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IPEX症候群
(IPEX Syndrome)

[X-Linked Autoimmunity-Allergic Dysregulation Syndrome (XLAAD); X-Linked Syndrome of Polyendocrinopathy, Immune Dysfunction, and Diarrhea (XPID); Immunodeficiency, Polyendocrinopathy, and Enteropathy, X-Linked Syndrome]

GeneReviews著者: Mark C Hannibal, MD, PhD; Troy Torgerson, MD, PhD
日本語訳者: 大塚洋子(ボランティア翻訳者), 櫻井晃洋(札幌医科大学附属病院遺伝子診療室)

GeneReviews最終更新日: 2011.1.27 日本語訳最終更新日: 2016.9.23

原文 IPEX Syndrome


要約

疾患の特徴 

IPEX症候群 (Immune dysregulation, Polyendocrinopathy, Enteropathy, X-linked syndrome), すなわち多腺性内分泌不全症、腸疾患を伴う免疫調節異常(X連鎖性)症候群は,全身性の自己免疫疾患を特徴的な症状とし,典型的には出生後1年以内に発症する.大多数の患児には,本疾患の臨床三主徴である水様性下痢,湿疹性皮膚炎,内分泌不全症(多くはインスリン依存性糖尿病)が見られる.この他に,クームス試験陽性の溶血性貧血,自己免疫性血小板減少症,自己免疫性好中球減少症,尿細管性腎症といった自己免疫現象がほとんどの患児に生じる.積極的な免疫抑制療法または骨髄移植を行わなければ,罹患した男児の大多数は出生後1年から2年以内に代謝異常か敗血症により死亡する.ただし,比較的軽度の表現型を示す少数例が10歳代から20歳代まで生存したとの報告がある.

診断・検査 

臨床的特徴に加え,FOXP3遺伝子の変異が同定されれば確定診断となる.FOXP3はその変異がIPEX症候群の原因となることが知られている唯一の遺伝子である.IPEX症候群が疑われる徴候を示した男性の約25%にFOXP3の変異が同定されている.

臨床的マネジメント 

症状の治療: 

  • 免疫抑制剤(すなわち,シクロスポリンA,FK506)の単独投与またはステロイドとの併用
  • FK506が有効でないか中毒性副作用を示した患者に対してシロリムス (ラパマイシン) の投与
  • 自己免疫性好中球減少症の治療に顆粒球コロニー刺激因子(G-CSF,フィルグラスチム)の投与
  • 栄養療法
  • 糖尿病および自己免疫性甲状腺疾患の標準的治療
  • 骨髄移植: 臨床症状を消失させる可能性がある

一次症状の予防: 病初期における骨髄移植の実施

続発性合併症の予防: 

  • 自己免疫性好中球減少症または反復感染を伴う患者への抗生物質の予防的投与
  • 感染予防を目的とした局所ステロイドと抗炎症薬による皮膚炎の積極的治療

経過観察: 自己免疫疾患の徴候を捉えるために,全血球数,耐糖能,甲状腺機能,腎機能,および肝機能の定期的な評価を行う

リスクの高い血縁者の検査: 家系特異的な変異が判明している場合は,リスクの高い男児の出生直後にFOXP3の分子遺伝学的検査を行うことで早期診断を可能にし,重大な臓器障害を招く前にBMTを実施できるようにする.変異が不明の場合は,リスクの高い男児の徴候をモニターすることにより早期診断と早期治療につなげる.

遺伝カウンセリング 

IPEX症候群はX連鎖性遺伝形式で遺伝する.発端者の同胞のリスクは母親の保因者状態に依存する.発端者の母親が保因者である場合は,妊娠のたびに50%の確率で病原性変異を子に伝える.変異を受け継いだ男性は罹患する.一方,変異を受け継いだ女性は保因者となり,発症しない.男性患者は娘全員に病原性変異を伝えるが,息子には伝えない.リスクの高い血縁者に対する保因者診断およびリスクの高い妊娠に対する出生前診断は,家系内で病原性変異が同定されていれば技術的に可能である.

診断

臨床診断

IPEX症候群の"IPEX"はImmune dysregulation, Polyendocrinopathy, Enteropathy, X-linkedの頭文字である.全身性の自己免疫反応に起因する次の臨床的三主徴が見られる場合にIPEX症候群が疑われる.

  • 内分泌疾患 新生児期から生後数年以内に発症する1型糖尿病が最も多い.また,甲状腺機能の低下または亢進を引き起こす自己免疫性甲状腺疾患が観察されている.
  • 腸疾患 典型例では生後数か月以内に慢性水様性下痢の症状を生じる.生検で最もよく見られる所見は,粘膜固有層への単核球(活性化T細胞)の浸潤を伴う絨毛萎縮である.
  • 皮膚炎  湿疹性皮膚炎が最も多い.他に紅皮症,剥脱性皮膚炎,乾癬様病変,および結節性類天疱瘡が観察されている.

検査

IPEX症候群の患者を特異的に同定できる検査所見はない.以下の徴候から免疫調節異常が明らかとなった場合にIPEX症候群が疑われる.

  • 免疫グロブリンE (IgE) の血清中濃度高値,症例によってはIgA高値
  • 好酸球増多
  • 自己免疫性の貧血,血小板減少,および/または好中球減少
  • 膵島抗原,甲状腺抗原,小腸粘膜といった自己抗原に対する自己抗体の存在
  • 末梢血中のFOXP3発現T細胞数の低値(フローサイトメトリーによる測定)

正常値を示す検査項目

  • IgGおよびIgMの血清中濃度 
  • 末梢血白血球数
  • T細胞分画およびB細胞分画:時に増多した細胞集団がT細胞の活性化と拘束性獲得を示すマーカーを発現ことがある (例えば, HLA-DR, CD45RO).
  • 好中球機能
  • 血清中補体濃度
  • 一般的なマイトジェン(フィトヘマグルチニンなど)やCD3の架橋により刺激されるTリンパ球の増殖反応,または特異的抗原(破傷風菌,カンジダ菌など)によるTリンパ球の活性化 (in vitroでの観察):IPEX症候群の患者から採取した末梢血単核では,Th2サイトカイン(IL-4, IL-5, IL-10, およびIL-13)が過剰に産生され,Th1サイトカインの一種であるインターフェロン-γの産生が低下している.

注: 患者の多くはIPEX症候群と診断された時点で免疫抑制剤の投与を始めるため,患者の免疫応答に関するデータの解釈には注意を払う必要がある.

分子遺伝学的検査

GeneReviewsは,分子遺伝学的検査について,その検査が米国CLIAの承認を受けた研究機関もしくは米国以外の臨床研究機関によってGeneTests Laboratory Directoryに掲載されている場合に限り,臨床的に実施可能であるとする. GeneTestsは研究機関から提出された情報を検証しないし,研究機関の承認状態もしくは実施結果を保証しない.情報を検証するためには,医師は直接それぞれの研究機関と連絡をとらなければならない.―編集者注.

遺伝子 FOXP3はその変異がIPEX症候群を引き起こすことが知られている唯一の遺伝子である.

座位異質性を示唆する研究 Owenらは (2003),IPEX症候群の原因となる常染色体上の座位が存在する可能性を示唆している.また,FOXP3に変異のない男性患者のうち約半数で,末梢血中のFOXP3 mRNA発現量が低下しFOXP3を発現している細胞の数が減少していた [Torgerson, 未発表の研究結果].この結果は,他の遺伝子または遺伝子産物の異常が,おそらくFOXP3と同一の経路を介して,IPEX症候群と同様の表現型を惹起する可能性を示している.

臨床検査

  • 配列解析 すべてのエクソン,エクソン・イントロン境界,および最初のポリアデニル化部位を対象とした配列解析により,臨床表現型からIPEX症候群が疑われる男性の約25%に変異が検出された [Torgerson, 未発表の研究結果].

表1. IPEX症候群の分子遺伝学的検査

遺伝子記号

検査方法

検出される変異

検査方法ごとの変異検出率1

男性患者

ヘテロ接合体女性

FOXP3 配列解析 塩基置換2 >95%3 >95%4
  1. FOXP3遺伝子の変異の検出に用いた検査方法の検出能力を示す.
  2. 配列解析により検出される変異には,小規模な遺伝子内欠失/挿入,ミスセンス変異,ナンセンス変異,およびスプライス部位変異などがある.通常,エクソン単位の欠失/重複や遺伝子全体の欠失/重複は検出されない.
  3. 配列解析の前に実施するPCR法で増幅がみられない場合,男性患者のエクソン単位の欠失や当該X連鎖性遺伝子全体の欠失を意味する可能性がある.このような場合には,さらに欠失/重複解析を実施し確認の必要がある.
  4. ゲノムDNAに対する配列解析は、女性保因者のX染色体におけるエクソン単位の欠失や遺伝子全体の欠失を検出できない

検査結果の解釈

配列解析の結果を解釈する際に検討すべき事項については、(NCBIサイトの)Appendix "Interpretation of Sequence Analysis Results"を参照して頂きたい.

検査手順

発端者の確定診断

  • 血球数および白血球分画の測定を含む一般的な免疫機能検査
  • T細胞分画およびB細胞分画の解析
  • 免疫グロブリン(IgE他)の血清中濃度の測定
  • 自己免疫性の肝疾患および腎疾患のスクリーニング:
    アスパラギン酸アミノトランスフェラーゼ (AST),アラニンアミノトランスフェラーゼ (ALT),血清尿素窒素(BUN)濃度および血清クレアチニン濃度の測定ならびに尿検査を実施.
  • 制御性T細胞の評価:フローサイトメトリーにてFOXP3およびCD25の発現量の解析(本疾患の一次スクリーニングとして有用)
  • 確定診断を目的としたFOXP3遺伝子の配列解析

リスクの高い血縁者の保因者診断に際して は、家系内の病原性変異が事前に同定されている必要がある

注:
(1) 保因者はX連鎖性疾患である本症候群の原因変異のヘテロ接合体であり,IPEX症候群の臨床症状を示すことはない.

(2) 女性保因者の特定に際しては,次のいずれかの条件下で検査を行うものとする.
 (a) 事前に家系内で病原性変異が同定されている.
 (b) 男性患者または絶対的保因者である女性の遺伝子検査情報が入手できない場合には,リスクの高い女性に対して配列解析を実施する.

出生前診断と着床前遺伝子診断 (PGD: Preimplantation Genetic Diagnosis) リスクの高い妊娠に対して出生前診断やPGDを行うためには、家系内で病原性変異が事前に同定されている必要がある.


鑑別診断

新生児糖尿病を伴う症候群

  • 染色体領域6q24が関連するインプリンティング異常に起因する新生児一過性糖尿病
  • インスリンプロモーター因子1 (IPF1) の劣性変異を原因とする膵臓無形成または低形成 [OMIM 260370, 600733]
  • 先天性心疾患に関連する優性遺伝性膵臓低形成 [OMIM 600001]
  • 膵島β細胞発育不全の原因と推定される劣性遺伝性疾患またはインプリンティング異常 [OMIM 600089]

多腺性内分泌機能不全症を伴う症候群

  • 自己免疫性多腺性内分泌機能不全症-カンジダ症-外胚葉性ジストロフィー (APECED: Autoimmune polyendocrinopathy-candidiasis-ectodermal dystrophy) [OMIM 240300, 607358]
     APECEDは自己免疫性多腺性症候群(APS: Autoimmune polyglandular syndrome) I型の別称である.
  • シュミット症候群 (APS II/III型) [OMIM 269200]
  • 自己免疫性リンパ増殖症候群 (ALPS: Autoimmune lymphoproliferative syndrome)
    溶血性貧血,血小板減少症,および脾腫,1型糖尿病,ならびに甲状腺疾患を特徴的症状とする.

免疫不全を伴う症候群

  • CD25 (IL2RA) 欠損症 [OMIM 606367]
    IPEX症候群類似の臨床表現型を示す患者3例に本欠損症が認められた.患者らは,自己免疫症状に加えて,重症の細胞性免疫不全の諸特徴を示し,サイトメガロウイルスに対する易感染性および重症化が見られた.IPEX症候群と異なり,CD25欠損症の患者のIgE濃度は正常である.CD25欠損症は常染色体劣性形式で遺伝する.
  • STAT5B欠損症 [OMIM 245590]
    T細胞数およびNK細胞数の減少(完全な欠損ではない)ならびにFOXP3タンパク質の発現量の低下を特徴とする自己免疫および免疫不全を伴う症候群である.患者10例が世界各地で確認されている.患者らは,免疫学的問題の他に低身長症の病態を示す.低身長は,成長ホルモンがSTAT5を介して自己の分泌を調節する機序に由来する.本欠損症は常染色体劣性形式で遺伝する.
  • ウィスコット-オールドリッチ症候群
    血小板減少症,湿疹性皮膚炎,および複合免疫不全症を特徴的症状とする.X連鎖性形式で遺伝する.
  • オーメン症候群 [OMIM 179615, 179616, 603554]
    好酸球増多症を伴う家族性細網内皮症,あるいは過好酸球増多症を伴う重症複合免疫不全症 (SCID) の名称でも知られる.DCLRE1C, RAG1, およびRAG2の各遺伝子の変異を原因とする.

乳児遷延性下痢症を伴う症候群

  • 微絨毛封入体病
  • タフティング腸疾患(腸管上皮異形成)
  • 自己免疫性腸疾患
  • IL-10受容体欠損症 [OMIM 613148] 血縁のある2家系での罹患が報告されており,重度で早発性の瘻孔性腸炎が見られた.常染色体劣性形式で遺伝する.

臨床像

自然経過

男性患者 IPEX症候群は一般に,新生児期発症の腸疾患と多腺性内分泌機能不全症を主徴とする症候群と考えられている.生後6か月未満の男児患者において最もよく見られる症状は,重度の水様性下痢,1型糖尿病 (インスリン依存性糖尿病),甲状腺炎,および皮膚炎である.この他の自己免疫現象を併う例も頻繁に見られる.やや症状の軽い疾患表現型を示す男児は,より年長で発症することがある.しかし,20歳代を超えて生存する患者の報告はない.

腸疾患は,IPEX症候群においては初発症状として現れることが多く,ほぼ全ての患者に認められる.比較的症状の軽い症例であってさえ典型的には新生児期から乳児期に下痢が始まる.水様性下痢に時おり粘液と血液が混ざることもあり,吸収不良,発育遅延,および悪液質を引き起こす.多くの場合,完全非経口栄養法 (TPN) の実施が必要となる.また,ほとんどの患者は食物アレルギーを生じる.

大多数の患者に内分泌機能不全症を認める.1型糖尿病は最も頻度の高い内分泌症状であり,多くは生後数か月以内に発症する.また,甲状腺疾患もよく見られる (甲状腺機能低下症が最多).
皮膚炎のなかでは湿疹性皮膚炎が最も高頻度で見られるが,紅皮症,乾癬様皮膚炎,および結節性類天疱瘡も報告されている.

IPEX症候群の転帰は例外なく不良である.大多数の患児は生後1年〜2年以内に代謝異常,重度の吸収不良,または敗血症により死亡する.免疫抑制療法および骨髄移植療法 (BMT) の進歩により生存期間が延びてきてはいるが,最軽症例でさえ10歳代か20歳代までしか生存できない.

大多数の患者は上記の他にも,クームス試験陽性の溶血性貧血,免疫性血小板減少症,自己免疫性好中球減少症,肝炎,尿細管性腎症といった自己免疫現象を示す.リンパ節腫脹,脾腫,および脱毛症も報告されている.

IPEX症候群の患者の50%超には重度であるか侵襲性の感染症(敗血症,髄膜炎,肺炎,骨髄炎他)が生じる [Gambineri et al 2008; Torgersonによる未発表の研究結果].同定される病原体の中では,ブドウ球菌属,エンテロコッカス属サイトメガロウイルス,およびカンジダ属が多い.感染が免疫抑制療法に続発することもあるが,多くは治療開始以前に生じる.ただし,実際にIPEX症候群患者の感染性病原体に対する脆弱性が亢進しているためか,あるいは消化管および皮膚のバリア機能障害に起因するためなのか判明していない.

女性保因者 FOXP3変異の女性保因者は概して健康である.ただし,以下の点が明らかになっている.

  • 女性保因者1例におけるFOXP3遺伝子のmRNA発現量は,罹患した息子で観察された極めて低い値と対照群の正常値との中間に位置していた.
  • 女性保因者1例に1型糖尿病を認めた.
  • 女性保因者1例についてX染色体不活化に関する研究が行われ,末梢血単核球においてはFOXP3遺伝子の正常アレルと変異アレルの発現量が等しいことが明らかにされた.しかし,これに続くFOXP3陽性制御性T細胞集団に関する研究により,正常なX染色体が発現している細胞が選択的優位性を持つために,この細胞分画においては完全に正常側に偏ったX染色体不活化が起きていることが立証された.

遺伝子型と臨床型の関連

FOXP3タンパク質の機能の発現を抑制する変異(ナンセンス変異, フレームシフト変異, またはスプライシング変異)を持つ男性は,通例,重度で早発性のIPEX症候群を発症する.

FOXP3遺伝子の最初のポリアデニル化シグナルに変異がある場合は,これ以外の塩基配列が正常であっても,正常なFOXP3 mRNAの発現量が低下し,ほとんどの場合,重度かつ早期発症の疾患を招く.Powellらの研究 (1982) によれば,このタイプの変異は3家系に見られたが,そのうちの1家系において男性患者2名が軽度で遅発性のIPEX症候群を発症し,それぞれ10歳代および20歳代まで生存した.観察された症状のばらつきは,mRNA安定性に影響を及ぼす修飾因子が同シグナルの他にも存在することを示唆するものと考えられる.

変異タンパク質の発現につながるミスセンス変異(点変異)が多くの患者に見られる.このうちの一部の変異は比較的軽症の臨床表現型に関連しており,部分的機能欠損変異と考えられる.

頻度 

IPEX症候群はまれな疾患であり,これまでに世界各地で確認された患者は150例に満たない.患者数の正確な推定値は発表されていない.しかし,X染色体上でFOXP3遺伝子に隣接し同等の大きさを持つ遺伝子の変異に起因する症候群(例えば, ウィスコット-オールドリッチ症候群)の頻度から判断すれば,実際の患者数は報告よりも多いものと考えられる

遺伝的に関連のある(アレリックな)疾患

FOXP3遺伝子の変異に関連する表現型は、本疾患以外には知られていない.

FOXP3遺伝子の欠失を含む隣接遺伝子欠失症候群は報告されていない.


臨床的マネジメント

初回診断後の評価

IPEX症候群と診断された患者に対して、疾患の広がりと重症度を診断するために以下の手段による評価の実施が推奨される.

  • 内分泌 ブドウ糖負荷試験; 甲状腺機能検査; 膵島抗原および甲状腺抗原に対する自己抗体検査
  • 血液 全血球数および血液分画検査; クームス試験
  • 免疫 IgG, IgM, IgA, およびIgEの血清中濃度; 制御性T細胞の数
  • 肝臓 AST, ALT, GGT, および総ビリルビンの血清中濃度
  • 腎臓 血清尿素窒素濃度および血清クレアチニン濃度; 尿検査
  • 栄養評価 血清電解質濃度 (カルシウム, マグネシウム, および亜鉛他); 血清アルブミン/プレアルブミン濃度

症状に対する治療

水分摂取量のモニターにより適切な循環血漿量の維持に努める.

栄養療法が奏功することがある.必要に応じ,TPNのほかエレメンタルフォーミュラ(アミノ酸調製乳)や低炭水化物の調製乳などを用いる.

糖尿病および自己免疫性甲状腺疾患の標準治療プロトコルを順守する.

PEX症候群の腸疾患に対する最も効果的な治療法は,T細胞を標的とした免疫抑制剤(例えば, シクロスポリンA,FK506)の単剤投与かステロイドとの併用である.こういった薬剤は,毒性,急性耐性を示すだけでなく,長期連用に伴い易感染性が増すため,長期的には大多数の症例で改善の可能性が低下する.

FK506が無効であった患者や毒性を示した患者においてシロリムス(ラパマイシン)の投与が奏効した.シロリムスは,制御性T細胞の分化および機能発現を継続させながらもエフェクターT細胞の機能を抑制する作用を持つ.こうした機序がシロリムス投与の理論的優位性をもたらす一端を担っている.

自己免疫性好中球減少症を伴う患者に対しては,顆粒球コロニー刺激因子(G-CSF,フィルグラスチム)の投与が有効性を示す可能性がある.

結節性類天疱瘡を生じた患者1例にリツキシマブを使用したところ,類天疱瘡だけでなくIPEX症候群に関連するその他の症状に改善が見られた [McGinness et al 2006].そのうえ,リツキシマブはIPEX症候群の複数の患者に生じた自己免疫性溶血性貧血,免疫性血小板減少性紫斑病,および自己免疫性好中球減少症に対しても有効性を示した [Torgerson, 未発表の研究結果].

治療が奏効せず病状の好転しない重症患者に対しては,細胞毒性薬剤またはT細胞を標的とする生物学的製剤の投与が有効性を示す可能性がある.その証左として,Baudら (2001) により報告された症例では,骨髄移植前処置レジメン(抗胸腺細胞グロブリン,ブスルファン,およびシクロホスファミドを投与)の実施中に完全寛解を達成している.

骨髄移植(BMT)はIPEX症候群を治癒させる可能性のある唯一の治療法である.骨髄破壊的移植前処置レジメンを用いた初期のBMTの試みは限定的な成功にとどまり,移植関連死亡および原疾患に由来する合併症の発生が認められた.一方,骨髄非破壊的移植前処置レジメンによる近年のBMTでは大幅に転帰が改善し生存率が上昇している.強度減弱型前処置レジメンは一般に毒性を軽減しているが,それでもなお,こういったレジメンを用いた移植例では制御性T細胞集団の長期にわたる安定した生着が得られているようである.さらに,移植が発症早期に実施されれば,糖尿病や甲状腺炎の不可逆的な障害の発現を抑える可能性がある.

一次症状の予防

PEX症候群の根治的治療法は,現在のところ唯一骨髄移植(BMT)だけである.膵島細胞,甲状腺といった標的臓器が不可逆的損傷を受ける前にBMTを実施できるか否かによって寛解度に差が生じる可能性がある.

続発性合併症の予防

自己免疫性好中球減少症または重度の湿疹性皮膚炎を原因とする反復感染を生じた患者に対しては,予防的抗生物質療法が重症感染合併症の発症リスク低減に有効なことがある.
皮膚の局所ステロイドおよび抗炎症薬を用いた皮膚炎の積極的治療は,脆弱な皮膚バリア機能を原因とする病原菌感染を予防する一助となりうる.

経過観察

以下の項目の定期的評価を通じて適切な経過観察を行い自己免疫疾患の徴候を捉える ― 全血球数,甲状腺機能,耐糖能,腎機能 (血清尿素窒素濃度および血清クレアチニン濃度の測定値),および肝機能 (AST, ALTの血清中濃度の測定値).
回避すべき薬剤や環境

予防接種や重症感染症などにより誘導される免疫賦活化が原因となって症状の悪化・再燃を招くことが報告されている.この意味するところは,IPEX症候群の患者にとって予防接種が絶対的禁忌というのではなく,ワクチンの混合接種を避けて単価接種を行えば有益であろうということである.

リスクの高い血縁者の検査

病原性変異が判明している家系においては,リスクの高い男児に対して出生前か出生直後に分子遺伝学的検査を行うことにより早期診断につなげ,患児が重篤な臓器障害を発症する前にBMTを実現する.
病原性変異が同定されていない場合は,リスクの高い男児の早発性下痢,糖尿病,甲状腺機能異常,および自己免疫性血液疾患の症状をモニターすることで早期診断を実現しうる.
リスクの高い血縁者に対して遺伝カウンセリングを目的とした検査を検討する際には,検査に関わる諸問題について後述の「遺伝カウンセリング」の項を参照して頂きたい.

研究中の治療法

ClinicalTrials.govの検索により,さまざまな疾患に関する臨床試験の情報を入手することができる.ただし,本疾患に関連する進行中の臨床試験が登録されていない場合もある.

その他

症状の発現よりも前に免疫抑制療法を始めることでIPEX症候群の一次症状を予防できるか否かについては,実証可能なデータがない.ただし,発症前の骨髄移植が本疾患を予防する可能性を持つ.


遺伝カウンセリング

「遺伝カウンセリングは個人や家族に対して遺伝性疾患の本質,遺伝,健康上の影響などの情報を提供し,彼らが医療上あるいは個人的な決断を下すのを援助するプロセスである.以下の項目では遺伝的なリスク評価や家族の遺伝学的状況を明らかにするための家族歴の評価,遺伝子検査について論じる.この項は個々の当事者が直面しうる個人的あるいは文化的な問題に言及しようと意図するものではないし,遺伝専門家へのコンサルトの代用となるものでもない.」

遺伝形式

IPEX症候群はX連鎖性形式で遺伝する.

血縁者のリスク

発端者の両親

  • 男性患者の父親は罹患しない.また,病原性変異の保因者ともならない.
  • 複数の患者を擁する家系においては、男性患者の母親は絶対的保因者である.
  • IPEX症候群の家族歴を伴わない男性患者の割合は判明していない.男性患者が孤発例の場合には,母親の保因者状態に関して下記の可能性を検討し,その上で血縁者の保因者リスクを判断する必要性がある.
    • 男性患者が新生病原性変異を持ち,母親は保因者ではない
    • 母親が病原性変異の保因者である
  • IPEX症候群の女性保因者は無症状である.

発端者の同胞 

  • 同胞のリスクは母親の保因者状態に依存する.
  • 発端者の母親が病原性変異を有する場合は,妊娠のたびに50%の確率で病原性変異を子に伝える.変異を受け継いだ男性は罹患する.一方,変異を受け継いだ女性は保因者となり,罹患しない.
  • 発端者が孤発例であり,かつ母親の保因者状態が不明であれば,女性同胞が保因者となるリスクを確定することはできない.
  • 生殖細胞モザイクは観察されていない.

発端者の子

  • 男性発端者はすべての娘に病原性変異を伝え,息子には伝えない.

その他の血縁者

  • 発端者の母方のおばとその子は,性別,血縁関係,および発端者の母親の保因者状態次第では,保因者リスクまたは罹患リスクを持つ.

保因者診断

リスクの高い女性血縁者に対して保因者検査を実施するためには、事前に家系内で病原性変異を同定しておく必要がある.
染色体不活化の偏りは制御性T細胞でのみ見られ,この他のリンパ球集団ではいずれも偏りは見られなかった.従って,X染色体不活化の解析は,保因者検出の観点からは限られた意義しかない.

遺伝カウンセリングに関連した問題

早期診断と早期治療を目的としたリスクの高い血縁者の検査については,前述「臨床的マネジメント」の「リスクの高い血縁者の検査」の項で説明している.

家族計画

  • 遺伝的リスクの評価、保因者状態の確認、および出生前診断の利用の検討は妊娠前に行うのが望ましい.
  • 若年成人の患者もしくは保因者、または保因者リスクを持つ若年成人に対しては、子孫に及ぶ潜在的リスクや挙児に関する選択肢の検討を含めた遺伝カウンセリングの機会を提供することが望ましい.

DNAバンキング DNAバンキングとは、将来の使用に備えてDNA(一般には白血球から抽出)を保存することである.今後、検査方法の改良や遺伝子とその変異や疾患の研究の進展が見込まれるため、患者のDNAの保存は検討に値する.

出生前診断

家系内で事前にFOXP3遺伝子の変異が同定されていれば,リスクの高い妊娠に対する出生前診断が技術的に可能である.通常の手順では,絨毛膜絨毛サンプリング(CVS)(妊娠第10〜12週頃に実施)もしくは羊水穿刺(通例、妊娠第15〜18週頃に実施)により採取した胎児細胞の染色体解析により胎児の性別を決定する.核型が46,XYであれば,胎児細胞のDNAの解析により既知の病原性変異の検索を行うことができる.

注: 胎生週数は,最終正常月経の開始日から数えた月経週で表すか,超音波検査の測定結果を基に割り出す.

着床前遺伝子診断(PGD)は,すでに家系内患者において病原性変異が同定されていれば選択肢の一つとなり得る。


原文 PEX Syndrome

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