ポンペ病
(Pompe Disease)

[Synonyms:Acid Alpha-Glucosidase Deficiency, Acid Maltase Deficiency, GAA Deficiency, GSD II, Glycogenosis Type II]

Gene Reviews著者: BrunellaFranco,MD,Ange-LineBruel,PhD,andChristelThauvin-Robinet,MD,PhD
日本語訳者:瀨戸俊之(大阪公立大学大学院医学研究科臨床遺伝学)

GeneReviews最終更新日:2023.11.2  日本語訳最終更新日: 2025.7.1

原文: Pompe Disease


要約


疾患の特徴

ポンペ病は発症年齢、臓器障害、重症度、進行速度によって下記の様に分類される。

乳児期発症ポンペ病(IOPD;生後12ヶ月未満で発症し心筋症を伴う患者)は、胎児期に症状が明らかになる場合もあるが、典型的には生後4カ月で発症し、筋緊張低下、全身の筋力低下、哺乳困難、発育不全、呼吸窮迫、肥大型心筋症を呈する。酵素補充療法(ERT)による治療を行わない場合、IOPDは進行性の左室流出路閉塞と呼吸不全により、2歳までに死亡に至る。
晩発性ポンペ病(LOPD;(a)生後12カ月未満で発症し心筋症を伴わない患者、および(b)生後12ヵ月以降に発症したすべての患者を含む)は、近位筋の筋力低下と呼吸不全を特徴とし、臨床的に重要な心臓障害はまれ。

診断・検査

GSD IIの診断は、発端者における酸性α-グルコシダーゼ酵素活性の欠損、または分子遺伝学的検査で酸性α-グルコシダーゼの両アレル性病原性変異のいずれかが証明されることで確定される。

臨床的マネジメント

症状に対する治療:
米国臨床遺伝学会(ACC)の管理ガイドライン:心筋症の個別化治療は、標準治療薬が投与できない場合があり、頻脈性不整脈および突然死のリスクがあるために実施される。筋力低下に対する理学療法は、可動域の維持と歩行補助が目的である。拘縮に対する手術は必要に応じて実施される。栄養/摂食補助も行われる。呼吸補助には、罹患成人における吸気/呼気訓練、CPAP、BiPAP、および/または気管切開術が含まれる。

主症状の予防:
診断が確定次第、アルグルコシダーゼアルファを用いた酵素補充療法(ERT)を開始する。ERTで注意すべき点はアナフィラキシーだけでなく、注入時の急性反応(治療可能)を伴うことである。治療酵素に対する抗体産生リスクの高い乳児は、治療経過の早い段階で免疫調節療法が必要となる可能性が高い。

二次的合併症の予防:
感染症の積極的な管理、最新の予防接種の維持、罹患本人および家族への年1回のインフルエンザワクチン接種、生後2年間におけるRSウイルス(RSV)予防(パリビズマブ)。麻酔は不可欠な場合のみ使用。

サーベイランス:
呼吸状態、心血管系の状態、筋骨格機能(骨密度測定を含む)、栄養・摂食、腎機能、聴力の定期的なモニタリング。

避けるべき薬剤/環境:
ジゴキシン、イオンチャネル薬、利尿薬、後負荷軽減薬(これらは病状によっては左室流出路閉塞を悪化させる可能性があるため)、低血圧および体液量減少、感染性因子への曝露。

At risk血縁者の評価:
リスクのある同胞を評価し、早期診断とERTによる治療を可能にする。

遺伝カウンセリング

ポンペ病は常染色体潜性遺伝形式をとる。受胎時、罹患した人の同胞はそれぞれ、罹患する確率が25%、無症候性キャリアとなる確率が50%、罹患せずキャリアでもない確率が25%です。罹患家族におけるGAAの病的バリアントが判明している場合、at risk 家系員に対する保因者検査、リスクの高い妊娠に対する出生前診断、および着床前診断が可能となる。


診断

ポンペ病は発症年齢、臓器障害、重症度、進行速度によって分類される。

乳児型ポンペ病(IOPD)
生後12ヵ月未満で発症し、心筋症を伴う患者

遅発型ポンペ病(LOPD)
生後12ヵ月未満で発症し、心筋症を伴わない患者
生後12ヵ月以降に発症の患者

ポンペ病が疑われるべき所見

以下の臨床所見および臨床検査所見を有する場合、IOPDおよびLOPDが疑われる。

臨床所見

乳児型ポンペ病(IOPD)は、以下の症状がみられる乳児で疑われます[van den Hout et al 2003, Kishnani et al 2006a]。

遅発型ポンペ病(LOPD)は、臨床的に明らかな心病変を伴わない乳児、小児、成人においては近位筋力低下および呼吸不全を呈する場合に疑う。

ポンペ病を疑うべき臨床検査所見

新生児スクリーニング(NBS)結果陽性酸性α-グルコシダーゼ(GAA)酵素活性は、標準条件下で乾燥濾紙血(DBS)を用いて迅速かつ高感度に分析できる[Chamoles et al 2004, Zhang et al 2006, Winchester et al 2008]。DBSでGAA酵素活性欠損が疑われた場合には、分子遺伝学的検査による確認が推奨されている[Winchester et al 2008]。他の組織(培養皮膚線維芽細胞など)におけるGAA活性測定は、ポンペ病の酵素診断における“ゴールドスタンダード”とみなされてきたが、質量分析法を用いた新しい手法では、血液を用いた検査がGAA活性と同等の結果が得られることが示されている[Lin et al 2017]。 NBSを実施している国には、台湾、オーストリア [Mechtler et al 2012]、日本 [Oda et al 2011]、米国などがある。(現在はニューヨーク州、ミズーリ州、ケンタッキー州、イリノイ州。さらに多くの州がNBSの導入を計画中) [Hopkins et al 2015]
(訳者注:近年、日本でも新生児スクリーニングのオプション項目として実施できる自治体が増えている。最新情報は日本マススクリーニング学会HPで確認できる)

血清クレアチンキナーゼ(CK)濃度は、すべてのIOPD患者および一部のLOPD患者で上昇し(最高2000 IU/L、正常範囲は60~305 IU/L)、LOPD患者の一部でも認められる(LOPDでは正常範囲の場合もある)[Laforêt et al 2000、Kishnani et al 2006b]。血清CK濃度の上昇は多くの疾患で認められるため、非特異的な所見とみなす必要がある。
尿中オリゴ糖:尿中グルコース四糖(Glc4、Hex4)の上昇は、IOPDにおいて非常に感度の高い所見である。しかし、他のグリコーゲン蓄積疾患でも認められる[An et al 2000, Kallwass et al 2007, Young et al 2012]。LOPDでは感度は低下している[Young et al 2009]。注:尿中オリゴ糖はNBSで異常所見を示した乳児の評価に有用であることが報告されている[Chien et al 2015]。

診断の確定

GSD IIの診断は、発端者における酸性α-グルコシダーゼ酵素活性の欠損、または分子遺伝学的検査でGAAの両アレルにまたがる病原性(または病的である可能性が高い)バリアントのいずれかが確認できれば確定する(表1参照)。
注:(1) NBSで1つの異常所見が認められただけでは、ポンペ病の診断には十分とはみなされない。 (2) ACMG/AMPガイドラインによれば、「病原性(病的)バリアント(pathogenic variant)」と「病的(病原性)の可能性が高い(likely pathogenic)」という用語は臨床現場において同義語であり、どちらも診断に有用とみなされ、臨床判断に用いることができる[Richards et al 2015]。本GeneReviewにおける「病的バリアント」への言及には、病原性変異の可能性が高いものも含まれると理解される。(3) 意義不明の両アレルGAA変異(または既知のGAA病原性変異1つと意義不明のGAA変異1つ)の同定は、診断の確定または除外診断のいずれにもならない。

酸性α-グルコシダーゼ(GAA)酵素活性:標準条件下では、DBSを用いてGAA酵素活性を迅速かつ高感度に分析できる[Chamoles et al 2004, Zhang et al 2006, Winchester et al 2008]。筋肉や末梢白血球などの他の組織も使用できるが、いずれも限界がある。
原則として、GAA酵素活性が低いほど、発症年齢は若年化する。

分子遺伝学的検査のアプローチには、単一遺伝子検査、病原性変異の標的解析、および多遺伝子パネルの使用が含まれる。

注:臨床的特徴がない場合、分子遺伝学的検査と酵素活性の結果の解釈には注意が必要である。なぜなら、アジア系集団に比較的多くみられる偽欠損アレルc.1726 G>A (p.Gly576Ser) は、NBSプログラムにおける酵素検査の解釈を誤らせるからである(ミズーリ州とニューヨーク州のスクリーニングプログラムで確認済)[Hopkins et al 2015, Lin et al 2017]。

表1.グリコーゲン貯蔵病II型で用いられる分子遺伝学的検査

遺伝子 1 方法 病原性変異の割合 2
方法による同定
GAA 配列解析 3
ターゲット遺伝子 欠失/重複解析 5
83%~93% 4
5%~13% 6
  1. 染色体座位とタンパク質については、表A「遺伝子とデータベース」を参照
  2. この遺伝子で検出された変異に関する情報については、「分子遺伝学」
  3. シークエンス解析では、良性、おそらく良性、意義不明、おそらく病原性、または病原性の変異が検出される。変異には、ミスセンス変異、ナンセンス変異、スプライス部位変異、および小規模な遺伝子内欠失/挿入が含まれる。通常、エクソンまたは遺伝子全体の欠失/重複は検出されない。配列解析結果の解釈に関する考慮事項については、ここをクリック
  4. GAA酵素活性の低下または欠損が確認された個人におけるゲノムDNAシークエンシングにおける2つの病原性変異の検出率 [Hermans et al 2004, Montalvo et al 2006]。
  5. ターゲット遺伝子の欠失/重複解析は、遺伝子内欠失または重複を検出する。用いられる手法には、定量PCR、ロングレンジPCR、マルチプレックスライゲーション依存性プローブ増幅(MLPA)、単一エクソンの欠失または重複を検出するように設計された遺伝子標的マイクロアレイなど、様々な手法が含まれる。
  6. エクソン18の欠失は、アレルの約5%~7%を占める [Van der Kraan et al 1994]。他のエクソン欠失やマルチエクソン欠失も報告されているがまれ[McCready et al 2007、Pittis et al 2008、Bali et al 2012、Amiñoso et al 2013]。

臨床的特徴

臨床像

ポンペ病は、従来、発症年齢、臓器障害(心筋症の有無など)、重症度、進行速度に基づき、乳児型ポンペ病(IOPD)と遅発型ポンペ病(LOPD)という2つの主要な表現型に分類されてきた。原則として、症状の発症が早期であるほど進行速度が速いため、IOPDとLOPDという2つの一般的な分類は、予後と治療選択肢を決定する上で臨床的に有用である。
LOPDは小児期発症、若年発症、成人発症に分類されているが、成人発症ポンペ病の患者の多くは小児期に症状が始まったことを覚えているため、生後12カ月以降に発症した患者には遅発型という用語が用いられることが多い[Laforêt et al 2000]。 LOPDは、発症年齢だけではサブタイプを的確に区別できない臨床的スペクトラムである可能性が高い[Kishnani et al 2013]。

IOPDは胎児期に発症することもあるが、多くの場合、平均生後4ヶ月で筋緊張低下、全身の筋力低下、哺乳困難、発育不良、呼吸困難として認識される(表2参照)。
哺乳困難は、顔面筋緊張低下、巨舌症、舌筋力低下、および/または口腔運動機能低下に起因する可能性がある[van Gelder et al 2012]。

難聴はよくみられるが、これは蝸牛病変、伝導障害、あるいはその両方を反映している可能性がある[Kamphoven et al 2004、van Capelle et al 2010]。

酵素補充療法による治療を行わない場合、生後数週間で心エコー検査によって特定される可能性のある心拡大および肥大型心筋症は、左室流出路閉塞へと進行する。心臓の拡大は、肺容量の減少、無気肺、そして時には気管支圧迫を引き起こすこともあります。グリコーゲンの沈着が進行すると、心電図上のPR間隔の短縮として現れる伝導障害が生じます。
治療を受けない乳児では、生後2年以内に心肺機能不全により死亡することがよくあります[van den Hout et al 2003, Kishnani et al 2006a]。

表2.乳児期発症ポンペ病の初診時によくみられる所見

身体的徴候   患者数の割合 1
筋緊張低下/筋力低下  52%~96%
心肥大   92%~100%
肝腫大   29%~90%
左室肥大   83%~100%
心筋症   88%
呼吸困難   41%~78%
心雑音   46%~75%
舌腫大(巨舌症)   29%~62%
哺乳困難   57%
発育不良   53%
深部腱反射消失   33%~35%
認知機能正常   95%
  1. Hirschhorn & Reuser [2001], van den Hout et al [2003]

換気不全による死亡は、典型的には小児期早期に発生。

LOPDは、筋力低下および呼吸不全を伴い、様々な年齢で発症する可能性がある。小児期に症状が明らかであれば、進行はより急速であるため、疾患の進行は発症年齢によって予測されることが多い。
小児期後期発症から青年期発症のポンペ病の初期症状には、典型的には心臓合併症は認められないが、成人期発症の遅い患者の中には、上行胸部大動脈拡張症などの動脈症を呈する人もいる[El-Gharbawy et al 2011]。なお、心エコー検査のみ(胸部大動脈の直径を具体的に測定しない場合)では、この合併症を描出するには不十分な場合がある。さらに、脳底動脈および内頸動脈の拡張は、一過性脳虚血発作や第三神経麻痺などの臨床徴候を伴うことがある[Sacconi et al 2010]。骨格筋障害の進行は乳児型よりも遅く、最終的には横隔膜と呼吸補助筋が侵される[Winkel et al 2005]。罹患した人は下肢の筋力低下のために車椅子使用者となることが多い。呼吸不全が主要な罹患率と死亡率の原因となる[Hagemans et al 2005, Güngör et al 2011]。男性であること、骨格筋の筋力低下の重症度、および罹病期間はすべて、重度の呼吸不全の危険因子である[van der Beek et al 2011]。

LOPDは、肢帯型筋ジストロフィーや多発性筋炎のように、主に下肢を侵す進行性の近位筋力低下を伴い、10歳代から60歳代まで発症することがありある。罹患した成人は、小児期に症状が始まり、スポーツへの参加が困難になったと訴えることがよくある。その後、疲労感や、座位からの立ち上がり、階段の昇降、歩行の困難が生じ、医師の診察が必要になる。未治療のLOPD患者コホートでは、診断時年齢の中央値は38歳、診断後の生存期間の中央値は27歳、死亡時の年齢の中央値は55歳(範囲23~77歳)であった[Güngör et al 2011]。
LOPDの成人患者における進行性骨粗鬆症のエビデンスは蓄積しつつあり、これは主に歩行能力の低下に起因すると考えらるが、他の病理学的プロセスも見逃すことはできない[Oktenli 2000、Case et al 2007]。

LOPDの臨床症状[Hirschhorn & Reuser 2001]

電気生理学的検査:ポンペ病のどの病型においても、一部の筋肉は正常に見えるものの、ミオパチーは筋電図(EMG)によって確認することができる。成人では、異常を同定するために傍脊柱筋の針筋電図検査が必要となる場合がある[Hobson-Webb et al 2011]。神経伝導速度検査は、運動神経および感覚神経ともに正常であり、特にIOPDおよびLOPDの診断時には正常である。しかしながら、IOPDの小児患者において、進行性運動軸索性神経障害が認められたことがある[Burrow et al 2010]。
筋生検:他のグリコーゲン貯蔵疾患とは異なり、ポンペ病はリソソーム蓄積病でもある。ポンペ病では、グリコーゲン貯蔵が筋細胞のリソソーム中に、過ヨウ素酸シッフ染色で陽性となる々な重症度の空胞として観察されることがある。しかしながら、GAA酵素の部分的欠損が認められるLOPD患者の20%~30%では、これらの筋特異的な変化が認められないことがある[Laforêt et al 2000, Winkel et al 2005]。さらに、筋におけるグリコーゲン貯蔵の組織化学的所見はグリコーゲン貯蔵疾患を裏付けるものであるが、ポンペ病に特異的なものではない。遺伝子型と表現型の相関 GAA酵素活性は、発症年齢および進行速度と「大まかな」一般則として相関する可能性がある。

 病的バリアントの分類別にみた一般的遺伝型表現型関連:

特定の病的バリアントと遺伝型表現型関連に関するいくつかの観察結果(表3参照):

表3. GAA病的バリアントを持つ個人の割合

GAA病的バリアント 罹患個人の割合 参考文献
p.Glu176ArgfsTer45   オランダ人の34%   米国人の5% Van der Kraan et al [1994] Hirschhorn & Huie [1999]
p.Gly828_Asn882del オランダおよびカナダの乳児の25%   米国人の9% Van der Kraan et al [1994]   Hirschhorn & Huie [1999]
c.-32-13T>G 遅発型GSD IIの36%~90% Hermans et al [2004], Montalvo et al [2006]
p.Asp645Glu ≤80%台湾および中国の乳児 Shieh & Lin [1998]
p.Arg854Ter 共通の表現型を有するアフリカ系住民の60%以下 Becker et al [1998]

命名法

歴史的に、IOPD(現在は生後12ヵ月未満で心筋症を呈して発症したものと定義)は、古典型(発症年齢12ヵ月未満で臨床的に重要な心筋症を呈する重症型)と「非古典型」または乳児型(発症年齢12ヶ月未満で心筋症を呈さない型)に分類されていた[Slonim et al 2000]。現在、「非古典型IOPD」の小児のほとんどは、LOPD(すなわち、発症年齢12ヶ月未満で心筋症を呈さず、かつミオパチー発症年齢が12ヶ月を超えるすべての患者)に分類されている。

有病率

ポンペ病の発生率は、民族や地理的地域によって異なり、アフリカ系アメリカ人では14,000人に1人、ヨーロッパ系では100,000人に1人(表4参照)。

表4. 異なる集団におけるポンペ病の発生率

 集団 発生率 参考文献
アフリカ系アメリカ人 1:14,000 Hirschhorn & Reuser [2001]
オランダ 合計1:40,000 1
乳児期発症1:138,000成人期発症1:57,000
Ausems et al [1999], Poorthuis et al [1999]
米国 合計1:40,000 Martiniuk et al [1998]
中国南部/台湾 1:50,000 Lin et al [1987]
ヨーロッパ系 乳児期発症1:100,000晩期発症1:60,000 Martiniuk et al [1998]
オーストラリア 1:145,000 Meikle et al [1999]
ポルトガル 1:600,000 Pinto et al [2004]
  1. 合計 = ポンペ病のすべての表現型:

 

 


遺伝学的に関連のある疾患(同一アレル疾患)

このGeneReviewで議論されているもの以外に、GAAの病原性変異と関連する表現型は知られていない。 


鑑別診断

乳児型ポンペ病(IOPD)

鑑別診断で考慮すべき疾患:

遅発型ポンペ病(LOPD)

呼吸筋の早期障害は、若年発症ポンペ病を多くの神経筋疾患と鑑別する上でしばしば有用。
鑑別診断において考慮すべき疾患:


臨床的マネジメント

ポンペ病と診断された患者の疾患の程度とニーズを把握するため、以下の患者の初期評価に関するガイドラインが公表されている。

胸部X線検査

 心電図検査(EKG)

心エコー検査

栄養/哺乳

聴覚学的検査 – IOPD

 障害評価項目– IOPDおよびLOPD

その他

臨床遺伝専門医または遺伝カウンセラーへの相談が推奨される。

各症状の治療

IOPDの管理に関するガイドラインは米国臨床遺伝学会の専門家委員会によって策定されている[Kishnani et al 2006b]:

近位の運動筋力低下は、乳児および小児において骨盤帯の拘縮を引き起こす可能性があり、手術を含む積極的な治療が必要となる[Case et al 2012]。 側弯症は、特に乳児期または小児期発症の患者で多くみられる[Roberts et al 2011]。

乳児型では、巨舌症や重度の呼吸不全により気管切開が必要となる場合がある。

一次症状の予防

CRIM状態
 酵素補充療法(ERT)は、IOPDまたは症状のあるポンペ病の診断が確定次第、速やかに開始すべきだが、交差反応性免疫学的物質(CRIM)を産生しない(すなわちCRIM陰性の)患者は、一般的にERT中に高力価の抗rhGAA抗体を産生するため、治療経過の早期、できれば初回投与前に免疫調節を用いた治療プロトコルの変更が必要であり、ERT開始前に交差反応性免疫学的物質(CRIM)状態を確認することが適切であると考えられる[Winchester et al 2008、Kishnani et al 2010、Messinger et al 2012]。複数の免疫調節プロトコルが用いられており、そのほとんどはリツキシマブと併用薬(ミコフェニレートモフェチル、メトトレキサート、シロリムスなど)を用いられている[Messinger et al 2012, Elder et al 2013]。
 CRIM陰性がよく見られる地域としては、米国と中東が挙げられる[Messinger et al 2012]。

酵素補充療法(ERT)

Myozyme®(アルグルコシダーゼ アルファ)>は、2006年に乳児期発症型ポンペ病(IOPD)の治療薬としてFDAの承認を受けた。 Lumizyme®は、2010年に8歳以上のLOPD患者への使用薬としてFDAの承認を受けた。Lumizymeの年齢制限は2014年に撤廃された。 Myozyme®とLumizyme®は、2週間ごとに20~40mg/kgをゆっくりと点滴静注する。現在、多くの患者が高用量で治療を受けている。

訳者注:2025年7月現在で日本ではMyozyme® (アルグルコシダーゼ アルファ)とNexviazyme®(アバルグルコシダーゼ アルファ)が保険収載されている。また、新たな製剤としてPombility® (シバグルコシダーゼ アルファ)とOpfolda® (ミグルスタット)が2025年6月に製造販売承認を受けている。

ERTの合併症

輸液関連反応
Myozyme®臨床試験では、投与群の半数に輸液関連反応が認められた。
治療を受けた小児の大多数は、治療開始後3ヶ月以内にMyozyme®に対するIgG抗体を発現した。輸液関連反応はIgG抗体保有者でより多くみられるようである。IgG抗体価が高値で持続する患者の中には、治療に対する臨床反応が不良な場合がある(「診断の確定」の「酸性α-グルコシダーゼタンパク質の定量」を参照)。
 IgE抗体の発現はそれほど一般的ではないが、生命維持措置を必要とするアナフィラキシーに関連する可能性がある。

ほとんどの輸液関連反応は、輸液速度を低下させるか、解熱剤、抗ヒスタミン剤、またはグルココルチコイドを投与することで軽減できる。その理由は初回投与は救急医療を提供できる施設で行われてることが推奨されていることと、多くのIOPD患者で既に呼吸機能や心機能低下していることも影響しているかもしれない。

その他
IOPDの患児は、静脈アクセスのための器具設置に関連する処置において麻酔が困難な場合がある。

予後

IOPD:新生児スクリーニング(NBS)の根拠は、酵素補充療法(ERT)による早期治療を受けたIOPD乳児の心臓状態と運動発達が対照群よりも良好であるためである[Chien et al 2009]。生後2週未満でのERT開始は、生後12ヵ月時点で粗大運動機能の有意な改善と関連している[Yang et al 2016]。このコホートに関する長期追跡データはまだ得られていない。
 生後6ヵ月未満、かつ人工呼吸器補助が必要になる前にERTを開始した患者では、未治療コホートと比較して、生存率の改善、人工呼吸器非依存生存率の改善、心臓重量の減少、および運動技能の獲得の有意な改善が認められた。
早期にERTを受けた長期生存者は、心臓機能と運動機能の持続的な改善を示す可能性がある[Prater et al 2012]。ERTは心臓重量を様々な程度に減少させ、駆出率を改善させるが、ERT開始後数週間は駆出率が一時的に低下することがある[Levine et al 2008]。ERTはPR間隔の延長と左室電位の低下をもたらす[Ansong et al 2006]。
長期予後はまだ不明であるが、入手可能な研究では、予測よりも良好な認知機能が示唆されている。注意すべきは、5歳未満のIOPD患児の認知能の評価は困難であり、一般的な評価ツールではこれらの患児の認知能力が過小評価されることが多い点である[Kishnani et al 2009、Nicolino et al 2009、Ebbink et al 2012]。 Bayleyスケールを用いた24ヵ月齢時の認知能力の推定では、NBSで診断され早期にERTを受けた乳児では認知機能が維持されることが示された[Lai et al 2016]。
IOPDに対するERTの重要な試験では、人工呼吸器依存の発現が確実に遅延することが示されたが、人工呼吸器依存の患者のほとんどは人工呼吸器依存のままである。この知見は、αグルコシダーゼ投与による効果的なグリコーゲン枯渇に対する骨格筋(特にタイプII線維)の相対的抵抗性を示す実験的証拠と一致する。ERTへの反応不良の予測因子としては、治療中の筋グリコーゲン増加、αグルコシダーゼに対するIgG抗体価の高値、およびCRIM陰性などがあげられる。
LOPD:主な合併症は運動障害と呼吸不全である。ベースライン時に歩行可能で侵襲的人工呼吸器を必要としていなかった8歳以上の患者90名を対象とした無作為化二重盲検プラセボ対照試験において、有効成分を投与された患者は、78週の評価時点で運動機能と努力性肺活量の維持状態が良好であった[van der Ploeg et al 2010]。同様の所見が非盲検試験でも示された[Strothotte et al 2010]。
ランドコーポレーションの36項目簡易調査票(SF-36)を用いて評価したLOPD成人患者の生活の質は、ERT開始前には低下していたが、ERT開始後2年間で改善した[Güngör et al 2016]。
注:新生児スクリーニングでLOPDと診断された乳児におけるERT開始時期は十分に確立されていないが、台湾のグループは臨床的重症度を用いて、3歳未満でERTが必要となる乳児を特定している[Chien et al 2015]。

 二次合併症の予防

感染症は積極的に管理する必要がある。
予防接種はその年・月歳で接種すべきものを全て済ませておく必要がある。
罹患した本人および家族は、毎年インフルエンザワクチン接種を受けるべきである。 RSウイルス(RSV)予防(パリビズマブ)は、生後2年間に投与すべきである。
心血管系還流の低下および基礎にある呼吸不全は重大なリスクを伴うため、麻酔は絶対に必要な場合にのみ使用すべきである。

サーベイランス

綿密なフォローアップが求められる。ACMGポンペ病管理ワーキンググループ(Kishnani et al 2006b)では、管理とサーベイランスのガイドラインを提案している。LOPD患者の年齢層は幅広いため、推奨事項のほとんどはIOPDとLOPDの両方に適用できる。

避けるべき薬剤/状況

心臓症状の治療に用いられる標準的な薬剤は、病気の特定の段階では禁忌となる場合がある。ジゴキシン、イオンチャネル薬、利尿薬、および後負荷軽減薬の使用は、左室流出路閉塞を悪化させる可能性があり、病気の後期には適応となる場合もある。
低血圧および体液量減少は避けるべきである。
感染性因子への曝露は避けるべきである。

At risk血縁者の評価

早期診断とERTによる治療により、罹患率と死亡率を低減させるため、一見無症状であっても発端者の同胞は評価することが望ましい。

評価には以下が含まれる
• 家系内のGAAの病的バリアントが判明している場合、分子遺伝学的検査。
• 家系内のGAAの病的バリアントが判明していない場合、GAA酵素活性検査。
遺伝カウンセリングを目的としたAt risk血縁者の検査に関する問題は、「遺伝カウンセリング」を参照

妊娠管理

乳児型ポンペ病(IOPD)患者のほとんどは、子供をもうけていない。
遅発型ポンペ病(LOPD)成人患者の多くは、妊娠・出産を経験している。妊娠中および授乳中にERT治療を受けた女性が少なくとも1例報告されており、胎児への影響は認められていない[de Vries et al 2011]。ミオパチーと呼吸不全を有する女性の場合、胎児の成長が母体の健康にさらなる合併症を引き起こす可能性がある。母体胎児医学の専門医と相談の上、綿密な呼吸器系および心臓のモニタリングを開始する必要がある。

研究中の治療法

根本的な酵素欠損を修正するための遺伝子治療が研究中である[Raben et al 2002, DeRuisseau et al 2009, Mah et al 2010]。AAV-αグルコシダーゼの換気改善能を検証する第I/II相試験では、ERT治療を受けたIOPD患児の転帰が報告されている。横隔膜神経にAAV-αグルコシダーゼを注入し、換気訓練を行ったこの試験では、一部の患児、特に介入時に常時換気補助を必要としていなかった患児において、換気低下率が軽減された[Smith et al 2017]。
幅広い疾患情報および病態に関する臨床試験情報にアクセスするには、米国ではClinicalTrials.gov、欧州ではEU臨床試験登録簿を検索。

その他

酸性α-グルコシダーゼ欠損症のヒトおよびウシにおける骨髄移植の経験は限られており、現在まで、このような治療は成功例とは考えられていない [Hirschhorn & Reuser 2001]。


遺伝カウンセリング

「遺伝カウンセリングは個人や家族に対して遺伝性疾患の本質,遺伝,健康上の影響などの情報を提供し,彼らが医療上あるいは個人的な決断を下すのを援助するプロセスである.以下の項目では遺伝的なリスク評価や家族の遺伝学的状況を明らかにするための家族歴の評価,遺伝学的検査について論じる.この項は個々の当事者が直面しうる個人的あるいは文化的、倫理的な問題に言及しようと意図するものではないし,遺伝専門家へのコンサルトの代用となるものでもない.」

遺伝形式

ポンペ病は常染色体潜性遺伝。

家族構成員のリスク

発端者の両親

発端者の同胞 

発端者の子

保因者(ヘテロ接合体)の検出

分子遺伝学的検査

リスクのある血縁者に対する保因者診断には、家系内におけるGAA病的バリアントの同定が事前に必要である。

生化学的遺伝子検査

皮膚線維芽細胞、筋細胞、または末梢血白血球における酸性α-グルコシダーゼ酵素活性の測定は、絶対保因者と一般集団(非保因者)の残存酵素活性値に有意な重複があるため、保因者判定の信頼性に欠ける。

遺伝カウンセリングに関する関連事項

早期診断および治療を目的としたリスクのある血縁者の評価に関する情報については、「マネジメント」の「リスクのある血縁者の評価」を参照のこと。

家系員における表現型の一致/不一致

病的バリアントがヌルである小児では、IOPDにおける同胞ペアの一致率が高い[Hirschhorn & Reuser 2001]。LOPDの発症年齢および重症度は、罹患家系員間で異なる場合がある。

家族計画

DNAバンキング

分子診断が確定していない(すなわち、原因となる発症機序が不明である)発端者は、検査方法論や遺伝子、発症機序、疾患に関する理解は将来的に向上する可能性が高いため、DNAバンキングを検討すべきである。詳細については、Huang et al [2022] を参照のこと。

出生前検査および着床前遺伝子検査

分子遺伝学的検査

罹患家族においてGAA病的バリアントが同定された場合、出生前および着床前遺伝子検査が可能となる。

生化学的遺伝子検査

出生前検査は、培養されていない絨毛膜絨毛または羊水細胞中のGAA酵素活性を測定することで可能となるが、家族内で病的バリアントが判明している場合は、分子遺伝学的検査が推奨される。


関連情報

GeneReviewsスタッフは、この疾患を持つ患者および家族に役立つ以下の疾患特異的な支援団体/上部支援団体/登録を選択した。GeneReviewsは、他の組織によって提供される情報には責任をもたない。選択基準における情報についてはここをクリック。


分子遺伝学

分子遺伝学とOMIMの表の情報はGeneReviewsの他の場所の情報とは異なるかもしれない。表は、より最新の情報を含むことがある。

表A.ポンペ病:遺伝子とデータベース

遺伝子 染色体座位 タンパク質 座位特異的データベース HGMD ClinVar
GAA 17q25​.3 リソソームα-グルコシダーゼ グルコシダーゼα-酸(ポンペ病)(GAA)@ LOVD
CCHMC - ヒト遺伝学変異データベース(GAA)
GAA GAA

データは、以下の標準的な参考文献から収集されている。遺伝子はHGNC、染色体座位はOMIM、タンパク質はUniProt。リンクが提供されているデータベース(遺伝子座特異的、HGMD、ClinVar)の説明については、ここをクリック。 。

表B:ポンペ病のOMIMエントリ(OMIMですべて表示)

232300 ポンペ病
606800 グルコシダーゼ、α、酸;GAA

遺伝子構造

GAAは約20kbの長さで、20のエクソンを含む。cDNAは3.6kb以上の長さで、2859塩基のコード配列を有している。

良性バリアント

2つの良性バリアント(および「正常」バリアント)が、3つの既知のアロ酵素(GAA1、GAA2、およびGAA4)の原因である。
人工基質に対する酵素活性を阻害する偽欠損アレル c.1726 G>A (p.Gly576Ser) は、新生児スクリーニングプログラムの一環として研究されたアジア人集団のみならず、他の集団においても比較的よく見られる [Labrousse et al 2010, Hopkins et al 2015, Lin et al 2017]。
注意:新生児スクリーニングによって、さらなる偽欠損アレルが発見される可能性がある。

病的バリアント

ポンペ病患者において、GAAに150以上の病原性変異が同定されている。表Aを参照。
病的ナンセンス変異、大小の遺伝子再編成、およびスプライシング変異が観察されている。多くの病原性変異は、家族、地理的地域、または民族に特異的である可能性がある。
GAA 酵素活性の完全な欠如をもたらす病原性変異体の組み合わせは、乳児型ポンペ病 (IOPD) でより一般的に見られるが、部分的な酵素活性をもたらす病原性変異体の組み合わせは、通常、遅発型ポンペ病 (LOPD) でより一般的に見られる。

表5.本GeneReviewで議論されているGAAバリアント

バリアント分類

塩基の変化 予測されるタンパク質変化 参照配列
Pseudodeficiency
(偽欠損)
c.1726G>A p.Gly576Ser NM_000152​.5
NP_000143​.2
病的バリアント c.-32-13T>G
(IVS1-13T>G 1)
-- NM_000152​.5
c.525delT p.Glu176ArgfsTer45 NM_000152​.5
NP_000143​.2
c.1935C>A p.Asp645Glu
c.2481+110_2646+39del538
(Exon 18 del)
p.Gly828_Asn882del
c.2560C>T p.Arg854Ter

表に記載されているバリアントは著者によって提供されている。GeneReviewsのスタッフは、バリアントの分類を独自に検証していない。
GeneReviewsは、Human Genome Variation Society (varnomen.hgvs.org) の標準命名規則に従っている。命名法の説明については、クイックリファレンスを参照。

  1. 現在の命名規則に準拠していないバリアントの指定

正常な遺伝子産物

GAAは、酸性pHでα-1,4-およびα-1,6-グルコシド結合を触媒するリソソーム酵素。7つのグリコシル化部位があり。未成熟タンパク質は952個のアミノ酸から構成され、グリコシル化されていない分子量は105 kdと予測される。成熟酵素は、76 kdまたは70 kdのモノマーとして存在。

異常な遺伝子産物。GAA病原性変異は、mRNAの不安定性、および/または酸性α-グルコシダーゼの重大な切断、もしくは酵素の活性の著しい低下を引き起こす。


更新履歴:

  1. GeneReviews著者:Brad T Tinkle, MD, PhD, Nancy Leslie, MD
    日本語訳者:窪田美穂(ボランティア翻訳者),山本佳世乃(お茶の水女子大学特設遺伝カウンセリング講座)
    GeneReviews 最終更新日: 2008.8.5.   日本語訳最終更新日: 2009.4.3.
  2. Gene Reviews著者: BrunellaFranco,MD,Ange-LineBruel,PhD,andChristelThauvin-Robinet,MD,PhD 日本語訳者:瀨戸俊之(大阪公立大学大学院医学研究科臨床遺伝学)
    GeneReviews最終更新日:2023.11.2  日本語訳最終更新日: 2025.7.1.[in present]

原文: Pompe Disease

印刷用

 

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