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BAP1腫瘍素因症候群
(BAP1 Tumor Predisposition Syndrome)

[同義語: BAP1 Cancer syndrome; BAP1-TPDS; Cutaneous/Ocular Melanoma, Atypical Melanocytic Proliferations, and Other Internal Neoplasms (COMMON Syndrome)

Gene Reviews著者: Robert Pilarski, MS, LGC, MSW, Karan Rai, BS, Colleen Cebulla, MD, PhD and Mohamed Abdel-Rahman, MD, PhD
日本語訳者: 朝倉 一 ,古屋充子(横浜市立大学医学研究科分子病理)

Gene Reviews 最終更新日:2016.10.13 日本語訳最終更新日: 2019.3.22.

原文: BAP1 Tumor Predisposition Syndrome


要約

疾患の特徴 

BAP1腫瘍素因症候群(BAP1-TPDS)は、特殊な皮膚病変―非典型Spitz腫瘍―と以下の腫瘍発症リスクが増加に関連する症候群である:頻度順にぶどう膜悪性黒色腫、悪性中皮腫、皮膚悪性黒色腫、淡明細胞型腎細胞癌、基底細胞癌。この症候群に罹患している患者では複数の原発癌を有することがある。これらの腫瘍発症平均年齢は、一般集団と比較してより若年である。ぶどう膜悪性黒色腫は侵襲性の高いclass 2腫瘍で、一般集団のぶどう膜悪性黒色腫よりも転移リスクが高く、生存率が低い。しかし、今日までに報告されている家系数が限られていることから、BAP1関連腫瘍の浸透率、自然史、頻度は未だ解明途上にある。

上記以外にBAP1-TPDS との関連が示唆されている腫瘍には以下のものがある(アルファベット順に): 乳癌、胆管癌、非小細胞肺腺癌(NSCLC)、髄膜腫、神経内分泌癌。

診断・検査 

・病変の治療:
BAP1-TPDSの治療は標準治療に則って行われる。BAP1関連ぶどう膜悪性黒色腫は悪性度が高いことから、全例で侵襲性の高いclass 2腫瘍または3番染色体モノソミー腫瘍として対処すべきである。悪性中皮腫は侵襲的外科治療や集学的治療に対しても極めて難治であるため、治癒は見込めない。

発症予防:
ぶどう膜悪性黒色腫:アーク溶接を避ける。紫外線リスクを回避するサングラス着用の効果に関するデータは今のところない。悪性中皮腫: アスベスト曝露や喫煙を避ける。皮膚悪性黒色腫と基底細胞癌: 日光曝露の制限や日焼け止めクリーム、皮膚を保護する衣服着用と皮膚科の定期診察を持つ。

・定期検査:
ぶどう膜悪性黒色腫: 11歳頃より眼腫瘍医による散瞳試験や画像検査を毎年行う。悪性中皮腫: スクリーニング検査はないが、毎年の定期検診が勧められる。もし淡明細胞型腎細胞癌に対して腹部MRI検査施行が勧められるならば、同時に腹膜や胸膜評価も検討すべきである。アスベスト曝露歴のある無症状の人に対して胸部スパイラルCT施行を勧める医師もいるが、被爆から癌を発生するリスクを考慮して反対する立場の医師もいる。皮膚悪性黒色腫、基底細胞癌、非典型的Spitz腫瘍: 20歳頃より全身皮膚検査を毎年行う。淡明細胞型腎細胞癌:腹部超音波検査を毎年行う; 尿検査も毎年行い,腹部MRI検査を2年毎に検討すべきである。

避けるべき因子や環境:
原発症状予防の項を参照のこと。

・リスクのある親族の検査:
出来るだけ早期にスクリーニングや予防的処置を始めることで利益を受けられるように、リスクのある家系内において見かけ上無症状の年配または若年近親者の遺伝状態をBAP1病的変異の分子遺伝学的検査で明らかにする。

遺伝カウンセリング 

BAP1-TPDSは常染色体優性遺伝する。今日では、BAP1-TPDSと診断された個人の殆どが親から受け継がれた遺伝子によって発症している; de novo病的変異によって起こるBAP1-TPDSの割合は不明である。BAP1-TPDSと診断された個人の子どもは、50%の確率でBAP1病的変異を受け継ぐ; しかし浸透率は不完全と考えられ、同じ家系内でも各個人には異なるBAP1関連腫瘍が発生しうる。一旦家系内の誰かの生殖細胞系列にBAP1病的変異が同定されると、BAP1-TPDS発症リスクがある妊娠に対しては、出生前や着床前の遺伝学的診断が可能である(訳注:日本では行われていない)。


診断

BAP1-TPDSに関する診断基準は定まっていない。

疑われる症状

以下に示す項目いずれかが当てはまる個人に対しては、BAP1-TPDSを疑うべきである:

  • 2つまたはそれ以上のBAP1-TPDS関連腫瘍が認められる場合*

または

  • BAP1-TPDS関連腫瘍1つが認められ、第一度近親者または第二度近親者内にもBAP1-TPDS関連腫瘍が確認される場合*

*基底細胞癌もしくは皮膚悪性黒色腫が2つ認められる場合は、一般の集団においても認められる頻度が高いことから、除外される。

BAP1-TPDS関連腫瘍と確定している腫瘍には以下のものが含まれる(頻度の高い順)。

  • 非典型Spitz腫瘍, これはBAP1-TPDSの所見として最も一般的に認められ、発端者の初発所見として同定されることがある。非典型Spitz腫瘍は平均5mm径の皮膚色〜赤茶色の皮膚病変である; 組織学的にはSpitz母斑と悪性黒色腫の中間的所見が認められる。BAP1の両コピーが不活化されるため、免疫染色でBAP1タンパク質が不染となる。
  • ぶどう膜悪性黒色腫
  • 悪性中皮腫
  • 皮膚悪性黒色腫
  • 淡明細胞型腎細胞癌
  • 基底細胞癌

未確定腫瘍(BAP1-TPDS関連腫瘍のスペクトラムに含めるかどうかについて相反するエビデンスがある)として以下のものが挙げられる(アルファベット順)。

  • 乳癌
  • 胆管癌
  • 髄膜腫
  • 神経内分泌腫瘍
  • 非小細胞性肺腺癌
  • 甲状腺癌

確定診断

BAP1-TPDSの診断は、発端者の生殖細胞系列にヘテロ接合性BAP1病的変異が分子遺伝学的検査によって同定された場合に確定されるTable 1参照)。

分子遺伝学的検査手法には、単一遺伝子検査またはマルチ遺伝子パネル検査を用いる方法を含む。

  • 単一遺伝子検査BAP1のシークエンス解析が施行される。今のところ、シークエンス解析でBAP1病的変異を有さない場合における標的遺伝子欠失/重複解析を行う利益(または不利益)について報告しているデータは存在しない。
  • マルチ遺伝子パネル検査BAP1とその関連遺伝子(後述の鑑別診断を参照)の組み合わせが考慮される。但し、以下の点に留意しておく必要がある;(1)パネルに含まれる遺伝子と各遺伝子に対する検査の診断感度は、ラボや時間経過によって変化する。(2)いくつかのマルチ遺伝子パネルはこのGeneReviewで議論されている条件に関係しない遺伝子を含んでいる事がある;そのため、臨床医はどのマルチ遺伝子パネルが最適費用で病態の遺伝的原因を同定しうるか決定する必要がある。しかし根底にある表現型が不明の遺伝子におけるVUSと病的変異の同定には限界がある。(3)ラボによっては、パネルのオプションとしてラボ設計の特製パネルや、臨床医が指定する遺伝子を含む表現型-特化のエクソーム解析を含むことがある。(4)パネルによって用いられる手法はシークエンス解析、欠失/重複解析や、またはその他のシークエンスに基づかない試験を含んでいる可能性がある。

Table 1.
BAP1-TPDSに用いられる分子遺伝学的検査

遺伝子1 検査方法 検査によって検出されうる病的変異2を有する発端者の割合
BAP1 シークエンス解析3 今日までに報告されているすべての変異4
標的遺伝子欠失/重複解析5 知られていない6
  1. 染色体の遺伝子座やタンパク質に関してはTable A 遺伝子とデータベースを参照のこと
  2. この遺伝子に関して検出されうるアレル変異の情報に関しては分子遺伝学の項目を参照のこと
  3. シークエンス解析は、良性、良性と考えられる、VUS、病的と考えられる、病的変異を検出することが可能である。病的変異は遺伝子内小欠失/挿入、ミスセンス、ナンセンス、スプライス変異を含むと考えられる。典型的には、エクソンや全遺伝子の欠失/重複は検出されない。
  4. Rai et al [2016]
  5. 標的遺伝子欠失/重複解析は遺伝子内の欠失や重複を同定する。用いられる手法については、定量PCR、ロングレンジPCR、multiple ligation-dependent probe amplification(MLPA)、単エクソン欠失/重複を検出するように作成した標的遺伝子マイクロアレイを含む。
  6. 標的遺伝子欠失/重複解析の同定率に関するデータはない。MLPA法を用いた検査では、ぶどう膜悪性黒色腫患者で同家族歴のある20名、またはぶどう膜悪性黒色腫患者で腎細胞癌の既往または家族歴のある10人で、いずれのBAP1エクソンにも複数エクソンにも欠失/重複は同定されなかった。[M Abdel-Rahman,未発表データ]

臨床的特徴

臨床像

BAP1-TPDSは、多重がんと特異的皮膚病変(非典型Spitz腫瘍)の発症リスク増加に関係している。罹患者は原発癌を1種類以上有することがある。[Testa et al 2011, Njauw et al 2012, Aoude et al 2013b, Cheung et al 2015, Ohar et al 2016, Rai et al 2016]

 今日までに報告されている症例数に限りがあることや、ぶどう膜悪性黒色腫、悪性中皮腫、皮膚悪性黒色腫に関心のある研究者たちの診断バイアスのために、色々なBAP1関連腫瘍の浸透率や頻度は未だに分かっていない。しかしながら、以下に示す腫瘍型とBAP1-TPDSとの関係性は十分確立してきた。

非典型Spitz腫瘍(Atypical Spitz tumors)

Wiesener et al [2012]は、これらの皮膚病変を“非典型Spitz腫瘍”として分類した。この著者たちは、これが最も適した呼称であると考えている(他の呼称については、Nomenclatureの項目参照)。

ぶどう膜悪性黒色腫(Uveal melanoma

BAP1-TPDS患者において、最も普遍的に報告されている腫瘍であり(31%)、最も若年で診断された(16歳)報告の腫瘍でもある。[Rai et al 2016]

ぶどう膜悪性黒色腫発症中央年齢はBAP1-TPDS患者において51歳であり、これは一般集団のぶどう膜悪性黒色腫発症(62歳)と比較して若年である。この腫瘍は一般的に侵襲度の高いclass 2(即ち高転移能)で、転移しやすく生存率の低いの腫瘍である[Njauw et al 2012, Rai et al 2016]。ある研究においては、BAP1陽性ぶどう膜悪性黒色腫の患者生存期間中央値が9.97年であるのに対し、BAP1陰性ぶどう膜悪性黒色腫の患者生存期間中央値は4.74年であったと報告している[Kalirai et al 2014]。

悪性中皮腫Malignant mesothelioma)

BAP1-TPDS患者において、2番目に頻度が高い腫瘍である(22%)[Testa et al 2011, Rai et al 2016]。
2つの研究にて[Baumann et al 2015, Ohar et al 2016]、BAP1-TPDS患者の悪性中皮腫発症中央年齢(それぞれ55歳、58歳)は、孤発性悪性中皮腫患者と比較し(それぞれ72歳、68歳)、有意に若年であったと報告している。
一般的に、胸膜悪性中皮腫が約80%を占め、腹膜悪性中皮腫が残りを占めている。しかしBAP1-TPDS患者においては、腹膜対胸膜発症頻度は有意に高くなる[Carbone et al 2015, Cheung et al 2015, Ohar et al 2016]。BAP1-TPDS患者においては腹膜悪性中皮腫の大部分が女性で、一般集団において男性優位に発症するのとは対照的である [Rai et al 2016]。

BAP1関連皮膚悪性黒色腫、ぶどう膜悪性黒色腫、または腎細胞癌の患者の生存期間と比較して、BAP1関連悪性中皮腫患者の生存期間は有意に長いとされる[de Reyniès et al 2014, Baumann et al 2015, Carbone et al 2015, Ohar et al 2016];しかし今日このデータに一貫性はない[Rai et al 2016]。

エビデンスの蓄積から、BAP1病的変異は環境因子であるアスベスト曝露と相互作用し、悪性中皮腫発症の危険性を増加させると考えられる[Xu et al 2014, Kadariya et al 2016]。

皮膚悪性黒色腫(Cutaneous melanoma)

皮膚悪性黒色腫とBAP1-TPDSとの関係性は2011年に初めて報告され、現在BAP1-TPDSにおいて3番目に多い腫瘍で、保因者の13%に発生する [Wiesner et al 2011]。原発性皮膚悪性黒色腫が多発することが一般的である。BAP1-TPDSにおける皮膚悪性黒色腫発症中央年齢は、一般集団と比較して若年である(46歳 vs 58歳)。BAP1関連皮膚悪性黒色腫が一般集団の皮膚悪性黒色腫より侵襲性が高いことはありえるものの、今日このデータに一貫性はない[Gupta et al 2015, Kumar et al 2015, Rai et al 2016]。

淡明細胞型腎細胞癌(Clear cell renal cell carcinoma 

ヘテロ接合性BAP1生殖細胞系列病的変異は、特に淡明細胞型腎細胞癌発症率増加に関係する[Haas & Nathanson 2014]。淡明細胞型腎細胞癌の診断中央年齢は、BAP1-TPDS患者のほうが一般集団より若年とみなされ(47歳 vs 64歳)、生存期間もBAP1関連淡明細胞型腎細胞癌のほうが短い[Rai et al 2016]。これらの腫瘍の組織像は、BAP1病的変異と関係しない腫瘍とは明らかに異なり、診断時グレードが高く、PBRM1の病的変異を欠く(これはBAP1病的変異と関係しない淡明細胞型腎細胞癌に共通する所見である)[Peña-Llopis et al 2012]。

基底細胞癌 (Basal cell carcinoma)

最近BAP1-TPDSの範疇として確立された [de la Fouchardière et al 2015a, Mochel et al 2015, Wadt et al 2015]。多発する原発性基底細胞癌が一般的である。情報が限られているために、診断中央年齢は50歳前後と考えられる。

その他の腫瘍
何らかのエビデンスをもってBAP1-TPDSの範疇として支持される腫瘍(一貫していないものの)を以下に示す(アルファベット順);
 

遺伝子型と表現型の関連

BAP1-TPDSの遺伝子型と表現型の関連について発表されたことはない。

多くの家系は独自のBAP1病的変異を持っていて、異なる家系で共通する病的変異報告は5つに過ぎない[Rai et al 2016]。

浸透率

既報によるとBAP1-TPDSの浸透率は高いと考えられる。Rai らは生殖細胞系列にヘテロなBAP1病的変異を有する174人中148人 (85%)ががんの診断を受けていたと報告している[Rai et al 2016]。しかしこれは発病者と非発病者の確定診断にバイアスが存在する偏った確率かもしれない。例えば半数以上の家系では発端者のみが遺伝学的検査を受けていた。このバイアスのため、正確な浸透率の評価を現時点で行うことはできない。

病名

非典型Spitz腫瘍は以下のようにも呼ばれてきた。

  • 母斑様悪性黒色腫類似メラノサイト増殖[Njauw et al 2012]
  • BAP1変異非典型真皮内メラノサイト腫瘍[Carbone et al 2015]
  • BAPoma [筆者, 個人見解]

頻度 

人口あたりのBAP1-TPDS有病率は不明である。2015年の総説では57家系174人が同定された[Rai et al 2016]。

現時点でぶどう膜悪性黒色腫、悪性中皮腫、皮膚悪性黒色腫、家族性腎癌の各患者内でのBAP1-TPDS患者率は不明である。

注意点として、ある総説では生殖細胞系列にBAP1病的変異を有する家族の90%が「示唆所見」のクライテリアに合致したと報告された[Rai et al 2016];しかし各腫瘍タイプでの無作為患者集団内、或いは家族集団内で生殖細胞系列にBAP1病的変異を持つ人は稀である(例えばぶどう膜悪性黒色腫[Abdel-Rahman et al 2011, Turunen et al 2016], 悪性中皮腫[Testa et al 2011], 皮膚悪性黒色腫[Aoude et al 2015]、腎癌[Farley et al 2013, Popova et al 2013])。

ぶどう膜悪性黒色腫

ぶどう膜悪性黒色腫の無作為患者集団内における生殖細胞系列BAP1病的変異有病者は1-2%である[Aoude et al 2013b];一方、ぶどう膜悪性黒色腫の家族歴がある人がぶどう膜悪性黒色腫にある確率は20%-30%である[Popova et al 2013Gupta et al 2015Turunen et al 2016]。

悪性中皮腫

家族性悪性中皮腫の家族内発症集団の6%(153人中9人) 〜 20%(5人中1人)に生殖細胞系列BAP1病的変異有病者が含まれる[Betti et al 2015, Ohar et al 2016];しかし単発ケース(即ち家系内に1名しか悪性中皮腫が発症していない)においては稀である[Rusch et al 2014, Betti et al 2015, Sneddon et al 2015, Ohar et al 2016].

皮膚悪性黒色腫

皮膚悪性黒色腫がある1109人のコホートにおいて生殖細胞系列BAP1ヘテロ接合性ミスセンス変異は0.63%に認められた[Aoude et al. 2015].


遺伝学的に関連する疾患

このGene Reviewで議論された以外の表現型で生殖細胞系列BAP1病的変異と関連する疾患は知られていない。
 体細胞系列BAP1変異はBAP1-TPDS腫瘍の一部あるいはそれ以外の腫瘍タイプで見つかってきた。これらの変異は生殖細胞系列にはなく、従って遺伝性ではない。更に詳しくはMolecular Genetics, Cancer and Benign Tumors参照のこと。


鑑別診断

ぶどう膜悪性黒色腫、悪性中皮腫、腎細胞癌、非典型Spitz腫瘍と関連しうる遺伝子変異は他にもある;しかしBAP1-TPDSのように、これらの腫瘍リスクがコンビネーションで上昇する他の遺伝子は知られていない.

表2 
BAP1-TPDSとの鑑別が必要な疾患とその遺伝子

病名

遺伝子

遺伝様式

備考と文献

ぶどう膜悪性黒色腫

BRCA2

常染色体優性

Iscovich et al [2002], Scott et al [2002], Sinilnikova et al [1999]

悪性中皮腫

不明

不明

 

皮膚悪性黒色腫

CDKN2A
CDK4
MC1R
MITF

常染色体優性

CDKN2A関連膵癌
[Marzuka-Alcalá et al 2014].

遺伝性淡明細胞型腎細胞癌

遺伝性パラガングリオーマ褐色細胞腫症候群

SDHA
SDHB
SDHC
SDHD
SDHAF2
MAX

常染色体優性

 

フォンヒッペルリンドウ病

VHL

常染色体優性

 

3番染色体転座

 

常染色体優性

OMIM 144700


臨床的マネジメント

最初の診断時における評価

BAP1-TPDSと診断された個人の疾患状態や治療必要性を確立するため、以下の評価が勧められる[Rai et al 2016]:  

  • 非典型Spitz腫瘍、皮膚悪性黒色腫及び/または基底細胞癌。皮膚科医による全身皮膚精査と非典型Spitz腫瘍が疑われる部位の切除。
  • ぶどう膜悪性黒色腫。眼腫瘍医による目の精査と画像検査。
  • 悪性中皮腫。現時点ではスクリーニングの適応はない;しかしもし淡明細胞型腎細胞癌に対して腹部MRI検査施行が勧められるならば、同時に腹膜や胸膜評価も検討すべきである。アスベスト曝露歴のある無症状の人に対して胸部スパイラルCT施行を勧める医師もいるが、被爆から癌を発生するリスクを考慮して反対する立場の医師もいる。
  • 淡明細胞型腎細胞癌。腹部超音波検査、尿検査、腹部MRI検査(胸膜や腹膜の評価も併せて行うことを検討)
  • 臨床遺伝専門医または遺伝カウンセラーに相談すること。

病変に対する治療

BAP1-TPDS腫瘍の治療は、標準治療で行われるものと同じである。

  • ぶどう膜悪性黒色腫。BAP1-関連ぶどう膜悪性黒色腫は侵襲性が高いため、ぶどう膜悪性黒色腫は全例侵襲性腫瘍として治療すべきである(遺伝子プロファイルや3番染色体モノソミーから侵襲性の高いclass 2腫瘍であるとされる) [Njauw et al 2012].
  • 悪性中皮腫は高侵襲な外科治療や集学的治療などの従来治療に抵抗性が高く、根治は望めない。
  • 淡明細胞型腎細胞癌には標準治療が行われる。

初発の予防

  • ぶどう膜悪性黒色腫。アーク溶接はぶどう膜悪性黒色腫のリスクを上昇させるため避ける。
  • UVA, UVB防止サングラス着用は瞼の発がんリスクを下げ得る。しかしぶどう膜悪性黒色腫に対する効果に関するデータはない。
  • 悪性中皮腫: すべての人について、アスベスト曝露や喫煙を避けるべきである。
  • 皮膚悪性黒色腫: 一次予防は、日光曝露の制限や日焼け止めクリーム、皮膚を保護する衣服着用と皮膚科の定期診察を持つことなど、皮膚悪性黒色腫リスクを減らすために用いられる手段に限られる。

定期検査

コンセンサスを得た推奨マネジメントはまだ確立されていない;しかし複数グループで以下のことを提唱している[Carbone et al 2015, Battaglia 2014, Rai et al 2016]。

  • ぶどう膜悪性黒色腫。眼腫瘍医による散瞳試験と画像検査を11歳頃から毎年行う。
  • 悪性中皮腫。信頼性のある初期症状やスクリーニングの適応はない。
    以下の悪性中皮腫晩期症状に対する定期評価は推奨される:胸痛、咳、熱、呼吸困難、嚥下障害、嗄声、体重減少、上半身や顔の浮腫(胸膜中皮腫)、腹痛、腹水、吐き気、嘔吐、便秘(腹膜中皮腫)。
    定期的全身検査で胸膜炎、腹膜炎、腹水や胸水の兆候を探すことは推奨される。
    もし淡明細胞型腎細胞癌に対して腹部MRI検査施行が勧められるならば、同時に腹膜や胸膜評価も検討すべきである。アスベスト曝露歴のある無症状の人に対して胸部スパイラルCT施行を勧める医師もいるが、被爆から癌を発生するリスクを考慮して反対する立場の医師もいる。
  • 皮膚悪性黒色腫、基底細胞癌、非典型Spitz腫瘍: 皮膚科医による全身皮膚精査を20歳頃から毎年行う。
  • 淡明細胞型腎細胞癌。フォンヒッペルリンドウ病に対するものと同様のプロトコールで、毎年腹部超音波検査と尿検査、2年に1回腹部MRI検査を行う。

避けるべき原因物質・環境

以下のことは避けるべきである

  • アーク溶接
  • アスベスト
  • 喫煙
  • 不必要に長時間の日光浴をすること

疾患リスクがある近親者の評価

罹患者の近親者で疾患リスクがある無症状にみえる年長者や若者の遺伝状態をBAP1分子遺伝学的検査で病的変異の有無を明らかにすることは、可及的初期にスクリーニングや予防法を講じることで利益をもたらす点から適切である。

リスクがある近親者検査の遺伝カウンセリングについては遺伝カウンセリングの項を参照のこと。

研究中の治療法

今日、BAP1-TPDS患者に対象を絞ったオープン試験はない。

米国立がん研究所支援のボリノスタットを用いた治験が転移性ぶどう膜悪性黒色腫治療に行われ、副次評価項目としてBAP1変異を評価している。

幅広く疾患や病状に関する臨床研究情報を得るには、米国ClinicalTrials.govや欧州www.ClinicalTrialsRegister.euを参照のこと。


遺伝カウンセリング

「遺伝カウンセリングは個人や家族に対して遺伝性疾患の本質,遺伝,健康上の影響などの情報を提供し,彼らが医療上あるいは個人的な決断を下すのを援助するプロセスである.以下の項目では遺伝的なリスク評価や家族の遺伝学的状況を明らかにするための家族歴の評価,遺伝子検査について論じる.この項は個々の当事者が直面しうる個人的あるいは文化的な問題に言及しようと意図するものではないし,遺伝専門家へのコンサルトの代用となるものでもない.」

遺伝形式

BAP1-TPDSは常染色体優性遺伝である。

患者家族のリスク

発端者の両親

  • 今日BAP1-TPDSと診断された人の多くは親も罹患者である。罹患している親は発端者とは異なるBAP1関連腫瘍を持つかもしれない。
  • BAP1-TPDSと診断された人の中にはde novo生殖細胞系列BAP1病的変異によって疾患をもつことがあるかもしれない。de novo病的変異の割合は分かっていない。
  • de novo生殖細胞系列病的変異にみえる発端者の両親に対しては分子遺伝学的検査が推奨される。
  • もし発端者にみられる生殖細胞系列BAP1病的変異がいずれの両親の白血球DNAにも検出されない場合は、可能性として発端者におけるde novo病的変異あるいは両親いずれかの生殖細胞系列モザイク現象と説明しうる(もっとも今日、モザイク現象症例は報告されていないので、可能性にとどまる)。
  • BAP1-TPDSと診断された人たちには家族歴なしに見えることがある。それは家族の疾患を見過ごしていたり、浸透率が低かったり、発症前に親が死亡したり親の発病が遅かったりするためである。そのため家族歴なしにみえても、遺伝学的検査で両親のBAP1病的変異が陰性だと確認するまでは家族歴なしとは出来ない。
  • 注意:もし親に初めて病的変異が起こったとしても、体細胞モザイク (胚細胞も含む) バリアントかもしれず、BAP1-関連腫瘍を発症しないかもしれない。しかしながら、今日そのような例はBAP1-TPDSでは報告されていない。

発端者の同胞

  • 発端者きょうだいのリスクは、親の遺伝子状態による。
  • 発端者の親が臨床症状を発症していたりBAP1病的変異を持つ場合、きょうだいは50%の確率で変異を受け継いでいる。しかし、浸透率は不完全(浸透率参照のこと)で、BAP1-関連腫瘍の種類は同一家系内でも個人によって異なり得る。
  • 臨床的に非罹患と思われる両親から生まれたきょうだいであっても、それは親が低浸透率である可能性が考えられるため、リスクは依然高い。
  • 発端者と同じBAP1胚細胞変異が両親の白血球DNAに見つからなければ、胚細胞モザイク現象の可能性があるので、きょうだいのリスクは一般集団に比較してやや高くなる(1%未満だが)。

発端者の子

BAP1-TPDS患者の子供は50%の確率でBAP1病的変異を受け継ぐ。しかし、浸透率は不完全で、BAP1-関連腫瘍の種類は同一家系内でも個人によって異なり得る。

発端者の他の家族

上記以外の家族のリスクは発端者の親の状態による:どちらかの親が胚細胞にBAP1病的変異を持っていれば、その家系は発症する可能性がある。

遺伝カウンセリングに関連した問題

早期診断、早期治療するため、リスクのある親族の健康管理や検査に関する情報は、上述のリスクのある近親者の検査」を参照のこと。


予測検査リスクのある無症状成人家族にする場合、家系における胚細胞BAP1病的変異を前もって確定することが求められる。

de novo病的変異と思われる場合の発端者家族に対する考察

常染色体優性遺伝において、どちらの親にも発端者と同じ病的変異がなく臨床症状もなければ、そのBAP1変異はde novo変異であると考えられる。しかし、代理母や代理父(例えば補助生殖)といった医療以外のことに関する説明や、未公開の養子縁組が発覚するかもしれない。

胚細胞性がんリスク評価とカウンセリング

分子遺伝学的検査を用いる・あるいは用いずにがんリスク評価を通してリスク家族を同定する医学的、心理社会的、倫理的波及効果について総合的な記載はCancer Genetics Risk Assessment and Counseling – for health professionals (part of PDQ®, National Cancer Institute)を参照のこと。

家族計画

  • 遺伝学的リスク評価や出生前検査の可否などについての議論は妊娠前に行うのが望ましい。
  • 保因者リスクのある若年成人に対しては遺伝カウンセリング(子孫がもつリスクの可能性や出産オプションを含め)を行うのが適切である。

DNAバンク

DNAバンク(通常は白血球から調製した)DNAを将来利用することを想定して保存しておくものである。検査技術や遺伝子、アレルバリアント、あるいは疾患に対するわれわれの理解が将来さらに進歩すると考えられるので、罹患者のDNA保存が考慮される。

出生前診断と着床前診断

ひとたびBAP1変異が家系内に見つかったら、リスクが高い妊娠かどうか知るために出生前診断、着床前診断を行うことができる (注:日本でこの疾患で出生前診断や着床前診断を行うことはできない)。専門医や家族内で出生前診断、着床前診断に対する展望は、特にもし早目の診断というより妊娠中絶を目的とした検査の場合は、異なるかもしれない。多くの医療機関では出生前診断を両親の選択肢に関する決断と考えるが、この件については議論することが適切である。


関連情報

GeneReviewsスタッフは、この疾患を持つ患者および家族に役立つ以下の疾患特異的な支援団体/上部支援団体/登録を選択した。GeneReviewsは、他の組織によって提供される情報には責任をもたない。選択基準における情報については、ここをクリック。

  • American Cancer Society (ACS)
    1599 Clifton Road Northeast
    Atlanta GA 30329-4251
    Phone: 800-227-2345 (toll-free 24/7); 866-228-4327 (toll-free 24/7 TTY)
    www.cancer.org
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分子遺伝学

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A.
BAP1-TPDS:遺伝子とデータベース

遺伝子 染色体座 蛋白質 部位特異的 データベース HGMD ClinVar
BAP1 3p21?.1 Ubiquitin carboxyl-terminal hydrolase BAP1 BAP1 @ LOVD BAP1 BAP1

Table B.
BAP1-TPDSのOMIMエントリー
603089 BRCA1-ASSOCIATED PROTEIN 1; BAP1
614327 TUMOR PREDISPOSITION SYNDROME; TPDS

分子遺伝病理

BAP1は腫瘍抑制機能があると考えられているが、確立したものではない[Kadariya et al 2016]. これは核局在脱ユビキチン酵素でクロマチン関連蛋白質として機能し、細胞増殖を正或いは負に制御するマルチ蛋白質大複合体の一部をなす[Daou et al 2015]。細胞増殖に関連するプロモーター領域にリクルートされ、翻訳や相同組換えによるDNA二重鎖修復を促進する[Daou et al 2015].

遺伝子構造. BAP1 転写産物(NM_004656.3) は3717 bp で 17 exonからなる. 遺伝子と蛋白質の詳細な情報はTable A Geneを参照のこと。

病的変異. 既報の病的(がん素因)変異はミスセンス、ナンセンス、スプライス変異、小欠失や重複を含む。(Table A, HGMD参照).

明らかなBAP1 創始者変異がドイツ人祖先をもつアメリカ4家系に報告されている[Carbone et al 2015].

正常遺伝子産物. ヒトBAP1蛋白質(NP_004647.1) は729アミノ酸からなる。重要なドメインにはC末端ユビキチンヒドロラーゼ、BARD結合、HCF1結合、ASXL1/2 結合、ATM依存 serine 592リン酸化部位、 BRCA1結合部位、核局在シグナルがある.

異常遺伝子産物. BAP1-TPDSはBAP1片側アレルに腫瘍素因子変異があることで、腫瘍抑制BAP1蛋白質のハプロ不全によって起こる。ある細胞タイプが体細胞変異を起こし腫瘍抑制BAP1蛋白質の完全消失となって腫瘍は増大する。多くの非典型Spitz腫瘍(AST)では正常BAP1アレルが様々な体細胞変化を来し核内BAP1蛋白質が消失していることが Wiesener et al [2012]によって解析された。


がんと良性腫瘍

散発性腫瘍(胆管癌、悪性中皮腫、腎細胞癌、ぶどう膜悪性黒色腫を含む)が、BAP1-TPDS関連症状なく起こり、しばしば胚細胞にはないBAP1体細胞変異を伴うことがあるかもしれない。 [Rai et al 2016]. この状況でこれらの腫瘍に罹患しやすいのは遺伝性ではない。

更新履歴

  1. Gene Reviews著者: Robert Pilarski, MS, LGC, MSW, Karan Rai, BS, Colleen Cebulla, MD, PhD and Mohamed Abdel-Rahman, MD, PhD
    日本語訳者: 朝倉 一 ,古屋充子(横浜市立大学医学研究科分子病理)
    GeneReviews 最終更新日:2016.10.13 日本語訳最終更新日: 2019.3.22. in present)

原文: 1BAP1 Tumor Predisposition Syndrome

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