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ファブリー病(αガラクトシダーゼ欠損症)
(
Fabry Disease)
[Alpha-Galactosidase A Deficiency (GLA Deficiency), Anderson-Fabry Disease. Includes: Classic Fabry Disease, Cardiac Variant Fabry Disease]

Gene Review著者: Atul Mehta, MA, MD, FRCP, FRCPath ,Derralynn A Hughes, MA, DPhil, MRCP, MRCPath
日本語訳者: 福嶋義光(信州大学医学部遺伝医学・予防医学講座教授、信州大学医学部附属病院遺伝子診療部長)

Gene Review 最終更新日: 2008.2.26. 日本語訳最終更新日: 2008.3.29.

原文 Fabry disease


要約

疾患の特徴

ファブリー病はαガラクトシダーゼ(α-Gal A)の酵素活性の低下と全身の細胞のグロボトリアオシルセラミド(GL-3)の進行性のライソゾーム蓄積によって引き起こされる.古典型はα-Gal A活性が1%未満の男性に起こり,通常,その発症は小児期あるいは思春期で,周期的な四肢の激痛発作(acroparesthesias),血管皮膚病変(angiokeratomas)の出現,減汗症,特徴的な角膜・水晶体混濁,タンパク尿などで始まる.次第に腎機能が低下し,30〜40歳代で腎機能は廃絶する.腎不全が良好に管理されている男性患者においても,中年期以降,多くの症例で,心血管病変,脳血管病変が進行し,主たる死亡原因となる.ヘテロ接合保因者の女性は,生涯を通じて無症状である場合,加齢とともにいくつかの症状が出現する場合,あるいは稀には古典型男性と同様の重い症状が出現する場合がある.

一方,α-Gal A活性が1%以上の男性患者では心変異型(cardiac variant)あるいは腎変異型(renal variant)の病型を呈する.心変異型は通常60〜80歳代で,左室肥大,僧帽弁閉鎖不全,心筋症,タンパク尿で発症するが,腎不全にはならない.腎不全を伴う腎変異型で皮膚病変や疼痛発作を伴わない症例も報告されている.

診断・検査 

男性患者における最も効果的で信頼のおける診断方法は,血清,分離された白血球,培養細胞を用いて,αガラクトシダーゼ(α-Gal A)の活性の低下を示すことである.女性においてはα-Gal A活性の測定は信頼できない.α-Gal A活性の低下を証明することができれば保因者であることを証明できるが,多くの保因者ではα-Gal A活性は正常である.GLA はファブリー病に関連した唯一の遺伝子であり,ほとんど100%の男性患者において変異を同定することができる.分子遺伝学的検査が,保因者女性の診断には最も信頼のおける方法である.

治療 

対症療法としては,四肢の激痛発作(acroparesthesias)の痛みを軽減するためのジフェニールヒダントイン,カルバマゼピン,ガバペンチン,タンパク尿を軽減のためのACE阻害剤,腎不全に対する腎透析,腎移植などがある.専門家はファブリー病の男性患者では,小児期からでもあるいは透析中,腎移植後であっても,できるだけ早期から酵素補充療法を開始することを推奨している.また,明らかな疾患を有する女性患者の場合も同様である.その理由は,これらファブリー病患者は心血管病変,脳血管病変,神経学的合併症に対してリスクが高いからである.

二次的病変の予防のために,腎血管病変,虚血性心疾患,および脳血管病変に対する注意は一般人と同様である.1年に1度以上の腎機能検査,心臓病検診,聴力検査の実施が勧められる.喫煙は厳禁である.罹患者の分子遺伝学的検査の結果,病気の原因となる変異がわかった場合には,at riskの血縁者の検査を行ない,罹患した血縁者を同定すべきである.それは罹患した血縁者ができるだけ早く酵素補充療法を開始することができるようにするためである.

遺伝カウンセリング 

ファブリー病はX連鎖劣性遺伝形式で遺伝する.家系内に2人以上罹患者がいる場合には男性患者の母親は絶対的保因者である.家系内で男性が一人だけ罹患している場合でも,その母は保因者である可能性が高い.しかし稀に新生突然変異により,家系内で一人の男性だけが罹患することがある.保因者の母親はそれぞれの妊娠ごとに,50%の確率で,GLA 遺伝子の変異を次世代に伝える.男性患者の娘はすべて絶対的保因者である.病気の原因となる変異がその家系内で明らかにされていれば,at riskの血縁者の保因者診断およびリスクのある妊娠における出生前診断は可能である(訳者注:出生前診断を日本国内で行なうことは困難と思われる).


診断

臨床診断

ファブリー病は次の症状を有する男性および女性においては考慮されるべきである.

  • 周期的な四肢の激痛発作(acroparesthesias),
  • 血管性皮膚病変(angiokeratomas)
  • 減汗症
  • 特徴的な角膜・水晶体混濁
  • 脳卒中
  • 左室肥大
  • 原因不明の腎不全

検査

αガラクトシダーゼ A 酵素活性

  • 男性 

男性患者における最も効果的で信頼のおける診断方法は,血清,分離された白血球,培養細胞を用いて,αガラクトシダーゼ(α-Gal A)の活性の低下を示すことである.検査はfluorometric assay で,基質として 4-methylumbelliferyl- α-D-galactopyranoside を用いる.

注:酵素活性は血清と白血球の両者で測定すべきである.いくつかの病的変異(Asn215Ser など)では,細胞内における酵素の輸送,梱包,分泌に障害を引き起こし,白血球中の酵素活性に比べて,血清中の酵素活性がきわだって低値を示すことが知られている.

  • 古典型ファブリー病男性患者ではα-Gal A活性は1%未満である.
  • 心変異型,腎変異型のファブリー病男性患者は正常値の1%以上の残存活性を有している

ヘテロ接合の女性 

αガラクトシダーゼ(α-Gal A)の酵素活性の測定は保因者検索には用いられない.酵素活性値が明らかに低下している場合は保因者と診断できるが,保因者であってもα-Gal Aの酵素活性が正常範囲であることも多い.

分子遺伝学的検査

遺伝子:GLA がファブリー病に関係する唯一の遺伝子である.

臨床的検査

  • シーケンス法:完全な遺伝子シーケンス法により,α-Gal A酵素活性の低下の認められるすべての男性において,GLA 遺伝子の変異が同定される.
  • 変異スキャン:dHPLC (denaturing high performance liquid chromatography)は野生型DNAと変異型DNA間でのヘテロ二重構造を観察することにより,変異部位の迅速な検出が可能である.変異部位の存在するエクソンをシーケンスすることにより変異を明らかにすることができる[Shabbeer et al 2005].
  • 欠失の検出:エクソン欠失あるいは全遺伝子欠失を有するヘテロ接合女性が次の条件を満たす場合には,いくつかの方法がある.
  • 家系内で唯一の罹患者であり,シーケンス法で病的変異が検出されない場合
  • 家系特異的なエクソン欠失あるいは全遺伝子欠失が明らかになっている家系の場合 

表1.ファブリー病で用いられる分子遺伝学的検査

検査方法

検出される変異

検査方法によって変異が検出される頻度

検査の利用可能性

罹患男性

保因者女性

シーケンス法,変異スキャン

GLAシーケンス変異

〜100%

不明

臨床的

GLAエクソン・全遺伝子欠失

0%

欠失検査

GLAエクソン・全遺伝子欠失

不要

不明

  1. αガラクトシダーゼ(α-Gal A)の酵素活性の低下を示している男性
  2. シーケンス法,変異スキャンではヘテロ接合女性のX染色体上のGLAエクソン・全遺伝子欠失を検出することはできない.
  3. MLPA やreal time PCRなどいくつかの方法がある.
  4. 罹患男性ではシーケンス法,変異スキャンでX染色体上のGLAエクソン・全遺伝子欠失を検出することができる.

検査結果の解釈

  • DNA配列の変化が検出された場合
    • すでに報告されている病気の原因と考えられるDNA配列の変化
    • 病気の原因であると予想されるが,文献上まだ報告されていないDNA配列の変化
    • まだ臨床的意義がわかっていないDNA配列のバリエーション
    • 病気の原因ではないと予想されるが,文献上まだ報告されていないDNA配列の変化
    • すでに報告されている病気の原因ではないと考えられるDNA配列の変化
  • DNA配列の変化が検出されなかった場合の可能性
    • 被験者は調べた遺伝子に変異が存在しなかった(他の遺伝子にDNA配列の変化がある)
    • 被験者にシーケンス分析では検出できないDNA配列の変化がある(大きな欠失やスプライシング部位の欠失など)
    • 被験者には,この遺伝子領域のDNA配列の変化がある(検査室レベルの検査ではカバーされないイントロンや調節領域など)

GLA遺伝子では多型や稀なシーケンスバリアントが数多く記録されている.最も一般的なのは Asp313Tyr であり,当初その頻度は0.45%であると報告された[Yasuda, Shabbeer, Benson et al 2003].しかし,その頻度は10倍であるという報告もある[Gal et al 2006].これが,病的変異を有する男性患者の5%に Asp313Tyr が報告されてきた理由である.

検査計画

男性患者における確定診断 

血清,分離された白血球を用いて,αガラクトシダーゼ(α-Gal A)の酵素活性を測定する.

注:酵素活性は血清と白血球の両者で測定すべきである.いくつかの病的変異(Asn215Ser など)では,細胞内における酵素の輸送,梱包,分泌に障害を引き起こし,白血球中の酵素活性に比べて,血清中の酵素活性がきわだって低値を示すことが知られている.

分子遺伝学的検査によりGLA 遺伝子の変異が同定されれば,診断はより強固なものとなる.

保因者であることを疑われた女性

  • 血清あるいは分離された白血球でαガラクトシダーゼ(α-Gal A)活性値の明らかな低下が認められれば保因者であると言える.
  • αガラクトシダーゼ(α-Gal A)活性値が正常範囲であった場合,保因者であるかどうかをはっきりさせるためには分子遺伝学的検査が必要である.

注:at riskの女性の保因者診断には通常,事前にその家系内での病的変異を明らかにしておく必要がある.

リスクのある妊娠の出生前診断・着床前診断

リスクのある妊娠の出生前診断・着床前診断を行なうためには,事前にその家系内での病的変異を明らかにしておく必要がある.(訳者注:出生前診断あるいは着床前診断を日本国内で行なうことは困難と思われる).

遺伝学的に関連する疾患

古典型ファブリー病およびその変異型以外に,GLA 遺伝子の変異が関与する疾患はない.


臨床像

自然歴

ファブリー病の病型は重症の古典型から腎不全は伴うものの特徴的な皮膚病変や四肢の痛みを伴わない腎変異型,さらにより軽症の心変異型まで多様である.古典型が最も多いが,高齢になって発症する非典型例は診断されていない可能性がある[Sachdev et al 2002, Nakao et al 2003].ファブリー病実態調査(FOS; Fabry Outcome Survey),ファブリー病登録事業など国際的で多施設共同の取組みはファブリー病の自然歴および酵素補充療法の効果を明らかにしようとしており,本疾患の新しいデータソースとして重要である[Mehta et al 2004, Eng et al 2007].

表2:古典型および変異型ファブリー病の主な症状

症状
古典型 
腎変異型
心変異型
発症年齢 4〜8歳 >25歳 >40歳
死亡時平均年齢 41歳 >60歳 >60歳
被角血管腫 ++ n n
四肢疼痛発作 ++ n/+ n
低(無)汗症 ++ n/+ n
角膜・水晶体混濁 n n
心筋梗塞/左室肥大 左室肥大 左室肥大・心筋症
一過性脳虚血 / 脳卒中 n n
腎不全 腎不全 タンパク尿
α-Gal A残存酵素活性 <1% >1% >1%

n = 多様(訳者注)

古典型ファブリー病

男性患者

古典型ファブリー病の男性患者の主な臨床症状はαグロボトリアオシルセラミド(GL-3)が進行性に血管内膜細胞のライソゾームに蓄積によって引き起こされる.通常,その発症は小児期あるいは思春期で,周期的な四肢の激痛発作(acroparesthesias),血管皮膚病変(angiokeratomas)の出現,減汗症,特徴的な角膜・水晶体混濁などで始まる.タンパク尿は早期からみられるが,腎不全となるのは30〜40歳代である.

被角血管腫(angiokeratoma)

被角血管腫は皮膚の表層の個々の点状の暗赤色から青黒色の血管拡張の集族として認められる.この病変は平坦あるいは少し盛り上がっており,圧をかけても白くならない.大きな病変部では軽度の角質の増加が認められる.病変の集族は臍部から膝にかけてが最も密である;臀部,背部,大腿部,ふくらはぎ,陰茎,陰嚢にも認められ,両側対称性におこる傾向がある.しかし,分布パターンや密度については,広いバリエーションがある.口腔粘膜,結膜,その他の粘膜もよくおかされる.

被角血管腫はしばしばファブリー病の最も早期からの症状の一つである.

これらの皮膚血管病変の数と大きさは,年齢とともに進行性に増加する.ファブリー病実態調査による714名(男性345名,女性369名)の患者データによれば,被角血管腫が認められたのは男性患者のうち66%,女性患者のうち36%であった[Orteu et al 2007].皮膚血管病変の存在はファブリー病の全身病変の重症度と関係していることが,Mainz重症度判定法により推定されている[Whybra et al 2005].

皮膚病変が全くないかあるいは軽度の古典型の患者も報告されている.血管拡張に気付かれていなくても,詳細な皮膚の観察,とくに陰嚢と臍部の観察により,限局した皮膚病変を発見できることがある.

疼痛(四肢疼痛発作)

四肢遠位部の苦しく焼けるような疼痛発作が小児期あるいは思春期早期に始まることが多く,このことがこの病気の発症に気づかせる.この発作は数分から数日続く.通常,運動,疲労,感情的ストレス,気温や湿度の急激な変化などがきっかけとなる.しばしばこの痛みは四肢近位部あるいは他の部位に放散する.腹痛やわき腹痛の発作は虫垂炎や尿路結石に間違われる可能性がある.

通常,この疼痛発作は加齢とともに頻度および重症度が減少するが,中には頻度が増し,あまりの痛さに耐えられず,自殺まで考えるようになる者もいる.

四肢疼痛発作はおそらく末梢神経を栄養する小血管にグリコスフィンゴリピッドが蓄積することにより引き起こされる.血管内皮のグリコスフィンゴリピッドの蓄積が血管lumen を狭め,血管攣縮や梗塞をおこし,これが耐え難い痛みを引き起こす.

無汗症

無汗症,より一般的には低汗症は,最も早期からの頻度の高い所見である.ファブリー病実態調査によれば,女性患者の12%,男性患者の6.4%にみられる[Lidove et al 2006].

眼症状

角膜,水晶体,結膜,網膜はすべて病変がおきる可能性がある.

特徴的な角膜混濁はスリットランプ顕微鏡で観察され,男性患者およびほとんどの女性保因者に見られる.最も早期の角膜病変は上皮下層のびまん性の濁りである.経過とともに,混濁は渦巻き状のすじとして現れ,中心のうずから角膜の周辺に拡がる.渦巻き状の混濁は典型的には薄いクリーム色であるが,白色から金褐色まで幅があり,ときには極めて薄いこともある[Nguyen et al 2005].ファブリー病実態調査によれば,渦巻き状角膜混濁は眼科学的精査を行なえば,女性患者の77%,男性患者の73%に認められる.

水晶体の変化は男性患者の約30%に認められ,顆粒状の被膜内あるいは被膜下の蓄積物,および疾病特異的な水晶体混濁(ファブリー白内障)が見られる.白内障は瞳孔を拡大し retroillumination を用いたスリットランプ検査で最もよく観察できるが,後部水晶体被膜上あるいはその近くに細い顆粒状の物質あり,白色のスポーク状の蓄積物として認められる.これらの線は通常は後部皮質の中央部分から放射状に拡がっている.

角膜および水晶体の混濁は視力を障害しない.

結膜および網膜血管の動脈瘤的拡張や蛇行も認められる.ファブリー病実態調査によれば,血管の蛇行はより重症な患者において高頻度に認められる[Sodi et al 2007].

心血管疾患および脳血管疾患

古典型の男性患者は中年期になると心血管疾患および脳血管疾患を発症する.腎不全に対して血液透析や腎移植が行われるようになってからはとくに,心血管合併症は死亡の大きな原因である.

僧帽弁閉鎖不全は小児期,思春期にもみられることがある.左室拡大,弁異常,伝導障害は早期からの所見である.ST変化,T波逆転,間歇性上室性頻脈,PR間隔短縮は伝導システムの浸潤によりおこる.心筋への蓄積が左室肥大をおこす.心エコー検査は,僧帽弁逸脱の頻度の上昇,心室中隔および左室後壁の肥厚を明らかにする[Pieroni et al 2006].

心室中核の肥厚をしばしば伴う左室肥大は肥大性心筋症に類似しており,進行性であり,女性患者よりも男性患者において早期に発症する[Kampmann et al 2005].

ガドリニウムを用いたMRIでは後期増強の部位が認められる.これは心筋の線維化に一致しており,局所的機能低下を示している[Moon et al 2003, Weidemann et al 2005].

ファブリー病実態調査[Linhart et al 2007]における714人の主に成人患者では,狭心痛,動悸/不整脈,労作性呼吸困難は男性患者の23〜27%にみられ,女性患者の22〜25%にみられる.高血圧,狭心症,心筋虚血・梗塞,うっ血性心不全,および重度の僧帽弁閉鎖不全は末期の症状である.高血圧は男性患者の50%以上,女性患者の40%以上にみられる[Kleinert et al 2006].

脳血管症状

脳血管症状ははじめは多発的におこる小血管の障害によるもので,血栓症,一過性脳虚血発作,脳底動脈虚血,脳動脈瘤,痙攣,片麻痺,半身鈍磨,嚥下不能,内耳迷路疾患,あるいは明らかな脳出血などである[Politei & Capizzano 2006].ファブリー病実態調査によれば脳卒中や一過性脳虚血性発作は患者の約13%(男性患者では15%,女性患者では11.5%)にみられる[Ginsberg et al 2006].脳血管症状は以前考えられていたよりも頻度の高いファブリー病の症状である. 18歳から55歳の潜在性脳卒中に罹患した男性患者432人のうち21人(4.9%),女性患者289人のうち7人(2.4%)にGLA遺伝子変異が認められたとドイツから報告されている[Rolfs et al 2005].

腎合併症

腎臓における進行性のグリコスフィンゴリピッドの蓄積が腎機能を障害し,尿毒症と腎不全を引き起こす.

小児期および思春期を通じて,尿沈渣に タンパク,cast,赤血球,特徴的な “Maltese crosses” が認められる.タンパク尿,isothenuria,尿細管における再吸収,分泌,排泄の緩徐進行性の廃絶が年齢とともに増強する.多尿や抗利尿ホルモン抵抗性尿崩症に類似した症状が時におこる.

腎機能の緩徐進行性の廃絶および尿毒症が一般的には20〜40歳代でおこるが,10歳代でおきた例も報告されている.血液透析や腎移植をおこなっても最も多い死因は腎不全である.腎不全の治療を行わなかった男性患者の平均死亡年齢は41歳である.しかし,ときには60歳代まで生存する古典型の男性患者もいる.

その他の臨床症状

今までに述べてきた主要症状以外に,古典型の男性患者では,消化器系,聴覚系,呼吸器系,その他の器官の症状が見られることがある.

  • 消化器系:小腸の小血管および腸管の自律神経の神経節へのグリコスフィンゴリピッドの蓄積は発作的下痢,悪心,嘔吐,わき腹痛,腸管吸収不全の原因となりうる[Hoffmann, Schwarz et al 2007].アカラシアや十二指腸憩室の報告もあり,これらは小腸穿孔の前兆となっている可能性がある.放射線学的検査では,肥厚した浮腫状の結腸皺襞,小腸の軽度の拡張,顆粒状の回腸,全結腸の haustral marking の欠如などがみられる.
  • 呼吸器系:何人かの患者では,慢性気管支炎,喘鳴,呼吸困難などの呼吸器症状を呈する.心症状や腎症状がなく,呼吸器症状が最初におこった例の報告がある.肺機能検査では閉塞性の障害を示す[Magage et al 2007].
  • 脈管系:下肢の浮腫(pitting edema)は成人では低タンパク血症,静脈瘤や他の臨床的に顕著な血管病がない場合でもみとめられることがある.下肢の浮腫は最初は可逆的であるが,リンパ管やリンパ節への進行性のグリコスフィンゴリピッドの蓄積により不可逆的になり,靴下などによる圧迫治療が必要となる.静脈瘤,痔,持続勃起症の報告もある.
  • 第8脳神経症状:高頻度に聴力障害,耳鳴り,めまいを伴うことが報告されている[Hegemann et al 2006].
  • 心理的問題:うつ病,不安,重度の疲労感,およびその他の心理社会的問題が,多くの患者の QOL を低下させている.

ヘテロ接合体女性(保因者女性)

ファブリー病の保因者女性の臨床症状は生涯を通じて全く無症状の場合から男性患者と同様に重度になる場合まで幅が広い.保因者女性の臨床症状に軽重の差があるのはランダムなX染色体不活化による.

古典型男性患者のいる家系の女性保因者のほとんどは男性患者に比べて,より軽度な臨床経過および予後を呈する.

軽度の症状には視力に影響することはない特徴的な角膜混濁(70〜90%)および水晶体の混濁,四肢のチクチクした痛み(50〜90%),被角血管腫(10〜50%,一般には孤立し,まばらである),および低汗症などがある.さらに保因者は慢性の腹痛を下痢を伴うことがある[Gupta et al 2005].

加齢とともに,保因者は軽度から中度の左室肥大と弁膜症を発症することがある.保因者女性のより重度の症状としては,顕著な左室肥大,心拡大,心筋虚血・梗塞,不整脈,一過性脳虚血発作,脳卒中,腎不全などがある[Shah et al 2005, Deegan et al 2006, Wilcox et al 2008].

一過性脳虚血発作や脳血管障害などの脳血管疾患の発症はファブリー病の微小血管の病理学的変化に基づくものである[MacDermot et al 2001, Whybra et al 2001, Galanos et al 2002].

保因者の腎所見としては,等張尿,尿沈渣にみられる赤血球,白血球,顆粒状・ガラス状沈渣物,タンパク尿などである.アメリカ合衆国およびヨーロッパの透析および腎移植登録によれば,約10%の保因者が腎不全となり,透析あるいは移植を必要としている.

過度の罪悪感,疲労,就業困難,自殺企図,鬱などがヘテロ接合体女性において報告されている[Sadek et al 2004].

ファブリー病の異型バリアント

心血管系,脳血管系,腎泌尿器系に症状を表わす遅発型のファブリー病は以前考えられていたよりも頻度が高い.

心型バリアント

心型バリアントの男性患者は人生のほとんどを無症状で経過し,50〜70歳代になって,左室肥大,僧帽弁閉鎖不全,心筋症,および腎機能障害を伴わないタンパク尿などで気がつかれる.その多くは肥大型心筋症と診断されてきた.

心臓のMRI検査ではガドリニウムによる後期増強が後壁に認められ,これは,剖検で認められる後壁の線維化を反映している[Moon et al 2003].

腎病理所見としては,glycosphingolipid の沈着は podocyte に限られており,これがタンパク尿の原因であると考えられる.しかし,通常は腎不全に進行することはない.

遅発性の肥大型心筋症の男性患者のスクリーニングで,40歳以上で肥大型心筋症診断された者のうち6.3%に,また40歳未満で肥大型心筋症と診断された者のうち1.4%に,α-Gal A 活性の低下と GLA 遺伝子変異が見いだされた[Sachdev et al 2002].したがって,心変異型ファブリー病は心筋症の患者の中で見過ごされている可能性がある.ファブリー病の心型バリアントは男性と同様,女性も罹患し得る[Colocci et al 1982, Cantor et al 1998].

腎型バリアント

腎変異型は,従来慢性糸球体腎炎と診断され,腎不全の末期で透析を受けていた日本人患者の中で同定された[Nakao et al 2003].注目すべきことは,6人の患者のうち5人には,被角血管腫,四肢疼痛,低汗症および角膜混濁はみられなかったが,中等度から重度の左室肥大があったことである.腎型バリアントでは,古典型にみられる早期の症状はなく,腎不全になってはじめて気付かれることを示している.腎バリアントは見過ごされている可能性がある.したがって,原疾患が不明,または腎生検を行っていない腎透析患者,腎移植患者においては,ファブリー病のスクリーニング検査を行うべきである.

遺伝子型 一 表現型 連関(genotype-phenotype correlations)

遺伝子型表現型連関については,家系ごとに遺伝子変異が異なっているので,十分には明らかにされていない.

  • 古典型男性患者では,大きな遺伝子再構成,小さな遺伝子再構成,スプライシング異常,ミスセンス変異,ナンセンス変異など種々の GLA 遺伝子変異が認められる[Desnick et al 2001, Schaefer, Baron et al 2005, Human Gene Mutation Database].
  • 遅発型異型バリアント(腎,心,脳血管)では,ミスセンス変異あるいはスプライシング変異が認められ,α-Gal A酵素活性が残存している[Rolfs et al 2005].
  • 3種類の遺伝子変異(R112H, R301Q, G328R)は古典型と心型バリアント,双方に見られ,病気の発症には他の修飾因子が関与していることを示唆している[Ashton-Prolla et al 2000].
  • ファブリー病実態調査のデータでは,Asn215Ser 変異の患者は,年齢を一致させた場合,古典型ファブリー病より重症度は軽い[Schaefer, Mehta et al 2005].

罹患率

ファブリー病の発症率は約5万人の男性につき1人と考えられている[Desnick et al 2001].最近の人口ベースの調査では8万人から117000人に1人という報告もある[Meikele et al 1999, Desnick et al 2001].

最近の研究によれば,人生後半に心疾患や腎疾患で発症する軽症例は診断されない場合が多く,ファブリー病の発症率はもっと多いことが予想される.

イタリアにおいて行なわれた新生児スクリーニングでは3100人に1人という頻度であり,遅発型と古典型との比は,11:1であった.

ファブリー病は全ての民族,人種,地域でみられる.


鑑別診断

ファブリー病の痛みは通常,軽度の発熱と赤血球沈降現象(ESR)促進を伴っているので,リウマチ熱,ノイローゼ,先端紅痛症などと誤診されやすい.

ファブリー病の症状は,関節リウマチ,若年性関節炎,リウマチ熱, SLE,“成長痛”,点状出血,レイノー症候群,および若年性脳卒中,および多発性硬化症などの症状に似る[Cabrera-Salazar et al 2005, Rolfs et al 2005, Callegaro & Kaimen-Maciel 2006].

ファブリー病の男性患者は心臓クリニックでは認識されず,肥大型心筋症と診断される可能性があるし,また腎臓クリニックでは末期の腎不全とだけ診断される可能性がある[Bekri et al 2005, Ichinose et al 2005, Tanaka et al 2005].

皮膚病変の鑑別診断では,Fordyce spots 被角血管腫,Mibelli 被角血管腫,限局性被角血管腫(angiokeratoma circumscriptum)などを除外する必要がある.これらではファブリー病で特異的に認められるライソゾームの蓄積が組織学的にみられない.

  • Fordyce spots 被角血管腫はファブリー病の被角血管腫に似るが,陰嚢部に限局し,通常30歳以降の発症である.
  • Mibelli 被角血管腫は若年成人の四肢伸展部表面にみられるイボ状の病変で,紅斑および皮下浮腫を伴う.
  • 限局性被角血管腫(angiokeratoma circumscriptum or naeviformus)は体のどこにでも出現し得,臨床的および組織学的にFordyceに似るが,紅斑皮下浮腫は伴わない.

ファブリー病の皮膚病変に類似した被角血管腫は,他のライソゾーム蓄積症の患者においても記載されている.fucosidosis, sialidosis (α-neuroaminidase deficiency with or without β-galactosidase deficiency), adult-type β-galactosidase deficiency, aspartylglucosaminuria, adult-onset α-galactosidase B deficiency, β-mannosidase deficiency, および最近報告された精神遅滞とムコ多糖症のいくつかの症状を伴うライソゾーム病などである[Desnick et al 2001].


治療

初回診断時の評価

ファブリー病であると診断された患者については,病気の広がりを判断するために下記の評価を行なうことが推奨される.

  • 四肢疼痛,低汗症,その他のファブリー病の症状の有無についての注意深い病歴聴取
  • 腎機能検査
  • 心エコー検査を含む心機能の評価
  • 被角血管腫をみつけるための注意深い皮膚の観察
  • 定型的な聴覚の評価
  • 眼科学的評価

症状に対する治療

四肢疼痛

  • diphenylhydantoin:低用量持続投与が,患者・保因者を苦しめている周期的なクリーゼの頻度と重症度を軽減するのに,しばしば効果的である.
  • carbamazepine にも同様の効果がある.両者併用も顕著に頻度と重症度を軽減する.可能性のある副作用としては,diphenylhydantoin では歯肉増生,carbamazepine では,尿閉,悪心,嘔吐,イレウスなどの用量依存性の自律神経症状が記載されている.
  • gabapentin が疼痛を改善することが示された[Ries et al 2003].

腎疾患

腎不全は古典型男性患者において,最も頻度が高く重篤な遅れておこる合併症なので,腎機能の改善,特にタンパク尿が軽減されることを根拠に,ACE 阻害剤は用いられるべきである.

持続的血液透析および腎移植は救命措置となる.同種移植片の正常な活性をもつα-Gal A が腎で生ずる内因性のスフィンゴリピッドを代謝するので,移植腎には組織学的にスフィンゴリピッドの蓄積はない.したがって,腎移植が成功すれば腎機能を正常化させることができる.

ヨーロッパ腎協会,ヨーロッパ透析・移植協会およびアメリカ合衆国腎データシステムの登録を再検討したところ,ファブリー病における腎移植は素晴らしい成果を示している.例えば,USの登録 では1988〜1998の10年間に93人が腎移植を受けている.条件を一致させたコントロールグループと比較すると,ファブリー病で腎移植を受けた患者の5年生存率(82% vs 83%),移植腎の生着率(67% vs 75%)はともに同等である.

注:(1)ファブリー病男性患者の免疫機能については,他の尿毒症患者と同様であることが示されており,ファブリー病において移植に関する免疫学的禁忌はない.しかし,自己免疫的状態はファブリー病において高頻度におこっていると報告されている[Martinez et al 2007].(2)ファブリー病保因者からの腎の移植は避けるべきである.保因者の腎臓にはすでに明らかな基質の蓄積があるかもしれないからである.腎移植のドナーとなりうる血縁者は注意深く評価し,患者あるいは保因者ではないことを確認するべきである.

酵素補充療法(ERT, enzyme replacement therapy)

組換えヒトα-Gal A を用いた2つの酵素補充療法の治験がなされている.ファブラザイム(Fabrazyme, algalsidase beta; Genzyme Corp)とレプラガル(Replagal, algalsidase alpha; Transkaryotic Therapies, Inc)である.ヨーロッパ(European Agency for Evaluation of Medical Products)においては,両者とも2001年に承認されたが,アメリカにおいては,ファブラザイムのみが2003年に FDA により承認された.下記はそれぞれの薬剤の治験の要約である.

同量を用いた場合には,これら2つの薬剤は生化学的,機能的に同等であるが,治験は明らかに異なる投与量で行われた.2週間ごとに,ファブラザイムは1.0 mg/kg,レプラガルはファブラザイムの5分の1の0.2mg/kgである.ヨーロッパ(European Agency for Evaluation of Medical Products)においては,両者とも2001年に承認されたが,アメリカにおいては,ファブラザイムのみが2003年に FDA により承認された.

以下はそれぞれの薬剤の臨床治験の要約である

  • ReplagalTMの第2相試験が,1施設において,プラシーボ・コントロールをおいた二重盲験法で計画され,酵素あるいは偽薬を2週間毎,12回に投与された26名において痛みについて観察された.最初の効果判定のエンドポイントは痛みの軽減であった.酵素治療を投与された14名では痛みの程度は改善したが,偽薬を投与された12名では変化はほとんど認められなかったので,痛みについては統計学的に有意差をもって有効であった[Schiffmann et al 2001].酵素治療を受けた患者においては,血清GL-3濃度は約50%に減少し,心伝導の著名な改善,著名な体重増加,腎機能検査におけるいくつかの改善が認められた.15例の重症な女性ヘテロ接合体を55週間にわたって治療を行なったヨーロッパの研究では,酵素補充療法は安全であり,特別な副作用をおこすことなく実施できた[Baehner et al 2003].
  • Fabrazyme の第3相試験が多施設,二重盲験,ランダム化,プラシーボ・コントロール法で行なわれ,Fabrazyme投与(1mg/kg,2週ごと,計11回)を受けた患者では腎臓上皮細胞,心臓,皮膚におけるGL-3の減少がみられたが,偽薬投与群ではみられなかった[Eng et al 2001, Thurberg et al 2002].二重盲験の最初の効果判定のエンドポイントは腎臓の間質上皮細胞からのGL-3クリアランスであった.Fabrazyme投与群では29人中20人(69%)においてGL-3蓄積物が消失していたが,偽薬投与群29人中,消失したものはいなかった(P<0.001).Fabrazyme投与群では偽薬投与群に比し,皮膚(P<0.01)および心臓(P<0.001)における微小血管GL-3蓄積物の減少が認められた.Fabrazyme投与群では血清GL-3値が正常範囲に低下した.
  • Fabrazymeの迅速な承認過程に関連して,FDAは市販後の薬剤の直接的な臨床における利益を評価するため,第4相試験を行なうことを要求した.この二重盲験,プラシーボ・コントロール治験は軽度から中度の腎機能障害を伴う76人のファブリー病患者を対象に2001年初頭より開始された.重度の臨床的イベント(死亡,心筋梗塞,脳卒中,末期腎不全,血清クレアチニンの33%増加,あるいはそれらの組み合せ)はタンパク尿の基礎値で調整を行なうと酵素投与群において53%減少していた[Banikazemi et al 2007].
  • ヨーロッパにおけるFabrazymeの使用経験によれば,悪化していく腎機能の安定化[DeSchoenmakere et al 2003]と心機能の改善[Waldek 2003, Weidemann et al 2003]が認められた.また,ファブリー病のニューロパチーにおいては,C-,Aδ-,Aβ- 神経線維の機能の改善が認められた[Hilz et al 2004].17 人の患者の後方視的調査によれば,痛みの重症度の軽減,心機能の改善,および心理的健康状態の改善が見られた[Guffon & Fouilhoux].腎移植を受けた3人のファブリー病患者において,血清GL-3値の低下,四肢の痛みの減少,心機能の改善が認められ,酵素補充療法は安全であり,腎臓以外の臓器の病変の改善に有効であることが示された[Mignani et al 2004].また,酵素は透析によって除去されないので,透析中であっても酵素補充療法の実施は可能である.
  • agalsidase alfa (ReplagalTM)の治療により,聴力低下の進行を抑制することができた[Hajioff et al 2003, Hjioff et al 2006].末梢神経機能と発汗についても改善した[Schiffmann et al 2003].
  • agalsidase alfa (ReplagalTM)による酵素補充療法は女性患者のQOL[Deegan et al 2006],および男性患者,女性患者両方のQOL[Hoffmann et al 2005]を改善した.ファブリー病実態調査(FOS)によればagalsidase alfa (ReplagalTM)による酵素補充療法は腎機能および心機能の悪化の進行を緩徐にし,痛みを軽減し,QOLを改善する[Beck et al 2004, Schwarting et al 2005, Hoffmann, Beck et al 2007].酵素補充療法は小児においても安全に実施できる[Ramaswami et al 2006].進行した腎疾患を有する患者においても週1回,0.2 mg/kg のagalsidase alfa (ReplagalTM)を投与することにより,腎機能の悪化を緩徐にすることができる可能性がある[Schiffmann et al 2007].agalsidase beta(Fabrazyme)に加えてACE阻害剤やARB阻害剤を服用することは腎機能の悪化を緩徐にすることに有効である[Tahir et al 2007].
  • 小規模のagalsidase alfa (ReplagalTM)とagalsidase beta(Fabrazyme)の比較研究(両者とも投与量は0.2 mg/kg)では,治療開始後12ヶ月および24ヶ月の左室容量の減少およびその他のパラメータにおいて差は認められなかった[Vedder et al 2007].抗体の形成は男性ではagalsidase alfa (ReplagalTM)とagalsidase beta(Fabrazyme)の両者で報告されているが,女性では両者とも報告されていない[Linthorst et al 2005].総合的治療効果の差については現在までのところ不明である.

専門家集団の推奨:ファブリー病の専門家は,酵素補充療法は男性患者においてはできるだけ早く開始することを推奨している.これには小児および透析中の末期の腎不全患者も含まれる.また,はっきりした症状のある女性保因者においても同様である.


予防

ファブリー病患者における腎血管疾患,虚血性心疾患,脳血管疾患の予防方法は一般人における予防法と同じである.

  • タンパク尿,アルブミン尿は ACE/ARB により軽減されるべきである.血圧およびコレステロール値も正常化すべきである.
  • 脳卒中の予防のためにaspirin やclopidogrel などの抗血小板薬の服用が推奨される.
  • 虚血性心疾患の症状のある者には aspirin,高脂血症治療薬,降圧薬の使用が奨められる.

素補充療法(ERT)の腎,心,中枢神経合併症に対する予防効果はまだ証明されていない.しかし,無症状の少年(12〜13歳)でERTを開始した場合と,成人になってから開始した男性患者とにおける各臓器の機能の安定化についての情報は集りつつある[Eng et al 2006 ].

定期検診

  • 1年に1回以上の腎機能検査
  • 毎年の循環器学的評価
  • 毎年の聴力の評価

避けるべき物質・環境

年長のヘミ接合体およびヘテロ接合体において,閉塞性呼吸器疾患が報告されており,喫煙者では重度である.したがって,患者が喫煙することを防止すべきである.

Amiodarone(不整脈薬) は細胞性および生化学的変化を惹起し,ファブリー病の角化異常に類似した症状を引き起こすことが報告されている[Whitley et al 1983].αガラクトシダーゼA酵素活性の細胞レベルでの影響の可能性を考えるとファブリー病患者への投与は禁忌である.しかし,有害性に関する根拠は十分ではなく,不整脈を有する患者への投与についてはその便益との比較を慎重に考慮すべきである.

リスクのある血縁者の検査

酵素補充療法が利用できるようになったので,罹患者の血縁者の早期発見は疾患の原因となる遺伝子変異が明らかになっている家系の構成員であれば,分子遺伝学的検査によって行われるべきである.

研究中の治療法

遺伝子治療(gene replacement therapy)はファブリー病のモデルマウスにおいて研究されている[Ziegler et al 1999, Ziegler et al 2002, Ziegler et al 2004]が,ヒトへの応用はまだなされていない.

シャペロン治療(chaperone therapy)は小さな分子を用いて,細胞内で変異酵素が誤って折り畳まれたり,変成したりするのを防ぐことにより残存酵素活性を増強するというものである[Desnick & Shuchman 2002].心変異型男性患者を対象としたシャペロン治療を行った1例の報告があり,ファブリー病の治療戦略の概念(proof of concept)が示された[Frustaci et al 2001].

第1相試験では,健康ボランティアにおいて血清中のαガラクトシダーゼ値の上昇が示された[Fan et al 1999, Ishii et al 2004].薬理学的シャペロン(1-deoxygalactonorijimycin; DGJ; AmigalTM; Amicus Therapeitics, NJ, USA)の第2相試験が現在ファブリー病の男性患者および女性患者において進行中である.DGJはファブリー病患者由来の線維芽細胞においてαガラクトシダーゼの変異体のリソゾームへの移動を増強し,酵素活性を増加させること,およびファブリー病の動物モデル(トランスジェニック,ノックアウト)の組織においてGL3を減少させることが示されている.

その他

ファブリー病における基質削減療法は生化学的に理論的根拠があるかもしれないが,臨床的有用性はまだ証明されていない.


遺伝カウンセリング

「遺伝カウンセリングは個人や家族に対して遺伝性疾患の本質,遺伝,健康上の影響などの情報を提供し,彼らが医療上あるいは個人的な決断を下すのを援助するプロセスである.以下の項目では遺伝的なリスク評価や家族の遺伝学的状況を明らかにするための家族歴の評価,遺伝子検査について論じる.この項は個々の当事者が直面しうる個人的あるいは文化的な問題に言及しようと意図するものではないし,遺伝専門家へのコンサルトの代用となるものでもない.」

遺伝形式

ファブリー病はX連鎖劣性の遺伝形式に従う.

患者家族のリスク

罹患している男性発端者の両親

  • 男性患者の父親は罹患しない.
  • 2人以上の患者がいる家系では,男性患者の母親は絶対的保因者である.
  • 家系内に患者が一人だけの場合でも,男性患者の母親は保因者である可能性が高い.稀に,男性患者の原因が,de novo の遺伝子変異による場合があるかもしれない.

罹患している男性発端者の同胞

  • 同胞へのリスクは,母親が保因者であるかどうかによる.
  • 母親が病的遺伝子変異を有していれば,それぞれの妊娠につき,その変異が伝えられる確率は50%である.変異を受け継いだ男性同胞は罹患するし,変異を受け継いだ女性は保因者となる.
  • 女性保因者は発症する可能性がある.
  • 家系内に一人だけの男性患者の母親において,病的遺伝子変異が認められない場合は,患者の同胞が罹患する可能性は低い.しかし,生殖細胞系列モザイクの可能性があるので,一般頻度よりは高い.可能性はあるものの,母親に生殖細胞系列モザイクが証明された例は報告されていない.

症状のあるなしにかかわらず保因者女性の同胞

  • 変異が罹患している父親から伝えられている場合には,すべての娘は保因者であり,息子(保因者女性の同胞)はすべて罹患しない.
  • 変異が母親から伝えられている場合には,それぞれの妊娠につきGLA変異を伝える可能性は50%である.変異を伝えられた男性の同胞は罹患し,変異を伝えられた女性の同胞は保因者となる.

罹患している男性の子孫

  • 罹患男性のすべての娘は絶対的保因者であり,発症する可能性がある.
  • 罹患男性のすべての息子は罹患しない.

症状のあるなしにかかわらず保因者女性の子孫

それぞれの妊娠につきGLA変異を伝える可能性は50%である.変異を伝えられた男性の同胞は罹患し,変異を伝えられた女性の同胞は保因者となり,発症する可能性がある.

保因者検索

女性保因者

  • α-Gal A酵素活性の測定は保因者検査としては信用できない.α-Gal A酵素活性が低いことが示された女性においては保因者診断に役立つが,α-Gal A酵素活性が正常範囲にある保因者もいる.
  • その家系におけるGLA変異が明らかにされている場合には,リスクのある女性血縁者の保因者検査は分子遺伝学的検査が有用である.一つのアレルに変異があることを同定することができれば正確に保因者であることを決定できる.
  • 酵素活性が正常範囲で,その家系において罹患者の変異が明らかにされていない場合には,スリットランプ顕微鏡を用いて特徴的な渦巻き状の角膜混濁を観察する眼科学的検査が考慮される.しかし,保因者女性のうち角膜に病変を持つのは80〜90%にすぎない.
  • 稀には,保因者女性が de novo の遺伝子変異によることもありうる.

他の家系構成員

発端者の母方叔母は保因者である可能性がある.母方叔母の子孫は性別により,男性であれば患者,女性であれば保因者である可能性がある.リスクのある女性には診察,遺伝カウンセリング,生化学的・分子遺伝学的検査の機会が与えられるべきである.

遺伝カウンセリングに関連した問題

早期診断

早期治療のために at risk 血縁者には検査が奨められるべきである.

de novo 変異(新生突然変異):新生突然変異はほとんど検出されていない.女性における性腺(生殖細胞系列)モザイクの頻度に関する情報は得られていない.男性における生殖細胞系列モザイクは1例報告されている[Dobrovolny et al 2005].

家族計画:

遺伝学的リスクの決定,保因者かどうかの分類,出生前検査が行えるかどうかについての議論などは妊娠前に行われることが望ましい.患者,保因者,at risk保因者である若年成人に対しては,子孫が罹患する可能性や子をもうける際の選択肢についてのディスカッションを含め,遺伝カウンセリングの場を提供することが推奨される.

DNAバンキング

DNAバンキングはDNA(通常は白血球から抽出される)を将来使用する可能性のために保管することである.検査方法や遺伝子,変異,疾患の理解は将来,必ず進歩するであろうから,罹患者のDNAを保管することは考慮されるべきである.実施可能な検査の感度が100%ではない現状ではDNAバンキングは実際的な対応法である.

出生前診断

保因者女性が妊娠した際に,出生前診断は技術的には可能である(訳者注:出生前診断を日本国内で行なうことは困難と思われる).通常,妊娠10〜12週におこなわれる絨毛膜採取,あるいは妊娠15〜18週に行われる羊水穿刺により得られた胎児由来の細胞を用いて,胎児の性別を染色体分析あるいは性染色体の同定に特化した方法で決定する.胎児が男児の場合は,胎児由来の細胞を用いて,α-Gal A 酵素活性を測定する.その家系でGLA変異が同定されている場合には,胎児由来DNAを用いて変異解析を行うことにより診断を確定できる.

注:妊娠週数は最終月経日の初日からの算定,あるいは超音波による計測により,推定される.


分子遺伝学

Gene Symbol: GLA

Chromosome Locus: Xq22

Protein Name: Alpha-galactosidase A

  • OMIM entries

    300644  ALACTOSIDASE, ALPHA; GLA

    301500  ABRY DISEASE

  • Genomic Database for Fabry Disease

    Gene Symbol  GLA

    Entrez Gene 064

    HGMD  GLA

    GeneCards GLA

    GDB 119272

    GenAtlas GLA

リソース

  • Fabry Registry         E-mail: help@fabryregistry.com

更新履歴

  1. GeneReview著者: Robert J Desnick, MD, PhD ,Kenneth H Astrin, PhD
    日本語訳者: 福嶋義光(信州大学医学部社会予防医学講座遺伝医学分野・信州大学医学部附属病院遺伝子診療部部長)
    GeneReview 最終更新日:2004.8.27.  日本語訳最終更新日: 2005.6.21

  2. Gene Review著者: Atul Mehta, MA, MD, FRCP, FRCPath ,Derralynn A Hughes, MA, DPhil, MRCP, MRCPath
    日本語訳者: 福嶋義光(信州大学医学部遺伝医学・予防医学講座教授、信州大学医学部附属病院遺伝子診療部長)Gene Review 最終更新日: 2008.2.26. 日本語訳最終更新日: 2008.3.29.( in present)

原文  Fabry disease

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