20%4 |
追加の生化学的研究
分子遺伝学的検査でATP7Aの病的バリアントを同定できなかった、説得力のある症状(presentation)を持つ人においては、以下の生化学的研究が検討されるかもしれない。
注:家系内のATP7Aの病的バリアントが不明なとき、この方法は研究状況もしくは緊急の出生前検査として用いられる。分子遺伝学的検査の利用可能性(可用性)、精度と効率が増し、後者の状況は非常に稀になっている。
臨床像
ATP7A関連銅輸送障害の臨床的スペクトラムは、最も重症の古典的メンケス病から、オクシピタル・ホーン症候群(OHS)、孤立性(限局性)遠位運動ニューロパチー(DMN) に及ぶ [Kaler 2011]。古典的メンケス病は生後2~3か月から始まる神経変性と発育不全によって特徴付けられる。診断の年齢は通常、4か月から8か月の間である。対照的にOHSは小児期の早期から中期に出現し、主に結合組織異常によって特徴付けられる。ATP7A関連DMNは成人期発症疾患であり、シャルコー・マリー・トゥース遺伝性ニューロパチーに類似しており、古典的メンケス病もしくはOHSの臨床的異常の特徴のいずれとも共有しない。
古典的メンケス病
乳児は、早期の発達の診査事項(マイルストーン)に到達せず、筋緊張低下、痙攣および発育不全が現れる、生後2か月から3か月までは健康に見える。古典的メンケス病が通常最初に疑われるのは、乳児に典型的な神経学的変化と同時に、特徴的な頭髪の変化(短く、まばら、粗く、うねりがあり、しばしば薄い色素)および二重顎を認める際である。
一過性の低血糖、遷延性の生理的黄疸、持続する体温の不安定性は、新生児期に認められる可能性がある非特異的な徴候である。
血管蛇行、頸部腫瘤(内頚静脈の拡張による)、膀胱流出路閉塞を引き起こす可能性のある膀胱憩室および胃ポリープは一般的である。硬膜下血腫と脳血管障害もまた一般的である。
毎日の銅の皮下注射による早期の治療が行われなければ(ときには治療が行われたとしても)、古典的メンケス病は重度の神経変性が進行し、典型的には7か月から3.5歳の間に死亡する。しばしば肺炎によって引き起こされる心肺機能不全は一般的な死因である。
画像
軽症のメンケス病
運動と認知発達が古典的メンケス病より良い何人かの罹患者が報告されている。軽症のメンケス病を持つ人は、独立歩行と堅苦しい言語の習得が可能である。筋力低下、運動失調、振戦および頭の上下運動は特徴的な神経学的所見である。痙攣は、もしあるなら、小児期の中期から後期に出現し始める。知的障害は軽度である。結合組織の問題は古典的メンケス病より際立っているかもしれない。捻転毛は存在する。
オクシピタル・ホーン症候群(OHS;X連鎖皮膚弛緩症)
認知能力は正常範囲内であるか、わずかに低下している。OHSを持つ人で顕著な神経学的異常は、自律神経障害(例えば、起立性低血圧、慢性下痢症)とわずかな神経認知障害である。弛緩した皮膚と関節および膀胱憩室は、リシルオキシダーゼ(銅依存性酵素)欠損の一般的な症状である。肘の脱臼はよく見られる[著者の個人的観察]。加齢により脊柱側弯が起こるかもしれない。
OHSの完全な自然歴や罹患した人の妊孕性についての情報はほとんどない。本質的には正常寿命と思われる。
ATP7A関連遠位運動ニューロパチー(DMN)
発症年齢は5歳の若さから60歳までの範囲で、最も典型的には10~20代で特徴が現れる [Kennerson et al 2010]。所見は、手足の遠位筋のゆるやかな萎縮と筋力低下、鶏歩を伴う下垂足を認め、下腿の近位筋の筋力低下および正常の深部腱反射もしくはアキレス腱反射の消失を含む。感覚検査は正常であるか、もしくは指趾で軽度の消失を示すかもしれない。報告された最も大きな家系の初発症例では、25年以上かけて緩徐な進行があり、38歳のときに足首と足の装具を必要とした [Kennerson et al 2009]。
ヘテロ接合性の女性
ATP7Aの病的バリアントのヘテロ接合性の女性は、通常は無症状であり、場合によっては有利な偏りのあるX染色体不活化による [Desai et al 2011]。理論上、ヘテロ接合性の女性の一部では、不利な偏りのあるX染色体不活化は、疾患と関連する神経学的もしくは臨床的所見と関係する可能性がある。
ATP7Aの病的バリアントの絶対ヘテロ接合体の女性の約50%には捻転毛の部位を認める [Moore & Howell 1985]。
ATP7A関連DMNを引き起こすATP7Aの病的バリアントの絶対ヘテロ接合体の女性の評価は今日まで限定的である。しかし1家系で、ヘテロ接合性であると証明された女性の臨床的神経学的検査と運動神経伝導検査は正常であった [Kennerson et al 2009]。
遺伝型と表現型の相関
アデノシントリホスファターゼ(ATPase)の残存酵素活性は、メンケス病、OHSおよびATP7A関連遠位運動ニューロパチーの表現型に関連し、ある程度はメンケス病における早期銅治療の反応性に関連する [Kaler et al 2008]。
軽症のメンケス病とOHSは、しばしば適切なRNAスプライシングを変化させるが、排除はしないスプライス接合部の病的バリアントと関連する(すなわち「漏出」スプライシング接合部異常)。
ATP7A関連DMNに関係している病的バリアントは、蛋白の管腔表面の内部かその近くでの特有のミスセンス変異を含んでいる。そのバリアントは、これらの障害にみられる異常な細胞内輸送やこの型の運動ニューロン疾患の機構と関連があるかもしれない [Kennerson et al 2010, Yi et al 2012, Yi & Kaler 2018]。p.Phe1386Serとp.Thr994Ileバリアントは、細胞膜への優先的局在を伴うタンパク質の分布変化をもたらす [Yi et al 2012]。p.Thr994Ileバリアントは、バソリン含有タンパク質(p97/VCP)と相互作用する、隠れたUBXドメインを露出させる。バソリン含有タンパク質は、エンドソーム経路で運ばれる物質(cargo)の仕分けを含む、さまざまな膜タンパク質輸送過程に関連している[Yi & Kaler 2018]。
家系内の表現型の多様性は時折、メンケス病で観察される [Kaler et al 1994, Borm et al 2004, Donsante et al 2007]。ATP7A関連DMNの2家系の罹患者において、筋力低下、萎縮および感覚障害の程度の差異がみられた [Kennerson et al 2010]。
命名法
メンケス病は、メンケス捻転毛症候群、もしくは白髪ジストロフィー(trichopoliodystrophy)としても知られている。
オクシピタル・ホーン症候群は、かつてX連鎖皮膚弛緩症として知られていた。
ATP7A関連遠位運動ニューロパチーは、X連鎖遠位脊髄性筋萎縮症3としても知られている。
有病率
メンケス病の有病率の以前の推定値は、特定集団で確かめられた臨床的確定症例に基づいており、40,000人に1人から354,507人に1人まで様々であった。
しかし、病的アレルのゲノムの確認に基づく最近の分析と、ハーディ・ワインベルグ平衡を仮定すると、ATP7A関連疾患の出生時有病率は、出生男児8,664人に1人と高くなる可能性があると予測する [Kaler et al 2020]。
このGeneReviewで論じられる以外の表現型は、ATP7Aの生殖細胞系列病的バリアントとの関連は知られていない。
メンケス病.古典的メンケス病はしばしば非常に特有な臨床的、生化学的表現型を示すが、鑑別診断は下記の乳児期発症の神経発達症候群を含む
オクシピタル・ホーン症候群.鑑別診断は、下記の皮膚および/または関節の弛緩症を伴うあらゆる疾患を含む
ATP7A関連遠位運動ニューロパチー.鑑別診断は他の型のシャルコー・マリー・トゥース遺伝性ニューロパチーを含む。
ATP7A関連銅輸送障害の正式な臨床診療ガイドラインは出版されていない。
最初の診断に続いて行う評価
ATP7A関連銅輸送障害と診断された男性の疾患の程度とニーズを確かめるために、表3a、3b、3cにまとめられた評価(診断に至る評価の一部として実施されていない場合)が推奨される。
表3a.古典的メンケス病の表現型を持つ人の最初の診断後の推奨評価
系統/関心事 | 評価 | コメント |
---|---|---|
神経 | 神経学的評価 |
|
発達 | 発達評価 |
|
胃腸/摂食 | 消化器病学/栄養/摂食チームによる評価 |
|
膀胱機能 | 小児腎臓学/泌尿器科学 | 骨盤超音波 |
肺/免疫学 | 反復性肺炎の評価 | 症状がある場合、胸部X線写真(PAおよび側面) |
遺伝カウンセリング | 遺伝学の専門家による1
|
医療および個人の意思決定を促進するために、罹患者およびその家族に、メンケス病の本質、MOI、および意味合いに関することを伝える |
家族への支援/社会資源 | 以下の必要性の評価:
|
|
MOI=遺伝形式;OT=作業療法;PA=後前方の;PT=理学療法
表3b. オクシピタル・ホーン症候群を持つ男性の最初の診断後の推奨評価
系統/関心事 | 評価 | コメント |
---|---|---|
神経 | 神経学的評価 |
|
発達 | 発達評価 |
|
膀胱憩室 | 骨盤超音波 | |
関節弛緩症 | 小児リウマチ医への紹介 | |
遺伝カウンセリング | 遺伝学の専門家による2 | 医療および個人の意思決定を促進するために、罹患者およびその家族に、OHSの本質、MOI、および意味合いに関することを伝える |
MOI=遺伝形式;OHS=オクシピタル・ホーン症候群
表3c.ATP7A関連遠位運動ニューロパチーを持つ男性の最初の診断後の推奨評価
系統/関心事 | 評価 | コメント |
---|---|---|
末梢神経障害 | 神経学的検査 | 筋力低下、萎縮、凹足、歩行安定性および感覚障害の程度を決定する |
神経伝導検査を伴うEMG | 神経障害の軸索型、重症度および感覚系の関与を決定する |
|
筋骨格 | 整形外科/物理療法学並びにリハビリテーション/PTおよびOTの評価 | 以下の評価を含むために:
|
遺伝カウンセリング | 遺伝学の専門家による1 |
|
AFOs=足首と足の装具;DMN=遠位運動ニューロパチー;EMG=筋電図検査;MOI=遺伝形式;OT=作業療法;PT=理学療法
症状の治療
表4a.古典的メンケス病をもつ人の症状の治療
症心事 | 治療 | 考慮すること/その他 |
---|---|---|
痙攣 | 経験豊かな小児神経科医によるASMを用いた標準治療 |
|
発達遅滞/知的障害 |
|
|
体重増加不良/発育不全 | 摂食療法;摂食障害が持続する場合は胃瘻管造設を要することもある |
嚥下障害の臨床徴候や症状がある場合、臨床摂食評価および/またはX線嚥下検査の閾値を下げる |
膀胱憩室 |
|
|
反復性肺炎 |
|
必要により、在宅酸素、二相性気道陽圧および/または気管切開 |
家族/地域 |
|
緩和ケアの関与および/または在宅看護に対する必要性の継続的な評価 |
ASM=抗痙攣薬;IEP=個別教育計画;OT=作業療法;PT=理学療法
表4b.オクシピタル・ホーン症候群を持つ男性の症状の治療
治療 | 考慮すること/その他 | |
---|---|---|
自律神経障害 | ドロキシドパ(Northera®)治療の可能性 | 研究中の治療法参照 |
発達遅滞/知的障害 |
|
|
膀胱憩室 |
|
|
関節弛緩症 |
|
IEP=個別教育計画
表4c.ATP7A関連遠位運動ニューロパチーを持つ男性の症状の治療
症状/関心事 | 治療 | 考慮すること/その他 |
---|---|---|
神経障害 |
|
AFOs=足首と足の装具;OT=作業療法;PT=理学療法
一次症状の予防
メンケス病.古典的メンケス病では、理想的には生後4週以内(未熟性/在胎期間で修正された)のヒ
スチジン銅(CuHis)の皮下注射による早期治療で、しばしば生存が高まり、神経発達の転帰の質が改善
する [Kaler et al 2008; Kaler et al 2010; Kaler et al,未発表データ]。しかしながら、未治療のメンケス病の自然歴と比較して著しい改善のみられない乳児もいる [Kaler et al 1995; Kaler et al 2008; Kaler et al, 未発表データ]。ATP7A病的バリアントの型と重症度は、早期銅治療の反応に部分的に影響する可能性がある [Kaler et al 2008]。
血清中の銅濃度を正常域(75~150μg/dL)に維持するために提案されたヒスチジン銅(CuHis)の投与量は以下の通りである。
塩化第二銅(CuCl2)は、完全静脈栄養の添加物として静脈内投与用に200μg/0.5mLの濃度のものを、商業的に入手することができる。CuCl2は、CuHisがすぐに利用できなかった、メンケス病に罹患した新生児の循環銅のレベルを上げるために緊急時に皮下注射で使用されてきた。しかし、強酸性(pH2.1)で、局所的な皮膚刺激とかなりの瘢痕のため、この製剤は長期の皮下使用には適さない。
メンケス病における皮下CuCl2の役割はどれも、CuHisが米国やその他の国の規制当局から承認されれば、除去されるはずである。
オクシピタル・ホーン症候群.OHSに対する銅補充療法が臨床的に有益であるという証拠はないが、OHSを持つ人を早期に発見し、生後3年の間にCuHisによる治療を行えば、神経発達および神経認知の転帰がさらに良くなると予測するのは妥当であると著者は考える。
サーベイランス
CuHis(あるいは一時的にCuCl2)で治療中の乳児については、血清銅とセルロプラスミンの値をモニターし、正常域以上のレベルになることを避ける。
表5a.メンケス病を持つ男性に推奨されるサーベイランス
系統/関心事 | 評価 | 頻度 |
---|---|---|
神経 | 臨床適応があれば、痙攣がある人の観察 | 毎回の受診ごとに |
痙攣や、緊張の変化、運動異常症など、新たな症状の評価 | ||
発達 | 発達の向上と教育ニーズの観察 | 毎回の受診ごとに |
成長/栄養 |
|
|
筋骨格 | 物理療法学、OT/PTによる可動性の評価、自立能力 | |
呼吸器 | 反復性肺感染症の評価 | |
家族/地域 | 家族に必要なソーシャルワーク支援(例えば、訪問看護、その他の地域資源;ケアの調整;緩和ケア/レスパイトケアの必要性)の評価 | 毎回の受診ごとに |
OT=作業療法;PT=理学療法
表5b. オクシピタル・ホーン症候群を持つ男性に推奨されるサーベイランス
系統/関心事 | 評価 | 頻度 |
---|---|---|
自律神経機能異常(めまい、失神発作) | 起立性血圧を検討(仰臥位および立位) | 毎回の受診ごとに |
発達 | 発達の向上と教育ニーズの観察 | |
膀胱憩室 | 骨盤超音波 | 年1回 |
表5c. ATP7A関連遠位運動ニューロパチーを持つ男性に推奨されるサーベイランス
系統/関心事 | 評価 | 頻度 |
---|---|---|
神経 |
|
年1回 |
筋骨格 |
|
|
足の検査 | 褥瘡もしくは足に合わない靴に対して |
EMG=筋電図検査;ENG=神経電気検査;OT=作業療法;PT=理学療法
リスクのある血縁者の評価
即座に銅補充療法を開始するために、メンケス病のリスクのある男性血縁者に、生後10日以内に家系内で同定されたATP7Aの病的バリアントの検査をすることは適切である(一次症状の予防参照)。
遺伝カウンセリングの目的で、リスクのある血縁者の検査に関する問題については、遺伝カウンセリングを参照。
研究中の治療法
CuHisは米国食品医薬品局(FDA)からFDA FastTrack(2018)およびBreakthrough (2020)の指定を受け、希少疾病用医療用製品(Orphan Medicinal Products)のための欧州医薬品庁委員会が、2020年の希少疾病用医薬品(Orphan Drug)の指定に対して肯定的な意見を発した。現在、米国でメンケス病を持つ人にCuHisを提供する拡大アクセス臨床試験(NCT04074512)が進行中である。
メンケス病に対する皮下CuHis治療についての最新の予備的結果は、ここをクリック。
銅と組み合わせたアデノ随伴ウイルス(AAV)遺伝子治療も、メンケス病のマウスモデルで有望な結果をもって研究されている [Donsante et al 2011, Haddad et al 2018]。
メンケス病に対する新生児スクリーニングは、生化学的方法は現在の新生児スクリーニングの原則に適合性がないか実用的ではない可能性があるため、現在利用できない。乾燥血液スポットのATP7Aのシークエンス解析の可能性を評価するための予備調査では、このアプローチの原理が証明された [Parad et al 2020]。このような検査が成功すれば、メンケス病およびその他のATP7A関連疾患の早期診断と治療が可能になるだろう。
メンケス病の成人生存者およびオクシピタル・ホーン症候群を持つ成人の自律神経障害に対するドロキシドパ(Northera®)の、二重盲検プラセボ対照ランダム化クロスオーバーデザインを用いた、第Ⅰ相/第Ⅱ相臨床試験が2021年春の開始を予定されている。
広い範囲の疾患と健康状態に対する臨床研究情報にアクセスするためには、米国のClinicalTrials.govおよび欧州のEU Clinical Trials Registerを検索のこと。
その他
ビタミンCは効果が無いと証明された治療法に含まれる。
「遺伝カウンセリングは個人や家族に対して遺伝性疾患の本質,遺伝,健康上の影響などの情報を提供し,彼らが医療上あるいは個人的な決断を下すのを援助するプロセスである.以下の項目では遺伝的なリスク評価や家族の遺伝学的状況を明らかにするための家族歴の評価,遺伝学的検査について論じる.この項は個々の当事者が直面しうる個人的あるいは文化的、倫理的な問題に言及しようと意図するものではないし,遺伝専門家へのコンサルトの代用となるものでもない.」
遺伝形式
ATP7A関連銅輸送障害(すなわち、古典的メンケス病、オクシピタル・ホーン症候群[OHS]およびATP7A関連遠位運動ニューロパチー [DMN])は、 X連鎖遺伝形式をとる。
家族構成員のリスク
男性発端者の両親
男性発端者の同胞
同胞のリスクは、母親の遺伝的状況に依存する:
発端者の子
他の家族構成員
男性発端者の母方のおば、および母方のいとこは、ATP7Aの病的バリアントのヘテロ接合性であるリスクがあるだろう。
ヘテロ接合体の検出
分子遺伝学的検査
女性のヘテロ接合体の同定には、事前に家系内のATP7Aの病的バリアントを同定するか、罹患男性が検査に利用できない時には、まずシークエンス解析による分子遺伝学的検査を行い、病的バリアントが同定されない場合、標的遺伝子欠失/重複解析が必要になる。
ATP7Aの病的バリアントの絶対ヘテロ接合体の女性の約50%は捻転毛の部位を示すが、その他は一般的には無症候性である(臨床像、ヘテロ接合性の女性参照)。
注:生化学検査は正常域と重なるため、一般に保因者の検出には信頼できない。
遺伝カウンセリングに関連した問題
早期診断と早期治療の目的のために、リスクのある血縁者を評価するための情報については、臨床的マネジメント、リスクのある血縁者の評価を参照。
家族計画
DNAバンキング
検査法や遺伝子、発症機構および疾患に対する我々の理解が、将来進歩する可能性があり、分子診断がなされていない(すなわち、原因となる発症機構が知られていない)発端者のDNA保存は考慮に値する。さらなる情報はHuang et al [2022]参照。
出生前検査および着床前遺伝学的検査
罹患家族構成員の中でATP7Aの病的バリアントが同定されると、出生前検査や着床前遺伝学的検査が可能になる。
出生前検査を行うことについては、医療関係職種間や家族内で考え方の違いが存在する可能性がある。多くのセンターでは、出生前検査を行うことは個人的な決定とみなすが、これらの問題について議論することは有用だろう。
GeneReviewsスタッフは、この疾患を持つ患者および家族に役立つ以下の疾患特異的な支援団体/上部支援団体/登録を選択した。GeneReviewsは、他の組織によって提供される情報には責任をもたない。選択基準における情報については、ここをクリック。
分子遺伝学
分子遺伝学とOMIMの表の情報はGeneReviewsの他の場所の情報とは異なるかもしれない。表は、より最新の情報を含むことがある。
表A. ATP7A関連銅輸送障害:遺伝子およびデータベース
遺伝子 | 染色体座 | タンパク質 | Locus-Specific Databases(座位特異的データベース) | HGMD | ClinVar |
---|---|---|---|---|---|
ATP7A | Xq21.1 | 銅輸送アデノシントリホスファターゼ1(ATPase1) | ATP7A @ LOVD | ATP7A | ATP7A |
データは以下の標準的な参考文献を編集したものである:HGNCによる遺伝子;OMIMによる染色体座、UniProtによるタンパク質。リンクが提供されているデータベース(Locus Specific, HGMD, ClinVar)の記述については、ここをクリック。
表B.OMIMに登録されているATP7A関連銅輸送障害(OMIMですべてを参照のこと)
300011 | ATPase, Cu(2+)-TRANSPORTING, ALPHA POLYPEPTIDE; ATP7A |
300489 | NEURONOPATHY, DISTAL HEREDITARY MOTOR, X-LINKED; HMNX |
304150 | OCCIPITAL HORN SYNDROME; OHS |
309400 | MENKES DISEASE; MNK |
分子学的病因論
ATP7Aがコードしている蛋白は、P型アデノシントリホスファターゼ(ATPase)であり、細胞膜で銅を輸送し、銅の恒常性に重要である。
ATP7Aの病的バリアントは、(通常は重症の表現型と関連した)銅輸送能力の欠如した遺伝子産物、もしくは(軽症の表現型と関連しうる) 正常に機能する遺伝子産物の量的減少を招く。
特定のバリアントは複数の家系でみられるが(例えば、エクソン1の欠失、Gly666Arg、Gly727Arg)、ほとんどのATP7Aの病的バリアントは家族特異的(特有の)である。ATP7Aバリアントの型は、欠失および重複、挿入、ナンセンスバリアント、スプライス接合部バリアント、ミスセンスバリアントを含む。
ATP7A関連遠位運動ニューロパチーは、蛋白の管腔表面の内部かその近くでの、いくつかの特有の病的ミスセンスバリアントを含んでいる [Kennerson et al 2010]。そのバリアントは、これらの障害にみられる異常な細胞内輸送やこの型の運動ニューロン疾患の機構と関連があるかもしれない。
疾患原因の機序
ATP7A特異的な実験室の技術に関する考慮事項.深いイントロンのバリアントは、商業的な分子診断検査室では検出が困難な場合がある [Parad et al 2020]。
表6.注目すべきATP7A 病的バリアント
参照配列 | DNAヌクレオチドの変化 | 予測されるタンパク質の変化 | コメント [参考文献] |
---|---|---|---|
NM_000052.7 NP_000043.4 |
c.2981C>T | p.Thr994Ile | 遺伝型と表現型の相関を参照。 |
c.4156C>T | p.Phe1386Ser |
表に掲載されたバリアントは、著者によって提供されている。GeneReviewsのスタッフは、バリアントの分類を独自には検証していない。
GeneReviewsは、ヒトゲノムバリエーション学会(varnomen.hgvs.org)の標準命名会議に従う。命名法の説明については、クイックリファレンスを参照。
Gene Reviews著者: Stephen G Kaler, MD, MPH and Andrew T DiStasio, PhD
日本語訳者:米川裕子、升野光雄、山内泰子(川崎医療福祉大学大学院 医療福祉学研究科 遺伝カウンセリングコース)
GeneReviews最終更新日: 2021.4.15. 日本語訳最終更新日: 2023.12.7.[in present]