Gene Reviews著者: Pilar L Magoulas, MS, CGC and Ayman W EI-Hattab, MD, FAAP, FACMG.
日本語訳者: 和田宏来 (県西総合病院小児科/筑波大学大学院小児科)
Gene Reviews 最終更新日: 2013.1.3.日本語訳最終更新日: 2017.4.4
原文 Glycogen Storage Disease Type Ⅳ
疾患の特徴
ここで述べる糖原病Ⅳ型(GSDⅣ)は、さまざまな発症年齢、重症度、臨床的特徴をもつ異なる亜型の集合体である。家族内および家族間でも臨床所見はかなり異なる。
診断・検査
臨床症状や、分子鎖に異常を認めるグリコーゲンの筋/肝臓への蓄積から疑われる。肝/筋/皮膚線維芽細胞におけるグリコーゲン脱分枝酵素(glycogen debranching enzyme, GBE)欠損、もしくは糖原病Ⅳ型の原因遺伝子として唯一知られているGBE1遺伝子に両アレル病原性変異を認めた場合に診断は確定する。
臨床的マネジメント
症候の治療:
治療は、肝臓・神経・栄養・(臨床および生化学)遺伝学・小児発達の各専門医が加わった集学的チームによって行われべきである。肝移植は、肝不全に至る進行性の肝型患者における唯一の治療選択肢である。しかし糖原病Ⅳ型では合併症や死亡のリスクも高く、その一部は肝外症状、とくに心筋症が寄与している。骨格筋ミオパチーおよび筋緊張低下を認める小児では、発達の評価と必要に応じて理学療法を行う。心筋症を合併する患者は心臓専門医による診療を必要とする。心臓移植は重症心疾患患者で選択肢となることがある。
二次合併症の予防:
十分な食事量を摂取することにより栄養障害(脂溶性ビタミン欠乏など)を防ぐ。凝固プロフィールの評価や必要に応じて新鮮凍結血漿を使用することにより周術期の出血を予防する。
定期検査:
利用できる臨床ガイドラインはない。以下を評価することが提唱されている(頻度は重症度によって異なる)。トランスアミナーゼ、アルブミン、凝固プロフィール(PTおよびPTT)を含む肝機能検査、腹部エコー、心臓エコー、神経学的評価、栄養評価。診断時点のベースラインのスクリーニング心エコーで心筋症が認められていない場合、乳児期は3ヶ月ごと、小児期早期は6ヶ月に1回、その後は1年に1回、繰り返し心臓エコーを行う。
リスクのある親族の検査:
家族内でGBE1病原性変異が判明している場合、リスクのある親族に対して検査を行うことで早期診断および治療が可能となる。
遺伝カウンセリング
糖原病Ⅳ型は常染色体劣性遺伝性疾患である。罹患者の同胞は、受胎時には25%の確率で罹患者であり、50%の確率で無症候性キャリアであり、25%の確率で罹患者でもキャリアでもない。罹患している同胞は糖原病Ⅳ型の同じ亜型を呈すると思われるが、発症年齢や症状は異なることがある。家族内で病原性変異が判明している場合、分子遺伝学的検査によって、リスクのある家族に対する保因者検査やリスク妊娠に対する出生前診断を行うことは可能である。病原性変異が同定されていない場合、出生前診断に培養羊膜細胞のグリコーゲン分枝酵素を用いてもよい。
糖原病Ⅳ型(GSDⅣ)は臨床症状や分枝異常を認めるグリコーゲンの筋/肝臓への蓄積から疑われる。肝/筋/皮膚線維芽細胞におけるグリコーゲン脱分枝酵素欠損、もしくはGBE1遺伝子に両アレル病原性変異を認めた場合に診断は確定する。
臨床診断
糖原病Ⅳ型は、さまざまな発症年齢、重症度、臨床的特徴を有し、以下のようないくつかの亜型に分類される。
検査
肝機能検査 肝型では典型的には肝酵素の上昇がみられる。分枝異常のあるグリコーゲンの蓄積により肝機能の悪化が進行した場合には低アルブミン血症やPT・APTTの延長も認められる。注:これらの異常は糖原病Ⅳ型に特異的ではなく、診断には用いられない。
腹部エコー検査 肝臓は典型的には腫大し、線維化もしくは肝硬変の徴候を伴う。注:肝腫大は糖原病Ⅳ型に特異的ではなく、診断には用いられない。また、肝腫大がみられなくとも糖原病Ⅳ型を除外することはできない。
グリコーゲン分枝酵素活性 の測定は培養皮膚線維芽細胞で最もよく行われるが、筋組織や肝組織で測定されることもある。全ての糖原病Ⅳ型患者でグリコーゲン分枝酵素活性の低下がみられる。
肝臓、心臓、骨格筋といった罹患臓器の病理組織像は糖原病Ⅳ型の正確な診断に大変有用である。
・一般的に、肝細胞の著明な腫大、ジアスターゼ抵抗性でPAS染色陽性の封入体、糖原病Ⅳ型でみられる分枝異常のあるグリコーゲンに特徴的な所見が認められる。細胞質内に沈着物をともなう泡沫組織球が網内系の中に広く浸潤していることが報告されている。広範囲の線維性隔壁を伴う間質の線維化や肝臓の歪な構造が認められる。
・電顕では、肝細胞の細胞質内にアミロペクチン様物質の微細な繊維状凝集体を認めることがある。
分子遺伝学的検査
遺伝子
GBE1はその病原性変異が糖原病Ⅳ型を起こすことが知られている唯一の遺伝子である。
臨床検査
表1 糖原病Ⅳ型で用いられる分子遺伝学的検査の要約
遺伝子1 | 検査方法 | 同定されたアレル変異2 | 検査方法によって同定された変異の頻度3, 4 |
---|---|---|---|
GBE1 | シークエンス解析3 | シークエンス変異 | 34/374 |
ターゲット遺伝子の欠失/重複解析5 | エクソン/全遺伝子欠失 | 7/366 |
検査戦略
発端者において診断を確定するために、以下を行う。
リスクのある親族の保因者診断には、家族内における病原性変異の同定が先がけて必要であり、キャリアの発見に適した方法である。
注:(1)キャリアの酵素活性は正常範囲内であることがあるため、グリコーゲン分枝酵素活性測定のみではキャリアかどうか調べるのに十分ではない。(2)キャリアはこの常染色体劣性遺伝性疾患のヘテロ接合体で、発症リスクはない。
リスク妊娠における出生前診断や着床前診断には、家族内における病原性変異の同定が先がけて必要である。病原性変異が同定されていないのであれば、培養羊膜細胞でグリコーゲン分枝酵素活性を測定してもよい。
臨床像
糖原病Ⅳ型の臨床症状は軽症から重症まで幅広い。発症年齢、重症度、臨床的特徴によるいくつかの異なる亜型が知られている。予後はその亜型による傾向にあるが、臨床所見は家族内および家族間でもかなり異なる。
致死性周産期神経筋型はもっとも重症の亜型であるが、胎児期から胎動の減少、羊水過多、胎児水腫などをきたす胎児性無動変形シークエンス(fetal akinesia deformation sequence, FADS)が認められる。新生児期には関節拘縮、重度の筋緊張低下、筋萎縮を呈することがあり、そしてしばしば重症型脊髄性筋萎縮症に類似する。通常は新生児期に死亡するが、多くは心肺合併症による。
先天性神経筋型は新生児期に強い筋緊張低下、呼吸窮迫、拡張型心筋症を呈し、乳児期早期に典型的には心肺合併症によって死亡する。Liら(2012)は、この亜型でSGA(small for gestational age)であった血縁関係にない2人の乳児を近年報告した。2人とも生後2-3ヶ月の間に死亡した。
肝型は糖原病Ⅳ型で最もよく認められ、進行性と非進行性に分類できる。
進行性肝型の患児は出生時には正常のようにみえるが、生後数ヶ月で成長障害、肝腫大、肝酵素の上昇をきたし急速に悪化する。この段階から典型的には進行性の肝機能障害、肝硬変に至り、低アルブミン血症、APTT・PT延長、門脈圧亢進症、腹水、食道静脈瘤を認めるようになる。筋緊張はしばしば診断時には正常であるが、生後1-2年以内に全体的な筋緊張低下が進行する。肝移植が行われない場合、通常は5歳までに死亡する。同所性肝移植後に拡張型心筋症や進行性の心不全を認め死亡した報告がある。
非進行型肝型はより頻度は少なく、小児期に肝腫大、肝機能不全、ミオパチー、筋緊張低下で発症しうる。肝疾患の進行は認めずに生存する傾向にある。また、心臓、骨格筋、神経病変も認めないことがある。小児期の発症時に肝酵素は通常異常値を呈するが、正常化する(そして正常を維持する)。
小児期神経筋型はまれである。典型的には10代で発症し、軽症から重症までのミオパチーや拡張型心筋症を呈することがある。自然歴はさまざまである。一部は生涯を通じて軽症であるのに対し、より重症かつ進行性で20代に死亡する者もいる。
遺伝子型と臨床型の関連
両アレルGBE1病原性変異(糖原病Ⅵ型や成人ポリグルコサン小体病のさまざまな亜型;「遺伝学的関連疾患」を参照)の臨床型の間に、遺伝子型-臨床型の関連性があるかははっきりしないが、明らかになってきている。
成人ポリグルコサン小体病(Adult-onset polyglucosan body disease, APBD)は典型的には病原性ミスセンス変異のホモ接合体もしくは複合ヘテロ接合体による(表2)。
糖原病Ⅳ型では以下が一般的である。
一般的には上述したとおりであるが、他の亜型との間や同じ亜型のなかでもかなりのオーバーラップが存在する。
浸透率
糖原病Ⅳ型の浸透率は両アレル病原性変異では100%だが、家族間でも臨床症状は大きく異なり、経過とともに年齢相応な症状の進行を認めることがある。
発生率
糖原病Ⅳ型はまれで、糖原病の約3%を占め、全体での発生率は約600,000人~800,000人に1人である。
現在まで、分子的に確定された37人の患者が報告されている。
成人ポリグルコサン小体病はGBE1変異と関連することが知られている唯一の他の臨床型である(成人ポリグルコサン小体病を参照)。成人ポリグルコサン小体病は、成人発症の進行性の神経因性膀胱、混合性の上下肢運動ニューロン障害による歩行困難(すなわち痙縮や筋力低下)、下肢遠位優位の感覚障害、軽度の認知障害(しばしば遂行機能障害)を特徴とする。成人ポリグルコサン小体病では、グリコーゲン分枝酵素活性は低下しているか正常である。罹患者は、p.Tyr329Ser, p.Arg515His, p.Arg524GlnなどといったGBE1遺伝子の病原性ミスセンス変異のホモ接合体もしくは複合ヘテロ接合体のいずれかである。遺伝形式は常染色体劣性遺伝である。
致死性周産期神経筋型や先天性神経筋型の鑑別疾患には、脊髄性筋萎縮症、ポンペ病、ゼルウィガー症候群、先天性グリコシル化異常症がある。
古典的肝型の鑑別疾患には、他の糖原病(Ⅲ型など)やミトコンドリアDNA枯渇症候群(MPV17関連肝脳型ミトコンドリアDNA枯渇症候群、DGUOK関連ミトコンドリアDNA枯渇症候群の肝脳型など)がある。
小児期神経筋型の鑑別疾患には筋ジストロフィー(デュシェンヌ型筋ジストロフィー、肢帯型筋ジストロフィーなど)やミトコンドリア筋症がある。
初期診断後の評価
糖原病Ⅳ型と診断された患者の疾患の広がりとニーズを把握するため、以下が推奨される。
病変に対する治療
治療は、肝臓学、神経学、栄養学、遺伝学、小児発達の専門家を含む集学的チームにより行われるべきである。
肝症状 肝移植は肝不全に至る進行性肝型患者に対する唯一の治療選択肢である。現在まで肝移植を施行された18人糖原病Ⅳ型患者のうち、2人は2回目の肝移植を必要とし、6人は死亡した。その6人のうち、4人は敗血症、1人は肝動脈塞栓症、1人は心筋症であった。肝移植を施行された患者の予後は不良であるが、それは重症化や死亡の著しいリスクがあるためであり、その一部は糖原病Ⅳ型の肝外症状、とくに心筋症が寄与している。
肝移植の適切な候補者を選ぶことは難しい。疾患進行の組織学的、分子的、臨床的予測因子は肝移植前の患者の層別化に有用である傾向にある。異なる組織におけるグリコーゲン分枝酵素活性レベルは亜型や重症度によって変わることがあるため、グリコーゲン分枝酵素は最良な結果予測因子ではないかもしれない。
神経症状 骨格筋のミオパチーや筋緊張低下を伴い運動発達に遅れがみられる小児は、発達の評価や必要に応じて理学療法を行う。
心症状 心筋症患者に対しては循環器専門医による診療が必要である。糖原病に続発する重症心筋症患者は心臓移植の候補者となる可能性がある。しかし、施行前に、ミオパチー、肝不全、悪液質のような
潜在的な心臓移植の禁忌を考慮することが大切である。
二次合併症の予防
栄養素の欠乏(脂溶性ビタミンなど)は、小児肝疾患の治療経験がある栄養士による頻回の評価や推奨に従って、十分な食事摂取を確実に行うことで予防することができる。
凝固障害による出血はとくに外科手術の際に起こりうる。それゆえ、術前に凝固プロフィールを評価し、必要なら新鮮凍結血漿を投与することが推奨される。
定期検査
定期検査に関する臨床ガイドラインは存在しない。
重症度によって頻度は異なるが、以下のような評価を行うことが推奨される。
注:初期診断時に施行したベースラインのスクリーニング心エコーで心筋症を認めなかった場合、乳児期は3ヶ月ごと、小児期早期は6ヶ月ごと、その後は1年に1回心エコーをくり返すことを推奨する。
リスクのある親族の検査
家族内でGBE1病原性変異が判明している場合、肝臓、骨格筋、心臓病変を評価して早期診断および治療が可能となるように、リスクのある親族に対して病原性変異を有するか検査を行ってもよい。
遺伝カウンセリングとして扱われるリスクのある親族への検査に関する問題は「遺伝カウンセリング」の項を参照のこと。
研究中の治療法
さまざまな疾患に関する臨床試験に関する情報はClinicalTrials.govを参照のこと。注:この疾患における臨床試験は行われていない可能性がある。
「遺伝カウンセリングは個人や家族に対して遺伝性疾患の本質,遺伝,健康上の影響などの情報を提供し,彼らが医療上あるいは個人的な決断を下すのを援助するプロセスである.以下の項目では遺伝的なリスク評価や家族の遺伝学的状況を明らかにするための家族歴の評価,遺伝学的検査について論じる.この項は個々の当事者が直面しうる個人的あるいは文化的、倫理的な問題に言及しようと意図するものではないし,遺伝専門家へのコンサルトの代用となるものでもない.」
遺伝形式
糖原病Ⅳ型は常染色体劣性遺伝性疾患である。
患者家族のリスク
発端者の両親
発端者の同胞
発端者の子
発端者の他の家族
発端者の両親の同胞がキャリアであるリスクは50%である。
保因者診断
分子遺伝学的検査
分子遺伝学的検査は保因者診断にのぞましい方法である。家族内で病原性変異が判明している場合、リスクのある家族に対する保因者検査を行うことは可能である。
生化学的遺伝学検査
キャリアのグリコーゲン分枝酵素活性は正常範囲内であることもあるため、同酵素活性の測定だけでは保因者診断には十分でない。
遺伝カウンセリングに関連した問題
早期診断・治療を目的としたリスクのある親族の検査についての情報は、「臨床的マネジメント」「リスクのある親族の検査」を参照のこと。
家族計画
DNAバンクは(主に白血球から調整した)DNAを将来利用することを想定して保存しておくものである。検査技術や遺伝子、変異、あるいは疾患に対するわれわれの理解が将来さらに進歩すると考えられるので、DNA保存が考慮される。
出生前診断および着床前診断
分子遺伝学的検査 家族内で病原性変異が判明している場合、関心領域の遺伝子検査、もしくは慣習的な検査のいずれかにより、リスク妊娠に対する出生前診断を行うことができる。
生化学的遺伝学検査 通常は妊娠約15-18週で施行される羊水穿刺、もしくは約10-12週で施行される絨毛採取で得られた羊膜細胞/培養絨毛膜絨毛におけるグリコーゲン分枝酵素活性を測定することにより、出生前診断を行うことができる。
注:在胎週数は最終月経の開始日あるいは超音波検査による測定に基づいて計算される。
着床前診断(Preimplantation genetic diagnosis, PGD)は病原性変異が同定されている一部の家族におけるオプションである。
Gene Reviews著者: Pilar L Magoulas, MS, CGC and Ayman W EI-Hattab, MD, FAAP, FACMG.
日本語訳者: 和田宏来 (県西総合病院小児科/筑波大学大学院小児科)
Gene Reviews 最終更新日: 2013.1.3.日本語訳最終更新日: 2017.4.4(in present)