Gene Reviews著者: Salvatore DiMauro, MD and Michio Hirano, MD.
日本語訳者: 和泉 賢一 (札幌医科大学医学部遺伝医学,NGSDプロジェクト)
Gene Reviews 最終更新日: 2013.11.21 日本語訳最終更新日: 2017.12.29
原文 MELAS
疾患の特徴
MELAS(ミトコンドリア脳筋症,乳酸アシドーシス,脳卒中様エピソード)は一般に小児期に発症する多臓器疾患である.初期の精神運動発達は正常であるが,低身長がよく認められる.発症年齢は2~10歳が多く,初発症状は通常,全身性強直・間代てんかん,反復する頭痛発作,食思不振,反復する嘔吐である.運動不耐性や四肢近位部における脱力感が初期症状となりうる.発作はしばしば一過性片側不全麻痺や,皮質盲の脳卒中様症状発作と合併する.これらの脳卒中様症状は,意識障害と関係しており,反復することもある.脳卒中様発作の影響が蓄積することにより,多くの場合青年期までに,徐々に運動能力,視力,精神機能を損なう.感音性難聴もよく見られる.
診断・検査
MELASの臨床診断は,基本的に臨床所見と分子遺伝学的検査によってなされる.ミトコンドリア遺伝子MT-TL1のtRNALeu(UUR)の変異が原因であり,最も高頻度にみられる塩基番号3243のA>G変異(m.3243A>G)は典型的な臨床所見を示す患者の80%以上に認められる.MT-TL1,ほかのミトコンドリア遺伝子,特にMT-ND5遺伝子変異も同じ病態を引き起こす.病的変異は通常患者の白血球DNAで検査するが,ミトコンドリア病の「ヘテロプラスミー」の出現は,変異ミトコンドリアDNA組織の分布を変化させることになる.したがって,病因性変異は白血球には認められず,他の組織(培養皮膚線維芽細胞,毛包,尿沈渣,或いはもっとも信頼性の高い部位としては骨格筋などのような組織で)のみで見られることもある.
臨床的マネジメント
MELASに対する特異的な治療法は存在しない.感音性難聴に対しては人工内耳治療が行われる.痙攣は古典的な抗痙剤が奏功する.糖尿病は食事指導,経口糖尿病薬やインスリンによって治療する.L-アルギニンは痙攣発作に有効である.片頭痛や心臓症状には,一般的な治療が行われる.
1次予防:
コエンザイムQ10やそのアナログ製剤であるイデベノンは患者によって有効とされている.
2次予防:
熱性疾患は増悪因子とされているため,MELASの患者は標準的な子供のワクチン,インフルエンザワクチン,肺炎球菌ワクチンを受けるべきである.
サーベイランス:
罹患者やリスクのある血縁者には定期的に,増悪がないか,新しい症状がないかをフォローすべきである.毎年,眼科的,心臓的(心電図や心エコー),内分泌的(空腹時血糖やTSH)評価が勧められる.
避けるべき薬物や環境:
アミノグリコシド,リネゾリド,たばこ,酒などのミトコンドリア毒性の強いもの;てんかんに使われるバルプロ酸;ジクロロアセテート(DCA)である.末梢神経障害のリスクを増加させる.
妊娠管理:
罹患者やリスクのある妊婦では糖尿病や呼吸障害のモニターをすべきであり,それらは治療介入を行う必要があるかもしれない.
遺伝カウンセリング
MELASはミトコンドリアDNAの変異によって起こり,母系遺伝である.発端者の父親が病因となるミトコンドリアDNA変異を持っている可能性はない.母親の方は通常ミトコンドリアDNA変異を持ち,症状がある場合もない場合もある.ミトコンドリアDNA変異を持つ男性が子孫にその変異を遺伝させることはない.女性(罹患・非罹患によらず)は全ての子孫に変異を遺伝させる.ミトコンドリアDNA変異が認められたとしても,MELASの出生前診断や着床前診断(PGD)は,母親のミトコンドリア遺伝子の病的変異が見つかっている場合は可能である.しかし,母親の組織や胎児の検体(羊膜や絨毛膜絨毛など)の変異DNAの比率は胎児組織のそれとは一致しないし,出生前の検体組織における変異DNAの比率はランダムな有糸分裂のため,子宮内で,あるいは生後に変化するかもしれないため,出生前の検査での確定的な表現型の予測はできない.
臨床診断
MELAS(ミトコンドリア脳筋症,乳酸アシドーシス,脳卒中様エピソード)の臨床診断は,以下の基準に基づいてなされる.
診断の確定には,以下のうちの2つ以上が必要である.
検査
血中,脳脊髄液中の両方における乳酸アシドーシス MELAS患者は一般に安静時の乳酸とピルビン酸の濃度が高く,適度な運動の後は過剰に上昇する.
注:(MELAS診断に無関係で)乳酸・ピルビン酸濃度が上昇するのは,てんかんや脳卒中のような急性神経症状の場合である.
髄液の蛋白濃度上昇 髄液蛋白濃度は上昇するが100mg/dlを超えることはまれである.
脳画像検査 脳卒中様症状時,脳MRIではT2高信号領域が認められる.典型例では大脳後部を含み,主要動脈の分布には一致しない.初発症状に続いて何週間にもわたる脳卒中様障害のゆっくりとした拡大が,T2強調MRIにより観察される[Iizuka et al 2003].加えて,拡散強調MRIでは,虚血性脳卒中におけるみかけの拡散係数(ADC)減少とは反対に,MELASの脳卒中様障害におけるADC増加を示す[Kolb et al 2003].
CTでは大脳基底核の石灰化もよく見られる.
心電図 心電図においては心筋症,異常早期興奮,不完全心臓ブロックが認められる.
筋電図および神経伝導速度検査 は筋障害のプロセスに一致するが,神経障害も同時に存在する.神経障害は比較的よく見られ(32人の患者のうち22%),たいてい混合型,脱髄型である[Karppa et al 2003, Kaufmann et al 2006].
筋生検 ではGomori-trichrome変法染色により,赤色ぼろ線維(RRF),あるいは組織化学的なコハク酸脱水素酵素(SDH)染色の非常に強い反応による「青色ぼろ線維」がみられる.RRFはCOX組織化学的染色に反応しないKearns-Sayre症候群(KSS)やMERRF(RRFを伴うミオクローヌスてんかん)といった他のミトコンドリア遺伝病とは反対[Filosto et al 2007]に,たいていシトクロムcオキシダーゼ(COX)染色で陽性に染まる[Dimauro & Bonilla 1997].MELASの特有症候ではないが,特徴である特別な形態素性は,SDH染色(strongly succinate dehydrogenase-reactive blood vessels(SSV))で良く染まる[Hasegawa et al 1991],平滑筋や筋血管内皮細胞中の過剰なミトコンドリアである.
呼吸鎖の検査 筋抽出物中の呼吸鎖酵素の生化学的検査では,特に複合体I and/or 複合体IVに関係する複数の部分的欠損が認められる.しかし,この検査結果は正常な場合もありうる.
分子遺伝学的検査
遺伝子
他のミトコンドリアDNA,tRNA遺伝子
MELASを引き起こす病的変異はMT-TC,MT-TK, MT-TV,MT-TF,MT-TQ, MT-TS1, MT-TS2, MT-TWをコードするtRNA遺伝子と蛋白をコードする遺伝子MT-CO1, MT-CO2, MT-CO3, MT-CYB, MT-ND1, MT-ND3, MT-ND6に認められる(表1と分子遺伝学参照).
分子遺伝学的検査:臨床的検査法
表1 MELASにおける分子遺伝学的検査の要約
遺伝子1 | MELASの原因変異である比率 | 検査法 | 検出される変異2 |
---|---|---|---|
MT-TL1 | ~80% | 病的変異の標的解析3 | m.3243A>G |
~7.5% | m.3271T>C | ||
<5% | m.3252A>G | ||
<10% | シークエンス解析4/ 病的変異のスキャン5 | シークエンス変異 | |
MT-ND5 | <15% | 病的変異の標的解析3 | 標的変異のみ3 m.13513G>A |
<5% | シークエンス解析4/ 病的変異のスキャン5 | シークエンス変異 | |
MT-TF | 稀 | シークエンス解析4/ 病的変異のスキャン5 | シークエンス変異 |
MT-TH | 稀 | シークエンス解析4/ 病的変異のスキャン5 | シークエンス変異 |
MT-TK | 稀 | シークエンス解析4/ 病的変異のスキャン5 |
シークエンス変異 |
MT-TQ | 稀 | 病的変異の標的解析3 シークエンス解析4/ 病的変異のスキャン5 | m.4332G>A変異のみ3 シークエンス変異 |
MT-TS1 | 稀 | シークエンス解析4 | シークエンス変異 |
MT-TS2 | 稀 | シークエンス解析4 | シークエンス変異 |
MT-ND1 | 稀 | シークエンス解析4 | シークエンス変異 |
MT-ND6 | 稀 | シークエンス解析4 | シークエンス変異 |
検査戦略
発症者の診断確定
血液白血球,頬粘膜,尿沈渣などはどれもミトコンドリアDNAの検査にしようすることがある.
リスクのある妊婦の出生前診断や着床前診断は,先に家系内の病的変異の同定が必要である.
自然経過
MELASはさまざまな症候を呈する多臓器疾患である.
典型的なケースでは,発症は小児期に起こる.初期の精神運動発達は正常であるが,低身長がよく認められる.発症年齢は2~10歳が多いが,中には10~40歳と遅れる場合もある.2歳以前,或いは40歳以後の発症はまれである.初発症状は通常,全身性強直・間代てんかん,反復性の頭痛発作,食欲不振,反復性の嘔吐発作である.運動不耐性や四肢近位部における脱力感が初期症状となり,全身性強直・間代てんかんがそれに続発する.表2 MELAS発症年齢
発症年齢(87名) | 人数 | 百分率 |
---|---|---|
<2歳 | 7 | 8 |
2-5歳 | 17 | 20 |
6-10歳 | 27 | 31 |
11-20歳 | 15 | 17 |
21-40歳 | 20 | 23 |
>40歳 | 1 | 1 |
表3 MELASの初発症状
初症状/徴候(60名)1 | 人数 | 百分率 |
---|---|---|
てんかん | 17 | 28 |
頭痛発作 | 17 | 28 |
胃腸症状(嘔吐発作・食欲不振) | 15 | 25 |
四肢脱力 | 11 | 18 |
低身長・成長停止 | 11 | 18 |
脳卒中 | 10 | 17 |
意識障害 | 7 | 12 |
精神障害 | 7 | 12 |
難聴 | 6 | 10 |
運動不耐 | 6 | 10 |
視覚症状 | 5 | 8 |
発育遅滞 | 3 | 5 |
発熱 | 3 | 5 |
転倒発作 | 1 | 1 |
歩行障害 | 1 | 1 |
てんかんは,しばしば一過性片側不全麻痺や皮質盲といった脳卒中様症状を合併する.脳卒中様症状は意識障害と関連し,また頻発する.脳卒中様症状の反復によって,思春期・青春期頃までに徐々に運動能力,視覚,精神作用が障害され感音性難聴も罹患者の進行性疾患のひとつである.
罹患者の多くに偏頭痛が起こり,脳卒中の急性期にはしばしば重症となる.
この状態の患者には、精神的な症状が現れることがある.26人のMELASのミトコンドリア疾患をもつ患者の精神症状は次のようなものである.抑うつ症状(n=5),認知障害(n=11),精神障害(n=15), 不安神経症(n=6), 前頭葉症候群(n=3),人格障害(n=2)[Anglin et al 2012].
あまり一般的ではない症状に,間代性筋けいれん,運動失調[Pertruzzella et al 2004],エピソード性昏睡,視神経萎縮,心筋症[Menotti et al 2004, Wortmann et al 2004],色素性網膜症,眼筋麻痺,糖尿病,多毛,胃腸運動障害[Garcia-Velasco et al 2003, Chang et al 2004],腎症がある.
表4 MELAS患者110例の臨床徴候
徴候/症状 | 症状あり1 | 評価された人数2 | 百分率(%) | |
---|---|---|---|---|
基本的徴候 | 運動不耐症 | 32 | 32 | 100 |
40歳以下での発症 | 79 | 80 | 99 | |
脳卒中 | 106 | 107 | 99 | |
てんかん | 97 | 102 | 96 | |
RRF | 92 | 98 | 95 | |
乳酸アシドーシス | 94 | 101 | 94 | |
頻繁にみられる徴候 | 正常な初期発達 | 56 | 62 | 90 |
認知症 | 54 | 60 | 90 | |
四肢脆弱 | 58 | 65 | 89 | |
片麻痺 | 57 | 69 | 83 | |
低身長 | 58 | 71 | 82 | |
半盲 | 42 | 53 | 79 | |
頭痛 | 41 | 53 | 77 | |
嘔吐 | 49 | 64 | 77 | |
20歳以下での発症 | 61 | 80 | 76 | |
難聴 | 46 | 61 | 75 | |
学習障害 | 28 | 47 | 60 | |
髄液蛋白45mg/dl以上 | 17 | 36 | 52 | |
その他の徴候 | 大脳基底核石灰化 | 24 | 53 | 45 |
家族歴 | 37 | 84 | 44 | |
ミオクローヌス | 27 | 72 | 38 | |
小脳徴候 | 23 | 70 | 33 | |
一過性昏睡 | 9 | 44 | 20 | |
視神経萎縮 | 8 | 41 | 20 | |
うっ血性心不全 | 9 | 51 | 18 | |
色素性網膜症 | 10 | 64 | 16 | |
WPW症候群 | 6 | 43 | 14 | |
進行性外眼筋麻痺 | 9 | 68 | 13 | |
心伝導ブロック | 3 | 47 | 6 | |
糖尿病 | 2 | 27 | 5 | |
腎症 | 2 | ? | ? |
Hirano & Pavlakis 1994を改変
一部の患者は,進行性外眼筋麻痺(PEO),真性糖尿病(DM),心筋症,難聴などの一病変のみを呈している[Hirano & Pavlakis 1994].
この病気は卒中様症状に関連した意識低下と同様に年をとるにつれ増悪する.
進行は人により様々である.MELASのm.3243A>G変異をもつ33人の大人の3年間のコーホート研究では,感覚神経障害,左室肥大,脳波異常,全体の重症度の悪化が認められた[Majamaa-Voltti et al 2006].31人のMELAS患者と,54人の症状のあるなしを問わない保因血縁者の10.6年の自然経過をみた研究では神経学的検査,神経心理学的検査,日常生活スコアはMELASに罹患した人すべてで著明に減少した.しかしながら,保因血縁者では違いは認めなかった.死亡率は,保因血縁者に比べて完全に症状のある患者では17倍以上であった.MELAS罹患者群では,死亡年齢は平均して34.5±19歳(範囲10.2-81.8歳)であった.死亡した方のうち、22%は18歳以下であった.全体での推定中央生存期間は症状が完全にある患者では,神経巣症状出現後16.9年であった[Kaufmann et al 2011].日本のMELAS患者96人の前向きコーホート研究では5年のインターバルで急速な悪化を示し,患者の20.8%は診断から7.3年の中央期間で死亡した[Yatsuga et al 2012].
神経病理学.大脳皮質に顕著に表れる海綿状脳症が認められる[Sparaco et al 1993].血管奇形が神経病理学的検査で認められる[Betts et al 2006].
遺伝子型‐表現型の相関
はっきりした遺伝子型と表現型との相関は確認されていない.
全てのミトコンドリアDNA変異において,臨床像は次の3つの要素によって決まる.
組織脆弱性の閾値は,患者によって大きく変わるものではないが,変異DNAの負荷量と組織分布は個人差が大きくMELAS罹患者の臨床的多様性を説明するかもしれない.ある報告では,臨床症候の程度と筋中の変異ミトコンドリアDNAレベルに相関を認めたが,白血球中の変異ミトコンドリアDNAレベルとの相関は見られなかった[Chinnery et al 1997, Jeppesen et al 2006].
多様な臨床像(例えば進行性外眼筋麻痺(PEO),糖尿病(DM),心筋症,難聴など)は,同じMT-TL1のm.3243A>G変異と関連する.このことは,筋における変異数量が,典型的なMELAS患者よりもPEOの患者においてより多い結果であり,このことはPEO患者のRRFがCOX陽性でなく陰性であることを説明する[Petruzzella et al 1994].
今のところ特定されていない核DNAの要素がミトコンドリアDNA変異の形質発現を修飾する[Moraes et al 1993].
浸透率
ミトコンドリアDNA関連疾患において,浸透率は変異DNAの量と組織分布に依存しており,それらは家族内でも無作為なばらつきがある(遺伝型―表現型相関を参照).
促進現象
促進現象の証拠は知られていない.分子遺伝学的異常に関する知見が深まることで新しい世代では診断が早まるかもしれない.
頻度
フィンランド北部からの疫学研究では,m.3243A>G変異の頻度は16.3/100,000(95%信頼区間 11.3-21.4/100,000)であると見積もられている[Majamaa et al 1997].より新しいフィンランドの研究によると,この推計は実際より高いようだ[Uusimaa et al 2004].しかし,オーストラリアの研究では、難聴によく関与するm.3243A>G変異は236/100000と報告している[Manwaring et al 2007].
ミトコンドリアのMT-TL1 のm.3243A>G病的変異は,外眼筋麻痺(PEO),難聴の有無を問わず母親由来の糖尿病(DM),心筋症,難聴を含むミトコンドリア疾患の多様性に関与しているかもしれない[Nesbitt et al 2013].Mitchondrial Disorders Overview参照.
Mitchondrial Disorders Overview参照.
POLG. MELASの患者の中には,ポリメラーゼγの触媒サブユニットである核DNAのPOLG遺伝子の病的変異を複合ヘテロで持っている人がいる.POLG関連疾患参照.
急性脳卒中 鑑別すべき疾患は若年層における脳卒中の他の原因,すなわち心臓病,頚動脈あるいは脊椎の疾患,鎌状赤血球貧血,血管病,リポ蛋白異常症,静脈血栓症,モヤモヤ病,複雑な偏頭痛,ファブリー病,シスタチオニンβ合成酵素欠損によるホモシスチン尿症を含む[Meschia & Worrall 2004, Meschia et al 2005].適切な特異的検査のほかに,ミトコンドリア機能不全を示唆する母親の病歴(低身長,偏頭痛,難聴,糖尿病)も,臨床医が正しい診断を下すのを助けることがある.
進行性外眼筋麻痺(PEO) 鑑別診断には他の眼筋麻痺をきたす疾患が含まれる.
糖尿病 糖尿病のMELAS患者は普通やせており,中年で発症する.患者は最初食事療法に,それから経口血糖降下薬に反応するが,すぐにインスリン依存状態になる.母系遺伝を示唆する難聴や家族歴を持つ患者ではMELASを考慮に入れるべきである.
難聴 遺伝性難聴の種類についてはHereditary Hearing Loss and Deafness Overview,あるいはMitochondrial Nonsyndromic Hearing Lossを参照されたい.
MNGIE(Mitochondrial neurogastrointestinal encephalopathy) 胃腸の運動障害,悪液質,神経障害が顕著な場合,MNGIEの可能性が考えられる.
最初の診断時における評価
MELASと診断された患者の必要度と疾患の重症度を確立するため,次のような評価を推奨する
病変に対する治療
一次病変の予防
2次合併症の予防
熱性疾患は急速な増悪のトリガーになることかもしれないので,MELASの患者は一般的な小児期のワクチン定期接種、インフルエンザワクチン,肺炎球菌ワクチンを受けるべきである.
経過観察
罹患患者やリスクのある家族は定期的に病状の進行や新たな症状の出現について定期的な検査を受ける必要がある.年1回の眼科,循環器(心電図と心エコー),内分泌の評価(空腹時血糖とTSH)が推奨される.
回避すべき薬物や環境
MELASの患者は次のようなミトコンドリア毒性をもつ薬物を避けるべきである;アミノグリコシド抗菌剤,リネゾリド,たばこ,酒.バルプロ酸はてんかんの治療では避けるべきである[Lin & Thajeb 2007].
ジクロロアセテート (DCA)はピルビン酸脱水素酵素群を活性化させて血中乳酸濃度を低下させる.有効性について検討した症例研究はプラセボを用いた二重盲検ではなかったが,末梢神経に対する毒性効果が認められ,MELAS患者(すでに末梢神経障害のリスクが高い)はDCAを避けるべきだと結論づけられた[Kaufmann et al 2006a].
リスクのある親族の検査
リスクのある母方親族に対する分子遺伝学的検査は変異DNA比率が高く,症状を発現する可能性の高い人を同定するのに役立つかもしれない.しかしながら,現在のところ臨床像に影響を与えることが明らかにされたような医療介入は存在しない.
妊娠管理
不妊のため、罹患者は妊娠できないかもしれない.MELASの女性は妊娠前に遺伝カウンセリングを受けるべきである.妊娠中,罹患するリスクのある女性は,治療介入が必要とされるような糖尿病や気管支疾患についてモニターされるべきである.
研究中の治療法
L-アルギニンの経口投与は,急性期においてなされた場合は脳卒中様発作の重症度を和らげ[Koga et al 2005],発作間の投与では発作頻度が減少するようだ[Koga et al 2005, Koga et al 2010].これらのデータを確かめるためには,二重盲検法を用いた研究が必要である.
経口的コハク酸投与の効果についてはひとつだけ報告がある[Oguro et al 2004].
進行する心筋炎の心移植の役割は報告されている[Bhati et al 2005].
ミトコンドリアDNA病的変異遺伝子を除くために受精した卵母細胞や接合子から核DNAを, 脱核したレシピエント細胞への移植する方法は理論的にはミトコンドリアDNA疾患の伝達を予防することができるだろう.この概念は 試験管内でいくつかの分裂を行った異常な受精した接合子から得られた前核置換の中で証明された[Craven et al 2010].
その他多様な疾患の臨床試験に関する情報は ClinicalTrials.gov を参照のこと.
「遺伝カウンセリングは個人や家族に対して遺伝性疾患の本質,遺伝,健康上の影響などの情報を提供し,彼らが医療上あるいは個人的な決断を下すのを援助するプロセスである.以下の項目では遺伝的なリスク評価や家族の遺伝学的状況を明らかにするための家族歴の評価,遺伝子検査について論じる.この項は個々の当事者が直面しうる個人的あるいは文化的な問題に言及しようと意図するものではないし,遺伝専門家へのコンサルトの代用となるものでもない.」
遺伝形式
MELASはミトコンドリアDNAの変異によって起こり,母系遺伝する.
患者家族のリスク
発端者の両親
発端者の同胞
発端者の子
発端者の他の家族
他の家系内メンバーへのリスクは発端者の母親の遺伝子状態による.もし母親がミトコンドリア変異を持っていれば,兄弟姉妹や母親もリスクを有する.
遺伝カウンセリングに関連した問題.
表現型のばらつき MT-TL1のm.3243A>G変異を持つ家族はMELASよりもMELAS以外の徴候(例えば糖尿病,難聴)を示す可能性が高い.
ミトコンドリアDNA変異を持つ患者の表現型は,変異の重症度,変異ミトコンドリアの割合,また,それらの見られる器官や組織,を含む要素の組み合わせに由来する.異なる家系内メンバーは,しばしば異なる割合の変異ミトコンドリアDNAを遺伝によって受け継ぐ.それゆえ幅広い臨床症状を呈するのである.
無症候でリスクのある家系内メンバーの検査結果を説明するのは非常に難しい.検査結果に基づく表現型の予測は不可能である.
家族計画 遺伝的リスクの評価や遺伝カウンセリングは妊娠前に行われるのが望ましい.
リスクのある若い方に遺伝カウンセリング(子孫へのリスクや生殖医療のオプションを含め)を提供するのは適切であ
DNAバンキング DNAバンクは主に白血球から調製したDNAを将来の使用のために保存しておくものである.検査法や遺伝子,変異あるいは疾患に対するわれわれの理解が進歩するかもしれないので,DNAの保存は考慮に値する.
出生前診断
MELASにおこすミトコンドリアDNA病的変異の出生前診断にの効用ははっきりしていないが,関連遺伝子の検査やカスタム化された出生前診断検査を提供する施設では可能である.母親のミトコンドリア病的遺伝子変異は子の出生前検査前に同定されなければならない.
妊娠中の遺伝子変異の割合の変化は,m.3243A>Gミトコンドリア病的変異遺伝子の家系で5人の女性の9回の妊娠での小研究で評価されている.変異の割合は絨毛(一度測定されている)と羊膜細胞(妊娠の間に1回から2回調べられている)は変化はなかった[Bouchet et al 2006].(出生前診断かPGDで評価した)胎児の変異ミトコンドリアの割合が35%かそれ以下と思われた11回の妊娠では、1月から5年フォローした限りでは健康な子が生まれている;変異の割合が63%と評価された1回の妊娠は,堕胎となった[Monnot et al 2011, Treff et al 2012].出生前検査の意義を確立するためには、さらなる研究が必要である.
出生前診断の結果の解釈は次のような理由で複雑である:
表現型,発症年齢,重症度,進行の割合を予測するのは不可能である.
着床前診断は病的変異の同定されている家族では,選択肢のことがある
Mitochondrial Encephalomyopathy, Lactic Acidosis, and Stroke-Like Episodes
Mitochondrial encephalomyopathy, lactic acidosis, and stroke-like episodes
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Phone: 301-435-3032
Email: eyeGENEinfo@nei.nih.gov
www.nei.nih.gov/eyegene
分子遺伝学やOMIMのテーブルと異なっていることがある:テーブルには最も新しい情報が含まれている.
Table A. MELAS:遺伝子とデータベース
遺伝子 | 遺伝子座 | 蛋白 |
---|---|---|
MT-CO1 | Mitochondria | Cytochrome c oxidase subunit 1 |
MT-CO2 | Mitochondria | Cytochrome c oxidase subunit 2 |
MT-CO3 | Mitochondria | Cytochrome c oxidase subunit 3 |
MT-CYB | Mitochondria | Cytochrome b |
MT-ND1 | Mitochondria | NADH-ubiquinone oxidoreductase chain 1 |
MT-ND5 | Mitochondria | NADH-ubiquinone oxidoreductase chain 5 |
MT-ND6 | Mitochondria | NADH-ubiquinone oxidoreductase chain 6 |
MT-TC | Mitochondria | Not applicable |
MT-TF | Mitochondria | Not applicable |
MT-TH | Mitochondria | Not applicable |
MT-TK | Mitochondria | Not applicable |
MT-TL1 | Mitochondria | Not applicable |
MT-TQ | Mitochondria | Not applicable |
MT-TS1 | Mitochondria | Not applicable |
MT-TS2 | Mitochondria | Not applicable |
MT-TV | Mitochondria | Not applicable |
MT-TW | Mitochondria | Not applicable |
データ表記は標準的な記載法に則っている.遺伝子はHGNCより,染色体座,名,領域,補足などはOMIMより,蛋白はUniprot参照.
Table B. OMIMに登録されているMELAS一覧(OMIM参照)
516000 | COMPLEX I, SUBUNIT ND1; MTND1 |
516005 | COMPLEX I, SUBUNIT ND5; MTND5 |
516006 | COMPLEX I, SUBUNIT ND6; MTND6 |
516020 | CYTOCHROME b OF COMPLEX III; MTCYB |
516030 | COMPLEX IV, CYTOCHROME c OXIDASE SUBUNIT I; MTCO1 |
516040 | COMPLEX IV, CYTOCHROME c OXIDASE SUBUNIT II; MTCO2 |
516050 | CYTOCHROME c OXIDASE III; MTCO3 |
540000 | MITOCHONDRIAL MYOPATHY, ENCEPHALOPATHY, LACTIC ACIDOSIS, AND STROKE-LIKE EPISODES; MELAS |
590020 | TRANSFER RNA, MITOCHONDRIAL, CYSTEINE; MTTC |
590030 | TRANSFER RNA, MITOCHONDRIAL, GLUTAMINE; MTTQ |
590040 | TRANSFER RNA, MITOCHONDRIAL, HISTIDINE; MTTH |
590050 | TRANSFER RNA, MITOCHONDRIAL, LEUCINE, 1; MTTL1 |
590060 | TRANSFER RNA, MITOCHONDRIAL, LYSINE; MTTK |
590070 | TRANSFER RNA, MITOCHONDRIAL, PHENYLALANINE; MTTF |
590080 | TRANSFER RNA, MITOCHONDRIAL, SERINE, 1; MTTS1 |
590085 | TRANSFER RNA, MITOCHONDRIAL, SERINE, 2; MTTS2 |
590095 | TRANSFER RNA, MITOCHONDRIAL, TRYPTOPHAN; MTTW |
590105 | TRANSFER RNA, MITOCHONDRIAL, VALINE; MTTV |
分子遺伝病態生理学
疾患の起きるメカニズムは完全には解明されていないが,興味ある所見がサイブリッドの細胞株の研究から得られている.サイブリッドはミトコンドリアDNAの少ない不死化したヒト細胞株(rho0 細胞)をm.3243A>Gまたはほかの病的変異をもつMELASの罹患者のミトコンドリアで再配置させたものである[King & Attardi 1989].サイブリッド細胞株研究によりMT-TL1 m.3243A>G病的変異の比率がミトコンドリアタンパク合成低下,酸素消費低下,変異遺伝子を含む未加工のRNA断片および指定されたRNA-19の量の増加と相関することがわかった[King et al 1992].高レベルのRNA-19はMELASの患者の組織中に認められる[Kaufmann et al 1996].ほかの研究は変異tRNAのレベルが低いことやアミノアシル化の減少,タンパク合成の低下に関連するかもしれないDステム改変の修飾能低下を示している[Helm et al 1999, Borner et al 2000, Chomyn et al 2000].別の仮説としては,こちらもサイブリッド細胞での仕事をもとにしているが,変異の病原性をアンチコドン動揺性基質のメチルタウリン修飾の欠如のため[Kirino et al 2004],ロイシンのコドンをフェニルアラニンに誤読することのためとしている[Yasukawa et al 2000].
良性アレル変異
良性遺伝子多型はミトコンドリアDNAでは特に多い.(mitomapに載っている).ミトコンドリアDNAは特に初期蛋白のアミノ酸結合のためのミトコンドリアタンパク合成に必須な22のtRNAをコードしている.このGeneReviewで述べている9つの遺伝子は,MT-TL1, MT-TC, MT-TF, MT-TV, MT-TQ, MT-TW, MT-TS1, MT-TS2とMT-TKである.7つの蛋白をコードする遺伝子も検討中である.Table B参照.
病的アレル変異
Table 5参照.
29の単一ヌクレオチド変異と1つのMT-CYBの4塩基欠失がMELASに関係していた(Table 5).
Table 5. MELASに関連したミトコンドリアDNAの病的変異
変異の分類についての注: テーブルのリストの変異は参考文献著者によるものである.GeneReviewsスタッフは独自に変異の証明をしていない.
ミトコンドリアゲノムのシークエンス解析は病的変異のスクリーニングに行うこともできる.他のシークエンスに基づく検査のように,このアプローチは既知のミトコンドリアDNA病的変異を見つけ出す.しかし、variants of uncertain clinical significance (病的意義不明変異;VUS)が見つかるかもしれないという欠点もある[Bannwarth et al 2013, Tang et al 2013].例えば,ミトコンドリア疾患を疑う743人の全ミトコンドリアDNAシークエンスを行った研究では,65人(7.4%)は既知の病的変異が認められたが,167人(22.4%)は"可能性のある"病的変異を認めた[Bannwarth et al 2013].この可能性のある病的変異の解釈は難しく,臨床のそして/または研究の施設で追加検査が必要となる.解釈は次のようなことを含めて病的分類に入るかを検討する:進化的保存の評価,アミノ酸かヌクレオチド変異の病原性のコンピューター上の予測,ミトコンドリアのヘテロプラスミーとホモプラスミー,家系内での変異の分離状態,生化学的問題との関連,single-fiber PCR (COX陰性筋線維かragged-red fibersと正常線維でヘテロプラスミーを測定する),サイブリッド細胞解析[Dimauro & Schon 2001, Yarham et al 2011].それゆえ,特にヘテロプラスミーで、そしてsingle-fiber 解析ができるとき病原性のわからないミトコンドリアDNAをもつ人では,変異の病原性の評価に筋生検は特に有用である.
通常の遺伝子産物
MT-CO2, シトクロームC酸化酵素サブユニットⅡ(227アミノ酸) と MT-CO3, シトクロームC酸化酵素サブユニットⅢ (261アミノ酸)は呼吸鎖の末端電子受容体であるミトコンドリア複合体Ⅳの触媒サブユニットである.
MT-CYB,シトクロームb(112アミノ酸)はミトコンドリア呼吸鎖複合体Ⅲに必須のサブユニットでる.
MT-ND1,NADH脱水素酵素サブユニット1(318アミノ酸);MT-ND5,NADH脱水素酵素サブユニット5(603アミノ酸);そしてMT-ND6,NADH脱水素酵素サブユニット6(174アミノ酸)はミトコンドリア呼吸鎖複合体Ⅰの重要な構成要素である.
異常な遺伝子産物
ミトコンドリア呼吸鎖複合体の構造サブユニットの変異は,酸化的リン酸化を通してATP合成を障害し,血液と脳脊髄液中の乳酸レベルを上昇させる.
原文 MELAS