Gene Review著者: Thomas Wieser, MD
日本語訳者: 坂本修(東北大学大学院医学系研究科発生・発達医学講座小児病態学分野)
Gene Reviews 最終更新日: 2009.6.25. 日本語訳最終更新日: 2009.8.2
原文: Carnitine Palmitoyltransferase II Deficiency
疾患の特徴
カルニチンパルミトイル基転移酵素II(CPTII)欠損症は長鎖脂肪酸酸化の経路の障害である.3つの臨床型、致死性新生児型、重症乳児肝心筋型、筋型に大別される.筋型は一般に軽症であり、乳児から成人期にかけ発症が起こりうる.致死性新生児型、重症乳児肝心筋型はケトン性低血糖を伴う肝不全、心筋症、痙攣をきたし、早期の死亡に至るような重篤な多臓器の障害を呈する.筋型は運動誘発性の筋痛、筋力低下が特徴であり、ときにミオグロビン尿を伴う. 筋型CPTII欠損症は骨格筋を障害する脂肪代謝疾患の代表的なものであり、遺伝性のミオグロビン尿症の原因として最も頻度が高い.女性より男性に症状がでやすい.
診断・検査
タンデム質量計による血清・血漿のアシルカルニチンの分析が、スクリーニング検査として最初になされる.確定診断は一般にCPT活性の低下を以ってなされる.CPTII欠損症の原因として唯一知られているCPT2遺伝子解析も非侵襲的で迅速かつ特異的な方法である.これらの検査は臨床レベルで利用できる.
臨床的マネジメント
病態に関する治療:
解糖系のための原料を供給するために高炭水化物(70%)・低脂肪(20%)食.潜在的な毒性物質である長鎖脂肪酸アシルCoAをアシルカルニチンに変換するためカルニチン投与.
一次的な症状の予防:
異化を避けるため、感染の急性期でのブドウ糖の点滴.頻回食.空腹や長い運動の回避.
合併症の予防:
腎不全の回避のため、横紋筋融解・ミオグロビン尿の発作の際の適切な補液.
避けるべき薬物:
バルプロ酸、全身麻酔、イブプロフェン、大量のジアゼパム
罹患可能性のある親族の検査:
その家族における病因変異が確定されていれば、親族の遺伝子検査により、早期に医療介入をすることで罹患率・死亡率を減少させることができる.
遺伝カウンセリング
CPTII欠損症は常染色体劣性遺伝型式をとる.基本的に罹患者の同胞は25%の確率で罹患者であり、50%の確率で非罹患の保因者であり、25%の確率で変異を有しない非罹患者である.罹患者の同胞が非罹患者であれば、変異保因者である確率は2/3である.ヘテロ接合(保因者)は一般には無症候ながら、症状を呈した保因者も報告されている.重症型に対する出生前診断はCPT2遺伝子にその家系の病因変異が2つ確定している場合もしくはCPTII活性測定により可能である.
臨床診断
カルニチンパルミトイル基転移酵素II(CPTII)欠損症における3つの病型
検査
タンデム質量分析計(MS/MS)による血清・血漿アシルカルニチンの分析(アシルカルニチンプロファイル).ミトコンドリアβ酸化系障害(およびCPTII欠損症)を疑わせる所見は、C12からC18(特にC16とC18:1)のアシルカルニチンの上昇である.(このアシルカルニチンプロファイルをとる他の疾患については鑑別診断の項を参照)
CPTII活性測定
罹患者:総CPT活性(CPTI+CPTII)は、パルミトイルCoA+カルニチン⇔パルミトイルカルニチン+CoAを基本的な反応として測定される.CPTII活性は、総CPT活性の20-40%である.測定された活性の値は測定系の条件により左右されるが、その測定系は標準化はされていないため、異なった施設間のデータを比較するのは困難である.
致死性新生児型や重症乳児肝心筋型はリンパ球や骨格筋でのCPTII活性がコントロールの10%以下である.
筋型においてCPTII活性の低下を筋以外の組織(肝、線維芽細胞、リンパ球など)で検出できるものの、CPTII活性測定のための組織の用意が困難であり、かつ異なった組織間でのCPTII活性の比較において矛盾する結果をきたすことがある.そのため、筋型においては筋組織での活性測定が推奨される.
Rettingerら(2002)は、CPTII活性に直接関連するアシルカルニチンの化学量的な生成を元にした、タンデム質量分析(MS/MS)によるCPTIIアッセイ法を開発した.この測定法は筋型CPTII欠損症罹患者を特定できる[Gempel et al 2002].
保因者
血清CK 原因を問わず横紋筋融解をきたせば血清CKは上昇する.心疾患や中枢性疾患が除外されている場合に、5倍以上の血清CKの上昇は重篤な横紋筋融解を示唆する.ほとんどの筋型CPTII欠損症は発作と発作の間では、正常なCK値(80 U/l未満)であるが、恒常的なCK上昇(313 U/l未満)が10%に認められる[Wieser et al 2003].
組織学的検査 組織学的検査では筋型CPTII欠損症の50%に非特異的なミオパチー時の変化(線維の萎縮、線維径の大小不同)を認めるが、他方50%で正常の所見である.骨格筋への脂肪の沈着は11%の患者に認められる[Engel 2004].
分子遺伝学的検査
遺伝子 CPT2がCPTII欠損症の原因として唯一知られている遺伝子である.
臨床的検査法
致死性新生児型 p.Pro227Leuやp.Lys414ThrfsX7, p.Lys642ThrX6などの重症病因変異のホモ接合が致死性新生児型に関連している[Isackson et al 2008].この臨床型は「軽症」変異との複合へテロ接合の状態においても認められている(del1737C / p.Glu174Lys) [Semba et al 2008].
重症乳児肝心筋型 軽症型変異と重症型変異の複合へテロがこの臨床型として報告されている.詳細な検討によると以下の変異がこの型に関連する:p.Tyr120Cys, p.Arg151Gln, p.Asp328Gly, p.Arg382Lys, p.Arg503Cys, p.Tyr628Ser, p.Arg631Cys [Vladutiu et al 2002b, Thuillier et al 2003, Isackson et al 2008]
表1. カルニチンパルミトイル基転移酵素II欠損症で用いられる分子遺伝学的検査
検出法 | 変異検出率 | 変異の頻度 | |
---|---|---|---|
筋型 | 致死性新生児型、 重症乳児肝心筋型 |
||
特定変異の検出1 | p.Ser113Leu | ~ 60%2 | 十分なデータがない3 |
p.Lys414ThrfsX7 | ~ 20%2 | ||
p.Pro50His、p.Arg503Cys、p.Gly549Asp、 p. Lys414ThrfsX7、p.Met214Thr |
~ 15%2 | ||
シークエンス解析 | CPT2の変異 | > 95%1 | |
欠失/重複解析4 | ゲノムの一部もしくは全部の欠失 | 不明5 |
発端者に対する検査手順
リスクのある親族の検査 事前に家系内の病因変異が特定されている必要がある.
注:保因者は常染色体劣性遺伝の疾患でのヘテロ接合体であり、発症のリスクはない.
p.Arg503Cysのヘテロ接合によって緩除に進行する軽症の筋症(筋力低下、筋症状)を呈する一家系が報告されている.この家系の1人には4歳時に手術中に悪性高熱をきたしたエピソードがある[Vladutiu et al 2002] .
出生前診断および着床前診断 次児に罹患者のリスクのある出生前診断においては、事前に家系内の病因変異が特定されている必要がある.
訳注:本邦においては着床前診断の実施のためには症例ごとに実施施設における倫理委員会および日本産科婦人科学会審での審議が必要とされる.
遺伝学的に関連する疾患
CPT2の変異による他の表現型は知られていない.自然経過
カルニチンパルミトイル基転移酵素II(CPTII)欠損症の表現型として3つの臨床型、致死性新生児型、重症乳児肝心筋型、筋型がある.筋型は乳児から成人期にかけ発症が見られうる.
致死性新生児型 肝不全、低ケトン性低血糖、心筋症、呼吸不全、不整脈がみられる.罹患児は肝石灰化、腎嚢胞性変化がみられる[Vladutiu 2002b、Sigauke et al 2003].
基底核の嚢胞性変化などの神経遊走障害が報告されている[Pierce et al 1999].
予後は不良である.数日から数ヶ月で死亡に至る.
致死性新生児型は多臓器におけるCPTII活性低下、血清総カルニチン・遊離カルニチンの低値、血清長鎖アシルカルニチン・脂肪の高値が特徴である.
重症乳児肝心筋型 低ケトン性低血糖、肝不全、心筋症、末梢性ミオパシーが特徴である.
不整脈は乳児期における突然死の原因になり得る[Vladutiu 2002b].
筋型 筋型CPTII欠損症は骨格筋を障害する脂肪代謝疾患の最たるものであり、遺伝性のミオグロビン尿症の原因として最も頻度が高い.
間接的な熱量測定や安定同位元素によるCPTII欠損症罹患者における生体での脂肪酸酸化の解析では、安静時では正常の酸化でありながら、低強度の運動の間での長鎖脂肪酸の酸化が障害されている[?rngreen et al 2005] .臨床的には筋型の殆どの症例で筋痛を経験している.約60%が発作時に筋力低下がある.ときに、こむら返りも来たすが、典型的な症状ではない.発作時に褐色尿をきたすミオグロビン尿が約75%の症例でみられる.
発症年齢、診断時年齢は極めて幅が広い.筋型32人において、23人の詳細な臨床データが得られている[Wieser et al 2003, Deshauer et al 2005].発症年齢は1歳から61歳.診断時年齢は7歳から62歳.70%が小児期(0-12歳)に、26%が思春期(13-22歳)に初発症状がみられている.1例が高齢(61歳)で症状が始まっている.
発作の契機としては運動が最も頻度が高く、感染(症例の-50%)、飢餓・空腹(-20%)と続く.契機となった運動の強度はさまざまである.長時間の運動ではじめて症状がでる症例もあれば、軽い運動程度で症状をみる症例もある.冷気、全身麻酔、睡眠不足など、通常状態でも筋の脂肪代謝への依存が高まるような事象も発症の契機となる因子として報告されている.
ほとんどの症例は軽症であり、運動選手であった例もある[Deshauer et al 2005].罹患者は発作と発作の間では、筋力低下もなく一般に無症状である.生涯で数回大きい発作があるのみで、ほとんどの時期を無症状で過ごす例もある.一方で中程度の運動負荷でしばしば筋痛を来たし、病像が悪化し、日常生活に支障をきたす例もある.
急性尿細管壊死を伴う間質性腎炎による終末期腎不全により透析を必要とすることも時にみられる[Kaneoka et al 2005].
有症者は男性に多い.Wieser et al (2003)による32人では、男女比はほぼ2:1である(20/12).初期の報告では5:1とも報告されている.男性に多い理由は不明である.ホルモンが関与している可能性もあるが、完全には説明しきれていない[Vladutiu 2002b].女性ではミオグロビン尿に進展する程度が男性より低く、そのため発見されないことがある.
遺伝子型と臨床型の関連
高頻度変異であるp.S113Lを含めミスセンス変異は筋型に相関し(そのため軽症変異と呼称されている)、途中にストップコドンが入るような変異は致死性新生児型と相関する(そのため重症変異と呼称されている)ため、遺伝型と表現型の関連があるといえる.しかしながら、いくつかの変異は軽症にも重症にも関与しており、他の未知の修飾因子の存在が示唆される[Musumeci et al 2007].遺伝子変異と予想される表現型のリストはIsackson et al [2008]を参照のこと].
ヘテロ接合体は生化学的には中間の表現型をとる(酵素活性は著明低下)ものの、一般には症状を呈さない.しかしながら、ヘテロ接合体で症状がみられる症例が少数報告されている[Taggar et al 1996, Olpin et al 2003, Rafay et al 2005].ヘテロ接合体はコントロールに比して運動時の脂肪酸化が障害されているとの報告がある[?rngreen et al 2005
頻度
致死性新生児型18家系が報告されている[Thuillier et al 2003, Smeets et al 2003, Isackson et al 2008, Semba 2008] .
重症乳児肝心筋型は約28家系の記載がある.
DiMaruro and DiMaruroによって1973年に筋型CPTII欠損症が報告されてから、300例以上の報告がある[Thuillier et al 2003, Bonnefont et al 2004, Isackson et al 2006].筋型の症状は軽症で、身体的な障害が起きないので、診断されていない例もあると考えられる.
アシルカルニチンの増加 C12からC18のアシルカルニチンの増加している場合(特にC16とC18:1)の鑑別する疾患として、グルタル酸尿症II型(有機酸尿の項を参照)、カルニチン・アシルカルニチントラスロカーゼ欠損症がある.グルタル酸、3ヒドロキシグルタル酸などの尿中代謝産物のスクリーニングによって除外診断できる.
新生児型
カルニチン・アシルカルニチントラスロカーゼ(CACT)欠損症 新生児発症のカルニチン・アシルカルニチントラスロカーゼ(CACT)欠損症の表現型はミトコンドリア脂肪酸酸化異常症の中でも最も重篤な一群に含まれ、通常は低ケトン性低血糖、高アンモニア血症、心奇形などを呈し致死的である.タンデム質量分析解析では16-2 H3パルミトイルカルニチンが増加しており、この場合CPTII欠損症もしくはCACT欠損症が示唆される.
注:CACT欠損症とCPTII欠損症の鑑別は、現状におけるアシルカルニチンプロファイル分析では、血漿・スポットろ紙血や生細胞(線維芽細胞、羊水細胞)を用いても困難である.そのため特異的な酵素アッセイが必要とされる[Roe et al 2006].
カルニチンパルミトイル基転移酵素1A(CPT1A)欠損症 カルニチンパルミトイル基転移酵素1A(CPT1A)欠損症は長鎖脂肪酸酸化障害であり、通常は発熱、胃腸炎など、エネルギー需要が高まった時に症状を呈する.3つの表現型がある.肝脳症型は小児期に低ケトン性低血糖や急性肝不全をきたす.成人期発症のミオパチーは、イヌイット起源の罹患者の報告がある.妊娠期の急性脂肪肝は、胎児がCPT1A欠損症の原因であるCPT1A遺伝子の変異のホモ接合であるときにおこる.
新生児スクリーニングにおいて血清・血漿の遊離アシルカルニチン/総アシルカルニチン比は、CPT1A欠損症では上昇している.培養皮膚線維芽細胞でのCPT1活性はほとんどの罹患者で正常の1-5%である.酵素学的に診断された罹患者において、DNAシークエンス解析でのCPT1A遺伝子の変異検出率は90%以上である.遺伝型式は常染色体性劣性である.
筋型
筋型CPTII欠損症は骨格筋を障害する脂肪代謝疾患の最たるものであり、遺伝性のミオグロビン尿症の原因として最も頻度が高い.臨床症状が代謝性ミオパチーを示唆するときには、一般的検査に、血中の乳酸、ピルピン酸、クレアチンキナーゼ、アミノ酸、遊離・アシルカルニチンの測定を含めて実施するべきである.家族歴は注意深くとる必要がある.初期の報告によると、ミトコンドリアβ酸化異常を示唆するアシルカルニチンの増加(特にC16とC18:1)は、アシルカルニチンのスクリーニングによって検出できる[Chace 2001].この所見するものの鑑別としてCPTII欠損症のほか、グルタル酸尿症II型、CACT欠損症があがる.確定診断にはさらなる検査が必要である[Alpers et al 2001].
横紋筋融解症/ミオグロビン尿症 横紋筋融解症は病因としては一様ではなく、多くの例は機械的もしくは血管性の障害といった後天的要素を原因としている.運動や感染によって繰り返し誘発される横紋筋融解は代謝異常が基礎にあることが多く、それらを念頭において診断する必要がある.経過と理学的診察により、後天的要因や薬剤関連を特定できることが多い.しかしながらミオグロビン尿(褐色尿のエピソード)の既往はしばしば忘れられており、軽い運動後の強い筋肉痛も、疾患の兆候と思われていないことを念頭におかねばならない.代謝性疾患のスクリーニング(カルニチンプロファイル、アミノ酸、タンデム質量分析)は特定の方向へ診断を示唆する可能性がある.組織学的もしくは生化学的検査のための筋生検も実施すべきである.しかしながら、横紋筋融解症の原因は特定できないことが多い.
横紋筋融解症の原因としての後天的要因
横紋筋融解症の原因としての薬剤性要因
横紋筋融解症の原因としての代謝性要因
病状を把握するための初期診断時の評価法
病態に関する治療
長鎖脂肪酸酸化異常症の最近の治療
一次的な症候の予防
二次的な合併症の予防
CPTII欠損症罹患者において、横紋筋融解症やミオグロビン尿発作時の腎不全を防ぐことが重要である.そのため、腎不全の徴候があれば早急に十分な補液、必要に応じ透析の実施がなされなくてはならない.
定期観察
投薬、食事の調節のため、年一回以上の定期観察が推奨される.
回避すべき薬物や環境
長時間の空腹および長時間の運動を回避する.
CPTII欠損症罹患者の薬剤性の副作用の報告は稀である.症例報告を参照すると、以下の薬物は避けるべきであろう.
リスクのある親族の検査
罹患者家系内に病因変異が特定されている際には、早期に診断して治療することにより罹患率と死亡率を低下させることができるため、リスクのある親族に遺伝学的検査を提供することがのぞましい.
研究中の治療法
長鎖脂肪酸酸化異常症における心筋症や横紋筋融解症の治療に際して、TCAサイクルに基質を供給するような(anaplerotic)奇数鎖トリグリセリドの使用により、良い治療効果が得られている[Roe et al 2002]. 7例の患者でトリヘプタノイン療法中においては、横紋筋融解症や通院が避けられ、激しい運動も含めた通常の運動に戻れた[Roe et al 2008].
その他
カルニチンの補充は、カルニチン輸送体欠損症においては本質的な治療法である.しかしながら、他の脂肪酸酸化異常症においてもしばしば治療法として取り上げられるが(50 mg/kg/日)、あきらかな効果は不明である.
遺伝クリニックは遺伝専門家をスタッフとし、個人や家族に対し自然歴、治療、遺伝形式、他の家族の遺伝的リスクに加え、活用できる利用者向けの社会資源なども情報も提供する.
支援グループは、個人や家族に対して、情報、支援、他の罹患者との交流の機会を提供するためにつくらている.
「遺伝カウンセリングは個人や家族に対して遺伝性疾患の本質,遺伝,健康上の影響などの情報を提供し,彼らが医療上あるいは個人的な決断を下すのを援助するプロセスである.以下の項目では遺伝的なリスク評価や家族の遺伝学的状況を明らかにするための家族歴の評価,遺伝子検査について論じる.この項は個々の当事者が直面しうる個人的あるいは文化的な問題に言及しようと意図するものではないし,遺伝専門家へのコンサルトの代用となるものでもない.」
遺伝形式
カルニチンパルミトイル基転移酵素II(CPTII)欠損症は常染色体劣性形式で遺伝する.
患者家族のリスク
発端者の両親
発端者の同胞
発端者の子
罹患者の子どもは、必然的にCPT2遺伝子に病因変異を持つヘテロ接合者(保因者)である.
発端者の他の家族
発端者の両親の同胞は、50%の確率で保因者である
保因者診断
発端者において病因変異が確定されていれば、保因者診断は可能である
遺伝カウンセリングに関連した問題
家族計画 遺伝的なリスク、保因者であるか否か、出生前診断が可能かの内容について、妊娠前に時間をとって話しあうようにする.
DNAバンキング DNAバンクは、一般に白血球から調製したDNAを将来の使用のために保存しておくものである.検査法や遺伝子,変異あるいは疾患に対するわれわれの理解が進歩するかもしれないので,DNAの保存は考慮に値する.ことに現在用いられている分子遺伝学的検査の感度が100%ではないような疾患では特に重要である.
出生前診断
遺伝学的検査 文献的な極少数の報告しかないものの、妊娠15-18週に採取した羊水中細胞や妊娠10-12週に採取した絨毛から抽出DNAの解析により、致死性新生児型や重症肝心筋型CPTII欠損症の出生前診断は可能である(次児における再発率は25%).出生前診断を行う前に,罹患している家族において病因となる両方の遺伝子変異が同定されている必要がある.致死性新生児型や重症肝心筋型では、一般に家系内での表現型は均一である.しかしながら出生前診断の結果から表現型を予測するにはデータが乏しく、遺伝子型・表現型の相関はまだ不明な点がある[Thuiller et al 2003].
注:胎生週数は最終月経の開始日あるいは超音波検査による測定に基づいて計算される.
生化学的検査 出生前診断は培養羊水細胞や新鮮な絨毛組織のCPTII活性測定でも可能である[Vekemans et al 2003].酵素測定による出生前診断を行う前に,罹患者(一般には罹患同胞)においてCPTII活性の低下が確認されているべきである.
超音波検査 妊娠中期における胎児超音波検査にて、脳や腎の異常が見られた胎児に、引き続き生化学的検査や遺伝学的検査を用いてCPTII欠損症と診断された例がある[Elpeleg et al 2001, Sharma et al 2003].
筋型CPTII欠損症において出生前診断の報告はない.出生前診断が早期診断よりも妊娠中絶を目的として実施されるのであれば、専門家間でも意見の相違が存在する.殆どの施設において、出生前診断は両親の選択によると考えるが、これらの件に関しては適切に配慮しつつ、話し合いをして実施すべきである.
筋型CPTII欠損症において出生前診断の報告はない.出生前診断が早期診断よりも妊娠中絶を目的として実施されるのであれば、専門家間でも意見の相違が存在する.殆どの施設において、出生前診断は両親の選択によると考えるが、これらの件に関しては適切に配慮しつつ、話し合いをして実施すべきである.
着床前診断 家系における罹患者の病因変異が確定されていれば可能である.
訳注:本邦においては着床前診断の実施のためには症例ごとに実施施設における倫理委員会および日本産科婦人科学会審での審議が必要とされる。