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MELAS
(
MELAS)
[Synonyms: Myopathy, Mitochondrial-Encephalopathy-Lactic Acidosis-Stroke; Mitochondrial Encephalomyopathy, Lactic Acidosis, and Strokelike Episodes]

Gene Review著者: Salvatore DiMauro, MD, Michio Hirano, MD
日本語訳者: 高橋さち子(信州大学医学部医学科),和田敬仁(信州大学医学部社会予防医学講座遺伝医学分野)
Gene Review 最終更新日: 2005.10.13. 日本語訳最終更新日: 2006.2.5.

原文 MELAS


要約

疾患の特徴 

MELASは一般に小児期に発症する多臓器疾患である.初期の精神運動発達は正常であるが,低身長がよく認められる.発症年齢は2〜10歳が多く,初発症状は通常,全身性強直・間代てんかん,反復する頭痛発作,食思不振,反復する嘔吐である.運動不耐性や四肢近位部における脱力感が初期症状となりうる.発作はしばしば一過性片側不全麻痺や,皮質盲の脳卒中様症状発作と合併する.これらの脳卒中様症状は,意識障害と関係しており,反復することもある.脳卒中様発作の影響が蓄積することにより,多くの場合青年期までに,徐々に運動能力,視力,精神機能を損なう.感音性難聴もよく見られる.

診断・検査 

MELASの臨床診断は,基本的に臨床所見と分子遺伝学的検査によってなされる.ミトコンドリア遺伝子のtRNALeu(UUR)の変異が原因であり,最も高頻度にみられる塩基番号3243のA→G変異は典型的な臨床所見を示す患者の80%以上に認められる.変異は通常患者の白血球DNAで検査するが,ミトコンドリア病の「ヘテロプラスミー」の出現は,変異ミトコンドリアDNA組織の分布を変化させることになる.したがって,病因性変異は白血球には認められず,他の組織−培養皮膚線維芽細胞,毛包,尿沈渣,或いはもっとも信頼性の高い部位としては骨格筋などのような−のみで見られることもある.

臨床的マネジメント 

MELASに対する特異的な治療法は存在しない.感音性難聴に対しては人工内耳治療が行われる.痙攣は古典的な抗痙剤が奏功する.糖尿病は食事指導,経口糖尿病薬やインスリンによって治療する.コエンザイムQ10やL-カルニチンが一部の患者には有効である.

遺伝カウンセリング 

MELASはミトコンドリアDNAの変異によって起こり,母系遺伝である.発端者の父親が病因となるミトコンドリアDNA変異を持っている可能性はない.母親の方は通常ミトコンドリアDNA変異を持ち,症状がある場合もない場合もある.ミトコンドリアDNA変異を持つ男性が子孫にその変異を遺伝させることはない.女性(罹患・非罹患によらず)は全ての子孫に変異を遺伝させる.ミトコンドリアDNA変異が認められたとしても,MELASの出生前診断は不可能である.なぜなら,母親の組織や胎児の検体(羊膜や絨毛膜絨毛など)の変異DNAの比率は胎児組織のそれとは一致しないし,出生前の検体組織における変異DNAの比率はランダムな有糸分裂のため,子宮内で,あるいは生後に変化するかもしれないからである.


診断

臨床診断

MELASの臨床診断は,以下の基準に基づいてなされる.

  • 典型例では40歳以前に現れる脳卒中様症状
  • てんかんand/or痴呆を伴う脳障害
  • 乳酸アシドーシスand/or赤色ぼろ線維(ragged red fiber; RRF)によって示されるミトコンドリア性筋障害.

診断の確定には,以下のうちの2つ以上が必要である.

  • 初期の正常な精神運動発達
  • 反復性の頭痛発作
  • 反復性の嘔吐発作

検査

血中,脳脊髄液中の両方における乳酸アシドーシス MELAS患者は一般に安静時の乳酸とピルビン酸の濃度が高く,適度な運動の後は過剰に上昇する.

注:(MELAS診断に無関係で)乳酸・ピルビン酸濃度が上昇するのは,てんかんや脳卒中のような急性神経症状の場合である.

髄液の蛋白濃度上昇 髄液蛋白濃度は上昇するが100mg/dlを超えることはまれである.

脳画像検査 脳卒中様症状時,脳MRIではT2高信号領域が認められる.典型例では大脳後部を含み,主要動脈の分布には一致しない.初発症状に続いて何週間にもわたる脳卒中様障害のゆっくりとした拡大が,T2強調MRIにより観察される.加えて,拡散強調MRIでは,虚血性脳卒中におけるみかけの拡散係数(ADC)減少とは反対に,MELASの脳卒中様障害におけるADC増加を示す.

CTでは大脳基底核の石灰化もよく見られる.

心電図 心電図においては心筋症,異常早期興奮,不完全心臓ブロックが認められる.

筋電図および神経伝導速度検査 は筋障害のプロセスに一致するが,神経障害も同時に存在する.神経障害は比較的よく見られ(32人の患者のうち22%),たいてい混合型,脱髄型である.

筋生検 ではGomori-trichrome変法染色により,赤色ぼろ線維(RRF),あるいは組織化学的なコハク酸脱水素酵素(SDH)染色の非常に強い反応による「青色ぼろ線維」がみられる.RRFはCOX組織化学的染色に反応しないKearns-Sayre症候群(KSS)やMERRF(RRFを伴うミオクローヌスてんかん)といった他のミトコンドリア遺伝病とは反対に,たいていシトクロムcオキシダーゼ(COX)染色で陽性に染まる.MELASの特有症候ではないが,特徴である特別な形態素性は,SDH染色(strongly succinate dehydrogenase-reactive blood vessels(SSV))で良く染まる,平滑筋や筋血管内皮細胞中の過剰なミトコンドリアである.

呼吸鎖の検査 筋抽出物中の呼吸鎖酵素の生化学的検査では,特に複合体I and/or 複合体IVに関係する複数の部分的欠損が認められる.しかし,この検査結果は正常な場合もありうる.

分子遺伝学的検査

遺伝子 

  • MT-TL1 約80%の例でtRNALeu(UUR)をコードするミトコンドリアDNA遺伝子がMELASに関連する.
  • MT-ND5 MT-ND5遺伝子の変異は散発性のMELASや重複症候群の患者において,その報告頻度が増加している.
  • 他のミトコンドリアDNA,tRNA遺伝子 MELASを引き起こす変異はMT-TC,MT-TV,MT-TF,tRNA遺伝子にも見られる.

分子遺伝学的検査:臨床的利用

  • 診断学的検査
  • 出生前診断

分子遺伝学的検査:臨床的検査法

  • MT-TL1

特定塩基の変異解析.MELASでもっともよく見られる変異は,典型的臨床所見を示す患者の80%以上に存在する,MT-TL1遺伝子のA3243G変異であり,Goto Y(1990)により初めて報告された.変異解析テストパネルに含まれる変異は検査機関により異なり,その変異はMT-TL1遺伝子のA3243G変異,T3271C変異,A3252G変異はもちろん,まれな変異も含まれる.

注:

(1)変異は通常全ての組織で見られ,典型的なMELAS患者の白血球中からも検出される.しかしながら,ミトコンドリア病のヘテロプラスミーの出現は,変異ミトコンドリアDNAの組織分布を変化させうる.したがって,1つか2,3のMELASの症状を示す,あるいは無症状の母系血縁者において,病原性変異は白血球には見られず,他の組織−培養皮膚線維芽細胞,毛包,尿沈渣,最も確実なのは骨格筋−でのみ見られることがある.入手しやすい組織の中でも,尿沈渣はA3243G変異を見つけるのに最も有用であることが分かっている.

(2)まれに,完全なMELAS症候群患者の血液からであっても,通常の技術でA3243G変異を発見できないことがある.そういった場合は筋生検を行うことが望ましい.

シーケンス解析/変異検査MT-TL1遺伝子のシーケンス解析/変異検査は,特定塩基の変異解析を通しても見つからなかった変異のある患者に対する1つの選択肢となる.MT-TL1における16種の点変異と4-bp欠失がMELASと関連がある(表5).

  • MT-ND5

特定塩基の変異解析
最も一般的なMT-ND5変異であるG13513Aの変異解析は,臨床的に可能である.A12770A変異の検査も含む場合もある.

シーケンス解析.MT-ND5遺伝子のシーケンス解析は臨床的に可能である.

表1 MELASにおける分子遺伝学的検査の要約

検査法 検出される変異 変異検出率
変異解析 MT-TL1 A3243G変異 〜80%
MT-TL1 T3271C変異 〜7.5%
MT-TL1 A3252G変異 5%以下
シーケンス解析/変異検査 全てのMT-TL1遺伝子変異 不明
目標変異解析 MT-ND5におけるG13513,
A12770G変異
シーケンス解析 MT-ND5遺伝子変異

遺伝子レベルでの関連疾患

MT-TL1のA3243G変異は進行性外眼筋麻痺(PEO),糖尿病,心筋症,難聴を含むさまざまな症候群にも関連している.Mitochodrial Disorders Overviewを参照されたい.


臨床像

自然経過

MELASはさまざまな症候を呈する多臓器疾患である.

典型的なケースでは,発症は小児期に起こる.初期の精神運動発達は正常であるが,低身長がよく認められる.発症年齢は2〜10歳が多いが,中には10〜40歳と遅れる場合もある.2歳以前,或いは40歳以後の発症はまれである.初発症状は通常,全身性強直・間代てんかん,反復性の頭痛発作,食欲不振,反復性の嘔吐発作である.運動不耐性や四肢近位部における脱力感が初期症状となり,全身性強直・間代てんかんがそれに続発する.

表2 MELAS発症年齢

発症年齢(87名) 
人数
百分率
〜2歳
7
8
2-5歳
17
20
6-10歳
27
31
11-20歳
15
17
21-40歳
20
23
40歳〜
1
1

表3 MELASの初発症状

初症状/徴候(60名)1 人数 百分率
てんかん 17 28
頭痛発作 17 28
胃腸症状(嘔吐発作・食欲不振) 15 25
四肢脱力 11 18
低身長・成長停止 11 18
脳卒中 10 17
意識障害 7 12
精神障害 7 12
難聴 6 10
運動不耐 6 10
視覚症状 5 8
発育遅滞 3 5
熱発 3 5
転倒発作 1 1
歩行障害 1 1

罹患者はしばしば複数の徴候を呈する.

てんかんは,しばしば一過性片側不全麻痺や皮質盲といった脳卒中様症状を合併する.脳卒中様症状は意識障害と関連し,また頻発する.脳卒中様症状の反復によって,思春期・青春期頃までに徐々に運動能力,視覚,精神作用が障害される.感音性難聴も罹患者の進行性疾患のひとつである.

罹患者の多くに偏頭痛が起こり,脳卒中の急性期にはしばしば重症となる.

あまり一般的ではない症状に,間代性筋けいれん,運動失調,エピソード性昏睡,視神経萎縮,心筋症,色素性網膜症,眼筋麻痺,糖尿病,多毛,胃腸運動障害,腎症がある.

表4 MELAS患者110例の臨床徴候

  徴候/症状 症状あり 評価された人数 百分率
基本的徴候 運動不耐症 32 32 100
40歳以下での発症 79 80 99
脳卒中 106 107 99
てんかん 97 102 96
RRF 92 98 95
乳酸アシドーシス 94 101 94
頻繁にみられる徴候 正常な初期発達 56 62 90
痴呆 54 60 90
四肢脆弱 58 65 89
低身長 58 71 82
半盲 42 53 79
頭痛 41 53 77
嘔吐 49 64 77
20歳以下での発症 61 80 76
難聴 46 61 75
学習障害 28 47 60
髄液蛋白45mg/dl以下 17 36 52
その他の徴候 大脳基底核石灰化 24 53 45
家族歴 37 84 44
間代性筋けいれん 27 72 38
小脳徴候 23 70 33
エピソード性昏睡 9 44 20
視神経萎縮 8 41 20
うっ血性心不全 9 51 18
色素性網膜症 10 64 16
ウルフ・パーキンソン・ホワイト症候群 6 43 14
進行性外眼筋麻痺 3 68 13
伝導ブロック 2 47 6
糖尿病 2 27 5
腎症 2 ? ?

Hirano & Pavlakis 1994を改変

一部の患者は,進行性外眼筋麻痺(PEO),真性糖尿病(DM),心筋症,難聴などの一病変のみを呈している.

通常,死亡年齢は10歳から35歳であるが,60歳まで生きた者もいる.末期には反復性感染症や腸閉塞が起こる.

遺伝子型と臨床型の関連

はっきりした遺伝子型と表現型との相関は確認されていない.

全てのミトコンドリアDNA変異において,臨床像は次の3つの要素によって決まる.

  • ヘテロプラスミー.変異ミトコンドリアDNAの相対量.
  • 変異ミトコンドリアDNAの組織分布
  • 閾値効果.酸化的代謝障害に対する組織の脆弱性.

組織脆弱性の閾値は,患者によって大きく変わるものではないが,突然DNAの相対量と組織分布は個人差が大きくMELAS罹患者の臨床的多様性を説明する.ある報告では,臨床症候の程度と筋中の変異ミトコンドリアDNAレベルに相関を認めたが,白血球中の変異ミトコンドリアDNAレベルとの相関は見られなかった.

多様な臨床像(例えば進行性外眼筋麻痺(PEO),真性糖尿病(DM),心筋症,難聴など)は,MT-TL1のA3243G変異と関連する.このことは,筋における変異数が,典型的なMELAS患者よりもPEOの患者においてより多い結果であり,このことはPEO患者のRRFがCOX陽性でなく陰性であることを説明する.

今のところ特定されていない核DNAの要素がミトコンドリアDNA変異の形質発現を修飾する.

ミトコンドリアDNA関連疾患において,浸透率は変異DNAの量と組織分布に依存しており,それらは家族内でも無作為なばらつきがある.

浸透率 

ミトコンドリアDNA関連疾患において,浸透率は変異DNAの量と組織分布に依存しており,それらは家族内でも無作為なばらつきがある.

促進現象

促進現象の証拠は知られていない.分子遺伝学的異常に関する知見が深まることで新しい世代では診断が早まるかもしれない.

頻度 

フィンランド北部からの疫学研究では,A3243G変異の頻度は16.3/100,000(95%信頼区間 11.3-21.4/100,000)であると見積もられている.より新しいフィンランドの研究によると,この推計は実際より高いようだ.


鑑別診断

急性脳卒中 鑑別すべき疾患は若年層における脳卒中の他の原因,すなわち心臓病,頚動脈あるいは脊椎の疾患,鎌状赤血球貧血,血管病,リポ蛋白異常症,静脈血栓症,モヤモヤ病,複雑な偏頭痛,ファブリー病,ホモシスチン尿症を含む.適切な特異的検査のほかに,ミトコンドリア機能不全を示唆する母親の病歴(低身長,偏頭痛,難聴,糖尿病)も,臨床医が正しい診断を下すのを助けるだろう.

進行性外眼筋麻痺(PEO) 鑑別診断には他の眼筋麻痺をきたす疾患が含まれる.

  • 重症筋無力症(変動性の脱力,電気生理学的検査,アセチルコリン受容体抗体レベル上昇,家族歴の欠如).臨床的には,衝動性運動速度の検査と塩化エドロホニウム試験を行うことで,PEOと重症筋無力症をたいてい区別することができる.
  • 眼球咽頭型筋ジストロフィー(遅発性,常染色体優性遺伝,嚥下障害,筋生検では筋線維内空胞が見られる,PABPN1遺伝子の分子遺伝学的検査).
  • 筋強直性ジストロフィー(筋緊張症,顔面麻痺,末端筋萎縮,常染色体優性遺伝,DMPK遺伝子の分子遺伝学的検査).
  • RRFを伴うPEO.筋生検でRRFが見られる場合,MERRFだけでなく,PEOを伴うミトコンドリア性筋障害の別の形態を考慮しなければならない.遺伝形質の慎重な考察は役に立つ.単一のケース(PEOで家族歴の不明な罹患者)では,筋ミトコンドリアDNAのサザンブロット分析によって明示される,ミトコンドリアDNAにおける大規模な欠失が見られる.常染色体優性あるいは劣性遺伝の患者は,複数のミトコンドリアDNA欠失を持っており,またそれは筋ミトコンドリアDNAのサザンブロット分析により明らかにされる.多くのケースで,母系遺伝PEOはA3243G変異で起こる.しかし,ごく一部の例では別のミトコンドリアDNA変異がPEOに関連する.

糖尿病 糖尿病のMELAS患者は普通やせており,中年で発症する.患者は最初食餌療法に,それから経口血糖降下薬に反応するが,すぐにインスリン依存状態になる.母系遺伝を示唆する難聴や家族歴を持つ患者ではMELASを考慮に入れるべきである.

難聴 遺伝性難聴の種類についてはHereditary Hearing Loss and Deafness Overview,あるいはMitochondrial Nonsyndromic Hearing Lossを参照されたい.

MNGIE 胃腸障害(特に腸管の運動障害)が顕著な場合,MNGIEの可能性が考えられる.


臨床的マネジメント

最初の診断時における評価

  • 成長を評価するための身長・体重の計測
  • 聴覚検査
  • 眼科的検査
  • 認知能の評価
  • 理学療法的評価
  • 神経学的評価,MRI,MRS,発作が疑われた場合はEEG
  • 心臓の評価
  • 空腹時血糖とブドウ糖負荷試験による糖尿病のスクリーニング

病変に対する治療

  • 感音性難聴は人工内耳により治療ができる
  • 眼瞼下垂は眼瞼形成術などの外科治療によって改善できる
  • PEOや網膜症に対する治療法はない
  • 有酸素運動はMELASや他のミトコンドリア病に有効である.脳卒中発作後の患者には理学療法を行う
  • 痙攣は古典的な抗痙攣剤が奏功する
  • 偏頭痛には通常の鎮痛薬が奏功する
  • 心症状は通常の薬物治療で軽減する
  • 糖尿病は食事療法のみ(特にやせた患者)や経口剤で治療できる場合もあるが,高率にインスリン投与が必要となる

一次病変の予防

  • MELASに対する特異的な治療法はない
  • コエンザイムQ10(50-100 mg 3x/日)やL-カルニチン(1000 mg 3x/日)の投与が一部の患者に対してある程度の効果を示している
  • コエンザイムQ10の中でidebenoneは血液脳関門をより高率に通過し,症例検討では有効性があると報告されている.

経過観察

罹患患者やリスクのある家族は定期的に病状の進行や新たな症状の出現について定期的な検査を受ける必要がある.年1回の眼科,循環器,内分泌の評価が推奨される.

回避すべき薬物や環境

ジクロロアセテート (DCA)はピルビン酸脱水素酵素群を活性化させて血中乳酸濃度を低下させる.有効性について検討した症例研究はプラセボを用いた二重盲検ではなかったが,末梢神経に対する毒性効果が認められ,MELAS患者(すでに末梢神経障害のリスクが高い)はDCAを避けるべきだと結論づけられた.

リスクのある親族の検査

リスクのある母方親族に対する分子遺伝学的検査は変異DNA比率が高く,症状を発現する可能性の高い人を同定するのに役立つかもしれない.しかしながら,現在のところ臨床像に影響を与えることが明らかにされたような医療介入は存在しない.

研究中の治療法

L-アルギニンの経口投与は,急性期においてなされた場合は脳卒中様発作の重症度を和らげ,発作間の投与では発作頻度が減少するようだ.これらのデータを確かめるためには,二重盲検法を用いた研究が必要である.

経口的コハク酸投与の効果についてはひとつだけ報告がある.

その他多様な疾患の臨床試験に関する情報は ClinicalTrials.gov を参照のこと.


遺伝カウンセリング

「遺伝カウンセリングは個人や家族に対して遺伝性疾患の本質,遺伝,健康上の影響などの情報を提供し,彼らが医療上あるいは個人的な決断を下すのを援助するプロセスである.以下の項目では遺伝的なリスク評価や家族の遺伝学的状況を明らかにするための家族歴の評価,遺伝子検査について論じる.この項は個々の当事者が直面しうる個人的あるいは文化的な問題に言及しようと意図するものではないし,遺伝専門家へのコンサルトの代用となるものでもない.」

遺伝形式

MELASはミトコンドリアDNAの変異によって起こり,母系遺伝する.

患者家族のリスク
 
発端者の両親

  • 発端者の父親は病原となるミトコンドリアDNA変異を持たない.
  • 発端者の母親は(たいてい)ミトコンドリアDNA変異を持ち,症状のある場合とない場合がある.母親の中には白血球中に病原性変異が見られない者や,別の組織―培養皮膚線維芽細胞,毛胞,尿沈渣,最も確実なのは骨格筋―に見られる者もいる.
  • 代わりになるべきものとして,発端者ははじめからミトコンドリア変異を持っている.

発端者の同胞 

  • 同胞のリスクは,母親の遺伝子の状態による.
  • 母親がミトコンドリアDNA変異を持っているならば,全ての発端者の同胞は病原性のミトコンドリアDNA変異を受け継ぎ,症状は出る場合と出ない場合がある.あるグループの研究では,母親の血液のミトコンドリアDNA変異レベルが高いほど,子孫の発症頻度は上がる.

発端者の子 

  • 女性(発症,未発症)は全ての子に変異を伝える.
  • ミトコンドリアDNA変異を持つ男性の子に変異が伝わることはない.

発端者の他の家族 他の家系内メンバーへのリスクは発端者の母親の遺伝子状態による.もし母親がミトコンドリア変異を持っていれば,兄弟姉妹や母親もリスクを有する.

遺伝カウンセリングに関連した問題

表現型のばらつき MT-TL1のA3243G変異を持つ家族はMELASよりもMELAS以外の徴候(例えば糖尿病,難聴)を示す可能性が高い.

ミトコンドリアDNA変異を持つ患者の表現型は,変異の重症度,変異ミトコンドリアの割合,また,それらの見られる器官や組織,を含む要素の組み合わせに由来する.異なる家系内メンバーは,しばしば異なる割合の変異ミトコンドリアDNAを遺伝によって受け継ぐ.それゆえ幅広い臨床症状を呈するのである.

無症候でリスクのある家系内メンバーの検査結果を説明するのは非常に難しい.検査結果に基づく表現型の予測は不可能である.

家族計画 遺伝的リスクの評価や遺伝カウンセリングは妊娠前に行われるのが望ましい.患者家族が遺伝子検査を受ける場合も同様である.

DNAバンキング DNAバンクは主に白血球から調製したDNAを将来の使用のために保存しておくものである.検査法や遺伝子,変異あるいは疾患に対するわれわれの理解が進歩するかもしれないので,DNAの保存は考慮に値する.

出生前診断

MELASに対する出生前診断によって情報が増えるわけではないが,技術的には可能である.DNAは胎生16−18週に採取した羊水中細胞や10−12週*に採取した絨毛から調製する.出生前診断を行う以前に,罹患している家族において病因となる遺伝子変異が同定されている必要がある.

注:胎生週数は最終月経の開始日あるいは超音波検査による測定に基づいて計算される.

出生前診断の結果の判断は以下の理由により難しい.

  • 母親の組織や抽出された胎児の組織(羊膜や絨毛膜絨毛など)の突然変異荷重は,他の胎児の組織と一致しない.
  • 出生前に抽出された組織の突然変異荷重はランダムな有糸分裂のため,子宮中,あるいは生後に変化する可能性がある.

表現型,発症年齢,重症度,進行の割合を予測するのは不可能である.

訳注:日本ではMELASに対する出生前診断は行われていない.


原文 MELAS

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