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IPEX症候群
(IPEX Syndrome)

[Synonym : Immunodeficiency, Polyendocrinopathy, and Enteropathy X-Linked Synrome]

Gene Reviews著者: Queenie K-G Tan, MD, PhD, Raymond J Louie, PhD, John W Sleasman, MD.
日本語訳者: 和田宏来 (国際親善総合病院小児科/しんぜんクリニック小児科)

Gene Reviews 最終更新日: 2018.7.19. 日本語訳最終更新日: 2020.7.6.

原文: IPEX Syndrome


要約

疾患の特徴 

IPEX(免疫調節異常[immune dysregulation]、多腺性内分泌障害[polyendocrinopathy]、腸疾患[enteropathy]、X連鎖性[X-linled])症候群は全身性の自己免疫を特徴とし、典型的には生後1年以内
に発症する。最もよく認められる臨床症状の三徴は、水様性下痢、内分泌障害(最もよく認められるのはインスリン依存性糖尿病)、および湿疹性皮膚炎である。ほとんどの患児は、血球減少、自己免疫性肝炎、腎症といった他の自己免疫現象を認める。免疫調節異常に関連したリンパ腫大、脾腫、脱毛、関節炎、肺疾患も認められている。胎児期の症状には、水腫、エコー源性腸管、皮膚の落屑、子宮内発育遅延(IUGR)、胎児無動症などがある。積極的な免疫抑制や骨髄移植を行わない場合、男性患者の多くは生後1~2年以内に代謝障害、重篤な吸収不良、もしくは敗血症によって死亡する。より軽症の表現型である数人の患者は10~20歳代まで生存している。

診断・検査 

典型的な臨床所見を認める男性患者で、ヘミ接合型のFOXP3遺伝子変異が同定される場合に診断は確定する。女性患者は報告されていない。病原性変異の女性保因者では臨床所見は認めない。

臨床的マネジメント

症候の治療:
骨髄移植(BMT)は根治となりうる唯一のIPEX症候群に対する治療法である。臓器障害を認めない/もしくは臓器障害が軽度である時点で行われれば、特に長期的な免疫抑制療法を行っている非移植患者と比べて自己免疫の軽快が認められる。T細胞免疫抑制剤(すなわちシロリムス、シクロシポリンA、タクロリムス)のいずれか1つ、もしくはステロイドとの併用が第一選択と考えられている。自己免疫性好中球減少症には顆粒球コロニー刺激因子(G-CSF)を、結節性類天疱瘡やその他の自己抗体介在疾患に対してはリツキシマブを投与する。栄養のサポートを行う。糖尿病や自己甲状腺疾患に対して標準的な治療を施行する。皮膚炎に対する局所療法を行う。

二次合併症の予防:
自己免疫性好中球減少症もしくは感染症の反復を認める患者に対し予防的に抗菌薬を投与する。感染症の予防のため、皮膚炎に対しては局所ステロイドや抗炎症薬によって積極的な治療を行う。

経過観察:
3-6か月ごとに自己免疫疾患を認めないか検査によってモニタリングする。成長指標、栄養の摂取、排便パターンを頻回にモニタリングする。骨髄移植に関連して免疫抑制下にある場合は薬剤の副作用をモニターする。

リスクのある血縁者の評価:
家族内で病原性変異が判明している場合、疾患リスクのある男性では、深刻な臓器障害が起こる前に早期診断および骨髄移植を行えるように、FOXP3遺伝子の分子遺伝学的検査を迅速に施行する。

遺伝カウンセリング 

IPEX症候群はX連鎖性疾患である。発端者の同胞の疾患リスクは母親の遺伝学的状況による。母親が保因者である場合、それぞれの妊娠で病原性変異が受け継がれる可能性は50%である。病原性変異を受け継いだ男性は罹患者となる。病原性変異を受け継いだ女性は保因者であり、罹患者とはならない。男性患者の娘はすべて病原性変異を受け継ぐのに対し、息子は受け継がない。病原性変異が判明している家系では、疾患リスクのある血縁者に対する保因者検査、リスク妊娠における出生前検査、および着床前診断を行うことが可能である。


診断

IPEX”という用語は免疫調節異常[immune dysregulation]、多腺性内分泌障害[polyendocrinopathy]、腸疾患[enteropathy]、X連鎖性[X-linled]の頭文字である。

示唆的な所見

IPEX症候群は以下のような臨床的三徴、家族歴、支持的な検査所見を認める場合に疑うべきである

臨床的三徴

家族歴
・X連鎖性遺伝に合致する。
・注:X連鎖性遺伝に合致する家族歴を認めない場合でも診断は除外しない。

支持的な検査所見

罹患者に特異的な検査所見はない。以下に示すような免疫調節異常のエビデンスはIPEX症候群を示唆する。

診断の確定

男性の発端者。IPEX症候群の診断は、典型的な臨床所見を認める男性の発端者で、分子遺伝学的検査でヘミ接合型のFOXP3遺伝子変異が同定される場合に確定する(表1を参照)。
女性の発端者。女性患者は報告されていない。保因者かどうかは分子遺伝学的検査でヘテロ接合型のFOXP3遺伝子変異が同定されるかによる(表1を参照)。
分子遺伝学的アプローチとして、表現型に応じた遺伝子標的検査(単一遺伝子検査、複数遺伝子パネル)や包括的ゲノム検査(エクソームシークエンシング、エクソームアレイ、ゲノムシークエンシング)の組み合わせなどを行いうる。
遺伝子標的検査を行うには臨床医がどの遺伝子におそらく病変があるのか判断する必要があるが、ゲノム検査では必要ない。
IPEX症候群の表現型は幅広いため、「示唆的な所見」で記述した特有の所見を有する者は遺伝子標的検査を用いて診断される傾向にある(「オプション1」を参照)。一方で、腸疾患、内分泌障害、および/もしくは免疫調節異常を認める多数の他の遺伝性疾患と区別がつかない患者やIPEX症候群とは考えられていない患者ではゲノム検査を用いて診断される傾向にある(「オプション2」を参照)。

オプション1

表現型および検査所見によりIPEX症候群が示唆される時、行いうる分子遺伝学的検査には単一遺伝子検査もしくは複数遺伝子パネルの利用がある。

注:(1)シークエンス解析の前に施行するPCR法で増幅が認められない場合、男性患者のX染色体上で想定される(複数)エクソンもしくは遺伝子全体の欠失を意味する可能性がある。(2)5’非翻訳領域(c.-7G>T)や3’非翻訳領域(c.*876A>Gおよびc.*876A>G)に疾患関連変異が報告されている。3’非翻訳領域の変異はシークエンシング検査で通常行われるよりもさらに3’末端側であるため、これらの変異を含むように検査デザインを修正する必要があるかもしれない。

オプション2

表現型が腸疾患、内分泌障害、もしくは免疫調節異常を特徴とする他の多くの遺伝疾患と鑑別できない場合、もしくは典型的ではない表現型の特徴を認めるためIPEX症候群が考えられていない場合、包括的ゲノム検査(どの遺伝子におそらく変異があるのか臨床医は決める必要がない)が最も良いオプションとなる。エクソームシークエンシングは最もよく用いられる。ゲノムシークエングも可能である。
エクソームシークエンシングによって診断できない場合、(臨床的に利用可能であるならば)エクソームアレイが考慮されることがある。
包括的ゲノム検査の導入に関してはこちらをクリック。ゲノム検査を依頼する臨床医のためのさらに詳細な情報についてはこちらを参照のこと。

表1 IPEX症候群で用いられる分子遺伝学的検査

遺伝子1 検査方法 この方法で同定される
病原性変異2の頻度
FOXP3 シークエンス解析3, 4 ~99%
遺伝子標的欠失/重複解析5 1例報告されている6
  1. 染色体遺伝子座と蛋白については表A「遺伝子およびデータベース」を参照。
  2. この遺伝子で同定されるアレル変異に関する情報は「分子遺伝学」を参照。
  3. シークエンス解析では、良性/おそらく良性/意義不明/おそらく病原性をもつ/病原性をもつ変異を同定する。病原性変異には、小さな遺伝子内欠失/挿入、ミスセンス、ノンセンス、スプライス部位変異などがある。典型的には、エクソンもしくは遺伝子全体の欠失や重複は同定されない。シークエンス解析結果の解釈について考慮すべき問題についてはこちらをクリック。
  4. シークエンス解析の前に施行するPCR法で増幅が認められない場合、男性患者の想定される1つ以上のエクソン欠失もしくはX連鎖遺伝子全体の欠失を意味する可能性がある。確認には欠失/重複解析による追加検査が必要となる。
  5. 遺伝子標的欠失/重複解析では遺伝子内欠失/重複を同定する。用いられる方法には、定量PCR、ロングレンジPCR、多重連結反応依存性プローブ増幅法(MLPA)、単一エクソンの欠失/重複を検出できるようデザインされた遺伝子標的マイクロアレイなどがある。
  6. 非コードエクソン1の欠失が報告されている。しかし、遺伝子標的欠失/重複解析の検出率に関する系統的なデータは無い。

臨床像

臨床記述

男性

IPEX症候群は、男性で新生児期に腸疾患および多腺性内分泌障害を呈する症候群と広く考えられている。

症状 IPEX症候群でもっともよく認められる症状は、1歳未満の男児における重篤な水様性下痢、1型インスリン依存性糖尿病、甲状腺炎、皮膚炎である。この疾患はしばしば他の自己免疫現象を伴う。

腸疾患 IPEX症候群の腸疾患はしばしば最初の徴候となり、罹患者のほぼ全員に認められる。軽症の患者においても、典型的には生後6-12ヶ月に始まる下痢が認められる。水様性下痢は時に粘液便や血便を伴い、吸収不良、発育不良、悪液質に至り、しばしば完全経静脈栄養(TPN)を必要とする。一部の症例では膵外分泌不全が認められており、下痢を悪化させる可能性がある。そのほかの消化器症状には大腸炎や胃炎などがある。食物アレルギーもよく認められる。

内分泌障害も多くの患者で認められる。1型糖尿病は最もよくみられる内分泌疾患で、しばしば生後1ヶ月以内に認められる。甲状腺疾患(甲状腺機能低下症[より多くみられる]もしくは甲状腺機能亢進症を伴う甲状腺炎)もしばしば存在する。

皮膚炎 皮膚炎で最もよく認められるのは湿疹性皮膚炎であるが、乾癬様皮膚炎や魚鱗癬様皮膚炎も報告されている。そのほかの皮膚症状には疼痛性口唇炎や食物アレルギーに関連した皮膚病変などがある。まれな皮膚症状には結節性類天疱瘡や後天性表皮水疱症などが含まれる。

自己免疫疾患 ほとんどの患者ではそのほかの自己免疫現象が認められるが、血球減少(自己免疫性溶血性貧血、自己免疫性血小板減少症、自己免疫性好中球減少症、自己免疫性肝炎、腎症(膜性腎症、間質性腎炎、まれに微小変化型ネフローゼ症候群)などがある。リンパ増殖によるリンパ節腫大や脾腫が報告されている。免疫調節異常に関連した肺疾患だけではなく、脱毛症および関節炎も認められている。

感染性合併症 IPEX患者では消化管、皮膚、気道の感染症が認められ、敗血症、髄膜炎、肺炎、骨髄炎といった重篤/侵襲的な感染症に罹患する者は相当数存在する。よく検出される病原体はブドウ球菌、腸球菌、サイトメガロウイルス、カンジダである。一部の感染症は免疫抑制療法に続発して認められることがある。しかし、多くは治療の開始前に起こる。IPEX患者における重篤な感染症は、内因性免疫の異常によるとは考えられておらず、典型的には消化管や皮膚のバリア機能異常に関連している。

生存 古典的なIPEX症候群の予後は例外なく不良である。多くの患児は、生後1年もしくは2年以内に代謝異常、重篤な吸収不良、もしくは敗血症によって死亡する。免疫抑制療法レジメンの進歩によって生存期間は延びているものの、長期にわたる免疫抑制では、多くの患者において疾患の進行や副作用による悪化もしくは合併症を防ぐことはできないようである。
早期の骨髄移植(BMT)はIPEX症候群を治癒させることができる。現在移植後10年を超えて元気にしている複数の患者が存在する。骨髄移植の前に糖尿病もしくは甲状腺炎を発症した場合、IPEX症候群の他の徴候は改善してもこれらは通常持続する。ほとんど全てのIPEX症候群患者に認められる広範囲かつ全身的な自己免疫によって不可逆的な臓器損傷に至る前に、より早期に骨髄移植が行われるほど、生存率および長期予後は改善する。

女性

ヘテロ接合性の女性は一般的に健康である。しかし、例外も報告されている。

遺伝型と表現型の相関

現在のところ遺伝子型と表現型に相関は認められていない。同じ遺伝子型の患者では、同じ家族内であっても重症度に差を認めることがある。
また、病原性変異の型と予後の相関を見出すことは難しい。フォークヘッド・ドメインを欠如すると予測される機能喪失型変異(フレームシフト)が胎児期発症の非生存例で報告されているが、青年期まで生存した例も認められている。さらに、きわめて早期に発症した(生後24時間未満)患者群において、変異の型やその遺伝子内における位置は様々である。

命名法

IPEX症候群は、X連鎖自己免疫アレルギー調節異常症候群(XLAAD)、もしくは多腺性内分泌障害・免疫調節異常・下痢を伴うX連鎖症候群(XPID)と呼ばれることもある。

頻度

IPEX症候群は稀である。世界全体では300人未満の患者が見つかっている。正確な頻度は報告されていない。


遺伝学的に関連する(アレルに関する)疾患

FOXP3遺伝子変異と関連することが知られている他の表現型はない。


鑑別診断

IPEX症候群は、国際免疫学会連合によって免疫調節異常に分類されている。自己免疫による主な臨床症状は、CD25欠損症、CTLA4欠損症、BACH欠損症といった制御性T細胞機能異常と関連した他の原発性免疫不全症と特徴を同じくする。これらの疾患やその他の鑑別疾患については表2を参照のこと。

表2 IPEX症候群の鑑別診断で考えられる症候群

疾患 遺伝子/遺伝学的機序 遺伝形式 さらなる共通した臨床的特徴/コメント
新生児糖尿病を認めるその他の症候群 6q24関連一過性新生児糖尿病 脚注1を参照。  
膵無形成
(OMIM PS260370
PDX1
PTF1A
常染色体劣性遺伝  
先天性心奇形
およびその他の先天奇形
(OMIM 600001
GATA6 常染色体優性遺伝  
新生児糖尿病を伴う膵β細胞無形成
(OMIM 600089
脚注2を参照。    
新生児永続型糖尿病 ABCC8
GCK
INS
KCNJ11
PDX1
常染色体劣性遺伝
常染色体優性遺伝
 
多腺性内分泌障害を伴うその他の症候群 可逆性骨幹端異形成症を伴う/伴わない自己免疫性多内分泌腺症候群Ⅰ型
(OMIM 240300
AIRE 常染色体劣性遺伝
常染色体優性遺伝
 
自己免疫性多内分泌腺症候群Ⅱ型
(OMIM 269200
不明    
制御性T細胞マーカーの減少を伴う免疫不全症を認めるその他の症候群3 CD25欠損症
(OMIM 606367
IL2RA 常染色体劣性遺伝 IPEX症候群様の臨床表現型4
CD25欠損症ではIgEが正常であることによりIPEX症候群と鑑別される。
STAT5B自己免疫・免疫不全症候群
(OMIM 245590
STAT5B 常染色体劣性遺伝 T細胞数やNK細胞数は低値だが欠如していない。
STAT5B欠損症でみられる小人症で鑑別される5
自己免疫による分類不能型免疫不全症8
(OMIM 614700
LRBA 常染色体劣性遺伝
  • 自己免疫性腸疾患
  • 1型糖尿病
  • 自己免疫性甲状腺機能低下症
  • 自己免疫性溶血性貧血
自己免疫性リンパ増殖症候群Ⅴ型
(OMIM 616100
CTLA4 常染色体優性遺伝
  • 腸疾患
    自己免疫性血球減少症
    自己免疫性甲状腺炎
乳児期発症多臓器系自己免疫疾患1(ADMIO)
(OMIM 615952
STAT3 常染色体優性遺伝
  • 腸疾患
  • 1型糖尿病
  • 自己免疫性血球減少症
ADMIOでみられる低身長で鑑別される6
BACH2関連免疫不全症および自己免疫性疾患7 BACH2 常染色体優性遺伝
  • 腸疾患
  • 分類不能型免疫不全症
粘膜関連リンパ組織リンパ腫転座1に関連する症候群8 MALT1 常染色体劣性遺伝
  • 腸疾患
  • 皮膚炎
典型的には制御性T細胞マーカーの減少を伴わない免疫不全症を認めるその他の症候群 ウィスコット・オールドリッチ症候群 WAS X連鎖性
  • 血小板減少
  • 湿疹
  • 複合免疫不全症
オーメン症候群9
(OMIM 603554
DCLRE1C
RAG1
RAG2
常染色体劣性遺伝 好酸球増多
免疫不全31C
(OMIM 614162
STAT1 常染色体優性遺伝
  • 腸疾患
  • 糖尿病
  • 皮膚炎
  • 自己免疫性血球減少症
  • 乳児期/小児期早期発症
高IgE症候群
(OMIM 243700
DOCK8 常染色体劣性遺伝 アトピー性皮膚炎
消化管異常および免疫不全症候群
(OMIM 243150
TTC7A 常染色体劣性遺伝 腸疾患
TTC7A欠損症でみられる(様々に存在する)腸閉鎖によって鑑別される10
自己免疫性多腺性内分泌機能不全症-カンジダ症-外胚葉性ジストロフィー(APECED)
(OMIM 240300
AIRE 常染色体劣性遺伝
常染色体優性遺伝
  • 内分泌障害
  • 腸疾患
APECEDでみられる慢性粘膜皮膚カンジダ症および外胚葉異形成症(歯牙エナメル質形成不全、角膜症)によって鑑別される
顔面異形を伴う多臓器系自己免疫疾患(ADMFD)
(OMIM 613385
ITCH 常染色体劣性遺伝
  • 1型糖尿病
  • 甲状腺炎
  • 腸疾患
ADMFDでみられる顔面異形によって鑑別される
自己免疫性リンパ増殖症候群 CASP10
FAS
FASLG
常染色体優性遺伝
常染色体劣性遺伝11
  • 溶血性貧血
  • 血小板減少
  • 脾腫
  • 慢性リンパ節腫脹
  • 1型糖尿病
  • 甲状腺疾患
乳児期に遷延性下痢を認めるその他の症候群12 微絨毛封入体病
(OMIM 251850
MYO5B 常染色体劣性遺伝  
タフティング腸疾患
(OMIM 613217
EPCAM 常染色体劣性遺伝  
IL-10受容体欠損症
(OMIM 613148, 612567
IL10RA
IL10RB
常染色体劣性遺伝 IL-10受容体欠損症でみられる、重篤で早期発症の瘻孔形成性腸炎によって鑑別される13
毛髪-肝-腸症候群 TTC37
SKIV2L
常染色体劣性遺伝  
  1. 6q24関連一過性新生児糖尿病は6q24領域のインプリンティング遺伝子(PLAGL1およびHYMA1)の過剰発現によって起こる。
  2. 膵島β細胞発育異常を起こすと推定される劣性遺伝性疾患もしくはインプリンティング異常
  3. Bousfihaら[2018]
  4. CD25欠損症はIPEX症候群様の臨床表現型を呈する3例の報告がある。しかし、自己免疫に加えて、重症サイトメガロウイルス感染症に対する疾患感受性を伴う重篤な細胞性免疫不全の特徴を有していた。
  5. 成長ホルモンはSTAT5を介してその効果を示すためSTAT5B欠損症では小人症も呈する。
  6. Flanaganら[2014]
  7. Afzaliら[2014]
  8. Charbit-Henrionら[2017]
  9. オーメン症候群は、好酸球増多症を伴う家族性細網内皮症もしくは過好酸球増多症を伴う重症複合免疫不全症(SCID)としても知られている。
  10. Avitzurら[2014]
  11. ALPS-CASP10やほとんどのALPS-FAS症例, および一部のALPS-FASLG症例の遺伝形式は常染色体優性遺伝である。ほとんどのALPS-FASLG症例および両アレルFAS病原性変異に関連した重症型ALPSの遺伝形式は常染色体劣性遺伝である。
  12. Shermanら[2004]
  13. Glockerら[2009]

臨床的マネジメント

初期診断に続く評価

IPEX症候群であると診断された患者において、疾患の広がりを把握するため(診断につながる評価の一環として行われていない場合)表3に要約される評価が推奨される。

表3 IPEX症候群患者で初期診断に続いて推奨される評価

器官系 評価 コメント
消化器 栄養評価 血清電解質、カルシウム、マグネシウム、亜鉛、血清アルブミンおよびプレアルブミンを含む
肝臓の評価 血清AST, ALT, GGT, および総ビリルビンと肝自己抗体の評価を含む
内分泌
  • 耐糖能検査
  • HbA1c
  • 甲状腺機能検査
  • 膵島抗原および甲状腺抗原に対する自己抗体
 
免疫
  • 血清IgG, IgM, IgA, IgE濃度
  • 制御性T細胞数
 
皮膚 皮膚病変の評価 組織学的検査を行うことがある
血液
  • 血算および分画
  • クームス検査
  • 自己免疫による凝固亢進(抗リン脂質抗体、ループスアンチコアグラント)の評価
 
  • BUN, クレアチニン
  • 尿検査

 

その他

臨床遺伝専門医および/もしくは
遺伝カウンセラーに診療依頼

 

病変に対する治療

骨髄移植(BMT)は根治となりうる唯一のIPEX症候群に対する治療法である。骨髄破壊的前処置レジメンを用いた初期の骨髄移植の試みは、移植関連死や基礎疾患に関連したその他の合併症のため限定的な成功にとどまった。非骨髄破壊的前処置レジメンを用いたアプローチにより、予後や生存率は著名に改善した。治療強度を弱めた前処置レジメンは概して毒性は低いものの、ドナー制御性T細胞の長期的な安定した生着を得られているようである。乳児期早期に行われた場合、不可逆的な糖尿病もしくは甲状腺炎への進行を防げる可能性がある。
大規模な多施設フォローアップ研究において、臓器障害がまだ見られないもしくは軽度な段階で骨髄移植を施行した場合、特に長期にわたる免疫抑制療法を行っている非移植患者と比べて、自己免疫の軽快が認められることが示唆された。

表4 IPEX症候群患者の病変に対する治療

病変 治療 検討事項/その他
IPEX症候群の腸疾患 十分な血管内ボリュームを確実にするため、水分摂取量をモニターする  
ほとんど全ての患者で、経静脈栄養を含めた栄養サポートもしくは低炭水化物ミルクを必要とする  
T細胞機能抑制剤(すなわちシロリムス、シクロスポリンA、もしくはタクロリムス)のうちいずれか一つ、もしくはステロイドと併用 毒性、タキフィラキシー、長期的な使用に関連する易感染性により、患者のほとんどで長期的な症状改善のポテンシャルが減殺される
シロリムス(ラパマイシン)単独、もしくはその他の薬剤4との併用を治療の第一選択として考慮する
代わりとなるものにはカルシニューリン阻害薬(タクロリムスなど)がある5
  • タクロリムスが無効もしくは毒性を認めた患者の治療に成功している1
  • シロリムス使用の理論的優位性の一部は、エフェクターT細胞機能を抑制しつつも制御性T細胞の分化および機能は維持することで得られる2
内分泌障害 糖尿病や自己免疫性甲状腺疾患に対する標準的な治療プロトコール  
皮膚炎
  • 全身的なT細胞免疫抑制
  • 局所療法(ステロイド、タクロリムス、皮膚軟化剤など)
重症皮膚炎では、創傷ケアの専門家が大きな助けとなりうる
免疫調節異常
  • 自己免疫性好中球減少症では顆粒球コロニー刺激因子(G-CSF)を、結節性類天疱瘡やその他の自己抗体介在疾患に対してはリツキシマブが有効である3
有益である可能性がある
  1. Bindlら[2005], Yongら[2008]
  2. Straussら[2007]
  3. McGinnessら[2006]
  4. Bacchettaら[2018]
  5. Barzaghiら[2018]

二次合併症の予防

自己免疫性好中球減少症もしくは重度の湿疹による反復感染症を呈する患者では、予防的な抗菌療法によって重篤な感染合併症のリスクは低下する。
局所ステロイド剤や抗炎症薬による積極的な皮膚炎治療により、皮膚バリア機能低下による病原体侵入、および感染症を防ぐことができる。

経過観察

3-6か月ごとに、自己免疫疾患を認めないか以下の検査によってモニタリングする。血算、甲状腺機能、HbA1cおよび血糖、腎機能(血清BUN, クレアチニン濃度の測定)、肝機能(血清AST, ALT濃度の測定)を検査する。成長指標、栄養の摂取、排便パターンを頻回にモニタリングすることが重要である。移植後で免疫抑制下にある場合は、標準的なガイドラインに沿って薬剤の副作用をモニターすべきである。

回避すべき薬物や環境

免疫の活性化(予防接種もしくは重篤な感染症など)は症状の悪化/再燃を起こすことが報告されている。一般的に、骨髄移植が行われるまでは予防接種は控えるのが賢明である。

リスクのある血縁者の評価

男性患者が著しい臓器障害をきたす前に早期診断や骨髄移植および/もしくはステロイド治療を行えるように、疾患リスクのある男性の遺伝学的状況を出生前もしくは出生後すぐに明らかにすることがのぞましい。
行いうる評価には以下がある。

遺伝カウンセリングとして扱われるリスクのある血縁者への検査に関する問題は「遺伝カウンセリング」の項を参照のこと。

研究中の治療法

広範囲にわたる疾患や病態に関する臨床試験の情報は、米国ではClinicalTrials.govを、欧州ではEUClinical Trials Registerを参照のこと。


遺伝カウンセリング

「遺伝カウンセリングは個人や家族に対して遺伝性疾患の本質,遺伝,健康上の影響などの情報を提供し,彼らが医療上あるいは個人的な決断を下すのを援助するプロセスである.以下の項目では遺伝的なリスク評価や家族の遺伝学的状況を明らかにするための家族歴の評価,遺伝子検査について論じる.この項は個々の当事者が直面しうる個人的あるいは文化的な問題に言及しようと意図するものではないし,遺伝専門家へのコンサルトの代用となるものでもない.」

遺伝形式

IPEX症候群はX連鎖性遺伝形式で遺伝する。

患者家族のリスク

発端者の両親

発端者の同胞

同胞における疾患リスクは母親の遺伝学的状況による。

発端者の子

男性患者のFOXP3遺伝子変異は、

発端者の他の家族

発端者の母方おばや母方いとこは病原性変異のヘテロ接合体保有者(保因者)である可能性がある。母方いとこが病原性変異のヘテロ接合体保有者もしくは罹患者なのかは性別による。

保因者(ヘテロ接合体保有者)診断

発端者の病原性変異が判明している場合、リスクのある女性血縁者の遺伝学的状況を明らかにする為には分子遺伝学的検査が最も有用である。X染色体の不活性化は制御性T細胞だけ偏っており、その他全てのリンパ球ではランダムである。そのため、保因者発見におけるX染色体不活化試験の利用は限定的である。

遺伝カウンセリングに関連した問題

早期診断・治療目的で疾患リスクのある血縁者に対して行う検査に関する情報は「臨床的マネジメント」「リスクのある血縁者の評価」を参照のこと。

家族計画

DNAバンキング

DNAバンクは(主に白血球から調整した)DNAを将来利用することを想定して保存しておくものである。検査技術や、遺伝子・アレル変異・疾患に対するわれわれの理解が将来さらに進歩すると考えられるので、罹患者のDNA保存を考慮すべきである。

出生前検査および着床前診断

家族内でFOXP3遺伝子変異が同定された場合、リスク妊娠の出生前検査や着床診断を行うことが可能である。


更新履歴

  1. GeneReviews著者: Mark C Hannibal, MD, PhD; Troy Torgerson, MD, PhD
    日本語訳者: 大塚洋子(ボランティア翻訳者), 櫻井晃洋(札幌医科大学附属病院遺伝子診療室)
    GeneReviews最終更新日: 2011.1.27 日本語訳最終更新日: 2016.9.23
  2. Gene Reviews著者: Queenie K-G Tan, MD, PhD, Raymond J Louie, PhD, John W Sleasman, MD.
    日本語訳者: 和田宏来 (国際親善総合病院小児科/しんぜんクリニック小児科)
    Gene Reviews 最終更新日: 2018.7.19.  日本語訳最終更新日: 2020.7.6.(in present)

原文: IPEX Syndrome

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