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自閉症概説
(Autism Overview)

Gene Review著者: Judith H Miles, MD, PhD,  Rebecca B Mccathren, PhD
日本語訳者: 内海雅史(信州大学医学部医学科),和田敬仁(信州大学医学部社会予防医学講座遺伝医学分野)            

Gene Review 最終更新日: 2005.12.1.  日本語訳最終更新日: 2006.2.10.

原文 ADNP-Related Intellectual Disability and Autism Spectrum Disorder

※事務局注:現在,自閉症概説は,GeneReviewsでは,
ADNP-Related Intellectual Disability and Autism Spectrum Disorderとして掲載されている(2016.11.27)。


要約

疾患の特徴 

しばしば「自閉障害」あるいは「小児自閉症」と表現される自閉症は,定義によると3歳以前に発症する複合的な行動障害である.自閉症は社会的相互作用の障害,意思疎通の障害,また繰り返される紋切り型の行動により定義される.ほとんどの小児においては,自閉症の始まりは緩やかなものである.しかしながら,およそ30%の小児においては退行性の発症である.自閉症児のうち50-70%が,非言語的知能指数テストにより精神遅滞と定義され,25%が痙攣発作を起こす.2,3歳時に自閉症の確定診断に基準に一致した小児のうち25%はその後言葉を話し,コミュニケーションをとるようになる.そして,6,7歳までには,ある程度一般の学校の小児たちのなかに溶け込むことができる.残りの75%は一生涯にわたり両親や学校,社会の集中的なサポートを必要とする障害を持ち続ける.

診断・検査

‘The American Psychiatric Association Manual of Disease,4th edition(DSM-IV)’により提唱された確定診断基準が,アメリカ合衆国で用いられる主たる診断の拠り所となっている.自閉症の原因は,大部分の原因を含む‘特発性’のものと,環境要因や染色体異常,もしくは単一遺伝子の異常が同定できる‘続発性’のものとに分類できる.自閉症患者の約5-10%は,続発性自閉症として診断することができる.残りの90-95%は特発性自閉症である.特発性自閉症の小児のうち約30%は特徴的な顔貌,小頭症,脳の先天的構造異常により定義される複雑な自閉症である.また,特発性の自閉症の小児の約70%は,身体的障害を伴わないものとして定義される本態的自閉症である.懸命の研究にもかかわらず,特発性自閉症と強い関係を持つ遺伝子はいまだ同定できていない.

臨床的マネジメント

自閉症のマネジメントには反復性の自己刺激的な行動やかんしゃく,攻撃性,自傷行為を和らげ ,会話言語や社会性の獲得を促すための医学的治療と行動療法がある.治療は患者の行動と環境との間の計画的な移行について,教室や家庭での十分な準備のもとに綿密な介入を行う.Picture Exchange Communication Systemのような視覚的補助教材は言語獲得の促進に有用である.視覚認知による教育およびスケジュールプログラムはコミュニケーション能力や統合能力,自己管理能力を促すために手がかりとなる図形を用いるものである.「社会ストーリー」という方法による介入は学習者が理解できるような方法で社会的状況を説明し,適切な行動をとらせるようにする.非定型的抗うつ剤のような薬剤は不眠や攻撃的行動などの特定の症状を緩和することができる.同じ薬剤でも反応は個人によって異なる.

遺伝カウンセリング

続発性自閉症を持つ患者にとって,遺伝カウンセリングは初期の確定診断に関連した情報が基本となる.特発性自閉症の場合,経験的に同胞が自閉症となる危険性は4%であり,言語的な障害や社会的障害,精神医学的障害を含むより緩徐な症状を持つ危険性はさらに4-6%増える.また,罹患児を二人もしくはそれ以上もつ女性にとって,再発の危険性は35%およぶ.本態性の自閉症の発端者の男性同胞(兄弟)が自閉症である危険性は7%であり,さらに緩徐な自閉症症状を呈する危険性はさらに7%ある.しかし,本態性の自閉症の発端者の女性同胞(姉妹)が自閉症である危険性は1%であり緩徐な症状を呈する危険性は未知である.複合性自閉症の発端者の同胞が自閉症を再発する危険性は1%であり,さらに2%が緩徐な障害を呈する.


定義

臨床所見

自閉症は定義によると,3歳までに発症する複合的行動障害である.自閉症児は一般的に抱っこや抱きしめられることを好まず,抱き上げられるために手を差し伸べることはない.しばしばかんしゃくをおこし,慰めるのが難しいが,典型例では一人にされている時のほうがおとなしくしている.自閉症児はきちんと視線を合わせることやじっと凝視することを避けたり,できなかったりする.睡眠障害や感覚障害が1歳までに気づかれることがある.早期の兆候にもかかわらず,自閉症を持つ大部分の小児の多くは,2歳を過ぎて言語の発達の遅延が明らかになるまで医学的注意が払われない.

ほとんどの小児にとって,自閉症の発現は漸進的である.しかしながら,約30%の場合は退行性である.これらの小児たちは話し始めそれから,しばしば唐突に,口を閉ざし他人行儀になる.数日間その子は視線を合わせることを避け,もはや名前の呼びかけにも反応しなくなることがある.しばしば,難聴が疑われるが,聴力検査は正常である.3,4歳までには,反復性の運動が現れることがある.これらの小児たちは元来正常であり,外因的要因に曝露されたことにより障害を負ったのか,それとも彼らは遺伝的に退行することが決定されていたのかということが議論されている.初めての誕生日のビデオテープの検証や病理神経学の研究の結果は,後者を示唆している.

2,3歳で自閉症の確定診断基準に適合した小児のうち約25%はその後,話すことを始め,正常にコミュニケーションをする.そして,6,7歳までは一般の学校の生徒たちにある程度溶け込むことができる.このグループでも多くは社会的適応障害が残る.残りの75%の自閉症の小児は,年齢が進むにつれて多少の改善は見られるものの,生涯に渡って両親や学校,あるいは社会のサポートを必要とし続ける.Seltzerによる優れた総説(2004)がある.ある研究は自閉症児のうち完全に回復するのは5%未満であると報告している.自閉障害は三領域の行動異常に基づいて定義される.

社会的相互作用における障害 

社会的相互作用における障害の有無が,自閉症を持つ人とそうでない人をわける.自閉症を持つ小児は他人の気持ちを推測することができず,周囲に無関心であり,しばしば視線を交わすことを拒む.典型的な自閉症児は,他人を慰めることはせず,慰められることも求めず,両親におもちゃや絵を持っていくなどのように他人と興味を共有することはしない.むしろ,彼らは両親を物として扱い,欲しい物のところに行くために両親によじ登ったり,手で引っ張ったり,あたかも道具として用いているように両親の手を物のところに持っていったりする.病院では,それまで満足そうに本のページをめくっていたり,車で遊んでいたのに簡単な検査をするだけで動揺したりすることがある.家では,自閉症児はたいてい一人を好み,反復的な行動をとる.そして自発的に「~ごっこ」遊びをしないのも特徴である.おもちゃを並べたり,分けたり,くるくる回したり,投げつけたりはするが,それを使って創造力を養うような遊びはしない.自閉症児は仲間や同胞と友人関係を築くことができない.学校においては,彼らは他人と距離を置いて見ている.社会のルールに従う子もいるが自ら率先して動くことはない.またある子は社会との接点を求めるものの,どのようにしたら友人関係を気づけるかという点についての感性を欠いている.

コミュニケーションにおける障害 

大部分の自閉症児は,会話,ジェスチャー,表情によるコミュニケーションが取れない.特徴的に,幼い小児は視線により意思疎通を図ったり,注意を引いたりといったことができない.初期の実用的な能力は制限されており,画一的な要求をすることが特徴であるが,共同体や社会的相互関係という意識に乏しい.コミュニケーション能力の欠如は生涯続き言語能力や社会的適応に障害をもたらす.若年の患者は物を指し示したり,おもちゃを要求したり,他人と約束を交したりするためにことばをかわすという概念を理解できない.非特異的な発達障害や言語障害の小児が言語能力以上に感受性が豊かであるのと異なり,自閉症児は受容的な言語能力も障害されている.自閉症児が言葉を学んでいく場合,反響言語,あべこべの代名詞,おかしな語尾変化や抑揚などがみられる.正常の子どもは一語のことばから話し始めるが,自閉症児はコマーシャルや映画,あるいは他の人のことばからの複数語を話し始める.こうした言葉はたいてい特定の意味を持っているが患児はその一語一語が持つ意味を理解していない.会話を続ける,話し相手の話題を受けたりする能力の障害は会話能力が改善してからも続く.

反復性紋切り型行動 

幼児はたいてい凝視するか,じっとしている.小さいうちは,指の運動や,ひもをくるくる回したり,本のページを叩いたり,なめるといった典型的な行動を取る.全身の反復運動には,ぐるぐる回ったり,前後に走ったりすることも含む.反復運動にはしばしば,顔の横に指を持ってきて,横目でじっと見ているといった可視的なものも含まれる.時々,このような運動は個々によって,叩いたり,こすったり,まわしたりといったことを伴い,複雑化する.これらの反復行動は,数時間続くこともある.この反復運動の原因ははっきりしないにもかかわらず,それらには鎮静効果があり,特に小児においては,ストレスにさらされている時に出現する.この反復性は,日常の習慣において同一性を頑なまでに要求することの現れである.自閉症を持つ小児たちは,非常に凝った儀式を創り出すことができる.その儀式は物事の順序,言葉,物の配置などが決まっている.両親や保護者がこの決められた順序に従うことをしなければ,我慢できずに爆発的行動をとったりする.

その他多くの自閉症に見られる障害:

音や接触に対して敏感あるいは鈍感.掃除機などの大きく甲高い調子の騒音を非常に不快に感じ,手で耳ふさいだり,ある種の服の肌触りや身体に触れられることを非常に不快に感じたりする.逆に火傷や潰瘍のように疼痛を伴う刺激を無視したりする.

回復する小児と,生涯にわたる障害を持つであろう小児とを鑑別する信頼性の高い方法はないが,以下のような特徴は患者を病型分類するのに用いられる.

確定診断

DSM-VIによって示された確定診断基準はアメリカ合衆国で用いられ,診断のよりどころとなっている.

DSM-VIの診断基準

I.(A),(B),(C)から合計6つ(またはそれ以上),うち少なくとも(A)から2つ,(B)と(C)から1つずつの項目を含む.

(A)対人的相互反応における質的な障害で以下の少なくとも2つによってあきらかになる.

  1. 目と目で見つめ合う.顔の表情,体の姿勢,身振りなど,対人的相互反応を調節する多彩な非言語性行動の使用の著明な障害.
  2. 発達の水準に相応した仲間関係を作ることができない.
  3. 楽しみ,興味,成し遂げたものを他人と共有すること(例:興味のあるものを見せる,もってくる,指さす)を自発的に求めることができない.
  4. 社会的,感情的相互反応の欠如.
(B)以下のうち少なくとも1つによって示される意志伝達の質的な障害
  1. 話し言葉の発達の遅れ,または完全な欠如(身振りや物まねのような代わりの意志伝達の仕方により補おうという努力を伴わない).
  2. 十分会話のある者では,他人と会話を開始し継続する能力の著明な障害.
  3. 型にはまった,反復的な言語の使用または独特な言語.
  4. 発達水準に相応した,変化に富んだ自発的なごっこ遊びや社会性を持った物まね遊びの欠如.
(C)行動,興味および活動が限定され,反復的で型にはまっており,以下の少なくとも1つがみられる.
    1. 強度または対象において異常なほど,常同的で限定された1つまたはいくつかの興味だけに熱中する.
    2. 特定の意味のない習慣や儀式にかたくなにこだわる.
    3. 常同的で反復的な眩奇的運動(例えば,手や指をばたばたさせたりねじ曲げる,または複雑な動き).
    4. 物体の一部に持続的に熱中する.

II.3歳以前に始まる,以下の領域の少なくとも1つにおける機能の遅れまたは異常:1)対人的相互作用,2)対人的意志伝達に用いられる言語,または3)象徴的または想像的遊び.

IIII.障害がレット症候群または小児期退行性障害ではうまく説明されない.

確定診断の手段 自閉症の確定診断にあたっては,自閉症の症状と発症年齢を性格に列挙するべきである.これにはDSM-VI(表1)やチェックリストを使用する.

最も一般的に使用されている確定診断のチェックリストは,‘CARS(Childhood Autism Rating Scale)’である.CARSは両親と実施者によって評価される15個の質問によって構成される.これは信頼性も高く,十分に立証された評価方法である.そして,比較的迅速かつ簡便に実施できる.評価が30から35の間であれば軽度の自閉症であり,36以上なら中位もしくは重度の自閉症である.他にも‘ABC(Autism Behavior Checklist)’や‘GARS(Gilliam Autism Rating Scale)’なども一般的に使用されている.‘CHAT(Checklist for Autism Toddler)’は18ヶ月を迎える幼児を鑑定するためのスクリーニングの方法としてデザインされた14個のチェックリストである.その感受性に疑問があるにもかかわらず,CHATは神経学品質基準委員会の推薦を受けている.改変M-CHATは親が待合室で書き込む23の項目からなっており,スペイン語と英語の版がある.

学校は,たいてい教育に基づいた診断基準を用いている.それは医療における確定診断と近いものであるが同一ではなく,そのため時に矛盾を生じる.これは,高機能自閉症や,自閉症を伴うアスペルガー症候群において特に当てはまる.高機能自閉症やアスペルガー症候群の生徒は,学校生活において考慮や治療教育が必要であるが,自閉症の診断として教育の診断基準には適さないこともある.

アスペルガー症候群の診断は複数の診断法があり統一性がとれていないために問題が多い.ASSQ(autism spectrum screening questionnaire),ASDI(Asperger syndrome diagnostic interview),アスペルガー症候群オーストラリア基準,CAST(Childhood Asperger syndrome test)が小児に対してよく用いられる.最近のビデオ,Asperger’s Diagnostic Assessmentは臨床医にとって有用な実践指導が盛り込まれている.

北米では,自閉症の診断にはADI-R(Autism Diagnostic Interview Revised)を用いる.これは両親への問診や,いくつかの短いADOS(Autism Diagnostic Observation Schedule)によって構成されている.これら両方の診断はDSM-Nの診断基準を補うものであり,同一の患者たちの行動の症状により自閉症を分類することで発展してきた.調査研究は要求されるものの,実施するためには時間や費用を必要とされるのでADOSは何か所かの診療所で用いられているものの,診療で広く使われてはいない.


鑑別診断

汎性発達障害(Pervasive Developmental Disorders : PDD)は自閉症/自閉障害,アスペルガー症候群,レット症候群,幼児退行性障害を含む包括的な診断名である.

アスペルガー症候群 アスペルガー症候群では言語発達は(時期,文法,語彙などにおいて)比較的正常であるが,それ以外のDSM-IV診断基準にある症候が見られる.アスペルガー症候群患者は,一般的に単独行動をし,集団に入ることを好まず,他人に感情移入することができず,会話をせず,冗談やたとえ話を理解することができずに言葉をそのまま受け取り,厳しい決まりをつらぬき,天気やコンピューターのように,一つのものごとに没頭する.話し方は奇異な抑揚を伴い,紋切り型である.IQ(知能指数)はたいてい正常であり,また概して不器用である.アスペルガー症候群が自閉症スペクトラムの高位の病態なのか,それとも別個の遺伝的疾患なのかはっきりしていない.

小児退行性障害 これは非常にまれな病態で,生後少なくとも2歳までは正常に発達するがその後10歳までの間にそれまでに獲得した言語や社会性,遊ぶ技術などを失っていく.その病態は古典的な自閉症に似ているが,発症のしかたや経過,最終的な予後が異なる.

広汎性発達障害 自閉症状を示すものの3疾患の診断基準を満たさない小児は特定不能の広範性発達障害と分類される. PDD-NOSは,自閉症の診断基準の2つまたは3つ全てを満たす小児と同じように3つの基準の軽度の症状を示す小児も含む.この診断は低年齢の小児で診断のための評価が完了していない場合に,初期診断名として一時的に用いられることがある.

広義の自閉的表現型 これはいくつかの自閉症状をもつ同胞や家族を示す.この専門用語は,想定されている自閉症関連遺伝子を探求している研究者が用いるようになったもので,自閉症スペクトラムが広範であることを反映している.

頻度

広汎性発達障害の有病率が増えているということが世界中で報告されている.1990年以前,ほとんどの研究は自閉症の頻度を10,000人あたり4~5人と推計していた.1990年代では,日本,イングランド,スウェーデンにおいて未就学児の10,000人に21~31人が自閉症であるという研究が報告された.最近のNew Jersey州Brick TownshipにおけるCDCの調査報告では10,000人に40人が自閉症を,そして10,000人に67人がPDDsを発症するとしている.英国で実施された最新の疫学調査は訪問看護師が子どもの7か月,18か月,24か月,3歳の時点での発達をモニターして行ったものであるが,これによると,5歳未満の小児のうち10,000人に16.8人が自閉症を発症し,10,000人に63人がPDDであると報告された.この数字は最近の報告でも確認された.その報告によれば,6歳未満の小児における自閉症の頻度は10,000人あたり22人,PDDの頻度は10,000人あたり59人であった.

自閉症の発症率が増加したように思える原因の一端は確定診断基準が変わったことにより,より完璧に症例を見出すことができるようになったことにある.最近の研究で PDDsの増加を強調するものでは,逆に精神発達遅滞の頻度は低くなっている.ChakrabartiとFombonueによってPDDsとされた小児のうち,わずか30%にしか精神発達遅滞が見られなかったが,以前の研究ではこの数字は70%にも達していた.これは過去の調査では,高機能自閉症児の症状の多くが含まれていなかったことを示している.しかしながらCalifornia studyでは1987年から1998年の間に頻度が273%も増加したのは診断基準の変更だけでは説明できないとし,環境要因の関与を指摘している.


原因

自閉症の原因は,そのほとんどを含む「特発性」のものと,環境要因や染色体異常もしくは単一遺伝子の異常が特定できる「続発性」のものとに区別できる.自閉症患者のおよそ10%は続発性として診断できる.残りの90-95%は特発性と診断される.

環境要因

風疹,バルプロ酸,サリドマイドを含む子宮内曝露が続発性自閉症の原因であることが認められている.しかし,これらへの曝露の後に自閉症を発症した患者に遺伝的感受性が存在しているかについては不明である.続発性自閉症の新たな環境要因に対する研究では,自閉症が発症するまでの期間に与えられる小児期の免疫機構が中心に据えられている.以前ある種の予防注射のワクチンの成分として使用された有機水銀や,3種混合ワクチンの両者は現在精査されている.しかし,ワクチンと続発性自閉症と関係の科学的根拠は見つかっていない.

遺伝要因

続発性自閉症の染色体要因

自閉症者の約3%には,15番染色体の長腕(15q)近傍のPreder-Willi/Angelman領域に染色体の重複が見られる.広く一般的には,これは従来の細胞遺伝学研究によって明らかになった15qの過剰二動原体であり,専門的にはSNRPN遺伝子のFISH法解析により明らかになった領域の間隙における重複である.これら2つの染色体異常は身体の表現型においては,微細な影響しか及ぼさない.

特発性自閉症

特定の発症原因が明らかではない自閉症を特発性自閉症と定義し,身体診察やその他の適切な評価法によって続発性自閉症が否定できた人がこれに分類される.特発性自閉症患者を‘本態性自閉症’と‘複合的自閉症’とに分けることは有用である.今後それらを構成する特別な遺伝メカニズムを解明されることが期待されている.

特発性自閉症と明らかな関係を持つ遺伝子は同定されていない.全ゲノムワイド検索で関与が予想されるいくつかの領域が同定された.それは2q31-33,3q25-27,6q14,7q22,7q32,13q21,15q11-13,16p13,17q11,17q31,19p13などであるが再現性に問題がある.こうした困難は以下の理由による.1)人口集団同士あるいは人口集団内での異質性,2) 個々の関連遺伝子の関与の程度はさほど高くない,3)未知のエピジェネティック作用の影響.染色体転座例での研究から15q11-q13と7qも興味のもたれる領域である.

候補遺伝子と遺伝子座に関する最近の総説には.Bespalova & Buxbaum 2003, Wassink et al 2004, Veenstra-VanderWeele & Cook 2004, Muhle et al 2004, OMIMなどがあるので参照のこと.

表1.自閉症の原因と考えられる候補遺伝子

遺伝子 染色体座位 機能 参照
Pro Con
SLC25A12 2q24 ミトコンドリアアスパラギン酸塩/グルタミン酸塩担体 Ramoz et al 2004  
C4B 6p21 補体構成蛋白 Odell et al 2005  
GLO1 6p21 亜鉛金属酵素
オキソアルデヒドを除去
Junaid et al 2004  
GRIK2 6q16.3-q21 グルタミン酸塩受容体6神経発達に関与 Jamain et al 2002,Shuang et al 2004  
HOXA1 7q15.2 後脳発達に関与するホメオボックス遺伝子 Ingram et al 2000,Conciatori et al 2004 Devlin et al 2002, Li et al 2002, Talebizadeh et al 2002,Collins et al 2003,Romano et al 2003,Gallagher et al 2004
RELN 7q22.1 ニューロン遊走に関与するシグナル蛋白 Persico et al 2001,McCoy et al 2001,Zhang et al 2002 Krebs et al 2002,Devlin et al 2004,Li et al 2004
WNT2 7q31.31 胎児体節形成,細胞増殖,細胞分化に関与するシグナル蛋白 Wassink et al 2001,Hutcheson et al 2004 McCoy et al 2002,Li et al 2004
FOXP2 7q31 胎児形成,神経機能に関与する転写因子 Gong et al 2004,Li et al 2005 Gauthier et al 2003,Wassink, Piven et al 2002
UBE2H 7q32 ユビキチン依存性蛋白分解酵素 Vourc’h et al 2003  
EN2 7q36.2 中脳,小脳形成に関与するホメオボックス遺伝子 Petit et al 1995,Gharani et al 2004 Zhong et al 2003
PTEN 10q23.31 腫瘍抑制遺伝子 Butler et al 2005  
HRAS 11p15.5 細胞分裂,分化,アポトーシスに関与する癌遺伝子GTPase Herault et al 1995, Comingset al 1996  
AVPR1A 12q14.1 社会行動に関与するAVP受容体 Kim, Young et al 2002Wasshink et al 2004  
UBE3A 15q11-q13 ユビキチン蛋白リガーゼをコードするAngelman症候群原因遺伝子 Nurmi et al 2001,Jiang et al 2004 Nurmi, Dowd et al 2003
ATP10C 15q11.2-q12 中枢神経系シグナリングに関与するリン脂質輸送担体 Nurmi, Amin et al 2003 Kim, Herzing et al 2002
GABRB3, GABRA5, GABRG3 15q11.2-q12 GABA受容体サブユニット Cook et al 1998, Martin et al 2000, Nurmi et al 2001, Buxbaum et al 2002,Nurmi, Dowd et al 2003,Mnold et al 2001,Shao et al 2003,McCauley et al 2004 Nurmi et al 2001,Maestrini et al 1999,Salmonn et al 1999
SLC6A4 17q11.1-q12 セロトニントランスポーター Cook et al 1997, Klauck et al 1997, Yirmiya et al2001, Tordjmanet al 2001, Kim, Cox et al 2002,Conroy et al 2004,Mulder et al 2005 Persico et al 2000,Persico et al 2002,McCauley et al 2004
NF1 17q11.2 Ras蛋白制御 Mbarek et al 1999,Marui et al 2004 Plank et al 2001
HOXB1 17q21-q22 後脳形成に関与するホメオボックス遺伝子 Ingram et al 2000 Li et al 2002,Romano et al 2003,Gllagher et al 2004
APOE2 19q13.2 神経遊走と脂質輸送に関与するリポ蛋白受容体 Persico et al 2004  
ADA 20q13.12 プリン代謝と免疫反応に関与 Young et al 1999, Kim, Young et al 2002  
NLGN3 Xq28 シナプス形成 Jamain et al 2003  
NLGN4X Xp22.33 シナプス形成 Jamain et al 2003,Laumonnier et al 2004 Talebizadeh et al 2004,Gauthier et al 2005,Vincent et al 2004
ARX Xp22.13 ホメオボックス遺伝子 Stromme et al 2002,Turner et al 2002  

1. Pro = 肯定的な報告
2. Con = 否定的な報告

多因子性遺伝

再発率のデータや一卵性双生児と二卵性双生児の一致率から計算された自閉症の遺伝率は90%以上と推定されている.多くの研究者は1)高い遺伝率,2)主要原因遺伝子を同定できないこと,3)男性と女性の比が4:1であること,4)同胞の再発率が焼く4%であること,などから特発性自閉症を多因子疾患と考えている.

多因子遺伝の閾値モデルでは患者の多い性別(男性)では再発リスクはより低くなり,患者の少ない性別(女性)の患者はより重症となる.最近の研究では自閉症ではこうしたモデルが当てはまらないことが示されている.1)特発性自閉症の同胞の再発率は発端者の性別によって差がない,2)発端者が女性であってもごく軽症の無症状自閉症表現型が家族に多いことはない,3)本態性自閉症の発端者のみについて分析した場合では,女性患者は男性患者よりも症状が軽く,特に社会性,ごっこ遊び,反復運動,偏った興味といった範囲において明らかである.

多因子遺伝の閾値モデルを疑問視することは自閉症が多くの遺伝子と関係している可能性を無視することではなく,むしろ自閉症の遺伝形質を理解するために最も大きな障害は遺伝子異質性であることを示している.


評価方法

行動評価に加え,すべての自閉症患者は正しい診断をつけ,発語のない小児の発達や行動に影響する問題を明らかにする目的で詳しい医療評価を受ける必要がある.もしその疑いがあるならば,基本的な評価は代謝異常,内科的状況,神経学的状況についても行うべきである.

家族歴 行動異常の有無に着目した3代にわたる家系図を手に入れるべきである.自閉症の発現の可能性を示す親族を直接調べることができるか,もしくはその記録を検討できる.アルコール依存を含む言語的,社会的,身体的問題がしばしば自閉症発端者,特に本態性自閉症の同胞を含めた親族内に認められる.

身体診察 身体診察には以下の項目を含むべきである.

検査 最初の検査評価においては下記の項目が適切である.

分子遺伝学的検査

FMR1 最初の検討に際しては脆弱X症候群の分子遺伝学的検査を行うのが適切である.

現在特発性自閉症患者において陽性者が多い他の分子遺伝学的検査は知られていない.以下の遺伝子変異は散発例において報告されている.


遺伝カウンセリング

「遺伝カウンセリングは個人や家族に対して遺伝性疾患の本質,遺伝,健康上の影響などの情報を提供し,彼らが医療上あるいは個人的な決断を下すのを援助するプロセスである.以下の項目では遺伝的なリスク評価や家族の遺伝学的状況を明らかにするための家族歴の評価,遺伝学的検査について論じる.この項は個々の当事者が直面しうる個人的あるいは文化的、倫理的な問題に言及しようと意図するものではないし,遺伝専門家へのコンサルトの代用となるものでもない.

二次性自閉症 自閉症者の10人中5人は潜在的病因としての単一遺伝異常または染色体異常がある.このような家族に対しての遺伝カウンセリングは初期診断と関連する情報に基づく.15番染色体長腕(15q)の二動原体の異性体はde novoに生じたものである.15qの近位の重複は,両親からの染色体転座の分離または,母親由来の15qの割り込みの結果である.

遺伝形式

特発性自閉症の遺伝様式は不明である.

患者家族のリスク ー 特発性自閉症
 

発端者の両親 特発性自閉症発端者の両親が特発性自閉症を有する危険性を示す有用なデータはない.しかしながら,両親は社会的不適応やアルコール依存,抑うつ,強迫性障害,パニック障害などを含む緩やかな自閉症状を示す傾向にある.CederlundとGillberg(2004)は検討した特発性自閉症発端者の70%で,一度または二度近親に自閉症状を有する者がおり,15%は父親がアスペルガー症候群であったと報告している.

発端者の同胞 

発端者の子 データはない.

遺伝カウンセリングに関連した問題

DNAバンキング DNAバンクは主に白血球から調製したDNAを将来の使用のために保存しておくものである.検査法や遺伝子,変異あるいは疾患に対するわれわれの理解が進歩するかもしれないので,DNAの保存は考慮に値する.ことに分子遺伝学的検査が研究ベースのみでしか行われていないような疾患では特に重要である.

出生前診断

自閉症に対する出生前診断は行われていない.


臨床的マネジメント

最初の診断時における評価

理想的には医学,行動学,教育学の専門家などのグループのよる自閉症の介入教育プログラムが最も良い.確立されたグループと一緒に働くことは家族にとって最も簡単である.しかし,多くの内科医と家族がプログラムを円滑にすすめるために協力する必要がある.最良の結果を得るために,初期の診断と集中的な行動治療が不可欠である.National Research Councilが発行するEducating Children with Autismに包括的な総説があり,オンラインで利用できる.他にどのような教育法が”evidence-based practice”の基準を満たしているかを判定するための,単一患者における研究がある.

治療の目標は,反復行動や癇癪,自傷行為を和らげている間に,機能的で会話のできる言語と社会的相互関係を獲得することである.混合ビタミン剤やミネラル,抱擁療法のような効果に対するエビデンスが得られていない代替医療やセクレチン投与,コミュニケーション促進,聴覚訓練のように二重盲検によって否定された治療法がある.

治療は3つのカテゴリーが存在する.

行動・教育的治療 

このプログラムは子供たちが言語を理解し,使用し,そして彼らがいる環境に目を向かせ,社会と交流させ,おもちゃでふさわしい遊びをさせるために効率性が実証されたものを用いる.特徴は,行動問題や明確であらかじめ決められた教室や家庭での環境と活動の相互関係を伴う決まりを用いる手法を含むことである.教室での週平均25時間,最低でも週15時間の個別教育が必要である.プログラムが成功するには両親による訓練が重要である.

集中的早期の介入プログラムは教育内容によって分類できる.ひとつは集中的で厳密に組み立てられ,記述的でなく,成人を対象とした一対一の介入で, ABA(Applied Behavior Analysis: 行動分析学)を用いる方法である.機械的な方法で社会性や言語能力を教えるのが適切で有効であるかどうかについては議論がある.しかしながら,個別の試験訓練方式を用いるABAは多くの論文データによって支えられている.集中的行動介入プログラムを二種類の教室での多岐にわたるプログラムと比較した最近の研究では,行動介入のほうでより有効な結果を得ている.ABAの原理は家庭や教室での日常行動に教育を当てはめた最新の行動分析学を適用している.もう一方の方法は発達社会実践介入というもので,DIR(Developmental, Individual-Difference, Relationship-Based model)として知られている.DIRモデルは大人というのは自閉症児を感情機構によって縛り付けるものという前提に基づいている.感情の基盤となる機構は強められ,自閉症児は周囲の人々と言葉や考えを共有できるようになる.しかしながら,GreenspanとWiederによる唯一の論文は後ろ向きの病歴調査によるものである.

自閉症を持つ多くの子供たちは,学校や家庭で言葉の使い方を教える際に視覚的補助が必要である.自閉症児とのコミュニケーション教育でよく使われているのが,PECS(Picture Exchange Communication System)という方法である.PECSにおいては,欲しい物やしたいことを伝えるときにそれが描かれた絵を選ぶということを子供に教える.PECSは3歳から6歳までの小児で,認知能力に関して重度の精神発達遅滞から正常にいたるまで幅広く有効である.費用は安いが,実施するには2名の大人が必要である.そのほかのコミュニケーション教育は視覚察知による教育およびスケジュールプログラムで,これは図形的手がかりを教育的および環境的刺激として用いて,言語理解やコミュニケーション,組織的能力,自己管理の向上を助けようとするものである.「視覚スケジュール」では子どもが日常生活の手順の理解を助ける絵が示される.「視覚察知教育」は3-6歳のIQで重度の精神発達遅滞を示す子どもからIQが正常の子どもまでひろく用いられ,効果をあげている.教材は教師によって準備され,安価である.

他の期待される介入法には「社会ストーリー」がある.「社会ストーリー」の目的は子どもにもわかるような方法で社会的状況を説明し,適切な行動がとれるとともに問題行動を減らそうとすることにある.これは多くの問題行動は周囲が何を求め,何が起ころうとしているのかを理解できないために生じるという考えに基づいている.「社会ストーリー」は理解を構築し,子どもが適切に行動できるようにする.この方法は他の介入法に比べて安価で所要時間も短く,専門的な知識も必要としない.総説はKouch & Mirenda (2003)を参照のこと.

薬物療法

セロトニン経路とドパミン経路の両方に影響する薬剤や選択的セロトニン再吸収阻害剤などの新世代抗うつ剤の小児における効果が検討され,自閉症に対して薬物治療が行われることも多くなってきた.1997年にNational Institute of Mental Healthは自閉症の行動を治療する薬剤の安全性と有効性を検討するために小児精神研究ユニット(RUPP)自閉症ネットワークを組織した.この研究グループから以下のような自閉症の薬物治療に対する見解が報告された.

  • いずれの薬剤も自閉症特異的ではない.薬剤は睡眠障害,攻撃的行動や自傷行為,反復行動や型にはまった行動など,学習や社会適応に支障となるような特定の症状を改善する目的で選択されるべきである.
  • 攻撃性や活動性亢進のような適応障害性行動を改善する薬剤は自閉障害の中心的症状に対しては効果がないかもしれない.
  • 成人と小児では薬剤の有効性や副作用に大きな差がある.
  • 罹患者は同じ薬剤に対しても異なった反応を示しうる.薬剤に対する反応は遺伝学的な個人差や長い経過における改善・増悪,病像の進行,さらに/あるいはプラセボ効果を反映している.
  • 薬剤治療は家族中心の多彩な行動プログラムや教育プログラムの中に組み込まれるべきである.

医学的マネジメント 多くの自閉症児は健康であるが,医学的な障害が行動や教育的治療に対する反応に大きな影響を与えるというエビデンスが集積している.疼痛に鈍感になるとか不快感を他人に知らせることができない,医療的な身体評価に我慢できないなどの感覚の問題は,医学的評価を不完全なものにする.最近は消化器,栄養摂取,睡眠,代謝,疼痛感覚の障害に関する研究が新たに進められつつある.重度の胃食道逆流が頑固な不眠と自傷行為を招いていたという実例は,特に行動異常が悪化した場合には医師が疑いを持ち,他の健常な小児と同じように医学的介入を行うことの必要性を示唆している.

代替療法

混合ビタミン剤やミネラル,抱擁療法のような効果に対するエビデンスが得られていない代替医療やセクレチン投与,コミュニケーション促進,聴覚訓練のように二重盲検によって否定された治療法がある.


関連情報


原文 ADNP-Related Intellectual Disability and Autism Spectrum Disorder

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