Gene Review著者: Ellen G Pfendner, PhD and Anne W Lucky, MD.
日本語訳者: 窪田美穂(ボランティア翻訳者),肥田 時征(札幌医科大学皮膚科学講座)
Gene Review 最終更新日: 2015.2.26.日本語訳最終更新日: 2017.1.6
原文 Dystrophic Epidermolysis Bullosa
疾患の特徴
遺伝形式に基づき,栄養障害型表皮水疱症(DEB)は2つに分類される.
劣性重症汎発型 DEBでは,新生児期に水疱が全身に生じることがある.口腔内病変から口腔内水疱となり,口腔底に舌が癒着し,口腔の縮小が進行することもある.食道びらんは食道ウェブや狭窄を起こし,重度の嚥下障害を引き起こす.その結果,重度の栄養欠乏 が生じ,続発的な問題が起こることが多い.角膜びらんからは 瘢痕や失明が生じかねない.手足の水疱は瘢痕となって融合し,手足の指が「ミトン」手袋状となるのがこの疾患の特徴の1つである. 高悪性度の扁平上皮癌の生涯リスクは90 %以上である.
これとは対照的に,重症度の低い劣性,その他の汎発型 DEBでは,水疱は手,足,膝,肘に限局しており,関節屈曲部位や体幹部には水疱が生じる場合もあれば生じない場合もある.しかし,劣性重症汎発型 DEBでみられる重度の断節性瘢痕は生じない.
常染色体優性DEBでは,水疱は軽症で手,足,膝,肘に限局していることが多いが,治癒後に瘢痕が残る.爪ジストロフィーが,特に足趾 の爪に生じることが多く,優性DEBではこれが唯一の症状の場合もある.
診断・検査
DEBの病原性変異が存在する遺伝子はCOL7A1遺伝子のみである.COL7A1遺伝子のエクソン73,74,75の配列解析により,優性DEB家系の75 %でみつかる病原性 バリアントが検出される.エクソンの全コーディング領域の配列を解析すると,優性,もしくは劣性のDEB患者の約95 %に存在する病原性 バリアントが検出できる.確定診断のために分子遺伝学的検査を行わない場合には,皮膚生検を行い,透過型電子顕微鏡(EM)検査や免疫蛍光法(IF)による抗体・抗原マッピングにより, 診断に役立てることができる.
臨床的マネジメント
症状の治療:新しい水疱は 穿刺して 水疱内容液を排出すること.非 粘着性素材で患部を覆い,パットをあて,被覆材が外れないように保護してから,伸縮性素材で固定する場合がほとんどである.劣性重症汎発型 DEBの乳幼児や成長障害を認める場合には,体液や電解質のバランスに注意を払うこと.なかには,胃瘻チューブ等による栄養補給を要する場合もある.貧血には鉄剤を投与するが,必要に応じて輸血を行う.このほか,カルシウム,ビタミンD,セレニウム,カルニチン,亜鉛についても栄養補給を行う場合がある.作業療法により手の拘縮が予防できることがある.指を分離する外科的処置は,繰り返し行わなければならない場合が多い.
一次病変の予防:突出した骨が刺激となって水疱が生じることを防ぐため,突出した骨を被覆材やパッドで覆う必要がある.胎児がいずれのタイプであれ DEBに罹患していることがわかった場合には,帝王切開とすることで,分娩時の皮膚への外傷を減少できると思われる.
二次合併症の予防:最も頻度の高い続発的合併症は感染である.慢性の創感染の治療には,抗生物質と消毒薬の双方が必要である.
サーベイランス:10歳以降 ,難治性または過増殖性の異常な 創傷には 生検を行い,扁平上皮癌であるかどうかを確認する .1歳以降は,鉄,亜鉛,ビタミンD,セレン,カルニチン欠乏に対するスクリーニング検査を行う.定期的に心エコーを行い,拡張型心筋症の有無を確認するとよい.また,定期的に骨密度検査を行い,骨粗鬆症の有無を確認するとよい.
回避すべき薬剤・環境:皮膚を傷つける活動や包帯 ,すべての粘着物.
リスクのある近親者の検査:リスクのある新生児に水疱の有無の評価を行うことで ,皮膚損傷を最小限にし得る .
妊娠管理:リスクのある胎児の場合,経腟分娩を避け,帝王切開が勧められることが多い.
遺伝カウンセリング
栄養障害型表皮水疱症の遺伝形式は,常染色体優性(優性DEB)もしくは常染色体劣性(劣性DEB)である.遺伝形式や再発リスクを確定する正確 かつ唯一の方法は病原性 バリアントの分子学的特徴を解析することであり,表現型 重症度, 電子顕微鏡(EM)所見や免疫蛍光法(IF)所見では不十分である.
家系内の患者で病原性 バリアントが同定された場合,この疾患/遺伝子の検査や個別の出生前診断を提供している臨床機関で,リスクの高い妊娠に対する出生前診断を行うことができる.
GeneReview内の検索
栄養障害型表皮水疱症(DEB):DEBに含まれる疾患 |
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DEBが疑われる所見
以下の臨床所見を認める場合,栄養障害型表皮水疱症(DEB)の診断が疑われる:
注:(1)遺伝形式に基づき,栄養障害型表皮水疱症(DEB)は2つに分類される.劣性DEBと優性DEBであり,それぞれが多数の臨床的サブタイプに分けられる.(2)DEBの家族歴がな い場合,DEB の診断 が除外されるわけではない .
確定診断
表皮水疱症(EB)では,すべてのタイプで臨床的特徴がかなり重複しているため,臨床診断のみでくだされた診断の信頼性は低い.特に乳児の場合,診断の確立のため,COL7A1遺伝子の分子遺伝学的検査が必要となることが多い(図1と表1を参照).分子遺伝学的検査で診断がつかない場合には,皮膚生検を行う必要がある.
栄養障害型表皮水疱症(DEB)の一般所見:
a,b:優性DEBの成人患者における膝と手の瘢痕および爪ジストロフィー
c:劣性DEBの新生児における先天性皮膚形成不全
d:劣性DEB患児の全身 性の水疱
e: 劣性DEB患者における創傷により生じた 偽性合 趾症を伴う足の瘢痕
f:劣性DEBの成人患者における重症の全身 性水疱
g:劣性DEBの青年患者における重症の全身 性瘢痕
h:劣性DEBの成人患者における瘢痕により生じた偽性合指症
注:罹患している胎児や血縁者の 分子遺伝学的検査 によって,当該家系の遺伝形式が 確定 され,出生前診断が可能となることで,今後の出産について決断する際に有益となり得る.いくつかのCOL7A1遺伝子の病原性 バリアントは,常染色体劣性と常染色体優性のいずれの遺伝形式もとる[Almaani et al 2011].
分子遺伝学的検査の手法には,単一遺伝子検査,複数遺伝子パネル,より包括的な ゲノム解析がある.
単一遺伝子検査.DEBが疑われる患者の診断手順の1つとして,COL7A1遺伝子に対する単一遺伝子検査の配列解析から始めるという方法がある.
病原性 バリアントが確認されない場合,もしくは劣性DEBが疑われる患者に1つの病原性 バリアントしか同定されない場合には,続いて遺伝子の欠失・重複解析を検討する.
複数遺伝子パネル にはCOL7A1遺伝子,他の関連遺伝子(「鑑別診断」の項を参照)が含まれている.注:(1)複数遺伝子パネルに含まれる遺伝子や検査の精度は,検査機関によって異なっているだけでなく,時代とともに変化する.(2)複数遺伝子パネルに本稿で扱っている病態に関連のない遺伝子が含まれている場合もあるため,臨床医は最善のコストで遺伝的原因を確定できるように,どの検査を行うのが最適であるかを決定しなければならない.
より包括的なゲノム解析.一連の単一遺伝子の 検査(または複数遺伝子パネル解析 )でDEBの特徴を呈する患者の診断が確定しない場合,(実施可能であるならば),より包括的な全エクソーム解析(WES),全ゲノム解析(WGS),全ミトコンドリアDNA配列解析(WMitoSeq)を考慮してもいい. こうした検査により,これまで検討していなかった診断が浮上することもある(類似した臨床所見を生じさせる別の遺伝子変異など).ゲノム解析の結果の解釈の問題については,こちらを参照のこと.
表1.
栄養障害型表皮水疱症(DEB)の分子遺伝学的検査
遺伝子1 | DEBのタイプ | 検査方法 | 検査法ごとの病原性変異をもつ発端者の検出率 |
---|---|---|---|
COL7A1遺伝子 | 優性DEB | 配列解析2,3 | 95 %4 |
欠失・重複解析5 | <1 % | ||
劣性DEB | 配列解析2 | 95 %4 | |
欠失・重複解析5 | <2% |
皮膚生検.皮膚生検を行い,透過型電子顕微鏡での観察や免疫蛍光法による抗体・抗原マッピングを行うことは,DEBの確定診断法の1つである.しかし,とりわけ軽症型の表皮水疱症(EB)の場合,間接免疫蛍光法で検出される抗原量が正常にかなり近く,水疱の 水疱形成面も観察されないため,診断には不十分なこともある.そのような場合には皮膚生検を行い,皮膚の基底膜構造を調べるため,電子顕微鏡検査を行わなければならない.なかでも,係留線維の数や形態,ヘミデスモソーム,係留細線維,ケラチン中間径フィラメントの有無や形態を調べる必要がある.
DEBでは水疱が基底膜下 に形成され,基底膜は水疱蓋に 接着している.このため,水疱が治癒したときに瘢痕が生じる.
注:光学顕微鏡検査は表皮水疱症(EB)の正確な診断には不十分であり,診断法としては不適切である.
生検に適した皮膚は,新しく形成された(12時間未満)水疱の 辺縁部,もしくは機械的刺激により生じた水疱から採取し,隣接している正常な皮膚も含むようにすること(時間の経った水疱は 変化し,形態学的診断が曖昧になるおそれがある).検体採取の際には, 紡錘形 生検 またはシェーブ生検 が用いられる .パンチ生検では,判断を混乱させるような人工的影響が生じる可能性があるが,パンチを注意深く使用することで,表皮の喪失は避けられる.
透過型電子顕微鏡(TEM)で得られる所見
免疫蛍光法による抗体・抗原マッピングで得られる所見
臨床像
栄養障害型表皮水疱症(DEB)が分子レベルで理解される前は,主として臨床的特徴,遺伝形式,皮膚生検でのVII型コラーゲンや係留線維の有無に基づいて,DEBのタイプやサブタイプが判定されていた.現在は遺伝形式(常染色体優性のDEB/常染色体劣性のDEB)によって分けられており,さらにVII型コラーゲン染色で得られた所見や,当該患者で同定されたCOL7A1遺伝子の病原性変異によって分類されている(「 命名法」の項を参照)[Fine et al 2014].本稿では,劣性重症汎発型 DEB(RDEB-sev gen) ;劣性, その他の汎発型DEB(RDEB-O)(さらに幾つかのサブタイプに分かれる) ;優性DEB(DDEB)(さらに幾つかのサブタイプに分かれる)という病名を維持しつつ,以下で議論する.
劣性重症汎発型 DEB(RDEB-sev gen)
この古典的な重症型の劣性DEBでは,出生時に水疱が見られることもあるが,新生児期に水疱が現れることもある.劣性重症汎発型 DEBの治療成果について最近,レビューが行われた[Fine & Mellerio 2009a, Fine & Mellerio 2009b, Murrell 2010].
水疱は新生児期という早期に,口腔粘膜,食道粘膜,角膜といったように全身に及ぶ.続発性の感染が起きることが多い.
生涯を通して瘢痕化を伴う水疱が生じるため,外観が損なわれることがある.この疾患の特徴の1つである瘢痕を伴う手足の偽性合指症では,手足の指が「ミトン」手袋状に融合するため,著しく機能が損なわれる.
口腔内病変から,舌の口腔底への癒着(舌癒着症 )や,口腔 や開口 域の進行性縮小(小口症)に至ることがあり,歯科衛生の悪化や齲歯もあいまって,食物摂取不良となる[Serrano-Martínez et al 2003, De Benedittis et al 2004].
食道びらん,食道ウェブや狭窄により重度の嚥下障害が起こりやすくなるため,栄養状態が悪化する[Castillo et al 2002,Azizkhan et al 2006].稀に,皮膚症状がわずか,もしくは皆無で,食道症状のみが認められる場合もある[Zimmer et al 2002].
肛門びらんにより重度の便秘が生じることがある.胃食道逆流性疾患(GERD)が生じることが多い.
角膜びらんにより瘢痕が生じ,失明に至ることがある[Matsumoto et al 2005].
高悪性度の扁平上皮癌(SCC)の生涯リスクは90 %を超えており,転移が生じやすい[Fine et al 2009].通常,扁平上皮癌の発症は20歳代であるが,10歳代の発症もある[Ayman et al 2002].患者の多くが遠隔転移を伴う高悪性度の 扁平上皮癌(SCC)で死亡する.
多くの患者に大型で不整形な褐色斑が生じる.この褐色斑は,組織学的には母斑細胞の集塊であり,表皮水疱症(の)母斑と呼ばれる[Lanschuetzer et al 2010].今日に至るまで,こうした母斑に悪性黒色腫が生じたという報告はない.
食物摂取不良によって栄養障害が生じ,組織治癒のために必要栄養量が増加することにより,幼児には成長遅延と成長障害が起きる. 思春期が訪れなかったり,到来が遅れたりする.
貧血の原因は,鉄摂取不足や,骨髄抑制を伴う慢性疾患の貧血である.
骨減少症や骨粗鬆症はビタミンD欠乏が原因である場合が多いが,栄養不良,十分に日光を浴びていないことだけでなく,活動低下によっても生じる.
劣性DEBでは拡張型心筋症が報告されており,死亡に至った症例も幾つかある[Lara-Corrales et al 2010]
尿道びらん,狭窄,膀胱機能障害,さまざまな腎疾患が生じやすい[Fine et al 2004].
この疾患による合併症や,ほとんどの患者が耐えなければならない慢性的な疼痛により,患者や家族に過度のストレスがかかることから,年長者では生活の質が低下したり,不安, うつ病,薬物依存や乱用といった心理社会的障害が生じることが多い[Frew & Murrell 2010].
劣性、その他の汎発型 DEB(RDEB-O)
劣性DEBの臨床像は幅広く多岐にわたり,そのうちの多くはそれほど重症型ではない.表現型は,手,足,膝,肘に限局した軽度の水疱と爪ジストロフィーを呈する軽症型もあれば,これよりも広範に関節屈側や体幹に水疱が生じるものもあるが,劣性重症汎発型 DEBでみられるような重度の破壊的な瘢痕は生じない.
頻度の低い サブタイプでは,特徴的な所見を認める:
優性DEB
この軽症型のDEBでは,水疱が生じるのは手,足,膝,肘のみである.水疱形成は比較的,良性であるが,治癒後に瘢痕が生じる.爪ジストロフィー(特に足の爪)が生じることが多く,爪の喪失が起こる場合もある.最軽症例では,爪ジストロフィーが唯一の症状の場合もある[Dharma et al 2001, Sato-Matsumura et al 2002, Tosti et al 2003].優性DEBにおける水疱は,年齢とともに多少 改善することが多いが,その原因は身体の活動性の低下によると考えられる.優性DEBのサブタイプは劣性DEBに類似しているが,劣性DEBよりも軽症となることもある.
遺伝子型と臨床型の関連
劣性DEB
優性DEB.
ほとんどの優性DEBは,VII型コラーゲンのコラーゲン型3重らせんドメインにおけるグリシン置換変異を含む優性阻害のアミノ酸置換により発症するが,スプライス部位の変異や他のアミノ酸置換変異の報告も少数ある.同一の病原性変異でも,家系内や家系間において表現型にばらつきがみられる[Murata et al 2000, Vaccaro et al 2000, Mallipeddi et al 2003, Nakamura et al 2004, Wessagowit et al 2005].
浸透度
最近まで,軽症者の血縁者を含めると,COL7A1遺伝子変異の浸透度は100 %であると考えられてきた.COL7A1遺伝子に家系内で既知の病原性変異がある優性DEB患者に,同じ変異をもつが疾患徴候を呈していない血縁者がいる家系が幾つかあることがわかった.このため,少なくとも優性DEBでの浸透度は100 %未満と考えられる[Almaani et al 2011; Pfendner, unpublished observation].
表現促進現象
DEBで促進現象は認められない.
命名法
劣性重症汎発型 DEB (RDEB-sev gen)は従来,Hallopeau-Siemens型DEB(RDEB-HS)と呼ばれていた.
劣性中等 症汎発型DEBと劣性限局 型DEBは従来,非Hallopeau-Siemens型(RDEB-non-HS)と呼ばれていた.
DEBの病名は,この15年間で4回 変更された.最も新しい分類体系は,「タマネギの皮(onion skin)」式用語法と言われているが,国際コンセンサス会議で発表されたものであり,同会議の勧告が2014年に発表されている[Fine et al 2014].この分類体系では,まず,DEBを遺伝形式で分類した後,VII型コラーゲン染色の組織学的所見によって分類し,さらに患者で同定されたCOL7A1遺伝子の病原性変異により分類する(表2を参照).
単純型表皮水疱症(EBS)や接合部型表皮水疱症(JEB)に推奨される最新の病名に関する情報については,表3(pdf)を参照のこと.
表2.
2008年の病名と「タマネギの皮」式用語法の比較(代表例)
旧称1 | 2014年の命名法 |
---|---|
劣性重症汎発型DEB(RDEB, severe generalized) | 劣性重症汎発型DEB(RDEB generalized severe),VII型コラーゲン染色なし,COL7A1遺伝子の病原性変異(タイプを特定すること) |
劣性、その他の汎発型DEB(RDEB, generalized other) | 劣性中等症汎発型DEB(RDEB generalized intermediate),染色ではVII型コラーゲンが減少,COL7A1遺伝子の病原性変異(タイプを特定すること) |
劣性DEB-新生児における一過性水疱症(RDEB-BDN) | 劣性DEB-新生児における一過性水疱症(RDEB-BDN),染色では表皮内に顆粒状のVII型コラーゲンを認める,COL7A1遺伝子の病原性変異(特定すること) |
優性汎発型DEB(DDEB generalized) | 優性汎発型DEB,VII型コラーゲン染色は正常,COL7A1遺伝子の病原性変異(タイプを特定すること) |
BDN = 新生児における一過性水疱症
DDEB = 優性栄養障害型表皮水疱症
RDEB = 劣性栄養障害型表皮水疱症
頻度
米国全国表皮水疱症(EB)登録によると,米国人口の100万の出生児のうち6.5人が,いずれかの栄養障害型表皮水疱症(DEB)を発症する.
米国人口における劣性DEBの保因者頻度は370人中1人と算出されている[Pfendner et al 2001].
COL7A1遺伝子変異と関連している表現型は,本稿で扱われた表現型以外は知られていない.
20の異なる遺伝子の病原性変異が原因となって生じる表皮水疱症(EB)症候群には,大きく分けて,単純型表皮水疱症(EBS),接合部型表皮水疱症(JEB),栄養障害型表皮水疱症EB(DEB),キンドラー(Kindler)症候群の4つがある.表皮水疱症(EB)では診断基準に合意が得られているタイプも幾つかあるが,稀なタイプを1つのタイプとして認めるかということや,稀なタイプの診断基準の妥当性に関しては議論が分かれている.Murrell [2010]は優れた臨床的レビューであるため,参照されたい.改定された分類体系については,Fine et al [2014]を参照のこと(全文;図1に注目).
4つの主なEBでは,皮膚の脆弱性が共通しており,外傷がわずか,もしくは皆無であっても水疱やびらんが生じる.すべてのタイプの表皮水疱症でニコルスキー現象(病変のない皮膚を摩擦すると水疱が生じる)を認める.各EBだけに存在する臨床所見がないため,EBのタイプの判定には,さらに臨床 検査を行う必要がある.分子遺伝学的検査が確定診断に用いられることがある(「確定診断」の項を参照).新しく形成された水疱から皮膚生検検体を採取し,間接免疫蛍光法で染色し,基底膜に欠かせない蛋白成分を調べる. 水疱形成面を調べ,これらの蛋白成分の有無や分布を調べることにより,診断が確定する.電子顕微鏡検査も診断に有用であり,軽症型EBの診断では特に有用である.
臨床検査は水疱の程度,口腔などの粘膜病変の有無,瘢痕の有無と程度を判断する際に有益である.
EBのタイプを確定する臨床所見の限界は以下である:
それぞれのEBに生じやすい臨床徴候は以下である.
単純型表皮水疱症(EBS)の特徴は,皮膚(粘膜上皮の場合もある)の脆弱性であり,その結果,外傷がわずか,もしくは皆無であっても,瘢痕化を伴わない水疱が生じる.現在の表皮水疱症 の分類によれば,単純型表皮水疱症は大きく2つに分けられ,さらに12の小分類が含まれる.すべてに共通する徴候は,超微細構造レベルでの真皮-表皮接合部より上で の水疱である. EBSのうち,頻度の高い4つのサブタイプは以下である.
こうしたサブタイプの表現型は,手足の比較的軽度の水疱から,より全身性の 水疱まで幅広 く,死亡に至る場合もある.限局 型 EBSでは,出生時に水疱が生じることは稀で, 生じても わずかである. はいはいをするころから 膝や脛に,月齢18ヵ月頃から足に水疱が生じやすくなる.青年期や成人初期に症状が現れる場合もある.通常,水疱が生じる部位は手足のみであるが, 強い外力によりどの部位にも生じる.
その他の汎発型EBS(EBS, gen-nonDM) では,出生時に水疱が見られることもあるが,生後, 数ヵ月間に発症する場合もある.限局型 EBSよりも病変は広範囲であるが,Dowling-Meara型 EBSよりも軽症であることが多い.
斑状色素沈着を伴う EBSでは,出生時から皮膚脆弱性が顕著であり,臨床的にはDowling-Meara型 EBSと鑑別不能である.時間が経つにつれ,脱色素斑が 混在した 褐色 色素沈着が進行性に体幹や四肢に広がるが,成人期になると色素沈着は消失する.手掌と足底の限局性の過角化 が起きることがある.
Dowling-Meara型 EBSの発症は通常,出生時であるが,重症度は家系内でも家系間でも大きなばらつきがある.広範の重度の水疱や,複数の小水疱の 集簇が典型 であり, 血 疱も多くみられる .小児期の中~後期に改善する .Dowling-Meara型 EBSは 暖かくなると改善する患者もいる.手掌や足底の進行性角化 が小児期に発症し,成人期の主訴となることがある.爪ジストロフィーや稗粒腫は多い.色素 沈着と色素脱失 のどちらも生じうる.Dowling-Meara型 EBSの粘膜病変により,哺乳障害が生じることがある.水疱が重篤であると,新生児期もしくは乳児期の死亡となる場合もある.
EBSの4つのタイプの原因は,KRT5遺伝子,もしくはKRT14遺伝子の変異である.KRT5遺伝子とKRT14遺伝子の分子遺伝学的検査により,生検で診断された限局型EBS ,Dowling-Meara型 EBS, その他の汎発型 EBSの患者の約75 %で,斑状色素沈着を伴う EBS患者の90~95 %で,病原性変異が検出される.
EBSの稀なサブタイプは以下である:
接合部型表皮水疱症(JEB)の特徴は皮膚と粘膜の脆弱性であり,外傷がわずか,もしくは皆無であっても水疱が生じる.水疱は重症化することがあり,口腔や鼻腔の皮膚,指,足 趾,上気道 に肉芽組織が形成されやすくなる.水疱は一般に,治癒後,顕著な瘢痕を残さない. JEBを大別すると,Herlitz型(致死性) JEBと非Herlitz型(非致死性) JEBとなる.Herlitz型 JEBは 古典的な重症 の JEBであり,出生時に水疱が見られることもあるが,新生児期に水疱が生じる場合もある.先天性の尿管や膀胱の奇形が起きることもある.非Herlitz型 JEBでは, 水疱は手,足,膝,肘に限局されており,腎臓・尿管病変を伴うことと伴わないことがあり,表現型が軽症となることが多い.新生児期以降に は水疱が生じない患者もいる.このほか, JEBと他の表皮水疱症(EB)に共通する特徴には,先天性の限局性の皮膚欠損(先天性皮膚形成不全),稗粒腫,爪ジストロフィー,瘢痕性脱毛症, 乏毛症,偽性合指症,他の拘縮などがある. JEBの病原性変異が生じる遺伝子は,LAMB3遺伝子(全症例の70 %),COL17A1遺伝子(12 %),LAMC2遺伝子(9 %),LAMA3遺伝子(9 %)の4つである.
キンドラー(Kindler)症候群.Fine et al [2014]の分類では,キンドラー症候群はEBの主要タイプの1つとされている.複数の 水疱形成面(特に,表皮,透明帯,緻密層下 )を特徴としている.複数の 水疱形成面の存在は,機械的刺激による水疱性疾患(mechanobullous disorder)に特有の所見の1つである.出生時の表現型が重症な場合もあるが,年齢とともに症状は緩和し,多形皮膚萎縮症や光線過敏なども生じる.FERMT1遺伝子(キンドリン1)の病原性変異が報告されている.遺伝形式は常染色体劣性である[Jobard et al 2003, Siegel et al 2003].
初回診断後の評価
栄養障害型表皮水疱症(DEB)と診断された患者の疾患の程度とニーズを明らかにするために,水疱形成部位(口腔や食道 を含む)の評価が勧められる.臨床遺伝 へのコンサルテーションも考慮するとよい.
症状の治療:
皮膚.新たな水疱は 穿刺して 水疱内容液を排出させ,液圧により水疱がさらに拡大するのを防ぐこと[Pope et al 2012].
水疱を保護する被覆方法には正しく有益な方法が数多くあるが,家族は患者に最適な方法を決めること.ほとんどの場合,水疱は3層で被覆する:
接触面には,感染の予防・治療や治癒の促進のため,さまざまな潤滑剤や抗菌薬(外用 抗生物質,銀,ハチミツなど)が使用されることが多い.
症状が重症な劣性DEBの乳児や小児では発育不良が問題となるため,十分なカロリー摂取のため,胃瘻チューブなどによる栄養補給が必要になる場合もある[Haynes et al 1996, Stehr et al 2008].食道狭窄や食道ウェブを繰り返し拡張することにより,嚥下機能が改善される[Castillo et al 2002, Kay & Wyllie 2002, Azizkhan et al 2006].
その他.新生児期では,体液や電解質の異常が重篤化すると,生命を脅かすことになりかねないため,慎重な管理を要する.
貧血は劣性DEB患者にとって慢性的な問題であり,経口もしくは静注の鉄剤投与 や赤血球輸血により治療される.
また,他の栄養障害への対処も行うこと:
摂食機能, カロリー 摂取を確実にするためには,予防的なデンタルケアが不可欠である[Harris et al 2001].
患児のなかには水疱や角化症のため,歩行速度が遅くなったり,歩行困難となる者もいる.歩行機能の維持には,適切な靴や理学療法が不可欠である.
手の拘縮の進行予防に作業療法が役立つことがある.皮膚脆弱性により,手に添え木を装着できないことがある.幾つかの方法で指を外科的に分離できることが報告されている.このような処置は繰り返し行なわなければならないことが多い[Marín-Bertolín et al 1999, Glicenstein et al 2000].
社会的サービスや心理カウンセリングなどの心理社会的な支援が不可欠である.
一次病変の予防:
年齢に応じた遊び(皮膚に外傷を生じさせないように工夫された活動など)が推奨される.
突出した骨が刺激となって水疱 が生じないようにするため,被覆材やパッドが必要となる.
胎児がいずれのタイプであれDEBに罹患していることがわかった場合は,帝王切開とすることで,分娩時の皮膚への外傷を軽減することができるかもしれない.
二次合併症の予防:
最も頻度の高い続発的合併症は感染である.創傷の治療だけでなく,創傷の慢性的感染への治療も非常に困難な課題となる.患者の多くが耐性菌(最も多いのがメチシリン耐性黄色ブドウ球菌[MRSA]や緑膿菌)に感染する.どちらに対しても,抗生物質や消毒薬が必要となる.
サーベイランス:
劣性DEB患者では,遠隔転移を伴う扁平上皮癌の生涯リスクが90 %超であるため,10歳代から,未治癒の創傷,過増殖性の瘢痕組織などの異常と思われる病変に対して経過観察を行うことがきわめて重要である.疑わしい病変に対しては頻繁に生検を行うが,局所切除が必要となることもある.
血算や 血清鉄 の測定を行って,貧血 のスクリーニングを定期的に実施し,適宜,鉄補充を行うこと.
血清 亜鉛 を測定して亜鉛欠乏 のスクリーニングを定期的に行い,適宜,創傷治癒の促進のため,亜鉛補充を行うこと.
セレンやカルニチンの欠乏から続発する拡張型心筋症については,セレンとカルニチンの血清濃度の測定による疾病素因のスクリーニングが可能である.経胸壁心エコーによる拡張型心筋症のスクリーニングも有益である[Sidwell et al 2000].いつ スクリーニングを開始すべきかについては,ガイドラインにまとめられていない.
骨密度のスクリーニング により,骨減少症や骨粗鬆症の早期発見が可能となるかもしれない.いつ この検査を開始すべきかについては,ガイドラインにまとめられていない.
回避すべき薬剤・環境:
外傷が生じやすくなるため,衣服や靴は体に合わないものや生地の粗いものは避けること.
一般に,皮膚に外傷が生じやすい活動(ハイキング,山中のサイクリング,相手と接触するスポーツなど)は避けること.このような活動へ参加する際には,皮膚を保護する方法を考えるとよい.
大多数のDEB患者は通常の絆創膏(Band-Aids®など)を使用できない.
リスクのある近親者の検査:
リスクのある新生児に水疱の有無の評価を行うことで,皮膚損傷を最小限にし得る .
遺伝カウンセリングを目的としたリスクのある近親者の検査に関連する問題については,「遺伝カウンセリング」を参照.
妊娠管理
リスクのある胎児の場合,経腟分娩を避け,帝王切開が勧められることが多い.
研究中の治療
EBマウスモデルを用いたEBの分子治療の研究が進められている.EBの表現型を模したマウスモデルにより,以下に掲げる数多くの治療アプローチに関する試験が進行中である:
また,ウイルスベクターを用いて培養細胞に機能遺伝子を導入した上で,ヒトに移植するという従来からのアプローチも依然として研究されている[Siprashvili et al 2010, Titeux et al 2010, Melo et al 2014].
ヒトを対象としたEB治療の臨床試験は始まったばかりである.こうした試験を以下に掲げる:
マウスモデルでは,同種幹細胞の全身投与により,水疱への臨床的奏効が示された[Tolar et al 2009].現在,米国の2 ヵ所の施設では,従来の骨髄破壊的な前処置や,強度を減弱化した前処置を用いた骨髄移植や臍帯血幹細胞移植の試験が行われている.Wagner et al [2010]を参照.ミネソタ大学とコロンビア大学の2ヵ所 で行われているEBに対する試験に関する情報については,ClinicalTrials.govを参照されたい.
扁平上皮癌が疑われる病変に対するイミキモド 外用などを用いた薬物療法に関しては,さらなる研究が必要である.
種々の疾患の臨床試験に関する情報については,こちらを参照されたい.
「遺伝カウンセリングは個人や家族に対して遺伝性疾患の本質,遺伝,健康上の影響などの情報を提供し,彼らが医療上あるいは個人的な決断を下すのを援助するプロセスである.以下の項目では遺伝的なリスク評価や家族の遺伝学的状況を明らかにするための家族歴の評価,遺伝学的検査について論じる.この項は個々の当事者が直面しうる個人的あるいは文化的、倫理的な問題に言及しようと意図するものではないし,遺伝専門家へのコンサルトの代用となるものでもない.」
遺伝形式
栄養障害型表皮水疱症(DEB)の遺伝形式は,常染色体優性,もしくは常染色体劣性である.
近親者のリスク-常染色体優性遺伝
発端者の両親
注:(1)優性DEBと診断された患者の70 %では,片親が罹患者であるが,血縁者で疾患が認識されていないことや,浸透率の低下により,家族歴が陰性であるようにみえることがある.(2)変異が初めて現れたのが親である場合には,病原性変異の体細胞 モザイクである可能性があるため,症状が軽症/ごく軽症となることがある.
発端者の同胞
発端者の子
発端者の他の血縁者
近親者のリスク-常染色体劣性遺伝
発端者の親
発端者の同胞.
発端者の子.劣性DEB患者の子はCOL7A1遺伝子の病原性変異の絶対的ヘテロ接合体(保因者)である.
発端者の他の血縁者.発端者の両親から生まれた同胞がCOL7A1遺伝子の病原性変異の保因者であるリスクは50 %である.
保因者診断
リスクのある血縁者への保因者診断には,あらかじめ家系内でCOL7A1遺伝子の病原性変異が同定されていなければならない.
遺伝カウンセリングに関連した問題
リスクのある血縁者への早期診断・治療目的の評価に関する情報については,「臨床的マネジメント」,「リスクのある近親者の検査」の項を参照されたい.
新生突然変異によって発症したかのようにみえる血縁者への配慮.常染色体優性疾患で発端者のどちらの親にも臨床所見を認めない場合,発端者に新生突然変異が生じている可能性がある.しかし,生物学的な父親や母親が異なる場合(生殖補助医療など)や未公表の養子縁組など,非医学的な理由の可能性も考えられる.
孤発症例(家系内で唯一の発症例)の遺伝形式の確定.遺伝形式や再発リスクを確定する正確,且つ唯一の方法は,病原性変異の分子学的特徴を解析することである.片方のアレルに劣性の病原性変異があり,もう片方に優性遺伝のアミノ酸置換をもつ7人の患者が報告されており,親の表現型のみに基づき(すなわち,分子遺伝学的検査を行わずに),再発リスクを予測する際には注意を要することが示されている[Varki et al 2007].
劣性DEBの表現型には極端なばらつきがあるため,遺伝形式や再発リスクを判断する際には,表現型,重症度, 電子顕微鏡(EM)/免疫蛍光法(IF)所見では不十分である[Hashimoto et al 1999, Vaccaro et al 2000, Mallipeddi et al 2003].表現型が軽度で家族歴のない患者の場合,常染色体優性DEBであるか,常染色体劣性DEBであるか,どちらの可能性もありうる.劣性DEBの表現型が多岐にわたることについては数多くの報告があり,きわめて軽度で優性DEBに類似した症例も報告されている[Hashimoto et al 1999, Vaccaro et al 2000, Mallipeddi et al 2003, Varki et al 2007].
家族計画
DNAバンキングは,将来の使用のために,通常は白血球から調整したDNAを貯蔵しておくことである.検査手法や,遺伝子,変異,疾患への理解は将来改善する可能性があり,罹患者のDNAを貯蔵しておくことは考慮されるべきである.
出生前診断
分子遺伝学的検査.家系内の罹患者にCOL7A1遺伝子の病原性変異が同定されている場合,リスクの高い妊娠に対して,当該遺伝子の検査,もしくは個別の出生前診断を行っている臨床施設で出生前診断を行うことができる.
胎児鏡検査.胎児鏡検査を使って採取した胎児の皮膚を電子顕微鏡で調べることによっても,DEBの診断が可能である.胎児鏡検査は絨毛生検や羊水穿刺よりもリスクが高く,妊娠週数が進んでから(18~20週)に実施される.現時点では,胎児鏡検査によるDEBの出生前診断は米国では認められていないが,欧州では行われる場合もある.
着床前診断(PGD)は家系内のCOL7A1遺伝子の病原性変異が同定されている家系に対して実施可能である.
Gene Review著者: Ellen G Pfendner, PhD and Anne W Lucky, MD.
日本語訳者: 窪田美穂(ボランティア翻訳者),肥田 時征(札幌医科大学皮膚科学講座)
Gene Review 最終更新日: 2015.2.26.日本語訳最終更新日: 2017.1.6(in present)