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IRF6関連疾患
(IRF6-Related Disorders)

[膝窩翼状片症候群(PPS), Van der Woude 症候群(VWS)を含む]

Gene Reviews著者: Kate M Durda, MS, Brian C Schutte, PhD, and Jeffrey C Murray, MD.
日本語訳者: 安達容枝、升野光雄、山内泰子、黒木良和(川崎医療福祉大学大学院医療福祉学研究科遺伝カウンセリングコース) 

Gene Reviews 最終更新日: 2011.3.1  日本語訳最終更新日: 2014.8.6(reveised 2014.9.23)

原文: IRF6-retaled Disprders


要約

疾患の特徴 

RF6関連疾患は、軽度の症状として、単独の口唇裂・口蓋裂、Van der Woude症候群(VWS)から、より重度の膝窩翼状片症候群(PPS)に及ぶ。VWSをもつ人は以下の1つ以上の異常を示す。

口蓋裂を伴うあるいは伴わない口唇裂(CL±P)と口蓋裂のみのいずれの型も一般集団と同じく、それぞれ2対1の割合でVWSをもつ人に生じる。
PPSの表現型はCL±P、下口唇瘻孔、坐骨結節から踵にかけて伸びる皮膚の翼状片、男性では二分陰嚢と停留精巣、女性では大陰唇の低形成、指趾の合指症、爪周囲の皮膚の異常を含む。糸状癒着(訳者註:帯状組織による癒着)は上顎と下顎(顎癒合)あるいは上下眼瞼(瞼縁癒着)を連結することもある。母趾の爪を覆う皮膚の特徴的なピラミッド形のひだは、ほぼ疾患に特有である。

両方の表現型で、成長と知能は正常である。

診断・検査 

診断は臨床所見に基づく。IRF6の変異はIRF6関連疾患との関連が知られている。IRF6の遺伝的バリアントは単独の口唇裂・口蓋裂のリスクに寄与する。シークエンス解析は、Van der Woude症候群の表現型をもつ人のほぼ72%に、膝窩翼状片症候群の表現型の人では、ほぼ74%に変異を検出する。

臨床的マネジメント 

症状の治療:支持的/対症療法は、手術、歯科矯正、言語療法、摂食や聴力の評価、理学療法、整形外科のケアを含む。

遺伝カウンセリング 

IRF6関連疾患は常染色体優性遺伝形式である。IRF6関連疾患と診断された人の大多数は、罹患した片親がいるが、浸透率は不完全で、新生変異が報告されている。発端者の同胞のリスクは、発端者の両親の遺伝的状況に依存する。発端者の片親が罹患しているかIRF6の変異をもっているとしたら、その変異が同胞に伝わるリスクは50%である。家族構成員の中に疾患の原因となるアレルが知られていたら、リスクの高い妊娠のための出生前診断が可能である。出生前の超音波検査では、妊娠後期に胎児の口唇裂を検出することもあるが、口蓋裂や口唇小窩は検出しにくい。


診断

臨床診断

IRF6関連疾患は、軽度の症状として、単独の口唇裂・口蓋裂、Van der Woude症候群(VWS)から、より重度の膝窩翼状片症候群(PPS)に及ぶ。
Van der Woude症候群と診断するためには以下の所見の内、少なくとも1つは示さなければならない 。

メモ:精神運動遅滞の存在はVan der Woude症候群あるいは膝窩翼状片症候群を除外せず、1q32.2を含む微細欠失を示唆するが、微細欠失はVan der Woude症候群と膝窩翼状片症候群のまれな原因である。さらに、(研究報告された350家系以上の内たった1家系で複数の家族構成員に観察された) 精神運動遅滞は関連のない原因の結果であろう。

膝窩翼状片症候群と診断するためには、前述のVan der Woude症候群の特徴に加えて、
以下の1つ以上が必要である。

分子遺伝学的検査

GeneReviewsは,分子遺伝学的検査について,その検査が米国CLIAの承認を受けた研究機関もしくは米国以外の臨床研究機関によってGeneTests Laboratory Directoryに掲載されている場合に限り,臨床的に実施可能であるとする. GeneTestsは研究機関から提出された情報を検証しないし,研究機関の承認状態もしくは実施結果を保証しない.情報を検証するためには,医師は直接それぞれの研究機関と連絡をとらなければならない.―編集者注.

遺伝子 

IRF6の変異はVan der Woude症候群と膝窩翼状片症候群と関連していることが知られている。IRF6の遺伝的バリアントは単独の口唇裂・口蓋裂のリスクに寄与する。

臨床検査

表1.IRF6関連疾患に使用される分子遺伝学的検査の概要

遺伝子記号 表現型 検査方法 検出される変異 検査方法による変異の検出頻度1,2
IRF6 VWS シークエンス解析 エクソン1-9のシークエンスバリアント3 ~72%
欠失/重複解析4 エクソン、複数のエクソンおよび遺伝子全体の欠失5 <2% (7/448)
PPS 選択的エクソンの
シークエンス解析
エクソン4のシークエンスバリアント3 ~74%
欠失/重複解析4 エクソン、複数のエクソンおよび遺伝子全体の欠失5 不明6
  1. 示された遺伝子に存在する変異を検出するために使用される検査方法の検出能力
  2. Schutte & Murray(私信)
  3. シークエンス解析によって検出された変異の例は、小さな遺伝子内の欠失/挿入およびミスセンス変異、ナンセンス変異、スプライス部位変異を含む;一般的に、エクソンまたは全遺伝子欠失/重複は検出されない。
  4. ゲノムDNAのコーディング領域および隣接するイントロン領域のシークエンス解析では容易に検出できない欠失/重複を同定する検査には使用され得る種々の方法が含まれる:定量PCR、ロングレンジPCR、多重連結反応依存性プローブ増幅法(MLPA)、および、この遺伝子/染色体セグメントを含む染色体マイクロアレイ(CMA)。
  5. 検出可能な欠失の大きさは方法と実験室によって異なる場合がある。
  6. 不明だが、Schutteらによって7人中7人に、de Limaらによって37人中36人に原因となる変異がシークエンス解析で明らかにされたことから、まれなようだ。

検査結果の解釈

シークエンス解析結果の解釈で熟慮すべき問題については、ここをクリック。

発端者の確定診断のために

リスクのある妊娠に対する出生前診断と着床前遺伝学的診断(PGD)は、家系内の疾患原因なとなる遺伝子変異の同定が前提となる。

遺伝学的に関連する疾患

Van der Woude症候群と膝窩翼状片症候群以外にIRF6変異と関連している症候群はない。しかし、IRF6の正常な遺伝的バリエーションが単独の口唇裂・口蓋裂のリスクに寄与すると明らかにした研究がある。

Zuccheroらは、地理的に異なる9つの母集団から単独の口唇裂および/または口蓋裂(CLP)を伴う8003人における非同義SNP p.Val274Ileの伝達不平衡テスト(TDT)を行った。p.Val274アレルは7つの母集団で有意に多く伝達されていた。p.Val274Ileは北欧に由来する母集団では有益なSNPでないので、ハプロタイプ解析も行われた。北欧からの母集団においても単独の口唇裂および/または口蓋裂とIRF6の共通のハプロタイプに有意な関連が観察された。このようにIRF6の遺伝的バリエーションは単独の口唇裂・口蓋裂のリスクに寄与する。

その後さらなる研究では、いくつの集団でIRF6の遺伝的バリエーションと単独の口唇裂および/または口蓋裂との関連が確認された。ほかの研究では、IRF6アレルと単独の口唇裂および/または口蓋裂との関連が見つけられなかった。この関連が検出されなかったのは、研究対象のいくつかの母集団ではp.Val274Ileの頻度が低いか、あるいは母集団の異質性の影響かもしれない。

IRF6の座位は、顕著な母集団の異質性が観察された口唇裂および/または口蓋裂のゲノムワイド関連解析(GWAS)においても検出された。Rahimovら(2008)は、IRF6コード配列の5´側10 kbのAP2結合部位の破損は欧州の母集団の病的バリアントであるが、アジアの母集団にみられる影響を説明するためには追加のバリアントの存在を示唆した。

非症候群性口唇裂および/または口蓋裂をもつと思われる人にも、IRF6変異の存在が調査されている。これらの変異の有無にかかわらず、あるいは変異が存在している時に、ほぼすべての罹患者の再検査によって、少なくとも1人の家族構成員に唇紅縁の下にみられる隆起も含めた口唇小窩の存在が明らかにされた。Rutledgeら(2010)は、口唇小窩を含まない“混在した”裂の表現型を伴う二つの異なる家系を評価し、どちらの発端者もIRF6のミスセンス変異が同定された。これら二つの家族での診断はVan der Woude症候群と矛盾しないようだが、IRF6変異の存在について他の罹患家族を検査したり、口唇小窩について彼らを評価することは不可能であった。


疾患の特徴

自然経過

膝窩翼状片症候群(PPS)とVan der Woude症候群(VWS)の頭蓋顔面の特徴は、PPSをもつ軽度の罹患者とVWSをもつ人で区別することはしばしば困難であるような連続体を形成する。

Van der Woude症候群  VWSをもつ人は3つの異常のうち、1つあるいはそれ以上を示す。先天性で通常は両側性の傍正中部の下口唇瘻孔(小窩)あるいは時に口唇の粘液腺から通じる洞管を伴う小さな盛り上がり、口唇裂(CL)、または口蓋裂(CP)。

Van der Woude(1954)は、罹患した親の子どもの27%に口唇瘻孔のみを、21%に口唇裂および/または口蓋裂とともに瘻孔を認めた。Burdickら(1985)は164家族から罹患者864人の情報を収集した。この集団では、44%が口唇小窩のみ、37%が口唇裂(口唇小窩を伴っているあるいは伴っていない、口蓋裂を伴っているあるいは伴っていない)、16%が口蓋裂のみ(口唇小窩を伴っているあるいは伴っていない)で、3%が明らかな表現型がなかった。全体的に、口唇小窩は罹患者の86%で観察された。

口蓋裂を伴うあるいは伴わない口唇裂(CL±P)と口蓋裂のみのいずれの型も一般集団と同じく、それぞれ2対1の割合でVWSをもつ人に生じる。両方の裂型が含まれる単一の症候群または遺伝性疾患は珍しいため、IRF6関連疾患は特に興味深い。この混合裂のタイプはMSX1FGFR1の変異によっても生じる。

VWSにおいては、口唇小窩だけでなく口蓋裂および口蓋裂を伴うあるいは伴わない口唇裂も性比はほぼ等しい。家系の垂直方向と水平方向に口蓋裂を伴うあるいは伴わない口唇裂と口蓋裂が共に生じることもある。少なくとも3人の罹患者がいる家族の40%が両方の裂型がある。それらのうち75%は同胞に両方の裂型がある。

Oberoi & Vargervik(2005)は、VWS罹患者は、単独で同じ裂型をもつ人よりも下顎と上顎の低形成がある可能性が高いことを示唆した。

報告されたVWS表現型の非古典的な形態は以下を含む。

成長と知能は正常である。唯一の例外は、罹患者が発達遅延とIRF6を含む大きな連続した遺伝子欠失を伴う家族である(Sanderら)。VWSも同様に分離する家族において、発達遅延はまれに無関係のこともある。ほかの2家族では、大きな欠失を伴う人は正常な知能であった。後者の1例では、その欠失はSanderら(1994)によって記述された欠失より大きな欠失で、Sanderらの家族の発達遅滞はIRF6の欠失とは無関係であると示唆される。

最近の小規模な研究では、Jonesら(2010)が裂の外科手術の経過観察でVWSを伴う17人中8人(47%)が非症候群性口唇裂および/または口蓋裂を伴う68人中13人(19%)と比較して創傷合併症を引き起こしていることを見出した。

膝窩翼状片症候群 PPSの表現型は口唇裂および/または口蓋裂(罹患者の91%~97%)、下口唇の瘻孔(45.6%)、坐骨結節から踵へと伸びる皮膚の翼状片、男性における二分陰嚢と停留精巣、女性における大陰唇低形成、指趾の合指症と爪周囲の皮膚の異常を含む。母趾の爪を覆う皮膚の特徴的なピラミッド状のひだは、ほぼ疾患に特有である。
糸状癒着は、上顎と下顎(顎癒合)または上下の眼瞼(瞼縁癒着)を連結することもある。
成長と知能は正常である。

遺伝型-表現型相関

Van der Woude症候群 全遺伝子欠失とほぼすべてのタンパク質短縮変異はVWS表現型の原因となる。VWSの原因となるミスセンス変異は、二つのタンパク質ドメインがコードされているエクソン3、4および7-9に均等に分かれている。p.Arg84Glyとp.Arg84Proのアルギニン84の二つのミスセンス変異は、たった一人のVWS罹患者に見られており、p.Arg84Glyとp.Arg84Proは、PPSにもっとも一般的に見られるp.Arg84Hisとp.Arg84Cysとは、IRF6の機能に異なった影響を与えていることを示唆している。

膝窩翼状片症候群 PPSの原因の最たるミスセンス変異はエクソン4に位置する。
特定の変異(p.Arg84His、p.Arg84Cys)はVWSよりもPPSの原因によりなりやすいことは明らかである。DNA結合ドメインのミスセンス変異クラスターは、より一般にPPSの家族内にみられる(p<0.01;例えば、p.Trp60, p.Lys66, p.Gln82, p.Arg84, p.Lys89)。しかし、家族にはVWSのみの特徴の人やPPSの特徴を伴うほかのメンバーを含むこともある。

浸透率 

Murrayら(私信)はIFR6変異をもつ人の約70%に外科的介入を必要とする口腔顔面裂があることを示している。

Van der Woude症候群 さらなる研究は、表現度の差異と高い浸透率ではあるが不完全浸透を伴う優性遺伝であるというVan der Woudeの観察を支持している。1965年から始まるIndex Medicusの引用リスト検索とマニュアル検索による、VWSの最新で広範囲にわたる文献レビュー(1985)では、Demarquay(1845)が最初にVWSを観察して以来、報告された164家族の864名の罹患者データを明らかにした。これらのデータに基づいて、浸透率は92%と推定された。

口唇小窩の表現型 口唇小窩表現型の浸透率は86%と推定されている。

頻度 

Van der Woude症候群 VWSは、単一遺伝子を原因とする口唇裂と口蓋裂では、もっとも一般的であり、口唇口蓋裂全体の約2%を占める。ヨーロッパとアジアでは、およそ35,000人に1人から100,000人に1人である。

膝窩翼状片症候群 およそ300,000人に1人の有病率が示唆されている。


鑑別診断

本稿で扱われる疾患に対する遺伝学的検査の実施可能性に関する最新情報は,GeneTests Laboratory Directoryを参照のこと.―編集者注.

VWSと同様に下口唇小窩は以下の疾患でもみられる。

Van der Woude症候群は口唇小窩がなくとも、口腔顔面裂をもって生まれたすべての子どもに考慮し、単独の口唇小窩、粘膜下口蓋裂、乏歯(歯数不足症)についてその両親を診察すべきである。口唇小窩はVWSをもつ人の15%にはみられないため、IRF6新生変異をもち、口唇小窩のない人を見つけることができる。Jeheeら(2009)によって口唇の異常のない小規模の2家系でIRF6に病因と思われる変異が発見された。

単独の口唇裂および/または口蓋裂 Ranta & Rintala(1983)は口蓋裂を伴う397人、口唇口蓋裂を伴う518人、裂の表現型のない1000人の子ども達の下口唇の診察を行った。これらのグループでは口唇小窩に加えて、下口唇の円錐状の隆起(CE)を、口蓋裂の39.3%、口唇口蓋裂の0.8%、裂のない人の0.7%に認めた。家族性の裂の発生が、口蓋裂にCEを伴わないグループ(20.7%)よりも口蓋裂にCEを伴うグループ(30%)の間で統計的に高かったという結果は興味深い。さらに、乏歯(歯数不足症)の発生率は、口蓋裂とCEを伴う251人の子ども達(40%)ではCEを伴わない口蓋裂の子ども達(25%)よりも有意に高かった。全体で、口蓋裂をもつ子ども達の56%は、乏歯(歯数不足症)あるいはCEの表現型を伴っていた。これらがどの程度IRF6関連疾患を表わしているのかはわかっていない。

混合裂(口蓋裂を伴うかあるいは伴わない口唇裂と単独の口蓋裂) IRF6関連疾患で見られる混合型裂はMSX1TP63FGFR1の変異が原因の疾患でも生じる。これらの疾患に口唇小窩はないとはいえ、これらには口唇小窩を伴わないVWSを除外するために十分な付加的特徴が欠けている。これらの疾患は複数のメンバーに口腔顔面裂をもつ家族を評価する際に考慮すべきである。

Wongら(2001)は、罹患者である家族メンバーの11人中10人が口蓋裂をもっており、1人は口唇口蓋裂をもつ1家系を記述した。臨床診察により11人の罹患者のうちたった1人に口唇小窩を認めた。罹患者のうち2人は口蓋裂に加えて”波のような”下口唇を認めた。WongらはVWSの新たな所見であると示唆しているが、1q32-q41においてIRF6との連鎖は除外された(この領域のマーカーに対してのmultipoint lod scores< -13.0)。その後、座位は1番染色体短腕の1p32-p36の30-cMの領域にマッピングされた。

瞼縁癒着  PPSには時に生下時に瞼縁癒着(あるいは眼瞼癒着)がみられる。これらはまた、瞼縁癒着 - 外胚葉異常 - 口唇裂/口蓋裂症候群、Rapp-Hodgkin症候群(OMIM 129400)、欠指症 - 外胚葉異形成 - 口唇裂/口蓋裂症候群1(OMIM 129900)、巻き毛‐瞼縁癒着-爪異形成症候群(OMIM 214350)、および18トリソミーにも見られる。

臨床医のためのメモ:この疾患に関連した個別の患者に対する「同時コンサルト」についてはSimulConsult(R)を参照。それは患者の所見を基に鑑別診断を提供する双方向型診断決定支援ソフトである(登録または施設からのアクセスが必要)。


臨床的マネジメント

最初の診断後の評価

症状に対する治療

口唇裂および/または口蓋裂をもつ人には、多くの専門分野にわたる専門家のチームによる評価と治療が必要である。アメリカ口蓋裂-頭蓋顔面協会(1993)は、口唇裂および/または口蓋裂、あるいは他の頭蓋顔面奇形を伴う患者の評価と処置のための条件を公表している。これはこれらの患者の処置への助言となる。フルテキストはGuidelinesをクリック。

二次的合併症の予防

口蓋裂による二次的中耳炎の適時の処置は二次的聴力障害の予防となる。圧を均衡化するための管を(鼓膜に)留置することもある。

言語聴覚士による評価は、二次的聴力障害をもつ子どもに言語療法あるいは他の介入が適切かどうかの決定の助けとなる。

続発性病変の予防

以下の経過観察のガイドラインは、アメリカ口蓋裂-頭蓋顔面協会(1993)の口唇裂および/または口蓋裂あるいは他の頭蓋顔面奇形を伴う患者の評価と処置のための条件に適合している。フルテキストはGuidelineをクリック。

新生児期・乳幼児期

縦断的な評価と処置

リスクのある血縁者の検査

VWSの浸透率の低下を考えると、罹患者の子孫や同胞には、粘膜下口蓋裂を含む口蓋裂の有無を臨床診察すべきである。
遺伝カウンセリングの目的でリスクのある血縁者を検査することに関する問題については遺伝カウンセリングを参照のこと。

研究中の治療

広い範囲の疾患と健康状態に対する臨床研究情報にアクセスするためにはClinicalTrial.govを検索のこと。
メモ:この疾患における臨床試験はないかもしれない。


遺伝カウンセリング

「遺伝カウンセリングは個人や家族に対して遺伝性疾患の本質,遺伝,健康上の影響などの情報を提供し,彼らが医療上あるいは個人的な決断を下すのを援助するプロセスである.以下の項目では遺伝的なリスク評価や家族の遺伝学的状況を明らかにするための家族歴の評価,遺伝子検査について論じる.この項は個々の当事者が直面しうる個人的あるいは文化的な問題に言及しようと意図するものではないし,遺伝専門家へのコンサルトの代用となるものでもない.」

遺伝形式

IRF6関連疾患は常染色体優性遺伝形式である。

発端者の両親

メモ:IRF6関連疾患と診断された人のほとんどは罹患した親がいるが、家族構成員にその疾患と気づかれていないか不完全浸透のため、家族歴は陰性となるかもしれない。

発端者の同胞 

発端者の同胞のリスクは発端者の両親の遺伝的状況に依存する。

発端者の子

IRF6変異をもつ人の子どもは、それぞれの子が50%の確率でその変異を受け継ぐ。IRF6関連疾患の臨床症状は多彩なので、子どもの症状を予測することはできない。

他の家族

他の家族構成員のリスクは発端者の両親の遺伝的状況に依存する。もし片親が罹患している、あるいはIRF6の変異をもっている場合、その家族構成員にはリスクがある。

遺伝カウンセリングに関連した問題

早期診断と治療を目的とするリスクのある血縁者の評価の情報については、臨床的マネジメントのリスクのある血縁者の検査を参照のこと。

見たところ新生変異をもつ家族で考慮すべき事柄 常染色体優性遺伝疾患の発端者の両親がどちらも病因変異をもたない時、おそらく発端者は新生変異をもつ。しかしながら、生物学的父親や母親が異なる場合(例えば、生殖補助医療に伴う)または告知されていない養子縁組を含む、起こりうる非医学的な事実もまた明らかににされるかもしれない。

家族計画 

DNAバンキング は(通常は白血球から抽出された)DNAを将来の使用のために保存しておくものである。検査法並びに遺伝子、変異および疾患に対する我々の理解が将来進歩するかもしれないので、罹患者のDNAの保存は考慮すべきである

出生前診断

分子遺伝学検査 家族内の病因変異が同定されているなら、リスクの増した妊娠で出生前診断は、通常おおよそ妊娠15~18週に行われる羊水穿刺、またはおおよそ妊娠10~12週に行われる絨毛生検(CVS)で得られた胎児細胞から抽出されたDNA分析により可能である。
メモ:妊娠期間は最終正常月経期の初日からか、超音波による計測のどちらかにより算出された月経週数として表される。

超音波検査 出生前の超音波検査は妊娠後期に口唇裂を検出するかもしれないが、口蓋裂や口唇小窩を検出することは、いっそう少ないだろう。センターでルーチンに行われるレベル2の標的超音波検査はもっとも正確である。

IRF6関連疾患のような状況では出生前検査の要望は一般的ではない。医療従事者間と家族内に出生前診断の使い方について、特に早期の診断のためよりも妊娠中絶の目的のために考慮するという視点の違いが存在することもある。たとえ多くのセンターが出生前診断における両親の決定を重んずるとはいえ、これらの問題の話し合いは適切である。出生前診断は、顔の相違や障害をもつ子どものために両親や家族が準備するという利点を提供するだろう。しかし、IRF6関連疾患の臨床症状は多様であり、子孫の症状を予測することはできない。

着床前遺伝学的診断(PGD)は、病因変異が同定された家族においては選択肢のひとつかもしれない。


分子遺伝学

下記の記述は最新の情報が含まれているため、GeneReviewsに記載されているほかの情報と異なる場合がある

分子遺伝学とOMIMの表の情報は、GeneReviewsの他の場所の情報とは異なるかもしれない。表は、より最近の情報を含むかもしれない。

表A. IRF6関連疾患:遺伝子およびデータベース

遺伝子記号  染色体座   タンパク質の名称 Locus Specific HGMD
IRF6 1q32.2 インターフェロン調節因子6 IRF6 homepage-
Mendelian genes
IRF6

データは、以下の標準的な参考文献を編集したものである:HGNCによる遺伝子記号;OMIMによる染色体の座、座の名前、決定的領域、相補性群;UniProtによるタンパク質名。データベース (Locus Specific, HGMD) の記述についてのリンク、 ここをクリック。

 表B. OMIMに登録されているIRF6関連疾患(OMIMで全てを参照のこと)

119300 VAN DER WOUDE SYNDROME1; VWS1
119500 POPLITEAL PTERYGIUM SYNDROME; PPS
607199 INTERFERON REGULATORY FACTOR 6; IRF6

分子遺伝学的病因

下流の標的遺伝子や相互作用するタンパク質を同定するためのさらなる機能解析は、特に以下を考慮するとIRF6の口蓋発生における役割を理解するうえで重要である:融合の直前とその間の口蓋突起の内側縁におけるネズミIrf6の発現と、ネズミTgfb3の発現とが重複していること、およびTGF-βシグナルの伝達として知られている転写因子ファミリーである、IRFsとSmads間の相互作用の媒介におけるIRF6のSMIRドメインの提唱された役割。

正常アレルのバリアント 9エクソンと8イントロンがある。2つのコモンSNPsがIRF6のコードシークエンスに見つけられた:c.459G>T (p.Ser153Ser), c.820G>A (p.Val274Ile)。
非罹患の対照で見られた、まれなバリアントは、c.9C>T (p.Leu3Leu), c.55G>A (p.Asp19Asn), c.181C>G (p.Ala61Pro), c.339G>T (Val113Val), c.671C>T (p.Thr224Ser), c.726C>T (p.Thr242Thr), c.1153T>C (p.Leu385Leu)を含む。

病的アレルのバリアント タンパク質短縮(ナンセンスとフレームシフト)変異、ミスセンス変異、全遺伝子欠失は疾患の原因として知られている。変異は現在、229の異なるアレルに、VWSとPPSの448家族のうち334以上に同定されている。

表2. 選択されたIRF6アレルのバリアント

バリアントアレルの区分 DNAヌクレオチドの変化 タンパク質アミノ酸の変化(別名1)2 参照配列
正常 c.820G>A p.Val274Ile3 NM_006147.2
NP_006138.1
c.9C>T p.=
(Leu3Leu)
c.55G>A p.Asp19Asn
c.181G>C p.Ala61Pro
c.339G>T p.=
(Val113Val)
c.671C>G p.Thr224Ser
c.711C>T p.=
(T237T)
c.726C>T p.=
(T242T)
c.1153T>C p.=
(L385L)
病的 c.250C>G p.Arg84Gly4
c.251G>C p.Arg84Pro5
c.251G>A p.Arg84His5
c.250C>T p.Arg84Cys5

バリアント分類の注釈:表に挙げたバリアントは著者により提供された。GeneReviewsスタッフはバリアントの分類を独自に立証はしていない。
用語の注釈:GeneReviewsはHuman Genome Variation Society(www.hgvs.org)の標準的命名規約に準拠している。

  1. 現在の命名規約と一致しないバリアントの呼称
  2. p.=は、タンパク質の解析はされていないが、変化がないと予測されたことを示す。
  3. 単独のCLPとの関連のいくつかの根拠を示唆する。
  4. VWSをもつ人のみに見られる
  5. PPSをもつ人に最も多く見られる

正常遺伝子産物 IRF6の正常な遺伝子産物の機能は現在のところ、わかっていない。しかし、IRF6タンパク質は転写因子のインターフェロン調節因子ファミリーに属する。このタンパク質ファミリーは、高度に保持されたヘリックス-ループ-ヘリックスDNA結合ドメイン(アミノ酸13-113)と、さほど保持されていないタンパク質結合ドメイン(アミノ酸226-394)を共有する。DNA結合ドメインは独特のペンタトリプトファンモチーフを含む。IRFsはIRF関連ドメイン(IAD)と呼ばれる、タンパク質結合ドメインを介してホモおよびヘテロ二量体を形成する。このタンパク質結合ドメインの二次構造は、二つのファミリーで共有されているため、このドメインはまたSMIR(SMAD/IRF)ドメインと呼ばれている。IRF6を含むほとんどのIRFsは広く、偏在することなく発現される。IRF4IRF8の発現は造血細胞に限定されている。

IRFsはウイルス感染後のインターフェロン-αおよびインターフェロン-βの発現を調節することがよく知られている。ウイルス感染後、細胞質内の潜在性IRFタンパク質は、C末端セリン残基の複数のリン酸化によって活性化される。それらは、ホモおよびヘテロ二量体を形成し、核内に蓄積し、インターフェロンおよびインターフェロン刺激遺伝子のプロモーターに結合し、転写に影響を与えている。

マウスノックアウト研究は、免疫応答におけるIrf1Irf2Irf3Irf4Irf5Irf7Irf8およびIrf9の役割を支持し、これらの変異株はいずれも、発生学的な異常はない。しかし、IRF1、IRF2、IRF3、IRF4、およびIRF7はまた、細胞の増殖や停止を制御する。IRF6は、B-およびT-細胞の発生および恒常性に必要とされるIRF4の相同体として同定されたが、免疫応答におけるその機能は不明のままである。Irf6を欠損したマウスは、皮膚、四肢、および頭蓋顔面の発生異常がある。

異常遺伝子産物 VWSをもつ人の変異は、ハプロ不全と一致している。VWSを引き起こすミスセンス変異は、DNA結合ドメイン(エクソン3および4)およびタンパク質結合ドメイン(エクソン7、8、および9)をコードする領域に局在し、おそらく機能の喪失を生じる。

PPSをもつ多くの人に見出される変異は、特にDNA結合ドメイン(エクソン3および4)のアミノ酸残基に局在している。IRF1との構造類似性に基づいて、 ( p.Trp60 、 p.Lys66 、 p.Gln82 、 p.Arg84 、 p.Lys89を含む)これらの残基は、直接DNA標的に接触することが予測される。これらの位置でのミスセンス変異は、IRF1においてDNA結合を妨げるが、タンパク質結合には影響しない。したがって、これらの変異はIRF機能に対する優性阻害効果を有すると予測され、PPSのより広い表現型を説明するであろう。すべてではないが、p.Arg84のミスセンス変異は、特にPPSと関連している。p.Arg84Glyとp.Arg84ProはVWSをもつ人にのみ見られ、これらの変異によるIRF6の機能における異なる効果を示唆している。

参考文献

公表されたガイドライン / コンセンサス ステートメント
American Cleft Palate-Craniofacial Association. Parameters for evaluation and treatment of patients with cleft lip/palate or other craniofacial anomalies (pdf). Available online. 1993; revised 2009. Accessed 10-25-12.


更新履歴

  1. Gene Review著者: Kate M Durda, MS, Brian C Schutte, PhD, and Jeffrey C Murray, MD.
    日本語訳者: 安達容枝、升野光雄、山内泰子、黒木良和(川崎医療福祉大学大学院医療福祉学研究科遺伝カウンセリングコース) 
    Gene Review 最終更新日: 2011.3.1  日本語訳最終更新日: 2014.8.6
  2. Gene Review著者: Kate M Durda, MS, Brian C Schutte, PhD, and Jeffrey C Murray, MD.
    日本語訳者: 安達容枝、升野光雄、山内泰子、黒木良和(川崎医療福祉大学大学院医療福祉学研究科遺伝カウンセリングコース) 
    Gene Review 最終更新日: 2011.3.1  日本語訳最終更新日: 2014.8.6(reveised 2014.9.23) (in present)

原文: IRF6-retaled Disprders

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