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拡張型心筋症概説
(Dilated Cardiomyopathy Overview)

Gene Review著者: Ray E Hershberger, MD,Ana Morales, MS, CGC
日本語訳者: 窪田美穂(ボランティア翻訳者),櫻井晃洋(札幌医科大学医学部遺伝医学)  
Gene Review 最終更新日: : 2013.5.9. 日本語訳最終更新日: 2013.9.25

原文 Dilated Cardiomyopathy Overviewngelman Syndrome


要約

疾患の特徴 

非症候性で特発性の拡張型心筋症の特徴は,左室拡大と収縮機能障害,すなわち心筋の収縮力低下である. 拡張型心筋症は通常,以下の症状のいずれかを伴って現れる.

  • うっ血(浮腫,起坐呼吸,発作性呼吸困難)や心拍出量の低下(易疲労性,労作性呼吸困難)の症状を伴う心不全
  • 不整脈や伝導障害
  • 脳卒中を含む(左室壁在血栓由来の)血栓塞栓症

診断・検査 

遺伝性の拡張型心筋症は,他の確認可能な要因によるものと区別しなければならない.確認できるすべての非遺伝的要因を除外しても残る拡張型心筋症は,これまで特発性拡張型心筋症と言われてきた.特発性拡張型心筋症の正式な診断基準を満たす近親が2人以上いる場合,家族性拡張型心筋症の診断が確定する.遺伝性拡張型心筋症は,家族歴と臨床検査機関で行われる分子遺伝学的検査に基づいて診断される.

遺伝カウンセリング 

遺伝性拡張型心筋症の遺伝形式は,常染色体優性,常染色体劣性,X連鎖性である.母系遺伝のミトコンドリア遺伝も報告されているが,ミトコンドリア遺伝による拡張型心筋症は,表現型に大きなばらつきがあるとはいえ(軽度の成人発症型など),症候性であることが多いため,本項では扱わない.遺伝カウンセリングやリスク評価は,患者の拡張型心筋症のサブタイプに基づいて行われる.

臨床的マネジメント 

症状の治療症候性/無症候性の拡張型心筋症は,この疾患の診断と管理に熟達した医師の治療により,寿命と生活の質が改善する.治療方法は,薬物治療,ペースメーカー,植込み型除細動器などである.薬物療法や医療機器でも奏効しない進行性拡張型心筋症や重症心不全には,現在でも心臓移植が最終的な治療法である.

経過観察心血管系のスクリーニング検査(身体的診察,心エコー,心電図)は,(1)小児を含めた既知の病原性変異をもつ無症状者には,特に家系内に早期発症者がいる場合は,1〜3年に1回,(2)まだ検査を行ったことのない患者や,病原性変異が同定されていない特発性の拡張型心筋症の患者が1度近親にいる成人や小児には,3〜5年に1回実施するとよい.

妊娠期の管理拡張型心筋症の女性の妊娠は禁忌である場合がほとんどである.特発性/家族性の拡張型心筋症の女性が妊娠した場合は,ハイリスク妊娠外来の診察を受けること.特発性拡張型心筋症の家族歴があるが無症状の女性には,周産期心筋症(PPCM)や妊娠関連の心筋症のリスクがあるため,拡張型心筋症の検査に関するガイドラインに沿った管理が必要となる.

定義

拡張型心筋症の臨床症状

拡張型心筋症は何年もの間,無症状であることがある.通常,症状が現れるのは,かなり疾患経過が進んだ段階であり,以下のいずれかの症状を伴う.

  • 心不全.うっ血症状(浮腫,起坐呼吸,発作性呼吸困難)や心拍出量低下を示す症状(疲労,労作性呼吸困難)
  • 不整脈や伝導障害.これらは進行した心筋症や心不全に随伴することが多いが,LMNA変異を有する患者では心不全が進行することもある.
  • 血栓塞栓症.左室壁在血栓に続発して,脳卒中や全身性塞栓が生じることがある.
拡張型心筋症の発症は30歳代から50歳にかけての成人期が多いが,胎児期,乳児期,幼少期,青年期,高齢期に発症することもある.このほかにも詳細な背景情報が入手可能である[Burkett & Hershberger 2005,Sivasankaran et al 2005, Judge 2009, Dellefave & McNally 2010, Hershberger et al 2010a, Hershberger & Siegfried 2011].

拡張型心筋症の確定診断

拡張型心筋症の診断は,以下のいずれもが存在する場合に確定する.

  • 左室拡大は,二次元心エコー検査でみつかる場合がほとんどであるが,身長と性別を考慮して最適な評価を行うこと[Vasan et al 1997].
  • 収縮機能障害(心筋収縮力の低下)
    • 左室駆出力が50%未満になると,収縮機能障害とみなされる.左室駆出率は,収縮機能障害の臨床的測定に最も多く用いられており,通常,二次元心エコーで評価されるが,その他の非侵襲的検査(心臓核/磁気共鳴画像検査など)や左室血管造影によっても評価される.
    • 左室内径短縮率も,収縮機能の臨床的測定に用いられる.左室内径短縮率が25%未満になると,収縮機能障害とみなされる.

特発性拡張型心筋症の確定診断

特発性拡張型心筋症は臨床診断である.これまでは確認できるすべての(非遺伝的)病因を除外した後の拡張型心筋症が,特発性拡張型心筋症(IDC)とされてきた.特発性拡張型心筋症という用語は,拡張型心筋症に遺伝性のタイプがあるとわかる前から用いられているため,特発性拡張型心筋症と診断されても,遺伝性と非遺伝性のものを区別できない.このため,「特発性拡張型心筋症」の患者の一部分に遺伝性の拡張型心筋症が含まれることに留意することが重要である.

最も多い拡張型心筋症の病因(この場合の拡張型心筋症とは,一般に,病因を問わず,左室の形態と機能の状態を指す)は,冠動脈疾患や心筋梗塞の既往などに起因する虚血傷害である.

虚血傷害の次に多い拡張型心筋症の原因は,心臓弁膜障害や先天性心疾患,毒素(アントラサイクリン系薬剤など),甲状腺疾患,炎症状態,心筋炎,長期にわたる重度の高血圧,放射線療法などである.これらのほとんどは,慎重な病歴聴取,標的を絞った身体的診察,臨床検査結果,心エコーによって検出可能であるが,適応があれば,冠動脈性心疾患を除外するため,冠動脈造影も行うこともある.

家族性拡張型心筋症の確定診断

血縁者のなかで2人以上,特発性拡張型心筋症の正式な診断基準を満たす場合(すなわち,確認できるすべての非遺伝的拡張型心筋症の原因が除外された場合),家族性拡張型心筋症の診断が確定する[Burkett & Hershberger 2005].

家族性拡張型心筋症はほとんどが成人発症であるが,発症年齢と浸透率の低下には広いばらつきある.これらの問題について,包括的なレビューが行われている[Burkett & Hershberger 2005, Sivasankaran et al 2005, Judge 2009, Dellefave & McNally 2010,Hershberger et al 2010a, Hershberger & Siegfried 2011].

周産期/妊娠関連心筋症(PPCM/PACM).これまで,周産期心筋症や妊娠関連心筋症(妊娠中,もしくは妊娠直後に起こる拡張型心筋症)は,拡張型心筋症と異なる疾患であるとみなされていたが,現在は拡張型心筋症の臨床スペクトラムに含まれている.このため,下記に概要を述べる拡張型心筋症の臨床検査と遺伝学的検査は,周産期/妊娠関連の心筋症にも適応される[Elkayam et al 2005, Morales et al 2010, van Spaendonck-Zwarts et al 2010].

拡張型心筋症の鑑別診断

孤発性拡張型心筋症は,顕著な左室機能障害を伴う不整脈原性右室心筋症など,左室機能障害を呈する他の心筋症と区別しなければならない[Sen-Chowdhry et al 2008].

また,拡張型心筋症は,症候性の症例とも区別しなければならない.鑑別を要する疾患リストが報告されている[Hershberger et al 2009a].注意すべき点は,症候性の心筋症患者も拡張型心筋症を発症することである.このような患者の管理では心血管モニタリングを行うべきである(臨床的マネジメント,経過観察を参照).

  • HFE遺伝子関連の遺伝性ヘモクロマトーシス.両アレルのHFE変異から生じる遺伝性ヘモクロマトーシスは,肝硬変,糖尿病,メラニンの過剰沈着,血清鉄と血清フェリチン増加を呈する常染色体劣性遺伝性疾患である.ヘモクロマトーシスに起因する鉄過剰で拡張型心筋症が生じることもあるが,ヘモクロマトーシスでは非拡張型や浸潤性の心筋症の発症が多い.
  • エメリ・ドレフュス型筋ジストロフィー2型・3型の特徴は,関節拘縮,血清クレアチンキナーゼ(CK)増加,不整脈,小児期発症の筋力低下である.LMNA遺伝子変異が常染色体劣性型や常染色体優性型での発症の原因となることがわかっている.
  • 肢帯型筋ジストロフィー(LGMD)の臨床的スペクトラムに含まれる肢体型筋ジストロフィー1B型の原因も,LMNA遺伝子変異である.肢帯型筋ジストロフィー1B型は常染色体優性であり,軽度の関節拘縮,クレアチンキナーゼ(CK)増加,不整脈,肩/腰帯の脱力を伴う.
  • Laing型遠位型ミオパチーでは,主に顔面脱力,足首,母趾,指の伸筋,首の屈筋,小児期発症の脱力が生じる.この疾患の遺伝形式は常染色体優性であり,MYH7遺伝子変異のヘテロ接合により発症する.
  • Carvajal症候群は常染色体劣性遺伝性疾患であり,掌蹠角化症と縮れ毛を伴う拡張型心筋症を呈する.DSP遺伝子変異が原因である.
  • デュシェンヌ・ベッカー型筋ジストロフィーはX連鎖性疾患であり,DMD遺伝子変異により発症する.男性に最も多い症状は筋力低下と血清クレアチンキナーゼ(CK)増加であり,歩行機能は小児期,もしくは後年に失われる.ヘテロ接合体(保因者)の女性に孤発性の拡張型心筋症が生じることがある.
  • バース(Barth)症候群では,成長遅延,乳酸アシドーシス,好中球減少症,3-メチルグルタコン酸値の上昇が生じる.X連鎖性遺伝子であるTAZ遺伝子のヘミ接合変異によって発症する.
  • ミトコンドリア拡張型心筋症.母系遺伝であるミトコンドリアDNAの変異は,とりわけ巣状分節性糸球体硬化症やケアーンズ・セイヤー症候群など,さまざまな複雑な表現型を生じさせることが示されている.

拡張型心筋症の頻度

1975年から1984年にミネソタ州のオルムステッド郡で行われた研究は,特発性拡張型心筋症の頻度を公式に推定した唯一のものであり,ここで特発性拡張型心筋症の頻度は10万人中36.5人(2,700人中1人未満)と推定されている(1985年1月1日現在)[Codd et al 1989].この数値は,同じ調査期間に同一コホートで算出された10万人中19.7人(5,000人中に1人未満)という肥大型心筋症の頻度の2倍であった.

その後,複数の優れた研究デザインをもつ疫学的研究で,肥大型心筋症の頻度はおよそ500人中1人であることが示された.大多数の専門家は,特発性拡張型心筋症は肥大型心筋症よりも多いと考えており,オルムステッド郡での研究でも特発性拡張型心筋症の頻度はかなり過小評価されている可能性がある.しかし,このほかに正式な集団ベースの疫学的研究は行われていない.


原因

家族性拡張型心筋症

原因不明の特発性(非症候性)拡張型心筋症(心血管系の文献では,特発性拡張型心筋症としても知られている)には遺伝学的基盤がある.

遺伝的な因果関係の確立に向けての基盤を提供しているのが,多数の家族性拡張型心筋症を有する大家系である.家族性拡張型心筋症の40〜50%の原因は,30種類以上の遺伝子における変異であることがわかっている[Hershberger & Siegfried 2011](表1).孤発例(すなわち,家系内で唯一の特発性拡張型心筋症の発症)でも,病原性変異が集積することが示されている[Hershberger et al 2008, Hershberger et al 2010b].

拡張型心筋症の約20%はTTN遺伝子の短縮型変異に起因しており[Herman et al 2012],きまってアレル異質性を認める.多数の家系に共通する変異はごくわずかである.

EYA4遺伝子における4.8kbの欠失[Schonberger et al 2005],1人の家族性症例の発端者における大規模なLMNA遺伝子の欠失[Gupta et al 2010],1大家系におけるBAG3遺伝子のエクソン全体の欠失[Norton et al 2011a]など,拡張型心筋症におけるコピー数の変化の果たす役割を裏付けるエビデンスがいくつかの研究から得られている.58人の発端者にLMNA遺伝子のMLPA法によるスクリーニングを行ったが,コピー数多型を同定できなかった[Norton et al 2011b].大規模研究が行われていないため,特発性/家族性の拡張型心筋症における大規模ゲノム再構成の頻度は,依然として不明のままである.

拡張型心筋症の原因遺伝子変異が同定されているかどうかにかかわらず,特発性拡張型心筋症の発端者の1度近親に心エコーや心電図を行うと,約20〜35%の発端者が家族性であることがわかる[Michels et al 1992, Baig et al 1998, Grunig et al 1998].

表1:家族性拡張型心筋症の分子遺伝学

遺伝子記号

タンパク質

OMIM

当該遺伝子による家族性拡張型心筋症の割合(%)1

家族性拡張型心筋症に対して行われている分子遺伝学的検査

遺伝性疾患2

常染色体優性3

TTN 4

タイチン

188840

20%

臨床
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LGMD2J 5
致死性の心筋症を伴う若年発症ミオパチー

早期の呼吸筋障害を伴う近位筋のミオパチー

遅発性脛骨筋ジストロフィー

LMNA

ラミン-A/C

150330

6%

臨床
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部分的リポジストロフィー

CMT2B1

エメリ・ドレフュス型筋ジストロフィー

ハッチンソン・ギルフォード・プロジェリア症候群

非定型のウェルナー症候群

LMNA関連筋疾患

MYH7

ミオシン-7

160760

4.2%

臨床
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Laing型遠位型ミオパチー

FHC 6

MYH7関連ミオシン貯蔵ミオパチー

左心室の非圧縮

MYH7関連肩甲腓骨ミオパチー

MYH6

ミオシン-6

160710

3〜4%

臨床
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FHC

SCN5A

ナトリウム・チャネルタンパク質5型サブユニットα

600163

2〜4%

臨床
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QT延長症候群3型

ブルガダ症候群、特発性心室細動

洞不全症候群

心伝導障害

MYBPC3

ミオシン結合タンパク質C(心筋型)

600958

2〜4%

臨床
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FHC

TNNT2

心筋トロポニンT

191045

2.9%

臨床
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FHC
左心室の非圧縮

TNNT2関連家族性拘束性心筋症

BAG3

BAGファミリー分子シャペロン制御因子3

603883

2.5%

臨床
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進行性筋原線維性ミオパチー

ANKRD1

アンキリン反復ドメインを含むタンパク質1

609599

2.2%

臨床
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RBM20

おそらく,RNA結合タンパク質20

613171

1.9%

臨床
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TMPO

ラミナ関連ポリペプチド2

188380

1.1%

臨床
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LDB3

LIMドメイン結合タンパク質3

605906

1%

臨床
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ZASP異常症

筋原線維性ミオパチー

TCAP

テレソニン

604488

1%

臨床
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FHC
LGMD2G 5

VCL

ビンキュリン

193065

1%

臨床
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TPM1

トロポミオシンα-1鎖

191010

1〜1.9%未満

臨床
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FHC

TNNI3

心筋トロポニンI

191044

1.3%?

臨床
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FHC
拘束性心筋症

TNNC1

遅筋線維や心筋のトロポニンC

191040

1〜1.3%未満

臨床
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FHC

ACTC1

アクチン(心筋)α1

102540

1%未満

臨床
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FHC

ACTN2

アクチンα2

102573

1%未満

臨床
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FHC

CSRP3

システイン・グリシンリッチタンパク質3

600824

1%未満

臨床
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FHC

DES

デスミン

125660

1%未満

臨床
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デスミン異常症

筋原線維性ミオパチー

NEXN

ネキシリン

613121

1%未満

臨床
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FHC

PSEN1

プレセニリン-1

104311

1%未満

臨床
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若年発症アルツハイマー病

PSEN2

プレセニリン-2

600759

1%未満

臨床
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若年発症/遅発性アルツハイマー病

SGCD

δ-サルコグリカン

601411

1%未満

臨床
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δサルコグリカン異常症(LGMD2F) 5

EYA4

眼欠損ホモログ4

603550

?

臨床
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DFNA10 非症候性難聴(遺伝性難聴を参照)

PLN

心臓ホスホランバン

172405

?

臨床
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DSG2

デスモグレイン-2

125671

 

臨床
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X連鎖性

DMD

ジストロフィン

300377

?

臨床
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ジストロフィン異常症(デュシェンヌ型筋ジストロフィー、ベッカー型筋ジストロフィー)

TAZ

タファジン

300394

?

臨床
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バース症候群

2型心内膜線維弾性症

家族性孤発性の左心室心筋の非圧縮

遺伝形式ごとに,頻度の高いものから掲載.

検査の実施とは,GeneTests Laboratory Directory掲載施設での実施状況である.GeneReviewsは分子遺伝学的検査について,その検査が米国CLIAの承認を受けた研究機関もしくは米国以外の臨床研究機関によってGeneTests Laboratory Directoryに掲載されている場合に限り,臨床的に実施可能としている.GeneTestsは,研究機関から提出された情報の検証や,研究機関の承認状態もしくは実施結果の保証を行わない.情報を検証するためには,医師は直接それぞれの研究機関と連絡をとらなければならない.

  1. ここに掲げた割合(%)は(複数の特発性拡張型心筋症,もしくは家族性拡張型心筋症の発端者を対象とした複数のスクリーニング検査を基づいて算出されたものであり),予備的推定と解釈すること.
  2. 他の遺伝疾患(Allelic disorders)=同一遺伝子における変異により起こる他の表現型.
  3. (フクチンをコードする)FKTN遺伝子の変異は,孤発性拡張型心筋症との関連性が低いため,ここには含めない(福山型先天性筋ジストロフィーを参照).ある文献では,4家系の患者6人では,筋症状が軽度,もしくはまったく伴わなかったことが報告された.この6人のうち,孤発性拡張型心筋症は1人だけであったようだが,この患者には筋症状を有する同胞がいたが,この患者は筋生検を受けていなかった[Murakami et al 2006].その後,Arimura et al [2009]が拡張型心筋症患者172人に対してスクリーニングを行ったところ,軽度の筋症状を呈しているが,脳病変のないヘテロ接合体患者は1人であった.
  4. 拡張型心筋症におけるTTN遺伝子変異の役割は,対照群でも短縮型変異が3%同定されていることから結果の解釈が難しくなっており,完全に検証されているとはいえないことに留意すること.さらに,TTN遺伝子の短縮型変異のなかには,拡張型心筋症の全家系で分離が認められないものもあることがわかった[Norton et al 2013].TTN遺伝子のミスセンス変異は良性の場合もあるが,この種の異型について,正式な研究は行われていない.
  5. 「肢帯型筋ジストロフィー概説」を参照.
  6. FHC=家族性肥大型心筋症.

症候性拡張型心筋症

拡張型心筋症を伴う症候群は多いと報告されている.このような多くの症候群における遺伝原因は,表1に記載された遺伝的原因に限定されない(「鑑別診断」を参照のこと).上述の特徴が1つでも認められる場合,もしくは家族歴や身体的診察で心臓以外の疾患が疑われる場合,症候性疾患を除外するため,臨床遺伝専門医による評価を受けるとよい.

孤発例の拡張型心筋症

孤発例の特発性拡張型心筋症(すなわち,家系内で唯一の発症)のうち,遺伝性症例の頻度は正式に評価されておらず,ほとんどが不明のままである.しかし,最近の予備的報告では,家族性症例と,孤発例のようにみえる症例における遺伝的要因の頻度が同程度であることが示されている[Hershberger et al 2008, Hershberger et al 2010b].


家族性拡張型心筋症の発見・確定するための評価手順

拡張型心筋症(発端者での特発性拡張型心筋症の確定診断)の遺伝的評価に関するガイドラインが公表されている[Hershberger et al 2009b].

推奨される手順を以下に概略で記したが,このなかには家族歴,第1度近親者への心血管系の検査,分子遺伝学的検査などが含まれている.

この評価手順の目的は,家族性拡張型心筋症を発見して診断を確定し,適正なカウンセリングと検査を行うことである.拡張型心筋症の患者が何年もの間,無症状である場合,この手順はとりわけ重要であろう.

家族歴

家族性拡張型心筋症の可能性を評価する際には,3〜4世代にわたる詳細な家族歴(心不全,拡張型心筋症,心臓移植,原因不明の突然死,原因不明の心伝導障害や不整脈,原因不明の脳卒中,その他の血栓塞栓症など)を聴取すること.

近親の2人以上が特発性拡張型心筋症の厳密な診断基準を満たしている場合,家族性拡張型心筋症の診断が確定する.家族性拡張型心筋症と診断されたら,遺伝形式を判断するため,家族歴から得られた情報を評価する.

家族性疾患の寄与因子について,父系と母系の双方について考慮すること.家族性拡張型心筋症が父系と母系の双方にみられる家系が報告されており,これまでの経験では,見かけ上の家系の遺伝的パターンがどうであろうと,母系,もしくは父系の遺伝子変異が家族性拡張型心筋症を発症させたと仮定することの信頼性は低く,誤った結論に至るおそれがある[著者の個人的な観察].

拡張型心筋症の発端者の第1度近親者への評価

現在,特発性拡張型心筋症は全体の約20〜35%が家族性(すなわち,遺伝性)であるとされている.

家族性拡張型心筋症の確認,もしくは確定診断を目的として発端者に行う評価の1つとして,拡張型心筋症の診断を裏付ける心血管異常の有無を確認する心血管系への検査を血縁者に行うとよい.心血管系の検査では,段階的アプローチを用いること.まず,特発性拡張型心筋症の患者の第1度近親者に病歴聴取,身体的診察,心エコー,心電図などを行い,(無症候性の疾患を含め)罹患の有無を判断し,家族性拡張型心筋症の診断が裏付けられるかどうかを評価する[Hershberger et al 2009b].

拡張型心筋症の浸透度は年齢に依存しているため,リスクのある第1度近親者への心血管系の検査は,定期的に行うべきである(「臨床的マネジメント」,「経過観察」を参照).

注:このような家系調査で拡張型心筋症の徴候や症状を認めた場合,すぐに包括的な心血管系の検査を行うこと(「臨床的マネジメント」を参照).

分子遺伝学的検査

遺伝学的検査は,特発性拡張型心筋症,家族性拡張型心筋症,周産期心筋症(PPCM),もしくは妊娠関連拡張型心筋症(PACM)の患者に行われることがある.

家族性疾患の遺伝的基盤は文献では裏付けられているが,孤発例(家系での唯一の症例)での遺伝的因果関係の頻度は大部分が不明のままである.しかし,予備的なデータでは,家族性と孤発例での変異の頻度が近似していることが示されている[Hershberger et al 2010b].このため,孤発例の分子遺伝学的検査を検討すべきであるが,現時点では孤発例への分子遺伝学的検査は強く推奨できない.

単一遺伝子に対する検査.遺伝子型と臨床型の関連はほとんどわかっていないが,家族歴に伝導障害や,若年での予期せぬ突然死を認める場合には,LMNA遺伝子,SCN5A遺伝子,DES遺伝子への検査を検討すべきである[Hershberger et al 2009b, Ackerman et al 2011].

複数遺伝子のパネル検査.複数の遺伝子の分子遺伝学的検査が可能である.多数の遺伝子をまとめてプラットフォームで検査できるパネルが数10種類ある.家族性拡張型心筋症の40〜50%以上に遺伝的素因を認めることが研究報告から示されているため,複数の遺伝子の検査を行うことのできるパネルを用いた検査の検出率と同程度になることが予想される.

複数の遺伝子の検査を行うことのできるパネルを用いた遺伝学的検査をオーダーする医療従事者は,以下を考慮すべきである.

  • すべてのパネルに同じ遺伝子が含まれているわけではないため,臨床像と家族歴を注意深く検討して,パネルに含まれる遺伝子について調べること.例えば,すべての検査機関がミトコンドリア遺伝子の検査を行っているわけではないが,一般にミトコンドリア疾患は小児科での重要性が高い.
  • 拡張型心筋症に対する遺伝学的検査パネルは,常に刷新されていることに注意すること.すなわち,前回行った検査に含まれている遺伝子数が少なく,病原性変異が同定されなかった患者に,多数の遺伝子の検査を行うことのできるパネルを用いた再検査が指示されることがある.この点は,最近までTTN遺伝子変異(20%弱の症例で短縮型変異が報告されている)の検査が臨床検査で行われていなかったことからみても,特に重要である.
  • 遺伝性の拡張型心筋症にとって重要性がきわめて高いと考えられる短縮型変異は,対照群の3%にも同定されているため,結果の解釈が困難となっており,拡張型心筋症におけるTTN遺伝子の役割は,まだ十分には判明していないことに注意すること[Herman et al 2012].さらに,家族性拡張型心筋症において,TTN遺伝子の短縮型変異と疾患との連鎖を認めないとする報告では,TTN遺伝子の変異体が拡張型心筋症の原因であるかを評価する際の複雑性が述べられている[Norton et al 2013].TTN遺伝子のミスセンス変異はごく稀であり,ほとんどが良性であるが,この種の変異はまだ正式に研究されていない.

特に孤発例での遺伝学的検査の検査結果の解釈は,現時点では非常に困難であると思われる.

  • 症例を認める家系以外には存在しない変異が多く,定義上,孤発例では,他の血縁者の遺伝的状況を評価できない.このため,このほかの点については通常のカテゴリー2の変異体の基準[Richards et al 2008][米国臨床遺伝学会(ACMG)ガイドライン:「配列多様性はこれまで報告されておらず,疾患を発症させることが予測されるものである」]を満たすが,拡張型心筋症の発症機序における重要性が不明瞭な変異(意義不明の変異[VUS])も幾つか存在する可能性がある.分子遺伝学的診断検査の報告では,カテゴリー2の変異体をもつ特定遺伝子による拡張型心筋症の発症頻度にばらつきがあることとも関連して,こうした変異体の解釈は様々である.しかし,これまで同定され実証された病原性遺伝子が,孤発例で確認されることもある.
  • 発端者のなかには,病原性である可能性のあるまれな変異を複数もつ者もいることがわかっているため,遺伝子結果の解釈はますます複雑となる[Hershberger et al 2008, Hershberger et al 2010b, Li et al 2010].
遺伝学的検査をオーダーする医療従事者は,このようなことが起こることを認識しつつ,こうした場合には遺伝カウンセリングを提供しなくてはならない[Burkett & Hershberger 2005, Judge 2009, Caleshu et al 2010, Hershberger et al 2010a, Hershberger & Siegfried 2011].複雑性を考慮すると,心血管系の遺伝医療センターへの紹介も検討すべきである.このようなセンターの認定遺伝カウンセラーはこうした問題の包括的な扱いに精通しており,心血管系の遺伝学やゲノム医療を専門とする遺伝専門医や循環器専門医と協力して対応する.

遺伝カウンセリング

「遺伝カウンセリングは個人や家族に対して遺伝性疾患の本質,遺伝,健康上の影響などの情報を提供し,彼らが医療上あるいは個人的な決断を下すのを援助するプロセスである.以下の項目では遺伝的なリスク評価や家族の遺伝学的状況を明らかにするための家族歴の評価,遺伝子検査について論じる.この項は個々の当事者が直面しうる個人的あるいは文化的な問題に言及しようと意図するものではないし,遺伝専門家へのコンサルトの代用となるものでもない.」

遺伝形式

家族性拡張型心筋症の遺伝形式は,常染色体優性,常染色体劣性,X連鎖性である.家族性拡張型心筋症の大部分(約80〜90%)は常染色体優性である.X連鎖性や常染色体劣性は,それほど多くない.

常染色体劣性の遺伝形式の大多数は,近親婚の家系や若年発症型の患者であるが[Hanson & Hershberger 2001],常染色体優性の拡張型心筋症に関連していることの多い遺伝子の変異から生じることもある.

母系のミトコンドリア遺伝も報告されているが,これらのタイプは(臨床像がきわめて多様であり,軽度の成人発症型も含んでおり),症候性であることが多いため,本項では扱わない.

血縁者のリスク−常染色体優性の遺伝性拡張型心筋症

発端者の両親

  • 常染色体優性拡張型心筋症と診断された患者のなかには,拡張型心筋症に罹患した親を持つ者もいる.
  • 常染色体優性拡張型心筋症の発端者には,新生突然変異によって発症した可能性がある者もいる.新生突然変異症例の割合は不明である.
  • 一見,新生突然変異によって発症したかのようにみえる発端者の両親への評価は,「1度近親者への拡張型心筋症スクリーング検査」で述べた検査手順に従って行う.両親を評価することによって,心不全の臨床徴候はないが心エコー所見に拡張型心筋症が疑われる患者(すなわち,無症状のDCM患者)など,これまでの検査で診断がなされなかった患者や,症状がより軽症な患者への診断が可能となる場合がある.
  • 親のスクリーニングの結果が,拡張型心筋症の診断基準を満たさないが,やや異常である場合(例えば,心機能は正常であるが左室拡大がみられる場合や,左室サイズは正常であるが左室駆出率が低下している場合,心エコー所見は正常であるが心電図が異常である場合など),拡張型心筋症の初期徴候である可能性がある.
  • 発症年齢にばらつきがあるため,ベースライン時の心エコー所見や心電図所見が正常であっても,後に異常がみられることがある.このため,スクリーニング時の検査結果に異常がなくても,家族性拡張型心筋症や拡張型心筋症の発症リスクは除外できない.従って,スクリーニング時に両親の心血管系の検査結果が正常でも,3〜5年に1回,両親に再検査を行うとよい.
  • 発症率は不明であるが,両親のどちらにも拡張型心筋症を示す所見を認めることがある.この場合,発端者は両親双方の両親双方のアレルを受け継ぐこともあれば,片方のアレルを受け継ぐこともある.

    注:(1)常染色体優性の特発性拡張型心筋症や家族性拡張型心筋症と診断される患者には,親が罹患者である場合が多いが,家族歴がない場合がある.この理由として,家系内での疾患に気づかない場合,症状の発現以前に親が早期死亡した場合,罹患している親の症状発現が遅い場合が考えられる.(2)変異が最初に起こったのが親の場合,その親がその変異の体細胞モザイクである可能性があり,軽度に罹患している可能性があるが,このような報告はまだない.

発端者の同胞 

  • 同胞のリスクは,発端者の両親の遺伝的状態によって異なる.
  • 発端者の両親が罹患している場合,もしくは病原性変異があることがわかった場合,同胞に変異アレルを遺伝するリスクは50%である.しかし,表現型にばらつきがあり,浸透度が低下していることから,発症年齢や重症度を予測することはできない.
  • 発端者の両親がどちらも病原性遺伝子を有する場合,両親の浸透度に関わらず,同胞が両親どちらかの変異を受け継ぐ確率は50%,両親それぞれから変異を受け継ぐ確率は25%である.
  • 親に拡張型心筋症の徴候を認めない場合,発端者の同胞のリスクは一般集団よりは高いが,正確に推算することはできない.同胞に行うことが勧められる検査は,「1度近親者への拡張型心筋症スクリーング検査」に記載した検査手順で述べられている.
どちらの両親のDNAにも発端者に確認された病原性変異が同定できない場合,同胞のリスクは低いが,生殖細胞系列モザイクの可能性があるため,一般集団のリスクよりも高くなる.変異がわかっている場合,リスクの確定の一助となる遺伝子検査を同胞へ行うことができる.しかし,罹患していない同胞に検査の標的となっている病原性変異が存在しない場合には,2つ以上の病原性変異を有する家系も幾つかあるため,注意深く解釈するべきである.

発端者の子 常染色体優性の拡張型心筋症(DCM)患者の子が親の変異を受け継ぐ確率は50%である.しかし,表現形がさまざまであり,浸透度が低下しているため,発症年齢や重症度は予測できない.

血縁者のリスク−常染色体劣性の遺伝性拡張型心筋症

発端者の両親

  • 両親は絶対的ヘテロ接合体であるため,病原性変異を1つ有する.
  • ヘテロ接合体は発症しない.

発端者の同胞

  • 発端者の同胞が病原性変異を2つ受け継ぎ,発症リスクを有する確率は25%,病原性変異を1つ受け継ぎ,発症しない保因者となる確率は50%,病原性変異を受け継がず,罹患せず,保因者ともならない確率は25%である.
  • 同胞に勧められる検査は,「1度近親者への拡張型心筋症スクリーング検査」に記載した検査手順で述べられている.

発端者の子発端者のパートナーが変異をもたない場合,子はすべて絶対的保因者となる.

保因者診断

家系特異的変異が拡張型心筋症(DCM)の原因遺伝子に同定された場合,リスクのある血縁者への保因者診断は,臨床現場での遺伝子検査,若しくは個別の検査として実施可能である.

血縁者のリスク−DMD変異,若しくはTAZ変異による非症候性X連鎖性拡張型心筋症

発端者の両親

  • 罹患者男性の父親は発症せず,また変異の保因者でもない.
  • 1人の息子が罹患していたり,母方の男性血縁者が罹患している女性は,絶対的ヘテロ接合体である.
  • 家系分析で罹患者男性が孤発例(家族歴がない単一症例)であることが判明した場合,母親の保因者状態について,幾つかの可能性を考慮する必要がある.
    • 罹患者男性には新生突然変異が生じており,母親は保因者ではない場合.
    • 母親に(a)「生殖細胞系列変異」(受精時に存在し,母親の身体のすべての細胞に変異が存在),もしくは(b)「生殖細胞系列モザイク」(母親の生殖細胞のみに変異が存在)によって,新生突然変異が生じた場合.
    • 母親が他の血縁者には受け継がれていない変異,もしくは発現していない家系特有の変異の保因者である場合.
  • 保因者である母親にはいくらか発症リスクがあるため,息子が罹患している場合,「1度近親者への拡張型心筋症スクリーング検査」で記載した検査手順を行うとよい.

発端者の同胞

  • 同胞のリスクは,発端者の母親の遺伝的状態によって異なる.
  • 生殖細胞系列変異のヘテロ接合体(保因者)である女性が子に病原性変異を伝える確率は,各妊娠あたり50%である.変異を受け継いだ息子には発症リスクがある.変異を受け継いだ娘は,生殖細胞系列変異のヘテロ接合体(保因者)となり,発病する場合もあればしない場合もある.
  • 母親が保因者でない場合には同胞のリスクは低くなるが,生殖細胞系列モザイクの可能性があるため,一般集団よりは高くなる.

発端者の子X連鎖性拡張型心筋症の男性は,すべての娘に病原性変異を伝え,娘はみなヘテロ接合体(保因者)となる.息子には病原性変異は受け継がれない.

発端者のその他の血縁者発端者の母方の伯/叔母には保因者リスクがあり,この伯/叔母の子には,性別によって,保因者となるリスク,もしくは罹患するリスクがある.

遺伝カウンセリングに関連した問題

家系内での家族性拡張型心筋症の確認,もしくは確定診断を目的とするリスクのある血縁者への検査に関する情報については,「1度近親者への拡張型心筋症スクリーング検査」を参照のこと.

リスクのある患者に対する拡張型心筋症の早期診断と治療を目的とする経過観察の継続に関して勧められる事項については,「経過観察」を参照のこと.

心エコーや心電図で曖昧な所見を認める無症状のリスクのある血縁者拡張型心筋症の診断基準を満たさないが,心臓に異常所見(収縮機能は正常だが左室拡大を認める場合,左室の大きさは正常だが駆出率低下を認める場合,心電図は正常だが顕著な伝導障害や不整脈がある場合など)を有する無症状のリスクのある血縁者に,心エコーや心電図で曖昧な所見が生じ,その他の原因が除外された場合には,初期の拡張型心筋症が生じている可能性がある.このような結果により,検査を受けた者や他の血縁者への家系内のリスク評価や管理/経過観察が困難になる.

拡張型心筋症患者のリスクのある無症状の成人血縁者への分子遺伝学的検査 は,罹患している血縁者での変異が分子遺伝学的検査で同定されていれば可能である.このような検査は正式な遺伝カウンセリングのなかで行うべきであり,発症年齢,重症度,疾患の進行速度の予測には有益ではない.無症状のリスク保持者に対する検査は診断検査ではなく,予測的検査である.

18歳未満で成人発症疾患のリスクを持つ無症状の未成年への発症前診断 は行うべきでないというのがコンセンサスである.このような症例における発症前診断に反対する主な理由は,本人の知る・知らない権利を奪うこと,家族や社会環境の中で烙印を押す可能性があること,教育や職業選択に深刻な影響を与える可能性があることなどがある.

とはいえ,拡張型心筋症は乳児期や小児期に発症する場合もある.さらに,拡張型心筋症の早期診断が,このような検査に反対する議論を上回るベネフィットをもたらすこともある.拡張型心筋症の初期治療により疾患の進行を予防できる可能性があるため,早期に発症した場合や,家族性疾患の侵襲性が高い場合には,無症状の未成年者への遺伝子検査が正当化されることがある.分子遺伝学的検査が陽性の場合には,無症状であるが臨床的に検出可能な心血管疾患に対して,より厳密なスクリーニングを行ってもよい.

詳細情報については,成人発症疾患に関する未成年の遺伝子検査に関する米国遺伝カウンセラー学の決議文も参照のこと.米国人類遺伝学会と米国臨床遺伝学会は考慮すべき点として,小児期および青年期における遺伝学的検査の倫理的,法的,心理的影響を挙げているので参照のこと.

DNAバンキング は,将来の使用のために,通常は白血球から調整したDNAを貯蔵しておくことである.検査手法や,遺伝子,変異,疾患への理解は将来改善する可能性があり,患者のDNAを貯蔵しておくことは考慮されるべきである.このサービスを行っている機関については説明: Image testing.jpgを参照のこと.

出生前診断

家族性拡張型心筋症の幾つかのタイプに対する出生前診断は,妊娠10〜12週頃の絨毛生検(CVS)で,若しくは通常15〜18週頃に行われる羊水穿刺で採取した細胞から取り出した胎児DNAを解析することにより,技術的には可能である.出生前診断の実施に際しては,事前に家系内の病原性アレルを同定しておくことが必須である.

注:妊娠週数とは,最終月経の第1日から換算するか,超音波による計測によって算出される.

出生前診断がGeneTests Laboratory Directoryに記載されていないタイプの家族性拡張型心筋症でも,家系内で病原性変異が同定されている場合であれば,検査が可能であることがある.個別の出生前診断を行っている施設については,説明: Image testing.jpgを参照のこと.

通常,成人発症の疾患に対する出生前診断の要望は多くない.特に遺伝子検査が早期診断よりも中絶を目的として考慮される場合は,医療関係者の間やと家族の間に出生前診断に対する見解の相違が生じるかもしれない.多くの医療機関では最終的には両親の意思を尊重するとしているが,この問題については注意深い検討が求められる.

着床前診断(PGD)は,病原性変異が同定している家系では可能である.PGDを行っている施設については,説明: Image testing.jpgを参照のこと.

GeneReviewsでは,GeneReviews(TM)の各項にGeneTests(TM) Laboratory Directoryに記載された検査機関で臨床的に行われている検査をすべて記載する方針を採っているが,この記載は必ずしも著者,編集者,査読者がこのような検査の利用を承認していることを示すものではない.

参考情報

以下の疾患ごとのサポート組織や傘下団体は,本疾患患者やその家族に役立つよう,GeneReviewsスタッフが選択したものである.このほかの他の団体が提供する情報に関してGeneReviewsは責任を持たない.選定基準に関する情報については,こちらをクリックしてください.

  • Cardiomyopathy Association (CMA)

Chiltern Court

Asheridge Road

Unit 10

Chesham Buckinghamshire HP5 2PX

英国

電話: +44 01494 791224; 0800 018 1024(英国国内のみ)

ファックス: +44 01494 797199

Email: info@cardiomyopathy.org

www.cardiomyopathy.org

  • Children's Cardiomyopathy Foundation (CCF)

PO Box 547

Tenafly NJ 07670

電話: 866-808-2873(通話料無料)

ファックス: 201-227-7016

Email: info@childrenscardiomyopathy.org

www.childrenscardiomyopathy.org

  • Medline Plus

Cardiomyopathy


臨床的マネジメント

症状の治療

治療により拡張型心筋症(DCM)の自然経過が,(時に劇的に)改善する可能性がある.症候性・無症候性の拡張型心筋症の治療は,薬物療法,ペースメーカーや植込み型除細動器の挿入などである.心不全や拡張型心筋症の診断や治療に精通した医師が治療を行うこと.

症状は,心不全,不整脈,脳卒中の関連症状などである.症候性拡張型心筋症となるのは,疾患経過の後期である.この分野に精通した循環器専門医が,抗不整脈治療(ペースメーカー,植込み型除細動器など)を評価しつつ,包括的な治療(ACE阻害薬,ベータ遮断薬)を検討すること.

特発性/家族性拡張型心筋症の患者がすべき事柄:

  • 症状が現れる前でも特発性/家族性拡張型心筋症が治療可能であるか,治療で拡張型心筋症に寛解が得られるか,治療が症状の発生を抑えることができるか,症状に対する治療(心不全,不整脈,血栓塞栓症)により寿命や生活の質が改善するかを相談すること.
  • 心不全,不整脈(失神寸前の状態や失神も含む),血栓塞栓症の症状を理解し,このような症状が新たに現れたら早急に治療が受けられるよう,アドバイスを受けること.

特に突然死や重篤な不整脈の家族歴が強くあらわれている家系では,親族や介護者が心肺蘇生(CPR)の訓練を受けることが望ましい.

治療や医療機器が奏効しない進行性の拡張型心筋症や心不全には,現在でも心臓移植が確実な治療である.

このほか,包括的なガイドラインが[Hunt et al 2009]で取り上げられている.

経過観察

既知の病原性変異を有する無症状者.1〜3年ごとに心血管系のスクリーニング(身体的診察,心エコー,心電図)を受けること.

家族性拡張型心筋症の診断は確定しているが,家系特有の変異が不明な,無症状のリスクのある1度近親.年齢に応じて,3〜5年ごとに心血管系のスクリーニング(身体的診察,心エコー,心電図)を受けること.リスクのある1度近親に特発性/家族性拡張型心筋症の徴候を認めた場合,本項に記載された経過観察を,この患者の1度近親全員に行うこと.

血縁者の特発性拡張型心筋症が孤発性であるか家族性であるかが不明の1度近親.このような場合,この特発性拡張型心筋症患者の無症状の1度近親は,小児期から3〜5年ごとに心血管系のスクリーニング(身体的診察,心エコー,心電図)を受けること.リスクのある1度近親に拡張型心筋症の徴候を認めたら,家族性拡張型心筋症の診断が確定する.その後は,本項に記載された経過観察を,この患者の1度近親全員に行うこと.

拡張型心筋症の診断基準には達しない程度に検査結果が異常であるが,初期の拡張型心筋症と考えられるリスクのある血縁者に対しては(例えば,心機能は正常であるが左室拡大がみられる場合,左室サイズは正常であるが左室駆出率が低下している場合,心エコー所見は正常であるが心電図が異常である場合など)[Burkett & Hershberger 2005, Hershberger et al 2010a, Hershberger & Siegfried 2011],後天的な病因(例えば,心筋梗塞の既往や,心毒性を有する薬剤の投与歴がある場合の冠動脈疾患など)を探るため,包括的な心血管系の検査を行い,その後は1年に1回スクリーニングを行うとよい.

リスクのある血縁者への検査

遺伝カウンセリング目的のリスクのある血縁者への検査に関する問題については,「遺伝カウンセリング」を参照のこと.

妊娠期の管理

ほとんどの場合,拡張型心筋症では妊娠は禁忌である.

特発性/家族性拡張型心筋症の妊娠女性は,ハイリスク出産専門の産科医の診察を受けること.

特発性拡張型心筋症の家族歴のある無症状女性には,周産期心筋症(PPCM)や妊娠関連心筋症(PACM)のリスクがある.従来,周産期心筋症(PPCM)や妊娠関連心筋症(PACM)の原因は,家族性拡張型心筋症とは別であると考えられてきたが,遺伝的基盤を示すエビデンスが発表されはじめている[Elkayam et al 2005, Morales 2010, van Spaendonck-Zwarts et al 2010].このため,医療従事者は周産期心筋症(PPCM)や妊娠関連心筋症(PACM)が遺伝的原因をもつ可能性を認識し,拡張型心筋症の評価に関するガイドラインに従うこと(「評価手順」を参照).これらの症例では,生殖に関する遺伝カウンセリングや遺伝子検査を考慮すべきである.

研究中の治療

さまざまな疾患に対する臨床試験の情報にアクセスするためには,ClinicalTrials.govを検索のこと.注:本疾患の臨床試験は行われていない可能性がある.

その他

遺伝クリニックは,患者や家族に自然経過,治療,遺伝形式,患者家族の遺伝的リスクに関する情報を提供とするとともに,患者の立場からの情報も提供する.「GeneTests Clinic Directory」を参照のこと.


更新履歴

  1. GeneReviews著者:Ray E Hershberger, MD, Jessica D Kushner, MS, CGC, Sharie B Parks, PhD
    日本語訳者:窪田美穂(ボランティア翻訳者),櫻井晃洋(信州大学医学部附属病院遺伝子診療部)
    GeneReviews 最終更新日: 2008.7.10. 日本語訳最終更新日: 2009.3.19.
  2. Gene Review著者: Ray E Hershberger, MD,Ana Morales, MS, CGC
    日本語訳者: 窪田美穂(ボランティア翻訳者),櫻井晃洋(札幌医科大学医学部遺伝医学)  
    Gene Review 最終更新日: : 2013.5.9. 日本語訳最終更新日: 2013.9.25 (in present)

原文 Dilated Cardiomyopathy Overviewngelman Syndrome

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