GeneReviews著者: Debra S Regier, MD, PhD, FAAP, FACMG and Carol L Greene, MD, FAAP, FACMG.
日本語訳者: 洪本加奈(兵庫県立こども病院 臨床遺伝科)、山田崇弘(京都大学大学院 医学研究科 社会健康医学系専攻 医療倫理学・遺伝医療学分野)
GeneReviews最終更新日: 2017.1.5 日本語訳最終更新日: 2021.3.3
原文: Phenylalanine Hydroxylase Deficiency
疾患の特徴
フェニルアラニン水酸化酵素(PAH)欠損症は、食事から得られる必須アミノ酸であるフェニルアラニンの摂取に対する不耐性によってさまざまな障害が引き起こされる疾患である。有害な症状の出るリスクはPAH欠損の程度によって異なる。効果的な治療を行わなければ、古典的なフェニルケトン尿症(PKU)として知られる重度PAH欠損症の多くの人は重大かつ不可逆的な知的障害を発症する。
フェニルアラニン値が正常値以上かつ1,200μmol/L (20 mg/dL)以下の食事制限を受けていない患者は治療なしでも認知発達障害のリスクは低い。
診断・検査
PAH欠損症は、かかとの穿刺から得られた血液スポットをタンデム質量分析法で測定することで実質的に100%検出することができる。以下の条件を満たす場合にPAH欠損症の診断となる。
および/または
治療
発症者の治療 :
古典的なPKU:血漿Phe濃度120~360μmol/L(2~6mg/dL)を保つために、低タンパク食とPheの含まれない医療用粉ミルクを出生後できるだけ早く使用する。PKU患者の一部はサプロプテリンによる補助療法の恩恵を受けている。大型中性アミノ酸(LNAA)トランスポーターも青年期および成人期の罹患者の血漿中Phe濃度を低下させる可能性がある。
非古典的HPA:血漿Phe濃度が600μmol/L以上の人は、ほとんどの施設で治療を受けている。血漿中Phe濃度が常に600μmol/L(10mg/dL)以下の人に食事療法が必要かどうかは議論の余地がある。また、療育の紹介が必要となる罹患児に対しては発達検査が考慮される場合がある。
サーベイランス:
古典的PKU患者の血漿Phe、Tyr、血漿アミノ酸濃度の定期的なモニタリング、成長と微量栄養素の必要性の定期的な評価、発達状況の評価、および来院のたびに精神疾患のスクリーニングを行う。
避けるべき薬物/環境:
フェニルアラニンを含む人工甘味料であるアスパルテーム。
リスクのある血縁者の評価:
出生前診断をうけていないPAH欠損症患者の同胞については、新生児の早期の診断と治療を可能とするために、生後まもなく(新生児スクリーニングに加えて)Pheの血中濃度を測定する必要がある。
妊娠管理:
フェニルアラニンの催奇形性の影響を最小化、または予防するためにPAH欠損症の女性は、血漿Phe濃度を120~360μmol/L(2~6mg/dL)の間に維持するために、妊娠前の少なくとも数ヶ月間、Phe制限食とするべきである。妊娠後はたんぱく質、脂肪、炭水化物の適切な割合での十分なエネルギー摂取に加え、継続的な栄養指導と、血漿Phe値が目標値に達していることを確かめるために、毎週または隔週での血漿Phe濃度の測定を行う。また、高解像度の超音波を用いた胎児形態異常の評価および胎児心エコーを行う。
遺伝カウンセリング
PAH欠損症は常染色体劣性で遺伝する。妊娠が成立すると、罹患児の同胞は罹患する確率が25%、非発症保因者である可能性が50%、そして保因者でない可能性が25%である。リスクのある血縁者に対する保因者診断やリスクの高い妊娠のための出生前診断は、罹患者においてPAH遺伝子の病的バリアントが同定されている場合に可能である。
(訳注:本邦における出生前診断は日本産科婦人科学会の「出生前に行われる遺伝学的検査及び診断に関する見解」に従って行われ,本疾患のような治療可能な生命予後の良い疾患は原則対象とならない)
疑わしい所見
PAH欠損症は以下の新生児スクリーニングの結果、臨床的特徴(年齢別)、神経画像所見、およびそれを支持する検査所見を有する人において疑うべきである。
新生児スクリーニングの結果
新生児の産後臨床所見
高フェニルアラニン血症(HPA)の身体所見を認めない。
未治療の年長者(乳児期から成人期)の臨床所見
神経画像検査
脳MRIでの進行性白質所見;神経学的に異常な臨床所見がなくてもPAH欠損症の患者の90%で観察される。
補助的な検査所見
確定診断
PAH欠損症の診断は、血漿中フェニルアラニン濃度が120μmol/L(2mg/dL)を超えて持続し、未治療の状態ではフェニルアラニンとチロシンの比率が変化し、BH4補因子の代謝が正常である場合、および/または分子遺伝学的検査でPAH遺伝子の両アレルにおいて病的バリアントが認められた場合に確定する(表1参照)。
注:(1)プテリンや分子遺伝学的検査の結果が出る前に、低フェニルアラニン食を開始することが重要である。(2) 分子遺伝学的診断の臨床的有用性については、遺伝型-表現型相関を参照のこと。
分子遺伝学的検査には、単一遺伝子検査または多遺伝子パネルの使用が含まれる。
民族でよくみられる病的バリアント(表2参照)の標的分析、および創始者効果による病的バリアントの標的分析を行うことができる。特定の集団における創始者効果によるバリアントは、民族で見られるものと同じである可能性があることに注意すること。
多遺伝子パネルの紹介はこちらをクリック。遺伝学的検査をオーダーする臨床医のためのより詳細な情報はこちらを参照。
表1 フェニルアラニン水酸化酵素欠損症に用いられる分子遺伝学的検査
遺伝子1 | 方法 | この方法によって検出可能な病的バリアント2を有する発端者の割合 |
---|---|---|
PAH | シークエンス解析3 | 97%-99% |
標的遺伝子の欠失/重複解析4 | <1%-3%5 |
酵素分析: PAHは肝酵素であり、より正確で侵襲性の低い診断方法が利用できるため、酵素分析は通常PAH欠損症の診断には適応されない。
臨床像
フェニルアラニン水酸化酵素(PAH)の欠損は、必須アミノ酸であるフェニルアラニンの食事摂取に対する不耐性をもたらし、障害のスペクトルを生成する [Vockley et al 2014]。PAH 欠損症に起因する様々な臨床表現型を説明するために多くの用語が使用されている(命名法を参照)。本GeneReviewは、American College of Medical Genetics and Genomics (ACMGG)推奨の規約に従う。
有害な転帰のリスクは、PAH欠損の程度に応じて異なる。効果的な治療を行わなければ、古典的PKUとして知られる重度のPAH欠損症のほとんどの患者は、重大で不可逆的な知的障害を発症する。フェニルアラニン値が正常値以上かつ1,200μmol/L(20mg/dL)以下であり、かつ食事制限をしている人は、治療を行わない場合と比較して認知発達障害のリスクがはるかに低い。フェニルアラニン値が正常値以上かつ1,200μmol/L (20 mg/dL)以下の食事制限を受けていない患者は治療なしでも認知発達障害のリスクは低い。しかし、これらの問題について、現在完全に理解されているわけではない。
持続性の重度高フェニルアラニン血症(すなわち古典的PKU)の未治療の患者
罹患者は、ほとんどの場合で発達障害を示す。徴候および症状には、ほぼ程度の差がない重度の知的障害とてんかん発作から生じる行動の問題、および様々な程度の小頭症が挙げられる。
フェニルアラニンやその代謝物が過剰に排泄されることで、かび臭い体臭や湿疹などの皮膚症状が出ることがある。
関連するチロシナーゼの阻害および低チロシンレベルは、皮膚および毛髪の色素沈着の減少の原因である。
また、髄鞘形成が低下し、最終的には頭部MRIでの白質の変化につながる。
有意に上昇したPheレベルはドーパミン、ノルエピネフリン、セロトニン産生を減少させ、Pheレベルが低下した場合には可逆的である脳波の変化として反映される。
出生後すぐに診断され治療を受けている古典的PKU患者
知能:
初期のPheレベルの上昇と長期的なIQの低下との間の相関関係はよく研究されている。生涯を通じて正常化されたPheレベルがIQへ及ぼす影響は、罹患した成人の研究でも示されている。
神経心理学的問題:
治療を受けた人では、影響を受けていない同胞や他の慢性疾患を持つ子どもと比較して、特定の心理的問題が増加している [Brumm et al 2010, Bilder et al 2013]。
神経学:
早期治療を受けたが、食事療法を中止した成人もまた、振戦や反射の亢進などの軽度の神経学的異常 [Pietz et al 1998]や、場合によっては麻痺を含むより重度の神経学的機能障害のリスクがある。食事療法の再開は、しばしばこれらの神経学的症状を解決する [Camp et al 2014]。
軽度の生化学的および臨床的表現型を有するPAH欠損症
PAH欠損症で、血漿Pheが600~1,200μmol/L(10~20mg/dL)の間で食事制限をしていない人については、これまで十分研究されてこなかった。しかし、この範囲の値である古典的PKUの人は、急性と慢性の神経心理学的な症状を持っていることはよく知られている。したがって、この範囲のPheレベルの人には、Phe制限食の治療が推奨される。
PAH欠損症の患者で、食事制限をせず、血漿Phe濃度が一貫して600μmol/L(10mg/dL)以下である場合、多くの専門家は、PAH損症のない人と比較して知的、神経学的、神経心理学的障害を発症するリスクが高いとはいえないと考えている。しかし、古典的PKUである人のPheレベルが360〜600μmol/L(6〜10mg/dL)の間にあるときに明らかな神経生理学的変化を有することを示唆するエビデンスがあるため、他の専門家は、無制限の食事でPheレベルが>360μmol/L(6mg/dL)を持つすべての人にPhe制限を推奨している。
ごく少数のプログラムでは、Pheレベルが240μmol/L(4mg/dL)を超える患者に対して治療を開始するとされている。Pheは必須アミノ酸であるため、フェニルアラニンが不十分であることは、成長障害、小頭症、および発達上の問題につながる。軽度のPAH欠損症患者に対するPheの食事制限の安全性は、体系的に研究されていない。実践法は世界中で様々である [Blau et al 2010]。
いくつかの症例報告では、知能が正常であった軽度のPAH欠損症の未治療者が、成人期の突然の重度の精神障害の結果、診断された[Weglage et al 2000, Camp et al 2014]。
その他
骨減少症:
数多くの研究が、PAH欠損症の人は骨減少症(DEXA法で測定される)の発生率が高いことを示しているが[Zeman et al 1999, Pérez-Dueñas et al 2002, Modan-Moses et al 2007]、最近のメタアナリシスでは、世界保健機関(WHO)および国際臨床密度測定学会(International Society for Clinical Densitometry)の測定ガイドラインに基く高リスクを裏付けるものではないことが複合データによって示された [Demirdas et al 2015]。低骨密度化のメカニズムと臨床的意義を探る研究が進められている。追加の研究が行われるまでは、PAH欠損症の人の骨の健康状態を注意深く観察し続けることが重要である。 Coakley et al [2016]らによるPAH欠損症患者の最近の研究では、Zスコア低下の危険因子が同定され、成人集団における食事療法遵守の意義が最も高いことが示された。
ビタミンB12欠乏症は、PKUをもつ人が思春期に食事を緩和するときに発生する可能性がある[Robinson et al 2000]。このビタミンは天然の動物性タンパク質で発見された;罹患者がアミノ酸補充を減らす場合に、彼らはしばしば低タンパク質食品を選択し、それによってビタミンB12欠乏のリスクがある。
PAH欠損症の女性から生まれた子ども
胎児が高い母体血漿Phe濃度に曝露されることで生じる異常は、母体のPAH欠損症の結果である。リスクとしては、以下のものが挙げられる[Vockley et al 2014]。
遺伝型-表現型相関
PAH遺伝子には、900以上の病的バリアントが報告されている(www.biopku.org を参照)。遺伝的要素(特定の病的バリアント)と環境的要素(食事摂取)の両方が、罹患している人の総血漿Phe値に寄与しているが、特定の遺伝的原因についての知識があることで、長期的な管理に役立つ見通しを得ることができる [Zschocke & Hoffmann 2000, National Institutes of Health Consensus Development Panel 2001, Güttler & Guldberg 2006, Santos et al 2010]。
機能的なヘミ接合体(null/missense のペアアレル)の複合ヘテロ接合体では、2つのPAH病的バリアントのうち重症度の低い方が疾患の重症度を決定する。しかしながら、同程度の重症度に関連する2つの病的バリアントが存在する場合、表現型はどちらかのアレルによって予測されるよりも軽症になることがある [Kayaalp et al 1997, Guldberg et al 1998, Waters et al 1998]。
一般に、軽度のPAH病的バリアントを持つ患者では、サプロプテリン(B6BH4、Kuvan™)に対する反応が良好である(管理を参照)。現在のガイドラインでは、遺伝型から表現型を予測することが困難であることから、すべての罹患者(2つの病的nullバリアントを両アレルに(transに)有するものを除く)にサプロプテリン(B6BH4、Kuvan™)を用いた試験を行うことが推奨されている [Vockley et al 2014]。PAH遺伝子に一般的にみられる病的バリアントおよびサプロプテリン治療に対する反応性の報告については、分子遺伝学の項を参照のこと。
表2 PAH遺伝子に一般的にみられる病原性バリアントとサプロプテリンに対する反応性
cDNA | Protein | PAHdbでの頻度 | サプロプテリンへの反応性 |
---|---|---|---|
c.1222C>T | p.Arg408Trp | 6.7% | <10% |
c.1066-11G>A (IVS10-11G>A) |
5.3% | <10% | |
c.194T>C | p.Ile65Thr | 4.1% | 89% |
c.782G>A | p.Arg261Gln | 3.6% | 78% |
c.842C>T | p.Pro281Leu | 2.9% | None [Leuders et al 2014, biopku.org] |
c.1315+1G>A (IVS12+1G>A) |
2.8% | 12.5% [biopku.org] None [Leuders et al 2014] |
|
c.473G>A | p.Arg158Gln | 2.7% | <10% |
データ取得元:PAHdbアクセス5/8/2016(biopku.org);およびLeuders et al [2014]から取得した。PAHdbデータベースにおける頻度が2.5%を超えるすべての変化が含まれている。データベース検索では、計算のためにホモ接合性を仮定していたが、これは近親者におけるまれな所見である。すべての罹患者は個人の薬剤反応性を見るために検査することが推奨される。示された遺伝学的変化は、データベース集団の2.5%以上でみられるものである。最新の情報と追加のリファレンスについてはbiopku.orgを参照のこと。
しかし、臨床転帰を考慮に入れると、遺伝型と表現型の相関関係はより複雑になる。DiSilvestre et al [1991] は、遺伝型が生化学的表現型(すなわち、Phe負荷試験による)を予測することを発見したが、それは必ずしも臨床的表現型(すなわち、知的障害の発生)を予測するとは限らない。通常、古典的PKUをもたらすPAH欠損症で両アレルにPAH病的バリアントを有する未治療の患者の中には、血漿Phe濃度が上昇しているものの知能は正常な者もいる。他の例では、同じ遺伝型を持つ同胞であっても、異なる臨床型および代謝の表現型を示す。
血漿中のPhe濃度が同等であるにもかかわらず、脳レベルでの病態の異質性を引き起こすメカニズムは完全には解明されていないが [Scriver & Waters 1999]、血液脳関門を介したPheの輸送の変化が少なくとも一つの関連因子であるというエビデンスがある [Weglage et al 2002]。
命名法
PAH(PKU)の診断と管理に関する2014年のAmerican College of Medical Genetics and Genomicsのガイドラインでは、PAH欠損症にはスペクトルがあることを認識するために、「フェニルアラニン水酸化酵素(PAH)欠損症」という用語を罹患者に使用することを推奨している。ガイドラインでは、このスペクトルの中で最も重篤なものは "古典的PKU "と呼ばれ続けることが認識されている。彼らはまた、歴史的に使用されてきた他の分類が、食事制限をしない状況でPhe値が正常値以上かつ1,200μmol/L (20 mg/dL)以下の人に対して「高フェニルアラニン血症」(hyperPheまたはHPA)という用語の使用を提案していることも認識していた[Vockley et al 2014]。
代替命名法システム
初期の文献には普遍的な命名法のシステムがなかったため、PAH活性に関する測定値の意義を解釈するためには、報告書の中でどのように用語が使われているかを理解する必要があった。この困難に対応するために、様々な命名法が提案されてきた。
Camp et al [2014] は、PKUのNIHシステマティックレビューの一部として、「古典的PKU」、「中等度のPKU」、「軽度のPKU」、「軽度のHPA-グレーゾーン」、および「軽度のHPA-NT」(無治療)のPAH欠損の用語(最も重症なものから最も軽症のものまで)の推奨と、未治療時の血中Pheのレベル、Pheの食事耐性、およびPAH活性の測定値または期待されるレベルに様々な用語をマッピングした表を提供している。この命名法の表は、様々な歴史的な命名法のシステム間の関係を理解したいと考えている人にとって、特に価値のあるものである。Camp et al [2014]の表2参照。
Kayaalp et al [1997]によって提案された初期の分類案は、命名法を単純化することを意図したものである。このシステムでは以下のように分類が行われていた。
Guldberg et al [1998]によって提案された分類案は、PAH欠損症を以下の4つのカテゴリーに細分化している。
有病率
PAH欠損症の頻度は、1:5,000以上(トルコ、アイルランド)からヨーロッパや東アジアを起源とするものでは約1:10,000程度(フィンランド、日本では低い)と様々である。古典的PKUは、かつてヨーロッパや北米の発達障害者施設で重度の知的障害の最も一般的な病因であったが、多くの国で一般的な新生児スクリーニングが採用されてからは、症状のある古典的PKU患者はあまり見られなくなった。スクリーニングを受けた集団におけるPKUに起因する重度の知的障害の予測発生率は、出生数100万人に1人未満であり、これは新生児スクリーニングで検出されなかった子どもたちを反映している。表3参照。
表3 集団別のPAH欠損症の有病率
集団 | 出生児における PAH欠損症の頻度 |
保因者頻度 | 文献 |
---|---|---|---|
トルコ | 1:2,600 | 1/26 | Ozalp et al [2001] |
アイルランド | 1:2,600 | 1/33 | DiLella et al [1986] |
北ヨーロッパ、東アジア | 1:10,000 | 1/50 | Scriver & Kaufman [2001] |
日本 | 1:143,000 | 1/200 | Aoki & Wada [1988] |
フィンランド | 1:200,000 | 1/225 | Scriver & Kaufman [2001] |
歴史的な視点はこちら(pdf)をクリック。
本GeneReviewに記載されている以外の表現型が、PAH遺伝子の病的バリアントと関連していることは知られていない。
テトラヒドロビオプテリン(BH4)欠損症:高フェニルアラニン血症はまた、フェニルアラニン、チロシン、およびトリプトファンの水酸化反応の補因子であるテトラヒドロビオプテリン(BH4)の合成障害または再利用の障害に起因することがある。BH4 欠損によって引き起こされる HPA はすべて常染色体劣性遺伝形式で伝わる。これらのHPAは、ほとんどの集団でPheレベルが上昇している人の約2%を占めている。しかし、PAHがあまり一般的でない集団(例えば、日本)のPheの上昇した人では、プテリン代謝障害を持つリスクがはるかに高くなる。BH4はカテコラミン、セロトニン、一酸化窒素の生合成にも関与している(biopku.orgを参照)。
Vockley et al [2014]は、持続性高フェニルアラニン血症のすべての新生児はBH4欠損症のスクリーニングを受けなければならないことを強調している。以下の検査は、専門のセンターで行うのが最善である。出生前診断は、すべての形態のBH4欠損症に対して可能である。以下のスクリーニング検査は必須である。
(訳注:本邦における出生前診断は日本産科婦人科学会の「出生前に行われる遺伝学的検査及び診断に関する見解」に従って行われ,本疾患のような治療可能な生命予後の良い疾患は原則対象とならない)
GTPCH、PTPS、およびDHPR欠損症の典型的な(重度の)症状としては、以下のような、可変的ではあるが一般的な所見がある:知的障害、てんかん、筋緊張および姿勢の乱れ、眠気、過敏性、異常な動き、反復する感染症を伴わない高熱、過唾液分泌、および嚥下障害。小頭症は、PTPS および DHPR 欠損症では一般的である。血漿中のフェニルアラニン濃度は、正常値をわずかに上回るもの(120μmol/L以上)から2,500μmol/Lまで様々であり得る。軽度のBH4欠損症では臨床症状はみられない。
PCDの欠乏は、時に「プリマプタリン尿症」と呼ばれ、良性の一過性高フェニルアラニン血症と関連しており、患者は思春期にMODY型糖尿病のリスクがある。
原則として、BH4 欠損症は治療可能である。治療には、BH4の利用可能性と血中Phe濃度を正常化し、BH4依存性のチロシンとトリプトファンの水酸化を回復させることが必要である。これは、食事療法、神経伝達物質前駆体補充療法、DHPR欠損症の場合のフォリン酸の補給とともにBH4の補給によって達成される。治療は早期に開始されるべきであり、おそらく生涯継続されるべきである[Blau et al 2001, Ponzone et al 2006]。
BH4欠損症についての詳細は www.biopku.orgを参照してください。
初期診断後の評価
フェニルアラニンヒドロキシラーゼ(PAH)欠損症と診断された人の疾患の程度とニーズを確立するために、以下の評価が推奨される。
症状のある者に対する治療
すべての年齢層の患者の治療は難しく、医師、栄養士、遺伝カウンセラー、ソーシャルワーカー、看護師、心理士などの経験豊富な医療チームの指導とサポートを受けることで、より効果的な治療が可能となる。PKUのACMG管理ガイドラインを参照。
古典的PKUの治療
食事中のフェニルアラニンの制限
PAH欠損症の患者に対する治療の中で一般的に受け入れられている目標は、血中のPhe(フェニルアラニン)およびTyr(チロシン)の濃度を正常化し、この疾患に起因する認知障害を予防することである[Burgard et al 1999]。
Genetic Metabolic Dieticians International (GMDI)には、継続的に更新されるPKU栄養管理ガイドラインがある。
PAH欠損症の患者の食事を管理する人は、これらのリソースを使用し、診断を受けた人のケアと管理に精通した栄養士と密接に連携する必要がある。Singh et al [2014] は、以下のような食事の推奨を行っている。
サプロプテリン(Kuvan®):血漿アミノ酸分析によってPheの血漿中濃度が30%減少していることで決定されるBH4応答性は、BH4の薬理学的用量(1日あたり10~20mg/kg)に対する応答性に基づいて決定される。
提案されているサプロプテリンの作用機序についてはこちら(pdf)を参照。
大型中性アミノ酸(LNAA)トランスポーター:LNAAは、罹患した青年および成人の血漿Phe濃度を低下させる可能性がある;しかしながら、出産可能な年齢の女性には使用すべきではない(妊娠管理を参照)。
提案されているLNAAの作用機序についての詳細はこちら(pdf)を参照。
非古典的高フェニルアラニン血症の治療
議論が続いているが、多くの専門家は、この分類の人の多くにとって食事療法は必要ないと考えている。
その他
神経精神医学的検査:学習障害の有無を特定するために、神経精神医学的検査が考慮されることがある。発達の帰結を最適化するためには、適切な発達支援部門への紹介が必要である。
骨の健康評価:DEXA法スキャンの有用性に関する現在の文献には議論の余地がある。しかしながら、骨の健康は患者の全体的な健康管理の中で考慮されるべきである [Coakley et al 2016]。
一次症状の予防
症状のある人に対する治療を参照。
サーベイランス
古典的PKU患者の血漿中PheおよびTyr濃度を定期的にモニターしなければならない[National Institutes of Health Consensus Development Panel 2001](症状のある人に対する治療を参照)。
栄養評価には、成長評価と微量栄養素の摂取量と必要性の評価が含まれている必要がある。
発達の目安と全体的な発達状況の評価は、受診のたびに行われるべきである。
精神疾患のスクリーニングは、受診のたびに検討し、プライマリケアの提供者が定期的に行うべきである。
避けるべき薬剤・状況
アスパルテームは人工甘味料として広く使用されているが、フェニルアラニンが含まれている。PKUの人はアスパルテームを含む製品を避けるか、またはPheの摂取量を計算して、それに応じて食事の成分を調整する必要がある。
リスクのある血縁者の評価
治療を開始することで利益がある人を可能な限り早期に特定するために、発端者の同胞の評価を行うことは適切である。
注:表現型のばらつきが大きいので、以前に診断されていない、あるいは一見無症状の同胞も罹患していることがある[Vockley et al 2014]。
評価には、以下のようなものがある。
(訳注:PAH欠損症に対する出生前診断は日本では行われていない。)
遺伝カウンセリングを目的としたリスクのある血縁者の検査に関連する問題については、遺伝カウンセリングの項を参照。
妊娠管理
PAH欠損症の女性
小児期および青年期を通じて適切な治療を受けたPAH欠損症の女性は、身体的に正常であり、知的および行動的には本質的に正常な発達をしている。しかし、妊娠中に血漿Phe濃度が上昇している場合、フェニルアラニンは強力な催奇形性物質であるため、胎児は奇形や知的障害のリスクが高い(臨床的特徴を参照) [Rouse & Azen 2004, Prick et al 2012]。
米国産科婦人科学会のフェニルケトン尿症を持つ女性の管理に関する委員会報告、PAH欠損症の診断と管理に関するthe American College of Medical Genetics and Genomicsのガイドライン[Vockley et al 2014]、 Singh et al [2014]]は、妊娠前および妊娠中の罹患女性の管理について、以下のように提案している。
妊娠前
妊娠中
産後
研究中の治療法
フェニルアラニン制限食によるPKUの治療は非常に成功しているが、食事の口当たりが悪いため、青年期と成人期ではコンプライアンスが悪い。PKU の他の治療法を見つけるために多くの試みが進行中である。
酵素置換
フェニルアラニンをトランスケイ皮酸とアンモニアに変換する植物由来の酵素であるフェニルアラニンアンモニアリアーゼ(PAL)の投与が検討されている。現在研究中のものは、PALのPEG化(ポリエチレングリコールとの共役化)であり、PALに対する免疫応答を低下させることが判明しているからである[Gámez et al 2005, Sarkissian & Gámez 2005]。この注射用酵素の臨床試験が現在進行中である。第I相試験の結果は、最高用量を投与された参加者において血中Pheを54%減少させることで有効性が示された。Phe値の低下は6日後で、反応は21日間続いた。副作用には、発疹、PALとPEG化成分の両方に対する抗体蓄積、注射部位の反応などがあった [Longo et al 2014]。
細胞を標的とした治療
PAH発現細胞を用いた肝臓の再増殖(repopulation)が研究されている。肝細胞移植は、グリコーゲン貯蔵障害や尿素サイクル異常症などの肝臓に基づく先天的な代謝異常に対して、動物モデルやヒトで成功している。研究は、移植された肝細胞が生まれつきの肝細胞よりも細胞増殖の優位性をもつことが可能な最良の方法を特定すべく続けられている(Strisciuglio & Concolino [2014]でレビューされている)。
遺伝子治療
肝臓を標的にした遺伝子治療は、動物モデルにおいてPAH活性を恒久的に補正する効果はもたらさない。筋肉への導入は、マウスにおいて、PheからTyrへの変換を増加させることに成功した(Strisciuglio & Concolino [2014]でレビューされている)。
米国のClinicalTrials.govおよび欧州のEU Clinical Trials Register で、幅広い疾患や条件の臨床試験に関する情報にアクセスすることができる。
「遺伝カウンセリングは個人や家族に対して遺伝性疾患の本質,遺伝,健康上の影響などの情報を提供し,彼らが医療上あるいは個人的な決断を下すのを援助するプロセスである.以下の項目では遺伝的なリスク評価や家族の遺伝学的状況を明らかにするための家族歴の評価,遺伝学的検査について論じる.この項は個々の当事者が直面しうる個人的あるいは文化的、倫理的な問題に言及しようと意図するものではないし,遺伝専門家へのコンサルトの代用となるものでもない.」
遺伝形式
フェニルアラニン水酸化酵素(PAH)欠損症は常染色体劣性遺伝形式で遺伝する。
血縁者のリスク
発端者の両親
発端者の同胞
PAH欠損症では、家系内でも症状にかなりの差がみられる;したがって、発端者で観察された表現型は、罹患した同胞の表現型と一致しないか、または予測的ではない場合がある [DiSilvestre et al 1991, Scriver & Waters 1999, Weglage et al 2002, Camp et al 2014]。
発端者の子
他の家族構成員
発端者の非罹患両親の各同胞は、PAH遺伝子の病的バリアントの保因者であるリスクは50%である。
保因者の検出
分子遺伝学的検査
リスクのある血縁者に対しては、家系内のPAH遺伝子の病的バリアントを事前に同定することが必要である。ACMGのガイドラインでは、既知のPAH遺伝子の病的バリアントを持つ家系の保因者を同定するために分子遺伝学的検査の使用を推奨している[Vockley et al 2014]。分子遺伝学的検査が不可能な場合は、生化学的分析を用いることができる。
生化学的検査
生化学的検査は、フェニルアラニン負荷の有無にかかわらず、血漿中のPhe濃度およびPhe/Tyr比に依存している [Freehauf et al 1984, Blitzer et al 1986]。妊娠に関連するホルモンはPhe/Tyr比を変化させることが示されている;したがって、生化学的分析は、妊娠中、妊娠直後、または経口避妊薬の使用中に保因者の状態を決定するためには使用することはできない。
PAH欠損症の保因者であることが知られている人のパートナーは、保因者検査に興味を持つ可能性がある。検査感度の限界について適切なカウンセリングを行い、PAH遺伝子の分析を行うことができる。生化学的保因者検査のガイドラインは確立されておらず、生化学的検査の予測値の研究は限定的である。
遺伝カウンセリングに関連する問題
早期診断と治療を目的としたリスクのある親族の評価については、管理、リスクのある親族の評価を参照のこと。
家族計画
訳注:PAH欠損症に対する出生前診断、着床前診断は日本では行われていない。
DNA バンキングとは、将来的に使用する可能性のある DNA(通常は白血球から抽出されたもの)を保存することである。検査方法や遺伝子、検出されるバリアント、疾患に対する理解が将来的に向上する可能性が高いため、罹患した個人のDNAをバンク化することを検討すべきである。
出生前検査と着床前検査
罹患している家族の中でPAH遺伝子の病的バリアントが同定されれば、リスクの高い妊娠のための出生前検査や、PAH欠損症の着床前遺伝子検査が可能となる。
出生前検査の使用に関しては、医療専門家の間でも家族の間でも視点の違いが存在し、特に早期診断ではなく妊娠終了を目的として検査を検討している場合には、それが顕著である可能性がある。出生前診断は、子どものケアに関する決定を出生前に行う必要がある場合に価値のある選択ということが一部の家族によって分かっている。ほとんどの施設では、出生前検査の利用は個人的な決定であると考えられているが、これらの問題についての議論は参考になる可能性がある。
訳注:PAH欠損症に対する出生前診断、着床前診断は日本では行われていない。
GeneReviewsスタッフは、この疾患を持つ患者および家族に役立つ以下の疾患特異的な支援団体/上部支援団体/登録を選択した。GeneReviewsは、他の組織によって提供される情報には責任をもたない。選択基準における情報については、ここをクリック。
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分子遺伝学
分子遺伝学とOMIMの表の情報はGeneReviewsの他の場所の情報とは異なるかもしれない。表は、より最新の情報を含むことがある。
表A フェニルアラニンヒドロキシラーゼ欠損症。遺伝子とデータベース
遺伝子 | 染色体座位 | タンパク質 | 座位特異的データベース | HGMD | Clin Var |
---|---|---|---|---|---|
PAH | 12q23.2 | Phenylalanine-4-hydroxylase | PAH database Phenylalanine Hydroxylase Gene Locus-Specific Database - PAHvdb |
PAH | PAH |
データは以下の標準的な文献から収集されている:遺伝子はHGNCから、染色体座位はOMIMから、タンパク質はUniProtから。リンク先のデータベース(Locus Specific, HGMD, ClinVar)の説明はこちら。
表B フェニルアラニンヒドロキシラーゼ欠損症のOMIMエントリー(OMIMですべてを見る)
261600 | PHENYLKETONURIA; PKU |
612349 | PHENYLALANINE HYDROXYLASE; PAH |
遺伝子の構造
PAH遺伝子は13のエクソンを含み、90kbに及ぶ;ゲノム配列は2.6kbの成熟メッセンジャーRNAをコードすることが知られている。遺伝子およびタンパク質情報の詳細な要約については、表A、遺伝子を参照のこと。
病的バリアント
PAH遺伝子における900以上の異なる病的バリアントがこれまでに同定されている;表A、座位特異的データベースおよびHGMDを参照のこと。PAHの病的バリアントの大部分は、ミスセンス、ナンセンス、フレームシフト、およびスプライスバリアントである。大きな欠失は、ほとんどの集団では疾患アレルの1%未満であるが、チェコの集団では疾患アレルの3%を占めている[Kozak et al 2006]。
表4 このGeneReviewで議論されているPAH遺伝子のバリアント
DNA塩基の変化(別名)1 | 予測されるタンパク質の変化 | リファレンス配列 |
---|---|---|
c.194T>C | p.Ile65Thr | NM_000277.1 NP_000268.1 |
c.473G>A | p.Arg158Gln | |
c.782G>A | p.Arg261Gln | |
c.842C>T | p.Pro281Leu | |
c.1066-11G>A (IVS10-11G>A) |
||
c.1222C>T | p.Arg408Trp | |
c.1315+1G>A (IVS12+1G>A) |
表に記載されているバリアントは、著者によって提供されたものである。GeneReviewsのスタッフは、バリアントの分類を独自に検証していない。
GeneReviewsは、Human Genome Variation Society (varnomen.hgvs.org)の標準的な命名規則に従っている。命名法の説明はクイックリファレンスを参照。
遺伝子リストやデータベースについてはbiopku.orgを参照。
正常な遺伝子産物
PAH遺伝子の正常産物は、452個のアミノ酸を含むタンパク質のフェニルアラニン水酸化酵素(PAH)である(NP_000268.1)。PAH酵素は、平衡状態で四量体および二量体として存在することができる[Hufton et al 1998]。PAH酵素はフェニルアラニンをチロシンに水酸化し、この反応はフェニルアラニンがCO2と水に異化される主要な経路の律速段階である[Scriver & Kaufman 2001]。
異常な遺伝子産物
最も重篤な表現型をもたらす病的バリアントは、PAH活性を完全に失うことが知られているか、または予測されている。これらの「null」バリアントには様々なタイプがある。ミスセンスの病的バリアントは通常、酵素がある程度の残存活性を保持することを可能にする;しかしながら、in vivoでの活性はin vitroでの酵素表現型と等価ではないため、in vivoでの重症度を評価することは困難である[Waters et al 1998, Gjetting et al 2001]。