嚢胞性線維症・先天性精管欠損症
(Cystic Fibrosis and Congenital Absence of the Vas Deferens)

Gene Reviews著者: Thida Ong, MD, Susan G Marshall, MD, Barbara A Karczeski, MS, CGC, Darci L Sternen, MS, LGC, Edith Cheng, MS, MD, and Garry R Cutting, MD.
日本語訳者: 和田宏来 (県西総合病院小児科/筑波大学大学院小児科)

Gene Reviews 最終更新日:2017.2.2 日本語訳最終更新日:2018.3.9.

原文: Cystic Fibrosis and Congenital Absence of the Vas Deferens


要約

疾患の特徴

嚢胞性線維症(Cystic fibrosis, CF)は気道上皮、膵外分泌腺、腸管、肝胆道系、汗腺といった多臓器を侵す疾患である。進行性の閉塞性肺疾患や気管支拡張症、肺疾患による頻回な入院、膵機能不全や栄養障害、反復性の副鼻腔炎や気管支炎、男性不妊などをきたす。肺疾患は嚢胞性線維症の主な合併症および死因である。胎便イレウスは患児の出生時に15-20%認められる。男性患者の95%以上は不妊である。

先天性精管欠損症(Congenital absence of the vas deferens, CAVD)は、一般的に不妊症の精査もしくは外科手術時に偶発的に認められる。精管や精嚢の低形成/無形成は両側性もしくは片側性に起こる。通常、精巣の発達や機能、および精子形成は正常である。

診断・検査 

嚢胞性線維症の診断は、発端者に特徴的な所見や嚢胞性線維症膜貫通調節因子(cystic fibrosis transmembrane conductance regulator, CFTR)機能の異常を1つ以上認める(2回の汗中クロール濃度上昇、両アレルCFTR遺伝子変異、鼻の経上皮電位差など)場合に確定する。嚢胞性線維症の診断は、新生児スクリーニング検査でトリプシノーゲン濃度の上昇を認め、さらに両アレルCFTR遺伝子変異もしくは汗中クロール濃度の上昇を認める場合に確定する。

先天性精管欠損症の診断は、無精子症で精管を触知しない、もしくは先天性精管欠損症を起こす両アレルCFTR遺伝子変異を同定することにより確定する。

臨床的マネジメント 

病変の治療: 呼吸器合併症の治療には、ドルナーゼアルファ吸入、高張食塩水吸入、抗生剤、抗炎症薬、イバカフトール(ivacaftor)/ルマカフトール(lumacaftor)併用療法、肺移植/心肺移植などがある。鼻/副鼻腔症状に対して局所ステロイド、抗生剤、外科治療を行う。膵外分泌不全の治療として、膵酵素の経口投与、乳児用特殊ミルク、補助栄養、脂溶性ビタミン・亜鉛投与を行う。内分泌専門医によって嚢胞性線維症関連糖尿病の治療が行われる。胎便性イレウスに対して外科手術を行う。胆泥/胆道閉塞にはウルソジオール経口投与、適応があれば肝移植を施行する。男性不妊症には生殖補助医療(ART)を行う。

一次合併症の予防: 排痰法、ドルナーゼアルファ、高張食塩水、慢性呼吸器感染症予防の抗生剤、抗RSウイルスモノクローナル抗体も含めた予防接種を行う。骨の健康の維持や気道クリアランスの改善のため理学療法を施行する。膵機能不全には補助栄養を行う。暑い時期や乾燥した時期には塩分・水分を十分摂取する。
定期検査: 症候や身体診察上の変化がないかみるため、担当医の外来を頻繁に受診する。少なくとも1年に4回は気道分泌物の培養を行う。呼吸機能検査、胸部X線、1年に1回電解質、脂溶性ビタミン、IgE値を測定する。適応があれば気管支鏡や胸部CTを行う。生後6ヶ月まで体重増加や摂取カロリーをモニターする。適応があれば便エラスターゼを測定する。10歳を過ぎれば1年に1回経口ブドウ糖負荷試験を行う。青年期になれば骨密度の評価を開始する。肝疾患の進行をモニターするため肝機能検査やエコーを1年に1回施行する。

避けるべき薬物/環境: 気道刺激物質、呼吸器感染症患者、脱水。

リスクのある親族の検査: なるべく早く治療や予防を開始できるよう専門施設に紹介すべき患者を見つけるため、家系内で病原性変異が判明している場合にはリスクのある同胞に対して分子遺伝学的検査を、判明していない場合は汗中クロール試験を行う。

研究中の治療法 ウルソジオールの予防投与、嚢胞性線維症治療薬(CF corrector)VX-661、マンニトールドライパウダーの吸入、CFTR遺伝子治療など。

遺伝カウンセリング 

嚢胞性線維症および先天性精管欠損症は常染色体劣性遺伝性疾患である。受胎時に、嚢胞性線維症患者の同胞および先天性精管欠損症の兄弟が罹患している確率は25%、無症候性キャリアである確率は50%、罹患もしておらずキャリアでもない確率は25%である。リスクのある家族に対する保因者診断やリスク妊娠における出生前診断は、家系でのCFTR遺伝子変異が同定されている場合に施行可能である。


診断

示唆される所見

以下を認める場合には嚢胞性線維症を疑うべきである

男性で以下を認める場合には先天性精管欠損症を疑うべきである

確定診断

発端者に以下を認める場合、嚢胞性線維症の診断は確定する。

男性に以下の特徴を認める場合、先天性精管欠損症の診断は確定する。

単一遺伝子検査多遺伝子パネルの使用など分子遺伝学的検査

単一遺伝子検査

注:米国臨床遺伝学会は表6に記載されている23個の病原性変異を解析できるパネルを推奨しており、その検出率はアシュケナージ系ユダヤ人97%、非ヒスパニック系白人88.3%、アフリカ系アメリカ人69%、ヒスパニック系アメリカ人57%である。アジア系アメリカ人は不明である。

注:129以上の病原性変異を解析できるパネルでは罹患者の病原性変異の約96%を同定できるだろう(www.cftr2.orgを参照)。

注:以下の場合に、CFTR遺伝子のシークエンス解析とそれに続く標的遺伝子の欠失・重複解析は診断のため最初に行う検査となる。

CFTR遺伝子や他の関心領域の遺伝子(「鑑別診断」の項を参照)を解析できる多遺伝子パネルも考慮することがある。注:(1)パネルに含まれる遺伝子や検査感度は検査施設 や時期によって異なる。(2)一部の多遺伝子パネルには、 このGeneReviewで触れていない病態と関連する遺伝子も含まれている可能性がある。 そのため、臨床医はどの多遺伝子パネルがもっとも合理的なコストでその病態の遺伝的な原因を追究できるか見極める必要がある。(3)パネルに用いられている方法は、シークエンス解析、欠失/ 重複解析、およびその他シークエンスに基づかない検査である。

多遺伝子パネルに関するイントロダクションについてはここをクリック。遺伝子検査をオーダーする臨床医のための詳細な情報についてはここで閲覧することができる。

表1 嚢胞性線維症(CF)や先天性精管欠損症(CAVD)で用いられる分子遺伝学的検査

遺伝子1 検査方法 この方法で同定される変異2をもつ発端者の割合
嚢胞性線維症 先天性精管欠損症
CFTR シークエンス解析3 97%-98% 79%4
標的遺伝子の欠失/重複解析5 ≦2%-3%
  1. 染色体座位と蛋白については、表A「遺伝子・データベース」を参照。
  2. この遺伝子で同定されたアレル変異に関する情報については、「分子遺伝学」の項を参照。
  3. シークエンス解析では、良性の変異、良性と考えられる変異、臨床的意義が不明の変異、病原性と考えられる変異、病原性変異が検出される。病原性変異には、小さな遺伝子内欠失・挿入、ミスセンス変異、ナンセンス変異、スプライス部位変異が含まれるが、典型的にはエクソンや遺伝子全体の欠失/重複は検出できない。シークエンス解析の結果の解釈について考慮すべき問題はこちらをクリック。
  4. 男性の79%は少なくとも1つの病原性変異、46%は双方のCFTR遺伝子変異が同定される。感度は民族によって異なる。
  5. 標的遺伝子の欠失/重複解析では遺伝子内欠失/重複を同定する。用いられる方法には、定量PCR、ロングレンジPCR、MLPA(multiplex ligation-dependent probe amplification)法、単一エクソンの欠失/重複を検出する標的染色体マイクロアレイ解析などがある。

臨床的特徴

臨床像

嚢胞性線維症は、複数臓器の上皮を侵し、結果として呼吸器系や膵外分泌腺、腸管、肝胆道系、男性の生殖器系、汗腺といった多臓器を侵す疾患である。主な合併症には、気管支拡張症を伴う進行性の閉塞性肺疾患、肺疾患による頻回な入院、膵機能不全や栄養障害、反復性の副鼻腔炎や気管支炎、男性不妊などがある。全体的な予測生存期間の中間値は40.7年である(95%信頼区間, 37.7-44.1年)。

先天性精管欠損症(CAVD)は、不妊症の精査もしくは精巣固定術のような外科手術時に偶然見つかることが多い。先天性精管欠損症は男性不妊症の1.2-1.7%を占める。精管や精嚢の低形成/無形成が両側性/片側性に認められる。通常は、精巣の発達や機能および精子形成は正常である。

遺伝子型(ジェノタイプ)と臨床型の関連

Clinical and Functional Translation of CFTRというウェブサイトはCFTR遺伝子変異について、変異を有する患者における汗中クロール、肺機能、膵機能、緑膿菌の感染率などを含めた情報を提供している。

嚢胞性線維症 膵機能において、遺伝子型と臨床型は最も良く相関する。最もよく認められる変異は、膵酵素が十分(pancreatic sufficient, PS)、膵機能が不十分(膵機能不全)に分類されてきた。膵酵素が十分な患者では、通常は1つか2つのPSアレルを有しており、膵の表現型に関してはPSアレルが優位に働くことを示唆している。

遺伝子型が同定されている患者において、肺疾患の重症度は幅広い。遺伝子型と臨床型の相関は限られている。

p.Phe508del/p.Ala455Gluの複合ヘテロ接合体は、p.Phe508delのホモ接合体を有する患者より肺機能は良好である。

先天性精管欠損症 通常、先天性精管欠損症は、古典的(重症の、機能喪失型)CFTR遺伝子変異と(いくらか機能が残存している)軽症のCFTR遺伝子変異(5Tアレルなど、表2参照)の複合ヘテロ接合体によって起こる。しかし、少数の先天性精管欠損症患者でも呼吸器や膵臓疾患が認められ、ごく軽症の嚢胞性線維症の臨床像と一部重複する。5Tアレルは、嚢胞性線維症様の臨床所見を認める成人女性患者の肺疾患と相関する可能性がある。そのため、初期に先天性精管欠損症とだけ診断された患者において、将来的な経過を予測するため遺伝子型を用いることには注意しなければならない。

表2 遺伝子型-臨床型の相関

CFTR遺伝子型1 臨床型の幅2
第1アレル 第2アレル(もしくはホモ接合体)
古典的(p.Phe508delなど) 古典的 古典的>>非古典的
軽症(p.Ala455Gluなど) 古典的もしくは軽症 非古典的>古典的
p.Arg117His / 5T 古典的もしくは軽症 非古典的>古典的
p.Arg117His / 7T 古典的もしくは軽症 無症状の女性もしくは先天性精管欠損症>非古典的
5T / 13TG もしくは12TG 古典的もしくは軽症 先天性精管欠損症もしくは非古典的嚢胞性線維症>>無症候性キャリア
5T / 11TG 古典的もしくは軽症 無症状>先天性精管欠損症
7Tもしくは9T 古典的もしくは軽症 無症状
7Tもしくは9T 古典的もしくは軽症 無症状
  1. パターンは、複合ヘテロ接合体における"より軽症"アレルの優性効果を反映している。古典的アレルは一般的にクラスⅠ-Ⅲ病原性変異をさす。軽症アレルはp.Arg117Hisおよび5Tアレルを除くクラスⅣ-Ⅴ病原性変異をさす(表8を参照)。
  2. データは Kiesewetterら(1993)、Wittら(1996)、Brockら(1998)、Cuppensら(1998)、Makら(1999)、Wangら(2002)、McKoneら(2003)、Gromanら(2004)による。

命名

非典型的嚢胞性線維症(Atypical cystic fibrosis)は、元々は嚢胞性線維症様の症状を呈するものの嚢胞性線維症膜貫通調節因子(CFTR)の機能異常によらない疾患に対する呼称として提唱されたが、ときに軽症/非古典的嚢胞性線維症を示すのに用いられる。しかし、このような意味に用いるのは混乱を招くため強く推奨されない。

発生率

北欧出身者において、嚢胞性線維症は最もよくみられる致死的な常染色体劣性遺伝性疾患である。北欧出身者における嚢胞性線維症の発生率は3,200人出生に1人である。米国では約30,000出生に1人である。祖先が北欧出身である北米在住者のうち、28人に1人はキャリアである(表3を参照)。

その他の民族では、嚢胞性線維症の頻度は低い(アフリカ系アメリカ人では15,000人に1人、アジア系アメリカ人では31,000人に1人)。

表3 CFTR遺伝子病原性変異保因者(キャリア)の頻度

民族 およそのキャリア頻度 出典
アシュケナージ系ユダヤ人 29人に1人 Keremら(1997)
北欧系北米人 28人に1人 Hamoshら(1998)
アフリカ系アメリカ人 61人に1人 Hamoshら(1998)
アジア系アメリカ人 118人に1人1 Rohlfsら(2011)
  1. このキャリア頻度は検査を施行した集団における病原性変異の頻度に基づいており、発生率によって計算されたものではない。

遺伝学的関連疾患

CFTR遺伝子関連疾患(CFTR-RD)には、嚢胞性線維症の臨床診断基準に合致しない患者におけるCFTR遺伝子ヘテロ変異による孤発性膵炎や気管支拡張症などがある。

CFTR遺伝子関連メタボリック症候群(CRMS)は、新生児スクリーニング検査でトリプシノーゲン濃度の上昇を認め、汗中クロール濃度は60mEq/L以下で、最大2つのCFTR遺伝子変異を有するが少なくとも1つは明らかな病原性変異ではなく、嚢胞性線維症の診断基準を満たさない乳児に用いられる。典型的には無症状で、その自然経過についての知見も得られてきている。

特発性膵炎、気管支拡張症、アレルギー性気管支肺アスペルギルス症、慢性副鼻腔炎患者において、CFTR遺伝子変異の発生率の上昇が認められている。


鑑別診断

嚢胞性線維症

慢性的な下向きの気管内誤嚥を伴う一次性嚥下障害および上向きの気管内誤嚥を伴う/伴わない一次性胃食道逆流症(GER
両方とも慢性咳嗽を起こし、成長障害を合併することがある。しかし、嚢胞性線維症ではない患児では、咳嗽はしばしば食事中に一過性に認められる。一次性嚥下障害もしくは一次性胃食道逆流症では脂肪便は認めない。

重症複合免疫不全症およびその他の免疫不全症 
免疫不全症患者は乳児期に反復性の呼吸器感染症や慢性的な下痢を認めることがある。嚢胞性線維症と特別な関連のない非呼吸器感染症(中耳炎・蜂窩織炎など)にも罹患しやすい。

気管支喘息
嚢胞性線維症と気管支喘息はともに、呼吸器ウイルス感染症、アレルゲン曝露、運動の後に慢性咳嗽や持続性の喘鳴を呈する。しかし、気管支喘息患者は典型的には喘息治療にて改善し、反復性の肺炎および嚢胞性線維症に関連する細菌のコロニー形成は認められず、成長や体重増加は正常で脂肪便は呈さない。

先天性気道奇形 では、嚢胞性線維症と同様に乳児期に慢性咳嗽や喘鳴を認めることがある。典型的な嚢胞性線維症患児では消化器症状/栄養障害を認めるのに対し、先天性気道奇形では認められない。嚢胞性線維症では吸気性喘鳴(stridor)はあまり認められない。

原発性繊毛運動不全症(Primary ciliary dyskinesia, PCDは、内臓位置異常、精子の運動能異常、絨毛構造・機能の異常により気道に粘液や細菌が滞留し、慢性的な耳-副鼻腔-肺疾患をきたす。原発性繊毛運動不全症患者は、乳児期に呼吸窮迫を、また反復性肺炎による咳嗽・喀痰を認め、慢性的な気管支拡張症に進行することがある。また、気道分泌物の培養による緑膿菌/他の病原菌の検出や慢性副鼻腔疾患を呈することがある。原発性繊毛運動不全症患者の50%に内臓逆位が認められる。原発性繊毛運動不全症では脂肪便や成長障害は合併しない。原発性繊毛運動不全症では、絨毛の異なる構成成分をコードする複数の遺伝子に変異が認められ、遺伝形式は常染色体劣性遺伝である。

シュバッハマン・ダイアモンド症候群(Shwachman-Diamond syndrome, SDSは、膵外分泌不全とそれに伴う吸収不良、栄養障害、成長障害を特徴とする。シュバッハマン・ダイアモンド症候群は、一系統もしくは複数系統の血球減少、骨髄異形成症候群(MDS)や急性骨髄性白血病(AML)に対する疾患感受性、骨格系異常(最もよく認められるのは軟骨異形成症/窒息性胸郭ジストロフィー)の存在によって嚢胞性線維症と鑑別される。シュバッハマン・ダイアモンド症候群はSBDS遺伝子の両アレル変異によって起こる常染色体劣性遺伝性疾患である。

原発性胆道閉鎖症(Primary biliary atresia
 まれであるが、嚢胞性線維症患者は乳児期に、臨床的に明らかな消化器・呼吸器症状を認めることなく胆道閉塞による症状を呈することがある。原発性胆道閉鎖症患者では血清免疫反応性トリプシノーゲン値や便中エラスターゼ値は正常であるべきで、嚢胞性線維症による肝疾患は常に膵管閉塞を合併している。

汗中クロール濃度上昇を伴う/伴わない気管支拡張症
上皮NaチャネルのβサブユニットをコードするSCNN1A, SCNN1B, SCNN1G遺伝子の変異は非古典的嚢胞性線維症の原因となる。SCNN1A, SCNN1B, SCNN1G遺伝子変異を有する患者では、軽症の肺疾患や汗中クロール濃度の上昇もみられることがある。

孤発性高クロール汗症(Isolated hyperchlorhidrosisは、汗中クロール濃度の上昇や成長障害を特徴とし、炭酸脱水素酵素?をコードするCA12遺伝子の変異を原因とする。

先天性精管欠損症

先天性精管欠損症は、精巣/精管系からの射精に対する閉塞によって起こる閉塞性無精子症の鑑別疾患の一つである。閉塞性無精子症は症候群の一部のこともあれば単独の所見のこともある。閉塞性無精子症を伴う症候群には以下がある。


臨床的マネジメント

初期診断時における評価

嚢胞性線維症と診断された患者における疾患の範囲とニーズを把握するために、以下のような評価が推奨される。

呼吸器系

膵外分泌不全

全体的の臨床像/疾患の範囲の評価

先天性精管欠損症と診断された患者における疾患の範囲とニーズを把握するために、泌尿器科医への紹介が推奨される。

病変に対する治療

嚢胞性線維症

呼吸器系

膵外分泌不全

消化器系

胎便イレウスや遠位腸閉塞症候群では外科的な評価や治療が必要である。

肝疾患

妊孕性

生殖補助医療(ART)には、精巣上体遺残からの顕微鏡下精子吸引法と試験管内受精の併用やドナー由来の精子を使用した人工授精などがある。

先天性精管欠損症

生殖補助医療(ART)には、精巣上体遺残からの顕微鏡下精子吸引法と試験管内受精の併用やドナー由来の精子を使用した人工授精などがある。

一次合併症の予防-嚢胞性線維症

呼吸器系
 ・さまざまな排痰法により、気道分泌物を可動化し、気道閉塞を最小化して、気道感染症を減らすことができる。排痰法には、体位変換と用手胸部圧迫、携帯用デバイス(フラッターバルブ、アカペラ®など)、胸壁を振動させる空気注入式ベストなどがある。これらは少なくとも1日2回使用すると最も効果的である。
 ・6歳以上の患者では、ドルナーゼアルファや高張生理食塩水は気道分泌物の喀出に有用である。
 ・排痰法は標準的な順序の吸入薬と組み合わせて行うべきである。

  1. 気管支拡張薬
  2. 高張生理食塩水
  3. ドルナーゼアルファ
  4. 排痰法
  5. (選択された患者では)副腎皮質ステロイドおよび/もしくは長時間作用型β受容体作動薬
  6. エアロゾル化した抗生剤

この順番で行う理由は、気道を開通し、痰の粘稠度を低下させ、分泌物の喀出を促進して、抗炎症薬および/または抗生剤を気管支分枝系に可能な限り広く深く届けるためである。

膵外分泌不全

定期検査-嚢胞性線維症

呼吸器系

膵外分泌不全

肝疾患 

肝疾患の進行を評価するために、1年に1回肝機能検査と肝臓エコーを施行することがのぞましい。

避けるべき薬物/環境

以下を避ける。

リスクのある親族の検査

なるべく早く治療や予防を開始できるよう専門施設に紹介すべき患者を見つけるため、一見無症状の同胞/リスクのある親族は検査を行うことがのぞましい。

行うことのできる検査には、以下がある。

遺伝カウンセリングとして扱われるリスクのある親族への検査に関する問題は「遺伝カウンセリング」の項を参照のこと。

妊娠管理

栄養状態の改善や肺疾患に対する治療の進歩、感染症に対する積極的な治療、そして多職種医療チームにより、特に軽症~中等症の女性において妊娠は可能である。妊娠により死亡リスクの上昇はみられていない。現在までの報告によると、妊娠経過のもっとも重要な予測因子は母体の肺障害や栄養状態の重症度である。妊娠中の悪化は早産を誘発することがある。

研究中の治療法

ウルソデオキシコール酸は、細胞保護に働き、胆汁流量を増加させ、肝酵素値、胆汁排泄、肝組織像、栄養状態を改善させる可能性がある。しかし、肝疾患のリスクのある嚢胞性患者の一部において、ウルソジオールがその進行を防ぐことができるかどうかは不明である。

CFTR病原性変異に対する治療の候補は以下である。

遺伝子治療

遺伝子治療は初期臨床試験が行われている。現時点で遺伝子治療は嚢胞性線維症関連の症候を制御もしくは治療することはできていない。

さまざまな疾患に関する臨床試験に関する情報はClinicalTrials.govを参照のこと。

その他

緑膿菌に対する積極的および受動的な予防接種戦略は大いに関心を持たれているが、まだその効果に進展はみられていない。


遺伝カウンセリング

「遺伝カウンセリングは個人や家族に対して遺伝性疾患の本質,遺伝,健康上の影響などの情報を提供し,彼らが医療上あるいは個人的な決断を下すのを援助するプロセスである.以下の項目では遺伝的なリスク評価や家族の遺伝学的状況を明らかにするための家族歴の評価,遺伝子検査について論じる.この項は個々の当事者が直面しうる個人的あるいは文化的な問題に言及しようと意図するものではないし,遺伝専門家へのコンサルトの代用となるものでもない.」

遺伝形式

嚢胞性線維症および先天性精管欠損症の遺伝形式は常染色体劣性遺伝である。

患者家族のリスク

嚢胞性線維症患者(発端者)の両親

嚢胞性線維症患者(発端者)の同胞

嚢胞性線維症患者(発端者)の子ども

先天性精管欠損症患者(発端者)の両親・同胞・子ども

その他の家族 CFTR遺伝子変異のヘテロ接合体を有する患者の子どもがキャリアであるリスクはそれぞれ50%である。

保因者(ヘテロ接合体)診断

リスクのある親族に対する保因者診断を行う前に、家系内でのCFTR遺伝子変異を同定する必要がある。

発端者が亡くなっているか分子遺伝学的検査が行われていない場合には、CFTR遺伝子の分子学的検査を行うため、組織切片の入手を試みることが望ましい。発端者の組織で分子学的検査を行うことができない場合、リスクのある家族に分子学的検査を申し出るとよい。CFTR遺伝子変異が同定されていない者がキャリアであるリスクは低い(表4を参照)。

ルーチンの保因者スクリーニング検査に、5TおよびTG領域タイピングを含めるべきではない。5T/TG領域解析では、本人が発症するリスク、もしくは子どもが非古典的な嚢胞性線維症/先天性精管欠損症を発症するリスクを数値化することはできない。リスクの"高い""低い"を分類することはできる。

ある者がp.Arg117His変異を有している場合、それを反映した5T/7T/9T変異を検査することが推奨される。5Tアレルを有している場合、p.Arg117Hisアレルで5Tアレルがシス型配置なのかトランス型配置なのかを知るため、家族に検査を施行することが推奨される。p.Phe508delおよび5T/11TGを有する者は、非古典的嚢胞性線維症を発症しない傾向が強い。p.Phe508delおよび5T/12TGを有する者、もしくはp.Phe508delおよび5T/13TGを有する者は、まれに先天性精管欠損症もしくは非古典的嚢胞性線維症を発症することがある。

CFTR遺伝子変異には、いまだ多数の命名法が使用されている。標的となる家族性CFTR遺伝子変異の検査をオーダーする際に、その変異が旧来の命名法もしくはHGVS命名法(Berwoutsらのレビュー[2011]を参照)によって命名されているかどうかを知ることは重要である。

表4 分子学的検査で病原性変異を同定できない場合にCFTR遺伝子変異のキャリアである残存リスク

検査前のキャリアであるリスク 病原性変異の検出率が以下である場合に、キャリアである残存リスク
30% 40% 50% 60% 70% 75% 80% 85% 90% 96%
2/3 58.3% 54.5% 50.0% 44.4% 37.5% 33.3% 28.6% 23.1% 16.7% 7.4%
1/2 41.2% 37.5% 33.3% 28.6% 23.1% 20.0% 16.7% 13.0% 9.1% 3.8%
1/4 18.9% 16.7% 14.3% 11.8% 9.1% 7.7% 6.3% 4.8% 3.2% 1.3%

検査前のリスクのその他の値における残存リスクについては表4a(pdf)を参照。

遺伝カウンセリングに関連した問題

早期診断・治療を目的としたリスクのある親族の検査についての情報は、「臨床的マネジメント」「リスクのある親族の検査」を参照のこと。

家族計画

DNAバンクは主に白血球から調整したDNAを将来利用することを想定して保存しておくものである。検査技術や遺伝子、変異、あるいは疾患に対するわれわれの理解が将来さらに進歩すると考えられるので、DNA保存が考慮される。

集団検診

一部のカップルは、出生前診療のルーチンの一環として、嚢胞性線維症のキャリアかどうかのスクリーニング検査の申し出を受ける。米国臨床遺伝学会(ACMG)の嚢胞性線維症スクリーニング検査に関する小委員会は、北欧出身者やアシュケナージ系ユダヤ人には嚢胞性線維症のキャリアかどうかのスクリーニング検査を申し出ること、またその他の民族にもスクリーニング検査を行えるようにすることを推奨している。

小委員会は、アレル頻度が米国で人口の0.1%を超える、大多数の病原性変異を含んだ23の変異を同定できる汎民族(pan-ethnic)パネルの使用を推奨している(表6)(全文)。

米国遺伝カウンセラー学会実践ガイドラインでは、祖先が誰かに関わらず、妊娠可能年齢の全ての女性に対し、嚢胞性線維症の保因者診断を受けるよう申し出ることを推奨している。妊娠前がのぞましい。北欧系でない者に対しては、少数民族でよく同定される病原性変異も含んだ汎民族パネルを考慮するとよい。保因者診断の結果の解釈に関する情報については「保因者診断」の項を参照のこと。

嚢胞性線維症の家族歴がなく、保因者診断で陰性であった者がキャリアであるリスクは低い。表5に、検査方法の病原性変異検出率と検査前のリスクにもとづいた、キャリアである残存リスクが示されている。残存リスクを正確に計算するため、患者の民族や嚢胞性線維症の家族歴に関する完全かつ正確な情報を検査機関に提供するべきである。

表5 分子学的検査で病原性変異を同定できず、CFTR遺伝子関連疾患の家族歴がない場合にキャリア(ヘテロ接合体)である残存リスク

検査前のキャリアであるリスク 病原性変異の検出率が以下である場合に、キャリアである残存リスク
30% 40% 50% 60% 70% 75% 80% 85% 90% 96%
1/28 (3.57%) 2.5% 2.2% 1.8% 1.5% 1.1% 0.9% 0.7% 0.6% 04% 0.15%
1/60 (1.7%) 1.2% 1.0% 0.8% 0.7% 0.5% 0.4% 0.3% 0.3% 0.2% 0.06%

さらなる情報については、米国臨床遺伝学会保因者スクリーニングACTシートの「R117Hを除くCFTR遺伝子変異」「嚢胞性線維症R117H」「保因者スクリーニング検査で変異を認めない」を参照のこと。

出生前診断

高リスク妊娠

ひとたび家系内でCFTR遺伝子変異が同定された場合、リスク妊娠に対する出生前検査や着床前診断を行うことは可能である。

中等度リスク妊娠

CFTR遺伝子検査に続く羊水中の消化酵素検査は、中等度リスク妊娠の出生前診断に有用である可能性がある。

低リスク妊娠 

以前の妊娠時には嚢胞性線維症のリスクが高いと思われていなかったが、胎児エコーで等輝度の腸管および/もしくは拡張腸管の所見を認めた場合、同疾患のリスクは上昇する。Scotetら(2010)は、出生前診断でグレード3の等輝度腸管を認めた胎児289人のうち、嚢胞性線維症患者は6.7%だったことを報告した。グレード3とは、周囲の胎児骨および/もしくは拡張腸管と同様もしくはそれ以上のエコー輝度と定義される。この場合、嚢胞性線維症のリスクに関して両親の遺伝カウンセリングを行うことがのぞましく、つづいて両親および/もしくは胎児のCFTR遺伝子検査を妊娠週数や両親の決定に基づいて行う。検査法の病原性変異検出率にもとづき、胎児に1つの病原性変異が同定された場合にのみリスクを計算できる。


更新履歴

  1. Gene Reviews著者: Thida Ong, MD, Susan G Marshall, MD, Barbara A Karczeski, MS, CGC, Darci L Sternen, MS, LGC, Edith Cheng, MS, MD, and Garry R Cutting, MD.
    日本語訳者: 和田宏来 (県西総合病院小児科/筑波大学大学院小児科)
    Gene Reviews 最終更新日:2017.2.2 日本語訳最終更新日:2018.3.9.in present)

原文: Cystic Fibrosis and Congenital Absence of the Vas Deferens

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