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フェニルケトン尿症
(Phenylalanine Hydroxylase Deficiency)

PAH Deficiency. Includes: Hyperphenylalaninemia (HPA), Phenylketonuria (PKU), Variant PKU]

GeneReview著者: John J Mitchell, MD, Charles R Scriver, MD
日本語訳者: 麻生和良,岡野善行(大阪市立大学大学院発達小児医学)
GeneReview 最終更新日: 2005.7.19. 日本語訳最終更新日: 2006.12.24.

原文 Phenylalanine Hydroxylase Deficiency


要約

疾患の特徴 

フェニルアラニン水酸化酵素(PAH)欠損症は,食事から摂取される必須アミノ酸であるフェニルアラニンの代謝が障害されているために,フェニルケトン尿症(PKU),非PKU性高フェニルアラニン血症(non-PKU HPA),異型PKUといった多種多様の病型を発症させる.古典型PKUはPAH活性の完全または完全に近い欠損によって生じる.フェニルアラニンの摂取制限をしなければ,ほとんどのPKU患児は重大なそして非可逆性の精神発達遅滞を生じる.non-PKU HPA では治療しない場合でも認知発達の障害のリスクは非常に低い.異型PKU はPKUとnon-PKU HPA の中間型である.

診断・検査 

PAH欠損症は,かかとの穿刺から得られた血液スポットからガスリー法や他の測定法で高フェニルアラニン血症を検出する新生児マススクリーニングによって実質的に100%診断されうる.PKUは未治療の状態で血漿フェニルアラニン(phe)濃度が1000μmol/L以上の時診断される.non-PKU HPAは,通常の食事で血漿phe濃度が常に正常値以上(>120μmol/L)で1000μmol/L以下で診断される.PAH遺伝子の分子遺伝的検査は第一義的にはリスクのある近親者がいる場合に保因者であることを決定する遺伝カウンセリングや,出生前診断のために用いられる.

遺伝カウンセリング 

PAH欠損は常染色体劣性様式により遺伝する.受胎時に,患者同胞の25%はPAH 欠損症の可能性があり,50%は無症候性キャリア,25%はPAH欠損症でもキャリアでもない可能性がある.PAH欠損症の出生前診断は,直接的DNA検査でPAH欠損症家系の疾患原因となる遺伝子変異が明らかにされている場合,または,連鎖解析で有益なマーカーが認められた場合に25%の疾患危険率で妊娠中に診断可能である.


診断

臨床診断

PAH欠損症であっても新生児期には高フェニルアラニン血症の身体的徴候を示さない.

検査

血漿フェニルアラニン濃度

フェニルアラニン代謝の主なルートは,フェニルアラニン水酸化酵素(PAH)によるフェニルアラニンからチロシンへの代謝である.主としてフェニルアラニン水酸化酵素欠損症(PAH deficiency) の診断は,血漿フェニルアラニン(phe)濃度の上昇と,補酵素であるBH4代謝が正常であることによる.PAH欠損症は無治療で血漿フェニルアラニン(phe) 濃度が常に 120μmol/L (2 mg/dl) 以上であると規定されている [Scriver & Kaufman 2001, Donlon et al 2004].2つの異なる命名法の詳細については臨床像の項を参照のこと.

新生児スクリーニング

PAH欠損症は通常の新生児マススクリーニングで診断されるのが最も一般的である.PAH欠損症はかかと穿刺から得られたガスリー濾紙への血液スポットを用いた新生児スクリーニングで実質的に100%発見される.HPAに対する新生児スクリーニングは,北米[National Newborn Screening Status Report]と英国では1960年代半ばから,他のほとんどの先進国で1970年代初頭から行われてきた[Scriver 1998, Levy 1999].早期に治療を開始したPAH欠損症患者では優れた予後を示すこと,無治療では重篤で不可逆的な脳障害の高いリスクを示すことから,この検査はルーチン検査となった.ほとんどの国で両親はこの検査を拒否する権利をもつが,稀なケースでしか行使されない.

  • 初回検査では多くの偽陽性があり(検査の特異性が不完全なため),フォローアップ検査が必要となる.両親にとって時にストレスのかかる経験となる.フェニルアラニン濃度が上昇(高フェニルアラニン血症)している偽陽性は,濾紙血液スポットが厚すぎる,不適切に調整された濾紙血液,もしくは,以下の状況の組み合わせである:肝臓の未熟性,タンパク質の過負荷(牛乳を与えられた新生児),フェニルアラニン水酸化酵素欠損症のヘテロ保因者.初回検査にてphe 濃度が閾値を越えている場合には2回目の検査が必要である.
  • 2回目の検査で高フェニルアラニン血症が確認された場合,高フェニルアラニン血症の約2%を占めているテトラヒドロビオプテリン(BH4)欠乏症(合成障害もしくは再利用障害)と区別するために,さらなる検査が必要となる(鑑別診断の項を参照)[Scriver & Kaufman 2001, Donlon et al 2004].これらの患児ではPAH欠損症を確定するためPAH遺伝子の分子遺伝学的検査も施行される[Gutter & Guldberg 2000].
  • 高フェニルアラニン血症(HPA)では血中pheの増加は時間依存性であるので,生後24時間以内の新生児での正確なphe濃度測定の検査の信頼性について最近注目されている[Rouse et al 1997].
  • 新生児スクリーニングには現在3種類の方法が用いられている.
    • ガスリー細菌抑制試験法(BIA):実績があり,安価,簡便で信頼性の高い試験.
    • 蛍光分析法:信頼性の高い自動化できる定量検査法で,BIAと比較して偽陽性が少ない.
    • タンデムマス質量分析法:蛍光分析と同じ利点を持ち,チロシン濃度も測定でき,phe濃度の解釈に有用である.さらに,タンデムマス分析は同じ検体から他の多くの代謝疾患を同定することができる[NIH Consensus Development Panel 2000].経済モデルを用いた効果費用分析では,現在のPKUに対する新生児スクリーニングをタンデムマスにおきかえることは,他の代謝疾患‐特にMCAD欠損‐を新たに検出することを考えないならば,妥当ではないと示唆されている[Pandor et al 2004].

保因者診断

分子遺伝学的検査が不可能な場合,生化学的分析で保因者を決定することができる.血漿phe濃度とphe/tyr比を分析することで可能である.注: この検査は,日内変動(通常の朝食後,正午前に行わなければならない)や女性の性周期の変動;妊娠中は不適当である,を考慮しなければならない.これらの変動が考慮されるならば,ヘテロ接合体を誤って診断する可能性は0.01もしくはそれ以下である[Rosenblatt & Scriver 1968 , Gold et al 1974].

分子遺伝学的検査

遺伝子

フェニルアラニン水酸化酵素欠損症はPAH遺伝子の変異を原因とし,主としてフェニルアラニン水酸化酵素の欠損をきたす[Scriver & Kaufman 2001].PAH遺伝子については400以上の病気の原因となる変異がこれまで知られている(PAHab Knowledgebase 参照).このデータベースは遺伝子変異,表現型との関連,遺伝子の構造,酵素の構造,臨床的なガイダンス,その他の情報を提供している[Scriver et al 2003].

分子遺伝学的検査:臨床的利用

  • 最終的な診断検査
  • 予後判定
  • 保因者診断
  • 出生前診断

分子遺伝学的検査:検査方法

  • 限定した遺伝子変異の分析
    • 4から15種類の点突然変異とごく小さな欠失変異による遺伝子変異の検出率はおよそ30-50%である.遺伝子変異には人種差がある.
  • 遺伝子変異のスキャン
    • PKUでの遺伝子変異のスキャニングは実質的にPAH遺伝子上のすべての点突然変異を検出することである.変性高速液体クロマトグラフィー法による遺伝子変異のスキャニングは速く,遺伝子座に特異的な点遺伝子変異を検出するのに効率的であり,PKUを発症させる対立遺伝子の検出に適している[Brautigam et al 2003].
  • シークエンス
    • 13のエクソンすべてをシークエンスすると遺伝子変異の検出率は約99%である.
  • 重複/欠失分析
    • 遺伝子変異のスキャニング分析やシークエンス分析にて遺伝子変異が同定されない時には,大きな重複や欠質を検出するために比較複合遺伝子量分析(comparative multiplex dosage analysis)が有用である.遺伝子変異の同定されていないPKU対立遺伝子の20%で,異常な遺伝子量(欠失や重複)がこの技術で検出されている[Gable et al 2003],したがって,重複と欠失の頻度は遺伝子変異の1%にのぼると推定されている.
  • 連鎖解析
    • いずれのPAH遺伝子の変異も同定されなかった家系では,連鎖解析が保因者検査や出生前診断の選択枝の一つとなるかもしれない.連鎖解析の研究はPKU患者家系におけるPAH欠損症の正確な臨床診断と,その家系の正確な遺伝的な連鎖の理解に基づく.連鎖解析を行うためにはPKU患者を少なくとも一人を含む,複数の家族の検体が必要である.連鎖解析に用いられるマーカーは非常に有用な情報を提供し,PAH遺伝子内およびその近傍に存在する.そのため,PHA欠損症の家系では99%以上の正確さをもって診断され得る.

    訳注:以上のことは白人種について言えることであり,黄色人種については連鎖解析の有効性は遙かに低い.

表1にこの病気の分子遺伝学的解析をまとめている.

表1. フェニルアラニン水酸化酵素欠損における分子遺伝学的検査

検査法
検出される変異
変異検出頻度
検査の有用性
限定した遺伝子変異の分析 4-15種の一般的なPAH遺伝子変異 30-50%
臨床検査
遺伝子変異スキャニング 一般的なそしてまれな PAH遺伝子変異 99%
シークエンス解析 一般的なそしてまれな PAH遺伝子変異 99%1
重複/欠失に対する分析2 PAH 欠失/重複変異 まれ
  1. すべてのPAH 遺伝子のエクソンがシークエンス分析されなければ,遺伝子変異の発見率は99%よりも低くなるかもしれない.
  2. multiplex ligation-dependent probe amplification (MPLA) を使用

遺伝学的に関連する疾患

PAH遺伝子の変異が関与する他の疾患は知られていない.

鑑別診断

HPAの中には,フェニルアラニン,チロシン,そして,トリプトファンの3者の水酸化反応の補酵素であるテトラヒドロビオプテリン(BH4)の産生,再利用の障害のよっても起こりうる.BH4合成障害は,グアノシン3リン酸シクロヒドロラーゼ(GTPCH)の欠損,または6-ピルボイルテトラヒドロプテリン合成酵素(PTRS)欠損の結果である.BH4の再利用障害はジヒドロプテリジン還元酵素(DHPR)またはプテリン−4α−カルビノールアミン脱水素酵素(PCD)の欠損による.BH4欠乏症によるHPAはすべて常染色体劣性遺伝形式をとる.これらの疾患はHPAの約2%を占める.BH4はカテコラミン,セロトニン,一酸化窒素合成系とも関係している.(www.bh4.org参照)

Scriver & Kaufman (2001) や Blau ら(2001)は,高フェニルアラニン血症が持続する新生児はすべてBH4欠乏症をスクリーニングしなければならないと強調している.以下のスクリーニング検査は必ず行うべきである:(1)尿中プテリン分析;(2)ガスリーカードからの血中DHPR活性測定.もしスクリーニング検査の結果が陽性であれば,以下の確認試験が推奨されている:a) BH4負荷試験; b) CSF中の葉酸,神経伝達物質代謝産物の分析; c) 酵素活性測定.これらの試験は専門のセンターで行われることが望ましい.出生前診断はすべてのBH4欠乏症の型で可能である.

典型的(重症)なGTPCH,PTPS,そして,DHPR欠損症では以下のような種々の症状がある:発達遅滞,けいれん,緊張と姿勢の障害,嗜眠,易刺激性,異常運動,感染を伴わない繰り返す発熱,唾液過多,嚥下障害.小頭症はPTPSとDHPR欠損症で共通して見られる.血漿フェニルアラニン濃度は軽度上昇(>120 μmol/L)から2,500 μmol/Lにのぼるものまで様々である.BH4欠損症の軽症型では臨床症状を示さない.PCD欠損は,時に’primapterinuria’とも呼ばれ,良性の一過性高フェニルアラニン血症をともなう.

原則としてBH4欠損は治療可能である.治療はBH4と血中phe濃度の正常化,そして,BH4が補酵素であるチロシン,トリプトファン水酸化酵素反応の回復を必要としている.これは,食事療法,神経伝達物質の前駆物質による補充療法,DHPR欠損症での葉酸の補充とともに,BH4の補充によりなされる.この治療はできるだけ早期に開始し,そして,おそらく一生続けるべきである.[Blau et al 2001]

BH4欠損に関する詳細な情報は,テトラヒドロビオプテリンウェブサイト(http://www.bh4.org/)上にある.


臨床的マネジメント

本稿で扱われる疾患に対する遺伝学的検査の実施可能性に関する最新情報は,GeneTests Laboratory Directoryを参照のこと.―編集者注.

古典型PKU

食事のフェニルアラニンの制限

高フェニルアラニン血症に対して,一般的に受け入れられている治療の目標は血中pheとtyr濃度の正常化とこの疾患のために発症する認知障害の予防である[Burgard et al 1999];血中phe濃度120-360 μmol/L (2−6 mg/dl) [Koch, Azen et al 1996]または40-240 μmol/L (1-4 mg/dl) [Burgard et al 1999]が一般的に安全域と考えられている.治療食が厳格に続けられない場合,特に小児期,推奨される血漿phe濃度よりしばしば上昇する場合,何らかの障害が避けられない.Phe制限食は生後できる限り早期に開始し,少なくとも青年期まで[Pietz et al 1998] ,おそらく一生続けるべきである[Medical Research Council Working Party on PKU 1993, NIH Consensus Development Panel 2000].妊娠を考えているPAH欠損症の女性患者では,制限食を受胎前に開始し,妊娠中を通して続けなければならない.

フェニルアラニン制限食は各個人のフェニルアラニン摂取許容量に年齢相当の適切なタンパク質量,エネルギー量が必要である.血漿phe濃度を治療範囲内に維持し,正常な栄養状態を保つためには低タンパク食のみでは達成できない.phe除去ミルクを使用することが必要である.食事は成長や栄養状態に障害を与えないように,フェニルアラニンもしくはチロシンの欠乏が生じないように,注意深くモニターする必要がある.食事は成長,病気,活動性等に合わせなければならない.血漿phe,tyr濃度は定期的にモニターしなければならない[Medical Research Council Working Party on PKU 1993, NIH Consencus Development Panel 2000].生涯にわたって治療を行うことは患者にとって非常に困難であるが,医師,栄養士,遺伝カウンセラー,ソーシャルワーカー,看護師,心理士を含む経験あるチームによる教育やサポートで改善される.

BH4補充療法

Ever-growing body of evidence によると,原発性フェニルアラニン水酸化酵素欠損症の患者では,6R-BH4立体異性体に薬理学的用量(1日20mg/kgまで,経口分割投与)で反応することが示されている[Kure et al 1999, Bernegger & Blau 2002, Matalon et al 2004].軽症もしくは中等症PKUの大多数はBH4に反応する可能性があるが,古典的PKUでは多くて10%までが反応を示すかもしれない[Bernegger & Blau 2002, Perez-Duenas et al 2004].ほとんどの反応群は一般的な24時間負荷で発見されるが,より感度の高い7日間プロトコールを使用しなければ発見されない例もある[Shintaku et al 2004, Mitchel et al 2005].BH4の薬物動態学に個人差があることから,患者ごとに投与量を決定する必要性が示唆される[Blau & Erlandsen 2004].大多数の例では,BH4反応性は,PAH遺伝子変異のkinetic効果の修正,さらに/もしくは,BH4のシャペロン様効果による結果と推定されている. [Erlandsen et al 2004].BH4反応性のメカニズムは一見複雑である;相同的なPAH遺伝子変異の組み合わせとある種の特別なPAH遺伝子変異に関係している[Erlandsen & Stevens 2001, Blau & Erlandsen 2004].血漿フェニルアラニン濃度を低下させるメカニズムが何であれ,6R-BH4は生体内でのフェニルアラニン水酸化酵素活性と,酵素活性を反映する酸化反応を増強し,血漿フェニルアラニン濃度を低下させ,フェニルアラニン摂取許容量を改善する[Muntau et al 2002].

乳児期の治療

栄養士の指導の下にphe制限食やphe除去ミルクをできるだけ早期に開始しなければならない.母乳栄養とphe除去ミルクを組み合わせることが推奨されている[NIH Consensus Development Panel 2000].チロシンと総アミノ酸の摂取量はモニターされなければならない.2歳以下の患児ではチロシン25 mg/kg/dayと少なくとも3 g/kg/dayの総アミノ酸を摂取しなければならない.血中アミノ酸濃度の変動を最小限にするため,phe除去ミルクの使用は24時間にわたり均等にしなければならない[Medical Research Council Working Party on PKU 1993].長期間にわたる血中phe濃度の低下もまた脳の発達にとって有害であるので,注意しなければならない.コントロール状況を評価するために,血中phe濃度を1週間から2週間毎に測定しなければならない[Burgard et al 1999].

小児期の治療

2歳以上の小児では,チロシンを25 mg/kg/day含む総アミノ酸量2 g/kg/dayの摂取しなければならない.7歳までは2週間毎,その後は1ヵ月毎の血中phe濃度の測定が勧められている[Medical Research Council Working Party on PKU 1993].

思春期,成人期の治療

思春期と成人期に推奨されている治療は単一ではない[Lee 2004].一般的には‘生涯にわたる食事療法’が勧められてきている[Brenton et al 1996, NIH Consensus Development Panel 2000].血漿phe濃度が1,200 μmol/L以下であるならば,青年期に厳しい食事制限を緩和(離脱ではない)しても非上位機能に影響しないことを示し,より自由な食事療法を推奨する意見もある[Griffiths 2000].しかし,12歳以降で食事制限を緩和すれば,IQは変化しないが他の機能は低下することが示唆されている.phe制限食を中止した成人では,注意時間の減少,情報処理能力の低下,運動反応時間の低下が認められている.また,脳波検査での波形の変化[Pietz et al 1998],筋緊張と振戦の増加[Villasana et al 1989],骨塩量の減少[McMurry et al 1992],精神障害 [Waisbren & Levy 1991] が認められている.12歳以上の患者にとって維持すべき血漿phe濃度はまだ確定されていない.一般的なコンセンサスとしては,phe濃度が正常域に近いほど,個人の一般状態は良好に保たれる.

Non-PKU HPA

血漿phe濃度が常に600 μmol/L (10 mg/dl)以下のnon-PKU HPAの患者では,正常者と比較して,知的,神経学的,精神心理学的障害を生じるリスクは高くない.何人かの専門家は非治療の適否を議論する一方で,何人かの専門家はこのクラスの患者には食事療法は不要であると信じている [Levy et al 1971, Weglage et al 1996, Burgard et al 1999, Weglage et al 2001].このグループの女性患者には,妊娠可能年齢になった時,母体血漿中の高phe濃度(すなわちマターナルHPA/PKU)の催奇形性について適切なカウンセリングを受けるよう注意する必要がある[Weglage et al 2001].

PAH欠損症の女性患者の妊娠

小児期,思春期を通じて適切な治療を受けてきたPAH欠損症の女性は身体的にも知的にも発達は正常である.しかしながら,もし血漿phe濃度が高いならば,フェニルアラニンの催奇形のため,その子宮内環境は成育しつつある胎児にとっては良くないものとなる[Jardim et al 1996].PAH欠損症の女性患者は,計画的でない妊娠を防ぐために,信頼できる避妊法を使用することが強く推奨されている.

食事療法を行っていない,そして,妊娠を考えているPAH欠損症の女性患者は,受胎前にphe制限食を開始し,理想的には受胎を試みる数ヶ月間以上前から血漿phe濃度を120-360 μmol/L(2-6 mg/dL)に維持するべきである[Koch, Levy et al 1996].受胎後,pheとタンパク質の摂取必要量は妊娠中かなり変化するので,継続的な栄養ガイダンスと,毎週もしくは隔週の血漿phe濃度の測定が勧められている.PAH欠損症で妊娠した女性は,適切なタンパク,脂肪,炭水化物のバランスを含む十分なエネルギー量を摂取をすることが重要である.胎児の成長に最適な状態を提供するために,正常な体重増加を達成するようにしなければならない[Michals et al 1996, Koch et al 2000].

胎児が母体の血漿高phe濃度にさらされたことにより生じる奇形は,‘マターナルHPA/PKU’の結果である[Lenke & Levy 1980].マターナルHPAの重症度と母の食事療法の有効性に従って,胎児が先天性心疾患,子宮内や出生後の発育遅延,小頭症,発達遅滞に罹患する.無治療で血漿phe濃度が400 μmol/L (7 mg/dL)以下のnon-PKU HPAでは[Levy, waisbren et al 1996; Jardim et al 1996]正常児の出産が期待されると報告されている[Levy, Waisbren et al 1996].しかし,母性PKU の共同研究では母体の血漿phe濃度が120-360 μmol/L (2-6 mg/dL)でも6%に小頭症,4%に出生後の発育遅延を合併すると報告している[Rouse et al 1997].母体の血漿phe濃度が900 μmol/L (15 mg/dL)を超える場合,85%に小頭症,51%に生後の発育遅延,26%に子宮内発育遅延を生じる危険性がある[Rouse et al 1997].これらの症状は血漿Phe濃度の高さ[Levy & Ghavami 1996]と期間[Rouse et al 1997]の両者に依存する.そこで,母性フェニルケトン尿症の危険性を低下させるために,妊娠期間中は最適な血漿phe濃度を厳密に維持しなければならない;継続的な研究がこの考え方を支持している[Rouse & Azen 2004].

不幸なことに,多くの妊娠は計画的ではない.HPAの女性が,phe制限食を中止している間に妊娠した場合,これまでのデータでは受胎後できるだけ早期に,そして,妊娠8週より遅くならないように,血漿phe濃度を推奨されている範囲(120-360 μmol/L)に低下,維持することが勧められている[Koch, Levy et al 1996].受胎前に血漿phe濃度がコントロールされている場合に比べると,先天異常,特に先天性心疾患の危険性は高くなるが,正常新生児が生まれる可能性は依然存在する.もし血漿phe濃度が第2,第3妊娠期までコントロールされなければ,その危険性は血漿pheが全くコントロールされていない場合と同程度となる[Koch et al 2000].

適切な出生前のケアとして継続的な超音波検査を行わなければならない:(1)第1前期では生育できない妊娠を見つける;(2)胎児の成長をモニターする;(3)PAH欠損症の母から生まれた新生児では比較的高頻度に先天異常が (先天性心疾患など)が発見される.この情報は新生児の出生後に必要なケアーを予測するのに役立つ[Levy Lobbregt et al 1996].

Waisbrenら(1998)は,生まれてくる子供に対して母体の血漿phe濃度のコントロールの遅れと同様に不適切な家庭環境は有害な影響を与えると報告している.懸念すべきこととして,多くのHPA女性はその知的能力が限定されていること,社会的なつながりとその援助が少ないこと,感情的な抑制困難によって,食事,出産前のケア,新生児へのケアを忠実に行うことができないことがある [Koch et al 2000].HPA/PKU女性へのサポートを受胎前に開始し,出産後も続けることは本質的でしかも適切な結果が得られている.一つの成功した試験的な計画では,このような女性に対してすでにPKUの子を持つ母親がそのサポートする役目を担い,その結果,妊娠中のより良好な食事コントロールと,子供たちのより良好な予後を得ている [Waisbren et al 2000].

PKUの母から生まれた子供については発表されたデータは多くはない.これらの子供に対してのひとつの興味深い観察では,4歳時の発達テストで,2歳時に行われた同様のテストに比べてスコアが低下している[Waisbren et al 2000].この結果を説明するためには,これらの所見に対して小児の縦断的研究が必要である.

将来の治療法

  • フェニルアラニンは他の中性アミノ酸と脳血流関門の輸送体を共有している.脳血流関門において,フェニルアラニン輸送の能力と反応速度に多様性があることから,患者によって余剰なフェニルアラニンを排除する効率に差がある [Weglage wt al 2002].大側鎖分子の中性アミノ酸の投与により,血漿フェニルアラニンは持続的に高い値にもかかわらず,この輸送体での競合阻害によって脳内フェニルアラニンレベルの減少が認められている[Pietz et al 1999, Moats et al 2003].食事療法にうまく対応できない成人患者にとっては,この補充によりフェニルアラニンの急性毒性から脳を保護することができるかもしれない.無治療の成人患者や食事療法に順応できない思春期の患者に対して,この治療法について多くのトライアルが最近行われている.
  • マターナルPKUにおいてBH4 は重要な影響与えるかもしれない.フェニルアラニン摂取許容量が増加することにより,このレジメはより完全な食事を摂取でき,そのため低タンパク食に関連した栄養不良の危険性を最小限にすることができるであろう.しかし,この補充療法の安全性と効果を証明するにはさらなるデータが必要である.
  • フェニルアラニンが体内に吸収される前に腸管内で減少させるために,フェニルアラニンアンモニアリアーゼ(phenylalanine ammonia lyase; PAL) の経口あるいは皮下投与が研究中である.
  • 体細胞の遺伝子治療もまた,動物モデルで研究されており,いくつかの治療法は将来実施されるであろう[Eisensmith et al 1999, NIH Consensus Development Panel 2000, Ding et al 2004].

遺伝カウンセリング

遺伝カウンセリングは個人や家族に対して遺伝性疾患の本質、遺伝、健康上の影響などの情報を提供し、彼らが医療上あるいは個人的な決断を下すのを援助するプロセスである。以下の項目では遺伝的なリスク評価や家族の遺伝学的状況を明らかにするための家族歴の評価、遺伝子検査について論じる。この項は個々の当事者が直面しうる個人的あるいは文化的な問題に言及しようと意図するものではないし、遺伝専門家へのコンサルトの代用となるものでもない。」


遺伝カウンセリング

「遺伝カウンセリングは個人や家族に対して遺伝性疾患の本質,遺伝,健康上の影響などの情報を提供し,彼らが医療上あるいは個人的な決断を下すのを援助するプロセスである.以下の項目では遺伝的なリスク評価や家族の遺伝学的状況を明らかにするための家族歴の評価,遺伝子検査について論じる.この項は個々の当事者が直面しうる個人的あるいは文化的な問題に言及しようと意図するものではないし,遺伝専門家へのコンサルトの代用となるものでもない.」

遺伝形式

PAH欠損は常染色体劣性の遺伝形式に従う.

患者家族のリスク

発端者の両親

  • PAH欠損症の子を持つ親は必須のヘテロ保因者である.
  • 親はそれぞれ少なくとも一つの病気の原因となるPAH対立遺伝子を持つ.このような保因者は症状を示さず,決して高フェニルアラニン血症を来たさない.

発端者の同胞

  • 受胎時に,患者の同胞が患者(ホモ接合体)である可能性は25%の確率で,病気を発症させる対立遺伝子を1つもつ無症状の保因者(ヘテロ接合体)の確率は50%で,両者ともに正常対立遺伝子を持つ確率は25%である.
  • PAH欠損症の可能性のあった同胞が患者でないと診断されたならば,この同胞が保因者である危険性は2/3である.

発端者の子 

  • PAH欠損症は治療可能であるため,有効な治療でコントロールされている患者は身体的にも知的にも正常生活を営むことができ,自らの子を持つことができる.
  • PAH欠損症の親と,2個の正常対立遺伝子を持つ親から生まれた子は必ずヘテロ保因者となる.
  • 片方の親が患者で,もう一方が保因者であれば,生まれてくる子は50%でヘテロ保因者,50%で患者となる.
  • 父が患者である場合,その他に考慮すべき危険性はない.母が患者である場合,母性HPA/PKUが重要な問題となる.(マネジメント参照:PAH欠損症女性の妊娠)

保因者診断

  • リスクのある家族は,PAH欠損症の遺伝子の保因状態を決定するための検査を受けることができる.PAH欠損症の家族歴を持つ家系には,いくつかのセンターでこのような検査が提供されている.
  • 保因者のパートナーは有る一定の制限された基準のもとでこのような検査を行うことができる.
  • 3方法が利用できる.
    • リスクのある家族に対して分子遺伝的検査を用いた保因者検査;このような検査は発端者に変異が同定されていれば臨床的に利用可能である.
    • 連鎖解析,もし病気の原因となっている遺伝子変異が同定されていない家族ににおいて,PAH遺伝子内のマーカーの情報が多ければ利用される.
    • 分子遺伝的検査ができなければ,生化学的分析で保因者を決定する.

遺伝カウンセリングに関連した問題

リスクのある家族の新生児 

もし,出生前診断が明確な結果ではなかった場合,もしくは利用できない,行われなかった場合,リスクのある小児はタンパクを制限しない食事を2-3日した後に,血漿phe濃度のモニターをするべきである.

家族計画 

遺伝的リスクの決定,保因者状態の分類,出生前診断を行うかどうかの議論は妊娠前になされなけれなまらない.

DNAバンキング 

DNAバンクは(主に白血球から調製したDNA)を将来の使用のために保存しておくものである.検査法や遺伝子,遺伝子変異あるいは疾患に対するわれわれの知識が進歩するかもしれないので,DNAの保存は考慮に値する.特に現在用いられている分子遺伝学的検査の感度が100%ではないような疾患では特にDNAバンクは適切である.DNAバンクのサービスを提供している研究室のリストを見てください.

出生前診断

妊娠15−18週に採取した羊水細胞や10−12週*に採取した絨毛細胞から調製したDNAを用いて,PAH欠損症の危険性がある妊娠に対して出生前診断は可能である.出生前診断を行う前に,患者家族において病因となる両方の遺伝子変異もしくは連鎖解析が確定されている必要がある.

注:妊娠週数は最終月経の開始日あるいは超音波検査による測定に基づいて計算される.

他の考えるべき問題点

早期治療で予後良好と考えられ,治療法も存在する疾患の出生前診断について,もし出生前診断が早期診断というよりも妊娠中絶が目的されることには賛否両論がある.多くの医療機関では最終的にはこの問題は両親の意思を尊重するとしているが,この問題ついては注意深い検討が求められている.

訳注:わが国ではフェニルケトン尿症の出生前診断の報告はない.


原文 Phenylalanine Hydroxylase Deficiency

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