ジストロフィン異常症
(Dystrophinopathies)

Gene Reviews著者: BasilTDarras,MD,DavidKUrion,MD,andParthaSGhosh,MD.
日本語訳者:佐藤康守(たい矯正歯科)、隅田健太郎(札幌医科大学附属病院遺伝子診療科)

GeneReviews最終更新日: 2022.1.20.  日本語訳最終更新日:  2023.8.12.

原文: Dystrophinopathies


要約


患の特徴

ジストロフィン異常症とは、Duchenne型筋ジストロフィー、Becker型筋ジストロフィー、DMD関連拡張型心筋症(DCM)など、軽度から重度まで幅をもつX連鎖性筋疾患のスペクトラムをいう。スペクトラムの軽症端に属するものとしては、無症状の血清クレアチンホスホキナーゼ(CK)濃度の上昇や、ミオグロビン尿症を伴う筋痙攣といった表現型がある。一方、スペクトラムの重症端には、主として骨格筋が侵されるDuchenne型/Becker型筋ジストロフィーと、主として心臓が侵されるDMD関連DCMといった形で分類される進行性筋疾患がある。

Duchenne型筋ジストロフィー(DMD)では、通常、幼児期に、自立歩行や背臥位からの立ち上がりの遅れをはじめとする運動発達指標の遅延がみられる。近位筋の筋力低下により、あひる歩行が生じたり、階段を上る、走る、ジャンプする、しゃがんだ姿勢から立ち上がるといったことが難しくなったりする。DMDの進行は速く、罹患児は12歳までに車椅子に依存する生活になる。18歳以降、DMDのほぼ全例に心筋症が生じる。多くの場合、呼吸器の合併症や進行性の心筋症が死亡原因となり、30歳を超えて生存する例はほとんどみられない。
Becker型筋ジストロフィー(BMD)は、遅発性の骨格筋筋力低下を特徴とする疾患である。診断技術の進歩により、30歳以降に発症し、60歳代でも歩行機能が維持される男性の軽症端が存在することもわかってきている。BMDでは骨格筋の影響は比較的軽度であるが、DCMに起因する心不全がBMDの大きな罹病原因となり、また、最も多い死亡原因ともなっている。平均死亡年齢は40歳代中盤である。

DMD関連DCMは、左室拡張、うっ血性心不全を特徴とする疾患である。DMDの病的バリアントをヘテロで有する女性は、DCMに関して高リスク状態にある。

診断・検査

発端者におけるジストロフィン異常症の診断は、特徴的臨床所見を有することに加え、CK濃度の上昇、ないし、男性については分子遺伝学的検査でDMDの病的バリアントのヘミ接合、女性についてはDMDの病的バリアントのヘテロ接合が同定されることをもって確定する。女性は、古典的ジストロフィン異常症を呈する場合もあれば、無症状の保因者である場合もある。

臨床的マネジメント

症状に対する治療:
DMDとBMDの表現型でみられる心筋症に対しては、アンジオテンシン変換酵素(ACE)遮断薬に、場合によってはβ遮断薬を併用する形での対応が行われる。うっ血性心不全に対しては、必要に応じ、利尿薬と酸素を用いた治療が行われる。骨格筋症候をほとんどあるいは全く有しない重症の拡張型心筋症罹患者およびBMD罹患者に対しては、心臓移植が行われる。脊柱側彎の治療は、装具と外科手術で行われる。5歳から15歳のDMD罹患者については、コルチコステロイド療法により、筋力や筋機能の改善が得られる。BMDでもこれと同じ治療が行われるものの、効果は今一つ明らかではない。DMDの特定の病的バリアントを有する例については、アンチセンス鎖の人工オリゴヌクレオチドを用いて、エクソンスキッピングにより読み枠を回復させるジストロフィン復元療法が開発されている。

二次的合併症の予防:

定期的追跡評価:

DMDあるいはBMDの男性:

ヘテロ接合の女性:

避けるべき薬剤/環境:

リスクを有する血縁者の評価:
心筋症に関し高リスクで、心臓の定常的監視と迅速な治療を要するヘテロ接合の女性を早期に特定する。

遺伝カウンセリング

ジストロフィン異常症は、X連鎖性の遺伝形式をとる。発端者の同胞の有するリスクは、発端者の母親の遺伝学的状態によって変わってくる。ヘテロ接合の女性が、妊娠に際してDMDの病的バリアントを子に伝達する可能性は50%である。その病的バリアントを継承した息子は罹患者となり、これを継承した娘はヘテロ接合者となって、大きな幅がみられるものの、何らかの臨床症候が現れることがある。ふつう、DMDの男性が生殖を行うことはない。一方、BMD、ならびにDMD関連DCMの男性については生殖の可能性がある。そして、その娘は全例がヘテロ接合者となるが、息子については父親の有するDMDの病的バリアントを継承することはない。家系内に存在するDMDの病的バリアントが判明している場合は、リスクを有する女性に対する保因者検査、出生前検査、着床前遺伝学的検査が可能である。


GeneReviewの視点

ジストロフィン異常症:ここに含まれる表現型
  • Duchenne型筋ジストロフィー(DMD)
  • Becker型筋ジストロフィー(BMD)
  • DMD関連拡張型心筋症

同義語ならびに過去に使われた名称については、「疾患名について」の項を参照。

  1. これらの表現型をもたらすその他の遺伝学的原因については、「鑑別診断」の項を参照。

診断

ジストロフィン異常症とは、Duchenne型筋ジストロフィー(DMD)、Becker型筋ジストロフィー(BMD)、DMD関連拡張型心筋症(DCM)を含む、軽度から重度まで大きな幅をもつX連鎖性筋疾患の一連のスペクトラムをいう。

本疾患を示唆する所見

DMD、BMD、DMD関連DCMに合致する以下のような臨床所見、臨床検査所見を有する例、中でも、それに加えてX連鎖性遺伝に合致する家族歴が陽性の例については、ジストロフィン異常症の1つを疑う必要がある。症状が現れるのは男性であることが多いものの、女性にも現れる場合がある。

臨床所見

Duchenne型筋ジストロフィー(DMD)

Becker型筋ジストロフィー

ただ、中には大腿四頭筋の筋力低下が唯一の徴候という例もみられる。

注:線維束性収縮がある、あるいは感覚モダリティが失われているという状況であれば、ジストロフィン異常症の可能性は否定される。DMDとBMDの中間型の表現型を呈する例(outlier)は、表現型の重症度が両者の中間で、13歳から16歳の間に車椅子が必要な生活になる。

DMD関連拡張型心筋症(DCM)

「サブクリニカルのBMD」という分類も可能かと思われる。

拡張型心筋症概説」のGeneReviewを併せて参照されたい。

臨床検査所見

血清クレアチンホスホキナーゼ(CK)濃度

表1を参照。

表1:ジストロフィン異常症における血清クレアチンホスホキナーゼ(CK)濃度

  表現型 CK濃度の上昇を示す例の割合 血清CK濃度
男性 DMD 100%1 正常の10倍超
BMD 100%1 正常の5倍超
DMD関連DCM 大多数の罹患者2 「上昇」
女性 DMD 50%近く3,4 正常の2-10倍
BMD 30%近く3,4 正常の2-10倍
  1. 血清CK濃度が上昇する源はジストロフィーを起こした筋肉であるが、これは進行性に減少していくため、血清CK濃度は、年齢が高まるとともに徐々に低下していく[Hoffmanら1988,Zatzら1991]。
  2. DMD関連DCMでは、血清CK濃度は通常上昇するものの、濃度が正常であった例の報告も一部みられる[Mestroniら1999]。
  3. Hoogerwaardら[1999b]
  4. これ以外に、DMD/BMD保因者の血清CK濃度には大きなばらつきの幅があり、20歳未満の保因者のほうが20歳超の保因者より平均血清CK濃度が有意に高かったとする研究もみられる[Sumitaら1998]。

診断の確定

男性発端者

男性発端者におけるジストロフィン異常症の診断は、特徴的臨床所見を有することに加え、CK濃度の上昇がみられること、ないしは、分子遺伝学的検査でDMDの病的バリアントのヘミ接合が同定されることをもって確定する(表1参照)。

女性発端者

女性発端者におけるジストロフィン異常症の診断は、通常、特徴的臨床所見を有することに加え、CK濃度の上昇がみられること、ないしは、分子遺伝学的検査でDMDの病的バリアントのヘテロ接合が同定されることをもって確定する(表1参照)。
女性の場合は、古典的なジストロフィン異常症を呈する場合もあれば、無症状の保因者である場合もある。

こうした稀な状況が生じる遺伝学的メカニズム【括弧内はそれを特定するための検査法】には、以下のようなものがある。

これについては「遺伝型-表現型相関」の項を参照されたい。

注:保因者というのは、このX連性疾患に関してヘテロ接合の状態にある人のことで、後に本疾患関連の臨床症候を発症する可能性を有する(「臨床的特徴」の項、ならびに「臨床的マネジメント」の中の「リスクを有する血縁者の評価」の項を参照のこと)。

注:(1)ACMG/AMPバリアント解釈ガイドラインによると、「病的バリアント(pathogenic)」および「可能性のある病的バリアントの可能性が高い(likelypathogenic)」という用語は、臨床現場では同義であり、両方が診断と見なされ、両方が臨床上の意思決定に使用できることを意味します[Richardsetal2015]。本項における「病的バリアント」への言及は、任意の「可能性のある病的バリアント」を含むと理解される。
(2)意義不明のヘミ接合またはヘテロ接合性のDMDバリアント(VUS)の同定は、診断を確立または除外しません。
分子遺伝学的検査のアプローチとしては、単一遺伝子検査マルチ遺伝子パネルの利用、網羅的ゲノム検査などが考えられる。

病的バリアントの大半が1つあるいはそれ以上のエクソンにまたがるものであるため、最初に、DMDの遺伝子標的型欠失/重複解析を行う。そこで病的バリアントが検出されなかった場合に限り、続けて配列解析を行うようにする。

DMDその他の関連遺伝子(「鑑別診断」の項を参照)を含むマルチ遺伝子パネルも検討対象になりうる。
注:(1)パネルに含められる遺伝子の内容、ならびに個々の遺伝子について行う検査の診断上の感度については、検査機関によってばらつきがみられ、また、経時的に変更されていく可能性がある。
(2)マルチ遺伝子パネルによっては、このGeneReviewで取り上げている状況と無関係な遺伝子が含まれることがある。そのため、どのマルチ遺伝子パネルを用いれば、現況の表現型と無関係な遺伝子の意義不明バリアントや病的バリアントの検出を抑えつつ、疾患の遺伝学的原因の特定がなされやすいかという点を、臨床医の側でよく吟味しておく必要がある。
(3)検査機関によっては、パネルの内容が、その機関の定めた定型のパネルであったり、表現型ごとに定めたものの中で臨床医の指定した遺伝子を含む定型のエクソーム解析であったりすることがある。
(4)ある1つのパネルに対して適用される手法には、配列解析、欠失/重複解析、ないしその他の非配列ベースの検査などがある。
マルチ遺伝子パネル検査の基礎的情報についてはここをクリック。
遺伝学的検査をオーダーする臨床医に対する、より詳細な情報についてはここをクリック。
注:(1)マルチ遺伝子パネルは、臨床症候がそれほど重度ではない例に用いるのが最適である可能性がある。BMDの表現型を有する男性、ならびに大半の女性は、最初の検査としてDMDの単一遺伝子検査を指定できるほど明確な臨床所見を呈しないことが多い。
(2)染色体マイクロアレイ(CMA)は、

症候が非典型的な場合などは特に、利用可能なようであれば、エクソームシーケンシングやゲノムシーケンシングをはじめとする網羅的ゲノム検査も検討対象になりうる。こうした検査を行うことで、それまで検討対象にならなかった疾患(例えば、表に現れる臨床症候がよく似た別の遺伝子の変異)が判明あるいは示唆される可能性がある。
網羅的ゲノム検査の基礎的情報についてはここをクリック。
ゲノム検査をオーダーする臨床医に対する、より詳細な情報についてはここをクリック。
エクソームシーケンシングで診断がつかないような場合は、ジストロフィン異常症でみられるDMDの欠失や重複の頻度の高さに鑑みて、臨床的に利用可能なようなら、エクソームアレイも検討対象になりうる。

表2:ジストロフィン異常症で用いられる分子遺伝学的検査

遺伝子1 方法 その手法で病的バリアント2が検出される発端者の割合
DMD 配列解析3 20%-35%
遺伝子標的型欠失/重複解析4,5 65%-80%
  1. 染色体上の座位ならびにタンパク質に関しては、表A「遺伝子とデータベース」を参照。
  2. この遺伝子で検出されているアレルバリアントの情報については、「分子遺伝学」の項を参照のこと。
  3. 配列解析を行うことで、benign、likelybenign、意義不明、likelypathogenic、pathogenicといったバリアントが検出される。バリアントの種類としては、遺伝子内の小欠失/挿入、ミスセンス・ナンセンス・スプライス部位バリアントなどがあるが、通常、エクソン単位あるいは遺伝子全体の欠失/重複については検出されない。
  4. 配列解析の結果の解釈に際して留意すべき事項についてはこちらをクリック。

  5. 遺伝子標的型欠失/重複解析では、遺伝子内の欠失や重複が検出される。具体的手法としては、定量的PCR、ロングレンジPCR、MLPA法、あるいは単一エクソンの欠失/重複の検出を目的に設計された遺伝子標的型マイクロアレイなど、さまざまなものがある。
  6. 染色体マイクロアレイ解析(CMA)を用いることで、隣接遺伝子欠失症候群の一部分としてのDMDの欠失や重複、あるいは、予期せぬ形でたまたま発見される遺伝子内異常としてのDMDの欠失や重複が検出される可能性がある。ただ、全エクソンレベルでのDMDの欠失や重複を検出する上では、CMAは十分な感度を有しないことから、ジストロフィン異常症に対して行う最初の検査としては、CMAは推奨されない。

注:DMDもしくはBMDが疑われた例で、DMDの病的バリアントが検出されなかった場合は、ジストロフィンに関するウェスタンブロッティングと免疫組織化学的検査に向けて、骨格筋の生検を行うこともやむをえないと思われる。骨格筋の生検は、以前も今も変わらず、ジストロフィン異常症の診断では稀にしか用いられない状況にある。

疾患初期の筋組織検査では、線維の大小不同、壊死・再生巣、ヒアリン化、内在核の増加、分割した線維(fibersplitting)、炎症性変化、さらに疾患後期では脂肪沈着と結合組織形成といった非特異的なジストロフィー変化が確認される。

ウェスタンブロッティングと免疫組織化学の所見を表3にまとめて示した。

表3:骨格筋生検で確認されるジストロフィンタンパク質の所見

 

表現型

ウェスタンブロッティング

免疫組織化学3

ジストロフィン分子量1

ジストロフィン量2

男性

DMD

検出不能

0%-5%

完全あるいはほぼ完全に消失

中間型

正常/異常

5%-20%

 

BMD

正常

20%-50%

正常あるいは減少、時に斑状となる

異常

20%-100%

ヘテロ接合の女性

ランダムなX染色体不活化のDMD4

正常/異常

60%超5,6(70%±9%)

正常かわずかな変化、もしくは斑状;ジストロフィン(-)の線維が9%±2%5

X染色体不活化の偏りを伴うDMD7

正常/異常

平均で30%未満(29%±25%)5

斑状;ジストロフィン(-)の線維が44%±33%5

  1. 正常の分子量は427kDである。
  2. ジストロフィンの量をコントロールの値と比較したときの割合で示したもの。本表で示した範囲は、現在、臨床検査機関で用いられているもの、ならびに文献にある概算値、調整値をもとにしたものである。
  3. ジストロフィンのC末端、N末端、ロッドドメインに対するモノクローナル抗体を使用したもの[Hoffmanら1988]。
  4. 障害の程度は無症状から軽度の範囲。
  5. Pegoraroら[1995]
  6. 女性保因者におけるジストロフィンの定量解析は、値のばらつきの幅が大きく、正常値と大きく重なることから、臨床の場では有用ではない。
  7. 軽度、重度、その中間といったさまざまな程度の症候が現れる。軽度の疾患を有していた保因者は若年者(5-10歳)であったという[Pegoraroら1995]。

臨床的特徴

臨床像

男性

ジストロフィン異常症は、軽度から重度まで幅広いスペクトラムを示す。スペクトラムの軽症端の表現型は、血清クレアチンホスホキナーゼ(CK)濃度の上昇と、ミオグロビン尿症を伴う筋痙攣である。一方、スペクトラムの重症端にあるのは、主として骨格筋が侵された場合のDuchenne型筋ジストロフィー(DMD)とBecker型筋ジストロフィー(BMD)、ならびに、主として心臓が侵された場合のDMD関連拡張型心筋症(DCM)といった形で分類される進行性筋疾患である[Beggs1997,Cox&Kunkel1997,Muntoniら2003]。

DMD,BMD,DMD関連DCMの違い

DMDとBMDを区別するポイントは、車椅子依存となる年齢で、DMDでは13歳以前、BMDでは16歳以降である。13歳から16歳の間に車椅子生活となる中間型の罹患者の存在も確認されている。さらに言うと、研究者によっては、BMDのスペクトラムの軽症端を拡大し、血清CK濃度の上昇と筋生検でのジストロフィンの異常は認めるものの、骨格筋症状は「サブクリニカル」にとどまるものまで含めようという向きもみられる[Melaciniら1996]。こうした非典型例が重度の心筋症を発症した場合、BMDとDMD関連DCMの区別はできないことになる[Cox&Kunkel1997]。
洞性頻脈や心電図の各種異常がみられることはあるものの、疾患の初期段階における心臓病変は通常無症状である。心電図は異常なしか、もしくは局所異常がみられる程度である。ただ、DMD罹患者については、心タンポナーデを伴う心膜液貯留や、心不全を惹起するような心筋の炎症が報告されている[Linら2009,Mavrogeniら2010]。サブクリニカル、あるいは有症状の形で心臓病変を有する例は、DMD、BMD罹患者の約90%に及ぶものの、心病変が原因となって死亡に至るのは、DMD罹患者の20%、BMD罹患者の50%に過ぎない[Hermansら2010]。
DMD関連DCMでは、ふつう、心室サイズの拡大と心室機能の障害に続発する形でうっ血性心不全がみられる。男性の場合、DCMはティーン世代で発症して急速に進行し、診断後1-2年のうちに心不全により死の転帰をとる[Finsterer&Stollberger2003]。DCM罹患者は、臨床的に骨格筋の病変を示す場合と示さない場合がある[Neriら2007]。

DMD

運動発達
DMDでは通常、幼児期に、自立歩行の遅れや床からの立ち上がりの遅れといった運動発達指標の遅延を示す。歩行開始の平均年齢は約18ヵ月(範囲は12-24ヵ月)である。両親が最初に気づくDMDの症候は、ふつう、全般的な運動発達の遅れ(42%)、長引く爪先歩行や扁平足(30%)、歩行開始の遅れ(20%)、学習困難(5%)、言語の問題(3%)である。DMDの家族歴を有しないDMD男児について言うと、平均診断年齢は4歳10ヵ月(範囲は16ヵ月-8歳)[Bushby1999,Zalaudekら1999]であるが、最近の1研究では41ヵ月と報告されている[D‘Amicoら2017]。近位筋の筋力低下により、あひる歩行になったり、階段を上る、走る、ジャンプする、しゃがんだ姿勢から立ち上がるといった動作が難しくなったりする[Liら2012,Liangら2018]。男児については、背臥位からの立ち上がりの際に、弱い骨盤帯筋群を補う形で腕を用いるGower徴候がみられる。腓腹部の筋群は肥大し、触診では硬さを認める。時として、腓腹部の痛みを訴えることもある。DMDの進行は速く、罹患児は12歳までに車椅子生活となる[Darrasら2015]。

心筋症
DMD罹患児について言うと、心筋症の発症率はティーン世代で顕著な上昇を示し、14歳までに3分の1、18歳までに半数となり、18歳以降ではすべての例にみられる[Nigroら1990]。

認知機能
DMD男児については、一定程度の非進行性高次脳機能障害がみられることがずっと以前から知られていた。初めこれは、全人口集団との比較でDMD集団のIQ値の分布が全般的に「左寄り」と表現されていた。それよりさらに初期の報告では、Wechsler式知能検査で動作性IQより言語性IQに大きな影響がみられることが示唆されていた。
Banihaniら[2015]が行った後ろ向き研究によると、彼らの用いた試料中、男児の27%はIQ70未満で、19%が知的障害(ID)の全基準を全体として満たしていた。学習障害が44%、注意欠如/多動性障害(ADHD)が32%、自閉症スペクトラム障害(ASD)が15%、不安症が27%にみられたという。こうした神経精神医学的状況とジストロフィンアイソフォームとの間に有意の相関は確認されていない。
Ricottiら[2016]は、ヨーロッパの4ヵ所の医療機関の130人の男性DMD罹患者について、IQの評価とスクリーニングの質問票の再検討を行っている。そして、130人中87人が、その後、より詳しい検査を受けている。その結果、相当割合のID、ASD、ADHD、学習障害、不安症が確認されている。
すなわち、これらの後ろ向き研究はいずれも、全人口集団に比較してDMD男児ではID、ASD、ADHD、学習障害の割合の上昇を示唆するものとなっている。
Battiniら[2018]は、40人のDMD男児について、前向きの評価を行っている。その研究で、通常のIDを有しない男児については、マルチタスク動作、問題解決、抑制、ワーキングメモリへの影響が、全体としての認知機能の状態とは比例しない形で生じていることが明らかになっている。すなわち、IDを有しない男児について言うと、DMDでは「実行機能」の障害が生じているということを示唆する内容となっている。
この研究は、IDを有しないDMD男児では、言語、視空間の両ドメインでアクティブワーキングメモリの障害が生じていることを示したWicksellら[2004]の後ろ向き研究を裏づけるものとなっている。この研究は同時に、IDを有しないDMD男児における言語性短期記憶の問題を明らかにしたHintonら[2001]の後ろ向き研究を裏づけるものともなっている。
これらの研究はすべて、IDを有しないDMD男児では言語機能が低いという従来の主張が、実行機能の障害によってよりよく説明されることを示唆するものとなっている。なお、実行機能の障害は、状況によっては視空間認知の問題にもつながりうるものである。

可動性
DMDでは可動性の低下が生じる。これによりDMDの男児では骨密度の低下が生じ、骨折に関して高リスクとなる。コルチコステロイドは脊椎の圧迫骨折のリスクを高めることになる。なお、脊椎の圧迫骨折の多くは無症状である。

寿命
生存率が向上したとはいえ、30歳代を超えて生存する罹患者はほとんどみられない[Passamanoら2012]。死因として多いのは呼吸器合併症と進行性の心筋症である。分子レベルで診断が確定した例を対象にした研究で、寿命の中央値は24年、換気療法が行われた例で27年であることが明らかになっている[Rall&Grimm2012]。脊椎の手術と夜間の換気療法の両方を受けた罹患者のコホートでは、生存期間の中央値は30年であった[Eagleら2007]。死亡するのは病院外であることが多いため、死亡原因の特定は難しいことが多い[Parkerら2005]。

BMD

運動発達
BMDは、骨格筋の筋力低下が遅発性に現れることが特徴である。診断技術が進歩したことで、30歳代に発症し、60歳代になっても歩行機能が維持される軽症端の男性が存在することが認知されるようになってきている[Yazakiら1999]。
分子遺伝学的検査でDMDの確認が済んでいる、ないしは、筋生検でジストロフィンの検査を終えている軽症例は、次のいずれかに当てはまることがわかっている[Melaciniら1996]。

心筋症
BMDの場合は骨格筋の病変は比較的軽度であるが、DCMによる心不全が罹病の1大要因になっていると同時に、最大の死亡要因にもなっている[Cox&Kunkel1997]。心筋症と診断される平均年齢は14.6歳で、DMD(14.4歳)とほぼ同じである[Connuckら2008]。BMDの心臓移植率は、心筋症の診断後、5年以内で高くなっている[Connuckら2008,Kamdar&Garry2016]。均死亡年齢は40歳代中盤である[Bushby1999]。

認知能力
BMDでは、高次脳機能障害はDMDほど多くはみられず、また重度でもない。

DMD関連DCM

1987年、DCMを有するものの骨格筋のミオパシーはみられない5世代63人から成る1家系が報告された。男性はティーン世代あるいは20歳代で発症し、疾患経過は急速に進行して、DCM関連の心室不整脈が多くみられる。ヘテロ接合の女性については、30歳代あるいは40歳代で軽度の拡張型心筋症を発症するが、進行は緩徐である。唯一みられる生化学的異常は血清CK濃度の上昇である。この家系とその他の1家系において、Towbinら[1993]がジストロフィンの座位との連鎖を明らかにした。
その後の研究で、心臓の表現型が最重度の例については、心筋は心臓内で機能を果たすジストロフィンの産生ができなくなっていることが多い一方で、骨格筋内には、量的には少ないながら実質的に正常なジストロフィンの転写産物とタンパク質が存在することが明らかになった[Ferliniら1999,Neriら2007,Neriら2012]。これについては「分子遺伝学」の項を参照されたい。
DMD関連DCMは、BMD罹患者のうち、骨格筋の障害をほとんどあるいは全く伴わない現れ方のタイプとみることも可能である。こうした例をサブクリニカル、あるいは良性のBMDと分類する研究者がいる一方、CK濃度の上昇を伴うDCMとみる向きもある[Towbin1998]。サブクリニカルで良性のBMDを有する6歳から48歳の28人について行われた1研究で、19人(68%)に心筋病変がみられたものの、症状を有していたのはこのうち2人のみであったという[Melaciniら1996]。3歳から63歳までの21人(平均年齢40歳)を対象とした別の1研究では、骨格筋の所見が比較的軽度にとどまっていた一方で、33%に心不全がみられたという[Saitoら1996]。
DCMの原因としてDMDが関与することは比較的少ない。家族性と孤発性のDCMを有する互いに血縁関係のない日本人成人男女99人のコホートでDMDの病的バリアントが同定されたのは、わずか男性3人のみであった[Shimizuら2005]。

女性

一部ではあるが、女性にも古典的DMDがみられることがある(「診断の確定」の項を参照)。
ヘテロ接合の確認された女性についてDMDやBMDの徴候や症候を調べる研究が行われている[Hoogerwaardら1999a,Hoogerwaardら1999b](表4)。この研究とは対照的に、Nolanら[2003]は6.2歳から15.9歳のヘテロ接合が判明している23人の女性で、心臓の異常を伴った例はみられなかったとしている(「浸透率」の項を参照)。心筋症の発症頻度は、その定義次第といった側面があり、3%から33%まで幅が生じうる[Mccaffreyら2017]ものの、表現型(DMDかBMDか)、年齢、CK値、筋症候などとの間に特段の相関は確認されていない。ただ、機能面での症状を有するヘテロ接合女性にDCMがより多くみられたとする別の1研究も存在する[SchadevanWestrumら2011]。

表4:DMDの病的バリアントをヘテロで有する女性にみられた徴候と症候

徴候/症候 DMDの家系における割合 BMDの家系における割合
なし

76%

81%

筋力低下1

19%

14%

筋肉痛/痙攣

5%

5%

左室拡張

19%

16%

拡張型心筋症

8%

0

Hoogerwaardら[1999b]より

  1. 軽度から中等度の筋力低下

遺伝型-表現型相関

病的バリアントが同定されることでジストロフィン異常症の診断は確定したとしても、DMDとBMDの区別は往々にして難しいことがある。例えば、エクソン3-7の欠失はこれまでに最も詳しく調べられた両表現型に関係する欠失で、DMDの男性でみられる一方、BMDでもみられる[Aartsma-Rusら2006]。

読み枠ルール
ここで言う「ルール」というのは、読み枠のずれが生じない病的バリアント(インフレームの欠失/重複)は一般に軽症型のBMDの表現型となって現れ、読み枠のずれが生じるもの(アウトオブフレーム)は、重症型のDMDの表現型になることが多いという意味である[Monacoら1988]。したがって、欠失/重複のタイプさえ判明すれば、孤発例(家系内で1人だけの発生例)である幼い子どもについても、91%-92%の精度でDMDとBMDの両表現型の鑑別が可能ということになり[Aartsma-Rusら2006]、多くの場合、BMDかDMDかという問題に対応するためにわざわざ筋生検まで行うといったことが不要になる。
10%未満ではあるが、この「読み枠ルール」には例外が生じる場合があることが報告されている[Aartsma-Rusら2006]。最近の研究で、このルールはDMDの表現型についてのみ当てはまり、BMDの表現型については、欠失・重複の両方とも、例外が比較的多いのではないかということが示唆されている[Kesariら2008,Takeshimaら2010]。こうしたこともあって、臨床的特徴を分子遺伝学的検査結果と関連づけることは非常に重要である。

DMDBMDの男性
DMDの男性、BMDの男性について言うと、その表現型はジストロフィンの発現の程度と非常によく一致する。そして、ジストロフィンの発現の程度は、欠失アレルにより形成される切り取られた伝令情報の読み枠によってほぼ決まってくる[Monacoら1988,Koenigら1989]。

欠失が非常に大きい場合は、ジストロフィンの発現が失われてしまうことがある。読み枠を乱す病的バリアントには、終止バリアント、一部のスプライシングバリアント、欠失や重複といったものがある。これらのものでは、分解されてしまうような重度のトランケーションを生じたジストロフィンタンパク質分子が産生されることになり、より重症型のDMDの表現型につながる。この「読み枠ルール」の例外には次のようなものがある。

読み枠ルールを用いた表現型の予測精度は91%-92%の範囲にある[Aartsma-Rusら2006]。
ただ、最近の研究で、重複(これはBMDの形で現れることが多い)は読み枠ルールの例外になることがあり、例外の率がより高く(おそらく30%近くに)なることが示唆されている[Kesariら2008,Takeshimaら2010]。こうしたこともあって、臨床的特徴を分子遺伝学的検査結果と関連づけることは非常に重要である。
Wingeierら[2011]は、DMD男性の有する病的バリアントと、認知機能の特定の要素との間、あるいは標準的認知機能測定法でみたときの全体的成績との間に、明確な関係がみられないことを明らかにした。ただ、彼らは同時に、ジストロフィンのアイソフォームであるDp140の欠損は、全体としてより顕著な高次脳機能障害となって現れることを報告している。これは、脳で発現する遠位のアイソフォームであるDp140の欠損が知的障害に関与していることを示唆したそれ以前の研究[Felisariら2000]を裏づけるものである。Dp140に影響を及ぼす病的バリアントを有する男性に、軽度の知的障害が有意に多くみられ、また、Dp71に関係する病的バリアントを有する男性の大半が、認知機能の面で障害を有する[Daoudら2009,Taylorら2010]。フランス神経筋ネットワークが行った最近の研究は、ジストロフィン遺伝子の遠位寄りの部分に生じた病的バリアントにより、高次脳機能障害が生じやすいことを示唆するものとなっている[Mercierら2013]。
Dp71とDp140は短いジストロフィンアイソフォームで、胎児の脳で高度の発現を示すと同時に、胚期から成人期にかけて徐々に上昇する。Dp71は、海馬ならびに大脳皮質の一部の層に豊富に存在し、シナプス膜、ミクロソーム、シナプス小胞、ミトコンドリアにも少量が局在する。病的バリアントの位置は、全検査IQ(FSIQ)と相関している模様である(例えば、Dp140のプロモーターやコーディング領域に影響を及ぼす病的バリアントに比べ、Dp140の5’非翻訳領域の病的バリアントのほうがFSIQへの影響が少ない)[Taylorら2010]。さらに、中枢神経系で発現する複数のアイソフォームが累積して欠損する状況は、高次脳機能障害のリスクをいっそう高めることになる[Taylorら2010]。

DMD関連DCM
DMD関連DCMは、筋プロモーター(PM)とエクソン1(E1)の病的バリアントに起因して生じ、心筋ではジストロフィン転写産物が産生されないものの、通常は脳ならびにPurkinje細胞でしか活性を示さない別の2つのプロモーター(それぞれPBとPP)がこれに代わって骨格筋で活性を発揮し、骨格筋症候の出現を回避しうるに十分なジストロフィンの発現が起こる[Beggs1997,Towbin1998,Yoshidaら1998]。DMD関連DCMについては、これ以外に、エクソン13-16のロッドドメインの新規の重複[Chamberlainら2015]、ミスセンスバリアント、DMDの中のエクソン45-53の欠失[Shimizuら2005]といった病的バリアントが報告されている。
DMD関連DCMはまた、心筋の機能上、特に重要なタンパク質の1領域のエピトープの変化[Ortiz-Lopezら1997]、あるいは、心臓特異的エクソン(これの存在はまだ実証されていない)の病的バリアントによって生じている可能性も考えられる。
ジストロフィン異常症罹患者にみられる心臓伝導系の異常は、ジストロフィン欠損に続発する形で、心臓のナトリウムチャンネルNA(v)1.5の発現低下が生じていることに起因するものである可能性がある[Gavilletら2006]。
拡張型心筋症概説」のGeneReviewを併せて参照されたい。同一家系内に心筋症とBMDが混在して発生する例がみられることから、エピジェネティックな要因によって特定の病的バリアントの表現型としての現れ方に修飾が加わっている可能性も指摘されている[Palmucciら2000]。

浸透率

ジストロフィン異常症は、男性では完全浸透である。
ヘテロ接合の女性の浸透率には幅がみられ、一部、X染色体不活化(XCI)のパターンに左右されるという側面もありそうである。

ただ、白血球や筋でのアンドロゲン受容体(AR)遺伝子のメチル化状態は、必ずしもDMDのメチル化状態を反映しているとは言えないため、臨床での予後判定という意味でのARメチル化アッセイの使用価値は限定的である[Juan-Mateuら2012]。

疾患名

過去には「偽性肥大型筋ジストロフィー」という用語が用いられたものの、偽性の肥大はDMDやBMDに特異的なものではないことから、これは現在では用いられない。

発生頻度

発生頻度に関するデータは得られていない。
カナダ(ノバスコシア州)における全体的発生頻度は生産男児4,700人に1人で、1969年から2008年まで、この数字は変化していない[Dooleyら2010a]。
北イングランドにおけるBMDの発生頻度は、生産男児18,450人に1人である[Bushbyら1991]。
1968年から1978年までの間の南東ノルウェーにおけるDMDの発生頻度は、生産男児3,917人に1人であった[Tangsrud&Halvorsen1989]。


遺伝学的に関連のある疾患(同一アレル疾患)

筋力低下を伴わない知的障害

DMDのエクソン56-57のインフレームの欠失(ジストロフィンのアイソフォーム、Dp424m,Dp260,Dp140,Dp116がこれに係わる)は、筋力低下を伴わない知的障害(ID)となって現れる。また、ヘテロ接合で無症状の3人の女性(エクソン13-27の重複,エクソン46の部分欠失,エクソン46-55の欠失)に、筋力低下はみられないものの単発性の高次脳機能障害があることが判明したことから、筋力低下を伴わない単発性の知的障害を示すジストロフィン異常症は、これまで考えられてきたより多いのではないかということが示唆されている[Juan-Mateuら2013]。またこれとは別に、ジストロフィンの中の脳特異的アイソフォームDp71にインフレームの3塩基、1アミノ酸の欠失を有する1家系においてみられた、筋力低下を伴わないX連鎖性IDの1症例が報告されている。この例では、クレアチンホスホキナーゼの軽度の上昇がみられた[deBrouwerら2014]。


鑑別診断

肢帯型筋ジストロフィー(LGMD)
肢帯型筋ジストロフィーは、臨床的にはDMDに類似するものの、男女両性に生じる常染色体潜性ならびに常染色体顕性の1疾患群である。肢帯型筋ジストロフィーは、ジストロフィンと相互作用を行うサルコグリカンその他の筋細胞膜結合タンパク質をコードする遺伝子群の変異に起因して生じる[Mohassel&Bönnemann2015]。ジストロフィン陽性のジストロフィーを有する例については、膜貫通型サルコグリカン複合体構成タンパク質をはじめとするその他のタンパク質の欠損を調べる検査が適応となる。表現型がDMDやBMDと類似するのはLGMD2I型で、これはFKRP(フクチン関連タンパク質をコードする遺伝子)の両アレル性病的バリアントに起因して生じる。

Emery-Dreifuss型筋ジストロフィー(EDMD)
Emery-Dreifuss型筋ジストロフィーは、以下の3つの症候を特徴とする疾患である。

発症年齢、重症度、ならびに筋・心臓病変の進行度合については、家系内、家系間でばらつきがみられる。ばらつきの幅としては、小児期に早期かつ重度の症候を示すものから、遅発性で緩徐進行性の経過をとるものまで存在する。一般的には、20歳未満の段階でまず関節拘縮が現れ、次いで筋力低下と筋萎縮が生じる。心臓病変は20歳を過ぎてから現れることが多い。EDMDを引き起こすものとして、次の3つの遺伝子の病的バリアントが知られている。

脊髄性筋萎縮症(SMA)
SMAは、筋緊張の減弱、顔面筋と眼筋を除く筋力低下、舌の線維束性収縮や深部腱反射の消失をはじめとする脊髄前角細胞の病変がみられる場合に疑われる疾患である。筋力低下の発症年齢は、出生前から、思春期あるいは成人初期に至るまで幅がみられる。筋力低下は対称性に生じ、遠位筋より近位筋に顕著にみられ、かつ進行性である。合併症として、発育不全を伴う体重増加不良、拘束性肺疾患、脊柱側彎、関節拘縮、睡眠障害などが多くみられる。SMAはSMN1の病的バリアントに起因して生じ、常染色体潜性の遺伝形式をとる。

拡張型心筋症(DCM)
DCMは、家族性であることもあれば、そうでないこともある。家族の調査を行った大規模研究では、3分の1から半数が非家族性DCMで、3分の2が家族性DCMであった。家族性DCMの遺伝形式には、常染色体顕性遺伝もあれば、常染色体潜性遺伝、X連鎖性遺伝もある。ただ、家族性DCMの大多数(80%-90%)は常染色体顕性遺伝のようで、X連鎖性と常染色体潜性遺伝のものはそれほど多くない[Watkinsら2011]。

Barth症候群
Barth症候群は、TAFAZZIN(以前はTAZと呼ばれていた)の変異によって引き起こされるX連鎖性疾患で、罹患男性に心筋症、好中球減少症、骨格筋のミオパシー、思春期前の発育遅延、特徴的顔貌(乳児期に最も顕著にみられる)が現れることを特徴とする疾患であるが、1人の患者に上記すべての症候がみられるとは限らない。心筋症は、ほぼ全例で5歳未満の段階で出現し、その多くは拡張型心筋症で、これに心内膜線維弾性症や左室緻密化障害が伴う場合と伴わない場合がある。心不全が罹病や死亡の大きな原因になっており、不整脈や突然死のリスクの高まりがみられる。主として近位の筋に非進行性のミオパシーが現れ、初期に運動発達遅延をきたす原因となる。思春期前の発育遅延の後に、思春期後の成長スパートがあり、顕著な追いつき成長(catch-upgrowth)を示す。


臨床的マネジメント

最初の診断に続いて行う評価

ジストロフィン異常症と診断された罹患者については、疾患の範囲やニーズを把握するため、すでに実施済でなければ、以下の評価を行うことが推奨される。

症候に対する治療

ジストロフィン異常症罹患者に対して適切な管理を行うことで、生存期間を延ばしたり、生活の質を向上させたりといったことが可能になる。

Duchenne型筋ジストロフィー(DMD)/Becker型筋ジストロフィー(BMD)

DMDとBMDでみられる心筋症
これについては、アメリカ小児科学会の治療方針に関する声明や、これに追加する形で公表されたその他の推奨[AmericanAcademyofPediatricsSectiononCardiologyandCardiacSurgery2005,Jefferiesら2005,Violletら2012]があり、これがDMD、BMDの表現型をもつ罹患者に適用されることになる。

DMDとBMDでみられる脊柱側彎
必要に応じた治療が望ましい。側彎症の治療は、装具療法と外科手術である。大多数の罹患者は、最終的には脊椎固定術を受けることになる。ロッドの使用は禁忌ではないため、脊椎の固定にはロッドと骨移植が用いられる。少数ながら、目立った側彎を示さない例もみられ、脊椎固定術を要しないようなこともある。

DMDで行われるコルチコステロイド療法
コルチコステロイドがDMD罹患者の筋力と筋機能を改善させることが研究により明らかになっている。この治療は、4歳以上の罹患者に対して選択肢の1つとなる。もっと幼い罹患者に対しても、これまでステロイドが用いられてきたが、比較試験での有効性の証明はまだなされていない。2歳未満の子どもについては、コルチコステロイド療法は推奨されない[Bushbyら2010a]。
以下のコルチコステロイド療法に関する公表済の推奨事項は、アメリカ神経学会と小児神経学会のまとめた国内指針[Moxleyら2005](全文はこちら)、ならびに、DMDケア考慮事項作業班の指針[Bushbyら2010a]に準拠したものとなっている。

多くの臨床医は、歩行機能喪失後も、上肢の筋力維持、進行性の呼吸機能低下・心機能低下の先送り、脊柱側彎のリスク低減を目的として、グルココルチコイドを用いた治療を継続する。後ろ向き研究で、コルチコステロイドの長期連日投与治療により、脊柱側彎の進行が低減できているとみられるようなデータが出てはいるものの、一方で、脊椎や下肢の骨折リスク上昇も指摘されている[Kingら2007]。ステロイド治療を受けている罹患者は、脊椎の手術が必要になることが少なかったとの報告がみられる[Dooleyら2010b]。投与量は、プレドニゾンやデフラザコートで0.3-0.6mg/kg/dayにまで漸減させても、有効性は維持されるという[Bushbyら2010a]。

BMDで行われるコルチコステロイド療法
BMD罹患者の治療に用いるプレドニゾンの有効性に関する情報は限定的であるが、この治療は、BMD罹患者の筋力低下の治療用としても用いうるものと考えられる。

DMDにおけるジストロフィン復元療法

DMDで用いられるエクソンスキッピング療法というのは、ジストロフィンのpre-mRNAを標的とした合成アンチセンスオリゴヌクレオチド(ASO)を用いて読み枠を復元し、アウトオブフレームのバリアントをスキップさせようというものである[Datta&Ghosh2020]。
DMDの病的バリアントの約70%はエクソン45とエクソン55の間に位置している。

エクソン51のバリアントについては、エクソン51のスキッピングを行うことで読み枠を復元することができ、この手法はDMD罹患者の約13%に応用可能である[Aartsma-Rusら2009]。エクソン51のスキッピング療法に関する最初の臨床試験は、drisapersen、eteplirsenという2つの化合物を用いて行われた[Mendellら2013,Goemansら2018]。Eteplirsenは、DMD罹患者12人の臨床試験で、条件を一致させた過去の例をコントロールとして比較したとき、ジストロフィン陽性筋線維が23%増加したこと、ウェスタンブロッティングでのジストロフィン量が増加(0.08%から0.93%)したこと、6分間歩行距離(6MWD)試験での低下量に151mの違いがみられたことに基づいて、2016年にアメリカ食品医薬品局(FDA)の条件付早期承認を得た[Mendellら2013]。Eteplirsenは、DMDに関する代替アウトカム指標の形でジストロフィン量を定量することでFDAの承認を得るに至った最初の薬剤である。

Golodirsenは、エクソン53のスキッピングが適応となる例向けのASOで、2019年12月にFDAの承認を得ている。これが適応となるのはDMD罹患者の約10%である。Viltolarsenも、同じくエクソン53のスキッピング用ASOであるが、こちらは2020年8月に承認を得ている[Clemensら2020]。

エクソン52の欠失を有する例(DMD罹患者の2%近くを占める)については、エクソン51とエクソン53のいずれかのスキッピングが適応となる[Datta&Ghosh2020]。

Casimersenは、エクソン45のスキッピングが適応となる例向けのASOで、2021年2月にFDAの承認を得ている。
表5は、ジストロフィン復元療法を、作用メカニズムごとに比較対照したものである。
(注:ここに挙げたもののうちのいくつかは、まだ開発段階である)。

表5:ジストロフィン復元療法

治療法 作用メカニズム 利点 欠点
アンチセンスオリゴヌクレオチド(現時点でFDA承認済の治療):
  • Eteplirsen(エクソン51のスキッピングが適応)
  • Golodirsen(エクソン53のスキッピングが適応)
  • Viltolarsen(エクソン53のスキッピングが適応)
  • Casimersen(エクソン45のスキッピングが適応)
欠失に際してのエクソンスキッピングによる読み枠の復元 現時点で承認済の治療法は、DMD罹患者の30%近くが適応となる。
忍容性が高く、安全特性にも優れる。
毎週の静脈内投与を要する。
適応がバリアント特異的である。
Ataluren(欧州薬品局の承認を得ているが、FDAは未承認) ナンセンスバリアントに際しての終止コドン読み飛ばし 経口投与が可能で、忍容性、安全特性にも優れる。 適応がバリアント特異的である。
遺伝子導入療法(現在、臨床試験中) マイクロジストロフィン遺伝子をアデノ随伴ウイルスベクターに導入することで、導入遺伝子の発現レベルを高め、機能を有すると考えられるマイクロジストロフィンの十分量の産生を促す。 適応はバリアント特異的ではなく、1回の静脈内投与で済む。 全長型ジストロフィンが復元されるわけではない。
治療効果の永続性。
安全性への懸念(宿主ゲノムへの組込みの可能性、ならびに変異誘発リスク)。
CRISPR/Cas9を利用した遺伝子編集(前臨床試験の段階) 遺伝子の問題を改善する目的で部位特異的ヌクレアーゼを使用。 適応はバリアント非特異的。 標的外への影響に基づく安全性と忍容性に関する懸念。

DMD関連拡張型心筋症(DCM)表現型

拡張型心筋症の管理は、DMDあるいはBMDに伴って生じる心筋症の管理と同様に行う。

二次的合併症の予防

心肺

栄養
以下の場合に栄養評価を行う。

骨の健康

評価[Bushbyら2010b,Darras2018]

治療

定期的追跡評価

心臓

アメリカ小児科学会(AAP)が、ジストロフィン異常症罹患者の理想的心臓管理に向けた推奨[AmericanAcademyofPediatricsSectiononCardiologyandCardiacSurgery2005](全文はこちら)、ならびに、コンセンサスを得たガイドライン[Bushbyら2010b]を公表している。

DMD

BMD
診断時点から始め、少なくとも2年に1度は詳細な心評価を行う。評価は、最低限2年に1度の頻度で継続する必要がある。

DMD関連DCM
DMD関連DCM罹患者の理想的心臓ケアに関するコンセンサスを得たガイドラインは存在しない。それでも、DCMの診断が下りた罹患者については、経験豊富な心臓専門医の指示した間隔で、詳細な心評価を行っていく必要がある。

無症状の女性
DMDの病的バリアントをヘテロで有する無症状の女性の理想的心臓ケアに関するAAPの勧告[AmericanAcademyofPediatricsSectiononCardiologyandCardiacSurgery2005]には、以下のような内容が含まれている。

車椅子に拘束されるようになる前に、ベースラインとしての肺機能検査を施行する(通常は9-10歳近く)。
次のいずれか1つにでも該当する場合は、それ以降、小児呼吸器内科医による年に2度の評価が必要である[Finderら2004]。

2010年のコンセンサスガイドライン[Bushbyら2010b]では、肺のケアに関し、以下のような詳細な推奨がなされている。

整形外科

整形外科的合併症、特にDMD罹患者とBMD罹患者にみられる拘縮と脊柱側彎に関するモニタリングを行う。
必要に応じ、外科的介入に向けた評価を行う。

避けるべき薬剤/環境

ジストロフィン異常症罹患者には、ボツリヌストキシンの注射を避ける。
悪性高熱症あるいは悪性高熱症様反応(横紋筋融解症,心臓の合併症,高カリウム血症)をきたしやすいため、ジストロフィン異常症罹患者については、サクシニルコリンと吸入麻酔薬といった、これを誘発しやすい薬剤を避けるようにとの推奨がなされている。一方、注目すべき報告として、広範な文献調査を行ったところ、一般集団よりジストロフィン異常症罹患者のほうが悪性高熱症に関し特段高リスクというわけではなかったとするものもみられる[Gurnaneyら2009]。それでも、DMD罹患者で、真性の悪性高熱症の基準は満たさないものの、麻酔により重篤な反応(悪性高熱症類似の反応)がみられたとする報告が実際に存在する[Bamagaら2016]。

リスクを有する血縁者の評価

心臓のチェック(「定期的追跡評価」の項を参照)を受けることで利益が得られる可能性があるヘテロ接合の女性を可能な限り早期に特定することを目的として、リスクを有する女性血族(すなわち、男性罹患者の女性の同胞や母方の女性血縁者、ならびに、ヘテロ接合であることがわかっているか、その可能性がある女性の第1度近親)については、評価を行うことが望ましい。
評価には、以下のような内容が含まれる。

保因者の女性で血清CK濃度が異常なしといった場合もありうるものの、仮に上昇がみられたということであれば、それは、その女性血縁者がヘテロ接合を有しているということを示すものとなる。

(1)発端者の有するDMDの病的バリアントが未知である。
(2)保因者の女性にDMDの病的バリアントや血清CKの上昇が確認されていない。
(3)家系内に、DMD/BMD/DMD関連DCMであることが明白な男性罹患者が1人以上存在する。

注:(1)DMDはサイズが大きいため、組換えが生じるリスクがかなり大きい。遺伝子それ自体は12cMの距離と推定されている[Abbsら1990]ため、1家系内のメンバー間で別々の組換えイベントが起こっている場合、連鎖解析の結果の解釈は複雑なものとなる。
(2)家系内に1人の男性罹患者以外のメンバーがいない場合は、連鎖解析の検査は行えない。
(3)連鎖解析の検査は、臨床的に広く利用可能というものになっていない場合がある。
リスクを有する血族に対して行う遺伝カウンセリングを目的とした検査関連の事項については、「遺伝カウンセリング」の項を参照されたい。

ヘテロ接合女性の妊娠管理

何らかの症候を有するヘテロ接合女性は、理想を言うと、妊娠前あるいは妊娠判明後できるだけ早く、拡張型心筋症に関する評価を受けるようにすべきである。無症候のヘテロ接合女性についても、妊娠前あるいは妊娠が判明した時点で、心評価を受けることを検討する必要がある。拡張型心筋症を示すデータがみられる人は、心臓病専門医とハイリスク産科医による治療ないし監視を受けるべきである。

研究段階の治療

表5を併せて参照されたい。

遺伝子治療

遺伝子治療の臨床研究は、現在、機能を有するジストロフィン導入遺伝子(マイクロジストロフィン遺伝子もしくはミニジストロフィン遺伝子)[Mendellら2010,Koniecznyら2013,Bengtssonら2016]、あるいは遺伝子編集のコンポーネント[Calos2016,Longら2016,Nelsonら2016,Tabebordbarら2016]を作り出す組換えアデノ随伴ウイルスベクターを投与することで、ジストロフィンの発現を回復させることに焦点が当てられている。

遺伝子修復

mdxマウスにおいて、CRISPR(clusteredregularlyinterspacedshortpalindromicrepeats)関連タンパク質9(CRISPR/Cas9)を介したゲノム編集によって、変異の生じた配列を含むエクソン23の近傍にある非コードイントロンを切断することで、心筋ならびに骨格筋でジストロフィンタンパク質の発現が一部回復されることが明らかになっている[Longら2016,Nelsonら2016,Tabebordbarら2016]。

アタルレン

DMD罹患者の10%-15%は病的ナンセンス(終止コドンを生じる)バリアントを有しているが、現在、研究段階にある薬剤アタルレンは、リボソームでの読み飛ばしを促進することで、この病的バリアントをバイパスして翻訳プロセスを継続し、機能を有するタンパク質の産生につなげるといった形で、これに対応できる可能性をもつものである[Finkel2010]。
臨床試験の前段階の有効性検討試験では、ヒトならびにmdxマウスの初代培養筋細胞内でのジストロフィン産生が明らかになっている[Welchら2007]。ヒトを対象とした研究で、invitroとinvivoの両方で全長ジストロフィンの発現レベルの上昇と、28日の治療期間内での血清筋酵素レベルの低下が明らかになっている[Bönnemannら2007]。アタルレンを低用量で投与された罹患者は、高用量で投与された例やプラセボ投与例に比べ、6分間歩行試験での歩行距離低下量が30m少なかった[Bushbyら2014]。こうした結果を受けて、2014年8月、ナンセンスバリアントに起因するDMDの治療薬として、TranslarnaTM(訳注:アタルレンの商品名)がヨーロッパ医薬品局の条件付承認を得た。TranslarnaTMは、アメリカではDMDの治療薬としての承認を受けるに至っていない。
48週間の多施設第Ⅲ相二重盲検対照試験(ACTDMD)では、一次目標(すなわち、6分間歩行試験におけるベースラインの記録からの変化)に関するアタルレンの有意な効果は認められなかったものの、二次目標の一部で効果が認められている[McDonaldら2017]。

ミオスタチンの不活化

ミオスタチンは、筋の成長に抑制的効果をもつタンパク質である。これが失われることで、通常であればDMDの表現型を示すはずのマウスが、野生型ミオスタチン遺伝子をもつマウスよりも筋肉量が増した状態になる[Wagnerら2002]。ミオスタチン抗体で処置したマウスは、筋肉量と筋力が増し、血清クレアチンキナーゼが低下し、組織学的には筋ダメージの減少を示す[Bogdanovichら2002]。こうしたことからミオスタチンは、ヒトのDMDにおいて、筋肉量と筋力の増強を図るための治療目標となりうる可能性を有している[McNally2004]。
Wagnerら[2008]は、ミオスタチンの中和抗体MYO-029の安全性試験を目的として、116人の被験者を用いて、二重盲検プラセボ対照多国ランダム化試験を行っている。Campbellら[2017]は、6分間歩行試験で、プラセボ群が低下を示したのに対し、ミオスタチンならびに関連リガンドと結合する融合タンパク質であるACE-031では維持傾向がみられた(統計的に有意なものではない)こと、ならびに、除脂肪体重と骨密度の増加傾向、脂肪量の減少傾向がみられたことを報告しているが、その研究は、筋肉以外の関連した悪影響により、中止されている。

細胞療法

DMDの治療では、骨格筋前駆細胞の研究が続けられている。マウスで行われている有望な技術として、筋の衛星細胞の単離と移植がある。衛星細胞は、筋再生に向けた天然の細胞源である[Blau2008,Cerlettiら2008]。

イデベノン

抗酸化物質であるイデベノンのランダム化比較試験で、ピーク呼気流量をはじめとする肺機能検査で測定したときの呼吸機能低下の有意の抑制が明らかになっている[Buyseら2015]。DMD罹患者64人(10歳―18歳)のほぼ全例が、治療開始時点で自力歩行不能であった。イデベノンの治療により、補助換気に至るまでの期間、あるいは死亡に至るまでの期間といったアウトカムが改善されるかどうかについては、さらなる研究が必要である。
さまざまな疾患・状況に対して進行中の臨床試験に関する情報については、アメリカの「ClinicalTrials.gov」、ならびにヨーロッパの「EUClinicalTrialsRegister」を参照されたい。


遺伝カウンセリング

「遺伝カウンセリングは個人や家族に対して遺伝性疾患の本質,遺伝,健康上の影響などの情報を提供し,彼らが医療上あるいは個人的な決断を下すのを援助するプロセスである.以下の項目では遺伝的なリスク評価や家族の遺伝学的状況を明らかにするための家族歴の評価,遺伝学的検査について論じる.この項は個々の当事者が直面しうる個人的あるいは文化的、倫理的な問題に言及しようと意図するものではないし,遺伝専門家へのコンサルトの代用となるものでもない.」

遺伝形式

ジストロフィン異常症は、X連鎖性の遺伝形式をとる。

家族構成員のリスク

発端者の両親

Duchenne型筋ジストロフィー(DMD)の男性がおり、他にDMDの家族歴がないといった場合は、母親の約3分の2がヘテロ接合者である。

ヘテロ接合の女性は、心臓の追跡評価を進める必要から、特定しておく必要がある(「定期的追跡評価」の項を参照)。

女性発端者の場合は、DMDの病的バリアントを母親から継承した可能性、父親から継承した可能性、denovoの病的バリアントが生じた可能性が考えられる。そのため、母親に対する分子遺伝学的検査(場合によっては、母親に続いて父親の検査も)が推奨される。

発端者の同胞 

発端者が女性の場合、同胞の有するリスクは、母親だけでなく父親の遺伝学的状態も係わってくることになる。

女性の発端者の子

他の家族構成員

発端者の母方の祖母、母方の伯母(叔母)、ならびにその子孫は、ヘテロ接合者であること、あるいは罹患者であることに関し、リスクを有する(これは、それぞれの人の性別、家系内での関係性、発端者の母親が保因者であるか否かによって変わってくる)。

ヘテロ接合者の特定

リスクを有する女性に対しては、保因者検査を行うことが可能である。「臨床的マネジメント」の「リスクを有する血縁者の評価」の項を参照されたい。
DMDの病的バリアントをヘテロで有することが確認された女性に対しては、DMD関連拡張型心筋症のリスクに関する情報提供、ならびに定期的追跡評価の推奨を行う必要がある。

関連する遺伝カウンセリング上の諸事項

早期診断、早期治療を目的として、リスクを有する血族に対して行う評価関連の情報については、「臨床的マネジメント」の「リスクを有する血縁者の評価」の項を参照されたい。
時として、同一家系内にBMDとDMD関連拡張型心筋症の両方が現れる場合がある[Palmucciら2000]。したがって、家族歴の調査ならびに遺伝カウンセリングの際は、考えうる筋肉疾患のすべてのスペクトラムを頭に入れておく必要がある。

家族計画

DNAバンキング

検査の手法や、遺伝子・病原メカニズム・疾患等に対するわれわれの理解が、将来はより進歩していくことが予想される。そのため、分子診断の確定していない(すなわち、原因としての病的メカニズムが未解明の)発端者のDNAについては、保存しておくことを考慮すべきである。

出生前検査ならびに着床前遺伝学的検査

分子遺伝学的検査

家系内に存在するDMDの病的バリアントが同定されている場合は、出生前検査ならびに着床前遺伝学的検査を行うことが可能である。

胎児筋生検

DMDの病的バリアントが同定されていないDMD家系におけるDMDの出生前診断に、子宮内胎児筋生検が用いられた例が存在する[Ladwigら2002]。
DMDにおける分子診断の歴史、ならびに染色体マイクロアレイ(CMA)解析や非侵襲的出生前診断などの新しい手法が与えた影響に関しては、論文の形でのさまざまなレビューが存在する[Raymondら2010,Xuら2015,Parksら2016]。


関連情報

GeneReviewsスタッフは、この疾患を持つ患者および家族に役立つ以下の疾患特異的な支援団体/上部支援団体/登録を選択した。GeneReviewsは、他の組織によって提供される情報には責任をもたない。選択基準における情報についてはここをクリック。


分子遺伝学

分子遺伝学とOMIMの表の情報はGeneReviewsの他の場所の情報とは異なるかもしれない。表は、より最新の情報を含むことがある。

表A:ジストロフィン異常症:遺伝子とデータベース

遺伝子 染色体上の座位 タンパク質 Locus-Specificデータベース HGMD ClinVar
DMD Xp21.2-p21.1 ジストロフィン DMDhomepage-LeidenMuscularDystrophypages DMD DMD

データは、以下の標準資料から作成したものである。遺伝子についてはHGNCから、染色体上の座位についてはOMIMから、タンパク質についてはUniProtから。リンクが張られているデータベース(Locus-Specific,HGMD,ClinVar)の説明についてはこちらをクリック。

表B:ジストロフィン異常症関連のOMIMエントリー(内容の閲覧はOMIMへ)

300376 MUSCULAR DYSTROPHY, BECKER TYPE; BMD
300377 DYSTROPHIN; DMD
302045 CARDIOMYOPATHY, DILATED, 3B; CMD3B
310200 MUSCULAR DYSTROPHY, DUCHENNE TYPE; DMD

遺伝子構造

DMDは2.2Mbの範囲のDNAにまたがり、79のエクソンから成る。プロモーターは、少なくとも4つ存在する。遺伝子とタンパク質に関する情報の詳細は、表Aの「遺伝子」の欄を参照のこと。

良性のバリアント

夥しい数の遺伝子内バリアントが報告されており、これらの多くが遺伝学的連鎖解析の形で臨床的に利用されている。

病的バリアント

DMD、BMDの罹患者においては、5,000を超える病的バリアントが同定されている[Aartsma-Rusら2006,Flaniganら2009,Tuffery-Giraudら2009]。疾患を引き起こすアレルには、遺伝子全体の欠失、1つあるいはそれ以上のエクソンの欠失や重複、小欠失/重複、1塩基の変化など、きわめて多様である。部分欠失/重複は、DMDの場合もBMD場合も、2つの組換えホットスポットに集中している。そのうちの1つは遺伝子の5’末端のエクソン2-20(30%)、もう1つはより遠位のエクソン44-53(70%)である[DenDunnenら1989]。重複は遺伝子の5’末端近くに集中し、最もありふれた単一の重複はエクソン2の重複であることが確認されている[Whiteら2006]。
なお、このセクションで示した病的バリアントの種類ごとの出現頻度は、DMDやBMDの罹患者に関する数字である。DMDの病的バリアントが同定可能なDMD関連拡張型心筋症罹患者については、数字を推定するに十分なデータが不足している現状である。

1つあるいはそれ以上のエクソンの欠失

1つあるいはそれ以上のエクソンの欠失は、インフレームあるいはアウトオブフレームの転写産物を産生することにつながり、DMD、BMD罹患者の病的バリアント全体の約60%-70%を占めている[Yanら2004,Dentら2005,Prior&Bridgeman2005,Takeshimaら2010]。

重複

重複は、インフレームあるいはアウトオブフレームの転写産物を産生することにつながり、DMD、BMD罹患者の病的バリアント全体の約5%-10%を占めている[Whiteら2002,Whiteら2006,Flaniganら2009,Takeshimaら2010]。重複は、BMDのほうにわずかに多くみられる。試料数の少ない1研究で、BMD男性75人中14人(19%)に重複がみられたとするものがみられる[Kesariら2008]ものの、MLPAをはじめとするより新しい手法で分析を行った研究の多くが、BMDでは10%を超えることがなかったとしている[Takeshimaら2010]。

1塩基バリアント(SNV),小欠失/挿入,1塩基の変化,スプライス部位の変化

1塩基バリアント,小欠失/挿入,1塩基の変化,スプライス部位の変化は、DMD男性における病的バリアントの約25%-35%、BMD男性の約10%-20%を占める[Bennettら2001,Mendellら2001,Dolinskyら2002,Flaniganら2003,Hofstraら2004,Takeshimaら2010]。

正常遺伝子産物

ジストロフィンは、筋細胞と一部の神経細胞に存在する膜結合タンパク質である。そのN末端ドメインはアクチンと結合する。大きなロッドドメインには、αヘリックス構造を形成する24の相同リピート、C末端近くのシステインリッチのカルシウム結合領域、ならびに、他の膜タンパク質と結合するC末端ドメインがある。すなわち、ジストロフィンとは、細胞外マトリックス中のタンパク質と順次結合していく膜タンパク質と細胞骨格との間をつなぐ役割を果たすタンパク質複合体の一部分であると言うことができる。

異常遺伝子産物

DMDについては、ジストロフィンの発現が生じなくなるような病的バリアントが関与する傾向にあり、一方、BMDについては、ジストロフィンの質や量の異常が関与する。DMD関連DCMについては、心筋内においては機能的ジストロフィンが欠損するものの、骨格筋では正常、あるいは軽度の異常にとどまるようである[Ferliniら1999,Neriら2007]。その理由は、DMD関連DCMは、組織特異的転写あるいは選択的スプライシングに対する反応が心筋と骨格筋とで異なるDMDの特殊なタイプの病的バリアントに起因して生じる疾患だからである。


更新履歴:

  1. 日本語訳者:中村昭則(国立精神・神経センター)
    Gene Review 最終更新日: 2005.8.25. 日本語訳最終更新日: 2007.7.2.
  2. Gene Review著者:Basil T Darass, MD; Bruce R Korf, MD, PhD;David K Urion, MD
    日本語訳者: 中村昭則(信州大学医学部脳神経内科)
    Gene Review 最終更新日: 2008.3.21. 日本語訳最終更新日: 2009.12.13.
  3. Gene Reviews著者: BasilTDarras,MD,DavidKUrion,MD,andParthaSGhosh,MD.
    日本語訳者:佐藤康守(たい矯正歯科)、隅田健太郎(札幌医科大学附属病院遺伝子診療科)
    GeneReviews最終更新日: 2022.1.20.  日本語訳最終更新日:  2023.8.12.[in present]

原文 Dystrophinopathie

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