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早期発症型家族性アルツハイマー病
(Early-Onset Familial Alzheimer Disease)

[EOFAD. Includes: Alzheimer Disease Type 1 (AD1), Alzheimer Disease Type 3 (AD3), Alzheimer Disease Type 4 (AD4)]

Gene Review著者: Thomas D Bird, MD
日本語訳者: ギボンズ京子(ボランティア翻訳者),櫻井晃洋(信州大学医学部附属病院遺伝子診療部) 

Gene Review 最終更新日: 2010.12.23.  日本語訳最終更新日: 2012.11.1

原文 Early-Onset Familial Alzheimer Disease


要約

疾患の特徴 

アルツハイマー病(AD)の特徴は,大脳皮質の萎縮,アミロイドβ斑形成,神経原線維変化を伴う成人期発症型の進行性認知障害である.記銘力の些細な低下に始まることが多く,徐々に進行して重症化し人格崩壊に至る.他によく見られる症候は,混迷,判断力低下,言語障害,興奮,引きこもり,幻覚,痙攣,パーキンソン症状,筋緊張亢進,ミオクローヌス,失禁,無言である.家族性ADでは家系内にAD患者が2人以上おり,通常2世代以上にわたってAD患者が存在する.家系内の患者が常に60-65歳以前に発症している場合はEOFAD (Early-onset familial AD, 早期発症型家族性アルツハイマー病)とよばれる.発症年齢が55歳以下の場合も多い.

診断・検査 

平均発症年齢が65歳以下である家系,もしくはEOFAD関連遺伝子に病的変異が同定されている家系(またはその両方を満たす家系)に対してEOFADであると診断する.EOFADには 臨床的には区別がつかない亜型が3種あり,原因遺伝子が異なる.APP変異によるAD1はEOFADの10-15%を占める. PSEN1 変異によるAD3はEOFADの30-70%を占める.PSEN2変異によるAD4はEOFADの5%未満である. PSEN1PSEN2APPのいずれにも変異が認められず,常染色体優性遺伝形式でEOFAD発症を認める家系が報告されているため,他にもEOFADの原因遺伝子が存在する可能性がある. PSEN1PSEN2APPに対する分子遺伝学的検査は臨床的に利用可能である.

臨床的マネジメント 

病変に対する治療 支持療法である.うつ症状,攻撃性,睡眠障害,痙攣,幻覚はそれぞれの患者に応じて対応する.患者は最終的に生活介護や看護施設でのケアを必要とするようになる.アリセプト(ドネペジル),エクセロン(リバスチグミン),レミニール (ガランタミン)などのコリン作動性作用を亢進させる薬剤には,適度な効果がみられるが,安定した効果はない.NMDA受容体拮抗薬であるメマンティンはAD治療薬として承認されている.理学療法や作業療法は日常生活動作の維持や改善に役立つ.

観察 続発性合併症の確認と管理のために月1回モニタリング.

回避すべき薬剤と環境 急な環境変化.過度の鎮静.

遺伝カウンセリング 

EOFADは常染色体優性遺伝形式をとる.EOFAD患者ではほとんどの場合,両親のどちらかがAD患者である.両親ともAD患者でないが,第2度近親者(おじ・おば・祖父母)にAD患者がいる(いた)例が時々みられる.EOFAD患者の子が変異を受け継ぎ発症する確率は50%である. PSEN1 変異、PSEN2変異またはAPP変異のリスクが高い妊娠に対する出生前診断は,家系内に原因遺伝子があることが既知である場合に可能であるが,成人期発症型疾患に対する出生前診断はあまりみられない.

訳注:日本では行われていない.


診断

臨床診断

AD(「アルツハイマー病概説」参照)は以下の徴候がみられる患者に診断される.

  1. 成人期発症型の緩徐な進行性認知障害
  2. 認知障害を引き起こす他の原因が存在しない
  3. 神経画像診断による大脳皮質萎縮所見
  4. アミロイドβ斑と神経原線維変化の剖検所見(国立老化研究所ワーキンググループ (National Institute on Aging Working Group) [1998]の「診断基準」参照).

EOFADは,家系内に60-65歳以下で発症した患者が2人以上がいる家族に診断されるが,発症年齢は55歳以下であることも多い.このような家系では通常2世代以上にわたって複数のAD患者が存在する.

分子遺伝学的検査

GeneReviewsは,分子遺伝学的検査について,その検査が米国CLIAの承認を受けた研究機関もしくは米国以外の臨床研究機関によってGeneTests Laboratory Directoryに掲載されている場合に限り,臨床的に実施可能であるとする. GeneTestsは研究機関から提出された情報を検証しないし,研究機関の承認状態もしくは実施結果を保証しない.情報を検証するためには,医師は直接それぞれの研究機関と連絡をとらなければならない.―編集者注.

遺伝子 EOFADは次にあげる遺伝子3個の変異に起因することがわかっている.

  • PSEN1 遺伝子
    • AD3はPSEN1変異に起因する [Larner & Doran 2006].
    • AD3はEOFADの30-70%を占める[Cruts & Van Broeckhoven 1998, Campion et al 1999, Rogaeva et al 2001, Lleo´ et al 2002, Janssen et al 2003].
  • PSEN2遺伝子
    • AD4はPSEN2変異に起因する.
    • AD4 はアメリカ在住の数家族に確認されており、イタリア系3家系[Bird et al 1988],イタリア系2家系[Finckh et al 2000, Marcon et al 2004],スペイン系2家系[Beyer et al 1998, Lleo´ et al 2001]である.ほとんどがヴォルガ・
    • ドイツ人(ドイツ系ロシア人)の末裔である.
    • PSEN2変異によるEOFADは全症例の5%未満である.
  • APP遺伝子
    • AD1はAPP変異に起因する[Van Broeckhoven 1995].
    • AD1はEOFAD全症例の10-15%程度である[Campion et al 1999].

他の遺伝子座

PSEN1PSEN2APPのいずれにも変異が認められず,常染色体優性遺伝形式でEOFAD発症を認める家系が報告されているため,他にもEOFADの原因遺伝子が存在する可能性がある[Cruts et al 1998, Janssen et al 2003].

臨床検査

PSEN1遺伝子

  • 標的変異解析 フィンランド人ではエクソン9にまたがる長さ4555bp(塩基対の数)の欠失が認められた[Crook et al 1998, Prihar et al 1999, Vekkoniemi et al 2000].この変異は他の民族では稀である.
  • シークエンス解析  コード領域および関連する非コード領域(イントロン)のシークエンス解析によって,EOFADを来たすことがわかっているミスセンス変異が検出される.この方法によって,エクソン9が欠失した転写産物を産むスプライス部位変異も検出される[Prez-Tur et al 1995].
  • 欠失/重複解析 稀にあるエクソン欠失または遺伝子の全欠失を検出するための全遺伝子のスクリーニングに用いる[Smith et al 2001].この検査によってフィンランド人にみられる4555bpの欠失も検出できる.

PSEN2遺伝子

  • シークエンス解析 コード領域のシークエンス解析によってEOFADを来すことがわかっているミスセンス変異を検出する.

APP遺伝子

  • シークエンス解析/変異スキャン 稀な重複(次の項目を参照)を除いて,あらゆる病因変異がエクソン16と17に限定して認められることがわかっている.ほとんどの変異がミスセンス変異またはナンセンス変異であり、挿入欠失が1件報告されている(表2).エクソン16と17がタンパク質切断によってできるAβペプチドをコード化するため,シークエンス解析はエクソン16と17に限定していることが多い.このため、エクソン16と17のみを配列決定する検査実施施設が,厳選したエクソンの配列決定または全コード領域の配列決定をするとしてリストに載っていることがある.検査施設に直接連絡することが勧められる.
  • 欠失/重複解析(FISH解析を含む) APPの重複は、APPの病因変異の1%未満である [Rovelet-Lecrux et al 2006].

表1にEOFADに対する分子遺伝学的検査をまとめた.

表1 EOFADに用いられる分子遺伝学的検査

遺伝子記号 EOFAD全体に占める割合 検査方法 同定される変異 変異検出率1 検査の実施可能性
PSEN1 30~70%2 標的変異解析 エクソン9の4555bp欠失(フィンランド人創始者突然変異)3 標的変異に関して100% 臨床レベル
シークエンス解析 配列変異体4 ~98%
欠失/重複解析5 フィンランド人創始者のエクソン9欠失をはじめ,遺伝子の部分欠失および全欠失 欠失に関して100%、稀である
PSEN2 5%未満 シークエンス解析 配列変異体4 ~100% 臨床レベル
APP 10~15% シークエンス解析/エクソン16と17のスキャン6 エクソン16および17の配列変異体4 99% 臨床レベル
欠失/重複解析5 遺伝子の部分重複および全重複 標的重複に関して100%

「検査の実施可能性」は,GeneTests Laboratory Dictionaryに掲載されている検査実施状況である.GeneReviewでは,分子遺伝学的検査に関して,その検査が米国のCLIA認可の研究機関または米国外の臨床研究機関によってGeneTests Laboratory Dictionaryに掲載されている場合に限り,その検査を臨床的に実施可能としている.GeneTestsは,研究機関が提出する情報の検証も,研究機関の認可状況および試験結果に関するいかなることも保証しない.情報を検証するためには,医師が直接それぞれの研究機関に連絡をとる必要がある.

  1. 表記の遺伝子に存在する変異を検出するために用いられた検査方法の精度
  2. PSEN1遺伝子変異同定率が最も高いのは,家系内にEOFAD患者(とくに患者の親)が存在する発症年齢60歳以下の早発型AD患者である[Rogaeva et al 2001, Lleo´ et al 2001, Janssen et al 2003, Tedde et al 2003].
  3. フィンランド人,この変異がほかの民族に観察されることは稀である.
  4. シークエンス解析によって検出される突然変異には,遺伝子内の小規模な欠失/挿入、ミスセンス変異,ナンセンス変異およびスプライス部位変異がある。
  5. ゲノムDNAのシークエンス解析によって容易に検出できない欠失/重複を同定するためには,定量PCR,long range PCR,多重ライゲーション依存性プローブ増幅法(MPLA),標的アレイGH(遺伝子/セグメント特異的)をはじめとする各種の方法が用いられるようである.

シークエンス解析結果の解釈

検出されうる変異1

  • 既に文献に報告されている病原性変異
  • 病原性と予測されるが過去の報告がない変異
  • 臨床的意義が予測不可能である未知の変異2
  • 良性であると考えられるが過去に報告がない変異
  • 既に報告されている良性の変異

変異が検出されない場合に考えられる可能性

  • 解析した遺伝子に変異がない(たとえば、別の遺伝子座にある別の遺伝子に変異がある)
  • 変異があってもシークエンス解析で検出できない(たとえば、配列の大部分削除、スプライス部位の削除)
  • 検査室で解析した範囲以外の遺伝子領域(たとえば、イントロンや調節領域)に変異がある
  1. ACMG Recommendations for Standards for Interpretation of Sequence Variations (2000)から適用.
  2. この変異が表現型から分離したものであるかどうかを決定するために家族性試験を用いることもある.

ある患者の末梢血リンパ球DNAにPSEN1変異が確認された.しかし、この患者の臨床症状は、同病の亡母の症状とは異なるものであった.亡母の診断は死後の神経病理に基づくものであった.追跡調査から、PSEN1変異のために母親には体細胞モザイク現象がみられたことが明らかになった.シークエンス解析を用いたところ、変異は大脳皮質DNAに検出されたが、末梢血リンパ球DNAには検出されなかった[Beckら 2004].

検査手順

発端者の診断目的

発端者の診断の確立には、分子遺伝学検査を実施して、EOFADに関連する3遺伝子のうち1個に病原性変異を確認することが必要である.

  • 家族歴に早期発症型ADがあるとき
    • EOFADの原因遺伝子として最もよくみられるPSEN1のシークエンス解析をまず 実施する.患者にフィンランド系の祖先がいる場合、最初にPSEN1を標的突然変異として解析を実施することが可能である.
    • 変異が確認されない場合、APPのエクソン16と17およびPSEN2のシークエンス解析を実施する.

注)APPおよびPSEN1の重複解析は、その目的がさらに稀な変異を検査することである場合に限り、必要である.

  • 単発例(一家族に罹患者がひとり)では、試験方法に差はないが、病因変異が見つかる可能性は比較的低い(Lleo´ et al による試験では~6% [2002]).一方、単発例に突然変異が見つかる可能性は発症年齢が低下するほど高くなり、特に50歳未満で発症した患者では見つかる可能性が高い.

注)突然変異の検出頻度は、家族歴に関係なく、晩期発症型AD患者では低い.PSEN1に変異がある患者の90%が60歳までに発症している.

リスクのある無症候の成人家族の発症前診断には、家系内の病因変異が事前に特定されていることが必要である.

リスクのある妊娠に対する出生前診断と着床前診断(PGD)には家系内の病因変異が事前に特定されていることが必要である.

注)GeneReviews の方針として、GeneTests Laboratory Dictionaryに掲載されている検査の実施状況を入れることにしている.ただし、そのような利用に対する著者、編者および評者の賛同を必ずしも得ているものではない.

遺伝子レベルでの関連疾患

PSEN1遺伝子・PSEN2遺伝子  家系内の PSEN1遺伝子とPSEN2遺伝子の変異が、拡張型心筋症のみではあるが関連することを示す報告が1件ある[Li et al 2006].

APP遺伝子  APP変異によるもうひとつの疾患に遺伝性アミロイド性脳出血(オランダ型)がある.この疾患では認知症と脳内アミロイド斑はあまりみられない.この疾患はAPP遺伝子のGlu693Gly変異によるものである.


臨床像

自然経過

ADは些細な記銘力の低下に始まることが多い[Godbolt et al 2004, Ringman et al 2005].数年かけて徐々に記銘力障害は重症化し最終的には人格崩壊に至る.よく見られる症候にはこのほか,混迷,判断力低下,言語障害,興奮,引きこもり,幻覚がある.痙攣,パーキンソン症状,筋緊張亢進,ミオクローヌス,失禁,無言がみられる患者もいる[Cummings et al 1998].通常,全身衰弱,低栄養,肺炎が死因となる.

AD3(PSEN1変異)

発症年齢は通常40歳代から50歳代前半である.30歳代や60代前半での発症も報告されている.65歳以降の発症は稀であると考えられている.通常6~7年間と比較的短期間に病状が進行し,痙攣,ミオクローヌス,言語障害を伴う場合も多い[Fox et al 1997, Gustafson et al 1998, Mene´ndez 2004].いくつかの家系では「綿花状」アミロイド斑を伴う痙性対麻痺がみられる[Crook et al 1998, Brooks et al 2003, Ataka et al 2004, Hattori et al 2004, Rman et al 2007].

APOE e4アレルが発症年齢に影響を及ぼしている可能性がある[Wijsman et al 2005](「アルツハイマー病概説」参照).

脳脊髄液中のアミロイドβ42レベルは, 未発症のPSEN1変異保因者では低いと報告されている[Moonis et al 2005].

PiBによるPET画像診断によって,PSEN1変異保因者の線条体にアミロイド沈着の初期像が確認できる[Klunk et al 2007].

AD4(PSEN2変異)  

AD4の発症年齢層はAD1やAD3に比べて幅が広い.発症年齢は40~75歳であり,80歳以上の未発症者も少数存在する[Bird et al 1996].平均罹患期間は11年である.Jayadevら[2010]が、PSEN2遺伝子に変異がある家系の臨床、病態および遺伝学的に関して詳細に検討している.

APOE e4アレルは発症年齢に影響を与える(「アルツハイマー病概説」参照)[Wijisman et al 2005].

AD1(APP変異) APP変異をもつ家系に観察される認知症はADの典型的症状である.発症年齢は通常40歳代から50歳代であるが,60歳代のこともある.アミロイド斑や神経原線維変化に加えて神経細胞封入体であるレビー小体がみられる患者も少数いる[Revesz et al 1997].

APOE e4アレルのホモ接合が若年発症に関わっている可能性がある(「アルツハイマー病概説」参照).

神経病理学

PSEN1変異(AD1),PSEN2変異(AD4)によって脳内にアミロイドβの過剰な沈着が起こり[Mann et al 1997],神経原線維変化とアミロイド血管症を来す.レビー小体もよくみられる[Leverenz et al 2006].

遺伝子型と臨床型の関連

PSEN1遺伝子

  • 脳出血を伴う初老期認知症はAPP遺伝子のAla692Gly変異により起こる.
  • PSEN1変異のある患者とPSEN2変異のある患者の間にみられる発症年齢および罹病期間の差の一部には、膜貫通領域2,4,6の変異が関係している[Lippa et al 2000].
  • 人格変化と行動変化を伴う前頭側頭型認知症はPSEN1遺伝子のLeu113Pro変異[Raux et al 2000]やVal89Leu変異[Quaeralt et al 2002]と関連がある.
  • 発症当初の精神症状はPSEN1遺伝子Leu392Pro変異とMet139Val変異をもつ家系に観察されている[Tedde et al 2000, Rippon et al 2003].
  • 早期の痙性対麻痺はPSEN1遺伝子エクソン9欠失に起因する[Crook et al 1998, Verkkoniemi et al 2000, Brooks et al 2003].
  • Go´mez-Islaら[1999]は、アミロイド斑と神経原線維変化という神経病理学的徴候がさまざまなPSEN1変異に関連していることを示した.
  • レビー小体病を伴う超早期発症型(平均発症年齢30歳代)は、PSEN1遺伝子のMet233Val変異とTyr256Ser変異に関連がある[Miklossy et al 2003].
  • PSEN1遺伝子のc.548G>T変異とc.436A>C変異は,ピック病の病理学的変化に関連している[Dermaut et al 2004, Halliday et al 3005]
  • 50歳代から70歳代に発症する遅発型家族性ADは、PSEN1遺伝子のAla79Val変異とArg269His変異に関連している[Brickell et al 2007, Kauwe et al 2007, Larner et al 2007].
  • 小脳のプルキンエ細胞消失とPSEN1遺伝子のSer170Phe変異との関連が報告されている[Piccini et al 2007].

APP遺伝子

  • 脳出血と初老期認知症の併発はAPP遺伝子のAla692Gly変異に起因する[Roks et al 2000].
  • Di Fedeら[2009]の報告によれば、ホモ接合ではAPP遺伝子のAla673Val変異のみが病因である.したがって、常染色体劣性遺伝である.
  • スウェーデン人の1家系にみられるAPP遺伝子のGlu693Gly変異(「北極」変異)はアミロイドβ線維状構造体形成促進[Nilsberth et al 2001]および著明なコンゴーレッド親和性血管障害[Basun et al 2008]に関連がある.
  • EOFADはAPPの遺伝子座重複と関連がある[Rpve;et-Lecrux et al 2006].アミロイド血管症[Sleegers et al 2006]およびレビー小体症[Guyant-Marechal et al 2008]がAPP遺伝子重複のある単一家族に認められている.

浸透率 

AD3(PSEN1変異) 変異保有者は65歳までに発症する.例外として、Ala79Val変異およびArg269His変異に起因する晩期発症型も時にある[Brickell et al 2007, Kauwe et al 2007, Larner et al 2007].

AD4(PSEN2変異) 浸透率は約95%である.80歳以上のPSEN2変異保因者がADの主症状を呈さないことが稀にある.

促進現象

促進現象は報告されていない.

頻度 

Campionら[1999]は,早発型AD発症のリスクがある集団すなわち40~59歳では,罹患率が人口10万人中41.2人であることを明らかにした.

  • 早発型AD患者の61%に家族歴があり,13%には3世代にわたって家系内にAD患者がいる[Campion et al 1999].
  • 全AD症例のうちEOFADが占める割合は3%以下である.
  • 祖先がヴォルガ・ドイツ人(ドイツ系ロシア人)系の家族には、現代ドイツで報告されたPSEN2遺伝子の創始者(422>T)変異がみられる家族もある[Nikisch et al 2008, Jayadev et al 2010, Yu et al 2010].
  • EOFAD家系の40~80%に,APP遺伝子,PSEN1遺伝子またはPSEN2遺伝子のいずれかに変異がみられる(PSEN1変異が最も多い)[Janssen et al 2004, Kowalska et al 2003, Tedde et al 2003].家系内でただ1人,50代で発症するEOFADの孤発例にこのような変異が認められる頻度に関する報告はないが,低いようである (5%未満).その頻度は50歳未満で発症した患者の方が高い.
  • APP遺伝子重複はごく稀である.スウェーデンおよびフィンランドでスクリーニングしたEOAD患者(75家系)141人には認められなかった[Blom et al 2008].
  • 全AD症例のうちEOFADが占める割合は3%以下である.
  • PSEN1変異は, 日本人[Furuya et al 2003, Hattori et al 2004], アフリカ系アメリカ人[Rippon et al 2003]およびアフリカ系黒人[Heckmann et al 2004]の家系にみられることが報告されている.Ala431Glu創始者変異はメキシコ人[Yescas et al 2006],Glu280Ala創始者変異はコロンビア人[Glu280Ala],839A>C創始者変異はカリブ海系ヒスパニック人[Athan et al 2001]の家系にみられることが報告されている.

鑑別診断

本稿で扱われる疾患に対する遺伝学的検査の実施可能性に関する最新情報は,GeneTests Laboratory Directoryを参照のこと.―編集者注.

AD患者の約75%にはADの家族歴がなく,約25%はいくつかの遺伝学的サブグループに分類できる.家族性症例は,臨床的にも病理学的にも病態が非家族性症例と同じであると考えられるため、家族歴があることが唯一の決め手である (「アルツハイマー病概説」参照). 早発型AD症例が遅発型AD患者の多い家系にみられる場合も時にある[Brickell et al 2006].

早発型認知症の遺伝的原因にはこのほか、前頭側頭型認知症の諸病態(たとえば,17番染色体に連鎖しパーキンソン病状を伴う前頭側頭型認知症 (FTDP-17),骨パジェット病と前側頭葉型認知障害を伴う遺伝性封入体筋炎(IBMPFD),PGRN関連前頭側頭型認知症,CHMP2B関連前頭側頭型認知症,前頭側頭型認知症を伴う筋萎縮性側索硬化症[ALD][「ALS概要」参照])および,ハンチントン病,プリオン病,カダシル(CADASIL)をはじめとする稀な神経変性疾患がある.


臨床的マネジメント

最初の診断時における評価

EOFADの診断を受けた患者の疾患の程度を確定するために,以下の評価が推奨される.

  • 経過(とくに最初の症状,罹患期間,進行度).特に、45歳未満で発症すると加速的に進行する恐れがある。
  • 検査(とくに精神状態)
  • MRI, PET画像診断.MRIにより重症の皮質萎縮またはPETにより著明な代謝障害が認められれば、疾患がさらに進行していることを示唆している。

症状に対する治療

支持療法が主体となる.各患者の状態に合わせた対症療法が行われる[Clare 2002].一般的に患者は日常生活上の介護や看護施設におけるケアを必要とするようになる.

ADの正確な生化学的機序は解明されていないが,脳内のコリン作動系をはじめ、神経伝達物質に障害があることがわかっている.コリンエステラーゼ阻害剤タクリンのようなコリン作動性作用を亢進させる薬剤は承認されており,わずかながら効果がみられる.アリセプト(ドネペジル),エクセロン(リバスチグミン),レミニール(ガラタミン)がこのような薬剤にあたる [Rogers et al 1998, Farlow et al 2000, Raskind et al 2000, Feldman et al 2001, Mohs et al 2001, Seltzer et al 2004].

NMDA受容体拮抗薬メマンティンもAD治療薬として承認されている [Reisberg et al 2003].

うつ症状,攻撃性,睡眠障害,痙攣,幻覚には薬物療法と行動療法が必要である.うつ症状と痙攣に対しては症状にふさわしい薬剤に用いて治療しなければならない.

歩行や日常生活動作の問題に対しては,理学療法や作業療法が有用となることがある.

経過観察

二次的な合併症を発見し治療するためには月に1度の定期診察が望ましい.

回避すべき薬物や環境

急激な環境変化と過度の鎮静は避けるべきである.

リスクのある親族への検査

発症リスクのある親族への検査に関しては「遺伝カウンセリング」の項を参照.

研究中の治療法

非ステロイド系抗炎症薬(NSAIDs),脂質降下薬,ビタミンE,βセクレターゼ阻害剤,アミロイドβワクチンは,AD治療薬としての有効性が研究されているところである[Lahiri et al 2003].このうちいずれの薬物療法もEOFAD患者を対象に系統的に評価されていない.

晩期発症型AD患者を対象にアミロイドAβ42ワクチン療法を用いた臨床試験では患者の6%が脳炎を発症したため、試験中止となった[Holmes et al 2008].

抗Aβモノクローナル抗体を治療に用いた臨床試験では、主な有効性を解析したところ、統計的に有意な差はなかった[Salloway et al 2009].

γ-セクレターゼ阻害剤(tarenflurbil)を用いた臨床試験では有効性は明らかではなかった[Green et al 2009].

NSAIDの後ろ向き研究では、保護作用の可能性が明らかであったもの[Vlad et al 2008]と保護作用がなかったもの[Breitner et al 2009]とがあることがわかった。

種々の疾患の臨床試験に関してはClinicalTrial.govを参照のこと.

その他

Genetics Clinicsには遺伝学の専門家が常勤しており、患者や患者の家族に対して自然経過,治療,遺伝形式,患者家族の遺伝的発症リスクに関する情報を提供とするとともに,患者向けのリソースに関する情報も提供している.

支援グループは,患者やその家族に情報,支援,他の患者との交流の場を提供する.「関連情報」には疾患別の支援グループや複数疾患にまたがった支援グループが掲載されている.

遺伝カウンセリング

「遺伝カウンセリングは個人や家族に対して遺伝性疾患の本質,遺伝,健康上の影響などの情報を提供し,彼らが医療上あるいは個人的な決断を下すのを援助するプロセスである.以下の項目では遺伝的なリスク評価や家族の遺伝学的状況を明らかにするための家族歴の評価,遺伝子検査について論じる.この項は個々の当事者が直面しうる個人的あるいは文化的な問題に言及しようと意図するものではないし,遺伝専門家へのコンサルトの代用となるものでもない.」

遺伝形式

EOFADは常染色体優性遺伝形式をとる.

患者家族のリスク

発端者の両親

  • EOFADと診断されたほとんどの患者には,EOFADの親がいる.EOFADの発症年齢は通常成人期初期であり,病状が急速に進行するため,罹患していた親は自分の子が診断を受けた時点では死亡している.
  • 時に,どちらの親もEOFAD患者ではないが,第2度近親者(おじ・おば・祖父母)にEOFAD患者がいる(いた)場合もある.
  • EOFADの発端者が新生突然変異により発病する可能性もあるが,そのような報告はない.

注:EOFADと診断されたほとんどの患者にはEOFADの親がいるが,家族歴がない場合もある.これは家系内の疾患に気づかない場合,発症前の親の早期死亡,低浸透率によるためである.

発端者の同胞 

  • 兄弟姉妹の発症リスクは発端者の両親の遺伝的状況による.
  • 発端者の両親のどちらかが発症している場合もしくは病因変異をもつ場合,その変異が兄弟姉妹に遺伝している確率は50%である.
  • 両親とも臨床的に発症していない場合,発端者の兄弟姉妹が発症するリスクは低いと考えられる.

発端者の子

子が変異遺伝子を受け継ぐ確率は50%である

発端者の他の家族

他の親族の発症リスクは発端者の両親の遺伝的状況による.両親のどちらかがADを発症してい れば,その親族は発症リスクを有する.

遺伝カウンセリングに関連した問題

明らかに新生突然変異によると考えられる家族への配慮

発端者の両親のどちらにも常染色体優先遺伝形式で病因変異がみられない場合,発端者に新生突然変異が生じた可能性がある.一方,(生殖補助などにより)父親または母親が異なる可能性や明らかにされていない養子縁組をはじめ,非医学的な説明を考えることもできる.

家族計画 

  • 遺伝的リスクの評価や出生前診断の可否についての検討は妊娠前に行うのが望ましい.同様に無症状の家族に対する遺伝学的検索も妊娠前に行うべきである.
  • 若年成人のEOFAD患者やEOFAD発症リスクのある若者には,自分の子どもへのリスクや出産方法の選択肢(reproductive options)といった事柄を含む遺伝カウンセリングを提供するのが適切である.

リスクのある無症状の家族に対する検査 

EOFAD発症リスクを有する無症状成人に対するPSEN1PSEN2APP変異の検査は臨床的に可能である.このような検査は,無症状者の発症年齢,重症度,症状,進行度の予測には有効でない.リスクのある成人に対して検査を行うときには,家系内ですでに発症している患者をまず検査して、家系内の変異を確定しておかなければならない.不確かな 症状を呈するリスク保持者に病因変異が認められたとしても,その疑わしい症状と同定された変異との関連を実証したことにならないどころか,その関連すら疑わしい.

確実な診断基準となる症状がない場合,病因変異の検査は発症前診断とみなされる.

リスクのある家系内の無症状成人は妊娠,経済的問題,職業選択といった個人的決断をするにあたって検査を希望するかもしれない.単に「自分のことを知りたい」という理由だけで検査を希望する場合もあるだろう.検査を希望する,EOFAD発症リスクを有する無症状成人に対しては,事前に検査の希望動機,EOFADの知識,検査結果(変異の有無)が及ぼす影響について質問し,神経学的な状況について評価するのが一般的である.検査を希望する人は,健康保険,生命保険,傷害保険の補償範囲について,また雇用差別,教育差別,社会的家族的人間関係の変化といった起こりうる問題について,カウンセリングを受けるべきである.このほか、他の家族のEOFAD発症リスクの状況に対する影響にも考慮が必要である.そのような検査にはインフォームド・コンセントが推奨されている.検査結果が外部に漏れることのないように情報を保護し、検査を受けた人が長期にわたる経過観察と検査を確実に受けられるように、十分な措置をとる必要がある.EOFADまたはMAPT関連障害の発症リスクがある21人に関する研究では,発症前診断を受けた人のほとんどが有効な状況適応能力を発揮したことをSteinbart et al [2001]が報告しているが、その長期的効果は不明である.

リスクのある子どもに対する検査

成人期発症性疾患のリスク保持者に対して,無症状の小児期に発症前診断をするべきではないというのが一致した意見である.無症状の子どもに対して発症前診断をするべきではないとする最大の根拠は,彼らの知る権利・知らないでいる権利が剥奪されるという点であり,家族関係やその他の社会的人間関係のなかで烙印付けがされる可能性があるという点あり,教育や職業への影響が深刻なものになりうるという点である.子どもの遺伝子検査に関するアメリカ遺伝カウンセラー学会の決議文も参照のこと.アメリカ人類遺伝学会は考慮すべき点として,小児期および青年期における遺伝子検査の倫理的,法的,心理社会的影響を挙げている.

DNAバンク

DNAバンクは主に白血球から調整したDNAを将来利用することを想定して保存しておくものである.検査技術や遺伝子、変異、あるいは疾患に対するわれわれの理解が将来さらに進歩すると考えられるので,DNA保存が考慮される.このサービスを実施している機関については研究所リストの「Testing」を参照のこと.

出生前診断

PSEN1変異のリスクが高い妊娠に対する出生前診断は,通常胎生週数15~18週ごろに実施される羊水検査や胎生週数10~12週ごろに実施される絨毛検査 (CVS)で採取した胎児細胞のDNA分析によって可能である.家系内患者に病因アレルが存在することが,出生前診断の実施条件である.

注:胎生週期とは最終月経の開始日または超音波による測定に基いて計算される.

EOFADのような成人期発症性疾患に関する出生前診断の希望は稀である.出生前診断を行うことに対しては,専門医のあいだでも家族内でも考え方が異なるだろう.特に,検査が早期診断ではなく妊娠中絶の目的として考慮される場合にはなおのことである.ほとんどの医療機関では出生前診断を受けるかどうかの決定は両親の選択に委ねると考えるであろうが,この問題に関しては話合いが必要である.

着床前診断

APP病因変異を有する30歳の無症状女性に対して着床前診断と胚移植が行われ,順調に妊娠に至り、母親とその家系に同定されているAPP病因変異をもたない健康な子どもが生まれた [Verlinsky et al 2002].Towner & Loewy [2002]および Spriggs [2002]が、両親と医療スタッフの決定から生じるいくつかの倫理問題を特定している.

着床前診断は病因変異が同定された家族に対して利用可能である.PGDを実施している機関に関しては「Testing」を参照のこと。

訳注:日本では行われていない.


更新履歴

  1. Gene Review著者: Thomas D Bird, MD
    日本語訳者: 窪田美穂(ボランティア翻訳者),櫻井晃洋(信州大学医学部附属病院遺伝子診療部)
    Gene Review 最終更新日: 2007.10.2. 日本語訳最終更新日: 2008.3.18.
  2. Gene Review著者: Thomas D Bird, MD
    日本語訳者: ギボンズ京子(ボランティア翻訳者),櫻井晃洋(信州大学医学部附属病院遺伝子診療部) 
    Gene Review 最終更新日: 2010.12.23.  日本語訳最終更新日: 2012.11.1 (in present)

原文 Early-Onset Familial Alzheimer Disease

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