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ブルガダ症候群
(Brugada Syndrome)

[Synonyms: Sudden Unexpected Nocturnal Death Syndrome]

Gene Review著者: Ramon Brugada, MD, PhD, Oscar Campuzano, BSc, PhD, Georgia Sarquella-Brugada, MD, PhD, Pedro Brugada, MD, PhD, Josep Brugada, MD, PhD, and Kui Hong, MD, PhD.
日本語訳者: 窪田美穂(ボランティア翻訳者),櫻井晃洋(札幌医科大学附属病院遺伝子診療室)  

Gene Review 最終更新日: 2016.11.17,日本語訳最終更新日:2016.12.27

原文 Brugada Synrome


要約

疾患の特徴

Bブルガダ症候群の特徴は,突然死に至るおそれのある心伝導障害(心電図でのV1~V3誘導におけるST部分異常と,高い心室性不整脈のリスク )である.ブルガダ症候群の発症はほとんどが成人期であるが,診断年齢は乳児期から高齢期に及ぶ.突然死の平均年齢は約40歳である.臨床像には,乳児突然死症候群(SIDS)(生後1年間の乳児の原因不明の死亡)や,東南アジア出身者に多い夜間突然死症候群(SUNDS)なども含まれる.このほかの伝導障害として,第一度房室ブロック,心室内伝導障害,右脚ブロック,洞不全症候群が生じる場合もある.

診断・検査 

臨床検査所見や,以下の23の遺伝子でのヘテロ接合(男性の場合はKCNE5遺伝子のヘミ接合)の病原性変異の同定に基づき,診断が下される(AABCC9, CACNA1C, CACNA2D1, CACNB2, FGF12, GPD1L, HCN4, KCND2, KCND3, KCNE5, KCNE3, KCNH2, KCNJ8, PKP2, RANGRF, SCN1B, SCN2B, SCN3B, SCN5A, SCN10A, SEMA3A, SLMAP, RPM4.)

臨床的マネジメント 

症状の治療
失神や心停止の既往のある患者への植込み型心臓除細動器(ICD);心電気的ストームに対するイソプロテレノールの投与.

一次病変の予防
キニジン(1日1~2 g).無症状者への治療には賛否両論がある.

二次合併症の予防
ブルガダ症候群の患者に対しては,術中や術後回復期に心電図モニタリングを行うこと.
経過観察:ブルガダ症候群の家族歴 がある場合や,ブルガダ症候群を発症させる可能性のある既知の病原性変異を有する場合にはリスクがあるため,1~2年に1度,心電図によるモニタリングを行うこと.

回避すべき薬剤・環境
高熱,麻酔薬,抗うつ薬,ナトリウムチャネル遮断効果を持つ抗精神病薬,クラスI群の抗不整脈薬(フレカイニド,プロパフェノンなど),クラスIA薬(プロカインアミド,ジソピラミドなど).

リスクのある近親者の検査
心電図や分子遺伝学的検査で近親者のリスクが確定された場合(もしくは,家族内に病原性変異が存在する場合)には,予防的措置を行ったり,心室性不整脈を起こしやすい薬剤の使用を避けたりすることができる.

遺伝カウンセリング 

ブルガダ症候群の遺伝形式は,X連鎖性のKCNE5関連ブルガダ症候群を除き,常染色体優性である.ブルガダ症候群と診断された患者では,片親が罹患者である場合がほとんどである.新生突然変異による発症は1 %と推定されている.常染色体優性のブルガダ症候群患者の子が病原性変異を受け継ぐ確率は50 %である.リスクの高い妊娠に対しては,家族内の病原性変異がわかっている場合,出生前診断を行うことができる.


診断

ブルガダ症候群は活動電位を発生させる膜貫通型イオンチャネルの突然変異によって生じるチャネル病の1つであり,ブルガダ症候群の場合には不整脈のリスクが高まる[Benito et al 2009].
ブルガダ症候群が疑われる所見
ブルガダ症候群が疑われるのは,以下のいずれかが該当し

かつ,心電図で以下の所見を認める場合である:

*その他の要因で心電図異常が説明不能である場合

fig1

図1.

ブルガダ症候群の心電図の特徴V1-V3誘導で凹型のST部分上昇を認める 点に注意.

確定診断

発端者がブルガダ症候群と診断されるのは, 以下の所見が存在する場合や,1a1b に記載された遺伝子のヘテロ接合型(男性の場合はKCNE5遺伝子のヘミ接合型)の病原性変異が同定された場合である(注を参照).

*その他の要因で心電図異常が説明不能である場合
且つ

注:ブルガダ症候群患者の約75 %が,臨床歴と心電図の結果に基づき,診断に至っている.分子遺伝学的検査で診断が確定されるが,臨床検査の補完的検査となる場合もある[Benito et al 2009].
ブルガダ症候群の診断アルゴリズムについては2 を参照.

fig2

2.

ブルガダ症候群の診断アルゴリズム(Berne & Brugada [2012])許可を得て転載

分子遺伝学的検査の手法には,単一遺伝子に対する検査を連続的に行う方法(serial single-gene testing),複数遺伝子パネルより包括的な全ゲノム解析がある.

関連がありそうな遺伝子の配列解析を最初に行い,そこで病原性変異が見つからない場合には標的遺伝子の欠失・重複解析を行う.

頻度の高い遺伝的原因(ブルガダ症候群の1 %超を示す病原性変異)を掲載した表1aと,頻度の低い遺伝的原因(少数の家系のみで報告されている病原性変異)を掲載した表1bを参照のこと.

表1a.

ブルガダ症候群の分子遺伝学:頻度の高い遺伝的原因

遺伝子1 臨床型 病原性変異ごとの
発症割合(%
検査法ごとの病原性変異2の検出割合
配列解析3 標的遺伝子の欠失・重複解析4
SCN5A遺伝子 ブルガダ症候群1 15~30 % 5 >95 % 不明6

この表にはブルガダ症候群の1 %超を示す病原性変異が含まれている.

  1. 染色体座位と蛋白については,表A「遺伝子・データベース」を参照.
  2. 検出される病原性変異に関する情報については,「分子遺伝学」の項を参照されたい.
  3. 配列解析では,良性(非病原性)多型 , 良性と考えられる変異,臨床的意義が不明の 多型,病原性 と考えられる多型(変異),病原性変異が検出される.病原性変異には,小さな遺伝 子内欠失・挿入,ミスセンス変異,ナンセンス変異,スプライス部位変異が含まれるが,エクソンや遺伝子全体の欠失・重複は検出できない.配列解析の結果の解釈についてはこちらを参照(検出されうる変異 既に報告されている病原性変異 病原性と推測されるが過去の報告がない変異 臨床的意義が不明なシークエンス変化 病的意義がないと考えられるが過去に報告がないシークエンス変化 既に報告されている病原性のないシークエンス変化 変異が検出されない場合に考えられる可能性 患者は解析した遺伝子に変異を有していない 患者は変異を有しているがシークエンス解析で検出できない.
  4. 標的遺伝子の欠失・重複解析では,遺伝子内の欠失や重複が検出できる.検査方法は,定量的PCR,ロングレンジPCR,MLPA(multiplex ligation-dependent probe amplification)法,単一エクソンの欠失や重複の検出を目的とする標的遺伝子マイクロアレイなどである.
  5. Kapplinger et al [2010]
  6. Eastaugh et al [2011]Hertz et al [2015]

表1b.

ブルガダ症候群の分子遺伝学:頻度の低い遺伝的原因

遺伝子1,2,3 臨床型
ABCC9遺伝子
CACNA1C遺伝子 ブルガダ症候群3
CACNA2D1遺伝子
CACNB2遺伝子 ブルガダ症候群4
FGF12遺伝子
GPD1L遺伝子 ブルガダ症候群2
HCN4遺伝子 ブルガダ症候群8
KCND2遺伝子
KCND3遺伝子
KCNE3遺伝子 ブルガダ症候群6
KCNE5遺伝子
KCNH2遺伝子
KCNJ8遺伝子
PKP2遺伝子
RANGRF遺伝子
SCN1B遺伝子 ブルガダ症候群5
SCN2B遺伝子
SCN3B遺伝子 ブルガダ症候群7
SCN10A遺伝子
SEMA3A遺伝子
SLMAP遺伝子
TRPM4遺伝子

この表には少数の家系のみ(ブルガダ症候群症例の1 %未満)で報告されている病原性変異が含まれている.

  1. 遺伝子(アルファベット順に記載)
  2. 染色体座と蛋白については,表A「遺伝子・データベース」を参照.
  3. 「分子遺伝学」の項で説明されていない遺伝子であっても,こちら(pdf)に記載されていることがある.

臨床的特徴

臨床像

診断年齢.ブルガダ症候群は成人期に発症することが多く,突然死の平均年齢は40歳である.ブルガダ症候群の診断年齢は,最年少が生後2日,最高齢が85歳である[Huang & Marcus 2004].

性差ブルガダ症候群は男性に多いが,女性が罹患することもあり,両性とも心室性不整脈と突然死のリスクが高い[Hong et al 2004b].

臨床像.現在,最も多い臨床像は,失神発作の既往を有する,40歳代の悪性不整脈患者である.発症頻度の高い症状の1つが失神である[Mills et al 2005Benito & Brugada 2006Karaca & Dinckal 2006].

持続性の心室性不整脈が誘発されやすい場合や,心電図に自然発生的な異常を認める場合,年齢を問わず不整脈が生じる確率は45 %である[Benito et al 2009].短期間に心室性不整脈が多発する心電気的ストーム(不整脈ストーム)は悪性であるが,ブルガダ症候群では稀な現象である.頻発型心室性頻脈(VT)は,血行動態が安定した数時間持続する心室性頻脈のことである.
ブルガダ症候群では伝導障害が併発しやすい.ブルガダ症候群で第一度房室ブロック,心室内伝導障害,右脚ブロック,洞不全症候群を認めることは少なくない[Smits et al 2005].

乳児突然死症候群(SIDS;生後1年間の乳児の原因不明の死亡)[Priori et al 2000aAntzelevitch 2001Skinner et al 2005Van Norstrand et al 2007] や,東南アジアに多い夜間突然死症候群(SUNDS)[Vatta et al 2002](若年者の原因不明の心停止による死亡)もブルガダ症候群の臨床像に含まれると考えられる.ブルガダ症候群とSUNDSの患者において,SCN5A遺伝子に同じ病原性変異が同定されているため,両者が同じ疾患であるという仮説が裏付けられる[Hong et al 2004a].

ブルガダ型心電図や心突然死(SCD)症候群の誘発要因には,発熱,コカインの使用,電解質 異常,クラスI群の抗不整脈薬の使用,その他の数多くの心臓治療薬以外の薬剤の使用などがあるFrancis & Antzelevitch 2005].最も重要な点は,(通常,若年者において),誘発された心電図波形のなかには,心突然死に関連するものも含まれているということである.この関連性の背後にある病態生理学的機序は,ほとんどわかっていない.

悪性不整脈の誘発リスク悪性不整脈の発症リスクの層別化を改善させるため,幾つかの指標が調べられている(3を参照).

fig3

3.

Berne & Brugada [2012]でのブルガダ症候群におけるリスク層別化図と植込み型心臓除細動器(ICD)適応基準(許可を得て転載)

病態生理学ナトリウム・チャネル異常によって発症するブルガダ症候群では,年齢と相関性を示す進行性の伝導障害(心電図のPQ間隔延長,QRS間隔延長,HV間隔延長など)を伴う [Smits et al 2002Yokokawa et al 2007].ナトリウム電流の異常により心外膜に局所的な伝導ブロックが起き,QRS群に多発性の棘波が生じ,心房細動や心室細動が誘発される[Morita et al 2008].
ナトリウム・チャネル異常により,典型的なブルガダ型心電図が現れたり,徐脈性不整脈が頻発するようになる[Makiyama et al 2005].キニジンやイソプロテレノールはどちらもJ波-ST上昇を正常化させ,不整脈を予防する.

遺伝子型と臨床型の関連

遺伝型臨床型の関連を調べた研究は少ない.

SCN5A遺伝子:

浸透率

SCN5A遺伝子に病原性変異を有する患者:

病名

Vatta et al [2002]Hong et al [2004a]は夜間突然死症候群(SUNDS)とブルガダ症候群について,表現型にも,遺伝学的にも,機能的にも,同一疾患であると判断した.SUNDSは当初,東南アジアで報告された.SUNDSの病名には,夜間突然死症候群(SUDS),bangungut(フィリピン),non-lai tai(ラオス),lai-tai(タイ),ぽっくり(日本)などがある.

頻度

ブルガダ症候群が同定されたのは比較的最近である.このため,頻度や人口分布を判断することは困難である.さらに,心電図は常に変化していて,正常化する場合もあるため,診断が難しいこともあり,一般集団でのブルガダ症候群の正確な発症率は算出しにくい.
データ上は,ブルガダ症候群が世界中で生じていることが示されている.発症率の高い地域での頻度は,約2,000人に1人である.夜間突然死症候群(SUNDS)の発症率が高い東南アジア諸国では,40歳未満での男性の死亡率のなかで(事故に続いて)2番目に多い死因となっている.
公表された論文のデータによれば,ブルガダ症候群は予期せぬ突然死の4~12 %を占めており,これまで心臓に異常がないとされていた人々の突然死の最大20 %を占めている.

今後,ブルガダ症候群が認知されるにつれ,原因が解明された症例数が格段に増えると予想される.
成人日本人(22,027人)を対象とする前向き試験では,ブルガダ症候群に一致する心電図を有する患者は12人であった(頻度は0.05 %)[Tohyou et al 1995].

阿波(日本)での成人を対象とする2番目の研究での頻度は0.6 %であった(10,420人中66人)[Namiki et al 1995].

対照的に,日本人小児を対象とする3番目の研究 ではブルガダ症候群に一致する心電図の頻度は0.0006 %(163,110人中1)にすぎなかった[Hata et al 1997].症状やSCN5A遺伝子の分子遺伝学的検査が不明であることから,こうした研究では対象集団での(ブルガダ症候群ではなく)ブルガダ型心電図の頻度が示されている.こうした結果から,ブルガダ症候群は成人期に発症することが多いことが示されたが,この所見は突然死の平均発症年齢(35~40歳)に一致している.


遺伝的に関連がある疾患

GPD1L遺伝子,HCN4遺伝子,RANGRF遺伝子に同定されているブルガダ症候群特有の病原性変異との関連がわかっている病態は 他には知られて いない.

ブルガダ症候群関連遺伝子の病原性変異と関連している他の疾患は,2に記載されている.

表2.

ブルガダ症候群関連遺伝子の病原性変異と関連がある疾患

遺伝子 病態 参考文献
ABCC9遺伝子 Cantu症候群 Harakalova et al [2012]
拡張型心筋症(DCM) Bienengraeber et al [2004]
心房細動(AF) Olson et al [2007]
早期再分極症候群(ERS) Hu et al [2014]
CACNA1C遺伝子 QT延長症候群 Splawski et al [2004]
CACNA2D1遺伝子 悪性高熱の易罹患性 Robinson et al [2000]
QT短縮症候群 Templin et al [2011]
早期再分極症候群 Burashnikov et al [2010]
CACNB2遺伝子 ランバート・イートン筋無力症候群 Taviaux et al [1997]
QT延長症候群 Burashnikov et al [2010]
FGF12遺伝子 カシン・ベック病 Zhang et al [2016]
KCND2遺伝子 てんかん Singh et al [2006]
痙攣発作を伴う自閉症 Lee et al [2014]
心突然死を伴うJ波症候群 Perrin et al [2014]
KCND3遺伝子 脊髄小脳失調症 Bible [2012]
QT延長症候群の易罹患性1 Raudenská et al [2008]
KCNE3遺伝子 高カリウム血性周期性四肢麻痺 Sternberg et al [2003]
KCNE5遺伝子
(KCNE1L遺伝子)
心房細動 Ravn et al [2008]
QT延長症候群 Palmer et al [2012]
KCNH2遺伝子 QT延長症候群 Curran et al [1995]Schulze-Bahr et al [1995]
QT短縮症候群 Brugada et al [2004]Grunnet et al [2008]
心房細動 Sinner et al [2008]
KCNJ8遺伝子 特発性心室細動 Pérez-Riera et al [2012]
PKP2遺伝子 不整脈原性心筋症 Gerull et al [2004]
SCN1B遺伝子 側頭葉てんかん Scheffer et al [2007]
全般てんかん熱性けいれんプラス1型(GEFS+1)
心房細動 Watanabe et al [2009]
SCN2B遺伝子 てんかん Haug et al [2000]
SCN3B遺伝子 心房細動 Wang et al [2010]
SCN5A遺伝子 QT延長症候群 Bezzina et al [1999]Priori et al [2000b]Veldkamp et al [2000]Grant et al [2002]
進行性伝導障害(PCCD,ルネーグル病,孤発性心臓伝導障害)  Schott et al [1999]Tan et al [2001]Wang et al [2002]
心房細動 Olson et al [2005]
拡張型心筋症 McNair et al [2004]
洞不全症候群1 Benson et al [2003]
家族制発作性心室細動1 Watanabe et al [2011]
SCN10A遺伝子 末梢性ニューロパチー Faber et al [2012]
心房細動 Jabbari et al [2015]
QRS時間異常 Sotoodehnia et al [2010]
SEMA3A遺伝子 カルマン症候群 Hanchate et al [2012]
SLMAP遺伝子 筋ジストロフィー Bönnemann & Finkel [2002]
TRPM4遺伝子 進行性家族性心ブロック1B型 Kruse et al [2009]
  1. KCND3遺伝子多型関連

鑑別診断

ブルガダ症候群と鑑別すべき疾患を以下に掲げる.

このほか,右側前胸部誘導でST部分上昇を認める病態には以下がある(Wilde et al [2002]より許可を得て転載).

右側前胸部誘導でST部分上昇を生じることのある異常

右側前胸部誘導でST部分上昇を生じることのある異常(その他)

上述の病態では,1型心電図が現れやすくなっているものがほとんどであるが,不整脈原性右室異形成症/心筋症(ARVD/C)では2型心電図や3型心電図の双方が生じることがある.このため,両者の鑑別が肝要である.


臨床的マネジメント

初回の診断後の評価

ブルガダ症候群と診断された患者の疾患の程度とニーズを判断するために推奨される評価は以下のとおり:

症状の治療:

ブルガダ症候群の特徴は,V1~V3誘導でのST部分上昇である.現在,失神や心停止を伴うブルガダ症候群の患者に効果的であることがわかっている治療は植込み型除細動器(ICD)のみである[Brugada et al 1999Wilde et al 2002].ブルガダ症候群におけるリスク層別化図と植込み型心臓除細動器(ICD)適応基準については3を参照.

心電気的ストームにはイソプロテレノール(1~3 µg/分)の点滴が効果的であり,同薬は他の抗不正脈薬を開始する前の第一選択薬である[Maury et al 2004].
重要な点は以下である:

且つ

無症状の患者に対する治療に関しては賛否両論がある.推奨事項はさまざまであり [Benito et al 2009Escárcega et al 2009Nunn et al 2010],以下が含まれる.

一次性障害の予防

キニジン(1日1~2 g)によりST部分上昇が改善され,不整脈の発症頻度が低下したことが示されている[Belhassen et al 2004Hermida et al 2004Probst et al 2006].

二次合併症の予防

ブルガダ症候群の患者に対しては,術中や術後回復期に心電図モニタリングを行うこと.

経過観察:

ブルガダ症候群の家族歴がある場合や,ブルガダ症候群を発症させる可能性のある既知の病原性変異を有する場合にはリスクがあるため,1~2年に1度,出生時から心電図によるモニタリングを行うこと[Oe et al 2005].1型心電図を認める場合には,精密検査を行うこと.

回避すべき薬剤・環境:

ブルガダ症候群特有の心電図が現れやすくなる状況は以下のとおり[Antzelevitch et al 2002]:

以下は避けること[Antzelevitch et al 2003]:

リスクのある近親者の検査:

罹患している近親者の病原性変異が同定されている場合,リスクの高い近親者に分子遺伝学的検査を行うことが妥当な理由は以下である.

家系内の病原性変異が同定されていない場合,近親者は心電図による経過観察を受けること.1型心電図が確認された場合には精密検査が必要となる.

遺伝カウンセリングを目的としたリスクのある近親者の検査に関連する問題については,「遺伝カウンセリング」を参照.

妊娠管理

妊娠中のホルモン変化により,ブルガダ症候群の女性に不整脈イベントが生じやすくなる.低用量のイソプロテレノールの静脈内投与を行った後にキニジンを内服すると,心室性頻脈性不整脈の再発を抑え,心電図波形の正常化が可能となる[Sharif-Kazemi et al 2011].

キニジンについては,発育中の胎児への催奇形作用が報告されていないため,妊娠中に推奨される不整脈治療薬となっている.妊娠中の薬剤に関する薬剤について詳しく知りたい場合は,こちらを参照されたい.

研究中の治療

種々の疾患の臨床試験に関する情報については,こちらを参照されたい.注:本疾患の臨床試験は行われていないと思われる.


遺伝カウンセリング

「遺伝カウンセリングは個人や家族に対して遺伝性疾患の本質,遺伝,健康上の影響などの情報を提供し,彼らが医療上あるいは個人的な決断を下すのを援助するプロセスである.以下の項目では遺伝的なリスク評価や家族の遺伝学的状況を明らかにするための家族歴の評価,遺伝学的検査について論じる.この項は個々の当事者が直面しうる個人的あるいは文化的、倫理的な問題に言及しようと意図するものではないし,遺伝専門家へのコンサルトの代用となるものでもない.」

遺伝形式

ブルガダ症候群の遺伝形式は,X連鎖性遺伝子であるKCNE5遺伝子の病原性変異を有するブルガダ症候群家系を除き,常染色体優性である[Ohno et al 2011].

近親者のリスク-常染色体優性疾患

発端者の親

発端者の同胞 

発端者の子

発端者の他の家族

遺伝カウンセリングに関連した問題

リスクのある血縁者への早期診断・治療目的の評価に関する情報については,「臨床的マネジメント」,「リスクのある近親者の検査」の項を参照されたい.

新生突然変異によって発症したかのようにみえる血縁者への配慮.常染色体優性疾患で,どちらの親にも発端者で同定された病原性変異を認めない場合,もしくは疾患の臨床所見がない場合には,新生突然変異の可能性がある.しかし,生物学的な父親や母親が異なる場合(生殖補助医療など)や未公表の養子縁組など,非医学的な理由の可能性も考えられる.

家族計画 

出生前診断と着床前診断

罹患者家系で病原性変異が同定されれば,リスクの高い妊娠に対しての出生前診断やブルガダ症候群の着床前遺伝子診断を行うことも可能である.
遺伝子検査が早期診断よりも中絶を目的として考慮される場合は,医療関係者の間やと家族の間で出生前診断に対する見解の相違が生じるかもしれない.多くの医療機関では最終的には両親の意思を尊重するとしているが,この問題については注意深い検討が求められる.


更新履歴

  1. Gene Review著者: Ramon Brugada, MD, Pedro Brugada, MD, PhD, Josep Brugada, MD, PhD, Kui Hong, MD, PhD
    日本語訳者: 窪田美穂(ボランティア翻訳者),四元淳子(お茶の水女子大学人間文化創成科学研究科)
  2. Gene Review著者: Ramon Brugada, MD, PhD, Oscar Campuzano, PhD, Pedro Brugada, MD, PhD, Josep Brugada, MD, PhD, Kui Hong, MD, PhD
    日本語訳者: 窪田美穂(ボランティア翻訳者),櫻井晃洋(札幌医科大学医学部遺伝医学)  
    Gene Review 最終更新日: 2012.8.16.  日本語訳最終更新日: 2013.11.15. 
  3. Gene Review著者: Ramon Brugada, MD, PhD, Oscar Campuzano, BSc, PhD, Georgia Sarquella-Brugada, MD, PhD, Pedro Brugada, MD, PhD, Josep Brugada, MD, PhD, and Kui Hong, MD, PhD.
    日本語訳者: 窪田美穂(ボランティア翻訳者),櫻井晃洋(札幌医科大学附属病院遺伝子診療室)
     Gene Review 最終更新日: 016.11.17,日本語訳最終更新日:2016.12.27 (in present)

原文 Brugada Synrome

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