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ミトコンドリア異常症概説
(
Mitochondrial Disorders Overview)
[Mitochondrial Encephalomyopathies, Mitochondrial Myopathies, Oxidative Phosphorylation Disorders, Respiratory Chain Disorders]

Gene Review著者: Patrick F Chinnery, MBBS, PhD, MRCP
日本語訳者: 牧野聖子(Massachusetts General Hospital, Cardiovascular Research Center)
GeneReview 最終更新日: 2006.2.21. 日本語訳最終更新日: 2007.3.29

原文 Ehlers-Danlos Syndrome, Hypermobility Type


要約

疾患の特徴 

 ミトコンドリア異常症はミトコンドリアの呼吸鎖の機能障害によって引き起こされる多様な疾患群である.この疾患は細胞核内DNAもしくはミトコンドリアDNA(mtDNA)における変異によって引き起こされる.レーバー遺伝性視神経萎縮症(LHON)を例とする一部のミトコンドリア異常症は一種類の内臓器官のみに影響を及ぼすが,多くの疾患では複数の内臓器官に影響を及ぼし,顕著な神経と筋肉障害をもたらす.ミトコンドリア異常症はすべての年齢層にわたって発症する可能性がある.一般的に細胞核DNA変異によるものは幼年期に,mtDNA変異(一次的変異もしくは細胞核DNA異常による二次的変異)は幼年後期もしくは成人してから発症する.多くの患者は一連の独立した症候群(例: キアーンズ・サイヤー症候群(KSS),慢性進行性外眼筋麻痺(CPEO),乳酸アシドーシスと脳卒中様エピソードを伴うミトコンドリア脳筋症(MELAS),赤色ぼろ線維・ミクローヌスてんかん症候群(MERRF),運動失調と網膜色素変性症を伴う神経衰弱(NARP),リー症候群(LS))を伴う.しかし多様性を伴う症状が考えられるため,多くの患者は一つのカテゴリーにはまとめられない.ミトコンドリア異常症の主だった症状は眼瞼下垂,外眼筋麻痺,近位筋障害と運動不耐性,心筋症,感音難聴,視神経萎縮,網膜色素変性,糖尿病が挙げられる.中枢神経への症状は変動性脳症,てんかん,認知症,偏頭痛,脳卒中様発作,運動失調,痙攣が挙げられる.妊娠中期と後期における流産はよく見られるが,認知されていない.

診断・検査 

 一部の患者にはミトコンドリア異常症の特徴的な症状(レーバー遺伝性視神経萎縮症, 運動失調と網膜色素変性症を伴う神経衰弱,母性遺伝性リー症候群)が見られ,診断は血液サンプルより得られるDNAを使用した分子遺伝学的テストによって確認できる.多くの患者においては,家系図,血液サンプル,脳脊髄液の乳酸濃度,神経系画像診断,心機能評価,ミトコンドリア異常症の組織学的な筋肉の細胞診とミトコンドリアDNAの変異の分子遺伝学的テストなどのさらなるテストが必要とされる.

臨床的マネジメント 

 ミトコンドリア異常症の臨床的マネジメントは概して支持的なものである.臨床的マネジメントは初期診断と糖尿病,ペースメーカー,眼瞼下垂の矯正,白内障の眼内水晶体交換などが含まれる.複合体Iおよび複合体II欠損の患者では時にリボフラビン(ビタミンB2)の経口投与が有効である.

遺伝カウンセリング 

ミトコンドリア異常症は細胞核DNAもしくはmtDNAの欠損によって生じることがあり得る.細胞核DNA欠損は常染色体劣性遺伝か常染色体優性遺伝である.mtDNA欠損は母系遺伝によって遺伝する.一般的にミトコンドリアDNA欠失は突然変異によるので,患者の他の家族にも疾患を引き起こす可能性は高くはならない.ミトコンドリアDNAの点変異や重複は母性遺伝が見られる.患者の父親が疾患を引き起こすmtDNA変異を保持する可能性はなく,通常は母親がmtDNA変異を保持し,症状を現していることもある.男性がmtDNA変異を子に伝えることはない.ヘテロ接合型のmtDNA点変異を保持する女性は様々な頻度の変異を子に遺伝する可能性があり,変異頻度の度合いによって様々な家族内の同胞間でも臨床症状の重症度の違いを引き起こす可能性がある.ミトコンドリア異常症の出産前診断とその解釈はmtDNAのヘテロプラスミーのために困難となっている.


定義

ミトコンドリア異常症はミトコンドリアの呼吸鎖の機能異常によって引き起こされる多数の症状群である.ミトコンドリア呼吸鎖は好気性新陳代謝に不可欠な最終共通経路で,好気性新陳代謝に特に依存する組織と臓器は主にミトコンドリア異常症に関わっていることが多い.

70以上の異なるポリペプチドがミトコンドリアの内膜と相互作用し呼吸鎖を形成する.大部分のポリペプチドのサブユニットは細胞核の遺伝子転写物から細胞質で合成されるが,13の不可欠なサブユニットは16.5kbのミトコンドリアDNAにコードされている.図1にヒトのミトコンドリアDNAの構成を示す.1.1kbのDループ(遺伝子がコードされていない領域)は遺伝子転写の調整とmtDNAの複製に関与しており,この領域のみが呼吸鎖の合成に直接関与していない.ND1−6,ND4Lは複合体Iの7つのサブユニットをコードしている.Cyt bはmtDNAだけに コードされている複合体IIIである.COX(cytochrome c oxidase, COX) IからIIIは複合体IVの三つのサブユニットをコードし,ATPase 6とATPase 8は二つの複合体Vをコードしている.二つのリボソームRNA遺伝子(12S,16S rRNA)と22のtRNA遺伝子はタンパク質をコードする遺伝子の間にコードされている.これらはミトコンドリアのタンパク質合成に不可欠なRNAである.OHとOLはミトコンドリアDNAの複製H鎖とL鎖の起点である.

個々のヒト細胞は出生時には通常遺伝的に同一な数千ものmtDNAのコピーを保持している(ホモプラスミー ).対照的に,mtDNAに変異を持つミトコンドリア異常症の患者は変異と正常の両方のmtDNAを個々の細胞に保持している(ヘテロプラスミー).単一細胞と融合細胞を用いた研究によると,細胞が生化学的に異常なミトコンドリア呼吸鎖を発現するためには変異と正常なmtDNAの割合がある一定値を越えなければならないことが明らかにされている(閾値効果).変異mtDNAの細胞内の割合は同一家族内でも個人によって異なり,また患者個人においても器官と組織で異なる.これはミトコンドリア異常症を持つ患者に様々な臨床表現型が現れる一つの理由ともされる.例として,8993T>Gの変異を持つ患者では,変異の割合はNARP(神経性薄弱運動失調網膜色素変性症)患者よりもリー症候群患者により多く見られる.

ミトコンドリアゲノム

図1. ヒトのミトコンドリアゲノム

臨床所見

ある種のミトコンドリア異常症は,眼の眼球神経障害(LHON)や,アミノグリコシド感受性もしくは非感受性の無症状難聴などのように単一の器官に影響を及ぼす.しかし多くの異常症は複数の器官に影響を及ぼし,顕著な神経障害,筋障害を現す.

ミトコンドリア異常症は幅広い年齢層にわたって現れる.一般的に,核内DNA異常は幼年期から,mtDNA異常は幼年後期から成人にかけて現れる.

多くの患者は独立した臨床表現型を現し,それぞれグループにまとめることができる(表2).例として,キアーンズ・セイヤー症候群(KSS),慢性進行性眼筋麻痺(CPEO), 乳酸アシドーシスと脳卒中様発作を伴うミトコンドリア脳筋症(MELAS), 赤色ぼろ線維・ミクローヌスてんかん症候群(MERRF), 運動失調と網膜色素変性症を伴う神経衰弱 (NARP),リー症候群が挙げられる.しかし,臨床表現型は様々であり,多くの患者は適切なカテゴリーに当てはまらないことが多い.

共通の臨床表現型は眼瞼下垂,外眼筋麻痺,近位筋障害,運動不耐性,心筋障害,感音難聴,視神経萎縮症,網膜色素変性症,そして糖尿病が含まれる.糖尿病と難聴はよく認められる臨床表現型である.

中枢神経系に見られるのは変動性脳障害,てんかん,認知症,偏頭痛,脳卒中様発作,運動失調,痙攣である.舞踏病と認知症は顕著に見られる.

高い確率で起こる妊娠中期と後期の流産もまた共通に見られる特徴であるが,あまり認知されていない.

表1 ミトコンドリア異常症の臨床表現型

疾患

主な臨床表現型

その他の臨床表現型

慢性進行性外部眼筋
麻痺 (CPEO)

  • 外眼筋麻痺
  • 両側性眼瞼下垂

・軽い近位筋障害

カーンズ・セイヤー症候群(KSS)

・20歳以前に進行性眼筋麻痺発症

  • 網膜色素変性
  • 下記のうち一つの症状 −コロニー刺激因子タンパク質が1g/L以上,小脳失調,心伝導障害
  • 両性難聴
  • 筋症
  • 嚥下障害
  • 糖尿病
  • 副甲状腺機能低下症
  • 認知症

ピアソン症候群(汎血球減少症)

  • 小児性鉄芽球性貧血
  • 汎血球減少症
  • 膵外分泌不全
  • 腎尿細管機能不全

乳児性筋症と乳酸アシドーシス(致死性と非致死性)

  • 出生後一年以内に筋緊張低下症
  • 摂食哺乳と呼吸困難
  • 致死性は心筋症やファンコニ症候群を伴う

リー症候群(LS,亜急性壊死性脳脊髄炎)

  • 亜急性再発性脳疾患
  • 小脳・脳幹症状
  • 乳児期に発症
  • 基底核病変
  • 母系に神経疾患もしくはリー症候群

運動失調と網膜色素変性症を伴う神経衰弱

  • 小児期後半もしくは成人発症の末梢神経障害
  • 運動失調
  • 網膜色素変性
  • 基底核病変
  • 異常網膜電図
  • 感覚運動性神経障害

乳酸アシドーシスと脳卒中様発作を伴うミトコンドリア脳筋症 (MELAS)

  • 40歳以前に脳卒中様の発作
  • てんかんや認知症
  • 糖尿病
  • 心筋症(初期は肥大性,後期に拡張性)

赤色ぼろ線維とミオクローヌスてんかん症候群 (MERRF)

  • 筋ミオクローヌス
  • てんかん
  • 小脳失調
  • 筋症
  • 認知症
  • 視神経萎縮
  • 両性難聴
  • 末梢神経障害
  • 痙攣
  • 様々な良性脂肪腫

レーバー遺伝性視神経萎縮症 (LHON)

  • 亜急性無痛両側性視覚障害
  • 男性:女性 約4:1
  • 発症年齢中央値24歳
  • ジストニア,筋緊張異常
  • 早期興奮症候群

ミトコンドリア異常症の確定診断

ミトコンドリアの機能異常は進行性の多器官にわたる疾患の様々な診断によって確定診断されるべきである.確定診断は多器官に無関係で見られる病徴が見られるときの方が単一の病徴を示すケースより容易であることが多い.患者が認知されやすい表現型を示すときや既知のミトコンドリアDNAの変異を同定できる場合,比較的容易に検討することができる.mtDNAの変異が同定されない場合や,臨床における異常性が複雑であり容易に多くのミトコンドリア異常症に共通する特徴に当てはまらない場合,確定診断は困難である.要約すると,

  • ミトコンドリアの評価は複数の神経症状や単一の神経症状と他の器官の症状が関わる小児において確約されやすい.
  • 表現型が典型的な母系遺伝ミトコンドリア異常症である場合, 乳酸アシドーシスと脳卒中のエピソードを伴うミトコンドリア脳筋症(MELAS), 赤色ぼろ線維・ミクローヌスてんかん症候群(MERRF), レーバー遺伝性視神経萎縮症 など,第一に適切なmtDNAの検査が行われるべきである.
  • 臨床像が典型的な核DNA遺伝病で遺伝子や遺伝連鎖が既知である場合(ミトコンドリア神経性胃腸管系脳筋症(MNGIE),二次的な複数の欠損DNAを伴う常染色体遺伝性進行性外眼筋麻痺, アルパース-フッテンロッヘル症候群など),医師は分子遺伝学的検査も行うべきである.
  • 臨床像が不特定であるがミトコンドリア異常症である可能性がきわめて高い場合,医師は血漿やCSF乳酸濃度,ケトン体,血漿アシルカルニチン,尿中有機酸の検査から着手するべきである.これらの値が異常である場合には筋検査とミトコンドリア呼吸鎖酵素の検査を進めるべきである.血漿や脳脊髄液中乳酸濃度が通常値であった場合でも,ミトコンドリア異常症ではないと確定はできない.

臨床検査はミトコンドリア異常症の補助診断として使用される.

  • 神経系画像検査 中枢神経系疾患と疑われる患者に用いられる.CTスキャンにより大脳基底核の石灰化および散在性の萎縮を捉えることがある.MRIにより皮質や小脳の局所的な萎縮,T2強調画像の著しいシグナルの変化,特に後頭葉の皮質におけるシグナルの変化を捉えることがある.全身性の白質脳症を明らかにする場合もある.小脳の萎縮は小児において顕著な特徴である.
  • 神経生理学的検査 脳波検査は脳疾患もしくはてんかんと疑われる場合に用いられる.脳疾患は電気脳造影法において全体的に遅い脳波の活動が見られる.全体的,もしくは局所的な棘波と徐波はてんかんの患者に見られる場合がある.

末梢神経の神経生理学的検査は四肢筋力低下,知覚症状,もしくは反射消失の症状を示す患者に用いられる.筋電図検査は正常であるが筋失調の症状を示すことがある.神経伝導速度(NCV)は正常,もしくは優性な軸索感覚運動多発性神経障害を示すことがある.

非侵襲的にミトコンドリア機能異常を検出する目的で,磁気共鳴スペクトロスコピーと運動負荷検査(血中乳酸濃度も同時に測定する)も行われる.

  • 血糖 空腹時血糖が高濃度であれば糖尿病を示唆する.
  • 心臓 心電図検査と心エコー検査によって心臓の病変を検出できる(心筋症もしくは心房室伝導欠損).
  • 磁気共鳴法と運動テストもまた安静時の脳内や筋肉の乳酸濃度の上昇や,運動後の筋肉のATPピークの回復の遅延の検出に利用されることがある.

乳酸/ピルビン酸

  • 血中乳酸濃度の測定が筋疾患や中枢神経系疾患を示す患者に必要とされることがある.
  • 空腹時血中乳酸濃度が3.0 mmol/L以上であるとミトコンドリア異常症を支持する.
  • 脳脊髄液中乳酸濃度の測定が中枢神経系疾患を疑う患者に必要とされることがある.
  • 空腹時の脳脊髄液の乳酸濃度が1.5 mmol/L以上であるとミトコンドリア異常症を支持する.

 筋生検 さらなるミトコンドリア異常症のテストには筋生検があり,組織学的,組織化学的証拠を得る.筋生検は専門の医療機関やそのような機関との連携において行われるべきである.その後,呼吸鎖複合体の検査は骨格筋や皮膚の線維芽細胞を使って通常行われる.


鑑別診断

乳酸アシドーシス 血中の乳酸などの評価をする際,乳酸アシドーシスの他の原因を除外することは重要である.例として,乳酸濃度がてんかん発作後の患者の血中と脳脊髄液で上昇する場合がある.脳脊髄液の乳酸濃度が虚血性脳卒中後に上昇することがある.

白質異常 Moroni et al. 2002, Barkhof & Scheltens 2002 を参照.

ミトコンドリア機能異常症 ミトコンドリア機能異常は数々の遺伝疾患においても見られる(OPA1遺伝子の変異による優性視神経萎縮,FRDA遺伝子の変異によるフリードリヒ運動失調症,SPG7遺伝子の変異による遺伝性痙性対麻痺,ATP7B遺伝子の変異によるウィルソン病,そして老化過程の一部が含まれる).これらは正確にはミトコンドリア異常症ではないが,通常ミトコンドリア異常症という用語は主に酸化的リン酸化に影響を及ぼすミトコンドリア代謝の異常症に用いられる.

ミトコンドリアDNA維持の異常 アルパース・フッテンロッヘル症候群は低緊張症,痙攣,肝機能不全,尿細管異常を伴い,POLG1遺伝子の変異によって引き起こされる.常染色体劣性遺伝性である.

頻度

ミトコンドリア異常症は以前考えられていたよりも多い(表2).利用できるデータに基づくと,すべてのミトコンドリア異常症の発現頻度は推定で11.5/100,000(~1/8,500)である.Arpaらによるスペインでの推定頻度は,14歳以上で5.7/100,000である.

表2. ミトコンドリア異常症の発生頻度
対象集団

変異もしくは疾患

発生頻度/100,000 (95%C.I.)

北イングランド
頻度(8/97), 集団サイズ
2,122,290

全mtDNA欠失

1.332
(0.76-1.89)

全mtDNA点変異

5.242
(4.12-6.37)

G11778A & G3460A (LHON)

3.292
(2.39-4.18)

A3243G

0.952
(0.47-1.43)

A8344G

0.252
(0.01-0.5)

全mtDNA変異

6.573
(5.30-7.83)

北フィンランド
成人頻度,集団サイズ
245,201

A3243G

5.71
(4.53-6.89)

西スウェーデン
16歳以下の子供,集団サイズ 385,616

小児性ミトコンドリア脳筋症

4.74
(2.8-7.6)

ヴィクトリア,オーストラリア
出生頻度,集団サイズ
1,710,000

幼児性呼吸鎖疾患

4.75
(3.2-5.0)

総括

ミトコンドリア異常症を持つ成人と小児

約11.5

  1. C.I.=信頼区間
  2. ミトコンドリア異常症の頻度は成人発症者を基にしている(16-65歳男性,16-60歳女性)
  3. mtDNA変異の頻度は退職年齢(男性65歳以上,女性60歳以上)以下を対象とする.
  4. 1999年1月1日時点における頻度 
  5. 1987年から1996年の出生頻度

病因

ミトコンドリア異常症は核DNAもしくはmtDNAの変異によって引き起こされる.

ミトコンドリア異常症の分類は困難である.臨床における分類が有用とされる(表1).多くの患者は特定の疾患カテゴリーに収まらない.このようなケースは遺伝型と表現型にあまり相関が見られない複雑さにある.例として,眼筋麻痺の疾患グループは臨床上分別が付かないが,ある患者では大部分にわたるmtDNAの欠損,その他の患者にはmtDNAに点変異(例 A3243G),またその他の患者では二次的なmtDNA異常を引き起こす常染色体優性核DNA変異(例 ANT1遺伝子変異)を保持していることがある.

近年におけるミトコンドリア異常症の分子生物学的研究によって,これらの疾患の分類がより明確にされた(表3,4).しかし遺伝学的分類にも欠点がある.現時点では大多数の患者,特に幼児期における変異を同定するのは不可能である.さらに,同じ変異でも大きく異なる臨床型を引き起こすことがある(例 A3243G点変異は慢性進行型外眼筋麻痺(CPEO),糖尿病と難聴,または再発性脳卒中と癲癇を伴う重症の脳筋症などのいずれかを引き起こす).

表3.ヒトミトコンドリア異常症の遺伝型分類

主要なミトコンドリア異常症

遺伝形式

組換
(大規模部分欠損と複製)

慢性進行性外部眼筋麻痺(CPEO)

SもしくはM

キーンズ・サイヤー症候群

SもしくはM

糖尿病と難聴

S

ピアソン症候群

SもしくはM

孤発性尿細管疾患

S

点変異

タンパク質をコードする遺伝子

LHON(G11778A, T14484C, G3460A)

M

NARP/リー症候群(T8993G/C)

M

転移RNA遺伝子

MELAS(A3243G, T3271C, A3251G)

M

MERRF(A8344G, T3271C, A3251G)

M

CPEO(A3243G, T4274C)

M

筋症(T14709C, A12320G)

M

心筋症(A3243G, A4269G, A4300G)

M

糖尿病と難聴(A3243G, C12258A)

M

脳筋症(G1606A, T10010C)

M

リボソームRNA遺伝子

無症状感音難聴(A7445G)

M

アミノグリコシド誘起無症状難聴(A1555G)

M

 

核遺伝子疾患

 

mtDNA保持不全

常染色体進行性外部眼筋麻痺(多様なmtDNA欠損)

アデニンヌクレオチド転移子変異(ANT1)

AD

DNAポリメラーゼγ変異(POLG1)

ADもしくはAR

ツィンクルヘリカーゼ変異(C10ORF2)

AD

ミトコンドリア性神経性胃腸管脳筋症(多様なmtDNA欠損):
チミジンフォスファターゼ変異(TP)

AR

MtDNA欠損を伴う筋症:
チミジンキナーゼ変異(TK2)

AR

肝不全を伴う脳筋症:
デオキシグアノシンキナーゼ変異(DGUOK)

AR

呼吸鎖の主な障害

リー症候群

コンプレックスI障害 −コンプレックスIサブユニット変異(NDUFS2,4,7,8 and NDUFV1)

AR

コンプレックスII障害 −コンプレックスIIフラボタンパク質サブユニット変異(SDHA)

AR

白質ジストロフィーとミオクローヌスてんかん症候群:
コンプレックスI障害 −コンプレックスIサブユニット変異(NDUFV1)

AR

心筋脳筋症:
コンプレックスI障害 −コンプレックスIサブユニット変異(NDUFS2)

AR

視神経萎縮と運動失調:
コンプレックスII障害 −コンプレックスIIフラボタンパク質サブユニット変異(SDHA)

AD

ミトコンドリアタンパク質輸送障害

筋緊張異常-難聴:
難聴-ジストニアタンパク質DDP1変異(TIMM8)

XLR

呼吸鎖の構築障害

リー症候群

コンプレックスIV障害 −COX形成タンパク質変異(SURF1)

AR

コンプレックスIV障害 −COX形成タンパク質変異(COX10)

AR

心筋脳筋症:
コンプレックスIV障害 −COX形成タンパク質変異(SCO2)

AR

肝不全と脳筋症

コンプレックスIV障害 −COX形成タンパク質変異(SCO1)

AR

コンプレックスIV障害 −COX mRNA安定性に影響するタンパク質変異(LRPPRC)

AR

腎尿細管症,脳筋症,肝不全:
コンプレックスIII障害 −コンプレックスIII形成変異(BSC1L)

AR

脳筋症:
コンプレックスI障害:コンプレックスI形成タンパク質変異(B17.2L)

AR

RNA代謝の障害

リー症候群

コンプレックスIV障害(LRPPRC)

AR

多様なコンプレックス不全(EFG1)

AR

脂質膜の障害

運動失調,てんかんもしくは筋症:
コエンザイムQ10障害(COQ2)

AR

Barth症候群(Taffazzin)

XLR

  1. ミトコンドリアの核酸位置はL鎖を参照とし,ケンブリッジリファレンスから転用.
  2. M=母性遺伝,S=分散的,AD=常染色体優性,AR=常染色体劣性,XLR=X性染色体劣性
表4.ミトコンドリアDNA欠損によって引き起こされるミトコンドリア異常症の遺伝型分類
臨床

遺伝子のタイプ

tDNA変異

  1. 慢性進行性外部眼筋麻痺(CPEO)
  2. キアーンズ・セイヤー症候群
  3. ピアソン症候群
  4. 糖尿病と難聴
  再編成(欠損/重複)

レーバー遺伝性視神経萎縮症
(LHON)

タンパク質をコードする遺伝子

G11778A, T14484C, G3460A

運動失調と網膜色素変性症を伴う神経衰弱(NARP)/リー症候群

タンパク質をコードする遺伝子

T8993G/C

運動不耐性とミオグロビン尿

タンパク質をコードする遺伝子

Cyt b変異

乳酸アシドーシスと脳卒中のエピソードを伴うミトコンドリア脳筋症(MELAS)

tRNA

A3243G, T3271C, A3251G

赤色ぼろ線維・ミクローヌスてんかん症候群(MERRF)

tRNA

A8344G, T8356C

慢性進行性外部眼筋麻痺(CPEO)

tRNA

A3243G, T4274C

筋症

tRNA

T14709C, A12320G

脳筋症

tRNA

G1606A, T10010C

心筋症

tRNA

A3243G, A4269G

糖尿病と難聴

tRNA

A3243G, C12258A

無症状感音難聴

tRNA

A7445G

アミノグリコシド誘起性無症状難聴

tRNA

A1555G

引用元と全リストについてはServidei 2002, Servidei 2004を参照.
1.MtDNAの核酸位置はL鎖を参照
2.Cyt b=サイトクロームb


評価手順

ミトコンドリア異常症の原因を明確にするためには下記が有用な手がかりとなる.

臨床診断

ある患者では臨床像が特徴的である(例 LHON,NARP,もしくは母性遺伝LS(表2参照)).臨床テストによって表現型の範囲が明確にされ,血液サンプルからのDNA抽出,分子遺伝学的テストによって診断が確認される.多くのケースでは上記のようにではなく,より構成されたアプローチが必要とされる.

確立されている分子遺伝学的診断はミトコンドリア異常症の患者のカウンセリングに重要な影響を及ぼす(表1).例として,乳児期チトクロームオキシダーゼ障害は常染色体劣性遺伝性の核遺伝子変異(例 SURF1もしくはSCO2)によって引き起こされるか,母性遺伝性のmtDNA点変異(例 T8993G)によって引き起こされる.CPEOは新規に起こったDNA欠損(例 大部分にわたるmtDNA欠損)か,もしくは母性遺伝性変異(例 点変異A3243G)によって引き起こされる.

家族歴 詳細な家族歴は診断と分子遺伝学的テストの方向付けに重要である.たいていの進行性外眼筋麻痺やキアーンズ・セイヤー症候群は家族中ひとりのみに現れる.幼年期発症性の脳筋症はたいてい家族中ひとりのみで,劣性核遺伝子かmtDNA不全によって引き起こされる.明確な母性遺伝パターン(男性には遺伝しない)はmtDNA異常である可能性を示す.mtDNA異常の臨床の特徴範囲は広く,家族に一部の兆候だけを認めることがある(例 家族に糖尿病が現れたり,軽度の感音難聴だけが現れる).明確な常染色体優性の遺伝パターンが進行性外眼筋麻痺に見られることがある.

分子遺伝学的検査 

子遺伝学的検査は血液からのゲノムDNA抽出(核DNA変異と少々のmtDNA変異が疑われる場合),もしくはゲノムDNA抽出を筋肉から行う(mtDNA変異が疑われる場合).病原性mtDNA変異は血液抽出DNAでは検出されないので,mtDNA変異は主に骨格筋DNAによって検査される.

  • サザンブロット解析によって病原性mtDNA再構成を確認することができる.欠損や重複の切断点はmtDNAシークエンスによって位置が確認される.
  • 複数の遺伝子グループの変異の解析が行われる.
  • すでに同定されている点変異が確認されない場合,mtゲノム全体をシークエンスすることがある.
臨床検査 多くのケースでは分子遺伝学的テストで確証が得られないことがあり,呼吸鎖機能解析のための生体組織検査を含むさらなる臨床検査が行われる.

遺伝カウンセリング

「遺伝カウンセリングは個人や家族に対して遺伝性疾患の本質,遺伝,健康上の影響などの情報を提供し,彼らが医療上あるいは個人的な決断を下すのを援助するプロセスである.以下の項目では遺伝的なリスク評価や家族の遺伝学的状況を明らかにするための家族歴の評価,遺伝子検査について論じる.この項は個々の当事者が直面しうる個人的あるいは文化的な問題に言及しようと意図するものではないし,遺伝専門家へのコンサルトの代用となるものでもない.」

遺伝形式

ミトコンドリア異常症はmtDNAもしくは核DNAの異常によって引き起こされる.mtDNA欠陥は母性遺伝する.核遺伝子異常は常染色体劣性もしくは常染色体優性で遺伝する

患者両親

  • mtDNA欠失
    mtDNA欠失は多くの場合新規で起こり,したがって家族内に単独で現れ,他の家族には影響を及ぼさない.mtDNA欠失は遺伝する可能性がある.現在のところ,推測では再発性の可能性は24人にひとりである.

  • mtDNA点変異と重複
    mtDNA点変異と重複は母性遺伝する可能性がある.
    発端者の父親は発症原因となるmtDNA変異を保持するリスクはない.
    発端者の母親はたいていmtDNA変異を保持し,徴候を示す場合と示さない場合がある.

発端者の同胞 

  • 発端者の同胞へのリスクは母親の遺伝形式による.
  • もし母親がmtDNA変異を保持しているならば,すべての同胞へ遺伝するリスクがある.

発端者の子 

  • mtDNA変異を保持する男性の子には,発病のリスクはない.mtDNA変異を保持するすべての女性の子は変異を遺伝するリスクがある.
    ヘテロプラスミーmtDNA点変異を持つ女性はその子孫に様々な分量のmtDNA変異を遺伝し,同じ核家族内の同胞間で大きく異なる症状を引き起こすことになる.T8993G, T8993C, A3243G, A8344G, G11778AのmtDNA変異について,臨床的に影響する子へのリスクは母親の血液からのmtDNA変異の割合が影響することが明らかにされている.しかしこれらのデータは遡及的であり,遺伝カウンセリングに直接用いられるべきではない.

他の家族 

その他の家族へのリスクは発端者の母親の遺伝形態による.もし母親がmtDNA変異を保持していれば,その母親の同胞とその母親もまたリスクがある.

患者家族のリスク - 常染色体劣性遺伝
 

発端者の両親

  • 発端者の両親は絶対的にヘテロで従って対立遺伝子の一つは変異を持つ.
  • ヘテロ(保因者)は無症状である.

発端者の同胞 

  • 概念として,発端者の同胞それぞれに発病原因となる対立遺伝子を遺伝しかつ発病する確率は25%,変異を保持する対立遺伝子を遺伝しかつ保因者となる確率は50%,正常な対立遺伝子を遺伝しかつ発病しない確率は25%である.
  • リスクにある同胞が発病しないとわかった場合,その同胞が変異の保因者である可能性は2/3である.
  • ヘテロ(保因者)は無症状である.

発端者の子 

すべての子は絶対的にヘテロである.

患者家族のリスク - 常染色体優性遺伝
 
発端者の両親

  • 発端者の両親は発端者と同じ病原となる遺伝座位を保持する場合がある.その片親は症状がある場合とない場合がある.
  • 発端者は新規の変異で疾患する場合がある.この場合,新規変異が起こる確率は不明確である.

注:家族が発病しているかどうか確認できない場合,両親が発病前に死去している場合,もしくは影響する両親の発症が遅い場合など,家系の情報が有効でない場合がある.

発端者の同胞 

  • 同胞へのリスクは両親の遺伝形態による.
  • 片親が変異座位を保持する場合,同胞へのリスクは50%である.

発端者の子 

発端者の子それぞれに変異座位が遺伝する確率は50%である.

関連する遺伝カウンセリング上の問題

DNAバンキング DNAバンクは主に白血球から調製したDNAを将来の使用のために保存しておくものである.検査法や遺伝子,変異あるいは疾患に対するわれわれの理解が進歩するかもしれないので,DNAの保存は考慮に値する.ことに分子遺伝学的検査が研究的にしか提供されていない疾患や以前に行った検査結果が判断できないような結果だったような場合に意義がある.

出生前診断

ミトコンドリアDNA変異 出産前診断とその解釈はmtDNAヘテロプラスミーのため困難である.絨毛検査におけるmtDNA変異の割合は胎児組織のmtDNA変異率に反映することはなく,胎児の発育とその経過を通して変異率は変化していく.絨毛検査の解釈はほとんどのヘテロプラスミーmtDNA変異では困難であり,出生前診断は勧められない.

しかし,T8993GとT8993Cの変異においては組織の分散とこの変異の割合は時間の経過を通してそれほど変化しない.この二つの変異に関しては,妊娠15-18週の羊水穿刺もしくは10-12週目の絨毛検査から得られる胎児のDNAによる出生前遺伝診断は有効である.

常染色体劣性核DNA遺伝子変異

生化学的遺伝学的検査 呼吸鎖複合体欠陥を確証するための出生前生化学テストは,妊娠15-18週目に通常行われる羊水穿刺から得られる羊水の培養による生化学テストによって可能である.

分子遺伝学的検査 常染色体劣性核内遺伝子変異の可能性がある妊娠のための出生前診断は15-18週目の羊水穿刺か10-12週目の絨毛生検査で得られる胎児の細胞によって可能である.出生前診断が行われる前に家族から病原性座位もしくは連鎖が確認されている必要がある.常染色体核内遺伝子変異の分子遺伝学的検査では成功例がある.
注:妊娠週は最後の月経期の最初の日(第一日目)から,もしくは超音波の計測によって計算される.

常染色体優性核遺伝子変異 常染色体優性核内遺伝子変異の出生前診断は可能であるが,確立されていない.

着床前遺伝子診断 他の家族ですでに病原変異が同定されている場合で,この方法利用できる場合がある.体外受精卵体外遺伝子診断を提供している研究施設に関しては”testing”を参照すること.

臨床的マネジメント

ミトコンドリア異常症の臨床的マネジメントは主として支持的なものである.ミトコンドリア異常症による不要な病苦や死を避けるため,臨床従事者はミトコンドリア異常に対する深い知識を持っていなければならない.

臨床的マネジメントに関わることは,初期診断,糖尿病の治療,心臓のペーシング,眼瞼下垂の矯正,白内障の眼内水晶体交換などが含まれる.

ミトコンドリア異常症の患者に様々なビタミンとコファクターが適用されているが,最近のレビューによると,それらの使用を支持する根拠の欠落が指摘されている.食事サプリメント(例としてコエンザイムQ10やユビカドレノン)は主として許容されており,一部の患者では主観的な効果が報告されている.複合体I,複合体II欠損の患者にはリボフラビンの経口投与が効果的かもしれない.

ミトコンドリア筋症における治療で,運動療法は現在評価中である.

次世代への遺伝的伝達を予防するための核転移治療の可能性は現在研究中である.

関連情報

  • The Children's European Mitochondrial Disease Network
    Mayfield House 30 Heber Walk
    Chester Way Northwich
    Cheshire England CW9 5JB
    United Kingdom
    Phone: +44 (0)1606 43946 (helpline)
    Email: info_cmdn@btopenworld.com
    www.emdn-mitonet.co.uk
  • United Mitochondrial Disease Foundation
    8085 Saltsburg Road Suite 201
    Pittsburg PA 15239
    Phone: 412-793-8077
    Fax: 412-793-6477
    Email: info@umdf.org www.umdf.org
  • International Foundation for Optic Nerve Disease (IFOND)
    PO Box 777 Cornwall NY 12518
    Phone: 845-534-7250
    Email: ifond@aol.com
    www.ifond.org
  • Leber's Optic Neuropathy Homepage
    jim.leeder.users.btopenworld.com/LHON/lhonhome.htm
  • Muscular Dystrophy Association (MDA)
    3300 East Sunrise Drive
    Tucson AZ 85718-3208 Phone: 800-FIGHT-MD (800-344-4863); 520-529-2000 Fax: 520-529-5300
    Email: mda@mdausa.org
    www.mdausa.org
  • The UK Leber's Optic Neuropathy Trust
    c/o Malcolm Procter
    124 Woods Drive Keyworth Nottingham
    United Kingdom NG125DA
    Phone: 0115 937 5094 (within UK); (+44) 115 937 5094 (outside UK)
    Email: malcolm@charity.vfree.com
  • Mitochondrial Disorders Database and Tissue Repository
    Massachusetts General Hospital

    Simches Research Building 5-238
    185 Cambridge St.
    Boston MA 02114
    Phone: 617-726-5718
    Email: ksims@partners.org

原文 Mitochondrial Disorders Overview

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