Gene Review著者: Melissa A Parisi, MD, PhD..
日本語訳者: 和田宏来 (県西総合病院小児科/筑波大学大学院小児科)
Gene Review 最終更新日: 2015.10.1. 日本語訳最終更新日: 2017.1.6
原文 Hirschsprung Disease Overview
疾患の特徴
ヒルシュスプルング病(Hirschsprung disease, HSCR)もしくは先天性腸管無神経節症は、一部の腸管の神経節細胞が完全に欠如した先天性疾患である。無神経節の部分は遠位直腸や近接するさまざまな長さの近位腸管である。80%の患者では、無神経節症は直腸・S状結腸に限局する(短域型)。15-20%の患者において、無神経節症はS状結腸より近位に罹患する(長域型)。約5%において、無神経節症は大腸全体にみられる(全結腸型)。まれに、無神経節症は小腸もしくはさらに近位にさえも伸展し、腸管全体に罹患する(小腸型)。ヒルシュスプルング病は神経堤由来の細胞や組織の障害である神経堤障害と考えられており、単独の所見だったり多系統疾患の一部だったりする。出生後48時間以内に胎便を認めない、便秘、嘔吐、腹痛、腹部膨満、まれに下痢といったような腸管運動障害による症状でしばしば生後2ヶ月以内に発症する。しかし、ヒルシュスプルング病の診断は小児期後期や成人期まで遅れる可能性があり、生来の便秘を認める場合にはみなヒルシュスプルング病を考慮すべきである。ヒルシュスプルング病患者は腸炎や死に至る可能性がある腸管穿孔のリスクがある。
診断・検査
ヒルシュスプルング病の診断には、組織学的に遠位直腸において腸管神経節細胞の欠如を認めることが必要である。全身麻酔なしに安全に行うことができるので、診断を行うのに直腸粘膜や粘膜下層の吸引生検がほとんどの施設では好まれている。ヒルシュスプルング病を合併する症候群の診断は臨床所見、細胞遺伝学的解析、ときには特異的な分子学的検査もしくは生化学検査で行う。孤発性ヒルシュスプルング病(すなわち関連する全身所見を欠くヒルシュスプルング病)はさまざまな遺伝子の病原性変異と関連する疾患である。
臨床的マネジメント
症候の治療:
無神経節腸管の切除および近位の腸管と肛門の吻合("プルスルー")が標準的な治療である。不可逆性の腸管不全に進展した広範囲の腸管無神経節症患者は腸移植の候補となる可能性がある。
遺伝カウンセリング
再現リスクは基礎疾患による。
臨床診断
ヒルシュスプルング病もしくは先天性腸管無神経節症は、一部の腸管の神経節細胞が完全に欠如した先天性疾患である。無神経節領域は遠位直腸および隣接するさまざまな長さの近位腸管におよぶ。
しばしば生後2ヶ月以内に発症し、48時間以内の胎便排泄遅延(新生児患者の50-90%)、便秘、嘔吐、腹痛、腹部膨満、まれに下痢といった腸管運動障害の症状を認める。しかし、小期期後期や成人期まで診断はしばしば遅れるため、生来の重症便秘を認める患者においてはヒルシュスプルング病を考慮するべきである。
ヒルシュスプルング病患者は腸炎や死に至る可能性がある腸管穿孔のリスクがある。
短域型の発生率(ヒルシュスプルング病の80%)は女性よりも男性で4倍高いのに対し、長域型は同数である。
診断の確定
ヒルシュスプルング病の診断には、組織学的に遠位直腸において腸管神経節細胞の欠如を認めることが必要である。全身麻酔なしに安全に行うことができるので、診断を行うのに直腸粘膜や粘膜下層の吸引生検がほとんどの施設では好まれている。診断は生検で得た50-75切片の粘膜下層に神経節細胞を欠くことによる。副次的な所見には、粘膜下神経線維の肥大や異常なアセチルコリンエステラーゼ染色パターンなどがある。
直腸肛門内圧測定(マノメトリー)や腹部X線で拡張した口側結腸や空虚な直腸、注腸造影で排泄時間の遅延や口側の拡張腸管と肛門側の狭小な腸管の間に漏斗様の移行帯を認めた場合に診断は支持されるかもしれない。
X線検査は無神経節症の口側への伸展を描出するのに有用かもしれないが、切除術中に正確な境界を知るには術中腸管直腸生検が用いられる。
鑑別診断
臨床徴候、特異的検査、吸引生検で無神経節症の所見を認めないことに基づき、以下の疾患をただちに鑑別するべきである。
腸閉塞の認める新生児においては、他に以下が原因である可能性がある。
後天性の重症便秘/閉塞は、感染、アルコール摂取、先天性甲状腺機能低下症のような母体因子によっても起こることがある。
有病率
ヒルシュスプルング病の有病率はおよそ5,000出生に1人である。民族間で発生率は異なる。
ペンシルバニアのメノー派において、かなりの割合でヒルシュスプルング病患児に創始者多型EDNRBを認める。
染色体要因
ヒルシュスプルング病患者の約12%に染色体異常を認める(表1)。
もっとも多い染色体異常はダウン症候群(21トリソミー)であり、全ヒルシュスプルング病患者の2-10%を占める。逆に、ダウン症候群患者の約0.6-3.0%にヒルシュスプルング病を認める。
染色体異常には、ヒルシュスプルング病関連遺伝子を含む領域の欠失が含まれる。
欠失のあるヒルシュスプルング病患者の特定によって、これらの遺伝子のいくつかの発見に結びつき、ハプロ不全が病因であるとする説が有力となった。
その他の染色体異常(17q21欠失/ 17q21-q23重複:表1を参照)もヒルシュスプルング病患者において報告されている。関連遺伝子は同定されていない。
表1 ヒルシュスプルング病に関連する染色体異常
染色体異常 | 特徴 | 染色体座(遺伝子座) | ヒルシュスプルング病患者の割合 |
---|---|---|---|
ダウン症候群 | 知的障害、低身長、先天性心疾患、特徴的顔貌 | 21トリソミー | 0.6-3% |
10q11欠失 | 知的障害、筋緊張低下 | 10q11.2(RET)欠失 | 不明 |
10q23欠失 | ほとんどは孤発性ヒルシュスプルング病、1例に直腸皮膚瘻 | 10q23.1(NRG3)欠失 | 不明 |
13q欠失 | 知的障害、成長障害、特徴的顔貌 | 13q22(EDNRB)欠失 | 不明 |
2q22欠失 | 知的障害、小頭症、特徴的顔貌、けいれん | 2q22(ZEB2)欠失 | 不明 |
4p12-p13欠失 | 知的障害、低身長、特徴的顔貌 | 4p12(PHOX2B)欠失 | 不明 |
17q21欠失/重複 | 知的障害、多発する先天奇形 | 17q21/17q21-23(不明)欠失 | 不明 |
単一遺伝子要因
単一遺伝子疾患は1つの遺伝子の変異によって起こる疾患で、常染色体優性、常染色体劣性、X連鎖性の遺伝形式をとる。ヒルシュスプルング病の原因として症候群性と非症候群性が知られる。
症候群性ヒルシュスプルング病
ヒルシュスプルング病を合併する症候群をアルファベット順に列挙する。各症候群におけるヒルシュスプルング病の発生率はさまざまで、表2に記載している。
バルデー・ビードル症候群(Bardet-Biedl syndrome, BBS)は、進行性色素性網膜症、肥満、軸後性の多指症、性腺機能低下症、腎障害、程度はさまざまだが一般的に軽度な知的障害などを特徴とする。ヒルシュスプルング病はBBS患者の約2%にみられると報告されている。BBS患者の約10%はヒルシュスプルング病やマクージック-カウフマン症候群(McKusick-Kaufman症候群, MKKS)を合併する。MKKSでは水子宮膣症や心疾患がみられる。BBSで同定されている遺伝子は全部で19あり、マクージック-カウフマン症候群を起こすMKKS遺伝子変異も含まれている。ヒルシュスプルング病との特異的な遺伝子-臨床型相関は認められていない。遺伝形式は常染色体劣性である。
軟骨・毛髪低形成 この骨格形成異常はオールド・オーダー・アーミッシュやフィンランド人によくみられ、四肢短縮型小人症、疎毛、再生不良性貧血やさまざまな免疫不全を特徴とする。ヒルシュスプルング病は大ざっぱに言って7-9%に認められ、重症型に合併する傾向にある。原因はエンドリボヌクレアーゼRNase MRP(RMRP)の遺伝子変異で、この遺伝子は核リボソームRNAのプロセシングやミトコンドリアDNAの合成に重要である。遺伝形式は常染色体劣性遺伝である。
先天性中枢性低換気症候群(Congenital central hypoventilation syndrome, CCHS) 古典的なCCHSでは、覚醒時は十分に換気ができる一方で、睡眠時には呼吸数は正常だが浅い呼吸となる低換気を認める。さらに重症な患者では覚醒時にも低換気となる。これらの臨床型は新生児期よりみられる。CCHS患児ではしばしば、全身性の自律神経機能異常や、神経芽腫、神経節細胞腫、神経堤由来組織の発達異常(すなわちヒルシュスプルング病)を起こす神経節芽細胞腫など神経堤由来の腫瘍といった生理的および解剖学的な症候を認める。CCHS患者の約20%にヒルシュスプルング病を認め、その組み合わせはハダド(Haddad)症候群として知られる。
PHOX2Bのde novoヘテロ変異はCCHS患者の90%に認められる。CCHS患者の一部ではRET, EDN3, GDNF, BDNF遺伝子のヘテロ変異を認める。RET遺伝子はCCHS患者におけるヒルシュスプルング病の進展に関して修飾因子としてふるまうことが報告されている。
家族性自律神経失調症(Familial dysautonomia, FD, Riley-Day症候群)は感覚神経、交感神経、副交感神経の発達や生存を侵す。出生時からの消耗性疾患である。進行性の神経変性は生涯を通じて持続する。胃腸機能障害、嘔吐、反復性肺炎、疼痛や温度の閾値変化、心血管不安定性などを呈する。約40%の患者では自律神経クリーゼを認める。FDはアシュケナージ系ユダヤ人で相対的に高頻度(3700出生に1人)に認められる。一部のFD患者はヒルシュスプルング病を合併する。
遺伝形式は常染色体劣性である。
免疫を調節する分子を司る遺伝子IKBKAPが侵されるが、この遺伝子は9q31に存在し、ヒルシュスプルング病の複数家系において修飾因子として働くことが推測されている。
フリンス症候群(Fryns syndrome)は指遠位末端の低形成、粗い顔貌、そのほか心臓、胃腸、泌尿生殖器、中枢神経といったさまざまな臓器の奇形を特徴とする。少なくとも6人はフリンス症候群の症候に加えてヒルシュスプルング病を認めており、フリンス症候群は(ヒルシュスプルング病のように)神経堤障害である可能性があることを示唆している。新生児期を超えて生存した11人のフリンス症候群患者のうち3人はヒルシュスプルング病に罹患していたことが報告されている。フリンス症候群に特異的な原因遺伝子は同定されていないが、遺伝形式は一般的に常染色体劣性遺伝が想定されている。
ゴールドバーグ・シュプリンツェン症候群(Goldberg-Shptintzen syndrome)では、小頭症、知的障害、顔面形態異常、ヒルシュスプルング病などモワット・ウィルソン症候群と共通する多くの臨床症候がみられる。また、口蓋裂やブドウ膜欠損(コロボーマ)もみられる可能性があり、いくつかの同胞例から常染色体劣性遺伝の疾患であると想定されている。小頭症、知的障害、全般的な多小脳回、さまざまなヒルシュスプルング病を認める2家系においてKIAA1279ヘテロ変異が同定され、KIF結合蛋白(KBP)をコードするKIAA1279遺伝子の変異がゴールドバーグ・シュプリンツェン症候群を起こす可能性が示唆された。このことは本症の更なるいくつかの家系において確かめられた。
注:ゴールドバーグ・シュプリンツェン症候群はシュプリンツェン・ゴールドバーグ症候群とは異なる。
腸管神経形成異常症B型(Intestinal neuronal dysplasia, IND)は重篤な腸閉塞を合併し、発症年齢は遅い傾向にはある(生後6ヶ月~6歳)が臨床的にヒルシュスプルング病と区別できないことがある。ヒルシュスプルング病とは対照的に、腸管神経節の過形成(ヒルシュスプルング病では神経節細胞の欠失)や病理医によって見解は異なるが"巨大神経節"のような他の徴候などの病理学的所見を認める。INDは孤発性、もしくはヒルシュスプルング病患者の約20%で無神経節腸管の口側に認めうる。IND患者もしくはIND/HSCR患者におけるいくつかの研究において、既知のヒルシュスプルング病関連遺伝子の同定が試みられているが不成功に終わっている。
L1症候群 ヒルシュスプルング病およびX連鎖性の中脳水道閉塞症を呈し、L1CAM遺伝子変異を認める複数の患者例が報告されている。検査された1人の患者においてRET遺伝子の病原性変異は同定されていない。他のヒルシュスプルング病関連遺伝子の変異が発症に関係あるかどうかは不明である。水頭症とヒルシュスプルング病の合併は、神経細胞接着分子であるL1CAMが消化管の神経節細胞群にとって重要である可能性を示唆している。くわえて、ヒルシュスプルング病患者の無神経節腸管における外来性神経支配でL1CAM発現が低下していることが報告されている。ヒルシュスプルング病は男性に多いことが報告されているが、L1CAMはヒルシュスプルング病と関連する唯一のX連鎖性遺伝子である。しかし、ヒルシュスプルング病男性患者における1つの症例シリーズ報告では、L1CAM変異は同定されなかった。
モワット・ウィルソン症候群(Mowat-Wilson syndrome, ヒルシュスプルング病・知的障害症候群) 小頭症、知的障害、けいれん、眼間開離・幅広い眉毛・鞍鼻・吊り上った耳垂・尖った顎といった特徴的な顔貌などを認める。患者シリーズ報告によれば、患者の41-71%にヒルシュスプルング病を認める。多くの患者は低身長、眼奇形、脳梁欠損、先天性心疾患、泌尿生殖器異常も呈する。モワット・ウィルソン症候群は2q22に局在するZEB2(zinc finger homeobox B)遺伝子の欠失もしくはヘテロ変異と関連する(表1を参照)。
多発性内分泌腫瘍症2型(Multiple endocrine neoplasia type2, MEN2)
ほとんどのMEN 2A型患者で無神経節症を認めない一方、推算でヒルシュスプルング病患者の2.5-5%にMEN 2A型に関連するRET遺伝子変異を認めることが複数報告されている。ヒルシュスプルング病は初発症状である可能性があり、分子遺伝学的検査によってMEN 2A型に関連するRET遺伝子変異やがん体質の認知につながり、患者やその家族のケアに大きな影響を与えることがある。
神経線維腫症1型(Neurofibromatosis 1, NF1)は、数ある神経外胚葉性の特徴のなかでもカフェオレ斑、間擦部の雀卵斑、神経線維腫を認める常染色体優性疾患である。消化管病変には、ヒルシュスプルング病だけではなく、筋間神経叢の肥大を伴う腸管神経形成異常症と呼ばれる所見を認める。1つの家系における神経線維腫症1型と巨大結腸症の同時発生は、両親からそれぞれ異常なNF1アレル、異常なGDNFアレルを受け継いだことと関連する。このことは、多数の遺伝子による相互作用がヒルシュスプルング病の進展に寄与することを示唆している。
ピット・ホプキンス症候群(Pitt-Hopkins syndrome, PTHS)は知的障害、特徴的な顔貌、けいれん、呼吸異常(過呼吸/息ごらえ)などを特徴とする。ヒルシュスプルング病の合併例はたった1例だけ報告されているが、重度の便秘はよくみられる。TCF4遺伝子のハプロ不全が関与しており、過呼吸や便秘/ヒルシュスプルング病といったCCHSに類似した特徴はこの遺伝子産物のPHOX-RET経路における役割で説明できる。
スミス・レムリ・オピッツ症候群(Smith-Lemli-Opitz syndrome)は、小頭症、先天性心疾患、成長障害および発達遅滞、特徴的な顔貌、男性では尿道下裂を伴う男性化不全、そして特徴的な2~3本の合趾症などを呈する。ヒルシュスプルング病の合併例は複数報告されており、軽症のSLOSにも合併することもあるが、一般的には重症例である。SLOSは、コレステロール生合成の最終段階を触媒する酵素をコードするDHCR7遺伝子の変異によって起こる常染色体劣性遺伝疾患である。
ワーデンブルグ症候群4型(Waardenburg syndrome type4, WS4, ワーデンブルグ・シャー症候群) ヒルシュスプルング病、感音性難聴、色素異常(たとえば虹彩異色症、まだら症)などの臨床的特徴をもつ。メラノサイトや蝸牛機能に重要な内有毛細胞はともに神経堤細胞由来であるため、ワーデンブルグ症候群4型は全般性の神経堤障害と考えられている。
患者においてEDN3, EDNRB, SOX10[SRY(sex-determining region Y)-box 10]遺伝子の変異が報告されているが、RET遺伝子の変異がワーデンブルグ症候群4型の原因であるというエビデンスはない。
一般的にワーデンブルグ症候群4型はEDN3もしくはEDNRB遺伝子のホモ変異体によるが、一方でヘテロ変異体は他の特徴を持たない孤発性ヒルシュスプルング病を呈する。しかしこの相関は常にみられるわけではない。
対照的に、現在までにワーデンブルグ症候群4型患者において報告されているすべての病原性SOX10アレルはde novoもしくは常染色体優性遺伝である。SOX10の異常は少数のヒルシュスプルング病患者でのみ報告されており、孤発性ヒルシュスプルング病症例はない。SOX10遺伝子の末端エクソン変異を伴うワーデンブルグ症候群4型患者のなかには、中枢神経の髄鞘化障害を伴う末梢神経障害や発達遅滞といったさらなる神経症状を認めることがあり、PCWH(末梢性脱髄性神経障害、中枢性脱髄性白質ジストロフィー、ワーデンブルグ症候群、ヒルシュスプルング病)と呼ばれる。注目すべきことに、SOX10は神経管から分離する段階からコロニー形成の時期を通して後脳神経堤細胞で発現する転写因子をコードする。
表2 単一遺伝子の異常による症候群性ヒルシュスプルング病
症候群 | 特徴 | 遺伝形式 | 染色体座1/遺伝子 | ヒルシュスプルング病の割合 |
---|---|---|---|---|
バルデー・ビードル症候群 | 網膜変性、肥満、知的障害、多指症、外性器低形成、腎障害 | 常染色体劣性 | 少なくとも14個の染色体座/遺伝子 | 2%-10%2 |
軟骨・毛髪低形成・無肥大異形成症スペクトラム疾患 | 四肢短縮型小人症、疎毛、免疫不全 | 常染色体劣性 | 9p13.3 / RMRP | 7%-9% |
先天性中枢性低換気症候群 (CCHS) |
低酸素症、換気ドライブの減少、神経芽腫 | さまざま | 4p13 / PHOX2B 10q11.21 / RET 5p13.2 / GDNF 20q13.32 / EDN3 11p14.1 / BDNF |
20% |
家族性自律神経失調症 (Riley-Day症候群) |
感覚神経障害および自律神経障害(発汗・涙液・唾液の産生異常を含む) | 常染色体劣性 | 9q31.3 / IKBKAP | 不明 |
フリンス症候群 | 指遠位末端の低形成、横隔膜ヘルニア、先天性心疾患、顔面形態異常、知的障害 | 常染色体劣性 | 不明 | 不明 |
ゴールドバーグ・シュプリンツェン症候群 | 顔面形態異常、小頭症、知的障害、多小脳回 | 常染色体劣性 | 10q22.1 / KIAA1279 その他? |
よくみられる |
腸管神経形成異常症 | 巨大神経節を伴う異常な外来性神経支配 | 不明 | 不明 | 20%以下2 |
L1症候群 | 知的障害、水頭症、脳梁欠損、内転母指 | X連鎖性劣性 | Xq28 / L1CAM | まれ |
多発性内分泌腫瘍症2A型/ 家族性甲状腺髄様癌 |
甲状腺髄様癌、褐色細胞腫、副甲状腺機能亢進症3 | 常染色体優性 | 10q11.21 / RET | 1%以下 |
多発性内分泌腫瘍症2B型 | 甲状腺髄様癌、褐色細胞腫、粘膜神経腫および消化管神経腫、骨格異常、角膜変化 | 常染色体優性 | 10q11.21 / RET | まれ |
モワット・ウィルソン症候群 | 知的障害、小頭症、顔面形態異常、先天性心疾患、脳梁欠損、てんかん、低身長 | 常染色体優性 | 2q22.3 / ZEB2 | 41%-71% |
神経線維腫症1型 | カフェオレ斑、神経線維腫、虹彩小結節 | 常染色体優性 | 17q11.2 / NF1 5p13.2 / GDNF? |
不明 |
ピット・ホプキンス症候群 | 顔面形態異常、知的障害、けいれん、過換気、低換気、便秘 | 常染色体優性 | 18q21.2 / TCF4 | 不明 |
スミス・レムリ・オピッツ症候群 | 知的障害、尿道下裂、2-3本の合指症、先天性心疾患、顔面形態異常 | 常染色体劣性 | 11q13.4 / DHCR7 | 不明 |
ワーデンブルグ症候群4型 (ワーデンブルグ・シャー症候群) |
色素異常、難聴 | 常染色体劣性(通常) | 13q22.3 / EDNRB 20q13.32 / EDN3 |
よくみられる |
常染色体優性 | 22q13.1 / SOX10 | ほぼ100% |
DHCR7 = 7-dehyrdocholesterol reductase
ZEB2 = zinc finger E-box binding homeobox 2
RMRP = RNAse mitochondrial RNA processing
BDNF = brain-derived neurotrophic factoe
L1CAM = neural cell adhesion molecule L1
NF1 = neurofibromin
非症候群性ヒルシュスプルング病
非症候群性ヒルシュスプルング病(他の異常を伴わないヒルシュスプルング病)は多数の遺伝子変異と関連する(表3)。孤発性ヒルシュスプルング病と関連する遺伝子は大きく4つのグループに分類される。RETとそのリガンドであるGDNFやNRTN、EDNRBやその関連遺伝子であるEDN3やECE1、NRGシグナル経路(NRG1およびNRG3)、そしてSEMAシグナル経路(SEMA3CおよびSEMA3D)である。孤発性ヒルシュスプルング病関連遺伝子に関するさらなる情報についてはここ(pdf)をクリック。
遺伝子 | 蛋白 | 染色体座1 | 遺伝形式 | 頻度 | ヒルシュスプルング病の病型 | 症候群性2 |
---|---|---|---|---|---|---|
RET3 OMIM |
がん原遺伝子チロシンプロテインキナーゼret | 10q11.21 | 常染色体優性 | 17-38% | 短域型 | はい |
70%-80% | 長域型4 | |||||
50% | 家族性 | |||||
3%-10%5 | 単発性 | |||||
GDNF6 OMIM |
グリア神経株由来神経栄養因子 | 5p13.2 | 常染色体優性 | 1%未満7 | さまざま | はい |
NRTN6 OMIM |
ニュールツリン | 19p13.3 | 常染色体優性 | 1%未満7 | さまざま | 不明 |
EDNRB OMIM |
エンドセリンB受容体 | 13q22.3 | 常染色体優性/常染色体劣性 | 3%-7% | さまざま | はい8 |
EDN3 OMIM |
エンドセリン-3 | 20q13.32 | 常染色体優性/常染色体劣性 | 5% | さまざま | はい8 |
ECE16 OMIM |
エンドセリン変換酵素 | 1p36.12 | 常染色体優性 | 1%未満7 | さまざま | 不明 |
NRG19 OMIM |
ニューレギュリン1 | 8p12 | 常染色体優性 | 1%未満7 | さまざま | いいえ10 |
NRG311 OMIM |
ニューレギュリン3 | 10q23.1 | 常染色体優性 | 1%未満7 | 短域型 | いいえ12 |
SEMA3C OMIM |
セマフォリン3C | 7q21.11 | 常染色体優性 | 5%未満13 | 短域型 | いいえ |
SEMA3D OMIM |
セマフォリン3D | 7q21.11 | 常染色体優性 | 5%未満13 | 短域型 | いいえ |
未知の原因
ヒルシュスプルング病患者の約18%は少なくとも1つの他の先天奇形を有する。ヒルシュスプルング病と他の先天奇形の合併は、しばしば神経堤由来組織の異常として知られている症候群の一部である(表2を参照)。しばしば、症候群を特定することはできない(表4)。
最も頻繁にみられる異常には、先天性心疾患(ダウン症候群を除いてヒルシュスプルング病患者の5%以下に認める)、消化管異常(4%以下にメッケル憩室、腸回転異常、鎖肛など)、中枢神経異常(4%以下に認め、幅広い病像をとる)、泌尿生殖器異常(7%以下に停留精巣、尿道下裂、腎奇形など)がある。頭蓋顔面異常や二分脊椎の合併もみられる。
表4 原因不明の先天異常を合併するヒルシュスプルング病
異常 | 特徴 | 遺伝形式 | 遺伝子座/遺伝子 | ヒルシュスプルング病の割合1 |
---|---|---|---|---|
中枢神経 | 知的障害、ダンディ・ウォーカー奇形、小頭症 | 不明 | 不明 | 3.6%-3.9% |
先天性心疾患 | 心房中隔欠損症、心室中隔欠損症、動脈管開存症、ファロー四徴症 | 不明 | 不明 | 2.3%-4.8% |
消化管 | 腸回転異常症、鎖肛、メッケル憩室、直腸仙骨部瘻 | 不明 | 不明 | 3.3%-3.9% |
泌尿生殖器 | 停留精巣、鼠径ヘルニア、尿道下裂、腎奇形、尿道瘻 | 不明 | 不明 | 5.6%-7.3% |
ヒルシュスプルング病の原因の特定は予後予測や遺伝カウンセリングにおける遺伝形式を知るためには有用である。
ヒルシュスプルング病の原因を特定するために以下を精査する。
注:発端者に異常を認めた場合には、再発リスクの評価のため両親の検査が推奨される。遺伝検査のアルゴリズムが提唱されてきたが、広く受け容れられているガイドラインは存在しない。さらに、ヒルシュスプルング病に関連する遺伝子変異の低い浸透率が遺伝子検査の結果解釈を複雑にしている。
注:パネルに含まれる遺伝子や感度については検査施設や時期によって異なる。
「遺伝カウンセリングは個人や家族に対して遺伝性疾患の本質,遺伝,健康上の影響などの情報を提供し,彼らが医療上あるいは個人的な決断を下すのを援助するプロセスである.以下の項目では遺伝的なリスク評価や家族の遺伝学的状況を明らかにするための家族歴の評価,遺伝学的検査について論じる.この項は個々の当事者が直面しうる個人的あるいは文化的、倫理的な問題に言及しようと意図するものではないし,遺伝専門家へのコンサルトの代用となるものでもない.」
遺伝形式
発端者に、遺伝したもしくはde novoの染色体異常、ヒルシュスプルング病を合併する症候群(表2を参照)、RET, EDN3, EDNRB(「評価戦略」の項を参照)遺伝子の病原性変異を認めている場合、それについてのカウンセリングが適応となる。
明らかな原因のない非症候群性ヒルシュスプルング病の発端者において、ヒルシュスプルング病は浸透率が低く、発現はさまざまで、4:1で男児に多い多遺伝子疾患と考えられている。
患者家族のリスクー非症候群性ヒルシュスプルング病
発端者の両親
発端者の同胞
表5 罹患腸管の長さに基づいた同胞におけるヒルシュスプルング病の発症リスク
発端者 | 同胞 | 発端者がそうである場合の同胞の発症リスク | |
---|---|---|---|
長域型 | 短域型 | ||
男性 | 男性 | 17% | 5% |
女性 | 13% | 1% | |
女性 | 男性 | 33% | 5% |
女性 | 9% | 3% |
発端者の子ども
発端者の他の家族
遺伝カウンセリングに関連した問題
DNAバンキングは主に白血球から調整したDNAを将来利用することを想定して保存しておくものである。検査技術や遺伝子、変異、あるいは疾患に対するわれわれの理解が将来さらに進歩すると考えられるので、DNA保存が考慮される。出生前診断および着床前診断―非症候群性常染色体優性ヒルシュスプルング病
ひとたび家族内で病原性変異が同定された場合、非症候群性常染色体優性ヒルシュスプルング病のリスク妊娠における出生前検査や着床診断は可能なオプションである。病原性変異をもつ可能性のある胎児が必ずしも発症するわけではないため、非症候群性ヒルシュスプルング病のような病態に対する出生前診断の要望は多くない。特に早期診断ではなく妊娠中絶を考慮した検査である場合に、医療従事者や家族の間でも出生前検査に関して視点の違いが存在する可能性がある。ほとんどの施設において、出生前診断に関する決定は両親の選択によると考えるが、これらの問題に関して話し合うことがのぞましい。
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日本語訳者: 和田宏来 (県西総合病院小児科/筑波大学大学院小児科)
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