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家族性地中海熱
(
Familial Mediterranean Fever)
[Recurrent Polyserositis. Includes: Familial Mediterranean Fever Type 1, Familial Mediterranean Fever Type 2]

Gene Review著者: Mordechai Shohat, MD, Gabrielle J Halpern, MB, ChB
日本語訳者: 窪田美穂(ボランティア翻訳者),櫻井晃洋(信州大学医学部附属病院遺伝子診療部)
Gene Review 最終更新日: 2008. 2.25 日本語訳最終更新日: 2008. 5.13.

原文 Familial Mediterranean Fever


要約

疾患の特徴 

家族性地中海熱(FMF)1型の特徴は反復性の短期間の炎症・漿膜炎発作であり,発熱,腹膜炎,滑膜炎,胸膜炎を伴い,稀に心膜炎や髄膜炎を伴う.症状と重症度は患者ごとに異なり,同一家系内でも様々な場合がある.腎不全に至るアミロイドーシスが最も重症な合併症である.FMF2型は,他の症状のない患者に最初の臨床徴候として現れるアミロイドーシスが特徴である.

診断・検査 

FMFの診断は臨床所見をもとになされる.通常2〜3日間持続する腹痛(腹膜炎),胸膜痛,関節炎(足首・膝)を伴う再発性発熱発作により疑われる.赤血球沈降速度の上昇,白血球増多及び血中フィブリノーゲン濃度の上昇が特徴的である.MEFV遺伝子は現在FMF発症との関連がわかっている唯一の遺伝子である.MEFV遺伝子に対する分子遺伝学的検査は確定診断に用いられる.

臨床的マネジメント 

病変に対する治療 発熱炎症発作には非ステロイド系抗炎症薬を用いる.末期腎疾患には親族ドナーによる生体腎移植を含めた治療が行われる.

原発性病変の予防 p.Met694Val変異のホモ接合体やp.Met694Val変異と他の病原性アレルとのヘテロ接合体を持つ患者には生涯コルヒチン治療が行われる(成人患者は1日1〜2mg経口投与,小児患者は年齢と体重に応じて1日0.5〜1mg経口投与).コルヒチンは炎症性発作及びアミロイド沈着を予防する.他の変異を有する患者に対するコルヒチン治療の効果は様々である.

経過観察 コルヒチン治療患者に対しては,1年に1回,身体診察及び随時尿の蛋白検査を行う.

回避すべき薬剤と環境 シスプラチンにより症状増悪の可能性がある.サイクロスポリンAが腎移植の移植片生着に悪影響を及ぼす可能性がある.

リスクのある血縁者に対する検査 コルヒチン治療により腎へのアミロイド沈着を予防できるので,特にp.Met694Valアレルが存在する場合,(症状の有無にかかわらず)第1度近親及び他の血縁者に対して分子遺伝学的検査を提供する.

遺伝カウンセリング 

FMFは常染色体劣性遺伝形式に従う.一般に,発端者の両親は確実に保因者と考えられる.しかし,保因者率の高い集団や血族結婚率の高い集団では,患者の子が発病する可能性や患者同士の間に生まれた子が発病する可能性がある.したがって,遺伝状態の確認のため発端者の両親に分子遺伝学的検査を考慮することは適切である.両親が共にヘテロ接合体である場合,患者の同胞が発病するリスクは25%である.家系内の患者でMEFV変異が同定されている場合,出生前診断は可能である.


診断

臨床診断

FMFを疑わせる徴候は以下の通りである.

  • 腹膜炎,滑膜炎,胸膜炎を伴う反復性発熱発作
  • 反復性丹毒様紅斑
  • 「急性腹症」による数回の開腹術にもかかわらず病因不明の場合
  • 反復性炎症発作の病歴のない場合も含め,15歳以降の未治療患者に特徴的に発症するAAアミロイドーシスの存在
  • コルヒチンの持続治療に対する良好な反応
  • 第1度近親にFMF患者がいる場合
  • 発症リスクの高い民族

FMF診断最小基準

FMF診断最小基準は,発熱に加え以下の主症状の1つ以上及び以下の副症状の1つが認められる場合,もしくは発熱に加え2つの副症状が認められる場合である.

主症状

  • 発熱
  • 腹痛
  • 胸痛
  • 関節痛(*)
  • 発疹

(*)反復性単関節炎患者に対して正確な診断を行うことは重要である.単関節炎患者でFMFを疑わせる診断基準は,高熱,コルヒチンに対する良好な反応,同胞や他の血縁者のFMF病歴,FMFに合致した遺伝子型である.

副症状

  • 赤血球沈降速度の上昇

正常値

  • 50歳未満の男性:15 mm/h未満
  • 50歳以上85歳未満の男性:20 mm/h未満
  • 50歳未満の女性:20 mm/h未満
  • 50歳以上85歳未満の女性:30 mm/h未満
  • 白血球増加

正常値:4,500〜11,000 μL

  • 血清フィブリノーゲン濃度の上昇

正常値:200〜400 mg/dL


分子遺伝学的検査

遺伝子  MEFV遺伝子は現在FMFとの関連がわかっている唯一の遺伝子である.

分子遺伝学的検査:臨床的利用

  • 確定診断検査
  • 発症前診断
  • 保因者診断
  • 出生前診断

臨床的検査法

  • 既知の変異の分析 地中海地域出身者によく見られるエクソン2のp.Glu148Gln変異,エクソン3のp.Pro369Ser変異,よく見られるエクソン10の8個の変異に対する検査が行われる.変異検出率は民族によってばらつきがある(表1参照).

  • 特定の複数エクソンに対するシークエンス解析 これまでに知られているほとんどのMEFV変異はエクソン10に存在するため,特定の複数エクソンに対するシークエンス解析を行っている検査施設では,エクソン10と他のエクソンに対するシークエンス解析を行っている.

表1 家族性地中海熱で用いられる分子遺伝学的検査

検査方法

検出変異

2個の変異の検出頻度(注1)

既知の変異の分析(注2)

  • エクソン2: p.Glu148Gln変異
  • エクソン3: p.Arg408Gln変異      p.Pro369Ser変異
  • エクソン10: p.Met694Val変異      p.Val726Ala変異
         p.Met680Ile変異
         p.Met694Ile変異
         p.Lys695Arg変異
         p.Ala744Ser変異
         p.Arg761His変異
         692欠失
         p.Arg653His変異

アルメニア人:90%

トルコ人:90%

アラブ人:70%

北アフリカ系ユダヤ人:95%

イラク系ユダヤ人:80%

アシュケナージ・ユダヤ人:90%

シークエンス解析

エクソン10のMEMVシークエンス・バリアント

全集団:90%

エクソン10以外のMEFVシークエンス・バリアント

注1:遺伝子/遺伝子座,臨床型,民族,遺伝機序,検査法により分類された変異を有する患者比率.
注2:検査施設ごとに使用するパネルは異なる.

検査結果の解釈

検出されうる変異
・既に報告されている病原性変異
・病原性と推測されるが過去の報告がない変異
・臨床的意義が不明なシークエンス変化
・病的意義がないと考えられるが過去に報告がないシークエンス変化
・既に報告されている病原性のないシークエンス変化

変異が検出されない場合に考えられる可能性
・患者は解析した遺伝子に変異を有していない
・患者は変異を有しているがシークエンス解析で検出できない
・患者は解析した範囲以外の領域に変異を有している

連鎖解析

連鎖解析は臨床的に実施可能であり,家系内でMEFV遺伝子が1つも同定されていない場合,もしくは1つしか同定されていない場合に,保因者診断の一選択肢として用いられる.連鎖解析には,最低1人のFMF患者からの検体を含む複数の血縁者からの検体が必要である.連鎖解析の正確性は,(1)患者家系における遺伝子マーカーの情報量,(2)家系内患者がFMFであるという臨床診断の正確さに基づく.

遺伝学的に関連する疾患

MEFV遺伝子の変異は以下の疾患で遺伝的感受性因子となる可能性がある.

  • ベーチェット病
  • 潰瘍性大腸炎

とくに関節炎発作を伴う潰瘍性大腸炎患者でMEFV変異頻度の上昇が報告されており,病状経過におけるMEFV遺伝子の修飾効果を示している可能性がある.

  • 関節リウマチ

MEFV遺伝子の変異,なかでもp.Glu148Gln変異は,関節リウマチ発症に対する独立した修飾因子であることが分かっている.


臨床像

自然経過

FMFは1型と2型に分類される.

  • FMF1

FMF1型の特徴は反復性の短期間の炎症発作及び漿膜炎であり,発熱,腹膜炎,滑膜炎,胸膜炎を伴い,もしくは稀に心膜炎,髄膜炎を伴う場合もある.症状は患者ごとに異なり,同一家系内でも様々である.腎不全に至るアミロイドーシスは最も重症な合併症である.

  • FMF2

FMF2型の特徴は,他の症状がない患者に最初の臨床症状として現れるアミロイドーシスである.

一般的症状

FMFの一般的症状は以下の通りである.

  • 再発性発熱

小児期早期の反復性発熱がFMFの唯一の症状である場合がある.

  • 腹痛発作

90%の患者に起こる腹痛発作は突然の発熱と腹部全体に及ぶ痛みとともに始まる.身体所見は腹部筋肉の板状の固縮,反跳痛,腹部膨満,腸蠕動音の喪失である.X線写真では小腸に小規模の鏡面形成が複数見られる.「急性腹症」の診断から開腹術が行われる場合が多いが,行われない場合徴候と症状は続発症を伴うことなく24〜48時間の後に消失する.

  • 関節発作

FMF患者の75%に起こる関節発作は突然始まるが,軽微な外傷や長時間の歩行といった労作により誘発されることがある.特徴的な所見は(1)発作開始から24時間の非常な高熱,(2)下肢(膝・足首・腰)の1箇所の大関節での発症,(3)24〜48時間のピークの後,続発症を伴わずに徴候と症状の緩徐な消失が見られることである.無菌性の滑膜浸出液が見られることが多い.

発作は腰や膝に起こることが多いが,足首,肩,顎関節,胸鎖関節といった他の関節に起こることもある.慢性単関節炎と同様に関節は腫脹し痛みを伴う.再発性単関節炎がFMFの唯一の症状である場合がある.このような場合,身体全般の検査が実施されるまで正確な診断が下されない可能性がある.

発作は数週間後もしくは数ヵ月後に自然に治まる.関節へ重度の損傷が起こるため,恒久的な関節の変形に対しては人工関節手術が必要となる場合がある.約5%の患者では関節発作が長期化する.最近の研究で,18歳以前に発症した症例では関節炎,関節痛,筋肉痛,丹毒様紅斑を生じる頻度が18歳以降に発症した症例と比べて高いことが示されている.

  • 前駆症状

前駆症状は約50%のFMF患者に起こる.前駆症状はほとんどの発作で再発し,平均20時間続く.発作が起こる患部における軽微な不快感として(不快の前駆症状),もしくは身体的,感情的,神経心理的不快感として(variant前駆症状)現れる.

  • 胸膜発作

約45%のFMF患者に起こる胸膜発作は急性片側性熱性胸膜炎の突然の発症であるが,急速に治まる.患者は呼吸に伴う痛みを訴え,患側の呼吸音は減弱する.X線写真では肋骨横隔膜角に小量の滲出液貯留が認められる.発作は48時間以内に消失する.

  • 心膜炎

稀に心膜炎が起こる.胸骨下痛が特徴である.心電図ではST上昇が見られる.X線写真では心陰影の一過性拡大が,心エコーでは心嚢液貯留が見られる.

  • アミロイドーシス

未治療の場合AAアミロイドーシスが,とくに北アフリカ系ユダヤ人によく見られる.ネフローゼ症候群に至る重度の持続性蛋白尿と,末期腎不全に至る進行性腎疾患を伴う.他の症状がなく,FMFの最初のそして唯一の症状として腎性アミロイド症を発症する患者もある.透析や腎移植により腎不全患者の延命が可能となったことから,他臓器へのアミロイド沈着も見られる.アミロイドーシスの頻度は民族,遺伝子型,性別により様々である.未治療の場合,アミロイドーシスはトルコ系患者の60%,北アフリカ系ユダヤ人の最大75%で起こる.

アミロイドーシスを伴わない患者と比べ,アミロイドーシスを伴う患者のほうがより若年でFMFを発症するようである.FMF関連の胸痛,関節炎,丹毒様紅斑などの症状は,アミロイドーシスを伴うFMF患者のほうがより高頻度にみられる.発症から診断までに時間がかかることがアミロイドーシス発症リスクを高めている.

FMFに続発する肺アミロイドーシスが臨床で見つかることは稀であり,これまでの報告は3例だけである.

より稀なFMF発作

  • 遷延性発熱性筋痛症
    遷延性発熱性筋痛症は,長期化する微熱,赤血球沈降速度の上昇(100以下),白血球増多,高グロブリン血症を伴う,患者を衰弱させる重度の筋痛症である.症状に高熱,腹痛,下痢,関節炎・関節痛,ヘノッホ・シェーンライン紫斑病類似の一過性脈管性皮疹を伴う場合もある.遷延性発熱性筋痛症は通常6〜8週間続き,プレドニソン治療に反応する.連鎖球菌はこのような症状を引き起こす原因の1つである可能性がある.
  • 丹毒様紅斑
    丹毒様紅斑は発熱と,熱感と圧痛を伴う境界の明瞭な赤い膨隆した病変が特徴である.典型的な大きさは10〜35cm2で,主に足首と膝の間の下肢,もしくは足の甲に見られる.病変は1〜2日続く場合が多い.痛みや炎症を伴わない体温上昇が数時間続くこともある.
  • 脈管炎
    脈管炎は稀であり,ヘノッホ・シェーンライン紫斑病 (FMF患者の5%未満)や結節性多発性動脈炎を伴う場合がある.
  • 不妊
    FMFに対する治療が行われていない場合,特に複数の発作やアミロイドーシスがみられる患者では,不妊となる確率が高い.コルヒチン治療は妊娠の確率を増すが,精子減少症・無精子症を引き起こす場合がある.
  • アトピーの減少
    FMFによる喘息,アトピー感作性,アレルギー性鼻炎の進行に対する抑制効果がいくつかの研究で報告されている(一般集団の20%に対してFMF患者では7%).
  • 悪性腹膜中皮腫
    小児期に反復性腹膜症状があったFMFの2症例で悪性腹膜中皮腫との関連が示唆されており,局所的炎症が同一部位の癌の発症となった可能性が示唆されている.両症例ともp.Met694Val変異のホモ接合体であった.

遺伝子型と臨床型の関連

北アフリカ系ユダヤ人の90%以上に見られるp.Met694Val変異とアミロイドーシス発症との間には,特に同変異のホモ接合体において,明瞭な相関関係が確認されている.この変異とより重症な臨床型との関連を指摘する研究があるが,否定的な研究もある.p.Met694Val変異以外の変異を持つ場合にはアミロイドーシスの発症確率は低い.

一概に,臨床的主症状,アミロイドーシス,他の関連症状といった疾患の重症度はMEFV変異に影響を受ける.しかし,家系内や各家系間で臨床像が多彩であるように,これらは他の遺伝子(MEFV遺伝子座以外)や環境因子の影響も受ける.性差,血清アミロイドA濃度,関節炎を引き起こす複数遺伝子が修飾因子として作用している可能性を示唆した報告がある.上記の修飾因子やこれ以外の修飾因子の影響についてはこれから研究が進められる必要がある.

p.Met694Val変異のホモ接合体患者では,他の集団と比べ発症年齢が低くなり,関節炎と関節痛の起こる確率が高い.

最近の研究により,SAA1-13T遺伝子型がアミロイドーシスの発症に少なくとも関与していることは分かっている.

病名 

一般的に家族性地中海熱として現在知られている本疾患に用いられてきた「家族性発作性多漿膜炎」や「周期性疾患(periodic disease)」は,もはや用いられない.

頻度 

FMFは地中海地域住民,とくに北アフリカ系ユダヤ人,アルメニア人,トルコ人,アラブ人に最も多く見られる.

北アフリカ系ユダヤ人,イラク系ユダヤ人,アルメニア人,トルコ人におけるFMF保因者率は3〜7人中1人という高率で算出されている.分子遺伝学的検査では5人中1人とアシュケナジーユダヤ人における保因者頻度も高率であるが,アシュケナジーユダヤ人で最もよく見られる変異がFMFの軽症型であるためアシュケナジーユダヤ人におけるFMFの有病率は高くない.

アラブ人のFMF臨床像は他と異なっており,MEFV変異の範囲と分布が他民族の患者で見られるものとは異なっている.アラブ人では変異分布は国ごとに様々である.

  • ヨルダンではp.Met694Val変異が最もよく見られる変異であるが,p.Val726Ala変異とp.Met694Ile変異の頻度も同様によく見られる.
  • ヨルダンとレバノンにおける別の研究では,p.Met694Val変異とp.Met694Ile変異が最もよく見られる.加えて,レバノン人では他の集団では見つかっていない新たな変異が3個報告された(p.Thr177Ile変異・p.Ser108Arg変異・p.Glu474Lys変異).
  • 北アフリカ系アラブ人のFMF患者では,p.Met694Val変異がモロッコ人(49%),チュニジア人(50%)で比較的よく見られるが,アルジェリア系アラブ人のFMF患者ではMEFV変異の80%がp.Met694Ile変異である.北アフリカ系アラブ人におけるMEFV変異の推定保因者頻度は100人中1人であり,北アフリカ系ユダヤ人よりもかなり低率である.よく見られる変異アレルに対する検査で多数のアラブ人のFMF患者に病原性変異が1個しか同定されていないことから,アラブ人では他のあまりよく見られない変異が存在することが考えられる.
  • パレスチナ人では,多くのFMF患者でよく見られる変異が2個同定されているが,1個しか同定されない場合がほぼ3分の1であるため,パレスチナ人ではまだ同定されていない変異が存在することが考えられる.

アルメニア人のFMF患者では変異の分布は非アシュケナジーユダヤ人における分布と類似している.


鑑別診断

再発性発熱

再発性発熱症候群に関する総説がある[Padeh 2005].

PFAPA症候群(周期性発熱・アフタ性口内炎・咽頭炎・頸部リンパ節炎)

PFAPA症候群の周期性発熱はFMFと区別が不可能である場合が多い.MEFV遺伝子に対する分子遺伝学的検査と,治療の有無に関わらず注意深くフォローアップを行うことが正確な診断には欠かせない.発作初期のステロイド治療が効果的である.

HIDS (高免疫グロブリンD血症・周期性発熱症候群).

HIDSは,反復性発熱発作,腹痛,関節痛を特徴とする常染色体劣性遺伝性疾患である.HIDSはメバロン酸キナーゼをコードするMVK遺伝子の変異により起こる.HIDSにはまだ知られていない遺伝子変異により起こる病型がある.HIDSの反復性発熱発作と腹痛はFMFと区別が不可能な場合が多く,正確な診断にはコルヒチンによる治療効果の評価や分子遺伝学的検査によらなければならない場合もある.

TRAPS(TNF受容体関連周期性発熱症候群)(TNF=腫瘍壊死因子)

TRAPSは,TNFRSF1A遺伝子の変異により起こる常染色体優性遺伝性疾患である.この変異により可溶性TNF受容体の血清値が下がり,TNFα作用が阻害されない結果,炎症が起こる.家族性ハイバーニアン熱とも呼ばれるこの疾患では,発熱発作,化膿性腹膜炎,関節痛,筋肉痛,皮膚発疹,結膜炎が特徴的である.アミロイドーシスを発症する患者もいる.組換えTNF受容体製剤による治療に期待が持たれている.TRAPSの臨床像はFMFと類似しているが,遺伝形式と分子遺伝学的検査により,両者は区別される.

ELA関連好中球減少症

ELA関連好中球減少症には,先天性好中球減少症と周期性好中球減少症があり,反復性発熱,皮膚および口腔咽頭の炎症,頸部リンパ節腫脹を特徴とする常染色体優性遺伝性疾患である.先天性好中球減少症では,1歳になるまでに下痢,肺炎,肝臓・肺・皮下組織の深部膿瘍が見られることが多い.先天性好中球減少症患者は骨髄異形成や急性骨髄性白血病を発症するリスクが高い.周期性好中球減少症では,好中球減少時に蜂巣炎,特に肛門周囲の蜂巣炎がよく起こる.好中球が減少していない時期に,患者は一般に健康であり,症状は成人期に改善する.白血球エラスターゼをコードするELA2遺伝子に対する分子遺伝学的検査は臨床的に利用可能である.

FMFと臨床診断を受けている西欧系白人患者では,上記のよく見られるMEFV変異の頻度はきわめて低く,2個のMEFV変異が同定されている患者はいない.西欧系白人でFMF類似の症状を呈する患者は,実際にはFMFを罹患しているのではなく,FMFに類似した臨床像を呈するMEFV変異が原因ではない疾患に罹っているという結論が導かれた.したがって,このような患者に対しては他の病因解明のための研究がなされる必要がある.

アミロイドーシス

CIAS1遺伝子の変異により発症する遺伝性疾患であると考えられているMuckle-Wells症候群と家族性寒冷蕁麻疹は常染色体優性遺伝形式に従う.蕁麻疹,難聴,腎アミロイドーシスが特徴である.

トランスサイレチンアミロイドーシスは考慮されるべきである.この常染色体優性遺伝性疾患は緩徐進行性の末梢感覚運動性ニューロパチー,自律神経障害,腎障害,心筋障害,硝子体混濁,中枢神経障害が特徴である.この疾患は20〜30歳代に下肢の異常感覚や感覚低下で発症することが一般的であり,2〜3年の間に運動障害が続発する.自律神経障害には起立性低血圧,交代性の便秘・下痢,悪心・嘔吐発作,胃蠕動の低下,陰萎,無汗症,尿閉,失禁がある.心アミロイドーシスは進行性の心筋症を起こす.中枢神経症状には,認知障害,神経症状,視力障害,頭痛,けいれん,運動麻痺,失調,脊髄障害,水頭症,頭蓋内出血がある.TTR遺伝子に対する分子遺伝学的検査は臨床的に利用可能である.

腹痛

急性腹症をきたすあらゆる疾患が考慮されるべきである.急性虫垂炎,潰瘍穿孔,腸閉塞,急性腎盂炎,急性膵炎,胆嚢炎,憩室炎,そして女性の場合は子宮外妊娠,急性・慢性卵管炎,卵巣嚢胞の捻転,両側性卵管留膿腫,子宮内膜症といった婦人科系疾患が考えられる.

関節痛

  • 急性関節リウマチ
  • リウマチ熱
  • 化膿性関節炎
  • コラーゲン脈管疾患

胸痛

  • 胸膜炎
  • 肺塞栓

臨床的マネジメント

最初の診断時における評価

以下は,FMFと診断された患者における疾患の程度を評価するために実施される.

  • 家族歴を含む完全な既往症の記録
  • 関節症状評価のための身体診察
  • 蛋白尿検査 尿蛋白が検出された場合,24時間蓄尿中の蛋白排泄量の測定や腎機能検査,そしてもし適応となるならばアミロイド蓄積の有無を確認するための腎生検といったより精密な検査が必要である.

病変に対する治療

発熱発作,炎症発作には通常非ステロイド系抗炎症薬が用いられる.

腎性アミロイド症による末期腎不全には他の病因による腎不全と同様の治療がなされるべきである.FMFアミロイドーシス患者に対する親族ドナーによる生体腎移植の長期予後は一般的な移植の場合と同様である.

一次病変の予防

p.Met694Val変異のホモ接合体患者,もしくはp.Met649Val変異と他の病原性アレルのヘテロ接合体患者は,コルヒチン治療により炎症発作とアミロイド沈着の予防が可能であるため,診断が確定したらすぐにコルヒチン治療を開始すべきである.コルヒチンは成人患者に対して1日1〜2mg経口投与される.小児の場合は,年齢と体重に応じて,1日0.5〜1mg経口投与される.患者は生涯コルヒチン治療を受ける.

p.Met694Val変異を持たず症状が軽度である患者(炎症発作が頻繁でない患者)はコルヒチン治療を受けるか,または尿蛋白の有無を半年ごとに検査すべきである.

コルヒチンによる継続治療はp.Glu148Gln変異のホモ接合体患者もしくはヘテロ接合体患者に対して適応されることは少ないようである.このような患者に対しては重度の炎症発作が起こった場合やアミロイドーシスによる尿蛋白が見られた場合,コルヒチン治療が行われるべきである.

コルヒチン治療の合併症として,筋疾患や中毒性表皮壊死型反応が起こる場合がある.

コルヒチン治療は妊娠中も継続すべきである.

コルヒチン治療に反応しない患者もいる.これらの例では単核細胞中コルヒチン濃度が低く,FMF以外の遺伝的要因やコンプライアンスの低さが原因と考えられた.患者13人に対する研究では,経口コルヒチンに加えて週1回のコルヒチン(1mg)静注を行った場合,発作(関節発作を除く)が起こる頻度が50%減少したと報告されている.

二次病変の予防

1日1mgの経口コルヒチン治療により,FMF発作抑制に効果が見られない場合でも腎アミロイドーシスは予防可能である.

経過観察

コルヒチン治療を受けている患者は,随時尿蛋白検査を含む身体検査を1年に1回受けるべきである.

回避すべき薬物や環境

シスプラチンがFMF症状を憎悪させるという報告が1編ある.

サイクロスポリンAはFMF患者の腎移植の移植片生着に悪影響を与えるようである.

リスクのある親族の検査

分子遺伝学的検査は症状の有無に関わらず第1度近親や他の血縁者に提供されるべきである.p.Met694Valアレルが存在する場合,血縁者には炎症性発作がなくてもアミロイドーシスを発症するリスクが生じるので,腎アミロイドーシスの発症を予防するためにコルヒチン治療(1mg/日)の必要が生じてくるからである.

遺伝カウンセリング目的で行われるリスクのある血縁者に対する検査に関する問題については「遺伝カウンセリング」を参照のこと.

研究中の治療法

ImmunoGuard(R) (Andrographis paniculata Nees)やサリドマイドによるFMF治療の成功例がそれぞれ1件ずつ報告されているが,この結果を裏付ける研究が待たれる.

種々の疾患に対する臨床試験治験についてはClinicalTrials.govを参照のこと.

その他

Genetic clinics

Genetics Clinicsは患者や家族が自然経過,治療,遺伝形式,患者家族の遺伝的発症リスクに関する情報を提供とするとともに,患者サイドに立った情報も提供する.

支援団体

支援団体は,患者やその家族に情報,支援,他の患者との交流の場を提供する.「関連情報」には疾患別の支援団体や複数疾患にまたがった支援団体が掲載されている.

遺伝カウンセリング

「遺伝カウンセリングは個人や家族に対して遺伝性疾患の本質,遺伝,健康上の影響などの情報を提供し,彼らが医療上あるいは個人的な決断を下すのを援助するプロセスである.以下の項目では遺伝的なリスク評価や家族の遺伝学的状況を明らかにするための家族歴の評価,遺伝子検査について論じる.この項は個々の当事者が直面しうる個人的あるいは文化的な問題に言及しようと意図するものではないし,遺伝専門家へのコンサルトの代用となるものでもない.」

遺伝形式

FMFは常染色体劣性遺伝形式をとる.

患者家族のリスク

発端者の両親

  • 両親は確実にヘテロ接合体であり,1個の病原性変異を子に伝える.
  • ヘテロ接合体は無症状である.
  • 保因者率が高い集団や血族結婚率の高い集団では,患者と保因者の間に生まれた子が発症する可能性があり,また,患者同士の間に生まれた子が発症する可能性もある.したがって,発端者の両親に対する分子遺伝学的検査を考慮することは適切である.

発端者の同胞 

両親ともに保因者である場合:

  • 受精段階で,患者の同胞が発症する確率は25%であり,無症状の保因者となる確率は50%,発症もせず保因者ともならない確率は25%である.
  • リスクのある同胞が発症しないとわかった場合,この同胞が保因者である確率は2/3である.
  • ヘテロ接合体は無症状である.

両親の1人が患者であり,もう1人が保因者である場合:

  • 受精段階で,患者の同胞が発症する確率は50%であり,無症状の保因者となる確率は50%である.
  • リスクのある同胞が発症しないとわかった場合,この同胞が保因者である確率は100%である.
  • ヘテロ接合体は無症状である.

発端者の子 

  • 全ての子はMEFV遺伝子変異を発端者から受け継ぐ.
  • 保因者率が高い集団や血族結婚率が高い集団では,発端者のパートナーが患者であったり保因者であったりする可能性がある.したがって,子の発症リスクは発端者のパートナーに対する分子遺伝学的検査実施後に最も正確に判明する.

発端者の他の家族 

絶対的ヘテロ接合体の同胞が保因者である確率は50%である.

保因者診断

発端者の変異が同定されている場合,保因者診断は臨床的に利用可能である.

遺伝カウンセリングに関連した問題

リスクのある無症状の家族に対する検査 FMF治療はどこでも受けることができ容易で効果的であるため,無症状でリスクのある血縁者に対する検査及び治療は正当化される.

家族計画 遺伝的リスクの評価や遺伝カウンセリングは妊娠前に行われるのが望ましい.患者家族が遺伝子検査を受ける場合も同様である.

DNAバンキング DNAバンクは主に白血球から調製したDNAを将来の使用のために保存しておくものである.検査法や遺伝子,変異あるいは疾患に対するわれわれの理解が進歩するかもしれないので,DNAの保存は考慮に値する.ことに現在用いられている分子遺伝学的検査の感度が100%ではないような疾患では特に重要である.

出生前診断

リスクが高い妊娠に対する出生前診断は,通常胎生週数15〜18週頃に実施される羊水検査や胎生週数10〜12週頃に実施される絨毛膜絨毛サンプリングで採取された胎児細胞のDNA分析により可能である.家系内患者に病原性アレルが同定されていること,もしくは家系内の連鎖が確立していることが,出生前診断を行う条件である.

注:胎生週期とは最終月経の第1日から換算するか,超音波による計測によって算出される.

その他の考慮事項

早期治療により良好な予後が望まれる治療可能な疾患であるFMFの出生前診断の実施に関しては,特に早期診断ではなく妊娠中絶を考慮して行われる場合には,議論が分かれる.たいていの医療機関は出生前診断を受けるかどうかの決定は両親の選択に委ねると考えるであろうが,この問題に関しては慎重な議論及び研究が必要である.

着床前診断

着床前診断は家系内に病原性変異が同定されている場合に利用可能である.着床前診断を行っている施設に関しては「Testing」参照.

訳注:一般に家族性地中海熱に対して出生前診断の適応があるとは考えられておらず,日本では行われていない.


原文 Familial Mediterranean Fever

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