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ムコ多糖症I型
(
Mucopolysaccharidosis Type I)
[Synonyms: Alpha-L-Iduronidase Deficiency, IDUA Deficiency, MPS I. Includes: Hurler Syndrome (MPS I H), Hurler-Scheie Syndrome (MPS I H/S), Scheie Syndrome (MPS I S)]

Gene Review著者: Lorne A Clarke, MD Jonathan Heppner, PhD candidate
日本語訳者: 窪田美穂(ボランティア翻訳者),鳴海洋子(信州大学医学部附属病院遺伝子診療部)    
Gene Review 最終更新日: 2011.7.21. 日本語訳最終更新日: 2012.4.23.

原文 Mucopolysaccharidosis Type I


要約

疾患の特徴 

ムコ多糖症I型(MPS I)は進行性多系統疾患であり,その特徴は軽度から重度まで多岐にわたる.これまで患者は3タイプのMPSI型症候群,ハーラー(Hurler)症候群,ハーラー-シャイエ(Hurler-Scheie)症候群,シャイエ(Scheie)症候群のどれかに分類されてきた.生化学的に区別ができないこれらの症候群を臨床的に鑑別する方法が確立されていないため,患者は重症型MPSI型か軽症型(attenuated)MPSI型と言われるのがせいぜいのところである.

重症型MPS I型.出生時は正常にみえる.たいてい,初期症状は非特異的なものである(臍ヘルニアや鼠径ヘルニア,1歳までの頻回の上気道感染など).粗な顔貌は1歳以降まで現れないことがある.脊椎下部の突背奇形が多い.全骨格の進行性異形成(多発性異骨症)は重症型のMPSI型患者には必ず起こる.3歳までに直線的な成長は止まる.知的障害は進行性で重度である.多くは難聴を伴う.ほとんどが10歳までに死亡する.心呼吸器不全による死亡が多い.

軽症型MPS I型疾患の進行速度や重症度は多岐にわたり,重篤で生命を脅かす合併症のために10〜20歳代に死亡する例がある一方で,全ての関節の可動範囲が進行的に重度に制約されることから生じる大きな機能障害を伴いつつも正常の寿命をまっとうする場合もある.小児早期に神経症状がなく心理運動発達が正常な患児もいるが,学習障害が生じやすい.臨床症状の発症は通常3〜10歳である.難聴と心臓弁膜疾患が多い.

診断・検査 

MPSI型は,末梢血の白血球,培養線維芽細胞,血漿中のライソゾーム酵素α-L-イズロニダーゼ活性欠損の証明によって診断される.尿中グリコサミノグリカン(GAG)(硫酸へパラン及び硫酸デルマタン)排泄量は,予備検査として有用である.現在,MPS I型との関連が知られている唯一の遺伝子であるIDUA遺伝子に対する分子遺伝学的検査が,臨床的に行われている.ほとんどのMPSI型患者では両方のアレルのIDUA遺伝子変異を同定するためにシークエンス解析が行われる.

臨床的マネジメント 

 症状の治療:発達遅滞に対する乳児の学習プログラムや特別教育.眩しい光を遮るためのサンバイザーやサングラスのついた帽子.必要な場合には心弁膜置換術.理学療法,必要な場合には整形外科手術(関節置換,環椎後頭関節安定術,手根管症候群に対する正中神経減圧術) .水頭症に対する脳脊髄液シャント.耳管機能不全や上気道閉塞に対する扁桃摘出やアデノイド切除.睡眠時無呼吸,肺高血圧,右心不全に対する気管切開.圧平衡チューブ.頚髄症に対する外科的介入術.

一次病変の予防: 2歳未満の重症型MPS I型の小児の中から選別した数名に造血幹細胞移植(HSCT)行ったところ,生存期間が延長し,粗な顔貌と肝脾腫大が緩和され,聴力が改善し,心機能が正常に維持された.HSCTでは,骨格症状や角膜混濁に顕著な改善はみられない.移植時の認知障害が軽度で目立たない子供の場合,HSCTにより認知機能の低下が緩徐化する場合がある.HSCTによって合併症の起こる割合と死亡率は高いため,主に中枢神経系の症状に何らかの軽減がもたらされる可能性のある重症型のMPS I型の子供に対してHSCTが勧められている.中枢神経系症状以外の治療薬として承認されているラロニダーゼ(アウドラザイム(R))を用いた酵素補充療法(ERT)により,軽症型患者の肝臓サイズ,成長,関節の可動性,呼吸,睡眠時無呼吸が改善された.酵素補充療法の開始時期が転帰に影響する可能性がある.

続発性合併症の予防: 心病変を持つ患者に対する細菌性心内膜炎の予防.麻酔リスクにとくに配慮すること.

経過観察: 乳児や小児の頭部成長に対する早期からの継続的モニタリング.定期的な正中神経の神経伝導速度検査.軽症型小児に対する就学前の教育評価.整形外科医,神経内科医(脊髄病変),眼科医,心臓専門医(エコー心電図検査など),聴覚訓練士,耳鼻咽喉科医による年1回の評価.

リスクのある親族への検査: 患者の同胞に対しては,できる限り早期に治療開始できるよう,α-L-イズロニダーゼ酵素活性検査,もしくは(家系内の2つの原因遺伝子変異が既知であるならば)IDUA遺伝子に対する分子遺伝学的検査による評価を行うこと.

遺伝カウンセリング 

MPS I型の遺伝形式は常染色体劣性である.両親が2人ともIDUA遺伝子に原因遺伝子変異を1つ持つヘテロ接合体である場合,受胎時に子供がMPS I型に罹患する確率は25%,無症状の保因者となる確率は50%,罹患せず保因者ともならない確率は25%である.リスクのある親族に対する保因者診断や,高リスク妊娠に対する出生前診断は,疾患原因のIDUAアレルが家系内で同定されていれば可能である.


診断

臨床診断

ムコ多糖症I型(MPS I)に特異的な所見は,疾患の重症度によって異なる.臨床症状だけで診断を下すことはできない.

MPSI型は以下の特徴がみられる患者に疑われることが多い.

  • 粗な顔貌的特徴
  • 肝脾腫大
  • 特徴的な骨格関節所見(突背奇形,関節可動域の制限)
  • 特徴的な眼科的所見(角膜混濁)

検査

生化学的検査を実施している施設に関しては,説明: Image testing.jpgを参照のこと.

尿中のグリコサミノグリカン(GAG)排泄 尿中のグリコサミノグリカン(硫酸へパラン及び硫酸デルマタン)測定によるムコ多糖尿検査は,有益な予備試験である.尿中GAG測定は定量的測定(尿中ウロン酸の総量測定)と定性的測定(排泄されたGAGの種類を調べるGAG電気泳動法)がある.

  • どちらの方法でもMPS I型を含め,どのライソゾーム酵素欠損症であるかを判断することはできない.しかし,どちらかの検査,もしくは両方の検査で異常がみられた場合には,MPS疾患である可能性を示している.
  • どちらの検査法でも,とりわけ尿が希釈されている場合には幾分感度が下がる.
  • GAG電気泳動法によりMPS疾患を除外したり,疑わしいMPS疾患を鑑別診断に含めたりすることができるが,確定診断には特異的な酵素確定試験を要する.

α-L-イズロニダーゼ酵素測定

  • 患者.MPS I型はライソゾーム酵素の1つであるα-L-イズロニダーゼ活性の欠損が示されることに基づいて診断される.α-L-イズロニダーゼとは,グリコサミノグリカンである硫酸へパランと硫酸デルマタンのライソゾーム分解中に,非還元末端であるα-L-イズロニド残基を除去するグリコシダーゼである.α-L-イズロニダーゼ酵素活性はほとんどの組織で測定可能であるが,一般には末梢血白血球,培養線維芽細胞,血漿が用いられる.
    • ほとんどのMPSI型患者の酵素活性は測定不能である.
    • 厳密な検査で確証されているわけではないが,α-L-イズロニダーゼ蛋白が正常量のわずか0.13%だけでもあれば,表現型の発現は軽症となるようである [Ashton et al 1992].
  • 保因者.酵素分析による保因者診断だけでは不確かである.
    • 発端者の親族. IDUA遺伝子変異が1つだけしか既知でない場合,もしくは1つもわからない場合,患者の直系親族に対する保因者診断の実施には,まず家系内の絶対的保因者の検査を行い,IDUA酵素活性のレベルが明らかに正常と異なるかを判定しなければならない.ここで異常であると確定された場合には,同一の試験を保因者リスクのある他の家系親族へ適用することができる.
    • 一般集団
      • 一般集団における保因者診断におけるα-L-イズロニダーゼ酵素活性の解釈は,α-L-イズロニダーゼ酵素活性の正常範囲の下限とヘテロ接合体における酵素活性の上限にかなり重複がみられるため困難である[ Neufeld & Muenzer 2001].
      • 稀にみられる偽欠損症(pseudodeficiency)アレルがあると,α-L-イズロニダーゼ酵素活性の解釈が困難となる.偽欠損症は人工基質を用いた際のα-L-イズロニダーゼ酵素活性の低下や検出不能に関連しているが,放射線標識(35S)を付けたGAGを用いた場合,グリコサミノグリカン代謝への影響はみられない[Aronovich et al 1996].

分子遺伝学的検査

GeneReviewsは,分子遺伝学的検査について,その検査が米国CLIAの承認を受けた研究機関もしくは米国以外の臨床研究機関によってGeneTests Laboratory Directoryに掲載されている場合に限り,臨床的に実施可能であるとする. GeneTestsは研究機関から提出された情報を検証しないし,研究機関の承認状態もしくは実施結果を保証しない.情報を検証するためには,医師は直接それぞれの研究機関と連絡をとらなければならない.―編集者注.

遺伝子 MPSI型に関連することが現在知られている唯一の遺伝子であるIDUA遺伝子に対する分子遺伝学的検査は臨床的に行われている.

臨床検査

  • 標的変異解析.検査機関によって変異検出用のパネルは異なることがあるが,たいていp.Gln70X,p.Ala327Pro,p.Trp402X,p.Pro533Arg,c.46_57delが含まれている.
  • シークエンス解析. 一般集団における保因者診断でのα-L-イズロニダーゼ酵素活性の解釈は,α-L-イズロニダーゼ酵素活性の正常範囲の下限とヘテロ接合体における酵素活性の上限にかなり重複がみられるため困難である[Beesley et al 2001].現在,MPS1患者では100以上のIDUA遺伝子変異が同定されている.
  • 欠失・重複解析は臨床的に可能であるが,MPSI型の原因となるIDUA遺伝子全体やエクソンの欠失や重複は報告されていない.こうした検査の有効性は不明である.

表1.MPSI型で利用される分子遺伝学的検査

遺伝子
記号

検査方法

検出変異

検査方法ごとの変異検出率1,2

検査の利用

IDUA

標的変異解析

p.Gln70Xp.Ala327Prop.Trp402Xp.Pro533Argc.46_57del 3

標的変異に対して100%3

臨床
説明: Image testing.jpg

シークエンス解析

変異検出用パネルに含まれるシークエンス・バリアント4

不明だが100未満

欠失・重複解析5

部分的/全体的な欠失/重複

既知の変異はない6

検査の利用とは,GeneTests Laboratory Directory掲載施設での利用状況である.GeneReviewsは,分子遺伝学的検査について,その検査が米国CLIAの承認を受けた研究機関もしくは米国以外の臨床研究機関によってGeneTests Laboratory Directoryに掲載されている場合に限り,臨床的に実施可能としている.GeneTestsは研究機関から提出された情報の検証や,研究機関の承認状態もしくは実施結果の保証を行わない.情報を検証するためには,医師は直接それぞれの研究機関と連絡をとらなければならない.

  1. 当該遺伝子に存在する1つの変異を検出する際に用いられる検査方法の精度
  2. シークエンス解析を用いた変異検出率に関する公表データはないが,Beesley et al (2001)は最も多くみられる変異に対する標的変異解析と変異スキャン法を用いることで,患者の95%超で双方の変異が同定可能であったとしている.
  3. 検査機関ごとに使用される変異検出用パネルは異なることがある.
  4. シークエンス解析で検出される変異は小さな遺伝子内欠失/挿入,ミスセンス変異,ナンセンス変異,スプライス部位変異などである.
  5. ゲノムDNAのシークエンス解析では容易に検出できない欠失/重複を同定する検査は,定量PCR,ロングレンジPCR法,MLPA法,(遺伝子/セグメント特異的)標的アレイGH法などである.ゲノム全般の欠失/重複を検出する完全なアレイGH法もこうした遺伝子/セグメントに有効であろう.アレイGH法を参照されたい.
  6. MPSI型を発症させるIDUA遺伝子の欠失や重複は報告されていない.このため,変異検出率は不明であり,低いと思われる.

検査結果の解釈

臨床的にはASと診断されながら11%あるいはそれ以上の患者で変異を同定できない理由としては,1)臨床診断が正しくない,2)UBE3Aの調節領域に同定できない変異が存在する,3)UBE3Aの機能に関連する他の未確認の機序や遺伝子変異がASの原因になっている,などがあげられる.

検査結果の解釈

  • 検出されうる変異
    • 既に報告されている病原性変異
    • 病原性と推測されるが過去の報告がない変異
    • 臨床的意義が不明なシークエンス変化
    • 病的意義がないと考えられるが過去に報告がないシークエンス変化
    • 既に報告されている病原性のないシークエンス変化
  • 変異が検出されない場合に考えられる可能性
    • 患者は解析した遺伝子に変異を有していない
    • 患者は変異を有しているがシークエンス解析で検出できない
    • 患者は解析した範囲以外の領域に変異を有している

検査手順

発端者の確定診断. MPSが臨床的に疑われる場合,初回の臨床的評価と臨床検査結果を組み合わせてMPSI型の診断を確実なものとし,MPS II型,III型との鑑別が可能となる.

臨床評価

  • 内臓所見の評価(顔貌の荒々しさ,肝脾腫大,関節の可動制限など)
  • 多発性異骨症の評価のための骨格検査
  • 角膜混濁の評価のための眼科検査

臨床検査評価

  • 尿中GAG電気泳動法で排出GAGを特定した後に行う尿中GAGスクリーニング
  • 白血球,血漿,線維芽細胞におけるα-L-イズロニダーゼ酵素活性測定
  • 酵素解析(初回診断検査として推奨)
  • IDUA遺伝子変異の同定は確定診断に有益である.最初に標的変異解析を行って,変異が1つも検出されない場合や1つだけしか検出されなかった場合,その後に全コード領域のシークエンス解析を行う検査機関もある.

リスクのある親族に対する保因者診断 家系内患者の双方の病原性アレルが同定されている場合,分子遺伝学的検査を用いた保因者診断の有用性が最も高い.

注:同定されているIDUA遺伝子変異が1つだけの場合,もしくは1つもわからない場合には,患者の直系親族に対する保因者診断には,まず家系内の絶対的保因者へ検査を行って,IDUA酵素活性のレベルが明らかに正常と異なるかを判定しなければならない.ここで異常であると確定された場合には,同一の試験を保因者リスクのある他の家系親族へ適用することができる.

注:保因者とは常染色体劣勢疾患におけるヘテロ接合体のことであり,疾患の発症リスクがない.

予後判定α-L-イズロニダーゼ酵素活性だけでMPSI型の重症度を予測することはできない.患者の分子的検査である特定の臨床経過と関連のあることがわかっている再発性の変異アレルが2つ同定された場合には,表現型が重症型か軽症型かという予後判定が可能なことがある.非再発性アレルが多く同定されているため,分子遺伝学的検査の結果に基づいて表現型を正確に予測することは,とりわけ疾患経過の初期には困難であろう.(「遺伝子型と臨床型の関連」を参照)

リスクのある妊娠に対する出生前診断は,家系内のIDUAアレル変異が2つとも同定されている場合には,分子遺伝学的検査を用いて行われるべきである.特にα-L-イズロニダーゼ酵素活性の測定経験の少ない施設では測定に問題が生じやすい.

リスクのある妊娠に対する着床前診断には,家系内のIDUA発病性変異が事前に同定されている必要がある.

注:GeneTests Laboratory Directoryに掲載されている検査機関で検査が臨床的におこなわれている場合に限り,臨床的に実施されているとするのがGeneReviewsの方針である.こうした掲載には著者,編集者,査読者の意向は必ずしも反映されていない.

遺伝的に関連のある疾患

IDUA遺伝子変異に関連する表現型はこの他には知られていない.

IDUA遺伝子には,Sat-1と名付けられた硫酸イオン輸送体をコードしていると考えられている重複転写領域が含まれていることがわかっている(SLC26A6).ヒトの SLC26A6遺伝子変異はまだ報告されていない.この変異はIDUA遺伝子とSLC26A6遺伝子双方の機能に影響を与えており,そのために表現型の複雑化をもたらしている可能性があると考えられている.

臨床像

自然経過

ムコ多糖症I型(MPSI型)は,進行性の多系統疾患であり幅広い特徴を持っているが,典型的なライソゾーム蓄積症であると考えられている.従来,α-L-イズロニダーゼ欠損症患者は3タイプのMPSI型症候群,すなわちハーラー(Hurler)症候群,ハーラー-シャイエ(Hurler-Scheie)症候群,シャイエ(Scheie)症候群のどれかに分類されてきた.3つの症候群,とりわけハーラー-シャイエ症候群とシャイエ症候群とを区別する生化学的基準が確立されておらず [Muenzer 2004] ,患者は治療の選択に影響を与える区別である重症型のMPSI型であるか軽症型のMPSI型であるといわれるのがせいぜいのところである.軽症型のMPSI型表現型を呈する患者間の多様性は極めて大きい.

重症型と軽症型の患者割合を正確に示した報告はまだない.控え目な数字で少なくとも80%の患者が重症型の域に入るとしているが,軽症型の患者は生存期間が長いために罹患集団のなかでより多くの割合を占めることになる.軽症型患者には診断が行われていない場合も考えられるため,重症型と軽症型の割合の推定値は正確でないと考えられる.

重症型MPSI型(ハーラー症候群)

重症型のMPSI型患者は多臓器,多組織に及ぶ慢性進行疾患の経過をとる[Clarke 1997,Neufeld & Muenzer 2001, Muenzer et al 2009].重症型MPSI型の乳児は,出生時には正常であるように見えるが,鼠径ヘルニアや臍ヘルニアを伴うことがある.重症型のMPSI型の診断年齢は平均でおよそ9カ月であるが,ほとんどの患児は18カ月に至る前に診断を受ける.生後10年までに心呼吸機能不全により死亡することが多い.

頭蓋顔貌及び身体的特徴.口腔顔面領域の軟部組織におけるGAGの蓄積とその下部領域の顔面骨形成不全によって生じる荒々しい顔貌は,生後2年以内に現れる.鼻翼,唇,耳介,舌の肥厚化は疾患の進行とともにより顕著となる.頭蓋冠の肥厚化が大頭症の原因となる.舟状頭症も多い.24月齢までに顔及び身体の多毛症が明らかになる場合が多く,その頃,頭皮の毛髪はごわごわした直毛で,かやぶき屋根のわらのようになっている.

肝脾腫大.進行性の肝脾腫大によって腹部が突出することが多い[Clarke 1997].臓器サイズが大きくなることがあるが,肝臓と脾臓でのグリコサミノグリカンの蓄積から臓器の機能不全が起こることはない.

骨格系病変. 重症型MPSI型患者には,みな全ての骨を侵す進行性の骨格異形成(多発性異骨症)がみられる 患児には早期から重症の骨病変が認められる.とりわけ腰骨内の軽度の異骨症は,肋骨の肥厚化とともに,出生時のX線写真で認めることができる.背奇形(背腰部の脊柱後弯症)も生後14カ月以内に臨床的に明らかになる場合が多い.6月齢ですでに突背が認められたという報告もある[Mundada & D'Souza 2009].

3歳までに直線的な成長が停止する.椎体の骨化中心異常から椎骨は平坦化,突出し,ここから脊髄奇形が生じる.合併症に脊髄神経絞扼,急性脊髄障害,環椎後頭関節不安定性が含まれることがある.

鎖骨は短く,肥厚していて,不均整である.長骨は短く骨幹の幅は広い.膝骨は外反や内反しやすい.軟骨内の成長板は肥厚化,変形している.骨盤形成が不良であることが一般である.大腿骨頭は小さく,外反股であることが多い.大腿骨頭病変から進行性の衰弱性腰部奇形となる.重症の関節奇形をもたらす進行性の関節障害が広く認められる.2歳までに関節硬化がみられる場合が多い.

指骨異骨症と滑膜肥厚により,特徴的な鷲手奇形となる.手根管症候群と指骨間の関節病変により,手の機能不全が起こることが多い.手根管症候群は発症が潜行性で,母指球萎縮と比べて症状や徴候がわずかであることが多いために見過ごされがちである.

眼科病変.角膜混濁はMPSI型患者全員に起こる.進行すると重度の視力障害に至りかねない.開放隅角緑内障が起こることがある .周辺視野の減少と夜盲の原因となる網膜変性が生じることが多い.網膜変性,視神経の圧迫や萎縮,皮質損傷が組み合わさって失明に至ることもある.

心血管病変.MPSI型患者全てが心疾患を併発している.臨床的に認められるずっと前に,心エコーで心病変の存在が明らかになる.弁尖の肥厚化や硬化が進行して僧帽弁逆流や大動脈弁逆流が起こることがあり,これは疾患経過のより後期に血流力学的に重要となることがある.重症型のMPSI型患者の弁膜疾患では僧帽弁逆流の方が多くみられる[Neufeld & Muenzer 2001].心臓でのライソゾーム蓄積が続くと,心筋症,不整脈からの突然死,冠動脈疾患,心血管虚脱が起こることがある.重症型のMPSI型患者のなかには,早期発症性の致死性心内膜線維弾性症となるものも少数いる.

難聴.重症型のMPSI型では難聴はよく起こり,身体疾患の重症度と相関がみられる.GAGの中咽頭内蓄積から生じる耳管機能不全のための頻回の中耳感染,中耳の耳小骨の異骨症,鼓膜の瘢痕,第8神経障害がある[Clarke 1997, Neufeld & Muenzer 2001].

耳鼻咽喉科病変.明らかな感染がみられなくても慢性的な再発性鼻炎と持続的な多量の鼻汁が多く起こる.中咽頭にGAGが蓄積することにより扁桃やアデノイドの拡大が起こり,気管狭窄や声帯の肥厚,上気道の余剰組織,舌の膨張を伴った上気道の合併症につながることがある.この上気道病変によりとりわけ夜間の呼吸音が大きくなり,とくに病期の後半でよくみられる合併症である閉塞性睡眠時無呼吸の主原因となる.中枢神経系病変もまた睡眠時無呼吸の原因となる.

患者の声は低く太い耳障りなことがある.

消化器病変.鼠径ヘルニアは再発の可能性があるため手術で修復する.臍ヘルニアは過度に大きく問題が生じる場合以外は,一般に治療されない.

原因は不明であるが,重症型のMPSI型患児の多くは定期的に軟便や下痢となり,時には重度の便秘の時期と交互に起こる.このような問題は年齢とともに消失する場合もあればしない場合もあるが,筋力低下と身体活動性の低下,また他の問題のために処方された抗生剤の使用により悪化する [Clarke & MacFarland 2001].Wegrzyn et al (2005)は胃腸の非定型細菌感染がMPS患者の胃腸不調の原因であるかもしれないと示唆している このような感染症の頻度は不明である.

水頭症. 重症のMPS I型患者では交通性高圧水頭症が多い.脳脊髄液の再吸収障害により頭蓋内圧が上昇し,脳圧迫をきたす.頭蓋内圧の急激な上昇により認知能力が急速に低下する患者もいる.症状から評価を下すことが困難なこともあるが,進行は潜行的である.重症型のMPSI型患者において,水頭症が神経学的悪化に及ぼす程度は不明である.

知的障害.早期の精神運動発達が正常な場合もあるが,通常は18月齢までに発達遅滞が明らかになる.その後,月単位で知能の低下が認められる(ベイリー精神発達指数による評価)[Krivit et al 1999].続いて,ほとんどの小児に発達的な成長がみられなくなるが,成長が止まった状態が数年間経過した後に知能の緩徐な低下が起こる.8〜10歳の死亡時までに重度の知的障害となる場合がほとんどである.

重症型のMPSI型の小児はごく限られた言語能力しか発達できず,発達遅滞,慢性難聴,巨大舌という3大徴候を伴うことが多い[Neufeld & Muenzer 2001].

MPS II型やMPS III型と比較すると,MPS I型の小児における重度の発達障害は,攻撃的ではなく穏やかな行動として現れる.末期でも発作はあまり起こらないように思われる[Clarke 1997].

硫酸ヘパランが細胞外基質の一部として脳内に大量に検出される.MPSI型患者のα-L-イズロニダーゼ欠損により ニューロンのライソゾームでグリコサミノグリカンが蓄積されることから,機序は不明であるが,二次的に糖脂質が蓄積されてゼブラ小体が形成される.グリコサミノグリカンの蓄積と続発的な糖脂質の蓄積により,重度の知的障害と水頭症が起こると考えられる.

軽症型MPSI型 (ハーラー-シャイエ症候群 シャイエ症候群)

24カ月時点の発達が正常な場合でかつ中等度の身体的病変が明らかに存在する場合,軽症型のMPSI型と分類するべきである.軽症型のMPS I 型患者の発症年齢は様々であるが,通常3〜10歳である.疾患の進行速度は,生命を脅かす重篤な合併症により10〜20歳代で死亡するケースから,明瞭な臨床徴候を示しつつも正常の生存期間をまっとうするケースまで様々である.MPSI型自体が稀であり,とりわけ軽症型はさらに稀であることから,表現型の特徴を挙げることは困難である [Thomas et al 2010].

小児早期の発達が正常な場合もあるが,軽症型のMPS I 型患者には学習障害がみられることがある.軽症型MPS I 型における身体的疾患の程度と知能的障害との間には相関が見出されていない[Vijay & Wraith 2005].

頭蓋顔貌及び身体的特徴. 軽症型のMPSI型患者の身体的特徴は様々である.顔貌の荒々しさは重症型のMPS I 型患者と比較するとそれほど明らかではない.短い首,幅広い口,角ばった顎,小顎症が認められる.

軽症型MPSI型患者の成長遅滞の程度は様々である.

肝脾腫大. 軽症型MPSI型患者における肝腫大の程度はさまざまである.

骨格系病変. 骨格及び関節病変は,軽症型患者の機能障害と痛みの最も大きな原因である[Clarke 1997, Vijay & Wraith 2005].軽症型の患者は認知機能障害を伴わない重度の骨病変を伴うことがある.MPSI型登録(MPS I Registry)によれば,軽症型MPSI型患者の約85%に,主に椎骨と大腿骨の異骨症がみられる[Thomas et al 2010].脊柱後弯,脊柱側弯,重症の背痛は軽症型MPSI型患者に多い.脊髄圧迫の原因となる脊柱下部の脊椎辷り症が病期半ばの患者に起こることがある.

全ての関節を侵し最終的には可動域の喪失もしくは大幅な制約につながる進行性の関節障害が広く認められる.手根管症候群は,MPSI型登録をしている軽症型患者の約67%にみられる.発症年齢の中央値は13.1歳である[Thomas et al 2010].特徴的な鷲手奇形,手根管症候群,指骨間の関節硬化の結果生じる手の機能不全もよくみられる.手根管症候群の古典的な早期徴候を訴える患者はほとんどいない(「治療・ケア」を参照のこと).

MPSI型登録を行っている軽症型MPSI型患者の90%超に凹足,外反膝,「爪先歩行」が認められる[Thomas et al 2010].

眼科病変.角膜混濁は軽症型MPSI型患者の約82%に認められるが,発症年齢の中央値は9.1歳である[Thomas et al 2010].角膜混濁から著しい視力障害となりやすい.緑内障,網膜変性,視神経萎縮も起こりうる.

心血管病変.心病変は軽症型MPSI型患者の約88%に起こると推定されており,発症年齢中央値は11.7歳である[Thomas et al 2010].心病変は逆流や狭窄を伴う僧帽弁疾患や大動脈弁疾患として現れることがあり,この場合には代替心弁膜置換術が必要なことがある.重症型のMPSI型患者と比べると,軽症型のMPSI型患者では大動脈弁疾患が多くみられるようである [Neufeld & Muenzer 2001].しかし,なかには全ての弁が侵される患者もいる.軽症型MPSI型患者の78%のうち,1つの弁のみが侵される患者が40%であり,2つ以上の弁が侵される患者が60%である[Thomas et al 2010].

冠動脈疾患も軽症型のMPSI型患者の特徴である.

難聴. 軽症型のMPSI型患者では,とりわけ重症な身体疾患を持つ子どもに中等度から重度の難聴が起こる.聴覚障害のほとんどは高波長域に認められるが,耳管機能不全と中耳の耳小骨の異骨症,第8神経障害が組み合わさって生じているようである.

耳鼻咽喉科病変.鼻漏が多い.

閉塞性気道疾患や中枢神経系疾患によると思われる睡眠時無呼吸が軽症型MPSI型患者に起こる.

消化器病変.MPSI型登録を行っている軽症型MPSI型患者の約65%にヘルニアがみられる[Thomas et al 2010].乳児期に鼠径ヘルニアが認められた場合も多く,繰り返し外科的修復が必要となる.

呼吸器系病変.進行性の肺疾患が努力性肺活量の異常により明らかになることがある.呼吸器の合併症(と心臓病変)は夭折の最大原因の1つである.

水頭症. 交通性水頭症やその合併症のリスクは,重症型MPSI型患者と比較すると軽症型のMPSI型患者では低い.しかし,発症が潜行的な水頭症も起こりうる.

その他の神経症状.クモ膜嚢胞が生じることがある.MRI画像診断で示される変化の予測検出力はMPSI型患者ではそれほど高くないようである[Neufeld & Muenzer 2001, Matheus et al 2004].

硬膜の肥厚化から生じる頸髄症を伴う進行性の脊髄圧迫(hypertrophic pachymeningitis cericalis)は軽症型MPSI型患者に多い.頸髄症は初期には活動性の低下や運動不耐性として現れることもあるが,損傷が不可逆的となるまで認識されないこともある[Neufeld & Muenzer 2001].

知的障害. 軽症型のMPSI型患者の知能は正常であるか,正常に近いことがある.知能が低下する場合,重症型患者と比べると経過はより遅延性である.

遺伝子型と臨床型の関係

酵素測定のみでMPSI型の重症度を予測することはできない.

変異の最大70%が再発性であり,従って表現型の予測に有益である.しかし,非再発性のアレルも多く同定されているため,遺伝子型に基づいて表現型を正確に予測する精度には限界があるだろう.2003年の遺伝子型と表現型の関係の包括的なレビューでは,この遺伝子座における家系特異的な変異(private mutation)の頻度の推計に関連する限界が述べられている [Terlato & Cox 2003].

一般に重症化アレルとは,ホモ接合体の状態でも,前述の重症化アレルを1つ有するヘテロ接合体の状態でも,重症型の表現型を生じさせるアレルのことである.重症化アレル(severe alleles)が2つ組み合わさった場合には重症型のMPSI型となる.

これとは対照的に,軽症型のMPSI型は通常,重症化アレル1つと幾分酵素活性が残存しているアレル1つによる.

病名

重症型と軽症型の二分法は現在一般に受け入れられており,軽症型を中間型や軽症型と呼んできたこれまでの命名法よりも,疾患の分子遺伝学的生化学的機序をより正確に反映している.

頻度

MPSI型はすべての民族で,重症型が約10万人に1人,軽症型が50万人に1人の頻度でみられる[Lowry et al 1990, Meikle et al 1999, Poorthuis et al 1999].

鑑別診断

本稿で扱われる疾患に対する遺伝学的検査の実施可能性に関する最新情報は,GeneTests Laboratory Directoryを参照のこと.―編集者注.

ライソゾーム蓄積症. ムコ多糖症I型(MPSI型)患者の所見は,その他のライソゾーム病,とりわけ多種スルファターゼ欠損症を含む他のムコ多糖症と重複している.臨床所見と生化学的検査により,両者の鑑別を行う.

α-L-イズロニダーゼ酵素活性欠損はI-cell病(ムコリピドーシスII型)や偽性ハーラー・ポリジストロフィー(ムコリピドーシスIII型)でも認められることがある.これらの疾患では,α-L-イズロニダーゼ酵素の生成量は適正であるが,受容体を介するライソゾーム輸送プロセスの障害のために,ライソゾームへの輸送が行われない.

若年性特発性関節炎.軽症型のMPSI型患者は非炎症性関節炎をどの年代でも発症することがある.このため,MPSI型では若年性特発性関節炎との鑑別を考慮すべきである [Cimaz et al 2006].関節病変のパターンとともにMPSI型の他の症状に対して注意深い臨床評価を行い,非炎症性関節炎を併発している軽症型MPSI型患者を特定することができるはずである.

臨床医への注:MPSI型に関する患者特異的な説明: Image SimulConsult.jpgについては,患者ごとの所見に基づいて鑑別診断を行う双方向型診断決定補助ソフトを参照のこと(要登録,アクセス制限あり).

  • 重症型MPSI型(ハーラー症候群)
  • 軽症型MPSI型

臨床的マネジメント

最初の診断時における評価

ムコ多糖症I型(MPSI型)と診断された患者の疾患の程度を知るためには,以下の評価手順が推奨される.

  • 脊髄病変と関節病変の程度及び範囲を確定するための骨格検査
  • 視力と眼圧測定,角膜の細隙灯検査,網膜電位図や視野検査による網膜機能評価を含む眼科的評価
  • 心エコーによる心室のサイズと機能の評価を含めた心機能評価
  • 聴力検査
  • 耳鼻咽喉科的評価,再発性感染に対する減圧チューブの検討
  • 睡眠検査の検討
  • 水頭症の可能性も視野に入れた頭蓋の画像診断(MRI画像診断が望ましい)
  • 脊髄及び末梢神経病変の評価
  • 発達評価

症状に対する治療

支持療法や対症療法は患者と家族の生活の質を向上させる.

重症型MPSI型乳児には,全般的な進行期であっても一部の能力は保持されうるので,早期学習を促す刺激を与える環境が必要となる.

骨格病変.理学療法はMPSI型の治療では極めて重要である[Tylki-Szymanska et al 2010a].関節の可動域を広げる運動の中には関節機能の保持に効果がありそうなものもあるため,早期に開始すべきである.重大な関節の制約が生じた場合には,造血幹細胞移植(HSCT)を行わない限り,可動域を広げることはできなくなる.

とりわけ軽症型の患者に対しては,さまざまな整形外科的アプローチを行うことができる.関節置換術や環椎後頭安定術が必要となることもある.これらの施術は患者の臨床経過のなかの適切な時期に実施し,他の合併症の存在も考慮に入れておかなければならない.

手根管症候群はとくに軽症型のMPSI型患者と造血幹細胞移植(HSCT)を受けた重症型MPSI型患者では治療を行うべきである.ほとんどの患者には重度の圧迫が生じるまで典型的な症状(痛み,ちくちくする痛み,無感覚)がみられない [Haddad et al 1997, van Heest et al 1998 正中神経減圧術により回復する手の運動機能は様々である [van Heest et al 1998].重症の神経損傷が起こる以前の早期介入により治療効果を最大限に引き上げることができるが,繰り返し手術が必要となることもある[Neufeld & Muenzer 2001].

眼科病変.ひさしのある帽子やまびさし(日よけ)により,角膜混濁を引き起こす強い光を弱めることができる.角膜移植は軽症型の患者では奏効するが,移植角膜もいずれは混濁する.混濁のない移植角膜を持つ患者でも,網膜や視神経の病変のために低視力のままであることがある[Neufeld & Muenzer 2001].

心血管系病変.代替心弁膜置換術は早期に考慮すること.

難聴.扁桃切除術やアデノイド切除術により耳管機能不全が改善され,上気道閉塞が緩和される.重症型の患者に対しては,早期のグロメットや換気チューブの留置術が推奨される.聴覚補助器具についても検討すること.

耳鼻咽喉科病変.睡眠時無呼吸には気管切開術や高圧酸素による持続性気道陽圧(CPAP)が必要な場合がある.気管切開術では気道確保と肺高血圧及び右心不全へのコントロールが必要な場合が多い.

消化管系病変.胃腸症状(下痢や便秘)の中には,食物繊維量の加減などといった食事でコントロール可能なものもある.食 食物繊維の増量や控え目な緩下剤の使用により便秘の改善がもたらされる場合がある.

水頭症.脳脊髄液圧と進行性の心室拡張にはシャント術を考慮する.中等度から重度の水頭症を伴うMPSI型患者への脳室腹腔シャント術は一般に緩和的なものであり,生活の質を向上させる.

その他.頸髄症を伴う進行性の脊髄圧迫に対しては,軽症型患者やHSCTを受けた患者に対して,積極的かつ迅速に評価を行うべきである.早期の外科的介入により重度の合併症が予防できることがある.

一次病変の予防

造血幹細胞移植 (HSCT)

HSCTは広範な移植前の臨床評価とカウンセリングから,実施後長期的に全般的モニタリングが可能と考えられる小児のみを選んで慎重に行うべきである[Neufeld & Muenzer 2001].成人がHSCTを受けることはない.

移植片の生着不全や移植片宿主病が多くの小児にとってHSCTの成功を阻む大きな障害となっている[Peters et al 1996; Peters, Shapiro, Anderson et al 1998; Peters, Shapiro, Krivit 1998].HSCT後の肺や心臓の合併症も多いと思われる[Gassas et al 2003].

一般に,HSCTを受けた患児の臨床的帰結は様々であり,臨床症状の程度と移植時年齢に左右される.一般にHSCTが勧められるのは効果が最も大きい2歳以前である.

HSCTは重症型MPSI型患児において,幾つかの症状の進行緩和に有益である [Vellodi et al 1997, Guffon et al 1998, Neufeld & Muenzer 2001(レビュー報告), Souillet et al 2003, Staba et al 2004].さまざまな疾患特性からHSCTの転帰についての解釈は困難であるが,入手可能なデータでは以下が示されている.

  • HSCTが奏効した場合には生存期間の延長,顔貌の荒々しさや肝腓腫大の減少,聴覚の改善,正常な心機能の維持がもたらされた.
  • HSCT治療を受けた患児の骨格症状と角膜混濁の進行速度は未治療患者と同じであった[Weisstein et al 2004, Taylor et al 2008].
  • HSCTによる進行性の知能低下以外の神経症状の軽減の程度は明確でなく,少数の報告[Munoz-Rojas et al 2008, Valayannopoulos et al 2010]では改善が示されているが,改善を認めない報告もある.重大な発達遅滞が起こる前にHSCTを受けた小児(すなわち,通常12〜18カ月)では,HSCTにより認知能力の低下が遅延化されたように思われる.HSCTを受ける以前に著しい認知能力の低下をみせていた小児は発達上の恩恵を受けていないようである.

HSCTを受けていない場合と比べると生存期間は67%程度延長している [Moore et al 2008].

HSCTは治療的手段ではなく,HSCTによって心弁膜症や骨格症状が改善されることはない.

既知の重症化変異を持つことから重症型MPSI型となることが予測される一連の患者では,HSCTにより心肥大が軽減し心室容積が正常化したため,心機能の安定化と改善がもたらされた.このコホートでHSCTは弁膜疾患への罹患と進行に対しては大きな効果を持つようには思われなかった .

HSCT後の生存期間が長期化したことにより,治療を受けた患者は腰やひざの痛みやこわばりを感じたり,手根管症候群,脊髄圧迫,進行性胸腰椎後弯変形を発症したりする(Neufeld & Muenzer 2001によるレビュー報告).その結果,運動機能や歩行を維持するために,様々な整形外科的措置がHSCT後に実施されるようになっている[Masterson et al 1996, Tandon et al 1996].

病理生理学.HSCTによる有効な影響は欠損マクロファージをドナー骨髄由来のマクロファージ(クッパー細胞;肺,腓,リンパ節,扁桃,腹腔マクロファージ;ミクログリア細胞)に置換することにより生じると考えられている.置換されたドナーのマクロファージは様々な蓄積部位へ向かって正常な酵素活性を持続させる源となる [Guffon et al 1998, Prasad & Kurtzberg 2010]. 既存の障害は不可逆的であるため,最適な効果を得るためには早期のHSCTが極めて重要である.

HSCTが骨格病変をうまく治療できない1つの理由は,骨組織には血管が比較的少ないことが挙げられるかもしれない[Taylor et al 2008].

酵素補充療法(ERT)

アウドラザイム(Aldurazyme(R))は,MPSI型の非中枢神経系症状への治療薬として,現在米国,ヨーロッパ,カナダで認可されている 現行の投与レジメンは,抗炎症薬や抗ヒスタミン薬の事前投与と,1週間に1回のアウドラザイム100単位/kgの4時間かけての静注となっている.

疾患の症状進行に対するアウドラザイムの影響と,より重要な点である軽症型患者治療におけるごく初期段階でのアウドラザイム開始の影響に関しては,結果が俟たれるところである.後者に関しては,早期診断が極めて重大であることから,とりわけ重要である.アウドラザイムは血管脳関門を通過しないため,重症型患者の中枢神経系疾患への奏効は期待できない.

I相非盲検試験はヒトα-L-イズロニダーゼ治療を受けている軽症型MPSI型患者を対象に1年かけて行われた.この試験では肝臓サイズ,成長,関節可動域,呼吸,睡眠時無呼吸で改善が示された.日常機能の遂行能力が増すことが報告された[Kakkis et al 2001].治療を受けた患者5名に対する6年間のフォローアップでは,関節可動域や睡眠時無呼吸における改善が持続していること,心疾患の進行がみられないことが示されたが,弁膜疾患の進行は認められた[Sifuentes et al 2007].

III相二重盲検プラセボ対照試験は軽症型MPSI型患者45名に対して,52週間の治療期間と26週間のプラセボ投与期間を設けて行われた [Wraith et al 2005].この試験では,肺機能と6分間歩行試験における統計的に有意な改善が示された.また,尿中GAG排出量や肝臓容量の減少という明らかな生化学的効果も示された.試験開始時に重症な睡眠時無呼吸であった患者は著しく改善した.

少数の治療患者に関する他の症例報告では治療に対する様々な反応が示されている.データとして公表される治療患者の多様性により,導き出される結論が複雑化する.軽症型患者においてERTが疾患の症状を後退させることができるかどうかは,治療開始以前までの疾患の負荷に密接に関係しているということは言えそうである.

すべての公表文献でERTの忍容性が良好であることが示されている.どちらの臨床試験でも治療を受けた患者はほとんど全員IgG抗体を生成するようになっているが,明らかな臨床的影響は報告されていない.しかし,こうして産出されたIgG抗体が酵素の排泄速度を加速させて治療効果を低下させる可能性もある.第I相試験と第III相試験に参加した患者のフォローアップから,免疫学的寛容が最終的に得られたことが示されている[Kakavanos et al 2003, Wraith et al 2005].

さらに4年間治療を延長するIII相延長試験には,第III相試験から40人が参加した[Clarke et al 2009].

  • 12週間後に低下率が下げ止まる前までに,尿中GAG値は60〜70%低下した(正常値に達した患者は15%).
  • 92%の患者の肝臓容量が正常化した.
  • 呼吸機能は,わずかな改善を認めた例もあれば変化を認めない例もあった.
  • 肩の関節の可動性は徐々に拡がり,重症度の高い患者でより大きな改善が認められた.
  • 歩行検査の結果には全般的に変化がみられなかった.
  • ほとんどの生活の質(QOL)指数が改善した(特に疼痛関連).
  • 24%に視力の改善がみられたが,角膜混濁については変化がなかった.
  • 約70%で身長の伸びが成長が再開した.成長率は治療とともに上昇したが,最終的な身長は依然として低かった.

最も多い反応は免疫関連であった.重度でないものがほとんどであり,一般にアウドラザイム(R)の忍容性は良好であることが示された.アウドラザイム(R)に対するIgG抗体の生成は,尿中GAG排泄量に逆相関する形で,93%の患者でみられた.しかし,この抗体生成は有害な免疫反応に直接関連していなかった.

その他の試験から以下がわかっている.

  • アウドラザイム(R)を早期投与(1歳未満)した場合,3歳以上で投与開始した場合と比較して,身長と頭囲に改善が認められたが,1歳で治療開始しても成長率には明らかな改善は認められなかった[Tylki-Szymanska et al 2010b].
  • 3人のうち1人に学習成績の改善が,また3.5〜4.5年間の酵素補充療法後に軽症型患者3人の全員に顕著なMRI所見の変化が認められた[Valayannopoulos et al 2010].しかし,この知見の確証には治療人数を増やす必要がある.
  • 酵素補充療法の早期開始(5月齢)と後期開始(5歳)による明らかな違いが,軽症型患者の同胞で認められている[Coppa et al 2010].

病理生理学.酵素補充療法の有効性は組換え酵素(静脈内投与)が細胞内に入り,ライソゾームという細胞内の適切な部位に到達できるかにかかっている[Russell & Clarke 1999].

続発的合併症の予防

心臓に異常を持つ患者に対しては,細菌性心内膜炎予防が推奨される[Neufeld & Muenzer 2001].

MPSI型患者は麻酔リスクが高く[Moores et al 1996],死に至ることもある.患者はムコ多糖症患者の対応経験のある麻酔専門医が勤務する施設で全身麻酔を受けることが望ましい[Neufeld & Muenzer 2001] 以下は重要な考慮点である.

  • 多発性異骨症は環椎後頭関節を含む脊髄の不安定性をもたらしかねない.姿勢には十分に注意を払い,首を曲げすぎないようにすることが大切である.
  • いかなる目的であれ麻酔の導入は適切な気道確保が困難であるため難しい場合が多い.気管挿管に際しては,気管が狭窄して声帯が肥厚化している可能性があるため,通常より口径の小さい気管チューブが必要となる場合がある.
  • 挿管に際して喉頭ファイバースコープが必要となる場合がある.
  • 麻酔からの回復時間は長くなることもあり,術後の気管閉塞はよく起こる問題である.

経過観察

MPSI型患者は疾患の重症度や治療方法にかかわらずMPS患者の治療経験のある施設で積極的に経過観察を受けるべきである.

  • 治療方法や疾患の重症度にかかわらず全ての患者に対して積極的な整形外科的ケアを行うこと.経験豊富な整形外科医による最低1年に1回の評価が推奨される.
  • 手根管症候群の発症頻度が高いため,定期的な正中神経伝導速度試験[van Heest et al 1998]
  • 角膜の状態や網膜機能の評価のための1年に1度の眼科医による評価
  • 1年に1回の心エコーを含む心臓評価
  • 聴覚障害の程度及び原因の確定のための聴力専門医による1年に1回の評価
  • 乳児や小児に対しては,前後径周囲(OFC)測定により,頭囲の成長を早期から継続的にモニタリングすること
    • OFCが急激に増加する場合には,頭蓋内超音波検査やその他の脳画像診断を行うことが推奨される.
    • MRIでは脳室拡大が示されるが,画像検査では脳萎縮と脳圧迫を確実に区別できないことが多い.
    • 脳圧亢進の程度を評価するには,腰椎穿刺で脳脊髄液の初圧の測定を行うことが望ましい[Neufeld & Muenzer 2001].
  • 必要な場合には脊髄MRI検査を考慮した1年に1回の神経専門医による脊髄病変の評価
  • 全ての患者に対する発達評価.小学校就学以前の軽症型患児に対する心理-教育的評価

リスクのある親族の検査

患者の同胞は,家系内の発病性変異が2つとも既知である場合には,できるかぎり早期に治療を開始するために,酵素活性測定やIDUA遺伝子に対する分子遺伝学的検査によりリスクの有無を確定するべきである.

遺伝カウンセリング目的のリスクのある親族に対する検査に関連する問題は,「遺伝カウンセリング」の項を参照のこと.

研究中の治療

臨床試験で示されたMPSI型患者における酵素補充療法(ERT)の奏効から,ERTへの反応性を高めるための努力が行われている.またERTに反応性を持たない領域・臓器を標的とするその他の治療スタイルの開発へも力が注がれている.

ERTHSCTとを組み合わせた治療法. ERT治療とHSCTを組み合わせた長期的な治療が重症型患者に改善をもたらすか否かは関心の持たれるところである.

HSCT前の酵素補充療法(ERT). HSCT実施前に酵素補充療法(ERT)の実施を考慮すべきである.HSCT以前にERTを行うと,既存の肺症状や心臓症状が軽減し,移植の合併症を軽減させる可能性があることが示されている[Tolar et al 2008].HSCT前に開始したERTをHSCT前後にも継続して行うと合併症の発症率が低下するかどうかに関する総体的なレビュー報告はないが,いくつかの臨床試験でHSCT前後のERTの安全性が裏付けられており,抗α-L-イズロニダーゼ抗体が移植片拒絶に関する問題を起こしていないようであることが示されている[Tolar et al 2008, Soni et al 2007].

中枢神経系への酵素送達.組換え蛋白の静注投与では血管脳関門を通過して蛋白の輸送ができない.中枢神経系へ酵素を供給しようとする様々な手段が現在研究されている.これらのアプローチには中枢神経系へ直接酵素を点滴注入するやり方,継続投与のための埋め込みポンプ,マイクロカプセルの埋め込み,キメラ組み換え蛋白の生成があり,血管脳関門を通過する経路を作りだそうとしている.

現在,髄膜ERTの臨床試験が脊髄病変を持つ患者に対して行われている.現時点では,この方法で脳脊髄中のGAG値と脳脊髄圧は低下させている[Munoz-Rojas et al 2008].

基質アナログを用いた変異酵素の安定化.ライソゾーム酵素はライソゾームへの輸送以前に細胞内の複雑な選別機序を経てプロセシングを受けなければならないということは現在広く認められている.ライソゾーム酵素欠損症の原因となる多くの点変異が疾患に至るには,点変異が翻訳後の蛋白の折りたたみ構造を変化させることがなければならない.結果として生じる折りたたみ構造が異常である蛋白はライソゾームへ輸送することができない.培養組織において小分子の基質アナログが変異ライソゾーム蛋白を安定化させ,これらの酵素のライソゾームへの輸送を可能とすることが示された.ライソゾームへ入ってしまえば,これらの変異酵素は疾患の経過に変化をもたらす程度に基質を十分に代謝することができる可能性を持つ.軽症型MPSI型患者のほとんどがミスセンス変異を1つ含むIDUAアレルを少なくとも1つ持っていることから,IDUA遺伝子に対する基質アナログの開発はこの疾患の新しい治療法へとつながる可能性がある.

基質抑制療法. ライソゾーム病に関して,貯蓄された基質量を減らす治療法が現在ゴーシェ病治療で研究されている[Cox et al 2003].MPS疾患で貯蓄されるGAGやその他の基質の生成量を減らす可能性を持つ同様の分子を用いることは今後の治療で何らかの役割を果たす可能性がある[Piotrowska et al 2006].こうしたアプローチはまだ動物モデルを用いた研究段階であり,特定のGAGに対する主要なGAG合成酵素の抑制などが試みられている[Kaidonis et al 2010] .

遺伝子治療・細胞治療.遺伝疾患に対する遺伝子治療や幹細胞治療の進展がMPSI型治療に影響をもたらす可能性もあるだろう [Punnett et al 2004, Di Domenico et al 2005].

様々な疾患や病態に対する臨床試験に関する情報へアクセスしたい場合には, ClinicalTrials.govを参照のこと.

その他

遺伝クリニック 遺伝専門医を擁する遺伝クリニックでは,患者や家族に自然経過,治療,遺伝形式,患者家族の遺伝的発症リスクに関する情報を提供とするとともに,患者サイドに立った情報も提供する. GeneTests Clinic Directoryを参照のこと.

患者情報 この疾患に特異的な,または大規模な支援組織に関する情報に関しては,「患者情報」を参照のこと.これらの組織は患者や家族に情報,支援,他の患者との交流の場を提供するために設立されている.

遺伝カウンセリング

「遺伝カウンセリングは個人や家族に対して遺伝性疾患の本質,遺伝,健康上の影響などの情報を提供し,彼らが医療上あるいは個人的な決断を下すのを援助するプロセスである.以下の項目では遺伝的なリスク評価や家族の遺伝学的状況を明らかにするための家族歴の評価,遺伝子検査について論じる.この項は個々の当事者が直面しうる個人的あるいは文化的な問題に言及しようと意図するものではないし,遺伝専門家へのコンサルトの代用となるものでもない.」

遺伝形式

ムコ多糖症I型(MPSI型)は常染色体劣性の遺伝形式をとる.

患者家族のリスク

発端者の両親

  • 患児の両親は絶対的ヘテロ接合体であり,IDUA遺伝子に病原性変異を1つ持つ.
  • ヘテロ接合体は無症状である.

発端者の同胞 

  • 受精時に患者の同胞が罹患する確率は25%,無症状の保因者となる確率は50%,罹患せず保因者ともならない確率は25%である.
  • リスクのある同胞が罹患していないことが分かった時点で,その同胞が保因者である確率は2/3となる.
  • ヘテロ接合体(保因者)は無症状である.

発端者の子 MPSI型患者の子はIDUA遺伝子の病原性変異に対して絶対的ヘテロ接合体(保因者)である.重症型の患者は子どもを持たない.

他の家族 絶対的ヘテロ接合体の子が保因者である確率は50%である.

保因者診断

白血球中のα-L-イズロニダーゼ酵素活性の測定による保因者診断は信頼性が低い(「検査」,)「α-Lイズロニダーゼ酵素活性測定」,「保因者」の項を参照のこと).

IDUA遺伝子に対する分子遺伝学的検査は臨床的に実施可能であり,家系内罹患者の変異がどちらもわかっている場合には,リスクのある親族における保因者診断が可能である.

MPSI型患者の子供がIDUA遺伝子に対する分子遺伝学的検査を行わずに死亡していてDNA検体が採取できない場合でも,患児の両親の保因者状態を確定するIDUA遺伝子の分子遺伝学的検査を行うことができる.両親が保因者であることが判明した場合,発端者のMPSI型の診断が確定し,他の親族に対して保因者診断を行うことが可能となる.両親のどちらか一方にしかIDUA遺伝子変異が同定されない場合は,分子遺伝学的手法を用いた保因者検査は,変異が同定された親の親族に対してのみ実施できる.

IDUA遺伝子変異をもつことがわかっている血縁関係のないパートナーに対する分子遺伝学的な保因者診断も可能である.一般集団と同津おのリスクをもつ個人の分子遺伝学的検査が正常であった場合には,保因者である可能性は低くなるが完全になくなるわけではない.

遺伝カウンセリングに関連した問題

早期診断及び早期治療目的のリスクのある親族に関する情報は「リスクのある親族の検査」の項を参照のこと.

家族計画

  • 遺伝的リスク,保因者状態の確認,出生前診断の利用に関する話し合いを行う最適な時期は妊娠前である.
  • 保因者であるかもしくは保因者リスクを持つ青年成人に対して,遺伝カウンセリング(子どもへの潜在的リスクや出産手段に関する話し合いなど)を申し出ることが望ましい.

DNAバンキングは,将来の使用のために,通常は白血球から調整したDNAを貯蔵しておくことである. 検査手法や,遺伝子,変異,疾患への理解は将来改善する可能性があり,患者のDNAを貯蔵しておくことは考慮されるべきである.ことに現在行っている分子遺伝学的検査の感度が100%ではないような疾患に関してはDNAの保存は考慮すべきかもしれない.このサービスを行っている機関についてはDNA bankingの項を参照のこと.

出生前診断

MPSI型の分子遺伝学的機序が既知の場合,出生前診断は分子遺伝学的検査を用いて行われるべきである.酵素活性測定には,とりわけ経験の少ない施設では潜在的に内在する困難があるからである.

分子遺伝学的検査.リスクの高い妊娠に対する出生前診断は,通常胎生週数約15〜18週に実施される羊水穿刺,もしくは胎生週数約10〜12週に実施される絨毛生検により胎児細胞から抽出したDNA解析により可能である.出生前診断の実施以前に家系内の発病性アレルがどちらも同定されていなければならない.

生化学的遺伝検査.出生前診断はMPSI型のリスクの高い妊娠に対して,通常胎生週数約15〜18週に実施される羊水穿刺,もしくは胎生週数約10〜12週に実施される絨毛生検により採取された培養細胞のα-L-イズロニダーゼ酵素活性を測定することから実施できる.

注:(1) MPSI型の出生前診断における問題は,正常絨毛におけるα-L-イズロニダーゼ酵素活性が低いことから生じることがある [Young 1992].しかし,母体汚染分析が可能である場合には,境界域にある低いα-L-イズロニダーゼ酵素活性の解釈上の困難は未培養の絨毛生検細胞ではなく培養された絨毛生検細胞における酵素活性の測定で克服される可能性がある [Neufeld & Muenzer 2001].(2)羊水中のグリコサミノグリカンやα-L-イズロニダーゼ酵素活性の測定は胎児のグリコサミノグリカン排出量が多い場合には複雑となるため,出生前診断には有用でない.(3)胎生週期とは最終月経の第1日から換算するか,超音波による計測によって算出される.

1人の親のみに保因者状態が示された場合.両親のうち1人がヘテロ接合体であることが分かっており,もう1人の酵素活性が不確定でDNA解析でIDUA遺伝子に発病性変異がみられないことがはっきりとした場合,もしくは母親がヘテロ接合体であることが分かっているが父親の結果が不明もしくは検査の実施が不可能である場合には,出生前診断の選択は一般の遺伝カウンセリングの文脈で考える.

着床前診断(PGD) MPSI型に対する極体解析による着床前診断が報告されており[Tomi et al 2006],発病性変異が同定されている家系親族では実施可能であろう.着床前診断を提供している施設に関しては,説明: Image testing.jpgを参照のこと.
 

更新履歴

  1. Gene Review著者: Lorne A Clarke, MD
    日本語訳者: 窪田美穂(ボランティア翻訳者),櫻井晃洋(信州大学医学部附属病院遺伝子診療部)
    Gene Review 最終更新日: 2007.9.21. 日本語訳最終更新日: 2010. 1.16.
  2. Gene Review著者: Lorne A Clarke, MD Jonathan Heppner, PhD candidate
    日本語訳者: 窪田美穂(ボランティア翻訳者),鳴海洋子(信州大学医学部附属病院遺伝子診療部)    
    Gene Review 最終更新日: 2011.7.21. 日本語訳最終更新日: 2012.4.23.( in present)

原文 Mucopolysaccharidosis Type I

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