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ピルビン酸カルボキシラーゼ欠損症
(Pyruvate Carboxylase Deficiency)

Gene Review著者:Dong Wang, MD, Darryl De Vivo, MD
日本語訳者:窪田美穂(ボランティア翻訳者),櫻井晃洋(信州大学医学部附属病院遺伝子診療部)
Gene Review 最終更新日: 2009.6.2. 日本語訳最終更新日:2009.12.25.

原文 Pyruvate Carboxylase Deficiency


要約

疾患の特徴 

ピルビン酸カルボキシラーゼ(PC)欠損症の特徴は、ほとんどの患者で発育不良、発達遅延、再発性振戦、代謝性アシドーシスがみられることである.3タイプの臨床型が認められている.A型(乳児型)では、大多数の患児が乳児期もしくは幼児期初期に死亡する.B型(重症新生児型)では、罹患した乳児は肝腫大、錐体路徴候、異常運動を示し、生後3カ月以内に死亡する.C型(中間型・良性型)では、患者の神経学的発達は正常もしくは軽度遅延であり、発作性の代謝性アシドーシスが起こる.

診断・検査 

PC欠損症の診断は線維芽細胞のアミノ酸と有機酸の分析でPC酵素活性の欠損が検出された場合に確定する.PC欠損症に関連することがわかっている唯一の遺伝子であるPC遺伝子の分子遺伝学的検査は、研究目的でのみ実施されている.

臨床的マネジメント 

症状の治療: ブドウ糖含有液の静注、輸液、代謝性アシドーシスの是正が急性期治療の主体である.生化学的異常の是正や、クエン酸、アスパラギン酸、ビオチンの補給により身体所見が改善することがあるが、神経学的症状は改善されないだろう.同所性肝移植の適用となる患者もいる.トリヘプタノイン等の補充療法は、とりわけ神経学的症状に対して幾分有力視されているが、さらに評価を続けていく必要がある.

一次病変の予防: 糖新生の活性化予防の高炭水化物食及び高蛋白食の利用.

経過観察:血清中の乳酸濃度に対する定期的なモニタリング.

回避すべき薬剤:環境: 空腹、ケトン食.

遺伝カウンセリング 

PC欠損症は常染色体劣性の遺伝形式をとる.体細胞新生突然変異が報告されている. 両親がともに保因者である場合、PC欠損症患者の同胞が双方の変異を受け継ぎ発症する確率は25%、変異を1つ受け継ぎ保因者となる確率は50%、2つとも正常な遺伝子を受け継ぎ保因者ともならない確率は25%である.GeneTests Laboratory DirectoryにはPC欠損症の分子遺伝学検査を実施している臨床施設は掲載されていないが、 リスクのある親族に対する保因者診断やリスクの高い妊娠に対する出生前診断については、家系内の発病性変異が分かっている場合、患者の要望に応じた変異解析を行っている施設で実施可能であろう.


診断

臨床診断

ピルビン酸カルボキシラーゼ(PC)欠損症が疑われるのは、生育不良、発達遅延、再発性痙攣、代謝性アシドーシスを伴う患者である.

PC欠損症を臨床的にまとめると以下の3タイプとなる:

  • A型:乳児型・北米型
  • B型:重症新生児型・フランス型
  • C型:中間型・良性型

検査

生化学検査

PC欠損症の各型で見られる異常

  • A型. 乳児発症性の軽度から中等度の乳酸血症.酸血症にもかかわらず、ピルビン酸に対する乳酸の比率は正常である [Robinson 2000, Wang et al 2008]
  • B型. ピルビン酸に対する乳酸の比率の上昇.3-ヒドロキシ酪酸に対するアセト酢酸の比率の上昇.シトルリン、プロリン、リジン、アンモニアの血中濃度の上昇.グルタミン濃度の低下[Nelson et al 2000, Garci´a-Cazorla et al 2006, Wang et al 2008]
  • C型. 血漿シトルリン濃度正常と、リジン、プロリンの血漿濃度の上昇を伴う発作性代謝性アシドーシス[Wang et al 2008]

生化学的検査を行っている施設に関しては、graphic elementを参照のこと.

注:以下の検査値については、A型、B型、C型で異常値の重複がみられる.正常範囲は施設ごとに異なる.

乳酸・ピルビン酸. 高い乳酸の血漿濃度(5.5〜27.8 mmol/L ;正常値は0.5〜2.2 mmol/L).通常、PC欠損症A型のピルビン酸血症濃度は高い(0.14〜0.90 mmol/L;正常値は0.04〜0.13 mmol/L))が、PC欠損症B型では正常であり、ピルビン酸に対する乳酸の比率が上昇する.PC酵素活性が失われるため血漿中にピルビン酸が蓄積するが、乳酸脱水素酵素(LDH)酵素に乳酸へと転換されるため乳酸の血漿濃度が上昇する.

アミノ酸. 血清中及び尿中のアミノ酸濃度は、アラニン、シトルリン、リジンは高いが、アスパラギン酸、グルタミン酸は低い.アミノ酸濃度は個人の全般的代謝状態によりさまざまである.
  • ピルビン酸の変換経路が断たれていることにより起こる高アラニン血症
  • アスパラギン酸の低濃度に続発する尿素サイクルでの遮断により起こる高シトルリン血症および高リジン血症
  • オキサロ酢酸前駆体の欠乏から起こるアスパラギン酸とグルタミンの低濃度

ケトン血症. 血中の3-ヒドロキシ酪酸及びアセト酢酸の濃度は上昇する.PC欠損症B型では、ミトコンドリア内のNADに対するNADHの比率が低くいことを反映して、3-ヒドロキシ酪酸に対するアセト酢酸の比率が上昇する.オキサロ酢酸の欠乏により肝臓がピルビン酸や脂肪酸由来のアセチル-CoAを酸化することができなくなる.アセチル-CoAの蓄積増大により、肝臓でのケトン体合成が起こる[De Vivo et al 1977]

低血糖. オキサロ酢酸欠損症により糖新生が抑制される.注:PCは糖新生における律速酵素であるが、低血糖がすべての患者に一貫してみられるわけではない.

高アンモニア血症.アンモニア排出の不良や尿素サイクルの機能低下により高アンモニア血症が起こる.

脳脊髄液 (CSF)

  • 乳酸濃度とピルビン酸濃度の上昇
  • グルタミン濃度の著しい低下
  • グルタミン酸濃度とプロリン濃度の上昇

PC酵素測定. PC欠損症では、通常、線維芽細胞のPC酵素活性は対照群での観察値の5%未満である [Wang et al 2008].同様の異常値がリンパ芽球でも認められる. 筋肉でのPC活性は対照群の組織値と比較して極めて低い.

分子遺伝学的検査

遺伝子. PC遺伝子はPC欠損症に関連があることが知られている唯一の遺伝子である.

研究目的での検査

  • 標的変異解析.最も一般的なPC遺伝子変異(p.Ala610Thrp.Arg631Glnp.Ala847Val)に対する標的変異解析により変異が検出されるのは患者の1%である.
  • シークエンス解析 PC遺伝子の前駆体およびコード領域に対するシークエンス解析では患者の95%に変異が検出される.

表1に本疾患で用いられる分子遺伝学的検査をまとめる.

表1.ピルビン酸カルボキシラーゼ欠損症で用いられる分子遺伝学的検査

遺伝子記号

検査方法

検出変異 1

検査方法ごとの変異検出率

検査実施

PC

標的変異解析

p.Ala610Thr, p.Arg631Gln, p.Ala847Val

1%

研究目的のみ 2

シークエンス解析

シークエンス変異

95%

  1. モザイク体患者では分子遺伝学的検査が困難なことがある.「遺伝子型と表現型の相関関係」の項、表2、Wang et al [2008]を参照のこと.
  2. GeneTests Laboratory Directoryに本疾患に対する分子遺伝学的検査を臨床的に実施している施設は掲載されていない.しかし、研究施設で同定された変異の臨床的確定は、発病性変異が同定されている家系に対しては可能なことがある.そのような検査を提供している施設に関しては、graphic elementを参照のこと

検査手順

発端者における確定診断. PC欠損症の診断は以下に基づく:

  • アミノ酸、有機酸、ブドウ糖、アンモニアの血清濃度で特徴的な異常値の検出
  • 線維芽細胞やその他の組織で測定されたPC酵素活性の欠損
  • PC遺伝子に対する分子遺伝学的検査

注:研究施設で同定された変異の臨床的確定は可能なことがある.graphic elementを参照のこと.

リスクのある親族への保因者診断 リスクのある親族への保因者診断には、家系内の発病性変異が事前に同定されている必要がある.

注:保因者とはこの常染色体劣性疾患に対するヘテロ接合体であり、発病リスクを持たない.

出生前診断・着床前診断(PGD) リスクのある妊娠の出生前診断および着床前診断には、事前に家系内における発病性変異の同定が必要である.

遺伝学的に関連する疾患

PC遺伝子変異に関連するこの他の疾患はない.


臨床像

自然経過

ピルビン酸カルボキシラーゼ(PC)欠損症患者の大多数は発育不全、発達遅滞、再発性痙攣、代謝性アシドーシスを呈する.低血糖は一貫して見られる所見ではない.

PC欠損症には臨床的に3つのタイプが認められている.

A型(乳児型) A型は乳児期発症性で、軽度の代謝性アシドーシス、精神発達および運動発達面の遅滞、発育全、感情鈍麻、筋緊張低下、錐体路徴候、運動失調、眼振、痙攣を特徴とする.

急性嘔吐、頻呼吸、アシドーシスの発作は通常代謝性ストレスもしくは感染ストレスによって起こることが多い.

大多数の患児は乳児期もしくは小児期早期に死亡するが、成人期まで生存する例もある.年長者の機能遂行度は平均未満であり、特別なケアと学校教育を必要とする[Carbone et al 1998, Wang et al 2008].

B型(重症新生児型) B型はまずフランスでSaudubray et al [1976]により報告された.罹患した乳児は生化学的異常、低血糖、高アンモニア血症、高ナトリウム血症、食欲不振、肝腫大、痙攣、昏迷、筋緊張低下、錐体路徴候、異常行動(高振幅の振戦およびジスキネジアなど)、奇怪な眼球運動を呈する.

精神運動発達は重度に遅延する[Garci´a-Cazorla et al 2006, Wang et al 2008].

大多数の罹患乳児は生後3か月以内に死亡するが[Garci´a-Cazorla et al 2006]、2名が9歳および20歳まで生存した.これはモザイクによると考えられる.[Wang et al 2008] (「遺伝子型と表現型の相関関係」の項を参照のこと).

C型(中間型・良性型)  C型は、正常もしくは軽度の神経学的発達遅滞と発作性の代謝性アシドーシスを特徴とする.5名の患者が報告されている [Van Coster et al 1991, Stern et al 1995, Vaquerizo Madrid et al 1997, Arnold et al 2001, Wang et al 2008].最初に報告された患者では、12歳時の精神運動発達は正常であったが、それ以前に代謝性アシドーシス発作が数回みられた[Van Coster et al 1991].

脳MRI画像. A型では、大脳皮質、大脳基底核、脳幹、小脳での左右対称的な嚢胞性病変や神経膠腫、 全般的なミエリン形成不全、皮質下の前頭葉頭頂葉白質における高信号が認められた例が報告されている.

B型では、脳室拡張、大脳皮質や白質の萎縮、脳室周囲の白質嚢胞が認められた例が報告されている [Garci´a-Cazorla et al 2006].

磁気共鳴法(MRS). 脳MRSでは乳酸値とコリン値は高く、N-アセチルアスパラギン酸値は低い.

病理生理学. 星状膠細胞のグルタミン-グルタミン酸回路には、PC酵素活性から触媒反応により生成されるオキサロ酢酸の継続的供給が必要である.

遺伝子型-臨床型の関連

A型. 5名の患者で7種の変異(p.Arg62Cysp.Arg631Glnp.Ala847Valp.Val145Alap.Arg451Cysp.Ala610Thrp.Met743Ile)が同定されている [Wang et al 2008].

B型. ホモ接合体、ヘテロ接合体、モザイク体では、複雑なミスセンス変異、欠失、スプライス供与部位変異が生じる(表2を参照のこと) [Wang et al 2008].

C型. 最初に報告された患者ではヘテロ接合体変異(p.Ser266Ala)と体細胞モザイク変異(p.Ser705X)が認められた [Wang et al 2008].次の患者にはp.[Thr569Ala] 変異と[Leu1137ValfsX1170] 変異のヘテロ接合体が認められた. [Wang et al 2008].

モザイク モザイクが認められた患者は5名であった [Wang et al 2008, Table 3]: A型: 患者番号6; B型:患者番号2、 患者番号5、患者番号7; C型: 患者番号1. このうち4名は生存が延長した.1名(B型:患者番号7)は当該疾患と無関係な合併症により死亡した.

ホモ接合体変異. B型重症患者の死亡には、線維芽細胞のPC蛋白生成量を非常に低下(2%と3%)させるホモ接合体変異に関連していた [Wang et al 2008, Table 3].

頻度

ほとんどの人口集団においてPC欠損症発症率は低い(1:250,000).

PC欠損症がより多くみられる民族集団は以下の通りである:

  • A型: アルゴンキン語族の北米先住民であるOjibwa、Cree、Micmac族の発症率は高い.Ojibwa族とCree族出身の患者13名全員にA610T変異が同定された.これらの民族の保因者率は1/10程度に上るだろうと考えられる [Carbone et al 1998].
  • B型: ヨーロッパでの発症率が高い(とりわけフランスで高いが、ドイツ、英国でも認められる).

鑑別診断

本稿で扱われる疾患に対する遺伝学的検査の実施可能性に関する最新情報は,GeneTests Laboratory Directoryを参照のこと.―編集者注.

ビオチニダーゼ欠損症 ビオチニダーゼ欠損症は、体内で作られたビオチンを再利用できず、食事から得た蛋白結合型ビオチンを利用できないことから生じる.ビオチンはプロピニル―CoA-カルボキシラーゼ、ピルビン酸カルボキシラーゼ(PC)、β-メチルクロトニル-CoAカルボキシラーゼ、アセチル-CoAカルボキシラーゼと結合する.ビオチニダーゼの欠損はビオチン化酵素すべてに影響を与えるため、新生児期やその後の乳児期に昏睡、代謝性アシドーシスを伴う振戦、難聴、脱毛症、口周や顔面の皮膚炎といった神経学的症状として現れる.ビオチニダーゼ欠損症にはビオチン投与が有効である.

未治療の状態では、乳児期の重篤なビオチニダーゼ欠損症の特徴は振戦、筋緊張低下、発疹といった神経学的所見や皮膚科所見であることが多く、過換気、喉頭喘鳴、無呼吸を伴う場合も多い.年長児では、脱毛症、運動失調、発達遅滞、感音性難聴、視神経萎縮、再発性感染もみられる.ビオチニダーゼが完全に欠損しているわけではない部分ビオチニダーゼ欠損症患者では、とりわけストレス時に筋緊張低下、皮膚発疹、脱毛を生じることがある.

ビオチニダーゼ欠損症はBTD遺伝子変異により生じる.重篤なビオチニダーゼ欠損症患者の血清ビオチニダーゼ活性は 正常平均の10%未満である.部分ビオチニダーゼ欠損症患者の血清ビオチニダーゼ活性は正常平均の10〜30%である.

ビオチニダーゼ欠損症は常染色体劣性の遺伝形式をとる.

ピルビン酸脱水素酵素複合体(PDHC)欠損症 ピルビン酸脱水素酵素複合体欠損症は3つの触媒部位(E1、E2、E3)のうちどれか一つが欠如している場合、もしくはPDHC(ピルビン酸脱水素酵素リン酸ホスファターゼ)の調節部位が欠如している場合に発症する.PDHC欠損症の診断が疑われるのは、進行性もしくは間欠性の神経学的症状を伴う高乳酸血症患者である.このような患者では、運動発達の獲得が不十分もしくはまったくみられなかったり、筋緊張低下、新規発症性の振戦、筋協調失調(運動失調)期の存在、異常眼球運動、視覚刺激への反応の乏しさ、発作性ジストニアが認められたりする.血液中及び脳脊髄液中の乳酸濃度は高いが、これは血液中や脳脊髄液中のピルビン酸濃度やアラニン濃度の上昇に関連している.PC欠損症とは異なり、通常、血漿中のピルビン酸に対する乳酸の比率は正常である.典型的な場合では、脳脊髄液中の乳酸濃度の上昇が血液中の濃度の上昇よりも高いことから、「脳性乳酸アシドーシス」と呼ばれる.

脳MRI画像診断では、脳室拡張、脳萎縮、脳水腫、脳梁の部分的もしくは完全消失、延髄錐体の消失、下オリーブ核異常もしくは異所性下オリーブ核、左右対称性嚢胞性病変、皮質、基底核、脳幹、小脳の神経膠症、全般的ミエリン形成不全が様々な組み合わせで認められることがある

脳MRS:

  • 「脳性乳酸アシドーシス」との名前の由来通りの高い乳酸濃度.
  • ミエリン形成不全を反映するN-アセチルアスパラギン酸濃度とコリン濃

PDHC酵素活性測定、免疫ブロット分析、本疾患との関連が知られている2つの遺伝子に対するシークエンス解析(PDHA1遺伝子[ピルビン酸脱水素酵素E1欠損症] ・DLAT遺伝子[ピルビン酸脱水素酵素E2欠損症])は診断の一助となる[DiMauro & De Vivo 1999].ほとんどの病原性変異は、E1αサブユニットをコードするX連鎖性遺伝子PDHA1遺伝子に関連している.

呼吸鎖異常 酵素複合体をコードしている核遺伝子もしくはミトコンドリア遺伝子の変いは5種類あるが,いずれの変異も呼吸鎖疾患の原因となる.乳酸濃度とピルビン酸濃度は高い.乳酸/ピルビン酸比率も上昇し、20超となることも多い. 骨格筋生検では赤色ぼろ線維、シトクロムc-オキシダーゼ陰性線維、コハク酸脱水素酵素強陽性線維が認められることがある.このような組織学的異常は核ゲノム-ミトコンドリアゲノム間のシグナル伝達障害を起こす核DNA変異や、タンパク合成遺伝子に影響を与えるミトコンドリアDNA変異に多くみられるものである.脳MRI画像では、Leigh病、乳酸アシドーシスと脳卒中様発作を伴うミトコンドリア脳筋症(MELAS)で報告されているような疾患特異的異常が明らかになることがある [DiMauro & Schon 2007].核遺伝子変異は常染色体劣性もしくは常染色体優性の遺伝形式をとる.ミトコンドリアDNA変異は母系遺伝であり、メンデル遺伝形式に則らない.


臨床的マネジメント

最初の診断に続いて行なう評価

ピルビン酸カルボキシラーゼ(PC)欠損症と診断された患者に対して疾患の程度を確定する場合に推奨される手順は以下の通りである:

  • 血液中、尿中、脳脊髄液中の有機酸、アミノ酸の測定.脳MRI診断、脳MRS診断.
  • 確定診断、治療の手引き、予後の決定に際しては、代謝性疾患や遺伝性疾患専門の小児神経医による評価
次回妊娠の再発リスクを考えている両親に対する遺伝カウンセリング

病変に対する治療

治療は代替エネルギー源、輸液の供給が主体となり、急性代謝不全時には代謝性アシドーシスの是正が第一に行われる.残存PC酵素活性の刺激は、代謝状態の長期的安定にとって重要な課題である.生化学的異常の是正により緩和される症状も幾つかあるが、中枢神経系の障害は治療いかんにかかわらず進行する [DiMauro & De Vivo 1999].
「補充療法」は、このような疾患におけるエネルギー欠乏は、クエン酸回路及び電子伝達系双方への代替基質供給によってATP生成を亢進させることで改善する可能性があるかもしれないという考え方に基づく[Roe & Mochel 2006].

  • クエン酸の補充はアシドーシスを改善し、クエン酸回路の基質を供給する[Ahmad et al 1999
  • アスパラギン酸の補充は尿素サイクルの進行を助け、血漿中及び尿中のアンモニア濃度を低下させるが、アスパラギン酸がそのまま脳に達することはないため、神経学的障害には効果がない [Ahmad et al 1999].
  • ビオチンの補充は残存PC酵素活性を最適化させる目的で行われるが、ほとんど有効性が認められない.炭素数が奇数のトリグリセリドであるトリヘプタノインはアセチル-CoAや補充的なプロピオニル-CoAの供給源となるが、ビオチン無反応性PC欠損症B型患者1名に試みたところ、重篤な肝不全からの急速な(48時間未満)回復とすべての生化学的異常の改善がみられた[Mochel et al 2005]. トリヘプタノインは血管脳関門を通過できる炭素数5のケトン体を提供するため、脳への基質供給が可能となる.トリヘプタノインによる摂食介入は脳代謝の改善をもたらす唯一の治療アプローチである.しかし、この考察は他の患者において確証される必要がある.
  • 同所性肝移植により生化学的異常が改善した患者が2名いる[Nyhan et al 2002].

一次病変の予防

  • 危機を引き起こす要因や代謝不全の初期徴候について、両親を教育すること.
  • 子どもの疾患や緊急時の適切な対応を記載したカードを携帯すること.
  • 併発性感染や環境的ストレスを最小限にすること.

経過観察

定期的に乳酸値のモニタリングを行うこと.

回避すべき薬剤・環境

回避すべきことは以下の通りである:

  • 空腹
  • ケトン食(生命を脅かす突発性の代謝性アシドーシスを引き起こす)

リスクのある親族への検査

リスクのある親族への遺伝カウンセリング目的の検査に関する問題は、「遺伝カウンセリング」の項を参照のこと.

研究中の治療

チアミンとリポ酸によりPDHC活性が最適化される可能性があるが、それはこれらが代替的なピルビン酸代謝経路を経て、血漿中及び尿中のピルビン酸濃度と乳酸濃度を低下させる一助となる可能性があるからである.理論的にはこれらの介入によりアセチル-CoA貯蔵量が増加し、ケトン血症を増悪させる可能性がある.

  • チアミンはPC欠損症患者1名で試みられ、奏効が認められた.
  • 重度の精神運動遅滞とLeigh症候群の2名のPC欠損症姉妹は、チアミンとリポ酸投与後に臨床的生化学的に改善した.これらの症例の正確な分子遺伝学的診断は不明である.

文献報告 [Nyhan et al 2002, Mochel et al 2005]によれば、(1)長期的な代謝的安定性と(2)脳エネルギー代謝、ミエリン化、神経伝達の改善・是正を目的として、同所性肝移植と補助摂取療法を組み合わせて行うことが提案されている.

幅広い領域の疾患や病態に対する臨床試験の情報を得るには ClinicalTrials.gov へアクセスのこと.

その他

遺伝クリニック 遺伝専門医を擁する遺伝クリニックでは、患者や家族に自然経過、治療、遺伝形式、患者家族の遺伝的発症リスクに関する情報を提供とするとともに、患者サイドに立った情報も提供する. GeneTests Clinic Directoryを参照のこと.

患者情報 この疾患に特異的な、または大規模な支援組織に関する情報に関しては、「患者情報」を参照のこと.これらの組織は患者や家族に情報、支援、他の患者との交流の場を提供するために設立されている.

遺伝カウンセリング

「遺伝カウンセリングは個人や家族に対して遺伝性疾患の本質,遺伝,健康上の影響などの情報を提供し,彼らが医療上あるいは個人的な決断を下すのを援助するプロセスである.以下の項目では遺伝的なリスク評価や家族の遺伝学的状況を明らかにするための家族歴の評価,遺伝子検査について論じる.この項は個々の当事者が直面しうる個人的あるいは文化的な問題に言及しようと意図するものではないし,遺伝専門家へのコンサルトの代用となるものでもない.」

遺伝専門医や出生前診断クリニックをお探しの場合には、GeneTests Clinic Directoryを参照のこと.

遺伝形式

ピルビン酸カルボキシラーゼ(PC)欠損症は常染色体劣性の遺伝形式をとる

患者家族のリスク

発端者の両親

  • ほとんどの場合、発端者の両親はヘテロ接合体であるため、PC遺伝子に病原性変異のコピーを1つ持っている.
  • 体細胞新生突然変異が報告されている[Wang et al 2008].これは表現型に影響を与え発端者の生存延長につながる可能性がある.
  • ヘテロ接合体は無症状である.

発端者の同胞

  • 発端者の同胞のリスクは、発端者の両親の遺伝状態による.
    • 両親が二人とも保因者である場合、受精段階で患者の同胞が発病する確率は25%、無症状の保因者となる確率は50%、無症状で保因者ともならない確率は25%である.リスクのある同胞が発病しないと分かった時点で、その同胞が保因者である確率は2/3である.
    • 両親のうち一人だけが保因者である場合(すなわち、発端者の片方のアレルに遺伝性変異が認められ、もう一方のアレルで体細胞新生突然変異が起こった結果PC欠損症が起こった場合)、発端者の同胞が無症状の保因者である確率は50%、発症せず保因者でもない確率は50%である.
  • ヘテロ接合体は無症状である.

発端者の子

発端者の子は発病性変異の絶対的ヘテロ接合体である.

の他の家族 

発端者の両親の各同胞が保因者であるリスクは50%である.

保因者診断

分子遺伝学的検査を用いた保因者診断は臨床的に行われていないために提供されない.
保因者診断目的の生化学的遺伝診断の信頼性は低い.

遺伝カウンセリングに関連した問題.

家族計画

  • 遺伝的リスクを確定する最適な時期は妊娠前である.
  • 保因者であるかもしくは保因者リスクを持つ青年成人に対して、遺伝カウンセリング(子どもへの潜在的リスクや出産手段に関する話し合いなど)を申し出ることが望ましい.

DNAバンキング. DNAバンキングは、将来の使用のために、通常は白血球から調整したDNAを貯蔵しておくことである.検査手法や、遺伝子、変異、疾患への理解は将来改善する可能性があり、患者のDNAを貯蔵しておくことは考慮されるべきである.ことに現在行っている分子遺伝学的検査の感度が100%ではないような疾患に関してはDNAの保存は考慮すべきかもしれない.このサービスを行っている機関についてはDNA bankingの項を参照のこと.

出生前診断

PC欠損症の出生前診断に対して分子遺伝学的検査や生化学的検査を行っている施設はGeneTests Laboratory Directoryに掲載されていない.しかし、出生前診断は発病性変異が同定されている家系では可能であろう.患者に応じた出生前診断を行っている施設に関してはgraphic elementを参照のこと.


原文 Pyruvate Carboxylase Deficiency

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