若年発症成人型糖尿病 概説
(Maturity Onset Diabetes of the Young Overview)

[Synonyms:MODY,家族性若年糖尿病]

Gene Reviews著者: Rochelle Naylor, MD, Amy Knight Johnson, MS, CGC, and Daniela del Gaudio, PhD.
日本語訳者: 箕浦祐子(札幌医科大学大学院医学研究科遺伝医学)、櫻井晃洋(札幌医科大学附属病院遺伝子診療科)

GeneReviews最終更新日: 2018.5.24  日本語訳最終更新日: 2022.12.3

原文: Maturity Onset Diabetes of the Young Overview


要約

この概説の目的は,若年発症成人型糖尿病(MODY)と,その遺伝的要因および管理に関する臨床医の意識を高めることにある.
この概説の目標は以下の通り:

目標1MODYの臨床的特徴の記載

目標2MODYの遺伝的要因のレビュー

目標3:(可能な場合)MODY発端者の遺伝的要因の特定とそれに対する評価戦略の提供

目標4:(可能な場合)遺伝的要因に基づいたMODYの医学的管理の情報提供

目標5MODYの早期発見・治療のための,リスクのある血縁者に対するリスク評価およびサーベイランスの情報提供


1.MODYの臨床的特徴

MODYは,通常,思春期から若年成人期に発症する非自己免疫性糖尿病の遺伝性疾患群である.
以下のような場合,MODYの臨床診断が疑われる:

注:(1) MODYである確率を算出できる臨床的予測ツールは,分子遺伝学的検査への合理的なアプローチを提供するものでもある[Shields et al 2012Thomas et al 2016].このツール(こちらを クリック)は,35歳未満の患者に対してのみ適用されるもので,ヨーロッパ系白人コホートに基づいて開発された.(2)遺伝的リスクスコアは1型糖尿病と単一遺伝性糖尿病および2型糖尿病を区別するために開発された.今のところ,これらのスコアは遺伝的に同質な(ヨーロッパ系白人)集団内で研究されている[Patel et al 2016].

MODYの頻度.頻度推定は,国や小児と成人,検証方法によって様々であるが,MODYは糖尿病全体の少なくとも1-3%存在すると考えられる [Shields et al 2010Pihoker et al 2013Shepherd et al 2016].
これまでの研究は主に白人集団を対象としているため,人種および民族的な少数派において多くのMODY患者が未診断であり [Shields et al 2010] ,有病率は十分に検証されていない可能性がある.


2.MODYの遺伝的要因

現時点で,少なくとも14遺伝子でMODYの要因となる病的バリアントが提唱されている.遺伝子と関連する臨床症状を 表 1にまとめた.
MODYに共通する4つの要因は以下の通り:

MODY全体の約20%は,その他10遺伝子の病的バリアントに起因するとされている.そのうちいくつかは,大規模な遺伝学的検査が可能になる前に指定されたため,MODYと誤って関連づけられているものもある.以前に他の方法で病的と推定されたバリアントについて,MODYの可能性のある多数の患者の分子遺伝学的検査およびその他の検査(機能研究および/または疾患とバリアントの分離など)によって検証することが求められる.
MODYの一部は,まだ同定されていない遺伝子の病的バリアントや,これまでの遺伝学的検査の手法では検出されなかった既知のMODY関連遺伝子の複雑な分子的変化によって引き起こされている可能性がある.

表1.家族性若年糖尿病(MODY):遺伝子と関連する臨床的特徴

遺伝子
(名称)
MODY全体に占める% 臨床的特徴 微小血管障害の頻度 参考文献/ OMIMへのリンク
ABCC81,2
(MODY12)
<1% HNF1A- & HNF4A-MODYに類似3 不明 Bowman et al [2012] / 600509
APPL1
(MODY14)
<1%4 一部の人で,過体重/肥満 不明 Prudente et al [2015] / 616511
BLK
(MODY11)
<1%5 一部の人で,過体重/肥満 不明 Kim et al [2004]Borowiec et al [2009] / 613375
CEL
(MODY8)
<1%6
  • 膵萎縮 → 膵外分泌機能不全
  • 線維化および脂肪腫→糖尿病
不明 Raeder et al [2006]Johansson et al [2011] / 609812
GCK
(MODY2)
30%-50%7,8
  • 出生時より軽度空腹時高血糖が持続
  • 一般的には無症状; 偶然診断されることが多い
9 Froguel et al [1993]Pearson et al [2001] / 125851
HNF1A
(MODY3)
30%-65%7,10,11
  • 一部の人で,一過性の新生児高インスリン性低血糖症
  • 進行性のインスリン分泌不全
  • 早期診断のためにOGTTが必要となることが多い
  • 腎性糖尿病
一般的12 Stride et al [2005] / 600496
HNF1B
(MODY5)
<5%13
  • 子宮内発育不全
  • 腎臓の異常
  • 尿路系の異常
  • 膵臓の低形成
一般的12 Montoli et al [2002]Bellanné-Chantelot et al [2004]Ulinski et al [2006]Faguer et al [2011] / 137920
HNF4A2
(MODY1)
5%-10%14
  • 出生児体重が正常値より 800 g 以上多い
  • 一過性の新生児高インスリン性低血糖症が一般的 15
  • 進行性のインスリン分泌不全
一般的12 Fajans et al [2001]Pearson et al [2005]Pearson et al [2007]Shields et al [2010] / 125850
INS 1
(MODY10)
<1% 不明 Edghill et al [2008a]Meur et al [2010] / 613370
KCNJ111,2
(MODY13)
<1% HNF1A-MODY & HNF4A-MODYに類似3 不明 Bonnefond et al [2012]Liu et al [2013] / 616329
KLF11
(MODY7)
<1%5 不明 Neve et al [2005]Fernandez-Zapico et al [2009] / 610508
NEUROD1
(MODY6)
<1%5 一部の人で,過体重/肥満 不明 Malecki et al [1999]Kristinsson et al [2001] / 606394
PAX4
(MODY9)
<1%5 不明 Mauvais-Jarvis et al [2004]Plengvidhya et al [2007] / 612225
PDX11
(MODY4)
1%5 一部の人で,過体重/肥満 不明 Wright et al [1993]Stoffers et al [1997]Fajans et al [2010] / 606392

 OGTT=経口ブドウ糖負荷試験

  1. この遺伝子の病的バリアントは,永続的な新生児糖尿病とも関連する.
  2. この遺伝子の病的バリアントは,家族性高インスリン血症とも関連する.
  3. HNF1A-MODYHNF4A-MODYの検査が陰性で,スルホニル尿素剤に反応する患者において検討すべき.
  4. APL1の2つの機能喪失型バリアントが報告されている.
  5. ヒト遺伝子変異データベース(HGMD)に病的として報告されているBLK, KLF11, NEUROD1, PAX4, PDX1のいくつかのバリアントは,ゲノム集積データベース(gnomAD) に,その潜在的臨床意義とは一致しない集団頻度で存在するものがある.これらの遺伝子のバリアントとMODYとの関連について理解するために,さらなる研究が必要である.
  6. 1人の患者でCELの大規模欠失がみられた(429ヌクレオチド) [Ellard et al 2013].
  7. 調査対象集団により異なる
  8. GCK-MODYの~1.8%は,全遺伝子または全エクソン欠失と関連する [Garin et al 2008].
  9. Steele et al [2014]
  10. Frayling et al [1997]Costa et al [2000]Gragnoli et al [2001]Xu et al [2005]Pihoker et al [2013]
  11. HNF1A-MODYの~1.2%は,全遺伝子または全エクソン欠失と関連する [Colclough et al 2013].
  12. 血糖コントロール全般に関連する
  13. HNF1B-MODYの~33%は,全遺伝子または全エクソン欠失と関連する [Bellanné-Chantelot et al 2005].
  14. HNF4A-MODYの~1.9%は,全遺伝子または全エクソン欠失と関連する [Colclough et al 2013].
  15. HNF4A-MODY患者は,2型糖尿病でみられる脂質プロファイルに類似した,リポタンパクA1,リポタンパクA2およびHDLコレステロール値の低下とLDLコレステロール値の上昇もみられることがある[Pearson et al 2005].

GCK-MODY(MODY2)は,出生時より軽度な空腹時高血糖(5.5-8.0 mmol/L; 99-144 mg/dL)が持続することを特徴とする.β細胞の機能は,年齢が上がってもほとんど低下しない(一般人と同様).罹患者は通常無症状で,高血糖は妊娠時やMODYが疑われる場合の家族スクリーニングなどの定期検診でみつかることが多い.糖尿病関連合併症は極めて稀である.

HNF1A-MODY(MODY3)は,思春期後半または若年成人で糖尿病を発症する.一般的には,小児期や思春期前半の耐糖能は正常である [Lorini et al 2009].しかしながら,明らかな糖尿病の発症に先行して,HNF1Aヘテロ接合体では,顕著な進行性のβ細胞の機能障害やインスリン感受性の上昇,糖尿がみられる [Stride et al 2005].初期の経口ブドウ糖負荷試験では、通常90mg/dL以上の非常に高いグルコース上昇が見られる傾向がある[Stride & Hattersley 2002].

HNF1B-MODY(MODY5,または腎嚢胞・糖尿病症候群[renal cysts and diabetes syndrome, RCAD syndrome])は,糖尿病よりも腎臓の関与が多い多臓器疾患である.腎臓の症状は,出生時にみられる明らかな構造的障害と後から発症する機能的障害がある.
腎臓の構造的障害としては,腎嚢胞が最も多く,出生前に両側の腎臓の高エコー像が見られることがある[Decramer et al 2007];出生後は多くの罹患者の腎臓において,大きさは正常または小さく,高エコー性および/または腎嚢胞を伴う[Heidet et al 2010].その他の構造異常としては,腎臓の欠失や腎低形成がありうる.
腎機能障害には,致命的な低マグネシウム血症を誘引する腎性マグネシウム欠乏や,早期発症の痛風として現れる高尿酸血症などがある.

若年発症糖尿病は,腎外症状としては最も多くみられ,通常小児期発症の腎疾患が同定された後に発症する.糖尿病の平均発症年齢は24歳だが[Chen et al 2010],新生児期 [Edghill et al 2006b]から中年後期まで幅広い[Edghill et al 2006a].

その他の所見として,膵萎縮や女性の生殖器の異常,肝機能異常,原発性副甲状腺機能亢進症などがみられることがある[Montoli et al 2002Bellanné-Chantelot et al 2004Ferrè et al 2013].
HNF1B病的バリアントには,一塩基置換や遺伝子内欠失などがある.さらに,HNF1B全体と少なくとも7つ(最大14個)の隣接遺伝子を含む染色体17q12における,少なくとも1.2Mbのヘテロ接合性の連続欠失は、HNF1B-MODYの成人の遺伝子変化の約50%を占める [Bellanné-Chantelot et al 2005Edghill et al 2008b].これらの17q12欠失症候群では,HNF1Bのハプロ不全では起こらない [Clissold et al 2016]自閉症スペクトラム障害(ASD)や認知機能障害 [Raile et al 2009Clissold et al 2015]などの神経学的所見を呈することがある.

HNF4A-MODY(MODY1)HNF4A-MODYでは,新生児期に一過性の高インスリン血性低血糖を示す場合があり,その後,青年期後半から成人期に糖尿病となる二重の表現型が観察されている.このような変化はどのような性質で,どのような時期に起こるのか,まだ十分に解明されていない [Bacon et al 2016a].


3.発端者におけるMODYの遺伝的要因を同定するための評価戦略

MODYが疑われる臨床所見(臨床的特徴の項参照)のある人において,MODYの遺伝的要因を特定することで,発端者のマネジメントおよび家系員の遺伝カウンセリングやリスクのある家系員の医療的サーベイランスに役立つ[Rubio-Cabezas et al 2014].
MODYの遺伝的要因は,通常,既往歴や家族歴,身体検査,糖尿病関連臨床検査および分子遺伝学的検査によって特定される.

既往歴MODYでは,糖尿病の発症が思春期または若年成人期であることが多い(35歳未満).出生歴や合併症など,その他の関連する病歴は遺伝的原因によって異なる (表 1).腎疾患の既往,特に嚢胞性腎疾患があれば,即座にHNF1B-MODYを疑うべきである.

家族歴糖尿病の血縁者に注目し,直接診察するか分子遺伝学的検査の結果を含む医療記録などの関連所見(糖尿病の発症年齢や発症時の体型,インスリン抵抗性など)を記録した3世代にわたる家族歴が必要となる.HNF1Bヘテロ接合性病的バリアントは,腎疾患と糖尿病を別々に引き起こすため,複数の腎疾患の罹患者とは別に糖尿病の罹患者が複数人いるような家族歴の場合,HNF1B-MODYを想起する.

身体検査MODYは典型的には正常体重または軽度過体重を特徴とするが,稀な遺伝的要因によって発症するMODYでは,肥満となることがある.加えて,どのタイプのMODYでも肥満は併存しうる.ある研究では,2型糖尿病に対する臨床試験に参加した肥満および過体重青年の少なくとも4.5%がMODYだった(多くがHNF4A-MODY,GCK-MODYまたはHNF1A-MODY) [Kleinberger et al 2018].MODYは過体重を防ぐことはできないため,インスリン抵抗性を伴って発症することがある.
痛風と一致する所見(HNF1B-MODYを示唆)以外には,身体検査で他と区別できるMODYの所見はない.

臨床検査.

関連するMODY遺伝子を決定するための分子遺伝学的検査方法には,表現型に応じて,遺伝子標的検査(連続した単一遺伝子またはマルチジーンパネル)や,包括的ゲノム検査(染色体マイクロアレイ解析またはエクソームシークエンス)の組合せがある.
単一遺伝子検査を行う場合は,臨床医がどの遺伝子に関連がありそうか決める必要があるが,ゲノム検査の場合はその必要はない.MODYは臨床的にも遺伝的にも多様であるため,表 1に記載のあるような特徴的な臨床所見があれば,単一遺伝子検査で診断がつくかもしれないが(Option 1参照),他の遺伝的要因のMODYと見分けのつかない表現型の場合は,マルチジーンパネルを利用した方が診断がつきやすいかもしれない(Option 2参照).利用可能な臨床的検査で遺伝的要因が同定できない,あるいは他の臨床的所見がある場合は,包括的ゲノム検査を考慮する(Option 3参照).

Option 1

表現型および検査所見に1つ以上のMODYの遺伝的要因(表 1)と一致するものがあれば,遺伝的要因を同定するための分子遺伝学的検査は連続した単一遺伝子検査マルチジーンパネルおよび/またはCMAが利用できる.
連続した単一遺伝子検査.まず初めに,最も疑われる遺伝子の配列解析を行う.病的バリアントが見つからなければ,全遺伝子または複数のエクソン欠失が同定されている遺伝子(CEL, GCK, HNF1A, HNF1B, HNF4A)については特に,エクソン単位の欠失を同定するために遺伝子標的欠失/重複解析を考慮する.

Option 2

14のMODY関連遺伝子と他の関心のある遺伝子を含むMODYマルチジーンパネルは,基本的な表現型を説明しえない遺伝子の病的意義不明なまたは病的バリアントの同定を制御しつつ,MODYの遺伝的要因を特定できる可能性が最も高いと考えられる[Ellard et al 2013Alkorta-Aranburu et al 2016].注:(1)パネルに含まれる遺伝子と各遺伝子に用いられる試験の診断感度は検査施設によって異なり,経年的にも変化しうる.(2)検査施設が設定するマルチジーンパネルには,MODYには関連しないが,稀な単一遺伝性糖尿病に関連しうる遺伝子が含まれているものもある.あるいは,稀にMODYの原因となる遺伝子が含まれていないものもある. (3) 検査施設によっては,臨床医が指定した遺伝子を含む,カスタム設計された施設独自のパネルや,表現型に焦点を当てたエクソーム解析パネルといった選択肢もある.(4)パネルで用いられる方法には,配列解析,欠失/重複解析,他の配列に拠らない手法のすべてまたはいずれかが含まれる.注:CEL, GCK, HNF1A, HNF1B, HNF4Aでは,全遺伝子または複数のエクソン欠失が同定されており(表 1),欠失/重複解析が含まれるマルチジーンパネルが推奨される.
マルチジーンパネルに関する概要は ここをクリック.遺伝学的検査を発注する臨床医向けのより詳細な情報についてはこちらを参照のこと.
以下の場合は,比較ゲノムハイブリダイゼーション(CGH)あるいは一塩基多型(SNP)アレイを用いた染色体マイクロアレイ解析(CMAも考慮する:

Option 3

エクソーム解析は,臨床医が要因となりうる遺伝子を推定する必要がない.さらに,患者の検査に使用したマルチジーンパネルに含まれないMODY関連遺伝子について,既存のエクソームシークエンスデータを再解析することも可能かもしれない.

包括的ゲノム検査に関する概要は ここをクリック.ゲノム検査をオーダーする臨床医向けのより詳細な情報については こちらを参照のこと

 


4.遺伝的要因に基づくMODYの臨床的マネジメント

表2 MODY:遺伝的要因に基づくマネジメント

遺伝子 病態生理学的特徴 治療 参考文献
なし 食事 OAD インスリン
ABCC8 ATP感受性カリウムチャネル機能不全 スルホニル尿素剤 Bowman et al [2012]
APPL1 インスリン分泌不全 X X X Prudente et al [2015]
BLK インスリン分泌不全 X X X Borowiec et al [2009]
CEL 膵内分泌・外分泌機能不全 X X Raeder et al [2006]
GCK β細胞機能不全(グルコースセンサーの機能不全) 妊娠中の場合を除く 1 Stride et al [2014]Chakera et al [2015]
HNF1A β細胞機能不全; 主にインスリン分泌不全 低用量スルホニル尿素剤またはメグリチニド; GLP-1 受容体作動薬も用いられる 必要なこともある 2 Shepherd et al [2003]Tuomi et al [2006]Østoft et al [2014]Bacon et al [2016b]
HNF1B β細胞機能不全 スルホニル尿素が効くのは少数. 通常必要 Dubois-Laforgue et al [2017]
HNF4A β細胞機能不全(主にインスリン分泌不全) スルホニル尿素剤が効果的 Pearson et al [2005]
INS β細胞機能不全 X X X3 Molven et al [2008]Boesgaard et al [2010]
KCNJ11 ATP感受性カリウムチャネル機能不全 X スルホニル尿素剤 X Bonnefond et al [2012]Liu et al [2013]
KLF11 β細胞のグルコース感受性低下 X X Neve et al [2005]
NEUROD1 β細胞の機能不全 X X X Malecki et al [1999]Kristinsson et al [2001]
PAX4 β細胞の機能不全 X X X Mauvais-Jarvis et al [2004]Plengvidhya et al [2007]
PDX1 β細胞の機能不全 X X X Clocquet et al [2000]Fajans et al [2010]

GLP-1=グルカゴン様ペプチド1;OAD=経口抗糖尿病薬

  1. 胎児の遺伝型による( 表 3参照) [Spyer et al 2001].
  2. HNF1A-MODY患者で糖尿病に長年罹患している場合は,インスリンの継続を必要とする場合がある.
  3. 少量のインスリンのみ必要となることがある.

GCK-MODYは,軽度で持続する空腹時高血糖を呈し,HbA1c は5.6-7.6%の範囲である[Steele et al 2013].インスリン分泌や調整は,完全に保たれている.GCK-MODYに対して治療をした群としない群で比較しても,明らかなHbA1cの違いは見られなかった.さらに,研究で薬物療法を中止してもHbA1cの値が変化しないことが示されている[Stride et al 2014].そのため,GCK-MODY単独では(1型あるいは2型糖尿病の併発または妊娠中を除き)薬物療法は必要とされない[Chakera et al 2015].
GCK-MODYで観測される血糖コントロールのレベルでは,長期的な合併症は稀である.GCK-MODY成人(平均年齢48.6歳)の長期的合併症に関する横断的研究では,健常コントロール群と比較して,(backgroundとして知られる)非増殖性網膜症の有病率が増加したのみだった [Steele et al 2014].つまり,GCK-MODY成人において網膜症のスクリーニングを毎年行うことは合理的であるが;通常の糖尿病に関連する微小血管および大血管合併症のスクリーニングは効果が低い.
1型または2型糖尿病の併発.治療は併発する糖尿病の型による.HbA1c治療目標をGCK-MODYの予想される範囲内に設定することにより,GCK-MODYでみられるグルコース刺激性インスリン分泌のセットポイントの上昇と拮抗制御 (counter-regulation)の閾値の低下について,引き続き考慮する必要がある [Uday et al 2014].
GCK-MODYの女性における妊娠.インスリンが必要となる可能性がある;治療推奨は,既知のあるいは推定される胎児の遺伝型に基づく[Spyer et al 2001Chakera et al 2015] (表 3).

胎児の遺伝型:

胎児の転帰:

その他の考慮事項:

表3 親と胎児の遺伝型が胎児の成長に及ぼす影響とGCK-MODYのリスクのある妊娠中の母親に対して推奨されるマネジメント

GCK 病的バリアントの起源 胎児の成長と妊娠中の推奨されるマネジメント: 胎児にGCK バリアントはある?1
はい いいえ
胎児の成長 治療 胎児の成長2 治療3
母親 正常 なし 出生時体重が正常(母親のGCKバリアントを有する胎児)より700 g 以上重い インスリンが必要(母親の空腹時血糖値を下げるために必要な投与量>補充量).
腹囲が75%tileを超えたら妊娠38週での出産を検討する.
父親 (または新規de novo) 抑制される:出生時体重が正常より400g以上少ない なし 正常 なし
  1. 胎児の遺伝型が不明の場合,妊娠第2期の胎児超音波検査における腹囲から推測することができる.
  2. 妊娠第2期の胎児超音波検査で評価する [Spyer et al [2001]
  3. Chakera et al [2015]Colom & Corcoy [2010]

HNF1A-MODY治療の第一選択は,低用量スルホニル尿素剤である.これは,遺伝的に問題のある部分よりも下流に作用し,グルコース非依存的なメカニズムでインスリン分泌を増加させる[Bacon et al 2016b].
1型糖尿病と誤診断されインスリン治療をしているHNF1A-MODYを持つ患者では,ケトアシドーシスのリスクなしにインスリン治療を中止し,スルホニル尿素剤治療を開始できる可能性がある[Shepherd et al 2003].インスリンからスルホニル尿素剤に変更することで,糖尿病関連合併症の減少に関連するHbA1c値の低下がみられることが多い[Bacon et al 2016b].これらに加え,スルホニル尿素剤は安価であるため,特にHNF1A-MODYに対する治療として最適である.

USでは,グリブリドがHNF1A-MODYに対して用いられるスルホニル尿素剤として最も一般的である.開始時の用量は低く設定し,低血糖を避けるためにインスリン量は下げるか中止する必要があるかもしれない.
HNF1A-MODYを持つ患者では,インスリン感受性は正常またはむしろ高まっているため,スルホニル尿素剤でも(低用量であっても)低血糖を起こすことがあり,その場合は使用を制限する必要がある.このような場合,メグリチニド(スルホニル尿素剤と同じ受容体に作用するが,結合親和性は低く,作用時間が短い)による治療を考慮する.研究では,ナテグリニド(メグリチニドアナログ製剤)はHNF1A-MODYの食後血糖値を低下させ,スルホニル尿素剤であるグリベンクラミドと比較して低血糖のリスクを低減することが示されている [Tuomi et al 2006].GLP-1作動薬もHNF1A-MODYの治療に効果的である.リラグルチドの血糖降下作用および低血糖のリスクは,スルホニル尿素剤であるグリメピリドよりも低い[Østoft et al 2014].
HNF1A-MODYを持つ患者で特に肥満であると,時間の経過とともにスルホニル尿素剤の血糖コントロールが悪化することがある[Bacon et al 2016b].最適な補完療法は不明であり,GLP-1作動薬とインスリン療法が適切な選択肢となる.

(HDLが上昇し,高感度C反応性タンパク(hsPC)が低値であったとしても)心血管疾患のリスクが高まるため,HNF1A-MODYを持つ患者に対して40歳からスタチン治療を開始すべきである [Steele et al 2010].
HNF1A-MODYを持つ女性の妊娠中の高血糖に対しては,スルホニル尿素剤またはインスリンで管理可能であり,正常の大きさの児を得ることができる.しかしながら,胎盤を通じてスルホニル尿素剤が移行する懸念がある.注目すべきは,メタアナリシスで,インスリンと比較してグリブリドで治療した場合,巨大児と新生児低血糖のリスクが増加することが示された[Poolsup et al 2014].
先天性疾患の一般集団におけるリスクは,約3-4%である.妊娠前にインスリン依存性糖尿病のある女性では,先天性疾患のある児を得るリスクが増加する(6-8%).妊娠前にインスリン非依存性糖尿病のある女性でも,一般集団と比較して先天性疾患のある児を得るリスクは高まるが;インスリン依存性糖尿病のある女性よりはそのリスクは低い.
妊娠中の適切な血糖コントロールは,先天性疾患のある児を得るリスクを(なくなるわけではないが)低下させ,児の新生児糖尿病関連合併症(巨大児,低血糖,電解質異常など)のリスクも低下させる. Silva et al [2012]によるメタアナリシスでは,妊娠中に経口血糖降下剤(グリブリドを含む)を服用した女性と,糖尿病治療のためのインスリンが必要だった女性との間で,先天性疾患の発生率に有意な差はなかった.妊娠中の糖尿病に伴う胎児へのリスクを考慮し,母体の慢性的な高血糖に対する積極的な治療が推奨される.
妊娠中の薬剤使用に関する詳細な情報については, MotherToBabyを参照のこと[Silva et al 2012].

HNF1B-MODY転写因子HNF1AとHNF1Bの間には明らかな相同性があるにもかかわらず,HNF1B-MODYはHNF1A-MODYの様にはスルホニル尿素剤に対する感受性を示さない.末梢のインスリン感受性は正常であっても,内因性グルコースに対するインスリン感受性が低下している[Brackenridge et al 2006].HNF1B-MODYを持つ患者の中にはスルホニル尿素剤を含む経口薬に反応する人もいるが,インスリン治療が必要となることが多い[Brackenridge et al 2006Dubois-Laforgue et al 2017].

HNF4A-MODYHNF1A-MODY同様,HNF4A-MODYの治療の第一選択もスルホニル尿素剤である[Pearson et al 2005].(HNF1A-MODYの様に)HNF4A-MODYでもメグリチニドやGLP-1作動薬は当然効果的であると思われるが,この仮定を裏付ける正式なデータはない.

その他稀な要因によるMODYに対する治療成績についてのデータはないため,治療は臨床的な判断による.報告されている治療については,表 2を参照のこと.


5.MODYの早期発見・早期治療のための,リスクのある血縁者に対するリスク評価およびサーベイランス

「遺伝カウンセリングは個人や家族に対して遺伝性疾患の本質,遺伝,健康上の影響などの情報を提供し,彼らが医療上あるいは個人的な決断を下すのを援助するプロセスである.以下の項目では遺伝的なリスク評価や家族の遺伝学的状況を明らかにするための家族歴の評価,遺伝学的検査について論じる.この項は個々の当事者が直面しうる個人的あるいは文化的、倫理的な問題に言及しようと意図するものではないし,遺伝専門家へのコンサルトの代用となるものでもない.」

MODYのリスクのある無症状の家系員に対して,早期に遺伝学的状態を明らかにすることの利点:

研究では,MODYのリスクのある家系員は,一般的に発症前遺伝学的検査を早期に行うことに前向きである [Liljeström et al 2007Bosma et al 2015].

遺伝形式

MODYは,通常,常染色体顕性遺伝(優性遺伝)形式をとる.新規の(de novo)病的バリアントが生じうる.

注:PDX1の両アレル性病的バリアントは膵無形成と関連し,GCKの両アレル性病的バリアントは永続的な新生児糖尿病と関連する.常染色体潜性(劣性)PDX1関連膵無形成および,GCK関連永続的新生児糖尿病については,このGeneReviewでは触れていない;これらの表現型および再発リスクの詳細な情報については,永続的な新生児糖尿病を参照のこと.

家族構成員のリスク

表4.家族性若年糖尿病(MODY)の発端者の家系員のリスク評価

家系員 臨床的・遺伝的状態の可能性 無症状と思われる家系員の評価: MODY関連病的バリアントは発端者で同定されている?
はい いいえ
発端者の両親
  • 罹患しており,MODY関連病的バリアントまたは病的と思われるバリアントのヘテロ接合体 または
  • 浸透率が低かったり表現型が多様であることにより,ヘテロ接合体であるが無症状 または
  • 以下のいずれかにより,ヘテロ接合体でない:
    • 病的バリアントまたは病的と思われるバリアントが発端者で新規( de novo)に生じた1,2
    • 親の生殖細胞系列モザイク
分子遺伝学的検査
  • 病的あるいは病的と思われるバリアントが同定された場合, MODYの初期症状に対するサーベイランス(臨床的マネジメントの項参照)
  • 病的あるいは病的と思われるバリアントが同定されなかった場合,  一般集団と同様に扱う
MODYの初期症状に対するサーベイランス(臨床的マネジメントの項参照)
発端者の同胞
  • 発端者の片親が罹患している/ヘテロ接合体の場合:同胞がバリアントを受け継ぎ/MODYであるリスクは50%
  • 発端者でMODY関連病的バリアントが同定されており,両親の白血球DNAでそのバリアントが同定されなかった場合:理論的には親の生殖細胞系列モザイクの可能性があるため,同胞の再発リスクは1%程度である.3
発端者の子 50%の確率で病的または病的と思われるバリアントを受け継ぐ
その他の家系員 片方の親がMODY関連病的バリアントのヘテロ接合体であれば,その家系員はリスクがある可能性がある.
  1. 主なMODY関連遺伝子で新規の(de novo)病的バリアントが生じる割合は不明.(MODY5に関連する)17q12欠失症候群では,罹患者の70%が新規の(de novo)遺伝子変化である.小規模な研究に基づくGCK,HNF1A,HNF4Aの限定的な症例報告では,これらの遺伝子のde novo率は7%程度である[Stanik et al 2014].
  2. 発端者で同定された常染色体顕性遺伝(優性遺伝)形式をとる病的バリアントが両親のどちらにも見つからず,臨床的な疾患の診断もつかない場合,その病的バリアントは新規(de novo)遺伝子変化である可能性が高い.しかしながら,生物学的親子関係でないこと(例えば, 生殖補助医療)や, 未公開の養子縁組などの非医学的解釈も考慮される.
  3. Rahbari et al [2016]

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更新履歴:

  1. Gene Reviews著者: Rochelle Naylor, MD, Amy Knight Johnson, MS, CGC, and Daniela del Gaudio, PhD.
    日本語訳者: 箕浦祐子(札幌医科大学大学院医学研究科遺伝医学)、櫻井晃洋(札幌医科大学附属病院遺伝子診療科)
    GeneReviews最終更新日: 2018.5.24  日本語訳最終更新日: 2022.12.3[ in present]

原文: Maturity Onset Diabetes of the Young Overview

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