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先天性拘縮性くも状指趾症(ビールス症候群)
(Congenital Contractural Arachnodactyly)

[Beals Syndrome, Beals-Hecht Syndrome]

Gene Review著者: Maurice Godfrey, PhD
日本語訳者: 野崎章仁、熊田知浩、宮嶋智子、藤井達哉(滋賀県立小児保健医療センター)    
Gene Review 最終更新日: : 2007.5.4. 日本語訳最終更新日: 2012.2.10.

原文 Congenital Contractural Arachnodactyly


要約

疾患の特徴 

先天性拘縮性くも状指趾症Congenital contractural arachnodactyly (CCA)は,マルファン様の体型(高身長で,アームスパン(両手を横に広げたときの両指先間の距離)が身長より長いすらりとした体型)と,長く細い指趾(くも状指趾)を特徴とする.多くの罹患者は外耳の耳輪上部が折れ曲がった耳(crumpled ears)と,出生時に大関節(膝・足首)の拘縮を認める.手指の近位指節間関節にも屈曲拘縮(すなわち屈指)を認め,足趾にも同様に認める.股関節拘縮,母指内転,彎足も認められることがある.罹患者の多くは,筋肉の低形成もある.関節拘縮はたいてい成長とともに改善する.脊柱の後彎/側彎はおよそ半数の症例で認める.後彎/側彎は乳児期より始まり,進行性で,CCAにおける最も大きな罹患原因となる.大動脈の拡張は時に起こることがある.典型的な骨格系の異常に加えて,多発性の心血管及び消化管の奇形を認める重症/致死型の乳児例も報告されている

診断・検査 

CCAは臨床症状により診断される.細胞外マトリックスの細線維であるfibrillin2をコードしているFBN2遺伝子の分子遺伝学的検査は臨床的に利用可能である.

臨床的マネジメント 

症状の治療小児期から関節拘縮に対して理学療法を行い,関節可動域の改善と,筋の低形成(通常腓腹筋で認められる)のへ影響の改善を図る;必要に応じて手術的に拘縮を緩和させる;脊柱の後側彎を装具を用いて,又は手術的に矯正する;大動脈基部の拡張に対する標準的治療.定期検査:大動脈病変がないことを確認できるまで2年ごとの心エコー検査;後彎/側彎のチェックのための少なくとも年1回の診察. .

遺伝カウンセリング 

先天性拘縮性くも状指趾症は常染色体優性遺伝性疾患である.発端者は遺伝子の新生変異により発症している場合もあるが,CCAの患者の多くが両親もCCAを罹患している.発端者の同胞の発症リスクは両親の状態によって異なる.もし発端者の親がCCAの臨床的特徴を持っているならば,同胞の発症リスクは50%である.生殖細胞モザイクの報告もある.罹患者の子が異常なFBN2のあるアレルを受け継ぐ可能性は50%である.罹患家族において原因となっている遺伝子変異が同定されていれば,出生前検査が可能である.


診断

臨床診断

古典的先天性拘縮性くも状指趾症(CCA)は臨床症状の組み合わせで診断される [Godfrey 2004].CCAの典型的な症状は以下である:

  • マルファン様体型(長くて細い四肢,狭い頭と体部)
  • 肘,膝,股関節,指を含む多関節の屈曲拘縮
  • 脊柱の後側彎症(時に重篤)
  • 筋の低形成
  • 耳介変形(折れ曲がった外耳輪)

重症/致死型CCAはCCAでもまれなタイプである[Wang et al 1996, Snape et al 2006].重症/致死型CCAの乳児では古典的なCCAの典型的な特徴に加えて,下記の奇形をみとめる:

  • 心血管系:心房または心室中隔欠損,大動脈弓離断,単一臍帯動脈,大動脈基部の拡張(まれ)
  • 消化器系:十二指腸/食道閉鎖,腸回転異常

分子遺伝学的検査

遺伝子 FBN2は先天性拘縮性くも状指趾症と関係が知られている唯一の遺伝子である.

臨床的使用

  • 診断的検査
  • 出生前診断

臨床検査

シークエンス分析

古典的CCA以前の研究[Carmical et al 2000, Gupta et al 2002]では罹患患者の約75%で遺伝子変異が同定されたが,西村ら(2007)による最近の研究ではCCAの27%のみしか遺伝子変異の同定ができなかった.

重症/致死型CCA.重症/致死型CCAに罹患してる乳児例の報告は少数しかない.1例で同じFBN2部位に遺伝子変異が同定された [Snape et al 2006].

表1.先天性拘縮性くも状指趾症で使用される分子遺伝学的検査のまとめ

検査方法

検出される変異

変異検出率

実施可能性

シークエンス解析

FBN2シークエンスの多様体

27%-75%

臨床的に実施可能

RNAシークエンス

FBN2の変異

〜40%

研究段階

検査の実施に関してはGeneTests Laboratory Directoryを参照のこと.GeneReviewsは,分子遺伝学的検査について,その検査が米国CLIAの承認を受けた研究機関もしくは米国以外の臨床研究機関によってGeneTests Laboratory Directoryに掲載されている場合に限り,臨床的に実施可能としている.GeneTestsは研究機関から提出された情報の確認や,研究機関の承認状態もしくは実施結果の保証は行わない.情報を確認するためには,医師は直接それぞれの研究機関と連絡をとらなければならない.

  1. 罹患患者の遺伝子変異の割合は遺伝子/遺伝子座,表現型,母集団,遺伝様式,検査方法で分類される.

検査結果の解釈

シークエンス分析結果の解釈については,ここをクリック.

遺伝的に関連する(同一アレルの)疾患

FBN2遺伝子の変異で起こる他の表現型は見つかっていない.CCAの原因となる遺伝子変異はすべてFBN2のかなり限定された領域(エクソン24−36)に集積している.この領域外の場所に変異がある場合,今までFBN2が原因と思われていなかった疾患や症候群が発症する可能性を考えることもできるし,全く症状が出ない可能性もある.


臨床像

自然経過

先天性拘縮性くも状指趾症(CCA)は幅広い症状のスペクトラムからなる.最も重篤なものは重症/致死型CCAである.これはまれであり,数例の報告しかなく,1例のみ分子学的検査で診断確定されている.

表現型は同一の家族内でも,また異なる家系間でも,様々である.ある報告では,生殖細胞に影響を及ぼす体細胞モザイクを持った母親は古典的CCAを認め,一方,娘は変異したFBNアレルを母から受け継ぎ重症/致死型CCAを認めた [Wang et al 1996].

古典的なCCA. 下記の症状を認める.

  • マルファン症候群様体型:高身長で,アームスパン(両手を横に広げたときの両指先間の距離)が身長より長いすらりとした体型
  • クモ状指趾(細長い指趾)
  • 折れ曲がった耳:外耳耳輪の上部が折れ曲がっている
  • 拘縮:生まれた時から大関節で認め,特に膝(81%),肘(86%).手指や足趾の近位指節間関節にも屈曲拘縮を認める(すなわち屈指).股関節拘縮(26%)も見られる.母指内反(46%)や彎足もみられることがある.拘縮はたいてい時と共に改善する.
  • 管状骨の湾曲(31%)と筋の低形成(65%)
  • 脊柱後彎/側彎:およそ半数の患者で認める.乳児期より始まり,進行性で,CCAにおける最も大きな罹患原因となる.
  • 大動脈基部の拡張FBN2の遺伝子変異をもつCCAの患者で報告されている[Park et al 1998, Carmical et al 1999, Gupta et al 2002, Snape et al 2006].頻度は不明.
  • 頭蓋顔面の異常(あまり一般ではない):軽度の小顎,高口蓋,舟状頭蓋,短頭蓋,長頭症,前頭隆起

重症/致死型CCA.

典型的な骨所見(クモ状指趾,関節拘縮,側彎)とCCAの耳介異常に加えて,重症/致死型の乳児は多発性の心血管系及び消化管系異常を認める[Wang et al 1996].情報は限られているが,重症/致死型の乳児は全例, 生後1週間という早い時期に様々な先天奇形に対して外科的処置が必要となっている.呼吸器系の異常が多くの場合死亡原因となる.死亡年齢は8日〜11.5ヶ月である.

遺伝子型と表現型の関連

遺伝子型と表現型のあいだに関連はない

浸透率 

浸透率は完全である.

用語

先天性拘縮性くも状指趾症はCCAと呼ばれている

有病率

有病率はわかっていないが,マルファン症候群よりは少ないようである.CCAは地理的,民族的な偏りはない.


鑑別診断

本稿で扱われる疾患に対する遺伝学的検査の実施可能性に関する最新情報は,GeneTests Laboratory Directoryを参照のこと.―編集者注.

多くの疾患において先天性拘縮性くも状指趾症(CCA)と症状・特徴が重複している.

FBN1遺伝子変異で起こるマルファン症候群は最もCCAに似ている.マルファン症候群の患者は,CCAで認められない,水晶体偏位,高度近視,進行性の大動脈基部の拡張を持っている.またCCAでは出生時から認められる折れ曲がった耳と関節の拘縮を,マルファン症候群では認めない.遺伝子連鎖解析にて2つの疾患が区別されるまでは,同一アレルによるものと考えられていた.マルファン症候群の場合は心血管系の重症の合併があり,心臓の検査を十分に行う必要があるため2つの疾患を鑑別することは最も重要である.

マルファン症候群とCCAは臨床的特徴により区別される.両方の診断共に臨床的特徴の組み合わせが必要である.両方とも臨床診断が診断のgold standardであり,分子遺伝学的検査を診断の確定のために使用することが可能な場合もある.

重症/致死型CCAは新生児マルファン症候群と誤診される可能性がある.新生児マルファン症候群はマルファン症候群のスペクトラムの最重症型で,心血管系の異常として僧帽弁と三尖弁の異常と大動脈の拡張を認める.一方,重症/致死型CCAの心血管系異常は心房または心室中隔欠損と大動脈離断である.

Stickler症候群は結合組織疾患で,眼科的異常として近視,白内障,網膜剥離を認める;伝音性および感音性の難聴;顔面正中低形成,口蓋裂(単独の場合もRobinシークエンスの一部の場合もある);軽度の脊椎骨端異形成症や早発関節炎をきたす.Stickler症候群の表現型は家族内及び家族間でも様々である.現在のところ,最小限の診断基準のコンセンサスは得られていない.本症には3種類の遺伝子(COL2A1,COL11A1,COL11A2)のうちの1つの遺伝子の変異が関与している.Stickler症候群の患者の中には,マルファン様の身体的特徴と長く,細い指を認める事があり,CCAを疑われる場合もある.しかし,Stickler症候群では関節の弛緩性があり,CCAに特徴的ではないその他の所見として近視,網膜剥離,伝音性および感音性の難聴,顔面正中低形成,口蓋裂(単独の場合もRobinシークエンスの一部の場合もある)を認める.

ホモシスチン尿症はcystathionineβ−synthase欠損が原因でおこるアミノ酸代謝異常症である.典型的には骨格系,関節,眼,そして中枢神経と,多臓器に症状がでる.骨格系の異常はCCA及びマルファン症候群に認められるものと似ており,関節可動域制限,くも状肢,くも状指,脊柱後側彎症を認める.ホモシスチン尿症は臨床的に水晶体脱臼,骨粗しょう症,しばしばある発達遅滞と血栓塞栓症の傾向があることよりCCAと区別される.血清アミノ酸分析により確定診断される.

遠位関節拘縮症は,手足に症状が出る遺伝的な先天性関節拘縮症である.内側に重なった指,握りこんだ手,尺側に偏位した指,屈指,足の位置異常,彎足を認める.遠位関節拘縮症は,マルファン様の高身長,クモ状指,膝・肘の拘縮と耳介変形がないことからCCAと区別される.


臨床的マネジメント

最初の診断時に病態評価のために行う検査

先天性拘縮性くも状指趾症(CCA)と診断された個々の症例の病態を確認するためには以下の評価が推奨されている.

  • 心エコー

  • 拘縮と脊柱後彎/側彎症に対する筋骨格系の評価

症状に対する治療

  • 関節拘縮に対する理学療法は関節の可動域を改善し,筋の低形成(通常腓腹筋で認められる)への影響の改善につながる.小児期に理学療法を開始することが最も望ましい.年齢と共に屈指の自然な回復が認められることが多い.

  • 関節拘縮を手術的に緩和することが必要なこともある.

  • 脊柱後側彎症は進行する傾向があり,装具や手術による矯正が必要になることもある.整形外科に相談する事が推奨されている.

  • 大動脈基部の拡張が認められた場合は,標準的な治療をおこなう.

  • 重症/致死型CCAの全般的推奨事項はない;症状に対して標準的な治療を行う

経過観察

  • 大動脈の合併症がないと分かるまで2年ごとに心エコーを行う
  • 少なくとも1年に1回は脊柱後側彎症の有無を診察する

リスクのある親族の検査

リスクのある親族のCCAの早期診断は,罹患者の注意深い観察を可能にする.(経過観察参照)

リスクのある親族を検査することに関連する遺伝カウンセリングの問題については遺伝カウンセリングを参照すること.

研究中の治療法

種々の疾患に対する臨床試験についてはClinicalTrials.govを参照のこと.

注意:この疾患には臨床試験はないかもしれない.

その他

遺伝クリニックは遺伝専門のスタッフからなり,患者や家族に自然経過,治療,遺伝形式,患者家族の遺伝的リスクに関する情報を提供とするとともに,患者向け情報資源も提供する.Gene Test Clinic Directoryを参照のこと.

患者情報 この疾患の支援グループや複数疾患にまたがった支援グループについては「患者情報」を参照のこと.これらの機関は患者やその家族に情報,支援,他の患者との交流の場を提供するために設立された.


遺伝カウンセリング

「遺伝カウンセリングは個人や家族に対して遺伝性疾患の本質,遺伝,健康上の影響などの情報を提供し,彼らが医療上あるいは個人的な決断を下すのを援助するプロセスである.以下の項目では遺伝的なリスク評価や家族の遺伝学的状況を明らかにするための家族歴の評価,遺伝子検査について論じる.この項は個々の当事者が直面しうる個人的あるいは文化的な問題に言及しようと意図するものではないし,遺伝専門家へのコンサルトの代用となるものでもない.」

遺伝形式

先天性拘縮性くも状指趾症(CCA)は常染色体優性遺伝性疾患である.

患者家族のリスク

発端者の両親

  • CCAと診断された症例の多くは,罹患している親をもつ.
  • CCAの発端者は遺伝子の新生変異によって起こっているかもしれない.新生変異により生じる症例の割合は不明である.
  • もし発端者の遺伝子変異が分かっている場合は,発端者の両親の身体所見及び分子遺伝学的な検査をして評価することは適切である.

発端者の同胞 

  • 発端者の同胞のリスクは両親の状態による.
  • もし発端者の親が臨床的にCCAの特徴を持っているならば,同胞の発症リスクは50%である.
  • もし両親共に臨床的に症状がなく,発端者でみつかった疾患の原因となる遺伝子変異が両親の白血球のDNA検査でみつからない場合でも,同胞の発症リスクが少しは(不明であるが)ある.なぜなら生殖細胞モザイクが3つの血縁関係のない家族から報告されているからである;1例では罹患していない父から2人のCCAの子供が生まれている[Putnam et al 1997].

 

発端者の子

CCAの患者の子供は遺伝子変異を受け継ぐ可能性は50%である. .

発端者のその他の血縁者

その他の血縁者のリスクは発端者の両親の遺伝学的状況によって異なる.両親の1人が罹患もしくはFBN2の遺伝子変異を持っている場合は,その血縁者にはリスクがある.

遺伝カウンセリングに関連した問題

見かけ上の新生変異を持つ家系への配慮

常染色体優性遺伝疾患の発端者の両親のどちらも疾患の原因となる遺伝子変異や疾患の臨床症状がない場合は,おそらく発端者が新生変異を有しているのであろう.しかし父親が異なる場合や公開されていない養子縁組といった医学的でない原因も検討する必要がある.

家族計画 

妊娠をする前に遺伝のリスクや出生前検査の可能性を検討することが望ましい.

DNAバンキング

DNAバンキングは,将来の使用のために,通常は白血球から抽出したDNAを貯蔵しておくことである.検査手法や,遺伝子,変異,疾患への理解は将来改善するであろうから,患者のDNAを貯蔵しておくことは考慮されるべきである.ことに現在行っている分子遺伝学的検査の感度が100%ではないような疾患に関してはDNAバンキングは的を得ている.このサービスを行っている機関についてはDNA bankingの項を参照のこと.

出生前診断

リスクのある妊娠に対する出生前診断は,通常胎生週数15〜18週頃に実施される羊水検査や胎生週数10〜12週頃に実施される絨毛検査(CVS)により採取された胎児細胞のDNA分析により技術的には可能である.出生前診断の実施以前に,家系内の患者の遺伝子変異が同定されていることが条件である.

注:胎生週数は最終月経の第1日から数えるか,超音波による計測によって算出される.

胎児超音波検査 リスクのある胎児で超音波の検査により関節拘縮はわかるかもしれないが,胎児超音波検査が正常であってもCCAを否定することにはならない.

着床前診断(PGD 着床前診断は家系内の患者の遺伝子変異が同定されている場合に実施可能である.着床前診断を行っている施設に関しては「Testing」参照.

 

原文 Congenital Contractural Arachnodactyly

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