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多発性内分泌腫瘍症1型
(
Multiple Endocrine Neoplasia Type 1)
[MEN1, MEN1 Syndrome, Multiple Endocrine Adenomatosis, Wermer Syndrome]

Gene Review著者:Francesca Giusti MD, Francesca Marini, PhD, Maria Luisa Brandi, MD, PhD
日本語訳者: 櫻井晃洋(信州大学医学部附属病院遺伝子診療部)  
Gene Review 最終更新日: 2012.9.6  日本語訳最終更新日: 2013.2.2

原文 Multiple Endocrine Neoplasia Type 1(MEN1)


要約

疾患の特徴 

多発性内分泌腫瘍症1型(MEN1)は20種以上の内分泌腫瘍および非内分泌腫瘍がさまざまな組み合わせで生じる症候群である.

内分泌腫瘍は腫瘍からのホルモンの過剰分泌や腫瘍自体の増殖によって発見される.

  1. 副甲状腺腫瘍は最も頻度の高いMEN1関連腫瘍で,90%の患者で20-25歳に発症し,50歳までに高カルシウム血症を呈する.高カルシウム血症は全身倦怠,うつ,意識混濁,食思不振,便秘,嘔気,嘔吐,利尿,脱水,高カルシウム尿症,腎結石,骨吸収の促進と骨折リスクの増大,高血圧,心電図上のQT短縮をきたす.
  2. 下垂体腫瘍ではプロラクチノーマが最も頻度が高く,女性の寡少月経/無月経や乳汁分泌,男性の性機能低下をきたす.
  3. 膵消化管の高分化型内分泌腫瘍は,ガストリノーマではZollinger-Ellison症候群,インスリノーマでは低血糖,グルカゴノーマでは高血糖,食思不振,舌炎,貧血,下痢,静脈血栓症,皮膚発疹,VIP産生腫瘍では水様下痢,低カリウム血症,無酸症をきたす.
  4. カルチノイド腫瘍はホルモンを産生せず50歳以降に大きな腫瘍を形成する.
  5. 副腎皮質腫瘍はコルチゾール過剰やアルドステロン過剰をきたすことがある.

MEN1に伴う非内分泌腫瘍には顔面血管線維腫,結合組織母斑,脂肪腫,髄膜腫,上衣腫,平滑筋肉腫などがある.

診断・検査 

MEN1の臨床診断基準では副甲状腺,下垂体,膵消化管腫瘍のうち2つが存在することが含まれる.生化学検査では副甲状腺機能亢進症による血中副甲状腺ホルモン(PTH)とカルシウム濃度の上昇,プロラクチノーマによる血清プロラクチン濃度の上昇,膵内分泌腫瘍によるガストリン,インスリン,VIP濃度の上昇などを検出する.画像検査ではプロラクチノーマはMRIで,神経内分泌腫瘍はソマトスタチン受容体シンチグラフィーで(訳注:日本では保険適用となっていない),膵内分泌腫瘍は超音波内視鏡で検出される.MEN1の唯一の原因遺伝子であるMEN1遺伝子の遺伝学的検査では,家族性MEN1の発端者の80−90%,散発例の約65%で変異を検出できる.

臨床的マネジメント 

症状に対する治療:副甲状腺機能亢進症に対する治療としては副甲状腺亜全摘術を行って副甲状腺組織を凍結保存するか,副甲状腺全摘術を行って一部を自家移植する.最近の研究では持続型オクトレオタイドやカルシウム受容体作動薬(calcimimetic)も有効である.手術前に高カルシウム血症を改善させ,骨吸収を制御するために骨吸収阻害剤が用いられる.プロラクチノーマはドパミン作動薬で治療する.カベルゴリンが第一選択である.先端巨大症を招く成長ホルモン産生腫瘍は経蝶骨洞手術によって治療する.ソマトスタチン誘導体であるオクトレオタイドやランレオタイドも用いられる.クッシング症候群を招くACTH産生下垂体腫瘍は手術を行う.非機能性下垂体腫瘍には経蝶骨洞手術を行う.ガストリノーマによる胃酸分泌過多に対してはH2ブロッカーやプロトンポンプ阻害剤が投与される.インスリノーマや他の大部分の膵腫瘍に対しては手術を行う.カルチノイド腫瘍に伴うホルモン過剰分泌は持続型ソマトスタチン誘導体で治療する.径が3 cmを超える副腎皮質腫瘍は外科的に摘除することで悪性化を防ぐことができる.

一次病変の予防:男性,特に喫煙者では胸腺摘出術が胸腺カルチノイドの予防となる.

二次病変の予防:副甲状腺の亜全摘/全摘術後は副甲状腺機能低下症の有無を確認するために,PTHと血清カルシウムを測定する.手術中の血圧の急激な上昇を回避するため,手術前には尿中カテコラミンを測定し,褐色細胞腫を否定しておく.

定期検査8歳から血清カルシウム,20歳からガストリン,5歳からプロラクチンを測定する.腹部CTまたはMRIを20歳から,頭部MRIは5歳から開始する.空腹時PTH測定と年1回の胸部CTを考慮する.

リスクのある血縁者の評価:病変の早期発見が治療にも影響するので,すでにMEN1遺伝子変異が同定されている家系の家族に対しては分子遺伝学的検査が提供される.

遺伝カウンセリング 

MEN1は常染色体優性遺伝形式をとる.約10%の患者は新生突然変異による.罹患者の子どもはそれぞれ50%の確率で変異遺伝子を受け継ぐ.MEN1遺伝子変異が同定されている家系では家族に対して分子遺伝学的検査を行うことができる.もし遺伝子変異が明らかにされていれば,出生前診断は技術的には可能である.


診断

臨床診断

MEN1は20種以上の内分泌腫瘍および非内分泌腫瘍がさまざまな組み合わせで生じる.それゆえ単純な定義によってすべての発端者や家族を網羅することはできない.

MEN1に伴う内分泌腫瘍

以下の3病変のうち2病変が存在することが診断の基準となる.これらの腫瘍はホルモンの過剰産生もしくは腫瘍の増殖自体によって明らかとなる.

  • 副甲状腺腫瘍 副甲状腺ホルモンの過剰産生による高カルシウム血症を呈する.
  • 下垂体腫瘍 プロラクチノーマの場合,女性では寡少月経や無月経と乳汁分泌,男性では性機能不全によって明らかとなる.まれには男性にも乳汁分泌がおこる.
  • 高分化型膵消化管内分泌腫瘍(胃十二指腸,膵,小腸腫瘍を含む) 以下のような症状を呈する(頻度の高い順)
      • Zollinger-Ellison症候群(ガストリン産生十二指腸粘膜腫瘍による消化性潰瘍,下痢を伴うことも伴わないこともある)
      • インスリン産生膵腫瘍による低血糖
      • グルカゴン産生膵腫瘍による高血糖,食思不振,舌炎,静脈血栓症,貧血,皮膚発疹(壊死性移動性紅斑)
      • VIP産生腫瘍による水様下痢,低カリウム血症,無酸症(WDHA症候群)

家族MEN1は,MEN1罹患者で一病変を有する者が一度近親者に少なくともひとりいる場合,もしくは一病変を有しMEN1遺伝子変異が同定されている場合,と定義されている.

注:(1)生化学的検査や画像検査でとらえにくい非機能性膵腫瘍はMEN1の腫瘍の中でもっとも頻度が高いものである.(2)2型胃クロマフィン親和性細胞カルチノイドは膵消化管内分泌腫瘍に含める.この腫瘍はMEN1でしばしば見られ,Zollinger-Ellison症候群に対する消化管内視鏡検査の際に偶然発見される.

MEN1に伴う非内分泌腫瘍

  • 皮膚
  • 顔面血管線維腫 血管と結合組織からなる良性腫瘍.座瘡様の丘疹を呈するが消退せず,口唇縁を超えて広がることもある.
  • 結合組織母斑 多発性で皮膚色(時に低色素性)の皮膚結節で体幹,頚部,四肢に対象性に出現する.典型例では無症状で類円形,弾性で硬く,数ミリメートルから数センチメートルの大きさとなる.

    注:VIP産生腫瘍を含む多発性膵消化管内分泌腫瘍の手術後に結合組織母斑の急速な増殖を来したMEN1症例の報告がある.

  • 脂肪腫 通常多発性の良性脂肪組織腫瘍で脂肪が沈着する部位であればどこにでも生じる.多くは皮下腫瘍であるが,内臓に発生することもある.
  • 中枢神経系
    • 髄膜腫 74例中8%に発症したという報告がある.多くは無症状で60%は増殖傾向を示さない.
    • 上衣腫 1%の患者に生じる.
    • 平滑筋肉腫 平滑筋肉由来の良性腫瘍.

MEN1患者32例の調査で,Darlingらは多発性顔面血管線維腫を88%に,結合組織母斑を72%に,カフェ・オレ斑を38%に,脂肪腫を34%に,紙吹雪様色素脱失斑を6%に,多発性歯肉丘疹を6%に認めた.彼らとAsgharianらはこうした皮膚病変がホルモン産生腫瘍発症前のMEN1診断に有用であると報告している.

検査

生化学的検査

ホルモン分泌の生化学的評価は種々の条件に影響されるので,結果の評価に際して基準値の上限を考慮に入れる必要がある.

副甲状腺機能亢進症 副甲状腺機能亢進症は副甲状腺ホルモン濃度の上昇(基準値:10−60 pg/ml)と血清カルシウム濃度の上昇(基準値:8.5-10.5 mg/dlもしくは2.1-2.6 mmol/L)を生じる.

注:尿中カルシウム排泄量の増加も認められるが診断の必須条件ではない.

プロラクチノーマ プロラクチノーマは血清プロラクチン濃度の上昇が特徴である.プロラクチン濃度の基準値は,

  • 閉経前女性 0-20 ng/ml
  • 閉経後女性 0-15 ng/ml
  • 男性 0-15 ng/ml

    注:プロラクチン濃度の上昇は妊娠やドパミン作動薬の使用でも認められる.

高分化型膵消化管内分泌腫瘍

  • ガストリノーマでは基礎ガストリン濃度が上昇している(基準値:<100 ng/L)

ZES症候群と幽門部G細胞過形成のような他の高ガストリン血症との鑑別にはセクレチン(2U/kg)またはカルシウム(4 mg Ca2+/kg/hr for 3 hrs)による負荷試験が必要である.

訳注:現在セクレチンは入手できない.

注:血清ガストリン濃度の上昇は,プロトンポンプ阻害薬などの制酸薬の使用による無酸症でも生じる.

  • インスリノーマは高インスリン血症(基準値:2-20 U/mLまたは14.35-143.3 pmol/L)もしくは高プロインスリン血症を伴う空腹時低血糖が特徴である.

    注:もっとも信頼性の高い評価法は監視下に実施される72時間絶食試験であり,高インスリン血症に伴う低血糖が観察される.

  • VIP産生腫瘍ではイムノアッセイでVIP濃度が上昇している(基準値:<75 pg/ml)

副腎皮質腫瘍は一般に非機能性であるがコルチゾール(基準値:午前8時,空腹 5-25 mg/dl,正午〜午後8時 5-15  m g/dl,午後8時〜午前8時 0-10  m g/dl)の過剰分泌を伴うことがある.

画像検査

副甲状腺病変 副甲状腺の病変に対しては特に画像検査を必要としない.それは(1)MEN1の副甲状腺機能亢進症は通常多腺性ですべての副甲状腺が腫大すること,(2)術前の画像所見が手術様式を左右しないこと,による.

プロラクチノーマ MRIが用いられる.

高分化型膵消化管内分泌腫瘍 超音波内視鏡検査は無症状のMEN1患者における小(径10 mm以下)膵内分泌腫瘍の検出法として最も感度が高い.Langerらはソマトスタチン受容体シンチグラフィー(111I-diethylenetriamine pentaacetic acid-octreotide [111In-DPTA octreotide]を用いる)は神経内分泌腫瘍の検出法の第一選択と位置づけている.CTやMRIも同様に腫瘍の局在診断に有用である.(訳注:日本ではソマトスタチン受容体シンチグラフィーはまだ使用できない).

カルチノイド

  • CTとMRIは,胸腺カルチノイドに対しての最初の検索や経過観察において同程度に有用である.

    注:原発および再発胸腺カルチノイドの検出における単純胸部X線撮影やソマトスタチン受容体シンチグラフィーの感度はCTやMRIに劣るので,ソマトスタチン受容体シンチグラフィーは胸腺カルチノイドの画像診断の第一選択とはなりえない.

  • CTは無症状の気管支カルチノイドの同定と摘除後の経過観察手段として有用である.

副腎皮質腫瘍 通常CTによって検出される.

分子遺伝学的検査

GeneReviewsは,分子遺伝学的検査について,その検査が米国CLIAの承認を受けた研究機関もしくは米国以外の臨床研究機関によってGeneTests Laboratory Directoryに掲載されている場合に限り,臨床的に実施可能であるとする. GeneTestsは研究機関から提出された情報を検証しないし,研究機関の承認状態もしくは実施結果を保証しない.情報を検証するためには,医師は直接それぞれの研究機関と連絡をとらなければならない.―編集者注.

遺伝子 MEN1はMEN1症候群に関連していることが知られている唯一の遺伝子である.

臨床検査

単一のMEN1関連腫瘍を発症し,MEN1の家族歴がない患者でMEN1遺伝子の変異が検出されることはほとんどない.別個の研究で報告される変異検出率は異なっているが,主要病変(副甲状腺,膵,下垂体)を有する家系で変異検出率はいずれの報告でも高く,特に副甲状腺と膵の病変を伴う家系で高い.

家族歴のない患者については,

  • Odouらは変異検出率は臨床症状の数と種類によることを報告した.(1)膵病変の存在はMEN1変異陽性の可能性を高める,(2)2つの病変の存在は変異陽性の可能性を高める.
  • Jagerらは原発性副甲状腺機能亢進症患者もしくはガストリノ―マの患者に対してMEN1遺伝学的検査を提供すべきであり,一方カルチノイド腫瘍やプロラクチノーマの患者で変異が同定されることはほとんどないと報告している.

薬5-10%のMEN1患者ではMEN1遺伝子のコーディング領域もしくはスプライス領域に変異を同定できない.このような患者では,遺伝子の大規模な欠失や非翻訳領域の変異が生じている可能性,あるいはphenocopy(鑑別診断の項参照)である可能性が考えられる.

表1は本症の分子遺伝学的検査をまとめたものである.

表1 MEN1で用いられる分子遺伝学的検査

検査法

検出される変異

変異検出率

家族例4

散発例5

シークエンス解析2

遺伝子変異3

80-90%6

65%6,7

重複・欠失解析8

欠失

1-4%

連鎖解析9

適応なし

適応なし10

  1. 検査法ごとの変異検出能力
  2. シークエンス解析と遺伝子全体の変異スキャンは同等の変異検出率を有するが,変異スキャンにおける変異検出率は用いる方法の違いにより,検査機関ごとに差がある.
  3. シークエンス解析で検出される変異には,遺伝子内の小欠失/挿入,ミスセンス変異,ナンセンス変異,スプライス変異がある.この方法では通常遺伝子全体の欠失や重複は検出できない.
  4. 「家族例」とは発端者がMEN1の臨床診断基準を満たし,一度近親者に少なくとも一病変を有する者がいる場合をいう.
  5. 「散発例」とは家族内で1名のみがMEN1と診断されている場合をいう.
  6. MEN1変異陽性率は,家族例の発端者では80-90%,散発例では約65%である.
  7. 生殖細胞系列変異の検出率は家系内の発端者では低い.これは体細胞モザイクによる例が含まれるためと考えられる.
  8. シークエンス解析では検出できない欠失や重複を検出する検査法にはさまざまな方法があり,定量的PCR,long-range PCR,MLPA法,染色体マイクロアレイなどが用いられる.
  9. 病原性のない単塩基置換が知られている.これはMEN1変異を同定できない家系における連鎖解析で有用である.
  10. MEN1変異を同定できない家系において,正常多型の解析が連鎖解析に有用かもしれない.

検査結果の解釈 (略)

検査手順

発端者の診断目的

発端者の診断の確定は変異の同定に依存している.

  • まずMEN1遺伝子のシークエンス解析を行う.
  • もし変異が同定できない場合は欠失/重複解析を行う.

    注:ZESを呈する患者では,他のMEN1関連病変の出現が遅かったり軽微であったりするため,MEN1遺伝学的検査を行わないと,MEN1の診断が遅れたり見逃されたりする可能性がある.

予測的診断 リスクのある成人血縁者に対する発症前診断を行うには,その家系における病原性変異が明らかになっている必要がある.

注:シークエンス解析や欠失/重複解析で変異が同定できない家系のうちの一部では,連鎖解析が行えるかもしれない.

出生前診断・着床前診断 その家系における病原性変異が明らかになっている必要がある.(訳注:わが国では,臨床的対処法がある程度確立している本症に対して出生前診断・着床前診断の適応があるとは考えられていない)

遺伝学的に関連する疾患

MEN1生殖細胞系列変異 家族性副甲状腺機能亢進症(Familial Isolated Hyperparathyroidism: FIHP)は副甲状腺の過形成または腺腫を生じるが他の内分泌疾患を伴わない.FIHP家系の20-57%でMEN1遺伝子変異が検出される.

MEN1変異によるFIHP家系では,38%がミスセンス変異を有しており,これはMEN1家系におけるミスセンス変異の頻度(20%)と比べて有意に高頻度(p<0.01)である.FIHP家系でのナンセンス変異の頻度はわずか5%であるが,MEN1家系では23%がナンセンス変異を有している.

特筆すべきこととして,副甲状腺機能亢進症−顎腫瘍症候群の臨床所見を示さずMEN1変異を認めないあるFIHP家系で,発端者の母親(遺伝学的評価はなされていないが,発端者と同じ変異を有していたと推測される)が副甲状腺がんで死亡している.MEN1では副甲状腺がんのリスクは上昇していないのに対し,FIHPでは副甲状腺がんのリスクが高くなっている可能性がある.               

MEN1体細胞変異 他のMEN1関連腫瘍を伴わずに単発性に発生する副甲状腺腺腫,ガストリノーマ,インスリノーマ,気管支カルチノイドなどの散発性腫瘍では,しばしばMEN1遺伝子の体細胞変異が認められる.これらの腫瘍では生殖細胞変異を伴っていないので次世代に遺伝することはない.

体細胞変異は遺伝子全域に分布している.

Arnoldらは15-20%の散発性副甲状腺機能亢進症でMEN1遺伝子の両アレルに体細胞変異や欠失が生じていることを報告した.さらに,5-50%の散発性内分泌腫瘍で,MEN1遺伝子が存在する11q13領域のヘテロ接合性の消失(LOH)を認めている.

臨床像

自然経過

MEN1で生じる内分泌腫瘍を表2にまとめた.

表2 MEN1で生じる内分泌腫瘍

腫瘍

腫瘍サブタイプ

ホルモン分泌

MEN1での頻度

副甲状腺

 

あり

50歳までに100%1

下垂体前葉

プロラクチン産生腫瘍

あり

10-60%2の症例で下垂体腫瘍を発症

下垂体腫瘍中で最も高頻度

GH産生腫瘍

あり

5%3

GH/GRH産生腫瘍

あり

5%3

TSH産生腫瘍

あり

まれ4

ACTH産生腫瘍

あり

2%3

膵内分泌

ガストリノーマ

あり

40%5

インスリノーマ

あり

10%3

グルカゴノーマ

あり

2%3

VIP産生腫瘍

あり

2%3

カルチノイド

気管支

なし

10%

胸腺

なし

副腎皮質

コルチゾール分泌性

まれ

20-40%の症例で副腎皮質腫瘍を伴う

まれ

アルドステロン分泌性

まれ

まれ

褐色細胞腫

まれ

<1%3

  1. 90%の症例で初発病変となる.
  2. 10%の家族例,25%の散発例で初発病変となる.
  3. Brandiら(2001)
  4. Valdes-Socinら(2003)
  5. Zollinger-Ellison症候群を呈する.

MEN1の内分泌腫瘍はさまざまな組み合わせで発症する.臨床的な傾向が唯一はっきりしているのはBurinバリアントとよばれている臨床型で,ニューファウンドランドの4家系とモーリシャスの1家系で報告されている.このタイプではプロラクチノーマの発症が高率で,ガストリノーマの発症率が低い.

MEN1にともなって生じる腫瘍はしばしば同部位に生じる非遺伝性腫瘍と臨床像がことなることに注意する必要がある.

副甲状腺機能亢進症

原発性副甲状腺機能亢進症はしばしば軽症であり,MEN1のリスクがあるが無症状である人に対する家族スクリーニングなどに際して,生化学的所見から診断される.副甲状腺機能亢進症は最も高頻度のMEN1関連病変であり,90%の患者では初発病変となる.発症は通常20-25歳である.すべてのMEN1患者は50歳までに高カルシウム血症を呈すると予測される.副甲状腺機能亢進症はしばしば長期にわたって無症状であるが,特に女性では早ければ35歳で骨量の低下を呈してくる.

台湾におけるMEN1関連副甲状腺機能亢進症の調査研究では,臨床像はこれまでの報告よりもより軽度であった.

高カルシウム血症に伴ってよく見られる臨床所見を以下にあげる.

  • 中枢神経系:精神状態の変化,全身倦怠,うつ,注意力低下,意識混濁(まれに昏迷や昏睡)
  • 消化管:食思不振,便秘,嘔気,嘔吐
  • 腎:利尿,濃縮力低下,脱水,高カルシウム尿症,腎結石リスクの上昇
  • 骨:骨吸収亢進と骨折リスクの上昇
  • 心血管:高血圧惹起もしくは増悪,心電図上QT間隔短縮

高カルシウム血症はガストリノーマからのガストリン分泌を増加させるので,Zollinger-Ellison症候群を出現させたり悪化させたりする.

病理 単一腺の腺腫ではなく,すべての腺が腫大してくるのが典型的である.腺腫は単クローン由来の散発性病変と考えられる.

がん発症リスク 副甲状腺腫瘍の悪性化は“古典的な”MEN1の臨床像ではない.ただしこれまでに副甲状腺癌を発症したMEN1患者が6例報告されている.

下垂体前葉腫瘍

散発例の25%,家族例の10%では下垂体腫瘍が初発病変となる.Vergesら(2002)は17%の症例で下垂体腫瘍が初発病変であり,下垂体腫瘍は男性より女性に高頻度に発生する(50% vs 31%,p<0.001)と報告している.下垂体腫瘍の発症頻度は報告により15-55%と差がある.プロラクチノーマがもっとも頻度の高い下垂体腫瘍である.

2種類以上のホルモンを産生する下垂体腫瘍はこれまで考えられていた以上に頻度が高い.卵胞刺激ホルモン(FSH), 黄体ホルモン(LH)あるいは副腎皮質刺激ホルモン(ACTH)産生を伴う成長ホルモン/プロラクチン共産生腫瘍が報告されている.

MEN1における高い浸透率にもかかわらず,下垂体腫瘍は通常単独であり,ひとりの患者に同時に複数の下垂体腫瘍が見つかることはまれである.例として,ゴナドトロピン産生マクロ腺腫とACTH産生ミクロ腺腫を発症した患者の報告がある.

臨床症状は産生される下垂体ホルモンによって異なる.

  • 女性のプロラクチノーマでは無月経と乳汁分泌を生じる
  • 男性のプロラクチノーマでは性欲減退や性機能障害を生じる
  • ACTH産生腫瘍では高コルチゾール血症(クッシング病)を呈する.MEN1の初発病変としてクッシング病を発症した11歳から13歳の4例の報告がある.
  • 成長ホルモン産生腫瘍では小児の巨人症,成人の先端肥大症を生じる
  • 男性の機能性FSH産生腫瘍の報告がある.

腫瘍の増大による局所症状,すなわち神経圧迫,頭痛,下垂体機能低下症も生じてくる.

組織 MEN1の下垂体腫瘍の65-85%はマクロアデノーマである.

TrouillasらはMEN1と非MEN1の腫瘍で以下の違いを報告している.

  • 病理学的にMEN1による腫瘍はより大きくより浸潤性である
  • 大きい下垂体腫瘍を持つMEN1患者はより若い
  • 多発腫瘍はMEN1でより高頻度であり,特にプロラクチン-ACTH産生腫瘍が多い
  • 遺伝型-表現型連関は認めない

がん発症リスク Verges(2002)は下垂体マクロアデノーマの32%が浸潤性であると報告しているが,MEN1関連下垂体腫瘍の悪性化はまれである.しかしながら, Benito(2005)がMEN1女性に発症したゴナドトロピン産生性下垂体がんを,Gordonが頸髄腫瘍を呈した転移性プロラクチノーマの症例を報告している.

高分化型膵消化管内分泌腫瘍

ガストリノーマ 約40%のMEN1患者はガストリノーマを発症し,Zollinger-Ellison症候群を呈する.臨床所見としては上腹部痛,下痢,食道逆流,消化性潰瘍がある.適切に診断治療が行われないと,先立つ症状がないまま高ガストリン血症による消化管穿孔を起こすこともある.胸焼けや体重減少を伴うこともあるが,あまり頻度は高くない.Zollinger-Ellison症候群に関連する高ガストリン血症は多発性十二指腸潰瘍を引き起こす.多くの場合食後2時間以上経過してから,あるいは夜間に心窩部痛が出現し,食事によって軽快する.痛みは右上腹部や胸部,背部に現れることもある.嘔吐は胃流出部の狭窄や閉塞による可能性があり,吐血や下血は消化管出血の結果としておこる.

Zollinger-Ellison症候群は通常40歳以前におこる.ZESを呈するMEN1患者の25%はMEN1の家族歴がない.

  • 病理 一般的には,小さい膵内分泌腫瘍はMEN1の特徴的所見である.典型例では十二指腸粘膜に1 cm未満のガストリノーマが多発する.特に80%以上のMEN1に伴うガストリノーマは十二指腸の上部(first portion)もしくは下行部(second portion)に発生する.MEN1の十二指腸ガストリノーマはガストリン産生細胞のびまん性の過形成性変化を伴い,多発性である.
  • 約50%の十二指腸微小ガストリノーマはMEN1遺伝子座のヘテロ接合性消失(LOH)を伴っており,原発腫瘍と考えられる.多源性十二指腸腫瘍はおそらくMEN1変異をもつ患者において独立の単クローン性発生を来したものと考えられる.
  • がん発症リスク MEN1のガストリノーマはしばしば多発性であり,悪性の性質を有している.約半数は診断前に転移している.肝転移をきたした場合の生命予後は不良である.一方所属リンパ節転移は予後に影響を与えない.
  • 膵ガストリノーマはMEN1ではまれであるが,十二指腸ガストリノーマに比べて腫瘍が大きく,肝転移の危険性も高く,結果としてより悪性度が高い.平均33歳で膵内分泌腫瘍の手術を受けた8例の無症状の患者では転移を生じなかったが,平均51歳で手術を受け,すでに症状を呈していた12例のうち4例は遠隔転移があり,うち2名はそれが原因で死亡した.

インスリノーマ インスリノーマの発症は非遺伝性のインスリノーマに比べて約10年早い.

  • 病理 一般に多発性膵島腫瘍を伴う形で,単発性に生じる.高インスリン血症の原因となる腫瘍の大きさは通常1-4 cmである.
  • がん発症リスク インスリノーマはほとんどの場合良性である.グルカゴノーマの頸部転移をきたした症例は膵十二指腸切除術によって回復し,その後無症状で経過している.

非機能性膵消化管腫瘍 MEN1で頻繁に認められる.

超音波内視鏡による前向き調査では,MEN1患者における非機能性膵腫瘍の頻度は54.9%で,その頻度はこれまで考えられていたよりも高かった.さらに,フランス内分泌腫瘍研究グループ(French Endocrine Tumor Study Group)によればこれらの腫瘍の50歳での浸透率は34%で,MEN1の膵十二指腸腫瘍の中で最も高頻度である.非機能性腫瘍を発症したMEN1患者の生命予後は膵十二指腸腫瘍を発症しない患者に比べて明らかに短縮している.

日本人における径20 mm未満非機能性膵腫瘍の長期観察では,長期にわたって明らかな増殖経口を示さず,リンパ節転移や肝転移もきたさなかった.

免疫染色ではガストリン陽性であるが,ZESを呈さない神経内分泌腫瘍は,機能性神経内分泌腫瘍あるいはガストリノーマではなく,ガストリン発現非機能性腫瘍とみなすべきである.

日本人における消化管神経内分泌腫瘍の予備調査では,MEN1関連膵内分泌腫瘍の頻度は7.4%であった.

カルチノイド腫瘍

(訳注:最新のWHO分類では「カルチノイド」という用語は用いず,神経内分泌腫瘍という分類に改められている)

胸腺,気管支,2型胃十二指腸クロマフィン親和性細胞に由来するカルチノイド腫瘍はMEN1患者の約10%に発生する.これらはMEN1関連腫瘍の中で唯一発症に性差を認めるものである.胸腺カルチノイドは男性により多く,気管支カルチノイドは女性により多い.興味深いことに,日本人MEN1患者では胸腺カルチノイドの性差はさほど顕著ではない(男女比2:1).

カルチノイド腫瘍の臨床経過はゆっくりであることが多いが,進行が早く治療に抵抗性を示すものもある.胸腺,気管支,胃カルチノイドがACTHやカルシトニン,GHRHを分泌することはまれである.同様にセロトニンやヒスタミンを分泌することもめったになくカルチノイド症候群は呈さない.胸腺カルチノイドからの成長ホルモン分泌による先端巨大症の例やACTH分泌によるクッシング症候群の例が報告されているが,他の報告ではホルモン分泌は認めていない.

Gibrilら(2003)による後ろ向き研究では,胸腺カルチノイドはMEN1関連疾患の中では遅い時期に現れる病変であり,胸腺カルチノイドが初発病変である患者はいなかった.MEN1の胸腺カルチノイドは大きな浸潤性腫瘍として進行した時点で発見される.頻度は高くないが,胸部撮影で偶然見つかったり副甲状腺手術の際に行う胸腺摘出術で発見されたりすることもある.

胃カルチノイドの平均診断時年齢は50歳である.MEN1患者の最大70%で,胃カルチノイドが内視鏡検査の際に偶然発見される.

がん発症リスク 胸腺カルチノイドは悪性化する傾向がある.Ferollaら(2005)は,胸腺カルチノイドは,特に男性喫煙者において高度に致死性であると結論しており,これは761例のフランス人MEN1患者中の21例の胸腺カルチノイド症例についてのGoudetらの報告でも裏付けられている.カルチノイド腫瘍の脊髄転移が1例で報告されており,胸腺腫と胸腺カルチノイドを合併した女性患者の例の報告もある.

気管支カルチノイドはしばしば多発性であり,同時に発生することも異時性に発生することもある.胸腺カルチノイドとは異なり多くの気管支カルチノイドは臨床的には穏やかであるが,腫瘤による局所症状を生じたり,転移や手術後再発をきたすこともある.

したがって,胸腺腫瘍の存在はMEN1における死亡リスク増大に関与している(ハザード比 4.29).対照的に気管支カルチノイドは生命予後には影響しない.胸腺腫瘍の診断からの平均生存期間は9.5年であり,70%の患者は腫瘍が直接の死因となっている.

副腎皮質腫瘍

副腎皮質腫瘍は片側性のことも両側性のこともあるが,MEN1患者の20-40%に認められる.

まれに副腎皮質腫瘍がコルチゾールやアルドステロンを分泌する.Langerら(2002)による67例の調査では,非機能性良性腫瘍を10例に認め,両側例が8例,クッシング症候群を呈したものが3例,褐色細胞腫が1例であった.4例が副腎がんを生じ,うち3例は機能性であった.

組織 無症状の副腎腫大は多クローン性で過形成性であり,通常腫瘍化しない.Langerら(2002)の報告では,診断時の平均腫瘍径は3 cm(1.2-15.0 cm)で,大部分が3 cmかそれ以下であった.

がん発症リスク 715例のMEN1患者の調査で,Gatta-Cherifiらは副腎皮質癌の発症率を1%と見積もっている.しかし1cm以上の副腎腫瘍を有する患者のうちでは約13%が副腎皮質癌を発症していた.

MEN1に伴う臨床症状と生命予後

MEN1に伴う臨床像の理解,MEN1関連腫瘍の早期発見と治療法の進歩により,Zollinger-Ellison症候群や副甲状腺機能亢進症は死因とはならなくなった.それにもかかわらず,MEN1患者が早期死亡にいたる危険性は依然として残されており,現在約30%の患者はMEN1に関連する悪性腫瘍で死亡している.

MachensらはMEN1遺伝子変異を有する258 例の多施設研究で, 20世紀後半に生まれたMEN1患者は20世紀前半に生まれた患者に比べて明らかに早期に診断されていると報告している.

遺伝型と臨床型の関連

MEN1では遺伝型と臨床型の関連は知られていない.

浸透率

何らかの病変が出現する可能性は20歳で50%以上,40歳では95%以上である.

促進現象

促進現象は報告されていない.

頻度

約30,000人に1人程度と報告されている.


鑑別診断

本稿で扱われる疾患に対する遺伝学的検査の実施可能性に関する最新情報は,GeneTests Laboratory Directoryを参照のこと.―編集者注.

CDKN1B 以下の所見は古典的MEN1の重要なphenocopyであるMEN4の可能性を示唆する.ただし,表現型の十分な理解にはより多くの家系の評価が必要である.

  • 成長ホルモン産生下垂体腫瘍,副甲状腺腫瘍,腎血管脂肪腫を発生し,臨床的にMEN1の診断基準を満たすがMEN1遺伝子変異を認めない家系の一部で,p27kipタンパクをコードするCDKN1B/p27の生殖細胞系列変異が同定されている.
  • 下垂体腫瘍,カルチノイド腫瘍,副甲状腺機能を発症してMEN1が疑われるオランダ人患者で,CDKN1B/p27の早期終止型変異が同定されている.
  • Agarwalらは,7種のサイクリン依存性キナーゼインヒビターのうちの4つ(p15, p18, p21, p27)のうちのいずれかに生じたまれな変異がMEN1や関連した表現型の原因になりうることを報告している.彼らはZESを呈した2名の患者でCDKN2B/p15CDKN1B/p27の生殖細胞系列変異を同定した.
  • Molatoreらは,多発性の典型的な気管支カルチノイド,原発性副甲状腺機能亢進症,頸部リンパ節転移を伴う甲状腺乳頭癌,下垂体ミクロアデノーマと両肺転移を有する患者で同定されたCDKN1B/p27のコドン69の多型(p.Pro69Leu)では,p27発現が大きく低下するか欠如していることを報告した.

鑑別診断の際に考慮すべき最も重要で頻度の高い疾患は以下のとおりである.

原発性副甲状腺機能亢進症 原発性副甲状腺機能亢進症の一般人口集団における頻度は1000人中3人程度で,女性/男性比は約3:1である.

  • 散発性副甲状腺機能亢進症 一般的に単一腺の腺腫が原因で遺伝しない.発症年齢のピークは50歳代である.

    注:散発性副甲状腺機能亢進症の多くは高カルシウム血症により発見される.これはMEN1患者やMEN1のリスクのある人がスクリーニング検査で無症状のうちに発見されるのと対照的である.

  • MEN1による副甲状腺機能亢進症 副甲状腺機能亢進症全体の2-4%を占め,性差はなく,発症は約30年早い(20-25歳).40歳以前に発症した多腺性の副甲状腺機能亢進症は家族歴の有無にかかわらずMEN1の初発病変である可能性がある.
  • 家族性副甲状腺機能亢進症(FIHP) 家族内で副甲状腺機能亢進症(腺腫もしくは過形成)を複数名が発症するが,他の内分泌病変は伴わない.以下の遺伝子が原因として同定されている(他にも未知の遺伝子変異を有する患者がいると思われる).
      • MEN1変異が20-23%のFIHPに認められる.HannanもFIHPにおけるMEN1変異について報告している(「遺伝学的に関連する疾患」の項参照).
      • CASR カルシウム感受性受容体遺伝子で家族性良性高カルシウム血症(家族性低カルシウム尿症性高カルシウム血症ともよばれる)や新生児重症副甲状腺機能亢進症の原因にもなる.家族性副甲状腺機能亢進症家系の14-18%でCASR変異が見つかる.
      • HRPT2 パラフィブロミンをコードする,副甲状腺機能亢進症・顎腫瘍症候群の原因遺伝子である.Warnerら(2004)は22家系の家族性副甲状腺機能亢進症について調べたがHRPT2遺伝子変異は見つからなかった.「CDC73関連疾患」を参照のこと.

多発性内分泌腫瘍症2型(MEN2) RET遺伝子変異が原因であり,MEN1とは別個の疾患である.MEN2の一亜型であるMEN2Aは甲状腺髄様癌,褐色細胞腫,副甲状腺機能亢進症を発症する.副甲状腺機能亢進症は20-30%の患者にみられ,通常MEN1に伴うものよりも軽症である.多くのMEN2A患者では副甲状腺機能亢進症による症状はみられないが,高カルシウム尿症や腎結石が生じることもある.

注: MEN1腫瘍抑制遺伝子とRET癌原遺伝子の両方の変異を伴いMEN2とMEN1を共に発症した家系の報告がある.両者の共存はそれぞれの臨床像に影響を与えない.

下垂体腫瘍 

  • プロラクチノーマは散発例よりもMEN1に伴って見られることのほうが多い.(訳注:プロラクチノーマのうちMEN1に伴うものは1%程度と考えられている)
  • MEN1による下垂体腫瘍は散発例よりも発症年齢が高い.(訳注:こうしたエビデンスは存在していない)
  • MEN1による下垂体腫瘍は散発例よりも大きく,マクロ腺腫である場合が多い.
  • 散発例のほうがMEN1による下垂体腫瘍よりも薬物治療によく反応する.

    注:他のMEN1関連病変を伴わない単一の下垂体腫瘍では,MEN1遺伝子の体細胞変異を伴うことは少ないが,一部の下垂体腫瘍ではMEN1遺伝子の変異や欠失が発症の原因になっているとする報告もある.

家族性下垂体腫瘍は通常成長ホルモン産生腫瘍で,MEN1遺伝子変異は伴わない.家族性下垂体腫瘍の発端者にMEN1遺伝子変異が見つかる頻度は1%未満である.

    • 北部フィンランドでの調査研究で,アリルハイドロカーボン受容体関連タンパクをコードするAIP遺伝子の生殖細胞系列変異が下垂体腫瘍の集積(pituitary adenoma predisposition)の原因となることが報告された.Dalyらは,家族性下垂体腺腫症候群の家系の15%にAIP変異を認めた.
    • 家族性成長ホルモン産生腫瘍家系で11q13領域への連鎖が報告されている.

注:CDKN1B/p27変異が下垂体腫瘍を含むMEN1関連病型に関連しているが,Agarwalらによれば,この変異を有する患者では下垂体腫瘍を認めなかった.

Zollinger-Ellison症候群

  • MEN1に伴う典型的なZollinger-Ellison症候群は十二指腸粘膜に発生する多発性腫瘍が原因であり,しばしば過形成をきたしたガストリン細胞に囲まれている.Zollinger-Ellison症候群の25%はMEN1によるものである.また,MEN1/Zollinger-Ellison症候群を呈する患者の25%には家族歴がない.
  • CDKN2B/p15およびCDKN1B/p27に変異を有するZES患者2例が報告されている.
  • 散発性のガストリノーマは膵に発生することが多い.臨床症状の出現はMEN1では散発例より約10年早い.

インスリノーマ すべての低血糖のうち10%はMEN1による.MEN1による低血糖は通常多発性の膵内分泌腫瘍を伴う単発性のインスリノーマが原因である.MEN1におけるインスリノーマの発症年齢は散発例よりも約10年早い.

カルチノイド腫瘍 

  • MEN1と関係しないカルチノイド腫瘍は通常中腸あるいは後腸由来であり,銀親和性でセロトニン(5-ヒドロキシトリプタミン)を分泌する.
  • MEN1による胸腺カルチノイドは特に喫煙者では散発例に比べて悪性の経過をとる.
  • 胃カルチノイドと副甲状腺機能亢進症の合併は遺伝学的背景を有する明らかに異なる疾患であり,「非定形的」もしくは「不完全型」のMEN1とみなすべきではない.

顔面血管線維腫は結節性硬化症でもみられる.

平滑筋肉腫はAlport症候群にともなってみられる.

臨床医への追記 本疾患に関する患者ごとの「同時コンサルト」については,SimulConsultを参照のこと.ここでは患者の所見に基づく鑑別診断用ソフトウエアを提供している(登録もしくは施設からのアクセスが必要).


臨床的マネジメント

最初の診断時に病状把握のために行う評価

MEN1患者の最初の評価に際しては,頻度の高いMEN1関連腫瘍の検索が勧められる.

  • 多腺性副甲状腺病変
  • ガストリノーマ,他の膵消化管神経内分泌腫瘍
  • プロラクチノーマ

症状に対する治療

MEN1の診療ガイドライン(Thakker et al. 2012)が公開されている.

副甲状腺機能亢進症

手術前に高カルシウム血症を改善し,副甲状腺ホルモンによる骨吸収を制御することで将来的な骨粗鬆症リスクを軽減する目的で骨吸収阻害剤の使用が考慮される.

MEN1による副甲状腺機能亢進症の手術方法にはいまだに議論がある.手術方法としては副甲状腺亜全摘術(副甲状腺組織の7/8を切除)を行って副甲状腺組織を凍結保存する方法と,副甲状腺全摘術を行って一部を自家移植する方法がある.

  • Marx(2001)は適切な手術の8-12年後に50%で副甲状腺機能亢進症の再発があったと報告している.こうした再発は残存正常副甲状腺から新たに腫瘍が生じた場合と,残存腫瘍が進行した場合とがある.
  • Elarajら(2003)は亜全摘術や全摘術はより多くの組織を残す手術法に比べて再発までの期間が長いことを報告した.より切除量の少ない手術法を行った場合の再発率は1,5,10年後にそれぞれ8%,31%,63%であったが,亜全摘術や全摘術を行った場合には1,5,10年後の再発率はそれぞれ0%,20%,39%であった.
  • 全摘術後に高率に重度副甲状腺機能低下症が生じるという事実は初期治療法としての亜全摘術の優位性を支持するものである.
  • 台湾における選択的副甲状腺摘出術(腫大腺を摘出し,正常に見える腺は生検を必ずしも行っていない)では良好な結果が得られている.
  • ヨーロッパでの研究では,適切に実施されれば,亜全摘術が永続的低カルシウム血症や将来の再手術のリスクを最小にすると結論している.
  • イタリアにおける51例に対する16年間の経験では,術中PTHモニタリングによる全摘術と前腕への自家移植が最善の方法と結論している.永続的副甲状腺機能低下症は25%に生じ,初回手術例よりも再発に対する二回目の手術例で頻度が高かった.経過観察中に10%の症例で平均7±5年後に自家移植部での再発を認めた.また,頸部での再発は認めなかった.
  • いくつかの報告では,特に手術不成功例や手術禁忌例に対して,カルシウム受容体作動薬や持続型オクトレオタイドが有効であった.

プロラクチン産生腫瘍(プロラクチノーマ)

  • カベルゴリン,ブロモクリプチン,ペルゴリン,キナゴリンなどのドパミン作動薬がプロラクチン産生腫瘍の治療に用いられる.
  • カベルゴリンは副作用頻度の低さと治療効果の高さから現時点での第一選択と考えられる.

成長ホルモン産生腫瘍

  • 先端巨大症をきたす成長ホルモン産生腫瘍の第一選択治療法である経蝶骨洞手術は50-70%に有効である.
  • ソマトスタチン誘導体が内科治療として使用される.オクトレオタイドとランレオタイドは50%以上の症例で成長ホルモンとIGF1の血清中濃度を正常化する.
  • ドパミン作動薬が奏功することは少ないが成長ホルモンとプロラクチンの両方を産生する腫瘍では有効なことがあり,ソマトスタチン誘導体無効例の10-20%でも有効である.

ACTH産生腫瘍

  • クッシング症候群を伴う多くのACTH産生腫瘍では,治療は腫瘍の摘出である.Beckersら(2003)の報告では,マイクロアデノーマが見つかった92%,マクロアデノーマが見つかった67%で,手術によって直ちに治癒が得られている.
  • 手術によって治癒が得られなかった,クッシング症候群を伴うACTH分泌下垂体腫瘍では,ACTH分泌を抑制するために放射線療法が必要になることもある.

非機能性下垂体腫瘍

  • 非機能性下垂体腫瘍では,治療の第一選択は経蝶骨洞手術である.しかしながらまれではあるが腫瘍が非常に大きくトルコ鞍外へ進展している場合には,開頭術が唯一の方法となる.
  • 5-15%の例ではドパミン作動薬や時にはソマトスタチン誘導体によって手術前に腫瘍を縮小させることができる.
  • 散発例とMEN1症例とを比較できる論文は十分にはない.コンセンサスは得られていないが,Beckersら(2003)はMEN1のほうが散発例に比べてより広範な治療が必要になる場合が多いと報告している.

高分化型膵消化管腫瘍

ガストリノーマ

  • MEN1に関連した膵消化管ホルモン分泌を抑制し,それによって重症の時には生命にかかわる臨床症状を制御できる薬剤としては,胃酸分泌を抑制するプロトンポンプ阻害剤やH2ブロッカーがある.
  • 手術によって満足のおける結果が得られることは少なく,ガストリノーマに対する薬物治療と外科治療の優位性に関しては議論がある.
  • MEN1に伴うガストリノーマは多くの場合十二指腸の膨大部か下行部に発生し,水平部や上行部,あるいは小腸ループに発生することは少ないので,これらの部位については手術前の画像検査,術中の綿密な評価,あるいは外科標本に対する病理学的評価が重要である.
  • リンパ節原発ガストリノーマを発症したMEN1症例の報告があり,世界の文献からの同様な症例を検討することで,リンパ節に認めるガストリノーマの一部は転移ではないことが明らかとなった.リンパ節ガストリノーマの切除後に長期にわたってガストリノーマの所見がみられないことが唯一の診断根拠である.このことから,ZhouらはMEN1患者のガストリノーマに対しては可能であればすべて外科治療を行うべきだとしている.その後,Anlaufらは原発性リンパ節ガストリノーマもしくは潜在性十二指腸微小ガストリノーマのMEN1症例を報告し,原発巣の体系的な検索の必要性を強調した.

膵腫瘍 MEN1に伴う無症状の膵腫瘍に対する手術適応には議論がある.

  • MEN1におけるインスリノーマや他の大部分の膵腫瘍は手術の適応である.Tonelliら(2005)によれば最良の手術法は術中超音波や触診によって径0.5 cm以上の腫瘍を同定し,これらを核出するか,もし大きい腫瘍が多発している場合には膵部分切除を行うというものである.
  • 膵内分泌腫瘍を伴うMEN1患者の臨床的特徴,外科治療,治療結果に対する後ろ向き調査では,機能性腫瘍が64%,非機能性腫瘍が36%であった.膵手術は69%に対して実施された.再発は中央値7.8年後に20%の症例に認められた.初回手術時に遠隔転移がなかった患者の14%で,術後中央値2.7年後に遠隔転移を認めた.経過観察中,膵内分泌腫瘍を有する患者の29%が脂肪し,22%は疾患を有しながら生存注であり,47%は疾患の徴候がなく,2%は追跡から脱落した.生存期間の中央値は19.5年(範囲13-26年)で,非機能性腫瘍患者に比べて機能性腫瘍患者のほうが,手術非実施群に比べて実施群のほうが,また診断時に転移を生じていた群に比べて病変が局在していた群のほうが,有意に長かった.これらの結果は,たとえ膵切除に伴う併発症のリスクやその後のインスリン依存性糖尿病発症のリスクを勘案しても,MEN1関連膵内分泌腫瘍の早期診断と外科治療が生命予後を改善することを示すものである.
  • ドイツからの報告は,MEN1に伴う膵内分泌腫瘍に対する早期の広範な外科治療が,最も生命予後を脅かす肝転移の発生を防ぐことを示した.最終的には大規模な検証による評価を待つ必要があるが,幽門温存膵十二指腸切除術(PPPD)がMEN1に伴うZESの術式の第一選択である.
  • 膵十二指腸切除術(PD),膵全摘術(TP),もしくは膵尾部切除術を受けた16例のイタリアのMEN1患者の検討では,81%がZES,低血糖あるいは径1 cm以上の膵腫瘍を有していた.患者は術後3ヶ月,6ヶ月,さらにその後は年1回空腹時ガストリンと他の消化管ホルモンの測定を行いセクレチン負荷試験も受けた.さらに,ホルモン高値を認める際は,腹部超音波検査もしくはCTスキャンも2年ごとに受けた.術前に高ガストリン血症を呈していた患者の経過観察では,77%でガストリン濃度は正常でセクレチン負荷でも陰性となり,23%が再発を認めた.著者らはガストリノーマや膵腫瘍に対して最小限の併発症・後遺症で治癒を得る方法として,PDがより広範な治療よりも優れていると結論している.著者らはまた,術注のガストリン測定が外科的治癒を判定するのに有用であるとしている.すべてのインスリノーマの患者は治癒が得られた.

    注:切除範囲の少ない部分切除や単なる核出術では術後高率に再発をみる.

  • 転移性十二指腸ガストリノーマを有する,もしくは経過観察中に出現した11例のMEN1患者に対し,ソマトスタチン誘導体(63.6%)または化学療法(27.3%)が行われた.これらの非外科的治療は病状を安定させると思われるが,より大規模の臨床調査が必要である.

要約すると,外科手術に対して意見が分かれたり実施不可能であったりする場合にMEN1関連膵内分泌腫瘍に対して行われる治療としては,散発性無症候性腫瘍の場合と同様,ソマトスタチン誘導体,化学療法,さらにインターフェロンαがある.ソマトスタチン誘導体は症状を緩和し,腫瘍に対して抗増殖作用を示す.化学療法は腫瘍の増殖傾向が見られる時に適応となる.インターフェロンαは40-60%の患者で症状に対して効果があり,生化学的には30-60%が反応し,腫瘍縮小は10-15%に認められる.

カルチノイド腫瘍

持続型ソマトスタチン誘導体がカルチノイド症候群にともなう症状を軽減するが,悪性化の可能性に対しては影響しない.したがって,カルチノイドに対する治療は可能であれば外科切除である.

MEN1に伴う胸腺カルチノイドは切除後1年以上経過観察できた症例では全例で再発していた.

切除不能例や転移例では,放射線治療や化学療法(シスプラチン,エトポシド)がおこなわれる.

副腎皮質腫瘍

MEN1に伴う副腎皮質腫瘍の診療についてはコンセンサスは得られていない.径4 cm以下の副腎皮質癌も知られてはいるものの,腫瘍が4 cmを超えると悪性化の危険が高まる.4 cmを超える腫瘍や1-4 cmでも非典型的もしくは悪性を疑う画像所見を認める時,6ヶ月の間に明らかに腫瘍増大を認める時は,手術が推奨される.

一次病変の予防

MEN1において悪性腫瘍が発生する可能性が高い臓器,すなわち十二指腸,膵,肺は予防的切除には適さない.

MEN1で予防的手術が行える唯一の臓器は胸腺である.副甲状腺機能亢進症の手術に際しては,男性,特に喫煙者の場合や胸腺カルチノイドの家族歴がある場合には,予防的胸腺摘出を考慮すべきである.

二次病変の予防

術後副甲状腺機能低下症 副甲状腺亜全摘術もしくは全摘術の翌日に測定する副甲状腺ホルモン濃度は残存副甲状腺の機能を評価するよい指標となる.血清カルシウム濃度の反復測定も有用であり,副甲状腺ホルモンの測定よりも安価である.

副甲状腺の自家移植後は副甲状腺ホルモン濃度の測定は術後2か月以降に行い,その後は年1回行う.副甲状腺ホルモンの測定は移植した腕と反対の腕の両方で同時に行うべきである.この方法によって医師は移植組織の機能と再発の可能性の両方をモニターすることができる.

術中高血圧クリーゼ MEN1で褐色細胞腫を生じることはまれであるが,手術の前に尿中カテコラミンを測定して褐色細胞腫を否定しておくべきである.褐色細胞腫は手術中に急激な血圧上昇をきたし,危険で時に致死的となる可能性がある.

定期検査

MEN1遺伝子変異を有するが無症状の人,あるいはMEN1関連腫瘍のリスクがある人に対しては,生化学検査と画像検査による定期検査が勧められる.検査は小児期早期に開始し,これを生涯継続する.悪性化の可能性がある神経内分泌腫瘍の早期発見,早期治療は臨床経過や生命予後を改善する.こうした検査は臨床症状があらわれるよりも10年早く腫瘍を見つけることができ,早期治療を可能にする.

最小限の定期検査プログラム

すでにMEN1を有する人,あるいはMEN1遺伝子変異が明らかとなっている人1,2

  • 生化学的検査
    • 年1回 開始年齢は項目による
      • 血清プロラクチン (5歳から)1
      • 空腹時アルブミン補正血清カルシウム及び/または血清イオン化カルシウム(8歳から) 1
      • 空腹時血清ガストリン (20歳から)
      • 考慮すべき項目 空腹時血清副甲状腺ホルモン(インタクトPTH)
      • 画像検査 
        • 3-5年ごと 開始年齢は項目による 検査の間隔は生化学的検査の所見や臨床症状があるかどうかによる
  • 頭部MRI (5歳から) 1
  • 腹部CTまたはMRI (20歳から) 1
  • 考慮すべき項目:毎年の胸部CT,ソマトスタチン受容体シンチグラフィー
  1. International Guidelines for Diagnosis and Therapy of MEN1 and MEN2 (Brandi et al, 2001) による.
  2. 個々の患者の臨床的な疑わしさや所見によって変更される.

遺伝学的状況が未知で,50%のリスクがある人

  • 生化学的検査 年1回 開始年齢は項目による
  • 血清プロラクチン (5歳から)
  • 空腹時アルブミン補正血清カルシウム及び/または血清イオン化カルシウム(10歳から)
  • 空腹時血清副甲状腺ホルモン(インタクトPTH) (10歳から)
  • 空腹時血清ガストリン (20歳から)

リスクのある親族に対する検査

罹患者でMEN1遺伝子変異が同定されている家系では,リスクのある家族に対する分子遺伝学的検査が提供される.

遺伝子検査が行われていなかったり有用な情報が得られていない場合には,50%のリスクがある人(罹患者の一度近親者)は定期的な検査を行うべきである(定期検査の項参照).

リスクのある血縁者の検査と遺伝カウンセリングについては遺伝カウンセリングの項を参照のこと.

研究中の治療法

原発性副甲状腺機能亢進症 イタリアのグループがシナカルセットを再発患者に対して12カ月間投与した試験の予備結果を報告している.一日30 mgは十分に耐用できる量であった.治療期間中に血中カルシウムとPTHは急速に正常化し,骨回転の正常化によって,骨吸収抑制薬を併用せずに骨量は増加した.

他のグループは8名の患者に対して10-35ヶ月の経過観察を行った.全例シナカルセットを30 mgで開始した.血清カルシウムとPTHの有意な低下が認められ,耐用性も確認された.

別のイタリアのグループは,8例の患者に対し,副甲状腺手術前に膵十二指腸腫瘍を安定させる目的で,1回量30 mgのオクトレオタイドLARを6ヶ月間投与した.高カルシウム血症と高カルシウム尿症はそれぞれ75%,62.5%の患者で正常化した.血清PTH濃度は全例で低下し,25%で正常化した.しかし,MEN1の副甲状腺機能亢進症の治癒目的でシナカルセットやオクトレオタイドLARを用いることについてはより大規模の検証が必要である.

再発副甲状腺機能亢進症に対して,再手術に代わる方法としてエタノール注入法が提唱されている.

下垂体腺腫 プロラクチン産生腫瘍を発症するMEN1の動物モデルで,抗VEGF-Aモノクローナル抗体であるG6-31の効果が検証された.腫瘍増大はMRIで評価し,細胞切片における血管密度が評価された.治療群では有意の腫瘍増殖抑制による腫瘍の倍加時間の延長と血清プロラクチン濃度の低下が認められ,対照群では認められなかった.さらに,治療によって膵島腫瘍の血管密度の有意な減少が認められた.これらの所見はVEGF-A阻害がMEN1関連腫瘍を含む内分泌系良性腫瘍の非外科的治療となりうることを示唆している.

膵消化管高分化腫瘍 ソマトスタチン誘導体がクロマフィン親和性細胞の増殖を制御するために用いられる.ある研究では,オクトレオタイドの長期投与によって2型胃カルチノイド腫瘍が縮小した.MEN1に伴う副甲状腺機能亢進症のように,こうした薬剤のMEN1関連ZESに対する効果を確定するためにはより詳細な検証が必要である.

膵神経内分泌腫瘍がチロシンキナーゼ受容体を発現していることから,チロシンキナーゼ受容体やmTORシグナル伝達系の阻害薬の膵神経内分泌腫瘍に対する有効性が報告されている.進行例において,チロシンキナーゼ受容体阻害薬であるスニチニブは,対照群にくらべて生存率の向上と無増悪期間の延長を示した.mTOR阻害薬であるエベロリムスも,同様に対照群と比較して無増悪期間の延長を示した.この二つの試験は主に非MEN1患者を対象に行ったものであり,事実スニチニブの臨床試験では171名の被験者のうちMEN1患者は2名のみであり,両名とも治療群には組み込まれなかった.エベロリムスの臨床試験は410名の患者が参加しているが,MEN1患者についての詳細は明らかでない.しかしながら,これらの結果はMEN1患者の膵神経内分泌腫瘍にも適応できる結果である可能性が高い.

種々の疾患に対する臨床試験の情報については,ClinicalTrials.gov を参照のこと.

患者登録 

自発的な患者登録がGeneReviewsスタッフによって提供されている.連絡先は以下の通り.

AMEND Research Registry

電話:+44 1892 516076
E mail: jo.grey@amend.org.uk
ウェブサイト:www.amend.org.uk

その他

29名のMEN1患者を対象としたスウェーデンの研究で参加者は日常生活における身体的,心理的,社会的制約やこうした制約が彼らの生活の質に与える影響を報告している.大多数は彼らのおかれた状況に適応できており,身体的な症状や治療にもかかわらず自身を健康であると評価していた.参加者は臨床的な経過観察プログラムのもとで良好なケアを受けていた.

遺伝学の専門家により遺伝クリニックは疾患の自然経過,治療,遺伝形式,他の血縁者のリスク,利用可能な市民リソースなどについて情報を提供する.GeneTests Clinic Directoryを参照のこと.

疾患あるいはより包括的な支援組織についての情報は,Consumer Resourcesを参照のこと.これら組織は患者や家族に対して情報,支援,交流の場を提供する目的で設立された.


遺伝カウンセリング

「遺伝カウンセリングは個人や家族に対して遺伝性疾患の本質,遺伝,健康上の影響などの情報を提供し,彼らが医療上あるいは個人的な決断を下すのを援助するプロセスである.以下の項目では遺伝的なリスク評価や家族の遺伝学的状況を明らかにするための家族歴の評価,遺伝子検査について論じる.この項は個々の当事者が直面しうる個人的あるいは文化的な問題に言及しようと意図するものではないし,遺伝専門家へのコンサルトの代用となるものでもない.」

遺伝形式

MEN1は常染色体優性遺伝形式をとる.

患者家族のリスク

発端者の両親

  • MEN1と診断された人の約90%には罹患した親がいる.
  • 約10%の患者は新生突然変異による.
  • 明らかに新生突然変異と思われる患者の両親の評価には遺伝学的検査が含まれる.

    注:MEN1と診断される患者の約90%には罹患した親がいるが,家族歴では明らかでない場合がある.これは家族が本症を認識していない,罹患した親が発症前に早期に死亡した,親の発症が子よりも遅い,などの理由による.

発端者の同胞 

  • 発端者の同胞のリスクは発端者の両親の遺伝学的状況に左右される.
  • もし発端者の親が罹患しているか,もしくは遺伝子変異を有しているならば,同胞のリスクは50%である.
  • もし発端者に見つかった遺伝子変異を両親が有していない場合に考えられる理由としては,親の生殖細胞モザイクと新生突然変異がある.これまでに生殖細胞モザイクが証明された例はないが,可能性としては否定できない.

発端者の子

MEN1に罹患した人の子はそれぞれ50%の確率で変異を受け継ぐ.

他の家族

他の家族のリスクは発端者の両親の遺伝学的状況に左右される.もし親が罹患していたり遺伝子変異を有していたりする場合は,彼(彼女)の家族にもリスクがある.

遺伝カウンセリングに関連した問題

明らかに新生突然変異と思われる家系

常染色体優性遺伝性疾患の発端者の両親が原因遺伝子に病原性変異を有していない場合には,患者は新生突然変異によって発症した可能性が高い.しかし,他の非医学的な理由,たとえば父親が異なる場合や(生殖補助医療のために)生物学的母親が異なる場合,明らかにされていない養子縁組,家族内での隠し事が理由である可能性も念頭におく必要がある.

リスクのある無症状の家族の検査 リスクのある無症状の家族に対して分子遺伝学的検査を考慮することは適切である.分子遺伝学的検査は家系内の患者で変異がすでに明らかになっている場合にのみ考慮されうる.もし変異が明らかでない場合には,もし家系内に複数の罹患者が世代を超えているのであれば,連鎖解析やハプロタイプ解析を考慮することもできる.リスクのある人を早期に確定することはその後の臨床的マネジメントに影響を与えるので,症状のない小児期に検査を行うことも意義がある.18歳以下の当事者や両親に対しては,検査の前に教育や遺伝カウンセリングを行うことが適当である.

がんリスク評価とカウンセリング がんリスク評価や分子遺伝学的検査によってリスクのある人を確定することに伴う医学的,心理的,倫理的影響に関してはElements of Cancer Genetics Risk Assessment and Counseling (part of PDQ, National Cancer Institute)が参考になる.

家族計画 

  • 遺伝的リスクの評価や遺伝カウンセリングは妊娠前に行われるのが望ましい.患者家族が遺伝子検査を受ける場合も同様である.
  • 罹患しているかもしくは罹患リスクのある若年成人に対して遺伝カウンセリング(子どものリスクや挙児に関する相談を含む)を提供するのが望ましい.

DNAバンキング DNAバンクはDNAを将来の使用のために保存しておくものである.検査法や遺伝子,変異あるいは疾患に対するわれわれの理解が進歩するかもしれないので,DNAの保存は考慮に値する.

出生前診断

出生前診断は分子遺伝学的検査の項で述べた方法を用いて,技術的には可能である.DNAは胎生15−18週に採取した羊水中細胞や10−12週*に採取した絨毛から調製する.出生前診断を行う以前に,罹患している家族において病因となる遺伝子変異が同定されている必要がある.

注:胎生週数は最終月経の開始日あるいは超音波検査による測定に基づいて計算される.

MEN1のように知的障害を伴わず,治療法も存在する疾患に対して出生前診断を求められることは多くない.特に遺伝子検査が早期診断よりも中絶を目的として考慮される場合は,医療関係者と家族の間では出生前診断に対する見解の相違が生じるかもしれない.多くの医療機関では最終的には両親の意思を尊重するとしているが,この問題については注意深い検討が求められる.

訳注:一般にMEN1に対して出生前診断の適応があるとは考えられておらず,日本では行われていない.


関連情報

日本語によるMEN1の関連サイト


更新履歴

  1. GeneReviews著者: Alberto Falchetti, MD, Francesca Marini, PhD, Maria Luisa Brandi, MD, PhD
    日本語訳者: 櫻井晃洋(信州大学遺伝子診療部)
    GeneReviews更新日: 2005.8.31  日本語版最終更新日: 2006.5.5
  2. GeneReviews著者: Alberto Falchetti, MD, Francesca Marini, PhD, Maria Luisa Brandi, MD, PhD
    日本語訳者: 櫻井晃洋(信州大学遺伝子診療部)
    GeneReviews更新日: 2010.3.2.  日本語版最終更新日: 2010.3.25
  3. Gene Review著者:Francesca Giusti MD, Francesca Marini, PhD, Maria Luisa Brandi, MD, PhD
    日本語訳者: 櫻井晃洋(信州大学医学部附属病院遺伝子診療部)  
    Gene Review 最終更新日: 2012.9.6  日本語訳最終更新日: 2013.2.2 ( in present)

原文 Multiple Endocrine Neoplasia Type 1(MEN1)

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