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家族性大腸ポリポーシス
(
Familial Adenomatous Polyposis )
[FAP, Adenomatous Polyposis Coli (APC), Includes: Gardner Sndrome ;Turcot Syndrome; Attenuated FAP (Attenuated Polyposis Coli, AAPC)]

Gene Review著者: Cindy Solomon, MS, Randall W Burt, MD
日本語訳者 :櫻井晃洋(信州大学医学部社会予防医学講座遺伝医学分野)
Gene Review 最終更新日: 2004.9.20. 日本語訳最終更新日: 2005.10.3.

原文 GeneReviewsJapan注:現在,FAPはGeneReviewsには掲載されていない。APC-Associated Polyposis Conditionsの項目に統一された。(2014.12.13現在)


要約

疾患の特徴 

家族性大腸ポリポーシス(familial adenomatous polyposis: FAP)は前がん病変である大腸ポリープが数百から数千個生じ、そこから大腸がんが発生する腫瘍症候群である。発症は平均16歳(7−36歳)であり、35歳までには95%のFAP保因者にポリープが生じる。大腸切除術を行わない限り、大腸がんの発症は避けがたい。未治療の場合、がん発症の平均年齢は39歳(34−43歳)である。大腸以外の病変はさまざまで、胃底部や十二指腸のポリープ、骨腫、歯牙異常、網膜色素上皮の先天性肥大、軟部組織腫瘍、デスモイド腫瘍、そしてこれらに関連するがんなどが含まれる。

診断・検査 

家族性大腸ポリポーシス(FAP)はAPC遺伝子の変異によって生じる。FAPの診断は基本的には臨床所見に基づいてなされる。APC遺伝子の分子遺伝学的検査では発端者の95%で原因となる変異を検出でき、こうした検査は臨床的に利用可能である。分子遺伝学的検査はリスクをもつ患者家族の早期診断や、臨床所見のはっきりしない患者(腺腫性ポリープが100個未満)の確定診断の目的でしばしば行われる。

遺伝カウンセリング 

FAPは常染色体優性遺伝の形式をとる。約75−80%の患者には罹患した親がいる。患者の子は50%の確率で原因となる変異APC遺伝子を受け継ぐ。家系内の患者にすでに変異が同定されている場合には、発症前診断が可能である。しかしながら成人発症型の遺伝性疾患に対する出生前診断は通常は行われないし、細心の遺伝カウンセリングが必要である。


診断

臨床診断

家族性大腸ポリポーシス( FAP) の臨床的診断は以下の条件を満たす場合になされる。

  • 100個以上の大腸・直腸腺腫性ポリープ、または
  • 100個未満の腺腫性ポリープを有し、親族がFAPに罹患している

軽症型 FAP(attenuated FAP) の臨床的診断は以下の条件を満たす場合になされる。

  • 数多くの大腸腺腫性ポリープ、または
  • 多発性の腺腫性ポリープを有し、 60歳以下で発症した大腸がんの家族歴がある

FAPの臨床診断の参考になる所見には以下のものが含まれる:胃ポリープ、十二指腸腺腫性ポリープ、骨腫、歯牙異常(特に過剰歯牙や歯牙腫)、網膜色素上皮の先天性肥大、軟部組織腫瘍(特に類表皮嚢胞や線維腫)、デスモイド腫瘍、これらに関連した癌。以上の所見はどれも診断基準には含まれていないが、これらの存在はFAPを示唆するものである。

大腸ポリープの組織学

異形成 腺腫性ポリープ(しばしば腺腫とよばれる)は、消化管の表層上皮が異形成像を示す前がん性増殖である。異形成は組織学的に分枝腺管の出現、杯細胞の消失、および以下の細胞学的特徴を有する:(正常では細胞の基底側に位置する)核の極性の喪失、核 /細胞質比の増大、細胞質の好塩基性の増大、細胞質グリコゲンの消失。異形成は軽度、中等度、高度に区分される。高度異形成ではその中にがんを見つける可能性が高く、がんに進展する可能性も高い。

絨毛性変化 腺腫性ポリープでは異形成像に加え、ポリープ表面の長く伸びた絨毛を特徴とする絨毛性変化も生じることがある。

  • 絨毛性ポリープ:ポリープの大部分が絨毛性変化を示す場合は絨毛性ポリープとよばれる。腺腫性ポリープの絨毛性変化があるとがん化のリスクがより高い。
  • 管状腺腫:絨毛性変化が認められない腺腫性ポリープは管状腺腫(tubular adenoma)とよばれる。
  • 管状絨毛腺腫:絨毛性変化が多少認められる腺腫性ポリープは管状絨毛腺腫(tubulovillous adenoma)とよばれる。

分子遺伝学的検査

遺伝子 APCは大多数の家族性大腸ポリポーシス家系の発症に関与している遺伝子である。

検査の適応

  • 確定診断 APC遺伝子変異を検出するいずれの方法も用いられる
  • 発症前診断
  • 出生前診断

臨床的検査法 家系内の APC 遺伝子変異を検出するためのいくつかの検査が臨床的に利用可能である。すなわち全領域シークエンス、電気泳動による変異スクリーニング (conformation strand gel electrophoresis: CSGE)とprotein truncation test(PTT)の組み合わせ、PTT単独による検査、そして連鎖解析である。

  • 全領域のシークエンス変異検出率は90%。
  • 変異スキャン 種々の変異検出法が利用される。変異検出率はおおよそ 80−90%である。
  • PTT単独 APC 遺伝子のほとんどの変異は APC蛋白の早期終止をきたす。この事実に基づいて行われるPTT検査はFAP患者の約80%で変異を検出できる。
  • サザンブロット解析 この方法はAPC遺伝子の複数エクソンが関与するような欠失や重複を検出する。FAP患者に欠失や重複のような遺伝子再構成が起きている頻度は不明である。

表1 FAPで用いられる分子遺伝学的検査

検査法
分子遺伝学的変化
変異検出率
全領域シークエンス
APC 遺伝子変異
〜90%
変異スキャン
APC 遺伝子変異
〜80−90%
PTT
APC蛋白の早期終止
〜80%
サザンブロット解析
エクソンの欠失・重複
不明

連鎖解析 連鎖解析は世代の異なる複数の患者がいる家系において考慮しうる。連鎖解析は正確な FAPの臨床診断と家族の正確な遺伝的関係の把握が基礎となる。また連鎖解析は検査を受ける患者家族の協力と希望の程度に依存する。FAPの連鎖解析に用いられるマーカーは情報量が多くかつ APC 遺伝子座に強く連鎖しているので、95%以上の家系において98%以上の正確さで使用することができる。患者が1人だけの家系では連鎖解析は行えない。新生突然変異が原因となっている患者に罹患した子供がいないような場合にはしばしばこのようなことが起こる。

表2 FAPの連鎖解析

患者に占める割合
分子遺伝学的変化
検査法
95%
APC 遺伝子に連鎖するマーカー
連鎖解析

発端者の検査

  • もし遺伝子検査の目的がリスクのある家族の評価にあるのならば、罹患している家族の検査を表1に示したいずれかの方法で検査するのが最も適切である。費用や検出率は方法により異なる。医師は患者とともに最初に行うべき方法を決定すべきである。いずれかの方法で変異が検出された場合に限り、家族に対する検査が可能となる。
  • 場合によっては、十分な検体数が得られる状況で家族は最初の検査として連鎖解析を希望するかもしれない。また表 1に示した方法で患者に変異を検出できなかった場合にも連鎖解析は考慮されうる。

遺伝子レベルでの関連疾患

大腸がん・ポリープ

I1307K変異 アシュケナジーユダヤ人において発見された APC 遺伝子コドン 1307の変異は遺伝子上にさらに変異をきたしやすい領域を作り出す。このため、この変異を有する患者では古典的なFAPの所見は呈さずにより大腸がんのリスクを高めると考えられる。全アシュケナジーユダヤ人の祖先の6%はこのI1307K変異を持っていたと考えられている。I1307Kを有する者は大腸ポリープを生じるが、典型的なFAPのような数百、数千という数ではない。またI1307Kを有する者は大腸がんについて10−20%の生涯発症リスクを有する。アシュケナジーユダヤ人を祖先に持ち、かつ大腸がんや大腸ポリープの家族歴もしくは既往歴を持つ者、あるいは大腸がん罹患について強く心配している者に対しては APC 遺伝子のI1307K変異の検査が提供されうる。この検査はアシュケナジーユダヤ人を祖先に持たない者には適用されない。I1307K変異を有する者に対する大腸ポリープのスクリーニングの有用性についてはまだ検討がなされていないが、一部の専門家は、I1307K変異を持つ者は35歳をすぎたら、あるいは家族内で最も早く大腸がんと診断された者の診断時年齢よりも5−10歳早くから大腸ファイバースコープによる検査を始め、これを2年ごとに受けるべきであると勧めている。また他の専門家は同様の年齢から検査をはじめ、3−5年ごとに検査を受けることを勧めている。

E1317Q変異 もう一つの APC 遺伝子のミスセンス変異、 E1317Qも大腸腺腫および(もしくは)大腸がんの易罹患性に関係している可能性があるが、データは一定の見解を示していない。E1317Q変異の大腸がん発症における意義は確実ではなく、この変異の検査は現在のところ臨床的には利用可能にはなっていない。

5q22欠失 APC 遺伝子を含む 5q22領域の欠失が精神遅滞を伴う大腸ポリポーシス患者で報告されている。大きな欠失はごくまれに通常の染色体検査で発見されるが、しばしばFISHによって検出可能である。


臨床像

現在では家族性大腸ポリポーシス( FAP)は多彩な臨床像を呈する疾患であると認識されており、典型的なFAPに加えて、以前は別個の疾患と考えられていた3種の臨床型、すなわち軽症型FAP、Gardner症候群、 Turcot 症候群もこの疾患の亜型として含まれる。

古典的 FAP

大腸腺腫性ポリープが平均16歳(7−37歳)で出現する。35歳までには95%でポリープを認める。いったんポリープができるとポリープは急速にその数を増し、病変が完全に進行すると典型例では数百から数千におよぶポリープが認められる。大腸切除術を行わなければ大腸がんは避けられない。未治療患者が大腸がんと診断される平均年齢は39歳(34−43歳)である。未治療のFAP患者の7%は21歳までに大腸がんを発症し、45歳までには87%、50歳までには93%が大腸がんを発症する。まれではあるが、50歳台で無症状の患者も報告されている。家系間、家系内での臨床像の個人差が認められる。

FAPで時折認められる他の病変には以下のものがある。

  • 胃ポリープ 胃ポリープは胃底腺ポリープの場合も腺腫性の場合もある。
    • 胃底腺ポリープは過誤腫様である。これらはFAP患者の約半数に認められ、胃底部あるいは胃体部に発生する。胃底腺ポリープは悪性化傾向は少ないと考えられているが、11歳の軽症型FAPと考えられる症例で胃底腺ポリープに高分化型異形成を認めた報告がある。胃底腺ポリープのより詳細な総説と家族性大腸ポリポーシスとの関連についてはBurt RW (2003) Gastric fundic gland polyps。 Gastroenterology 125:1462-9を参照のこと。
    • 胃腺腫性ポリープは FAP患者の約10%に発症し、通常胃幽門部に限局する。がん化する危険性は小さい。
  • 小腸の腺腫性ポリープ 十二指腸ポリープはポリープの数と大きさ、組織像、異型性の程度による分類法が確立している。腺腫性ポリープの発生とその数は小腸の部位によって異なる。十二指腸の腺腫性ポリープは 50−90%のFAP患者に認められ、通常十二指腸の第二区域、第三区域に発生する。大腸ポリープの数と上部消化管(胃十二指腸)ポリープの数についてはあきらかな相関は認められない。小腸悪性腫瘍の生涯発症リスクは4−12%で、大部分は十二指腸に発生する。

乳頭部周辺(十二指腸乳頭部を含む)の腺腫性ポリープは少なくとも 50%の患者に認められる。この領域のポリープは膵管の閉塞をきたす結果膵炎を起こしうる。FAPでは膵炎の頻度が高い。これらのポリープはしばしば小さく、その観察には側視鏡による検査が必要となる。ある研究者は膵胆管系の分泌、たとえば胆汁がこの部位の腺腫やがんの発生に関与していると理論付けている。乳頭部周辺のポリープの悪性化の危険性は十二指腸のほかの部位の腺腫よりも高い。

  • 消化管以外の病変 APC 遺伝子の特定領域の変異は消化管以外の臨床病変の出現に関与しており、この傾向は家族性に見られる。
    • 骨腫 骨腫は頭蓋や顎骨にもっとも高頻度に見られるが、全身のどの骨にも生じうる。骨腫は通常臨床症状を引き起こさず悪性化もしない。小児においては大腸ポリープよりも先に現れることもある。
    • 歯牙異常 未萌出歯、 1個ないし数個の歯牙の先天的欠損、過剰歯、含歯性嚢胞、歯牙腫瘍などが約17%のFAP患者で出現すると報告されている。これらの一般人口集団での発生頻度は1−2%である。
    • 網膜色素上皮の先天性肥大 (congenital hypertrophy of the retinal pigment epithelium: CHRPE) CHRPEは網膜上の不連続で平坦な色素性病変で臨床症状はきたさない。CHRPEは出生時にすでに存在すると考えられている。罹患家系においては多発性、両側性のCHRPEを認めることはその者にFAPが遺伝していることを示唆する。一方、単発性あるいは片側性の病変は一般集団にも認められる。CHRPEを検索するには散瞳させた上での間接検眼鏡による視神経乳頭の観察を要する場合がある。
    • 良性皮膚病変 これには類上皮嚢胞や線維腫がふくまれ、これらは顔面を含む全身に出現しうるので、主として美容上の問題となる。
    • デスモイド腫瘍 FAPの小児および成人の約10%にデスモイド腫瘍が発症する。FAP患者でデスモイド腫瘍が発症するリスクは一般人口集団の852倍とされている。あまりよく理解されていないこの線維性の良性腫瘍は筋線維芽細胞のクローン性増殖によるもので、局所的には浸潤性を有するが遠隔転移はしない。Gardner関連線維腫とよばれる、病理組織学的に別個の線維腫性病変は前駆病変であると考えられている。デスモイド腫瘍は主に腹部あるいは腹壁内に生じるが、腹部以外に発生することもある。デスモイド腫瘍が腹部臓器を圧迫したり、腹部手術を複雑なものにしたりすることもある。約5%のFAP患者はデスモイド腫瘍による臨床症状をきたしたりこれが死因となったりする。腹部のデスモイド腫瘍は自然に発生したり、手術や妊娠、あるいは経口避妊薬の使用のあとに発生したりする。デスモイド腫瘍発生の独立した予測因子としては、APC遺伝子のコドン1444より下流(3’側)の変異、デスモイド腫瘍の家族歴、女性、骨腫の存在、があげられる。デスモイド腫瘍はCTスキャンやMRIで最もよく評価できる。FAPにおけるデスモイド腫瘍の評価スコアが設定されている。
    • 副腎腫瘤 まだ十分には検討されていないが、統計的に有意なFAPと副腎腫瘤の相関が報告されている。副腎腫瘤は一般人口集団の1−3%に認められるが、後ろ向き解析によればFAP患者の7.4%に副腎腫瘤が認められ、107例による前向き研究では13%に腹部CTで1 cm以上の副腎腫瘤を認めた。これらの大部分はホルモンによる症状や高血圧をきたさない副腎皮質腫瘍である。Smithらは副腎腫瘤のスクリーニングが必要だという根拠はないとしている。
  • 大腸以外のがん 大腸以外に発生するいくつかのがんは FAP患者で一般集団より高頻度に生じる(表2)。
表3 FAP患者における大腸以外のがんの生涯発症リスク
部位
がんの種類
リスク
小腸:十二指腸と乳頭周囲
がん
4−12%
小腸:十二指腸以遠
がん
まれ
腺がん
0.5%
腺がん
〜2%
甲状腺
乳頭がん
〜2%
中枢神経系
多くは髄芽腫
<1%
肝芽腫
1.6% (5歳未満)
胆管
腺がん
低いが増加している
副腎
腺がん
低いが増加している

十二指腸腺がんは 17-81歳の患者に報告されており、診断の平均年齢は45-52歳である。乳頭周囲に発生することが多い。十二指腸以遠の小腸がんは報告もあるがまれである。

胃腺がんは欧米諸国に住む FAP患者の0.5%に発生するが、日本や韓国の生活文化の中で暮らす患者ではより高頻度である。多くは腺腫から進展すると考えられているが、胃底腺ポリープから発生することもある。

甲状腺がんは FAP患者の約2%に発生し、診断時平均年齢は28歳(12-62歳)である。女性でより頻度が高い。乳頭がんが多く、しばしば篩状( cribriform ) の組織像を呈する。家族性の発生も報告されている。

妊娠 FAP女性患者における妊娠の影響についてはわずかの知見しかない。58名のデンマーク人女性患者での研究では、妊孕性、妊娠、分娩については一般集団と変わりがなかった。より大規模な、162名のFAP女性で2種類の大腸手術の前後での妊孕率を対照群と比較した研究がある。手術を受けていないFAP女性の妊孕率は対照群のそれと変わりがなかった。また回腸直腸吻合術を受けた女性患者も対照群と変わりがなかった。回腸嚢肛門管吻合術を受けたFAP女性の妊孕率は対照群と比較してわずかに低下していた。

回腸切除術を受けた女性患者の産科的合併症のリスクは腹部手術を受けた一般女性のリスクと変わりがないと考えられている。デスモイド腫瘍の治療に抗エストロゲン剤が効果的に使用されていることから、デスモイド腫瘍は妊娠に重要なホルモンによって影響を受けると考えられている。しかしながら、ある研究では過去に妊娠歴がありデスモイド腫瘍を発症した女性は、妊娠歴がなくデスモイド腫瘍を発症した女性に比べて明らかに合併症が少ないことが示されている。

軽症型 FAP

軽症型 FAPは「遺伝性大腸扁平腺腫症候群」(hereditary flat adenoma syndrome)と同じ病態であり、古典的FAPより少ない数の(平均30個)大腸ポリープを生じ大腸がんのリスクを伴う。ポリープは古典的FAPに比べてより口側に認められる傾向がある。大腸がんを診断される平均年齢は50-55歳で、古典的FAPに比べて10-15歳高齢であるが、一般集団の非遺伝性大腸がんに比べれば若年である。軽症型FAP患者でも上部消化管のポリープやがんを生じることがあり、FAPでみられる消化管以外の病変も伴うことがあるが、CHRPEやデスモイド腫瘍はまれである。

Gardner症候群

Gardner症候群は大腸腺腫性ポリポーシス、骨腫、軟部腫瘍(類上皮嚢胞、線維腫、デスモイド腫瘍)を伴う。Gardner症候群は別個の疾患と考えられていたが、現在では APC 遺伝子遺伝子の変異が古典的FAPとGardner症候群の原因となることが明らかになっている。

Turcot 症候群

Turcot 症候群は大腸がんと中枢神経腫瘍(主に髄芽腫)を伴う。 Turcot 症候群患者の 3分の2で APC 遺伝子に変異が認められ、残りの3分の1では遺伝性非ポリポーシス性大腸がん(HNPCC)の原因となるミスマッチ修復遺伝子に変異が認められる。HNPCC患者に生じる中枢神経腫瘍は通常は多形性膠芽腫である。


遺伝子型と臨床型の関連

同じ APC 遺伝子変異を有していても患者ごとや家系ごとに差があるが、遺伝子型と臨床型の関係を明らかにするために多くの検討がなされている。ある研究者は遺伝子型に基づいた臨床的マネジメント法を提唱しているが、別の研究者は遺伝子型に基づいた治療方針の選択は行うべきではないと考えている。現在はまだ利用されてはいないが、将来的には治療選択において遺伝子情報がより不可欠なものとなるかもしれない。

  • 軽症型 FAPは APC 遺伝子の5’側(コドン158よりも5’側)、エクソン9、3’末端の変異と相関している。
  • 最も高頻度の APC 遺伝子変異はコドン 1309の変異である。 Friedl らはここに変異を生じると若年でポリープが発生しやすいことを報告している。大腸の症状を有する患者の分析ではコドン1309に変異を有する患者は平均20歳で発症しているが、1309を除くコドン168-1580に変異を有する患者では平均30歳で発症している。またコドン168よりも5’側あるいはコドン1580よりも3’側に変異を有する場合の平均発症年齢は52歳である。
  • コドン 1250-1464の変異を伴う密生型ポリポーシス(平均5、000個)が報告されている。
  • 190名のFAP患者における9種類の大腸外病変(デスモイド腫瘍、骨腫、類上皮嚢胞、十二指腸腺腫、胃ポリープ、肝芽腫、歯牙異常、乳頭部周囲がん、脳腫瘍)を検討した後ろ向き調査が行われている。コドン1395-1493に変異を持つ患者ではコドン177-452に変異を有する患者に比べ、有意にデスモイド腫瘍、骨腫、類上皮嚢胞の頻度が高かった。さらに、コドン1395-1493に変異を持つ患者ではコドン457-1309に変異を持つ患者に比べて、有意にデスモイド腫瘍と骨腫の頻度が高かった。APC遺伝子のコドン177-452に変異を持つ患者には骨腫、肝芽腫、乳頭周囲腫瘍あるいは脳腫瘍を発症した者はいなかった。肝芽腫と脳腫瘍はコドン457-1309に変異を持つ患者にのみ認められた。
  • CHRPEの存在はコドン463-1387の変異と関連していた。コドン1444-1578の変異はCHRPEの欠如と関連していた。
  • コドン 1444-1580の変異はデスモイド腫瘍の頻度上昇に関係していた。 APC 遺伝子変異が明らかになっている269例の検討では、デスモイド腫瘍はコドン1444の5’側に変異を有する患者の20%、コドン1444より3’側に変異を有する患者の49%、コドン1445-1580に変異を有する患者の61%に認められた。 APC 遺伝子の3?末端に変異を有し重症デスモイド腫瘍を伴う数家系が報告されている。 イタリアでの研究によれば、コドン1310-2011に変異を有する患者はコドン159-495に変異を有する患者に比べ、デスモイド腫瘍発症リスクが6倍高かった。
  • 甲状腺がんを伴う FAP患者24名の遺伝子検索では多くの変異はコドン1220よりも5’側に認められた。別の研究では甲状腺がんを伴うFAP患者12名中9名で変異はクラスター領域(コドン1286-1513)より上流に認められた。
  • イタリアの FAP患者における検討では変異がコドン976-1067に存在すると十二指腸腺腫のリスクは4倍高かった。

頻度

FAPの頻度はいくつかの患者登録からの報告では人口10万人あたり2.29-3.2人である。FAPは歴史的には全大腸がんの0.5%を占めると考えられてきたが、この数字はリスクのある家族に対して早期のポリープ発見と予防的大腸切除術が行われるようになって低下しつつある。


鑑別診断

FAPは他の大腸がんを伴う遺伝性疾患や他の消化管ポリポーシス症候群と分子遺伝学的検査、病理学的所見や臨床的特徴によって鑑別される。鑑別すべき疾患には以下のものが含まれる。

  • 遺伝性非ポリポーシス性大腸がん (hereditary non- polyposis colon cancer: HNPCC) は常染色体優性遺伝性の大腸がん症候群で、口側の大腸がより侵される。大腸腺腫はほとんどみられない。他の悪性腫瘍では子宮内膜、卵巣、胃、小腸、尿路系のがんを合併する。 HNPCCはDNAミスマッチ修復遺伝子、主に MHL1 または MSH2 遺伝子の変異が原因であるが、時に MSH6 、PMS1 、PMS2 遺伝子変異も原因となる。腺腫性ポリープが少数の患者や家系ではHNPCCと軽症型FAPの鑑別は難しいかもしれない。このような場合には大腸以外のがんの家族歴や切除腫瘍でのマイクロサテライト不安定性(MSI)の検討が有用である。
  • Turcot 症候群 は大腸がんと中枢神経系腫瘍、主に髄芽腫を伴う。 Turcot 症候群患者の 3分の2では APC 遺伝子に変異を認め、残りの3分の1ではHNPCCの原因となるミスマッチ修復遺伝子に変異を有している。HNPCCでみられる脳腫瘍は通常多形性膠芽腫である。
  • MYH-関連ポリポーシスMYH関連ポリポーシスの臨床像はFAPや軽症型FAPに似ているが、この疾患は常染色体劣性遺伝性である.MYH遺伝子の生殖細胞系列変異が多発性腺腫や大腸ポリポーシスを有する人に認められる.もしFAPや軽症型FAPの患者でAPC遺伝子変異が見つからなかった場合は,MYH遺伝子の検索も検討する必要がある.
  • Peutz-Jeghers 症候群 :常染色体優性に遺伝する Peutz-Jeghers 症候群は消化管ポリポーシスと皮膚粘膜の色素沈着が特徴である。 Peutz-Jeghers 型の過誤腫性ポリープは小腸(空腸、回腸および十二指腸)に好発するが、消化管の他のどの部位にも生じうる。皮膚粘膜の色素沈着は 5歳以前に口、目、鼻腔の周囲や肛門周囲、あるいは頬粘膜や指に暗青色や暗褐色の斑点として出現する。女性患者では卵巣に良性の輪状小管を伴う性索腫瘍を生じるリスクを有する。男性では時に精巣に石灰化を伴うセルトリ細胞腫瘍を生じ、これがエストロゲンを分泌するために女性化乳房をきたす。 Peutz-Jeghers 症候群の患者では小腸、および大腸・直腸、食道、胃、乳腺、卵巣、膵臓など小腸以外の悪性腫瘍のリスクが高い。分子遺伝学的検査では約70%の家族性の患者、30-70%の散発性の患者で原因遺伝子である STK11 (19q13)の変異を認める。
  • PTEN 過誤腫症候群 (PTEN hamartoma tumor syndrome: PHTS) :PTEN 過誤腫症候群 (PHTS)はPTEN遺伝子変異と常染色体優性遺伝で特徴づけられ、過誤腫とがんを主徴とする疾患である。PHTSにはCowden症候群(CS)と Bannayan-Riley-Ruvalcaba 症候群(BRR)が含まれる。CSは甲状腺、乳腺、子宮内膜に両性および悪性の腫瘍を発症する多発性過誤腫性症候群であり、BRRは大頭症、小腸ポリポーシス、脂肪腫、亀頭の色素斑を特徴とする先天性疾患である。CSの診断基準を満たす患者の80%、BRRと臨床的に診断される患者の60%で PTEN 遺伝子変異が検出される。
  • 若年性ポリポーシス症候群 : 消化管、特に胃、小腸、大腸、直腸の過誤腫性ポリープの多発に特徴づけられ、以下の所見のうち一つでも認められれば診断がなされる;大腸・直腸の5個以上の若年性ポリープ、全消化管の多発性若年性ポリープ、または数を問わず若年性ポリープを認め、かつ若年性ポリープの家族歴がある場合。「若年性」という用語はポリープのタイプを表す言葉で発症年齢とは関係ない。大多数の若年性ポリープは良性であるが、悪性化をきたすこともある。若年性ポリポーシス家系の患者で消化管がんを発生する可能性は9-50%と見積もられている。 2つの原因遺伝子、MADH4BMPR1Aが同定されている。約15%の患者はMADH4遺伝子変異を有し、約25%の患者はBMPR1A変異を有する。若年性ポリポーシスは常染色体優性遺伝性である。
  • 遺伝性混合ポリポーシス症候群 :遺伝形式は不明である。非典型的な若年性ポリープ、混合型の組織像を示すポリープ、異なる組織像のポリープが 1人の患者に混在する、といった特徴がある。
  • 神経線維腫症 1型(NF1) :NF1患者では多発性のポリープ様神経線維腫や神経節腫が小腸、胃、大腸に生じることがある。

鑑別すべき病態には以下の後天的疾患も含まれる。

  • Cronkite-Canada症候群 :消化管全般の過誤腫性ポリポーシス、皮膚過剰色素沈着、脱毛、爪萎縮をきたす。
  • 結節性リンパ性過形成 :リンパ性増殖性疾患で、小腸、胃、大腸のリンパ節の過形成をきたす。通常よくみられるさまざまな免疫不全症候群に併発することがある。
  • リンパ腫様ポリポーシス :消化管における節外リンパ腫の発生による。多発性リンパ腫様ポリポーシスと地中海型リンパ腫の 2病型がある。
  • 炎症性ポリポーシス :後天性で炎症性消化器疾患、最も多いのは潰瘍性大腸炎、に伴い非腫瘍性ポリープを生じる。
  • 散発性大腸腫瘍:大部分の非遺伝性大腸がんではAPC遺伝子の体細胞変異を生じている。この変化はがん化の初期の段階で起きると考えられている。
  • 過形成性ポリポーシス :遺伝性のものか後天性のものか不明である。消化管に多くの非腫瘍性過形成性ポリープを生じる。

臨床的マネジメント

FAPが疑われる個人に対する評価法

  • 個人の既往歴、特に古典的 FAPに関連した既往(大腸がん、大腸ポリープ、直腸出血、下痢、腹痛)について
  • 特に FAP病態に関連した家族歴
  • 古典的 FAPの腸外病変に特に注意した身体診察
  • CHRPEを評価するための眼科診察(任意)
  • 大腸ファイバー検査と病理学的検査
  • 側視鏡による上部消化管ファイバー検査と小腸 X線検査(小腸造影や経口造影剤を用いた腹部・骨盤部のCT)の検討
  • もし臨床的な診断基準を満たさない場合は確定診断のためのAPC遺伝子検査。もし臨床的にFAPが疑われている患者で原因となるAPC遺伝子変異が確認された場合は、その患者はFAPもしくはその亜型を有していると判断される。もし遺伝子検査で変異が見つからなかった場合でも、現在の遺伝子検査法ではAPC遺伝子変異を100%検出できないので、FAPあるいはその亜型である可能性は否定できない。MYH遺伝子の変異も検討する必要がある。

FAPの症候に対する治療

  • 大腸ポリープ 古典的 FAP患者に対しては腺腫が発生した後は大腸切除術が推奨されるが、手術時期はポリープの大きさと数によって遅らせることもできる。軽症型FAP患者では、大腸切除術をポリープのコントロールが難しくなるまで遅らせることも可能である。大腸切除術の方法としては、 全結腸切除・直腸粘膜切除・回腸肛門吻合術 や結腸亜全摘・回腸直腸吻合術がある。回腸造瘻術を伴う結腸切除術が必要となることはほとんどない。回腸直腸吻合術を伴う結腸切除術は軽症型 FAPや直腸にポリープを認めない例でしばしば選択される。もし 回腸肛門吻合術 を伴う結腸全摘術が選択された場合は、 2年ごとの回腸嚢を内視鏡で観察することが勧められる。結腸亜全摘術が行われた場合は、発生するポリープの数にもよるが、残存する直腸の観察を6-12か月ごとに行うべきである。残存直腸からがんが発生する可能性は常にあるが、現在のマネジメント法にしたがえばその危険性は小さい。さらに外科的移行帯からがんが発生する可能性は極めて低いが報告例はある。治療の指標はAmerican Society of Colon and Rectal Surgeonsから概略が示されている。
  • 小腸ポリープ ポリープが絨毛性変化や高度の異型性を示す場合や直径が 1 cmを超える場合、臨床症状を引き起こす場合には内視鏡的あるいは手術による切除を考慮すべきである。重度の十二指腸腺腫に対しては膵十二指腸切除術が必要となる場合もある。
  • 骨腫 美容的理由により切除される。
  • デスモイド腫瘍 少数例に対し手術(頻回に再発する場合)、非ステロイド消炎鎮痛剤、抗エストロゲン剤、細胞障害型化学療法、放射線療法などが行われる。
  • 非ステロイド消炎鎮痛剤( NSAIDs) NSAIDs 、特にスリンダクとセレコキシブ(訳注:選択的 COX-2阻害剤)はFAPの腺腫を縮小させ、大腸亜全摘術を受けた患者において、切除を要する直腸ポリープの数を減らすことが示されている。大腸手術前の NSAIDs の使用はまだ実験的段階にある。訳注)セレコキシブは日本では使用できない。

FAPを有している人、 APC 遺伝子変異を有している人、遺伝子検査は行われていないが罹患しているリスクがある人、遺伝子検査で変異を同定できなかった家系の家族員に対して推奨される経過観察

身体診察、腹部超音波検査、血清 aフェトプロテイン定量による毎年の肝芽腫のスクリーニングを出生時から 5歳まで。

  • 10-12歳以降は1年ないし2年ごとにS状結腸のファイバー検査。
  • 一旦ポリープが発見されたら大腸ファイバー検査。
  • もしポリープが生じてから大腸切除術が 1年以上遅れる場合は毎年の大腸ファイバー検査。もし対象となる者の年齢が10歳台で、腺腫の大きさが6 mm未満でありかつ絨毛様変化を伴っていない場合には、大腸切除術の延期を考えてもよい。
  • 食道胃十二指腸ファイバーは大腸ポリープが発見されたら、あるいは 25歳になったら開始し、1-3年ごとにくり返す。検査の頻度は十二指腸腺腫の程度による。十二指腸乳頭を観察するために側視鏡を使用したほうがよい。腺腫様組織は通常乳頭部に認められるので、たとえポリープが見当たらなくても乳頭が大きくなっているように見える時は生検を行うべきである。症例によっては総胆管の腺腫を確認する目的で内視鏡的逆行性胆道膵管造影(ERCP)が必要となる。
  • 十二指腸腺腫が発見された時や大腸摘除術の前には小腸 X線検査(小腸造影や経口造影剤を用いた腹部・骨盤部のCT)を行い、所見や症状の有無によって1-3年ごとにくり返す。
  • 主に美容的問題で腸以外の病変に注意する。
  • 甲状腺触診を含む年1回の身体診察。

軽症 FAPを有するリスクがある人に対して推奨される経過観察

  • 18-20歳頃に開始し、ポリープの数に応じて2-3年ごとの大腸ファイバー検査。
  • もしポリープが発見されたり、遺伝子検査で変異が確認されたりした場合は、上記4に記載した経過観察プログラムが推奨される。

家系内で明らかになっている APC 遺伝子変異を受け継いでいない家族員に対して推奨される経過観察

  • 50歳以降は平均的なリスクを持つ人に対して行われる大腸がんスクリーニング。
  • 医療機関によっては遺伝子検査の結果を確認する目的で 16歳、25歳、35歳時にS状結腸のファイバー検査を勧めている。

リスクのある家族に対して推奨される遺伝子検査 FAPあるいは軽症型FAPを早期に診断することは、適切な時期に治療介入を行い、予後を改善させるのに役立つ。したがってリスクのある子供の早期の症状について経過観察を行うのは適切である。リスクのある家族に対してDNAによる検査を行うことは(遺伝カウンセリングの項参照)、診断をより正確なものとし、変異遺伝子を受け継いでいない家族員に対して経済的負担のかかるスクリーニングを行う必要性を減らすことができる。医療費の比較では、遺伝子検査のほうがS状結腸のファイバー検査によるスクリーニングよりも保因者を確定する方法として優れている。さらに、FAP患者が親族にいることをきっかけにFAPと診断された者の生命予後は、症状をもとに診断された患者のそれよりも明らかに良好である。

  • 古典的 FAPのリスクのある者に対する大腸スクリーニングは早ければ8-10歳から始まるので、分子遺伝学的検査は一般に8歳以上の子どもに対して提供される。軽症型FAPの場合大腸スクリーニングは18歳から開始されるので、分子遺伝学的検査も18歳ごろに提供されるべきである。注:スクリーニングを開始する最適年齢についての確証はない。したがってスクリーニングの開始年齢とスクリーニング方法については医療機関、家族歴、親や子の希望によって変わってくる。

遺伝カウンセリング

「遺伝カウンセリングは個人や家族に対して遺伝性疾患の本質、遺伝、健康上の影響などの情報を提供し、彼らが医療上あるいは個人的な決断を下すのを援助するプロセスである。以下の項目では遺伝的なリスク評価や家族の遺伝学的状況を明らかにするための家族歴の評価、遺伝子検査について論じる。この項は個々の当事者が直面しうる個人的あるいは文化的な問題に言及しようと意図するものではないし、遺伝専門家へのコンサルトの代用となるものでもない。」

遺伝形式

FAPは常染色体優性遺伝の形式をとる。

患者家族のリスク

発端者の両親

  • FAP患者のおおよそ75-80%には罹患した親がいる。したがってもし患者の遺伝子変異が明らかとなっている場合には遺伝子検査で、あるいはFAPの臨床所見によって、患者の両親の評価を行うべきである。
  • 約20-25%のFAP患者は新生突然変異による遺伝子変異を有している。
  • 新生突然変異を生じた遺伝子の由来を調べた研究では若干父親由来である場合が多かった( 12/16、統計的有意差なし)が、別の研究では差がなかった。父親の加齢に伴う新生突然変異率の上昇は明らかではない。

発端者の同胞 同胞のリスクは両親の遺伝的な状況に依存する。

  • 同胞のリスクは両親の遺伝的な状況に依存する。
  • 親(の 1人)が罹患している場合は、そのリスクは50%である。
  • もし FAP患者の両親のいずれもがFAPの臨床診断基準を満たさない場合は、患者の同胞がFAPに罹患するリスクは一般集団のリスクと同様である。

発端者の子 FAP患者の子はそれぞれ50%の確率で変異遺伝子を受け継ぐ。

他の家族 他の家族のリスクは発端者の両親の状況による。もし両親(のいずれか)が罹患している場合は、彼(彼女)の血縁者にもリスクがある。

関連した遺伝カウンセリング上の問題

リスクはあるが無症状の成人や小児に対する検査 リスクのある家族員に対する DNAによる検査は臨床的マネジメントに記載した方針にのっとって行う。

分子遺伝学的検査 は、臨床的に FAPと診断された親族の遺伝子検査で APC 遺伝子変異が確認されたりPTTでAPC蛋白の早期終止が確認されたりした場合に、リスクのある家族員の状況を確実に判断するために行うことができる。

臨床的に診断された親族の遺伝子検査情報が入手できない状況で、リスクのある家族の状況を判断するために分子遺伝学的検査を行うのは問題を含んでおり、またその結果の解釈には注意を要する。家族での結果が陽性であった場合は、その被験者は変異遺伝子を有しており同じ検査法が家系内の他の者の検査に利用できることを示す。一方罹患している患者よりも先に家族に対して分子遺伝学的検査が行われる場合、検査で変異が見られなかったことは必ずしもその被験者が変異遺伝子を有していないことを意味しない。そのような場合には分子遺伝学的検査による保因者診断はできないので、リスクのある家族員は臨床的な経過観察プログラムにしたがう必要がある。

古典的FAPのリスクのある家族員に対する大腸スクリーニングは早ければ10歳に始まるので、分子遺伝学的検査は一般に8歳以上の子に対して提供される。軽症型FAPに対する同様の大腸スクリーニングは18歳に開始されるので、分子遺伝学的検査は18歳前後で提供される。分子遺伝学的検査はもし検査結果で臨床的マネジメントを変更されるような場合にはより早期に行われることもある。両親はしばしば疾患を受け継いでいない子に対する不要な検査を避けたいという思いでより早期の遺伝子検査を希望する。遺伝子検査の前には子と両親に対する教育に関して特別の注意を払う必要がある。検査結果を両親と子に伝える方法についてはあらかじめ決めておくべきである。大部分の子どもは発症前遺伝子検査結果の開示後に明らかな心理的問題を生じてはいないが、Codoriらはこうした家族に対する長期の心理的サポートを準備することを推奨している

他の考慮すべき問題 APC遺伝子の分子遺伝学的検査をオーダーする医師や検査を受ける被験者は、検体を検査機関に送る以前に検査の危険性、利点、限界について理解しておくことが勧められる。ある調査によればFAPの検査を受けた患者の約3分の1では医師が検査結果を誤って解釈していた。またMichieらによれば、変異陰性という結果を遺伝専門医以外から伝えられた家族は、遺伝専門医から陰性結果を伝えられた場合に比べて定期的検査の継続を希望する割合が高かった。なぜこのような差が出たかに関する追跡調査で、著者らは結果の受容においては効果的なコミュニケーションが鍵であると結論付けている。遺伝カウンセラーへの紹介や遺伝子検査を日常的に行っている機関への紹介が勧められる。

遺伝学的リスク評価とカウンセリング 遺伝学的リスク評価の過程で保因者を同定することの医学的、心理学的、倫理的な再認識に関する簡潔な記載は以下で参照できる。

  • Genetic Cancer Risk Assessment and Counseling:Recommendations of the National Society of Genetic Counselors.
  • Elements of Cancer Genetics Risk Assessment and Counseling (part of PDQ, National Cancer Institute)
明らかな新生突然変異を有している家系について 発端者の両親に遺伝子変異や発症の証拠がない場合は、発端者は新生突然変異によって発症した可能性が高い。ただし、父親が異なるとか開示されていない養子縁組のような非医学的な理由による可能性も念頭におく必要がある.

DNAバンク DNAバンクは主に白血球から調製したDNAを将来の使用のために保存しておくものである。検査法や遺伝子、変異あるいは疾患に対するわれわれの理解が進歩するかもしれないので、ことに現在行っている分子遺伝学的検査ではすべての変異を検出できないような疾患に関してはDNAの保存は考慮すべきかもしれない。このサービスを行っている機関についてはDNA bankingの項を参照のこと。

出生前診断

もし家系内の患者におけるAPC遺伝子変異が判明しているか、あるいはその家系で連鎖解析を行いうるだけのマーカー情報が得られている場合には、50%のリスクを有している胎児に対するFAPの出生前診断が可能である。胎生16−18週*に採取した羊水中細胞や10−12週に採取した絨毛やから調製したDNAを用い、分子遺伝学的検査の項で述べた方法を用いて検査を行うことができる。「リスクはあるが無症状の成人や小児に対する検査」の項で述べた判断基準が出生前診断の場合にも適用される。胎児においてAPC遺伝子変異を検出しても発症時期や重症度の予測はできないことに注意する必要がある。成人発症型疾患の出生前診断の希望は注意深い遺伝カウンセリングを必要とする難しい問題である。

*胎生週数は最終月経の開始日あるいは超音波検査による測定に基づいて計算される。

訳注:一般に本症に対して出生前診断の適応があるとは考えられていない。

FAPのように治療法が存在する典型的な成人発症遺伝性疾患に対する出生前診断の希望はあまりない。専門家の間や家族内においても、特にそれが早期診断ではなく妊娠中絶を目的とした場合には、出生前診断に対する考え方の違いが存在しうる。多くの専門機関は出生前診断については夫婦の自己決定の問題だと考えているが、この問題については注意深く議論することが適切である。

着床前診断 いくつかのがん易罹患性疾患に対する着床前診断が報告されており、子どもがFAPとなる可能性を有するカップルに対する選択肢となりうる。着床前診断を行う前に、親となる患者の変異が明らかにされている必要がある。妊娠は生殖補助療法によって成立させ、不妊治療の専門家や内分泌の専門家との連携が必要である。

訳注:日本では行われない


関連情報

大腸ポリポーシス患者友の会「ハーモニー・ライン」

http://www.harmonyline.com/

大腸腺腫症患者、家族および協賛者の会「ハーモニー・ライフ」

http://homepage3.nifty.com/harmony-life/


原文原文 GeneReviewsJapan注:現在,FAPはGeneReviewsには掲載されていない。APC-Associated Polyposis Conditionsの項目に統一された。(2014.12.13現在)

日本語版更新記録

  1. 2004.3.30. 初掲 櫻井晃洋(信州大学医学部社会予防医学講座)
  2. 2005.10.3. 更新 櫻井晃洋(信州大学医学部社会予防医学講座)( in present)

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