非症候群性歯無発生概説
(Nonsyndromic Tooth Agenesis Overview)

Gene Reviews著者: Ariadne Letra, DDS, MS, PhD,Bret Chiquet,DDS, PhD,Emily Hansen-Kiss MA, CGC, Simone Menezes, BS,and Elizabeth Hunter, BS.
日本語訳者: 佐藤康守(たい矯正歯科)、櫻井晃洋(札幌医科大学医学部遺伝医学)

GeneReviews最終更新日:2021.7.22  日本語訳最終更新日: 2023.1.9.

原文: Nonsyndromic Tooth Agenesis Overview


要約

本概説の目的は、臨床医に対し、非症候群性歯無発生(NSTA)の遺伝的原因についての認識を高めてもらうこと、リスクを有する血族への遺伝カウンセリングにあたっての情報提供を行うこと、ならびに、治療上の選択肢について再検討を加えることにある。

本概説の目標とするところは以下の諸点である。

目標1非症候群性歯無発生(NSTA)の臨床的特徴について説明すること。
目標2.NSTAの遺伝的原因について検討を加えること。
目標3(可能な場合には)発端者の有するNSTAの遺伝的原因を特定するための評価戦略を提供すること。
目標4.NSTA罹患者の血族への遺伝カウンセリングにあたっての情報提供を行うこと。
目標5.NSTAの診断を行った後の管理(評価・治療・定期的追跡評価)のあり方について検討を加えること。


1.非症候群性歯無発生の臨床的特徴

歯無発生は、歯の発生初期に生じる問題により、1本以上の永久歯(第三大臼歯を除く)が欠如することを特徴とする発生異常である。非症候群性歯無発生(NSTA)とは、永久歯の無発生が唯一の臨床症候であるような状態を指す用語である。

用語について

歯無発生は、広く次のような言葉で表されることもある。

すべての永久歯が欠如する状態をいう。これが現れるのは、ほぼ例外なく症候群性の例である(表2参照)[Hennekamら2010]。

診断について

診断にあたっては、埋伏歯の可能性や、齲蝕や外傷で歯を失った可能性を排除するため、徹底した臨床診査やX線診査が必要である。

発生頻度について

NSTAの発生頻度については、研究対象となった集団の種類や、第三大臼歯を欠損歯に算定するかどうかといった違いにより、1.6%から36.5%まで、報告値に幅がみられる[Polderら2004]。

 


2.非症候群性歯無発生の原因

非症候群性歯無発生(NSTA)の病因については、罹患者の約80%は、頭蓋顔面や歯の発生に関与する遺伝子群の変異に起因して生じたものとされている。残りの20%については、永久歯胚の発生段階にあたる生後早期の段階における外来性の因子(例えば、化学療法,放射線治療,母体の風疹感染,サリドマイドや抗腫瘍薬などの薬物への曝露)に起因するものとされる[Hennekamら2010]。

NSTAの病因として、すでに数多くの遺伝子や遺伝的バリアントの関与が明らかになっている。その多くは、症候群性の歯無発生や動物モデルがきっかけとなって判明したものである(表1)。症候群性の歯無発生は、口腔顔面裂関連の一連の症候群、ならびに外胚葉異形成関連の一連の症候群などで広くみられる[Phanら2016](表2)。
NSTAは、従来単一遺伝子疾患と考えられていた。しかし近年では、多座位の関与する遺伝やオリゴジーン遺伝を示唆する研究がいくつか現れてきている[Dinckanら2018b,Duら2018]。

歯無発生に関与する単一遺伝子の多くについては、家系間・家系内変動や浸透率の低下が多くみられる[Williams & Letra 2018]。慎重に表現型のチェックを行った上で、少なくとも2家系以上でNSTAが同定された単一遺伝子を表1に挙げた。これらの遺伝子の中には、症候群性の歯無発生(表2参照)にも係わっているものがある。NSTAをもたらしているように見える遺伝子が、一方で同一アレル性の症候群性疾患を招来することもあるといった状況は、片方の端に表面上NSTAのように見える状況、他方の端に症候群性の状況がある、ひと続きのスペクトラムであるように思われる。見かけ上NSTAと思われる罹患者が、実際は、ことによると、以前より症候群性の歯無発生に関与しているとされてきた遺伝子の病的バリアントを有しているかもしれないという意識をもつことが重要である。こうした遺伝子の1つに病的バリアントがあることが判明した場合には、症候群性の症候がみられないか、注意深く表現型のチェックを行うことが推奨される(「臨床的マネジメント」の項を参照)。

表1:非症候群性歯無発生:遺伝子,ならびにこれに関連して生じる歯の表現型

遺伝子 遺伝形式 歯の表現型 同一アレルの症候群性疾患 1の例
Oligodontia Hypodontia 小歯症 その他
AXIN2 2 AD       Oligodontia-結腸直腸癌症候群
(OMIM 608615)
EDA XL +(下顎切歯,上顎側切歯)     低汗性外胚葉異形成症
EDAR AD3 +(下顎第二小臼歯)    
FGFR1 AD   +(切歯・小臼歯の無発生)     Kallmann症候群
(「単発性性腺刺激ホルモン放出ホルモン欠損症」のGeneReviewを参照)
GREM2 4 AD   タウロドント  
IRF6 AD   +(切歯・小臼歯の無発生)     Van der Woude症候群,膝窩翼状片症候群(「IRF6関連疾患」のGeneReviewを参照)
LRP6 5 AD +(切歯・小臼歯の無発生)       常染色体顕性冠動脈疾患
MSX1 6 (AD)7   +(大臼歯の無発生)     Witkop症候群,Wolfe-Hirschhorn症候群,Pierre Robin症候群
PAX9 8 AD +(第二大臼歯、次いで第二小臼歯の無発生)   歯幅の減少;
前歯の無発生の報告は稀
 
WNT10A9,10 (AD)11
AR
+(特定の歯種に偏る傾向なし)   タウロドント 歯-爪-皮膚異形成症,Schöpf-Schulz-Passarge症候群,低汗性外胚葉異形成症
WNT10B 12 AD   +(側切歯の無発生)    

AD=常染色体顕性,AR=常染色体潜性,XL=X連鎖性

  1. 表2参照。
  2. Haddaji Mastouriら[2018]
  3. Zengら[2017],Mumtazら[2020];一部のタイプの低汗性外胚葉異形成症に、EDARの両アレルの病的バリアントに起因して生じる常染色体潜性遺伝のものがあることに注意が必要(表2参照)。
  4. Kantaputraら[2015],Magruderら[2018],OMIM 617275
  5. Massinkら[2015],Ockeloenら[2016],Bashaら[2018],Rossら[2019],Yuら[2019],OMIM 616724
  6. Paradowska-Stolarz [2014],OMIM106600
  7. 複合遺伝で、その大部分が常染色体顕性遺伝。
  8. Murakamiら[2017],OMIM 604625
  9. Van den Boogaardら[2012],Songら[2014],Dinckanら[2018b],Yuanら[2017],OMIM 150400
  10. 非症候群性歯無発生罹患者において最も多くみられるWNT10Aの病的バリアントは、c.682T>A(p.Phe228Ile)で、これは一般集団の3.43%にみられると推定されている[Vinkら2014]。ただし、このバリアントをヘテロで有する例については、表現型が不完全浸透を示すとの報告が存在する[Yangら2015]。
  11. 複合遺伝を提唱する向きもある(「遺伝的リスク評価」の項を参照)。
  12. Yuら[2016],Kantaputraら[2018],OMIM 617073

表2:非症候群性歯無発生との鑑別を検討すべき疾患

遺伝子 疾患名 遺伝形式 歯の表現型 他の症候
代表的同一アレル疾患(非症候群性歯無発生として現れることが知られている遺伝子が原因となって生じる疾患)
AXIN2 Oligodontia-結腸直腸癌症候群1(OMIM 608615) AD Oligodontia(大臼歯・下顎切歯・上顎側切歯の無発生),歯牙腫 骨腫,結腸直腸癌
EDA
EDAR
EDARADD 2
低汗性外胚葉異形成症3 XL
AR
AD
Oligodontia,hypodontia,小歯症,anodontia,タウロドント,歯の奇形 減毛症,無汗症,乏汗症,乳房無形成の可能性,前頭部の突出,眼窩周囲の皺形成と色素沈着,低い鼻梁,口唇の突出
FGFR1 Kallmann症候群4(「単発性性腺刺激ホルモン放出ホルモン欠損症」のGeneReviewを参照) AD Oligodontia,hypodontia 口唇裂口蓋裂,嗅覚脱失,性腺機能低下症
IRF6 Van der Woude症候群と膝窩翼状片症候群(PPS)5(「IRF6関連疾患」の
GeneReviewを参照)
AD Hypodontia PPSでは、脚の皮膚の翼状片,生殖器奇形,口唇瘻,口腔顔面裂がみられる。
MSX1 6 Witkop症候群7(外胚葉異形成3,Witkop型)(OMIM 189500) AD Oligodontia(第二小臼歯や大臼歯が欠損しやすい),hypodontia 爪形成不全,口腔顔面裂
WNT10A 歯-爪-皮膚異形成8(OMIM 257980) AR Oligodontia,hypodontia,小歯症 茸状乳頭,糸状乳頭の減少を伴う平滑舌,掌蹠角化症,皮膚の過角化,爪異形成
Schöpf-Schulz-Passarge症候群9(OMIM 224750) AR Oligodontia,hypodontia,小歯症 眼瞼嚢腫,疎で乾燥した毛髪,爪ジストロフィー,乾燥した皮膚,過角化を示す手の丘疹
低汗性外胚葉異形成症3 AD
AR
Oligodontia,hypodontia,小歯症,anodontia,タウロドント,歯の奇形 減毛症,無汗症,乏汗症,乳房無形成の可能性,前頭部の突出,眼窩周囲の皺形成と色素沈着,低い鼻梁,口唇の突出
予備調査のデータから単発性の非症候群性歯無発生との関連も示唆されている遺伝子(ただし、断定しうるだけのデータは揃っていない)
ANTXR1 視神経萎縮症候群10(GAPO症候群)(OMIM 230740) AR Oligodontia,hypodontia,歯の萌出障害(偽性無歯症) 成長遅延,脱毛症,視神経萎縮
COL17A1 11 接合部型表皮水疱症12 AR Oligodontia(欠如する歯種に特定の傾向はみられない),hypodontia 広範な水疱形成,爪ジストロフィー,萎縮性脱毛症,遺伝性エナメル質形成不全,歯の齲蝕
外胚葉症候を伴う症候群性疾患に関連する遺伝子(注:ここに挙げたのは、特徴的形態異常や認知機能障害を伴わないもののみとしている)
EVC
EVC2
Weyers先端顔面異骨症13(OMIM 193530) AD Hypodontia,咬合異常,円錐歯,過剰歯 軽度の低身長,軸後性多指趾,爪ジストロフィー
FGF10 涙耳歯指症候群(LADD症候群)14(OMIM 149730) AD Hypodontia(上顎切歯),小歯症,萌出遅延,エナメル質異形成,齲蝕 指趾奇形,難聴,涙腺・唾液腺の低形成・無形成,耳奇形
FGFR2 AD Hypodontia,小歯症,上顎切歯無発生,萌出遅延,エナメル質異形成 鼻涙管無形成,難聴,指趾奇形
GRHL2 外胚葉異形成/低身長症候群16(OMIM 616029) AR Hypodontia,エナメル質低形成,歯列の発達遅延 低身長,爪のジストロフィーや喪失,手足の巣状過角化,口腔粘膜・舌の色素沈着
KREMEN1 外胚葉異形成,毛髪/歯型17(OMIM 617392) AR Oligodontia,hypodontia 疎な毛髪・睫毛・眉,口唇の突出,低い鼻梁,眼間開離を伴う幅広の鼻,眼瞼裂斜下
LTBP3 18 歯の奇形と低身長(OMIM 601216)※19 AR Oligodontia(欠如する歯種に特定の傾向はみられない),hypodontia 低身長,僧帽弁逸脱
OFD1 口-顔-指症候群Ⅰ型20 XL Hypodontia(側切歯),犬歯位置異常 小下顎症,分葉舌,舌の結節,口唇裂口蓋裂,歯肉の過剰小帯,鼻翼低形成,合指趾,多発性嚢胞腎
PITX2 Axenfeld-Rieger症候群Ⅰ型21(OMIM 180500) AD Oligodontia(上顎側切歯・上顎第二小臼歯),
hypodontia,小歯症,エナメル質低形成
眼の奇形,緑内障,上顎低形成,臍帯奇形
PVRL1 口唇裂口蓋裂-外胚葉異形成22(OMIM 225060) AR Hypodontia,小歯症 口唇口蓋裂,疎な頭髪,合指趾
TP63 欠指-外胚葉異形成-口唇口蓋裂症候群3,口腔顔面裂8,Rapp-Hodgkin症候群23(「TP63関連疾患」の
GeneReviewを参照)
AD Hypodontia,小歯症,広範な齲蝕,エナメル質低形成,高い上顎永久切歯辺縁隆線,丸型の大臼歯,樽状上顎中切歯 口唇口蓋裂,疎で脆く乾燥した毛髪(毛髪異形成),外胚葉異形成,軽度の四肢奇形,鼻涙管奇形,眼瞼癒着,爪の異常,T細胞型リンパ球減少症
TSPEAR 外胚葉異形成24(OMIM 618180) AR Hypodontia,小歯症 頭髪の減毛症,皮膚・毛髪・四肢の欠損

※2019年版骨系統疾患国際分類の和訳では、「エナメル質形成不全を伴う扁平椎(短体幹症)」という訳語になっている。
AD=常染色体顕性,AR=常染色体潜性,XL=X連鎖性

  1. Lammiら[2004],Paranjyothiら[2018]
  2. この遺伝子の変異により単発性非症候群性歯無発生が生じるとのデータが積み上がりつつあるものの、断定できるだけのデータには至っていない。
  3. Güvenら[2019]
  4. Meczekalskiら[2013],Phanら[2016]
  5. Phanら[2016]
  6. MSX1その他の周辺遺伝子を含む4p16.2領域の大欠失については、欠失の大きさや欠失する遺伝子の種類により、Wolfe-Hirschhorn症候群が生じることがある。Wolfe-Hirschhorn症候群では、癲癇発作・知的障害・筋緊張低下・先天性心疾患・停留精巣に加え、hypodontiaが現れることがある[Ozcanら2017]。
  7. Paradowska-Stolarz [2015]
  8. Kantaputra & Sripathomsawat [2011]
  9. Williams & Letra [2018]
  10. Dinckanら[2018a],Williams & Letra [2018]
  11. この遺伝子の変異により、栄養障害型表皮水疱症(ADならびにAR)や、上皮性反復糜爛ジストロフィー(OMIM 122400;AD)も生じる。ただ、こうした別の表現型においては、歯無発生は報告されていない。
  12. Smithら[2019],Dinckanら[2018b],Adorno-Fariasら[2019]
  13. Kattiら[2019],Öz & Kirzioglu [2020]
  14. Hajianpourら[2017],Rodriguesら[2020]
  15. Williams & Letra [2018](訳注:この15番の注のついた箇所は原文の表中にみられない)
  16. Petrofら[2014]
  17. Issaら[2016]
  18. この遺伝子の変異によりゲレオフィジック骨異形成症(AD)が生じることもある。ただ、この表現型については歯無発生の報告はみられない。
  19. Duganら[2015]
  20. Kleinら[2013]
  21. Fanら[2019]
  22. Williams & Letra [2018]
  23. Bashaら[2018]
  24. Peledら[2016]

 


3.発端者における非症候群性歯無発生の遺伝的原因の同定に向けた戦略

身体的診査

症候群性をうかがわせる口腔外の症候の有無を調べるためには、身体の診査を徹底して行う必要がある。
その上で、口腔内診査と、現在と過去の口腔内外のX線写真のチェックを綿密に行って、永久歯の欠如部位と本数を正確に確定させるとともに、歯無発生以外の歯の奇形の有無を確認する作業を行う。
罹患者においては、小歯症(側切歯の栓状歯を含む)、咬合異常、乳歯の晩期残存などが多くみられる。

家族歴

歯無発生、ならびに、エナメル質の異常や歯の形態異常をはじめとする歯に関するその他の異常といった症候を有する血族に注意を払いつつ、可能であれば、3世代にわたる家族歴を作成する。成人については、歯無発生とその他の原因による歯の喪失とを区別することが容易でないため、歯無発生に関して専門的技量を有する歯科の専門家が、すべての血族を直接診査する必要があるように思われる。医科・歯科の診療記録を見直して文書化するとともに、検査可能であるようなら分子遺伝学的検査の結果も併せて文書化することが推奨される。

ゲノム/遺伝子の検査

分子遺伝学的検査としては、遺伝子標的型検査(単一遺伝子検査ないしマルチ遺伝子パネル)と網羅的ゲノム検査(エクソームシーケンシングないしゲノムシーケンシング)を組み合わせるやり方が考えられる。遺伝子標的型検査の場合は、どの遺伝子の関与が疑われるか、臨床医の側で目星をつけておく必要があるが、ゲノム検査の場合、その必要はない。

直列型の単一遺伝子検査

臨床症候や家族歴から判断して、何か特定の遺伝子の病的バリアントが関与していることが考えられた場合には、直列型の単一遺伝子検査が検討対象となりうる(表1参照)[Van den Boogaardら2012,Williams & Letra 2018,Yuら2019]。

マルチ遺伝子パネル

意義不明のバリアントや、いま問題にしている表現型と直接関連のない遺伝子の病的バリアントの検出を抑えつつ、歯無発生の遺伝的原因を特定できる可能性が最も高いのは、表1と表2に挙げた遺伝子の一部ないし全部を含むマルチ遺伝子パネルであろう。

注:(1)パネルに含められる遺伝子の内容、ならびに個々の遺伝子について行う検査の診断上の感度については、検査機関によってばらつきがみられ、また、経時的に変更されていく可能性がある。
(2)マルチ遺伝子パネルによっては、このGeneReviewで取り上げている状況と無関係な遺伝子が含まれることがある。
(3)検査機関によっては、パネルの内容が、その機関の定めた定型のパネルであったり、表現型ごとに定めたものの中で臨床医の指定した遺伝子を含む定型のエクソーム解析であったりすることがある。
(4)ある1つのパネルに対して適用される手法には、配列解析、欠失/重複解析、ないしその他の非配列ベースの検査などがある。
マルチ遺伝子パネル検査の基礎的情報についてはここをクリック。遺伝子検査をオーダーする臨床医に対する、より詳細な情報についてはここをクリック。

網羅的ゲノム検査

網羅的ゲノム検査も検討対象になりうる。この場合、臨床医のほうで、関与している遺伝子の目星をつけておく必要はない。エクソームシーケンシングが多く用いられるものの、ゲノムシーケンシングを行うことも可能である。

網羅的ゲノム検査の基礎的情報についてはここをクリック。ゲノム検査をオーダーする臨床医に対する、より詳細な情報についてはここをクリック。


4.遺伝学的リスク評価

「遺伝カウンセリングは個人や家族に対して遺伝性疾患の本質,遺伝,健康上の影響などの情報を提供し,彼らが医療上あるいは個人的な決断を下すのを援助するプロセスである.以下の項目では遺伝的なリスク評価や家族の遺伝学的状況を明らかにするための家族歴の評価,遺伝学的検査について論じる.この項は個々の当事者が直面しうる個人的あるいは文化的、倫理的な問題に言及しようと意図するものではないし,遺伝専門家へのコンサルトの代用となるものでもない.」

遺伝形式

AXIN2、EDAR、FGFR1、GREM2、IRF6、LRP6、MSX1、PAX9、WNT10Bの病的バリアントに起因する非症候群性歯無発生(NSTA)は、常染色体顕性の遺伝形式をとる。

EDAの病的バリアントに起因するNSTAは、X連鎖性の継承を示す。

WNT10Aの病的バリアントに起因するNSTAは、常染色体顕性あるいは潜性の遺伝形式をとるが、そのうちのいくつかのバリアントについては、浸透率の低下や表現度のばらつき(これは、同一家系内の罹患者間でもみられる)が報告されている[Yangら2015]。
複合遺伝とする見方も提唱されている(「複合遺伝/多因子遺伝」の項を参照)。

注:以下のセクションでは、NSTAの分子診断(表1参照)を受けた罹患者と血族に対する遺伝的リスク評価に関する情報を提示する。症候群性の疾患(表2参照)の部分症候として歯無発生が生じている例については、当該疾患に応じた形でカウンセリングが行われることになる。詳細については、Kleinら[2013]、Williams & Letra [2018]、Yuら[2019]を参照されたい。

常染色体顕性遺伝 ― 血縁者の有するリスク

発端者の両親

発端者の同胞 

発端者の同胞の有するリスクは、発端者の両親の遺伝的状態により変わってくる。

発端者の子

常染色体顕性型NSTA罹患者の子が、その病的バリアントを継承する可能性は50%である。

他の家族構成員

他の血縁者の有するリスクは、発端者の両親の状態によって変わってくる。片親が病的バリアントを有している場合であれば、その血族に当たる人はすべてリスクを有することになる。

常染色体潜性遺伝 ― 血縁者の有するリスク

発端者の親

発端者の同胞

発端者の子

両アレルにWNT10Aの病的バリアントを有する罹患者の子は、WNT10Aの病的バリアントに関し、絶対ヘテロ接合者となり、無症候に見える場合もあれば、hypodontiaを示すこともある。

他の家族構成員

発端者の両親の同胞は、WNT10Aの病的バリアントのヘテロ接合者であることに関し、50%のリスクを有する。

保因者(ヘテロ接合者)の同定

リスクを有する血族に対してヘテロ接合かどうかを調べる検査を行う上では、家系内に存在する複数のWNT10Aの病的バリアントを事前に特定しておく必要がある。

X連鎖性遺伝 ― 血縁者の有するリスク

男性発端者の親

男性発端者の同胞

同胞の有するリスクは、母親の遺伝的状態により変わってくる。

男性発端者の子

罹患男性は、EDAの病的バリアントをすべての娘に対して伝達することになるが、息子に対してこれを伝達することはない。

他の家族構成員

男性発端者の母方の伯母(叔母)ならびに母方のいとこは、EDAの病的バリアントに関しリスクを有することになる。
注:分子遺伝学的検査を行うことで、家系内にあってde novoの病的バリアントが生じた人を特定できる可能性がある。これは、家系内にあって遺伝的リスクを有する人の範囲を絞り込む上での助けとなりうる情報である。

ヘテロ接合者の同定

女性のヘテロ接合者を同定する上では、家系内に存在するEDAの病的バリアントを事前に特定しておく必要がある。

複合遺伝/多因子遺伝

非症候群性歯無発生に関しては、最近、複数座位の変異に起因するオリゴジーン遺伝の考え方が提唱されている。例えば、非症候群性歯無発生の罹患者においては、WNT10Aの病的バリアントが、GREM2LAMA3BCORの病的バリアントと共分離することがわかっている[Kantaputraら2015,Dinckanら2018b,Duら2018]。

関連する遺伝カウンセリング上の諸事項

家族計画

出生前検査ならびに着床前遺伝学的検査

家系内に存在する非症候群性歯無発生関連の病的バリアントが同定されている場合には、高リスクの妊娠に備えた出生前検査や着床前遺伝学的検査を行うことが可能である。
 出生前検査の利用に関しては、医療者間でも、また家族内でも、さまざまな見方がある。
現在、多くの医療機関では、出生前検査を個人の決断に委ねられるべきものと考えているようであるが、こうした問題に関しては、もう少し議論を深める必要があろう。


関連情報

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5.臨床的マネジメント

非症候群性歯無発生(NSTA)については、標準治療、あるいは臨床的管理のガイドラインといったものは存在しない。

最初の診断に続いて行う評価

NSTAと診断された罹患者については、疾患の範囲やニーズを把握するため、診断に至る過程ですでに実施済でなければ、表3に概要を示した評価を行うことが推奨される。

表3:非症候群性歯無発生罹患者において最初の診断後に行うことが推奨される評価

系/懸念事項 評価 コメント
子どもに対する小児歯科的評価
  • 硬組織の検査やX線写真(咬翼法,歯ごとに撮影するデンタル標準撮影,パノラマX線写真)1を含む臨床検査。
  • 矯正歯科医や補綴歯科医への紹介。
子どもについて行う摂食/咀嚼に関する臨床的評価(oligodontiaの場合) 歯無発生の程度により臨床的に懸念がある場合は、摂食の専門医療職への紹介を検討。
思春期の人や成人に対する矯正歯科的/一般歯科的評価 臨床的診査やX線写真検査(パノラマX線写真,セファログラム,コーンビームCT)を行う。
遺伝カウンセリング 遺伝の専門医療職2の手で行う。 医学的、個人的決断に資するよう、患者とその家族に対し、NSTAの本質,遺伝形式,そのもつ意味に関する情報提供を行う。
家族への支援・情報資源 以下の必要性に関する評価を行う。
  • 地域の情報資源やParent to Parentのようなオンラインの情報資源。
  • 親の支援のためのソーシャルワーカーの関与
 
  1. 歯科におけるX線写真利用のガイドライン[2016]。
  2. 臨床遺伝医、認定遺伝カウンセラー、認定上級遺伝看護師をいう。

症候に対する治療

表4:非症候群性歯無発生罹患者の症候に対する治療

症候/懸念事項 治療/推奨事項 検討事項/その他
口腔衛生 歯科医による標準治療 小児歯科医は通常、乳児から14歳までの患者を扱う。
その後は一般歯科医への移行を検討する必要あり。
存在している歯の保存 食餌に関するカウンセリング 非(低)齲蝕原性食材の導入や健康上問題のある習慣回避に向けた栄養上のカウンセリング。
フッ化物塗布 齲蝕/齲窩の発生予防に向け、年に2度行う。
フッ化物のシーラント 齲蝕/齲窩の発生予防のため、深い小窩・裂溝について行う。
マウスガード 外傷予防、ならびにさらなる永久歯の喪失予防を目的として使用する。
後継永久歯が欠如している場合の先行乳歯の保存 成長が完了してインプラントの植立が可能になるまでの間、歯列弓長の維持を図る。 6歳から成人期までの期間、矯正装置がつくまでの間、あるいは成長が完了してインプラントの植立が終了するまでの間は、歯列弓長の維持を図る必要がある。
補綴 正常な頭蓋顔面成長を阻害しないよう調節可能な補綴物を使用する。
  • 6-18歳について行う。
  • 心理的、機能的な意味も有する。
矯正歯科治療後に欠損歯の補綴を行う。
  • 12-18歳について行う。
  • 機能面、審美面に重点を置いて行う。
空隙の再配置,配列,咬合改善 矯正歯科医による標準治療 通常、12歳以降に行う。
欠如歯 インプラントの植立1,2 成長完了後の成人期に、単独歯インプラントに対応する形で行う。
インプラントに維持を求めた補綴物の作製1,2 成長完了後の成人期に、複数歯の欠損に対応する形で行う。
外科的矯正治療 成長完了後の成人期に、骨格型不調和が残存している場合に行う。
  1. インプラントは、骨格成長の大部分が終了した後に行うようにすべきである。
  2. インプラントの植立に先立って、乳歯の抜歯や骨造成が必要になるようなこともある。

二次的合併症の予防

非症候群性歯無発生(ないし、その疑い)を有する例については、残っている歯を確実に守っていくため、少なくとも6ヵ月に1度は歯科医師によるフォローを行うことが推奨される。
残っている歯を守るための口腔疾患予防処置としてよく行われるものとしては、食餌指導、フッ化物シーラント、マウスガードなどがある(表4参照)。

定期的追跡評価

表5:非症候群性歯無発生罹患者で推奨される定期的追跡評価

年齢 評価 実施頻度
小児期と思春期 硬組織の検査やX線写真(咬翼法,歯ごとに撮影するデンタル標準撮影,パノラマX線写真) 年に2度、あるいは個々の状況に合わせた頻度。
矯正的介入の至適時機をはかるための矯正歯科的評価 思春期に先立って行う。
歯槽頂縁の評価 インプラントの植立に先立って行う。
歯の萌出開始後の全年齢 齲蝕リスクの評価 6ヵ月ごと、あるいは歯科医の推奨する頻度で。
シーラント処置済の深い小窩・裂溝について、シーラントが良好に残って機能しているかどうかの評価 年に2度。

リスクを有する血縁者の評価

歯科治療を迅速に開始することで利益が得られる人を可能な限り早期に特定することを目的として、リスクを有する血族については、見かけ上、無症状であっても、また、罹患者より年上であっても年下であっても、その臨床的状態や遺伝的状態(これを明らかにすることが可能な場合のみ)を明確にしておくことが推奨される。
評価項目は以下のようなものとなろう。

遺伝カウンセリングを目的としてリスクを有する血縁者に対して行う検査関連の事項については、「遺伝カウンセリング」の項を参照されたい。


更新履歴:

  1. Gene Reviews著者: Ariadne Letra, DDS, MS, PhD,Bret Chiquet,DDS, PhD,Emily Hansen-Kiss MA, CGC, Simone Menezes, BS,and Elizabeth Hunter, BS.
    日本語訳者: 佐藤康守(たい矯正歯科)、櫻井晃洋(札幌医科大学医学部遺伝医学)
    GeneReviews最終更新日:2021.7.22  日本語訳最終更新日: 2023.1.9.[in present]

原文: Nonsyndromic Tooth Agenesis Overview

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