Gene Review著者: Cindy Solomon, MS, Randall W Burt, MD
日本語訳者 :櫻井晃洋(信州大学医学部社会予防医学講座遺伝医学分野)
Gene Review 最終更新日:
2004.9.20.
日本語訳最終更新日:
2005.10.3.
原文 GeneReviewsJapan注:現在,FAPはGeneReviewsには掲載されていない。APC-Associated Polyposis Conditionsの項目に統一された。(2014.12.13確認)
疾患の特徴
家族性大腸ポリポーシス(familial adenomatous polyposis: FAP)は前がん病変である大腸ポリープが数百から数千個生じ、そこから大腸がんが発生する腫瘍症候群である。発症は平均16歳(7-36歳)であり、35歳までには95%のFAP保因者にポリープが生じる。大腸切除術を行わない限り、大腸がんの発症は避けがたい。未治療の場合、がん発症の平均年齢は39歳(34-43歳)である。大腸以外の病変はさまざまで、胃底部や十二指腸のポリープ、骨腫、歯牙異常、網膜色素上皮の先天性肥大、軟部組織腫瘍、デスモイド腫瘍、そしてこれらに関連するがんなどが含まれる。
診断・検査
家族性大腸ポリポーシス(FAP)はAPC遺伝子の変異によって生じる。FAPの診断は基本的には臨床所見に基づいてなされる。APC遺伝子の分子遺伝学的検査では発端者の95%で原因となる変異を検出でき、こうした検査は臨床的に利用可能である。分子遺伝学的検査はリスクをもつ患者家族の早期診断や、臨床所見のはっきりしない患者(腺腫性ポリープが100個未満)の確定診断の目的でしばしば行われる。
遺伝カウンセリング
FAPは常染色体優性遺伝の形式をとる。約75-80%の患者には罹患した親がいる。患者の子は50%の確率で原因となる変異APC遺伝子を受け継ぐ。家系内の患者にすでに変異が同定されている場合には、発症前診断が可能である。しかしながら成人発症型の遺伝性疾患に対する出生前診断は通常は行われないし、細心の遺伝カウンセリングが必要である。
臨床診断
家族性大腸ポリポーシス( FAP) の臨床的診断は以下の条件を満たす場合になされる。
軽症型 FAP(attenuated FAP) の臨床的診断は以下の条件を満たす場合になされる。
FAPの臨床診断の参考になる所見には以下のものが含まれる:胃ポリープ、十二指腸腺腫性ポリープ、骨腫、歯牙異常(特に過剰歯牙や歯牙腫)、網膜色素上皮の先天性肥大、軟部組織腫瘍(特に類表皮嚢胞や線維腫)、デスモイド腫瘍、これらに関連した癌。以上の所見はどれも診断基準には含まれていないが、これらの存在はFAPを示唆するものである。
大腸ポリープの組織学
異形成 腺腫性ポリープ(しばしば腺腫とよばれる)は、消化管の表層上皮が異形成像を示す前がん性増殖である。異形成は組織学的に分枝腺管の出現、杯細胞の消失、および以下の細胞学的特徴を有する:(正常では細胞の基底側に位置する)核の極性の喪失、核 /細胞質比の増大、細胞質の好塩基性の増大、細胞質グリコゲンの消失。異形成は軽度、中等度、高度に区分される。高度異形成ではその中にがんを見つける可能性が高く、がんに進展する可能性も高い。
絨毛性変化 腺腫性ポリープでは異形成像に加え、ポリープ表面の長く伸びた絨毛を特徴とする絨毛性変化も生じることがある。
分子遺伝学的検査
遺伝子 APCは大多数の家族性大腸ポリポーシス家系の発症に関与している遺伝子である。
検査の適応
臨床的検査法 家系内の APC 遺伝子変異を検出するためのいくつかの検査が臨床的に利用可能である。すなわち全領域シークエンス、電気泳動による変異スクリーニング (conformation strand gel electrophoresis: CSGE)とprotein truncation test(PTT)の組み合わせ、PTT単独による検査、そして連鎖解析である。
表1 FAPで用いられる分子遺伝学的検査
検査法 | 分子遺伝学的変化 | 変異検出率 |
---|---|---|
全領域シークエンス | APC 遺伝子変異 | ~90% |
変異スキャン | APC 遺伝子変異 | ~80-90% |
PTT | APC蛋白の早期終止 | ~80% |
サザンブロット解析 | エクソンの欠失・重複 | 不明 |
連鎖解析 連鎖解析は世代の異なる複数の患者がいる家系において考慮しうる。連鎖解析は正確な FAPの臨床診断と家族の正確な遺伝的関係の把握が基礎となる。また連鎖解析は検査を受ける患者家族の協力と希望の程度に依存する。FAPの連鎖解析に用いられるマーカーは情報量が多くかつ APC 遺伝子座に強く連鎖しているので、95%以上の家系において98%以上の正確さで使用することができる。患者が1人だけの家系では連鎖解析は行えない。新生突然変異が原因となっている患者に罹患した子供がいないような場合にはしばしばこのようなことが起こる。
表2 FAPの連鎖解析
患者に占める割合 | 分子遺伝学的変化 | 検査法 |
---|---|---|
95% |
APC 遺伝子に連鎖するマーカー |
連鎖解析 |
発端者の検査
遺伝子レベルでの関連疾患
大腸がん・ポリープ
I1307K変異 アシュケナジーユダヤ人において発見された APC 遺伝子コドン 1307の変異は遺伝子上にさらに変異をきたしやすい領域を作り出す。このため、この変異を有する患者では古典的なFAPの所見は呈さずにより大腸がんのリスクを高めると考えられる。全アシュケナジーユダヤ人の祖先の6%はこのI1307K変異を持っていたと考えられている。I1307Kを有する者は大腸ポリープを生じるが、典型的なFAPのような数百、数千という数ではない。またI1307Kを有する者は大腸がんについて10-20%の生涯発症リスクを有する。アシュケナジーユダヤ人を祖先に持ち、かつ大腸がんや大腸ポリープの家族歴もしくは既往歴を持つ者、あるいは大腸がん罹患について強く心配している者に対しては APC 遺伝子のI1307K変異の検査が提供されうる。この検査はアシュケナジーユダヤ人を祖先に持たない者には適用されない。I1307K変異を有する者に対する大腸ポリープのスクリーニングの有用性についてはまだ検討がなされていないが、一部の専門家は、I1307K変異を持つ者は35歳をすぎたら、あるいは家族内で最も早く大腸がんと診断された者の診断時年齢よりも5-10歳早くから大腸ファイバースコープによる検査を始め、これを2年ごとに受けるべきであると勧めている。また他の専門家は同様の年齢から検査をはじめ、3-5年ごとに検査を受けることを勧めている。
E1317Q変異 もう一つの APC 遺伝子のミスセンス変異、 E1317Qも大腸腺腫および(もしくは)大腸がんの易罹患性に関係している可能性があるが、データは一定の見解を示していない。E1317Q変異の大腸がん発症における意義は確実ではなく、この変異の検査は現在のところ臨床的には利用可能にはなっていない。
5q22欠失 APC 遺伝子を含む 5q22領域の欠失が精神遅滞を伴う大腸ポリポーシス患者で報告されている。大きな欠失はごくまれに通常の染色体検査で発見されるが、しばしばFISHによって検出可能である。
現在では家族性大腸ポリポーシス( FAP)は多彩な臨床像を呈する疾患であると認識されており、典型的なFAPに加えて、以前は別個の疾患と考えられていた3種の臨床型、すなわち軽症型FAP、Gardner症候群、 Turcot 症候群もこの疾患の亜型として含まれる。
古典的 FAP
大腸腺腫性ポリープが平均16歳(7-37歳)で出現する。35歳までには95%でポリープを認める。いったんポリープができるとポリープは急速にその数を増し、病変が完全に進行すると典型例では数百から数千におよぶポリープが認められる。大腸切除術を行わなければ大腸がんは避けられない。未治療患者が大腸がんと診断される平均年齢は39歳(34-43歳)である。未治療のFAP患者の7%は21歳までに大腸がんを発症し、45歳までには87%、50歳までには93%が大腸がんを発症する。まれではあるが、50歳台で無症状の患者も報告されている。家系間、家系内での臨床像の個人差が認められる。
FAPで時折認められる他の病変には以下のものがある。
乳頭部周辺(十二指腸乳頭部を含む)の腺腫性ポリープは少なくとも 50%の患者に認められる。この領域のポリープは膵管の閉塞をきたす結果膵炎を起こしうる。FAPでは膵炎の頻度が高い。これらのポリープはしばしば小さく、その観察には側視鏡による検査が必要となる。ある研究者は膵胆管系の分泌、たとえば胆汁がこの部位の腺腫やがんの発生に関与していると理論付けている。乳頭部周辺のポリープの悪性化の危険性は十二指腸のほかの部位の腺腫よりも高い。
部位 | がんの種類 | リスク |
---|---|---|
小腸:十二指腸と乳頭周囲 | がん | 4-12% |
小腸:十二指腸以遠 | がん | まれ |
胃 | 腺がん | 0.5% |
膵 | 腺がん | ~2% |
甲状腺 | 乳頭がん | ~2% |
中枢神経系 | 多くは髄芽腫 | <1% |
肝 | 肝芽腫 | 1.6% (5歳未満) |
胆管 | 腺がん | 低いが増加している |
副腎 | 腺がん | 低いが増加している |
十二指腸腺がんは 17-81歳の患者に報告されており、診断の平均年齢は45-52歳である。乳頭周囲に発生することが多い。十二指腸以遠の小腸がんは報告もあるがまれである。
胃腺がんは欧米諸国に住む FAP患者の0.5%に発生するが、日本や韓国の生活文化の中で暮らす患者ではより高頻度である。多くは腺腫から進展すると考えられているが、胃底腺ポリープから発生することもある。
甲状腺がんは FAP患者の約2%に発生し、診断時平均年齢は28歳(12-62歳)である。女性でより頻度が高い。乳頭がんが多く、しばしば篩状( cribriform ) の組織像を呈する。家族性の発生も報告されている。
妊娠 FAP女性患者における妊娠の影響についてはわずかの知見しかない。58名のデンマーク人女性患者での研究では、妊孕性、妊娠、分娩については一般集団と変わりがなかった。より大規模な、162名のFAP女性で2種類の大腸手術の前後での妊孕率を対照群と比較した研究がある。手術を受けていないFAP女性の妊孕率は対照群のそれと変わりがなかった。また回腸直腸吻合術を受けた女性患者も対照群と変わりがなかった。回腸嚢肛門管吻合術を受けたFAP女性の妊孕率は対照群と比較してわずかに低下していた。
回腸切除術を受けた女性患者の産科的合併症のリスクは腹部手術を受けた一般女性のリスクと変わりがないと考えられている。デスモイド腫瘍の治療に抗エストロゲン剤が効果的に使用されていることから、デスモイド腫瘍は妊娠に重要なホルモンによって影響を受けると考えられている。しかしながら、ある研究では過去に妊娠歴がありデスモイド腫瘍を発症した女性は、妊娠歴がなくデスモイド腫瘍を発症した女性に比べて明らかに合併症が少ないことが示されている。
軽症型 FAP
軽症型 FAPは「遺伝性大腸扁平腺腫症候群」(hereditary flat adenoma syndrome)と同じ病態であり、古典的FAPより少ない数の(平均30個)大腸ポリープを生じ大腸がんのリスクを伴う。ポリープは古典的FAPに比べてより口側に認められる傾向がある。大腸がんを診断される平均年齢は50-55歳で、古典的FAPに比べて10-15歳高齢であるが、一般集団の非遺伝性大腸がんに比べれば若年である。軽症型FAP患者でも上部消化管のポリープやがんを生じることがあり、FAPでみられる消化管以外の病変も伴うことがあるが、CHRPEやデスモイド腫瘍はまれである。
Gardner症候群
Gardner症候群は大腸腺腫性ポリポーシス、骨腫、軟部腫瘍(類上皮嚢胞、線維腫、デスモイド腫瘍)を伴う。Gardner症候群は別個の疾患と考えられていたが、現在では APC 遺伝子遺伝子の変異が古典的FAPとGardner症候群の原因となることが明らかになっている。
Turcot 症候群
Turcot 症候群は大腸がんと中枢神経腫瘍(主に髄芽腫)を伴う。 Turcot 症候群患者の 3分の2で APC 遺伝子に変異が認められ、残りの3分の1では遺伝性非ポリポーシス性大腸がん(HNPCC)の原因となるミスマッチ修復遺伝子に変異が認められる。HNPCC患者に生じる中枢神経腫瘍は通常は多形性膠芽腫である。
同じ APC 遺伝子変異を有していても患者ごとや家系ごとに差があるが、遺伝子型と臨床型の関係を明らかにするために多くの検討がなされている。ある研究者は遺伝子型に基づいた臨床的マネジメント法を提唱しているが、別の研究者は遺伝子型に基づいた治療方針の選択は行うべきではないと考えている。現在はまだ利用されてはいないが、将来的には治療選択において遺伝子情報がより不可欠なものとなるかもしれない。
頻度
FAPの頻度はいくつかの患者登録からの報告では人口10万人あたり2.29-3.2人である。FAPは歴史的には全大腸がんの0.5%を占めると考えられてきたが、この数字はリスクのある家族に対して早期のポリープ発見と予防的大腸切除術が行われるようになって低下しつつある。
FAPは他の大腸がんを伴う遺伝性疾患や他の消化管ポリポーシス症候群と分子遺伝学的検査、病理学的所見や臨床的特徴によって鑑別される。鑑別すべき疾患には以下のものが含まれる。
鑑別すべき病態には以下の後天的疾患も含まれる。
FAPが疑われる個人に対する評価法
FAPの症候に対する治療
FAPを有している人、 APC 遺伝子変異を有している人、遺伝子検査は行われていないが罹患しているリスクがある人、遺伝子検査で変異を同定できなかった家系の家族員に対して推奨される経過観察
身体診察、腹部超音波検査、血清 aフェトプロテイン定量による毎年の肝芽腫のスクリーニングを出生時から 5歳まで。
軽症 FAPを有するリスクがある人に対して推奨される経過観察
家系内で明らかになっている APC 遺伝子変異を受け継いでいない家族員に対して推奨される経過観察
リスクのある家族に対して推奨される遺伝子検査 FAPあるいは軽症型FAPを早期に診断することは、適切な時期に治療介入を行い、予後を改善させるのに役立つ。したがってリスクのある子供の早期の症状について経過観察を行うのは適切である。リスクのある家族に対してDNAによる検査を行うことは(遺伝カウンセリングの項参照)、診断をより正確なものとし、変異遺伝子を受け継いでいない家族員に対して経済的負担のかかるスクリーニングを行う必要性を減らすことができる。医療費の比較では、遺伝子検査のほうがS状結腸のファイバー検査によるスクリーニングよりも保因者を確定する方法として優れている。さらに、FAP患者が親族にいることをきっかけにFAPと診断された者の生命予後は、症状をもとに診断された患者のそれよりも明らかに良好である。
「遺伝カウンセリングは個人や家族に対して遺伝性疾患の本質、遺伝、健康上の影響などの情報を提供し、彼らが医療上あるいは個人的な決断を下すのを援助するプロセスである。以下の項目では遺伝的なリスク評価や家族の遺伝学的状況を明らかにするための家族歴の評価、遺伝子検査について論じる。この項は個々の当事者が直面しうる個人的あるいは文化的な問題に言及しようと意図するものではないし、遺伝専門家へのコンサルトの代用となるものでもない。」
遺伝形式
FAPは常染色体優性遺伝の形式をとる。
患者家族のリスク
発端者の両親
発端者の同胞 同胞のリスクは両親の遺伝的な状況に依存する。
発端者の子 FAP患者の子はそれぞれ50%の確率で変異遺伝子を受け継ぐ。
他の家族 他の家族のリスクは発端者の両親の状況による。もし両親(のいずれか)が罹患している場合は、彼(彼女)の血縁者にもリスクがある。
関連した遺伝カウンセリング上の問題
リスクはあるが無症状の成人や小児に対する検査 リスクのある家族員に対する DNAによる検査は臨床的マネジメントに記載した方針にのっとって行う。
分子遺伝学的検査 は、臨床的に FAPと診断された親族の遺伝子検査で APC 遺伝子変異が確認されたりPTTでAPC蛋白の早期終止が確認されたりした場合に、リスクのある家族員の状況を確実に判断するために行うことができる。
臨床的に診断された親族の遺伝子検査情報が入手できない状況で、リスクのある家族の状況を判断するために分子遺伝学的検査を行うのは問題を含んでおり、またその結果の解釈には注意を要する。家族での結果が陽性であった場合は、その被験者は変異遺伝子を有しており同じ検査法が家系内の他の者の検査に利用できることを示す。一方罹患している患者よりも先に家族に対して分子遺伝学的検査が行われる場合、検査で変異が見られなかったことは必ずしもその被験者が変異遺伝子を有していないことを意味しない。そのような場合には分子遺伝学的検査による保因者診断はできないので、リスクのある家族員は臨床的な経過観察プログラムにしたがう必要がある。
古典的FAPのリスクのある家族員に対する大腸スクリーニングは早ければ10歳に始まるので、分子遺伝学的検査は一般に8歳以上の子に対して提供される。軽症型FAPに対する同様の大腸スクリーニングは18歳に開始されるので、分子遺伝学的検査は18歳前後で提供される。分子遺伝学的検査はもし検査結果で臨床的マネジメントを変更されるような場合にはより早期に行われることもある。両親はしばしば疾患を受け継いでいない子に対する不要な検査を避けたいという思いでより早期の遺伝子検査を希望する。遺伝子検査の前には子と両親に対する教育に関して特別の注意を払う必要がある。検査結果を両親と子に伝える方法についてはあらかじめ決めておくべきである。大部分の子どもは発症前遺伝子検査結果の開示後に明らかな心理的問題を生じてはいないが、Codoriらはこうした家族に対する長期の心理的サポートを準備することを推奨している
他の考慮すべき問題 APC遺伝子の分子遺伝学的検査をオーダーする医師や検査を受ける被験者は、検体を検査機関に送る以前に検査の危険性、利点、限界について理解しておくことが勧められる。ある調査によればFAPの検査を受けた患者の約3分の1では医師が検査結果を誤って解釈していた。またMichieらによれば、変異陰性という結果を遺伝専門医以外から伝えられた家族は、遺伝専門医から陰性結果を伝えられた場合に比べて定期的検査の継続を希望する割合が高かった。なぜこのような差が出たかに関する追跡調査で、著者らは結果の受容においては効果的なコミュニケーションが鍵であると結論付けている。遺伝カウンセラーへの紹介や遺伝子検査を日常的に行っている機関への紹介が勧められる。
遺伝学的リスク評価とカウンセリング 遺伝学的リスク評価の過程で保因者を同定することの医学的、心理学的、倫理的な再認識に関する簡潔な記載は以下で参照できる。
DNAバンク DNAバンクは主に白血球から調製したDNAを将来の使用のために保存しておくものである。検査法や遺伝子、変異あるいは疾患に対するわれわれの理解が進歩するかもしれないので、ことに現在行っている分子遺伝学的検査ではすべての変異を検出できないような疾患に関してはDNAの保存は考慮すべきかもしれない。このサービスを行っている機関についてはDNA bankingの項を参照のこと。
出生前診断
もし家系内の患者におけるAPC遺伝子変異が判明しているか、あるいはその家系で連鎖解析を行いうるだけのマーカー情報が得られている場合には、50%のリスクを有している胎児に対するFAPの出生前診断が可能である。胎生16-18週*に採取した羊水中細胞や10-12週に採取した絨毛やから調製したDNAを用い、分子遺伝学的検査の項で述べた方法を用いて検査を行うことができる。「リスクはあるが無症状の成人や小児に対する検査」の項で述べた判断基準が出生前診断の場合にも適用される。胎児においてAPC遺伝子変異を検出しても発症時期や重症度の予測はできないことに注意する必要がある。成人発症型疾患の出生前診断の希望は注意深い遺伝カウンセリングを必要とする難しい問題である。
*胎生週数は最終月経の開始日あるいは超音波検査による測定に基づいて計算される。
訳注:一般に本症に対して出生前診断の適応があるとは考えられていない。
FAPのように治療法が存在する典型的な成人発症遺伝性疾患に対する出生前診断の希望はあまりない。専門家の間や家族内においても、特にそれが早期診断ではなく妊娠中絶を目的とした場合には、出生前診断に対する考え方の違いが存在しうる。多くの専門機関は出生前診断については夫婦の自己決定の問題だと考えているが、この問題については注意深く議論することが適切である。
着床前診断 いくつかのがん易罹患性疾患に対する着床前診断が報告されており、子どもがFAPとなる可能性を有するカップルに対する選択肢となりうる。着床前診断を行う前に、親となる患者の変異が明らかにされている必要がある。妊娠は生殖補助療法によって成立させ、不妊治療の専門家や内分泌の専門家との連携が必要である。
訳注:日本では行われない
原文について:GeneReviewsJapan注:現在,FAPはGeneReviewsには掲載されていない。APC-Associated Polyposis Conditionsの項目に統一された。(2014.12.13 確認)