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肢帯型筋ジストロフィー概説
(Limb-Girdle Muscular Dystrophy Overview)

[LGMD]

Gene Review著者: Erynn Gordon, MS, CGC, Elena Pegoraro, MD, PhD, Eric P Hoffman, PhD
日本語訳者: 窪田美穂(ボランティア翻訳者),櫻井晃洋(信州大学医学部附属病院遺伝子診療部)

Gene Review 最終更新日: 2008.9.2. 日本語訳最終更新日: 2009.3.11

原文 Limb-Girdle Muscular Dystrophy Overview


要約

疾患の特徴 

肢帯型筋ジストロフィー(LGMD)とは記述用語に過ぎず、一般に小児もしくは成人発症型の筋ジストロフィーに用いられ、より多くみられるX連鎖性のジストロフィン異常症とは区別されている.一般にLGMD患者では、四肢に限定された筋虚弱や筋消耗がみられ、遠位筋と比べて近位筋に症状が強い. 心筋や延髄性筋には比較的症状がでないLGMD患者が大多数であるが、遺伝的サブタイプによっては例外もみられる. 筋虚弱および筋消耗の発症年齢、病状の進行、分布は患者、遺伝的サブタイプによってきわめて様々である.

診断・検査 

肢帯型筋ジストロフィー(LGMD)は典型的には筋生検において変性・再生(ジストロフィー筋への変化dystrophic change)として認められ、通常血清クレアチンキナーゼ値の上昇を伴う. 肢帯型筋ジストロフィーの疑いがある男性や女性に対しては、まずX連鎖性のジストロフィン異常症が除外できるか考える必要がある. 筋生検の際に実施される生化学検査(すなわち、免疫染色による蛋白発現の確認)により、サルコグリカン異常症、カルパイン異常症、ジスフェリン異常症というLGMDのサブタイプの診断が可能となる.一部の症例では、特定の蛋白の完全な欠損もしくは部分的な欠損が示された場合には、その後、該当蛋白に対応する遺伝子の変異を調べることが可能である. CAPN3遺伝子、FKRP遺伝子、LMNA遺伝子、 POMT1遺伝子、 SGCA遺伝子、SGCB遺伝子、 SGCD遺伝子、SGCG遺伝子に対する分子遺伝学的検査は臨床的に実施可能である.また、 DYSF遺伝子 に対する分子遺伝学的検査はリビア系ユダヤ人に実施可能である.

臨床的マネジメント 

肢体型筋ジストロフィーには確立された治療法がない. 臨床的マネジメントは各患者の状態および各サブタイプに応じて行われる.生存を長期化させ生活の質を向上させる臨床的マネジメントには、肥満を予防する体重管理、可動域を増し拘縮を予防する理学療法やストレッチ運動、歩行や移動を補助する器具の使用、整形外科的合併症に対する外科的手術、必要な場合には呼吸補助具の使用、心筋病変を伴うサブタイプの場合は心筋症のモニタリング、および社会的・感情的支援や働きかけがある.

遺伝カウンセリング 

従来LGMDは常染色体劣性の遺伝形式をとる筋ジストロフィーに対して用いられてきたが、現在では常染色体優性の遺伝形式をとる稀なサブタイプも含まれるものとして認められている. 各家系における正確な診断と遺伝形式の見極めが困難であるため、遺伝カウンセリングは特別複雑なものとなる. 多くの場合、遺伝形式は分からない. 大多数の場合、稀な常染色体劣性遺伝に係る再発リスクを知るための遺伝カウンセリングが求められており、この場合に「重大な」リスクは発端者の同胞にのみ関わる.ジスフェリン異常症、α-サルコグリカン異常症、β-サルコグリカン異常症、δ-サルコグリカン異常症、γ-サルコグリカン異常症、LGMD1B、LGMD2Kに対する出生前診断は、発病性変異が同定されている家系に対しては実施可能である.


診断

臨床診断

肢帯型筋ジストロフィー(LGMD)は記述用語に過ぎず、一般に小児もしくは成人発症型の筋ジストロフィーに用いられ、デュシェンヌ型筋ジストロフィーベッカー型筋ジストロフィーといったより多くみられるX連鎖性のジストロフィン異常症とは区別されている.

ある時期、LGMDは青年期もしくは成人期に筋虚弱を発症する患者に用いられていた. 従来より重症な小児期発症型は「重症小児常染色体劣性筋ジストロフィー(SCARMD)」と呼ばれていたが、現在ではLGMDのサブタイプの一つであると考えられている.

臨床症状

LGMD患者には一般に四肢に限定された筋虚弱および筋消耗が起こり、遠位筋と比較して近位筋が侵される場合が多い.近位筋の虚弱とは身体の中心部に近い筋肉(肩、腰帯、大腿上方、上腕)の筋力低下である. 遠位筋の虚弱とは身体の中心部から離れた筋肉(下肢下部および足、前腕および手) の筋力低下である. 筋虚弱および筋消耗の発症年齢、病状の進行、分布は患者および遺伝的サブタイプによりきわめて様々である.

LGMD患者では比較的心筋や延髄性筋に症状が認められない場合が大多数であるが、遺伝的サブタイプにより例外もみられる.

確定診断

鑑別診断

以下の疾患は肢帯型筋ジストロフィーとの鑑別診断で考慮される:

肢帯型筋ジストロフィーが疑われる症例では、性別にかかわらずまずジストロフィン異常症を疑うべきである.

頻度

肢帯型筋ジストロフィーの発症原因が様々であることおよび診断手法に特異性を欠くことから、LGMDの頻度に関する報告はほとんどない.
LGMDの全てのサブタイプを含めた推定頻度は14,500人当たり1人から123,000人に1人までと幅がある[van der Kooi et al 1996, Urtasun et al 1998].
主なサルコグリカン異常症の頻度は約178,000人に1人と推定されている [Fanin et al 1997]. この推定値によると、保因者頻度は211人に1人となるが、Hackmanら (2005)はサルコグリカン異常症の保因者頻度を約150人に1人としている.


病因

この項では、肢帯型筋ジストロフィーのサブタイプを、遺伝形式および分子遺伝学により分類する.

常染色体劣性の肢帯型筋ジストロフィー

分子遺伝学

表1. 常染色体劣性の肢帯型筋ジストロフィー (LGMD):分子遺伝学

常染色体劣性LGMD患者の割合(%) 疾患名 創始者変異を持つ民族 遺伝子座 遺伝子記号  染色体座 産出蛋白
小児発症型患者の最大68%および成人発症型患者の10%未満 1 α-サルコグリカン異常症 なし LGMD2D SGCA  17q12- q21.3 α-サルコグリカン
β-サルコグリカン異常症 アーミッシュ LGMD2E SGCB  4q12 β-サルコグリカン
γ-サルコグリカン異常症(従来名SCARMD)  2 北アフリカ人・ジプシー3 LGMD2C SGCG  13q12 γ-サルコグリカン
δ-サルコグリカン異常症 ブラジル人4 LGMD2F SGCD  5q33 δ-サルコグリカン
10~80%未満  5 カルパイン異常症 アーミッシュ・レユニオン島・バスク人(スペイン)・トルコ人 LGMD2A CAPN3  15q15.1- q21.1 カルパイン-3
10%未満 ジスフェリン異常症, 三好型遠位型ミオパチー リビア系ユダヤ人 LGMD2B DYSF  2p13.3- p13.1 ジスフェリン
3% テレソニン異常症 イタリア人(?) LGMD2G TCAP  17q12 テレソニン
不明 LGMD2H カナダマニトバ州のフッター派のみ LGMD2H TRIM32  9q31- q34.1 Tripartite motif protein 32(TRIM32)
6%  6 LGMD2I 不明 LGMD2I FKRP  19q13.3 フクチン関連蛋白
不明 LGMD2J フィンランド人 LGMD2J TTN  2q24.3 チチン
不明 LGMD2K トルコ人 LGMD2K POMT1  9q34.1 O-マンノシル転移酵素
  1. Vainzof et al 1999
  2. SCARMD =重症小児常染色体劣性筋ジストロフィー
  3. Merlini et al 2000
  4. Nigro et al 1996, Vainzof et al 1999
  5. 白人人口の10%[Chou et al 1999] からバスク地方の80%[Urtasun et al 1998]までと幅が広い. 実際の頻度は集団ごとに異なる
  6. Boito et al 2005

サルコグリカン異常症 (α-サルコグリカン異常症 LGMD2D、β-サルコグリカン異常症 LGMD2E、γ-サルコグリカン異常症 LGMD2C、δ-サルコグリカン異常症 LGMD2F). 4つの異なるサルコグリカン遺伝子がコードしている蛋白は、筋細胞膜に存在する四量体複合体を構成する蛋白である. この複合体はジストロフィンとジストログリカンの結合を安定化させ、細胞骨格の原形質膜の安定化をもたらす. 4つのサルコグリカン遺伝子は構造的にも機能的にも相互に関連し合っているが、染色体座は異なる(表1を参照のこと).

非近交系集団では、4遺伝子の変異の相対頻度はα、β、γ、δの順に低くなり、その割合は8:4:2:1である [Duggan, Gorospe et al 1997]. 非近交系集団ではR77C変異を除けばよくみられる変異は同定されていない. R77C変異はSGCAアレルの変異のうち最大3分の1を占める[Hackman et al 2005]. 創始者変異がみられる集団もある(表1を参照のこと)

カルパイン異常症 (LGMD2A)  現在CAPN3 遺伝子には130種以上もの変異が見つかっている.

ジスフェリン異常症 (LGMD2B) ジスフェリンの機能はいまだに不明であるが、C2ドメインを含むジスフェリンはカルシウム依存性の膜融合および骨格筋線維の膜修復において重要であると考えられている [Bansal et al 2003]. 家系内および家系間の臨床的なばらつきが大きいため、遺伝型と表現型の具体的な相関関係はまだ分かっていない[Cagliani et al 2003].

テレソニン異常症 (LGMD2G)  TCAP変異のホモ接合体が4つのブラジル人家系で同定されている[Moreira et al 2000]. イタリア系の1家系でTCAP変異のヘテロ接合体を持つ患者が複数報告されている.

TRIM32 欠損症 (LGMD2H)  LGMD2Hのすべての報告例で、TRIM32 遺伝子におけるD487Nホモ変異が原因であった. この創始者変異が主にみられるのは(北米)フッター派である。ドイツ(フッター派の祖国)の非フッター派家系の1組の同胞2人にも同定されている. 筋細管ミオパチー(STM)もフッター派にみられるものであるが、現在では TRIM32 遺伝子における同一の変異により起こるものであることが分かっている[Schoser et al 2005].
TRIM32 遺伝子は翻訳後の蛋白値の調節を行うユビキチンリガーゼ(E3)をコードする [Frosk et al 2002].

LGMD2I FKRP遺伝子におけるミスセンス変異ホモもしくはヘテロで持つ患者にはLGMDの表現型が現れる.対照的に、ナンセンス変異(完全な機能消失)をホモもしくはヘテロで持つ患者では重症先天性筋ジストロフィー(MDC1C)となる( 「先天性筋ジストロフィー概説」を参照のこと).
今日までに、C826A 、C427Aという2つの変異がLGMD2I患者でよくみられているが、MDC1C患者ではみられない[Brockington et al 2001]. これらのよくみられる変異のどちらかをホモで持つ無症状者や、これらのよくみられる変異のどちらかをヘテロで持つ無症状者では、他の遺伝子により疾患の発現や発症年齢が調節されていることが考えられる[Boito et al 2005]. ヘテロ接合体の場合、もう1つの変異がミスセンス変異、ナンセンス変異、欠失、挿入といった変異である可能性があることに留意する必要がある. よくみられる変異の一つであるC826A変異のホモ接合体の患者は、複合ヘテロ接合体の患者よりも症状が軽度である [Brockington et al 2001, Mercuri et al 2003, Poppe et al 2003].

LGMD2J  この疾患では、現在報告されている限りにおいて、全ての患者がTTN遺伝子の最終エクソン(Mex6)における11塩基対の欠失・挿入変異のホモ接合体であることが特徴である. 欠失により、カルパイン-3結合部位に近接した4つのアミノ酸が変化している. この変異はフィンランド人に多くみられる. この変異のヘテロ接合体はUdd型遠位型ミオパチーを発症する[Hackman et al 2002].

LGMD2K 軽度の精神遅滞を伴うLGMD2のサブタイプであり、複数の血縁家系の5人に同定されている[Balci et al 2005]. LGMD2Kはウォーカー・ワールブルグ症候群に関連する遺伝子であるPOMT1遺伝子のミスセンス変異(A200P)により起こる (「先天性筋ジストロフィー概説」 を参照のこと).

臨床所見

表2. 常染色体劣性の肢帯型筋ジストロフィー(LGMD): 臨床所見
疾患名 臨床症状 その他の所見 年齢
症状 筋虚弱 腓筋 拘縮・脊柱側弯 発症(平均) 車椅子生活開始
サルコグリカン異常症: LGMD2C, LGMD2D, LGMD2E, LGMD2F 完全欠損: 走ることや歩くことが困難 近位筋 肥大化 遅発性 3~15歳
(8.5 歳)
15歳以前
部分欠損: 痙攣・ 低い運動耐性       青年期から成人初期  
カルパイン異常症(LGMD2A) 走ることや歩くことの困難・つま先歩き・背部の固縮(稀) 近位筋(大殿筋および股関節の内転筋は正常)・翼状肩甲 萎縮 早発性 2~40歳
(8~15 歳)
発症後11~28年後
ジスフィリン異常症(LGMD2B) つま先歩き不能・走ることや歩くことの困難 遠位筋や骨盤-大腿骨筋(翼状肩甲なし) 一過性の肥大(稀)   17~23歳  
テレソニン異常症(LGMD2G) 走ることや歩くことの困難・下垂足 下肢の近位金および遠位筋     9~15歳 発症後18年以内
LGMD2H 顔面筋虚弱・動揺歩行・階段昇降困難 下肢の近位筋・首 筋消耗 報告なし 1~9歳 晩年
LGMD2I 走ることや歩くことの困難 近位筋(上肢>下肢) 肥大 稀・遅発性 1.5~27歳 (11.5歳) 発症後23~26年後
LGMD2J   近位筋     5~25歳 発症後平均 20年
LGMD2K 易疲労性・階段上昇や走ることの困難・言語発達障害を伴う認知障害 軽度筋虚弱(近位筋>遠位筋) 腓筋および大腿筋の肥大 患者5人中2人に足首の拘縮・患者1人に肘、背骨、首の拘縮 1~3歳 17歳未満(患者1人に基づく;7~17歳に発症した患者4人はまだ歩行可能)

サルコグリカン異常症 (α-サルコグリカン異常症 LGMD2D、β-サルコグリカン異常症 LGMD2E、γ-サルコグリカン異常症 LGMD2C、δ-サルコグリカン異常症 LGMD2F). 重症な病状進行を伴う小児発症型(デュシェンヌ型筋ジストロフィーに類似)から、より進行が軽度の遅発型(ベッカー型筋ジストロフィーに類似)まで様々である(表2参照のこと).腓筋の肥大化がみられることが多い.
併発する心臓病変は様々であるが、典型的にはジストロフィン異常症に比べて重症度は低い. 心筋症がよくみられるのは、β-、δ-、γ-サルコグリカン異常症であり、α-サルコグリカン異常症では稀である[Melacini et al 1999, Fanin et al 2003]. 総じて、患者の30%に心筋症の心電図および心エコー所見がみられる.同胞間でも大きな違いがみられ、あるSGCA変異を持つ2人の同胞では、1人の発症は20歳であったがもう1人は35歳まで症状がみられなかった [Angelini et al 1998].
重症の小児発症型肢帯型筋ジストロフィーの患者の大多数では、SGCA変異、SGCB変異、 SGCC変異、SGCD変異がみられる[Duggan, Gorospe et al 1997]. このように、デュシェンヌ型筋ジストロフィーに類似した臨床症状と病状進行をたどるが、筋肉でのジストロフィン免疫染色が正常である患者は主なサルコグリカン異常症患者である可能性が高い.対照的に、肢帯型筋ジストロフィー患者で病状の進行がより軽度の患者(青年期もしくは成人発症型)でサルコグリカン異常症がみられるのは約10%である.
SGCA 遺伝子変異をヘテロで持つ患者の中には翼状肩甲や腓筋肥大といった軽度の臨床症状のみを呈する患者もいる [Fischer et al 2003].
複数の集団において、遺伝子型と表現型の関連性についての大規模な調査研究の報告がなされている [Dincer et al 1997; Duggan, Gorospe et al 1997; Duggan, Manchester et al 1997; Vainzof et al 1999; Merlini et al 2000].

カルパイン異常症 (LGMD2A)  家系内や家系間の臨床症状の多様性は重症から軽症まで様々である.筋虚弱および発症年齢に基づいて、カルパイン異常症の3つの表現型が同定されている.(1)骨盤筋-大腿筋型LGMD (ライデン-メビウス型)表現型は最もよくみられるカルパイン異常症であり、まず腰帯部位の筋虚弱が現れ、その後肩甲骨部位の筋虚弱が現れる.発症年齢は12歳以前もしくは30歳以降である.(2)肩甲骨-上腕型LGMD(Erb)表現型は、通常より軽度の臨床症状を呈する.発症頻度は低いが早発型である.筋虚弱がまず肩甲骨部位で現れ、その後腰帯に及ぶ.(3)高クレアチンキナーゼ血症は通常小児や若年患者にみられる.患者は血清クレアチンキナーゼ値の上昇を示すのみである.臨床所見にはつま先歩きをする傾向がみられること、走ることが困難なこと、翼状肩甲、動揺歩行、わずかな脊柱過前弯である.

ジストロフィン異常症  筋疾患の範囲は主に2つの表現型によって特徴づけられる:

この他に2つの表現型がみられる:

テレソニン異常症 (LGMD2G)  4家系から14人の患者が報告されているが、患者ごとの違いが大きい. 遠位筋の萎縮がみられる患者もいれば、腓筋の肥大がみられる患者もいる. 患者全員に近位筋の著しい虚弱が認められる. 心臓病変を併発するのは約半数である. 女性患者は男性患者と比較すると軽症のようである[Zatz et al 2003].

TRIM32 欠損症 (LGMD2H)  重症度は、症状がみられない場合から重度の近位筋の虚弱まで様々である. 顔面筋の虚弱と「平坦な笑みflat smile」がみられることが多い. 患者の歩行能力は成人期まで良好に保たれるが、50歳代になっても(困難はみられるが)歩行可能な報告もある[Weiler et al 1998].

TRIM32遺伝子における同一変異から起こる筋細管ミオパチー(STM)はLGMD2H表現型の最重症疾患である [Schoser et al 2005].

LGMD2I ここに含まれる表現型は、重症例( デュシエンヌ型筋ジストロフィーに類似)から臨床的に明らかな骨格筋病変を伴わない軽症例まで様々である [Brockington et al 2001, de Paula et al 2003, Mercuri et al 2003, Poppe et al 2003 , Poppe et al 2004, Muller et al 2005]. 骨格筋病変を伴わない心筋疾患が報告されている. 生後数年の発症の場合、歩行能力は10歳以前に失われる. 最も軽症な例はベッカー型筋ジストロフィーにきわめて類似しており、 発症年齢は遅く(6~23歳)、次第に困難は増すが歩行は継続して可能である. 心臓病変が患者の10~55%に併発する. 心筋障害はホモ接合体よりもヘテロ接合体のほうが早期にみられるようである. Poppe et al (2004) によると、患者の約50%に呼吸器病変(努力肺活量が75%未満)が確認されている.

LGMD2J  この疾患は、より軽症の脛骨型筋ジストロフィー(TMD)の重症型(ホモ接合体)である. LGMD2J患者には重度の進行性近位筋虚弱がみられる.発症年齢は10歳以前から30歳代前半である. 全症例の約半数で、筋虚弱は最終的に遠位筋にまで及び、患者は車椅子の使用が必要となるが、歩行が維持された他の症例もあった. 関節拘縮はLGMD2Jではみとめられない[Udd et al 1991].

LGMD2K  報告されている5例の患者のうち全員に軽度の近位筋虚弱が著しい発達遅滞を伴って認められた(平均IQ 54). 患者は発症後15年間以上歩行能力を維持する. 患者のCK値は正常範囲の20~40倍であった [Balci et al 2005].

常染色体優性の肢帯型筋ジストロフィー

常染色体優性の肢帯型筋ジストロフィーのほとんどは、単一の大家系においてみられる[Speer et al 1999] (表3および表4参照のこと). これらの疾患は稀であると考えられる.

分子遺伝学

表3.常染色体優性の肢帯型筋ジストロフィー: 分子遺伝学

疾患名 遺伝子座 遺伝子記号 染色体座 産生蛋白
LGMD1A (ミオチリン異常症) LGMD1A TTID 5q31 ミオチリン
LGMD1B LGMD1B LMNA 1q21.2 ラミンA/C
カベオリン異常症 LGMD1C CAV3 3p25 カベオリン-3
LGMD1D CMD1F 不明 6q23 不明
LGMD1E LGMD1E 不明 7q 不明
LGMD1F LGMD1F 不明 7q31.1-q32.2 不明
LGMD1G LGMD1G 不明 4q21 不明

ミオチリン異常症 (LGMD1A) ミオチリン蛋白をコードするTTID遺伝子における2つのミスセンス変異 (T57IおよびS55F)が2家系でみられる [Hauser et al 2000, Hauser et al 2002]. TTID 遺伝子の変異は筋原線維ミオパチー [Selcen & Engel 2004] や類球体ミオパチー[Foroud et al 2005]においても報告されている. ミオチリンはα-アクチニンに結合するサルコメア蛋白であり、Z線と関連がある. ミオチリンの正常機能は並んだアクチン束を安定化させ、正常な筋原線維の組織化を促進することである. 異常蛋白によりZ線が崩壊し筋原線維の凝集が起こり、サルコメア構造が損なわれる[Salmikangas et al 2003].

LGMD1B  LMNA遺伝子変異により、少なくとも11種の遺伝疾患が起こる.このなかには、LGMD1B、常染色体優性および常染色体劣性のエメリー・ドレフュス型筋ジストロフィー、ダニガン型家族性部分型リポジストロフィー(FPLD)、下顎末端異形成症、 ハッチンソン・ギルフォード早老症候群シャルコー・マリー・トゥース病2B1型がある. LMNA遺伝子におけるミスセンス変異はLGMD1Bの唯一の発病原因であると思われていたが、 Todorova et al (2003)LMNA遺伝子の同様の変化によるスプライス部位の変異によってもLGMD1Bが発症することを示した. 現在では、LGMD1Bを発症させる全てのLMNA 変異がエクソン1からエクソン11に見つかっている[Mercuri et al 2005].

LGMD1C (カベオリン異常症) CAV3 遺伝子は筋原線維における膜輸送に関わるカベオリン-3蛋白をコードする. カベオリン-3は成長期に骨格筋のT管系の一部として機能するが、成熟後には機能しない.逆に、カベオリン-3は平滑筋では常に発現している [Woodman et al 2004]. CAV3 遺伝子の変異が最初に確認されたのはイタリア系の数家系である[Minetti et al 1998]. (カベオリン異常症を参照のこと.)

LGMD1D ある単一家系に実施されたハプロタイプ分析により、染色体6q23との連鎖が明らかとなった. ラミニンをコードする2つの遺伝子を含むこの領域の多くの遺伝子は、横紋筋で豊富に発現しているが、発病原因はラミニンをコードしている他のまだ知られていない遺伝子である可能性がある [Messina et al 1997].

LGMD1E Speer et al (1999) は、連鎖解析によりこのタイプのLGMDがみられる5家系のうち2家系で染色体7q領域との連鎖を明らかにした. この2家系は共通の祖先を持っている可能性がある.

LGMD1F スペイン系の大家系でマッピングを行ったが、まだ同定された遺伝子はない [Palenzuela et al 2003].

LGMD1G ブラジル系白人家系でマッピングを行ったが、まだ同定された遺伝子はない.

臨床所見

表4. 常染色体優性の肢帯型筋ジストロフィー:臨床所見

疾患名 発症年齢
(平均)
臨床症状 晩期症状
症状 徴候
ミオチリン異常症(LGMD1A) 18~35歳(27歳) 近位筋の虚弱 かたいアキレス腱
鼻声, 構音障害音声 (50%)
遠位筋の虚弱
LGMD1B 出生後から成人期・小児発症型は生後6か月未満 下肢の近位筋虚弱   肘の軽度拘縮
不整脈およびその他の心臓合併症(25~45歳)
突然死
カベオリン異常症 (LGMD1C) 5歳未満 痙攣・
軽度から中等度の近位筋虚弱
Rippling muscle disease
腓筋肥大  
LGMD1D 25歳以上 拡張型心筋症
心伝導系障害
近位筋虚弱
  患者はすべて歩行可能
LGMD1E 9~49歳 (30歳) 上肢および下肢の近位筋虚弱 ペルゲル・フエット核異常 拘縮
嚥下障害
LGMD1F 1~58歳 上肢および下肢の近位筋虚弱 血清CK値(正常~正常値の20倍) 遠位筋虚弱
LGMD1G 30~47歳 下肢の近位筋虚弱 手指および足指の屈曲制限の進行 上肢の近位筋虚弱

ミオチリン異常症 (LGMD1A)  2つの大家系(ドイツ系の北米家系とアルゼンチン系の北米家系)において報告されている[Hauser et al 2000, Hauser et al 2002]. 表4に記載された所見に加え、膝および肘の腱反射低下もみられることが多い. 神経伝導速度は正常である [Gilchrist et al 1988].

LGMD1B  筋虚弱および心臓病変が20歳代までに現れる. 左室肥大および房室伝導異常がみられる場合が多く、ペースメーカーの植え込みを必要とする第2度房室ブロックに進行することもある. 稀ではあるが、拡張型心筋症がみられることもある. 心臓病変の前に骨格筋の虚弱が現れる点がLMNA遺伝子変異による疾患と異なる. LGMD1Bでは肘の拘縮がみられない点がエメリー・ドレフュス型筋ジストロフィー (EDMD)と異なる [Mercuri et al 2005].

カベオリン異常症 (LGMD1C)  CAV3 遺伝子の変異は5つの独立した表現型と関連があり、いずれも単一家系内でみられる症状は様々である.(1) LGMD1C、(2) rippling muscle disease、(3)高CK血症、(4)家族性肥大型心筋症 、(5)遠位型ミオパチーである [Cagliani et al 2003, Fee et al 2004, Hayashi et al 2004, Woodman et al 2004]. 発症年齢は小児早期(10歳以前)から成人後期までに及ぶ. 小児発症型では典型的にはゴワーズ徴候、腓筋の肥大、軽度から中等度の近位筋虚弱がみられる. 心臓症状がみられることが多い [Hayashi et al 2004].

LGMD1D  現在まで1家系の報告のみであり、心伝導系障害(心臓ブロック、心室頻脈、発作性心房細動、右脚ブロック)、拡張型心筋症、筋虚弱が多くみられた. うっ血性心不全に先立ち心伝導系障害が起こる. 発症は成人早期である.

LGMD1E 2家系で報告されており、1家系では嚥下障害がみられた[Speer et al 1999].

LGMD1F  1つのスペイン系大家系における報告がある. 腰帯の筋虚弱は肩帯の筋虚弱よりも先に出現した. 遠位筋の虚弱は後に生じた. 思春期発症型および成人発症型がみられた. 思春期発症型の方が病状の進行が早かったが、これは促進現象によるものだと考えられる. 思春期発症型患者のなかには、翼状肩甲および顔面の筋虚弱がみられた者も複数いた. 腓筋の肥大化、眼病変、知能障害はみられなかった [Gamez et al 2001].

LGMD1G  症状の進行は緩徐であり、1人を除く全員が診断の10年後でもまだ歩行可能であった. 表4に記された症状の他には、関節の可動域制限はみられなかった.

評価手順

LGMDのサブタイプの診断の際には、臨床経過の聴取が有益であり、遺伝カウンセリングにも役立つ.

ある患者のLGMDのサブタイプを特定するためには、通常病歴および家族歴を得ることが必要であり、身体的検査を行い、血清CK値測定および組織学的検査や蛋白検査のための筋生検といった臨床検査(表5を参照のこと)を行う [Pogue et al 2001].

注意事項:(1)現在、筋肉の免疫染色ではジスフェリンのみが特異性および感受性が高いと考えられている.(2)筋生検における免疫染色の結果は、可能であるならば、分子遺伝学的検査によって裏付けること.

以下の理由により、LGMDのサブタイプの診断を目的とする分子遺伝学的検査には問題がある:

表5.肢帯型筋ジストロフィーのサブタイプを調べるための検査
サブタイプ 血清クレアチンキナーゼ値 筋生検組織診断 筋蛋白 (生化学的)検査 1,2 検査の実施可能性
分子遺伝学的検査 蛋白(生化学的)検査
常染色体劣性
α-サルコグリカン異常症 軽度から著しい上昇 筋原性変化 抗サルコグリカン抗体の減少もしくは完全な欠損 3 臨床 testing 臨床(免疫組織化学検査) 
β-サルコグリカン異常症 臨床testing   
γ-サルコグリカン異常症 臨床testing 
δ-サルコグリカン異常症 臨床 testing
カルパイン異常症 正常値の5~80倍であることが多いが、正常値nobaaimoaru  筋線維変性および再生・central nuclei・筋線維径の不均一化・筋内膜線維症 免疫ブロット(
ウエスタン・ブロット)でのカルパイン-3の欠損 4
臨床testing 臨床(免疫組織化学検査) 5
ジスフェリン異常症 正常値の100倍であることが多い 著しい炎症がみられることが時々ある 6 免疫ブロットでのジスフェリンの完全欠損もしくは部分欠損 6 臨床testing 臨床(免疫組織化学検査)
テレソニン異常症 正常値の3~17倍 縁取り空包を伴う筋原性変化 テレソニン欠損 臨床testing なし
LGMD2H 正常値の4~30倍 変性および再生を伴う筋線維径の不均一化・ internal nuclei ・筋内膜線維症 NA 臨床testing なし
LGMD2I 正常~著しい上昇 タイプ1線維優位の筋線維径の不均一化および壊死-再生筋線維
グリコシル化されたα-ジストログリカンの減少(減少程度は様々)・ラミニンα2のわずかな減少・β-ジストログリカン値は正常・α2-ラミニンの部分欠損 4 
臨床 testing 臨床(α-およびβ-ジストログリカンに対する免疫組織化学的検査) 5 
LGMD2J 著しい上昇 筋原性変化
カルパイン-3のほぼ完全な欠損
臨床testing  なし
LGMD2K 正常値の20~40倍  軽度の線維化・筋線維径の不均一化・再生-壊死筋線維・複数の中心核を伴う肥大化筋線維
グリコシル化されたα-ジストログリカンの減少
臨床 testing 臨床(α-ジストログリカンに対する免疫組織化学検査) 5 
常染色体優性
LGMD1A 正常値もしくは軽度上昇 免疫組織化学検査におけるミオチリン値は正常・ラミニン γ1の減少 
中心核および筋線維径の不均一化
臨床testing  なし
LGMD1B 正常値もしくは軽度上昇 筋原性変化 NA 臨床testing  なし
LGMD1D 正常値の2~4倍 筋内膜線維症を伴う筋原性変化 NA なし
LGMD1E 正常値の1~3倍 筋線維径の不均一化・筋内膜の結合組織の増加 NA なし
カベオリン異常症 正常値の4~25倍  筋原性変化 免疫蛍光分析およびウエスタンブロッティングでのカベオリン-3の減少・免疫組織化学分析でのジスフェリンの減少(ウエスタンブロットにでは正常値)7  臨床testing  臨床(免疫組織化学検査)
LGMD1F 正常値から正常値の20倍 結合組織の増加を伴う筋線維径の不均一化 
NA
なし
LGMD1G 正常値から正常値の9倍 壊死線維および縁取り空包を伴う筋線維径の不均一化  ジストロフィン、サルコグリカン、カルパイン-3、テレソニン、ジスフェリンに対する免疫染色は正常 なし
  1. 筋蛋白(生化学的)検査 :
    免疫化学的検査= ある蛋白の有無を調べるために組織の切片を抗体と反応させること. 免疫組織化学検査では蛋白量の測定はできない.
    a. 免疫染色= 抗体を検出するために染色液を用いること.
    b. 免疫蛍光分析= 抗体を検出するために蛍光染色液を用いること.
    免疫ブロット(ウエスタンブロット)= 蛋白の大きさおよび量を測定するために、組織から調べたい蛋白を取り出すこと.
    注意事項: 表5に掲げられた各病態に対して、全ての蛋白検査が実施可能であるわけではない.また、LGMDのサブタイプ診断の際に、全ての蛋白検査が効果的であるわけではない(例えば、LGMD2Bの診断に際して、ジスフェリンに対する免疫ブロットは感受性も特異性も高いが、ジスフェリンに対する免疫染色は、感受性は高いが特異性は低い).
  2. 大多数の蛋白検査は、特定遺伝子における変異により変質した蛋白に対する特異性が高くないが、その結果は分子遺伝学的検査の焦点を絞る際に役立てられる.
  3. サルコグリカン複合体の独立した性質のために、免疫染色でみられた4つのうちどのサルコグリカン蛋白の欠損であっても、4つのサルコグリカン遺伝子のどの遺伝子の変異であるか判明できる. サルコグリカン異常症に対する蛋白検査の感受性および特異性は高いが、ある種のサルコグリカン異常症に対する特異性は低い.
  4. 自己免疫疾患と間違って診断される可能性がある.
  5. 特異性は低い.
  6. ジスフェリンに対する免疫染色は免疫ブロットに比べて特異性がずっと低い. 筋肉や白血球に対する免疫ブロットは、DYSF遺伝子の変異に対する特異性が高い.
  7. 蛋白測定量の信頼性は低い. 診断は分子遺伝学的検査に基づくべきである [Woodman et al 2004].

サルコグリカン異常症 サルコグリカン遺伝子のうち1つでも変異があれば、全てのサルコグリカン蛋白の欠損が起こることが筋肉の免疫染色によりわかる. 例えば、α-サルコグリカンをコードする遺伝子に変異を持つ患者の筋肉の免疫染色では、α-、β-、γ-、δ-サルコグリカンの著しい減少もしくは完全な欠損がみられる. 通常は、サルコグリカンの完全欠損もしくは部分欠損を特定するために単一の抗サルコグリカン(α-サルコグリカン)抗体を用いる. 4つ全てのサルコグリカン蛋白に対する抗体を用いることで、より正確にサルコグリカン欠損を確認することができるかもしれないが、免疫染色パターンは、サルコグリカン蛋白をコードしている4つの遺伝子のうちどの遺伝子に変異が起こった可能性が強いのかを特定するほどには特異性が高くない. α-サルコグリカンをコードする遺伝子であるSGCA遺伝子の変異をヘテロ接合体で持つ患者では、軽度の臨床所見がみとめられる場合でも、筋肉の免疫染色におけるα-、β-、γ-、δ-サルコグリカン値は正常である[Fischer et al 2003].

ジストロフィン異常症 患者の筋肉の免疫染色ではサルコグリカン蛋白欠損が認められるので、同じ標本でジストロフィンとサルコグリカンに対する免疫染色を行う必要がある. ジストロフィンの免疫染色が正常所見であり、かつ1つでもサルコグリカン蛋白の完全欠損が認められた場合には、サルコグリカン蛋白をコードする遺伝子の1つでの変異が発病原因である可能性を示している.
冷凍筋肉標本に対する免疫染色は、主要なサルコグリカン異常症を検出する際には比較的感受性が高いというデータがあるが、特異性は高くない.

カルパイン異常症  筋生検時の免疫染色でのカルパイン-3欠損はカルパイン異常症においてみられるが、LGMDの多くのサブタイプでも続発的症状としてみられる. 免疫染色およびウエスタンブロット分析の感受性および特異性が低いために、蛋白分析の解釈には慎重を期すべきであり、診断を行う際には分子遺伝学的検査で裏付ける必要がある.

ジスフェリン異常症  筋肉の免疫染色から通常ジスフェリンの完全欠損がみられる. 部分的欠損がみられる場合もある.

LGMD2K 筋肉の免疫染色では、グリコシル化されたα-ジストログリカンの著しい減少が認められる [Balci et al 2005].

遺伝カウンセリング

「遺伝カウンセリングは個人や家族に対して遺伝性疾患の本質,遺伝,健康上の影響などの情報を提供し,彼らが医療上あるいは個人的な決断を下すのを援助するプロセスである.以下の項目では遺伝的なリスク評価や家族の遺伝学的状況を明らかにするための家族歴の評価,遺伝子検査について論じる.この項は個々の当事者が直面しうる個人的あるいは文化的な問題に言及しようと意図するものではないし,遺伝専門家へのコンサルトの代用となるものでもない.」

遺伝形式

肢帯型筋ジストロフィーは常染色体劣性の遺伝形式をとる.頻度は低いが常染色体優性の場合もある. 各家系における正確な診断や遺伝形式の見極めは困難であり、遺伝カウンセリングは特に複雑なものとなる.

患者家族のリスク:常染色体劣性の肢帯型筋ジストロフィー

発端者の両親

発端者の同胞

発端者の子

発端者の他の家系家族 絶対的保因者の子は保因者となる確率が50%である.

保因者診断

分子遺伝学的手法を用いた保因者診断は、発端者の変異が同定されている場合は、肢帯型筋ジストロフィーの幾つかのサブタイプに対しては臨床ベースで実施可能である.

家族のリスク:常染色体優性の肢帯型筋ジストロフィー

発端者の両親

注意事項: 常染色体優性の肢帯型筋ジストロフィーと診断された患者の大多数には、罹患者である親がいるが、家系メンバーにおける疾患に気づかなかったために、発症前の親の早期死亡により、または罹患者である親の発症が遅いために、家族歴がないようにみえることもある.

発端者の両親

発端者の同胞 

発端者の子 

発端者の他の家族 

他の家系メンバーのリスクは発端者の両親の遺伝状態による. 親が罹患している場合、その親の家系メンバーにはリスクがある.

遺伝カウンセリングに関連した問題

患者の筋生検における蛋白に基づく検査の特異性に確実性がないことから、筋生検時の蛋白検査のみに基づく場合、正確な遺伝カウンセリングは困難である. 遺伝形式が分からない場合も多くある.
大多数の症例では、家系メンバーは稀な常染色体劣性疾患に関連する再発リスクを知りたいがために遺伝カウンセリングを受ける. この様な場合、「重大な」リスクを持つ可能性があるのは発端者の同胞のみである. LGMDの多くのサブタイプの発症は比較的遅いため、診断が確定する時点で発端者の両親が亡くなっている可能性かある.

DNAバンキング  DNAバンキングは、将来の使用のために、通常は白血球から調整したDNAを貯蔵しておくことである.検査手法や、遺伝子、変異、疾患への理解は将来改善する可能性があり、患者のDNAを貯蔵しておくことは考慮されるべきである.ことに現在行っている分子遺伝学的検査の感度が100%ではないような疾患に関してはDNAの保存は考慮すべきかもしれない.このサービスを行っている機関についてはDNA bankingの項を参照のこと.

出生前診断

リスクの高い妊娠に対する出生前診断は、通常胎生週数約15~18週に実施される羊水穿刺、もしくは約10~12週に実施される絨毛生検で得られた胎児細胞より調整したDNAの解析により、幾つかの肢帯型筋ジストロフィーに対して可能である. 出生前診断を行う前に、患者の家系メンバーの発病性アレルが同定されていなければならない.
注意事項: 注:胎生週期とは最終月経の第1日から換算するか、超音波による計測によって算出される.

着床前診断(PGD) は罹患家系メンバーの発病性変異が同定されている家系では、研究施設もしくは臨床施設において実施可能である可能性がある.


臨床的マネジメント

症状の治療

肢帯型筋ジストロフィーに対する確立した治療法は存在しない. 臨床的マネジメントは各患者の状態および各サブタイプに合わせて行われるべきである. 適切なマネジメントへ向けた一般的アプローチにより、生存期間が延長され、生活の質が向上する. この一般的なアプローチは、典型的なLGMD患者における病状の進行と合併症に基づいており、 McDonald et al (1995)Bushby (1999)に詳しい.


関連情報

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更新履歴:

  1. Gene Review著者: Erynn Gordon, MS, CGC, Elena Pegoraro, MD, PhD, Eric P Hoffman, PhD
    日本語訳者: 窪田美穂(ボランティア翻訳者),櫻井晃洋(信州大学医学部附属病院遺伝子診療部)
    Gene Review 最終更新日: 2008.9.2. 日本語訳最終更新日: 2009.3.11 [ in prenset]

原文 Limb-Girdle Muscular Dystrophy Overview

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