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血友病B
(
Hemophilia B)
[Synonyms: Christmas Disease, Factor IX Deficiency]

Gene Review著者:Barbara A Konkle, MD, Neil C Josephson, MD, and Shelley Nakaya Fletcher, BS.
日本語訳者:窪田美穂(ボランティア翻訳者),櫻井晃洋(札幌医科大学医学部遺伝医学)
Gene Review最終更新日:2014.6.5.日本語訳最終更新日: 2014.1.18

原文 Hemophilia B


要約

疾患の特徴 

血友病Bの特徴は第IX因子の凝固活性の欠損であり,この欠損のため外傷,抜歯,もしくは手術後に毛細血管性出血が延長したり,創傷治癒までの止血遅延や再出血が起こる.出血エピソードの診断年齢と頻度は,第IX因子の凝固活性値と相関している.

  • 重症血友病Bでは,関節や深部筋の自然出血が最も多い症状である.通常,重症血友病Bは2歳までに診断される.予防治療を行わないと,1ヶ月に平均2〜5回の自然出血エピソードが生じる.
  • 中等症血友病B患者では自然出血はめったに起きないが,比較的軽度の外傷後に毛細血管性出血が延長したり止血が遅れたりする.5〜6歳以前に診断を受けることが多い.出血エピソードの頻度にはばらつきがあり,たいていの場合,月1回から年1回である.
  • 軽症血友病B患者に自然出血エピソードは生じないが,手術や抜歯の前後に治療を受けなければ異常出血が起こる.出血頻度は,1年に1回から10年に1回までとばらつきがある.軽症血友病B患者では,後年になるまで診断されないことが多い.
重症度にかかわらず,出血エピソードは成人期と比べて小児期や青年期に多い.(家系内罹患者が血友病Bであっても),保因者女性の約10%に出血リスクがある.このため,症状は軽度であることが多いが,こうした保因者女性は症候性保因者といえる.重症度にかかわらず,大外傷や侵襲的処置を受けた後に出血の延長や出血過多が生じることが多い.

診断・検査 

血友病Bと診断されるのは,第IX因子の凝固活性が低い場合である.第IX因子をコードする遺伝子であるF9遺伝子の分子遺伝学的検査を通じて,血友病B患者の99%以上で病的変異が同定される.

臨床的マネジメント 

症状に対する治療:評価,教育,遺伝カウンセリング,円滑な臨床管理のため,米国内外にある約140の連邦血友病治療センター(HTC)へ患者を紹介すること.指導を行い,両親による在宅自己注射後,患者自身による自己注射ができるようになることが極めて重要である.特に重症患者には,出血が生じてから1時間以内に遺伝子組換え型,もしくは血漿由来の第IX因子濃縮製剤を投与すると最も効果的である.
一次病変の予防:重症患者には,第IX因子濃縮製剤の予防的投与を週3回,もしくは2日に1回行うと第IX因子の凝固活性を1%超に維持できるため,ほぼ完全に自然出血の発生を抑え,慢性関節疾患を予防できる.

続発的合併症の予防:出血に際して,在宅注射療法などの予防投与や迅速な有効治療を行うことによって,出血や慢性関節疾患を減少できる.

経過観察:重症もしくは中等症の血友病B患者には6〜12ヶ月に1回,軽症の血友病B患者には少なくとも2〜3年に1回,血友病治療センターでの評価を行うとよい.

回避すべき薬剤・環境:リスクの高い男性には,血友病Bが除外されるか,重症度にかかわらず第IX因子濃縮製剤による治療が行われるまで環状切除を行わない.筋肉注射,外傷リスク(特に頭部損傷リスク)の高い活動,アスピリンやアスピリン含有製剤は避ける.これ以外の血小板機能に影響を与える薬剤やハーブ薬については,慎重に使用すること.

リスクの高い血縁者の検査:リスクの高い女性は妊娠前,もしくは妊娠初期に遺伝学的状態を明確にして,臨床管理を円滑にすること.

妊娠管理妊娠中に母親の第IX因子が増加しないため,分娩時の支持療法や,分娩後の出血予防のため,保因者への凝固因子の投与が必要となる可能性が高い.保因者には分娩後の遅発性出血のモニタリングを行うこと.

研究中の治療長期作動型の遺伝子組換え型の第IX因子濃縮製剤に関する臨床試験と,アデノ随伴ウイルスベクターの静脈内投与による遺伝子治療に関する臨床検査が行われている.

その他:血友病Bの出血は,ビタミンKによる予防やコントロールはできない.

遺伝カウンセリング 

血友病Bの遺伝形式はX連鎖性である.発端者の同胞のリスクは,母親の保因者状態によって異なる.保因者女性が各妊娠でF9遺伝子の病的変異を遺伝する確率は50%である.病的変異を遺伝した息子は発症し,病的変異を遺伝した娘は保因者となる.罹患男性から娘には必ず病的変異が遺伝するが,息子には遺伝しない.リスクの高い血縁者の保因者診断とリスクの高い妊娠の出生前診断は,血縁者のF9遺伝子の病的変異が同定されているか,リスクの有無を判定できる遺伝子内連鎖マーカーが同定されている場合には可能である.


診断

臨床診断

臨床所見に基づいて血友病Bと診断することはできない.以下の所見を呈する患者に凝固障害が疑われる.

  • 出血性関節症(特に,軽度の外傷によって生じる場合や,先行する外傷がない場合)
  • 深部筋血腫
  • 大外傷を伴うことなく生じた頭蓋内出血
  • 新生児頭血腫や頭蓋内出血
  • 抜歯,口腔内損傷,環状切除後の,初回止血後の毛細血管性出血の延長や出血の再開*
  • 出血の延長や止血の遅延,手術や外傷後の創傷治癒不良*
  • 原因不明の消化管出血や血尿*
  • (特に初経の)月経過多(症候性保因者)*
  • 鼻出血の延長(特に再発性あるいは両側性である場合)*
  • 過度の挫傷(特に硬化した皮下血腫を伴う場合)
*重症度は問わない.特に重症度の高い患者に認める.

検査

出血スコア出血障害が疑われる患者への診断支援用の出血スコアが開発された.国際血栓止血学会議がコンセンサスをまとめ,出血評価ツール(Bleeding Assessment Tool[ISTH BAT];www.isth.org)を作成した.現時点では,スコアが陰性の患者や,研究に参加している患者を除く出血障害の患者にとって,BATが最も有効なツールである[James & Coller 2012].

凝固スクリーニング検査.出血障害が疑われる場合,血小板数,活性化部分トロンボプラスチン時間(aPTT),プロトロンビン時間(PT)を検査する.トロンビン時間や血漿フィブリノゲン濃度は稀少疾患の診断に有用である.出血時間や血小板機能分析器(による閉鎖時間)の測定は,感受性や特異性が不十分であるため,血小板障害のスクリーニングとしては推奨されないが[Hayward et al 2006],任意抽出集団でフォンウィルブランド病を除外する際には有用であると思われる[Castaman et al 2010].
血友病B患者では,上記のスクリーニング検査は正常であるが,以下の例外的な所見がある.

  • 重症と中等症の血友病BではaPTTが延長する.aPTT延長が同量の正常血漿を混入すると是正される場合は,インヒビターが存在するのではなく,第IX因子を含む内因性凝固系の凝固因子障害であることがわかる.

    注:第IX因子に特異的な凝固活性検査を行って血友病Bの診断を確定し,他の欠損症を除外することが重要である.こうした検査は,ほとんどの病院の検査室や凝固活性専門の検査機関で実施されている.
  • 軽症血友病B患者では,aPTTが正常な場合もあるが,軽度に延長することが多い.
  • 幾つかの試薬を混ぜた場合や,遺伝型が交差反応物質陽性のミスセンス変異を有する場合を除き,(後天性肝障害などの)止血障害がない限り,外因性凝固系のスクリーニング検査の1つであるプロトロンビン時間(PT)は正常である.
注:幾つかの検査機関では,軽症の出血障害を診断できるほどaPTT検査の感受性が高くないこともある.

凝固因子測定生後から出血傾向を認める場合は,凝固スクリーニングがすべて基準範囲内であっても,個別の凝固因子測定を行うこと.

  • 第IX因子の凝固活性の基準範囲は約50〜150%である[Khachidze et al 2006].
  • 第IX因子の凝固活性が40%超であると,通常,生体内での凝固機能は正常である[Kaufman et al 2013].しかし,血友病Bの保因者女性では,第IX因子の凝固活性が低値,もしくは低めの基準範囲であると,出血が生じやすくなる[Plug et al 2006].
  • 血友病Bでは第IX因子の凝固活性は,通常30%未満である.
  • インビトロの凝固活性に基づく血友病B分類:
    • 重症血友病B第IX因子は1%未満.
    • 中等症血友病B.第IX因子は1〜5%.
    • 軽症血友病B第IX因子は5〜40%超.
保因者女性

凝固因子測定.家系内の血友病Bの重症度にかかわらず,保因者女性の約20%の第IX因子の凝固活性は40%未満である.第IX因子の凝固活性が低めの基準範囲である患者にも,出血症状が生じることがある[Plug et al 2006].
注:絶対的保因者の大多数は,たとえ重症血友病Bの保因者であっても,第IX因子の凝固活性は正常である.

分子遺伝学的検査

GeneReviewsは,分子遺伝学的検査について,その検査が米国CLIAの承認を受けた研究機関もしくは米国以外の臨床研究機関によってGeneTests Laboratory Directoryに掲載されている場合に限り,臨床的に実施可能であるとする. GeneTestsは研究機関から提出された情報を検証しないし,研究機関の承認状態もしくは実施結果を保証しない.情報を検証するためには,医師は直接それぞれの研究機関と連絡をとらなければならない.―編集者注.

遺伝子F9遺伝子は血友病Bを発症させる病的変異が生じる唯一の遺伝子である.

臨床検査

英国では,F9遺伝子の臨床現場での分子学的解析に関するガイドラインが確立している[Mitchell et al 2010 (全文)].
表1.血友病Bに対して用いられる分子遺伝学的検査

遺伝子1

検査方法

検査方法ごとの病的変異を有する発端者の割合

罹患男性

保因者女性

F9

配列解析2

~100%3,4, 5,6,7,8

97%3,9

欠失・重複解析10

3%4,11

3%

  1. 表A「染色体座と蛋白に関する遺伝子とデータベース」を参照のこと.この遺伝子の変異型アレルに関する情報は「分子遺伝学」の項を参照.
  2. 配列解析では,臨床的意義が不明であるが良性もしくは良性であろうと思われる変異や,病的もしくは病的であろうと思われる変異が検出される.病的変異には,遺伝子内の微小欠失/挿入や,ミスセンス変異,ナンセンス変異,スプライス部位変異が含まれる.通常,エクソンや遺伝子全体の欠失/重複は検出されない.配列解析の結果の解釈で考慮する点については,こちらを参照のこと.
  3. 5'末端の「年齢関連−応答配列」内の特異的塩基置換を有する血友病Bライデン変異を1%未満含む.血友病Bライデン変異により,出血傾向は思春期以降に軽症化する.
  4. 配列解析以前にPCR法での増幅を認めなかった場合には,罹患男性のX染色体での(複数)エクソンの欠失や,遺伝子全体の欠失が考えられるが,確認のため,さらに欠失/重複解析を行う必要がある.
  5. 欠失/重複解析で用いられる変異検出頻度を含む.
  6. 血友病B男性では体細胞モザイクのため,変異検出率が低下することがある[Ketterling et al 1999].
  7. Mitchell et al [2010]
  8. 近位プロモーター領域の幾つかの変異の1つから生じる稀な変異である血友病Bライデン変異を生じさせるF9遺伝子のプロモータ−部位の病的変異を含むとよい症例もある[Funnell & Crossley 2014].「遺伝型と臨床型の関連」と「表A遺伝子座ごとのデータベース」も参照のこと.
  9. ゲノムDNAの配列解析では,ヘテロ接合女性のX連鎖性遺伝子に1つもしくは複数のエクソン,または遺伝子全体の欠失や重複を検出することはできない.
  10. ゲノムDNAのコード領域や遺伝子隣接イントロン領域への配列解析での検出が難しいエクソンや遺伝子全体の欠失/重複を同定する際には,定量PCR法,ロングレンジPCR法,MLPA法,当該遺伝子・染色体部位の染色体マイクロアレイ解析(CMA)など,さまざまな方法が利用される.
  11. 欠失/重複解析では,重症血友病B男性に対する配列解析で疑われた1つのエクソン欠失や複数エクソンの欠失,F9遺伝子全体の欠失を検出したり,確認したりできる.
検査の特徴検査の精度や特異度やその他の検査の特徴に関する情報は,EuroGentest [Jenkins et al 2012(全文)]で閲覧できる.

検査手順

発端者で血友病Bの診断を確立するためには,第IX因子の凝固活性を測定しなければならない.

リスクのある血縁者の遺伝カウンセリングに関する情報を獲得するためには,発端者に分子遺伝学的検査を行い,F9遺伝子の家系特異的な病的変異を検出する.罹患者に検査ができない場合には,絶対的保因者女性を検査してもよい.

孤発例として現れている患者でF9遺伝子の病的変異が同定できると,臨床像の予測や,第IX因子に対するインヒビター産生リスクの評価に役立つ.(「遺伝型と臨床型の関連」を参照).

(a)血友病B患者,(b)家系特異的な病的変異が不明の血友病Bの家族歴を有する女性には,通常,変異(や連鎖)が確認されるまで,以下の手順で分子遺伝学的検査が行われる.

  • F9遺伝子のエクソン8やエクソン/イントロン境界の配列解析
  • 欠失・重複解析
  • 連鎖解析
    • 上述の方法で変異が検出されない場合に適用.
    • 家系内で同定されていないF9遺伝子の病原性アレルを追跡したり,新生突然変異が生じた患者を同定するために使用されることがある[Mitchell et al 2010].
注:家系内でF9遺伝子の病的変異が同定されないまま保因者診断を実施すると,リスクのある血縁者にも陰性結果が出ることがあり,有用性は低い.

遺伝的に関連のある疾患

第IX因子のプロペプチド領域内の特定のミスセンス変異は,翻訳後のγ-カルボキシル化グルタミン酸残基生成に係わるγ‐カルボキシラーゼの結合能を変化させ,ワルファリンへの感受性を高める[Oldenburg et al 2001].

ある1家系では,機能獲得型のミスセンス変異(p.Arg384Leu)が第IX因子の循環量を増加させ,若年での静脈血栓症の発症数の顕著な増加と関連していることが示された[Simioni et al 2009].このアミノ酸変化は,現在,遺伝子治療に関する臨床試験で用いられている第IX因子の構築体の1つに組み入れられている[Finn et al 2012].


臨床像

自然経過

未治療患者の血友病Bの特徴は,外傷,抜歯,手術直後の出血や出血の延長,毛細血管性出血の延長や,初回止血後の出血の再開である[Fogarty & Kessler 2013, Josephson 2013].初回の外傷から4,5日後に筋血腫や頭蓋内出血が起こりやすい.抜歯後の断続的な毛細血管性出血が数日間,もしくは数週間続くことがある.手術後には出血が延長したり,止血が遅延したり,創傷血腫が形成されることが多い.環状切除後の血友病B男性では,重症度を問わず,毛細血管性出血が延長することがあるが,治療を行わなくとも正常に治癒することもある.重症血友病Bでは,関節の自然出血が最も多く生じる症状である.

出血エピソードの診断年齢と頻度は,第IX因子の凝固活性値と相関している(表2参照).重症度にかかわらず,出血エピソードは成人期と比べて小児期や青年期に多い.このような高い頻度は,ある程度,成長の早い時期での身体の活動性レベルと脆弱性に関連している.

重症血友病Bの患者は通常,(分娩・新生児期の処置の結果)新生児期に診断されるか,1歳までの時期に診断される[Kulkarni et al 2009].治療を行っていない幼児には小さな口腔内損傷や,軽く頭部をぶつけただけで生じる大きな「こぶ」からの出血が頻発するが,これは重症血友病Bに最も多く現れる症状である.頭部損傷から頭蓋内出血が生じることもある.未治療の小児には,ほぼ常時,皮下血腫が生じる.非事故性外傷でないかを調べるため,検査が勧められることもある

小児が成長して活動性が高まると,予防治療プログラムを行っていない場合には,関節からの自然出血が生じる回数が増える.関節からの自然出血や深部筋血腫では,腫脹の前に,まず疼痛やひきずり足歩行が生じる.重症血友病Bの未治療の小児や若年成人には,1ヶ月に平均2〜5回,自然出血エピソードが生じる.自然出血が最も起きやすい部位は関節であるが,その他,筋肉,腎臓,消化管,脳,鼻にも出血が起きる.予防治療を行わなければ,重症血友病B患者の出血は延長したり,軽い損傷や手術,抜歯による疼痛や腫脹が過剰となる.

中等症血友病B患者が自然出血を起こすことはめったにないが,比較的軽度の外傷から出血エピソードが起こりやすくなることがある.(侵襲的処置を受けることにした場合),事前に治療をしなければ,比較的軽度の外傷後に毛細血管性出血が延長したり,止血が遅延したりするため,通常,5〜6歳前に診断される.第IX因子濃縮製剤の投与を要する出血エピソードが起きる頻度は,1ヶ月に1回から1年に1回までとばらつきがある.その他の出血徴候や出血症状は,重症血友病B患者に類似している.

軽症血友病B患者に自然出血エピソードは生じない.しかし,治療を行わないと,手術,抜歯,大損傷で異常出血が起こる.出血エピソードの頻度は,年1回から10年に1回とばらつきがある.軽症血友病B患者では,後年になって手術や抜歯を行ったり,大外傷が生じるまで診断されないことが多い.

保因者女性.第IX因子の凝固活性が30%未満に低下している保因者女性には,通常,軽症血友病男性と同等の出血リスクがある.しかし,ベースライン時の第IX因子凝固活性が30〜60%の場合,異常出血はより軽度となる[Plug et al 2006].

表2.未治療の血友病B患者における重症度ごとの関連症状

臨床的重症度

IX因子の凝固活性1

症状

通常の診断年齢

重症

<1%

頻回の自然出血;軽度外傷,手術,抜歯後の出血過多や出血の延長.

年齢:2歳以下

中等症

1%-5%

自然出血は稀;軽度損傷,手術,抜歯後の出血過多や出血の延長.

年齢:5〜6歳未満

軽症

5〜40%超

自然出血は生じない.大損傷,手術,抜歯後の出血過多や出血の延長.

後年になって止血困難な状況が生じてから診断される場合が多い.

 

  1. 臨床的重症度が常にインビトロ試験の結果と相関するわけではない.

未治療出血の合併症.出血関連の死因では頭蓋内出血が最多である.出血による障害の最も大きな原因は慢性関節疾患である[Luck et al 2004].現在行われている凝固因子濃縮製剤による治療により,血友病Bの小児・成人患者の余命は正常化し,慢性関節疾患も減少した.このような治療が可能になる以前は,重症血友病B患者の寿命の中央値は11歳であった(現在でも,幾つかの開発途上国での患者の寿命は11歳である).HIVによる死亡を除き,適切な治療を受けている重症患者の寿命は63歳であり[Darby et al 2007],凝固因子の補充療法により大幅に改善した[Tagliaferri et al 2010].

その他.1960年代中頃からの出血エピソードに対する治療の主流は第IX因子濃縮製剤であり,当初はドナー血漿由来のみであった.1970年代後半までに精製度の高い製剤が入手できるようになり,血栓形成リスクが低下した.1990年までにウイルス不活化方法と血漿のドナースクリーニングが導入され,その後すぐに遺伝子組換え型の第IX因子濃縮製剤が導入された[Monahan & Di Paola 2010].2013年には2番目の遺伝子組換え型の第IX因子濃縮製剤がFDAの承認を受けた.濃縮製剤からHIV感染が起きたのは1979年から1985年までである.こうした患者の約半数は,有効なHIV療法が誕生する前にAIDSにより死亡した.

初期の血漿由来濃縮製剤によるB型肝炎は,1970年代,ドナーに対するスクリーニングとその後のワクチン接種により消滅した.1980年代後半までに血漿由来濃縮製剤を投与されたことのある患者の大多数が,C型肝炎ウイルスの慢性保因者となった.1990年までに濃縮製剤に対するウイルス不活化方法とドナーに対するスクリーニング検査が開発され,血漿由来の濃縮製剤からのC型肝炎感染は根絶された.

血友病Aと比べ,同種免疫性のインヒビターが産生されることは少ない.第IX因子への同種免疫性のインヒビターが生じるのは,重症血友病B患者の約2%である[Puetz et al 2014].こうした患者には部分的もしくは完全な遺伝子欠失がみられるか,ある種のナンセンス変異があることが多い(「遺伝子型と臨床型の関連」及び表A「遺伝子座特異的データベース」を参照のこと).第IX因子投与に対するアナフィラキシーや,ネフローゼ症候群の発症に関連して同種免疫反応が生じる場合もある[DiMichele 2007, Chitlur et al 2009].

遺伝子型と臨床型の関連

疾患の重症度

  • 大きな遺伝子欠失,ナンセンス変異は重症となる.フレームシフト変異のほとんども重症となる.
  • ミスセンス変異の場合,変異の部位と変異によって生じた置換によって,重症,中等症,軽症となる.

同種免疫性のインヒビター

  • 大きな部分的遺伝子欠失もしくは遺伝子全体の欠失を有する場合,同種免疫性のインヒビター産生率は最も高くなる(20%未満).
  • 病的変異であるp.Arg29Ter変異を有する患者では,約20%にインヒビターが産生されるか,第IX因子の投与への反応としてアナフィラキシーが生じる.
  • ミスセンス変異がインヒビター産生に関連することはめったにない.

血友病Aと異なり,重症血友病Bはミスセンス変異によって生じることが多く,このような変異の幾つかは正常な交差反応物質(第IX因子抗原)値と相関している(表A「遺伝子座特異的データベース」を参照).
ベースライン時に出血傾向を認めない患者でも,プロペプチドのカルボキシラーゼ結合ドメイン内に生じる稀な変異により,ワルファリンによる抗凝固療法への感受性が高まる[Oldenburg et al 2001](「臨床的マネジメント」を参照).
(F9遺伝子のプロモーター領域にあたる限定された5'非翻訳領域での変異により生じる)血友病Bライデン変異では,思春期以降に疾患の重症度が低下する.病的変異に応じて,軽症の場合は疾患が消失したり,重症の場合には軽症化したりする.

浸透度

F9遺伝子に病的変異を有する男性はすべて発症し,血友病Bの重症度は家系内の他の罹患男性とほぼ同程度となる.しかし,他の遺伝的要因や環境的要因の影響により,臨床上の重症度が若干異なることがある.
F9遺伝子の病的変異と正常アレルを有する女性の約10%は,第IX凝固因子活性が約30%で,出血障害が生じる.第IX因子活性が低めの基準範囲の保因者は,軽症出血障害が生じやすい[Plug et al 2006].

表現促進現象

表現促進現象は観察されていない.

頻度

全世界での血友病Bの出生率は,約20,000人の男児の生児出産あたり1人である.
出生率は国や民族にかかわらず同程度であるが,この原因はF9遺伝子の自然突然変異率が高く,F9遺伝子がX染色体上にあるためであると推定されている.
凝固因子濃縮製剤による適切な治療を受けやすい米国やその他の国々での罹患率は,男性約25,000人に1人である(血友病Aの頻度の約5分の1)[Fogarty & Kessler 2013].


鑑別診断

本稿で扱われる疾患に対する遺伝学的検査の実施可能性に関する最新情報は,GeneTests Laboratory Directoryを参照のこと.―編集者注.

出血が生じている場合や,「血が止まりにくい」と言われた経験のある場合には,まず,この男性/女性の出血が本当に異常であるかを判断する.大外傷が生じている間やその直後,扁桃摘出の後,または抜歯後の数時間の「大量出血」は重要徴候でないかもしれない.対照的に,抜歯や口腔内損傷後,毛細血管性出血が延長したり,断続的に数日間続く場合や,損傷から数日後に出血が新たに始まったり痛みや腫脹が悪化する場合,手術から数日後に創傷血腫ができる場合には,ほぼ常に凝固障害が存在する.これまでの出血エピソードを詳細に聴取すると,生涯にわたる遺伝性の出血障害を有しているのか,もしくは後天性(感染性である場合が多い)の出血障害を有しているかを判断できる.

身体的診察から得られる具体的な診断の手がかりは少ない.重症や中等症の血友病Bの高齢患者では,関節変形や筋肉拘縮を認めることがある.外傷が確認できない大きな挫傷や皮下血腫がみられることがあるが,軽症の出血障害患者では,急性の出血エピソードを除いて,目に見える外見上の徴候はない.点状出血は重度の血小板減少症を示すが,血友病Bの特徴ではない.

常染色体優性,常染色体劣性,X連鎖性の遺伝形式を有する家族歴から出血障害との診断の手がかりが得られることがあるが,確定的なものではない.重症度にかかわらず,少なくとも血友病B保因者女性の10%では,第IX因子の活性が低く,軽度の出血が生じるため,誤ってX連鎖性ではなく常染色体性と考えられる家系もある.
血友病Bは,幾つかの生涯続く出血障害の1つであり,特異的診断には主に凝固因子活性測定が用いられる.血友病以外の第IX因子の凝固活性の低下を伴う遺伝性の出血障害を以下に掲げる.

  • ビタミンK依存性因子(プロトロンビン,第VII因子,第IX因子,第X因子,蛋白C,蛋白S)重複欠乏症は,通常γ-カルボキシラーゼもしくはエポキシド還元酵素の欠乏から生じる[Weston & Monahan 2008].
  • ワルファリン治療患者や肝疾患などのビタミンK障害では,これらの凝固因子が後天的に欠乏することが多い.

以下は,第IX因子の凝固活性が正常なその他の出血障害である.

  • 血友病Aは血友病Bと臨床的に鑑別不能である.第VIII因子の凝固活性が35%未満で,フォンウィルブランド因子が正常であると,血友病Aと診断される.F8遺伝子の病的変異が原因である.遺伝形式はX連鎖性である.
  • フォンウィルブランド病.1型と2型のフォンウィルブランド病の顕著な特徴は,粘膜出血である.フォンウィルブランド病患者の80%に,フォンウィルブランド因子の量的欠損が生じる(フォンウィルブランド因子抗原,第VIII因子の活性,リストセチン補因子の活性の低下). 実際のところ,血友病B患者のフォンウィルブランド因子値は正常であり,第VIII因子の活性は正常である.2A型や2B型フォンウィルブランド病の特徴は,高分子量多量体の減少を伴うフォンウィルブランド因子の質的な欠乏である.2B型フォンウィルブランド病の原因は,血小板結合における機能獲得型変異であり,血小板減少症を伴うことが多い.2M型フォンウィルブランド病の原因は,血小板やコラーゲン結合機能の喪失であるが,多量体パターンは正常である.分子遺伝学的検査が診断に役立つことが多い[Lillicrap 2013].フォンウィルブランド因子抗原と第VIII因子の凝固活性は低めの基準範囲〜軽度低下となる.リストセチン補因子測定では,フォンウィルブランド因子の機能は低下する.フォンウィルブランド病の遺伝形式は,常染色体劣性疾患を生じさせる2N型の幾つかの変異を除き,常染色体優性である.

    3型フォンウィルブランド病は,フォンウィルブランド因子の完全な,もしくはほぼ完全な量的欠乏により生じる.罹患者には,血友病B患者と同様,粘膜出血エピソードや関節及び筋肉からの出血が頻繁に生じる.フォンウィルブランド因子は1%未満であることが多く,第VIII因子の凝固活性はたいていの場合が2〜8%である.遺伝形式は常染色体劣性である.ヘテロ接合の両親は1型フォンウィルブランド病であるかもしれないが,無症候性であることの方が多い.
  • XI因子欠乏症は常染色体劣性遺伝であり,遺伝型により第XI因子の凝固活性が,ヘテロ接合体では正常の25〜75%に,ホモ接合体では1〜15%未満となる[Duga & Salomon 2013].アシュケナージ系ユダヤ人では2種類の病的変異が多くみられる.ヘテロ接合体でもホモ接合体でも,出血は軽症もしくは中等症の血友病Bと同程度である.特異的な凝固因子検査を行って診断を確立する.
  • XII因子欠乏症,プレカリクレイン欠乏症,高分子キニノーゲン欠乏症では,出血症状が生じることはないが,活性化部分トロンボプラスチン時間(APTT)の延長が生じやすい.
  • プロトロンビン(第II因子)欠乏症,第V因子欠乏症,第X因子欠乏症,第VII因子欠乏症は,常染色体劣性遺伝の稀な出血障害である[Peyvandi et al 2012].患者にはあざや血腫ができやすくなり,鼻出血,月経過多,外傷や手術後の出血が起きやすくなる.出血性関節症は稀である.頭蓋内に自然出血が生じやすくなる.PTが延長するがaPTTが正常な場合,第VII因子欠乏が疑われる.第II因子欠乏症,第V因子欠乏症,もしくは第X因子欠乏症ではPTとaPTTが延長することが多いが,こうした稀少な出血傾向については,特異的な凝固因子検査を行って診断を確立する.
  • フィブリノゲン障害には,重症型,軽症型,無症候型がある[Thompson 2006].
    • 先天性無フィブリノゲン血症は常染色体劣性の稀少疾患であり,血友病Bに類似した症状を呈するが,血小板凝集を助けるフィブリノゲンの欠損により小さな切傷からの出血が延長する点が異なる.
    • 低フィブリノゲン血症は常染色体優性の場合もあれば常染色体劣性の場合もあり,通常,無症候性であるが,異常フィブリノゲン血症を合併することもある.
    • 異常フィブリノゲン血症は常染色体優性疾患である.低フィブリノゲン血症や異常フィブリノゲン血症の患者には,軽度から中等度の出血症状が生じることもあるが,無症候性の場合もある.異常フィブリノゲン血症の患者には血栓症のリスクがある.(簡便なスクリーニング検査で)トロンビン時間延長を認めることが多いが,凝固活性の動態解析での抗原蛋白値に基づき診断を確定する.
  • XIII因子欠乏症は,常染色体劣性の稀少疾患である[Thompson 2006, Peyvandi et al 2012].臍帯断端からの出血はよく起きる(患者の80%超).頭蓋内出血は,自然出血の場合もあれば,軽度外傷後に生じる場合もあり,患者の30%に起きる.皮下血腫,筋血腫,創傷治癒障害,再発性自然流産も生じる.関節出血は稀である.スクリーニング時の凝固活性の動態解析はすべて正常であるため,スクリーニング時には必ず,凝固線溶系への検査から第XIII(FXIII)因子活性の特異的検査を実施すること.
  • 血小板機能障害により,血小板減少症に類似した出血障害が生じる.患者には皮膚や粘膜出血,再発性鼻出血,胃腸出血,月経過多,外傷や手術が生じている間やその直後に,出血過多が生じる.関節,筋肉,頭蓋内の出血は稀である.血小板凝集試験,フローサイトメトリー,血小板の電子顕微鏡検査により診断を行う.
    • ベルナール・スーリエ症候群は常染色体劣性疾患であり,フォンウィルブランド因子受容体である血小板膜のGPIb/IX複合体が損なわれる.
    • グランツマン血小板無力症も常染色体劣性疾患であり,血小板凝集に不可欠なGPIIb-IIIa受容体が損なわれる.血小板機能の異常は,通常,血小板機能検査での出血時間の延長や閉鎖時間の延長に関連している.
    • 血小板貯蔵プール病や分泌障害の遺伝形式は常染色体優性であることが多く,上述の血小板膜受容体の異常よりも発症頻度が高い.出血の臨床症状は,一般に,膜受容体異常でみられるよりも軽症である.

臨床医への注:本疾患に関連して行われる患者に応じた「医療相談(simultaneous consult)」には,親の所見に基づいた鑑別診断を提供する双方向性診断支援ソフト(要登録,アクセス制限あり)を参考にしてもよいだろう.

  • 血友病B:男性
  • 血友病B:ヘテロ接合体女性

臨床的マネジメント

初回の診断時における評価

血友病Bと診断された患者の疾患の程度を測るためには,以下の評価が推奨される.

  • 疾患の重症度の予測に役立つ出血の既往歴や家族歴
  • 特に出血性関節症や深部筋血腫の既往を認める場合には,関節や筋肉の評価を行う.
  • 1985年以前に血液製剤や血漿由来の凝固因子濃縮製剤の投与経験がある場合,A,B,C型肝炎とHIVのスクリーニングを行う.
  • 鼻出血,消化管出血,口腔内出血の既往がある場合には,ベースライン時に全血球計算と血小板数を測定する.女性の場合,月経過多や分娩後出血の有無も確認する.
  • 患者のF9遺伝子に病的変異が同定されると,疾患の重症度,インヒビター産生の可能性,インヒビターが産生された場合のアナフィラキシーのリスクを判断できるようになる[Chitlur et al 2009].
  • 特に家系で初めて診断された場合や,出生年齢の女性は,遺伝診療科の診察を受ける.

症状に対する治療

先進国では,血友病B患者の寿命は過去40年間で格段に延長した[Darby et al 2007].第IX因子濃縮製剤の静脈内投与,在宅注射プログラム,予防治療,患者教育の改善により,障害は減少した.世界血友病連合が血友病患者の診断と管理の治療ガイドラインを発表した.
約140の連邦血友病治療センター(HTC)へ紹介され,評価,教育,遺伝カウンセリングを受けることは,血友病B患者にとって有益である.血友病治療センターの所在地は,米国血友病協会(National Hemophilia Foundation)を通じて入手できる.国外の治療センターに関しては,世界血友病連合(World Federation of Haemophilia)を通じて情報を入手できる.治療センターでは,遺伝性出血障害の患者への適切な治療計画の作成や別施設への紹介が行われたり,その施設で直接,治療されることもある.また,治療センターは血友病の新しい治療方法の最新情報の提供の場でもある.こうした施設で行われる評価には,通常,広範的な患者教育,遺伝カウンセリング,臨床検査なども含まれる.

IX因子濃縮製剤の静脈内投与.遺伝子組換え型の第IX因子濃縮製剤には,ヒトや動物由来の蛋白は一切含まれていない[Fogarty & Kessler 2013, Windyga et al 2014].1985年から血漿由来濃縮製剤へ殺ウイルス処置が行われるようになり,HIV感染リスクは消失し,B型,C型肝炎への感染リスクは1990年以降に消失した.

出血エピソードは,血漿由来もしくは遺伝子組換え型の第IX因子濃縮製剤の静脈内投与により,予防やコントロールが可能である.出血エピソードに対して迅速に有効な治療を行うことで疼痛や障害が軽減し,慢性関節疾患のリスクが低減する.理想的には,患者の症状や外傷に気づいたら,1時間以内に凝固因子を投与するとよい. 血友病B患者では,以前の生体内での回復値を知っておくと,適切な用量を推定する際に役立つ[Björkman et al 2007].

  • 乳幼児へ効率的かつ効果的な治療を整えることはきわめて困難である.頻回の静脈穿刺が必要なため,小児の静脈穿刺に熟練した医療スタッフをみつけることが重要である.
  • 2〜5歳の重症血友病Bの患児の両親は,できるだけ早い段階で注射方法の指導を受けることが勧められる.在宅療法により,症状発現後の迅速な処置が可能となり,容易に予防療法ができるようになった.

小児科での問題.血友病Bの乳児や小児のケアに際しては,以下のような特別な配慮が必要である[Chalmers et al 2011]:

  • 血友病Bの家族歴を有する男性乳児は,血友病Bが除外されない限り,環状切除を受けるべきではない.血友病Bを発症している場合は毛細血管性出血の延長や創傷治癒障害を防ぐため,処置の直前と直後に第IX因子濃縮製剤を投与する.
  • 筋肉注射は避けること.ワクチン接種は皮下注で行うこと.
  • 第IX因子の有効用量を設定するには,成人とは異なる年少児の薬物動態への理解が必須である.

インヒビター.重症血友病B患者の1〜3%にみられる第IX因子への同種免疫性のインヒビターにより,出血エピソードの管理が著しく損なわれる[Hay et al 2006].インヒビターの産生は第IX因子製剤へのアナフィラキシー反応とネフローゼ症候群に相関している[DiMichele 2007, Chitlur et al 2009].

一次病変の予防

関節出血が起きる前,もしくは数回生じた後,すぐに第IX因子濃縮製剤の予防投与を開始することで,自然出血がほぼ完全に抑制され,慢性関節疾患が予防できることが示された[Nilsson et al 1992, Manco-Johnson et al 2007].米国血友病協会と世界血友病連合は,重症血友病の小児への予防投与を推奨している.第IX因子の凝固活性を1%超に維持するため,第IX因子濃縮製剤を週3回投与,もしくは隔日投与されることが多いが,これよりも強度の低い投与レジメンでも予防効果が得られる場合もある[Fischer et al 2002].

続発性病変の予防

何らかの関節損傷が生じた後に開始される「二次的」予防は,長期的に行ってもよいし,疾患活性が高まったり,外科処置を受ける時期に行ってもよい.小児期後半や成人期に定期的な予防投与を開始すると,出血エピソードは大幅に減少する[Manco-Johnson et al 2013, Mondorf et al 2013].関節への長期的影響が研究中である.

経過観察

血友病治療センター(関連情報を参照)で経過観察を受けている血友病患者は,そうでない患者に比べて死亡率が低い[Soucie et al 2000].

重症もしくは中等症血友病Bの年少児は,これまでの出血エピソードの再評価を受けたり,必要な場合には治療計画を調整するため,6〜12ヶ月に1回(両親とともに)血友病治療センターで評価を受けるとよい.評価時には,関節や筋肉の評価やインヒビターのスクリーニングを行ったり,患者の血友病に関連するさまざまな問題や家族は地域の支援について話し合うこと.

同種免疫性のインヒビターのスクリーニングは,通常,出血への治療,もしくは予防治療として第IX因子濃縮製剤の投与が開始された重症血友病Bに対して行われる.その後のスクリーニングは,遺伝子型がF9遺伝子の大きな部分欠失,もしくは遺伝子全体の欠失である場合や, p.Arg29X(c.85C>T)のナンセンス変異である場合には,生後2,3年のうちに行われることが多い( 「遺伝子型と臨床型の関連」と,「分子遺伝学」の「病的変異」を参照).治療への臨床反応が最適以下であると思われる血友病患者には,疾患の重症度にかかわらず,必ずインヒビターに対する試験も行うこと.血友病Bでは,第IX因子の濃縮製剤へのアレルギー反応が先に生じることがある.

重症もしくは中等症の血友病Bの年長児と成人にとっては,定期的に血友病治療センター(関連情報を参照)の診察を受け,定期的評価を受け,出血エピソードや治療計画の見直しや,関節や筋肉の検査やインヒビターに対するスクリーニングや,必要な場合にはウイルス検査などを行ったり,教育を受けたり,患者の血友病に関連するその他の問題について話し合うことが有益である.

軽症血友病B患者にとっては,血友病治療センターとのかかわりを維持し,2〜3年に1回,定期的に評価を受けることが有益である.

回避すべき薬物や環境

以下を避けるべきである.

  • 外傷リスク,特に頭部損傷のリスクが高い活動.
  • アスピリンやアスピリン含有製剤.
    注:低用量の凝固因子の予防投与が必要であるが,血友病や心血管疾患を有する成人のなかには低用量アスピリン療法が可能な患者もおり,治療は個々の症例に基づいて決定される[Konkle 2011].

血小板機能に影響を与える他の薬剤やハーブ治療薬の使用に際しては,慎重を期すること.
古くなった純度が中くらいの血漿由来「プロトロンビン複合体」濃縮製剤は血栓を形成しやすいので,(万が一,使用することになった場合には),血友病B患者には慎重に使用すべきである.

リスクの高い親族への検査

リスクの高い血縁者の同定.(特に軽症血友病B家系では),詳細な家族歴聴取により,まだ検査を受けたことのない男性血縁者のなかからリスクの高い者を同定できることがある.

リスクの高い男性の遺伝学的状態の早期判定.(羊水や胎盤組織による汚染を避けるため)臍静脈への静脈穿刺によって採取した臍帯血検体を用いた第IX因子の凝固活性測定,もしくはF9遺伝子の家系特異的な病的変異の分子遺伝学的検査により,リスクのある男性新生児を血友病Bである/血友病Bではないと判別できる.血友病Bの家族歴を有する男性乳児は,血友病Bが除外されない限り,環状切除を受けるべきではない.血友病Bを発症している場合は毛細血管性出血の延長や創傷治癒障害を防ぐため,処置の直前と直後に第IX因子濃縮製剤を投与する.

注:(1)臍帯血を用いた第IX因子の凝固活性測定では,凝固を予防し,検体と抗凝固薬の混合を最適とするため,クエン酸ナトリウムを10分の1入れたシリンジに臍帯血を採取すること.(2)正期産で生まれた新生児の臍帯血での第IX因子の凝固活性は成人よりも低いため(平均値:〜30%,基準範囲:15〜50%),血友病Bの診断が確立するのは活性が1%未満の場合であるが,活性が中等度に低い場合には(15〜20%)判断がつかない.

リスクの高い女性の遺伝学的状態の判定.保因者の約10%の第IX因子の凝固活性は30%未満であり,異常出血を呈することがある.血友病保因者に対する最近のオランダの研究では,出血症状はベースライン時の凝固因子活性に相関しており,第IX因子の凝固活性が40〜60%の場合,出血のごくわずかな増加が示されている[Plug et al 2006].このため,罹患男性やリスクの高い女性の娘や母親では,分子遺伝学的検査により保因者ではないと裏付けられている場合を除き,出血リスクが高まっているかどうかを判断するため,必ずベースライン時の第IX因子の凝固活性を測定すべきである.稀であるが,X染色体不活化の異常を伴うF9遺伝子変異のヘテロ接合体により,またごく稀ではあるが2種類のF9遺伝子の病的変異のヘテロ接合体により,第IX因子の凝固活性が低下する女性もいる.

妊娠前,もしくは妊娠のできるだけ早期に,リスクの高い女性の保因者状態を確定するとよい.

遺伝カウンセリング目的のリスクのある血縁者に対する検査に関連する問題は,「遺伝カウンセリング」を参照のこと.

妊娠管理

産科に関する問題リスクのある女性は,妊娠前,もしくは妊娠期のできるだけ早い段階に保因者状態を確認することが勧められる[Lee et al 2006].

第VIII因子とは異なり,妊娠中に母親の第IX因子は増加しないため,分娩時の支持療法や分娩後の出血予防のため,保因者への凝固因子の投与が必要となる可能性が高い.保因者のなかには,月経過多は見られないが分娩後出血が主な徴候である者もいる[Yang & Ragni 2004].

母親が症候性の保因者である場合(ベースライン時の第IX因子の凝固活性が30%未満である場合),特に分娩後に出血過多が生じるリスクが生じ,第IX因子の濃縮製剤を投与しなければならなくなることがある[Yang & Ragni 2004].

男性新生児.帝王切開の適応とするか,経腟分娩を行うかについては議論がわかれている[James & Hoots 2010, Ljung 2010].選択的帝王切開分娩に関しては,特に男児が出生前に血友病Bと診断されている場合,帝王切開と経腟分娩との相対的リスクを考慮すべきである.

たとえ経腟分娩で出産された男児が重症血友病Bである場合でも,出生時や新生児初期に罹患男児に頭蓋内出血が起こることは稀である(1〜2%未満).

研究中の治療法

長期作動型の遺伝子組換え型の第IX因子蛋白.半減期を延長させた製剤(Fc融合蛋白やアルブミン融合蛋白や,部位特異的ペグ化など)が第III相臨床試験段階にある[Peyvandi et al 2013,Powell et al 2013].臨床試験データから,融合蛋白による第XI因子の半減期の3〜5倍の延長が示された.

血友病Bの遺伝子治療.第IX因子を発現するアデノ随伴ウイルスベクターを静脈内投与する遺伝子治療に関する幾つかの臨床試験が行われている.こうしたベクターでは,元来の第IX因子合成部位の合成を目的とする肝臓特異的プロモーターが使用されている.
様々な疾患や病態に対する臨床試験に関する情報入手についてはClinicalTrials.govを参照のこと.

その他

血友病Bの出血は,ビタミンKで予防したりコントロールできない.

 


遺伝カウンセリング

「遺伝カウンセリングは個人や家族に対して遺伝性疾患の本質,遺伝,健康上の影響などの情報を提供し,彼らが医療上あるいは個人的な決断を下すのを援助するプロセスである.以下の項目では遺伝的なリスク評価や家族の遺伝学的状況を明らかにするための家族歴の評価,遺伝子検査について論じる.この項は個々の当事者が直面しうる個人的あるいは文化的な問題に言及しようと意図するものではないし,遺伝専門家へのコンサルトの代用となるものでもない.」

遺伝形式

血友病Bの遺伝形式はX連鎖性である.

患者家族のリスク

男性発端者の両親

  • 罹患男性の父親が発病することはなく,F9遺伝子の病的変異の保因者であることもない.
  • 息子が罹患し,母系血縁者に罹患者のいる女性は,絶対的保因者である.
  • 息子の1人以上が罹患者であり,自分のDNAに病的遺伝子変異が検出されない女性は,生殖細胞系列モザイクを有する.
  • 罹患男性の約50%には,血友病Bの家族歴がない.罹患男性が孤発例(血友病の家族歴が知られていない罹患男性)である場合には,罹患男性の母親の保因者状態と他の血縁者の保因者リスクについて,幾つかの可能性を検討する必要がある.
    • 母親が保因者でなく,罹患男性に発病性の新生突然変異が生じた場合.
    • 母親が発病性の新生突然変異の保因者である場合.以下の状態が1つでも起こると,このような新生突然変異が生じる.
      • 「生殖細胞系列変異」(すなわち,受精時に卵子もしくは精子に生じる変異であるため,全身の細胞に変異が存在し,DNAで検出可能な変異)である場合.
      • 体細胞変異(すなわち,胚形成のごく初期に起きる変異で,病的変異を有する細胞と病的変異のない細胞がある体細胞モザイクを生じさせる.白血球DNAで検出される家系は11%以下)である場合.
      • 生殖細胞系列モザイク(病的変異を有する胚細胞ものもあれば,病的変異のない胚細胞もあり,患者の白血球DNAに変異が検出されない)である場合.
    • 母親が保因者であり,この母親が,病的の新生突然変異が生じた彼女の母親,もしくは病的変異をモザイクで有する無症候性の父親から病的変異を遺伝した場合.
    • 母親が前の世代で生じた病的変異の保因者であり,この変異が家系内の女性保因者に症状を生じさせることなく受け継がれてきた場合.
  • 連鎖解析と分子遺伝学的検査を組み合わせると,新たに診断された患者がいる家系の半数近くにおいて,新生突然変異の起始点を確定できることが多い[Sommer et al 2001].家系内のどの系統で血友病Bのリスクが高いかを判断するためには,新生突然変異の起始点を確定することが重要である.

男性発端者の同胞

  • 同胞のリスクは母親の保因者状態による.発端者の母親が保因者である場合,ある男性同胞が血友病Bを発症するリスクは50%,女性同胞が保因者となるリスクは50%である.
  • 生殖細胞系列モザイクは稀ではあるが,報告されている.このため,罹患男性が孤発例の場合や,罹患男性の母親の第IX因子の凝固活性が正常で,母親の白血球DNAに息子に存在するF9遺伝子の病的遺伝子を認めない場合,理論的には母親が再び血友病Bを罹患する子を出産する確率は,(低いとはいえ)高くなる.
  • 変異解析で家系内のF9遺伝子の病的変異を遺伝していないことが確認されない限り,すべての同胞に対して第IX因子の凝固活性を測定すべきである.

男性発端者の子

  • 娘は全員,父親の血友病と同程度の重症度を有する血友病Bを発症させるF8遺伝子の病的変異の保因者となる.
  • 息子はF9遺伝子の変異アレルを受け継ぐことはなく,血友病Bを発症することもなく,子に変異アレルを遺伝することもない.

発端者のその他の血縁者

発端者の母系の伯/叔母とその子には,(性別,血縁関係,発端者の母親の保因者状態によっては),保因者リスクと発症リスクが存在する.

保因者診断

家系内で病的変異が同定されている場合には,リスクが非常に高い女性に分子遺伝学的検査を用いた保因者診断を行うことができる.

第IX因子の凝固活性は,保因者状態を判定する試験としては信頼性が低く,これらの値が低い場合に,保因者である可能性が疑われるだけである.

遺伝カウンセリングに関連した問題

早期診断と早期治療を目的とするリスクの高い血縁者に対する検査に関する情報は,「臨床的マネジメント」,「リスクの高い血縁者の検査」を参照のこと.

英国の遺伝学的サービスに関して発表されているガイドラインに関してはLudlam et al [2005]を参照のこと.遺伝子検査に対する親の態度に与える文化的宗教的問題に関するオーストラリアの定性的研究で得られた所見についてはThomas et al [2007]を参照のこと.

家族計画

  • 遺伝的リスクの確定,保因者診断,出生前診断の実施に関する議論を行う最適な時期は妊娠前である.y.
  • 罹患している若年成人,保因者,もしくは保因者のリスクのある若年成人に対して遺伝カウンセリング(子への潜在的リスクや家族計画)を提供することは妥当である.

DNAバンキング は,将来の使用のために,通常は白血球から調整したDNAを貯蔵しておくことである.検査手法や,遺伝子,変異,疾患への理解は将来改善する可能性があり,患者のDNAを貯蔵しておくことは考慮されるべきである.

出生前診断

分子遺伝学的検査.血縁者に病的変異が同定されている場合や,家系内連鎖が判明している場合は,本疾患/遺伝子の検査や,個別の出生前診断を行っている臨床施設でリスクの高い妊娠に対する出生前診断を受けることができる.

通常の方法では,妊娠週数が約10〜12週に絨毛生検(CVS)により採取した胎児細胞,もしくは通常,妊娠週数が約15〜18週に行われる羊水穿刺により採取した胎児細胞の染色体検査で胎児の性別を判定する.核型が46,XYの場合,胎児細胞から取り出したDNAを用いて,F9遺伝子の病的変異,もしくは有用マーカーに対する解析を行う.

経皮的臍帯血採取(PUBS)F9遺伝子の病的変異が不明で連鎖解析からも情報が得られない場合,妊娠週数が約18〜21週で行われる経皮的臍帯血採取で得られた胎児の血液検体(クエン酸ナトリウムと抗凝固薬入りシリンジに採取)の第IX因子の凝固活性を測定することにより,出生前診断が可能である.妊娠週数が20週の胎児の第IX因子の凝固活性は平均して10%(基準値:6〜14%)であるため,活性が1%未満の場合に血友病Bと確定診断できることから,活性が中等度に低い場合(15〜20%)には判断がつかない.

注:妊娠週数とは最終月経の第1日から換算するか,超音波による計測によって算出される.
(血友病Bのような)知能に影響がなく治療が可能な病態に対する出生前診断の要請は多くない.出生前診断の利用に関しては,特に出生前診断の目的が早期診断でなく中絶を考慮している場合,医療従事者内でも家族内でもさまざまな意見があるだろう.出生前診断の決定を両親の選択として捉えている医療機関がほとんどであるが,これらの問題について慎重な議論を行うことが望ましい.

着床前診断(PGD)は病的変異が同定されている家系で可能であり,幾つかの家系で病的変異が確定されている [Laurie et al 2010].


更新履歴

  1. Gene Review著者: Maribel J Johnson, RN, MA. Arthur R Thompson, MD, PhD
    日本語訳者: 森由紀(信州大学大学院修士課程),櫻井晃洋(信州大学医学部附属病院遺伝子診療部)
    GeneReviews 最終更新日: 2005.8.17. 日本語訳最終更新日: 2006.9.15
  2. Gene Review著者: Barbara A Konkle, MD, Neil C Josephson, MD, Shelley M Nakaya Fletcher, BS, Arthur R Thompson, MD, PhD
    日本語訳者: 窪田美穂(ボランティア翻訳者),櫻井晃洋(信州大学医学部附属病院遺伝子診療部)    
    Gene Review 最終更新日: 2011.9.22. 日本語訳最終更新日: 20123.7.12.
  3. Gene Review著者:Barbara A Konkle, MD, Neil C Josephson, MD, and Shelley Nakaya Fletcher, BS.
    日本語訳者:窪田美穂(ボランティア翻訳者),櫻井晃洋(札幌医科大学医学部遺伝医学)
    Gene Review最終更新日:2014.6.5.日本語訳最終更新日: 2014.1.18

    (in present)

原文 Hemophilia B

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