GRJ top > 遺伝子疾患情報リスト | ||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||
有機酸代謝異常症概説
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疾患 |
顕著な特徴 |
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ケトーシス |
アシドーシス |
その他 |
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メープルシロップ尿症 (MSUD) |
X |
メープルシロップ臭 |
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プロピオン酸血症1 |
X |
X |
好中球減少 |
メチルマロン酸血症(MMA) |
X |
X |
好中球減少 |
ホモシスチン尿症を伴うメチルマロン酸尿症(cblC型) |
まれ |
まれ |
嘔吐・哺乳不良・神経学的症状 |
イソ吉草酸血症 |
X |
汗臭い足の臭い |
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ビオチン不応性3-メチルクロトニル-CoAカルボキシラーゼ欠損症 |
X |
低血糖 |
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3-ヒドロキシ-3-メチルグルタリル-CoA(HMG-CoA)リアーゼ欠損症 |
ライ症候群・低血糖 |
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ケトチオラーゼ欠損症(ミトコンドリアアセトアシル-CoAチオラーゼ欠損症) |
X |
X |
低血糖 |
グルタル酸血症1型(GA I) |
運動機能障害を伴う基底核障害 |
注: メープルシロップ尿症およびイソ吉草酸血症では,尿,汗,そして患児の部屋からも感じられる独特な臭いが診断を示唆する.
新生児スクリーニング検査 タンデム質量分析計を用いて有機酸血症を診断する新生児スクリーニング検査の実施が増えてきたことから,より多くの患児をより早期に診断することが可能となってきている.これらの検査がスクリーニング検査であることを忘れてはならない.確定診断には独立したガスクロマトグラフ質量分析計(GC/MS)を用いた尿中有機酸の測定と可能であるならばその他の適切な検査を行わなければならない.
ガスクロマトグラフ質量分析計(GC/MS) 有機酸血症診断の第一選択は,キャピラリーカラムを用いたガスクロマトグラフ質量分析計(GC/MS)による尿中の有機酸分析である. 有機酸はいかなる体液成分でも測定可能である.しかし,半定量的方法では血漿中の重要な組成物を同定できない可能性があるため,これらの疾患を示す有機酸を1つだけ特定するために最も効果的なのは尿を用いるである.尿中で検出される有機酸はある特定の経路の関与を強く疑わせる(表1).
特別な状況では,安定同位体希釈分析のような定量的方法が,メチルマロン酸のような有機酸の定量化を可能とする場合がある.過剰な場合,蓄積された有機酸のCoA派生物はカルチニンやグリシンと結合するため,ある特定の疾患の診断には,血漿アシルカルチニンや尿中アシルグリシンの測定が役立つ.
尿中の有機酸プロファイルは,代償不全を伴う急性疾患に直面した状況ではほぼ常に異常を示す.しかし,患者の状態がさほど悪くない時には,診断の決め手となる分析物質がごく少量もしくは検出値ぎりぎりの量しか認められない場合もある.したがって,検査が実施可能となるまでサンプルを冷凍させる必要がある場合でも,疾患の急性期に尿サンプルを得ることは非常に重要である.
多くの検査室ではガスクロマトグラフ質量分析計(GC/MS)による尿中の有機酸分析の実施および,もしくは解釈が困難である.経験を積んだ検査室において生化学的な遺伝学的検査が実施され,遺伝生化学の訓練を積んだ者によって解釈されることが重要である.
鑑別診断
新生児の代謝異常や神経学的異常,年長児に新たに発症した神経症状の鑑別診断において,有機酸血症は重要である.
有機酸尿症
有機酸代謝異常症の主要疾患としては分類されない疾患のなかには,独特な尿中有機酸の特徴を持つものがあり,これにより適切な診断が示される.
アシドーシス 鑑別診断には,尿細管性アシドーシス,乳酸およびピルビン酸代謝や酸化的リン酸化に係る遺伝性代謝異常症といった,アシドーシスを引き起こすすべての原因を考える.クレブス回路障害もまた神経学的症状の原因となり,通常特定の有機酸の尿中値の上昇とともに,代謝性アシドーシスを伴う.フマラーゼ欠損症(フマル酸)と2-ケトグルタル酸脱水酵素欠損症(2-ケトグルタル酸)がその2つの例である.ショックや敗血症といった非遺伝的状態でもアシドーシスが起こる.
高アンモニア血症 尿中の有機酸の異常があれば直ちに有機酸代謝異常症と診断されがちであるが,グルタミン酸脱水素酵素をコードする遺伝子変異によって起こる尿素サイクル異常症(「尿素サイクル異常症概説」参照)および高アンモニア血症-低血糖症候群(「家族性高インスリン血症」参照)を考慮する必要がある.尿素サイクル異常症であるオルニチントランスカルバミラーゼ(OTC)欠損症や尿素サイクルのより後半の異常症では,オロト酸が尿中の有機酸の中で同定されることがある.
発達遅滞 アシドーシスや高アンモニア血症を伴わず他の精神学的所見がみられる発達遅滞との鑑別診断には非常に時間がかかる.これらの症状が優勢である場合も,常に有機酸血症を留意しておくことが必要である.
頻度
有機酸尿症を伴う個々の疾患はまれであるが,有機酸代謝異常症全体としてはまれではない.先天性代謝異常症は100種以上あり,そのうちの多くが新生児期に現れる有機酸血症であり,1000人中約1人が発症する.
病因
遺伝要因
古典的有機酸代謝異常症の大多数は,分枝鎖アミノ酸もしくはリジンのアミノ酸異化の異常により起こる.疾患の特徴を表1(臨床所見),表2(代謝所見),および表3(分子遺伝学)にまとめた.
表2. アミノ酸異化の異常による有機酸血症の代謝所見
疾患 |
障害のある |
酵素 |
GC/MS 1および定量的アミノ酸分析での分析物質 |
メープルシロップ尿症(MSUD) |
ロイシン・イソロイシン・バリン |
分枝鎖ケト酸脱水酵素 |
尿中の分枝鎖ケト酸およびヒドロキシ酸 |
プロピオン酸血症 |
イソロイシン・バリン・メチオニン・トレオニン |
プロピニルCoAカルボキシラーゼ |
尿中のプロピオン酸・3-OH プロピオン酸・メチルクエン酸・プロピニルグリシン |
メチルマロン酸血症(MMA) |
イソロイシン・バリン・メチオニン・トレオニン |
メチルマロニルCoAムターゼ |
血中および尿中のメチルマロン酸 |
ホモシスチン尿症を伴うメチルマロン酸尿症(cblC型) |
イソロイシン・バリン・メチオニン・トレオニン |
MMACHC タンパク質 |
血中および尿中のメチルマロン酸 |
イソ吉草酸血症 |
ロイシン |
イソ吉草酸CoA脱水素酵素 |
尿中の3-OHイソ吉草酸・イソ吉草酸グリシン |
ビオチン不応性3-メチルクロトニル- CoAカルボキシラーゼ欠損症 |
ロイシン |
3-メチルクロトニル- CoAカルボキシラーゼ |
尿中の3-ヒドロキシ-イソ吉草酸・3-メチルクロトニルグリシン |
3-ヒドロキシ-3-メチルグルタリル- CoA(HMG-CoA)リアーゼ欠損症 |
ロイシン |
HMG- CoAリアーゼ |
尿中の3-OH-3-メチルグルタル酸・3-メチルグルタコン酸・3-OH-イソ吉草酸・3-メチルグルタル酸 |
ケトチオラーゼ欠損症 |
イソロイシン |
ミトコンドリアアセトアシル- CoAチオラーゼ |
尿中の2-メチル-3-ヒドロキシ酪酸・2-メチルアセト酢酸・tiglylglycine |
グルタル酸血症1型(GA I) |
リジン・ヒドロキシリジン・トリプトファン |
グルタリルCoA 脱水素酵素 |
尿中のグルタル酸・3-OH-グルタル酸 |
表3.有機酸血症の分子遺伝学と分子遺伝学的検査の実施可能性
疾患 | 遺伝子記号 | 染色体座 | タンパク質名 | OMIM # |
メープルシロップ尿症(MSUD) | BCKDHA | 19q13.1-q13.2 | 2-オキソイソ吉草酸脱水素酵素αサブユニット | 248600, 608348 (IA型) |
BCKDHB | 6p22-p21 | 2-オキソイソ吉草酸脱水素酵素βサブユニット | 248611 (IB型) | |
DBT | 1p31 | 分枝鎖α-ケト酸脱水素酵素複合体のリポアミドアシル基転移酵素 | 248610 (II型) | |
プロピオン酸血症 | PCCA | 13q32 | プロピニル- CoAカルボキシラーゼα鎖 | 606054, 232000 (I型) |
PCCB | 3q21-q22 | プロピニル- CoAカルボキシラーゼβ鎖 | 232050, 606054 (II型) | |
メチルマロン酸血症(MMA) | MUT | 6p21 | メチルマロニル- CoAムターゼ | 251000, 609058 |
MMAA | 4q31.1-q31.2 | メチルマロン酸尿症A型タンパク質 | 607481, 251100 | |
MMAB | 12q24 | コビリン酸 a,c-ジアミド アデノシルトランスフェラーゼ | 607568, 251110 | |
ホモシスチン尿症を伴うメチルマロン酸尿症(cblC型) | MMACHC | 1p34.1 | ホモシスチン尿症を伴うメチルマロン酸尿症C型タンパク | 609831, 277400 |
イソ吉草酸血症 | IVD | 15q14-q15 | イソ吉草酸CoA脱水素酵素 | 243500, 607036 |
ビオチン不応性3-メチルクロトニル- CoAカルボキシラーゼ欠損症 | MCCC1 or MCCA | 3q25-q27 | メチルクロトニル- CoAカルボキシラーゼα鎖 | 210200, 609010 |
MCCC2 or MCCB | 5q12-q13 | メチルクロトニル- CoAカルボキシラーゼβ鎖 | 210210 | |
3-ヒドロキシ-3-メチルグルタリル- CoA(HMG-CoA)リアーゼ欠損症 | HMGCL | 1p33-pter | ヒドロキシメチル-グルタリル- CoAリアーゼ | 246450 |
ミトコンドリアアセトアシル- CoAチオラーゼ欠損症 | ACAT1 | 11q22.3-q23.1 | アセチル- CoAアセチルトランスフェラーゼ | 203750, 607809 |
(β-ケトチオラーゼ欠損症) | ||||
グルタル酸血症1型 (GA I) | GCDH | 19p13.2 | グルタリル- CoA脱水素酵素 | 231670 |
評価手順
有機酸血症の原因特定が予後診断,適切な治療方法,遺伝カウンセリングに重要である.
血漿アミノ酸分析 血漿アミノ酸値のそれぞれの異常は損なわれた経路を特定するうえで重要な手掛かりとなるため,それぞれの疾患に基づく血漿アミノ酸分析が役立つ.血漿アミノ酸分析にはカラムクロマトグラフィー,高速液体クロマトグラフィー(HPLC),ガスクロマトグラフ質量分析計(GC/MS)といった定量的方法が必要となる.
酵素分析 特定の分析物質の検出が診断の幅を狭めたら,診断を確定するために,リンパ球もしくは培養線維芽細胞で欠損酵素の活性を測定する.
分子遺伝学的検査
分子遺伝学的検査で診断を確定できる患者もいる.有機酸代謝異常症を引き起こす遺伝子と分子遺伝学的検査の実施可能性については表3に掲げる.
2つの異なる変異を持つ複合ヘテロ接合体が常染色体劣性遺伝疾患ではよくみられる.分子遺伝学的方法を用いた保因者診断は,発端者の変異が1つしか分かっていない場合には困難となりうる.
他の多くの遺伝疾患と同様,特定の変異が特定の民族集団で集積している.例えば,メープルシロップ尿症は旧派アーミッシュに多く,多くの有機酸尿症の特異的変異はサウジアラビアのアラブ人に多い.
遺伝カウンセリング
「遺伝カウンセリングは個人や家族に対して遺伝性疾患の本質,遺伝,健康上の影響などの情報を提供し,彼らが医療上あるいは個人的な決断を下すのを援助するプロセスである.以下の項目では遺伝的なリスク評価や家族の遺伝学的状況を明らかにするための家族歴の評価,遺伝子検査について論じる.この項は個々の当事者が直面しうる個人的あるいは文化的な問題に言及しようと意図するものではないし,遺伝専門家へのコンサルトの代用となるものでもない.」
遺伝形式
この概説でとりあげている有機酸血症は常染色体劣性の遺伝形式をとる.
患者家族のリスク
発端者の両親
発端者の同胞
発端者の子 罹患者の子はすべて絶対的保因者である.
発端者の他の家族 発端者の両親の同胞が保因者であるリスクは50%である.保因者診断
ビオチン不応性3-メチルクロトニルCoAカルボキシラーゼ欠損症を除いて,分子遺伝学的手法を用いた保因者診断は,有機酸血症の原因となる変異が発端者に同定されていれば,リスクのある家族に対して臨床的に実施可能である.
分子遺伝学的検査以外の方法の保因者診断は,保因者の酵素活性領域と非保因者の酵素活性領域に重なり合う部分が多いため,信頼性が低い場合がほとんどである.これの典型例がプロピオン酸血症であり,メチルマロン酸血症も該当するようである.遺伝カウンセリングに関連した問題
家族計画 遺伝的リスクの評価,保因者診断や出生前診断に関する検討は妊娠前に行われるのが望ましい.
リスクのある新生児の診断 リスクのある妊娠について出生前診断が行われていない場合には,出生後ただちに診断のための検査を行わなければならない.診断が確定もしくは否定されるまでの飢餓ストレスの回避を含め,先を見越した治療を行うのが賢明である.
DNAバンキング DNAバンクは主に白血球から調製したDNAを将来の使用のために保存しておくものである.検査法や遺伝子,変異あるいは疾患に対するわれわれの理解が進歩するかもしれないので,DNAの保存は考慮に値する.ことに現在用いられている分子遺伝学的検査が研究ベースでのみ提供可能であるとか,感度が100%ではないというような疾患では特に重要である.出生前診断
疾患に応じて出生前診断には3つのアプローチが可能である.すなわち,1.羊水中の分析物質の測定,2.絨毛採取により得られた細胞もしくは培養羊膜細胞における酵素活性の測定,3.以前発症した患児(もしくは保因者である両親)における2つの病原性変異が分かっている場合,関連変異を同定するために,絨毛採取もしくは羊水穿刺により得た胎児細胞から抽出したDNAを用いた分子遺伝学的検査である.
遺伝学的生化学検査 プロピオン酸血症,メチルマロン酸血症,ビオチン不応性3-メチルクロトニルCoAカルボキシラーゼ欠損症,グルタル酸血症1型,ケトチオラーゼ欠損症,ホモシスチン尿症を伴うメチルマロン酸尿症(cblC型),イソ吉草酸血症に対するリスクが高い妊娠への出生前診断は,適切な分析物質に対して高精度の定量的方法が用いられるならば,羊水検査で可能である.羊水穿刺は通常胎生週数15〜18週頃に実施される.
注:胎生週期とは最終月経の第1日から換算するか,超音波による計測によって算出される.
メープルシロップ尿症へのリスクが高い妊娠への出生前診断は,胎生週数10〜12週頃の絨毛標本採取,もしくは通常胎生週数15〜18週頃に実施される羊水穿刺により得られた胎児細胞の酵素活性の測定により可能である. (絨毛標本採取による細胞が用いられる場合,それらが母体ではなく胎児からのものであることに特別注意を払わなければならない.)
分子遺伝学的検査 グルタル酸血症1型,メチルマロン酸血症,ビオチン不応性3-メチルクロトニルCoAカルボキシラーゼ欠損症,メープルシロップ尿症(MSUD),イソ吉草酸血症,ホモシスチン尿症を伴うメチルマロン尿症(cblC型),プロピオン酸血症のリスクが高い妊娠への出生前診断は,通常胎生週数15〜18週頃に実施される羊水穿刺,もしくは,胎生週数10〜12週頃の絨毛標本採取により得られた胎児細胞から抽出されたDNA解析により可能である. 出生前診断が実施可能となる前に,発病している家族メンバーに発病性アレルが2つとも同定されていなければならない.臨床的マネジメント
症状に対する治療
有機酸血症の多くが治療に反応する.特に新生児では緊急の診断と管理を必要とする.治療目的は生化学的および生理学的恒常性の回復である. 原則は同じであるが,治療はそれぞれの生化学的障害により,遮断されている代謝の場所と中毒性物質の影響に基づいて実施される.治療手段には (1)前駆体アミノ酸の摂取制限,(2)中毒性代謝産物の排除のための補助化合物の利用,(3)欠損酵素活性を増すための補助化合物の利用がある.
食事
表2に古典的疾患に関連するアミノ酸を掲げる.特定の前駆体アミノ酸を含まない代謝フード(粉ミルク)の利用は,これがなければタンパク質を欠く食事となるところに必須アミノ酸を提供するため,臨床的管理の最も重要な部分である. 炭水化物や脂肪として異化を阻止する適切なカロリーが提供され,適切なタンパク質が同化を支えるために提供されなければならない.胃腸疾患や手術の際には完全非経口栄養が用いられるが,生化学的データを注意深くモニタリングしなければならない.
中毒性代謝産物を排除するための補助化合物 例えば,チアミン反応性メープルシロップ尿症にはチアミンが用いられが,メチルマロン酸血症には通常シアノコバラミンではなくヒドロキソコバラミンが用いられる.プロピオン酸代謝異常症には,腸内細菌によるプロピオン酸産生を減少させるために,非吸収性抗生剤が間欠投与される.
長期的なケア 持続的なケアには知識豊富な栄養師と医師のサポートが必要である.成長,発達,生化学データの頻繁なモニタリングが不可欠である.有機酸血症の長期的予後は良好なものにすることができる.しかし,有機酸血症患者は医学的に脆弱であるために,適切な管理を行っても予後がかならず良好であるとは限らない.
代償不全の急性発症が頻繁に起こる場合,中枢神経系への影響はきわめて重篤である.嘔吐,下痢,発熱疾患,経口摂取量の減少といった異化ストレスの原因は,どれも代償不全を引き起こす可能性があり,これに対しては迅速な積極的な介入が必要である.急性代償不全の場合,治療目的は中毒性アミノ酸前駆体の除去で,前駆体の摂取を制限し血液透析のような補助手段を用いる.急性代償不全の間は,緊急の看護サポートが必要とされることが多く,アシドーシスは是正されなければならず,生化学的データを注意深く頻繁にモニタリングすることが非常に重要である .
グルタル酸血症1型(GAI)の代償不全の初回エピソードは通常基底核へ重篤な障害を引き起こし,これにより運動機能障害が起こる.早期診断の実施により代償不全を積極的に予防することで,この障害を予防することができる.病態生理に急性線条体壊死が含まれることがある.脳卒中類似の障害および脳内エネルギーの欠乏モデルに基づく急性疾患への対処が推奨されている.メープルシロップ尿症の早期診断は予後に重大な影響を与える.たとえ治療が早期に始められたとしても,メチルマロン酸血症(cblC型)は治療への反応が良好ではないようだ.遅発性cblC型は,早発性と比べて,ヒドロキソコバラミン治療への反応が良好なように思われる.
肝移植 少数の患者に肝移植が実施されている.実施例が少ないために第一選択治療としては考えられないが,多くの症例で良好な成果を残している.ムターゼ欠損メチルマロン酸血症では, 肝腎複合移植により多くの患者の腎疾患が完治し,ほぼ正常に近い代謝状態となった. プロピオン酸血症では,肝移植単独で疾患が改善したが,腎臓もプロピオン酸を産出するために疾患を完全に排除することはできなかった.肝移植の通常の合併症には,シクロスポリンの中毒性や拒絶反応が報告されている.生存率は非代謝性疾患で移植を受けた小児と同等でQOLは良好であると報告されている.
妊娠 注意深い代謝管理により,母体にも胎児にも目立った悪影響なく,イソ吉草酸血症,メープルシロップ尿症,プロピオン酸血症,メチルマロン酸血症,ミトコンドリアβ-ケトチオラーゼ欠損症の女性の妊娠が成功している.母体に代謝ストレスがかかる出産後に注意深いモニタリングを行うことが非常に重要である.